説明

窯業用転写紙及び窯業製品の加飾方法

【課題】にじみやはじきの少ないインク定着性に優れた窯業用転写紙、及び該窯業用転写紙を使用した窯業製品の加飾方法の提供を課題とする。
【解決手段】窯業用転写紙1aは、台紙6と、台紙表面に形成される糊層7と、糊層表面に形成される多孔質定着層5と、無機顔料インク4aを噴射し、印刷した転写画像部9と、無機顔料インク4aを固着させるフリット層10とを具備する。さらに、水系の無機顔料インク4aを使用する場合には、糊層7及び多孔質定着層5の間に撥水層8を有している。窯業製品Wの加飾方法は、糊層形成工程と、多孔質定着層形成工程と、インクジェット印刷工程と、フリット層形成工程と、転写工程と、焼成工程とを具備する。さらに、水系の無機顔料インク4aを使用する場合には、糊層形成工程及び多孔質定着層形成工程の間に撥水層形成工程が実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窯業用転写紙及び窯業製品の加飾方法に関するものであり、特に、無機顔料インクをインクジェット印刷装置を利用して噴射して転写画像を印刷した窯業用転写紙、及びこれを用いて加飾する窯業製品の加飾方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のコンピュータ、及びデジタルカメラ等の情報電子機器の高機能化、低価格化に伴って、写真やイラスト等の画像データを画像処理ソフトウェアによって加工し、年賀状やホームページの画像等の種々の用途に利用することが行われている。また、画像データを利用し、従来の紙媒体以外にも、布地、金属表面、プラスチック表面等の従来は印刷が困難とされていた対象に対しても印刷可能とする技術が開発されている。
【0003】
ここで、陶磁器等の窯業製品には、所望の絵柄を付すために「下絵付け」、「上絵付け」、及び「イングレーズ」等の周知の加飾方法が採用されている。「下絵付け」とは、表面に複数の孔を有する多孔質性の成型品や素焼きされた仮焼成品に対して所望の絵柄を描画し、さらにその上からガラス層となる釉薬を施釉し、これを高温で本焼成することにより、表面にガラス質の釉薬層の形成された窯業製品を形成するものである。一方、「上絵付け」或いは「イングレーズ」とは、本焼成によって釉薬層の形成された窯業製品の上から、さらに加飾を施し、再び本焼成よりも低温で焼成処理を行うものである。
【0004】
上記加飾方法において、絵具及び筆等を利用して製品表面に直接描画する「手描き」、紫外線硬化樹脂を露光させて作成した版を利用し、製品の表面に直接絵具を印刷したり、転写紙に画像を印刷し、その後転写する「スクリーン印刷」、または、シリコンパッドのパッド面に絵柄を写取り、製品の外表面にパッドを押付けて転写する「パッド印刷」、エッチング等によって絵柄を形成した平板に絵具を付け、和紙を押当てて絵柄を転写した転写紙を利用して絵付けする「銅板転写印刷」等の種々の方法が用いられている。
【0005】
しかしながら、手描きの場合、手作業で絵付けを行うため、大量生産に対応することができず、また、絵付けされた絵柄は個々に異なっていた。一方、手描き以外の加飾方法の場合、いずれも予め絵柄を印刷または転写等をするための版(スクリーン版等)を作成する製版工程が必要となり、多品種少量生産の製品を製造する場合には、版の製作コストが高くなる問題があった。
【0006】
さらに、デジタルカメラで撮影された写真等の画像データを加飾しようとする場合、一つの版だけでは精細な絵柄を再現することができず、各色毎の複数の版が必要となり、さらに製造コストがアップすることがあった。また、各版の位置を正確に合わせて個々の印刷または転写工程を行う必要があり、高精細の絵付けには上記加飾方法はいずれも適していないことがあった。
【0007】
そこで、インクジェットプリンターを利用して窯業用の転写紙に所望の転写画像を印刷し、該転写画像をスライド転写し、その後焼成処理を行うことにより、高画質の絵柄(転写画像)を窯業製品に簡易に加飾可能な技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、水溶性高分子を塗布した転写紙に、窯業用の絵具をインクジェットプリンターを利用して噴射し、転写紙に転写画像を印刷することができる。
【0008】
一方、転写紙の表面に合成樹脂からなる合成樹脂層及びフリット層を形成し、水性インクを用いて転写画像を形成し、窯業製品の加飾に用いることも行われている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2001−39092号公報
【特許文献2】特開2005−281072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来から使用されている窯業用の絵具は、比較的大粒のフリット成分と無機顔料成分とを混合して形成されており、微小の粉体で構成することは困難であった。特に、フリット成分は、粒子が微細になるにつれて、水等の溶媒に溶出しやすい性質を有し、その結果、高粘性のインクを使用する必要があった。そのため、インクジェットプリンターを利用して噴射するインクに適する粘性に調製することが困難となり、高精細の転写画像が得られなかった。
【0011】
一方、合成樹脂層及びフリット層を有する転写紙は、インクを噴射した場合、フリット層表面に該インクが付着し、乾燥及び定着することによって、高精細のを転写画像を印刷することができる。インクジェット印刷を用いた場合では、高粘性のインクを用いると、上述したインク噴射の不具合を生じることとなるため、低粘性及び無機顔料の粉体濃度の低いインクが一般に用いられていた。
【0012】
その結果、一般的なインクジェット印刷装置では、一回の印刷では充分な濃度の転写画像を得ることができず、同様の印刷操作を複数回に亘って繰返し、インクを重ね塗りして転写画像を印刷している。このとき、重ね塗りされた転写画像を窯業製品の表面に転写すると、転写画像中の濃色部分は、インクの液滴が盛上がり、このまま乾燥することにより、表面にヒビ割れ等の不良が発生することがあった。したがって、転写後に焼成処理を行っても窯業製品の図柄にヒビが残り、外見上の見栄えを損なっていた。さらに、重ね塗りによって転写画像自体の艶が低下する欠点もあった。
【0013】
さらに、インクジェットプリンターを利用して、上記の転写紙に印刷し、加飾を行う場合、印刷及び乾燥時に転写画像に「滲み」や「はじき」を生じないようにする必要があり、一般的に台紙にインク中の溶媒が浸透しないものを選択する必要があった。加えて、使用するインクは、無機顔料を含むものであり、水性または油性の溶媒中に分散させたものである。そのため、溶媒に対して比重の重い無機顔料は、必然的に下方に沈殿しやすい傾向があり、長期間に亘って安定して均一に分散した状態にすることが困難であった。これにより、インク中の無機顔料の濃度に偏向が生じたり、噴射ノズル等でインク詰まりを生じる等の不具合が発生する可能性が大きかった。
【0014】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、「にじみ」や「はじき」の少ないインク定着性に優れた窯業用転写紙、及び該窯業用転写紙を使用した窯業製品の加飾方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明の窯業用転写紙は、「台紙と、前記台紙の台紙表面に水溶性糊剤を層状に塗布して形成される糊層と、前記糊層の糊層表面に多孔質性粉体を層状にして形成され、無機顔料インクを定着させるための多孔質定着層と、前記多孔質定着層の定着層表面にインクジェット印刷装置を利用して前記無機顔料インクを噴射し、窯業製品に転写して加飾するための転写画像を印刷した転写画像部と、前記定着層表面上に印刷された前記転写画像部を上方から被覆し、前記転写画像部を構成する前記無機顔料インクを前記定着層表面に固着させるフリット層とを具備する」ものから主に構成されている。
【0016】
ここで、多孔質定着層を形成する多孔質性粉体は、例えば、非晶質シリカ粉体、溶融シリカ粉体、ガラス粉体、フリット粉体等の無機材料からなる粉体、或いはデンプン粉体、セルロース粉体、ポリビニルアルコール粉体、固体糊粉体等の有機材料からなる粉体を適宜選択して使用することができる。これらの粉体を水等の溶媒に分散し、塗布或いは印刷することによって多孔質定着層を形成することができる。このとき、微細粉体の溶解、或いは乾燥時間の短縮化を図るため、できるだけ沸点の低い溶媒を用いることが望ましい。そのため、水よりも低沸点で、揮発性の高いメチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、アセトン等の炭化水素類などの有機溶媒を用いることができる。特に、水との親和性が高く、かつ毒性の低いエチルアルコールを用いることが好適である。なお、台紙及び糊層を形成する水溶性糊剤は、従来の窯業用転写紙に使用される一般的な構成のものを使用することができる。そして、エチルアルコール等を溶媒として使用し、適度な粘性を有するスラリーまたはペーストとして調製し、スプレー法、インクジェット印刷法、及びスクリーン印刷法等の周知の塗布・印刷方法によって均一な層厚となるように多孔質定着層を形成する。
【0017】
一方、転写画像部は、インクを滴状にして噴射するインクジェットプリンターを利用し、多孔質定着層に向かって噴射することにより印刷して形成されるものである。また、インクに使用される無機顔料は、高温で発色可能な性質を有することが求められ、特に、下絵付けとして使用する場合には、釉薬中においても発色が可能であることが必要となる。
【0018】
無機顔料インクは、通常の窯業用に用いられる無機顔料を使用することができ、基本的な色はY(イエロー)、M(マゼンダ)、C(シアン)、及びB(ブラック)の四色である。ここで、Y顔料としては、バナジウムースズ、バナジウム−ジルコニウム、プラセオジウム−ジルコン、ホルミウムなどの酸化物、M顔料としてはマンガン−アルミニウム、クロム−亜鉛−アルミニウム、クロム−スズなどの酸化物、C顔料としてはコバルト、コバルト−アルミニウム、コバルト−亜鉛−アルミニウムなどの酸化物、B顔料としてはクロム−鉄、クロム−コバルト−鉄、コバルト−アルミニウム−鉄などの酸化物が上げられる。また、特色として、酸化鉄などの赤色、コバルト−クロム酸化物などの緑色、亜鉛−クロム−珪素酸化物などの茶色等を使用することもできる。なお、必要に応じてフリットと呼ばれるガラス粉体を混合するものであってもよい。
【0019】
さらに、所望のインク特性(詳細は後述する)を有するように調製されたインクは、インクジェットプリンターのインク筒に投入される。そして、予めパソコンに取込まれた画像データを利用し、窯業用転写紙の多孔質定着層表面に噴射して出力することとなる。なお、インクジェット印刷装置には、インクの吐出(噴射)方式により、ピエゾ方式、サーマル方式、及びバルブ方式等の大別することができるが、本発明は、いずれの吐出方式によって対応することができる。さらに、ローラによって紙(転写紙)自体を縦横に駆動して、インクの噴射位置を変化させないで転写画像を出力するものであってもよい。
【0020】
したがって、本発明の窯業用転写紙によれば、多孔質定着層に対して無機顔料インクが噴射され、所望の転写画像が描画される。このとき、無機顔料インクは、多孔質性を有する多孔質定着層に下方に向かって浸透することにより、横方向に拡がることなく、噴射位置に定着することとなる。その結果、濃色部分のように従来は液滴が盛上がっていた箇所であっても、ヒビ割れ等の不具合が抑制され、高精細の転写画像を印刷することができる。その後、転写画像部の上からフリット層及び必要に応じて保護層を設け、転写紙を完成する。その結果、焼成後に無機顔料を窯業製品の表面に保持することができ、光沢あるガラス層を有する加飾済みの窯業製品を構築することができる。
【0021】
なお、上記構成と異なり、糊層表面にフリット層を形成し、その上に多孔質定着層の形成、転写画像部の印刷を行い、その上から再びフリット層を設けたもの構成の窯業用転写紙を構築するものであってもよい。これにより、二層のフリット層を有することにより、焼成後の加飾部分(転写画像部)の製品に対する密着性やガラス層による表面平滑性を備えた窯業製品とすることができる。また、多孔質定着層とフリット層の形成する順を逆にしてもよい。この場合、多孔質定着層に焼成時に焼成する有機物や溶融する粉体を用いることが望ましい。こうすることで、定着した無機顔料がフリット層に焼成・溶融・固化して窯業製品に固着することができる。
【0022】
さらに、本発明の窯業用転写紙は、上記構成に加え、「前記無機顔料インクは、水系溶媒及び前記水系溶媒中に分散してなる無機顔料を含んで構成され、前記糊層及び前記多孔質定着層の間に介設され、前記転写画像部を印刷するために噴射された前記無機顔料インクが前記糊層を介して前記台紙に浸透することを防止する撥水層を具備する」ものであっても構わない。
【0023】
したがって、本発明の窯業用転写紙によれば、糊層及び多孔質定着層の間に撥水層が設けられる。ここで、無機顔料インクとして、水系溶媒を使用した場合、水系溶媒が多孔質定着層を浸透し、最終的に糊層及び台紙表面まで到達する可能性がある。その場合、水溶性糊剤からなる糊層及び水性の無機顔料インクが混ざり合い、印刷された転写画像に滲み等の印刷不良が発生する可能性がある。そこで、糊層及び多孔質定着層の間に撥水層を設け、水性の無機顔料インクが糊層と接触しないようにして、印刷品質の低下を防ぐことが可能となる。
【0024】
ここで、撥水層は、シリコン系或いはフッ素系の液体撥水剤を用いたり、或いはステアリン酸またはドコシン酸等の酸類、メタアクリル酸エステル、芳香族系炭化水素、ワックス類等の有機系化合物を適宜選択して用いることができる。さらに、フリット粉体や無機顔料粉体を層中に分散させるものであってもよい。これにより、撥水剤としての効果に加え、焼成の際における溶融層や色付き下地となり、様々な効果を提案することができる。一例を示すと、撥水層にフリット粉体及び残光性蛍光粉体を含有させることにより、下地に残光性を有する転写紙を作成することが可能となる。
【0025】
さらに、本発明の窯業用転写紙は、上記構成に加え、「前記多孔質定着層は、0.01μm以上、10μm以下の平均粒子径を有する粉体を用いて形成され、前記多孔質定着層の定着層厚が1μm以上、100μm以下に設定されている」ものであっても構わない。
【0026】
したがって、本発明の窯業用転写紙によれば、無機顔料インクの良好な定着性を得るために、0.01μm以上、10μm以下の平均粒子径を有する粉体が用いられ、かつ1μm以上、100μm以下の定着層厚になるように調製されている。ここで、10μm以上の粉体は、多孔質定着層の多孔部が大となり、多くの無機顔料インクが多孔質定着層の内部に吸収されてしまう。その結果、転写画像が薄く印刷され、印刷品質が低下するおそれがある。そこで、ある程度の浸透性を有するとともに、必要以上に無機顔料インクを吸収しないように平均粒子径の範囲が上記の通り規制されている。加えて、多孔質定着層の定着層厚が1μm以下の場合、無機顔料インクが充分に吸収されず、定着層表面に液滴となって盛上がり、乾燥時にヒビ割れを生じる等の不具合が生じやすくなる。一方、100μm以上に設定した場合、無機顔料インクの横方向への拡がりが大となり、転写画像ににじみが生じ、不鮮明となる可能性が高くなる。そこで、多孔質定着層の層厚を所定範囲に制限している。
【0027】
さらに、本発明の窯業用転写紙は、上記構成に加え、「前記無機顔料インクは、平均粒子径が1nm以上、200nm以下の無機顔料を含んでなる」ものであっても構わない。
【0028】
したがって、本発明の窯業用転写紙によれば、平均粒子径が1nm以上、200nm以下の無機顔料が用いられている。平均粒子径が大きいと、溶媒中での沈降速度が速くなり、噴射ノズルやインクの流通経路で沈殿し、良好な無機顔料インクの噴射をすることが困難となる。そこで、200nm以下の微細な粒径の無機顔料を用いることにより、無機顔料インクの噴射特性を向上させ、かつ沈降等の不具合を生じる可能性を抑えることができる。なお、インク調製時のハンドリング等の問題から平均粒子径を1nm以上に設定している。
【0029】
ここで、無機顔料インクは、上述した水系以外にも、オイル系(油系)、或いは樹脂系等の溶媒を用いることができる。なお、本発明において無機顔料の混合量(混合比)は、特に限定されるものではないが、良好な転写画像を印刷するためには、可能な限り高濃度であることが望ましい。しかしながら、高濃度の無機顔料を有する無機顔料インクは、粘性が高くなり、噴霧することが困難となる。そこで、本発明においては無機顔料の混合量を20Vol%以下、さらに好ましくは10Vol%以下に調製することが好適である。ここで、20Vol%以上の無機顔料を混合した場合、粘性が高くなりやすく良好な噴射が行えず、噴射ノズルの詰まり等の不具合を生じやすくなる。
【0030】
なお、無機顔料インクには、溶媒及び無機顔料の他に、沈降防止、表面張力等を調製する目的で、種々の周知の添加剤を添加することが可能である。これらの添加剤は、公知の無機顔料、セラミックス粉体に使用されているものを使用することができ、アニオン系、カチオン系、及びノニオン系の添加剤を適宜選択して使用してもよい。例えば、ケイ酸塩、ピロリン酸塩、アルキルリン酸塩等の無機塩類、ステアリン酸塩、アルギン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンソルビタンモオノレート、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリオキシエチレン脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等の有機塩類、メチルセルロース、エチルセルロースなどの有機類、しゅう酸、酢酸等の酸類、アンモニア水等のアルカリ類の分散剤、湿潤剤、界面活性剤、沈降防止剤である。なお、添加剤の添加量は、無機顔料インクに対して、1wt%以下、より好ましくは0.5wt%以下であることが好ましい。これにより、適した粘性及び表面張力にすることができ、印刷品質が著しく低下することがない。
【0031】
さらに、無機顔料インクとして水系溶媒を用いた場合、ノズルの先端の乾燥を防止する目的で乾燥防止剤を添加することもできる。乾燥防止剤は、水と混合し、インクの粘性を高めないもの好適であり、一例を挙げると、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチレンエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、グリセリン、ジアセトンアルコール、N−メチル2−ピロリドン、2−ピロリドン等を使用することができる。この乾燥防止剤は、無機顔料の種類や特性に応じて一種類或いは複数種類を組合わせて使用することも可能であり、溶媒に対して0Vol%(乾燥防止剤の未添加)から50Vol%、さらに好ましくは0Vol%から30Vol%、より好ましくは0Vol%から20Vol%の範囲に調製することができる。ここで、乾燥防止剤の混合比率が高くなると、無機顔料インク全体の粘性が高くなり、上述の不具合が生じやすくなり、転写画像の印刷品質に大きな影響を与えることとなる。
【0032】
一方、オイル系インクの場合、ノズルの先端の乾燥を防止するために、比較的沸点の高い有機溶媒を用いることが好ましい。例えば、トルエンやキシレン等の芳香族系溶媒や、イソプロピルアルコールやブチルアルコール等の多価アルコール、或いはエステル化合物などを用いることが可能である。さらに、無機顔料インクの多孔質定着層への定着を良好とし、かつ無機顔料インクの固着(乾燥)を短時間にするため、紫外線硬化樹脂を含むものであっても構わない。
【0033】
上記条件により調製された無機顔料インクは、良好な噴射が可能なように、見掛け粘度が1〜25mPa・s、好ましくは、1〜15mPa・sの範囲に調製され、表面張力が10〜60mN/m、好ましくは、20〜50mN/mの範囲に調製される。
【0034】
一方、本発明の窯業製品の加飾方法は、「上記に記載の窯業用転写紙を利用した窯業製品の加飾方法であって、台紙の台紙表面に水溶性糊剤を塗布し、糊層を層状に形成する糊層形成工程と、前記糊層の糊層表面に多孔質性粉体からなる多孔質定着層を層状に形成する多孔質定着層形成工程と、前記多孔質定着層の定着層表面にインクジェット印刷装置を利用して無機顔料インクを噴射し、窯業製品に転写して加飾するための転写画像を印刷した転写画像部を形成するインクジェット印刷工程と、前記定着層表面上に印刷された前記転写画像部を上方から被覆し、前記転写画像部を構成する前記無機顔料インクを前記定着層表面に固着させるフリット層を形成するフリット層形成工程と、前記台紙、前記糊層、前記多孔質定着層、前記転写画像部、及び前記フリット層の形成された窯業用転写紙の前記転写画像の印刷された前記転写画像部を加飾対象の窯業製品の製品表面にスライド転写する転写工程と、前記転写画像部が前記製品表面に転写された前記窯業製品を焼成する焼成工程と」を主に具備して構成されている。
【0035】
したがって、本発明の窯業製品の加飾方法によれば、多孔質定着層を有する窯業用転写紙を用い、該多孔質定着層にインクジェットを印刷を行って所望の転写画像からなる転写画像部を構築し、これを窯業製品の表面に転写して、窯業製品の加飾を行うことが可能となる。その結果、噴射された無機顔料インクの多孔質定着層への浸透により、高鮮明な転写画像を窯業用転写紙に印刷することができる。さらに係る窯業用転写紙を利用して、製品表面に転写画像をスライド転写することにより、従来は困難であった窯業製品の表面に対する写真等の精細な画像を容易に再現することができる。
【0036】
ここで、加飾対象の窯業製品は、例えば、皿、碗、カップ、花瓶、プレート、タイル、円筒など様々な形状のものを想定することができる。そして、400℃〜1200℃、好ましくは500℃〜1100℃で焼成することにより、窯業用転写紙に含まれる有機分が消失し、無機分のみとなる。なお、焼成温度は、例えば、ガラス製品の場合は500℃〜600℃、陶磁器製品の場合は650℃〜850℃、琺瑯製品の場合は750℃〜850℃が適している。また、イングレーズ加飾の場合は、1000℃〜1100℃の高温焼成によって処理される。
【0037】
さらに、本発明の窯業製品の加飾方法は、上記構成に加え、「前記糊層形成工程及び前記多孔質定着層形成工程の間に実施され、前記糊層の糊層表面に、水系溶媒中に無機顔料を分散してなる前記無機顔料インクが前記台紙に浸透することを防止する撥水層を形成する撥水層形成工程を具備する」ものであっても構わない。
【0038】
したがって、本発明の窯業製品の加飾方法によれば、撥水層を有する窯業用転写紙を用いることにより、水系溶媒を用いた無機顔料インクであってもにじみ等の不良が発生することがなく、窯業製品の加飾が可能となる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の効果として、本発明の窯業用転写紙及び窯業製品の加飾方法により、インクジェットプリンターを利用して「にじみ」、「はじき」、「ヒビ割れ」等のない高精細の転写画像を窯業用転写紙に正確に再現することができる。さらに、撥水層を設けることにより、水系溶媒を含む無機顔料インクの使用を可能とすることができる。これにより、好みの画像や写真等を窯業用転写紙に印刷することが簡易に行え、さらに該窯業用転写紙を用いて転写画像を窯業製品に転写して焼成することによって、加飾されたオリジナルのカップやプレートといった窯業製品を低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の窯業用転写紙(以下、単に「転写紙」と称す)及び該転写紙を用いた窯業製品の加飾方法2(以下、単に「加飾方法2」と称す)について、図1乃至図5に基づいて説明する。ここで、図1及び図2は、本発明の加飾方法2における各工程の流れを各実施例毎に示すフローチャートであり、図3乃至図5は、各実施例における転写紙の構成及び転写紙の製作の流れを模式的に示す説明図である。
【0041】
ここで、本発明の加飾方法2において、転写紙1a等にインクジェット印刷を行う転写画像3には、デジタルカメラによって撮影された写真の画像データを使用するものについて説明する。この画像データは、パソコンに接続されたピエゾ式インクジェット印刷装置(詳細は後述する)を介して転写紙1a等に出力されるものである。なお、使用する画像データは、上記方法によって取得されるものに限定されるものではなく、例えば、デジタルビデオカメラ、スキャナー等の周知の画像入力機器を用いて取得したもの、CD−ROMやDVD等の記憶媒体に記憶された画像データ、インターネット等を通じてダウンロードしたデータを利用するものであってもよい。さらに、画像処理ソフトを利用して、サイズや形状を変形処理したもの、モノクロ化等の色調補正処理を施したものであっても構わない。
【0042】
以下に、本発明の転写紙をそれぞれの条件で製作し、窯業製品に対して加飾を行った実施例及び比較例について説明し、転写紙に対する印刷結果及び焼成後の窯業製品の焼成結果について説明する。ここで、実施例及び比較例の条件は表1に示し、印刷結果及び焼成結果については表2に示している。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
なお、使用するフリット粉体や無機顔料等の平均粒子径を測定するために、平均粒子径が0.2μm以上のものについてはレーザ散乱法(SALD−7000−島津製作所製)、0.2μm以下のものについては動的光散乱法(380ZLS:NICOMP製)を使用してそれぞれの値を算出している。一方、無機顔料インク4a等の粘度は、回転粘度計(VT−550:HAKKE製)を使用して行っている。また、多孔質定着層等の層厚は、光学顕微鏡(UFX−II:ニコン製)を利用し、焦点高さ測定法によって算出している。また、下記の実施例を模式的に示す図3乃至図6において、各層の層厚は便宜的に示したものであり、各層の比率を正確に表したものではない。さらに、説明を簡略化するため、実施例5乃至実施例7の加飾方法の流れを示すフローチャートについては図示を省略している。
【0046】
<実施例1>:台紙表面に水溶性糊剤を塗布し、台紙6上に糊層7を形成する(糊層形成工程S1)。そして、無鉛フリットをスキージオイルに分散し、混合したペーストを糊層7の糊層表面にスクリーン印刷して乾燥させる。これにより、スキージオイルに含まれる樹脂成分によって撥水性を有する撥水層8が乾燥後に形成される(撥水層形成工程S2:図3(a)参照)。
【0047】
次に、撥水層8の層表面に、平均粒子径が5μmの無鉛フリット(カネ水水野絵具製作所製)をエチルアルコール中に分散させたスラリーを、バルブ式インクジェット印刷装置(ラファエロ7:エル・エー・シー製)を用い、撥水層8の全面に亘って印刷する。これにより、多孔質定着層5が形成される(多孔質定着層形成工程S3:図3(b)参照)。このとき、多孔質定着層5の層厚は、約100μmとなっている。なお、多孔質定着層5を形成するために使用される前述のバルブ式インクジェット印刷装置は、2流体バルブ式ノズルの使用により、粒子径の比較的大きな粉体を含んだスラリーであっても40dpiの解像度で印刷をすることができる。
【0048】
そして、調製した無機顔料インク4aを利用して、分解能360dpiのピエゾ式インクジェット印刷装置(KEGON:アフィット製)によって、パーソナルコンピュータに読込んだ画像データに従って、多孔質定着層5の層表面に転写画像3を形成するように噴射し、印刷を行う(インクジェット印刷工程S4:図3(c)参照)。このとき、一回の印刷処理では、多孔質定着層5に形成される転写画像3(転写画像部9)の印刷濃度が薄く、実用上十分な程度でない可能性があるため、本実施例においては、同一の転写画像3を多孔質定着層5の同一位置に対して、合計四回印刷する重ね印刷を行っている。これにより、多孔質定着層5の層表面には、滲みやはじきのない鮮明かつ良好な転写画像(転写画像部9)が構築されることとなる。
【0049】
ここで、インクジェット印刷に使用する無機顔料インク4aは、平均粒子径が約70nmのコバルト−アルミニウム酸化物からなる青系の無機顔料を使用し、これを水系溶媒中に分散し、混合することによって構築されている。なお、無機顔料インク4aは、全体として5vol%の青系の無機顔料を含み、分散剤及び湿潤剤が全量に対して0.3wt%添加されている。
【0050】
なお、上記条件によって調製された無機顔料インク4aは、5.4mPa・sの粘度及び35mN/mの表面張力を有する物性を示した。さらに、係る無機顔料インク4aを暗所に静置し、長期間に亘って分散状態を確認したところ、青系の無機顔料が下方に沈殿したり、或いは層分離を生じることがなく、安定した分散状態を保持することが確認されている。
【0051】
その後、転写画像部9の上方から、無鉛フリットをスキージオイル中に分散し、混合したペーストをスクリーン印刷し、フリット層10を形成する(フリット層形成工程S5)。さらに、当該フリット層10の上から、窯業製品W(焼成品)の製品表面への転写の際に転写画像部9等を保護する目的で、ポリビニルブチラール樹脂を塗布し、保護層11を設ける(保護層形成工程S6:図3(d)参照)。これにより、本発明の実施例1の転写紙1aの製作が完成する。
【0052】
その後、上記工程により製作された転写紙1aを利用し、窯業製品の加飾を行う。具体的には、転写画像3(転写画像部9)を含む転写紙1aを所定のサイズにカットし、これを水の中に浸す。その結果、台紙6及び撥水層8の間の水溶性の糊層7が水に溶解する。これにより、台紙6から、撥水層8、多孔質定着層5、転写画像部9、フリット層10、及び保護層11からなる多層構造の転写部12が分離することとなる。そして、この分離した転写部12をガラス層(釉層)が製品表面に形成された窯業製品Wにスライド転写し、転写後にゴムへら等によって製品表面及び転写部12の間に発生する気泡や水泡を中心から辺縁に向かった押し出すようにして排除し、製品表面に転写部12を密着させる(転写工程S7:図3(e)参照)。
【0053】
そして、転写部12のスライド転写された窯業製品Wを、780℃の焼成温度に保持した焼成炉内に投入し、30分間焼成処理を行う(焼成工程S8)。これにより、転写紙1aの有機分が消失し、無機分のみが残存する。そして、青系の無機顔料によって転写画像3が製品表面に表示された加飾済みの窯業製品を得ることができる。
【0054】
実施例1によって製作された転写紙1aを用い、窯業製品Wの加飾処理を行った場合、糊層7及び多孔質定着層5の間に形成された撥水層8によって、インクジェット印刷工程S4によって多孔質定着層5に噴射された無機顔料インク4aが多孔質定着層5に吸収され、かつ撥水層8の存在によって、それ以上の台紙6側に向かって浸透することが規制される。その結果、当該転写紙1aに対する印刷は、滲みやはじき等のない鮮明な印刷出力結果を示すことができる。さらに、多孔質定着層5は、平均粒子径が5μmの無鉛フリットが用いられていることにより、形成された多孔質定着層5は無機顔料インク4aが適度に吸収される程度の多孔質部(図示しない)を有している。これにより、無機顔料インク4aを充分に吸着し、保持することができるとともに、さらに横方向への拡がりを規制し、滲み等の不具合を生じることがない。さらに、焼成後の窯業製品Wの表面には、良好な転写画像部9が再現され、その表面に亀裂等の不具合箇所を生じることが無かった。
【0055】
<実施例2>:上述した実施例1の構成とほぼ同一の構成の転写紙を使用するものであり、インクジェット印刷工程S4において、青系の無機顔料を含む無機顔料インク4aに代えて、黒色顔料(平均粒子径80nmのマンガン−鉄−アルミニウム酸化物)を含む無機顔料インク4bを利用して多孔質定着層8に噴射する点において相違するものである。そのため、転写紙1bの詳細な構成については、図3(d)と略同一であるため、ここでは説明を省略する。
【0056】
そして、調製した無機顔料インク4bを、実施例1と同様のピエゾ式インクジェット印刷装置を利用し、多孔質定着層5の層表面に対して噴射し、転写画像3を印刷する。このとき、三回の重ね印刷を行う。
【0057】
ここで、無機顔料インク4bにおける黒色の無機顔料9aの混合量は、全体に対して4vol%になるように調製され、さらに分散剤及び湿潤剤が合わせて0.3wt%添加されている。そして、上記条件により調製された無機顔料インク4bは、4.8mPa・sの粘度及び36mN/mの表面張力を有する物性を示した。また、調製御の無機顔料インク4bを、静置した場合、実施例1の場合と同様、長期間にわたって無機顔料が下方に沈殿し、或いは層分離を生じることがなく、安定した分散状態を保持することが確認されている。その後、実施例1と同様に、フリット層10、保護層11を形成し、転写紙1bの製作を完了した。
【0058】
実施例2によって製作された転写紙1bを用いて、窯業製品の加飾処理を行った場合、実施例1と同様に転写紙1bの使用による良好な印刷結果及び窯業製品に対する良好な焼成結果を得ることができた。すなわち、無機顔料を変化させた場合であっても共に良好な印刷結果及び焼成結果が得られることが示された。
【0059】
<実施例3>:台紙表面2に水溶性糊剤を塗布し、台紙6条に糊層7を形成する(糊層形成工程S1)。そして、平均粒子径が約0.02μmの非晶質シリカ粉体(トクシール:トクヤマ製)をエチルアルコール中に分散させたスラリーを、バルブ式インクジェット印刷装置(実施例1等と同様)を用い、糊層7の全面に亘って印刷するこれにより、多孔質定着層5が形成される(多孔質定着層形成工程S3:図4(a)参照)。このとき、多孔質定着層5の層厚は約10μmであった。すなわち、実施例1及び実施例2と比して、実施例3における転写紙1cは、糊層7及び多孔質定着層5の間に撥水層8が形成されるものではなく、糊層7の上に直接多孔質定着層5が形成されている。
【0060】
また、使用する無機顔料インク4cは、実施例1及び実施例2の無機顔料インク4a,4bのように水系溶媒を用いるものの代わりに、ブチルアルコール系溶媒を使用し、ボールミル混合によって調製を行ったものを使用している。この時、無機顔料インク4cにおける無機顔料成分の混合量は4vol.%であり、調製された無機顔料インク4cは、長期間の保管であっても沈殿や層分離等を生じることがなかった。上記条件により調製された無機顔料インク4cは、9.5mPa・sの粘度及び23mN/mの表面張力を有する物性を示した。
【0061】
そして、調製した無機顔料インク4cを、実施例1等と同様のピエゾ式インクジェット印刷装置を利用し、多孔質定着層5の層表面に対して噴射し、転写画像を印刷する。このとき、四回の重ね印刷を行う。
【0062】
その後、実施例1等と同様に、フリット層10、保護層11を形成し、転写紙1cの製作を完了した。実施例3によって製作された転写紙1cを用いて、窯業製品の加飾処理を行った場合、実施例1等と同様に転写紙1bの使用による良好な印刷結果及び窯業製品に対する良好な焼成結果を得ることができた。すなわち、ブチルアルコール系溶媒のようなオイル系溶媒を使用した無機顔料インク4cを用いる場合、水系溶媒の使用時には必要な撥水層8の構成を省略した転写紙1cであっても良好な印刷結果及び焼成結果が得られることが示された。
【0063】
<実施例4>:台紙表面に水溶性糊剤を塗布し、台紙6上に糊層7を形成する(糊層形成工程S1)。そして、無鉛フリットをスキージオイル中に分散し、混合したペーストを糊層7の上からスクリーン印刷を施す。これにより、糊層7の上に第一フリット層10aが形成される(第一フリット層形成工程S5a:図2及び図5参照)。そして、平均粒子径が約0.02μmの非晶質シリカ粉体(トクシール:トクヤマ製)をエチルアルコール中に分散させたスラリーを、バルブ式インクジェット印刷装置(実施例1等と同様)を用い、第一フリット層の全面に亘って印刷する。これにより、多孔質定着層5が形成される(多孔質定着層形成工程S3)。このとき、多孔質定着層5の層厚は約10μmであった。
【0064】
その後、実施例3で用いた黒系の無機顔料インク4cを利用し、形成された多孔質定着層5に対して無機顔料インク4cを噴射し、転写画像部9の形成を行った。そして、その上からフリット層10を形成し、さらに保護層11を上記と同様の手法によって形成し、転写紙1dの製作を完了した。すなわち、実施例3と比して、実施例4の転写紙1dは、多孔質定着層5及び転写画像部9を挟み込むようにして上下に第一フリット層10a及びフリット層10の二層をそれぞれ設けて構成されたものである。
【0065】
実施例4によって製作された転写紙1dを用いて、窯業製品の加飾処理を行った場合、実施例1等と同様に転写紙1dの使用によって良好な印刷結果及び窯業製品に対する良好な焼成結果を得ることができた。すなわち、二層のフリット層10,10aのを多孔質定着層5の上下に配する構成の転写紙1であっても良好な印刷結果及び焼成結果が得られることが示された。
【0066】
<実施例5>:実施例5は、上記実施例3と略同一の構成を有し、多孔質定着層5を、実施例3で使用した非晶質シリカ粉体(平均粒子径:約0.02μm)の代わりに、コロイダルシリカ(平均粒子径:約0.07μm)を用いて構成したものである。その他、撥水層8の有無、フリット層10及び保護層11、黒系の無機顔料インク4cの使用等の条件はすべて同一である。そして、係る条件によって転写紙1eが製作される。
【0067】
実施例5によって製作された転写紙1eを用いて、窯業製品の加飾処理を行った場合、実施例1等と同様に転写紙1eの使用によって良好な印刷結果及び窯業製品に対する良好な焼成結果を得ることができた。すなわち、多孔質定着層5を非晶質シリカ粉体からコロイダルシリカを使用するものに変更した転写紙1eであっても良好な印刷結果及び焼成結果が得られることが示された。
【0068】
<実施例6>:実施例6は、上記実施例3と略同一の構成を有し、多孔質定着層5を、実施例3で使用した非晶質シリカ粉体(平均粒子径:約0.02μm)の代わりに、でんぷん粉体(平均粒子径:約9μm)を用いて構成したものである。その他、撥水層8の有無、フリット層10及び保護層11、黒系の無機顔料インク4cの使用等の条件はすべて同一である。そして、係る条件によって転写紙1fが製作される。
【0069】
実施例6によって製作された転写紙1fを用いて、窯業製品の加飾処理を行った場合、実施例1等と同様に転写紙1fの使用によって良好な印刷結果及び窯業製品に対する良好な焼成結果を得ることができた。すなわち、多孔質定着層5を非晶質シリカ粉体から平均粒子径の比較的大きなでんぷん粉体を使用するものに変更した転写紙1fであっても良好な印刷結果及び焼成結果が得られることが示された。
【0070】
<比較例1>:上述した実施例1の転写紙1aから多孔質定着層5の構成を省略した点が相違するものである(図示を省略)。これを用いて転写画像部9の印刷を行ったところ、水系溶媒を利用した無機顔料インク4aを噴射すると、直接撥水層8の上に転写画像部9が印刷されることとなり、無機顔料インク4aの下方への浸透がほとんどなくなる。その結果、撥水層8の表面で無機顔料インク4aがはじき、転写画像部9が途切れたり、乾燥後にはインク表面に細かい亀裂が生じるなどの印刷品質の低下が認められた。そして、これを利用して通常の転写処理を行うと、印刷品質の低い転写画像部9がそのまま残存し、焼成結果も良好なものではなかった。すなわち、水系溶媒を利用した無機顔料インク4aの場合、多孔質定着層5が必須の構成であることが確認された。
【0071】
<比較例2>:上述した実施例3(または、実施例5,6)の転写紙1c(1e,1f)において、多孔質定着層8の構成を省略したものである(図示を省略)。これを用いて、かつオイル系溶媒を使用した無機顔料インク4cを利用し、糊層7の上に直接転写画像部9を形成することとなる。このとき、水系溶媒のようにインクのはじきが生じる不具合はないものの、乾燥後にインク表面を観察すると、細かい亀裂が多数確認された。そして、これを利用して通常の転写処理を行うと、印刷品質の低い転写画像部9がそのまま残存し、焼成結果も良好なものではなかった。これにより、オイル系溶媒を用いた無機顔料インク4cを噴射する場合であっても、多孔質定着層8が必須の構成であることが確認された。
【0072】
上記に示した実施例1乃至実施例6及び比較例1乃至比較例2の結果から、水系溶媒を用いた無機顔料インク4aを使用する場合には、糊層7の上の撥水層8,8aが良好な印刷結果を得るための必須の構成であることが確認された。さらに、多孔質定着層5,5aは、大きな多孔部が存在すると無機顔料インク4aの吸収量が大きく、かつ横方向への拡散が大となり、転写画像3の輪郭がぼける等の印刷時に不具合が生じることから、平均粒子径が0.01μmから10μmの範囲の粉体を使用することが確認された。
【0073】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0074】
すなわち、本実施形態において例示した各層の構成及び層形成のために使用する材料(非晶質シリカ、フリット粉体等)は、これに限定されるものではなく、窯業用転写紙を製作する過程において好適な材料を適宜選択して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施例1の加飾方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施例4の加飾方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【図3】実施例1及び実施例2における転写紙の構成及び転写の流れを模式的に示す説明図である。
【図4】実施例3、実施例5、及び実施例6における転写紙の構成及び転写の流れを模式的に示す説明図である。
【図5】実施例4における転写紙の構成及び製作の流れを模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0076】
1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g 転写紙(窯業用転写紙)
2 加飾方法(窯業製品の加飾方法)
3 転写画像
4a,4b,4c 無機顔料インク
5 多孔質定着層
6 台紙
7 糊層
8 撥水層
8a フッ素系撥水層(撥水層)
9 転写画像部
10 フリット層
10a 第一フリット層(フリット層)
11 保護層
12 転写部
S1 糊層形成工程
S2 撥水層形成工程
S3 多孔質定着層形成工程
S4 インクジェット印刷工程
S5 フリット層形成工程
S5a 第一フリット層形成工程(フリット層形成工程)
S6 保護層形成工程
S7 転写工程
S8 焼成工程
W 窯業製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台紙と、
前記台紙の台紙表面に水溶性糊剤を層状に塗布して形成される糊層と、
前記糊層の糊層表面に多孔質性粉体を層状にして形成され、無機顔料インクを定着させるための多孔質定着層と、
前記多孔質定着層の定着層表面にインクジェット印刷装置を利用して前記無機顔料インクを噴射し、窯業製品に転写して加飾するための転写画像を印刷した転写画像部と、
前記定着層表面上に印刷された前記転写画像部を上方から被覆し、前記転写画像部を構成する前記無機顔料インクを前記定着層表面に固着させるフリット層と
を具備することを特徴とする窯業用転写紙。
【請求項2】
前記無機顔料インクは、
水系溶媒及び前記水系溶媒中に分散してなる無機顔料を含んで構成され、
前記糊層及び前記多孔質定着層の間に介設され、前記転写画像部を印刷するために噴射された前記無機顔料インクが前記糊層を介して前記台紙に浸透することを防止する撥水層を具備することを特徴とする請求項1に記載の窯業用転写紙。
【請求項3】
前記多孔質定着層は、
0.01μm以上、10μm以下の平均粒子径を有する粉体を用いて形成され、
前記多孔質定着層の定着層厚が1μm以上、100μm以下に設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窯業用転写紙。
【請求項4】
前記無機顔料インクは、
平均粒子径が1nm以上、200nm以下の無機顔料を含んでなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の窯業用転写紙。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の窯業用転写紙を利用した窯業製品の加飾方法であって、
台紙の台紙表面に水溶性糊剤を塗布し、糊層を層状に形成する糊層形成工程と、
前記糊層の糊層表面に多孔質性粉体からなる多孔質定着層を層状に形成する多孔質定着層形成工程と、
前記多孔質定着層の定着層表面にインクジェット印刷装置を利用して無機顔料インクを噴射し、窯業製品に転写して加飾するための転写画像を印刷した転写画像部を形成するインクジェット印刷工程と、
前記定着層表面上に印刷された前記転写画像部を上方から被覆し、前記転写画像部を構成する前記無機顔料インクを前記定着層表面に固着させるフリット層を形成するフリット層形成工程と、
前記台紙、前記糊層、前記多孔質定着層、前記転写画像部、及び前記フリット層の形成された窯業用転写紙の前記転写画像の印刷された前記転写画像部を加飾対象の窯業製品の製品表面にスライド転写する転写工程と、
前記転写画像部が前記製品表面に転写された前記窯業製品を焼成する焼成工程と
を具備することを特徴とする窯業製品の加飾方法。
【請求項6】
前記糊層形成工程及び前記多孔質定着層形成工程の間に実施され、前記糊層の糊層表面に、水系溶媒中に無機顔料を分散してなる前記無機顔料インクが前記台紙に浸透することを防止する撥水層を形成する撥水層形成工程をさらに具備することを特徴とする請求項5に記載の窯業製品の加飾方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−154419(P2009−154419A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335943(P2007−335943)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業委託研究、陶磁器の次世代製造技術開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【Fターム(参考)】