説明

第13族窒化物結晶の製造方法、該製造方法により得られる第13族窒化物結晶および半導体デバイスの製造方法

【課題】工業的に安価な方法で、結晶成長速度を十分な速度で安定的にかつ継続的に保つことが可能な第13族窒化物結晶の製造法を提供する。
【解決手段】少なくともアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と、第13族元素と窒素元素とを含む液相9中で、液相からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去しながら第13族窒化物結晶を成長させる第13族窒化物結晶の製造方法であって、液相からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去する速度が0.0020mg/h/cm以上である第13族窒化物結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム(GaN)結晶等の第13族元素の窒化物結晶の製造方法、該製造方法により得られる第13族窒化物結晶および該製造方法を用いた半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)に代表される第13族元素と窒素元素との化合物結晶は、発光ダイオード、レーザダイオード、高周波対応の電子デバイス等で使用される物質として有用である。GaNの場合、実用的な結晶の製造方法としては、サファイア基板または炭化珪素等のような基板上にMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により気相エピタキシャル成長を行う方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、上記方法では、格子定数および熱膨張係数の異なる異種基板上にGaN結晶をエピタキシャル成長させるため、得られるGaN結晶には多くの格子欠陥が存在する。そのような格子欠陥が多く存在するGaN結晶を電子素子として用いた場合、電子素子の動作に悪影響を与え、青色レーザ等の応用分野で用いるためには満足すべき性能を発現することはできない。このため、近年、基板上に成長したGaNの結晶の品質の改善、GaNの塊状単結晶の製造技術の確立が強く望まれている。
【0004】
現在、気相法によるヘテロエピタキシャルGaN結晶成長法では、GaN結晶の欠陥を減らすために、複雑かつ長い工程が必要とされている。最近では、液相法によるGaNの単結晶化について精力的な研究がなされており、窒素とGaとを高温高圧下で反応させる高圧法(非特許文献2参照)が提案されているが、過酷な反応条件のため工業的に実施することは困難である。
【0005】
そこで、反応条件をより低圧化させたGaN結晶成長方法の報告が多くなされている。ナトリウムフラックス法(特許文献1、4、非特許文献3参照)は、Ga融液にナトリウム金属を添加した合金融液においてGaと窒素を反応させてGaN結晶を生成させるGaN結晶の製造方法であるが、この合金融液に溶解する窒素量またはGaN量が非常に小さいため、GaN結晶を大型化することが困難とされている。
【0006】
また、GaN粉末とアルカリ金属ハロゲン化物の混合物を加熱し、GaN結晶を作成する方法も提案されているが(特許文献2参照)、アルカリ金属ハロゲン化物へのGaNの溶解度は小さく、かつ窒素を安定に溶解させるために高圧で結晶成長を行う必要があるため、この方法は工業的に結晶成長を行う上で不利である。
このような問題に対処する技術として、LiGaNなどの複合窒化物を溶解した溶液または融液を作成し、その溶液や融液中でシード上にGaNの結晶を成長させる方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−68897号公報
【特許文献2】特開2005−112718号公報
【特許文献3】特開2007−84422号公報
【特許文献4】特開2006−213561号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. 37 (1998) 309〜312頁
【非特許文献2】J. Crystal Growth 178 (1997) 174〜188頁
【非特許文献3】J. Crystal Growth 260 (2004) 327〜330頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らが特許文献3に記載される方法を種々検討したところ、シード上への結晶成長速度を工業的に十分な速度で安定的かつ継続的に保つことが出来ないという課題を見出すに至った。さらに本発明者らは、本解析により、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の液相からの除去速度が結晶析出反応速度と関係があることを新たに見出した。特許文献1にはナトリウムフラックス法において反応容器内にNaリザーバーを設け、反応容器外へのNaの散逸の時定数を制御し、液中のNa濃度を制御する技術が示されているが、リザーバーという名が示すとおりNaを液中に供給するために液外に貯めておく技術であって、液相からNaを除去する技術は示されていない。さらに、Naの散逸の時定数も示されていないため、課題の解決には至っていない。
【0010】
また、特許文献4には、ナトリウムフラックス法にてNaを気相輸送することで融液中のNa量を可変して、融液への窒素の溶解度を制御する方法が記載されている。しかしながら、特許文献4には液相からのNa除去速度が結晶析出速度に関するというメカニズムについては記載されておらず、十分な速度で安定的かつ継続的にシード上への結晶成長速度を保つとの課題を解決するに至っていない。
【0011】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決し、シード上への結晶成長速度を工業的に十分な速度で安定的かつ継続的に保つために、GaN結晶などの第13族窒化物結晶を安定的かつ継続的に成長させることができる方法を提供することを本発明の目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、この課題を解決すべく鋭意検討した結果、液相中からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を液相中から除去し、該アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の除去速度を適切な値に保つことにより、GaN結晶成長速度を十分な速度で安定的にかつ継続的に保つことを可能にし、以下の本発明を提供するに至った。
[1]少なくともアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と、第13族元素と窒素元素とを含む液相中で、液相からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去しながら第13族窒化物結晶を成長させる第13族窒化物結晶の製造方法であって、液相からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去する速度が0.0020mg/h/cm以上であることを特徴とする、第13族窒化物結晶の製造方法。
[2]前記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去する速度が0.010mg/h/cm以上、32mg/h/cm以下である、[1]に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[3]前記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が、Cs、Rb、K、Na、Mgからなる群より選ばれる1以上の元素である、[1]または[2]に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[4]前記第13族元素と前記窒素元素とが、少なくとも第13族元素を含む窒化物から供給される、[1]から[3]のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[5]前記第13族元素と前記窒素元素とが、少なくとも第13族以外の元素および第13族元素を含む複合窒化物から供給される、[1]から[4]のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[6]前記液相が溶融塩を含む、[1]から[5]のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[7]前記液相を保持する反応容器内の液相と接しない部分に、前記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の凝縮部を設ける、[1]から[6]のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[8]前記凝縮部に向けてアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含むガスを流通させるガス流路を設ける、[7]に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[9]反応容器にアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含むガスを排出する反応容器ガス排出口を設け、該反応容器ガス排出口から前記ガス流路を経て、前記凝縮部へアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含むガスを排出する、[8]に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[10]前記ガス流路とガス流路以外の領域とを隔てる構造を設ける、[8]または[9]に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[11][1]から[10]のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法により得られる、第13族窒化物結晶。
[12][1]から[10]のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法により、基板上に第13族窒化物結晶を製造する工程を有する半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、工業的に安価な方法で、結晶性の優れた第13族窒化物結晶を製造することができる。また、工業的に安価な方法で、本発明の半導体デバイスの製造方法によれば、パワーICや高周波に対応可能な良質の半導体デバイスを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1〜3、5〜7および比較例1で用いた反応装置を説明するための概略図である。
【図2】実施例4で用いた反応装置を説明するための概略図である。
【図3】実施例7で用いた反応容器を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の第13族窒化物結晶の製造方法、および半導体デバイスの製造方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また第13族元素は、周期表第13族元素を意味する。
【0016】
本発明の第13族窒化物結晶の製造方法は、少なくともアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と第13族元素と窒素元素とを含む液相中で、液相からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去しながら第13族窒化物結晶を成長させる第13族窒化物結晶の製造方法であって、液相からNaを除去する速度が0.0020mg/h/cm以上であることを特徴とする、第13族窒化物結晶の製造方法である。
【0017】
[液相の組成]
本発明で用いる液相は、少なくともアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と第13族元素と窒素元素とを含む液相であれば特に限定されない。すなわち、いずれの元素
も液体中で安定に存在していればよく、金属元素であれば金属融液として存在していても、電離したイオンとして存在していてもよい。好ましくは電離したイオンとして存在することであり、このために溶媒として溶融塩が好適に用いられる。
【0018】
上記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素はいずれのアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素でもよいが、単体の蒸気圧が745℃において500Pa以上である金属元素が好ましく、具体的にはCs、Rb、K、Na、Mgが挙げられる。蒸発などにより液相からの除去がしやすい点からNaがもっとも好ましい。また、後述する除去速度を制御するために、液相中に複数種のアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含んでいてもよく、例えば、複数種のアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の化合物、合金または混合物の形態にしてもよい。
【0019】
液相中に含まれる前記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と前記第13族元素はそれぞれ単体金属として反応容器内に供給してもよいし、または合金や化合物として供給してもよい。合金の例としてはNaGa合金、LiGa合金が挙げられる。化合物の例としてはNaCl、NaF、NaBr、NaI、GaCl、GaF、GaBr、GaIなどのハロゲン化物、GaN、LiGaN、NaNなどの窒素化合物が挙げられる。
【0020】
液相中に含まれる前記窒素元素は気体窒素として供給してもよいし、LiN、Mg、Ca、Sr、Baに代表される窒化物などの窒素化合物として供給してもよい。前記第13族元素の供給を考慮すると、効率の観点からGaN、LiGaNなどの第13族元素を含む窒化物として供給することが好ましい。なかでも、LiGaNなど第13族以外の元素と第13族元素を含む複合窒化物を用いると、第13属元素の溶解度が上げられることから、より好ましい。
さらに、液相中に溶融塩を含む場合は、液相への窒素の溶解度を上げることができるため好ましい。
[複合窒化物]
【0021】
第13族元素以外の元素と第13族元素とを含む複合窒化物は、第13族元素の窒化物粉体と第13族元素以外の元素の窒化物粉体(例えばLiN、Ca)とを混合した後、温度を上げて固相反応させる方法;第13族元素と第13族以外の元素とを含む合金をつくっておき、窒素雰囲気中で加熱する方法;などにより作成することができる。例えばLiGaNは、Ga−Li合金を窒素雰囲気中で600〜800℃で加熱処理することによって作製することができる。
【0022】
第13族元素としては、Ga、Al、In、GaAl、GaIn等を好ましい例として挙げることができる。また、第13族以外の元素としては、Li、Na、Ca、Sr、Ba、Mg等を挙げることができ、中でもLi、Ca、Ba、Mgを好ましい元素として挙げることができる。第13族元素、第13族以外の元素としては、それぞれ1種類の元素であってもよいし、複数種の元素が含まれていてもよい。
【0023】
好ましい複合窒化物の例としては、液相への溶解度が高いことからLiGaN、CaGa、BaGa、MgGaN、CaGaN等の第13族元素とアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素との複合窒化物を挙げることができ、より好ましくはLiGaNである。第13族元素とアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素との複合窒化物では、不純物として複合窒化物に含まれるアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の窒化物を含んでもよい。例えば複合窒化物としてLiGaNを用いる場合には、LiGaNに含まれている不純物であるLiNを除去したり、逆にLiNを添加したりして、あらかじめLiNの含有量を調節しておくことが、窒
素欠陥の少ない窒化物結晶を得る点で好ましい。不純物の量は複合窒化物に対して0〜20重量%であることが好ましい。
【0024】
[溶融塩]
本発明の製造方法では液相が溶融塩を含んでいてもよい。ここで、溶融塩とは常温で固体の塩を高温で融解させたものである。溶融塩の種類は、シード上での結晶のエピタキシャル成長を阻害しないものであれば良く、例えば、ハロゲン化物、炭酸塩、硝酸塩、イオウ化物等を挙げることができる。一般には、第13族元素を金属イオンとして安定に溶解させる能力が高いことから、ハロゲン化物を用いることが好ましい。具体的には、溶融塩がLiCl、KCl、NaCl、CsCl、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、AlCl、GaCl、LiBr、KBr、NaBr、CsBr、LiF、KF、NaF、AlF、GaF、LiI、NaI、KI、CsI、CaI、BaI等の金属ハロゲン化物であることが好ましく、LiCl、KCl、NaCl、CsCl、MgCl、CaCl、SrCl、BaClおよびそれらの混合塩のいずれかであると、溶液の融点が下がるため好ましい。溶液の融点が下がると、結晶成長を比較的低温で行うことが可能になるため、得られる結晶の結晶性や工業的な実施の面で好ましい。
【0025】
また、窒素元素を窒化物イオンとして溶解させる能力が高いことから、アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を含む塩を用いることが好ましい。具体的には、溶融塩がLi、Na、K等のアルカリ金属および/またはMg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属を含む塩からなる溶融塩であることが好ましく、例えばLiCl、KCl、NaCl、CsCl、LiNCl、MgCl、CaCl、SrCl、BaClなどが挙げられる。
【0026】
本発明で用いる溶融塩は1種の塩を単独で用いても、複数種の塩を適宜組み合わせて用いてもよいが、好ましくは複数種の塩を組み合わせて用いる。なかでも、ハロゲン化リチウムとこれ以外の塩を併用することがより好ましい。ハロゲン化リチウムの含有率は溶融塩の全体量に対して15〜95%が好ましく、40〜85%がさらに好ましい。例えば、溶融塩がハロゲン化リチウムと、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウムおよびハロゲン化セシウムからなる群より選択される1つ以上のハロゲン化物とからなるものであることが好ましく、ハロゲン化リチウムと、ハロゲン化ナトリウムまたはハロゲン化カリウムとからなるものであることがより好ましく、ハロゲン化リチウムとハロゲン化ナトリウムからなるものであることがさらに好ましい。この場合、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウムおよびハロゲン化セシウムからなる群より選択される1つまたは複数のハロゲン化物の合計含有率は溶融塩の全体量に対して5〜85モル%が好ましく、15〜60モル%がさらに好ましい。これらのハロゲン化物の含有率が5モル%以上である場合には、結晶の成長速度が速い点で好ましい。また合計含有率が85モル%以下であると、雑晶の発生が少なく、シード上での結晶の成長速度が速くなる点で好ましい。
【0027】
上記溶融塩に水等の不純物が含まれている場合は、予め溶融塩を精製しておくことが望ましい。精製方法は特に限定されないが、例えば溶融塩に反応性気体を吹き込むなどの方法が挙げられる。反応性気体としては、例えば、塩化水素、ヨウ化水素、臭化水素、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることができ、塩化物の溶融塩に対しては、特に塩化水素を用いることが好ましい。
【0028】
[アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の除去]
本発明の製造方法では、液相からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去しながら第13族窒化物結晶を成長させるメカニズムについて、以下に説明する。
本発明の製造方法では、少なくともアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と第13族元素と窒素元素とを含む液相中で、第13族窒化物結晶を成長させる。この際に、
第13族元素と窒素元素とを保持したままの液相中からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去すると、液相中の第13族窒化物の濃度が高くなり、過飽和状態になる。すると、過飽和状態を解消する方向に推進力が働き第13族窒化物結晶が析出する。蒸気圧の高いアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素は、通常、蒸発などの簡便な手段により容易に除去することが可能であり、蒸気圧の低い溶融塩などの溶媒そのものを除去するよりも、安定的に過飽和状態を保つことができる。ただし、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の単体やそれらの合金を溶媒としている場合は、溶媒そのものを除去すれば、安定的に過飽和状態を保つことができる。また、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去する速度を適切な値に保つことで、過飽和状態を安定的に制御し、第13族窒化物結晶を十分な速度で継続的かつ安定的に析出させることができる。
【0029】
例えば、複合窒化物MgGaNを溶融塩LiClに溶解した融液を用いて窒化ガリウム(GaN)結晶を生成させた場合を例に挙げて説明する。上記融液からなる液相において第13族元素であるGaと窒素元素のいずれをも含まない単体、化合物あるいは合金が除去されることで、液相中のGaNが過飽和状態になりGaN結晶が析出する。この場合に除去される単体、化合物あるいは合金の候補としては、LiCl、Li、Mgが挙げられるが、これらの中で著しく蒸気圧の高いMgを蒸発させることで容易に液相から除去することが可能である。Mgが蒸発により除去されると、液相中のGaNが過飽和状態になりGaN結晶の析出が進行する。また、Mgの除去速度を適切な値に制御することで、GaN結晶を安定的に十分な速度で析出することができる。
【0030】
ここで、液相から除去するアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素としては、1種類のみのアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素であってもよいし、複数種のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を同時に除去してもよい。アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を蒸発によって除去する場合には、これらが蒸発する形態として、単体金属でもよいし、塩などの化合物、合金、それらの混合物の形態でもよい。複数種のアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が同時に蒸発するときのそれぞれのアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の蒸気圧は、蒸発するアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の単体または化合物それぞれの蒸気圧と組成比に依存するので、組成比を変えることで所望の除去速度が得られるように制御することができる。
【0031】
[アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の除去速度]
本発明では液相中からのアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去する速度(以下、アルカリ(土類)金属除去速度と称する)を0.0020mg/h/cm以上とする。アルカリ(土類)金属除去速度とは、液相の単位体積からの時間あたりのアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の除去量である。液相の単位体積中の除去するアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の含有量を計測し、その減少速度をアルカリ(土類)金属除去速度とする。
【0032】
アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の除去量と、第13族窒化物の収量などの実測値との相関を求めて検量線を作成し、前記実測値から計算でアルカリ(土類)金属除去速度を算出してもよい(検量線法)。
アルカリ(土類)金属除去速度が0.0020mg/h/cm未満であると結晶析出速度が遅すぎて、低コストでGaN結晶等の第13族窒化物結晶を安定して効率よく製造するために必要な結晶析出速度が得られない。さらに、特に安定して十分な成長速度を保つためには0.0040mg/h/cm以上に制御することが好ましく、0.010mg/h/cm以上に制御することがより好ましく、さらに好ましくは0.020mg/h/cm以上である。また、アルカリ(土類)金属除去速度が速すぎると、雑晶の析出が液相内で支配的になり、シード上へGaN結晶が析出しにくくなることから、通常32
mg/h/cm以下にすることが好ましく、より好ましくは10mg/h/cm以下である。また、結晶成長中のアルカリ(土類)金属除去速度は必ずしも一定である必要はなく、上記の速度範囲内で変化させることも好適に行われる。例えば、結晶成長開始時は急激な結晶核発生を抑えるためにアルカリ(土類)金属除去速度は遅くし、シードへの均一な結晶成長が開始したらアルカリ(土類)金属除去速度を速くする手法が挙げられる。
【0033】
[アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の除去方法]
本発明において、液相中からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去する方法は特に限定されないが、蒸発により液相外の気相へと除去する方法や、該液相と互いに分離した層として存在する液体または固体中に、該液相中のアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を溶解させて除去する方法、反応によりアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む金属または合金または化合物からなる固相として沈殿させることにより除去する方法などがある。中でも、液相中から容易にアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去でき、除去速度を調整しやすいことから、蒸発により液相から気相へ除去する方法が好ましい。
【0034】
蒸発によるアルカリ(土類)金属除去速度を調整する方法は、特に限定されず、公知の手法などを用いて適宜調整すればよい。以下に、アルカリ(土類)金属除去速度を調整する具体的な方法を挙げるが、本発明においてはこれらの方法に限定されるわけではなく、また、複数の条件を適宜組み合わせて調整することによって、所望のアルカリ(土類)金属除去速度とすることが可能である。
【0035】
例えば、蒸発による液相中のアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の濃度変化は、気液界面面積(S)と液体積(V)の比(以下、S/V比と称する)に比例するので、気液界面面積を大きくするか、または液体積を小さくしS/V比を大きくすることで、アルカリ(土類)金属除去速度を早くすることができる。逆に、S/V比を小さくしすぎるとアルカリ(土類)金属除去速度が遅すぎて、安定的に十分な結晶析出速度を保つことができない。安定して結晶析出するためのアルカリ(土類)金属除去速度を達成するためには、S/V比の値を0.010cm−1以上に制御することが望ましく、好ましくは10cm−1以下である。
【0036】
また、例えば液相中のNaClの組成比を高くすることにより、液中のNa濃度が高くなるため、蒸発によるNa除去速度を大きくでき、結晶析出速度を速くすることができる。また、例えば液相表面へガスを吹き付ける方法や溶液中へバブリングによりガスを吹き込む方法により、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の蒸発を促進し、GaN結晶析出速度を向上することができる。
【0037】
また、液相を保持する反応容器内の液相と接しない部分にアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素凝縮部(以下、単に「凝縮部」を称する場合がある)を設けると、蒸発したアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を速やかに液相付近から取り除くことができ、気相へのアルカリ(土類)金属除去速度のコントロールが容易にできるため、さらに好ましい。凝集部としては、液相の温度の最低値よりも低い温度とすることが好ましく、具体的には100℃以上低いことが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。凝縮部の設置位置は、前記液相と接しない部分であればどこでもよく、反応容器内であっても、反応容器外であってもよいが、後述するアルカリ(土類)金属元素が液相へ戻る問題が起こりにくいことから、反応容器外に設けることが好ましい。
【0038】
さらに、効率よくアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を凝縮させるために、液相からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素凝縮部に向けてガス流路を設けることが好ましい。ガス流路を設ける方法は、外部からガスを吹き込んで流路を作る方法、
温度が異なる領域を設けてガス循環を起こして流路を作る方法、バッフルを設ける方法、外部へとガスを引き込んで流路を作る方法などがある。後述する通りこれらのガス流路は、液相からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素凝縮部に向けたガス流路とガス流路以外の領域とを壁や管により隔てる構造を設けて形成してもよい。ガス流路とガス流路以外の領域とを壁や管により隔てる構造を用いた場合には、凝縮部が反応容器内にある場合でも、後述するアルカリ(土類)金属元素が液相へ戻る問題が起こりにくいことから好ましい。上記ガス流路を設ける方法は、複数の方法を適宜組み合わせてもよい。
【0039】
ガス流路を設けることで、気相へのアルカリ(土類)金属除去速度を速くすることに加え、一度除去されたアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が液相に戻ることを防止することができる。一度除去されたアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が液相に戻ると、第13族窒化物結晶の析出速度が低下するのみならず、製造の目的とする第13族窒化物結晶が溶解したり、割れを生じたり、得られる結晶の表面モフォロジー、透明性、不純物濃度、欠陥密度などの結晶品質が悪化するなどの影響がある。
【0040】
また、図1,2のように反応管の内部に反応容器を配置した場合、反応管内壁に、反応容器内の液相から除去されたアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含有するガスあるいはアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の液体または固体が接触し、反応管が劣化・破損することがあるという問題がある。例えば、液相中からNaが蒸発し、Na含有ガスあるいは凝縮した液体または凝固した固体の金属Naが石英製反応管内壁に接触した場合に、石英製反応管が劣化・破損する。上記ガス流路を設ける方法を取ることで、反応装置におけるアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素凝縮部の位置を制御し、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素に対して耐腐食性を有する材料などで構成された凝縮部にアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含有するガスを誘導するなどして反応管の劣化を防ぎ、効率的で安定した結晶成長をすることができる。
【0041】
ガス流路を設ける方法としては、外部へとガスを引き込んで流路を作る方法が好ましい。中でも凝縮部を設け、反応容器にアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含むガスを排出する反応容器ガス排出口を設けて、該反応容器ガス排出口から該凝縮部に向けて反応容器の外部へとガスを引き込んでガス流路を作る方法が好ましい。つまり、該反応容器ガス排出口からガス流路を経て、前記凝縮部へアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含むガスを凝縮部へ向けて排出することが好ましい。これにより、液相から除去したアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含んだガスを吸引し、凝縮部へ排出するので、除去したアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が液相に戻ることを回避できるので好ましい。ガスを反応容器外に引き込んで凝縮部を反応容器外に作る方法には他に、反応容器内に反応容器の内部へガスを導入する反応容器ガス導入口を設ける、シリンジでガスを反応容器外に吸い出す、反応容器に設けた反応容器ガス排出口の排出側を減圧することによりガスを排出する、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を吸着する吸着材または反応吸収する部材を反応容器ガス排出口の排出側に設置する、などが挙げられる。
【0042】
ここで、ガス流路と凝縮部は隔壁等で完全に分離されている必要はなく、ガス流路の内部に凝縮部が存在していてもよい。また、ガス流路と凝縮部はそれぞれ複数存在していてもよい。
ここで、上述のガス流路は、反応容器内の雰囲気から必ずしも隔離されている場合に限定されるものではない。しかしながら、液相から除去したアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が再度反応容器内に戻ることをより効率的に防止するためには、除去したアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が隔離される状態、つまり上記のガス流路が反応容器内の雰囲気から隔離されていることが好ましい。このような場合には、液相から除去したアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素のガス・液体または固体が反応
管に接触し反応管が劣化・破損することを防止できるのでさらに好ましいといえる。具体的に、除去したアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が隔離される状態とする方法としては、ガス流路とガス流路以外の領域とを壁や管により隔てる構造を設ける方法が好ましく、例えば反応容器の反応容器ガス排出口と凝縮部とをつなぐガス流路管を設けるとよい。
【0043】
また、液相中に蒸気圧の低い構成要素しか含まない場合に、別のアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む単体、化合物、合金、またはそれらの混合物を加え、交換反応により蒸気圧の高い元素を含む形態にし、蒸気圧の高い元素を含む単体、化合物、合金、またはそれらの混合物を蒸発により除去することで、第13族窒化物結晶の析出速度を向上することもできる。これについては、詳細を後述する。
【0044】
第13族窒化物結晶析出時に生成した副生物に含まれるアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の単体、その元素を含む化合物または合金(M1)を、イオン交換反応などにより他の蒸気圧の比較的高いアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の単体、その元素を含む化合物または合金(M2)に変換し、該M2を蒸発させ液相外に除去することができる。この場合には、液相中から直接M1を除去する場合よりもアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の蒸発による除去を促進しやすく、第13族窒化物結晶の析出速度を向上することができるため好ましい。例えばLiGaNなどの複合窒化物をLiClとNaClとからなる溶融塩に溶解した融液を用いて窒化ガリウム(GaN)結晶等の第13族金属の窒化物結晶を生成させたとき、以下の反応式に従うことがわかっている。
【0045】
LiGaN⇔ GaN + LiN ・・・(1)
LiN ⇔ 3Li + 1/2N ・・・(2)
式(1)では、液相中に溶解した複合窒化物LiGaNがシード上または液相中でGaN結晶として析出すると同時に副生物LiNが生成する反応を示す。式(2)では副生物LiNが分解し金属LiとNガスが生成する反応を示す。もし溶融塩がLiClのみであれば、式(2)によって副生物として生成した金属Liの蒸気圧が低いため、金属Liの除去が進行しにくく、GaN結晶析出速度は低い速度にとどまり安定的に継続しにくい傾向となる。そこで、さらに溶融塩にNaClを加えることで、副生物として生じる金属LiがNaClとイオン交換反応し、液相中における金属Liが低減されて、金属Liよりはるかに蒸気圧の高い金属Naに変換することができる。金属Naが蒸発し液相外に除去されることで、液相のGaN濃度が高くなって過飽和状態になりGaN結晶の析出が促進され、GaN結晶析出反応が速い速度で安定的に進むようになる。また、金属Naの除去速度を適切な範囲に制御することで、GaN結晶析出速度を制御することができる。
【0046】
一方で、前述の通り液相外へ除去した金属Naが反応容器の内部または外部の凝縮部で液体または固体として蓄積すると、自重で落下し液相中に戻る場合がある。また凝縮部から気相中に戻った金属Naがガスとして液相に接触することにより、金属Naが液相中に戻る場合もある。一度除去した金属Naが液相中に戻った場合、金属NaとLiClがイオン交換反応し、金属Liが生成し、式(2)の左方向に平衡が移動しLiNが生じる。そのため、式(1)の左方向に平衡が移動し、もしくは、以下の式(3)の右方向の反応によりLiNと反応してGaN結晶が溶解しLiGaNもしくは金属Gaが生成する。そのためNaが液相中に戻った結果として、GaN結晶の重量が減少することや、結晶品質が悪化してしまうことなどの影響が生じる。
【0047】
GaN + LiN ⇔ Ga + 3Li +N (3)
金属Naが液相中に戻りGaN結晶が溶解したことは、成長後に取り出したGaN結晶
の成長重量が著しく少ないことや重量が減少してしまったこと、またはGaN結晶が黒く変色したり脆化したりすることにより確認することができる。金属Gaが生成したことは、実験後の固化したLiClを水に溶解させたときに金属Gaが含有されていることにより確認することができる。
【0048】
[第13族金属窒化物結晶]
本発明の製造方法により得られる第13族窒化物結晶は、第13族元素を含むナイトライドであれば特に限定されず、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)などの単独金属のナイトライド、または窒化ガリウム・インジウム(GaInN)、窒化ガリウム・アルミニウム(GaAlN)等の固溶体組成のナイトライドが挙げられる。好ましくは第13族金属として少なくともガリウム(Ga)を含む結晶、特に好ましくはGaN結晶の製造方法として好適に用いることができる。
第13属窒化物結晶は、塊状、棒状、板状のシードを用いて、これらのシード上に結晶成長させて得られたものが、結晶性が良好であり、十分なサイズを得やすいことから好ましい。
【0049】
[シード]
本発明では工業的に十分なサイズの結晶を得るために、シードを用いることができ、シード上に第13族窒化物結晶を成長させることが好ましい。結晶性のよい第13族窒化物結晶を得るために、シードは単結晶であることが好ましい。シードの材質は、第13族窒化物、サファイア、シリコン、SiCなどが挙げられるが、本発明で成長させる第13族窒化物との格子定数の整合性から好ましいのは第13族窒化物であり、得られる第13族窒化物結晶と同組成の第13族窒化物であることがより好ましい。シード形状は塊状、棒状、板状など特に限定されないが、板状のシードを用いると面積の大きい第13族窒化物結晶が得られ、半導体デバイスの製造に適しているため好ましい。
【0050】
シード上に効率よく第13族窒化物結晶を成長させるためには、シード周辺に雑晶を成長させたり、付着させたりしないことが好ましい。雑晶とはシード上以外に成長する粒子径の小さい結晶であり、雑晶がシード付近に存在すると液相中の第13族窒化物成分をシード上の成長と雑晶の成長で分け合うことになり、シード上の第13族窒化物結晶の成長速度が十分に得られない。
【0051】
[反応容器]
本発明で液相を保持するために用いる反応容器は、本発明の製造方法における反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、熱的および化学的に安定な金属、酸化物、窒化物、炭化物を主成分とする反応容器であることが好ましい。周期表第4族元素(Ti、Zr、Hf)を含む金属であることが好適であり、好ましくはTiを用いる場合である。
【0052】
また、90重量%以上が前記第4族元素である金属を用いることが好ましい。さらに好ましくは、99重量%以上が前記第4族元素である金属を用いることである。
また、これらの反応容器の部材の表面は、前記周期表第4族元素の窒化物からなることが好ましく、後述する窒化処理方法によってあらかじめ窒化物を形成することが好適である。
【0053】
[窒化処理方法]
本発明において、窒化処理とは前記反応容器の部材の少なくとも表面を窒化する工程のことを指す。結晶成長の前にあらかじめ部材を窒化処理しておき、溶液または融液と接触する部材の表面に強固かつ安定な窒化物を形成しておくことが好ましい。また、部材の割れにくさや機械的な強度を考慮して、窒化物を窒化膜の形態で形成してもよい。
【0054】
窒化処理方法は表面に形成される窒化物が安定であれば特に限定はないが、例えば前記反応容器の部材を700℃以上の窒素雰囲気下において加熱保持することで、前記部材表面に安定な窒化膜を形成することができる。
更には、高温下でアルカリ金属窒化物やアルカリ土類金属窒化物を窒化剤として使用して前記部材表面を窒化することも可能であり、好ましくはアルカリ金属ハロゲン化物やアルカリ土類金属ハロゲン化物と前記アルカリ金属窒化物やアルカリ土類金属窒化物との混合融液中に保持することで、安定な窒化膜を形成することができる。また、実際に結晶成長を行なう条件と同様の条件下に部材を保持することで、簡便に窒化処理を行なうこともできる。
【0055】
[反応温度、反応圧力]
反応容器内において第13族窒化物結晶を成長させる際の温度は、通常200〜1000℃であり、好ましくは400〜850℃、より好ましくは600〜800℃である。また、第13族金属窒化物結晶を成長させる際の反応容器内の圧力は、条件によって適宜選択することができとくに限定されないが、製造装置が簡便になり工業的に有利に製造できることから、通常10MPa以下であり、好ましくは3MPa以下、さらに好ましくは0.3MPa以下、より好ましくは0.11MPa以下であって、通常0.01MPa以上、より好ましくは0.09MPa以上である。特に結晶成長速度を速くしたい場合には、0.09MPa以下とすることも好ましい。
【0056】
[半導体デバイスの製造方法]
本発明の製造方法は、半導体デバイスの製造方法における第13族窒化物結晶を製造する工程に用いることができる。その他の工程における原料、製造条件および装置は一般的な半導体デバイスの製造方法で用いられる原料、条件および装置をそのまま適用できる。本発明の製造方法によれば、パワーIC、高周波対応可能な半導体デバイス等を製造することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0058】
(実施例1)
図1に示す反応装置を用いて、第13族窒化物結晶の製造を行った。
固体のLiGaN 1.0gを外径31mm、内径25mm、高さ200mmのチタン(Ti)製の反応容器5に入れ、次いで溶媒としてLiCl 9.7gとNaCl 0.3gとを、炭化タングステン製乳鉢でよく粉砕混合してから反応容器に入れた。固体のLiGaNは、篩を使用して2μm未満の粒径のものを除外し、2μm以上の粒径のものを選んで使用した。次に反応容器5を石英製の反応管4内にセットし、石英製反応管のガス導入口1およびガス排気口2を閉状態にした。これらの操作は全てArボックス中で行った。
【0059】
次に、反応管4をArボックスから取り出し、電気炉3にセットした。反応管4にガス導入管をつなぎ、導入管中を減圧にした後、さらに反応管のガス導入口1を開いて反応管4内を減圧してからNで復圧し、反応管4内をN雰囲気とした。その後、反応管のガス排気口2を開き、Nを流量計設定値100cm/min(標準条件20℃、1atmにおける値)で流通させた。S/V比は0.67cm−1となるように設定した。
【0060】
次に、電気炉の加熱を開始し、反応容器5の内部が室温から720℃になるまで1時間
で昇温し、塩であるLiClおよびNaClを溶融させた溶融塩を溶媒とした。イオン交換反応によりアルカリ金属元素の蒸発を促進するため、溶融塩にはNaClを加えた。前処理として720℃で90時間保持した後、745℃まで昇温し、シード保持棒8の先端に取り付けたシード6を反応容器中の溶液(溶融塩)9中に投入し、結晶成長を開始した。結晶成長中はNaが溶液9中から蒸発して反応容器内上部に凝縮した。溶液9の底には原料7であるLiGaNが固体状で存在している。シードには(10−1−1)面を主面とするGaN基板を用いた。
【0061】
210時間成長させた後、シード6を溶液9から引き上げてから炉の加熱を止め、反応管4を急冷した。冷却後、反応管4からシードを取り出し、シードに付着した塩を水に溶かし、シードの重量を重量計で測定した。シードの成長後重量が求まったので、シードの重量増加分を成長時間で割ってシード成長速度を算出した。その結果、シード上の結晶成長速度は、0.063mg/hであった。
【0062】
反応管4から容器5を取り出し、反応容器5を水に浸し固化した塩を水に溶解させた。その水溶液に塩酸を加え上澄み液を捨て、残ったGaN雑晶を取り出し、重量を測定した。シードの重量増加とGaN雑晶の重量を足すことにより総GaN収量が求まったので、前記検量線法によりNa除去速度を算出した。その結果、Na除去速度は、0.020mg/h/cmであった。
【0063】
(実施例2)
固体のLiGaN 1.4g、外径34mm、内径30mm、高さ200mmのチタン(Ti)製の反応容器5を使用したことと、溶媒としてLiCl 10.1gとNaCl 4.3gを使用したこと、前処理時の温度が745℃であること、前処理時間が7時間であること、シードには(10−10)面を主面とするGaN基板を用いたこと、成長時の温度が745℃であること、成長時間が96時間であることを除き、実施例1と同様の方法で実施した。S/V比は0.67cm−1となるように設定した。イオン交換反応によりアルカリ金属元素の蒸発を促進するため、溶融塩には実施例1より高濃度なNaClを加えた。結晶成長中はNaが溶液9中から蒸発して反応容器内上部に凝縮した。Na蒸発速度は、0.30mg/h/cmとなるように制御した。シード上の結晶成長速度は0.16mg/hであった。
【0064】
(実施例3)
固体のLiGaN 5.4g、外径62mm、内径58mm、高さ200mmのチタン(Ti)製反応容器5を使用したことと、溶媒としてLiCl 37.8gとNaCl 16.2gを使用したこと、昇温に要する時間が4.5時間であること、前処理時間が17時間であること、前処理時の温度が745℃であること、シードには(10−10)面を主面とするGaN基板を用いたこと、成長時の温度が745℃であること、成長時間が20時間であることを除き、実施例1と同様の方法で実施した。S/V比は0.67cm−1となるように設定した。イオン交換反応によりアルカリ金属元素の蒸発を促進するため、溶融塩には実施例1より高濃度なNaClを加えた。結晶成長中はNaが溶液9中から蒸発して反応容器内上部に凝縮した。Na除去速度は、0.49mg/h/cmとなるように制御した。シード上の結晶成長速度は0.33mg/hであった。
【0065】
(実施例4)
図2に示す反応装置を用いたこと、固体のLiGaN 3.5g、外径34mm、内径30mm、高さ150mmのチタン(Ti)製反応容器5を使用したことと、溶媒としてLiCl 15.8gとNaCl 13.0gを使用したこと、昇温に要する時間が1時間であること、前処理時間が10時間であること、前処理時の温度が745℃であること、シードには(10−11)面を主面とするGaN基板を用いたこと、成長時の温度
が745℃であること、成長時間が486時間であることを除き、実施例1と同様の方法で実施した。S/V比は0.33cm−1となるように設定した。イオン交換反応によりアルカリ金属元素の蒸発を促進するため、溶融塩には実施例1より高濃度なNaClを加えた。結晶成長中はNaが溶液9中から蒸発して図2に示す矢印の経路にて流通する結果、Naが凝縮部に凝縮し、反応容器内にはNaは凝縮しなかった。基板の変色や、液相中の金属Gaの生成は起きなかった。Na除去速度は、0.15mg/h/cmとなるように制御した。シード上の結晶成長速度は0.20mg/hであった。
【0066】
(実施例5)
固体のLiGaN 10.8g、外径62mm、内径58mm、高さ200mmのチタン(Ti)製反応容器5を使用したことと、溶媒としてLiCl 86.4gとNaCl 21.6gを使用したこと、昇温に要する時間が3.5時間であること、前処理時間が20時間であること、前処理時の温度が745℃であること、シードには(10−10)面を主面とするGaN基板を用いたこと、成長時の温度が745℃であること、成長時間が285時間であることを除き、実施例1と同様の方法で実施した。S/V比は0.33cm−1となるように設定した。イオン交換反応によりアルカリ金属元素の蒸発を促進するため、溶融塩には実施例1より高濃度なNaClを加えた。結晶成長中はNaが溶液9中から蒸発して反応容器内上部に凝縮した。また、一旦液相中から除去したNaの一部が液相に戻り、液相中に金属Gaが生成した。Na除去速度は、一旦液相中から除去したNaの一部が液相に戻ったことから正確な速度は不明であるが、液相に戻ったNaを考慮せずに算出したNa除去速度である0.074mg/h/cmより速い値となるように制御した。シード上の結晶成長速度は0.033mg/hであった。
【0067】
(実施例6)
固体のLiGaN 16.2g、外径62mm、内径58mm、高さ200mmのチタン(Ti)製反応容器5を使用したことと、溶媒としてLiCl 113.4gとNaCl 48.6gを使用したこと、昇温に要する時間が3.5時間であること、前処理時間が20時間であること、前処理時の温度が745℃であること、シードには(10−11)面を主面とするGaN基板を用いたこと、成長時の温度が745℃であること、成長時間が191時間であることを除き、実施例1と同様の方法で実施した。S/V比は0.22cm−1となるように設定した。イオン交換反応によりアルカリ金属元素の蒸発を促進するため、溶融塩には実施例1より高濃度なNaClを加えた。結晶成長中はNaが溶液9中から蒸発して反応容器内上部に凝縮した。また一旦液相中から除去したNaの一部が液相中に戻り、液相中にGa金属が生成し、基板が薄黒く変色した。Na除去速度は、一旦液相中から除去したNaの一部が液相に戻ったことから正確な速度は不明であるが、液相に戻ったNaを考慮せずに算出したNa除去速度である0.032mg/h/cmより速い値となるように制御した。シード上の結晶成長速度は0.064mg/hであった。
【0068】
(実施例7)
固体のLiGaN 3.5g、外径34mm、内径30mm、高さ200mmで、図3に示すように上端から60mmのところにねずみ返し状のバッフルを装着したチタン(Ti)製反応容器5を使用したことと、溶媒としてLiCl 15.8gとNaCl 13.0gを使用したこと、昇温に要する時間が1時間であること、前処理時間が20時間であること、前処理時の温度が745℃であること、シードには(10−11)面を主面とするGaN基板を用いたこと、成長時の温度745℃であること、成長時間が483時間であることを除き、実施例1と同様の方法で実施した。S/V比は0.33cm−1となるように設定した。イオン交換反応によりアルカリ金属元素の蒸発を促進するため、溶融塩には実施例1より高濃度なNaClを加えた。結晶成長中はNaが溶液9中から蒸発して反応容器内のねずみ返し状のバッフルの上部に凝縮したが、一部は液相中に戻った
。つまり、反応容器内のねずみ返し状のバッフルは一部の金属Naの液相への戻りを防止することができたと考えられる。Na除去速度は、一旦液相中から除去したNaの一部が液相に戻ったことから正確な速度は不明であるが、液相に戻ったNaを考慮せずに算出したNa除去速度である0.11mg/h/cmより速い値となるように制御した。シード上の結晶成長速度は0.041mg/hであった。
【0069】
(比較例1)
固体のLiGaN 2.0g、外径29mm、内径25mm、高さ180mmのイットリア(Y)製反応容器5を使用したことと、溶媒としてLiCl 10.0gとNaCl 0.3gを使用したこと、前処理時の温度が700℃であること、前処理時間が125時間であること、シードには(10−1―1)面を主面とするGaN基板を用いたこと、成長時の温度が700℃であること、成長時間が212時間であることを除き、実施例1と同様の方法で実施した。S/V比は0.64cm−1であった。結晶成長中はNaの蒸発がほとんどなかったため、反応容器内上部にNaの凝縮が確認されなかった。Na蒸発速度は、0.0019mg/h/cmであった。シード上に結晶は成長せず、シードの一部に溶解、へき開が見られた。Na蒸発速度が遅すぎたため、シード上の結晶成長が不安定となり成長しなかった。
また、表1には実施例1〜3と比較例1の結晶成長条件と結果、表2には実施例4〜7の結晶成長条件と結果を示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表1から明らかなように、本発明におけるNa蒸発速度を0.0020mg/h/cm以上にして結晶成長させた場合は、安定して効率よくGaN製造を行うのに必要な速度で結晶成長できた。特に、Na蒸発速度を0.010mg/h/cm以上にすると、さらに安定して高い成長速度で結晶成長できた。以上より、Na蒸発速度を0.0020mg/h/cm以上にして結晶成長させた場合は、安定して効率よくGaN製造を行うのに必要な速度で結晶成長できることが確認された。
【0073】
また、表2から明らかなように、凝縮部およびガス流路を設ける構造を用いた場合は、一旦除去したNaが液相に再び戻ることを防止し、結晶成長の継続する時間が大きくなり
、結晶品質の悪化が起こらず、より安定して効率よくGaN製造を行うことができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の第13族窒化物結晶の製造方法によれば、半導体デバイスに応用するのに十分なサイズを有する第13族金属窒化物結晶を安価な装置を用いて工業的に有利な方法で製造することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0075】
1 ガス導入口
2 ガス排出口
3 電気炉
4 反応管
5 反応容器
6 シード
7 原料
8 シード保持棒
9 溶液
10 アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素凝縮部(凝縮部)
11 反応容器ガス排出口
12 ガス流路
13 ねずみ返し状のバッフル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と、第13族元素と窒素元素とを含む液相中で、液相からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去しながら第13族窒化物結晶を成長させる第13族窒化物結晶の製造方法であって、液相からアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去する速度が0.0020mg/h/cm以上であることを特徴とする、第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去する速度が0.010mg/h/cm以上、32mg/h/cm以下である、請求項1に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が、Cs、Rb、K、Na、Mgからなる群より選ばれる1以上の元素である、請求項1または2に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記第13族元素と前記窒素元素とが、少なくとも第13族元素を含む窒化物から供給される、請求項1から3のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記第13族元素と前記窒素元素とが、少なくとも第13族以外の元素および第13族元素を含む複合窒化物から供給される、請求項1から4のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記液相が溶融塩を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
前記液相を保持する反応容器内の液相と接しない部分に、前記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の凝縮部を設ける、請求項1から6のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
前記凝縮部に向けてアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含むガスを流通させるガス流路を設ける、請求項7に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項9】
反応容器にアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含むガスを排出する反応容器ガス排出口を設け、該反応容器ガス排出口から前記ガス流路を経て、前記凝縮部へアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含むガスを排出する、請求項8に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項10】
前記ガス流路とガス流路以外の領域とを隔てる構造を設ける、請求項8または9に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法により得られる、第13族窒化物結晶。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法により、基板上に第13族窒化物結晶を製造する工程を有する半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214359(P2012−214359A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−23913(P2012−23913)
【出願日】平成24年2月7日(2012.2.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】