説明

端子付き電線の製造方法

【課題】端子と電線の接続部に塗布されたゲル状の防腐剤などの成形材料を簡便に所定の形状に成形することが可能な端子付き電線の製造方法を提供すること。
【解決手段】相手方端子に接続される端子部3と電線接続部4を前後に有した端子2の該電線接続部4に、電線Wの外皮Wbを除去して露出した導体Waを接続する第1の工程と、該第1の工程の後、前記電線接続部4を覆うように成形材料5Aを塗布し、前記電線接続部4の上下左右を包囲する成形型10(上型20、下型30および左右の側型40,40)内で前記成形材料5Aを所定形状の成形体5に成形して該電線接続部4を該成形体5によって封止する第2の工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子と電線の接続部を成形材料によって封止するのに好適に用いられる端子付き電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から架空送電線などの電力分野においては、軽量かつ電気伝導性に優れることから、アルミニウム系材料(アルミまたはアルミ合金)からなる導体(芯線)を絶縁性の外皮で被覆したアルミ電線が使用されている。これに対して、自動車、OA機器、家電製品などの分野においては、電気伝導性に優れた銅系材料(銅または銅合金)からなる導体(芯線)を絶縁性の外皮で被覆した銅電線が信号線や電源線として使用されている。
【0003】
中でも自動車分野においては、車両の高性能・高機能化が急速に進められてきていることから車載される各種電気機器の増加に伴って使用される銅電線も増加する傾向にあるのが現状である。また最近では環境への負荷の少ない電気自動車や燃料電池自動車の開発が盛んに行われているが、この種の自動車においては、バッテリーや燃料電池等から大きなエネルギーを取り出す必要があることから、これらに接続される電線としては従来よりも太い(導体の断面積が大きい)電線が必要とされる。
【0004】
このような状況の下で車両の軽量化により燃費効率を向上させようとする場合、自動車1台当たりに使用される電線の総重量は決して軽視することができるものではなく、重量削減の対象となりうるものである。特に近年普及されてきている電気自動車や燃料電池自動車等においては、車載されるバッテリーや燃料電池などそれ自体が重いことから、少しでも車両を軽くしたいという要望が強い。そこで、軽量化を図る目的から、比重が銅の約3分の1であるアルミニウムを導体に用いたアルミ電線が最近自動車分野において特に注目されている(銅の8.96g/cmに対し、アルミニウムは2.70g/cm)。
【0005】
一般的に、アルミ電線に限らず配線工事を行う場合には、電線同士の接続や電線と電気機器の接続などに圧着端子などの端子が用いられている。このような端子は、導電性、経済性等の観点から銅系材料で成形されたものが多く、アルミ電線用の端子としてもこの銅端子を用いることができれば良いのであるが、アルミと銅の接続部において異種金属の接触腐食が懸念される。
【0006】
この場合、銅の標準電極電位は+0.34Vであり、アルミニウムの標準電極電位は−1.66Vであるため、相互の標準電極電位差が2.00Vと大きなものとなる。このため雨天時の走行や洗車、あるいは結露などによって被水して、2つの導体の接続部に、雨水等の電解質水溶液が浸入して滞留すると、アルミ、銅および電解質水溶液の三者により局部電池を形成して、この局部電池の陽極となるアルミが陽イオンを溶出する異種金属同士における接触腐食(電食)が発生する。
【0007】
このように電気的に卑であるアルミのイオン化が進行してその腐食が促進されると、接続部の接触状態が悪化し電気的特性が不安定になる他、その接続部における接触抵抗の増大、腐食によるアルミ導体径の減少による電気抵抗の増大、更にはアルミ導体の断線が生じるおそれがあり、その結果電気機器の誤動作、機能停止に至ることも考えられる。
【0008】
このような接触腐食(電食)を防ぐため、従来、異種金属同士が接触している箇所(接続部)に耐水性の防食剤(成形材料)を塗布して、その箇所を防食剤によって封止して防水する方法が採られることがある。図16は、従来用いられてきた銅端子2とアルミ電線Wが接続された端子付き電線100を示している。
【0009】
銅端子2は、図示しない相手方端子との接続部である端子部3と、この端子部3から後方に延設された電線接続部4を備えている。アルミ電線Wは、アルミ導体Waが絶縁性の外皮Wbによって被覆された構造を有しており、この外皮Wbの皮剥ぎによって露出されたアルミ導体Waの端部に銅端子2の電線接続部4が接続されている。この電線接続部4には、アルミ導体Waに圧着される一対の導体圧着片(ワイヤーバレル)4a,4aと外皮Wbに圧着される一対の外皮圧着片(インシュレーションバレル)4b,4bが前後に配置して設けられている。
【0010】
このような端子付き電線100の電線接続部4においては、この部分が雨水等によって被水すると上述したアルミと銅の異種金属同士における接触腐食が発生するので、これを防止するために、図17に示されるように、電線接続部4とアルミ導体Waが接触している箇所には、防食剤500を塗布することが行われている。具体的には、導体圧着片4aから前方に突出(露出)した部分のアルミ導体Waと、導体圧着片4aから後方に突出(露出)した部分、つまり導体圧着片4aと外皮圧着片4bとの間で露出した部分のアルミ導体Waを覆う(封止する)ように防食剤500が塗布されている。この場合、防食剤500は導体圧着片4aおよび外皮圧着片4bのそれぞれの上部も覆うように塗布されている。
【0011】
この防食剤500は、塗布時には高温に加熱されてゲル状(以下においては、融解が進んだ場合の液状の状態を含めて「ゲル状」と表記する。)の状態になっており、塗布後に常温にまで冷却されると、ゲル状の防食剤500は固化して電線接続部4に定着されるようになっている。また、電線接続部4の上方から塗布された際の防食剤500はゲル状であるため、その表面張力によって丸みを帯びた形状で電線接続部4を覆うようになっており、その丸みを帯びた形状のままで固化する。尚、本発明に関連する先行技術文献として下記特許文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−14223号公報
【特許文献2】特開2002−367751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このような丸みを帯びた形状のままで防食剤500が固化すると、図18に示されるように、銅端子2をコネクタハウジング7の例えば断面四角形状を有する端子収容孔7aに挿入する際に、その固化した防食剤500が端子収容孔7aの入口に干渉して、銅端子2を端子挿入孔7a内に収容できない不具合(図18(a)参照)や、固化した防食剤500が端子収容孔7aの内壁に干渉して、電線接続部4から剥がれてしまう不具合(図18(b)参照)が発生していた。更に、図18(b)に示されるように、端子部3が端子収容孔7aの所定の位置にまで挿入されているか否かを検知するためのリテーナ8と、固化した防食剤500が干渉して、リテーナ8をリテーナ装着孔7bに装着できないという不具合も発生していた。
【0014】
このようにゲル状の防食剤500を電線接続部4に塗布して固化させるだけでは、その部分の断面積が端子部3の断面積よりも大きくなってしまう場合があり、コネクタハウジング7の端子収容孔7aに、端子部3は挿入できるが電線接続部4を挿入できないという不具合や、固化した防食剤500が剥がれてしまう不具合が発生する。
【0015】
このように塗布された防食剤(成形材料)500によって電線接続部4が端子部3よりも太くならないようにする対策としては、2分割可能な金型に所定形状の凹部(キャビティ)を形成し、この凹部内に電線接続部4を配置して凹部を密閉すると共に、その密閉された凹部内に防食剤(成形材料)500を充填するいわゆるインサート成形法(成形体中に他の部品を入れ込む成形法)を採用することで、防食剤(成形材料)が端子部3よりも太くならないようにその外形を整えるとことが可能であるが、金型の制作費が高く実用的でない。
【0016】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、端子と電線の接続部に塗布されたゲル状の防腐剤などの成形材料を簡便に所定の形状に成形することが可能な端子付き電線の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため本発明に係る端子付き電線の製造方法は、相手方端子に接続される端子部と電線接続部を前後に有した端子の該電線接続部に、電線の外皮を除去して露出した導体を接続する第1の工程と、該第1の工程の後、前記電線接続部を覆うように成形材料を塗布し、前記電線接続部の上下左右を包囲する成形型内で前記成形材料を所定形状の成形体に成形して該電線接続部を該成形体によって封止する第2の工程とを備えることを要旨とするものである。
【0018】
このような構成の端子付き電線の製造方法によれば、端子の電線接続部に塗布された成形材料を、その断面(外形)が所定形状となる成形体に、例えば、断面(外形)がコネクタハウジングの端子挿入孔に挿入できる大きさ・形状となる成形体に成形(モールド)することができる。これにより、単に成形材料を電線接続部に塗布しただけの場合のような、コネクタハウジングの端子収容孔に固化した成形材料(成形体)が干渉してしまうという上述した不具合が防止される。また、用いられる成形型は、電線接続部の上下左右を包囲すると共に、電線接続部の前後を包囲しないで開口させた簡易な構成、つまり電線接続部を完全に密閉しない構成であるので、それら成形型の製作費を上述したインサート成形用の金型の製作費よりも安くすることができる。
【0019】
また、前記成形型は、前記電線接続部の上方に配置されて前記成形体の上面を成形する上型と、前記電線接続部の下方に配置されて前記成形体の下面を成形する下型と、前記電線接続部の左右両脇にそれぞれ配置されて前記成形体の左右側面をそれぞれ成形する左右の両側型とから構成されると共に、前記上型は、前記左右の両側型間の上方開口部を開閉可能に設けられ、前記下型は、前記左右の両側型間の下方開口部に下方から挿入可能に設けられており、前記第2の工程においては、前記下型および前記左右の両側型で包囲された前記電線接続部に前記成形材料を塗布し、前記上型で前記左右の両側型間の上方開口部を閉じた後に、前記上型および前記左右の両側型が前記下型に対して所定位置まで下降、または前記下型が前記上型および前記左右の両側型に対して所定位置まで上昇するようにした構成にすると良い。
【0020】
このような構成によれば、電線接続部の上下左右を包囲する成形型として、上型、下型および左右の両側型を用い、下型および左右の両側型で包囲された電線接続部に成形材料を塗布し、上型で左右の両側型間の上方開口部を閉じた後に、上型および左右の両側型が下型に対して所定位置まで下降、または下型が上型および左右の両側型に対して所定位置まで上昇することで、つまり上型と下型が互いに所定の長さ分接近することで、電線接続部に塗布された成形材料が上型および下型の間で挟み込まれて加圧されることになる。これにより、電線接続部に塗布された成形材料を、その断面(外形)が所定の形状に整えられた成形体へと成形させることが可能である。また、これら上型、下型および左右の両側型としては、金属製の平板などの簡易な構成のものを適用することできるので、上述したインサート成形用の金型よりも安価に製作することができる。
【0021】
この場合、前記上型には、前記端子の前記端子部と前記電線接続部の間に配置される流入防止壁が下方に突出して形成されており、前記第2の工程においては、前記上型の前記流入防止壁によって前記電線接続部に塗布された前記成形材料が前記端子部に流れ込まないようにした構成にすると良い。このような構成によれば、例えば、電線接続部に塗布されたゲル状の成形材料が、上型および下型によって挟み込まれて加圧される際に、相手方端子との接続部である端子部に流れ込んでしまうことが防止される。これにより、相手方端子との接触不良等の不具合の発生が防止されることになる。
【0022】
また、前記流入防止壁は、前記上型とは別体となるように設けられている構成にすると良い。このような構成によれば、例えば、成形材料が高温でゲル状化(融解)し、常温で固化(凝固)するようなものである場合には、その成形材料に接触する前の上型を予め加熱しておく必要があるが、この加熱された上型とは別体になるように流入防止壁を設ける構成、つまり流入防止壁を加熱しない構成とすることで、成形材料をこのほぼ常温の流入防止壁との接触によって冷却・固化させることができる。これによって、相手方端子との接続部である端子部に成形材料が流れ込んでしまうことがより抑制されることになる。
【0023】
この場合、前記上型、前記下型および前記左右の両側型のそれぞれの後端面が、前記端子の前記電線接続部に接続された前記電線の外皮の端部から後方に所定長さ離れた位置に配置されるようにした構成にすると良い。上述した流入防止壁を設ける場合、つまり電線接続部から端子部への成形材料の流れ込みを防止する場合には、上型および下型によって挟み込まれて加圧される際に、成形材料は端子部側とは反対の電線側へと流れ出すことになるが、このとき電線側へと流れ出した成形材料が成形型(上型、下型および左右の両側型)から外側にはみ出してしまうと、その外側にはみ出した成形材料を所定の形状に成形することができず、その部分がコネクタハウジングの端子収容孔と干渉してしまうおそれがある。そこで、上型、下型および左右の両側型のそれぞれの後端面が、端子の電線接続部に接続された電線の外皮の端部から後方に所定長さ離れた位置に配置されるように、上型、下型および左右の両側型を電線接続部から更に電線側方向に所定長さ延ばした形状とすることで、電線側へと流れ出した成形材料が成形型(上型、下型および左右の両側型)からはみ出してしまうことが防止される。
【0024】
更に、前記第2の工程においては、前記端子の前記端子部を冷却するようにした構成にすると良い。このようにすれば、例えば、成形材料が高温でゲル状化(融解)し、常温で固化(凝固)するようなものである場合に、上述した流入防止壁が設けられていなくても、端子部を冷却することにより、電線接続部から端子部に向かって流れる成形材料の先端部分を、端子部の入口付近の位置で冷却・固化させることができ、その位置から更に端子部の奥側へと成形材料が流れ込んでしまうことを防止することが可能である。この場合、端子部の冷却と流入防止壁を併用した構成にしても良い。成形材料の粘度が小さい場合には、端子部の冷却だけでは、端子部の奥側への成形材料の流れ込みを防止できない可能性があるので、このようなときには、端子部の冷却と流入防止壁を併用した構成にするのが好ましい。
【0025】
また、前記上型には、気泡抜き用の孔が開口された入れ子型が上下に移動可能に挿入されており、前記第2の工程においては、前記入れ子型の下面が前記上型の下面から所定位置まで上昇した状態の該上型が、前記左右の両側型と共に前記下型に対して所定位置まで下降した後、または前記下型が、前記入れ子型の下面が前記上型の下面から所定位置まで上昇した状態の該上型および前記左右の両側型に対して所定位置まで上昇した後に、前記入れ子型の下面を前記上型の下面位置まで下降させるようにした構成にすると良い。例えば、電線の導体が複数本の素線を束ねた構成を有する場合には、それら素線間の空隙に空気が存在することから、塗布された成形材料が素線間の空隙に浸入すると同時に空気が成形材料から気泡として抜け出てくることがある。そこで、上型に、気泡抜き用の孔が開口された入れ子型を上下に移動可能に挿入すると共に、電線接続部に塗布されたゲル状の成形材料が、上型および下型によって挟み込まれて加圧される際には、入れ子型の下面を上型の下面より所定位置まで上昇させておき、成形材料から気泡がほぼ抜けた状態になったときに、入れ子型の下面を上型の下面位置まで下降させるようにすることで、内部や表面に気泡のない成形体へと成形材料を成形させることが可能である。
【0026】
更に、前記第2の工程においては、前記電線接続部を包囲する前の前記上型および前記下型がそれぞれ予め加熱されるようにした構成にすると良い。例えば、成形材料が高温でゲル状化(融解)し、常温で固化(凝固)するようなものである場合に、上型と下型を、電線接続部への塗布時のゲル状化した成形材料の温度とほぼ同じになるように予め加熱しておけば、電線接続部に塗布されたゲル状の成形材料が上型と下型と接触すると同時に冷却・固化してしまうことが防止される。
【0027】
また、前記第2の工程においては、前記上型および前記左右の両側型が前記下型に対して所定位置まで下降した後、または前記下型が前記上型および前記左右の両側型に対して所定位置まで上昇した後に、前記上型と前記下型の両方またはいずれか一方が冷却されるようにした構成にすると良い。電線接続部に塗布された成形材料が高温でゲル状化(融解)し、常温で固化(凝固)するようなものである場合には、上型および下型によって挟み込まれて加圧された状態のままで、ゲル状の成形材料を上型と下型の両方またはいずれか一方によって冷却・固化させることができるので、簡便に所定の形状の成形体へと成形させることができる。
【0028】
更に、前記第2の工程の後に、前記成形型から前記成形体を取り出し可能にする第3の工程を備え、該第3の工程においては、前記上型を左右横方向のいずれか一方にスライドさせた後に、前記下型を前記左右の両側型に対して上昇、または前記左右の両側型を前記下型に対して下降させるようにした構成にすると良い。
【0029】
成形材料が固化した状態の成形体は、成形型(上型、下型および左右の両側型)の内側の面(型面)と接着している場合がある。このような場合、上型をその成形体の上面に対して上方向に外すと、成形体の上面に引っ張り加重が加わって、成形体が電線接続部から剥がれてしまうおそれがある。そこで、左右の両側型間の上方開口部を閉じている状態の上型を、そのまま左右横方向のいずれか一方にスライドさせて、上型の下面(型面)と成形体の上面との接着部分を剪断させるようにする。これにより、成形体の上面から上型を良好に剥離することができる。
【0030】
同様に、左右の両側型を成形体の左右側面に対してそれぞれ左右方向に外すと、成形体の左右側面に引っ張り加重が加わって、成形体が電線接続部から剥がれてしまうおそれがある。そこで、下型を左右の両側型に対して上昇、または左右の両側型を下型に対して下降させて、左右の両側型の内側の面(型面)と成形体の左右側面との接着部分を剪断させるようにする。これにより、成形体の左右側面から左右の両側型を良好に剥離することができる。そして、最後に成形体を下型から外すことで、成形体(電線接続部)を取り出すことができる。
【0031】
この場合、前記上型、前記下型および前記左右の両側型のそれぞれの内面には、前記成形体からの離型性を良好にするコーティングが施されている構成にすると良い。このような構成によれば、成形体と成形型との間の接着力が低減されるので、成形型から成形体を取り出す際に、成形体に型崩れや破損が生じるのを防止することができる。このような成形体からの成形型の離型性(剥離性)を良好にするコーティングとしてはフッ素コーティングなどが挙げられる。
【0032】
そして、前記端子は銅または銅合金製の銅端子であると共に、前記電線はアルミまたはアルミ合金製の導体が絶縁性の外皮で被覆されてなるアルミ電線である構成にすると良い。特に、このように端子が銅または銅合金製の銅端子であると共に、電線がアルミまたはアルミ合金製の導体が絶縁性の外皮で被覆されてなるアルミ電線である場合には、電線接続部が成形体によって封止されているので、雨水などが電線接続部(アルミと銅の接続部)に浸入することが防止され、その結果、アルミの電食が防止される。
【0033】
この場合、前記成形材料は防食剤である構成にすると良い。端子の電線接続部の腐食がより防止され、電線の導体との接続信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る端子付き電線の製造方法によれば、端子の電線接続部に塗布された成形材料を、例えば、その断面(外形)がコネクタハウジングの端子挿入孔に挿入できる大きさ・形状となる成形体に成形(モールド)することができる。これにより、単に成形材料を電線接続部に塗布しただけの場合のような、コネクタハウジングの端子収容孔に固化した成形材料(成形体)が干渉してしまうという上述した不具合が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る端子付き電線の製造方法に用いられる成形型の概略構成を示した外観斜視図である。
【図2】(a)は図1の成形型の縦断面図、(b)は(a)の横断面図である。
【図3】(a)は図2の下型および側型に端子付き電線を設置した状態を示した縦断面図、(b)は(a)の横断面図である。
【図4】(a)は図3の端子付き電線の電線接続部に成形材料を塗布した状態を示した縦断面図、(b)は(a)の横断面図である。
【図5】(a)は図4の端子付き電線の電線接続部の上方に上型を配置した状態を示した縦断面図、(b)は(a)の横断面図である。
【図6】(a)は図5の側型間の上方開口部を上型が閉じた状態を示した縦断面図、(b)は(a)の横断面図である。
【図7】(a)は図6の上型および側型を下型に対して所定の位置まで下降させた状態を示した縦断面図、(b)は(a)の横断面図である。
【図8】(a)は図7の上型が側型間の上方開口部を開けるようにスライドした状態を示した縦断面図、(b)は(a)の横断面図である。
【図9】(a)は図8の側型を下型に対して所定の位置まで下降させた状態を示した縦断面図、(b)は(a)の横断面図である。
【図10】端子付き電線の電線接続部が成形体によって封止された状態を示した外観斜視図である。
【図11】(a)は図10の端子付き電線をコネクタハウジングの端子収容孔に挿入する状態を示した縦断面図、(b)は(a)のリテーナが所定位置まで挿入された状態を示した縦断面図である。
【図12】第1の変形例に係る実施形態を示した縦断面図である。
【図13】第2の変形例に係る実施形態を示した縦断面図である。
【図14】第3の変形例に係る実施形態を示した縦断面図である。
【図15】第4の変形例に係る実施形態を示した縦断面図である。
【図16】従来用いられてきた端子付き電線を示した外観斜視図である。
【図17】図16の端子付き電線の電線接続部に防食剤が塗布されて固化された状態を示した外観斜視図である。
【図18】(a)は図17の端子付き電線に設けられた防食剤がコネクタハウジングの端子収容孔の入口に干渉している状態を示した縦断面図、(b)は図17の端子付き電線に設けられた防食剤がコネクタハウジングの端子収容孔内で剥がれている状態およびリテーナが防食剤と干渉している状態を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明に係る端子付き電線の製造方法の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。尚、以下の説明においては、端子の端子部側を前方、その反対側を後方として説明する。例えば、図1においては、左下側が前方および右上側が後方となり、図2(a)においては左側が前方および右側が後方となる。
【0037】
図1に示されるように、端子付き電線1は、銅端子2と、この銅端子2に接続されたアルミ電線Wを備えている。この場合、アルミ電線Wは、アルミ導体Waが絶縁性の外皮Wbによって被覆されており、この外皮Wbの皮剥ぎによって露出されたアルミ導体Waに銅端子2の電線接続部4が接続されている。
【0038】
銅端子2は、銅板の打ち抜き加工および折り曲げ加工等によって成形されており、図示しない相手方端子との接続部である端子部3と、この端子部3から後方に延設された電線接続部4を備えている。端子部3は、いわゆるメス型の端子形状を有しており、端子部3の内部に折り返されることにより形成された弾性接触片3aが設けられている。
【0039】
電線接続部4には、アルミ導体Waに圧着される一対の導体圧着片(ワイヤーバレル)4a,4aと、外皮Wbに圧着される一対の外皮圧着片(インシュレーションバレル)4b,4bとが前後に配置して設けられており、図示しない圧着装置によってこれら導体圧着片4a,4aおよび外皮圧着片4b,4bに圧着加工が施されて、銅端子2はアルミ電線Wと接続されている。
【0040】
このような端子付き電線1の電線接続部4には、図1に示されるような成形型10によって、図10に示されるような成形体5が成形(モールド)されるようになっている。
【0041】
図1および図2に示されるように、成形型10は、上型20、複数の下型30,30,30,30および複数の側型40,40,40,40,40を備えている。上型20は、金属製の角材から切削加工等によって成形されており、下方に所定形状に凸設された下面(上側の型面)21を備えたX方向に長尺な略直方体形状を有している。
【0042】
この場合、下面(上型の型面)21は、その前端から後方(Y方向)に向かって水平に延びた第1平面21aと、この第1平面21aの後端から斜め上方に延びた傾斜面21bと、この傾斜面21bの後端から水平に延びた第2平面21cを有している。この上型20の下面(上側の型面)21は、図10に示される成形体5の上面を成形するためのものである。また、この上型20には、加熱手段としてのヒータ22が内蔵されており、上型20をそのヒータ20の駆動によって所定の温度にまで昇温することが可能になっている。
【0043】
下型30は、金属製の角材から切削加工等によって成形されており、前方から後方(Y方向)に向かって水平に延びた平面状の上面(下側の型面)31を備えて、Z方向に延びた略直方体形状を有している。この場合、下型30の上面(下側の型面)31は、図10に示される成形体5の下面を形成するためのものである。また、下型30は、平板状の台座32上で、X方向に沿って等間隔に並ぶように4つ立設されている。更に、この下型30には、加熱手段としてのヒータ33が内蔵されており、下型30をそのヒータ33の駆動によって所定の温度にまで昇温することが可能になっている。
【0044】
また、下型30の下端は、冷却体34に連結されており、この冷却体34によってヒータ33によって昇温された下型30の温度を常温程度にまで冷却することが可能になっている。この場合、冷却体34の内部には、冷却液が流れる複数の流路34aが形成されており、この流路34aには、例えば、図示しない空冷式熱交換器であるラジエータと、このラジエータと冷却体34との間で冷却液を循環させるポンプが配管接続されている。
【0045】
側型40は、金属製の角材から切削加工等によって成形されており、垂直方向(Z方向)に延びた平面状の側面41を備えて、Y方向に延びた略直方体形状を有している。この場合、隣り合う側型40,40の内側の側面(左右の型面)41,41は、図10に示される成形体5の左右側面を成形するためのものである。また、側型40は、平板状のベースプレート42の上面42a上で、X方向に沿って等間隔に並ぶように5つ立設されており、隣り合う側型40,40の間の下方には、下型30が挿入される下方開口部43が開口されている。
【0046】
また、側型40の上面44は、上型20の下面21の形状に合うように、その前端から後方(Y方向)に向かって水平に延びた第1平面44aと、この第1平面44aの後端から斜め上方に延びた傾斜面44bと、この傾斜面44bの後端から水平に延びた第2平面44cを有している。この場合、隣り合う側型40,40間の上方の上方開口部45は、上型20の下面21によって開閉可能にされている。また、側型40は、ベースプレート42の上面42aからの高さが、図10に示される成形体5の高さよりも高くなるように形成されている。
【0047】
更に、ベースプレート42の上面42aの前端には、前止まり壁42bが立設されており、図3(a)に示されるように端子付き電線1の端子部3の前端面をこの前止まり壁42bの後面に当接させることで、端子付き電線1の電線接続部4が側型40,40間の所定の位置に位置決めされるようになっている。
【0048】
図2(a)に示されるように、側型40が立設されたベースプレート42は、シリンダ46を介して台座32に固定されている。この場合、シリンダ46の下端が台座32上に固定され、上下方向(Z方向)に伸縮可能なロッド46aの先端はベースプレート42の下面に連結されている。したがって、シリンダ46の駆動によって側型40(ベースプレート42)は下型30に対して上下方向(Z方向)に昇降動可能になっている。
【0049】
また、図2(a),(b)に示されるように、上型20は、この上型20を上下方向(Z方向)に昇降動させるシリンダ23のロッド23aの先端に連結されている。また、シリンダ23は、このシリンダ23を上型20ごと下型30および側型40に対して左右横方向(X方向)に移動させるスライダ24に取り付けられている。この場合、スライダ24は図示しないフレームに固定されている。したがって、上型20は、シリンダ23の駆動によって上下方向(Z方向)に昇降動可能になっていると共に、スライダ24の駆動によって左右横方向(X方向)に移動(スライド)可能になっている。
【0050】
次にこのような成形型10が備える上型20、下型30および側型40の動作の手順について図3〜図9を用いて説明する。
【0051】
図3(a),(b)に示されるように、下型30を、隣り合う側型40,40間の下方の下方開口部43に挿入して、その下型30の上面(下側の型面)31とベースプレート42の上面42aがほぼ面一になるように、シリンダ46の駆動によってベースプレート42を上昇または下降させる。その後、端子付き電線1の端子部3の前端面を、ベースプレート42の前止まり壁42bの後面に当接させて位置決めしながら、端子付き電線1の電線接続部4を、側型40,40間に挿入されている下型30の上面31上に載置する。これにより、端子付き電線1の電線接続部4は、下型30の上面(下型の型面)31および左右の側型40,40の側面(左右の型面)41,41によって、その下および左右が包囲されることになる。このとき、下型30は、内蔵されたヒータ33の駆動によって所定の温度にまで予め昇温されており、この下型30からその上面31に載置された電線接続部4に熱が伝導して電線接続部4が加熱されるようになっている。また、同様に上型20も内蔵されたヒータ22の駆動によって所定の温度にまで予め昇温されている。
【0052】
これは、後に電線接続部4に塗布される防食剤などからなる成形材料5Aが、高温でゲル状化(融解)し、常温で固化(凝固)するようなものである場合に、上型20および下型30を、ゲル状化した成形材料5Aの温度とほぼ同じになるように予め加熱(予熱)しておくことで、ゲル状の成形材料5Aが、上型20および下型30と接触すると同時に冷却・固化してしまうのを防止するためである。尚、上型20は、図示されるように下型30および側型40から離れた所定の待機位置にスライダ24の駆動によって配置されている。
【0053】
次に、図4(a),(b)に示されるように、ディスペンサ51を用いて防食剤などからなる成形材料5Aを、端子付き電線1の電線接続部4の上方から塗布する。このとき、電線接続部4に塗布されたゲル状の成形材料5Aは、左右の側型40,40および下型30で包囲された空間内で濡れ広がって、電線接続部4の周囲がこの成形材料5Aによって覆われるようになる。この場合、塗布後の成形材料5Aの高さが、側型40の上面44よりもやや下方位置になるように、成形材料5Aはディスペンサ51によって定量塗布されている。このとき、成形材料5Aはゲル状の状態であるため、電線接続部4の上で盛り上がるように丸みを帯びた形状になっている。
【0054】
次に、図5(a),(b)に示されるように、スライダ24の駆動によって上型20を横移動させて、全ての側型40に上方から見て重なるようにそれら側型40の上方に配置する。その後、図6(a),(b)に示されるようにシリンダ23の駆動によって上型20を下降させると、その上型20の下面21と側型40の上面44が当接されて、隣り合う側型40,40間の上方開口部45が上型20の下面21によって閉じられる。
【0055】
次に、図7(a),(b)に示されるように、シリンダ23の駆動またはシリンダ23およびシリンダ46の同時駆動によって上型20および側型40を、下型30に対して所定の位置まで下降させる。これにより、電線接続部4に塗布された成形材料5Aが、上型20の下面(上型の型面)21および下型30の上面(下側の型面)31の間で挟み込まれて加圧されることになる。このとき、電線接続部4上で盛り上がるように丸みを帯びた形状であった成形材料5Aが、上型20、下型30および左右の側型40,40で包囲された空間(キャビティ)内で、断面略四角形状に整えられる。
【0056】
そして、この状態で、上型20に内蔵されたヒータ22の駆動および下型30に内蔵されたヒータ33の駆動を停止すると共に、下型30の下端に連結された冷却体34の流路34aに冷却液を流して下型30を常温程度になるまで冷却する。これに伴って、下型30の上面31に接触している成形材料5Aおよび電線接続部4も冷却される。これにより、電線接続部4に塗布された成形材料5Aが冷却・固化されて、その断面が所定形状となる成形体5へと成形(モールド)されることになる。
【0057】
次に、図8(a),(b)に示されるように、隣り合う側型40,40間の上方開口部45を閉じていた上型20を、スライダ24の駆動によって横方向にスライドさせる。成形材料5Aが固化した状態の成形体5は、上型20の上面(下側の型面)21、下型30の上面(上側の型面)31および左右の側型40,40の側面(左右の型面)41,41と接着している場合がある。このような場合、上型20をその成形体5の上面に対して上方向に外すと、成形体5の上面に引っ張り加重が加わって、成形体5が電線接続部4から剥がれてしまうおそれがある。そこで、このように左右の側型40,40間の上方開口部45を閉じている状態の上型20を、そのまま横方向にスライドさせて、上型20の下面21と成形体5の上面との接着部分を剪断させるようにする。これにより、成形体5の上面から上型20を良好に剥離(離型)させることができる。
【0058】
そして、次に、図9(a),(b)に示されるように、側型40を、シリンダ46の駆動によって下型30に対して下降させる。このとき、側型40の上面44が、下型30の上面31よりも下方に位置するところまで下降させる。これにより、成形体5の左右側面と側型40,40の内側の側面41,41との接着部分が剪断されて、成形体5の左右側面から側型40,40が良好に剥離(離型)される。そして、最後に成形体5を下型30の上面31から取り外すことで、図10に示されるような電線接続部4が成形体5によって封止された端子付き電線1が得られる。
【0059】
尚、上型20、下型30および左右の側型40,40のそれぞれの内面(下面21、上面31および側面41,41)には、成形体5からの離型性を良好にするフッ素コーティングが施されていると良い。これにより、成形体5と成形型10(上型20、下型30および左右の側型40,40)との接着力が低減されるので、成形型10から成形体5を上述した方法で取り出す際に、成形体5に型崩れや破損が生じるのを防止することができる。
【0060】
このように電線接続部4を封止する成形体5は、上述した成形型10によって、その断面(外形)が、図11に示されるようなコネクタハウジング7の端子挿入孔7aに挿入できる大きさ・形状となるように成形(モールド)することが可能になっている。したがって、図11(a)に示されるように、コネクタハウジング7の端子挿入孔7aに成形体5が干渉することなく、スムーズに端子部3と共に成形体5によって封止された電線接続部4を挿入することができる。また、図11(b)に示されるように、端子部3が端子収容孔7aの所定の位置にまで挿入されているか否かを検知するためのリテーナ8と干渉しないように成形体5の前方部を後方部よりも細く成形することも可能となっている。これにより、リテーナ8を成形体5と干渉させることなくスムーズにコネクタハウジング7のリテーナ装着孔7bに装着することができる。
【0061】
次に、上述した実施の形態の変形例1〜4について説明する。尚、上述した実施の形態と同一の構成については同符号を付して説明は省略し、異なる点を中心に説明する。
【0062】
図12は、第1の変形例を示しており、上型20の下面21には、その下面21の前端部分から下方に突出した流入防止壁25が設けられている。この流入防止壁25は、端子部3と電線接続部4との間に配置されるようになっている。このような流入防止壁25を上型20に設けることで、電線接続部4に塗布されたゲル状の成形材料5Aが、図示されるように上型20および下型30によって挟み込まれて加圧される際に、相手方端子との接続部である端子部3に流れ込んでしまうことが防止される。これにより、相手方端子との接触不良等の不具合が防止されることになる。
【0063】
図13は、第2の変形例を示しており、下方に垂れ下がった流入防止壁61が、端子部3と電線接続部4との間に配置されるようになっている。例えば、成形材料5Aが高温でゲル状化(融解)し、常温で固化(凝固)するようなものである場合には、その成形材料5Aに接触する前の上型20を予め加熱しておく必要があるが、この加熱された上型20とは別体になるように流入防止壁61を設ける構成、つまり流入防止壁61を加熱しない構成とすることで、成形材料5Aをこのほぼ常温の流入防止壁61との接触によって冷却・固化させることができる。これによって、相手方端子との接続部である端子部3に成形材料5Aが流れ込んでしまうことがより抑制されることになる。
【0064】
この場合、図13(a)に示されるように、電線接続部4にディスペンサ51によって成形材料5Aを塗布する際に、流入防止壁61を、端子部3と電線接続部4との間に配置しても良く、また、図13(b)に示されるように、成形材料5Aが、上型20および下型30によって挟み込まれて加圧される際にも、流入防止壁61を、端子部3と電線接続部4との間に配置しても良い。いずれの場合も、相手方端子との接続部である端子部3に成形材料5Aが流れ込んでしまうことが防止される。
【0065】
また、上述した第1の変形例および第2の変形例においては、上型20、下型30および左右の側型40,40のそれぞれの後端面が、電線接続部4に接続されたアルミ電線Wの外皮Wbの端部から後方に所定長さ離れた位置に配置されるようにすると良い。上述した流入防止壁25,61を設ける場合、つまり電線接続部4から端子部3への成形材料5Aの流れ込みを防止する場合には、上型20および下型30によって挟み込まれて加圧される際に、成形材料5Aは端子部3側とは反対のアルミ電線W側へと流れ出すことになるが、このときアルミ電線W側へと流れ出した成形材料5Aが成形型10(上型20、下型30および左右の側型40,40)から外側にはみ出してしまうと、その外側にはみ出した部分を所定の形状に成形することができず、その部分がコネクタハウジング7の端子収容孔7aと干渉してしまうおそれがある。
【0066】
そこで、図12および図13に示されるように、上型30、下型30および左右の側型40,40のそれぞれの後端面が、電線接続部4に接続されたアルミ電線Wの外皮Wbの端部から後方に所定長さ離れた位置、この場合、外皮圧着片4bよりも後方に配置されるように、上型20、下型30および左右の側型40を電線接続部4から更にアルミ電線W側方向に所定長さ延ばした形状とするのが好ましい。これにより、アルミ電線W側へと流れ出した成形材料5Aが成形型10(上型20、下型30および左右の側型40,40)からはみ出してしまうことが防止される。
【0067】
図14は、第3の変形例を示しており、この場合、ベースプレート42の側型40よりも前方の部分を、ベースプレート42から別体となるように切り離して冷却体71とした構成になっている。この冷却体71は、端子部3の前端面、左右側面および下面に接触するように形成されており、内部に冷却液が流れる流路71aが設けられている。また、冷却体71の前端には、前止まり壁71bが立設されており、端子付き電線1の端子部3の前端面をこの前止まり壁71bの後面に当接させることで、端子付き電線1の電線接続部4が側型40,40間の所定の位置に位置決めされるようになっている。
【0068】
このような端子部3に接触する冷却体17によってその端子部3を冷却することにより、電線接続部4から端子部3に向かって流れる成形材料5Aの先端部分を、端子部3の入口付近(後端付近)の位置で冷却・固化させることができ、その位置から更に端子部3の奥側へと成形材料5Aが流れ込んでしまうことを防止することが可能である。
【0069】
この場合、図14(a)に示されるように、電線接続部4にディスペンサ51によって成形材料5Aを塗布する際に、端子部3を冷却体71によって冷却するようにしても良く、また、図14(b)に示されるように、成形材料5Aが、上型20および下型30によって挟み込まれて加圧される際にも、端子部3を冷却体71によって冷却するようにしても良い。いずれの場合も、相手方端子との接続部である端子部3に成形材料5Aが流れ込んでしまうことが防止される。
【0070】
図15は、第4の変形例を示しており、上型20には、気泡抜き用の孔81aが開口された入れ子型81が上下に移動可能に挿入されている。例えば、アルミ電線Wのアルミ導体Waが複数本の素線を束ねた構成を有する場合には、それら素線間の空隙に空気が存在することから、塗布された成形材料5Aが素線間の空隙に浸入すると同時に空気が成形材料5Aから気泡として抜け出てくることがある。
【0071】
そこで、上型20に、気泡抜き用の孔81aが開口された入れ子型81を上下に移動可能に挿入すると共に、電線接続部4に塗布されたゲル状の成形材料5Aが、図15(a)に示されるように、上型20および下型30によって挟み込まれて加圧される際には、入れ子型81の下面81bを上型20の下面21より所定位置まで上昇させておく。そして、成形材料5Aから気泡がほぼ抜けた状態になったときに、図15(b)に示されるように、入れ子型81の下面81bを上型20の下面21位置まで下降させることで、内部や表面に気泡のない成形体5へと成形材料5Aを成形させることが可能である。この場合、入れ子型81の上型20への挿入箇所としては、図示されるような電線接続部4の導体圧着片4aと外皮圧着片4bの間のアルミ導体Waの上方に配置する他に、導体圧着片4aから前方に突出したアルミ導体Waの上方に配置するなど、成形材料5Aから気泡が抜け易い箇所に配置するのが好ましい。
【0072】
以上説明した端子付き電線の製造方法によれば、端子付き電線1の電線接続部4に塗布された成形材料5Aを、その断面が所定形状となる成形体5に、例えば、断面が上述したようなコネクタハウジング7の端子挿入孔7aに挿入できる大きさ・形状となる成形体5に成形(モールド)することができる。これにより、単に成形材料5Aを電線接続部4に塗布しただけの場合のように、コネクタハウジング7の端子収容孔7aに固化した成形材料5A(成形体5)が干渉してしまうという不具合が防止される。
【0073】
また、用いられる成形型10(上型20、下型30および左右の側型40,40)は、電線接続部4の上下左右を包囲すると共に、電線接続部4の前後を包囲しないで開口させた簡易な構成、つまり電線接続部4を完全に密閉しない構成であるので、それら成形型10の製作費をインサート成形用の金型の製作費よりも安くすることができる。
【0074】
以上、本発明に端子付き電線の製造方法の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。
【0075】
例えば、上述した実施形態では、電線接続部4に塗布された成形材料5Aを、上型20と下型30によって挟み込んで加圧する際に、上型20および左右の側型40,40が、下型30に対して所定位置まで下降する構成について説明したが、下型30が、上型20および左右の側型40,40に対して所定位置まで上昇する構成にしても良い。また、下型30を冷却体34によって冷却する構成について説明したが、上型20を同様の冷却体によって冷却する構成にしても良い。更に、銅端子2とアルミ電線Wとの接続部について本発明の製造方法を適用した例について説明したが、銅端子と銅電線の接続部やアルミ端子とアルミ電線の接続部にも本発明の製造方法を適用することができ、上述した実施の形態には限定されない。
【符号の説明】
【0076】
1:端子付き電線 2:銅端子 3:端子部 4 電線接続部
5:成形体 5A:成形材料 7:コネクタハウジング
7a:端子挿入孔 7b:リテーナ装着孔 8:リテーナ
W:アルミ電線 Wa:アルミ導体 Wb:外皮 10:成形型
20:上型 21:下面(上側の型面) 22:ヒータ 23:シリンダ
24:スライダ 25:流入防止壁 30:下型
31:上面(下側の型面) 33:ヒータ 34:冷却体 40:側型
41:側面(左右の型面) 42:ベースプレート 42b:前止まり壁
43:下方開口部 44:上面 45:上方開口部 46:シリンダ
51:ディスペンサ 61:流入防止壁 71:冷却体 81:入れ子型
81a:気泡抜き用孔 81b:下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手方端子に接続される端子部と電線接続部を前後に有した端子の該電線接続部に、電線の外皮を除去して露出した導体を接続する第1の工程と、該第1の工程の後、前記電線接続部を覆うように成形材料を塗布し、前記電線接続部の上下左右を包囲する成形型内で前記成形材料を所定形状の成形体に成形して該電線接続部を該成形体によって封止する第2の工程とを備えることを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【請求項2】
前記成形型は、前記電線接続部の上方に配置されて前記成形体の上面を成形する上型と、前記電線接続部の下方に配置されて前記成形体の下面を成形する下型と、前記電線接続部の左右両脇にそれぞれ配置されて前記成形体の左右側面をそれぞれ成形する左右の両側型とから構成されると共に、前記上型は、前記左右の両側型間の上方開口部を開閉可能に設けられ、前記下型は、前記左右の両側型間の下方開口部に下方から挿入可能に設けられており、前記第2の工程においては、前記下型および前記左右の両側型で包囲された前記電線接続部に前記成形材料を塗布し、前記上型で前記左右の両側型間の上方開口部を閉じた後に、前記上型および前記左右の両側型が前記下型に対して所定位置まで下降、または前記下型が前記上型および前記左右の両側型に対して所定位置まで上昇するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項3】
前記上型には、前記端子の前記端子部と前記電線接続部の間に配置される流入防止壁が下方に突出して形成されており、前記第2の工程においては、前記上型の前記流入防止壁によって前記電線接続部に塗布された前記成形材料が前記端子部に流れ込まないようにしたことを特徴とする請求項2に記載の端子付け電線の製造方法。
【請求項4】
前記流入防止壁は、前記上型とは別体となるように設けられていることを特徴とする請求項3に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項5】
前記上型、前記下型および前記左右の両側型のそれぞれの後端面が、前記端子の前記電線接続部に接続された前記電線の外皮の端部から後方に所定長さ離れた位置に配置されるようにしたことを特徴とする請求項3または4に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項6】
前記第2の工程においては、前記端子の前記端子部を冷却するようにしたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項7】
前記上型には、気泡抜き用の孔が開口された入れ子型が上下に移動可能に挿入されており、前記第2の工程においては、前記入れ子型の下面が前記上型の下面から所定位置まで上昇した状態の該上型が、前記左右の両側型と共に前記下型に対して所定位置まで下降した後、または前記下型が、前記入れ子型の下面が前記上型の下面から所定位置まで上昇した状態の該上型および前記左右の両側型に対して所定位置まで上昇した後に、前記入れ子型の下面を前記上型の下面位置まで下降させるようにしたことを特徴とする請求項2から6のいずれか一項に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項8】
前記第2の工程においては、前記電線接続部を包囲する前の前記上型および前記下型がそれぞれ予め加熱されるようにしたことを特徴とする請求項2から7のいずれか一項に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項9】
前記第2の工程においては、前記上型および前記左右の両側型が前記下型に対して所定位置まで下降した後、または前記下型が前記上型および前記左右の両側型に対して所定位置まで上昇した後に、前記上型と前記下型の両方またはいずれか一方が冷却されるようにしたことを特徴とする請求項2から8のいずれか一項に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項10】
更に、前記第2の工程の後に、前記成形型から前記成形体を取り出し可能にする第3の工程を備え、該第3の工程においては、前記上型を左右横方向のいずれか一方にスライドさせた後に、前記下型を前記左右の両側型に対して上昇、または前記左右の両側型を前記下型に対して下降させるようにしたことを特徴とする請求項2から9のいずれか一項に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項11】
前記上型、前記下型および前記左右の両側型のそれぞれの内面には、前記成形体からの離型性を良好にするコーティングが施されていることを特徴とする請求項10に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項12】
前記端子は銅または銅合金製の銅端子であると共に、前記電線はアルミまたはアルミ合金製の導体が絶縁性の外皮で被覆されてなるアルミ電線であることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項13】
前記成形材料は防食剤であることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の端子付き電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−79654(P2012−79654A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226471(P2010−226471)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】