説明

第四級アンモニウム又は第四級ホスホニウム一塩化物の除去を伴う、不飽和有機化合物の臭素化方法

不飽和有機化合物を、特に臭素化を塩素化溶媒中で実施する場合に、第四級アンモニウム三臭化物又は第四級ホスホニウム三臭化物で臭素化させる。この反応で、第四級アンモニウム一臭化物塩又は第四級ホスホニウム一臭化物塩が、若干量の第四級アンモニウム一塩化物塩又は第四級ホスホニウム一塩化物塩と共に生成する。一塩化物塩は、臭化物イオン源と反応させることによって、対応する第四級アンモニウム一臭化物塩に転化させる。次いで、一臭化物塩を臭素と反応させて、第四級アンモニウム三臭化物又は第四級ホスホニウム三臭化物を再生し、これを臭素化反応に循還させる。この方法は、臭素化生成物中に組み込まれる塩素量を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2009年3月31日に出願された米国仮特許出願第61/165,402号による優先権を主張する。
【0002】
本発明は、ブタジエンホモポリマー又はコポリマーなどの、脂肪族炭素−炭素二重結合を有する化合物の臭素化方法に関する。ブタジエンコポリマーの例としては、スチレン及びブタジエンのブロック、ランダム又はグラフトコポリマーが挙げられる。
【背景技術】
【0003】
特許文献1はブタジエンコポリマーの臭素化方法を記載している。その臭素化剤は、フェニルトリアルキルアンモニウム三臭化物、ベンジルトリアルキルアンモニウム三臭化物又はテトラアルキルアンモニウム三臭化物である。この方法はコポリマーを溶解させて実施する。脂肪族炭素−炭素二重結合が高選択率で臭素化され、芳香環が本質的に影響を受けない。この方法は、好ましくは、酸素を含まない塩素化溶媒中で実施される。これは、ポリマー上のエーテル基の形成を最小限に抑えるのに役立ち、エーテル基は臭素化ポリマーの熱安定性に悪影響を及ぼすことが多いので、有益である。意外なことに、温度条件が約80℃未満に制御されるならば、臭素化ポリマーと塩素化溶媒との間でハロゲン交換がほとんど起こらない。それでもなお、この反応は完全には抑制されない。
【0004】
ある種のホスホニウム三臭化物を第四級アンモニウム三臭化物の代わりに第四級ホスホニウム三臭化物を用いる同様な方法が、特許文献2に記載されている。
【0005】
臭素化ポリマーの潜在的用途は、ポリスチレンなどの熱可塑性ポリマー用の難燃剤としてである。臭素化ポリマーの熱的特性は、その用途では非常に重要である。熱可塑性ポリマーは、典型的には溶融ブレンド法で臭素化ポリマーとブレンドされる。このブレンドは、ほとんどの場合、同時に又は続いて溶融加工して、二次加工品を形成する。臭素化ポリマーは、この溶融ブレンド及び溶融加工操作中に遭遇する温度において熱安定性でなければならない。更に、臭素化ポリマーは、火災条件(fire conditions)下で分解して、臭素又は臭化水素を遊離できなければならない。臭素化ポリマーが過度に熱安定性である場合には、正しい温度で分解せず、難燃剤としての効果がない。臭素化ポリブタジエンコポリマーは、ある種の副反応を最小限に抑えることによって慎重に製造されれば、難燃剤用途に必要な熱的特性を有し得ることが判明した。特許文献1に記載された方法は、望ましい熱的特性を有する臭素化ポリブタジエンコポリマーを生成する。
【0006】
ハロゲン化溶媒を前記方法に用いる場合には、いくつかのハロゲン交換反応が起きることができる。この反応の程度は多くの場合小さいが、熱安定性を最大にし、FR剤としての製品の効率を最大にし且つ製品の一貫性を向上させるためには、これらの反応を可能な限り抑制することが引き続き望まれている。
【0007】
特許文献1に記載された臭素化方法に関連する問題は、その他の点では有利な反応条件下で反応の進行が遅いことである。臭素化は、転化の初期段階では速い傾向があるが、ブタジエン単位の高転化が必要な場合には長い時間が必要である。特許文献3では、反応が25〜90%完了した後に、臭素化反応に水又はある種の溶媒を添加することによって、反応時間が短縮される。このアプローチは、反応時間を極めて大幅に短縮させるが、臭素化生成物の純度がわずかに犠牲になる。
【0008】
同様な状況が、他の不飽和有機化合物を第四級アンモニウム三臭化物又は第四級ホスホニウム三臭化物で臭素化する場合に、特に臭素化を塩素化溶媒中で実施する場合に起こり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 2008/021417
【特許文献2】PCT/US09/53699(2009年8月13日出願)
【特許文献3】米国仮特許出願第61/090,954号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、得られる臭素化化合物の塩素含量が非常に低レベルに保たれる、脂肪族炭素−炭素二重結合を有する有機化合物の臭素化方法を提供することが望ましい。塩素化溶媒は多くの他の溶媒に比較して臭素化反応において、場合によっては、ある種の利点を提供するので、臭素化反応を塩素化溶媒中で実施する場合でも、これを達成することが望ましい。適度に短い反応時間を依然として保持しながら、これらの利点を達成することが特に望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
a)脂肪族炭素−炭素二重結合を含む不飽和化合物と第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物とを少なくとも1種のブタジエンポリマー用溶媒の存在下において、前記不飽和化合物が臭素化され、且つ副生物として第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩と第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩との混合物が形成されるような条件下で接触させ、
b)前記第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩副生成物と臭化物イオン源とを、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩の少なくとも一部が前記臭化物イオン源と反応する条件下で接触させて、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩又は第四級アンモニウムホスホニウム一臭化物塩及び塩化物副生成物を再生させ、
c)再生第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩を臭素と接触させて、対応する第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物を生成させ、そして次に
d)工程c)の前、間又は後に、再生第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩又は第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物から塩化物副生物を分離し、そして次に
e)工程c)で得られた第四級アンモニウム三臭化物又は第四級ホスホニウム三臭化物を工程a)に循還させる
ことを含んでなる、臭素化有機化合物の製造方法である。
【0012】
本明細書中で使用する呼称「アンモ(ホスホ)ニウム」は、アンモニウム及びホスホニウムの両方を含む省略用語として用いる。従って、例えば用語「第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩」は第四級アンモニウム一臭化物塩及び第四級ホスホニウム一臭化物塩を含み、用語「第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物」は第四級アンモニウム三臭化物及び第四級ホスホニウム三臭化物を含む。
【0013】
また、本発明のために、出発不飽和有機化合物は、2つの臭素原子が不飽和有機化合物の少なくとも1つの炭素−炭素二重結合に付加することによって、その炭素原子のそれぞれが臭素原子に結合される場合に、臭素化されると考えられる。脂肪族炭素−炭素二重結合へのHBrの付加である臭化水素化は、本発明のために、ほとんどの場合最小化又は回避されるべき不所望な副反応と考えられる。
【0014】
本発明者らは、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物種(species)が臭素化反応中に形成されやすいこと、そしてこれらの種が系中に残された場合には、その存在が臭素化ポリマー中への塩素原子の組み入れを明らかに促進することを見出した。本発明は、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物種を除去し、そのような方法で臭素化生成物への塩素の結合を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の方法の一実施態様の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
臭素化する出発原料は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む任意の有機化合物であることができる。本発明の最も広範な面において、出発原料の分子量は重要ではない。従って、出発原料は、例えば単純なモノオレフィン(例えばエチレン、プロピレン若しくは他のα−オレフィン)、脂環式モノ−若しくはポリオレフィン又は脂肪族炭素−炭素不飽和を含む有機ポリマーであることができる。本発明の広範な面において、出発原料は幅広い種類の置換基を含むことができる。
【0017】
しかし、難燃剤としての潜在的有用性のために、ブタジエンのポリマーがこの方法で最も重要な出発原料である。ブタジエンポリマーはホモポリマー又はブタジエンと1種若しくはそれ以上の他のモノマーとのコポリマーであることができる。コポリマーはランダム、ブロック又はグラフトコポリマーであることができ、少なくとも10重量%の重合ポリブタジエンを含まなければならない。ブタジエンは重合して、2つの型の反復単位を形成する。1つの型は、本明細書中で「1,2−ブタジエン」単位と称し、
【0018】
【化1】

【0019】
の形を取るので、ポリマーに不飽和側基を導入する。第2の型は、「1,4−ブタジエン」単位と称し、−CH2−CH=CH−CH2−の形を取るので、ポリマー主鎖に不飽和を導入する。ブタジエンポリマーは少なくとも若干の1,2−ブタジエン単位を含まなければならない。ブタジエンポリマー中のブタジエン単位のうち、好適には少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、より好ましくは少なくとも20%、更に好ましくは少なくとも25%が1,2−ブタジエン単位である。1,2−ブタジエン単位は、ブタジエンポリマー中のブタジエン単位の少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%又は少なくとも70%を構成できる。1,2−ブタジエン単位の割合は、ポリマー中のブタジエン単位の85%超又は更には90%超であることさえできる。
【0020】
1,2−ブタジエン含量が制御されたブタジエンポリマーの製造方法はJ.F.Henderson及びM.Szwarc、Journal of Polymer Science(D,Macromolecular Review)、Volume3、317頁(1968);Y,Tanaka、Y.Takeuchi,M.Kobayashi及びH.Tadokoro、J.Polym.Sci. A-2、9、43-57(1971);J.Zymona,E.Santte及びH.Harwood、Macromolecules、6,129〜133(1973);並びにH.Ashitakaら、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,21、1853〜1860(1983)に記載されている。
【0021】
より好ましい出発原料は、ブタジエンと少なくとも1種のビニル芳香族モノマーとのランダム、ブロック又はグラフトコポリマーである。「ビニル芳香族」モノマーは、重合性エチレン性不飽和基が芳香環の炭素原子に直接結合している芳香族化合物である。ビニル芳香族モノマーには、スチレン及びビニルナフタレンなどの不飽和物質並びにエチレン性不飽和基が置換された化合物(例えばα−メチルスチレン)などがある。環置換ビニル芳香族モノマーには、ハロゲン、アルコキシル、ニトロ又は非置換若しくは置換アルキル基が芳香環の炭素原子に直接結合しているものなどがある。このような環置換ビニル芳香族モノマーの例としては、2−若しくは4−ブロモスチレン、2−若しくは4−クロロスチレン、2−若しくは4−メトキシスチレン、2−若しくは4−ニトロスチレン、2−若しくは4−メチルスチレン及び2,4−ジメチルスチレンが挙げられる。好ましいビニル芳香族モノマーは、スチレン、α−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン及びそれらの混合物である。
【0022】
「ビニル芳香族単位」は、ビニル芳香族モノマーが重合される場合に形成される、出発原料中の反復単位である。好適なブタジエン/ビニル芳香族出発コポリマーは5〜90重量%の重合ビニル芳香族モノマー単位及び少なくとも10重量%の重合ブタジエンを含む。
【0023】
ブタジエン/ビニル芳香族コポリマーは、ランダム型、ブロック型(ジブロック又はトリブロック型などのマルチブロック型を含む)又はグラフト型のコポリマーであることができる。スチレン/ブタジエンブロックコポリマーは、商業的な量で広範に入手可能である。Dexco Polymersから商品名VECTOR(商標)として入手可能なものが好適である。スチレン/ブタジエンランダムコポリマーは、A.F.Halasa、Polymer、Volume 46、4166頁(2005)に記載された方法に従って製造できる。スチレン/ブタジエングラフトコポリマーは、A.F.Halasa、Journal of Polymer Science(Polymer Chemistry Edition)、Volume14、497頁(1976)に記載された方法に従って製造できる。スチレン/ブタジエンランダム及びグラフトコポリマーは、Hsieh及びQuirk、Anionic Polymerization Principles and Practical Applications、chapter9、Marcel Dekker,Inc.、New York、1996に記載された方法に従っても製造できる。
【0024】
出発ブタジエンポリマーは、ブタジエン以外のモノマーとビニル芳香族モノマーとを重合させることによって形成される反復単位を含むこともできる。このような他のモノマーとしては、オレフィン、例えばエチレン及びプロピレン;アクリレート又はアクリル酸モノマー、例えばメタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸などが挙げられる。これらのモノマーはブタジエンとランダムに重合させることができ、重合によってブロックを形成でき、又はブタジエンポリマーにグラフトさせることができる。
【0025】
最も好ましい型のブタジエンポリマーは、1つ又はそれ以上のポリスチレンブロックと1つ又はそれ以上のポリブタジエンブロックとを含むブロックコポリマーである。これらのなかでも、ジブロックコポリマー並びに中央ポリブタジエンブロック及び末端スチレンブロックを有するトリブロックコポリマーが特に好ましい。
【0026】
ブタジエンポリマーは1,000〜400,000、好ましくは2,000〜300,000、より好ましくは5,000〜200,000、更に好ましくは50,000〜120,000の範囲内の重量平均分子量(Mw)を有する。本発明のために、分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって測定された、ポリスチレン標準に比較した見掛の分子量である。GPCによる分子量の測定は、直列に接続された2つのPolymer Laboratories PLgel 5マイクロメーターMixed−Cカラム及びAgilent G1632A屈折率検出器を装着したAgilent 1100シリーズ・液体クロマトグラフを用いて、溶離剤として35℃に加熱されたテトラヒドロフラン(THF)を1mL/分の速度で流しながら実施できる。
【0027】
本発明に使用する臭素化剤は第四級アンモニウム三臭化物又は第四級ホスホニウム三臭化物である。三臭化ピリジニウム、フェニルトリアルキルアンモニウム三臭化物、ベンジルトリアルキルアンモニウム三臭化物及びテトラアルキルアンモニウム三臭化物が好適な第四級アンモニウム三臭化物である。具体例としては、フェニルトリメチルアンモニウム三臭化物、ベンジルトリメチルアンモニウム三臭化物、テトラメチルアンモニウム三臭化物、テトラエチルアンモニウム三臭化物、テトラプロピルアンモニウム三臭化物、テトラ−n−ブチルアンモニウム三臭化物などが挙げられる。好適な第四級ホスホニウム三臭化物は式R4+(式中、Rは炭化水素基である)で表わすことができる第四級ホスホニウム基を含む。第四級ホスホニウム三臭化物はテトラアルキルホスホニウム三臭化物であることができ、その場合にはRはそれぞれアルキルである。4個のR基は全て同じでもよい。或いは、2、3又は更には4個の異なるR基が燐原子に結合していてもよい。R基は、それぞれ、好ましくは炭素数1〜20のアルキルである。R基は、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基である。具体的な第四級ホスホニウム三臭化物の例としては、テトラメチルホスホニウム三臭化物、テトラエチルホスホニウム三臭化物、テトラ(n−プロピル)ホスホニウム三臭化物、テトラ(n−ブチル)ホスホニウム三臭化物、テトラヘキシルホスホニウム三臭化物、テトラオクチルホスホニウム三臭化物、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム三臭化物など又はそれらの混合物が挙げられる。
【0028】
第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物臭素化剤は、対応する第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩を元素状臭素と混合することによって製造できる。一臭化物塩は通常は水溶性であるので、三臭化物の簡便な製造方法は、一臭化物塩水溶液への元素状臭素の添加である。この反応は、ほぼ室温でよく進行するが、所望ならば、これより高温又は低温も使用できる。三臭化物は、水相から析出しやすいので、液相から任意の簡便な固相分離法によって回収できる。第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物は有機溶媒に可溶であるので、有機溶媒を用いた抽出によって水相から分離させて、第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物の有機溶媒中溶液を形成できる。三臭化物は多くの有機溶媒に可溶であり、所望ならば、このような溶媒に溶解させて、三臭化物の反応混合物への付加を促進できる。有機溶媒を用いる場合には、有機溶媒は、好ましくは出発不飽和有機化合物の溶媒でもあり、最も好ましくは、出発不飽和有機化合物を溶解させるのに使用するのと同じ溶媒である。三臭化物を水の存在下で製造する場合には、三臭化物は水から分離してから、出発不飽和有機化合物と接触させるのが好ましい。
【0029】
臭素化反応は、出発不飽和有機化合物用の溶媒中で実施する。この溶媒は、好ましくはアンモ(ホスホ)ニウム三臭化物臭素化剤の溶媒となるが、反応において形成されるアンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩に対しては溶媒とならない。本発明の方法は、溶媒が塩素化されている、即ち少なくとも1つの塩素原子を含む場合に特に好ましい。好適な塩素化溶媒の例としては、塩素化アルカン、例えば四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ブロモクロロメタン(CH2BrCl)及び1,2−ジクロロエタン並びに塩素化芳香族化合物、例えばブロモベンゼン、クロロベンゼン及びジクロロベンゼンが挙げられる。溶媒は、好ましくは臭素化条件下で液体であり、臭素化剤と不所望に反応しない。
【0030】
臭素化反応は、不飽和有機化合物、溶媒及び第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物を混合し、所望の比率の炭素−炭素不飽和部位が臭素化されるまで混合物を反応させることによって実施する。不飽和有機化合物、第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物及び溶媒の添加順序は特に重要ではないが、三臭化物と不飽和有機化合物とを最初に混合する場合には、相当の反応が起こる前に溶媒を添加するのが好ましい。
【0031】
溶媒は、反応条件下で不飽和有機化合物を溶解させるのに充分な量で使用する。溶媒中の不飽和有機化合物の濃度は、例えば1〜50重量%、特に5〜35重量%の範囲であることができる。
【0032】
好適には、出発原料中の脂肪族炭素−炭素不飽和1モル当り、約0.5〜約5モルの第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物を使用し、より好適な量は約0.9〜約2.5モル/モル、更に好適な量は1〜1.5モル/モルである。
【0033】
一般に、臭素化の実施にはごく穏和な条件が必要である。臭素化温度は−20〜100℃の範囲であり、好ましくは0〜90℃、特に40〜80℃である。100℃より高い温度も使用できるであろうが、必要でなく、場合によっては選択率の低下及び/又は副生物の増加をもたらすおそれがある。第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物は、反応の進行につれて、対応する第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩に転化される。第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩は、ほとんどの場合、溶媒及び臭素化生成物中に不溶であり、すぐ下に記載するように第2の溶媒を添加しなければ、溶液から析出する傾向がある。
【0034】
好ましい態様においては、出発原料が部分的に臭素化された後に、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物用の溶媒(ここでは「第2の溶媒」と称する)を反応混合物に添加する。第2の溶媒は、出発原料中の脂肪族炭素−炭素二重結合の約25%、好ましくは約50%、より好ましくは約60%が臭素化された後に(即ち少なくとも25%、50%又は60%の転化後に)投入する。脂肪族炭素−炭素二重結合の部分転化後の第2の溶媒のこのような投入の前は、反応混合物は、好ましくは第四級アンモニウム一臭化物用の溶媒を本質的には含まない。第2の溶媒は、転化率90%の時点より以前に、好ましくは転化率約80%の以前に、更に好ましくは転化率75%の以前に添加しなければならない。第2の溶媒の添加後、臭素化反応は第2の溶媒の存在下で、好ましくは少なくとも90%の転化率まで、より好ましくは少なくとも95%の転化率まで、更に好ましくは少なくとも97%の転化率まで継続させる。第2の溶媒は、典型的には不飽和有機化合物出発原料用の溶媒と不混和性であるので、反応混合物は、相間の良好な接触をもたらすために第2の溶媒の添加後に撹拌しなければならない。
【0035】
所望ならば、反応を分析によって追跡して、脂肪族炭素−炭素二重結合の転化を監視することができる。臭素化の程度は、多くの場合、プロトンNMR法を用いて測定できる。
【0036】
第2の溶媒は、典型的には、臭素化反応条件下で、出発不飽和有機化合物、臭素化生成物、第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物又は他の溶媒と反応性でない極性化合物である。第2の溶媒は、臭素化反応条件下で液体であるのが好ましい。第2の溶媒は非プロトン性でもプロトン性でもよい。第2の溶媒は第1の溶媒と混和性であってもなくてもよいが、最も好ましくは第1の溶媒と混和性でなく、従って、第1の溶媒及び臭素化生成物からの第2の溶媒(第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩が溶解している)の分離及び回収がより容易である。水が圧倒的に最も好ましい第2の溶媒である。
【0037】
臭素化反応によって、第四級アンモニウム一臭化物又は第四級ホスホニウム一臭化物が副生物として生成される。本発明者らは、この副生物の一部が対応する第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩に転化されることを見出した。これは、この方法に塩素化溶媒を用いる場合には頻繁に起こる傾向がある。従って、臭素化反応の副生物は、予想される第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩と若干量の対応する第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩との混合物である。
【0038】
第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩は臭化物イオン源と接触させて、対応する第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩を再生する。これにより、塩化物副生物が生成し、これを、再生第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩から分離する。次いで、一臭化物塩を対応する三塩化物に添加し、臭素化反応に循還させることができる。
【0039】
好ましくは第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩は、最初に、臭素化反応において形成される臭素化生成物から分離する。第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物はプロセス溶媒に不溶又は難溶であることが多いので、多くの場合、反応溶液から析出し、任意の簡便な固液分離法、例えば濾過又は遠心分離を用いて除去できる。第2の溶媒を用いる場合には、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩は第2の溶媒中に溶解する傾向がある。第2の溶媒は典型的には反応混合物の他の部分とは不混和性であるので、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩は、第2の溶媒相の除去によって臭素化生成物から除去できる。種々の洗浄方法も使用できる。
【0040】
第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩副生物は、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩副生物と共に、除去される傾向がある。この方法の次の工程を実施する前に、これらを分離する必要はない。
【0041】
第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩は、臭化物イオン源と反応させる。塩化物イオン源は、例えば無機臭化物塩、例えばアルカリ金属臭化物(例えば臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム又は臭化セシウム);アルカリ土類金属臭化物塩(例えば臭化カルシウム又は臭化マグネシウム);臭化水素若しくは臭化水素酸溶液;有機アミン又はホスフィン臭化水素酸塩(例えばトリエチルアミン臭化水素酸塩)などであることができる。
【0042】
第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩と臭化物イオン源との反応は、好ましくは適切な溶媒中で実施する。多くの極性有機化合物を溶媒として使用できるが、水が極めて好ましい。
【0043】
第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩は臭化物イオン源と反応して、対応する第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩及び塩化物副生物を再生する。必要な反応条件は一般に穏和である。0〜100℃、好ましくは20〜60℃の温度が好適であり、反応時間は一般に1時間未満である。反応開始時に存在する全ての第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物はそのまま残り、変化しない。
【0044】
このようにして形成された第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩は、次に対応する第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物に転化させる。これは、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩を元素状臭素と接触させることによって簡便に実施される。第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩は、好適な溶媒(水を含む)中に溶解させることができる。一般に必要とされるのは穏和な温度のみである。第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物を再生するための条件は、例えばWO 2008/021417及びPCT/US09/53699に記載されている。次いで、第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物は臭素化反応に循還させる。
【0045】
第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物を循還させる前に、塩化物副生物を除去する。これは、再生第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物を対応する三臭化物に転化させる前に実施してもよい。別法として、これは、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物を三臭化物に転化させた後に又はその工程と同時に実施してもよい。
【0046】
塩化物副生物は、種々の抽出法によって、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩から種々の溶媒中のこれら2種の物質の溶解度差を利用して除去できる。例えばアセトニトリルは第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩には良好な溶媒であるが、多くの塩化物副生物には良好な溶媒でないので、アセトニトリル及び類似物質を抽出剤として使用することができる。
【0047】
塩化物副生物は、第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物から抽出法を用いて除去できる(即ち転化工程中又は転化工程後に)。第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物は、塩化物副生物が不溶又は難溶の種々の有機溶媒に可溶である。逆に、塩化物副生物は、第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物塩が不溶である水及び一部の極性有機溶媒中に極めて溶解しやすい傾向がある。これらの溶解度差が、種々の抽出方法の基礎をなし、それによって必要な分離を達成できる。
【0048】
連続操作又は半連続操作に好適な好ましい方法においては、臭素化反応によって得られた反応混合物を、還元剤を含んでいてもよい水性相で抽出する。これにより、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩及び第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩が有機相から除去され、水性相に移される。次いで、水性相をプロセス溶媒及び元素状臭素と接触させて、第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物を再生する(第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物はプロセス溶媒相に移行する)。臭素原子源を、再生工程の前又はそれと同時に、水性相に添加して、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩を対応する一臭化物塩に転化させることもできる。水性相と有機相とを再生工程の最後に分離させる場合には、塩化物副生物は水性相と共に除去される。
【0049】
本発明の一態様を図に示す。図は、本発明の方法の一態様の単なる略図として示すものである。この図は、種々の好ましい又は任意的な特徴を含む。図は、示した種々の成分の設計を含む、具体的な工学的特徴又は詳細を示すことを意図しない。更に、種々の弁、ポンプ、加熱及び冷却装置、分析及び/又は制御装置などの補助装置などは示されていないが、必要又は所望に応じて使用できることは言うまでもない。
【0050】
この方法は、前述の又は図に示す構成以外の構成も含むことができる。例えば、この方法は、蓄積不純物をプロセスから除去する方法として、種々のパージ流を取り出す手段を含むことができる。系からパージされた量を補充するために、新鮮な試薬又は溶媒を添加することができる。
【0051】
図において、出発不飽和有機化合物は、保持タンク(holding tank)V1からライン10を経て溶解容器V2に供給される。不飽和有機化合物がプロセス溶媒中に既に溶解している場合には、溶解容器V2は省くことができる。ライン10は、特に出発化合物が固体の形態である場合には、出発不飽和有機化合物を容器V1から溶解容器V2に移送する何らかの供給手段を含むことができる。
【0052】
図に示した特定の態様においては、溶媒はライン11Aから溶解容器V2中に供給され、出発不飽和有機化合物は溶解容器V2中で溶媒中に溶解されて、プロセス溶液を形成する。ライン11Aから供給される溶媒は循還溶媒であってもよい。別法として、新鮮な溶媒を用いてプロセス溶液を生成してもよいし、又は新鮮な溶媒と循還溶媒との任意の組合せを使用してもよい。
【0053】
プロセス溶液はライン12を経て反応器V3に移送される。第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物の溶液はライン18を経て反応器V3に投入される。不飽和有機化合物と第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物とは反応器V3中で反応して、臭素化生成物を生成する。第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物の少なくとも一部は、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物副生物に転化される。
【0054】
反応器V3は、連続反応器又は回分反応器のいずれであってもよい。連続反応器は、比較的小さく、従ってコストが比較的高くないので、反応速度が速い場合に一般に好ましい。単位操作間のサージ容器も一般に同様に比較的小さい。所望ならば、図1に示される単一容器の代わりに、複数の反応器V3を並列又は直列に使用することもできる。
【0055】
図示した好ましい態様において、水(循還流として図示されているが、新鮮な水でもよい)は、ライン21を経て反応器V3に、前述のように、投入された水が脂肪族炭素−炭素二重結合の少なくとも25%から約90%までの転化が起こった後に反応混合物と接触するような場所で投入される。
【0056】
反応器V3で起こる反応によって、臭素化生成物、溶媒及び第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物の混合物が生じる。典型的には、少量の第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物もこの工程で形成される。若干の残留第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物も存在し得る。混合物は少量の他の物質を含む場合がある。臭素化生成物はこの溶媒に部分的に又は完全に溶解される。第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩及び少量の第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩はこの溶媒への溶解度が小さいので、水性相が存在しなければ、反応混合物から析出しやすい(水性相が存在する場合には、それらは水性相に溶解し得る)。
【0057】
反応混合物は、第1の抽出カラムV5に移送される(図示されるように、ライン13を経て)。移送を行うための1つ若しくはそれ以上のポンプ又は他の装置(図示せず)も使用できる。反応器V3が回分反応器である場合には、反応器V3と第1の抽出カラムV5との間に、1つ又はそれ以上の貯蔵タンクを配置できる。第1の抽出カラムV5は連続的に操作するのが最も簡便である。1つ又はそれ以上の貯蔵タンクは、上流の回分プロセスから、第1の抽出カラムV5で始まる連続プロセスへの移行を容易にする。
【0058】
臭素化生成物の溶液又はスラリーは第1の抽出カラムV5で、還元剤を含む水性相によって抽出される。図示した態様においては、水が第1の抽出カラムV5中に2箇所で投入される。水及び還元剤の溶液がライン14を経て投入される。更に、第2の水の流れがライン15を経て投入される。ライン15から入る水の流れは、臭素化生成物が溶液から単離されて浄化される、何らかの下流プロセスからの循還流であることができる。この配置により、還元剤添加速度の良好な制御が可能となり、比較的小容量の還元剤流を取り扱うことが可能となる。また、この配置では、還元剤を臭素化生成物溶液又はスラリーと接触させて、残留第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物を一臭化物塩に還元してから、溶液又はスラリーを大量の水の流れと接触させることができる。これにより、第四級アンモ(ホスホ)ニウム化合物の水性相への抽出が容易となり、従ってイオン性不純物をあまり含まない抽出生成物溶液が得られると考えられる。別法として、水及び還元剤の全てを第1の抽出カラムV5中に単一の流れで投入することも、本発明の範囲内である。
【0059】
図示する通り、第1の抽出容器V5は向流的に操作される。図示した配置は、溶媒の密度が水よりも大きいことを前提としている。このような場合には、臭素化生成物溶液はライン13から第1の抽出カラムV5の上部近くで投入され、カラムを下降していく。水及び還元剤は第1の抽出カラムV5のより下方で投入され、カラムを上昇していく。
【0060】
第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩及び第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩は第1の抽出カラムV5において水性相に移され、そのようにして、臭化物生成物の溶液又はスラリーから除去される。前述のように、還元剤は、溶媒に可溶な全ての残留第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物を、溶媒にあまり溶解しないが水性相への溶解性が比較的高い対応する一臭化物塩に転化させる。これにより、抽出効率が増大し、有用な第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩の高い回収率が確実となる。
【0061】
第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩及び第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物塩を含む水溶液が、第1の抽出カラムV5の上部近くから取り出され、ライン16を経て混合容器V6に移送される。臭化物源の溶液は、混合容器V6に供給され(図示するように、ライン25を経て)、第1の抽出カラムV5から取り出された水溶液と混合される。これにより、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一塩化物種が第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物種に転化され、塩化物副生物が形成される。混合容器V6は、機械的混合又は静的混合を提供できる、種々の型のインライン混合機などの他の混合装置と置き換えることもできる。
【0062】
図示した態様において、水、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩及び塩化物副生成物を含む得られた混合物は、ライン16Aを経て第2の抽出カラムV4に移送される。
【0063】
第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物水溶液は、第2の抽出カラムV4中で臭素及びプロセス溶媒と接触させられる。図示した態様において、第2の抽出カラムV4は、向流的に操作され、この場合も、溶媒の密度が水より大きいことを前提としている。従って、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物溶液は、第2の抽出カラムV4の底部近くから投入される。図示されるように、臭素はライン26を経て加えられる。臭素は、前記溶媒中の溶液として加えることができる。溶媒は、抽出カラムV4の上部近くでライン11Bを経て加えられる。図示した態様において、11Bを経て加えられる溶媒は、臭化生成物を回収するための下流プロセス(図示せず)から得られる溶媒循還流である。臭素及び溶媒は単一の流れとして加えることが可能である。しかし、臭素を大量の溶媒とは別個に加えること、そして臭素を溶媒より下方で加えて水性ラフィネートへの臭素損失を減らすことが好ましい。ライン11Bを経て加えられた溶媒が水性ラフィネートと接触してから、その溶液が第2の抽出カラムV4から出ていく。従って、水性ラフィネート中の極微量の同伴臭素は溶媒中に抽出される。図示した態様において、追加の洗浄水が、第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物供給路より下方でライン17を経て第2の抽出カラムV4に加えられる(図示される通り)。これにより、洗浄水が、極微量の連行された第四級アンモ(ホスホ)ニウム一臭化物塩を第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物溶液から抽出できる。このように水と溶媒とを別個に添加することにより、水性相中に強く分配される一臭化物が、第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物種に効率的に転化され、それが次に溶媒相に強く分配される。塩化物副生物は水性相に分配され、続いて第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物から分離される。その際に塩化物副生成物を含んでいる水性相は、第2の抽出カラムV4からライン19を経て取り出される。これは、所望ならば、浄化されて、例えばライン15を経て第1の抽出カラム中に且つ/又はライン21を経て反応器V3中に循還させることができる。
【0064】
結果として、第2の抽出カラムV4で第四級アンモ(ホスホ)ニウム三臭化物が形成される。この溶液は、ライン18を経て反応器V3に循還される。反応器V3が回分反応器である場合には、又はそうでなくても必要な場合には、第2の抽出カラムV4と反応器V3との間に1つ又はそれ以上の貯蔵タンクを配置することもできる。既に述べたように、貯蔵タンクは、第2の抽出カラムの好ましい連続操作から反応器V3中の回分操作への移行を容易にできる。
【0065】
第1の抽出カラムV5及び第2の抽出カラムV4中で行われる抽出及び反応は、所望ならば又は必要に応じて、撹拌回分混合容器中で実施できるが、これには一般に、より大きく、より高価な装置及び中間貯蔵容器が必要である。これらの抽出は、連続装置中で実施するのが好ましく、より好ましくは多段装置中で実施する。多くの場合、多段カラム又は差動接触カラム(differential contactor column)が経済的理由から好ましい。
【0066】
洗浄された臭素化生成物溶液又はスラリーが第1の抽出カラムV5で形成され、ライン27を経て下流の回収及び浄化操作(図示せず)へと除去される。回収プロセスは、好ましくは容器V2及び/又は容器V4に循還できる溶媒流を生成する。
【0067】
臭素化生成物は、任意の適当な方法を用いて回収及び浄化できる。生成物は、臭素化反応の進行につれて、反応混合物中に不溶になると考えられる。このような場合、生成物は、濾過、デカンテーションなどの任意の簡便な固液分離法を用いて回収できる。臭素化生成物が反応混合物中に依然として溶解している場合には、溶媒の蒸留又は臭素化生成物を不溶にするか又は沈殿させる反溶媒(anti-solvent)の添加などの好適な方法によって、混合物から簡便に単離される。このような反溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール及びt−ブタノールなどの低級アルコールが挙げられる。
【0068】
単離された生成物は、個々の用途のために、所望に応じて又は必要に応じて、精製し、残留臭素、臭素化剤、溶媒及び副生物を除去することができる。臭化物塩は、生成物をシリカゲル又はイオン交換樹脂床に通すことによって除去できる。生成物は、亜硫酸水素ナトリウム水溶液で洗浄して、存在する可能性のある未反応の臭素化剤を中和又はクエンチすることができる。これにより、残留臭素又は臭素化合物による、生成物中に存在し得るオレンジ色は全て除去又は排除される。
【0069】
好適な回収方法の1つはWO 09/006036に記載されている。この方法は、プロセス溶液からの臭素化有機ポリマーの回収に特に好適である。
【0070】
本発明の臭素化方法にはいくつかの利点がある。本発明の臭素化方法は良好な反応速度及び高い転化率を可能にする。本発明の臭素化方法は、塩素化溶媒の使用を可能にすると同時に、良好な反応速度、高い転化率及び低レベルのハロゲン交換(即ち臭素化生成物への塩素の組入れが少ない)を可能にする。臭素化生成物中の塩素含量は、この方法によって製造される臭素化ブタジエンホモポリマー又はコポリマー中では、特に500ppm又はそれ以下となる傾向がある。更に、臭素化反応は、いくつかの点で高選択性である傾向がある。出発不飽和有機化合物中に存在する可能性がある芳香環上で、臭素化がほとんど又は全く起こらない。ブタジエンポリマーを本発明に従って臭素化する場合、臭素化は1,2−及び1,4−ブタジエン単位の炭素−炭素二重結合において起こりやすく、臭素化は第四級炭素原子ではほとんど起こらないように臭素化が行われる傾向がある。この臭素化は、アリール炭素原子又は第四級炭素原子において不所望な臭素を導入しやすい遊離基メカニズムではなく、イオンメカニズムによって起こると考えられる。アリール炭素原子又は第四級炭素原子に結合された臭素は、他の臭素−炭素結合よりも熱的に安定でないと考えられるので、その存在は臭素化コポリマーの温度安定性に悪影響を及ぼす。臭化水素化(炭素−炭素二重結合へのHBrの付加)は、この方法を用いる場合にはわずかであることがわかった。
【0071】
本発明の方法は、優れた熱安定性を有する臭素化ブタジエンポリマーを製造できる。熱安定性の有用な指標は、熱重量分析によって以下のようにして測定される5%重量減少温度である:ポリマー10mgを、TA InstrumentsモデルHi−Res TGA 2950又は同等の装置を用いて、気体窒素流を60ミリリットル/分(mL/分)及び室温(名目上25℃)から600℃までの範囲にわたる加熱速度を10℃/分として分析する。サンプルが失う質量を、加熱工程において監視し、サンプルが100℃におけるその重量の5%を失った温度を5%重量減少温度(5%WLT)と称する。この方法により、サンプルが、初期サンプル重量に基づき、5重量%の累積重量損失を受けた温度が得られる。臭素化ブタジエンポリマーは、好ましくは少なくとも200℃の5%WLTを示す。5%WLTは、好ましくは少なくとも220℃、より好ましくは少なくとも230℃、更に好ましくは少なくとも240℃、更に好ましくは少なくとも250℃である。ブタジエン単位の少なくとも85%が臭素化され、且つこのような5%WLTを有する臭素化ブタジエンポリマーが特に重要である。
【0072】
WO 2008/021417に記載されるように、臭素化ブタジエンポリマーをアルカリ金属塩基で処理する場合には、熱安定性の更なる増加が認められることがある。アルカリ金属塩基は、例えば水酸化物又は炭酸塩であることができる。アルカリ金属アルコキシドはアルカリ金属水酸化物、炭酸塩又はカルボン酸塩などのいくつかの他の塩基よりも熱安定性を多く増加させる傾向があるので、アルカリ金属塩基は、好ましくはアルカリ金属アルコキシドである。アルカリ金属はリチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウムであることができる。リチウム、ナトリウム及びカリウムが好ましい。好ましい態様において、塩基はアルカリ金属アルコキシドである。アルコキシドイオンは、炭素数が1〜8、好ましくは1〜4であり、メトキシド及びエトキシドが特に好ましい。特に好ましいアルカリ金属アルコキシドは、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシド及びカリウムエトキシドである。臭素化ブタジエンポリマーは、コポリマー中の重合された(臭素化されている又はされていない)ブタジエン単位1モル当たりわずか0.01モルのアルカリ金属塩基で処理すればよい。コポリマー中の重合された(臭素化されている又はされていない)ブタジエン単位1モル当たり約1モル超のアルカリ金属塩基の使用に対してはコスト及び取り扱いの問題が不利になるが、アルカリ金属塩基の量に上限はない。好ましい量は、重合された(臭素化されている又はされていない)ブタジエン単位1モル当たり0.03〜0.05モル/モルであり、特に好ましい量は0.05〜0.20モル/モルである。
【0073】
本発明に従って製造される臭素化ブタジエンポリマーは、種々の有機ポリマーに対して難燃剤として有用である。対象となる有機ポリマーとしては、ビニル芳香族又はアルケニル芳香族ポリマー(アルケニル芳香族ホモポリマー、アルケニル芳香族コポリマー又は1種若しくはそれ以上のアルケニル芳香族ホモポリマー及び/又はアルケニル芳香族コポリマーのブレンドなど)並びに臭素化ブタジエンポリマーが可溶である又は臭素化ブタジエンポリマーを分散させて10μm未満、好ましくは5μm未満の大きさのドメインを形成し得る他の有機ポリマーが挙げられる。ブレンド重量に基づき、0.1〜25重量%の範囲内の臭素含量を有するブレンドを生じるに足りる臭素化ブタジエンポリマーがブレンド中に存在するのが好ましい。
【0074】
臭素化ブタジエンポリマーのブレンドは、他の難燃添加剤(flame retardant additive)、難燃補助剤(flame retardant adjuvant)、熱安定剤、紫外線安定剤、成核剤、酸化防止剤、発泡剤、酸捕捉剤及び着色剤などの他の添加剤を含むこともできる。
【実施例】
【0075】
以下の実施例は、本発明を説明するために記載するのであって、本発明の範囲を限定するために記載するのではない。全ての部及び百分率は、特に明示しない限り、重量基準である。
【0076】
実施例1
反応フラスコに、臭化カリウム12部、テトラエチルアンモニウム一塩化物16.7部及び水138.4部を加える。フラスコを47℃に15分間加熱し、次いで真空を適用して水を除去する。どろどろした白色の残渣(34.3部)が残る。これをアセトニトリル81.2部と合してスラリーを形成する。スラリーを濾過し、固形分を更に49.3部のアセトニトリルで洗浄する。次いで、固形分を真空下で乾燥させて、塩化カリウムと臭化カリウムとの混合物8.3gを得る。混合物は、臭素20.7%及び塩素31%を含んでいる。アセトニトリル濾液を合し、溶媒を真空下で除去して、テトラエチルアンモニウムハロゲン化物塩20.4gを得る。混合物は、臭素32.5%及び塩素1.7%を含んでいる。これらの結果から、90%超の出発テトラエチルアンモニウム一塩化物がテトラエチルアンモニウム一臭化物に転化されたことがわかる。
【0077】
実施例2及び比較ランA
テトラエチルアンモニウム一臭化物0.5モル(水中50%)及び固体テトラエチルアンモニウム一塩化物一水和物0.1モルを、固体が溶解するまで混合する。
【0078】
実施例1を以下のようにして実施する:底部ドレイン、窒素入口、添加用漏斗及びオーバーヘッドスターラーを装着したフラスコに、得られた溶液103部を臭化カリウム11.3部と共に加える。混合物を約25℃において1時間撹拌し、次いで一晩放置した。塩化メチレン85部を加え、続いて撹拌しながら元素状臭素33部及び塩化メチレン更に15部を加える。臭素添加時に軽度の発熱が認められる。約25℃において15分間撹拌後、移動を助けるために塩化メチレン22部を加えて、混合物を添加用漏斗に移動させる。次の工程で使用するために、有機相と水性相とを添加用漏斗中で分離させる。
【0079】
窒素入口、添加用漏斗及びオーバーヘッドスターラーを装着したフラスコに、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(重合ブタジエン54%)20部及び塩化メチレン206部を加える。混合物を40℃に加熱し、前記からの有機相を11分間にわたって加える。混合物を、40℃において加熱しながら1.5分間撹拌する。次いで、前記からの水相を加え、混合物を、加熱還流させながら、更に1.5時間撹拌する。次に、加熱を止め、10%亜硫酸水素ナトリウム水溶液26部を加える。反応混合物を分液漏斗に移し、相を分離させる。水性層を除去し、有機層を脱イオン水で2回洗浄する。洗浄した有機層を2−プロパノール1216部に加えて、臭素化ポリマーを析出させる。得られたスラリーを濾過し、2−プロパンで2回洗浄し、一定重量まで乾燥させる。臭素化ポリマー48.2部が得られる。塩素含量は230ppmである。
【0080】
比較ランAを、臭素化反応への使用前に出発テトラエチルアンモニウム一臭化物/テトラエチルアンモニウム一塩化物一水和物溶液を臭化カリウムで処理しない以外は、同様にして、実施する。この場合には、臭素化ポリマーの塩素含量は750ppmであるか、又は実施例1において見られる量の約3倍である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)脂肪族炭素−炭素二重結合を含む不飽和化合物と第四級アンモニウム三臭化物又は第四級ホスホニウム三臭化物とを、前記不飽和化合物用の少なくとも1種の溶媒の存在下において、前記不飽和化合物が臭素化され且つ、副生物として、(1)第四級アンモニウム一臭化物塩と第四級アンモニウム一塩化物塩との混合物又は(2)第四級ホスホニウム一臭化物塩と第四級ホスホニウム一塩化物塩との混合物が形成されるような条件下で接触させ、
b)前記第四級アンモニウム一塩化物塩又は第四級ホスホニウム一塩化物塩と臭化物イオン源とを、第四級アンモニウム一塩化物塩又は第四級アンモニウム一塩化物塩の少なくとも一部が前記臭化物イオン源と反応する条件下で接触させて、第四級アンモニウム一臭化物塩又は第四級ホスホニウム一臭化物塩及び塩化物副生物を再生させ、
c)再生第四級アンモニウム一臭化物塩又は再生第四級アンモニウム一臭化物塩を臭素と接触させて、対応する第四級アンモニウム三臭化物又は第四級ホスホニウム三臭化物を生成させ、そして次に
d)工程c)の前、間又は後に、再生第四級アンモニウム一臭化物塩若しくは再生第四級ホスホニウム一臭化物塩又は第四級アンモニウム三臭化物若しくは第四級ホスホニウム三臭化物から塩化物副生物を分離し、そして次に
e)工程c)で得られた第四級アンモニウム三臭化物又は第四級ホスホニウム三臭化物を工程a)に循還させる
ことを含んでなる方法。
【請求項2】
前記不飽和化合物用の溶媒が塩素化されている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記臭化物イオン源がアルカリ金属臭化物、アルカリ土類金属臭化物、臭化水素、臭化水素酸溶液、有機アミン臭化水素酸塩又は有機ホスフィン臭化水素酸塩である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程d)を前記工程c)の前に実施する請求項1,2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記不飽和化合物がブタジエンのホモポリマー又はコポリマーである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記臭素化不飽和化合物が500ppm又はそれ以下の塩素を含む請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−522101(P2012−522101A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503437(P2012−503437)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/022802
【国際公開番号】WO2010/114637
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】