説明

立体造形方法および立体造形装置

【課題】小型で簡素な構成の装置により、短時間で精密な立体モデルを作成することが可能な立体造形方法および立体造形装置を提案すること。
【解決手段】シート積層法による立体造形において、水溶紙からなるシート材Sを積層材料として用いる。各層の積層時に、液滴吐出ヘッド7のノズルを用いて硬化型水溶液を滴下することにより、各層のシート材Sにおける立体モデルMの断面部分を不溶化すると共に、着色部位には硬化型の着色用溶液を滴下して着色し硬化する。積層体S0の完成後に、積層体S0を水に浸して不溶化されていないシート材Sを除去し、立体モデルMを完成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材を積層して3次元形状の立体モデルを作成する立体造形方法および立体造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、3次元形状の立体モデルを作成する立体造形方法としては、UV硬化樹脂を立体モデルの断面形状にレーザで硬化させて積層モデルの各層を形成する光造形法、粉末材料をレーザで溶着し固化させて積層モデルの各層を形成する粉末焼結法、熱可塑性材料を加熱しノズルから押し出して堆積させることにより積層モデルの各層を形成する溶融物堆積法、紙などのシート材をモデルの断面形状にカットして積層し接着することにより積層モデルを形成するシート積層法、などが提案されている。
【0003】
上記の方法のうち、光造形法、粉末焼結法、溶融物堆積法の各方法は、レーザ照射装置や樹脂槽、成形品の表面を洗浄する設備、あるいは溶融樹脂供給設備などを備えた大型で高価な装置が必要であった。また、特殊な材料を用いるために施設内の換気が必要であり、装置荷重や動作時の振動などに対応するために床の補強が必要になる場合もあった。従って、一般的なオフィスに設置するのは困難であった。また、樹脂材料等を硬化させるための時間が長く、造形に時間がかかってしまっていた。これに対し、シート積層法は一般的な材料である紙やフィルムなどを材料とすることができるため、上記各方法よりも簡易かつ小型な装置で実現できる。
【0004】
シート積層法により立体造形を行う装置の例としては、特許文献1に記載されているものがある。特許文献1の3次元形状創成装置(立体造形装置)は、ローラに巻かれた状態あるいは定型にカットされた状態の樹脂フィルムを順次積層して積層体を形成し、各層を積層する際に、立体モデルの断面形状をレーザなどの光や熱によって描画して描画部分の樹脂フィルムに所定の化学反応を起こさせる。そして、積層体の完成後に、描画処理による反応部分以外の部分を溶媒等で溶かして除去する処理を行い、立体モデルを完成させている。
【特許文献1】特開平10−244596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の3次元形状創成装置(立体造形装置)は、レーザ光やサーマルヘッドの熱によって溶媒に溶けないように樹脂フィルムを変質させている。レーザ照射装置は精密な描画が可能であるが、大型で高価な装置が必要となる。また、サーマルヘッドでは細かいパターンの加熱は困難であり、精密な断面形状には対応できないという問題点がある。また、レーザ光や熱により溶媒に溶けないように変質可能な素材は限定されており、シート材の素材がそのような特性の樹脂材料に限定されてしまう。
【0006】
また、特許文献1の3次元形状創成装置(立体造形装置)は、立体モデル部分の着色機能を備えていないため、カラー立体造形を行うためには予めシート材に着色しておくか、造形後に着色工程を行わなければならない。よって、そのための機材等が別途必要になり、カラー立体モデル完成までに時間がかかってしまう。また、造形後に着色を行う場合には、立体モデルの内部への着色が困難であるという問題点があった。
【0007】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、シート材不溶化液と反応して不溶化するシート素材を用いて、小型で簡素な構成の装置により、短時間で精密な立体モデルを作成することが可能な立体造形方法および立体造形装置を提案することにある。
【0008】
また、本発明の他の課題は、シート積層法による立体モデルの造形と着色を同一装置内において同時進行で行うことにより、カラー立体モデルを短時間で完成させることができると共に、カラー立体モデルの内部への着色や精密な着色が可能な立体造形方法および立体造形装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の立体造形方法は、
シート材を積層して立体モデルを形成する立体造形方法であって、
各層のシート材を積層するときに、
各層のシート材における前記立体モデルの断面の部分に液滴吐出ヘッドを用いてシート材不溶化液を滴下して、当該断面の部分を不溶化すると共に、
当該断面の少なくとも一部をその上下の層のシート材と接着し、
全ての層のシート材を積層し接着した後に、各層のシート材における不溶化されていない部分をシート材溶解液により溶解させて除去することを特徴としている。
【0010】
本発明では、このように、シート材不溶化液を液滴吐出ヘッドから滴下することにより、各層のシート材における立体モデルの断面部分を不溶化している。そして、積層体完成後に、不溶化されていないシート材の不要部分を溶解させて除去する。このような方法では、各層を立体モデルの断面形状にカッティングする必要がないので、短時間で立体モデルを作成することができる。また、カッター刃などの刃物によるカッティング手段が不要になるので、安全かつ簡素な構成の装置で立体造形を行うことができる。また、液滴吐出ヘッドを用いることにより短時間で精密なパターンにシート材不溶化液を滴下することができると共に、シート材の不要部分を溶解させて除去するので、精密な立体モデルを短時間で作成することができる。また、不溶化されたシート材によって耐水性のある立体モデルを作成することができる。
【0011】
本発明において、前記シート材不溶化液により、着色対象の層のシート材における前記立体モデルの断面の部分を着色するとよい。シート材不溶化液として所望の色の着色用溶液を用いることにより、不溶化工程と着色工程を同一工程で行うことができる。よって、短時間でカラー立体モデルを作成することができる。また、液滴吐出ヘッドを用いることにより、微細なパターンの着色を行うことができ、フルカラーの着色も可能である。また、各層を積層する際に着色を行うので、積層体完成後の着色が困難な内部層の部分の着色も可能である。
【0012】
ここで、本発明における前記シート材として水溶性バインダーおよび製紙用繊維材を含有している水溶紙を用い、前記シート材溶解液として水を用いるとよい。また、前記シート材不溶化液として熱や紫外線などによる硬化型溶液を用いるとよい。このように、水溶紙を用いれば、シート材の不要部分を溶解させる処理を化学薬品などを用いずに水による洗浄あるいは水への浸漬などにより行うことができるので、不要部分の除去作業を容易かつ安全に行うことができる。
【0013】
また、本発明により作成される前記立体モデルは外部に連通する中空部を有する形状であり、当該中空部は、内部に充填された充填物をそのままの形状で引き出し不能な形状である。本発明では、不要部分のシート材を溶解させて除去するので、このような形状の中空部を有する立体モデルであっても、最後にまとめてシート材の不要部分を除去することができる。よって、複雑な形状立体モデルを短時間で容易に作成することができる。
【0014】
本発明において、各層のシート材をその上下の層のシート材と接着するときには、下層側のシート材の上に前記シート材溶解液または接着剤を滴下して溶着または接着するか、あるいは、上層側のシート材の上から加熱押圧して熱圧着させるとよい。このような接着方法によれば、必要な部分だけを容易に接着できる。また、サーマルヘッドなどの熱圧着手段を用いずにシート材溶解液または接着剤を滴下する方法では、シート材に予め接着剤などを塗布しておく必要がない。また、立体造形に用いる機材を削減でき、簡素な構成の装置で立体造形を行うことができる。
【0015】
また、上記問題点を解決するために、本発明の立体造形装置は、
シート材不溶化液を滴下する液滴吐出ヘッドと、
当該液滴吐出ヘッドに対向している滴下位置にシート材を搬送して積層させるシート材搬送機構と、
シート材溶解液を供給あるいは貯留するシート材溶解手段と、
前記立体モデルの形状データが入力される制御部と、を有し、
当該制御部は、前記形状データに基づいて前記液滴吐出ヘッドおよび前記シート材搬送機構を制御することにより、上述した各立体造形方法によって前記立体モデルを形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、積層体を形成する各層のシート材を立体モデルの断面形状にカッティングする必要がないので、短時間で立体モデルを作成することができる。また、カッター刃などの刃物によるカッティング手段が不要になるので、安全かつ簡素な構成の装置で立体造形を行うことができる。また、液滴吐出ヘッドを用いることにより短時間で精密なパターンにシート材不溶化液を滴下することができると共に、シート材の不要部分を溶解させて除去するので、精密な立体モデルを短時間で作成することができる。また、不溶化されたシート材によって耐水性のある立体モデルを作成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面を参照して、本発明の実施形態に係る立体造形装置および立体造形方法について説明する。
【0018】
(シート材)
本実施形態の立体造形装置はシート積層法により立体モデルを成形するための装置である。そこで、まず、積層材料となるシート材Sについて説明する。シート材Sは、木材パルプ繊維などの製紙用繊維材に水溶性バインダーを加えて抄紙などの製紙方法によりシート状に成形した特殊紙であり、シート積層法による立体形成に適した厚さおよび強度に成形されている。
【0019】
より詳しく説明すると、シート材Sは、成形後にアルカリによって処理することにより、水(シート材溶解液)によって溶解しやすくなる性質を付与された水溶紙である。シート材Sに水を滴下するなどして浸透させると、水が浸透した部分の水溶性バインダーが溶解してパルプ繊維間の水素結合が解消するので、水が浸透した部分はばらばらになったパルプ繊維だけが残る。よって、シート材Sを水の滴下によって切断したり、シート材Sの不要部分を水の滴下によって溶解させて除去することが可能である。
【0020】
シート材Sは、樹脂溶液などの硬化型溶液を含浸させることが可能な材質であり、含浸部分に対して所定の硬化処理を施すことにより、含浸部分に硬化型溶液を固着させて不溶化することができる。硬化型溶液としては、例えば、常温硬化型(速乾性)溶液、熱硬化型溶液、紫外線(UV)硬化型溶液、電子線(EB)硬化型溶液を用いることが可能である。これらの各溶液を用いる場合には、各溶液の特性に合った硬化処理を施すとよい。なお、シート材Sは、pH2〜3程度の酸性水溶液(シート材不溶化液)を含浸させると含浸部分の水溶性がなくなり、水に溶解しにくくなるという性質を備えている。よって、硬化型溶液の代わりに酸性水溶液を用いて不溶化することも可能である。
【0021】
そこで、このような硬化型溶液や酸性水溶液を含浸させながらシート材Sを積層し、立体モデル部分だけを不溶化したシート材Sの積層体を形成した後、この積層体を水に浸したり積層体に水を注いで洗浄するなどの処理を行うことにより、不溶化されていないシート材Sの部分を溶解させて除去し、立体モデル部分だけを残すことが可能である。
【0022】
(立体造形装置)
次に、立体造形装置について説明する。図1は、立体造形装置の概略構成図である。立体造形装置1は、装置フレーム内に設けられた昇降可能な積層台2と、ロール紙状に巻かれたシート材Sを転動可能に保持している給紙部3と、給紙部3から繰り出される一定幅の連続紙状のシート材Sをシート材搬送経路4に沿って送り出し、積層台2の上の積層位置まで搬送する搬送機構5と、搬送機構5によって積層台2の上に位置合わせされたシート材Sを所定長さに切断する切断機構6と、積層台2の上にノズル面を向けて配置された液滴吐出ヘッド7と、液滴吐出ヘッド7を搭載するヘッドキャリッジ8およびその駆動機構9と、積層台2の上に積層されたシート材Sの所定部位を加熱して熱圧着させるためのサーマルヘッド10と、これらの各機構を制御する制御部11などを備えている。
【0023】
また、立体造形装置1は、各種水溶液やインク、水あるいは接着剤などの液体を封入した複数個の液体パックを収容したカートリッジ12を装着可能なカートリッジ装着部13を備えている。カートリッジ12をカートリッジ装着部13に装着すると、カートリッジ装着部13側に設けられた供給針がカートリッジ12内の液体パックなどの供給口に差込接続される。供給針は液滴吐出ヘッド7から延びる可撓性の供給流路に接続されているので、液滴吐出ヘッド7のノズルに液体パック内の各液体が供給される。
【0024】
積層台2は、水平な積層面2aを備えており、図示しない昇降機構によって積層面2aを上下動させ、積層面2aの高さを調整可能に構成されている。積層面2aは、作成する立体モデルMの平面形状に合わせて切断される矩形等のシート材Sを重ねて積層可能な大きさに形成されており、この積層面2aの上にシート材Sの積層位置が設定されている。
【0025】
立体造形装置1には、積層台2の上に形成されるシート材Sの積層体S0を装置外に排出するための図示しない排出機構が設けられている。排出機構によって装置外に排出された積層体S0は、後述する不要部分のシート材Sを除去する除去工程を行うための水槽14(シート材溶解手段)内に移され、水の中に浸漬される。なお、積層台2の上の積層体S0を水槽14に搬送するための搬送機構を設けてもよい。また、水槽14内にシャワーノズルを設け、シャワーノズルから積層体S0に水を浴びせて速やかにシート材Sの不要部分を溶かすように構成してもよい。
【0026】
搬送機構5は、給紙部3から送り出されるシート材Sをシート材搬送経路4上の所定位置で把持する紙送りローラ対を備えており、この紙送りローラ対を紙送りモータによって同期して正逆方向に回転駆動させることにより、シート材搬送経路4に沿って前進方向あるいは後退方向にシート材Sを搬送する。
【0027】
切断機構6は、可動刃および固定刃を備えた鋏式のものである。切断機構6は、搬送機構5により積層面2a上の積層位置に位置合わせされたシート材Sに向かって可動刃を動かし、当該シート材Sを、その先端から所定長さの位置で幅方向に切断する。
【0028】
駆動機構9は、液滴吐出ヘッド7を搭載したヘッドキャリッジ8を水平面内で自由に移動させることが可能なXYプロッタ機構を備えている。これにより、積層台2の上で任意の経路に沿って液滴吐出ヘッド7を動かし、液滴吐出ヘッド7のノズルから積層台2上の任意の位置に着色用溶液や水溶液、水などの各種液体を滴下することができる。
【0029】
立体造形装置1の制御部11には、ホストコンピュータなどの外部装置15から、作成する立体モデルMの形状データや、その着色部位および着色パターンを示す着色データが入力される。また、シート材Sの厚さや寸法、材質などのデータが入力される。なお、シート材Sの厚さや寸法を、立体造形装置1内のセンサで検出することにより取得してもよい。制御部11は、これらの形状データや着色データ等に基づいてヘッドドライバを介して液滴吐出ヘッド7を駆動制御することにより、形状データや着色データにおいて指示された種類の液体を液滴吐出ヘッド7のノズルから滴下することができる。
【0030】
制御部11は、モータドライバを介して、駆動機構9のX軸モータおよびY軸モータ、搬送機構5の紙送りモータ、あるいは切断機構6のカットモータなどを駆動制御する。また、制御部11は、シート材搬送経路4に沿って、あるいは積層台2に設けられた検出センサ等の出力により、搬送中のシート材Sの先端位置などを把握可能に構成されている。これにより、シート材Sを積層面2a上の積層位置に正確に位置合わせして積層することができる。また、形状データによって指示された寸法に切断機構6によってシート材Sを切断することができる。また、各層のシート材S上の指定された位置に、液滴吐出ヘッド7のノズルを位置合わせすることができる。
【0031】
また、制御部11は、積層台2の昇降機構の駆動源であるモータをモータドライバを介して駆動制御することにより、積層台2にシート材Sが積層される毎に、積層されたシート材Sの厚さに応じて積層面2aを下降させる。あるいは、シート材Sの積層体S0の最上面の位置をセンサ等で検出して、最上面の位置を所定の高さに位置合わせするように積層面2aを下降させてもよい。これにより、最上層のシート材Sと液滴吐出ヘッド7のノズルとの距離を一定に保つことができ、最上層に積層されたシート材Sに、液滴吐出ヘッド7による溶液等の滴下を正確に行うことができる。すなわち、立体造形装置1の制御部11は、積層台2の上で加工工程を行うときは、シート材Sの積層体の各層を加工内容に応じた高さに位置合わせするように積層台2を上下動させることができる。
【0032】
(立体造形方法)
次に、上記構成の立体造形装置1による立体造形方法について説明する。図2(a)はシート材の積層体における各層の平面図、図2(b)はシート材の積層体の断面図である。図2(a)(b)に示す領域Lは積層体S0の各層のシート材Sの高さにおける立体モデルMの断面形状の部分であり、不溶化されて立体モデルMの一部となる部分である。また、各層における領域Lの外側の部分は、積層体S0の完成後に除去される不要部分である。また、図3は立体造形方法の説明図である。
【0033】
まず、外部装置15において、CADプログラム等を用いて立体モデルMの3次元形状データを作成し、立体造形装置1に出力する。また、外部装置15から、造形材料であるシート材Sの厚さtや紙幅などの各種情報を立体造形装置1に出力する。立体造形装置1の制御部11は、外部装置15から入力された3次元形状データから立体モデルMの3次元形状を解析した後、この3次元形状を、シート材Sの厚さtを1層の高さとして高さ方向にスライスして分割する。そして、スライスした各層ごとに、この3次元形状の断面形状すなわち立体モデルMの断面形状をイメージデータに展開し、バッファに格納する。なお、外部装置15側で立体モデルMを厚さtでスライスした各層における断面形状データを作成して、立体造形装置1に出力してもよい。
【0034】
次に、制御部11は、各層のシート材Sを積層すると共に、各層のシート材Sにおける立体モデルMの断面形状部分を不溶化して積層体S0を形成する。以下、図3(a)〜(d)に基づいて、積層体S0の各層を形成する工程について説明する。
【0035】
制御部11は、まず、図3(a)に示すように、搬送機構5を制御して給紙部3から繰り出したシート材Sを積層面2a上まで搬送して積層位置に位置合わせした後、切断機構6によって所定の寸法に切断し、最下層の場合は積層面2aの上に、その上の層の場合は既に積層されているシート材Sの上に、矩形のカットシートを載置する。なお、給紙部3に予め定型にカットされたカットシート状のシート材Sをセットしておく場合には、切断工程および切断機構6を省略できる。
【0036】
次に、図3(b)に示すように、サーマルヘッド10で領域L内の所定部分(例えば、領域Lの外周に沿った部分)を加熱して、シート材Sを下の層と部分的に接着する。なお、領域L全体を下の層と接着してもよいし、この層のシート材S全体を下の層と接着してもよい。シート材Sには、予め熱で溶ける接着剤を塗布しておく。
【0037】
続いて、制御部11は、図3(c)に示すように、シート材Sの上で領域Lの輪郭線の外側に沿って液滴吐出ヘッド7を水平方向に動かし、液滴吐出ヘッド7の水滴下用のノズルから、領域Lの輪郭線の形状に沿って水を滴下する。これにより、領域Lの外周の外側に沿って細い水の浸透部分Bを形成する。このとき、制御部11は、水の浸透部分Bが領域Lの内側に広がらないように各位置における水の滴下量や滴下タイミングを制御する。このような水の浸透部分Bを形成することにより、不要部分を除去することもできる。なお、水の浸透部分Bを形成する工程は省略可能である。
【0038】
水の滴下の後に、制御部11は、図3(d)に示すように、領域Lの上で液滴吐出ヘッド7を動かし、液滴吐出ヘッド7の硬化型溶液滴下用のノズルから、領域Lの部分に硬化型溶液を滴下する。これにより、領域Lと同一形状になるように硬化型溶液の浸透部分を形成する。このとき、硬化型溶液がシート材Sの裏側まで浸透するように各位置における硬化型溶液の滴下量を制御する。そして、所定の硬化処理を施して浸透部分を硬化させる。
【0039】
制御部11は、図3(a)〜(d)の4工程をシート材Sの積層数だけ繰り返して、立体モデルMの形状よりも一回り大きな積層体S0を形成する。その後、図3(e)に示すように、積層台2の上から装置外に積層体S0を排出して、水槽14内の中で水に浸し、不溶化されていない外周側のシート材Sを溶解させ、立体モデルMの部分だけを残して不要なシート材Sの部分を除去する。
【0040】
除去後、残った部分を乾燥させることにより、立体モデルMの造形が完了する。なお、不溶化されて残ったシート材Sの端部は鋭利な端面ではなく、水では溶解しないパルプ繊維などが長く飛び出した部分が毛羽立った状態になっていることもある。そこで、乾燥させた立体モデルMの表面にサンドペーパーなどによって磨き処理を施して滑らかにし、その上にコーティング剤を塗って表面補強を行うなどの表面仕上げを行っても良い。このようにすると、立体モデルMの劣化を抑制することができ、滑らかな表面の立体モデルMを作成することができる。
【0041】
このように、本実施形態では、硬化型溶液を液滴吐出ヘッドから滴下することにより、各層のシート材Sにおける立体モデルMの断面形状の部分である領域Lの部分を不溶化している。そして、完成した積層体S0を水に浸して、不溶化されていないシート材Sの部分を溶解させて除去する。このような方法によれば、各層を立体モデルMの断面形状にカッティングする必要がないので、短時間で立体モデルMを作成することができる。また、カッター刃などの刃物によるカッティング手段が不要になるので、安全かつ簡素な構成の装置で立体造形を行うことができる。また、液滴吐出ヘッド7を用いることにより短時間で精密なパターンに硬化型溶液を滴下することができるので、精密な立体モデルMを短時間で作成することができる。また、不溶化されたシート材Sによって形成された耐水性のある立体モデルMが得られる。
【0042】
ここで、水の浸透部分の形成を正確に行うためには、例えば、各位置に水を滴下するときには一度に滴下する滴下量をごく微量にして、微量の滴下を所定時間以上の時間間隔で複数回行うとよい。このようにすると、最初に滴下された水は、シート材Sの面方向にはそれほど拡がらない。そして、所定時間経過後(最初の硬化型溶液が浸透した後)に滴下した次の微量の水は、シート材Sの面方向には拡がらず、厚さ方向に浸透してゆく。従って、領域Lの輪郭線に沿ってシャープな形状の水の浸透部分を形成することができる。このように、1回に滴下する液滴量と滴下回数、および時間間隔を、シート材Sの材質、厚さなどに応じて適宜設定することにより、浸透部分の形状を適宜コントロールすることができる。なお、上記のような滴下制御によって硬化型溶液の浸透領域を領域Lの形状に正確に形成する場合には、水の滴下工程を省略してもよい。
【0043】
また、サーマルヘッド10によりシート材Sを上下の層と接着する接着方法の代わりに、シート材Sの接着部位に液滴吐出ヘッド7から接着剤を滴下して、その上の層のシート材Sと接着してもよい。また、シート材Sの接着部位に微量の水を滴下して滴下部位をわずかに溶かし、シート材S同士を溶着させてもよい。このようにすれば、サーマルヘッド10が不要となるので、立体造形装置1を更に小型化し簡素化することができる。また、シート材Sに予め熱で溶ける接着剤を塗布しておく必要がない。
【0044】
上記の立体造形方法によれば、不要部分を積層体から後で取り外すのが困難な形状の立体モデルMであっても容易に作成できる。図4は中空部を有する立体モデルを作成するための積層体の断面図である。この立体モデルの中空部M1は、立体モデルMの外部と開口M2(連通部)によって連通しており、開口M2よりも中空部M1の内部空間が広くなっている。このような形状では、中空部M1の内部にあるシート材Sのかたまりを積層体S0の完成後にそのままの形状で取り出すのは困難であったが、中空部M1内のシート材Sを溶解させれば、シート材Sのかたまりを除去することが可能である。また、この方法によれば、中空部が屈曲あるいは湾曲する管状になっていたり中空部の内面に凹凸が形成されている等のように、中空部内に充填されたシート材Sのかたまりをそのままの形状で引き出すことができない形状であっても、立体モデルを分割することなくシート材Sを除去することができる。また、複雑な凹凸を有するために積層体から不要部分を引き剥がすことが困難な形状の立体モデルであっても、容易に作成することができる。
【0045】
(着色工程を含む立体造形方法)
ここで、上記説明した立体造形方法の造形工程を、立体モデルMの各部分の着色工程と同時進行で、同一装置内で行う方法について説明する。本方法では、立体造形装置1のカートリッジ12内の液体パックに封入される硬化型溶液として、着色用溶液を含んだものを用いる。着色用溶液の色は、立体モデルMの着色パターンに応じて適宜準備する。
【0046】
この場合には、外部装置15において、立体モデルMの3次元形状情報(形状データ)および3次元形状の各位置における着色情報(着色データ)を含むカラー3次元形状データを作成し、立体造形装置1に出力する。制御部11は、外部装置15から入力されたカラー3次元形状データをシート材Sの厚さtを1層の高さとして高さ方向にスライスし、各層ごとに、立体モデルMの領域Lの形状および領域L上の着色パターンをイメージデータに展開し、バッファに格納する。
【0047】
そして、着色対象の層のシート材Sを積層するときには、図3(d)の工程において、領域L上の着色パターンに基づいて液滴吐出ヘッド7を制御して、着色部位に着色用溶液を滴下する。このようにすれば、液滴吐出ヘッド7によって所望の層のシート材Sの所望の部分に着色することが可能になる。なお、立体モデルMの表面に現れない内部層の部分には、無色の硬化型溶液を滴下して着色しないようにすることもできるし、内部まで着色することもできる。
【0048】
このように、シート材を不溶化させるための硬化型溶液として所望の色の着色用溶液を含んだものを用いることにより、不溶化工程と着色工程を同一工程で行うことができる。よって、短時間でカラー立体モデルを作成することができる。また、液滴吐出ヘッド7を用いることにより、微細なパターンの着色を行うことができ、フルカラーの着色も可能である。また、各層を積層する際に着色を行うので、積層後の着色が困難な中空部や内部層の部分の着色も可能になる。
【0049】
(本実施形態の応用)
本実施形態の立体造形装置および立体造形方法は、このように、積層造形加工とその着色を1台の装置で一度に行うことができるので、カラー立体製品の製造に便利である。また、所望の部位に着色することができるので、耐水性を付与したペーパー食器などを製造できる。また、パルプ繊維を含有する水溶紙を積層、接着したものは天然の木材よりも高強度で、且つ、耐水性を備えた素材となっている。従って、木製外装材などの木材部品の代替部品を製造することができる。この場合には、液滴吐出ヘッド7を用いた着色により、任意の木材に酷似した木目パターンの着色を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る立体造形装置の概略構成図である。
【図2】シート材の積層体の断面図および各層の平面図である。
【図3】立体造形方法の説明図である。
【図4】中空部を有する立体モデルを作成するための積層体の断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1…立体造形装置、2…積層台、2a…積層面、3…給紙部、4…シート材搬送経路、5…搬送機構、6…切断機構、7…液滴吐出ヘッド、8…ヘッドキャリッジ、9…駆動機構、10…サーマルヘッド、11…制御部、12…カートリッジ、13…カートリッジ装着部、14…水槽(シート材溶解手段)、15…外部装置、B…浸透部分、L…領域(立体モデルの断面の部分)、M…立体モデル、M1…中空部、M2…開口(連通部)、S…シート材、S0…積層体、t…厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材を積層して立体モデルを形成する立体造形方法であって、
各層のシート材を積層するときに、
各層のシート材における前記立体モデルの断面の部分に液滴吐出ヘッドを用いてシート材不溶化液を滴下して、当該断面の部分を不溶化すると共に、
当該断面の少なくとも一部をその上下の層のシート材と接着し、
全ての層のシート材を積層し接着した後に、各層のシート材における不溶化されていない部分をシート材溶解液により溶解させて除去することを特徴とする立体造形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の立体造形方法において、
前記シート材不溶化液により、着色対象の層のシート材における前記立体モデルの断面の部分を着色することを特徴とする立体造形方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の立体造形方法において、
前記シート材は水溶性バインダーおよび製紙用繊維材を含有している水溶紙であり、
前記シート材溶解液は水であることを特徴とする立体造形方法。
【請求項4】
請求項3に記載の立体造形方法において、
前記シート材不溶化液は硬化型溶液であることを特徴とする立体造形方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの項に記載の立体造形方法において、
前記立体モデルは外部に連通する中空部を有する形状であり、
当該中空部は、内部に充填された充填物をそのままの形状で引き出し不能な形状であることを特徴とする立体造形方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの項に記載の立体造形方法において、
各層のシート材をその上下の層のシート材と接着するときには、下層側のシート材の上に前記シート材溶解液または接着剤を滴下して溶着または接着するか、あるいは、上層側のシート材の少なくとも一部に上から加熱押圧して熱圧着させることを特徴とする立体造形方法。
【請求項7】
シート材不溶化液を滴下する液滴吐出ヘッドと、
当該液滴吐出ヘッドに対向している滴下位置にシート材を搬送して積層させるシート材搬送機構と、
シート材溶解液を供給あるいは貯留するシート材溶解手段と、
前記立体モデルの形状データが入力される制御部と、を有し、
当該制御部は、前記形状データに基づいて前記液滴吐出ヘッドおよび前記シート材搬送機構を制御することにより、請求項1ないし6のいずれかの項に記載の立体造形方法によって前記立体モデルを形成することを特徴とする立体造形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−12736(P2010−12736A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176583(P2008−176583)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】