説明

端子の加締装置および端子の加締方法

【課題】キャビティの側壁を傷つけたり、バレルの加締不良を起こしたりする問題を解消して、安定した加締作業を実現する。
【解決手段】コネクタハウジング10のキャビティ11に端子1を収容し、その端子の底板4の両側縁より起立した一対のバレル5間に電線を挿入し、その上からバレル加締部21を下降させて、その下面両端より下向きに突出した先鋭部21aを、バレルとキャビティ側壁12との隙間Hに進入させ、その状態からの更なるバレル加締部の下降により、バレル加締部の下面の成形凹曲面21bによって、バレルを徐々に曲げていき電線を加締固定する電線加締工程の際に用いられる加締装置20であって、バレル加締部と一体または別体に、バレル加締部の下降に伴って先鋭部がキャビティ側壁の先端に達するよりも先に、キャビティの側壁を外側に押し開くキャビティ拡開部22を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタハウジングのキャビティ内に端子を収容した状態で、端子に設けられた電線保持用のバレルを加締める加締装置および端子の加締方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コネクタハウジングに多数のキャビティを互いに平行に並べて配設し、各キャビティに圧接端子を収容した状態で、それぞれの圧接端子に被覆電線を接続することが広く行われている。その場合、圧接端子の上から圧接治具を下降させて、被覆電線を圧接端子の電線圧接部に圧接接続すると同時に、圧接治具に一体に設けたバレル加締部により、各圧接端子の後端に形成された電線保持用のバレル(後足とも呼ばれるもの)を加締めて、被覆電線を圧接端子に固定することが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、寸法的に余裕のあるコネクタの場合は、端子を収容するキャビティの側壁と端子のバレルとの間に十分な隙間を確保することが可能であったために、バレル加締部でバレルを加締める際に、バレル加締部によってキャビティの側壁を傷つけるような心配はなかったが、コネクタの小型化・高密度化の要請に応じて寸法的な余裕がなくなるに従い、幾つかの問題が出てきた。
【0004】
図4、図5はコネクタのコンパクト化に伴う問題点の説明図である。
【0005】
図4、5において、1は圧接端子、4は圧接端子の底板であり、圧接端子1の底板4の幅方向両側縁より一対の電線保持用のバレル5が起立している。一方、コネクタハウジング10には、両側を側壁12により画成されることで、複数の溝状のキャビティ11が形成されている。
【0006】
このコネクタハウジング10によりコネクタを組み立てる場合は、まず、コネクタハウジング10に形成された端子収容用のキャビティ11に圧接端子1を収容する。次いで、その圧接端子1の底板4の両側縁より起立した一対の電線保持用のバレル5,5間に被覆電線(図示せず)を挿入する。それから、被覆電線の圧接と加締を同時に行う。
【0007】
ここでは、加締側についてだけ説明する。加締に際しては、圧接端子1の上から、圧接治具120に一体化したバレル加締部21を下降させていき、バレル加締部21の下面両端より下向きに突出した先鋭部21aを、バレル5とキャビティ11の側壁12との隙間Hに進入させる。そして、その状態からの更にバレル加締部21を下降させることにより、バレル加締部21の下面の先鋭部21a間に形成された成形凹曲面21bによって、バレル5を徐々に曲げていき、最終的に折り曲げたバレル5により電線を加締固定する。
【特許文献1】特開2000−150103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、コネクタの小型化・高密度化に伴って、圧接端子1の配列ピッチが小さくなってくると、キャビティ11の幅も狭くなり、圧接端子1のバレル5とキャビティ11の側壁12との隙間Hも小さくなってくるため、図4のA部に示すように、バレル加締部21がキャビティ11の側壁12に干渉して側壁12を傷つけたり、図5のB部に示すように、バレル加締部21の先鋭部21aがバレル5の上端を拾い切れずに、バレル5の加締不良を起こしたりする問題がある。
【0009】
また、バレル5を加締めた際に、バレル5の外面がキャビティ11の側壁12を押圧し、側壁12が隣りのキャビティ11側に傾くことによって、隣りの圧接端子1のバレル5を加締める際に、下降するバレル加締部21によってキャビティ11の側壁12を削ってしまうという問題もある。
【0010】
一方、それを防止するためにキャビティ11の側壁12に、バレル加締部21との干渉を避けるための大きめ逃がしを設ける(例えば、傾斜角度を大きくする)ことも考えられるが、そうすると、キャビティ11の側壁12の強度が落ちる問題が出てくるので好ましくない。
【0011】
本発明は、上記事情を考慮し、キャビティの側壁の強度を落とさずに、キャビティの側壁を傷つけたり、バレルの加締不良を起こしたりする問題を解消することができて、安定した加締作業を実現し得る、端子の加締装置および端子の加締方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明の端子の加締装置は、コネクタハウジングに形成された端子収容用のキャビティに端子を収容し、その端子の底板の両側縁より起立した一対の電線保持用のバレル間に電線を挿入し、その上からバレル加締部を下降させて、バレル加締部の下面両端より下向きに突出した先鋭部を、前記バレルと前記キャビティの側壁との隙間に進入させ、その状態からの更なるバレル加締部の下降により、バレル加締部の下面の前記先鋭部間に形成された成形凹曲面によって、前記バレルを徐々に曲げていき、最終的に折り曲げたバレルにより電線を加締固定する電線加締工程の際に用いられる前記端子の加締装置であって、前記バレル加締部と一体または別体に、前記バレル加締部の下降に伴って前記先鋭部が前記キャビティの側壁の先端に達するよりも先に、前記キャビティの側壁を外側に押し開くキャビティ拡開部を設けたことを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明の端子の加締方法は、コネクタハウジングに形成された端子収容用のキャビティに端子を収容し、その端子の底板の両側縁より起立した一対の電線保持用のバレル間に電線を挿入し、その上からバレル加締部を下降させて、バレル加締部の下面両端より下向きに突出した先鋭部を、前記バレルと前記キャビティの側壁との隙間に進入させ、その状態からの更なるバレル加締部の下降により、バレル加締部の下面の前記先鋭部間に形成された成形凹曲面によって、前記バレルを徐々に曲げていき、最終的に折り曲げたバレルにより電線を加締固定する端子の加締方法であって、前記バレル加締部と一体または別体に、前記バレル加締部の下降に伴って前記先鋭部が前記キャビティの側壁の先端に達するよりも先に、前記キャビティの側壁を外側に押し開くキャビティ拡開部を設けておき、前記キャビティ拡開部によって予めキャビティの側壁を外側に押し開いた状態にしてから、前記バレル加締部の先鋭部を前記バレルと前記キャビティの側壁との隙間に進入させて、バレルを加締めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明の加締装置によれば、バレル加締部と一体または別体に、バレル加締部の下降に伴って先鋭部がキャビティ側壁の先端に達するよりも先に、キャビティの側壁を外側に押し開くキャビティ拡開部を設けたので、キャビティ側壁に干渉せずに、バレル加締部の下面両端の先鋭部を、バレルとキャビティ側壁との隙間に進入させて、バレルを加締めることができる。また、キャビティ拡開部によりキャビティ側壁間の幅を広げた状態にしてから、バレル加締部をキャビティに挿入するので、バレル加締部の幅を予め広めに設定しておくことができ、確実にバレルの外側にバレル加締部の先鋭部を進入させることができて、バレルの未加締め防止を図ることができる。従って、キャビティの側壁の強度を落とさずに、安定した加締作業を行うことができる。
【0015】
請求項2の発明の加締め方法によれば、キャビティ拡開部によって予めキャビティの側壁を外側に押し開いた状態にしてから、バレル加締部の先鋭部をバレルとキャビティの側壁との隙間に進入させるようにしたので、キャビティの側壁に干渉せずに、バレル加締部によりバレルを加締めることができる。また、キャビティ拡開部によりキャビティ側壁間の幅を広げた状態にしてから、バレル加締部をキャビティに挿入するので、バレル加締部の幅を予め広めに設定しておいて、確実にバレルの外側にバレル加締部の先鋭部が進入するようにすることができる。従って、バレルの未加締防止(加締不良防止)を図ることができて、キャビティの側壁の強度を落とさずに、安定した加締作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1〜図3を用いて本発明を実施形態を説明する。
【0017】
図1は実施形態の加締装置によって加締作業を行う際の要部の構成を示す側面図、図2は図1のII−II矢視断面図、図3は図1のIII−III矢視断面図である。
【0018】
図1〜図3において、1は圧接端子、10はコネクタハウジング、20は電線圧接工程と同時に行われる電線加締工程に用いられる端子の加締装置(圧接装置に含まれる)である。この加締装置20には、バレル加締部21に隣接させて、その後方に新たに、キャビティ拡開部22が設けられている。
【0019】
圧接端子1は、前部に相手端子と嵌合する電気接触部(図示略)を有し、その後部に圧接刃2aを持つ電線圧接部2を有し、その後部に底板4より起立した一対のバレル5,5よりなる電線保持部3を有している。これら電気接触部、電線圧接部2、電線保持部3は、共通の底板4に沿って形成されている。
【0020】
一方、コネクタハウジング10には、圧接端子1を収容するための複数のキャビティ11が、両側を側壁12で仕切られて複数平行に形成されている。キャビティ11の側壁12は、例えば、高さ方向の基端部から先端部に行くほど両側壁12間の間隔(=キャビティ幅)が開くような傾斜壁で構成されており、キャビティ11に圧接端子1を収容した状態で、端子1のバレル5の上端とキャビティ11の側壁12の上端との間に、ある程度の隙間Hが確保されるようになっている。
【0021】
キャビティ11の両側壁12の基端部間の幅は、圧接端子1の底面外幅とほぼ等しく設定され、キャビティ11に圧接端子1を収容した状態で、圧接端子1の幅方向の位置を、両側壁12の基端部によって規制できるようになっている。また、キャビティ11の両側壁12の高さは、圧接端子1の高さ以上に設定されている。
【0022】
加締装置20のバレル加締部21は、その下面の幅方向両端に下向きに突出した先鋭部21aを有し、先鋭部21a間にバレル5を徐々に折り曲げるための成形凹曲面21bを有している。
【0023】
また、バレル加締部21の後方に位置するキャビティ拡開部22は、バレル加締め部21と一体に形成されているものの、バレル加締部21よりも若干下側に突出した三角の突部によって構成され、突部の外面に下向き内側に傾斜した斜面22aを有している。このキャビティ拡開部22は、バレル加締部21の下降に伴って、バレル加締部21の下面の先鋭部21aがキャビティ11の側壁12の先端に達するよりも先に、キャビティ11の側壁12に斜面22aが当接することにより、キャビティ11の側壁12を外側に矢印Cのように押し開くものである。この場合、バレル加締部21の外幅とキャビティ拡開部22の外幅は同寸法に設定されている。
【0024】
次に、圧接工程と同時に行われる加締工程(加締方法)について説明する。
【0025】
コネクタを組み立てる場合は、まず、コネクタハウジング10に形成された端子収容用のキャビティ11に圧接端子1を収容する。次に、その圧接端子1の上方に被覆電線(図示略)を載せ、その上から圧接治具(図示略)を下降させる。それにより、電線圧接部2に対する電線の圧接作業が行われる。
【0026】
このように圧接治具を下降させると、それに連動して加締装置(加締治具)20が下降し、まず、バレル加締部21よりも下側に位置するキャビティ拡開部22の斜面22aが、キャビティ11の側壁12に当接することで、キャビティ11の側壁12を図2中の矢印Cのように外側に押し開いて、キャビティ11の幅を広げる。
【0027】
次いで、キャビティ11の幅が十分に広げられた後から、バレル加締部21の先鋭部21aがバレル5とキャビティ11の側壁12との隙間Hに進入し、その状態からの更なるバレル加締部21の下降により、バレル加締部21の下面の成形凹曲面21bによってバレル5が徐々に曲げられていき、最終的に折り曲げられたバレル5により被覆電線が加締固定される。
【0028】
以上のように、加締装置20のキャビティ拡開部22によって、予めキャビティ11の側壁12を外側に押し開いた状態にしてから、バレル加締部21の先鋭部21aをバレル5とキャビティ11の側壁12との隙間Hに進入させるようにしたので、キャビティ11の側壁12に干渉せずに、バレル加締部21をキャビティ11に挿入することができ、バレル5を確実に加締めることができる。
【0029】
また、キャビティ拡開部22によりキャビティ11の側壁12間の幅を広げた状態にしてから、バレル加締部21をキャビティ11に挿入するので、バレル加締部21の幅を予め広めに設定しておいて、確実にバレル5の外側にバレル加締部21の先鋭部21aが進入するようにすることができる。
【0030】
従って、バレル5の未加締防止(加締不良防止)を図ることができて、キャビティ11の側壁12の強度を落とさずに、安定した加締作業を行うことができる。
【0031】
なお、上記実施形態においては、キャビティ拡開部22をバレル加締部21の後方に設けた場合を示したが、バレル加締部21の前方に設けてもよいし、前方と後方の両方に設けてもよい。
【0032】
また、上記実施形態においては、キャビティ拡開部22をバレル加締部21と一体に設けた場合を示したが、バレル加締部21と別体に設けて、バレル加締部21の下降に先行してキャビティ拡開部22を下降させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態の加締装置によって加締作業を行う際の要部の構成を示す側面図である。
【図2】図1のII−II矢視断面図である。
【図3】図1のIII−III矢視断面図である。
【図4】従来の問題点の説明用の断面図である。
【図5】従来の別の問題点の説明用の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 圧接端子
4 底板
5 バレル
10 コネクタハウジング
11 キャビティ
12 側壁
21 バレル加締部
21a 先鋭部
21b 成形凹曲面
22 キャビティ拡開部
H 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタハウジングに形成された端子収容用のキャビティに端子を収容し、その端子の底板の両側縁より起立した一対の電線保持用のバレル間に電線を挿入し、その上からバレル加締部を下降させて、バレル加締部の下面両端より下向きに突出した先鋭部を、前記バレルと前記キャビティの側壁との隙間に進入させ、その状態からの更なるバレル加締部の下降により、バレル加締部の下面の前記先鋭部間に形成された成形凹曲面によって、前記バレルを徐々に曲げていき、最終的に折り曲げたバレルにより電線を加締固定する電線加締工程の際に用いられる前記端子の加締装置であって、
前記バレル加締部と一体または別体に、前記バレル加締部の下降に伴って前記先鋭部が前記キャビティの側壁の先端に達するよりも先に、前記キャビティの側壁を外側に押し開くキャビティ拡開部を設けたことを特徴とする端子の加締装置。
【請求項2】
コネクタハウジングに形成された端子収容用のキャビティに端子を収容し、その端子の底板の両側縁より起立した一対の電線保持用のバレル間に電線を挿入し、その上からバレル加締部を下降させて、バレル加締部の下面両端より下向きに突出した先鋭部を、前記バレルと前記キャビティの側壁との隙間に進入させ、その状態からの更なるバレル加締部の下降により、バレル加締部の下面の前記先鋭部間に形成された成形凹曲面によって、前記バレルを徐々に曲げていき、最終的に折り曲げたバレルにより電線を加締固定する端子の加締方法であって、
前記バレル加締部と一体または別体に、前記バレル加締部の下降に伴って前記先鋭部が前記キャビティの側壁の先端に達するよりも先に、前記キャビティの側壁を外側に押し開くキャビティ拡開部を設けておき、
前記キャビティ拡開部によって予めキャビティの側壁を外側に押し開いた状態にしてから、前記バレル加締部の先鋭部を前記バレルと前記キャビティの側壁との隙間に進入させて、バレルを加締めることを特徴とする端子の加締方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−157651(P2007−157651A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355167(P2005−355167)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】