説明

立毛布帛およびその製造方法

【課題】布帛の風合いを損なうことなく、柄の自由度の高い、さらに凹部と凸部で質感を異ならせた従来技術にはない新規な凹凸意匠を有する立毛布帛を得る。
【解決手段】地組織部2と、パイル4による立毛部3とをよりなる立毛布帛1で、地組織部2のパイル面側に挿入糸5を配し、立毛部3のパイル4を抜蝕加工または刈り込み加工により部分的に除去することにより、挿入糸5の側面が表面に露出した凹部8と、パイルの切断端を頂点とする立毛部3による凸部7とを有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立毛布帛に関するものであり、特には、凹凸意匠を有する立毛布帛およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、立毛布帛は、その風合いの良さや高級感から、インテリア資材や車両内装材用途に多く使用されているが、より意匠性、高級感が求められている。
【0003】
布帛の意匠性の向上としては、様々な提案がなされているが、なかでも立毛布帛の特性を生かした凹凸意匠を有する布帛についての提案が多数なされている。
【0004】
凹凸意匠の形成方法としては、特殊な織機や編機を用いたり、特殊な編組織や織組織としたりして、部分的にパイルを形成することにより、パイルによって形成される立毛部からなる凸部とパイルが形成されない非立毛部からなる凹部を形成する編成、織成による方法(例えば、特許文献1)、立毛布帛の立毛面を部分的に加熱押圧して凹凸模様を描出するいわゆるエンボス加工による方法(例えば、特許文献2)、パイルを形成するパイル糸(繊維束)の一部に潜在捲縮性繊維を用いて立毛布帛を編成または織成した後、パイル糸の捲縮性を発現させることにより凹凸模様を形成する、パイル糸に用いる糸条を限定する方法(例えば、特許文献3)、立毛前(起毛加工前)の布帛に水溶性の樹脂などを捺染し、次いで起毛加工を施すことにより、非捺染部のみを立毛化して凹凸模様を形成するいわゆるステレオ起毛加工による方法(例えば、特許文献4)、立毛布帛のパイルをパターンシャーリング機や、デザインシャーリング機、またはハンドカットなどによって部分的に刈り込んで紋様を形成する刈り込み加工による方法(例えば、特許文献5)、立毛布帛の立毛面にパイルを抜蝕可能な薬剤を含む繊維処理剤を模様状に付与して、パイルを部分的に除去することによって凹凸模様を形成する抜蝕加工による方法(例えば、特許文献6)、立毛布帛の立毛面に部分的に樹脂溶液を付着して固化させて、立毛を押さえることにより凹凸意匠を付与する方法(例えば、特許文献7)などが挙げられる。
【0005】
しかしながら、編成、織成による方法や、エンボス加工による方法、パイル糸に用いる糸条を限定する方法では、形成できる意匠に制限があり、柄の自由度が低いという問題があった。パイル糸に用いる糸条を限定する方法や、ステレオ起毛加工による方法、刈り込み加工による方法、抜蝕加工による方法では、凸部と凹部の質感が殆ど同じであるため意匠性に欠けるという問題があった。エンボス加工による方法、樹脂溶液の固化による方法は、布帛の風合いが粗硬になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭60−71680号公報
【特許文献2】特開昭56−107065号公報
【特許文献3】特開平10−259543号公報
【特許文献4】特開昭56−43469号公報
【特許文献5】特開平10−140464号公報
【特許文献6】特開平10−298863号公報
【特許文献7】特開2000−144568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、布帛の風合いを損なうことなく、柄の自由度の高い、さらに凹部と凸部で質感を異ならせた従来技術にはない新規な凹凸意匠を有する立毛布帛およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛は、地組織部と、パイルによる立毛部を有する立毛布帛であって、地組織部の立毛面側に挿入糸が配されてなり、立毛部のパイルが部分的に除去されることにより、挿入糸の側面が表面に露出した凹部と、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部とを有することを特徴とする。
【0009】
前記の立毛布帛において、地組織部が織成または編成され、パイル糸が地組織部に織り込まれるか、または編み込まれることにより、地組織部の少なくとも片面にパイルによる立毛部が形成され、該立毛部のパイルが部分的に除去されてなるものとすることができる。
【0010】
また、前記の立毛布帛において、地組織部の少なくとも片面に、起毛処理されて形成された起毛パイルによる立毛部を有し、該立毛部の起毛パイルが部分的に除去されてなるものとすることもできる。
【0011】
また、前記の立毛布帛において、立毛部のパイルが抜蝕加工あるいは刈り込み加工により部分的に除去されてなるものとすることができる。
【0012】
さらにまた、前記の立毛布帛において、挿入糸は、地組織部の立毛面側に織り込まれるか、または編み込まれることにより適宜間隔で地組織部に係止されて、各係止部分間の部分で側面が地組織部の面上にあるように立毛面側全域にわたって挿入されており、立毛部のパイルを除去した凹部において表面に露出しているものとすることができる。
【0013】
本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛の製造方法は、地組織部の少なくとも片面にパイルによる立毛部を有する立毛布帛を、該地組織部の立毛面側に挿入糸を配して形成しておいて、その後の工程で、立毛部のパイルを部分的に除去する加工を施し、パイルを除去した凹部における表面に挿入糸の側面を露出させることを特徴とする。
【0014】
前記の立毛布帛の製造方法において、地組織部と、地組織部に織り込まれるか、または編み込まれるパイル糸と、地組織部の立毛面側にタテ方向、および/または、ヨコ方向に挿入配置される挿入糸とにより、地組織部の少なくとも片面にパイルによる立毛部を有する立毛布帛を織成または編成しておいて、該立毛部のパイルを除去する加工を施すことができる。
【0015】
また、前記の立毛布帛の製造方法において、地組織部の少なくとも片面に、起毛処理して形成した起毛パイルによる立毛部を形成しておいて、該立毛部の起毛パイルを除去する加工を施すこともできる。
【0016】
また、前記の立毛布帛の製造方法において、挿入糸を、地組織部の立毛面側に織り込むか、または編み込んで適宜間隔で地組織部に係止させて、各係止部分間の部分で側面が地組織部の面上にあるように立毛面側全域にわって挿入しておくことができる。
【0017】
さらに、本発明は、立毛部のパイルを部分的に除去する加工方法として、立毛布帛の立毛面に、パイルを抜蝕可能な薬剤を含有する繊維処理剤を部分的に塗布する工程と、繊維処理剤を塗布した立毛布帛に熱処理を行うことにより繊維処理剤を塗布されたパイルを脆化する工程と、熱処理後の立毛布帛を洗浄処理し、脆化したパイルを除去する工程とを有してなるものとすることができる。
【0018】
また、立毛部のパイルを部分的に除去する加工方法として、立毛布帛の立毛部において、パターンシャーリング機、デザインシャーリング機、ハンドカットのいずれかの手法により、パイルを刈り込んで、立毛部のパイルを部分的に除去する工程を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の立毛布帛及び製造方法によれば、立毛面側において、挿入糸の側面が表面に露出した凹部と、立毛状のパイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部とを有することにより、凹部と凸部の質感(触感、光沢など)が異なるため、例えば、立毛布帛と織物が混在したような異素材感のある従来にない斬新な凹凸意匠を有する立毛布帛を提供することができる。
【0020】
本発明の立毛布帛は、挿入糸を地組織部の立毛面側全域に配置しており、立毛部の任意の位置のパイルを除去することで、パイルを除去した凹部において該挿入糸の側面を表面に露出させることができるため、柄の自由度の高い凹凸意匠を有する立毛布帛を提供することができる。
【0021】
また、抜蝕手段または刈り込み手段により立毛部のパイルを除去することにより、凹部の形成による布帛の硬化がないものとなり、そのため、布帛本来の風合いを損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の立毛布帛の1実施例の立毛布帛を示す略示斜視図である。
【図2】同上の立毛布帛の略示拡大斜視図である。
【図3】同上の立毛布帛の長手方向に沿う略示拡大断面図である。
【図4】同上の立毛布帛の幅方向に沿う略示拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
本発明において、立毛布帛とは、地組織部と、その表面に立毛状に延び出る複数のパイル(繊維1本1本を指し、糸条(繊維束)であるパイル糸とは区別される)による立毛部とからなる布帛をいう。本発明に用いられる立毛布帛は、さらに、地組織部の立毛面(パイル面)側に挿入糸が配されていること、そして、立毛部のパイルが凹凸意匠(柄)に応じて部分的に除去されることにより、前記挿入糸の側面が表面に露出している凹部と、前記パイルの切断端面が頂点をなす立毛部による凸部とを有することを特徴とするものである。
【0025】
図1〜図4は、前記の立毛布帛1の概略を示し、符号2は地組織部、符号3は立毛状のパイル4による立毛部、符号5は挿入糸を示している。さらに、符号6は挿入糸5を地組織部2に、例えば織り込み、または編み込んで係止した係止部を示す。符号7は立毛部3による凸部、8は立毛部3のパイル4を除去して形成した凹部を示しており、この凹部8では挿入糸5が露出して織物調を呈している。
【0026】
本発明に用いられる立毛布帛の地組織部の形態としては、編物、織物などの布帛による地組織が挙げられる。また、立毛部は、編成や織成による地組織部にパイル糸が織り込まれるか、または編み込まれることにより、パイルによる立毛部が形成されてなるものでも、或いは起毛処理によって起毛パイルが形成されたものであっても構わない。
【0027】
編成や織成によって形成されたものとしては、ダブルラッセル編物やモケット織物のパイル糸(繊維束)をセンターカットしたものや、ポールトリコット編物やシンカーパイル編物のパイル糸(繊維束)をポールシンカーで形成したものなどを挙げることができる。また、起毛処理によって形成されたものとしては、浮きの長い編組織または織組織にて編成または織成した織編物の浮きの長い組織部の糸条を起毛したものを挙げることができる。なかでも、布帛の伸縮性が良好で、意匠付与が容易、製造コストが安価であるという理由から、経編物(ダブルラッセル、トリコットなど)が好ましく、特には、挿入糸が任意の方向、位置に形成し易いという理由から、ダブルラッセル編物が好ましい。挿入糸については、後述する。
【0028】
本発明の立毛部のパイルを構成する繊維の素材は特に限定されるものでなく、その素材としては、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など、従来公知の繊維を挙げることができ、これらが2種以上組み合わされていてもよい。なかでも、耐熱性や耐光性などの点から、合成繊維が好ましく、後工程におけるパイルの除去性を考慮すると、ポリエステル繊維がより好ましい。さらには、触感の点から、ポリエステル繊維と溶剤に対する溶解性が異なる他の素材を組み合わせた極細繊維発生型複合繊維を用いることが好ましい。
【0029】
パイルを構成する繊維の形状は、その目的や具体的用途に応じて、長繊維、短繊維のいずれであってもよい。また、断面形状も特に限定されるものではなく、通常の丸型だけでなく、扁平型、楕円型、三角形、中空型、Y型、T型、U型などの異形であってもよい。
【0030】
パイルの繊度(パイル糸の単糸繊度)は特に限定されるものではなく、その目的や具体的用途に応じて適宜選択すればよい。通常、0.07〜3.5dtex、好ましくは0.2〜2.2dtexのものが用いられる。繊度が0.07dtex未満の場合、パイルの立毛性が悪くなることで挿入糸が見えやすくなり意匠性が損なわれたり、耐摩耗性や耐スナッキング性、耐スクラッチ性などの物性が悪くなったりする虞がある。繊度が3.5dtexを超える場合、触感が損なわれたり、後加工におけるパイルの除去性が悪くなったりする虞がある。
【0031】
パイルの長さについても、その目的や具体的用途に応じて適宜設定でき、例えば、車両内装材や椅子張り地等の用途においては、0.5〜3.0mmであることが好ましく、0.7〜2.0mmであることがより好ましい。パイル長が0.5mm未満であると、パイルとパイルの間に挿入糸が露出して意匠性が損なわれたり、耐摩耗性や耐スナッキング性、耐スクラッチ性などの物性が悪くなったりする虞がある。パイル長が3.0mmを超えると、立毛性が悪くなったり、後加工におけるパイルの除去性が悪くなったりする虞がある。
【0032】
単位面積におけるパイルの密度は66000〜800000dtexであることが好ましく、250000〜650000dtexであることがより好ましい。パイル密度が66000dtex未満であると、パイルの立毛性が悪くなることで挿入糸が見えやすくなり意匠性が損なわれたり、耐摩耗性や耐スナッキング性、耐スクラッチ性などの物性が悪くなったりする虞がある。パイル密度が800000dtexを超えると、触感が損なわれたり、後加工におけるパイルの除去性が悪くなったりする虞がある。
【0033】
本発明におけるパイル密度は、以下の式にしたがって算出した。
パイル密度(dtex)=D×A×B×2
D : パイルを構成する糸条の繊度(dtex)
A : ウェル密度(w/インチ)、または、経糸密度(本/インチ)
B : コース密度(c/インチ)、または、緯糸密度(本/インチ)
【0034】
パイル糸の形態は、特に限定されず、フィラメント糸(長繊維糸)、紡績糸(短繊維糸)のいずれであってもよい。さらに、フィラメント糸は、必要に応じて撚りをかけてもよいし、仮撚加工や流体攪乱処理などにより、潜在捲縮性や顕在捲縮性、伸縮性や嵩高性を付与してもよい。
【0035】
また、パイル糸は、上述した繊維を複合して用いてもよく、その複合形態も、引き揃え、合撚、交撚、混繊、混紡など特に限定されない。なかでも、立毛性、触感の点から、潜在捲縮性または顕在捲縮性を有する繊維を用いることが好ましく、さらには、耐摩耗性の点から、捲縮率の異なる潜在捲縮性を有する繊維と、顕在捲縮性を有する繊維からなる複合糸を用いることが好ましい。
【0036】
パイル糸の繊度は、特に限定されるものではなく、その目的や具体的用途に応じて適宜選択すればよい。通常、33〜900dtex、好ましくは84〜600dtexの糸条が用いられる。繊度が33dtex未満の場合、後述するパイル密度が低くなったり、パイルの立毛性が悪くなったりすることで挿入糸が見えやすくなり、意匠性が損なわれたり、耐摩耗性や耐スナッキング性、耐スクラッチ性などの物性が悪くなったりする虞がある。繊度が900dtexを超える場合、パイルとパイルの間隔が大きくなり、毛割れが生じて意匠性が損なわれる虞がある。
【0037】
本発明の立毛布帛において、地組織部の立毛面側に挿入糸を配して構成していること、特には立毛面側の全域にわたって挿入していることが肝要である。図2〜図4に拡大して示すように、挿入糸5は、タテ方向、および/または、ヨコ方向に所要の間隔をおいて地組織部2に係止されて、各係止部6,6間の部分で地組織部2の面上に露出するように配されることにより、立毛部3のパイル4が除去された凹部8の部分において挿入糸5の側面が表面に露出し、立毛部3による凸部7と該凹部8との質感が異なる新規な凹凸意匠を有する立毛布帛1となる。また挿入糸5が立毛面側の全域にわたって配置されていることで、立毛部3のどの位置においてもパイル4を除去することにより、挿入糸5を表面に露出させることができることになる。
【0038】
前記挿入糸の配設方法や形態は、選択される地組織によって異なる。
【0039】
例えば、ダブルラッセル編物やトリコット編物やポールトリコット編物の場合、タテ方向の挿入糸は、地組織部の立毛面側において、挿入糸を挿入方向の所要間隔毎に地組織に編成係止または挿入係止するととともに、各係止部間の1〜30mm、好ましくは2〜10mmの間の部分では地組織に編成係止または挿入係止することなく、タテ方向に連続して挿入配置される。また、ダブルラッセル編物の場合は、ヨコ方向に挿入糸を配置することも可能であり、この場合、地組織部の立毛面側において、挿入糸を挿入方向の所要間隔毎に地組織に編成係止または挿入係止するととともに、各係止部間の0.5〜15mm、好ましくは2〜7mmの間の部分では、地組織に編成係止または挿入係止することなく、ヨコ方向に連続して挿入配置される。
【0040】
なお、前記のタテ方向の挿入糸、およびヨコ方向の挿入糸において、地組織部に編成係止または挿入係止されていない間隔が、前記範囲より大きくなると、挿入糸を露出させることによる意匠効果が小さくなり、また摩擦による破断も生じやすくなり、また、前記範囲より小さくなると、表面に挿入糸を露出させたことによる意匠効果が小さくなる。
【0041】
ここで、前記の編成係止とは、編成による地組織部に挿入糸を挿入配置する場合において、地組織に編み込まれる挿入糸がループを形成して地組織部に係止され保持されている状態のことを言う。また、前記の挿入係止とは、地組織に編み込まれる挿入糸がループを形成することなく地組織部の構成糸に係止されて保持されている状態のことをいう。織成による地組織部に挿入糸を挿入配置する場合、挿入糸は地組織の構成糸(地糸)に押さえられて係止状態に保持されるもので、挿入係止されていることになる。
【0042】
また、前記挿入糸の挿入形態として、図2〜4に拡大して示すように、挿入糸5の地組織部2に対する係止部6,6間の部分では、地組織部2の面上において凸状あるいは浮き状をなすように挿入配置されているのが好ましい。この場合、挿入糸5の係止部6,6間の部分の頂点が、立毛部3のパイル長の2/3の高さ位置より低い位置、さらにはパイル長の中間部(1/2の高さ部分)の高さ、もしくはその前後の位置に配されていることが好ましい。このように配置することにより、立毛部3のパイル4を除去したときに、挿入糸5の側面が表面に露出しやすくなり、凹部8の意匠性が向上する。なお、前記挿入糸の係止部間の部分がパイル長に比して過度に高い位置にあると、パイルを除去していない立毛部3による凸部7において、挿入糸が見えやすくなり意匠性が損なわれたり、耐摩耗性や耐スナッキング性、耐スクラッチ性などの物性が悪くなったりする虞がある。そのため、実施上は、パイル長の中間部の位置か、またはこれよりよりやや低くなるように配置しておくのが望ましい。
【0043】
なお、タテ方向またはヨコ方向に挿入配置される各挿入糸5の係止部6,6間の露出部分は、挿入方向に対し直交する方向に並列しているものには限らず、位置や間隔をずらせることもできる。
【0044】
挿入糸を構成する繊維の素材や形状、挿入糸の形態も特に限定されるものでなく、パイルあるいはパイル糸と同様のものを用いることができる。特には、凸部と凹部の質感の違いをより一層際立たせ、意匠性を向上するという点で、パイル(パイル糸)と挿入糸は異なる繊維を用いることが好ましい。
【0045】
挿入糸の繊度は特に限定されるものではなく、その目的や具体的用途に応じて適宜選択すればよい。通常、33〜660dtex、好ましくは56〜495dtexの糸条が用いられる。繊度が33dtex未満の場合、挿入糸が目立たず、十分な意匠効果が得られない虞がある。繊度が660dtexを超える場合、パイルとパイルの間に挿入糸が露出しやすくなり、意匠性が損なわれる虞がある。
【0046】
挿入糸の単糸繊度は特に限定されるものではなく、その目的や具体的用途に応じて適宜選択すればよい。通常、0.1〜300dtex、好ましくは1.0〜17dtexのものが用いられる。繊度が0.1dtex未満の場合、パイル除去のコントロールが困難となる虞がある。繊度が300dtexを超える場合、編成や織成が困難となる虞がある。
【0047】
また、挿入糸は、耐アルカリ処理を施した糸条を用いることが好ましい。このような糸条を用いることにより、挿入糸の損傷を防ぎ、意匠への影響を軽減することができる。耐アルカリ処理の方法としては、具体的には糸条に撥水加工を行う方法などが挙げられる。
【0048】
本発明の立毛布帛の製造方法について説明する。
【0049】
本発明の立毛布帛を製造するには、パイル糸と挿入糸に、以上に説明した糸条を用いて、地組織部の少なくとも片面にパイルによる立毛部を有する立毛布帛を形成する。前述の通り、立毛部は、編成や織成によって形成された立毛状のパイルよりなるものであっても、起毛処理によって形成された起毛パイルよりなるものであっても構わないが、編成や織成によって形成されたものであることが好ましい。
【0050】
一方、挿入糸の編成、または織成方法は、前述のように、選択される地組織によって種々の方法によって形成できる。なかでも、挿入方向の所要間隔毎に挿入糸を地組織部に編成係止または挿入係止するとともに、各係止部間の部分では、地組織部に編成係止または挿入係止することなく、連続挿入して形成する方法が好ましい。
【0051】
地組織部の形態は、編物、織物などの布帛であることができるが、編物であることが好ましく、特には、ダブルラッセル編物であることが好ましい。
【0052】
地糸についても特に限定されるものでなく、パイル糸、挿入糸と同様のものを用いることができる。なかでも、地糸を構成する繊維は、後述するように、潜在捲縮性または熱収縮性を有する繊維であることが好ましい。かかる繊維から構成される地糸を用いて地組織部を形成することにより、後工程の熱処理の際に、繊維が捲縮または収縮して地組織部の密度が高くなることで、立毛性をより一層向上させることができる。また、風合いの点から、糸条の形態は、マルチフィラメント糸を用いることが好ましい。
【0053】
かかる立毛布帛は、必要に応じて、精練や染色などの処理が施されていてもよい。
【0054】
次いで、立毛部のパイルを部分的に除去する工程を経て、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を製造することができる。
【0055】
立毛部のパイルを部分的に除去する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、抜蝕加工による方法、刈り込み加工による方法が挙げられる。よりシャープな柄(凹部の型際が明瞭)が得られるという点から、抜蝕加工による方法が好ましい。
【0056】
抜蝕加工による方法の場合は、立毛布帛の立毛面に、パイルを抜蝕可能な薬剤を含有する繊維処理剤を部分的に塗布する工程、繊維処理剤を塗布した立毛布帛に熱処理を行うことにより繊維処理剤を塗布されたパイルを脆化する工程、熱処理後の立毛布帛を洗浄処理し、脆化したパイルを除去する工程により、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を製造することができる。
【0057】
抜蝕剤としては、半合成繊維のアセテートなどではフェノール類、アルコール類が、合成繊維のポリエステル系ではグアニジン弱酸塩、フェノール類、アルコール類、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物が、ポリアミド系ではフェノール類、アルコール類が、ポリアクリル系ではフェノール類があげられる。得られる凹凸効果が大きいという観点から、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましく、なかでも水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0058】
前記抜蝕剤に、その抜蝕剤に合わせて適宜選択した溶媒を加えて、繊維処理剤を作成する。
【0059】
繊維処理剤中に含有される抜蝕剤の濃度は、その目的に応じて適宜設定すればよいが、5〜30重量%が好ましく、さらには10〜25重量%であることが好ましい。5重量%未満の場合、パイルの除去性が悪く、意匠性を損なう虞がある。30重量%を超える場合、繊維処理剤の安定が悪くなったり、パイル除去のコントロールが難しく、挿入糸が損傷し、意匠性を損なったりする虞がある。
【0060】
また、繊維処理剤には、その効果を阻害しない程度に添加剤を加えることができ、例えば、糊剤、分散剤、浸透剤、着色剤、耐光向上剤などが挙げられる。
【0061】
繊維処理剤の塗布方法としては、公知慣用の方法を用いることができ、例えば、ロータリースクリーン捺染、フラットスクリーン捺染、インクジェット捺染などが挙げられる。これらは、目的に応じて適宜選択可能であり、例えば、より高い凹凸効果を求める場合はフラットスクリーン捺染、より高い生産性を求める場合はロータリースクリーン捺染、より繊細な凹凸表現を求める場合はインクジェット捺染を用いることが好ましい。
【0062】
繊維処理剤は、用いられる立毛布帛や、所望の凹凸意匠によって異なるが、立毛布帛へ10〜500g/mの範囲で付与されることが好ましく、さらには30〜300g/mの範囲で付与されることが好ましい。繊維処理剤の付与量が30g/m未満の場合、パイルの除去性が悪く、意匠性を損なう虞がある。500g/mを超える場合、挿入糸が繊維処理剤によって損傷し、意匠性を損なう虞がある。
【0063】
抜蝕剤の立毛布帛への付与量は、用いられる立毛布帛や、所望の凹凸意匠によって異なるが、1〜150g/mの範囲が好ましく、さらには3〜80g/mの範囲が好ましい。抜蝕剤の付与量が1g/m未満の場合、パイルの除去性が悪く、意匠性を損なう虞がある。150g/mを超える場合、挿入糸が繊維処理剤によって損傷し、意匠性を損なう虞がある。
【0064】
次いで、抜蝕剤でパイルを分解するために、繊維処理剤を付与した立毛布帛に熱処理を行う。熱処理は、乾熱処理または湿熱処理のいずれであってもよく、またこれらを組み合わせたものであっても構わない。なかでも、パイルの分解が容易に進むという観点から、湿熱処理が好ましい。
【0065】
熱処理の条件は、立毛布帛を構成する繊維素材とそれに応じて選択した抜蝕剤や、所望の凹凸形状によって適宜設定すればよい。例えば、立毛布帛の繊維素材としてポリエステル繊維、抜蝕剤として水酸化ナトリウムを用いた場合は、熱処理温度および時間は、100〜190℃、5〜15分間が好ましく、さらには130〜160℃、7〜10分間が好ましい。熱処理条件が各々の下限値を下回ると、パイルが抜蝕剤によって十分分解できず、凹凸意匠を損なう虞がある。熱処理条件が各々の上限値を上回ると、抜蝕剤による分解が進みすぎ、挿入糸を損傷や変色により意匠を損なったり、凹凸意匠の再現性が悪くなったりする虞がある。
【0066】
熱処理には、ループ式スチーマー、ループ式乾燥機、シリンダー乾燥機、ノンタッチドライヤー、ネット式ドライヤー、オーブン、テンター、ピンテンターなど従来公知の装置を用いることができる。なかでも、パイルの分解が容易に進むという観点から、ループ式スチーマーが好ましい。
【0067】
次いで、繊維処理剤を付与し熱処理をした後、立毛布帛上に残留している繊維の分解物を立毛布帛から脱落させることを目的として、洗浄処理を行う。洗浄は、20〜100℃、好ましくは60〜80℃の水中で、5〜20分間、好ましくは10〜20分間処理すればよい。洗浄液(水)には、洗浄効果を高めるため、必要に応じて、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウムなどのアルカリ剤や、ハイドロサルファイト、二酸化チオ尿素などの還元剤、洗浄用の界面活性剤を添加してもよい。
洗浄処理には、従来公知の洗浄装置や染色機を用いることができる。
【0068】
次いで、ループ式乾燥機、ネット式ドライヤー、タンブラー乾燥機、オーブン、テンター、ピンテンターなど従来公知の装置を用いて80〜130℃で乾燥し、さらにピンテンターを用いて120〜150℃で仕上げセットを行うとよい。
【0069】
一方、刈り込み加工による方法の場合は、立毛布帛の立毛面に、パターンシャーリング機、デザインシャーリング機、ハンドカットのいずれかの手法により、パイルを刈り込んで、立毛部のパイルを部分的に除去する工程により、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を製造することができる。
【0070】
パターンシャーリング機としては、シャーリング機のアンダーヘッドを機械の幅方向と直角に細分して、その一つ一つをコンピュータ制御などの手段により上下させることにより、パイルを模様状に刈り込む機種、およびシャーリング機のカッターナイフとアンダーナイフとの間に部分的に切り抜いたエンドレスのフィルムを走行させ、該フィルムの切り抜き部分から突出したパイルを刈り込む機種などが挙げられる。
【0071】
また、デザインシャーリング機としては、アンダーヘッドを回転する細いローラーに変えて、該ローラーの回りに螺旋状に凸部を形成し、凸部によって押し上げられた部分のパイルだけを刈り込む機種、さらにパイル側のカッターナイフの直前で、刈り込まない部分を押さえ込む板状のものを備えた機種などが挙げられる。
【0072】
いずれにしても、地組織部の立毛面側の面上に配置されている挿入糸の露出部分を切断しないように、パイルの刈り込み量を設定し、刈り込んだ部分(凹部)の表面に挿入糸の側面を露出させるようにする。
【0073】
かくして、図に示すように、立毛状のパイル4の切断端が頂点として表面に現れている立毛部3による凸部7と、立毛部3のパイル4が柄に応じて部分的に除去されることにより、地組織部2の立毛面側に配された挿入糸5が表面に露出している凹部8を有し、風合いを損なうことなく、凸部7と凹部8との質感(触感、光沢など)が異なる、例えば、立毛布帛と織物が混在したような異素材感のある、従来にない斬新な凹凸意匠を有する立毛布帛を提供することができる。
【実施例】
【0074】
[実施例1]
28Gで6枚の筬を有するダブルラッセル編機を使用して、筬L1、L3、L5、L6には地糸として潜在捲縮性を有するサイドバイサイド型複合繊維(2種ともポリエチレンテレフタレート)からなる110dtex/48fのマルチフィラメント糸をフルセットで用い、筬L2には挿入糸として167dtex/72fの三角断面のポリエステルマルチフィラメント加工糸をフルセットで用い、筬L4にはパイル糸として潜在捲縮性を有するアルカリ溶解分割型複合繊維(アルカリ難溶解成分:ポリエチレンテレフタレート、アルカリ易溶解成分:共重合ポリエチレンテレフタレート(カチオン染料可染型ポリエチレンテレフタレート、以下CDPと称す))からなる84dtex/25f(単糸繊度3.36dtex)のマルチフィラメント糸と、高収縮性を有する33dtex/12fのポリエステルマルチフィラメント糸の複合糸をフルセットで用いて、筬L1は2−1・1−1・0−1・1−1、筬L2は0−0・0−0・1−1・1−1・0−0・0−0・1−1・1−1・0−0・0−0・2−2・2−2、筬L3は0−1・1−1・2−1・1−1、筬L4は1−2・1−0・1−0・1−2、筬L5は1−1・2−1・1−1・0−1、筬L6は1−1・0−1・1−1・2−1の組織で、編機上の密度が57コース/インチのダブルラッセル編地を編成した。このダブルラッセル編地をセンターカットして、立毛状のパイルからなる立毛部を形成した。
【0075】
次いで、筬L1〜L4からなるダブルラッセル編地を、ヒートセッターにより190℃で1分間熱処理して捲縮を発現させた後、液流染色機により90℃の水酸化ナトリウム水溶液(13.9重量%)にて45分間浸漬処理して極細繊維を発生させ、引き続き液流染色機により分散染料にて130℃で30分間染色した。次いで、ヒートセッターにより150℃で1.5分間熱処理して乾燥した後、シャーリング機により揃毛した。次いで、ヒートセッターにより150℃で1分間熱処理して仕上げセットし、密度は36ウェル/インチ、64コース/インチで、パイル密度は539136dtex、パイル長は0.9mmの立毛布帛を得た。
【0076】
下記処方1の繊維処理剤を得られた立毛布帛の立毛面に、1.5〜3.0mmで巾が変化するタテ楊柳柄のロータリースクリーンを用いて、布帛に対する繊維処理剤の付与量20g/mとなるように付与した。
<繊維処理剤:処方1>
糊剤(デンプン) 80g/l
糊剤(カルボキシメチルセルロース) 20g/l
48重量%水酸化ナトリウム 400g/l
水 残
【0077】
次いで、ループ式スチーマーを用いて150℃で10分間湿熱処理した。
次いで、液流染色機を用いて下記処方の洗浄液にて50℃で15分間洗浄処理し、さらに常温で水洗した。
次いで、ピンテンターを用いて150℃で1.5分間熱処理して仕上げセットを行い、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
<洗浄液:処方>
48重量%水酸化ナトリウム 2g/l
ハイドロサルファイト 1g/l
界面活性剤 1g/l
水 残
【0078】
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と、タテ方向の挿入糸の側面が表面に露出した織物調の凹部を有し、凸部と凹部の質感が異なる、異素材感のある優れた意匠性を有していた。
【0079】
[実施例2]
実施例1で得られた立毛布帛(繊維処理剤を付与する前のもの)にマングルを用いてカルボキシメチルセルロースを付与量2g/mとなるよう付与して受容層を設け、インクジェットを用い、下記条件にて繊維処理剤を付与した。
<繊維処理剤:処方2>
炭酸グアニジン 25部
水 73部
プロピレングリコール 2部
<インクジェット印写条件>
印写装置 : オンデマンド方式シリアル走査線型インクジェット印写装置
ノズル径 : 50μm
駆動電圧 : 100V
周波数 : 5KHz
解像度 : 360dpi
<柄>
1.5〜3.0mmで巾が変化するタテ楊柳柄
【0080】
繊維処理剤を印写した布帛を乾燥した後、ループ式スチーマーを用いて175℃で10分間湿熱処理した。その後、実施例1と同様の洗浄処理、熱処理(仕上げセット)を行い、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
【0081】
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と、タテ方向の挿入糸の側面が表面に露出した織物調の凹部を有し、凸部と凹部の質感が異なる、異素材感のある優れた意匠性を有していた。
【0082】
[実施例3]
実施例1で得られた立毛布帛(繊維処理剤を付与する前のもの)を20×25mm四方の市松模様となるようにパターンシャーリング機によりパイルを刈り込み、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と、タテ方向の挿入糸の側面が表面に露出した織物調の凹部を有し、凸部と凹部の質感がやや異なる、異素材感のある優れた意匠性を有していた。
【0083】
[実施例4]
28Gで6枚の筬を有するダブルラッセル編機を使用して、筬L1、L6に地糸として潜在捲縮性を有するサイドバイサイド型複合繊維(2種ともポリエチレンテレフタレート)からなる110dtex/48fのマルチフィラメント糸をフルセットで用い、筬L2、L5に地糸兼挿入糸として167dtex/72fの三角断面のポリエステルマルチフィラメント加工糸をフルセットで用い、筬L3、L4にパイル糸として潜在捲縮性を有するアルカリ溶解分割型複合繊維(アルカリ難溶解成分:ポリエチレンテレフタレート、アルカリ易溶解成分:共重合ポリエチレンテレフタレート(CDP))からなる84dtex/25f(単糸繊度3.36dtex)のマルチフィラメント糸と、高収縮性を有する33dtex/12fのポリエステルマルチフィラメント糸の複合糸を1IN1OUTで用いて、筬L1は2−1・1−1・0−1・1−1、筬L2は0−1・1−1・5−4・4−4、筬L3、L4は共に1−2・1−0・1−0・1−2、筬L5は1−1・5−4・4−4・0−1、筬L6は1−1・0−1・1−1・2−1の組織で、編機上の密度が48コース/インチのダブルラッセル編地を編成した。このダブルラッセル編地をセンターカットして、立毛状のパイルからなる立毛部を形成した。
【0084】
次いで、筬L1〜L3からなるダブルラッセル編地に実施例1と同様の熱処理(捲縮発現)、アルカリ浸漬処理(極細化)、染色、熱処理(乾燥)、揃毛、熱処理(仕上げセット)を行い、密度は36ウェル/インチ、54コース/インチで、パイル密度は454896dtex、パイル長は1.1mmの立毛布帛を得た。
得られた立毛布帛に、実施例1と同様のロータリースクリーン捺染、湿熱処理、洗浄処理、熱処理(仕上げセット)を行い、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
【0085】
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と、ヨコ方向の挿入糸の側面が表面に露出した織物調の凹部を有し、凸部と凹部の質感が異なる、異素材感のある優れた意匠性を有していた。
【0086】
[実施例5]
実施例4で得られた立毛布帛(繊維処理剤を付与する前のもの)に、実施例2と同様の受容層形成、インクジェット捺染、湿熱処理、実施例1と同様の洗浄処理、熱処理(仕上げセット)を行い、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と、ヨコ方向の挿入糸の側面が表面に露出した織物調の凹部を有し、凸部と凹部の質感が異なる、異素材感のある優れた意匠性を有していた。
【0087】
[実施例6]
実施例4で得られた立毛布帛(繊維処理剤を付与する前のもの)に、実施例3と同様のパターンシャーリング機によるパイルの刈り込み加工を行い、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と、ヨコ方向の挿入糸の側面が表面に露出した織物調の凹部を有し、凸部と凹部の質感がやや異なる、異素材感のある優れた意匠性を有していた。
【0088】
[実施例7]
22Gで6枚の筬を有するダブルラッセル編機を使用して、筬L1、L3、L5、L6に地糸として潜在捲縮性を有するサイドバイサイド型複合繊維(2種ともポリエチレンテレフタレート)からなる110dtex/48fのマルチフィラメント糸をフルセットで用い、筬L2に挿入糸として167dtex/72fの三角断面のポリエステルマルチフィラメント加工糸の双糸をフルセットで用い、筬L4にパイル糸として潜在捲縮性を有するアルカリ溶解分割型複合繊維(アルカリ難溶解成分:ポリエチレンテレフタレート、アルカリ易溶解成分:共重合ポリエチレンテレフタレート(CDP))からなる84dtex/25f(単糸繊度3.36dtex)のマルチフィラメント糸と、高収縮性を有する33dtex/12fのポリエステルマルチフィラメント糸の複合糸の双糸をフルセットで用いて、筬L1は2−1・1−1・0−1・1−1、筬L2は0−0・0−0・1−1・1−1・0−0・0−0・1−1・1−1・0−0・0−0・2−2・2−2、筬L3は0−1・1−1・2−1・1−1、筬L4は1−2・1−0・1−0・1−2、筬L5は1−1・2−1・1−1・0−1、筬L6は1−1・0−1・1−1・2−1の組織で、編機上の密度が48コース/インチのダブルラッセル編地を編成した。このダブルラッセル編地をセンターカットして、立毛状のパイルからなる立毛部を形成した。
【0089】
次いで、筬L1〜L4からなるダブルラッセル編地に実施例1と同様の熱処理(捲縮発現)、アルカリ浸漬処理(極細化)、染色、熱処理(乾燥)、揃毛、熱処理(仕上げセット)を行い、密度は25ウェル/インチ、53コース/インチで、パイル密度は620100dtex、パイル長は0.9mmの立毛布帛を得た。
得られた立毛布帛に、実施例1と同様のロータリースクリーン捺染、湿熱処理、洗浄処理、熱処理(仕上げセット)を行い、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
【0090】
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と、タテ方向の挿入糸の側面が表面に露出した織物調の凹部を有し、凸部と凹部の質感が異なる、異素材感のある優れた意匠性を有していた。
【0091】
[実施例8]
22Gで6枚の筬を有するダブルラッセル編機を使用して、筬L1、L6に地糸として潜在捲縮性を有するサイドバイサイド型複合繊維(2種ともポリエチレンテレフタレート)からなる110dtex/48fのマルチフィラメント糸をフルセットで用い、筬L2、L5に地糸兼挿入糸として167dtex/72fの三角断面のポリエステルマルチフィラメント加工糸の双糸をフルセットで用い、筬L3、L4にパイル糸として潜在捲縮性を有するアルカリ溶解分割型複合繊維(アルカリ難溶解成分:ポリエチレンテレフタレート、アルカリ易溶解成分:共重合ポリエチレンテレフタレート(CDP))からなる84dtex/25f(単糸繊度3.36dtex)のマルチフィラメント糸と、高収縮性を有する33dtex/12fのポリエステルマルチフィラメント糸の複合糸の双糸を1IN1OUTで用いて、筬L1は2−1・1−1・0−1・1−1、筬L2は0−1・1−1・5−4・4−4、筬L3、L4は1−2・1−0・1−0・1−2、筬L5は1−1・5−4・4−4・0−1、筬L6は1−1・0−1・1−1・2−1の組織で、編機上の密度が43コース/インチのダブルラッセル編地を編成した。このダブルラッセル編地をセンターカットして、立毛状のパイルからなる立毛部を形成した。
【0092】
次いで、筬L1〜L3からなるダブルラッセル編地に実施例1と同様の熱処理(捲縮発現)、アルカリ浸漬処理(極細化)、染色、熱処理(乾燥)、揃毛、熱処理(仕上げセット)を行い、密度は26ウェル/インチ、47コース/インチで、パイル密度は571896dtex、パイル長は1.0mmの立毛布帛を得た。
得られた立毛布帛に、実施例1と同様のロータリースクリーン捺染、湿熱処理、洗浄処理、熱処理(仕上げセット)を行い、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
【0093】
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と、ヨコ方向の挿入糸の側面が表面に露出した織物調の凹部を有し、凸部と凹部の質感が異なる、異素材感のある優れた意匠性を有していた。
【0094】
[実施例9]
28Gで4枚の筬を有するトリコット編機を使用して、筬L1に地糸として84dtex/36fのポリエステルマルチフィラメント糸をフルセットで用い、筬L2に挿入糸として167dtex/72fの三角断面のポリエステルマルチフィラメント加工糸をフルセットで用い、筬L3に地糸として潜在捲縮性を有するサイドバイサイド型複合繊維(2種ともポリエチレンテレフタレート)からなる110dtex/48fのマルチフィラメント糸をフルセットで用い、筬L4にパイル糸として潜在捲縮性を有するアルカリ溶解分割型複合繊維(アルカリ難溶解成分:ポリエチレンテレフタレート、アルカリ易溶解成分:共重合ポリエチレンテレフタレート(CDP))からなる84dtex/25f(単糸繊度3.36dtex)のマルチフィラメント糸と、高収縮性を有する33dtex/12fのポリエステルマルチフィラメント糸の複合糸をフルセットで用いて、筬L1は2−3・1−0、筬L2は1−0・1−1・0−0・1−1・0−0・1−1・0−0・1−1、筬L3は1−0・1−2、筬L4は1−0・4−5の組織で、編機上の密度が62コース/インチのトリコット編地を編成した。
【0095】
次いで、トリコット編地に起毛処理を行って立毛化し起毛パイルによる立毛部を形成した後、実施例1と同様の熱処理(捲縮発現)、アルカリ浸漬処理(極細化)、染色、熱処理(乾燥)、揃毛、熱処理(仕上げセット)を行い、密度は37ウェル/インチ、68コース/インチで、パイル密度は588744dtex、パイル長は1.1mmの立毛布帛を得た。
得られた立毛布帛に、実施例1と同様のロータリースクリーン捺染、湿熱処理、洗浄処理、熱処理(仕上げセット)を行い、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
【0096】
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と、タテ方向の挿入糸の側面が表面に露出した織物調の凹部を有し、凸部と凹部の質感が異なる、異素材感のある優れた意匠性を有していた。
【0097】
[実施例10]
28Gで4枚の筬を有するトリコット編機を使用して、筬L1に地糸として84dtex/36fのポリエステルマルチフィラメント糸をフルセットで用い、筬L2に挿入糸として167dtex/72fの三角断面のポリエステルマルチフィラメント加工糸をフルセットで用い、筬L3に地糸として潜在捲縮性を有するサイドバイサイド型複合繊維(2種ともポリエチレンテレフタレート)からなる84dtex/36fのマルチフィラメント糸をフルセットで用い、筬L4にパイル糸として潜在捲縮性を有するアルカリ溶解分割型複合繊維(アルカリ難溶解成分:ポリエチレンテレフタレート、アルカリ易溶解成分:共重合ポリエチレンテレフタレート(CDP))からなる84dtex/25f(単糸繊度3.36dtex)のマルチフィラメント糸と、高収縮性を有する33dtex/12fのポリエステルマルチフィラメント糸の複合糸をフルセットで用いて、筬L1は2−3・1−0、筬L2は2−2・0−0・0−0・1−1・0−0・1−1・0−0・1−1・0−0・0−0、筬L3は1−0・1−2、筬L4は1−0・4−5の組織で、編機上の密度が62コース/インチのトリコット編地を編成した。
【0098】
次いで、トリコット編地に起毛処理を行って立毛化し起毛パイルによる立毛部を形成した後、実施例1と同様の熱処理(捲縮発現)、アルカリ浸漬処理(極細化)、染色、熱処理(乾燥)、揃毛、熱処理(仕上げセット)を行い、密度は37ウェル/インチ、68コース/インチで、パイル密度は588744dtex、パイル長は1.1mmの立毛布帛を得た。
得られた立毛布帛に、実施例1と同様のロータリースクリーン捺染、湿熱処理、洗浄処理、熱処理(仕上げセット)を行い、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
【0099】
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と、タテ方向の挿入糸の側面が表面に露出した織物調の凹部を有し、凸部と凹部の質感が異なる、異素材感のある優れた意匠性を有していた。
【0100】
[実施例11]
28Gのポールシンカー付きのトリコット編機(ポールシンカー高さ1.5mm)を使用して、筬L2に地糸として潜在捲縮性を有するサイドバイサイド型複合繊維(2種ともポリエチレンテレフタレート)からなる110dtex/48fのマルチフィラメント糸をフルセットで用い、筬L3に挿入糸として84dtex/36fの三角断面のポリエステルマルチフィラメント加工糸をフルセットで用い、筬L4にパイル糸として潜在捲縮性を有するアルカリ溶解分割型複合繊維(アルカリ難溶解成分:ポリエチレンテレフタレート、アルカリ易溶解成分:共重合ポリエチレンテレフタレート(CDP))からなる84dtex/25f(単糸繊度3.36dtex)のマルチフィラメント糸と、高収縮性を有する33dtex/12fのポリエステルマルチフィラメント糸の複合糸をフルセットで用いて、筬L2は1−0・1−2、筬L3は1−0・1−1・1−1・1−1・1−1・1−1・1−1・1−1、筬L4は1−0・0−1の組織で、編機上の密度が65コース/インチのポールトリコット編地を編成した。
【0101】
次いで、ポールトリコット編地をシャーリング機により揃毛して立毛化した後、実施例1と同様の熱処理(捲縮発現)、アルカリ浸漬処理(極細化)、染色、熱処理(乾燥)、揃毛、熱処理(仕上げセット)を行い、密度は31ウェル/インチ、71コース/インチで、パイル密度は515034dtex、パイル長は1.0mmの立毛布帛を得た。
得られた立毛布帛に、実施例1と同様のロータリースクリーン捺染、湿熱処理、洗浄処理、熱処理(仕上げセット)を行い、本発明の凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
【0102】
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と、タテ方向の挿入糸の側面が表面に露出した織物調の凹部を有し、凸部と凹部の質感が異なる、異素材感のある優れた意匠性を有していた。
【0103】
[比較例1]
28Gで6枚の筬を有するダブルラッセル編機を使用して、筬L1、L2、L5、L6に地糸として潜在捲縮性を有するサイドバイサイド型複合繊維(2種ともポリエチレンテレフタレート)からなる110dtex/48fのマルチフィラメント糸をフルセットで用い、筬L3、L4にパイル糸として潜在捲縮性を有するアルカリ溶解分割型複合繊維(アルカリ難溶解成分:ポリエチレンテレフタレート、アルカリ易溶解成分:共重合ポリエチレンテレフタレート(CDP))からなる84dtex/25f(単糸繊度3.36dtex)のマルチフィラメント糸と、高収縮性を有する33dtex/12fのポリエステルマルチフィラメント糸の複合糸を1IN1OUTで用いて、筬L1は2−1・1−1・0−1・1−1、筬L2は0−1・1−1・2−1・1−1、筬L3、L4は1−2・1−0・1−0・1−2、筬L5は1−1・2−1・1−1・0−1、筬L6は1−1・0−1・1−1・2−1の組織で、編機上の密度が58コース/インチのダブルラッセル編地を編成した。このダブルラッセル編地をセンターカットして、パイル部を形成した。
【0104】
次いで、実施例1と同様の熱処理(捲縮発現)、アルカリ浸漬処理(極細化)、染色、熱処理(乾燥)、揃毛、熱処理(仕上げセット)を行い、密度は36ウェル/インチ、64コース/インチで、パイル密度は539136dtex、パイル長は1.0mmの立毛布帛を得た。
得られた立毛布帛の立毛面に、8mm四方の正方形からなるスクエア柄のエンボスロールを用いて、エンボスロール温度195℃、加工速度4m/分、圧力4MPaの条件でエンボス加工を行い、凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
【0105】
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする凸部とパイルが溶融した凹部を有し、異素材感のある意匠性を有していたが、布帛の風合いが粗硬なものであった。
【0106】
[比較例2]
比較例1で得られた立毛布帛(エンボス加工を施す前のもの)に、実施例1と同様のロータリースクリーン捺染、湿熱処理、洗浄処理、熱処理(仕上げセット)を行い、凹凸意匠を有する立毛布帛を得た。
得られた立毛布帛は、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部と同じくパイルの切断端を頂点とする凹部を有し、凸部と凹部の質感が全く同じで、意匠性に乏しいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の立毛布帛は、立毛部による凸部と凹部の質感が異なる、異素材感のある優れた凹凸意匠を呈し、布帛の風合も良好であることから、車両用内装材や椅子張り地、インテリア資材その他の各種の用途に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1…立毛布帛、2…地組織部、3…立毛部、4…パイル、5…挿入糸、6…係止部、7…凸部、8…凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地組織部と、パイルによる立毛部を有する立毛布帛であって、地組織部の立毛面側に挿入糸が配されてなり、立毛部のパイルが部分的に除去されることにより、挿入糸の側面が表面に露出した凹部と、パイルの切断端を頂点とする立毛部による凸部とを有することを特徴とする立毛布帛。
【請求項2】
地組織部が織成または編成され、パイル糸が地組織部に織り込まれるか、または編み込まれることにより、地組織部の少なくとも片面にパイルによる立毛部が形成され、該立毛部のパイルが部分的に除去されてなる請求項1に記載の立毛布帛。
【請求項3】
地組織部の少なくとも片面に、起毛処理されて形成された起毛パイルによる立毛部を有し、該立毛部の起毛パイルが部分的に除去されてなる請求項1に記載の立毛布帛。
【請求項4】
立毛部のパイルが、抜蝕加工あるいは刈り込み加工により部分的に除去されてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の立毛布帛。
【請求項5】
挿入糸は、地組織部の立毛面側に織り込まれるか、または編み込まれることにより適宜間隔で地組織部に係止されて、各係止部分間の部分で側面が地組織部の面上にあるように立毛面側全域に配置されており、立毛部のパイルを除去した凹部において表面に露出している請求項1〜4のいずれか1項に記載の立毛布帛。
【請求項6】
地組織部の少なくとも片面にパイルによる立毛部を有する立毛布帛を、該地組織部の立毛面側に挿入糸を配して形成しておいて、その後の工程で、立毛部のパイルを部分的に除去する加工を施し、パイルを除去した凹部における表面に挿入糸の側面を露出させることを特徴とする立毛布帛の製造方法。
【請求項7】
地組織部と、地組織部に織り込まれるか、または編み込まれるパイル糸と、地組織部の立毛面側にタテ方向、および/または、ヨコ方向に挿入配置される挿入糸とにより、地組織部の少なくとも片面にパイルによる立毛部を有する立毛布帛を織成または編成しておいて、該立毛部のパイルを除去する加工を施す請求項6に記載の立毛布帛の製造方法。
【請求項8】
地組織部の少なくとも片面に、起毛処理して形成した起毛パイルによる立毛部を形成しておいて、該立毛部の起毛パイルを除去する加工を施す請求項6に記載の立毛布帛の製造方法。
【請求項9】
挿入糸を、地組織部の立毛面側に織り込むか、または編み込んで適宜間隔で地組織部に係止させて、各係止部分間の部分で側面が地組織部の面上にあるように立毛面側全域にわって挿入しておく請求項6〜8のいずれか1項に記載の立毛布帛の製造方法。
【請求項10】
立毛部のパイルを部分的に除去する加工方法として、
立毛布帛の立毛面に、パイルを抜蝕可能な薬剤を含有する繊維処理剤を部分的に塗布する工程と、
繊維処理剤を塗布した立毛布帛に熱処理を行うことにより繊維処理剤を塗布されたパイルを脆化する工程と、
熱処理後の立毛布帛を洗浄処理し、脆化したパイルを除去する工程と
を有してなる請求項6〜9のいずれか1項に記載の立毛布帛の製造方法。
【請求項11】
立毛部のパイルを部分的に除去する加工方法として、立毛布帛の立毛部において、パターンシャーリング機、デザインシャーリング機、ハンドカットのいずれかの手法により、パイルを刈り込んで、立毛部のパイルを部分的に除去する工程を有してなる請求項6〜9のいずれか1項に記載の立毛布帛の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−174417(P2010−174417A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20284(P2009−20284)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】