説明

立体映像表示装置、立体映像表示装置の制御方法及び立体映像表示システム

【課題】複雑な制御を行うことなくクロストークを効率よく抑制することができる立体映像表示装置、立体映像表示装置の制御方法及び立体映像表示システムを提供する。
【解決手段】入力映像の動き量を示す差分データを検出し(ステップS1)、この差分データがしきい値に対して小の場合に(ステップS2:YES)、差分データが大の場合よりもシャッターの開時間を短く設定すると共に表示光量を増大させるようにした(ステップS3,S4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の右目用画像と左目用画像で構成される立体映像を入力し、右目用画像と左目用画像とを表示する立体映像表示装置、立体映像表示装置の制御方法及び立体映像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
投射型表示装置(プロジェクターとも称する)には、立体映像を表示することを目的として、一対の右目用画像と左目用画像で構成される立体映像(3D映像とも称する)のデータを入力し、このデータに基づいて右目用画像と左目用画像とを交互に表示する時分割方式が知られている。この時分割方式では、左右の目に対応して設けられる一対のシャッターを備えるメガネ(シャッター装置)を観察者が装着し、視差のある右目用画像及び左目用画像を観察者の左右の目にそれぞれ分離して入射させることによって、立体映像を見せることができる。
この種の立体映像表示装置には、間欠点灯によって右目または左目用の画像の書き換え中に他方の画像の一部が見えてしまうクロストークを抑制するものがある(例えば、特許文献1参照)。また、シャッターの開閉を映像走査位置に同期させることによって、上記クロストークを抑制するものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−49049号公報
【特許文献2】特開2009−31524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、間欠点灯だけではクロストークを十分に抑制できない場合がある。また、シャッターの開閉を映像走査位置に同期させる構成は、映像走査に同期した制御を行う必要があり、制御が煩雑になってしまう。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、複雑な制御を行うことなくクロストークを効率よく抑制することができる立体映像表示装置、立体映像表示装置の制御方法及び立体映像表示システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、一対の右目用画像と左目用画像で構成される立体映像を入力し、表示部にて右目用画像と左目用画像とを表示する立体映像表示装置であって、入力映像の動き量を検出する動き量検出手段と、右目に前記右目用画像、左目に前記左目用画像を見せるように制御されるシャッターの開く時間を、前記動き量が予め定めた値に対して小の場合に、前記動き量が大の場合よりも短く設定する時間設定手段と、前記動き量が小の場合に、前記動き量が大の場合よりも前記表示部の光量を増大させる表示制御手段とを備えることを特徴とする。
この構成によれば、入力映像の動き量を検出し、動き量が予め定めた値に対して小の場合に、前記動き量が大の場合よりもシャッターの開く時間を短く設定し、かつ、表示部の光量を増大させるので、複雑な制御を行うことなくクロストークを効率よく抑制することができ、かつ、適切な明るさを維持することができる。
【0006】
上記構成において、前記動き量検出手段は、前記立体画像のフレーム間の差分に基づいて前記動き量を算出するようにしてもよい。この構成によれば、既存のフレーム伝送フォーマットで伝送される立体映像から動き量を得ることができる。
この場合、前記動き量検出手段は、前記右目用画像のフレーム間の差分、または、前記左目用画像のフレーム間の差分に基づいて前記動き量を算出するようにしてもよい。この構成によれば、左目用画像と右目用画像との間にある視差の影響を回避した動き量を得ることができる。
【0007】
また、上記構成において、前記時間設定手段は、前記動き量が小の場合に、前記動き量が大の場合よりも前記シャッターが開く開始タイミングを遅延させるようにしてもよい。この構成によれば、表示部の応答遅れによる画像更新中にシャッターが開いてしまう場合を簡易に回避できる。
また、上記構成において、前記表示制御手段は、同フレーム内の前記右目用画像と前記左目用画像とを各々連続表示させ、前記時間設定手段は、前記右目用画像と前記左目用画像とで前記シャッターの開く期間を、連続表示する際の最終回の表示期間内に設定するようにしてもよい。この構成によれば、同じ画像で上書きした画像を観察者に見せることができ、これによっても、クロストークを抑制することができる。
【0008】
また、本発明は、一対の右目用画像と左目用画像で構成される立体映像を入力し、表示部にて右目用画像と左目用画像とを表示する立体映像表示装置の制御方法であって、入力映像の動き量を検出するステップと、前記動き量が予め定めた値に対して小の場合に、右目に前記右目用画像、左目に前記左目用画像を見せるように制御されるシャッターの開く時間を、前記動き量が大の場合よりも短く設定すると共に、前記動き量が大の場合よりも前記表示部の光量を増大させるステップとを実行することを特徴とする。
この構成によれば、入力映像の動き量を検出し、動き量が予め定めた値に対して小の場合に、前記動き量が大の場合よりもシャッターの開く時間を短く設定すると共に表示部の光量を増大させるので、複雑な制御を行うことなくクロストークを効率よく抑制することができ、かつ、適切な明るさを維持することができる。
【0009】
また、本発明は、立体映像表示システムにおいて、一対の右目用画像と左目用画像で構成される立体映像を入力し、表示部にて右目用画像と左目用画像とを表示する立体映像表示装置と、右目に前記右目用画像、左目に前記左目用画像を見せるように制御されるシャッターを備えるシャッター装置とを備え、前記立体映像表示装置は、入力映像の動き量を検出する動き量検出手段と、前記シャッター装置に対し、前記シャッターの開く時間を、前記動き量が予め定めた値に対して小の場合に、前記動き量が大の場合よりも短く設定する時間設定手段と、前記動き量が小の場合に、前記動き量が大の場合よりも前記表示部の光量を増大させる表示制御手段とを有することを特徴とする。
この構成によれば、複雑な制御を行うことなくクロストークを効率よく抑制することができ、かつ、適切な明るさを維持することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複雑な制御を行うことなくクロストークを効率よく抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る立体映像表示システムを示す図である。
【図2】立体映像表示装置の駆動を示すタイミングチャートである。
【図3】クロストーク抑制処理の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る立体映像表示システムを示す図である。
この立体映像表示システム100は、立体映像に対応する一対の右目用画像と左目用画像とを交互に表示する立体映像表示装置10と、表示画像を見る観察者に装着されるメガネ式シャッター装置(以下、シャッターメガネと言う)50とを備えている。
この立体映像表示装置10は、画像を表す画像光を投射して投射面となるスクリーンSCに画像を表示させるプロジェクターであり、照明光を出射する照明光学系11と、照明光を変調する変調部として機能する液晶パネル(液晶ライトバルブとも言う)12と、変調された光を集光及び拡散してスクリーンSCに投射する投射光学系13とを備えている。
【0013】
スクリーンSCに投射する立体映像は、視差のある一対の右目用画像のフレームと左目用画像のフレームとで構成される。立体映像表示装置10は、右目用画像のフレームと左目用画像のフレームとを交互にスクリーンSCに投射する時分割方式で立体画像をスクリーンSCに投射する。この投射画像を見る人(観察者)は、シャッターメガネ50を装着し、シャッターメガネ50に左右の目に対応して設けられている一対のシャッターが、立体映像表示装置10からのシャッター制御信号SHによって開閉制御されることによって、右目には右目用画像だけが見え、左目には左目用画像だけが見える。
このため、立体映像表示装置10が右目用画像と左目用画像とを十分に速い速度で切り換えることによって、上記シャッターメガネ50を装着した人は、右目と左目のそれぞれで視差のある右目用画像と左目用画像とを滑らかな映像で見ることができ、立体映像として見ることができる。
【0014】
照明光学系11は、光源装置11Aと、光源装置11Aを駆動する光源駆動部11Bとを備え、光源装置11Aは、キセノンランプ、超高圧水銀ランプまたはLED(Light Emitting Diode)などの光源を有し、この光源の点灯/消灯/光量が光源駆動部11Bによって駆動制御される。
なお、この光源装置11Aは、投射光の光学特性を高めるためのレンズ群、偏光板、或いは光源が発した光の光量を液晶パネル12に至る経路上で低減させる調光機構(可変絞り機構)などを備えたものであってもよい。
液晶パネル12は、RGBの各色に対応した3枚の透過型液晶パネルを備え、これら透過型液晶パネル上に、この表示装置10が表示する映像が描画される。なお、液晶パネル12は、3枚の透過型液晶パネルを備えた構成に限らず、例えば、1枚の透過型液晶パネルとカラーホイールを組み合わせた構成にすることもできる。また、変調部としては、3枚のデジタルミラーデバイスを用いた方式、又は1枚のデジタルミラーデバイスとカラーホイールを組み合わせた方式等を採用してもよい。
【0015】
投射光学系13は、液晶パネル12で変調されたRGB3色の変調光を合成するプリズム、プリズムで合成された投射画像をスクリーンSCに結像させるレンズ群などを備えている。なお、液晶パネル12が1枚の透過型液晶パネルで構成される場合、プリズムに相当する部材は不要である。
これらの光源装置11A、液晶パネル12、及び投射光学系13を含む画像の表示に係る各構成部は、全体として本発明の表示部(表示手段)に相当するが、特に液晶パネル12が表示部に相当する。但し、表示部の構成は液晶パネル12に限定されず、画像を表示することが可能であれば、その一部または全部を上記のような各種機能部によって代替できる。
【0016】
立体映像表示装置10には、当該装置10に記憶された映像ソース、または、パーソナルコンピューターや各種映像プレーヤーなどの外部の画像供給装置(図示略)から映像データが入力される。
立体映像表示装置10は、外部から映像データが入力される映像入力部15と、映像入力部15に入力された映像に対して各種の処理を行う映像処理部16、情報処理部17及びゲイン調整部18と、映像の各フレームのデータを一時記憶するフレームバッファー19と、表示画像を液晶パネル12に描画する液晶パネル駆動部20と、立体映像表示装置10全体を制御する制御部21と、ユーザーからの各種指示を入力する操作部22と、画像補正用の撮像部23及びセンサー部24と、シャッターメガネ50に対してシャッター制御信号SHを出力するシャッター制御部25とを備えている。なお、図1中、符号26は、フレームバッファー19と各部を接続する高速バスであり、符号27は、制御部21と各部を接続する低速バスである。
【0017】
映像入力部15には、所定のフレーム伝送フォーマットにて映像データが入力される。このデータのフォーマットは、例えば、HDMI規格に準拠したサイドバイサイド(Side−by−Side Half)方式、トップアンドボトム(Top−and−Bottom)方式、フレームパッキング(Frame Packing)方式などであり、解像度は、例えば720p、1080i、1080pである。立体映像表示装置10は、勿論他の映像フォーマットの映像データを処理し、表示することが可能である。
映像処理部16は、IP変換部31、解像度変換部32、映像合成部33、キーストーン補正部34及びフレームレート変換部35を備える。IP変換部31は、映像入力部15に入力された映像データのフォーマットをインターレース方式からプログレッシブ方式に変換する処理を実行し、解像度変換部32に出力する。なお、入力された映像データがプログレッシブ方式であった場合には変換を行わずに出力する。
【0018】
解像度変換部32は、IP変換部31にてプログレッシブ方式に変換された映像データに対し、サイズの拡大/縮小処理(つまり、解像度変換処理)を実行し、映像合成部33に出力する。
映像合成部33は、メニュー画像などのOSD(On Screen Display)画像と、解像度変換部32にて拡大/縮小処理された映像データとを合成し、フレームバッファー19に補正前映像データとして書き込む。
キーストーン補正部34は、補正前映像データに対し、スクリーンSCに対して立体映像表示装置10の投射軸を傾けた状態で投射した場合に生じる台形歪みを補正する歪み補正処理を実行する。この台形歪みの補正量は、撮像部23により撮像された投射画像の撮像画像や、センサー部24により検出された立体映像表示装置10の傾き、或いは、操作部22を介して入力されたユーザーの指示に基づいて設定される。
ここで、撮像部23は、スクリーンSCの投射画像を撮像可能に設けられたCCDカメラやCMOSカメラであり、センサー部24は、立体映像表示装置10の傾きを検出する加速度センサーである。また、操作部22は、複数の操作子を有する操作パネルと、不図示のリモートコントローラー(リモコン)から送信される信号(リモコン信号)を受信する信号受信部とを備え、これらを介してユーザーの指示を制御部21に通知する。
【0019】
フレームレート変換部35は、キーストーン補正部34を経由した映像データに対し、フレームレート変換処理を実行する。このフレームレート変換処理は、映像データのフレームレートを、より高いフレームレートまたは低いフレームレートに変換する処理である。また、このフレームレート処理により、映像処理部16は、入力映像がサイドバイサイド方式やトップボトム方式で1フレームに右目用画像と左目用画像とを含んでいる場合に、これらの画像を分離して各々一つのフレームとする処理を行う。
さらに、フレームレート変換部35は、立体映像の同フレーム内の右目用画像と左目用画像とをそれぞれ2回連続するように変換する処理(てい倍処理)を実行する。また、フレームレート変換部35は、2回連続するように変換された右目用画像と左目用画像との切り替わりのタイミングを示すタイミング信号である垂直同期信号f1をシャッター制御部25に出力する。
【0020】
映像処理部16から出力される映像データは、情報処理部17及びゲイン調整部18でゲイン調整等の所定処理が施された後に液晶パネル駆動部20に供給される。液晶パネル駆動部20は、映像データの各フレーム(右目用画像と左目用画像との各フレーム)を液晶パネル12に出力して液晶パネル12に描画させる。
情報処理部17は、液晶パネル12の動作速度を速めることを目的として過電圧駆動(つまり、オーバードライブ)を行うオーバードライブ部17Aと、後述する動き量の検出を行う動き量検出部(動き量検出手段)17Bとを備えている。オーバードライブ部17Aは、映像処理部16から出力される映像データで指定される階調(電圧)を1フレーム前のデータで指定される階調に応じて補正する、といった公知の構成を広く適用することができる。
この情報処理部17は、演算処理回路で構成されており、プログラムを実行することによって上記オーバードライブ部17A及び動き量検出部17Bとして機能するための演算処理を行う。
【0021】
ゲイン調整部18は、映像データの輝度値に対するゲイン(増幅率)を設定するものであり、例えば、映像データから得られる画像の輝度ピーク値に基づいてゲインを設定する。制御部21は、ゲイン調整部18で設定されたゲインに基づいて表示画像の明るさ、つまり、照明光学系11の光量を適正範囲に制御する。なお、照明光学系11の光量は、光源装置11Aの光量制御や調光機構の制御によって調整される。
これらの照明光学系11、映像処理部16、情報処理部17及びゲイン調整部18を含む画像の表示制御に係る各構成部は、全体として表示制御部(表示制御手段)に相当するが、特に照明光学系11及びゲイン調整部18が本発明の表示制御部(表示制御手段)に相当している。
【0022】
シャッター制御部25は、フレームレート変換部35から出力される垂直同期信号f1に基づいてシャッターメガネ50に設けられた左右一対のシャッターを開閉させるシャッター制御信号SHを生成し、生成したシャッター制御信号SHを無線で送信する。つまり、シャッター制御部25は、本発明のシャッターの開く時間を設定する時間設定部(時間設定手段)に相当している。
シャッターメガネ50は、シャッター制御信号SHを無線で受信する無線受信部を備え、シャッター制御信号SHに基づいて、立体映像表示装置10の右目用画像の表示及び左目用画像の表示に同期して左右の目に対応する一対のシャッターの開閉動作を交互に行う。
【0023】
図2は、立体映像表示装置10の駆動を示すタイミングチャートである。
立体映像には、1秒あたり60枚のフレームが含まれるのが標準的であり、左右両眼用の画像では1秒あたり120枚が存在することになる。本構成では、図2に示すように、左右両眼用の画像の1フレームを240Hzで2回連続で表示する駆動方式を採っており、標準の駆動周波数である60Hzに対し、240Hzの4倍速駆動を行っている。
このように、右目用画像と左目用画像との各フレームを2回連続させれば、液晶パネル12の書き込みの際、2回目のときは1回目で書き込まれた同じ映像が上書きされる。この立体映像表示装置10では、2回目の上書き時(2回目の描画期間内)にシャッター開とするようにシャッター制御を行っており(図2の符号f11、f12参照)、これによって、液晶パネル12の書換中に前の画像の一部が見えてしまう事態(つまり、クロストーク)をある程度、抑制することができる。
【0024】
ところで、液晶パネル12は、左上画素(図2中、符号G1で示す)から右下画素(図2中、符号G2で示す)に向けてラインスキャン方式で映像が更新される。このため、左上画素G1は1/240秒毎の垂直同期信号(図2中、符号f1で示す)に対して最も早く更新が始まるのに対し(図2中、符号f2参照)、右下画素G2は最も遅く更新が始まる(図2中、符号f4参照)。
液晶パネル12は、電圧を印可してもすぐには応答せず、ある一定時間をかけて変化するため(図2中、符号f2、f3参照)、この応答遅れにより、垂直同期信号f1に合わせてシャッターを目一杯に開くと(図2中、符号f11、f12参照)、液晶パネル12の左上画素G1を含む上の方のライン以外は変化中のときに、シャッターが開いてしまう。
つまり、1回目の書き込みの終了時点(=右下画素G2の更新終了時点)は、垂直同期信号f1に対して時間TB(図2参照)だけ遅れたタイミングとなり、この時間TBは、シャッターの開期間TAと重なってしまう。
従って、2回目の上書き時にシャッター開に制御する構成でも、左目用画像に前回の右目用画像が入り込み、右目用画像に前回の左目用画像が入り込み、クロストークとして現れてしまうおそれがある。なお、図2は、右目用画像と左目用画像とで電圧がフルスイングするような画像が入力された場合を示している。
【0025】
上記事態を踏まえると、クロストークを抑制しきれなかった場合に対する追加対策が望まれる。しかし、従来の対策、例えば、シャッターの開閉を映像走査位置に同期させる処理を付加した場合、制御が煩雑になり望ましくない。
一方、クロストークに関しては、動きの激しい動画のときはクロストークが観察者によって視認される前に次のフレームに移行し、そのフレームだけに着目すれば残像が見えていても、次のフレームには別の画像が描画されてクロストークが認識されにくいのに対し、動きがほとんどない動画や静止画のときは、左右の映像に殆ど動きがないため、クロストークが視認されやすい。
従って、動きがほとんどない動画や静止画のときに、左目用画像に常時、右目用画像の残像が認識され、または、右目用画像に常時、左目用画像の残像が認識されてしまう。
【0026】
また、片目あたりのシャッターが開いている時間が長ければ長いほど、クロストークが発生し易くなるため、開いている時間を短くすることでクロストークを抑制することが可能であるが、時間を短くすると観察者の目に入射される光量が減り、結果として明るさが下がるため、常時、開いている時間を短くすることは得策ではない。
そこで、本構成では、クロストークの抑制と明るさの両立を簡易に図るべく、入力映像の動き量を検出する動き量検出部17B(図1参照)を設け、検出した動き量に基づいて、静止画または静止部分が多い映像フレームと判定した場合にだけ、シャッターの開時間を短く設定すると共に表示光量を増大させる処理(クロストーク抑制処理)を実行するようにしている。
【0027】
図3は、このクロストーク抑制処理の動作を示すフローチャートである。なお、この動作は立体映像を投射する場合に実行される。以下、説明を判りやすくするため、動きの激しい動画を「高速映像」と適宜表記し、動きがほとんどない動画や静止画を「低速映像」と適宜表記する。
まず、動き量検出部17Bは、入力映像のフレーム毎に動き量を検出する(ステップS1)。この動き量検出部17Bは、立体映像のフレーム間の差分を算出する演算手段であり、より具体的には、フレームバッファー19に展開された最新の右目用画像と一つ前の右目用画像のフレーム間の差分、或いは、最新の左目用画像と一つ前の左目用画像のフレーム間の差分を求め、フレーム間で変化した分を、動き量を示す差分データとして検出する。
ここで、本実施形態では、左目用画像を右目用画像に先立って表示するため(図2参照)、左目用画像のフレーム間の差分だけを検出している。但し、右目用画像のフレーム間の差分、及び、左目用画像のフレーム間の差分の両方を検出して両方の平均値を算出するようにしてもよい。
【0028】
この差分データは、同じ目に対する一つ前の画像データに対して最新の画像データが有する空間的変化量と色調的変化量とを含んだ数値データであり、本実施形態では、空間的変化量と色調的変化量とを合成した数値データとしている。
このように同じ目に対する画像についてフレーム間の差分を求めるようにしたので、左目用画像と右目用画像との間にある視差の影響を回避した差分データを得ることができる。なお、このフレーム間の差分を求める処理は、公知の画像比較処理を広く適用することができる。
【0029】
シャッター制御部25は、動き量検出部17Bから上記差分データを入力すると、差分データが予め定めたしきい値に対して小か否かを判定する(ステップS2)。このしきい値は、クロストークが認識されにくい高速映像か、クロストークが認識されやすい低速映像かを判定するための判定基準値であり、つまり、シャッター制御部25は、差分データに基づいて低速映像か高速映像かを判定する。
このステップS2の判定で、差分データがしきい値より大の場合(ステップS2:NO)、シャッター制御部25は、最新の映像フレーム(右目用画像または左目用画像のフレーム)に対しては当該クロストーク抑制処理をスキップする。この場合、シャッター制御部25は、図2の符号f11、f12に示すように、垂直同期信号f1に同期したシャッター開閉タイミングを設定するシャッター制御信号SHを生成する。
【0030】
一方、ステップS2の判定で、差分データがしきい値より小の場合(ステップS2:YES)、シャッター制御部25は、図2の符号f11A、f12Aに示すように、シャッターの開時間(開期間TAの時間)を短く設定するシャッター制御信号SHを生成し(ステップS3)、ゲイン調整部18は、映像データの輝度値に対するゲインを増大させるゲイン増大処理を行う(ステップS4)。
詳述すると、シャッター制御部25は、垂直同期信号f1よりも予め定めた時間TC(図2参照)だけシャッターの開開始タイミングを遅延させたシャッター制御信号SHを生成する。この時間TCは、図2に示すように、時間TB、つまり、前回の画像フレーム(1回目の右目用画像または左目用画像のフレーム)の更新が垂直同期信号f1に対して遅れる時間TBよりも長い時間に設定されている。このため、シャッターメガネ50においては、低速映像の場合に、前回の残像が残っている間は、シャッターが閉じた状態に保持され、残像がなくなった後にシャッターが開く。これによって、クロストークを抑制することができる。
【0031】
また、ゲイン調整部18は、ステップS3でシャッターの開期間TAを短くしたことによる明るさの低減を補償するようにゲインを増大させ、照明光学系11の表示光量を増大させる。このゲイン増大処理は、例えば、映像データの輝度値に対応づけた基準のゲインに対し、予め定めた補正値を加算する加算処理、或いは、予め定めた補正係数値を乗算する乗算処理などを適用すればよい。これによって、入力映像が低速映像及び高速映像のいずれの場合でも、表示画像の明るさを一定に維持することができる。
【0032】
以上説明したように、本実施の立体映像表示装置10では、動き量検出部17Bによって入力映像の動き量を示す差分データを検出し、この差分データがしきい値に対して小の場合に、差分データが大の場合よりもシャッターの開時間を短く設定すると共に表示光量を増大させるので、複雑な制御を行うことなく、観察者がクロストークを認識し易い低速画像でのクロストークを抑制することができ、かつ、適切な明るさを維持することができる。
しかも、この構成は、立体映像表示装置10が具備する演算処理機能を用いて実現するので、照明光学系11やシャッターメガネ50に手を入れずに安価にクロストークを抑制することができる。
【0033】
また、本構成では、立体画像のフレーム間の差分に基づいて差分データを算出するので、既存のフレーム伝送フォーマットで伝送される立体映像から動き量を得ることができる。しかも、この差分データを、右目用画像のフレーム間の差分、または、左目用画像のフレーム間の差分に基づいて算出しているので、左目用画像と右目用画像との間にある視差の影響を回避した差分データを得ることができ、精度良く動き量を検出できる。
また、差分データ(動き量)が小の場合に、差分データ(動き量)が大の場合よりもシャッターが開くタイミングを遅延させるので、液晶パネル12の応答遅れに起因して画像が遅れて更新されている際にシャッターが開いてしまうことを簡易に回避できる。
【0034】
この場合、遅延量である時間TCを、液晶パネル12の応答遅れに相当する時間TBよりも長く設定しておくことで、画像更新中にシャッターが開く事態を確実に防止でき、クロストークを確実に抑制できる。
また、図2に示すように、本構成のシャッターの開終了タイミングは、差分データ(動き量)に関係なく一定であり、右目用画像及び左目用画像の表示期間の終了時点とされるので、次の画像に切り替わる直前までシャッターを継続して開くことができ、表示画像の明るさ確保に有利である。
【0035】
さらに、本構成では、同フレーム内の右目用画像と左目用画像とを各々連続表示させ、連続表示する際の最終回(2回目)の表示期間内でシャッターを開くようにしたので、同じ画像で上書きした画像を観察者に見せることができ、これによっても、クロストークを抑制することができる。
すなわち、本構成では、連続表示する際の最終回(2回目)の表示期間内でシャッターを開く構成にしてクロストークを抑制しつつ、この構成でも生じる、液晶パネルの応答遅れに起因するクロストークに関しては、観察者がクロストークを認識し易い低速画像でのクロストークに絞ってクロストークを抑制する。従って、効率よくクロストークを抑制することができる。
【0036】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
例えば、上述の実施形態では、同フレーム内の右目用画像と左目用画像とを各々2回連続表示する場合を説明したが、これに限らず、3回以上連続表示させてもよい。3回以上の場合も最終回の表示期間内でシャッターを開くことが好ましい。
また、本発明は、同フレーム内の右目用画像と左目用画像とを各々連続表示する表示制御を省略してもよい。この場合でも、入力映像の動き量に応じてシャッターの閉時間を可変することによって、複雑な制御を行うことなく、効率よくクロストークを抑制することができ、かつ、適切な明るさを維持することができる。
また、上述の実施形態では、ゲイン調整によって表示光量を増大させる場合を説明したが、これに限らない。例えば、可変絞り機構などの調光機構を有する場合、この調光機構によって表示光量を増大させてもよい。
【0037】
また、本発明の立体映像表示装置は、上述したようにスクリーンSCに立体映像を投射するプロジェクターに限定されず、液晶表示パネルに立体の画像/映像を表示する液晶モニターまたは液晶テレビ、或いは、PDP(プラズマディスプレイパネル)に3Dの画像/映像を表示するモニター装置またはテレビ受像機、OLED(Organic light−emitting diode)、OEL(Organic Electro−Luminescence)などと呼ばれる有機EL表示パネルに立体の画像/映像を表示するモニター装置またはテレビ受像機などの自発光型の立体映像表示装置など、各種の立体映像表示装置に本発明を適用してもよい。この場合、液晶表示パネル、プラズマディスプレイパネル、有機EL表示パネルが表示手段に相当する。
【0038】
また、本発明の立体映像表示装置の各機能部について、具体的な実装形態は特に制限されない。つまり、必ずしも各機能部に個別に対応するハードウェアが実装される必要はなく、一つのプロセッサーがプログラムを実行することで複数の機能部の機能を実現する構成とすることも勿論可能である。また、上記実施形態においてソフトウェアで実現されている機能の一部をハードウェアで実現してもよく、あるいは、ハードウェアで実現されている機能の一部をソフトウェアで実現してもよい。その他、立体映像表示装置の具体的な細部構成についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変更可能である。また、本発明は、このような装置が実行するプログラムとして実現することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
10…立体映像表示装置、11…照明光学系(表示制御手段)、11A…光源装置、11B…光源駆動部、12…液晶パネル(表示手段)、13…投射光学系、15…映像入力部、16…映像処理部、17…情報処理部、17A…オーバードライブ部、17B…動き量検出部(動き量検出手段)、18…ゲイン調整部(表示制御手段)、19…フレームバッファー、20…液晶パネル駆動部、21…制御部、22…操作部、23、撮像部、24…センサー部、25…シャッター制御部(時間設定手段)、26…高速バス、27…低速バス、50…メガネ式シャッター装置(シャッターメガネ)、100…立体映像表示システム、SC…スクリーン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の右目用画像と左目用画像で構成される立体映像を入力し、表示部にて右目用画像と左目用画像とを表示する立体映像表示装置であって、
入力映像の動き量を検出する動き量検出手段と、
右目に前記右目用画像、左目に前記左目用画像を見せるように制御されるシャッターの開く時間を、前記動き量が予め定めた値に対して小の場合に、前記動き量が大の場合よりも短く設定する時間設定手段と、
前記動き量が小の場合に、前記動き量が大の場合よりも前記表示部の光量を増大させる表示制御手段と
を備えることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項2】
前記動き量検出手段は、前記立体画像のフレーム間の差分に基づいて前記動き量を算出することを特徴とする請求項1に記載の立体映像表示装置。
【請求項3】
前記動き量検出手段は、前記右目用画像のフレーム間の差分、または、前記左目用画像のフレーム間の差分に基づいて前記動き量を算出することを特徴とする請求項2に記載の立体映像表示装置。
【請求項4】
前記時間設定手段は、前記動き量が小の場合に、前記動き量が大の場合よりも前記シャッターが開くタイミングを遅延させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の立体映像表示装置。
【請求項5】
前記表示制御手段は、同フレーム内の前記右目用画像と前記左目用画像とを各々連続表示させ、
前記時間設定手段は、前記右目用画像と前記左目用画像とで前記シャッターの開く期間を、連続表示する際の最終回の表示期間内に設定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の立体映像表示装置。
【請求項6】
一対の右目用画像と左目用画像で構成される立体映像を入力し、表示部にて右目用画像と左目用画像とを表示する立体映像表示装置の制御方法であって、
入力映像の動き量を検出するステップと、
前記動き量が予め定めた値に対して小の場合に、右目に前記右目用画像、左目に前記左目用画像を見せるように制御されるシャッターの開く時間を、前記動き量が大の場合よりも短く設定すると共に、前記動き量が大の場合よりも前記表示部の光量を増大させるステップとを実行することを特徴とする立体映像表示装置の制御方法。
【請求項7】
一対の右目用画像と左目用画像で構成される立体映像を入力し、表示部にて右目用画像と左目用画像とを表示する立体映像表示装置と、
右目に前記右目用画像、左目に前記左目用画像を見せるように制御されるシャッターを備えるシャッター装置とを備え、
前記立体映像表示装置は、
入力映像の動き量を検出する動き量検出手段と、
前記シャッター装置に対し、前記シャッターの開く時間を、前記動き量が予め定めた値に対して小の場合に、前記動き量が大の場合よりも短く設定する時間設定手段と、
前記動き量が小の場合に、前記動き量が大の場合よりも前記表示部の光量を増大させる表示制御手段とを有することを特徴とする立体映像表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−151641(P2012−151641A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8614(P2011−8614)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】