説明

立体加飾品の製造方法

【課題】 天然の木材の風合いを有する意匠性の高い立体加飾品を容易に製造することが可能な立体加飾品の製造方法を提供する。
【解決手段】 立体加飾品11aの製造方法は、木材の表面を平面的に象った杢目柄をフィルム13aに印刷する印刷工程と、該印刷工程で印刷されたフィルム13aを金型41内にインサートしてインモールド成形する成形工程とを備える。成形工程では、木材の表面を立体的に象った凹凸形状と相補的な凹凸面45を有する金型41が用いられ、かつ前記木目柄を凹凸面45に対応させるようにして、フィルム13aを金型41内にインサートする。凹凸面45は30〜200μmの最大深さを有していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の風合いを有する意匠面を備え、車両の内装部品を始めとして、家具や建築材等に使用される立体加飾品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木目調に加飾された加飾品及びその製造方法としては、例えば、特許文献1,2に開示されている木目調部材及びその製造方法が知られている。これらの木目調部材は、ウレタン系基材の表面に形成された凹部と、該凹部に埋め込まれた目止め剤と、該目止め剤が埋め込まれたウレタン系基材の表面を覆うカラークリアー層、中塗りクリアー層及び上塗りクリアー層とを備えている。これらの木目調部材を製造する際には、まず、木目模様が形成された金型内にインモールドコーティング層を形成する第1の工程を行う。次に、前記金型内にウレタン系組成物を注入する第2の工程を行った後、前記ウレタン系組成物を硬化して得られた木目を有するウレタンモールドを前記金型から取り出す第3の工程を行い、さらに前記木目の部分に色材を含有する目止め剤を充填し、その層上にカラークリアー層を設ける第4の工程を行う。
【0003】
また、特許文献3には、転写印刷技術を応用して、樹脂層の表面又は裏面に、ベースフィルム、着色層及び接着層からなる転写箔をインモールド転写により一体成形することにより、樹脂層の表面又は裏面に図柄を転写絵付けした車両内装用樹脂製疑似木目パネルが開示されている。なお、この疑似木目パネルにおいて、前記ベースフィルムは、インモールド成形加工後に取り除かれる。
【0004】
一方、特許文献4には、成形型のキャビティ面に凹凸の模様を形成し、そのキャビティ面に対して傾斜方向ないし水平方向から塗料を吹き付けて塗膜を形成し、次いでキャビティ内に前記塗料と異なる色の樹脂材料を導入して成形した塗膜を一体に備えた成形品が開示されている。また、特許文献5には、インモールド転写法によって成形と同時に印刷を施された面と同一面に微細な凹凸模様を賦形するようになした遊技機用合成樹脂製部品が開示されている。ちなみに、特許文献6,7には、上述したような成形型のキャビティ面に凹凸の模様を形成する際に主に利用される成形用エッチング金型の製造方法が開示されている。
【特許文献1】国際公開第99/28116号パンフレット
【特許文献2】特開2001−18808号公報
【特許文献3】特開平9−240386号公報
【特許文献4】特開平9−277304号公報
【特許文献5】特開2003−111904号公報
【特許文献6】特開平11−245233号公報
【特許文献7】特開平11−245234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2の製造方法によって製造される木目調部材では、カラークリアー層に接する目止め剤の平面的な配置や該目止め剤を凹部に埋め込む深さによって、木目調に見えるようにしている。しかしながら、カラークリアー層に接する目止め剤の表面はいずれも、該カラークリアー層、中塗りクリアー層及び上塗りクリアー層と平行な面に沿うように平坦に形成されているうえ、上塗りクリアー層の表面が平坦であるため、それらのクリアー層を通して観察される木目調では十分な立体感を感じさせることができなかった。さらに、これらの木目調部材では、目止め剤の表面に厚いクリアー層が形成されているため、光沢感を際だって強く感じさせるものになってしまい、天然の木材の風合いを相対的に減弱させてしまっていた。また、特許文献3の製造方法によって製造される疑似木目パネルについても同様に、立体感を十分に感じさせるものではなかった。
【0006】
本発明らは、近年高まりつつある天然の木材の風合いを求めるニーズに対応すべく、鋭意研究を行った。その結果、上述したような従来技術とは異なる製造方法により、天然の木材の風合いを有する立体加飾品を製造することに成功した。そして、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の目的とするところは、天然の木材の風合いを有する意匠性の高い立体加飾品を容易に製造することが可能な立体加飾品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、木材の風合いを有する意匠面を備える立体加飾品を製造する方法であって、該方法は、前記木材の表面を平面的に象った杢目柄をフィルムに印刷する印刷工程と、該印刷工程で印刷された前記フィルムを金型内にインサートしてインモールド成形する成形工程とを備え、該成形工程では、前記木材の表面を立体的に象った凹凸形状と相補的な凹凸面を有する前記金型が用いられ、かつ前記杢目柄を前記凹凸面に対応させるようにして、前記フィルムを前記金型内にインサートすることを要旨とする。
【0009】
この方法によれば、成形工程では、木材の表面を平面的に象った杢目柄を、該木材の表面を立体的に象った凹凸形状と相補的な凹凸面に対応させるようにして、フィルムを金型内にインサートした状態でインモールド成形が行われる。このため、製造される立体加飾品の意匠面は、木材の表面を立体的に象った凹凸形状を備えるものとなるため、視覚的及び触覚的に天然の木材の風合いを有するものとなる。さらに、製造される立体加飾品の意匠面では、フィルムの杢目柄が該意匠面の凹凸形状に対応するように配置されるため、視覚的な立体感がより一層高められ、天然の木材の風合いを強く感じさせるものとなる。よって、この方法によれば、視覚的及び触覚的に天然の木材の風合いを強く感じさせることが可能な意匠性の高い立体加飾品を容易に製造することができる。
【0010】
請求項2に記載の立体加飾品の製造方法は、請求項1に記載の発明において、前記凹凸面は、30〜200μmの最大深さを有することを要旨とする。
この方法によれば、製造される立体加飾品の意匠面は、30μm以上の最大高さを有する凹凸形状を備えるようになるため、視覚的及び触覚的に高い立体感を与えるものとなる。さらに、製造される立体加飾品の意匠面の最大高さが200μm以下であるため、フィルムを金型の凹凸面に沿う形状に形成させることを容易にする。
【0011】
請求項3に記載の立体加飾品の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記杢目柄は、前記木材の年輪を平面的に象った複数の年輪線を備え、前記凹凸面は、前記木材の年輪を立体的に象った複数の金型長溝部及び金型尾根部を備え、前記成形工程では、前記各年輪線を前記金型長溝部及び前記金型尾根部に沿って配置させるようにして、前記フィルムを前記金型内にインサートすることを要旨とする。
【0012】
この方法によれば、製造される立体加飾品の意匠面は、尾根状及び長溝状をなす凹凸形状に沿って延びる年輪線を備えたものとなるため、該年輪線が前記凹凸形状によって際立って見えるようになる。よって、視覚的な立体感がより一層高められ、天然の木材の風合いを強く感じさせる意匠面が形成される。
【0013】
請求項4に記載の立体加飾品の製造方法は、請求項3に記載の発明において、前記杢目柄は、前記木材の導管部を平面的に象った複数の導管線を備え、該各導管線は、隣接する前記年輪線の間で該年輪線に沿って延びるように配置され、前記凹凸面は、前記木材の導管部を立体的に象った複数の金型凹凸を備え、前記成形工程では、前記各導管線を前記金型凹凸に対応させるようにして、前記フィルムを前記金型内にインサートすることを要旨とする。
【0014】
この方法によれば、製造される立体加飾品の意匠面は、木材の年輪を立体的に象った凹凸形状に加えて、該木材の導管部を立体的に象った微小な凹凸形状を備えたものとなる。前記微小な凹凸形状は、立体加飾品の意匠面に、ざらついた木材のような触感を付与するなるため、天然の木材により近い触感を与えることものとなる。さらに、製造される立体加飾品の意匠面は、前記微小な凹凸形状に対応するように配置された導管線を備えるため、該導管線が際立って見えるようになり、視覚的な立体感がより一層高められたものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、天然の木材の風合いを有する意匠性の高い立体加飾品を容易に製造することが可能な立体加飾品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の立体加飾品の製造方法を具体化した実施形態を詳細に説明する。
まず、本実施形態の製造方法で製造される立体加飾品について説明する。
図1(a)〜(c)及び図2(a)〜(c)に示すように、本実施形態の第一の立体加飾品11aは、樹脂製の基材12と、該基材12の表面を覆う第一のフィルム13aとを備えている。一方、図3(a)〜(c)に示すように、本実施形態の第二の立体加飾品11bは、前記第一の立体加飾品11aにおいて、図1(a)に示す第一のフィルム13aを図3(a)に示す第二のフィルム13bに変更したものである。即ち、第二の立体加飾品11bは、樹脂製の基材12と、該基材12の表面を覆う第二のフィルム13bとを備えている。
【0017】
これら第一及び第二の立体加飾品11a,11bはいずれも、例えば、インストルメントパネルの本体、グラブボックスのドア、コンソールボックスの蓋部、ステアリングホイールのリム部、アームレストの上面のような自動車の内装材に用いられる。これらの立体加飾品11a,11bでは、立体的な杢目模様に加飾されたフィルム13a,13b側の面(以下、立体加飾品11a,11bの意匠面と記載する)が乗員の視覚に触れる意匠面として機能するように、自動車の車室内に配置される。
【0018】
次に、第一の立体加飾品11aについて説明する。
図1(a)に示すように、第一の立体加飾品11aの意匠面は、複数の節部16を取り巻くように配置された多数の木目17を備えた立体的な杢目模様に加飾されている。立体加飾品11aの意匠面において、節部16を除いた部分は、一般部18となっている。節部16は木材の節を象ったものであり、木目17は木材の正目や板目等を象ったものである。木目17は、各節部16の周縁部では、該節部16を中心にして渦を巻くようなバーズアイ模様を形成し、節部16から離間した位置では、正目や板目のような木目模様を形成している。即ち、本実施形態において、杢目模様は、バーズアイ模様と、木目模様とによって構成されている。ちなみに、一般部18には、木材の夏目や冬目に相当する夏目部や冬目部が存在している。
【0019】
杢目模様は、図1(b)に示すように、第一の立体加飾品11aの意匠面に立体的に形成された凹凸形状により構成されるとともに、図2(a)に示すように、第一のフィルム13aに平面的に印刷された第一の杢目柄21aにより構成されている。図1(b)に示すように、凹凸形状は、基材12の表面に立体的に形成された凹凸22に沿って、第一のフィルム13aを密着させるように配置することにより形成されている。
【0020】
凹凸22は、木材の表面を立体的に象った形状に形成されている。ここで、木材の表面を立体的に象るとは、角材のような木材を長期間風雨に晒した場合に形成される立体構造を3次元的に転写することを意味し、例えば、木材の節や年輪が盛り上がったり、導管に相当する部位が凹んだりするような3次元的な形状を転写することが挙げられる。なお、木材の表面を立体的に象る場合には、必要に応じて、節や年輪等の立体構造をデフォルメした形状を転写することも可能である。本実施形態において、凹凸22は、尾根状をなす多数の尾根部26と、長溝状をなす多数の長溝部27とを備えている。さらに、図1(c)に模式的に示すように、凹凸22は、隣接する尾根部26と長溝部27との間に、微小な凹部及び微小な凸部から選ばれる少なくとも一方よりなる多数の微小凹凸28を備えている。
【0021】
各微小凹凸28は、基材12の表面側から見た場合に、長四角形状や楕円形状のような短い線状に形成されているうえ、隣接する尾根部26と長溝部27との中間部において、該尾根部26又は長溝部27に沿って延びるように形成されている。各微小凹凸28の長手方向の長さは、幅方向の長さ(幅)よりも長く、好ましくは、より天然の木材に存在する導管部の形状に近づけるために、幅方向の長さの1〜10倍に形成されている。これに対し、尾根部26及び長溝部27はいずれも、微小凹凸28の長手方向の長さよりも長い距離に亘って連続して延びる線状に形成されている。
【0022】
本実施形態において、凹凸22の最大高さHmは30〜200μmに形成されている。なお、図1(c)に示されている凹凸22の最大高さHmは、節部16の上端と、一般部18の下端との間の高さの差である200μmとなっている。ちなみに、図1(c)において、バーズアイ模様を形成する節部16の高さ(上端と下端との間の高さの差)Hbは10〜30μm、一般部18のうちで比較的平坦な部位の高さHiは20〜100μm、一般部18のうちで冬目部に相当する部位の高さHfは15〜40μmに形成されている。また、微小凹凸28の高さは、天然の木材に存在する導管部の立体形状に近づけるために、20〜100μmであることが好ましい。
【0023】
図2(a)に示すように、第一のフィルム13aの表面には、多数の年輪線31を備えた第一の杢目柄21aが印刷されている。年輪線31は、木材の年輪を平面的に象った曲線よりなる。ここで、木材の年輪を平面的に象るとは、角材のような木材の表面の平面構造を2次元的に転写することを意味し、例えば、角材の表面を写真撮影した場合に得られるような2次元的な形状を転写することが挙げられる。なお、木材の年輪を平面的に象る場合には、必要に応じて、年輪の平面構造をデフォルメした形状を転写することも可能である。但し、第一の杢目柄21aは、基材12の凹凸22と同じ木材の表面を印刷した柄である。
【0024】
図2(b)、(c)に示すように、第一のフィルム13aは、第一の杢目柄21aを凹凸22に対応させるようにして、基材12の表面に沿って立体的に配置されている。その結果、第一のフィルム13aに印刷された第一の杢目柄21aは、各年輪線31を基材12の尾根部26及び長溝部27に対してそれぞれ上下に一致させるようにして配置されている。
【0025】
次に、第二の立体加飾品11bについて、第一の立体加飾品11aと異なる点を中心に説明する。
図3(b)、(c)に示すように、第二の立体加飾品11bの意匠面には、第一の立体加飾品11aの杢目模様に加えて、さらに木材の導管部を立体的に象った模様が加飾されている。導管部は、木材の表面に露出する木の導管の一部であり、特にラワン材に特徴的に見られる線状の構造物である。この第二の立体加飾品11bの杢目模様は、第二の立体加飾品11bの意匠面に立体的に形成された凹凸形状により構成されるとともに、第二のフィルム13bに平面的に印刷された第二の杢目柄21bにより構成されている。凹凸形状は、基材12の表面に立体的に形成された上記凹凸22に沿って、第二のフィルム13bを密着させるように配置することにより形成されている。
【0026】
図3(a)に示すように、第二のフィルム13bの表面には、多数の年輪線31と、隣接する年輪線31の中間部において、該年輪線31に沿って延びるように配置された多数の導管線32とを備えた第二の杢目柄21bが印刷されている。導管線32は、上記導管部を平面的に象った線状の構造物よりなり、具体的には上記微小凹凸28を平面的に象った線状の構造物よりなる。よって、各導管線32の長手方向の長さは、幅方向の長さ(幅)よりも長く、好ましくは幅方向の長さの1〜10倍に形成されている。
【0027】
図3(b)、(c)に示すように、第二のフィルム13bは、第二の杢目柄21bを凹凸22に対応させるようにして、基材12の表面に沿って立体的に配置されている。その結果、第二のフィルム13bに印刷された第二の杢目柄21bは、各年輪線31を基材12の尾根部26及び長溝部27に対してそれぞれ上下に一致させるとともに、各導管線32を基材12の微小凹凸28に対してそれぞれ上下に一致させるようにして配置されている。
【0028】
次に、第一の立体加飾品11aの製造方法について説明する。なお、第二の立体加飾品11bは、第一の立体加飾品11aと同様に製造される。
第一の立体加飾品11aの製造方法は、木材の表面を平面的に象った第一の杢目柄21aを第一のフィルム13aに印刷する印刷工程と、該印刷工程で印刷されたフィルム13aを図4(a)〜(d)に示す金型41内にインサートしてインモールド成形する成形工程とを備えている。図4(a)に示すように、印刷工程では、キャリアフィルム36に積層された状態の第一のフィルム13aの表面に杢目柄21aが印刷される。なお、第一のフィルム13aは、キャリアフィルム36に対して剥離可能に接着されている。
【0029】
成形工程では、図4(a)〜(d)に示すインモールド成形用の金型41が用いられる。金型41は、固定金型42と、キャリアフィルム36をパーティングライン面(PL面)に狭持した状態で固定金型42に対して型締めされる移動金型43とを備えている。固定金型42と移動金型43との間には、溶融樹脂を射出するためのキャビティが形成される。キャビティ内には、第一のフィルム13aと、該フィルム13aに積層されたキャリアフィルム36とがインサートされる。固定金型42は、基材12の裏面を形成するとともに、溶融樹脂を射出するための射出ゲート44を備えている。
【0030】
移動金型43は、立体加飾品11aの意匠面を成形するための凹凸面45をキャビティ面に備えるとともに、キャビティ内にインサートされたキャリアフィルム36を真空吸引により凹凸面45に密着させるための真空吸引装置(図示略)を備えている。図5(a)〜(c)に示すように、移動金型43の凹凸面45は、立体加飾品11aの意匠面を形成する凹凸形状と相補的な立体形状に形成されている。凹凸面45は、例えば特許文献6又は特許文献7に開示されているような方法を用いて製造される。即ち、酸等を含むエッチング液に対して腐蝕性を有さないレジスト樹脂を杢目柄21aに対応させるように移動金型43の表面(キャビティ面)に付着させた状態で、前記エッチング液で該移動金型43の表面にエッチング処理を施すことにより、該移動金型43の表面に凹凸面45を形成させる。
【0031】
なお、前記エッチング処理は、複数回繰り返し行うことも可能である。ちなみに、図5(a)はエッチング処理を1回施した凹凸面45を示し、該凹凸面45の最大深さD1は45μmである。図5(b)は、エッチング処理を2回施した凹凸面45を示し、該凹凸面45の最大深さD2は60μmである。図5(c)は、エッチング処理を3回施した凹凸面45を示し、該凹凸面45の最大深さD3は100μmである。ちなみに、図5(a)〜(c)に示す点線は、1回のエッチング処理で腐蝕可能な深さを示している。図5(a)〜(c)に示す各凹凸面45には、図2(b)、(c)及び図3(b)、(c)に示す基材12の尾根部26に対応する位置に金型長溝部46が長溝状に形成され、長溝部27に対応する位置に金型尾根部47が尾根状に形成され、微小凹凸28に対応する位置に金型凹凸48が形成されている。
【0032】
さて、成形工程は、上述したようにして製造された凹凸面45を有する移動金型43と、上記固定金型42とを備えたインモールド成形装置を用いて行われる。図4(a)に示すように、まず、金型41を型開きした状態で、キャリアフィルム36を固定金型42と移動金型43との間に配置する。続いて、第一のフィルム13aの杢目柄21aを、移動金型43の凹凸面45の立体形状に対応させるように、レーザーマーキングライトにて微細な位置合わせを行った後、真空吸引装置にてキャリアフィルム36を吸引し、図4(b)に示すように凹凸面45に沿ってキャリアフィルム36及び第一のフィルム13aを密着させる。このとき、図5(d)に示すように、フィルム13aの各年輪線31は、金型長溝部46及び金型尾根部47に対応するように位置合わせされる。ちなみに、第二の立体加飾品11bを製造する場合、フィルム13aの各年輪線31は、金型長溝部46及び金型尾根部47に対応するように位置合わせされるとともに、同フィルム13aの各導管線32は、金型凹凸48に対応するように位置合わせされる。
【0033】
次に、図4(c)に示すように、キャリアフィルム36をPL面に狭持させながら、金型41を型締めした後、射出ゲート44を通してキャビティ内に溶融樹脂を射出することにより基材12を成形する。最後に、キャビティ内を冷却して樹脂を硬化させた後、図4(d)に示すように金型41を型開きして立体加飾品11aを離型させる。このとき、第一のフィルム13aは基材12の表面に固定されているため、立体加飾品11aを固定金型42から離型させる際に、該第一のフィルム13aとキャリアフィルム36とは容易に剥離する。
【0034】
次に、上記第一及び第二の立体加飾品11a,11bの作用について説明する。
さて、第一の立体加飾品11aは、意匠面に30〜200μmの最大高さHmを有する凹凸形状を備えているため、実際に立体的な構造を有している。その結果、視覚的及び触覚的な立体感を与える。さらに、立体加飾品11aの意匠面には、印刷された杢目柄21aが凹凸22に対応するように配置されているため、視覚的な立体感がより一層高められている。よって、この立体加飾品11aは、視覚的及び触覚的に天然の木材の風合いを感じさせる。さらに、第一の立体加飾品11aの意匠面には、凹凸22の尾根部26及び長溝部27に沿って年輪線31が配置されている。このため、年輪線31が凹凸22によって際立って見えるようになるため、立体加飾品11aの意匠面では、視覚的な立体感がより一層高められている。
【0035】
一方、第二の立体加飾品11bの意匠面は、上述した第一の立体加飾品11aと同様に、視覚的及び触覚的に天然の木材の風合いを感じさせるとともに、年輪線31に沿って延びる多数の導管線32を備えているため、ラワン目調となり、天然のラワン材の風合いを視覚的に感じさせる。さらに、この立体加飾品11bの基材12の表面は、木材の年輪を立体的に象った形状に加えて、木材の導管部を立体的に象った多数の微小凹凸28を備えている。微小凹凸28は、フィルム13bを介して立体加飾品11bの意匠面にざらついた木材のような触感を付与する。さらに、導管線32は、微小凹凸28に対応するように配置されているため、立体加飾品11bの意匠面では、導管線32が際立って見えるようになり、視覚的な立体感がより一層高められている。よって、視覚的及び触覚的に天然の木材により近い風合いを感じさせる。
【0036】
なお、上述した第一の立体加飾品11aの製造方法では、第一のフィルム13aの杢目柄21aを、移動金型43の凹凸面45の立体形状に対応させるように、レーザーマーキングライトにて微細な位置合わせが行われるようになっている。このため、図6(a)、(b)に示すように、フィルム13aの各年輪線31は、基材12の尾根部26及び長溝部27に沿って配置され、各年輪線31が凹凸22によって際立って見えるようになっている。一方、図7(a)、(b)に模式的に示すように、レーザーマーキングライトによる微細な位置合わせが僅かにずれてしまった場合でも、フィルム13aが基材12の凹凸22に沿って引き伸ばされる際に、該フィルム13aの局所的な伸び率の差に補われる形で、尾根部26及び長溝部27において各年輪線31が際立って見えるようになる。
【0037】
即ち、尾根部26及び長溝部27に沿って配置されるフィルム13aはいずれも局所的に小さな伸び率を示し、逆に尾根部26と長溝部27との中間に配置されるフィルム13aは、基材12の凹凸22における高さ方向の傾斜角度に比例して局所的に大きな伸び率を示すようになる。このため、図7(b)に示すように、尾根部26と長溝部27との中間に年輪線31が配置されると、該年輪線31はフィルム13aの伸び率に応じて細く不鮮明なものとなる。これに対し、尾根部26及び長溝部27付近に年輪線31が配置されると、該年輪線31は変形前のフィルム13a上に印刷されていたときの太さをほぼそのまま維持し、鮮明なままである。その結果、尾根部26及び長溝部27に沿って配置される年輪線31は際立って見え、尾根部26と長溝部27との中間に配置される年輪線31はあまり際立って見えないようになる。
【0038】
よって、図7(a)、(b)に模式的に示すような場合でも、立体加飾品11aの意匠面における視覚的な立体感を十分に発揮することが可能となる。このように視覚的な立体感を十分に発揮することが可能なずれ幅dの範囲は、本実施形態においては0.1〜2.0mmである。また、第二の立体加飾品11bの意匠面に設けられる導管線32についても同様に、微小凹凸28に沿って配置されるフィルム13aは、該微小凹凸28の周辺、即ち尾根部26と長溝部27との中間に配置されるフィルム13aよりも局所的な伸び率が小さくなる傾向がある。なお、第一及び第二のフィルム13a,13bの杢目柄21a,21bは、予め図7(a)、(b)に示されるようなフィルム13a,13bの伸び率を予測した上で、適切な意匠面を形成し得るように印刷されていることが好ましい。
【0039】
さて、本発明者らは、実際に、上述した製造方法を用いて、下記表1に示すように凹凸22の最大高さHmがそれぞれ異なる複数の第一の立体加飾品11aを製造し、触感についての官能評価を試みた。各立体加飾品11aの意匠面は、最大高さHmの相違に比例するように、高さ方向にほぼ相似となる凹凸形状に形成されている。製造された各立体加飾品11aの意匠面における触感について、5名のパネラーによる官能評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0040】
【表1】

その結果、最大高さHmが30μm以上(表1では、30〜140μmの範囲内)であれば、十分な触感を与え得ることが判明した。
【0041】
次に、本発明者らは、図2(b)及び図2(c)に示す第一の立体加飾品11a、並びに、図3(b)及び図3(c)に示す第二の立体加飾品11bをそれぞれ製造した。製造された4種類の立体加飾品11a,11bの意匠面における触感、凹凸感及び光沢感について、官能評価を行った。
【0042】
その結果、微小凹凸28を設けることにより、触感が飛躍的に向上することが判明し、さらに各微小凹凸28と導管線32とを対応させることにより、視覚的な立体感が飛躍的に向上することが判明した。また、これらの立体加飾品11a,11bでは、光沢感を際立って強く感じさせることもないため、天然の木材の風合いをより強く感じさせることが可能になっている。
【0043】
上記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 本実施形態の第一の立体加飾品11aの製造方法における成形工程では、木材の表面を平面的に象った杢目柄21aを、該木材の表面を立体的に象った凹凸形状と相補的な凹凸面45に対応させるようにして、フィルム13aを金型41内にインサートした状態でインモールド成形が行われる。このため、製造される立体加飾品11aの意匠面は、木材の表面を立体的に象った凹凸形状を備えるものとなるため、視覚的及び触覚的に天然の木材の風合いを有するものとなる。さらに、製造される立体加飾品11aの意匠面では、フィルム13aの杢目柄21aが該意匠面の凹凸形状に対応するように配置されるため、視覚的な立体感がより一層高められ、天然の木材の風合いを強く感じさせるものとなる。よって、この方法によれば、視覚的及び触覚的に天然の木材の風合いを強く感じさせることが可能な意匠性の高い立体加飾品11aを容易に製造することができる。
【0044】
(2) 本実施形態の第一の立体加飾品11aの製造方法で製造される立体加飾品11aの意匠面は、30μm以上の最大高さHmを有する凹凸形状を備えるようになるため、視覚的及び触覚的に高い立体感を与えるものとなる。さらに、製造される立体加飾品11aの意匠面の最大高さHmが200μm以下であるため、フィルム13aを金型41の凹凸面45に沿う形状に形成させることを容易にする。
【0045】
(3) 本実施形態の第二の立体加飾品11bの製造方法によれば、前記(1)及び(2)と同様に、視覚的及び触覚的に天然の木材の風合いを強く感じさせることが可能な意匠性の高い立体加飾品11bを容易に製造することができる。さらに、この製造方法で製造される第二の立体加飾品11bの意匠面は、尾根状及び長溝状をなす凹凸形状に沿って延びる年輪線31を備えたものとなるため、該年輪線31が前記凹凸形状によって際立って見えるようになる。よって、視覚的な立体感がより一層高められ、天然の木材の風合いを強く感じさせる意匠面が形成される。
【0046】
(4) 本実施形態の第二の立体加飾品11bの製造方法によれば、製造される立体加飾品11bの意匠面は、木材の年輪を立体的に象った凹凸形状に加えて、該木材の導管部を立体的に象った微小な凹凸形状を備えたものとなる。前記微小な凹凸形状は、立体加飾品11bの意匠面に、ざらついた木材のような触感を付与するなるため、天然の木材により近い触感を与えることものとなる。さらに、製造される立体加飾品11bの意匠面は、前記微小な凹凸形状に対応するように配置された導管線32を備えるため、ラワン目調となり、天然のラワン材の風合いを視覚的に感じさせるものとなる。特に、ラワン材は、代表的な木材としてなじみの深いものであるうえ、金属や樹脂等との比較において、導管を中心として視覚的に木材独特の特徴を有しているため、天然の木材の風合いを感じさせるのに適している。
【0047】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 杢目柄21a,21bは、フィルム13a,13bの裏面に印刷されていてもよい。また、フィルム13a,13bを多層構造に形成し、杢目柄21a,21bをフィルム13a,13bの表面及び裏面に露出しない位置に印刷してもよい。
【0048】
・ 第二の立体加飾品11bの製造方法において、移動金型43の凹凸面45に金型凹凸48を形成しなくてもよい。この場合、第二の立体加飾品11bの基材12には微小凹凸28が形成されなくなるが、第二のフィルム13bには導管線32が印刷されているため、該立体加飾品11bの意匠面はラワン目調に加飾される。
【0049】
・ 第一の立体加飾品11aの製造方法において、移動金型43の凹凸面45に金型凹凸48を形成しなくてもよい。この場合、第一の立体加飾品11aの基材12には微小凹凸28が形成されなくなるが、該立体加飾品11aの意匠面は、基材12の凹凸22に対応する位置に年輪線31を備えているため、天然の木材の風合いを有するものとなる。
【0050】
・ 年輪線31は、基材12の凹凸22の尾根部26のみに沿って配置されていてもよい。逆に、年輪線31は、基材12の凹凸22の長溝部27のみに沿って配置されていてもよい。
【0051】
さらに、上記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記意匠面はラワン目調に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の立体加飾品の製造方法。
【0052】
・ 前記立体加飾品は自動車の内装部品に用いられるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の立体加飾品の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】(a)は第一の立体加飾品を示す平面図、(b)は図1(a)の1b−1b線に沿った断面図、(c)は図1(a)の1c−1c線に沿った断面図。
【図2】(a)は第一のフィルムの一部を拡大した平面図、(b)及び(c)はいずれも、第一の立体加飾品の一部を拡大した斜視図。
【図3】(a)は第二のフィルムの一部を拡大した平面図、(b)及び(c)はいずれも、第二の立体加飾品の一部を拡大した斜視図。
【図4】(a)〜(d)は第一の立体加飾品の製造方法における成形工程を順を追って示す断面図。
【図5】(a)〜(c)はいずれもインモールド成形用の金型を構成する移動金型の一部を拡大した断面図、(d)は移動金型の凹凸面に沿って第一のフィルムを真空吸引したときの様子を模式的に示す断面図。
【図6】(a)及び(b)は、フィルムの年輪線と、基材の尾根部及び長溝部とが上下に一致して配置される際の様子を模式的に示す斜視図。
【図7】(a)及び(b)は、フィルムの年輪線と、基材の尾根部及び長溝部とが上下に僅かにずれて配置される際の様子を模式的に示す斜視図。
【符号の説明】
【0054】
11a,11b…立体加飾品、13a,13b…フィルム、21a,21b…杢目柄、31…年輪線、32…導管線、41…金型、45…凹凸面、46…金型長溝部、47…金型尾根部、48…金型凹凸、D1,D2,D3…最大深さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材の風合いを有する意匠面を備える立体加飾品を製造する方法であって、
該方法は、前記木材の表面を平面的に象った杢目柄をフィルムに印刷する印刷工程と、該印刷工程で印刷された前記フィルムを金型内にインサートしてインモールド成形する成形工程とを備え、
該成形工程では、前記木材の表面を立体的に象った凹凸形状と相補的な凹凸面を有する前記金型が用いられ、かつ前記杢目柄を前記凹凸面に対応させるようにして、前記フィルムを前記金型内にインサートすることを特徴とする立体加飾品の製造方法。
【請求項2】
前記凹凸面は、30〜200μmの最大深さを有することを特徴とする請求項1に記載の立体加飾品の製造方法。
【請求項3】
前記杢目柄は、前記木材の年輪を平面的に象った複数の年輪線を備え、
前記凹凸面は、前記木材の年輪を立体的に象った複数の金型長溝部及び金型尾根部を備え、
前記成形工程では、前記各年輪線を前記金型長溝部及び前記金型尾根部に沿って配置させるようにして、前記フィルムを前記金型内にインサートすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の立体加飾品の製造方法。
【請求項4】
前記杢目柄は、前記木材の導管部を平面的に象った複数の導管線を備え、該各導管線は、隣接する前記年輪線の間で該年輪線に沿って延びるように配置され、
前記凹凸面は、前記木材の導管部を立体的に象った複数の金型凹凸を備え、
前記成形工程では、前記各導管線を前記金型凹凸に対応させるようにして、前記フィルムを前記金型内にインサートすることを特徴とする請求項3に記載の立体加飾品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−50645(P2007−50645A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238468(P2005−238468)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(398017404)株式会社ワールドエッチング (3)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】