説明

窒素酸化物を浄化する触媒、方法、及び装置

【課題】耐熱性に優れ、窒素酸化物を効率よく浄化することができる触媒、それを用いた浄化方法、及び、前記触媒を備える装置等を提供すること。
【解決手段】酸化セリウムが10〜30重量%、酸化タングステンが5〜14重量%それぞれ含まれているタングステン、ジルコニウム、及びセリウムからなる複合金属酸化物は、耐熱性に優れ、アンモニアの存在下で窒素酸化物を効率よく浄化することができる。従って、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、及び酸化セリウムからなる複合金属酸化物を含み、前記酸化セリウムを10〜30重量%、前記酸化タングステンを5〜14重量%含む触媒は、窒素酸化物の浄化に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの存在下で窒素酸化物を浄化する触媒、それを用いた窒素酸化物の浄化方法、及び前記触媒を備える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、以下の式(1)及び(2)に示すように、窒素酸化物をアンモニアの存在下で還元脱硝する触媒が開発されている(例えば、特許文献1〜3参照)。例えば、特許文献1及び2には、酸化タングステン、ジルコニア、及び希土類金属等の金属を有効成分として含有する触媒が開示されており、特許文献3には、ジルコニア、酸化タングステン、及び酸化セリウムを含有する触媒が開示されている。
式(1)・・・NO+2NH+1/2O→3/2N+3H
式(2)・・・NO+NH+1/4O→N+3/2H
【特許文献1】特開2005−238196号公報
【特許文献2】国際公開第05/082494号パンフレット
【特許文献3】特開平2−56250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、様々な窒素酸化物浄化触媒が開発されているが、より効率よく窒素酸化物を浄化でき、耐熱性に優れた窒素酸化物浄化触媒の開発が求められているのが現状である。
【0004】
本発明は、耐熱性に優れ、窒素酸化物を効率よく浄化することができる触媒、それを用いた浄化方法、及び、前記触媒を備える装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化タングステンを含む触媒において、酸化セリウムの濃度が10〜30重量%の範囲内にある場合に優れた触媒活性(アンモニアの存在下で窒素酸化物を浄化する能力)及び耐熱性を有し、特に酸化タングステンの濃度が5〜14重量%の範囲内にある場合に触媒活性及び耐熱性が最も優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明に係る窒素酸化物浄化触媒は、アンモニアの存在下で窒素酸化物を浄化する触媒であって、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、及び酸化セリウムからなる複合金属酸化物を含み、前記酸化セリウムを10〜30重量%、前記酸化タングステンを5〜14重量%含む。なお、本発明に係る窒素酸化物浄化触媒は、BET比表面積が30m/g以上であることが好ましい。また、本発明に係る窒素酸化物浄化触媒は、粉末状のものであっても、ハニカム担体に担持されているものであっても構わない。
【0007】
本発明に係る窒素酸化物の浄化方法は、上記窒素酸化物浄化触媒に窒素酸化物とアンモニアとを接触させて還元脱硝する工程を含む。
【0008】
本発明に係る窒素酸化物浄化装置は、上記窒素酸化物浄化触媒を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性に優れ、窒素酸化物を効率よく浄化することができる触媒、それを用いた浄化方法、及び、前記触媒を備える装置等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記知見に基づき完成した本発明を実施するための形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0011】
==本発明に係る窒素酸化物浄化触媒について==
実施例に示すように、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化タングステンからなり、酸化セリウムの濃度が10〜30重量%、酸化タングステンの濃度が5〜14重量%それぞれ含まれている複合金属酸化物は、アンモニアの存在下で窒素酸化物を最も効率よく浄化でき、耐熱性に優れていることから、窒素酸化物浄化触媒として有用である。
【0012】
また、複合金属酸化物を含む窒素酸化物浄化触媒は、窒素酸化物とアンモニアとを接触させて窒素酸化物を還元脱硝して窒素酸化物を浄化する方法、窒素酸化物、特に、ディーゼル、石炭などの燃料を燃焼した際に発生する窒素酸化物を浄化する装置(例えば、前記窒素酸化物浄化触媒を備えたマフラー等)などに有用である。なお、窒素酸化物の浄化には、反応場(上記窒素酸化物浄化触媒と窒素酸化物とが存在する領域)にアンモニアの存在が必要となるが、これについては脱硝還元剤を反応場に添加(注入)すればよい。脱硝還元剤としては、例えば、アンモニア、アンモニア水(安水)、液化アンモニア等のアンモニア源を用いてもよいが、環境などの面からアンモニアを生成することができるアンモニア前駆体を用いることが好ましい。アンモニア前駆体としては、例えば、熱分解によりアンモニアを生成することができる尿素、尿素水等を用いることができる。
【0013】
上記窒素酸化物の浄化に用いる触媒は、例えば、アトマイザー、ピンミル等の既存の粉砕機で粉末状にしたものであっても、担体基材(例えば、ハニカム状、多孔状等の担体基材)に担持させたものであっても構わないが、窒素酸化物の浄化効率の面でBET比表面積が30m/g以上であるものが好ましく、39m/g以上であるものが特に好ましい。なお、窒素酸化物浄化触媒の担体基材への担持は、既知の方法により行うことができる。
【0014】
==本発明に係る窒素酸化物浄化触媒の製造==
本発明に係る窒素酸化物浄化触媒は、セリウム塩(酸化セリウム換算にて10〜30重量%)及びジルコニウム塩を水に混合した水溶液にアルカリ溶液(例えば、アンモニア水)を加えてpHを7.0以上に調整することにより得られた沈殿物を、例えば、濾過法などの固液分離法によって回収し、その後、該沈殿物に可溶性タングステン化合物の溶液(酸化タングステン換算にて5〜14重量%)を含浸して、400℃〜900℃で焼成することにより製造することができる。
【0015】
上記可溶性タングステン化合物としては、例えば、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム等の可溶性タングステン塩、あるいは、2種以上の可溶性タングステン塩の混合物などを用いることができる。
【0016】
上記セリウム塩としては、例えば、セリウムの硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機酸塩、セリウムの酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩を用いることができる。より具体的には、硝酸セリウム、塩化セリウム、硫酸セリウム、硝酸アンモニウム等、あるいは、これらの2以上の組み合わせからなる混合物を用いることができる。
【0017】
上記ジルコニウム塩としては、例えば、ジルコニウムの硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機酸塩、ジルコニウムの酢酸塩等の有機酸塩、オキソジルコニウム塩、塩基性硫酸ジルコニウムなどを用いることができる。より具体的には、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ZrOSO4・ZrO2、5ZrO2・3SO3、7ZrO2・3SO3等、あるいは、これらの2以上の組み合わせからなる混合物を用いることができる。
【0018】
なお、アルカリ溶液により調整するpHを7.0以上としたのは、pHが7.0未満では沈殿物が得られないからである。また、焼成温度を400℃〜900℃としたのは、400℃未満では熱的に不安定な化合物が生成されるからであり、900℃を超えるとBET比表面積が30 m2/g未満になり、アンモニアの存在下で窒素酸化物を効率よく浄化することができないからである。
【実施例】
【0019】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0020】
[実施例1]
硫酸ジルコニウム溶液(ZrO2換算にて20wt%)20〜45g及び硝酸セリウム溶液(CeO2換算にて20wt%)2.5〜25gを1Lの水に混合して希釈することにより、各種溶液を調製した。その後、各種溶液にアルカリ溶液(アンモニア水) を加えてpH7.0〜10.0に調整し、得られた各沈殿物をそれぞれ濾取した。各濾取物にメタタングステン酸アンモニウム溶液(WO3換算にて50wt%)0〜7gを含浸させ、400〜1100℃の温度で焼成して粉砕することにより各種触媒粉末を得た。
【0021】
得られた各種触媒における金属酸化物の成分および硫酸根の濃度を、蛍光X線分析法(各種金属酸化物の成分測定方法、株式会社リガク製RIX3100)および燃焼赤外線吸収法(硫酸根の濃度測定方法、株式会社堀場製作所製EMIA-520)により測定した。また、流動式比表面積自動測定装置フローソーブ2300形(島津製作所製)を用いて各種触媒のBET比表面積を測定した。
【0022】
それらの結果を表1に示す。
【表1】

【0023】
[実施例2]
実施例1により製造したNo.1〜No.18の各種触媒粉末をそれぞれハニカム担体(セル構造:6mil/400cpsi)に担持させたハニカム状触媒(●:Fresh)、あるいは、No.2〜No.12の各種触媒粉末をそれぞれハニカム担体(セル構造:6mil/400cpsi)に担持させ、800℃で3時間熱処理したハニカム状触媒(▲:800℃×3H)を用いてハニカム担体(セル構造:6mil/400cpsi)にそれぞれ担持させて、以下の条件下で脱硝反応テストを行った。なお、No.1〜No.12の触媒については、NO=500ppm、NH3=500ppm、O2=10%、H2O=5%、及びN2=バランスからなる模擬ガスを用い、空間速度(SV)を50000/hとし、反応温度を400℃とした。No.13〜No.18の触媒については、NO=500ppm、NH3=500ppm、O2=10%、H2O=5%、及びN2=バランスからなる模擬ガスを用い、空間速度(SV)を100000/hとし、反応温度を500℃とした。
【0024】
これらの結果を表2及び3並びに図1〜図3にそれぞれ示す。
【表2】

【表3】

【0025】
表2及び図1に示すように、酸化セリウムの濃度が10〜30重量%である触媒は、初期の触媒活性(Fresh状態の触媒におけるNOxの浄化率)が高く、800℃で3時間熱処理しても触媒活性の低下が少なく耐熱性に優れていることが明らかになった。また、表2及び図2に示すように、好ましい濃度(20〜25重量%)で酸化セリウムを含む触媒は、酸化タングステンを5〜14重量%含む場合に、初期の触媒活性及び耐熱性においてより優れた性能を示すことが明らかになった。以上のことから、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、及び酸化セリウムからなる複合金属酸化物を含み、酸化セリウムを10〜30重量%、酸化タングステンを5〜14重量%含む触媒は、高い触媒活性を有し、熱に対する耐久性に優れていることが示された。さらに、表3及び図3に示すように、BET比表面積が30 m2/g以上であるときに高い触媒活性を示すことも明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例において、触媒における酸化セリウムの濃度による窒素酸化物浄化率の変化を調べた結果を示す図である。
【図2】本発明の一実施例において、好ましい濃度で酸化セリウムを含む触媒における酸化タングステンの濃度による窒素酸化物浄化率の変化を調べた結果を示す図である。
【図3】本発明の一実施例において、触媒のBET比表面積による窒素酸化物浄化率の変化を調べた結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアの存在下で窒素酸化物を浄化する窒素酸化物浄化触媒であって、
酸化タングステン、酸化ジルコニウム、及び酸化セリウムからなる複合金属酸化物を含み、前記酸化セリウムを10〜30重量%、前記酸化タングステンを5〜14重量%含むことを特徴とする窒素酸化物浄化触媒。
【請求項2】
BET比表面積が30m/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒素酸化物浄化触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の窒素酸化物浄化触媒がハニカム担体に担持されていることを特徴とする窒素酸化物浄化触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の窒素酸化物浄化触媒に窒素酸化物とアンモニアとを接触させて、還元脱硝することを特徴とする窒素酸化物の浄化方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の窒素酸化物浄化触媒を備えることを特徴とする窒素酸化物浄化装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−49290(P2008−49290A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229330(P2006−229330)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000220804)東京濾器株式会社 (84)
【Fターム(参考)】