立体視用液晶シャッタ眼鏡
【課題】疲労や不快感を抑制し、快適に立体映像を見ることができる立体視用液晶シャッタ眼鏡を提供する。
【解決手段】左眼用液晶シャッタ110と、右眼用液晶シャッタ120と、を備え、左眼用液晶シャッタ及び右眼用液晶シャッタのそれぞれの応答時間は5ミリ秒以下であり、左眼用液晶シャッタ及び右眼用液晶シャッタのそれぞれの全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上であることを特徴とする立体視用液晶シャッタ眼鏡が提供される。
【解決手段】左眼用液晶シャッタ110と、右眼用液晶シャッタ120と、を備え、左眼用液晶シャッタ及び右眼用液晶シャッタのそれぞれの応答時間は5ミリ秒以下であり、左眼用液晶シャッタ及び右眼用液晶シャッタのそれぞれの全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上であることを特徴とする立体視用液晶シャッタ眼鏡が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体視用液晶シャッタ眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置に広く実用化されている液晶は、電気信号によって透光性を制御できる機能を利用して、透光性と遮光性とを制御可能な眼鏡などの各種のシャッタにも応用されている。
【0003】
特に、娯楽、教育、放送、医療などの分野への実用化が進んでいる立体視システムにおいて、左右眼の視差に対応した左眼用像と右眼用像とを、左右眼にそれぞれ時分割で呈示する高速応答のシャッタに、液晶が用いられる。例えば、特許文献1には、右目用領域と左目用領域とを有する液晶セルを用いたシャッタ眼鏡を用いる立体映像表示装置が開示されている。
【0004】
このような液晶シャッタ眼鏡を用いた立体映像表示システムによって立体映像を観視した際に、場合によっては、疲労や不快感を覚えることがあり、快適に立体映像を観視することの妨げになることがあることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−327961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、疲労や不快感を抑制し、快適に立体映像を見ることができる立体視用液晶シャッタ眼鏡を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、左眼用液晶シャッタと、右眼用液晶シャッタと、を備え、前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタのそれぞれの応答時間は5ミリ秒以下であり、前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタのそれぞれの全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上であることを特徴とする立体視用液晶シャッタ眼鏡が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、疲労や不快感を抑制し、快適に立体映像を見ることができる立体視用液晶シャッタ眼鏡が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡の構成を例示する模式的斜視図である。
【図2】第1の実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡が用いられる立体映像表示システムの構成を例示する模式図である。
【図3】立体視用液晶シャッタ眼鏡における応答時間を例示する模式図である。
【図4】立体視映像表示システムの使用状態を例示する模式図である。
【図5】立体視用液晶シャッタ眼鏡の液晶シャッタの構成を例示する模式的斜視図である。
【図6】液晶シャッタの構成を例示する表である。
【図7】液晶シャッタの特性を例示する模式図である。
【図8】液晶シャッタの特性を例示する模式図である。
【図9】液晶シャッタの特性を例示する模式図である。
【図10】液晶シャッタの特性を例示する表である。
【図11】液晶シャッタの特性を例示する表である。
【図12】液晶シャッタの特性を例示する表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
また、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡の構成を例示する模式的斜視図である。
図2は、第1の実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡が用いられる立体映像表示システムの構成を例示する模式図である。
まず、図2により、本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡が用いられる立体映像表示システムの概要について説明する。
【0012】
図2に表したように、立体映像表示システム10は、表示装置20と、立体視用液晶シャッタ眼鏡101と、を備える。表示装置20は、表示画面21を有している。表示画面21に観視者が観視する映像が表示される。観視者は、表示画面21に表示された映像を、立体視用液晶シャッタ眼鏡101を介して観視する。
【0013】
立体映像表示システム10は、3次元映像表示モードを有している、3次元映像表示モードにおいては、表示画面21には、観視者の視差に対応する左眼用像と右眼用像とが交互に表示され、立体視用液晶シャッタ眼鏡101が、左眼用像と右眼用像との切り替えに対応してスイッチング動作を行う。これにより、左眼用像と右眼用像とが、観視者の左右眼に時分割で交互に呈示される。なお、立体映像表示システム10は、観視者が表示画面21に表示された像を2次元映像として観視する動作モードを有していても良い。以下では、3次元映像表示モードについて説明する。
【0014】
表示装置20には、例えばアクティブマトリクス型液晶ディスプレイが用いられる。表示装置20においては、例えばフィールドメモリを用いたデジタル信号処理により、例えばフィールド周波数が120Hzの映像が表示される。
【0015】
図1に表したように、立体視用液晶シャッタ眼鏡101は、左眼用液晶シャッタ110と、右眼用液晶シャッタ120と、を有する。左眼用液晶シャッタ110は観視者の左眼に対向し、右眼用液晶シャッタ120は、観視者の右眼に対向するように設計される。
【0016】
表示画面21には、左眼用像と右眼用像とが、フィールドごとに交互に切り替えて表示される。左眼用像が表示されている期間においては、左眼用液晶シャッタ110が透光状態とされ、右眼用液晶シャッタ120が遮光状態とされる。そして、右眼用像が表示されている期間においては、右眼用液晶シャッタ120が透光状態とされ、左眼用液晶シャッタ110が遮光状態とされる。
【0017】
また、立体映像表示システム10は、制御部30をさらに備えることができ、上記の立体視用液晶シャッタ眼鏡101の動作は例えば、この制御部30によって制御されることができる。ただし、制御部30の機能は、表示装置20及び立体視用液晶シャッタ眼鏡101のいずれかに含まれても良い。制御部30と表示装置20と間の信号の授受、制御部30と立体視用液晶シャッタ眼鏡101との間の信号の授受、及び、表示装置20と立体視用液晶シャッタ眼鏡101との間の信号の授受は、有線または無線の方式によって行われる。
【0018】
図1に表したように、本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡101は、左眼用液晶シャッタ110を備える。本具体例では、立体視用液晶シャッタ眼鏡101は、右眼用液晶シャッタ120と、左眼用液晶シャッタ110と右眼用液晶シャッタ120とを保持する保持部130と、をさらに備える。
【0019】
本具体例では、左眼用液晶シャッタ110は、左側第1基板部111と、左側第2基板部112と、左側第1基板部111と左側第2基板部112との間に設けられた左側液晶層(図示しない)と、を有する。左側第1基板部111及び左側第2基板部112は、左側液晶層に電圧を印加する電極及び偏光フィルム(偏光板、偏光素子)などを有する。左側第1基板部111及び左側第2基板部112は、さらに、種々の光学補償素子を有しても良い。
【0020】
右眼用液晶シャッタ120は、右側第1基板部121と、右側第2基板部122と、右側第1基板部121と右側第2基板部122との間に設けられた右側液晶層(図示しない)と、を有する。右側第1基板部121及び右側第2基板部122は、右側液晶層に電圧を印加する電極及び偏光フィルム(偏光板、偏光素子)などを有する。右側第1基板部121及び右側第2基板部122は、さらに、種々の光学補償素子を有しても良い。
【0021】
保持部130は、例えば、左側耳かけ部131と右側耳かけ部132とを有する。これにより、観視者は、立体視用液晶シャッタ眼鏡101を装着し易くなる。左側耳かけ部131及び右側耳かけ部132は必要に応じて設けられれば良い。また、左眼用液晶シャッタ110と、右眼用液晶シャッタ120と、が別体である場合は、保持部130には、左眼用液晶シャッタ110の部分と、右眼用液晶シャッタ120の部分と、を連結させる連結部133が設けられる。
【0022】
このような構成を有する本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡101においては、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120のそれぞれの応答時間は、5ミリ秒(ms)以下とされる。さらに、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120のそれぞれの全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上とされる。
【0023】
これにより、後述する3Dクロストークを視感上解消し、疲労や不快感を抑制し、快適に立体映像を見ることができる立体視用液晶シャッタ眼鏡が提供できる。
【0024】
このような特性を有する本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡101は、以下のような検討に基づいて構築された。
【0025】
すなわち、発明者は、立体映像表示システムによって立体映像を観視した際に発生し得る疲労や不快感の原因について調査した。その結果、2つの要因によって、疲労や不快感が発生し得ることを見出した。以下、その調査結果について説明する。
【0026】
まず、1つ目の要因として、立体視用液晶シャッタ眼鏡における液晶シャッタの応答速度が一定の値よりも遅い場合に、使用者は疲労や不快感を覚えることが分かった。
【0027】
ここで、液晶シャッタの応答速度に相当する応答時間に関して説明する。
図3(a)及び図3(b)は、立体視用液晶シャッタ眼鏡における応答時間を例示する模式図である。
すなわち、図3(a)は、1つの液晶シャッタに印加される印加電圧Vaを例示しており、図3(b)は、その液晶シャッタの透過率Trの変化を例示している。これらの図において、横軸は、時間tである。
【0028】
図3(a)に表したように、時刻t1において、印加電圧Vaは第1電圧V1から第2電圧V2に変化する。そして、時刻t2において、印加電圧Vaは第2電圧V2から第1電圧V1に変化する。時刻t1は、例えば右眼用像から左眼用像への切り替えにタイミングに同期しており、時刻t2は、例えば左眼用像から右眼用像への切り替えのタイミングに同期している。なお、第1電圧V1及び第2電圧V2のいずれかは、0ボルトであっても良い。すなわち、本具体例においては、第2電圧V2は0ボルトでも良い。
【0029】
このとき、時刻t1において、透過率Trは第1透過率Tr1から第2透過率Tr2に向けて変化する。そして、時刻t2において、透過率Trは第2透過率Tr2から第1透過率Tr1に向けて変化する。第1透過率Tr1と第2透過率Tr2との差を1とする。このとき、時刻t1の後に、透過率Trが0.9になる時刻を第3時刻t3とする。そして、時刻t2の後に、透過率Trが0.1になる時刻を第4時刻t4とする。
【0030】
時刻t1から時刻t3までの時間を第1応答時間T1とし、時刻t2から時刻t4までの時間を第2応答時間T2とする。第1応答時間T1は、例えばオン時の応答時間であり、第2応答時間T2は、例えばオフ時の応答時間である。
【0031】
すなわち、例えば、第1電圧V1が印加されている状態がオフ状態であり、第2電圧V2が印加されている状態がオン状態である。そして、第1透過率Tr1がオフ時透過率であり、第2透過率Tr2がオン時透過率に相当する。
【0032】
なお、図3(a)及び図3(b)は、1つの液晶シャッタの動作の例について示しており、図3(a)及び図3(b)が、例えば、左眼用液晶シャッタ110の動作に相当する。そして、左眼用液晶シャッタ110に第1電圧V1が印加されているときには、右眼用液晶シャッタ120に第2電圧V2が印加され、左眼用液晶シャッタ110に第2電圧V2が印加されているときには、右眼用液晶シャッタ120に第1電圧V1が印加される。このように、左眼用液晶シャッタ110と右眼用液晶シャッタ120とが交互にオフ状態とオン状態とに設定される。
【0033】
発明者の実験の結果、第1応答時間T1及び第2応答時間T2が、5ms以下の場合に、疲労や不快感が抑制できることが分かった。すなわち、応答時間が5msよりも長い場合、例えば、応答時間が10ms程度の場合には、使用者は疲労や不快感を覚え易い。これは、右眼用像と左眼用像との切り替えに同期して印加電圧Vaを切り替えても、透過率Trの変化に時間がかかり、使用者の左右眼に、左眼用像と右眼用像との両方の映像が呈示される時間が長いことが原因であると推定された。左眼用像と右眼用像とでは視差に対応したずれが設けられているため、両方の映像が同時に呈示されると映像のずれが知覚され、観視者の視覚がそのずれを補正しようと動作することに伴って、疲労や不快感が生じるものと推測される。
【0034】
発明者の実験によれば、この疲労や不快感を実質的に抑制するためには、第1応答時間T1及び第2応答時間T2が、5ms以下とすると良いことが分かった。すなわち、実用的には、第1応答時間T1及び第2応答時間T2が、5ms以下の場合に、疲労や不快感が実質的に問題無い程度に抑制できる。使用者の左右眼に、左眼用像と右眼用像とのずれを有する両方の映像が5ms程度以下の短い時間呈示されても、視覚はそれを実質的に知覚しないと推測される。
【0035】
これに基づき、本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡101においては、第1応答時間T1及び第2応答時間T2が5ms以下に設定される。
【0036】
なお、用いられる液晶シャッタのスイッチング時間が、左眼用像と右眼用像との切り替えのスイッチング動作に追従できない場合に正常な立体映像が得られないことは知られているが、疲労や不快感を実質的に抑制するために必要な応答時間の値を導出した例は、知られていない。
【0037】
このような応答時間を実現するために、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120には、例えば、πセル(スプレイ配列セル)に基づくOCB(Optically Compensated Bend)液晶を適用することが望ましい。すなわち、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120は、ベンド配列液晶層を含むことができる。
【0038】
適切に設計されたOCB液晶を用いることで、5ms以下の応答時間を、実用的な動作電圧範囲で得ることができる。また、OCB液晶においては、ネマティック液晶が用いられることから、機械的衝撃や熱的衝撃に対する耐性が確保でき、また、長期間の動作信頼性も確保し易い。
【0039】
ただし、以下に説明するように、第1応答時間T1及び第2応答時間T2が5ms以下である条件は、疲労や不快感を抑制し快適に立体映像を見るための十分な条件ではない。
【0040】
すなわち、使用者が疲労や不快感を覚える2つ目の要因として、液晶シャッタの視角特性が疲労や不快感に影響を与えることが見出された。以下、これに関して説明する。
【0041】
発明者は、立体視映像表示システムを実際に使用する条件に関して検討し、液晶シャッタにおける光スイッチングの視角特性が、疲労や不快感に大きく影響を与えることを見出した。
【0042】
図4は、立体視映像表示システムの使用状態を例示する模式図である。
この例では、立体視映像システムが例えば映画館や娯楽施設などにおいて多数の観視者によって観視される場合の使用状態が例示されている。
図4に表したように、表示装置20の表示画面21(例えば大型の液晶表示装置や大型のプラズマディスプレイや、投影型表示装置のスクリーンなどが用いられる)の前に、例えば階段状の観覧席160が設けられ、複数の観視者が同時に表示装置20を観視する。観覧席160の場所によって、観視者から見たときの表示画面21に向かう視角φは変化する。観視者が頭部を傾けることも考慮すると、観覧席160の端に居る観視者は、35度程度の視角φで表示画面21を観視することになる。
【0043】
そして、このときの視角φは、観覧席の位置によって、上下、左右、斜め方向に沿った角度である。すなわち、このような使用条件においては、視角φが全方位において35度程度に傾く場合がある。
【0044】
例えば、液晶シャッタの正面(視角φが0度)において良好なコントラスト比が得られていても、視角φが35度においてコントラスト比が低い場合には、観覧席の端に位置する観視者には、左眼用像及び右眼用像の両方の映像が観視者に呈示されることになる。このため、観視者の視覚は、左眼用像及び右眼用像のずれのある映像を補正しようと動作し、この結果、液晶シャッタの視角特性が悪い場合に疲労や不快感が生じ易い。このように、液晶シャッタの視角特性に起因して、左眼用像と右眼用像とが同時に観視者に提供される現象を「3Dクロストーク」ということにする。
【0045】
このように、例えば、種々の方向から観視される立体視映像表示システムにおいては、視角φが全方位において35度の場合にも良好な立体視が可能であることが条件となる。
【0046】
発明者は、視角特性の良好な液晶シャッタを用いた場合と、視角特性の悪い液晶シャッタを用いた場合と、で、3Dクロストークが変化し、その結果、疲労や不快感が大きく変化することを発見し、この特性に着目した。そして、液晶シャッタにおける光スイッチング特性(コントラスト比)の視角特性と、立体視の知覚特性と、について調査した。
【0047】
なお、コントラスト比は、液晶シャッタの遮光状態の透過率(例えば第1透過率Tr1)と、透光状態の透過率(例えば第2透過率Tr2)と、の比率である。
【0048】
以下、液晶シャッタにおける視角特性の検討結果について説明する。
図5は、立体視用液晶シャッタ眼鏡の液晶シャッタの構成を例示する模式的斜視図である。
以下では、左眼用液晶シャッタ110と右眼用液晶シャッタ120とにおいて、構成と特性が同様である場合として、これらを代表する液晶シャッタ105について説明する。
【0049】
液晶シャッタ105は、第1液晶基板105aと第2液晶基板105bとを有するものとする。第1液晶基板105aは観視者の側に配置され、第2液晶基板105bは表示装置20の側に配置されるものとする。第1液晶基板105aと第2液晶基板105bとの間に、図示しない液晶層が設けられる。第1液晶基板105aにおける液晶分子の配向方向(液晶分子の長軸の方向)とX軸方向とのなす角を第1液晶配向角θLC1とする。第2液晶基板105bにおける液晶分子の配向方向(液晶分子の長軸の方向)とX軸方向とのなす角を第2液晶配向角θLC2とする。本検討では、液晶層としてOCBモードの液晶層を用いるものとし、第1液晶配向角θLC1と第2液晶配向角θLC2とは同じであり、これらを液晶配向角θLCとする。
【0050】
第1液晶基板105aの第2液晶基板105bとは反対の側に、第1偏光板POL1が配置される。第1偏光板POL1は、観視者の側の偏光板である。第2液晶基板105bの第1液晶基板105aとは反対の側に、第2偏光板POL2が配置される。第2偏光板POL2は、表示装置20の側の偏光板である。第1偏光板POL1の吸収軸(第1吸収軸APOL1)と、X軸方向と、のなす角を第1偏光板角θPOL1とする。第2偏光板POL2の吸収軸(第2吸収軸APOL2)と、X軸方向と、のなす角を第2偏光板角θPOL2とする。
【0051】
第1液晶基板105aと第1偏光板POL1との間に、観視者側光学層F10が設けられ、第2液晶基板105bと第2偏光板POL2との間に、表示装置側光学層F20が設けられる。
【0052】
例えば、第1液晶基板105aと第1偏光板POL1との間に、第1観視者側光学層F11が設けられる場合がある。第1観視者側光学層F11の第1観視者側光軸AF11と、X軸方向と、のなす角を第1観視者側光学層角θF11とする。
【0053】
第2液晶基板105bと第2偏光板POL2との間に、第1表示装置側光学層F21が設けられる場合がある。第1表示装置側光学層F21の第1表示装置側光軸AF21と、X軸方向と、のなす角を第1表示装置側光学層角θF21とする。
【0054】
第1観視者側光学層F11と第1偏光板POL1との間に、第2観視者側光学層F12が設けられる場合がある。第2観視者側光学層F12の第2観視者側光軸AF12と、X軸方向と、のなす角を第2観視者側光学層角θF12とする。
【0055】
第1表示装置側光学層F21と第2偏光板POL2との間に、第2表示装置側光学層F22が設けられる場合がある。第2表示装置側光学層F22の第2表示装置側光軸AF22と、X軸方向と、のなす角を第2表示装置側光学層角θF22とする。
【0056】
第2観視者側光学層F12と第1偏光板POL1との間に、第3観視者側光学層F13が設けられる場合がある。第3観視者側光学層F13の第3観視者側光軸AF13と、X軸方向と、のなす角を第3観視者側光学層角θF13とする。
【0057】
第2表示装置側光学層F22と第2偏光板POL2との間に、第3表示装置側光学層F23が設けられる場合がある。第3表示装置側光学層F23の第3表示装置側光軸AF23と、X軸方向と、のなす角を第3表示装置側光学層角θF23とする。
【0058】
なお、図5に表したように、視角φは、Z軸方向を基準とした極角である。また方位角θは、X軸方向を基準とした角度である。
【0059】
図6は、液晶シャッタの構成を例示する表である。
図6に表したように、本検討では、10種類の液晶シャッタSP01〜SP10が検討された。液晶シャッタSP01〜SP10のそれぞれが有する光学要素とその条件は、図6に表された通りである。
【0060】
図6において、RF11は、第1観視者側光学層F11のリタデーションである。すなわち、液晶シャッタSP01〜SP06、及び、SP08〜SP10においては、RF11は、第1観視者側光学層F11における面内方向のリタデーションである。そして、液晶シャッタSP07においては、RF11は、第1観視者側光学層F11における厚さ方向のリタデーションである。
【0061】
また、RF21は、第1表示装置側光学層F21のリタデーションである。すなわち、液晶シャッタSP01〜SP06、及び、SP08〜SP10においては、RF21は、第1表示装置側光学層F21における面内方向のリタデーションである。そして、液晶シャッタSP07においては、RF21は、第1表示装置側光学層F21における厚さ方向のリタデーションである。
【0062】
また、ReF12及びReF13は、それぞれ、第2及び第3観視者側光学層F12及びF13における面内方向のリタデーションである。また、ReF22及びReF23は、それぞれ、第2及び第3表示装置側光学層F22及びF23における面内方向のリタデーションである。
【0063】
また、RtF12及びRtF13は、それぞれ、第2及び第3観視者側光学層F12及びF13における厚さ方向のリタデーションである。また、RtF22及びRtF23は、それぞれ、第2及び第3表示装置側光学層F22及びF23における厚さ方向のリタデーションである。
【0064】
また、Δnは、550ナノメートル(nm)における液晶層の複屈折率であり、Δεは、液晶層の誘電率異方性である。
【0065】
第1、第2及び第3観視者側光学層F11、F12及びF13、並びに、第1、第2及び第3表示装置側光学層F21、F22及びF23における「type」は、以下を指す。「type−A」は、正の屈折率異方性を有する光学フィルムである。「type−B」は、二軸の光学フィルムである。「type−C」は、負の屈折率異方性を有する光学フィルムである。「type−D」は、光軸の角度が厚さ方向に沿って変化している負の光学異方性を有する光学フィルムである。「type−E」は、光軸の角度が厚さ方向に沿って変化している負の光学異方性を有する層と、2軸の光学層と、を積層した光学フィルムである。
【0066】
図6に例示した構成を有する10種類の液晶シャッタSP01〜SP10の光学特性がシミュレーションされた。
図7(a)〜図7(d)、図8(a)〜図8(d)、及び、図9(a)及び図9(b)は、液晶シャッタの特性を例示する模式図である。
【0067】
これらの図において、複数の同心円が表示されており、一番内側の円が20度の視角φに対応し、その次の円が35度の視角φに対応し、その次の円が40度の視角φに対応し、その次の円が60度の視角φに対応し、一番外側の円が80度の視角φに対応する。
【0068】
また、これらの図において濃度の濃い領域はコントラスト比が高い領域に相当し、濃度が低い領域はコントラストが低い領域に相当する。また、これらの図には、内側と外側の2つの曲線の実線が描かれている。外側の実線は、100:1のコントラスト比に相当する。外側の実線よりも内部の領域は、コントラスト比が100:1よりも高い領域に相当する。内側の実線は、500:1のコントラスト比に相当する。内側の実線よりも内部の領域は、コントラスト比が500:1よりも高い領域に相当する。
【0069】
図7(a)〜図7(d)、図8(a)〜図8(d)、及び、図9(a)及び図9(b)に表したように、液晶シャッタ105の構成により、コントラスト比の視角φ依存性は、大きく変化する。
【0070】
図7(a)に表した液晶シャッタSP01、及び、図7(b)に表した液晶シャッタSP02においては、高いコントラスト比が得られる視角φの領域が広い。
【0071】
図7(c)に表した液晶シャッタSP03、及び、図7(d)に表した液晶シャッタSP04においては、高いコントラスト比が得られる視角φの領域が著しく狭い。
【0072】
図8(a)に表した液晶シャッタSP05、図8(b)に表した液晶シャッタSP06及び、図8(c)に表した液晶シャッタSP07においては、高いコントラスト比が得られる視角φの領域は、液晶シャッタSP01及びSP02に比べれば狭いものの、液晶シャッタSP03及びSP04に比べれば広い。
【0073】
図8(d)に表した液晶シャッタSP08、図9(a)に表した液晶シャッタSP09及び、図9(b)に表した液晶シャッタSP10においても、高いコントラスト比が得られる視角φの領域は、液晶シャッタSP01及びSP02に比べれば狭いものの、液晶シャッタSP03及びSP04に比べれば広い。
【0074】
図10〜図12は、液晶シャッタの特性を例示する表である。
すなわち、これらの表は、液晶シャッタSP01〜SP10の、全方位(方位角θが0度〜355度)で視角φが35度のときのコントラスト比の値を示している。図10は、方位角θが0度〜120度の結果に対応し、図11は、方位角θが125度〜240度の結果に対応し、図12は、方位角θが245度〜355度の結果に対応する。そして、図12の一番下の欄に、コントラスト比の最小値CRminが示されている。
【0075】
図12に表したように、視角φが35度の時のコントラスト比の全方位における最小値CRminは、液晶シャッタSP01〜SP010の順に、429:1、484:1、25:1、30:1、45:1、68:1、79:1、616:1、162:1、及び、45:1であった。すなわち、全方位におけるコントラスト比は、液晶シャッタSP01、SP02及びSP08が非常に高く、液晶シャッタSP03及びSP04が非常に低い。
【0076】
そして、上記のうちで、視角特性が良好な液晶シャッタSP01に関して実際の液晶シャッタを作製し、立体視映像システムに用いて実験したところ、疲労や不快感は実質的に発生せず、良好な立体視が得られた。なお、この液晶シャッタの応答時間は5ms以下である。
【0077】
一方、視角特性が良好でない、液晶シャッタSP03及びSP04の特性に相当する液晶シャッタを実際に立体視映像システムに用いると、疲労や不快感が発生した。この比較例の液晶シャッタの応答時間は5ms以下であり、応答時間が5msを満たしていても、立体視映像システムの実用的な使用状態においては、視角特性が悪い場合には3Dクロストークによる疲労や不快感が発生することが分かった。
【0078】
実験の結果、全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上である条件において、疲労や不快感は実質的に発生せず、良好な立体視が得られることが確認された。そして、全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1に満たない場合には、疲労や不快感が発生し易いことも確認された。すなわち、全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上である液晶シャッタを用いることで、立体視特有の3Dクロストークが抑制できる。
【0079】
上記の液晶シャッタSP01、SP02、SP05、SP06、SP07、SP08、SP09及びSP10においては、視角特性は許容範囲内であり、3Dクロストークが抑制できる。液晶シャッタSP01及びSP02においては、視角特性は特に良好であり、3Dクロストークの抑制効果が特に高い。
【0080】
立体視映像システムに用いる液晶シャッタの応答時間が短いことが望まれることは定性的に知られているが、今回の発明者の検討により、液晶シャッタの良好な応答時間が定量的に判明した。さらに、実用的な観点から、応答時間だけでなく、視角特性が重要であることが判明した。そして、良好な視角特性に関しても、定量的に求められた。
【0081】
すなわち、本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡101においては、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120のそれぞれの応答時間が、5ms以下であり、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120のそれぞれの全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上とされることで、疲労や不快感を抑制し、快適に立体映像を見ることができる立体視用液晶シャッタ眼鏡が提供できる。
【0082】
そして、全方位における視角φが35度のときのコントラスト比は、100:1以上であることがさらに望ましい。すなわち、上記の液晶シャッタSP01、SP02、SP08及びSP09においては、さらに良好な特性が得られる。
そして、全方位における視角φが35度のときのコントラスト比は、400:1以上であることがさらに望ましい。すなわち、上記の液晶シャッタSP01、SP02及びSP08においては、さらに良好な特性が得られる。
【0083】
また、上記のように、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120のそれぞれは、光学層を含むことができる。そして、この光学層は、光軸の角度が厚さ方向に沿って変化する負の光学異方性を有する層を有することが望ましい。すなわち、光学層として、例えば上記の「type−D」や「type−E」などを用いることができる。これにより、全方位における視角φが35度のときのコントラスト比が40:1以上の良好な特性を得ることができる。さらに、適切な設計により、コントラスト比が100:1以上や400:1以上のさらに望ましい特性を得ることもができる。
【0084】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、立体視用液晶シャッタ眼鏡に含まれる液晶シャッタ及び保持部、並びに、立体視映像表示システムに含まれる表示装置及び制御部等、各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0085】
その他、本発明の実施の形態として上述した立体視用液晶シャッタ眼鏡及び立体視映像表示システムを基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての立体視用液晶シャッタ眼鏡及び立体視映像表示システムも、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0086】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
【符号の説明】
【0087】
10…立体視映像表示システム、 20…表示装置、 21…表示画面、 21h…画面上下幅、 21w…画面左右幅、 30…制御部、 θ…方位角、 θF11、θF12、θF13…第1、第2及び第3観視者側光学層角、 θF21、θF22、θF23…第1、第2及び第3表示装置側光学層角、 θLC…液晶配向角、 θLC1、θLC2…第1及び第2液晶配向角、 θPOL1、θPOL2…第1及び第2偏光板角、 φ…視角、 101…立体視用液晶シャッタ眼鏡、 105…液晶シャッタ、 105a、105b…第1及び第2液晶基板、 110…左眼用液晶シャッタ、 111…左側第1基板部、 112…左側第2基板部、 120…右眼用液晶シャッタ、 121…右側第1基板部、 122…左側第2基板部、 130…保持部、 131…左側耳かけ部、 132…右側耳かけ部、 133…連結部、 160…観覧席、 AF11、AF12、AF13…第1、第2及び第3観視者側光軸、 AF21、AF22、AF23…第1、第2及び第3表示装置側光軸、 APOL1、APOL2…第1及び第2吸収軸、 CRmin…最小値、 F10…観視者側光学層、 F11、F12、F13…第1、第2及び第3観視者側光学層、 F20…表示装置側光学層、 F21、F22、F23…第1、第2及び第3表示装置側光学層、 POL1、POL2…第1及び第2偏光板、 SP01〜SP10…液晶シャッタ、 T1、T2…第1及び第2応答時間、 Tr…透過率、 Tr1、Tr2…第1及び第2透過率、 V1、V2…第1及び第2電圧、 Va…印加電圧、 t…時間、 t1〜t4…第1〜第4時刻
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体視用液晶シャッタ眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置に広く実用化されている液晶は、電気信号によって透光性を制御できる機能を利用して、透光性と遮光性とを制御可能な眼鏡などの各種のシャッタにも応用されている。
【0003】
特に、娯楽、教育、放送、医療などの分野への実用化が進んでいる立体視システムにおいて、左右眼の視差に対応した左眼用像と右眼用像とを、左右眼にそれぞれ時分割で呈示する高速応答のシャッタに、液晶が用いられる。例えば、特許文献1には、右目用領域と左目用領域とを有する液晶セルを用いたシャッタ眼鏡を用いる立体映像表示装置が開示されている。
【0004】
このような液晶シャッタ眼鏡を用いた立体映像表示システムによって立体映像を観視した際に、場合によっては、疲労や不快感を覚えることがあり、快適に立体映像を観視することの妨げになることがあることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−327961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、疲労や不快感を抑制し、快適に立体映像を見ることができる立体視用液晶シャッタ眼鏡を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、左眼用液晶シャッタと、右眼用液晶シャッタと、を備え、前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタのそれぞれの応答時間は5ミリ秒以下であり、前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタのそれぞれの全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上であることを特徴とする立体視用液晶シャッタ眼鏡が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、疲労や不快感を抑制し、快適に立体映像を見ることができる立体視用液晶シャッタ眼鏡が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡の構成を例示する模式的斜視図である。
【図2】第1の実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡が用いられる立体映像表示システムの構成を例示する模式図である。
【図3】立体視用液晶シャッタ眼鏡における応答時間を例示する模式図である。
【図4】立体視映像表示システムの使用状態を例示する模式図である。
【図5】立体視用液晶シャッタ眼鏡の液晶シャッタの構成を例示する模式的斜視図である。
【図6】液晶シャッタの構成を例示する表である。
【図7】液晶シャッタの特性を例示する模式図である。
【図8】液晶シャッタの特性を例示する模式図である。
【図9】液晶シャッタの特性を例示する模式図である。
【図10】液晶シャッタの特性を例示する表である。
【図11】液晶シャッタの特性を例示する表である。
【図12】液晶シャッタの特性を例示する表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
また、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡の構成を例示する模式的斜視図である。
図2は、第1の実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡が用いられる立体映像表示システムの構成を例示する模式図である。
まず、図2により、本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡が用いられる立体映像表示システムの概要について説明する。
【0012】
図2に表したように、立体映像表示システム10は、表示装置20と、立体視用液晶シャッタ眼鏡101と、を備える。表示装置20は、表示画面21を有している。表示画面21に観視者が観視する映像が表示される。観視者は、表示画面21に表示された映像を、立体視用液晶シャッタ眼鏡101を介して観視する。
【0013】
立体映像表示システム10は、3次元映像表示モードを有している、3次元映像表示モードにおいては、表示画面21には、観視者の視差に対応する左眼用像と右眼用像とが交互に表示され、立体視用液晶シャッタ眼鏡101が、左眼用像と右眼用像との切り替えに対応してスイッチング動作を行う。これにより、左眼用像と右眼用像とが、観視者の左右眼に時分割で交互に呈示される。なお、立体映像表示システム10は、観視者が表示画面21に表示された像を2次元映像として観視する動作モードを有していても良い。以下では、3次元映像表示モードについて説明する。
【0014】
表示装置20には、例えばアクティブマトリクス型液晶ディスプレイが用いられる。表示装置20においては、例えばフィールドメモリを用いたデジタル信号処理により、例えばフィールド周波数が120Hzの映像が表示される。
【0015】
図1に表したように、立体視用液晶シャッタ眼鏡101は、左眼用液晶シャッタ110と、右眼用液晶シャッタ120と、を有する。左眼用液晶シャッタ110は観視者の左眼に対向し、右眼用液晶シャッタ120は、観視者の右眼に対向するように設計される。
【0016】
表示画面21には、左眼用像と右眼用像とが、フィールドごとに交互に切り替えて表示される。左眼用像が表示されている期間においては、左眼用液晶シャッタ110が透光状態とされ、右眼用液晶シャッタ120が遮光状態とされる。そして、右眼用像が表示されている期間においては、右眼用液晶シャッタ120が透光状態とされ、左眼用液晶シャッタ110が遮光状態とされる。
【0017】
また、立体映像表示システム10は、制御部30をさらに備えることができ、上記の立体視用液晶シャッタ眼鏡101の動作は例えば、この制御部30によって制御されることができる。ただし、制御部30の機能は、表示装置20及び立体視用液晶シャッタ眼鏡101のいずれかに含まれても良い。制御部30と表示装置20と間の信号の授受、制御部30と立体視用液晶シャッタ眼鏡101との間の信号の授受、及び、表示装置20と立体視用液晶シャッタ眼鏡101との間の信号の授受は、有線または無線の方式によって行われる。
【0018】
図1に表したように、本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡101は、左眼用液晶シャッタ110を備える。本具体例では、立体視用液晶シャッタ眼鏡101は、右眼用液晶シャッタ120と、左眼用液晶シャッタ110と右眼用液晶シャッタ120とを保持する保持部130と、をさらに備える。
【0019】
本具体例では、左眼用液晶シャッタ110は、左側第1基板部111と、左側第2基板部112と、左側第1基板部111と左側第2基板部112との間に設けられた左側液晶層(図示しない)と、を有する。左側第1基板部111及び左側第2基板部112は、左側液晶層に電圧を印加する電極及び偏光フィルム(偏光板、偏光素子)などを有する。左側第1基板部111及び左側第2基板部112は、さらに、種々の光学補償素子を有しても良い。
【0020】
右眼用液晶シャッタ120は、右側第1基板部121と、右側第2基板部122と、右側第1基板部121と右側第2基板部122との間に設けられた右側液晶層(図示しない)と、を有する。右側第1基板部121及び右側第2基板部122は、右側液晶層に電圧を印加する電極及び偏光フィルム(偏光板、偏光素子)などを有する。右側第1基板部121及び右側第2基板部122は、さらに、種々の光学補償素子を有しても良い。
【0021】
保持部130は、例えば、左側耳かけ部131と右側耳かけ部132とを有する。これにより、観視者は、立体視用液晶シャッタ眼鏡101を装着し易くなる。左側耳かけ部131及び右側耳かけ部132は必要に応じて設けられれば良い。また、左眼用液晶シャッタ110と、右眼用液晶シャッタ120と、が別体である場合は、保持部130には、左眼用液晶シャッタ110の部分と、右眼用液晶シャッタ120の部分と、を連結させる連結部133が設けられる。
【0022】
このような構成を有する本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡101においては、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120のそれぞれの応答時間は、5ミリ秒(ms)以下とされる。さらに、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120のそれぞれの全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上とされる。
【0023】
これにより、後述する3Dクロストークを視感上解消し、疲労や不快感を抑制し、快適に立体映像を見ることができる立体視用液晶シャッタ眼鏡が提供できる。
【0024】
このような特性を有する本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡101は、以下のような検討に基づいて構築された。
【0025】
すなわち、発明者は、立体映像表示システムによって立体映像を観視した際に発生し得る疲労や不快感の原因について調査した。その結果、2つの要因によって、疲労や不快感が発生し得ることを見出した。以下、その調査結果について説明する。
【0026】
まず、1つ目の要因として、立体視用液晶シャッタ眼鏡における液晶シャッタの応答速度が一定の値よりも遅い場合に、使用者は疲労や不快感を覚えることが分かった。
【0027】
ここで、液晶シャッタの応答速度に相当する応答時間に関して説明する。
図3(a)及び図3(b)は、立体視用液晶シャッタ眼鏡における応答時間を例示する模式図である。
すなわち、図3(a)は、1つの液晶シャッタに印加される印加電圧Vaを例示しており、図3(b)は、その液晶シャッタの透過率Trの変化を例示している。これらの図において、横軸は、時間tである。
【0028】
図3(a)に表したように、時刻t1において、印加電圧Vaは第1電圧V1から第2電圧V2に変化する。そして、時刻t2において、印加電圧Vaは第2電圧V2から第1電圧V1に変化する。時刻t1は、例えば右眼用像から左眼用像への切り替えにタイミングに同期しており、時刻t2は、例えば左眼用像から右眼用像への切り替えのタイミングに同期している。なお、第1電圧V1及び第2電圧V2のいずれかは、0ボルトであっても良い。すなわち、本具体例においては、第2電圧V2は0ボルトでも良い。
【0029】
このとき、時刻t1において、透過率Trは第1透過率Tr1から第2透過率Tr2に向けて変化する。そして、時刻t2において、透過率Trは第2透過率Tr2から第1透過率Tr1に向けて変化する。第1透過率Tr1と第2透過率Tr2との差を1とする。このとき、時刻t1の後に、透過率Trが0.9になる時刻を第3時刻t3とする。そして、時刻t2の後に、透過率Trが0.1になる時刻を第4時刻t4とする。
【0030】
時刻t1から時刻t3までの時間を第1応答時間T1とし、時刻t2から時刻t4までの時間を第2応答時間T2とする。第1応答時間T1は、例えばオン時の応答時間であり、第2応答時間T2は、例えばオフ時の応答時間である。
【0031】
すなわち、例えば、第1電圧V1が印加されている状態がオフ状態であり、第2電圧V2が印加されている状態がオン状態である。そして、第1透過率Tr1がオフ時透過率であり、第2透過率Tr2がオン時透過率に相当する。
【0032】
なお、図3(a)及び図3(b)は、1つの液晶シャッタの動作の例について示しており、図3(a)及び図3(b)が、例えば、左眼用液晶シャッタ110の動作に相当する。そして、左眼用液晶シャッタ110に第1電圧V1が印加されているときには、右眼用液晶シャッタ120に第2電圧V2が印加され、左眼用液晶シャッタ110に第2電圧V2が印加されているときには、右眼用液晶シャッタ120に第1電圧V1が印加される。このように、左眼用液晶シャッタ110と右眼用液晶シャッタ120とが交互にオフ状態とオン状態とに設定される。
【0033】
発明者の実験の結果、第1応答時間T1及び第2応答時間T2が、5ms以下の場合に、疲労や不快感が抑制できることが分かった。すなわち、応答時間が5msよりも長い場合、例えば、応答時間が10ms程度の場合には、使用者は疲労や不快感を覚え易い。これは、右眼用像と左眼用像との切り替えに同期して印加電圧Vaを切り替えても、透過率Trの変化に時間がかかり、使用者の左右眼に、左眼用像と右眼用像との両方の映像が呈示される時間が長いことが原因であると推定された。左眼用像と右眼用像とでは視差に対応したずれが設けられているため、両方の映像が同時に呈示されると映像のずれが知覚され、観視者の視覚がそのずれを補正しようと動作することに伴って、疲労や不快感が生じるものと推測される。
【0034】
発明者の実験によれば、この疲労や不快感を実質的に抑制するためには、第1応答時間T1及び第2応答時間T2が、5ms以下とすると良いことが分かった。すなわち、実用的には、第1応答時間T1及び第2応答時間T2が、5ms以下の場合に、疲労や不快感が実質的に問題無い程度に抑制できる。使用者の左右眼に、左眼用像と右眼用像とのずれを有する両方の映像が5ms程度以下の短い時間呈示されても、視覚はそれを実質的に知覚しないと推測される。
【0035】
これに基づき、本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡101においては、第1応答時間T1及び第2応答時間T2が5ms以下に設定される。
【0036】
なお、用いられる液晶シャッタのスイッチング時間が、左眼用像と右眼用像との切り替えのスイッチング動作に追従できない場合に正常な立体映像が得られないことは知られているが、疲労や不快感を実質的に抑制するために必要な応答時間の値を導出した例は、知られていない。
【0037】
このような応答時間を実現するために、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120には、例えば、πセル(スプレイ配列セル)に基づくOCB(Optically Compensated Bend)液晶を適用することが望ましい。すなわち、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120は、ベンド配列液晶層を含むことができる。
【0038】
適切に設計されたOCB液晶を用いることで、5ms以下の応答時間を、実用的な動作電圧範囲で得ることができる。また、OCB液晶においては、ネマティック液晶が用いられることから、機械的衝撃や熱的衝撃に対する耐性が確保でき、また、長期間の動作信頼性も確保し易い。
【0039】
ただし、以下に説明するように、第1応答時間T1及び第2応答時間T2が5ms以下である条件は、疲労や不快感を抑制し快適に立体映像を見るための十分な条件ではない。
【0040】
すなわち、使用者が疲労や不快感を覚える2つ目の要因として、液晶シャッタの視角特性が疲労や不快感に影響を与えることが見出された。以下、これに関して説明する。
【0041】
発明者は、立体視映像表示システムを実際に使用する条件に関して検討し、液晶シャッタにおける光スイッチングの視角特性が、疲労や不快感に大きく影響を与えることを見出した。
【0042】
図4は、立体視映像表示システムの使用状態を例示する模式図である。
この例では、立体視映像システムが例えば映画館や娯楽施設などにおいて多数の観視者によって観視される場合の使用状態が例示されている。
図4に表したように、表示装置20の表示画面21(例えば大型の液晶表示装置や大型のプラズマディスプレイや、投影型表示装置のスクリーンなどが用いられる)の前に、例えば階段状の観覧席160が設けられ、複数の観視者が同時に表示装置20を観視する。観覧席160の場所によって、観視者から見たときの表示画面21に向かう視角φは変化する。観視者が頭部を傾けることも考慮すると、観覧席160の端に居る観視者は、35度程度の視角φで表示画面21を観視することになる。
【0043】
そして、このときの視角φは、観覧席の位置によって、上下、左右、斜め方向に沿った角度である。すなわち、このような使用条件においては、視角φが全方位において35度程度に傾く場合がある。
【0044】
例えば、液晶シャッタの正面(視角φが0度)において良好なコントラスト比が得られていても、視角φが35度においてコントラスト比が低い場合には、観覧席の端に位置する観視者には、左眼用像及び右眼用像の両方の映像が観視者に呈示されることになる。このため、観視者の視覚は、左眼用像及び右眼用像のずれのある映像を補正しようと動作し、この結果、液晶シャッタの視角特性が悪い場合に疲労や不快感が生じ易い。このように、液晶シャッタの視角特性に起因して、左眼用像と右眼用像とが同時に観視者に提供される現象を「3Dクロストーク」ということにする。
【0045】
このように、例えば、種々の方向から観視される立体視映像表示システムにおいては、視角φが全方位において35度の場合にも良好な立体視が可能であることが条件となる。
【0046】
発明者は、視角特性の良好な液晶シャッタを用いた場合と、視角特性の悪い液晶シャッタを用いた場合と、で、3Dクロストークが変化し、その結果、疲労や不快感が大きく変化することを発見し、この特性に着目した。そして、液晶シャッタにおける光スイッチング特性(コントラスト比)の視角特性と、立体視の知覚特性と、について調査した。
【0047】
なお、コントラスト比は、液晶シャッタの遮光状態の透過率(例えば第1透過率Tr1)と、透光状態の透過率(例えば第2透過率Tr2)と、の比率である。
【0048】
以下、液晶シャッタにおける視角特性の検討結果について説明する。
図5は、立体視用液晶シャッタ眼鏡の液晶シャッタの構成を例示する模式的斜視図である。
以下では、左眼用液晶シャッタ110と右眼用液晶シャッタ120とにおいて、構成と特性が同様である場合として、これらを代表する液晶シャッタ105について説明する。
【0049】
液晶シャッタ105は、第1液晶基板105aと第2液晶基板105bとを有するものとする。第1液晶基板105aは観視者の側に配置され、第2液晶基板105bは表示装置20の側に配置されるものとする。第1液晶基板105aと第2液晶基板105bとの間に、図示しない液晶層が設けられる。第1液晶基板105aにおける液晶分子の配向方向(液晶分子の長軸の方向)とX軸方向とのなす角を第1液晶配向角θLC1とする。第2液晶基板105bにおける液晶分子の配向方向(液晶分子の長軸の方向)とX軸方向とのなす角を第2液晶配向角θLC2とする。本検討では、液晶層としてOCBモードの液晶層を用いるものとし、第1液晶配向角θLC1と第2液晶配向角θLC2とは同じであり、これらを液晶配向角θLCとする。
【0050】
第1液晶基板105aの第2液晶基板105bとは反対の側に、第1偏光板POL1が配置される。第1偏光板POL1は、観視者の側の偏光板である。第2液晶基板105bの第1液晶基板105aとは反対の側に、第2偏光板POL2が配置される。第2偏光板POL2は、表示装置20の側の偏光板である。第1偏光板POL1の吸収軸(第1吸収軸APOL1)と、X軸方向と、のなす角を第1偏光板角θPOL1とする。第2偏光板POL2の吸収軸(第2吸収軸APOL2)と、X軸方向と、のなす角を第2偏光板角θPOL2とする。
【0051】
第1液晶基板105aと第1偏光板POL1との間に、観視者側光学層F10が設けられ、第2液晶基板105bと第2偏光板POL2との間に、表示装置側光学層F20が設けられる。
【0052】
例えば、第1液晶基板105aと第1偏光板POL1との間に、第1観視者側光学層F11が設けられる場合がある。第1観視者側光学層F11の第1観視者側光軸AF11と、X軸方向と、のなす角を第1観視者側光学層角θF11とする。
【0053】
第2液晶基板105bと第2偏光板POL2との間に、第1表示装置側光学層F21が設けられる場合がある。第1表示装置側光学層F21の第1表示装置側光軸AF21と、X軸方向と、のなす角を第1表示装置側光学層角θF21とする。
【0054】
第1観視者側光学層F11と第1偏光板POL1との間に、第2観視者側光学層F12が設けられる場合がある。第2観視者側光学層F12の第2観視者側光軸AF12と、X軸方向と、のなす角を第2観視者側光学層角θF12とする。
【0055】
第1表示装置側光学層F21と第2偏光板POL2との間に、第2表示装置側光学層F22が設けられる場合がある。第2表示装置側光学層F22の第2表示装置側光軸AF22と、X軸方向と、のなす角を第2表示装置側光学層角θF22とする。
【0056】
第2観視者側光学層F12と第1偏光板POL1との間に、第3観視者側光学層F13が設けられる場合がある。第3観視者側光学層F13の第3観視者側光軸AF13と、X軸方向と、のなす角を第3観視者側光学層角θF13とする。
【0057】
第2表示装置側光学層F22と第2偏光板POL2との間に、第3表示装置側光学層F23が設けられる場合がある。第3表示装置側光学層F23の第3表示装置側光軸AF23と、X軸方向と、のなす角を第3表示装置側光学層角θF23とする。
【0058】
なお、図5に表したように、視角φは、Z軸方向を基準とした極角である。また方位角θは、X軸方向を基準とした角度である。
【0059】
図6は、液晶シャッタの構成を例示する表である。
図6に表したように、本検討では、10種類の液晶シャッタSP01〜SP10が検討された。液晶シャッタSP01〜SP10のそれぞれが有する光学要素とその条件は、図6に表された通りである。
【0060】
図6において、RF11は、第1観視者側光学層F11のリタデーションである。すなわち、液晶シャッタSP01〜SP06、及び、SP08〜SP10においては、RF11は、第1観視者側光学層F11における面内方向のリタデーションである。そして、液晶シャッタSP07においては、RF11は、第1観視者側光学層F11における厚さ方向のリタデーションである。
【0061】
また、RF21は、第1表示装置側光学層F21のリタデーションである。すなわち、液晶シャッタSP01〜SP06、及び、SP08〜SP10においては、RF21は、第1表示装置側光学層F21における面内方向のリタデーションである。そして、液晶シャッタSP07においては、RF21は、第1表示装置側光学層F21における厚さ方向のリタデーションである。
【0062】
また、ReF12及びReF13は、それぞれ、第2及び第3観視者側光学層F12及びF13における面内方向のリタデーションである。また、ReF22及びReF23は、それぞれ、第2及び第3表示装置側光学層F22及びF23における面内方向のリタデーションである。
【0063】
また、RtF12及びRtF13は、それぞれ、第2及び第3観視者側光学層F12及びF13における厚さ方向のリタデーションである。また、RtF22及びRtF23は、それぞれ、第2及び第3表示装置側光学層F22及びF23における厚さ方向のリタデーションである。
【0064】
また、Δnは、550ナノメートル(nm)における液晶層の複屈折率であり、Δεは、液晶層の誘電率異方性である。
【0065】
第1、第2及び第3観視者側光学層F11、F12及びF13、並びに、第1、第2及び第3表示装置側光学層F21、F22及びF23における「type」は、以下を指す。「type−A」は、正の屈折率異方性を有する光学フィルムである。「type−B」は、二軸の光学フィルムである。「type−C」は、負の屈折率異方性を有する光学フィルムである。「type−D」は、光軸の角度が厚さ方向に沿って変化している負の光学異方性を有する光学フィルムである。「type−E」は、光軸の角度が厚さ方向に沿って変化している負の光学異方性を有する層と、2軸の光学層と、を積層した光学フィルムである。
【0066】
図6に例示した構成を有する10種類の液晶シャッタSP01〜SP10の光学特性がシミュレーションされた。
図7(a)〜図7(d)、図8(a)〜図8(d)、及び、図9(a)及び図9(b)は、液晶シャッタの特性を例示する模式図である。
【0067】
これらの図において、複数の同心円が表示されており、一番内側の円が20度の視角φに対応し、その次の円が35度の視角φに対応し、その次の円が40度の視角φに対応し、その次の円が60度の視角φに対応し、一番外側の円が80度の視角φに対応する。
【0068】
また、これらの図において濃度の濃い領域はコントラスト比が高い領域に相当し、濃度が低い領域はコントラストが低い領域に相当する。また、これらの図には、内側と外側の2つの曲線の実線が描かれている。外側の実線は、100:1のコントラスト比に相当する。外側の実線よりも内部の領域は、コントラスト比が100:1よりも高い領域に相当する。内側の実線は、500:1のコントラスト比に相当する。内側の実線よりも内部の領域は、コントラスト比が500:1よりも高い領域に相当する。
【0069】
図7(a)〜図7(d)、図8(a)〜図8(d)、及び、図9(a)及び図9(b)に表したように、液晶シャッタ105の構成により、コントラスト比の視角φ依存性は、大きく変化する。
【0070】
図7(a)に表した液晶シャッタSP01、及び、図7(b)に表した液晶シャッタSP02においては、高いコントラスト比が得られる視角φの領域が広い。
【0071】
図7(c)に表した液晶シャッタSP03、及び、図7(d)に表した液晶シャッタSP04においては、高いコントラスト比が得られる視角φの領域が著しく狭い。
【0072】
図8(a)に表した液晶シャッタSP05、図8(b)に表した液晶シャッタSP06及び、図8(c)に表した液晶シャッタSP07においては、高いコントラスト比が得られる視角φの領域は、液晶シャッタSP01及びSP02に比べれば狭いものの、液晶シャッタSP03及びSP04に比べれば広い。
【0073】
図8(d)に表した液晶シャッタSP08、図9(a)に表した液晶シャッタSP09及び、図9(b)に表した液晶シャッタSP10においても、高いコントラスト比が得られる視角φの領域は、液晶シャッタSP01及びSP02に比べれば狭いものの、液晶シャッタSP03及びSP04に比べれば広い。
【0074】
図10〜図12は、液晶シャッタの特性を例示する表である。
すなわち、これらの表は、液晶シャッタSP01〜SP10の、全方位(方位角θが0度〜355度)で視角φが35度のときのコントラスト比の値を示している。図10は、方位角θが0度〜120度の結果に対応し、図11は、方位角θが125度〜240度の結果に対応し、図12は、方位角θが245度〜355度の結果に対応する。そして、図12の一番下の欄に、コントラスト比の最小値CRminが示されている。
【0075】
図12に表したように、視角φが35度の時のコントラスト比の全方位における最小値CRminは、液晶シャッタSP01〜SP010の順に、429:1、484:1、25:1、30:1、45:1、68:1、79:1、616:1、162:1、及び、45:1であった。すなわち、全方位におけるコントラスト比は、液晶シャッタSP01、SP02及びSP08が非常に高く、液晶シャッタSP03及びSP04が非常に低い。
【0076】
そして、上記のうちで、視角特性が良好な液晶シャッタSP01に関して実際の液晶シャッタを作製し、立体視映像システムに用いて実験したところ、疲労や不快感は実質的に発生せず、良好な立体視が得られた。なお、この液晶シャッタの応答時間は5ms以下である。
【0077】
一方、視角特性が良好でない、液晶シャッタSP03及びSP04の特性に相当する液晶シャッタを実際に立体視映像システムに用いると、疲労や不快感が発生した。この比較例の液晶シャッタの応答時間は5ms以下であり、応答時間が5msを満たしていても、立体視映像システムの実用的な使用状態においては、視角特性が悪い場合には3Dクロストークによる疲労や不快感が発生することが分かった。
【0078】
実験の結果、全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上である条件において、疲労や不快感は実質的に発生せず、良好な立体視が得られることが確認された。そして、全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1に満たない場合には、疲労や不快感が発生し易いことも確認された。すなわち、全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上である液晶シャッタを用いることで、立体視特有の3Dクロストークが抑制できる。
【0079】
上記の液晶シャッタSP01、SP02、SP05、SP06、SP07、SP08、SP09及びSP10においては、視角特性は許容範囲内であり、3Dクロストークが抑制できる。液晶シャッタSP01及びSP02においては、視角特性は特に良好であり、3Dクロストークの抑制効果が特に高い。
【0080】
立体視映像システムに用いる液晶シャッタの応答時間が短いことが望まれることは定性的に知られているが、今回の発明者の検討により、液晶シャッタの良好な応答時間が定量的に判明した。さらに、実用的な観点から、応答時間だけでなく、視角特性が重要であることが判明した。そして、良好な視角特性に関しても、定量的に求められた。
【0081】
すなわち、本実施形態に係る立体視用液晶シャッタ眼鏡101においては、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120のそれぞれの応答時間が、5ms以下であり、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120のそれぞれの全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上とされることで、疲労や不快感を抑制し、快適に立体映像を見ることができる立体視用液晶シャッタ眼鏡が提供できる。
【0082】
そして、全方位における視角φが35度のときのコントラスト比は、100:1以上であることがさらに望ましい。すなわち、上記の液晶シャッタSP01、SP02、SP08及びSP09においては、さらに良好な特性が得られる。
そして、全方位における視角φが35度のときのコントラスト比は、400:1以上であることがさらに望ましい。すなわち、上記の液晶シャッタSP01、SP02及びSP08においては、さらに良好な特性が得られる。
【0083】
また、上記のように、左眼用液晶シャッタ110及び右眼用液晶シャッタ120のそれぞれは、光学層を含むことができる。そして、この光学層は、光軸の角度が厚さ方向に沿って変化する負の光学異方性を有する層を有することが望ましい。すなわち、光学層として、例えば上記の「type−D」や「type−E」などを用いることができる。これにより、全方位における視角φが35度のときのコントラスト比が40:1以上の良好な特性を得ることができる。さらに、適切な設計により、コントラスト比が100:1以上や400:1以上のさらに望ましい特性を得ることもができる。
【0084】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、立体視用液晶シャッタ眼鏡に含まれる液晶シャッタ及び保持部、並びに、立体視映像表示システムに含まれる表示装置及び制御部等、各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0085】
その他、本発明の実施の形態として上述した立体視用液晶シャッタ眼鏡及び立体視映像表示システムを基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての立体視用液晶シャッタ眼鏡及び立体視映像表示システムも、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0086】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
【符号の説明】
【0087】
10…立体視映像表示システム、 20…表示装置、 21…表示画面、 21h…画面上下幅、 21w…画面左右幅、 30…制御部、 θ…方位角、 θF11、θF12、θF13…第1、第2及び第3観視者側光学層角、 θF21、θF22、θF23…第1、第2及び第3表示装置側光学層角、 θLC…液晶配向角、 θLC1、θLC2…第1及び第2液晶配向角、 θPOL1、θPOL2…第1及び第2偏光板角、 φ…視角、 101…立体視用液晶シャッタ眼鏡、 105…液晶シャッタ、 105a、105b…第1及び第2液晶基板、 110…左眼用液晶シャッタ、 111…左側第1基板部、 112…左側第2基板部、 120…右眼用液晶シャッタ、 121…右側第1基板部、 122…左側第2基板部、 130…保持部、 131…左側耳かけ部、 132…右側耳かけ部、 133…連結部、 160…観覧席、 AF11、AF12、AF13…第1、第2及び第3観視者側光軸、 AF21、AF22、AF23…第1、第2及び第3表示装置側光軸、 APOL1、APOL2…第1及び第2吸収軸、 CRmin…最小値、 F10…観視者側光学層、 F11、F12、F13…第1、第2及び第3観視者側光学層、 F20…表示装置側光学層、 F21、F22、F23…第1、第2及び第3表示装置側光学層、 POL1、POL2…第1及び第2偏光板、 SP01〜SP10…液晶シャッタ、 T1、T2…第1及び第2応答時間、 Tr…透過率、 Tr1、Tr2…第1及び第2透過率、 V1、V2…第1及び第2電圧、 Va…印加電圧、 t…時間、 t1〜t4…第1〜第4時刻
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左眼用液晶シャッタと、
右眼用液晶シャッタと、
を備え、
前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタのそれぞれの応答時間は5ミリ秒以下であり、
前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタのそれぞれの全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上であることを特徴とする立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【請求項2】
前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタは、ベンド配列液晶層を含むことを特徴とする請求項1記載の立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【請求項3】
前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタのそれぞれは、光学層を含むことを特徴とする請求項2記載の立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【請求項4】
前記光学層は、光軸の角度が厚さ方向に沿って変化する負の光学異方性を有する層を有することを特徴とする請求項3記載の立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【請求項5】
前記コントラスト比が100:1以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【請求項6】
前記コントラスト比が400:1以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【請求項1】
左眼用液晶シャッタと、
右眼用液晶シャッタと、
を備え、
前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタのそれぞれの応答時間は5ミリ秒以下であり、
前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタのそれぞれの全方位における視角が35度のときのコントラスト比が40:1以上であることを特徴とする立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【請求項2】
前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタは、ベンド配列液晶層を含むことを特徴とする請求項1記載の立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【請求項3】
前記左眼用液晶シャッタ及び前記右眼用液晶シャッタのそれぞれは、光学層を含むことを特徴とする請求項2記載の立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【請求項4】
前記光学層は、光軸の角度が厚さ方向に沿って変化する負の光学異方性を有する層を有することを特徴とする請求項3記載の立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【請求項5】
前記コントラスト比が100:1以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【請求項6】
前記コントラスト比が400:1以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の立体視用液晶シャッタ眼鏡。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−209562(P2011−209562A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78029(P2010−78029)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(302020207)東芝モバイルディスプレイ株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(302020207)東芝モバイルディスプレイ株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】
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