説明

第2級アリル型環状アルコールの脱水素によるα,β−不飽和環状ケトンの調製方法

少なくとも1種の金属カルボキシレートの存在下における、カルベオールなどの第2級アリル型環状アルコールの脱水素を含む、カルボンなどのα,β−不飽和環状ケトンの製造方法。この方法は、バッチ方式または連続方式で実施することができる。適した金属カルボキシレートの例としては、ステアリン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カルシウムおよび2−エチルへキサン酸亜鉛がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に有機合成の分野、より詳細には、少なくとも1種の金属カルボキシレートの存在下での第2級アリル型アルコールの脱水素を含む、α,β−不飽和環状ケトンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのアルコールは、対応するカルボニル化合物に触媒的に脱水素され得ることが知られている(一般的な情報として、Hydlicky Milos、Oxidations in Organic Chemistry、ACS Monograph 186、American Chemical Society、Washington,DC、1990年、132頁、およびSmith M.B.およびMarch J.Advanced Organic Chemistry、第5版、John Wiley and Sons,Inc.、New York、2001年、1515〜1516頁を参照されたい)。通常、アルコールの脱水素により、目的とするカルボニル化合物を高い収率およびスループットで調製することが可能になる。この目的のために、典型的には、銅、ニッケル、およびパラジウムをベースとする触媒がアルコールの脱水素に使用されてきた。
【0003】
カルボンなどのα,β−不飽和環状ケトンをカルベオールなどの対応する第2級アリル型環状アルコールの接触脱水素により生成する試みは、1927年に行われた(Treibs W.およびSchmidt H、Ber.、1927年、60B、2335〜2341頁)。しかし、銅およびニッケルをベースとする触媒は共に、カルベオールをカルボンではなく、カルバクロールおよびテトラヒドロカルボンに変換したので、この試みは失敗した。このことは、一部は、カルベオールなどの第2級アリル型環状アルコールの接触脱水素に伴う2つの潜在的副反応のためである。第1に、出発材料および生成物は共に二重結合をもち、これが脱水素の結果生成した水素と反応し得る。第2に、これらの二重結合は、触媒の存在下高温で容易に異性化して芳香族構造を与える。以下のスキームは、例えばカルベオールの脱水素中に起こり得るこれらの副反応を表す。
【0004】
【化1】

【0005】
本発明の発見以前は、カルベオールからカルボンの調製などの対応する第2級アリル型環状アルコールからα,β−不飽和環状ケトンを調製する最もよく知られている方法は、ある種の酸化反応を含んでいる。これらの方法は、2つのカテゴリーに分けることができる。
【0006】
これらの2つの方法の第1は、水素がカルベオールから補助カルボニル化合物に移動する、オッペンナウアー酸化として知られている。特開昭50−58031には、触媒としてアルミニウムイソプロポキシド、水素受容体としてシクロヘキサノン、および溶媒としてキシレンの存在下におけるカルベオールの酸化が記述されている。純度88%のカルボンの収率は82%であった。塩化メチレン溶液中で錯体アルミニウム触媒および水素受容体として3当量のピバルアルデヒドを使用することにより、カルボンのより高い収率(91%)が得られた(Takashi Ooiら、Synthesis、2002年、2号、279〜291頁)。この方法で使用された新規のアルミニウム錯体触媒(2,7−ジメチル−1,8−ビフェニルジオキシ)ビス(ジアルコキシアルミニウム)は、トリアルキルアルミニウムから調製しなければならず、これは工業規模では安全性に懸念が生じる。オッペンナウアータイプの酸化法すべてに共通する欠点としては、加水分解の触媒感度、補助カルボニル化合物の使用の必要性(時には大過剰の)、および長い労働集約的な後処理がある。
【0007】
これらの方法の第2は、試薬による酸化として知られている。上記特開昭50−58031にはまた、93%の収率を有する、濃硫酸中の三酸化クロムによるカルボンへのカルベオールの酸化が記載されている。カルベオールのカルボンへの酸化に対して提案されたその他の試薬では、モリブデン触媒の存在下での過酸化水素(Trost,B.M.ら、Israel Journal of Chemistry、1984年、24巻、134〜143頁);ルテニウム触媒の存在下でのN−メチルモルホリン−N−オキシド(Sharpless K.B.ら、Tetrahedron Letters、1976年、29号、2503〜2506頁);モリブデンおよびバナジウム触媒の存在下でのヒドロペルオキシド(Lernpers H.E.B.ら、J.Org.Chem.、1998年、63巻、1408〜1413頁);および銅触媒(Rothenberg G.、J.Chem.Soc.、Perkin Trans.1998年、2号、2429〜2434頁)がある。全てではないとしても、これらの反応の殆どには高価な試薬または有毒な触媒が使用され、大過剰の酸化試薬が必要であり、このことが試薬酸化の商業化を非常に魅力のないものにしている。
【0008】
カルボニル基と共役しているカルボン中の二重結合は、水素受容体として著しく活性である。このことが、一般的に使用される脱水素条件下でジヒドロカルボンが、カルベオール脱水素の主な生成物となる理由である(例えば、銅クロマイト触媒の存在下での、シクロアルケノールのシクロアルカノンへの異性化が記述され、カルベオールのジヒドロカルボンへの変換が具体的に挙げられているUS 4160786を参照されたい)。脱水素反応にしばしば使用される、担持されたパラジウム、白金およびルテニウムは、シクロアルケノール(カルベオール)またはシクロアルケノン(カルボン)を脱水素した場合、フェノールおよびシクロヘキサノンを与える。このような変換の例が、US 4929762およびUS 5817891に認められる。
【0009】
ある場合は、対応するアリル型アルコールからα,β−不飽和カルボニル化合物を生成するために、酸化的脱水素化(oxidative dehydrogenation)と呼ばれる方法が使用される。この方法に利用される触媒には、金属銅または金属銀がある。この方法を用いて、360℃を超える温度で、ゲラニオールがシトラールに(US 5241122)、およびプレノールがプレナールに(US 6013843)変換された。この方法の名称「酸化的脱水素化」は、酸化剤あるいは水素受容体であり得る酸素の存在を必要とするので、これは真の脱水素ではないことを示唆している。そうは言うものの、酸化的脱水素化は、カルボンを生成するために成功裡に使用されたことはない。なぜならおそらく、これは360℃を超えた温度で行われ、このことがカルベオールおよびカルボンの分解を生じさせ、低収率および不十分な品質に導くためであろう。
【0010】
その他の試みには、いくつかの酵素がこの種の化学変換に作用することが分かった(Hirata,T.、ら、Phytochemistry、2000年、55巻、4号、297〜303頁)。酵素法は、主に理論的な関心事であり、カルボンの大規模な製造には使用することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に、均一系触媒は、脱水素法にはまれにしか使用されない(Blum,J.、Biger,S.Tetrahedron Letters、1970年、21号、1825〜1828頁)。特に、アリル型アルコールの脱水素におそらく作用する、これらの均一系触媒の存在下では、対応する不飽和カルボニル化合物への脱水素ではなく、飽和カルボニル化合物への異性化が観察された(van der Drift,R.C.らによる概説、J.Organomet.Chem.、2000年、650号、1〜24頁を参照されたい)。アルコールの均一系脱水素の例はすこしある。しかし、基質として飽和アルコールのみが使用されている(Fragale,C.ら、J.Molecular Catalysis、1979年、5巻、65〜73頁)。興味深いことには、報告された例の大部分は、脱水素ではなく、むしろ水素受容体が含まれる水素移動反応である。したがって、カルボンまたは任意の他の共役α,β−不飽和環状ケトンが、対応するアリル型アルコールの接触脱水素により調製することができることの指摘は、特許または科学的文献中にはない。さらに、使用されてきた均一系脱水素触媒は、周期表第6族から第10族より選択される遷移金属の錯体化合物である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
それにひきかえ、本発明はさらに周期表第2族および第12族から選択される金属のカルボキシレートを利用する方法を提供する。以下に論じるように、本発明によれば、これらのカルボキシレートは、真の脱水素メカニズムによる、対応する第2級アリル型環状アルコールからのα,β−不飽和環状ケトンの選択的生成を可能にする効果的な均一系脱水素触媒である。
【0013】
その他の態様でも、本発明は一部には、周期表第2族および第12族からの金属カルボキシレートが、第2級アリル型環状アルコールの脱水素のための選択的均一系触媒として作用して、α,β−不飽和環状ケトンを形成することができるという驚くべき発見に基づく。
【0014】
第1態様において、本発明は、α,β−不飽和環状ケトンを与えるのに有効な条件下の反応環境で少なくとも1種の金属カルボキシレートの存在下での第2級アリル型環状アルコールの脱水素を含む、α,β−不飽和環状ケトンの製造方法を提供する。
【0015】
第2態様において、本発明はさらに、ここに記載の方法により生成されたα,β−不飽和環状ケトンを提供する。
【0016】
本発明のさらなる利点および実施形態は、説明から明らかであるか、本発明の実施により知り得る。本発明のさらなる利点は、添付の特許請求の範囲で特に示した要素および組合せにより理解され、実現されよう。よって、前述の全般的な説明および以下の詳細な説明は共に、本発明のある実施形態の例示および説明であり、したがって、特許請求した本発明を限定するものではないことは理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、以下の詳細な説明およびここに提供された任意の実施例を参照することにより、より容易に理解し得る。また、特定の成分および/または反応条件は変わり得るので、本発明は特定の実施形態および下記の方法に限定されるものではないことを理解されたい。さらに、ここに使用された用語は、本発明の特定の実施形態を説明する目的でのみ使用されており、限定するものでは決してない。
【0018】
本明細書および添付した特許請求の範囲では、単数の形態「a」、「an」および「the」は、別段の指示がなければ、複数の指示対象を含むことに留意されたい。例えば、単数の成分への参照は、複数の成分を含むものとする。
【0019】
ここでは、範囲は、「約」(about)または「ほぼ」(approximately)の一特定値から、および/または「約」または「ほぼ」の別の特定値までで表し得る。このような範囲が表される場合、別の実施形態は、1つの特定値から、および/または他の特定値を含む。同様に、先行する「約」の使用により値が近似値として表される場合、特定値が別の実施形態を形成するものと理解されたい。
【0020】
ここでは、第II族および第XXII金属とは、周期表の第II族および第XXIIに属するこれらの金属を含むものとする。
【0021】
ここでは、「アルキル」という用語は、式から水素を除くことにより、アルカンから誘導されるパラフィン系炭化水素基を指す。非限定的な例として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、およびイソブチルなどのC1〜C20アルカン誘導体を含む。このためには、本発明に使用するのに適したアルキル置換基は、分枝状または直鎖状アルキル置換基であり得ることを理解されたい。
【0022】
ここでは、「アルケニル」という用語は、1つまたは複数の二重結合を有する不飽和炭化水素のクラスから誘導された置換基を指すものとする。ただ1つの二重結合を含むものは、アルケンまたはアルケニル置換基と称される。2つ以上の二重結合を有するものは、アルカジエン(アルカジエニル)、アルカトリエン(アルカトリエニル)等と呼ばれる。非限定的な例としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等がある。このために、本発明に使用するのに適したアルケニル置換基は、置換されたまたは非置換のものであり得ることを理解されたい。
【0023】
ここでは、「アリール」という用語は、その分子がベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン等の環構造の特性を有する化合物または置換基を指す。すなわち、アリール基は、典型的にはベンゼンの6個の炭素環、あるいはその他の芳香族誘導体の縮合した6個の炭素環を含む。例えば、アリール基は、フェニル基またはナフチル基であり得る。このためには、本発明に使用するのに適したアリール置換基は、置換されたまたは非置換であり得ることを理解されたい。
【0024】
ここでは、α,β−不飽和環状ケトンとは、以下の構造を有する環状ケトンを指す。
【0025】
【化2】

【0026】
[式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖状または分枝状C1〜C5アルキル基、C1〜C5アルケニル基、あるいはC6〜C10アリール基から選択される]
ここでは、第2級アリル型環状アルコールとは、以下の一般構造を有するアリル型環状アルコールを指す。
【0027】
【化3】

【0028】
[式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖状または分枝状C1〜C5アルキル基、C1〜C5アルケニル基、またはC6〜C10アリール基から選択される]
ここでは、β,γ−不飽和環状ケトンとは、以下の一般構造を有する環状ケトンを指す。
【0029】
【化4】

【0030】
[式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖状または分枝状C1〜C5アルキル基、C1〜C5アルケニル基、またはC6〜C10アリール基から選択される]
ここでは、「有効な」、「有効量」、または「有効な条件」という用語の使用により、このような量または反応条件が、それらに対して有効量が表された化合物または特性の機能を実行させることができることを意味する。以下に指摘されるが、必要とする厳密な量は、使用する化合物または材料、および観測される処理条件などのような認められる変数に応じて、1つの実施形態と別の実施形態では異なるであろう。したがって、厳密な「有効量」または「有効な条件」を特定することは必ずしも可能であるとは限らない。しかし、適当な有効量は、当業者によりルーチンの実験を用いただけで容易に決定されることを理解されたい。
【0031】
ここでは、「反応環境」という用語は、そこの中で脱水素反応が行われる媒体を指す。例えば、制限することなしに、本発明の脱水素反応がその中で行われる反応環境または反応媒体は、第2級アリル型環状アルコールであり得る。あるいは、反応環境または反応媒体は、少なくとも1種の任意選択の溶媒を含むことができる。
【0032】
ここでは、「任意選択の」または「任意選択で」という用語は、引き続いて記載の事象または状況が起こってもまたは起こらなくてもよいこと、およびその記述が、前記事象または状況が起こる事例およびそれが起こらない事例を含むことを意味する。例えば、「任意選択で置換された低級アルキル」という句は、この低級アルキル基が置換されていても置換されてなくてもよく、およびその記述は非置換低級アルキルおよび置換基が存在する低級アルキルを共に含む。
【0033】
上述のように、第1態様では、本発明は、少なくとも1種の金属カルボキシレートの存在下において、α,β−不飽和環状ケトンを与えるのに有効な条件下の反応環境で第2級アリル型環状アルコールを脱水素することを含む、α,β−不飽和環状ケトンの製造方法を提供する。
【0034】
本発明によれば、適した第2級アリル型環状アルコールには、式(I)の一般構造を有するこれらのアルコールが含まれる。
【0035】
【化5】

【0036】
[式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖状または分枝状C1〜C5アルキル基、C1〜C5アルケニル基、あるいはC6〜C10アリール基から選択される]本発明の好ましい態様では、第2級アリル型環状アルコールはカルベオールであり、以下の式(III)の構造により表される。
【0037】
【化6】

【0038】
上述のように、本発明の脱水素法は、少なくとも1種の金属カルボキシレート触媒の存在下で進行する。金属カルボキシレート触媒は、マグネシウム、カルシウム、および亜鉛を含めた、周期表第II族および第XXII族から選択される金属のカルボキシレートである。本発明の一態様によれば、金属カルボキシレートは、一般構造を有するカルボキシレート部分を含む。
【0039】
【化7】

【0040】
[式中、R3は、C1〜C20の直鎖状または分枝状アルキル基から選択され、この基は、1種または複数のさらなるC1〜C20直鎖状または分枝状アルキル基でさらに置換され得る]一態様では、好ましいカルボキシレートはステアレートである。あるいは、他の態様では、カルボキシレートは、エチルヘキサノエートまたはオクタノエートである。したがって、これらの態様によれば、本発明に使用するのに適した金属カルボキシレート触媒としては、限定することなく、ステアリン酸マグネシウム(Aldrich Companyから市販されている)、2−エチルヘキサン酸カルシウム(Shepherd Chemical Companyから市販されている)、および2−エチルヘキサン酸亜鉛(これもShepherd Chemical Companyから市販されている)がある。
【0041】
ここで述べたように、本発明の方法は、一般構造を有する種々のα,β−不飽和環状ケトンを製造するのに有用である。
【0042】
【化8】

【0043】
[式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖状または分枝状C1〜C5アルキル基、C1〜C5アルケニル基、あるいはC6〜C10アリール基から選択される]この目的のために、当業者には、製造を所望する特定のα,β−不飽和環状ケトンは、ここに前述したように、出発材料の第2級アリル型環状アルコールに依ることが理解され、認識されよう。一態様では、本発明の方法は、カルボン、以下の構造を有するα,β−不飽和環状ケトンの調製に特に有用である。
【0044】
【化9】

【0045】
適当な反応条件を用いると、アリル型のみならずいくつかのその他のアルコールが、対応するカルボニル化合物に変換されることになる。例えば、この反応速度はより遅いが、ジヒドロカルベオールはジヒドロカルボンに変換され、このことは、アリル型アルコールは、これらの飽和類似体より速く金属カルボキシレート触媒で脱水素されることを示している。
【0046】
金属カルボキシレートの存在下では、約210℃で、カルベオール脱水素の注目すべき速度が認められる。しかし、妥当な反応速度を達成するためには、この方法を215〜260℃で実施すべきである。より高い温度では、カルベオールへのカルベオール脱水素の選択性が低下し始める。
【0047】
本発明によれば、カルベオールの脱水素は、金属カルボキシレートの存在下、高温で大気圧または低圧下、バッチ工程または半連続工程で、任意選択で溶媒を添加して実施される。
【0048】
この目的ために、ここに記載されたように、工程の最適化は、ルーチンの実験を用いるだけで可能になる。例えば、残存する圧力(例えば、真空度)を制御することにより、反応混合物は、系中の所望の温度で還流することができる。さらに、所望の温度および残存する圧力の組合せを選択することにより、系中のカルベオール濃度、それによる触媒とカルベオールの間の接触時間を制御することがでる。最後に、パラメータの組合せ、例えば、圧力、カルベオール濃度、および接触時間を、例えば、カルベオールまたはカルベオール含有混合物の系への供給速度の選択に使用することができる。
【0049】
この反応は溶媒を必要とはしないが、溶媒を添加すると、バッチ方式における高収率を達成し、半連続方式における熱移動を改善し、粘度を低下させるのに有利であり得る。溶媒の例としては、これに限定されることなく、高沸点の単独の炭化水素およびこれらの混合物(ペンタデカン、白色鉱油等)、エーテル(ジフェニルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等)、または炭化水素とエーテルの混合物がある。溶媒の量は、出発材料のカルベオールに対して10〜200%に変化させ得る。さらに多量の溶媒も使用し得る。しかし、これにより装置の利用が非効率になる。
【0050】
ここに記載の本発明の方法は、実質上任意の規模で成功裡に実施することができる。
【0051】
触媒の量は、出発材料の第2級アルコールまたは総反応混合物に対して表わすことができる。例えば、カルボキシレートの量は、第2級アルコールに対して約0.5重量%以下から約100重量%以上に変化させることができる。例えば、適した量の具体例には、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80および90重量%およびこれらの間の範囲が含まれる。
【0052】
さらに、金属カルボキシレート触媒の量は、所望の反応速度を与えるように選択され、使用される反応技法に応じて変化し得る。例えば、工程がバッチ方式で実施される場合は、カルボキシレートは、出発材料の第2級アルコールに対して約1〜約4重量%、あるいは総反応混合物に対して約0.5〜約2重量%の量で存在し得る。連続方式で実施される工程では、金属カルボキシレートは、スループットに基づき、触媒1g1時間当たり第2級アルコール約0.01〜約1gの系中に存在することができる。
【0053】
バッチ式脱水素を実施するために、カルベオールまたはカルベオール含有ストリームを、触媒およびことによると溶媒と任意の順序で混合する。次いで、得られた混合物を所望の温度に加熱する。要求はされてはいないが、触媒を加水分解から保護するために、触媒添加の前に、任意選択の溶媒または供給原料中に含まれているいずれの水も、蒸留(できれば、共沸混合物形成剤の添加)により除去することが望ましい。適当な沸点を有する種々の炭化水素が、共沸混合物形成剤としての機能を果たすことができる。脱水素は、還流温度、大気圧または真空下で実施することができる。還流温度は、1種または複数の溶媒の添加により、あるいは圧力の調整により制御され得る。
【0054】
半連続工程を実施するために、カルボンをカルベオールから分離するのに十分な効率の蒸留塔のスチルポット中で、触媒と溶媒の混合物を所望の温度(典型的には220〜250℃)および圧力(典型的には10〜100mmHg)に加熱し得る。次いで、カルベオールまたはカルベオール含有ストリームを、スチルポットを介して規定された速度で継続的に加える。カルボンはより低沸点を有するので、蒸留塔の頂部から継続的に取り出され、一方、カルベオールはポット中に残留する。カルベオールの追加およびカルボンの除去を、触媒がその活性度を失うまで続ける(典型的には96〜120時間)。半連続工程は、バッチ工程に比較するとより高いカルボンの収率を与える。なぜなら、この生成物は、それが形成されるとすぐに反応域から除去され、それによって副生成物の形成が防止されるためである。
【0055】
下に示すように、高温で触媒の存在下、所望のα,β−不飽和環状ケトンは、その非共役異性体、β,γ−不飽和環状ケトンと平衡状態で存在する。
【0056】
【化10】

【0057】
非共役β,γ−不飽和異性体が、目的とする共役α,β−不飽和環状ケトンより低沸点を有する場合は、β,γ−不飽和環状ケトンは、還流条件中に先に除去されることになる。このような理由で、適当な第2級アリル型アルコールの半連続式脱水素の生成物は、目的のα,β−不飽和環状ケトンに加えて、注目すべき量のβ,γ−不飽和環状ケトンを含み得る。例えば、スピカトン、カルボンの非共役β,γ−不飽和異性体は、カルボンより低沸点を有し、還流条件下で先に除去される。このような理由で、カルベオールの半連続式脱水素の生成物は、注目すべき量の、典型的には約4〜約8%の範囲の量のスピカトンを含み得る。
【0058】
スピカトンなどのβ,γ−不飽和環状ケトンは、脱水素反応の生成物を200℃を超える温度に加熱することにより、あるいは脱水素反応の生成物を、バッチ工程において80℃以上で水酸化ナトリウム溶液によって処理することにより異性化して標的のα,β−不飽和環状ケトンに戻すことができる。例えば、本発明の方法によれば、カルベオールからカルボンの調製は、最小限の望ましくない量のスピカトン、非共役α,γ−不飽和環状ケトンカルボン異性体を与えることができる。脱水素生成物を200℃を超えて加熱すること、あるいはバッチ工程で、80℃以上で水酸化ナトリウム溶液で処理することにより、それによって、スピカトンを異性体に戻して、所望の生成物のより高い収率を与えることができる。
【0059】
スピカトンの異性化ステップの後、カルベオールの半連続式脱水素により、95%純度のカルボン(残りの5%は主にジヒドロカルボンであり、これはそれ自体がスペアミント油の価値ある成分である)の97重量%の収率が得られる。さらなる分別により、出発材料のカルベオールに対して90%の収率を有する、99.6%純度の(またはより高い純度の)芳香剤および香料品質カルボンがもたらされた。
【0060】
さらに、本発明の方法を実行する上で、ここに記載の脱水素法は、出発材料の第2級アリル型環状アルコールの光学活性を変更しないことを理解されたい。したがって、1−カルベオールなどの左旋性の第2級アリル型環状アルコールは、1−カルボンなどの左旋性のα,β−不飽和環状ケトンに成功裡に変換させることができる。同様に、右旋性のα,β−不飽和環状ケトンが所望の生成物である場合も同じことが言える。したがって、本発明は、α,β−不飽和環状ケトンが不斉中心を持つ場合、これらの純粋な光学異性体の調製のための便利で、実用的で、選択的で、比較的安価な、および環境に配慮した方法を提供する。
【0061】
実施例
以下の実施例は、ここに特許請求された、化合物、組成物、物品、デバイスおよび/または方法を作製および評価する方法の完全な開示および説明を、当業者に提供するために提出され、純粋に本発明の例示を意図しており、発明者等がその発明とみなすものの範囲を限定するものではない。数値(例えば、量、温度等)に関して正確さを確保するための努力がなされているが、一部の誤差および逸脱が生じていることもあり得る。別段の指示がなければ、部は重量による部であり、温度は℃である。
【0062】
実施例1
攪拌機、温度プローブ、および還流冷却器を備えたフラスコ中で、30gの1−カルベオールと0.6gのオクチル酸亜鉛(亜鉛含量18%、Shepherd Chemical Company)の混合物を228〜230℃に加熱した。反応混合物を定期的にサンプリングし、極性30メートルキャピラリーカラムによるGCにより分析した。2時間後、反応混合物は、79%の1−カルボンおよび8%の未反応1−カルベオールを含んでいた(1−カルベオールの92%の転化率、および85.8%の1−カルボンへの選択率)。
【0063】
実施例2
100gの1−カルベオール、3gのオクチル酸亜鉛(亜鉛含量22%、Shepherd Chemical Company)、80gのドデカンの混合物を215〜217℃で還流した。ディーン−スタークトラップを用いて水を除去した。反応混合物を、GC分析用に定期的にサンプリングした。10時間後、反応混合物は、79%のカルボンおよび17%のカルベオールを含んでいた(83%の転化率、95%の選択率)。
【0064】
実施例3
80gの1−カルベオール、2.5gのオクチル酸カルシウム(カルシウム含量10%、Shepherd Chemical Company)、80gのテトラエチレングリコールジメチルエーテルと、20gのcis−ピナンの混合物を224〜225℃で還流した。ディーン−スタークトラップを用いて水を除去した。反応混合物を、GC分析用に定期的にサンプリングした。5時間後、反応混合物は、28%のカルボンおよび61%のカルベオールを含んでいた(39%の転化率、71.8%の選択率)。
【0065】
実施例4
80gのカルベオール、2.7gのステアリン酸マグネシウム、80gのテトラエチレングリコールジメチルエーテルと、20gのcis−ピネンの混合物を224〜225℃で還流した。ディーン−スタークトラップを用いて水を除去した。反応混合物を、GC分析用に定期的にサンプリングした。5時間後、反応混合物は、20%のカルボンおよび69%のカルベオールを含んでいた(31%の転化率、64.5%の選択率)。
【0066】
実施例5
80gのカルベオール、3gのオクチル酸亜鉛(亜鉛含量22%、Shepherd Chemical Company)、80gのジフェニルエーテルと、16gのcis−ピネンの混合物を224〜225℃で還流した。ディーン−スタークトラップを用いて水を除去した。反応混合物を、GC分析用に定期的にサンプリングした。6時間後、反応混合物は、82%のカルボンおよび3%のカルベオールを含んでいた(97%の転化率、84%の選択率)。
【0067】
実施例6
1−カルベオールの半連続式脱水素。蒸留塔(理論段数25)の2リットルのポット中で、450gの鉱油と200gのオクチル酸亜鉛(22%亜鉛)の混合物を、50mmHgで240℃に加熱した。次いで、7080gの1−カルベオール含有混合物(10.5%の1−カルボンおよび72.5%の1−カルベオール)を、ポットを通して60g/時間の速度で118時間にわたり加えた。還流比および生成物取り出し速度を、ポット温度が240〜250℃に、および生成物(留出物)中に残留するカルベオール含量が3.5%未満に維持されるように調整した。合計6800gの脱水素の生成物を収集した。これは、4.1%のスピカトン、74.3%のカルボン、および3.2%のカルベオールを含んでいた(カルベオールの転化率は95.7%、およびカルボンプラススピカトンへの選択率は93%)。
【0068】
スピカトンのカルボンへの異性化。脱水素の生成物を、25%(重量)の水酸化ナトリウムの10%水溶液と共に100℃で2時間攪拌した。スピカトンの濃度は0.2%に減少し、カルボンの濃度は78.2%に増加した。苛性溶液を分離した後、有機層を酢酸で中和し、水で洗浄した。従来の分離法を用いて、芳香剤および香料品質の99.6%純度の1−カルボンを単離した。
【0069】
スピカトンのカルボンへの異性化(代替法)。脱水素の生成物を、225℃で3時間攪拌した。スピカトンの濃度は0.2%に減少し、カルボンの濃度は78.1%に増加した。従来の分離法を用いて、芳香剤および香料品質の99.6%純度の1−カルボンを単離した。
【0070】
本出願を通して種々の文献が参照された場合は、これらの文献の全体の開示が、実際上本出願に参照として組み込まれている。
【0071】
本発明を好ましい実施形態および特定の実施例に関連して説明してきたが、これは本発明の範囲を示された特定の実施形態に限定するものではなく、このような代替物、変更形態、および等価物は、添付の特許請求の範囲で規定される本発明の精神および範囲内に含まれるものとして包含するものとする。例えば、成分および/または条件の多数の変形形態および組合せ、例えば、第2級アリル型アルコール化合物、特定の金属カルボキシレート、および記載の実施形態から得られる結果を最適化するために使用することができる反応条件がある。この目的のために、当業者であれば、本発明の実施に際し、所望の結果を得るためにこのような条件を最適化するには単に妥当なおよびルーチンの実験が必要であることを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金属カルボキシレートの存在下において、一般構造
【化1】

を有する第2級アリル型環状アルコールを、一般構造
【化2】

[式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖状または分枝状C1〜C5アルキル基、C1〜C5アルケニル基またはC6〜C10アリール基から選択される]のα,β−不飽和環状ケトンを与えるのに有効な条件下の反応環境で脱水素することを含む、α,β−不飽和環状ケトンの製造方法。
【請求項2】
第2級アリル型環状アルコールがカルベオールであり、次の構造
【化3】

を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
α,β−不飽和環状ケトンがカルボンであり、次の構造
【化4】

を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1種の金属が、周期表第2族および第12族から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1種の金属が、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、またはこれらの任意の組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1種の金属が亜鉛である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種の金属カルボキシレートが、ステアリン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カルシウム、2−エチルヘキサン酸亜鉛またはこれらの任意の組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種の金属カルボキシレートが、2−エチルヘキサン酸亜鉛である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
反応環境が少なくとも1種の溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種の溶媒が脂肪族炭化水素を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種の溶媒がエーテルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1種の溶媒が、cis−ピナン、ドデカン、ペンタデカン、鉱油、ジフェニルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1種の溶媒が、第2級アルコールに対して約0.5〜約400重量%の量で存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1種の金属カルボキシレートが、第2級アルコールに対してほぼ0.5〜ほぼ100重量%の量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
α,β−不飽和環状ケトンを与えるのに有効な条件が、反応環境を加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
反応環境が、ほぼ210〜ほぼ260℃の範囲内の温度に加熱される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
α,β−不飽和環状ケトンを与えるのに有効な条件が、反応環境を大気圧以下に維持することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
α,β−不飽和環状ケトンを与えるのに有効な条件が、反応環境を還流することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
バッチ方式で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1種の金属カルボキシレートが、出発材料の第2級アルコールに対して1〜4重量%の量で存在する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1種の金属カルボキシレートが、総反応混合物に対して0.5〜2重量%の量で存在する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
連続方式で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1種の金属カルボキシレートが、スループットに基づき、触媒1g1時間当たり第2級アルコール0.1〜1gの系中に存在する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
α,β−不飽和環状ケトンが、反応環境から連続的に取り出される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
反応環境から水を除去することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
β,γ−不飽和環状ケトンをさらに与える、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
β,γ−不飽和環状ケトンがスピカトンである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
β,γ−不飽和環状ケトンをα,β−不飽和環状ケトンに異性化する異性化ステップをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
異性化ステップが、β,γ−不飽和環状ケトンをほぼ200〜ほぼ240℃の範囲の温度に加熱することにより熱的に実施される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
異性化ステップが、β,γ−不飽和環状ケトンを水酸化ナトリウム溶液で処理することにより実施される、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
請求項1に記載の方法により製造されたα,β−不飽和環状ケトン。


【公表番号】特表2006−526631(P2006−526631A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514332(P2006−514332)
【出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/014483
【国際公開番号】WO2004/108646
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(504000649)
【Fターム(参考)】