説明

立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具

【課題】耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれた立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具を提供する。
【解決手段】cBN粒子の表面が、100〜700nmの平均膜厚のTiとAlの複合窒化物で均一に切れ間なく被覆された硬質相形成用原料粉末を、結合相形成用原料粉末と混合し焼結することにより形成されるcBN粒子を硬質相としTiNを主たる結合相とする立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料からなる切削工具であって、cBN粒子からなる硬質相と上記結合相との界面には、TiBとAlNの混合組織からなる中間密着層が均一に切れ間なく形成され、好ましくは、cBN粒子表面に被覆されたTiとAlの複合窒化物は傾斜組成構造を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐チッピング性と耐摩耗性にすぐれる立方晶窒化ほう素(以下、cBNで示す)基超高圧焼結材料製切削工具(以下、cBN工具という)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼、鋳鉄等の鉄系被削材の切削加工には、被削材との親和性の低い工具材料としてcBN基超高圧焼結材料(以下、cBN焼結体という)を用いたcBN工具が知られており、例えば、特許文献1に示すように、硬質相としてのcBNを20〜80体積%含有し、残部が、周期律表の4a、5a、6aの炭化物、窒化物、ほう化物等を結合相としたcBN工具が知られている。
【0003】
また、特許文献2に示されるものでは、cBN焼結材における結合相を二次元的に連続形成し、結合相厚みの平均値を1.5μm以下とするとともに、その標準偏差を0.9以下とし、結合相厚みのバラツキを改善することにより、cBN工具の硬度と強度の両立を図り、耐摩耗性と耐欠損性を向上させることが提案されており、特に、結合相厚みのバラツキを改善する一つの方策として、原料粉末をボールミル中で粉砕混合するに先立って、cBN粒子に対して、予め、主たる結合相成分である窒化チタン(以下、TiNで示す)をRFスパッタリングにより被覆しておくことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−77811号公報
【特許文献2】特開2008−208028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、cBN工具についての硬度と強度の両立を図るために、結合相の熱処理、粉末の粉砕方法、混合方法等について種々の提案がされているが、例えば、従来のcBN工具を高硬度鋼の切削加工に用いた場合には、耐チッピング性と耐摩耗性が未だ不十分であり、工具寿命が短命であるという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、硬度と強度を相兼ね備え、高硬度鋼の切削加工においてもすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮し、長期の使用にわたりすぐれた切削性能を発揮するcBN工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するため、cBN工具の硬質相成分であるcBN粒子に着目し、鋭意研究したところ、次のような知見を得た。
【0008】
従来のcBN工具においては、cBN粒子表面に予め結合相(バインダー)形成成分であるTiNをRFスパッタリングで被覆しておき、その後、これをボールミルで混合すること(例えば、前記特許文献2)が知られているが、このような方法では、cBN粒子の凝集が生じやすく、そのため、cBN焼結体中における硬質相の不均一分散が生じ、均質な工具特性が得られないため、高硬度鋼の切削加工に用いた場合には、チッピングの発生が避けられなかった。
【0009】
そこで、本発明者らは、cBN粒子表面へのTiN被覆を、ALD(Atomic Layer Deposition。真空チャンバ内の基材に、原料化合物の分子を一層ごと反応させ、Arや窒素によるパージを繰り返し行うことで成膜する方法で、CVD法の一種である。)法により行ったところ、cBN粒子の表面がTiN膜で均一に切れ間なく被覆され、cBN粒子相互の凝集が生じなくなることがわかった。
【0010】
そこで、TiNで均一に切れ間なくコーティングされた上記cBN粒子を硬質相形成用原料粉末とし、また、TiN粉末を結合相形成原料粉末とし、これら原料粉末を混合し焼結することにより、cBN焼結体を作製したところ、cBN粒子の分散性の問題はほぼ解消されることが分かった。
【0011】
しかし、上記cBN焼結体により切削工具を作製し、高硬度鋼の切削に供したところ、硬質相であるcBN粒子と主たる結合相を形成するTiNとの界面密着強度が十分でないため、長期の使用においては、依然として、チッピング発生により短寿命であることが分かった。
【0012】
そこで、本発明者らは、cBN粒子からなる硬質相と、主としてTiNからなる結合相の、両相の界面密着強度の向上についてさらに研究を進めたところ、cBN粒子の表面を、チタンとアルミニウムの複合窒化物(以下、TiAlNで示す)で均一に切れ間なく被覆し、また、より好ましくは、cBN粒子の表面近傍でAlの含有比率が高く、cBN粒子表面から遠ざかるにしたがってTiの含有比率が高くなる傾斜組成構造を形成するように、cBN粒子の表面を、TiAlNで均一に切れ間なく被覆し、これを硬質相形成用原料粉末として用い、これを、TiNを主たる結合相とする結合相形成用原料粉末と混合し焼結してcBN焼結体を作製し、さらに、cBN工具を作製したところ、cBN粒子は焼結体中で均一に分散分布し、その結果、cBN工具全体にわたって均質な工具特性が得られるようになった。
【0013】
さらに加えるに、cBN粒子の表面に被覆形成されたTiAlNは、焼結時の高熱により、硬質相のcBN及び結合相のTiNと相互拡散・界面反応を起こし、その結果、cBN硬質相とTiN結合相との界面には、ほう化チタン(以下、TiBで示す)と窒化アルミニウム(以下、AlNで示す)の混合組織からなる中間密着層(界面反応層)が形成されが、この中間密着層は、硬質相のcBN及び結合相のTiNのいずれとも密着強度が高いため、結果として、cBN工具におけるcBN硬質相とTiN結合相との界面密着強度が格段に向上し、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するようになることを見出したのである。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 立方晶窒化ほう素粒子の表面が、100〜700nmの平均膜厚のチタンとアルミニウムの複合窒化物で均一に切れ間なく被覆された硬質相形成用原料粉末を、結合相形成用原料粉末と混合し焼結することにより形成される立方晶窒化ほう素粒子を硬質相とし窒化チタンを主たる結合相とする立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料からなる切削工具であって、
上記立方晶窒化ほう素粒子からなる硬質相と上記結合相との界面には、ほう化チタンと窒化アルミニウムの混合組織からなる中間密着層が均一に切れ間なく形成されていることを特徴とする立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。
【0015】
(2) 立方晶窒化ほう素粒子の表面を均一に切れ間なく被覆する上記チタンとアルミニウムの複合窒化物は、立方晶窒化ほう素粒子の表面近傍でアルミニウムの含有比率が高く、立方晶窒化ほう素粒子表面から遠ざかった領域においてはチタンの含有比率が高くなる傾斜組成構造を備えていることを特徴とする前記(1)に記載の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。
【0016】
(3) 立方晶窒化ほう素粒子の表面を均一に切れ間なく被覆する上記チタンとアルミニウムの複合窒化物は、100〜500nmの平均膜厚の範囲において、上記組成傾斜構造を備えていることを特徴とする前記(2)に記載の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。
(4) 上記立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料に占める立方晶窒化ほう素の含有割合は、75〜85体積%であることを特徴とする前記(1)乃至(3)に記載の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。」
を特徴とするものである。
【0017】
本発明について、以下に説明する。
【0018】
本発明のcBN工具を作製するためのcBN原料粉末としては、cBN粒子表面をTiAlNで被覆したcBN粒子を使用するが、cBN粒子を、TiAlNで均一に切れ間なく被覆するための成膜法としては、例えば、ALD(Atomic Layer Deposition)法が好適である。ALD法によれば、cBN粒子表面に、一層ずつTiAlNを成膜させていくことができるので、cBN粒子の凝集を引き起こすことなく、均一な膜厚でピンホールフリーの(均一に切れ間なく)TiAlNを被覆形成することができる。
【0019】
例えば、ALD法により、cBN粒子表面にTiAlNを被覆する場合、流動層炉内にcBN粒子を装入し、例えば、2Torrの減圧下にて、200℃程度に昇温し、Tiの先駆体として、TDMATテトラキスジメチルアミノチタンとAlの先駆体として、DMAH−EPPジメチルアルミニウムハイドライト-エチルピぺリジン及び反応ガスとして、NHアンモニアガスを流入、Arガスパージ工程、NHガス流入工程、Arガスパージ工程を1サイクルとして、このサイクルを繰り返し、例えば、50サイクル(10時間)かけて成膜することにより、膜厚100nmのTiAlNをcBN粒子表面に被覆形成することができ、このTiAlN膜は、TEM(透過型電子顕微鏡)観察によれば、均一な膜厚であってかつピンホールは存在しないことから、均一で切れ間はない被覆が形成されているといえる。
【0020】
また、cBN粒子表面に、cBN粒子の表面近傍でAlの含有比率が高く、cBN粒子表面から遠ざかるにしたがってTiの含有比率が高くなる傾斜組成構造を有するTiAlNを被覆する場合には、Tiの先駆体としてのTDMATとAlの先駆体としてDMAH−EPPの配合について、成膜時間あるいはサイクル毎に、次第にTDMATの配合割合が多くなるようにすることによって、傾斜組成構造のTiAlNを被覆形成することができる。
【0021】
なお、cBN粒子表面のTiAlN膜の被覆の均一性については、TEM(透過型電子顕微鏡)観察を行うことによって確認することができる。
図1に、cBN粒子表面がTiAlNで均一に切れ間なく被覆されたcBN粒子の混合状態を示す概略模式図を示す。
【0022】
ここで、上記cBN粒子表面に被覆されたTiAlN膜に切れ間があると、cBNがTiNを主とする結合相と直接接触してしまうため、十分な焼結反応が進行しなくなってしまうので、TiAlN膜は均一で切れ間はなく形成されていることが必要である。このような観点からも、cBN粒子表面にTiAlNを被覆する成膜法としては、ALD法が好適である。
【0023】
また、cBN粒子表面に被覆形成されるTiAlNの平均膜厚は、一般的には、100〜700nmとすることができる。TiAlNの平均膜厚が100nm未満であると、ALD法で成膜しても均一な成膜が難しく、ピンホールの形成あるいはcBN粒子相互の凝集の恐れがある。一方、TiAlNの平均膜厚が700nmを超える場合には、cBN粒子周辺のAl成分濃度が必然的に高くなるが、焼結を行う際に、多量のAlの存在によりcBNとの反応が促進され、TiB、AlN等の反応生成物が過剰に生成するため中間密着層が脆化し、結果として、cBN焼結体の強度を低下させることになる。
【0024】
したがって、cBN粒子表面に被覆形成するTiAlNの平均膜厚は、100〜700nmとすることができる。
【0025】
ただし、cBN粒子表面に傾斜組成構造のTiAlNを被覆形成する場合には、その平均膜厚は100〜500nmの範囲内とすることが望ましい。これは、平均膜厚が500nmを超えるようになると、結果的にAl成分が過多となり、cBNとの反応が促進され、TiB、AlN等の反応生成物が過剰に生成し、中間密着層が脆化することにより、cBN焼結体の強度を低下させることになるからである。
【0026】
なお、傾斜組成構造のTiAlNを
組成式:(Ti1−XAl)N (但し、Xは原子比)
で表わした場合、cBN粒子の表面近傍(cBN粒子表面から100(nm)の範囲内)の領域でのAlの含有比率Xは、X=0.6〜0.8が好ましく、一方、cBN粒子の表面から遠ざかった領域(平均膜厚をd(nm)とした場合、cBN粒子表面から100(nm)を超え、d(nm)まで離れた領域)におけるXは、X=0.2〜0.4が好ましい。
【0027】
したがって、cBN粒子表面に傾斜組成構造のTiAlNを被覆形成する場合には、平均膜厚は100〜500nmの範囲内とすることが望ましい。
【0028】
また、この発明では、cBN焼結体に占めるcBNの含有割合は、75〜85体積%とするが、cBNの含有割合が75体積%未満では、cBN工具として使用した場合に、所望の耐欠損性が得られなくなるからであり、一方、cBNの含有割合が85体積%を超えると、結合相の含有割合が相対的に減少し、焼結性が低下するようになることから、cBN焼結体に占めるcBNの含有割合は、75〜85体積%と定める。
【0029】
cBN工具の作製にあたり、上記で作製したTiAlN膜で被覆されたcBN粒子を硬質相形成用原料粉末として用い、さらに、主として結合相(バインダー)を構成する成分であるTiN粉末を少なくとも結合相形成用原料粉末として用い、両原料粉末を所定配合組成になるように配合し、通常の超高圧高温条件下で焼結することにより、cBN焼結体を作製するが、cBN粒子表面がTiAlN膜で被覆されていることによって、cBN粒子相互の凝集を防止することができるので、cBN焼結体全体にわたり、cBNが均一に分散したcBN焼結体を作製することができる。
【0030】
なお、cBN焼結体中の他の構成成分としては、cBN焼結体に通常含有される成分、即ち、周期律表4a、5a、6a族元素の窒化物、炭化物、硼化物、酸化物ならびにこれらの固溶体からなる群の中から選択された少なくとも一種以上、が含有されることを何ら妨げるものではない。
【0031】
図2に、cBN焼結体における存在するcBN粒子、cBN粒子表面に形成された中間密着層(TiBとAlNとの混合組織)、これらの周囲に存在する主としてTiNからなる結合相の組織・構造を示す概略模式図である。
【0032】
焼結を行う前にcBN粒子表面に被覆形成されていたTiAlN(図1参照)は、焼結工程を経ることによって、cBN(硬質相)およびTiN(結合相)と拡散・反応し、TiBとAlNとの混合組織(図2参照)を生成する。
【0033】
生成したTiBとAlNとの混合組織からなる中間密着層は、cBN粒子表面に被覆形成したTiAlNと同様に、cBN硬質相表面の周りに均一に切れ間なく形成される。
【0034】
中間密着層の平均層厚は、cBN粒子に被覆形成したTiAlNの平均膜厚、傾斜組成構造形成の有無および焼結条件等によって影響を受けるが、cBN粒子表面に被覆形成されるTiAlNの平均膜厚が100〜700nmの範囲内である場合には、凡そ、40〜300nmの平均層厚の中間密着層が形成され、また、傾斜組成構造のTiAlNが被覆形成される場合には、TiAlNの平均膜厚が100〜500nmの範囲内であり、かつ、約30〜150nmの平均層厚の中間密着層が形成される。
【0035】
既に述べたように、cBN粒子表面のTiAlNの平均膜厚が100nm未満(中間密着層の平均膜厚では40nm未満に相当)であると、ピンホール形成、cBN粒子凝着の恐れがあり、その結果、cBN焼結体としては、焼結反応速度の低下、cBN硬質相の不均一な分布分散が生じるため、均質な焼結体特性が得られず、これをcBN工具として用いた場合には、耐チッピング性の劣るものとなる。
【0036】
一方、TiAlNの平均膜厚が700nmを超える場合(中間密着層の膜厚では300nmを超えるに相当)には、cBN粒子周辺のAl成分濃度が高いために、焼結時に過剰のTiB、AlNが生成し中間密着層が脆化するため、cBN焼結体の強度低下を招くこととなる。
【0037】
特に、傾斜組成構造のTiAlNを形成し、その平均膜厚が500nmを超える場合(中間密着層の膜厚では180nmを超えるに相当)には、上記と同様、cBN焼結体の強度低下を招くこととなる。
【0038】
したがって、中間密着層の平均層厚は、40〜300nmの範囲内とすることが望ましく、特に、傾斜組成構造のTiAlNを形成した場合には、中間密着層の平均層厚は、30〜150nmの範囲内とすることが望ましい。
【0039】
なお、cBN焼結体のcBN硬質相とTiN結合相との間に、TiAlNが焼結時に分解・反応し、その結果として、TiBとAlNとの混合組織からなる中間密着層が形成されていることは、焼結体をワイヤーカットで切断した後、イオン研磨を用いて表面を平滑化し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)とEPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて観察することによって確認することができ、また、AES(オージェ電子分光分析)によっても確認することができる。
【0040】
そして、観察された組織状態は、図2の概略模式図に示される通りである。
【発明の効果】
【0041】
上記のとおり、本発明のcBN工具においては、cBN粒子の表面をTiAlNで均一に切れ間なく被覆したものを硬質相形成用原料粉末として用い、これを、TiNを主たる結合相とする結合相形成用原料粉末と混合し焼結して、cBN硬質相とTiN結合相との界面にTiBとAlNの混合組織からなる中間密着層を形成していることにより、cBN硬質相が焼結体中で均一に分散分布し、均質な工具特性が得られるばかりか、中間密着層によるcBN硬質相とTiN結合相との界面密着強度改善によって、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するのである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】cBN粒子表面がTiAlNで均一に切れ間なく被覆された焼結前の本発明のcBN粒子の混合状態を示す概略模式図である。
【図2】焼結後の本発明のcBN焼結体に存在するcBN粒子、cBN粒子表面に形成された中間密着層(TiBとAlNとの混合組織)、これらの周囲に存在する主としてTiNからなる結合相の組織・構造を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、本発明のcBN工具を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0044】
TiAlNで被覆されたcBN粒子の作製:
平均粒径3μmのcBN粒子を基材とし、これに、表1に示される条件のALD(Atomic Layer Deposition)法により、表1に示される膜厚のTiAlN膜を均一にかつ切れ間なく形成する。
【0045】
なお、上記で得られたTiAlNで被覆されたcBN粒子について、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観察したところ、cBN粒子表面に均一にかつ切れ間なく被覆されていることが確認された。
【0046】
【表1】

原料粉末として、上記で作製したTiAlNを被覆形成したcBN粒子粉末と、いずれも0.3〜0.9μmの範囲内の平均粒径を有するTiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl粉末、Al粉末、WC粉末を用意し、これら原料粉末を表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで48時間アセトンを用いて湿式混合し、乾燥した後、油圧プレスにて成形圧1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し、ついでこの成形体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、1000〜1300℃の範囲内の所定温度に30〜60分間保持して熱処理し、揮発成分および粉末表面への吸着成分を除去して切刃片用予備焼結体とし、この予備焼結体を、別途用意した、Co:8質量%、WC:残りの組成、並びに直径:50mm×厚さ:2mmの寸法をもったWC基超硬合金製支持片と重ね合わせた状態で、通常の超高圧焼結装置に装入し、通常の条件である圧力:5GPa、温度:1500℃、保持時間:30分間の条件で超高圧高温焼結し、cBN焼結材を得る。cBN焼結材円板を、ワイヤー放電加工機で所定寸法に切断し、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Cu:26%、Ti:5%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金のろう材を用いてろう付けし、上下面および外周研磨、ホーニング処理を施すことによりISO規格CNGA120408のインサート形状をもつ表2に示す配合組成の本発明cBN工具1〜10を製造した。
【0047】
なお、本発明cBN工具1〜10のcBN焼結材について、ワイヤーカットで切断した後、イオン研磨を用いて表面を平滑化し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)とEPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて観察したところ、いずれも、図2の模式図に示すように、cBN硬質相とTiN結合相との界面にTiBとAlNの混合組織からなる中間密着層が均一にかつ切れ間なく生成していることが確認された。
【0048】
比較のため、原料粉末として、TiAlNを被覆形成していない平均粒径3μmのcBN粒子粉末と、いずれも0.3〜0.9μmの範囲内の平均粒径を有するTiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl粉末、Al粉末、WC粉末を用意し、これら原料粉末を表3に示される配合組成に配合し上記本発明cBN工具1〜10と同様な方法で、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもつ表3に示す比較例cBN工具11〜15を製造した。
【0049】
参考のため、平均粒径3μmのcBN粒子を基材とし、これに、表1に示される条件のALD(Atomic Layer Deposition)法により、cBN粒子表面を平均膜厚50nmのTiNで被覆し、このcBN粒子粉末を、硬質相形成用原料粉末として、本発明cBN工具1〜10と同様な方法で、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもつ表3に示す参考例cBN工具16,17を製造した。
【0050】
なお、cBN粒子表面にTiNを成膜したALD条件は、表3の(注)に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

上記で得た本発明cBN工具1〜10、比較例cBN工具11〜15および参考例cBN工具16,17について、ビッカース硬度測定、三点曲げによる抗折力測定を行い、その機械的特性を評価した。
表4に、測定結果を示す。
【0053】
また、上記本発明cBN工具1〜10、参考例cBN工具16,17については、焼結体をワイヤーカットで切断した後、イオン研磨を用いて表面を平滑化し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)とEPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて観察することにより、cBN硬質相とTiN結合相との界面に形成されている組織の確認を行った。
表4に、組織の観察結果を示す。
【0054】
また、上記の本発明cBN工具1〜10、比較例cBN工具11〜15および参考例cBN工具16,17について、以下の切削条件で切削加工試験を実施し、逃げ面摩耗量あるいは欠損に至る工具寿命を測定した。
《切削条件》
被削材:JIS・SCr420(硬さ:HRC58〜62)の長手方向に6本のV溝(開き角:60度)付丸棒、
切削速度: 180 m/min、
送り: 0.15 mm/rev、
切込み: 0.25 mm、
切削時間: 30 分
の条件での、クロム鋼の乾式切削加工試験。
【0055】
上記切削加工試験の測定結果を表4に示した。
【0056】
【表4】

表2〜4に示される結果から、本発明cBN工具1〜10は、cBN硬質相とTiN結合相との界面にTiBとAlNの混合組織からなる中間密着層が形成されていることによって、硬度、抗折力が高く機械特性にすぐれるばかりか、耐チッピング性、耐摩耗性にもすぐれている。
【0057】
これに対して、比較例cBN工具11〜15は、中間密着層が形成されていないために、硬度、抗折力、耐チッピング性、耐摩耗性の何れも劣るものであり、また、参考例cBN工具16,17は、比較例cBN工具に比べれば、チッピング抑制効果があるものの、本発明cBN工具との比較では、硬度、抗折力、耐チッピング性、耐摩耗性の何れの点でも本発明より劣るものであった。
【実施例2】
【0058】
TiAlNで被覆されたcBN粒子の作製:
平均粒径3μmのcBN粒子を基材とし、これに、表5に示される条件のALD(Atomic Layer Deposition)法により、表5に示される傾斜組成構造および膜厚のTiAlN膜を均一にかつ切れ間なく形成する。
【0059】
なお、傾斜組成構造は、Tiの先駆体としてのTDMATとAlの先駆体としてDMAH−EPPの配合割合を、成膜時間の経過とともにあるいはサイクル毎に、TDMATの配合割合を次第に高くすることによって、傾斜組成構造のTiAlNを被覆形成した。
【0060】
また、組成傾斜構造に関しては、
cBN粒子の表面近傍(cBN粒子表面から100(nm)の範囲内)の領域でのTiAlN膜の平均組成を、
組成式:(Ti1−αAlα)N (但し、αは原子比)
で表わした場合のαの値と、
cBN粒子の表面から遠ざかった領域(平均膜厚をdとした場合、cBN粒子表面から100(nm)を超え、d(nm)まで離れた領域)におけるTiAlN膜の平均組成を、
組成式:(Ti1−βAlβ)N (但し、βは原子比)
で表わした場合のβの値、
とを求め、これを表5に示した。
【0061】
表5に示すα値、β値について、α>0.5>βであることから、表5に示される条件で作製した硬質相形成用原料粉末は、表5に示される組成傾斜構造を有することは明らかである。
【0062】
なお、αの値とβの値は、EPMA(JEOLJXA−8800RL)による定量分析により測定した。
【0063】
また、上記で得られた組成傾斜構造のTiAlNで被覆されたcBN粒子について、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観察したところ、cBN粒子表面に均一にかつ切れ間なく組成傾斜構造のTiAlNで被覆されていることを確認した。
【0064】
【表5】

原料粉末として、上記で作製した組成傾斜構造のTiAlNを被覆形成した表5に示すcBN粒子粉末と、いずれも0.3〜0.9μmの範囲内の平均粒径を有するTiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl粉末、Al粉末、WC粉末を用意し、これら原料粉末を表6に示される配合組成に配合し、ボールミルで48時間アセトンを用いて湿式混合し、乾燥した後、油圧プレスにて成形圧1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し、ついでこの成形体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、1000〜1300℃の範囲内の所定温度に30〜60分間保持して熱処理し、揮発成分および粉末表面への吸着成分を除去して切刃片用予備焼結体とし、この予備焼結体を、別途用意した、Co:8質量%、WC:残りの組成、並びに直径:50mm×厚さ:2mmの寸法をもったWC基超硬合金製支持片と重ね合わせた状態で、通常の超高圧焼結装置に装入し、通常の条件である圧力:5GPa、温度:1500℃、保持時間:30分間の条件で超高圧高温焼結し、cBN焼結材を得る。cBN焼結材円板を、ワイヤー放電加工機で所定寸法に切断し、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Cu:26%、Ti:5%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金のろう材を用いてろう付けし、上下面および外周研磨、ホーニング処理を施すことによりISO規格CNGA120408のインサート形状をもつ表6に示す配合組成の本発明cBN工具11〜20を製造した。
【0065】
なお、本発明cBN工具11〜20のcBN焼結材について、ワイヤーカットで切断した後、イオン研磨を用いて表面を平滑化し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)とEPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて観察したところ、いずれも、図2の模式図に示すように、cBN硬質相とTiN結合相との界面にTiBとAlNの混合組織からなる中間密着層が均一にかつ切れ間なく生成していることが確認された。
【0066】
【表6】

上記で得た本発明cBN工具11〜20について、ビッカース硬度測定、三点曲げによる抗折力測定を行い、その機械的特性を評価した。
表7に、測定結果を示す。
【0067】
また、上記本発明cBN工具11〜20については、焼結体をワイヤーカットで切断した後、イオン研磨を用いて表面を平滑化し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)とEPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて観察することにより、cBN硬質相とTiN結合相との界面に形成されている組織の確認を行った。
表7に、組織の観察結果を示す。
【0068】
また、上記の本発明cBN工具11〜20について、以下の切削条件で切削加工試験を実施し、逃げ面摩耗量あるいは欠損に至る工具寿命を測定した。
《切削条件》
被削材:JIS・SCr420(硬さ:HRC58〜62)の長手方向に6本のV溝(開き角:60度)付丸棒、
切削速度: 180 m/min、
送り: 0.2 mm/rev、
切込み: 0.2 mm、
切削時間: 30 分
の条件での、クロム鋼の乾式切削加工試験。
【0069】
上記切削加工試験の測定結果を表7に示した。
【0070】
【表7】

表7に示される結果から、本発明cBN工具11〜20は、cBN硬質相とTiN結合相との界面に、cBN粒子表面に均一にかつ切れ間なく被覆され組成傾斜構造のTiAlNに由来するTiBとAlNの混合組織からなる中間密着層が形成されていることによって、硬度、抗折力が高く機械特性にすぐれるばかりか、耐チッピング性、耐摩耗性にも一段とすぐれていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
上述のように、この発明のcBN工具は、耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれることから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、低コスト化に十分満足に対応できるばかりか、機械的特性にもすぐれていることから、耐摩耗部材、摺動部材等の他分野への幅広い応用も期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化ほう素粒子の表面が、100〜700nmの平均膜厚のチタンとアルミニウムの複合窒化物で均一に切れ間なく被覆された硬質相形成用原料粉末を、結合相形成用原料粉末と混合し焼結することにより形成される立方晶窒化ほう素粒子を硬質相とし窒化チタンを主たる結合相とする立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料からなる切削工具であって、
上記立方晶窒化ほう素粒子からなる硬質相と上記結合相との界面には、ほう化チタンと窒化アルミニウムの混合組織からなる中間密着層が均一に切れ間なく形成されていることを特徴とする立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。
【請求項2】
立方晶窒化ほう素粒子の表面を均一に切れ間なく被覆する上記チタンとアルミニウムの複合窒化物は、立方晶窒化ほう素粒子の表面近傍でアルミニウムの含有比率が高く、立方晶窒化ほう素粒子表面から遠ざかった領域においてはチタンの含有比率が高くなる傾斜組成構造を備えていることを特徴とする請求項1に記載の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。
【請求項3】
立方晶窒化ほう素粒子の表面を均一に切れ間なく被覆する上記チタンとアルミニウムの複合窒化物は、100〜500nmの平均膜厚の範囲において、上記組成傾斜構造を備えていることを特徴とする請求項2に記載の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。
【請求項4】
上記立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料に占める立方晶窒化ほう素の含有割合は、75〜85体積%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−212832(P2011−212832A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−888(P2011−888)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】