第VIII因子インヒビターに対する抗イディオタイプ抗体およびその使用
本発明は、第VIII因子阻害抗体であって、第VIII因子のC2ドメインに対してアフィニティーを有する阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体およびその断片を開示する。本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、インビトロおよびインビボのマウスモデルにおいて、FVIIIインヒビターの阻害活性を完全に中和することができる。本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、第VIII因子のC2ドメインに対する阻害抗体を有する血友病患者の出血障害を予防、治療または軽減するために適用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血友病の治療、特に、C2ドメインに対するFVIIIインヒビターを発症したヒト患者を治療するための薬学的組成物に関する。本発明は、C2ドメインに対するFVIIIインヒビターに対する抗イディオタイプ抗体を提供する。さらに、本発明は、このような抗イディオタイプ抗体を発現するモノクローナル細胞系に関する。また、本発明は、本発明に係る抗イディオタイプ抗体を含む薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病Aは、肝臓によって2332アミノ酸の一本鎖ポリペプチドとして産生される330kDの糖タンパク質分子である機能的第VIII因子が欠乏または十分量存在しないという特徴をもつX染色体連鎖疾患である。この欠乏症は、男性10,000人に1人の割合で起き、関節、筋肉および軟組織における出血を抑制できなくなることがある。本病の重篤な型(FVIII活性が正常量の1%よりも少なくなる)を患う患者は自然出血に苦しむ。同様にFVIII活性が1〜5%、または5%よりも高い患者は、それぞれ中度または軽度血友病Aと規定され、小さな外傷や手術の後、限定的な出血に悩まされる。血漿から調製されるか、組換えcDNA技術によって製造されるFVIII濃縮液を投与することによって凝血経路を回復させることができる。
【0003】
ヒトFVIII遺伝子は、Woodら、Nature(1984)312:330−337など、さまざまな著者によって報告されているように、すでに単離され、哺乳動物細胞の中で発現されており、また、そのアミノ酸配列もcDNAから推定されている。米国特許第4,965,199号は、哺乳動物宿主細胞においてFVIIIを産生するDNA組換え法およびヒトFVIII精製法を開示している。ヒトFVIIIの詳細な構造が広範に研究されている。例えば、米国特許第5,663,060号には、ヒトFVIIIをコードするcDNAの塩基配列および推定アミノ酸配列が開示されている。FVIII分子には、内部アミノ酸配列相同性によって規定される一連のアミノ酸配列として、また、トロンビンなど適当なプロテアーゼによるタンパク質切断部位として規定することができるドメインがある。FVIIIタンパク質は、さまざまなドメインからなると記述されており、ヒトのアミノ酸配列では、残基番号1〜372のA1;残基番号373〜740のA2;残基番号741〜1648のB;残基番号1690〜2019のA3;残基番号2020〜2172のC1;残基番号2173〜2332のC2に相当する。残りの配列、残基番号1649〜1689は、通常、FVIII軽鎖活性化ペプチドと呼ばれている。Kaufmanら(1988、J Biol Chem 263:6352−6362)によると、FVIIIは、細胞内で処理される際、A1、A2およびBドメインを含む重鎖と、A3−C1−C2ドメインからなる軽鎖とからなるヘテロダイマーを形成するために分泌された後速やかに切断される一本鎖ポリペプチドとして産生される。この二本の鎖は二価カチオンによって非共有結合されている。Ganzら(1988、Eur J Biochem 170:521−528)の教示するところによれば、この一本鎖ポリペプチドもヘテロダイマーも、不活性前駆体として血漿内を循環する。Eatonら(1986、Biochemistry 25:505−512)によれば、血漿内で第VIII因子が活性化されると、トロンビンによるA2ドメインとBドメインの間での切断が開始し、Bドメインが放出されて、A1およびA2ドメインからなる重鎖ができる。ヒト組換えFVIIIは、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞、BHK(ベイビーハムスター腎臓)細胞、その他同等の細胞などの哺乳動物細胞において遺伝子組換えによって生産することができる。
【0004】
Prattら(1999、Nature 402:439−42)は、ヒトFVIIIのカルボキシ末端側C2ドメインの詳細な構造を開示しているが、それは、フォン・ヴィルブラント因子(vWF)およびマイナスに荷電したリン脂質表面にそれが結合するために必須な部位を含んでいる。この構造は、そこから2個のβターンと1個のループが一群の溶媒曝露疎水性残基を提示するβサンドイッチコアが存在することを示しているが、この構造が、血友病Aにおける出血障害をもたらすC2領域における変異を一部説明している。Galeら(2000、Thromb.Haemost.83:78−85)によれば、第VIII因子欠乏症および血友病Aをもたらす少なくとも250種類のミスセンス変異のうち34個がCドメインに存在する。
【0005】
FVIIIは、血液凝固カスケードの内因系の補助因子であり、いわゆる第X因子活性化複合体(tenase complex)形成において、活性化第IX因子の第X因子に対するタンパク質分解活性を増加させることによって作用する。血友病Aを患う患者は、重病型では自然出血、または中度/軽症型では外傷の後に出血を起こす。
【0006】
血友病A患者には、通常、補充療法による治療を行うが、これは、供血者の血漿プールから精製したか、cDNA組換え技術によって得られたヒトFVIIIを注入して行われる。
【0007】
大部分の患者は、これらの注入液に対して免疫学的に不応答であるが、まだ未解明の理由によって、25%の患者がFVIIIに対するIgG免疫反応を起こして、注入されたFVIIIの凝血促進活性を完全に阻害することがある(Briet Eら、(1994)Throm.Haemost.72:162−164;Ehrenforth Sら、(1992)Lancet,339:594)。このような特異的IgGは、IgGの1、2、4サブクラスに属し、FVIIIインヒビターと呼ばれる。公表された研究では、抗FVIII免疫反応は、ポリクローナルであって、主に、A2、A3およびC2ドメインに対するものであることが実証されている(Scandella Dら、(1989)Blood,74:1618−1626;Gilles JGら、(1993)Blood,82:2452−2461)。
【0008】
インヒビター発症患者の末梢記憶B細胞のレパートリーから得られたヒトモノクローナル抗体を用いた最近の研究によって、重要なエピトープがC1ドメインにも存在していることが示された(Jacquemin Mら、(2000)Blood 95:156−163)。抗FVIII抗体がFVIIIの機能を阻害するメカニズムは、FVIIIのタンパク質分解による切断や、フォン・ヴィルブラント因子(vWF)、リン脂質(PL)、FIX、FXaまたはAPCなど、さまざまなパートナーとの相互作用など数多くある。これらのメカニズムのほとんどが、今では、マウスまたはヒトの抗FVIII抗体を用いた研究において十分に説明されている。このように、抗体は、タンパク質分解的切断部位に結合するか、または、タンパク質分解を受けにくくするようにFVIIIの3次元立体構造の変化を誘導することによって、FVIIIの活性化速度を低下させることができる。主要なvWF結合部位の1つであるC2ドメインに対するヒトモノクローナル抗体を用いた最近の研究で明らかにされたように、vWFのFVIIIへの結合を阻害する抗体は、インヒビターとして非常に有効であると思われる(Jacquemin Mら、(1998)Blood 92:496−501)。インヒビターの産生を抑制することと、FVIIIに対する免疫不応答状態を確立することは、いまだに主な目標となっているが、基本的には、特異的な抗体産生と制御の根本にあるメカニズムの解明が限られたものであるため、医学界は、この目標の達成からは程遠い状態にある。
【0009】
現在、このような免疫反応を調節するために、デスモプレシン(DDAVP)などのバイパス剤、プロトロンビン複合体濃縮液(PCC)または活性化PCCなどの凝血促進剤
、組換えFVIIa、血漿交換、および大投与量または中間投与量(それぞれ、200−300 IU/kg体重、または25−50 IU/kg体重)のFVIII注入など、いくつかの治療法が用いられる。しかしながら、これらの方法はいずれも満足の行くものではなく、すべて大変な費用がかかる。
【0010】
これらの観察結果、および免疫寛容のメカニズムについての理解に基づけば、抗イディオタイプ抗体は、インヒビター発症患者を治療する有望な方法と考えられる。実際、自己タンパク質に対する寛容が、まず、初期段階で、それぞれ骨髄および胸腺において、自己反応性のB細胞およびT細胞によって誘導されることが十分に確認されている。しかし、すべての自己反応性リンパ球が中央の除去によって消滅するわけではない。自己反応性B細胞は、低親和性または中親和性の自己反応性T細胞同様、末梢血に共通する特徴である。このような自己反応性細胞を非機能化するか、または末梢から除去するメカニズムがいくつか説明されてきた。抗イディオタイプ抗体は、抗体の機能を微調整したり、B細胞およびT細胞上に発現される相補性イディオタイプ間の微妙な平衡を維持したりすることができるため、この一般的なスキームにおける寛容維持の第三段階を代表しうる。
【0011】
抗イディオタイプ抗体が、末梢において、どのように制御作用を発揮できるかをうまく示すものとして、FVIIIが正常レベルにある健常な個体が、かなり高い力価のFVIIIに対する阻害抗体を産生するが、相補的な抗イディオタイプ抗体が存在するため、血漿中ではその活性を検出できないと実証されたことが挙げられる(Algiman Mら、(1992)Proc Natl Acad Sci USA 89:3795−3799;Gilles JGら、(1994)J Clin Invest 94:1496−505)。しかし、このようなFVIII阻害活性は、クロマトグラフィーと、不溶化FVIIIに対する特異的免疫吸着法を併用して精製すれば、簡単に検出することができる。ベセスダアッセイ法(Bethesda assay)によって測定したところ、アフィニティー精製された抗体がFVIII阻害能力をもつことが、インヒビターを高レベルでもつ血友病A患者の血漿から精製された抗FVIII抗体のFVIII阻害能力に等しいことが実証された(Gilles JGら、(1994)J Clin Invest 94:1496−505)。
【0012】
また、このような中和抗イディオタイプ活性は、FVIIIの高用量投与によって減感作に成功した患者グループにおいても検出されている(Gilles JGら、(1996)J Clin Invest 97:1382−1388)。この研究は、ベセスダアッセイ法を用いた、血漿におけるインヒビターの濃度測定値が検出不能レベルまで低下しても、健常なドナーと同じ処理によって精製された抗FVIII抗体の濃度は減感作の過程で変化しなかったこと、および、抗体が、FVIIIの凝血促進作用を阻害する能力を維持したことを明らかにした。これは、FVIII分子に対する寛容において、抗イディオタイプ制御が重要な機能をもつ可能性があることを示していた。したがって、FVIIIインヒビターを発症した患者の治療において、抗イディオタイプ抗体の増産を誘導する新規の治療法が関心を呼ぶ可能性がある。この線に沿った最初のアプローチでは、FVIIIとFVIIIに対する特異的自己抗体から作られた免疫複合体を注射して患者を治療し、その結果、循環系のFVIIIインヒビターの量が有意に低下し、対応する抗イディオタイプ抗体によって中和されたという研究が報告されている(Gilles JG,Arnout J.、第21回世界血友病連盟国際会議(XXI International Congress of the World Federation of Haemophilia)、1994年4月、要旨)。このようなアプローチによって、FVIIIインヒビターを標的とする新しい治療法であって、現在利用可能な治療法と比較して低コストになる可能性のある方法に向かう道を開くことができる。
【0013】
本発明者らの研究室での以前の発見では、抗イディオタイプ抗体は、抗FVIII免疫
応答のホメオスタシスにおいて生理学的性質を発揮することを明らかにしていた。すなわち、健康な個体の末梢血は、FVIIIに特異的な抗体を含んでいるが、その中にはFVIIIの凝血促進作用を阻害する性質をもつものがある(Gilles JGGおよびSaint−Remy JMR(1994)J Clin Invest 94:1496−1505)。これらの個体においては、特異的な抗イディオタイプ抗体によって抗体によるFVIII阻害が中和されるため、FVIIIの機能は実際には変化しない。このため、我々は、抗イディオタイプ抗体は、正常なFVIII活性の維持に生理学的な関連性を有すると結論した。
【0014】
さらに、本発明者らは、インヒビターを有する血友病A患者を、減感作または寛容誘導とも呼ばれる治療法である(上記参照)、常法どおりに高用量FVIIIを注入して治療すると、このような注入の生物学的結果の1つとして、インヒビターを中和できる特異的抗イディオタイプ抗体の誘導が起きる(Gilles JGら、(1996)J Clin Invest 97:1382−1388)。これらの知見は、抗イディオタイプ抗体の使用が、FVIII阻害抗体を制御するための有益なアプローチとなりうることを示唆している。
【0015】
ヒトモノクローナル抗体BO2C11は、インヒビター発症患者の天然のレパートリーに由来するFVIII特異的IgG4κ抗体である(Jacquemin MGら、(1998)Blood 92:496−506)。抗体BO2C11は、C2ドメインを認識して、FVIIIが、vWFおよびリン脂質(PL)に結合するのを阻害する。この抗体は、ヒト阻害抗体の主要なクラスを代表するものである。その作用機作は、インヒビター発症患者においてはよく存在し、C2特異的抗体が最も高頻度で見られる阻害抗体である。さらに、抗体のFab断片とC2ドメインから作成された結晶のX線解析によって、C2ドメイン上にある、抗体BO2C11の正確な結合部位が解明されている(Spiegel P.C. Jr.ら、(2001)B1ood 98:13−19)。
【0016】
以前の報告に、抗FVIII抗体に対する抗イディオタイプ抗体が記載されている。LubahnとReisner(1990,Proc Natl Acad Sci USA 87:8232−8236)は、塩沈殿法およびクロマトグラフィーによって、インヒビターを発症した血友病A患者の血漿からヒト抗FVIII抗体を部分精製した。これらの著者は、精製したIgGが、天然のFVIIIの重鎖と、それをトロンビン分解した43kDaの鎖を認識したことを明らかにした。抗イディオタイプ抗体を得るために、この調製物(SP8.4)をマウスに注射した。いくつかのクローンが得られたが、そのうちの1つ、Mab20−2Hは、抗FVIII抗体による重鎖への結合を阻害した。機能的アッセイ法では、Mab20−2Hを高濃度で加えたとしても、SP8.4 IgG画分の阻害活性を変更できなかった。Mab20−2Hは、検査した血友病インヒビター血漿の3.2%において抗体を検出したが、阻害活性を中和することはなかった。著者らは、Mab20−2Hが、FVIII分子の43kDa鎖(A2ドメイン)に対する抗FVIII非阻害抗体を認識したと結論した。
【0017】
別の抗イディオタイプ抗体(B6A2C1)が作成されて、本発明者らの研究室によって説明がなされた(Gilles JGら、(1999)Blood 94、要旨2048:460a)。この抗イディオタイプ抗体は、抗FVIII C1ドメインのインヒビターに対するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、(原発性または後天性の)血友病を患うヒト患者であって、FVIIIに対するインヒビターを発症した患者に使用するための医薬組成物を提供することであ
る。
【0019】
本発明のさらなる目的は、ヒトFVIIIインヒビターに対する中和抗体を作製するための細胞株、および中和抗体を提供することである。
【0020】
本発明の第一の局面において、ヒト第VIII因子のC2ドメインに対する阻害抗体であるヒト第VIII因子阻害抗体に対するモノクローナル抗イディオタイプ抗体が提供される。本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体によってもたらされるFVIII凝血促進活性の阻害を、少なくとも50%、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上中和することができるという特徴をもつ。
【0021】
本発明のさらなる局面において、抗イディオタイプ抗体は、VH1ファミリーに由来するVH生殖細胞セグメントDP−5によって重鎖をコードされているFVIII阻害抗体に対するものである。本発明のさらに別の局面において、第VIII因子阻害抗体はAb
BO2C11である。
【0022】
また、本発明は、ヒト化抗イディオタイプ抗体に関する。
【0023】
また、本発明は、例えば細胞株14C12から得ることのできるモノクローナル抗イディオタイプ抗体にも関係する。細胞株14C12は、2002年7月30日に、LMBP(プラスミドコレクション、Laboratorium voor Moleculaire Biologie,Universiteit,K.L.Ledeganckstraat 35,9000 Gent,Belgium)のベルギー微生物協調収集機関(Belgian Coordinated Collections of Micro−organisms:BCCM)に、寄託番号LMBP 5878CBとして寄託された。
【0024】
さらに、本発明は、抗イディオタイプ抗体の可変部重鎖が、配列番号:1に示した塩基配列、または配列番号:1に対し70%以上の配列同一性、好ましくは80%以上の配列同一性、より好ましくは90%以上の配列同一性、さらに好ましくは95〜99%以上の配列同一性を有する塩基配列によってコードされているか、および/または、該抗イディオタイプ抗体の可変部軽鎖が、配列番号:3に示した塩基配列、または配列番号:3に対し70%以上の配列同一性、好ましくは80%以上の配列同一性、より好ましくは90%以上の配列同一性、さらに好ましくは95〜99%以上の配列同一性を有する塩基配列によってコードされている抗イディオタイプ抗体に関係する。特に、これらの塩基配列には、遺伝子暗号の重複によって判定すると、配列番号:1および配列番号:3において特定されているトリヌクレオチドと同じ意味を持つトリヌクレオチドを使用していて、それによって、好ましくは、FVIII阻害抗体を中和する能力を保持している塩基配列も含まれる。
【0025】
さらに、本発明は、配列番号:2に示す可変部重鎖タンパク質配列、または配列番号:2と70%以上の配列同一性、より好ましくは80%以上の配列同一性、さらにより好ましくは90%以上の配列同一性、さらに一層好ましくは99%以上の配列同一性、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するタンパク質配列、および/または、配列番号:4に示す可変部軽鎖タンパク質配列、または配列番号:4と70%以上の配列同一性、より好ましくは80%以上の配列同一性、さらにより好ましくは90%以上の配列同一性、さらに一層好ましくは99%以上の配列同一性、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するタンパク質配列を有し、それによって、好ましくは、FVIII阻害抗体を中和する能力を保持している抗イディオタイプ抗体に関係する。
【0026】
また、本発明は、抗イディオタイプ抗体の可変部重鎖および/または軽鎖の相補性決定領域(CDR)が、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10に示した対応アミノ酸配列に対して70%以上の配列同一性、より好ましくは80%以上の配列同一性、さらに好ましくは90%以上の配列同一性、そして最も好ましくは95〜99%以上の配列同一性を有するか、または、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10に示した対応アミノ酸配列に一致しており、それによって、好ましくは、FVIII阻害抗体を中和する能力を保持している抗イディオタイプ抗体に関係する。
【0027】
また、本発明は、本発明に係る抗イディオタイプ抗体を改変したものに関係し、また、F(Ab’)2断片、Fab’断片、Fab断片、およびFVIIIのC2ドメインに対する抗体に対する抗イディオタイプ抗体のCDR領域を1個以上含む他の断片にも関係する。本発明は、上記断片の改変したものにも関係する。
【0028】
本発明の別の局面は、配列番号:1、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10から選ばれた配列を有するか、または、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10から選ばれたアミノ酸配列をもつペプチドに70%以上配列が一致している単離精製ペプチドである。この単離精製ペプチドは、選択的には、合成によって合成されたペプチドであり、また、精製度を測定する常法にしたがって測定すると、少なくとも96%、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上という精製度を有する。
【0029】
本発明のさらに別の局面は、寄託番号LMBP 5878CBをもつ寄託されたモノクローナル細胞株14C12など、抗イディオタイプ抗体を発現するモノクローナル細胞株である。
【0030】
本発明の別の局面は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体ならびに断片、該抗イディオタイプ抗体のペプチド、および、上記で詳しく開示したような改変抗体を含む医薬組成物である。
【0031】
本発明の別の局面は、抗イディオタイプ抗体または断片、該抗イディオタイプ抗体のペプチド、およびそれらの改変抗体を薬剤として使用することである。
【0032】
本発明の別の局面は、出血、より具体的には、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する血友病患者の出血を予防または治療するための薬剤を製造するために、抗イディオタイプ抗体または断片、該抗イディオタイプ抗体のペプチド、およびそれらの改変抗体を使用することである。
【0033】
本発明の別の局面は、阻害抗体の産生を阻害するための薬剤を製造するために、抗イディオタイプ抗体または断片、該抗イディオタイプ抗体のペプチド、およびそれらの改変抗体を使用することである。本発明のこの局面の実施形態の1つによれば、FVIIIインヒビターに対する抗イディオタイプ抗体は、抗C2阻害抗体をもつB細胞のアポトーシスを誘導するために使用される。そのため、本発明に係る抗イディオタイプ抗体およびそれらの断片は、FVIIIのC2ドメインに対するインヒビターのエフェクター機能(可溶性抗体の作用を中和する)、およびそのような抗体の産生(B02C11と同一または類似のイディオトープをもつ細胞との相互作用)の両方を抑制することができる。
【0034】
また、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する患者、選択的には血友病患者の出血を予防または治療する方法であって、抗イディオタイプ抗体、その断
片、ペプチド、または改変抗体を患者に投与する工程を含む方法に関係する。
【0035】
この方法は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体または断片、該抗イディオタイプ抗体のペプチド、およびその改変抗体を有する血友病患者において、抗C2阻害抗体をもつB細胞のアポトーシスを誘導する方法に関係する。
【0036】
本発明の別の局面は、体液においてFVIII抗体を検出するために、FVIIIインヒビターに対する抗イディオタイプ抗体を使用することに関係する。
【0037】
ここで、本発明を、以下の図面を参照しながら、より詳細に説明する。
【0038】
説明全体を通して、配列表に示されている以下の配列が参照される。
【0039】
配列番号:1:Ab 14C2の重鎖可変部領域の塩基配列
配列番号:2:Ab 14C2の重鎖可変部領域のアミノ酸配列
配列番号:3:Ab 14C2の軽鎖可変部領域の塩基配列
配列番号:4:Ab 14C2の軽鎖可変部領域のアミノ酸配列
配列番号:5:Ab 14C2の重鎖可変部領域のCDR1(H1)のアミノ酸配列
配列番号:6:Ab 14C2の重鎖可変部領域のCDR2(H2)のアミノ酸配列
配列番号:7:Ab 14C2の重鎖可変部領域のCDR3(H3)のアミノ酸配列
配列番号:8:Ab 14C2の軽鎖可変部領域のCDR1(L1)のアミノ酸配列
配列番号:9:Ab 14C2の軽鎖可変部領域のCDR2(L2)のアミノ酸配列
配列番号:10:Ab 14C2の重鎖可変部領域のCDR3(H3)のアミノ酸配列(定義)
FVIIIと略記される第VIII因子は、タンパク質分解によるプロセシングを受ける、分子量330kDで2332個のアミノ酸をもつグリコシル化血液凝固因子を意味する。
【0040】
FVIIIの軽鎖は、タンパク質分解処理されたFVIIIの、A3、C1およびC2のドメインを含む部分を意味する。
【0041】
C2ドメインは、FVIIIの2173から2332までの残基にわたる領域を意味する。
【0042】
リン脂質(PL)結合部位は、C2ドメインの中にあって、アミノ酸番号2032と2332の間にある領域を意味する。
【0043】
イディオトープは、単一の抗原決定基を意味する。
【0044】
イディオタイプは、免疫グロブリン分子に抗原個別性を付与し、個体内における任意の抗体の特徴となっている、可変部領域内にあるイディオトープの集合を意味する。
【0045】
イディオタイプは、それが、抗原エピトープを立体構造的に模倣する場合には、エピトープの内部イメージに対応すると言われている。
【0046】
ここで、「抗体」(「Ab」)という用語は、無処理のままのモノクローナルまたはポリクローナルの抗体分子、およびその断片であって、以下を含むものを意味する。
【0047】
a)重鎖および軽鎖の両方(Fab、F(ab)2、F(ab’)2)、または一本鎖の重鎖または軽鎖(例えば、軽鎖ダイマー)、選択的には、それらの定常部(またはその
一部)、または、選択的に、この定常部領域の軽微な改変(アロタイプ変異体など);
b)それらの一部、特に、その特異性決定部分、すなわち、抗体の可変部領域;
c)さらにそれらの一部、特に、少なくとも1個のCDRを含む何連かのアミノ酸からなるペプチドなどであって、選択的には、例えば、1つまたは両方のCDRにある約10個までのアミノ酸配列からなる隣接枠組み領域配列をもつ超可変部。
【0048】
本発明では、選択的には、抗体はIgG抗体、特にIgG1である。F(ab’)2は、ペプシン切断後に得られる抗体断片を意味し、両方の軽鎖、およびヒンジ領域を経由してジスルフィド結合した重鎖の一部からできている。Fab断片は、無処理のままの抗体から、またはF(ab’)2から、ヒンジ領域のパパイン分解によって得られ、1個の軽鎖、および重鎖の一部を含む。抗体の断片は、当技術分野において説明されている合成または組換えによって得ることもできる。
【0049】
ここで、「阻害抗体」または「FVIIIインヒビター」(Ab1)とは、FVIIIの活性を阻害する抗体を意味する。本発明の特定の態様によれば、阻害抗体は、FVIIIのC2ドメインに対する抗体である。阻害抗体は、内因性FVIIIに対する同種異系抗体、または自己抗体のいずれでもよい。阻害抗体は、ヒトまたは動物由来のものでもよい。選択的には、阻害抗体は、ヒト第VIII因子に対するヒト阻害抗体である。
【0050】
本発明における抗イディオタイプ抗体は、ポリクローナルでもよいが、好ましくは、モノクローナルである、阻害抗体(Ab1)の可変部分に対する第二世代抗体(Ab2)を意味する。本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、好ましくは、阻害抗体を中和することができ、選択的にはAb1を産生することができる。本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、好ましくは、モノクローナルであって、選択的には組換え体である。
【0051】
「阻害抗体を中和することができる」とは、FVIIIインヒビター(Ab1)の阻害活性を遮断する、本発明に係る抗イディオタイプ抗体の性質を意味する。これは、Jacquemin MGら、(1998)Blood 92:496−506に記載されているような第VIII因子発色テストなどのアッセイにおいて、インヒビターおよび抗イディオタイプ抗体存在下でFVIII活性を測定することによって判定することができる。本発明における相補性決定領域(CDR)は、抗原上のエピトープと相互作用する抗体の可変部領域内にある超可変アミノ酸配列を意味する。本発明の1つの実施形態において、CDR領域は、抗C2ドメイン阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体の可変部軽鎖(VL)および重鎖(VH)それぞれの(それぞれL1、L2、L3、およびH1、H2、H3)のCDR1、CDR2およびCDR3の領域である。具体的な実施形態は、抗イディオタイプ抗体14C12にある対応領域に関係する。
【0052】
ここで、「ヒト化抗体」とは、ヒト抗体により近似させるために非抗原結合領域においてアミノ酸が置換されているヒト以外の抗体分子を意味する。
【0053】
ここで、「再形成ヒト抗体(reshaped human antibody)」または「ヒトハイブリッド抗体」とは、抗原結合領域のアミノ酸が、本発明による配列、例えば、CDRの配列、またはヒト抗体のレパートリーに由来する可変部領域の他の部分などによって置換されているヒト抗体を意味する。
【0054】
配列比較。配列同一性または配列類似性に関して、タンパク質配列または塩基配列の比較が指定される。本発明によれば、比較は、2つのVH領域または2つのVL領域のアミノ酸配列間で行われるか、または、比較は、CDR領域をコードする2つの塩基配列の間で行われ、2つの配列の間における配列の一致または類似の程度は、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好まし
くは99%以上の2つの配列間の配列同一性または類似性である。
【0055】
同一性塩基配列またはアミノ酸配列とは、2つの配列を並べたときに、配列が同一であるパーセント、すなわち、同一であるヌクレオチドまたはアミノ酸がある位置の数を塩基配列またはアミノ酸配列の数(配列の長さが異なるときには短い方)で割った割合が、70%よりも高く、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95〜99%以上、より具体的には100%であることを意味する。2つの配列のアラインメントを、WilburとLipmann(1983、Proc Natl Acad Sci USA 80:726)によって記述されたアルゴリズムによって、20ヌクレオチドのウインドウサイズ、4ヌクレオチドの語長(Word length)、および4というギャップペナルティー(gap penalty)を用いて行った。
【0056】
2つのアミノ酸配列は、以下のグループの1つに属していれば、「類似」しているとみなされる;GASTCP、VILM、YWF、DEQN、KHR。したがって、類似している配列とは、2つのタンパク質配列を並べたとき、配列が類似するパーセント、すなわち、一致または類似するヌクレオチドまたはアミノ酸がある位置の数を塩基配列またはアミノ酸配列の数(配列の長さが異なるときには短い方)で割った割合が、70%よりも高く、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95〜99%以上、より具体的には100%であることを意味する。
【0057】
塩基配列が、類似性または同一性を有するアミノ酸配列をコードしていれば、それらの配列は「類似」しているとみなされる(すなわち、同一のタンパク質をコードする2つの塩基配列の間では、変異は、遺伝子暗号の縮退の限度内にある)。「改変された」とは、1個またはいくつかのアミノ酸が別のアミノ酸残基に置換されているか欠失しているタンパク質(またはポリペプチド)分子を意味する。このようなアミノ酸置換または欠失は、タンパク質分子のどこに位置していてもよい。また、アミノ酸残基が一箇所以上の位置で置換および/または欠失しているタンパク質分子も意味する。後者の場合、置換と欠失のあらゆる組合せを考えうる。それは、多型(すなわち、1つの遺伝子の2個以上のアリルの異種交配集団において、稀な方のアリルの頻度が、反復突然変異のみで説明できるよりも高い、典型的には1%よりも高いときに通常同時に出現するもの)も意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
一定の実施形態および一定の図面を参照しながら本発明を説明するが、本発明は、それらに限定されることはなく、請求の範囲のみによって限定される。
【0059】
本発明は、ヒト第VIII阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体に関係する。FVIIIに対する阻害抗体は、血友病患者において最も一般的に発生し、インヒビターの発症率は15〜20%である。特に、若年患者、またはFVIIIタンパク質の合成および/または分泌がなくなる結果をもたらす遺伝的欠陥をもつ患者(先天性血友病)のように、FVIIIの濃縮液に激しく曝露されている血友病患者は、FVIIIインヒビターを発症する高度のリスクに曝されている。しかし、阻害抗体は、自己免疫疾患、悪性腫瘍(リンパ増殖性疾患、リンパ腫、および固形癌など)、薬物反応(例えば、ペニシリン、クロラムフェニコール、フェニトイン)、妊娠期間中、および分娩後の状態にある患者においても生じる。例外的に、阻害抗体の存在が特発性のときもありうる(例えば、高齢の患者)。しかし、通常は、阻害抗体の存在は、あざができやすいことや、抑制できない出血などという症状を伴う。これは、通常、獲得性血友病と言われる。このように、本発明は、阻害抗体の存在を伴う、またはそれによって特徴付けられる、あらゆる症状の治療または予防に関係する。患者に阻害抗体が存在することは、抗FVIII活性の定量法、FVIIIインヒビターに対するELISA法、およびクロマトグラフィーおよび免疫吸着を用いた精製法など、さまざまな方法によって判定することができる(これらの方法の各文は
上述したAlgimanら、(1992)に記載されている)。
【0060】
本発明は、FVIIIインヒビターの阻害作用を中和することができる抗イディオタイプ抗体に関係する。阻害抗体によるFVIIIの阻害は、例えば、FVIIIのタンパク質分解切断部位への結合、または、タンパク質分解されにくくなるようなFVIIIの3次元立体構造の変化を誘導することのいずれかによってFVIIIが活性化される速度を低下させることによって生じさせることができる。抗体が、FVIIIのFIXおよびFXへの結合を阻害すれば、阻害が起こることもある。同時に、または選択的に、阻害抗体は、vWFおよび/またはPLがFVIIIに結合するのを阻害することができる。
【0061】
本発明の特定の態様は、FVIIIのC2ドメインに対するヒト第VIII因子阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体に関係する。特に、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体のFVIII凝血促進活性の阻害を少なくとも50%中和することができる抗イディオタイプ抗体に関係する。凝血促進活性の阻害は、本明細書に記載されているような第VIII因子発色テストによって測定することができる。本発明の特定の局面によれば、抗イディオタイプ抗体は、モノクローナル抗体B02C11(インヒビターを発症した患者の天然のレパートリーに由来するIgG4κ抗体、Jacquemin MGら、(1998)Blood 92:496−506)、または同様のC2結合特性を有する他の抗体などの阻害抗体に対するものである。より具体的には、抗イディオタイプ抗体は、VH1遺伝子ファミリーに由来するDP5 VH遺伝子のセグメントによってVHドメインがコードされているFVIIIインヒビターに対するものである。このような阻害抗体およびその他の阻害抗体は、FVIII、またはその断片で、より具体的には、C2ドメインのすべてまたは一部を含む断片で免疫することによって、ヒトから(すなわち、阻害抗体を有する患者の血清から)得ることができ、または、マウス、モルモット、ウマ、ヤギ、ヒト以外の霊長類、および他の哺乳動物から得ることもできる。
【0062】
特定の態様によれば、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対するヒト第VIII因子阻害抗体による凝血活性阻害を50%以上中和することができるが、FVIIIの生理学的活性を阻害しない、より具体的には、FVIIIによるvWFまたはPLへの結合を阻害しない、FVIIIのC2ドメインに対するヒト第VIII因子阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体に関係する。FVIIIのvWFおよび/またはPLへの結合能力に対する抗イディオタイプ抗体の影響を確認する方法が本明細書に記載されている。これらの方法を、FVIIIによるvWFまたはPLへの結合と相互作用しない抗イディオタイプ抗体を選択するために、本発明に従って用いることができる。
【0063】
FVIIIによるvWFまたはPLへの結合を阻害しない抗イディオタイプ抗体の開発を促進する方法としては、これらに限定されないが、a)抗イディオタイプ抗体の開発において、それ自体は改変FVIIIに対して作製されている阻害抗体であって、PL結合ドメイン(Prattら、上記)も、vWFの結合にとって重要な領域も含まない阻害抗体を免疫原として使用すること(Jacqueminら、2003、J Thromb Haemost 1:456−463);b)PL結合部位、またはFVIIIがvWFに結合するのに重要な領域を認識するイディオトープが除去されている阻害抗体を免疫原として使用すること;c)得られた抗イディオタイプ抗体の抗原結合部位とFVIIIのC2ドメインとの間の類似性を解析すること、およびi)抗イディオタイプ抗体のイディオトープとFVIIIの間の対応関係に、PL結合部位も、FVIIIがvWFに結合するのに重要な領域も含まれないという事実関係をもとに抗イディオタイプ抗体を選択すること、または、ii)抗イディオタイプ抗体のイディオタイプの中にある、C2のPL結合部位、または、vWFがFVIIIに結合する領域に対応する領域を除去することなどが挙げられる。当然ながら、これらの選択手順のそれぞれの後に、選択または改変された抗イディオタイプ抗体が、阻害抗体を中和する能力を保持しているよう注意を払う必要が
ある。
【0064】
本発明では、モノクローナル抗イディオタイプ抗体は、ヒト由来でも動物由来でもよい。したがって、さまざまな方法でモノクローナル抗イディオタイプ抗体を取得することができる。抗FVIII抗体を有する患者(例えば、血友病患者)または健常な個体の末梢血から、抗イディオタイプ抗体を産生する細胞を取得することができる。常法を用いてこれらを不死化することができ、また、阻害抗体を中和する抗イディオタイプ抗体の能力にもとづいてこれらを選択すること、および、選択的には、FVIIIがPLおよびvWFに結合する相互作用の欠如に基づいてこれらを選択することができる。選択的には、上記したように、関連するイディオタイプを確認、およびそれに基づいて選択するために、これらの細胞株のそれぞれが産生するモノクローナル抗体の配列を決定することもできる。
【0065】
または、ヒトFVIII阻害抗体(FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体BO2C11など)をマウスに注射し、その脾臓リンパ球をマウスミエローマ細胞株と融合させ、その後、第VIII因子阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体を産生する培養細胞を同定およびクロニーングすることによってマウスなどの動物を免疫して、意図的に本発明に係るモノクローナル抗イディオタイプ抗体を作製することができる。
【0066】
このように、本発明は、さらに、上記したとおりに作製された、FVIIIインヒビターに対して反応するモノクローナル抗体を産生する細胞を提供する。これらの細胞株は、ヒト由来の不死化細胞とすることができ、選択的には、治療すべき患者に由来させることもできる。または、不死化細胞は動物(特にげっ歯類)由来でもよい。本発明の特定の実施形態は、抗イディオタイプ抗体14C12寄託番号LMBP 5878CBの寄託されたモノクローナル細胞株14C12によって提供される。
【0067】
選択的には、動物において産生されるモノクローナル抗体は、例えば、非ヒト由来モノクローナル抗体の結合相補性決定領域(CDR)を、ヒト枠組み領域、特に、Joneら、Nature(1986)321:522、またはRiechmann、Nature(1988)332:323で開示されているようなヒト遺伝子の定常C領域と結合させることによってヒト化することができる。
【0068】
または、抗FVIII抗体(それ自体は、(Algiman 1994、上記、およびGilles 1994、上記によって実証されたように)不溶化FVIIIに対する免疫吸着によって同定することができる)に対してアフィニティー精製を行うことによって、ヒトまたは動物から得ることができる。選択的には、抗C2(阻害)抗体の選択を促進するために、C2ドメインをアフィニティー精製に用いることができる。
【0069】
本発明の特定の実施形態は、抗イディオタイプモノクローナル抗体14C12、およびそれに由来する抗体断片などの抗体によって提供される。特定の実施形態によれば、本発明は、配列番号:5、6、または7に識別されているVHのCDR領域の少なくとも1個、または後述するように14C12抗体を改変したものを含む抗イディオタイプ抗体に関係する。
【0070】
また、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体に対する上記抗イディオタイプ抗体のいずれかの断片であって、Fab、Fab’、F(ab’)2、CDR、単一可変ドメイン、およびこれらを改変したもの、ならびにこれら断片を組み合わせたものならびに改変したものを含む断片も提供する。
【0071】
より具体的には、本発明は、本発明に係る抗イディオタイプ抗体の断片および改変抗体を提供し、特に、上記のようにして得られる、モノクローナル抗イディオタイプ抗体の相
補性決定領域(「CDR」)を含む断片、ならびに、それらを改変したものを提供する。例えば、本発明は、Stanworthら、実験免疫学ハンドブック(Handbook
of Experimental Immunology)(1978)、第1巻、第8章(ブラックウエル・サイエンティフィック・パブリケーションズ(Blackwell Scientific Publications)に記載されているような、当技術分野において周知されている方法を用いて該モノクローナル抗体をタンパク質分解して生成される抗原結合断片Fab、Fab’およびF(ab’)2を提供する。このような断片または人口的配列であって、この抗体結合部位を含むものは、補体活性化またはFcγレセプターへの結合能力のような親抗体の性質をいくつか失くしているかもしれないし、いないかもしれないが、FVIIIに対する阻害抗体を阻害する能力を失っていることはない。また、本発明は、一本鎖可変部断片(single chain fragment variables:scFv)、抗体の単一の可変部ドメイン断片、およびこれらの断片ならびに上記断片を組み合わせたものも含む。各CDR配列が、抗体の一方のアームで、他方のアームと異なっている抗体も本発明の範囲内に含まれる。
【0072】
さらに、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対するFVIII阻害抗体に対する再形成されたモノクローナル抗体またはヒトハイブリッドモノクローナル抗体を提供する。ヒトハイブリッドモノクローナル抗体とは、ヒト抗体、および本発明に係る可変部領域から構築されたハイブリッド抗体を意味する。また、本発明は、上記モノクローナル抗体の可溶性または膜に固定された一本鎖可変部部分を提供する。これらは、当技術分野において説明されている方法に基づいて取得することができ、その方法の一例が本明細書に記載されている。ヒト重鎖および軽鎖の可変部のDNA配列は、別々の反応で増幅され、クロニーングされる。15個のアミノ酸リンカーの配列、例えば(Gly4Ser)3を、例えば、DieffenbachとDveksler、「PCRプライマー、実験マニュアル(PCR Primer, a laboratory manual)」、(1995)、コールドスプリングハーバー・プレス(Cold Spring Harbour
Press)、米国ニューヨーク州プレインビュー(Plainview,NY,USA)に従って、2段階ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってVHとVLの間に挿入する。そして、可溶性またはファージ提示されたポリペプチドとして一本鎖可変部断片(scFv)を発現させるために、得られた断片を適当なベクターに挿入する。これは、Gillilandら、1996、Tissue Antigens 47:1−20によって記載されているような、当業者に周知の方法によって行うことができる。また、本発明は、アプライド・バイオシステムの合成装置、例えば、ミリジェン社(Milligen)(米国)から入手可能なモデル9050、または関連技術からのモデルなどのポリペプチド合成装置を用いて、合成によって得ることができる、モノクローナル抗体の超可変部領域に典型的なペプチドを含むリガンドであって、単独で、または、別個のもしくは類似した超可変部領域と組み合わされて、親抗体の性質と同じ性質を発揮することができるものも含む。DNA組換え技術によって、断片およびペプチドを生成させることができる。BOC(3級ブチルオキシカルボニル)またはFMOC(9−フルオレニルメトキシカルボニル)合成などのペプチド合成法、および当技術分野において公知の他の技術によって、約100アミノ酸配列までの長さをもつペプチドを作製することができる。選択的には、ペプチドの安定性および寿命を高めるために、アミノ基およびカルボキシル基を変化させることができる(例えばホルミル化、アセチル化など)。または、ペプチドを担体に共有結合または非共有結合させることができる。
【0073】
本発明によれば、FVIIIインヒビターに苦しむ患者を治療するための抗イディオタイプ抗体を、以下の手順によって選択的に得ることができる。
【0074】
a)FVIIIインヒビターに苦しむ患者からのFVIIIに対するヒト抗体を単離すること、
b)(a)で得られた抗体から、そのC2に対する結合に基づいて、FVIII凝血促進活性を阻害する抗体を選択すること、
c)(b)で選択した抗体、または、その抗原認識部分(好ましくは、少なくともVLおよび/またはVL)によって動物を免疫すること、
d)選択的には、(c)の動物が産生する抗体をクロニーングすること、
e)抗イディオタイプ抗体を、1)そのFVIIIインヒビターの阻害活性を中和する能力、2)FVIIIによるvWFまたはPLへの結合を阻害しないという事実に基づいて選択すること、
f)選択的には、(e)で選択された抗イディオタイプ抗体のヒト化抗体または抗体断片をえること。
【0075】
さらに、本発明は、ヒトにおけるFVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する血友病患者における出血を予防または治療するための医薬組成物であって、モノクローナル抗イディオタイプ抗体、および上記に開示されているような断片ならびに改変抗体を活性成分として、医薬的に許容される担体と混合して含む医薬組成物を提供する。より好ましくは、該モノクローナル抗体は、ベルギー微生物協調収集機関(Belgian Coordinated Collections of Micro−organisms:BCCM)に、寄託番号LMBP 5878CBとして寄託された細胞株14C12から得られるモノクローナル抗体、もしくは断片、改変抗体、またはそれに高い配列類似性を有する配列である。該モノクローナル抗体と比較される配列は、好ましくは70%以上同一、より好ましくは80%以上同一、さらに一層好ましくは90%以上同一、また、最も好ましくは95〜99%以上同一で、配列の同一性は、好ましくは、特に抗体の相補性決定領域に関するものである。また、本発明に係るリガンドは、同等の能力をもつ合成ペプチドも含む。本発明に係る医薬組成物は、上記成分を、治療法または予防法に関して後に示すように、治療上有効な量含まなければならない。
【0076】
本発明に係る医薬組成物において用いられる適当な医薬担体については、例えば、レミントンの薬化学(Remington’s Pharmaceutical Science)、第16版(1980)に記載されており、それらの処方は当業者に周知されている。それらには、あらゆる溶媒、分散媒体、被覆剤、抗細菌剤ならびに抗菌剤(例えばフェノール、ソルビン酸、クロロブタノール)、等張剤(糖類または塩化ナトリウムなど)などが含まれる。組成物中のモノクローナル抗体活性成分の作用持続時間を調節するために補助成分を含ませることもできる。
【0077】
このようにして、例えば、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、エチレン酢酸ビニル共重合体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、硫酸プロタミンなど、適当なポリマーを選択することによって、放出制御組成物を完成させることができる。また、薬物の放出速度と作用持続時間は、モノクローナル抗体活性成分を、例えば、ヒドロゲル、ポリ乳酸、ヒドロキシメチルセルロース、ポリメチルメタクリル酸、およびその他上記ポリマーなどのマイクロカプセルのような粒子の中に入れることによって調節することもできる。このような方法には、リポソーム、マイクロスフィア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、ナノカプセルなどのコロイド薬物輸送系(colloid drug delivery system)も含まれる。投与経路によって、活性成分を含む医薬組成物は保護用被覆剤を必要とする。注射用に適した薬物の形態には、滅菌水溶液もしくは分散液、およびそれを即時調製するための滅菌粉剤などがある。したがって、典型的な担体には、生体適合性水性緩衝液、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、およびそれらの混合液などが含まれる。
【0078】
また、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対するFVIII阻害抗体に対するモノクローナル抗イディオタイプ抗体の薬剤としての使用を提供する。より好ましくは、本発
明において使用される薬剤は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する血友病患者における出血を低下、および/または予防、および/または治療するための手段である。前記リガンドは、例えば、静脈内、動脈内、非経口、またはカテーテル化など、当技術分野において周知の方法で提供することができる。
【0079】
したがって、本発明は、哺乳動物、好ましくはヒトにおけるFVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する患者、より具体的には、血友病患者における出血を予防、および/または治療、および/または抑制するための治療法および/または予防法であって、どのような治療もしくは予防、または血液凝固の低下を必要とする哺乳動物に、本明細書において上記開示したようなリガンドを治療上有効量投与することを含む方法を提供する。好ましくは、上記リガンドは、細胞株14C12から得られるモノクローナル抗体、または抗原結合断片Fab、Fab’もしくはF(ab’)2、または相補性決定領域(CDR)を含む1個以上のペプチド、可溶性もしくは膜固定された一本鎖可変部断片(scFV)、一本鎖可変部ドメイン、またはこれらの要素を改変したものもしくは組み合わせたものである。選択的には、上記治療法は、FVIIIを患者に投与することと併用される。
【0080】
ここで、治療上有効な量とは、治療すべき動物の体重1キログラム当たり約1マイクログラムから約10ミリグラム、より好ましくは、体重1キログラム当たり約10マイクログラムから約1ミリグラム、さらに一層好ましくは、体重1キログラム当たり約1〜約10ミリグラムである。ほとんどのIgG抗体の半減期が長いことを考慮すると、当然ながら、このクラスのモノクローナル抗体である本発明に係るリガンドは、治療周期を好適なものとし、患者の安楽に役立つといえる。
【0081】
インヒビターを有する血友病A患者は、しばしば、FVIIIのC2ドメインに対する抗体を産生する。したがって、細胞株14C12によって産生される抗体などの本発明に係るリガンドは、例えば、外科的処置前などの緊急事態においても、また、Ab 14C12が、対応する抗C2抗体をもつB細胞のアポトーシスを誘導することができる、より長期的な治療においても、そのような患者の治療に有効である。
【0082】
細胞株14C12の抗イディオタイプ抗体であるAB 14C12などの本発明に係るリガンドは、機能的凝血アッセイ法において、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体のFVIII阻害特性を、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、また最も好ましくは90%以上中和する能力を有する。
【0083】
本明細書を読んだ当業者には、AB 14C12の配列に関する知識、およびC2ドメインと組み合わせたときのBO2C11 Fab断片の結晶構造に関する知識とから、Ab 14C12の変異体がいくつか考えられることが理解できよう。したがって、点突然変異をAb 14C12のVH領域の中に導入して、C2の内部イメージを補強することができ、それによって、BO2C11などのC2結合に対するAb 14C12の阻害能力を補強することができる。または、C2の内部イメージを維持の有無にかかわらず、BO2C11とAb 14C12の間で接触する残基の数を増やすように配列を改変することができる。この方法の特定の局面は、BO2C11の枠組み領域に含まれるアミノ酸を認識する接触残基を含む14C12変異抗体を得ることである。後者は、同じようなC2結合性を有する他の抗体同様、DP5重鎖サブファミリー遺伝子セグメントに属する(Jacquemin MGら、(1998)Blood 92: 496−506)。ヒトのレパートリーにおいてDP5ファミリーの仲間が出現する頻度は非常に低いため、Ab
14C12を使用して、DP5サブファミリー全部を中和することができ、それによって、VHドメインがVh1遺伝子ファミリーに由来するDP5 VH遺伝子セグメントによってコードされている阻害抗体のすべてを中和することができる(Jacquemin
ら、(1998)前掲;Van den Brinkら、(2000)Blood 99:2828−2834)。
【0084】
当業者の通常の知識によって、抗体14C12からさまざまな合成ペプチドを調製することができる。それらのうちの1個以上を、単独または組み合わせて、インビボでBO2C11様抗体を中和するために用いることができる。好適な実施形態において、これらのペプチドは、Ab 14C12の重鎖の相補性決定領域(CDR)に由来し、アミノ酸配列GYTFTSSVMHWL[SEQ ID NO:5]、GYINPYNDGTKYNEKFTA[SEQ ID NO:6]、およびSGGLLRGYWYFDV[SEQ ID NO:7]を有するペプチドで表される。別の好適な実施形態において、これらのペプチドは、Ab 14C12の軽鎖の相補性決定領域(CDR)に由来し、アミノ酸配列RASQDITNTLH[SEQ ID NO:8]、YVSQSIS[SEQ ID
NO:9]、およびQQSTSWPYT[SEQ ID NO:10]を有するペプチドで表される。したがって、1つの実施形態では、Ab 14C12の相補性決定領域(CDR)に由来する合成ペプチドを用いて、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する患者に手術前に注入する。これらのペプチドを阻害抗体と併用して、その阻害能力を中和する。さらに別の実施形態においては、さまざまなCDRの配列に、適当な三次元立体構造を維持するのに適したリンカーポリペプチド配列を組み合わせることによって組換えポリペプチドを作製する。このポリペプチドは、手術などの緊急処置の前に患者に投与される。
【0085】
Ab 14C12など、本発明に係る抗イディオタイプ抗体の別の応用は、免疫系によるFVIIIインヒビターの産生を不活性化させるためにそれらを用いることである。例えば、本発明に係る抗イディオタイプ抗体を用いて、抗C2抗体を有するB細胞のアポトーシスを誘導することができる。記憶細胞またはある種の抗体産生細胞などのB細胞は、分泌型と同じ表面抗体を発現する。B細胞の表面でイディオタイプが架橋されると、細胞の増殖またはアポトーシスの阻害をもたらすシグナルが伝達される。
【0086】
本発明に係る抗イディオタイプ抗体のさらなる応用は、FVIIIインヒビターの検出および/または精製におけるそれらの使用である。本発明に関連して利用することができる免疫学的検出法および精製法は、当技術分野において広範に記載されている。
【0087】
以下の実施例は、本発明を特定の実施形態に制限するものではなく、参照として本明細書に組み入れられる添付の図面と併せて理解可能になるものである。
(実施例)
【実施例1】
【0088】
:FVIIIインヒビターBO2C11に対するモノクローナル抗体の作製
第VIII因子特異的ヒトIg4κ BO2C11抗体を、マウスにおいて抗イディオタイプ抗体を作製するために使用した。BO2C11の特性は、Jacquemin MGら、(1998)Blood 92:496−506に記載されている。BO2C11の可変部軽鎖および重鎖の塩基配列およびアミノ酸配列は、PCT特許出願:WO01/04269に開示されている。
【0089】
Balb/cマウスを、初回はフロイント完全アジュバントで、次はフロイント不完全アジュバントで乳化したBO2C11で足蹠に免疫した。このような注射を4回行った後、同じアイソタイプのその他の抗FVIII抗体や無関係な抗体ではなく、BO2C11を認識する抗体の存在を調べるために、ELISAシステムでマウスの血清をテストした。特異的抗BO2C11抗体を産生するマウスから得られた脾臓細胞をミエローマ細胞株と融合して、B細胞クローンを作製した(Kohler Gら、(1978)Eur J
Immunol 8:82−88)。これらを培養によって展開し、BO2C11特異性についてテストした。1個のクローン14C12が、BO2C11でコートしたポリスチレン製のプレートに効果的に結合した。
【0090】
細胞株14C12を、2002年7月30日に、LMBP(プラスミドコレクション、Laboratorium voor Moleculaire Biologie,Universiteit,K.L.Ledeganckstraat 35,9000 Gent,Belgium)のベルギー微生物協調収集機関(Belgian Coordinated Collections of Micro−organisms:BCCM)に、寄託番号LMBP 5878CBとして寄託した。
【実施例2】
【0091】
:細胞株14C12から得られる抗イディオタイプ抗体のインビトロにおける性質
細胞株14C12から得られる抗イディオタイプ抗体(Ab 14C12)のインビトロにおける性質を、インビトロアッセイ系で調べた。Ab 14C12は、BO2C11に結合して、BO2C11がその標的抗原であるFVIIIのC2ドメインに結合するのを用量依存的に阻害することが示された。さらに、BO2C11のFVIII阻害特性を中和するAb 14C12の能力を機能的凝血アッセイ法においても測定した。発色(第VIII因子発色試験(デイドベーリング社(Dade Behring)、ドイツ、マールブルク(Marburug))は、トロンビンによって特異的に切断される無色の基質を変換することに基づく。このテスト系は、FVIII以外のトロンビンを産生するのに必要なすべての試薬を含んでいる。したがって、長時間にわたる発色の強度は、この系に加えられたFVIIIの量に比例する。BO2C11(0.1μg/ml)を加えると、基質のFVIII依存型変換(0.3 IU/ml)が完全に阻害される。この検査系でFVIII(0.3 IU/ml)を100%阻害できる最低のBO2C11濃度であると決定されている0.1μg/mlに最終濃度がなるよう、BO2C11を発色アッセイに加えた。FVIIIを加える前に、さまざまな濃度のAb 14C12を、この固定した量のBO2C11とインキュベートした。そして、この混合液を発色アッセイに適用した。
【0092】
図1は、Ab 14C12を検査系に加えると、用量依存的にBO2C11の阻害能力を中和することを示している。さらに、50%の中和が、BO2C11と1/1のモル比で得られる。
【0093】
Ab 14C12がポリクローナル抗FVIII抗体を中和する能力を、上記したような発色アッセイ法によってテストした。この目的のために、BO2C11が由来する患者のポリクローナル抗体を、BOC2C11の代わりにこの系に加えた。このような条件下で、Ab 14C12を段階希釈して加えると、最大60%までの中和が得られた。このようなポリクローナル抗体製剤は、FVIIIの重鎖、すなわち、C2ドメインとは完全に別のエピトープに対する抗体をかなりの量含んでいることが知られている。したがって、ポリクローナル抗体によって60%の中和が見られたことは、Ab 14C12が抗C2インヒビターを中和する能力を過小評価していることであるとの結論に達した。
【0094】
また、Ab 14C12は、無関係な患者からのポリクローナル抗体の阻害特性も有意に中和した。このように、ウサギ網状赤血球を用いた転写/翻訳を併用することによって(プロメガ社(Promega)のキット、TNT結合網状赤血球ライセート(TNT couplet reticulocyte lysate)、米国マジソン(Madison))放射性標識したFVIIIドメインを作製する免疫沈殿アッセイに、ポリクローナル抗体をさまざまな希釈率で加えた。産生された微量の放射性標識ドメインを、抗体サンプルおよびプロテインAセファロースと混ぜる。実質的にすべての抗体が捕捉される
濃度でセファロースビーズを加える。遠心分離および洗浄を行った後、テストされるFVIII断片に対する特異性もつ抗体の存在量に比例するサンプルの放射活性を計測する。このようにして、血縁関係にない6人の血友病A患者のポリクローナル抗体と、C2ドメインに対するインヒビターを、C2ドメインが翻訳されるアッセイに一定の濃度で加えた。そして、すべてのサンプルに濃度を上げながらAb 14C12を加えた。6サンプルのうち3つで、ポリクローナル抗体の阻害特性が有意に(およそ50%)中和され、Ab
14C12が、ヒト抗C2抗体上で広く発現されるエピトープを認識することが示された。
【実施例3】
【0095】
:Ab 14C12のインビボでの特性
Ab 14C12が、BO2C11のFVIII阻害特性をインビボで中和することができるかを、ヒト組換えFVIIIによって再構築されたFVIII−/− C57Bl/6マウス(Singh Iら、(2002)Blood 99:3235−3240)で調べた。
【0096】
このようなマウスは、FVIII活性または抗原を検出できず、それ以外には正常な表現型をもつため、血友病Aの動物モデルとして適当であると考えられている(Reipert BMら、Thromb Heamost 2000、84:826−32)。FVIII−/−C57Bl/6マウスの尾静脈に1 IUのヒトFVIIIを投与したところ、10分後、110ng/mlの血漿濃度、すなわち、ヒト血漿の正常なFVIII濃度(1 IUまたは192 ng/ml)の±60%となった。このようなマウスに、最初0.5μgのBO2C11を注射すると、FVIII凝血促進作用が98%阻害される。そして、このモデルを用いて、Ab 14C12が、FVIIIのBO2C11依存的阻害を中和することができるか否かを測定した。そのため、さまざまな濃度のAb 14C12を、一定量のBO2C11(0.5μg)と、この複合体をFVIII−/−C57Bl/6マウスに注射する前に混合するか、直接マウスに注射してから0.5μgのBO2C11と1 IUのFVIIIを注射した。
【0097】
0.5μgのBO2C11を事前に投与したところ、FVIIIの凝血促進作用を98%阻害した(図2A)。一定量のBO2C11を、さまざまな濃度のAb 14C12(0.1〜10μg)をプレインキュベートし、その混合液をFVIII−/−マウスに注入した。BO2C11によるFVIII阻害の用量依存的中和が見られた(図2B)。Ab 14C12の後BO2C11とFVIIIを連続投与して、この実験を反復したところ、用量依存的な14C12による中和が得られた(図2C)。
【0098】
図2A、図2B、および図2Cから、Ab 14C12が、BO2C11の阻害特性を用量依存的に中和することが分かり、それによって、FVIIIのC2ドメインに対するインヒビターを有する血友病A患者の治療としてAb 14C12に可能性があることが確認された。
【実施例4】
【0099】
:BO2C11に対するAb 14C12の結合の特徴
Ab 14C12の徹底的な生化学的評価を行った。Ab 14C12は、表面プラズモン共鳴システムを用いて測定すると、Kon値およびKoff値がそれぞれ105m-1S-1、10-5S-1という高いアフィニティーでBO2C11に結合する。常法によってAb 14C12のVHおよびVLドメインの配列を決定した(図3)ところ、Ab 14C12は、κ軽鎖をもち、IJHV1重鎖抗体ファミリーに属する。Ab 14C12が、FVIII C2ドメインへのBO2C11による結合を阻害できることから、発明者らは、Ab 14C12のVHおよびVLドメインの配列を、CD2の配列と比較してみようと
思い立った。VHのCDR1およびCDR2は、それぞれ、C2ドメインと同一または相同なアミノ酸残基を6個および7個含んでいる。CDR2は、C2領域のV2223〜T2237にほぼ同一であるが、この領域は、重要なリン脂質結合部位と、BO2C11に対する接触残基をいくつか含んでいる。さらに、BO2C11の可変部の配列(Jacquemin MGら、(1998)Blood 92:496−506)、およびC2と結合したその結晶構造(Spiegel P.C.Jr.ら、(2001)B1ood 98:13−19)に基づいて、BO2C11とAb 14C12の間の推定接触残基を同定したところ、その中には、BO2C11の可変部の枠組みの中に位置しているものがある。まとめて考えると、これらのデータは、Ab 14C12の重鎖の可変部は、13個の同一または相同なアミノ酸残基からなるC2内部イメージと、BO2C11の可変部に対する接触残基をいくつか含むことを示している。
【0100】
したがって、Ab 14C12は、FVIIIのC2ドメインに対する抗イディオタイプ抗体の最初の実例に相当し、それを投与すると、血友病AのマウスモデルにおいてインビボでのFVIII活性を回復する。そのようなものとして、FVIIIインヒビターを有する血友病A患者を効果的に治療する方法を開示している。
【0101】
抗FVIII C1ドメインインヒビターに対するイディオタイプ抗体で、B6A2C1と名づけられた抗体(Gilles JGら、(1999)Blood 94、要旨2048、460a)が、FVIIIへのBO2C11の結合を阻害できるか否かを判定するために、この抗体の段階希釈液を作成して、FVIIIでコートしたポリスチレン製プレートへのBO2C11の結合を阻害できるかをテストした。図4は、阻害が起こらなかったことを示しており、B6A2C1は、BO2C11に対する特異性を全く発現しなかったことを示している。
【実施例5】
【0102】
:Ab 14C12とFVIIIのC2ドメインにおける相同性解析
それぞれ実施例2および3に記載されたインビトロおよびインビボにおける抗イディオタイプ抗体(Ab 14C12)の性質(上記参照)は、抗イディオタイプ抗体の可変部とFVIIIのC2ドメインとの間に広範な相同性が存在することを示唆していた。C2ドメインの結晶構造が得られている(Prattら(1999)、Nature 402:439−442)。そのため、Ab 14C12の重鎖および軽鎖の可変部の配列を、C2ドメインの配列と並べてみた。
【0103】
VH領域について顕著な相同性が見られた。表1は、31個のアミノ酸が同一または相同であることが分かったことを示している。これには、CDR領域に関連する13残基も含まれているが、CDR1(H1〜16残基)およびCDR3(H3〜6残基)にクラスター分けされた。興味深いことに、枠組み領域(18アミノ酸)に位置する残基からの顕著な寄与が見られる。さらに、VH領域の2残基のみ(星印で示す)が、Ab 14C12の生殖細胞系列の配列から変異している。C2ドメインの結晶構造によれば(Prattkら(1999)、Nature 402:439−442)、Ab 14C12のVH領域同様、31残基のすべてがC2の表面に露出している。このアラインメントの顕著な特徴は、Ab 14C12のVH CDR3におけるLeu102およびLeu103に対応するLeu2251およびLeu2252(全表面で180A)からなる2個のC2リン脂質結合部位の1つの関与を示しているが、一方で、第二の部位(Met2199およびPhe2002)は示されていないことである。まとめると、これらの観察結果は、Ab 14C12のVH領域が、その生殖系列の立体配置では、C2ドメインに広範な相同性を有することを示している。図5は、C2ドメインをAb 14C12のVH領域と重ね合わせたものを図示している。
【0104】
表1に示されている情報のもう1つの重要な側面は、C2ドメインの表面にある残基を模倣するAb 14C12のVHのアミノ酸残基が、連続した配列の一部ではなく、どちらかといえば、VH全体(S7〜S121残基まで)に分散しているという点である。この発見は、FVIIIのC2ドメインに対するインヒビターが、配列上のエピトープではなく立体構造上のエピトープに結合することが示されたことと符合する(例えば、BO2C11の結晶構造とC2ドメインについては、Spiegel P.C.Jr.ら、(2001)B1ood 98:13−19参照)。
【実施例6】
【0105】
:Ab 14C12とBO2C11の相互作用領域の決定
ある抗原に対する抗体の特異性は、通常、1つか2つの相補性決定領域(CDR)、大抵の場合はVH領域に位置する残基によって決まる。結合は、最も好適な熱力学条件に対応して生じる(Manivelら、(2000)Immunity 13:611−620)。その後、抗原に曝露すると、抗体の反応は成熟すると言われており、VH領域およびVL領域にランダムに変異を導入することを含むプロセスになる。この後、抗原に対する結合活性に基づいて選択が起こる。したがって、完全に成熟した抗体の結合活性(この場合はFVIIIに対する、患者のB細胞の天然のレパートリーから検出または単離できる結合活性)は、VH領域およびVL領域全域にわたって存在する残基によってもたらされる協調力(cooperative forces)によって決まる。
【0106】
Ab 14C12とBO2C11の間の相互作用が、VH領域の中にある少数の不連続領域に位置する残基によって決まるのか、それとも、VHおよびVLの領域全域にわたって分散している残基によって決まるのかを判定するために、BO2C11のVH領域およびVL領域と、Ab 14C12のVH領域およびVL領域配列との間でアラインメントを行った。表2に示された結果は、相互作用への顕著な寄与は、両抗体のVH領域およびVL領域に分散している残基によってもたらされることを示している。このデータによって、FVIIIインヒビターを有する患者に投与するための抗イディオタイプ抗体を得る好適な方法は、完全な抗FVIII抗体を使用することであることが確認された。
【実施例7】
【0107】
:Ab 14C12のFab断片によるBO2C11の阻害活性の中和
当業者に周知の方法に従い、パパインアガロースビーズ(ピアス社(Pierce)、イリノイ州ロックフォード(Rockford,IL)を用いた分解によってAb 14C12のFab断片を調製し、プロテインAセファロースカラムを通過させて精製した。
【0108】
インヒビターBO2C11の存在下で、Ab 14C12のFab断片がFVIIIの機能を回復できるかを評価するために、我々は、まず、実施例2(上記参照)に記載されているように、機能的発色アッセイ法(第VIII因子発色試験、デイドベーリング社(Dade Behring)、ドイツ、マールブルク(Marburug))において、1 IU/mlの組換えFVIIIを用いて、FVIII活性を80%阻害するのに必要なBO2C11の濃度を測定した。FVIII活性を80%阻害するのに必要なBO2C11の量を、等量でさまざまな濃度のAb 14C12のFab断片と混合した。組換えFVIIIを加える前に、混合液を37℃で1時間インキュベートした。さらに37℃で1時間インキュベートした後、この混合液のアリコット(等量液)を取り出してから、発色アッセイ試薬に加えた。対照実験には、単独、または無関係の特異性をもつAbとともにインキュベートした組換えFVIIIが含まれた。図6は、BO2C11/Ab 14C12 Fabのモル比が1/8で、Fab断片がBO2C11のインヒビター活性を50%中和することを示している。
【実施例8】
【0109】
:FIIIのVWFおよびPLへの結合に対するAb 14C12の影響
FVIIIのC2ドメインは、リン脂質(PL)の結合部位、およびフォン・ヴィルブラント因子(vWF)の主要結合部位を含む。PLへの結合は、FVIIIの生理活性にとって必須である。すなわち、FIXおよびFXと第X因子活性化複合体(tenase
complex)を形成する。vWFは、シャペロンタンパク質として働き、FVIIIを早期分解およびクリアランスから防御する。
【0110】
Ab 14C12が、vWFまたはPLいずれかに対するFVIIIの結合を阻害できるかを、以下のようにして調べた。マイクロタイタープレートを抗vWF抗体でコートした後、別記した(Jacquemin Mら、(1998)Blood 95:156−163)とおりにvWFを精製した。Ab 14C12の希釈液(100〜0.3μg/ml)を調製して、各希釈液の等量液を、vWFでコートしたプレートに加えた後、1 IU/mlの最終濃度でFVIIIを加えた。プレートを室温で2時間インキュベートした。ビオチン標識したmAb15(重鎖上に存在するFVIIIの遠位部位を認識する抗FVIII抗体)を2μg/ml加え、その後、アビジン−ペルオキシダーゼおよび特異的基質を加えることによって、vWFでコートしたプレートへのFVIIIの結合を検出した。PLへのFVIIIの結合を測定するためには、メタノールで10μg/mlに希釈したホスファチジルセリンでプレートをコートし、vWFでコートしたプレートにおけると同様にアッセイを行った。
【0111】
vWFおよびPLのいずれに対するFVIII(したがってC2ドメイン)の結合の阻害は観察されなかった(図7)。Ab 14C12の代わりにBO2C11を用いた対照実験では、vWFでコートしたプレートとPLでコートしたプレートの両方とも結合が完全に阻害されることが示された(データ不表示;Jacquemin Mら、(1998)Blood 95:156−163の図3参照)。したがって、C2ドメインとAb 14C12のVHの間の広範な相補性は、FVIIIが、PLおよび/またはVWFに結合するのを阻害するのに十分ではなと結論された。したがって、C2ドメインに対するインヒビターを有する患者を治療する方法として、Ab 14C12、またはその派生抗体を投与しても、FVIIIの機能的特性を阻害するという望ましくない結果を生じることはない。
【実施例9】
【0112】
:FVIIIのクリアランスに対するAb 14C12の影響
循環血からのFVIIIのクリアランスは、少なくとも部分的には、LRPレセプターにC2ドメインが結合することに起因する(Saenkoら、(1999)J Biol
Chem 274:37685−37692;Lentingら、(1999)J Biol Chem 274:23734−23739)ため、Ab 14C12によって抑制できることがある。このことを、尻尾に1 IUのヒト組換えFVIIIを注射して再構築したFVIII−/− C57Bl/6マウスで調べた。以前の計算では、このモデルにおけるヒトFVIIIの平均t1/2は165分であることが示された。Ab 14C12がFVIIIのクリアランスに変化を与えなかったことを確認するために、C57BL/6 FVIII−/−マウスに10μg/mlのAb 14C12、または無関係な特異性をもつIgG2aモノクローナル抗体を注射し、その15分後、1 IUのヒト組換えFVIIIを静脈注射した。3時間後と6時間後、静脈穿刺によって血液サンプルを回収した。機能的発色アッセイ法(第VIII因子発色試験、デイドベーリング社(Dade Behring)、ドイツ、マールブルク(Marburug))を用いて残留FVIII活性を評価した。図8に示すように、Ab 14C12が存在するとき、FVIII t1/2に有意な差は見られなかった。したがって、C2ドメインに対するインヒビターを有する患者を治療する方法として、Ab 14C12、またはその派生抗体を投与しても、FVIIIの生理学的クリアランスを変化させることはありえない。
【実施例10】
【0113】
:B02C11を産生するB細胞株へのAb 14C12の結合
Ab 14C12を用いて、記憶B細胞、および、FVIII機能を阻害する抗体を産生するいくつかのB細胞株を標的することができる。このようなBリンパ球は、その表面に抗体の分泌型の可変部領域と同じ可変部領域をもつ抗体分子を発現する。Ab 14C12のその標的細胞への結合を用いて、細胞死すなわちアポトーシスをもたらすシグナルを伝達することができ、それによって、抗FVIIIインヒビターを産生する細胞を免疫系から極めて特異的に排除することができる。
【0114】
BO2C11を産生するB細胞株(Jacquemin Mら、(1998)Blood 95:156−163)は、BO2C11可溶性抗体を産生し、その表面に抗体の可変部を発現する。Ab 14C12が細胞表面に結合できるかを判定するために、0.5%のウシ血清アルブミンと2 mM EDTAを含むバッファでBO2C11細胞株を洗浄し、400 gで5分間遠心分離し、100μlに5×105細胞の濃度になるよう再懸濁した。そして、1または10μg/mlという2種類の濃度を使用して、Ab 14C12またはIgG2a偽(Sham)抗体のいずれかの抗体を細胞懸濁液に加えた。混合液を氷上で20分間インキュベートし、上記したように、遠心分離によって洗浄し、バッファに再懸濁する。次に、FITC結合抗マウスIgG抗体を最終濃度1μg/mlで各細胞懸濁液に加え、氷上でさらに20分間インキュベートした。上記したように、細胞懸濁液を遠心分離によって最後に洗浄し、バッファに再懸濁した。蛍光細胞分析分離装置でカウントするために、最終懸濁液を、500μlで細胞濃度が1×105となるように作成した。
【0115】
図9は、Ab 14C12とともにインキュベートした後、BO2C11細胞株が、Ab 14C12で特異的に標識され、細胞の68%が抗体に対して陽性を示したが、一方、同じサブクラスの偽抗体は何の反応性も示さなかったことを示している。
【0116】
このように、Ab 14C12は、BO2C11に同一または類似する抗体を産生する標的細胞に特異的な試薬として使用することができ、それによって、高度に特異的な状況でアポトーシスを誘導する方法が提供される。
【0117】
【表1】
【0118】
表1:Ab 14C12のVHとFVIIIのC2ドメインの配列アラインメント:同一および相同な残基を、それぞれ「=」および「±」で表示した。mAb 14C12の変異したVH残基を星印で示す。mAb 14C12と異なる推定C2残基を(C)で示す。CDR:相補性決定領域、FW:枠組み
【0119】
【表2】
【0120】
表2:mAb 2C11とmAb 14C12の配列対応性。
【0121】
相互作用の強さを、それぞれ「>>」および「>」で表示してある。mAb 14C12の変異したVH残基を星印で示す。mAb 2C11と異なる推定C2残基を(C)で示す。CDR:相補性決定領域、FW:枠組み、CH1:重鎖第一定常ドメイン
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の実施形態に従ってAb 14C12によって中和された、BO2C11によるFVIII阻害の用量依存的中和を示す。
【図2a】本発明の実施形態による、FVIII−/− C57B1/6マウスにおける再構築実験の結果を示し、パネルAはAb BOC2C11の存在下または不存在下における第VIII因子による再構築を示す。Ab BOC2C11およびAb 14C12は予めインキュベートした。
【図2b】本発明の実施形態による、FVIII−/− C57B1/6マウスにおける再構築実験の結果を示し、パネルBはBOC2C11によるFVIII阻害のAb 14C12による用量依存的中和を示す。Ab BOC2C11およびAb 14C12は予めインキュベートした。Ab14C12投与はBO2C11およびFVIIIの後に行った。
【図2c】本発明の実施形態による、FVIII−/− C57B1/6マウスにおける再構築実験の結果を示す。Ab BOC2C11およびAb 14C12は予めインキュベートした。Ab14C12投与はBO2C11およびFVIIIの後に行った。
【図3a】抗イディオタイプ抗体14C12の重鎖の塩基配列およびアミノ酸配列を示す。CDR領域をアミノ酸配列の下に示した。
【図3b】抗イディオタイプ抗体14C12の軽鎖の塩基配列およびアミノ酸配列を示す。CDR領域をアミノ酸配列の下に示した。
【図4】C1ドメインに対するインヒビターに対するマウス抗イディオタイプモノクローナル抗体(B6A2C1)による、C1ドメインに対するヒト阻害抗体(2E9)およびC2ドメインに対するヒト阻害抗体(BO2C11)へのFVIIIの結合の中和を示す。
【図5】FVIIIのC2ドメイン(黒色)の、Ab 14C12のVH領域との重ね合わせを示す。ここで、濃い灰色の線は、FVIIIのC2ドメインを表し、明るい灰色の線は14C12のVHドメインを表す。
【図6】さまざまな濃度のAb 14C12を加えたときの、FVIIIに対するBO2C11の阻害活性の中和を示す。FVIII活性は、機能的発色アッセイ法で測定した。
【図7】Ab 14C12によるFIIIのリン脂質またはVWFへの結合阻害の欠如を示す。ホスファチジルセリン(パネルA)またはVWFに対する抗体および精製VWF(パネルB)でコートしたマイクロタイタープレートにFVIIIを加えた。濃度を増加させながらAb 14C12を加えて、PLまたはVWFへの結合を阻害するAb 14C12の能力を測定した。
【図8】循環血からのFVIIIのクリアランスに対するAb 14C12の影響。FVIII−/−C57Bl/6マウスにIVを、FVIIIのみ(FVIII)と注射するか、またはAb 14C12と注射した15分後にFVIIIと注射した(VIII+14C12)。3時間および6時間後にFVIIIの機能を測定して、FVIIIのクリアランス率を評価した。
【図9】B02C11を産生するB細胞へのAb 14C12の結合。表面抗体を有するBO2C11リンパ芽球腫細胞株をAb 14C12とともにインキュベートするか(上図)、同じサブクラスの偽(sham)抗体とインキュベートした(下図)。上図に示す曲線が右に移動しているのは、68%のリンパ芽球腫細胞株BO2C11がAb 14C12によって認識されることを示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血友病の治療、特に、C2ドメインに対するFVIIIインヒビターを発症したヒト患者を治療するための薬学的組成物に関する。本発明は、C2ドメインに対するFVIIIインヒビターに対する抗イディオタイプ抗体を提供する。さらに、本発明は、このような抗イディオタイプ抗体を発現するモノクローナル細胞系に関する。また、本発明は、本発明に係る抗イディオタイプ抗体を含む薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病Aは、肝臓によって2332アミノ酸の一本鎖ポリペプチドとして産生される330kDの糖タンパク質分子である機能的第VIII因子が欠乏または十分量存在しないという特徴をもつX染色体連鎖疾患である。この欠乏症は、男性10,000人に1人の割合で起き、関節、筋肉および軟組織における出血を抑制できなくなることがある。本病の重篤な型(FVIII活性が正常量の1%よりも少なくなる)を患う患者は自然出血に苦しむ。同様にFVIII活性が1〜5%、または5%よりも高い患者は、それぞれ中度または軽度血友病Aと規定され、小さな外傷や手術の後、限定的な出血に悩まされる。血漿から調製されるか、組換えcDNA技術によって製造されるFVIII濃縮液を投与することによって凝血経路を回復させることができる。
【0003】
ヒトFVIII遺伝子は、Woodら、Nature(1984)312:330−337など、さまざまな著者によって報告されているように、すでに単離され、哺乳動物細胞の中で発現されており、また、そのアミノ酸配列もcDNAから推定されている。米国特許第4,965,199号は、哺乳動物宿主細胞においてFVIIIを産生するDNA組換え法およびヒトFVIII精製法を開示している。ヒトFVIIIの詳細な構造が広範に研究されている。例えば、米国特許第5,663,060号には、ヒトFVIIIをコードするcDNAの塩基配列および推定アミノ酸配列が開示されている。FVIII分子には、内部アミノ酸配列相同性によって規定される一連のアミノ酸配列として、また、トロンビンなど適当なプロテアーゼによるタンパク質切断部位として規定することができるドメインがある。FVIIIタンパク質は、さまざまなドメインからなると記述されており、ヒトのアミノ酸配列では、残基番号1〜372のA1;残基番号373〜740のA2;残基番号741〜1648のB;残基番号1690〜2019のA3;残基番号2020〜2172のC1;残基番号2173〜2332のC2に相当する。残りの配列、残基番号1649〜1689は、通常、FVIII軽鎖活性化ペプチドと呼ばれている。Kaufmanら(1988、J Biol Chem 263:6352−6362)によると、FVIIIは、細胞内で処理される際、A1、A2およびBドメインを含む重鎖と、A3−C1−C2ドメインからなる軽鎖とからなるヘテロダイマーを形成するために分泌された後速やかに切断される一本鎖ポリペプチドとして産生される。この二本の鎖は二価カチオンによって非共有結合されている。Ganzら(1988、Eur J Biochem 170:521−528)の教示するところによれば、この一本鎖ポリペプチドもヘテロダイマーも、不活性前駆体として血漿内を循環する。Eatonら(1986、Biochemistry 25:505−512)によれば、血漿内で第VIII因子が活性化されると、トロンビンによるA2ドメインとBドメインの間での切断が開始し、Bドメインが放出されて、A1およびA2ドメインからなる重鎖ができる。ヒト組換えFVIIIは、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞、BHK(ベイビーハムスター腎臓)細胞、その他同等の細胞などの哺乳動物細胞において遺伝子組換えによって生産することができる。
【0004】
Prattら(1999、Nature 402:439−42)は、ヒトFVIIIのカルボキシ末端側C2ドメインの詳細な構造を開示しているが、それは、フォン・ヴィルブラント因子(vWF)およびマイナスに荷電したリン脂質表面にそれが結合するために必須な部位を含んでいる。この構造は、そこから2個のβターンと1個のループが一群の溶媒曝露疎水性残基を提示するβサンドイッチコアが存在することを示しているが、この構造が、血友病Aにおける出血障害をもたらすC2領域における変異を一部説明している。Galeら(2000、Thromb.Haemost.83:78−85)によれば、第VIII因子欠乏症および血友病Aをもたらす少なくとも250種類のミスセンス変異のうち34個がCドメインに存在する。
【0005】
FVIIIは、血液凝固カスケードの内因系の補助因子であり、いわゆる第X因子活性化複合体(tenase complex)形成において、活性化第IX因子の第X因子に対するタンパク質分解活性を増加させることによって作用する。血友病Aを患う患者は、重病型では自然出血、または中度/軽症型では外傷の後に出血を起こす。
【0006】
血友病A患者には、通常、補充療法による治療を行うが、これは、供血者の血漿プールから精製したか、cDNA組換え技術によって得られたヒトFVIIIを注入して行われる。
【0007】
大部分の患者は、これらの注入液に対して免疫学的に不応答であるが、まだ未解明の理由によって、25%の患者がFVIIIに対するIgG免疫反応を起こして、注入されたFVIIIの凝血促進活性を完全に阻害することがある(Briet Eら、(1994)Throm.Haemost.72:162−164;Ehrenforth Sら、(1992)Lancet,339:594)。このような特異的IgGは、IgGの1、2、4サブクラスに属し、FVIIIインヒビターと呼ばれる。公表された研究では、抗FVIII免疫反応は、ポリクローナルであって、主に、A2、A3およびC2ドメインに対するものであることが実証されている(Scandella Dら、(1989)Blood,74:1618−1626;Gilles JGら、(1993)Blood,82:2452−2461)。
【0008】
インヒビター発症患者の末梢記憶B細胞のレパートリーから得られたヒトモノクローナル抗体を用いた最近の研究によって、重要なエピトープがC1ドメインにも存在していることが示された(Jacquemin Mら、(2000)Blood 95:156−163)。抗FVIII抗体がFVIIIの機能を阻害するメカニズムは、FVIIIのタンパク質分解による切断や、フォン・ヴィルブラント因子(vWF)、リン脂質(PL)、FIX、FXaまたはAPCなど、さまざまなパートナーとの相互作用など数多くある。これらのメカニズムのほとんどが、今では、マウスまたはヒトの抗FVIII抗体を用いた研究において十分に説明されている。このように、抗体は、タンパク質分解的切断部位に結合するか、または、タンパク質分解を受けにくくするようにFVIIIの3次元立体構造の変化を誘導することによって、FVIIIの活性化速度を低下させることができる。主要なvWF結合部位の1つであるC2ドメインに対するヒトモノクローナル抗体を用いた最近の研究で明らかにされたように、vWFのFVIIIへの結合を阻害する抗体は、インヒビターとして非常に有効であると思われる(Jacquemin Mら、(1998)Blood 92:496−501)。インヒビターの産生を抑制することと、FVIIIに対する免疫不応答状態を確立することは、いまだに主な目標となっているが、基本的には、特異的な抗体産生と制御の根本にあるメカニズムの解明が限られたものであるため、医学界は、この目標の達成からは程遠い状態にある。
【0009】
現在、このような免疫反応を調節するために、デスモプレシン(DDAVP)などのバイパス剤、プロトロンビン複合体濃縮液(PCC)または活性化PCCなどの凝血促進剤
、組換えFVIIa、血漿交換、および大投与量または中間投与量(それぞれ、200−300 IU/kg体重、または25−50 IU/kg体重)のFVIII注入など、いくつかの治療法が用いられる。しかしながら、これらの方法はいずれも満足の行くものではなく、すべて大変な費用がかかる。
【0010】
これらの観察結果、および免疫寛容のメカニズムについての理解に基づけば、抗イディオタイプ抗体は、インヒビター発症患者を治療する有望な方法と考えられる。実際、自己タンパク質に対する寛容が、まず、初期段階で、それぞれ骨髄および胸腺において、自己反応性のB細胞およびT細胞によって誘導されることが十分に確認されている。しかし、すべての自己反応性リンパ球が中央の除去によって消滅するわけではない。自己反応性B細胞は、低親和性または中親和性の自己反応性T細胞同様、末梢血に共通する特徴である。このような自己反応性細胞を非機能化するか、または末梢から除去するメカニズムがいくつか説明されてきた。抗イディオタイプ抗体は、抗体の機能を微調整したり、B細胞およびT細胞上に発現される相補性イディオタイプ間の微妙な平衡を維持したりすることができるため、この一般的なスキームにおける寛容維持の第三段階を代表しうる。
【0011】
抗イディオタイプ抗体が、末梢において、どのように制御作用を発揮できるかをうまく示すものとして、FVIIIが正常レベルにある健常な個体が、かなり高い力価のFVIIIに対する阻害抗体を産生するが、相補的な抗イディオタイプ抗体が存在するため、血漿中ではその活性を検出できないと実証されたことが挙げられる(Algiman Mら、(1992)Proc Natl Acad Sci USA 89:3795−3799;Gilles JGら、(1994)J Clin Invest 94:1496−505)。しかし、このようなFVIII阻害活性は、クロマトグラフィーと、不溶化FVIIIに対する特異的免疫吸着法を併用して精製すれば、簡単に検出することができる。ベセスダアッセイ法(Bethesda assay)によって測定したところ、アフィニティー精製された抗体がFVIII阻害能力をもつことが、インヒビターを高レベルでもつ血友病A患者の血漿から精製された抗FVIII抗体のFVIII阻害能力に等しいことが実証された(Gilles JGら、(1994)J Clin Invest 94:1496−505)。
【0012】
また、このような中和抗イディオタイプ活性は、FVIIIの高用量投与によって減感作に成功した患者グループにおいても検出されている(Gilles JGら、(1996)J Clin Invest 97:1382−1388)。この研究は、ベセスダアッセイ法を用いた、血漿におけるインヒビターの濃度測定値が検出不能レベルまで低下しても、健常なドナーと同じ処理によって精製された抗FVIII抗体の濃度は減感作の過程で変化しなかったこと、および、抗体が、FVIIIの凝血促進作用を阻害する能力を維持したことを明らかにした。これは、FVIII分子に対する寛容において、抗イディオタイプ制御が重要な機能をもつ可能性があることを示していた。したがって、FVIIIインヒビターを発症した患者の治療において、抗イディオタイプ抗体の増産を誘導する新規の治療法が関心を呼ぶ可能性がある。この線に沿った最初のアプローチでは、FVIIIとFVIIIに対する特異的自己抗体から作られた免疫複合体を注射して患者を治療し、その結果、循環系のFVIIIインヒビターの量が有意に低下し、対応する抗イディオタイプ抗体によって中和されたという研究が報告されている(Gilles JG,Arnout J.、第21回世界血友病連盟国際会議(XXI International Congress of the World Federation of Haemophilia)、1994年4月、要旨)。このようなアプローチによって、FVIIIインヒビターを標的とする新しい治療法であって、現在利用可能な治療法と比較して低コストになる可能性のある方法に向かう道を開くことができる。
【0013】
本発明者らの研究室での以前の発見では、抗イディオタイプ抗体は、抗FVIII免疫
応答のホメオスタシスにおいて生理学的性質を発揮することを明らかにしていた。すなわち、健康な個体の末梢血は、FVIIIに特異的な抗体を含んでいるが、その中にはFVIIIの凝血促進作用を阻害する性質をもつものがある(Gilles JGGおよびSaint−Remy JMR(1994)J Clin Invest 94:1496−1505)。これらの個体においては、特異的な抗イディオタイプ抗体によって抗体によるFVIII阻害が中和されるため、FVIIIの機能は実際には変化しない。このため、我々は、抗イディオタイプ抗体は、正常なFVIII活性の維持に生理学的な関連性を有すると結論した。
【0014】
さらに、本発明者らは、インヒビターを有する血友病A患者を、減感作または寛容誘導とも呼ばれる治療法である(上記参照)、常法どおりに高用量FVIIIを注入して治療すると、このような注入の生物学的結果の1つとして、インヒビターを中和できる特異的抗イディオタイプ抗体の誘導が起きる(Gilles JGら、(1996)J Clin Invest 97:1382−1388)。これらの知見は、抗イディオタイプ抗体の使用が、FVIII阻害抗体を制御するための有益なアプローチとなりうることを示唆している。
【0015】
ヒトモノクローナル抗体BO2C11は、インヒビター発症患者の天然のレパートリーに由来するFVIII特異的IgG4κ抗体である(Jacquemin MGら、(1998)Blood 92:496−506)。抗体BO2C11は、C2ドメインを認識して、FVIIIが、vWFおよびリン脂質(PL)に結合するのを阻害する。この抗体は、ヒト阻害抗体の主要なクラスを代表するものである。その作用機作は、インヒビター発症患者においてはよく存在し、C2特異的抗体が最も高頻度で見られる阻害抗体である。さらに、抗体のFab断片とC2ドメインから作成された結晶のX線解析によって、C2ドメイン上にある、抗体BO2C11の正確な結合部位が解明されている(Spiegel P.C. Jr.ら、(2001)B1ood 98:13−19)。
【0016】
以前の報告に、抗FVIII抗体に対する抗イディオタイプ抗体が記載されている。LubahnとReisner(1990,Proc Natl Acad Sci USA 87:8232−8236)は、塩沈殿法およびクロマトグラフィーによって、インヒビターを発症した血友病A患者の血漿からヒト抗FVIII抗体を部分精製した。これらの著者は、精製したIgGが、天然のFVIIIの重鎖と、それをトロンビン分解した43kDaの鎖を認識したことを明らかにした。抗イディオタイプ抗体を得るために、この調製物(SP8.4)をマウスに注射した。いくつかのクローンが得られたが、そのうちの1つ、Mab20−2Hは、抗FVIII抗体による重鎖への結合を阻害した。機能的アッセイ法では、Mab20−2Hを高濃度で加えたとしても、SP8.4 IgG画分の阻害活性を変更できなかった。Mab20−2Hは、検査した血友病インヒビター血漿の3.2%において抗体を検出したが、阻害活性を中和することはなかった。著者らは、Mab20−2Hが、FVIII分子の43kDa鎖(A2ドメイン)に対する抗FVIII非阻害抗体を認識したと結論した。
【0017】
別の抗イディオタイプ抗体(B6A2C1)が作成されて、本発明者らの研究室によって説明がなされた(Gilles JGら、(1999)Blood 94、要旨2048:460a)。この抗イディオタイプ抗体は、抗FVIII C1ドメインのインヒビターに対するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、(原発性または後天性の)血友病を患うヒト患者であって、FVIIIに対するインヒビターを発症した患者に使用するための医薬組成物を提供することであ
る。
【0019】
本発明のさらなる目的は、ヒトFVIIIインヒビターに対する中和抗体を作製するための細胞株、および中和抗体を提供することである。
【0020】
本発明の第一の局面において、ヒト第VIII因子のC2ドメインに対する阻害抗体であるヒト第VIII因子阻害抗体に対するモノクローナル抗イディオタイプ抗体が提供される。本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体によってもたらされるFVIII凝血促進活性の阻害を、少なくとも50%、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上中和することができるという特徴をもつ。
【0021】
本発明のさらなる局面において、抗イディオタイプ抗体は、VH1ファミリーに由来するVH生殖細胞セグメントDP−5によって重鎖をコードされているFVIII阻害抗体に対するものである。本発明のさらに別の局面において、第VIII因子阻害抗体はAb
BO2C11である。
【0022】
また、本発明は、ヒト化抗イディオタイプ抗体に関する。
【0023】
また、本発明は、例えば細胞株14C12から得ることのできるモノクローナル抗イディオタイプ抗体にも関係する。細胞株14C12は、2002年7月30日に、LMBP(プラスミドコレクション、Laboratorium voor Moleculaire Biologie,Universiteit,K.L.Ledeganckstraat 35,9000 Gent,Belgium)のベルギー微生物協調収集機関(Belgian Coordinated Collections of Micro−organisms:BCCM)に、寄託番号LMBP 5878CBとして寄託された。
【0024】
さらに、本発明は、抗イディオタイプ抗体の可変部重鎖が、配列番号:1に示した塩基配列、または配列番号:1に対し70%以上の配列同一性、好ましくは80%以上の配列同一性、より好ましくは90%以上の配列同一性、さらに好ましくは95〜99%以上の配列同一性を有する塩基配列によってコードされているか、および/または、該抗イディオタイプ抗体の可変部軽鎖が、配列番号:3に示した塩基配列、または配列番号:3に対し70%以上の配列同一性、好ましくは80%以上の配列同一性、より好ましくは90%以上の配列同一性、さらに好ましくは95〜99%以上の配列同一性を有する塩基配列によってコードされている抗イディオタイプ抗体に関係する。特に、これらの塩基配列には、遺伝子暗号の重複によって判定すると、配列番号:1および配列番号:3において特定されているトリヌクレオチドと同じ意味を持つトリヌクレオチドを使用していて、それによって、好ましくは、FVIII阻害抗体を中和する能力を保持している塩基配列も含まれる。
【0025】
さらに、本発明は、配列番号:2に示す可変部重鎖タンパク質配列、または配列番号:2と70%以上の配列同一性、より好ましくは80%以上の配列同一性、さらにより好ましくは90%以上の配列同一性、さらに一層好ましくは99%以上の配列同一性、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するタンパク質配列、および/または、配列番号:4に示す可変部軽鎖タンパク質配列、または配列番号:4と70%以上の配列同一性、より好ましくは80%以上の配列同一性、さらにより好ましくは90%以上の配列同一性、さらに一層好ましくは99%以上の配列同一性、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するタンパク質配列を有し、それによって、好ましくは、FVIII阻害抗体を中和する能力を保持している抗イディオタイプ抗体に関係する。
【0026】
また、本発明は、抗イディオタイプ抗体の可変部重鎖および/または軽鎖の相補性決定領域(CDR)が、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10に示した対応アミノ酸配列に対して70%以上の配列同一性、より好ましくは80%以上の配列同一性、さらに好ましくは90%以上の配列同一性、そして最も好ましくは95〜99%以上の配列同一性を有するか、または、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10に示した対応アミノ酸配列に一致しており、それによって、好ましくは、FVIII阻害抗体を中和する能力を保持している抗イディオタイプ抗体に関係する。
【0027】
また、本発明は、本発明に係る抗イディオタイプ抗体を改変したものに関係し、また、F(Ab’)2断片、Fab’断片、Fab断片、およびFVIIIのC2ドメインに対する抗体に対する抗イディオタイプ抗体のCDR領域を1個以上含む他の断片にも関係する。本発明は、上記断片の改変したものにも関係する。
【0028】
本発明の別の局面は、配列番号:1、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10から選ばれた配列を有するか、または、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10から選ばれたアミノ酸配列をもつペプチドに70%以上配列が一致している単離精製ペプチドである。この単離精製ペプチドは、選択的には、合成によって合成されたペプチドであり、また、精製度を測定する常法にしたがって測定すると、少なくとも96%、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上という精製度を有する。
【0029】
本発明のさらに別の局面は、寄託番号LMBP 5878CBをもつ寄託されたモノクローナル細胞株14C12など、抗イディオタイプ抗体を発現するモノクローナル細胞株である。
【0030】
本発明の別の局面は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体ならびに断片、該抗イディオタイプ抗体のペプチド、および、上記で詳しく開示したような改変抗体を含む医薬組成物である。
【0031】
本発明の別の局面は、抗イディオタイプ抗体または断片、該抗イディオタイプ抗体のペプチド、およびそれらの改変抗体を薬剤として使用することである。
【0032】
本発明の別の局面は、出血、より具体的には、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する血友病患者の出血を予防または治療するための薬剤を製造するために、抗イディオタイプ抗体または断片、該抗イディオタイプ抗体のペプチド、およびそれらの改変抗体を使用することである。
【0033】
本発明の別の局面は、阻害抗体の産生を阻害するための薬剤を製造するために、抗イディオタイプ抗体または断片、該抗イディオタイプ抗体のペプチド、およびそれらの改変抗体を使用することである。本発明のこの局面の実施形態の1つによれば、FVIIIインヒビターに対する抗イディオタイプ抗体は、抗C2阻害抗体をもつB細胞のアポトーシスを誘導するために使用される。そのため、本発明に係る抗イディオタイプ抗体およびそれらの断片は、FVIIIのC2ドメインに対するインヒビターのエフェクター機能(可溶性抗体の作用を中和する)、およびそのような抗体の産生(B02C11と同一または類似のイディオトープをもつ細胞との相互作用)の両方を抑制することができる。
【0034】
また、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する患者、選択的には血友病患者の出血を予防または治療する方法であって、抗イディオタイプ抗体、その断
片、ペプチド、または改変抗体を患者に投与する工程を含む方法に関係する。
【0035】
この方法は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体または断片、該抗イディオタイプ抗体のペプチド、およびその改変抗体を有する血友病患者において、抗C2阻害抗体をもつB細胞のアポトーシスを誘導する方法に関係する。
【0036】
本発明の別の局面は、体液においてFVIII抗体を検出するために、FVIIIインヒビターに対する抗イディオタイプ抗体を使用することに関係する。
【0037】
ここで、本発明を、以下の図面を参照しながら、より詳細に説明する。
【0038】
説明全体を通して、配列表に示されている以下の配列が参照される。
【0039】
配列番号:1:Ab 14C2の重鎖可変部領域の塩基配列
配列番号:2:Ab 14C2の重鎖可変部領域のアミノ酸配列
配列番号:3:Ab 14C2の軽鎖可変部領域の塩基配列
配列番号:4:Ab 14C2の軽鎖可変部領域のアミノ酸配列
配列番号:5:Ab 14C2の重鎖可変部領域のCDR1(H1)のアミノ酸配列
配列番号:6:Ab 14C2の重鎖可変部領域のCDR2(H2)のアミノ酸配列
配列番号:7:Ab 14C2の重鎖可変部領域のCDR3(H3)のアミノ酸配列
配列番号:8:Ab 14C2の軽鎖可変部領域のCDR1(L1)のアミノ酸配列
配列番号:9:Ab 14C2の軽鎖可変部領域のCDR2(L2)のアミノ酸配列
配列番号:10:Ab 14C2の重鎖可変部領域のCDR3(H3)のアミノ酸配列(定義)
FVIIIと略記される第VIII因子は、タンパク質分解によるプロセシングを受ける、分子量330kDで2332個のアミノ酸をもつグリコシル化血液凝固因子を意味する。
【0040】
FVIIIの軽鎖は、タンパク質分解処理されたFVIIIの、A3、C1およびC2のドメインを含む部分を意味する。
【0041】
C2ドメインは、FVIIIの2173から2332までの残基にわたる領域を意味する。
【0042】
リン脂質(PL)結合部位は、C2ドメインの中にあって、アミノ酸番号2032と2332の間にある領域を意味する。
【0043】
イディオトープは、単一の抗原決定基を意味する。
【0044】
イディオタイプは、免疫グロブリン分子に抗原個別性を付与し、個体内における任意の抗体の特徴となっている、可変部領域内にあるイディオトープの集合を意味する。
【0045】
イディオタイプは、それが、抗原エピトープを立体構造的に模倣する場合には、エピトープの内部イメージに対応すると言われている。
【0046】
ここで、「抗体」(「Ab」)という用語は、無処理のままのモノクローナルまたはポリクローナルの抗体分子、およびその断片であって、以下を含むものを意味する。
【0047】
a)重鎖および軽鎖の両方(Fab、F(ab)2、F(ab’)2)、または一本鎖の重鎖または軽鎖(例えば、軽鎖ダイマー)、選択的には、それらの定常部(またはその
一部)、または、選択的に、この定常部領域の軽微な改変(アロタイプ変異体など);
b)それらの一部、特に、その特異性決定部分、すなわち、抗体の可変部領域;
c)さらにそれらの一部、特に、少なくとも1個のCDRを含む何連かのアミノ酸からなるペプチドなどであって、選択的には、例えば、1つまたは両方のCDRにある約10個までのアミノ酸配列からなる隣接枠組み領域配列をもつ超可変部。
【0048】
本発明では、選択的には、抗体はIgG抗体、特にIgG1である。F(ab’)2は、ペプシン切断後に得られる抗体断片を意味し、両方の軽鎖、およびヒンジ領域を経由してジスルフィド結合した重鎖の一部からできている。Fab断片は、無処理のままの抗体から、またはF(ab’)2から、ヒンジ領域のパパイン分解によって得られ、1個の軽鎖、および重鎖の一部を含む。抗体の断片は、当技術分野において説明されている合成または組換えによって得ることもできる。
【0049】
ここで、「阻害抗体」または「FVIIIインヒビター」(Ab1)とは、FVIIIの活性を阻害する抗体を意味する。本発明の特定の態様によれば、阻害抗体は、FVIIIのC2ドメインに対する抗体である。阻害抗体は、内因性FVIIIに対する同種異系抗体、または自己抗体のいずれでもよい。阻害抗体は、ヒトまたは動物由来のものでもよい。選択的には、阻害抗体は、ヒト第VIII因子に対するヒト阻害抗体である。
【0050】
本発明における抗イディオタイプ抗体は、ポリクローナルでもよいが、好ましくは、モノクローナルである、阻害抗体(Ab1)の可変部分に対する第二世代抗体(Ab2)を意味する。本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、好ましくは、阻害抗体を中和することができ、選択的にはAb1を産生することができる。本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、好ましくは、モノクローナルであって、選択的には組換え体である。
【0051】
「阻害抗体を中和することができる」とは、FVIIIインヒビター(Ab1)の阻害活性を遮断する、本発明に係る抗イディオタイプ抗体の性質を意味する。これは、Jacquemin MGら、(1998)Blood 92:496−506に記載されているような第VIII因子発色テストなどのアッセイにおいて、インヒビターおよび抗イディオタイプ抗体存在下でFVIII活性を測定することによって判定することができる。本発明における相補性決定領域(CDR)は、抗原上のエピトープと相互作用する抗体の可変部領域内にある超可変アミノ酸配列を意味する。本発明の1つの実施形態において、CDR領域は、抗C2ドメイン阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体の可変部軽鎖(VL)および重鎖(VH)それぞれの(それぞれL1、L2、L3、およびH1、H2、H3)のCDR1、CDR2およびCDR3の領域である。具体的な実施形態は、抗イディオタイプ抗体14C12にある対応領域に関係する。
【0052】
ここで、「ヒト化抗体」とは、ヒト抗体により近似させるために非抗原結合領域においてアミノ酸が置換されているヒト以外の抗体分子を意味する。
【0053】
ここで、「再形成ヒト抗体(reshaped human antibody)」または「ヒトハイブリッド抗体」とは、抗原結合領域のアミノ酸が、本発明による配列、例えば、CDRの配列、またはヒト抗体のレパートリーに由来する可変部領域の他の部分などによって置換されているヒト抗体を意味する。
【0054】
配列比較。配列同一性または配列類似性に関して、タンパク質配列または塩基配列の比較が指定される。本発明によれば、比較は、2つのVH領域または2つのVL領域のアミノ酸配列間で行われるか、または、比較は、CDR領域をコードする2つの塩基配列の間で行われ、2つの配列の間における配列の一致または類似の程度は、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好まし
くは99%以上の2つの配列間の配列同一性または類似性である。
【0055】
同一性塩基配列またはアミノ酸配列とは、2つの配列を並べたときに、配列が同一であるパーセント、すなわち、同一であるヌクレオチドまたはアミノ酸がある位置の数を塩基配列またはアミノ酸配列の数(配列の長さが異なるときには短い方)で割った割合が、70%よりも高く、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95〜99%以上、より具体的には100%であることを意味する。2つの配列のアラインメントを、WilburとLipmann(1983、Proc Natl Acad Sci USA 80:726)によって記述されたアルゴリズムによって、20ヌクレオチドのウインドウサイズ、4ヌクレオチドの語長(Word length)、および4というギャップペナルティー(gap penalty)を用いて行った。
【0056】
2つのアミノ酸配列は、以下のグループの1つに属していれば、「類似」しているとみなされる;GASTCP、VILM、YWF、DEQN、KHR。したがって、類似している配列とは、2つのタンパク質配列を並べたとき、配列が類似するパーセント、すなわち、一致または類似するヌクレオチドまたはアミノ酸がある位置の数を塩基配列またはアミノ酸配列の数(配列の長さが異なるときには短い方)で割った割合が、70%よりも高く、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95〜99%以上、より具体的には100%であることを意味する。
【0057】
塩基配列が、類似性または同一性を有するアミノ酸配列をコードしていれば、それらの配列は「類似」しているとみなされる(すなわち、同一のタンパク質をコードする2つの塩基配列の間では、変異は、遺伝子暗号の縮退の限度内にある)。「改変された」とは、1個またはいくつかのアミノ酸が別のアミノ酸残基に置換されているか欠失しているタンパク質(またはポリペプチド)分子を意味する。このようなアミノ酸置換または欠失は、タンパク質分子のどこに位置していてもよい。また、アミノ酸残基が一箇所以上の位置で置換および/または欠失しているタンパク質分子も意味する。後者の場合、置換と欠失のあらゆる組合せを考えうる。それは、多型(すなわち、1つの遺伝子の2個以上のアリルの異種交配集団において、稀な方のアリルの頻度が、反復突然変異のみで説明できるよりも高い、典型的には1%よりも高いときに通常同時に出現するもの)も意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
一定の実施形態および一定の図面を参照しながら本発明を説明するが、本発明は、それらに限定されることはなく、請求の範囲のみによって限定される。
【0059】
本発明は、ヒト第VIII阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体に関係する。FVIIIに対する阻害抗体は、血友病患者において最も一般的に発生し、インヒビターの発症率は15〜20%である。特に、若年患者、またはFVIIIタンパク質の合成および/または分泌がなくなる結果をもたらす遺伝的欠陥をもつ患者(先天性血友病)のように、FVIIIの濃縮液に激しく曝露されている血友病患者は、FVIIIインヒビターを発症する高度のリスクに曝されている。しかし、阻害抗体は、自己免疫疾患、悪性腫瘍(リンパ増殖性疾患、リンパ腫、および固形癌など)、薬物反応(例えば、ペニシリン、クロラムフェニコール、フェニトイン)、妊娠期間中、および分娩後の状態にある患者においても生じる。例外的に、阻害抗体の存在が特発性のときもありうる(例えば、高齢の患者)。しかし、通常は、阻害抗体の存在は、あざができやすいことや、抑制できない出血などという症状を伴う。これは、通常、獲得性血友病と言われる。このように、本発明は、阻害抗体の存在を伴う、またはそれによって特徴付けられる、あらゆる症状の治療または予防に関係する。患者に阻害抗体が存在することは、抗FVIII活性の定量法、FVIIIインヒビターに対するELISA法、およびクロマトグラフィーおよび免疫吸着を用いた精製法など、さまざまな方法によって判定することができる(これらの方法の各文は
上述したAlgimanら、(1992)に記載されている)。
【0060】
本発明は、FVIIIインヒビターの阻害作用を中和することができる抗イディオタイプ抗体に関係する。阻害抗体によるFVIIIの阻害は、例えば、FVIIIのタンパク質分解切断部位への結合、または、タンパク質分解されにくくなるようなFVIIIの3次元立体構造の変化を誘導することのいずれかによってFVIIIが活性化される速度を低下させることによって生じさせることができる。抗体が、FVIIIのFIXおよびFXへの結合を阻害すれば、阻害が起こることもある。同時に、または選択的に、阻害抗体は、vWFおよび/またはPLがFVIIIに結合するのを阻害することができる。
【0061】
本発明の特定の態様は、FVIIIのC2ドメインに対するヒト第VIII因子阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体に関係する。特に、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体のFVIII凝血促進活性の阻害を少なくとも50%中和することができる抗イディオタイプ抗体に関係する。凝血促進活性の阻害は、本明細書に記載されているような第VIII因子発色テストによって測定することができる。本発明の特定の局面によれば、抗イディオタイプ抗体は、モノクローナル抗体B02C11(インヒビターを発症した患者の天然のレパートリーに由来するIgG4κ抗体、Jacquemin MGら、(1998)Blood 92:496−506)、または同様のC2結合特性を有する他の抗体などの阻害抗体に対するものである。より具体的には、抗イディオタイプ抗体は、VH1遺伝子ファミリーに由来するDP5 VH遺伝子のセグメントによってVHドメインがコードされているFVIIIインヒビターに対するものである。このような阻害抗体およびその他の阻害抗体は、FVIII、またはその断片で、より具体的には、C2ドメインのすべてまたは一部を含む断片で免疫することによって、ヒトから(すなわち、阻害抗体を有する患者の血清から)得ることができ、または、マウス、モルモット、ウマ、ヤギ、ヒト以外の霊長類、および他の哺乳動物から得ることもできる。
【0062】
特定の態様によれば、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対するヒト第VIII因子阻害抗体による凝血活性阻害を50%以上中和することができるが、FVIIIの生理学的活性を阻害しない、より具体的には、FVIIIによるvWFまたはPLへの結合を阻害しない、FVIIIのC2ドメインに対するヒト第VIII因子阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体に関係する。FVIIIのvWFおよび/またはPLへの結合能力に対する抗イディオタイプ抗体の影響を確認する方法が本明細書に記載されている。これらの方法を、FVIIIによるvWFまたはPLへの結合と相互作用しない抗イディオタイプ抗体を選択するために、本発明に従って用いることができる。
【0063】
FVIIIによるvWFまたはPLへの結合を阻害しない抗イディオタイプ抗体の開発を促進する方法としては、これらに限定されないが、a)抗イディオタイプ抗体の開発において、それ自体は改変FVIIIに対して作製されている阻害抗体であって、PL結合ドメイン(Prattら、上記)も、vWFの結合にとって重要な領域も含まない阻害抗体を免疫原として使用すること(Jacqueminら、2003、J Thromb Haemost 1:456−463);b)PL結合部位、またはFVIIIがvWFに結合するのに重要な領域を認識するイディオトープが除去されている阻害抗体を免疫原として使用すること;c)得られた抗イディオタイプ抗体の抗原結合部位とFVIIIのC2ドメインとの間の類似性を解析すること、およびi)抗イディオタイプ抗体のイディオトープとFVIIIの間の対応関係に、PL結合部位も、FVIIIがvWFに結合するのに重要な領域も含まれないという事実関係をもとに抗イディオタイプ抗体を選択すること、または、ii)抗イディオタイプ抗体のイディオタイプの中にある、C2のPL結合部位、または、vWFがFVIIIに結合する領域に対応する領域を除去することなどが挙げられる。当然ながら、これらの選択手順のそれぞれの後に、選択または改変された抗イディオタイプ抗体が、阻害抗体を中和する能力を保持しているよう注意を払う必要が
ある。
【0064】
本発明では、モノクローナル抗イディオタイプ抗体は、ヒト由来でも動物由来でもよい。したがって、さまざまな方法でモノクローナル抗イディオタイプ抗体を取得することができる。抗FVIII抗体を有する患者(例えば、血友病患者)または健常な個体の末梢血から、抗イディオタイプ抗体を産生する細胞を取得することができる。常法を用いてこれらを不死化することができ、また、阻害抗体を中和する抗イディオタイプ抗体の能力にもとづいてこれらを選択すること、および、選択的には、FVIIIがPLおよびvWFに結合する相互作用の欠如に基づいてこれらを選択することができる。選択的には、上記したように、関連するイディオタイプを確認、およびそれに基づいて選択するために、これらの細胞株のそれぞれが産生するモノクローナル抗体の配列を決定することもできる。
【0065】
または、ヒトFVIII阻害抗体(FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体BO2C11など)をマウスに注射し、その脾臓リンパ球をマウスミエローマ細胞株と融合させ、その後、第VIII因子阻害抗体に対する抗イディオタイプ抗体を産生する培養細胞を同定およびクロニーングすることによってマウスなどの動物を免疫して、意図的に本発明に係るモノクローナル抗イディオタイプ抗体を作製することができる。
【0066】
このように、本発明は、さらに、上記したとおりに作製された、FVIIIインヒビターに対して反応するモノクローナル抗体を産生する細胞を提供する。これらの細胞株は、ヒト由来の不死化細胞とすることができ、選択的には、治療すべき患者に由来させることもできる。または、不死化細胞は動物(特にげっ歯類)由来でもよい。本発明の特定の実施形態は、抗イディオタイプ抗体14C12寄託番号LMBP 5878CBの寄託されたモノクローナル細胞株14C12によって提供される。
【0067】
選択的には、動物において産生されるモノクローナル抗体は、例えば、非ヒト由来モノクローナル抗体の結合相補性決定領域(CDR)を、ヒト枠組み領域、特に、Joneら、Nature(1986)321:522、またはRiechmann、Nature(1988)332:323で開示されているようなヒト遺伝子の定常C領域と結合させることによってヒト化することができる。
【0068】
または、抗FVIII抗体(それ自体は、(Algiman 1994、上記、およびGilles 1994、上記によって実証されたように)不溶化FVIIIに対する免疫吸着によって同定することができる)に対してアフィニティー精製を行うことによって、ヒトまたは動物から得ることができる。選択的には、抗C2(阻害)抗体の選択を促進するために、C2ドメインをアフィニティー精製に用いることができる。
【0069】
本発明の特定の実施形態は、抗イディオタイプモノクローナル抗体14C12、およびそれに由来する抗体断片などの抗体によって提供される。特定の実施形態によれば、本発明は、配列番号:5、6、または7に識別されているVHのCDR領域の少なくとも1個、または後述するように14C12抗体を改変したものを含む抗イディオタイプ抗体に関係する。
【0070】
また、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体に対する上記抗イディオタイプ抗体のいずれかの断片であって、Fab、Fab’、F(ab’)2、CDR、単一可変ドメイン、およびこれらを改変したもの、ならびにこれら断片を組み合わせたものならびに改変したものを含む断片も提供する。
【0071】
より具体的には、本発明は、本発明に係る抗イディオタイプ抗体の断片および改変抗体を提供し、特に、上記のようにして得られる、モノクローナル抗イディオタイプ抗体の相
補性決定領域(「CDR」)を含む断片、ならびに、それらを改変したものを提供する。例えば、本発明は、Stanworthら、実験免疫学ハンドブック(Handbook
of Experimental Immunology)(1978)、第1巻、第8章(ブラックウエル・サイエンティフィック・パブリケーションズ(Blackwell Scientific Publications)に記載されているような、当技術分野において周知されている方法を用いて該モノクローナル抗体をタンパク質分解して生成される抗原結合断片Fab、Fab’およびF(ab’)2を提供する。このような断片または人口的配列であって、この抗体結合部位を含むものは、補体活性化またはFcγレセプターへの結合能力のような親抗体の性質をいくつか失くしているかもしれないし、いないかもしれないが、FVIIIに対する阻害抗体を阻害する能力を失っていることはない。また、本発明は、一本鎖可変部断片(single chain fragment variables:scFv)、抗体の単一の可変部ドメイン断片、およびこれらの断片ならびに上記断片を組み合わせたものも含む。各CDR配列が、抗体の一方のアームで、他方のアームと異なっている抗体も本発明の範囲内に含まれる。
【0072】
さらに、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対するFVIII阻害抗体に対する再形成されたモノクローナル抗体またはヒトハイブリッドモノクローナル抗体を提供する。ヒトハイブリッドモノクローナル抗体とは、ヒト抗体、および本発明に係る可変部領域から構築されたハイブリッド抗体を意味する。また、本発明は、上記モノクローナル抗体の可溶性または膜に固定された一本鎖可変部部分を提供する。これらは、当技術分野において説明されている方法に基づいて取得することができ、その方法の一例が本明細書に記載されている。ヒト重鎖および軽鎖の可変部のDNA配列は、別々の反応で増幅され、クロニーングされる。15個のアミノ酸リンカーの配列、例えば(Gly4Ser)3を、例えば、DieffenbachとDveksler、「PCRプライマー、実験マニュアル(PCR Primer, a laboratory manual)」、(1995)、コールドスプリングハーバー・プレス(Cold Spring Harbour
Press)、米国ニューヨーク州プレインビュー(Plainview,NY,USA)に従って、2段階ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってVHとVLの間に挿入する。そして、可溶性またはファージ提示されたポリペプチドとして一本鎖可変部断片(scFv)を発現させるために、得られた断片を適当なベクターに挿入する。これは、Gillilandら、1996、Tissue Antigens 47:1−20によって記載されているような、当業者に周知の方法によって行うことができる。また、本発明は、アプライド・バイオシステムの合成装置、例えば、ミリジェン社(Milligen)(米国)から入手可能なモデル9050、または関連技術からのモデルなどのポリペプチド合成装置を用いて、合成によって得ることができる、モノクローナル抗体の超可変部領域に典型的なペプチドを含むリガンドであって、単独で、または、別個のもしくは類似した超可変部領域と組み合わされて、親抗体の性質と同じ性質を発揮することができるものも含む。DNA組換え技術によって、断片およびペプチドを生成させることができる。BOC(3級ブチルオキシカルボニル)またはFMOC(9−フルオレニルメトキシカルボニル)合成などのペプチド合成法、および当技術分野において公知の他の技術によって、約100アミノ酸配列までの長さをもつペプチドを作製することができる。選択的には、ペプチドの安定性および寿命を高めるために、アミノ基およびカルボキシル基を変化させることができる(例えばホルミル化、アセチル化など)。または、ペプチドを担体に共有結合または非共有結合させることができる。
【0073】
本発明によれば、FVIIIインヒビターに苦しむ患者を治療するための抗イディオタイプ抗体を、以下の手順によって選択的に得ることができる。
【0074】
a)FVIIIインヒビターに苦しむ患者からのFVIIIに対するヒト抗体を単離すること、
b)(a)で得られた抗体から、そのC2に対する結合に基づいて、FVIII凝血促進活性を阻害する抗体を選択すること、
c)(b)で選択した抗体、または、その抗原認識部分(好ましくは、少なくともVLおよび/またはVL)によって動物を免疫すること、
d)選択的には、(c)の動物が産生する抗体をクロニーングすること、
e)抗イディオタイプ抗体を、1)そのFVIIIインヒビターの阻害活性を中和する能力、2)FVIIIによるvWFまたはPLへの結合を阻害しないという事実に基づいて選択すること、
f)選択的には、(e)で選択された抗イディオタイプ抗体のヒト化抗体または抗体断片をえること。
【0075】
さらに、本発明は、ヒトにおけるFVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する血友病患者における出血を予防または治療するための医薬組成物であって、モノクローナル抗イディオタイプ抗体、および上記に開示されているような断片ならびに改変抗体を活性成分として、医薬的に許容される担体と混合して含む医薬組成物を提供する。より好ましくは、該モノクローナル抗体は、ベルギー微生物協調収集機関(Belgian Coordinated Collections of Micro−organisms:BCCM)に、寄託番号LMBP 5878CBとして寄託された細胞株14C12から得られるモノクローナル抗体、もしくは断片、改変抗体、またはそれに高い配列類似性を有する配列である。該モノクローナル抗体と比較される配列は、好ましくは70%以上同一、より好ましくは80%以上同一、さらに一層好ましくは90%以上同一、また、最も好ましくは95〜99%以上同一で、配列の同一性は、好ましくは、特に抗体の相補性決定領域に関するものである。また、本発明に係るリガンドは、同等の能力をもつ合成ペプチドも含む。本発明に係る医薬組成物は、上記成分を、治療法または予防法に関して後に示すように、治療上有効な量含まなければならない。
【0076】
本発明に係る医薬組成物において用いられる適当な医薬担体については、例えば、レミントンの薬化学(Remington’s Pharmaceutical Science)、第16版(1980)に記載されており、それらの処方は当業者に周知されている。それらには、あらゆる溶媒、分散媒体、被覆剤、抗細菌剤ならびに抗菌剤(例えばフェノール、ソルビン酸、クロロブタノール)、等張剤(糖類または塩化ナトリウムなど)などが含まれる。組成物中のモノクローナル抗体活性成分の作用持続時間を調節するために補助成分を含ませることもできる。
【0077】
このようにして、例えば、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、エチレン酢酸ビニル共重合体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、硫酸プロタミンなど、適当なポリマーを選択することによって、放出制御組成物を完成させることができる。また、薬物の放出速度と作用持続時間は、モノクローナル抗体活性成分を、例えば、ヒドロゲル、ポリ乳酸、ヒドロキシメチルセルロース、ポリメチルメタクリル酸、およびその他上記ポリマーなどのマイクロカプセルのような粒子の中に入れることによって調節することもできる。このような方法には、リポソーム、マイクロスフィア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、ナノカプセルなどのコロイド薬物輸送系(colloid drug delivery system)も含まれる。投与経路によって、活性成分を含む医薬組成物は保護用被覆剤を必要とする。注射用に適した薬物の形態には、滅菌水溶液もしくは分散液、およびそれを即時調製するための滅菌粉剤などがある。したがって、典型的な担体には、生体適合性水性緩衝液、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、およびそれらの混合液などが含まれる。
【0078】
また、本発明は、FVIIIのC2ドメインに対するFVIII阻害抗体に対するモノクローナル抗イディオタイプ抗体の薬剤としての使用を提供する。より好ましくは、本発
明において使用される薬剤は、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する血友病患者における出血を低下、および/または予防、および/または治療するための手段である。前記リガンドは、例えば、静脈内、動脈内、非経口、またはカテーテル化など、当技術分野において周知の方法で提供することができる。
【0079】
したがって、本発明は、哺乳動物、好ましくはヒトにおけるFVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する患者、より具体的には、血友病患者における出血を予防、および/または治療、および/または抑制するための治療法および/または予防法であって、どのような治療もしくは予防、または血液凝固の低下を必要とする哺乳動物に、本明細書において上記開示したようなリガンドを治療上有効量投与することを含む方法を提供する。好ましくは、上記リガンドは、細胞株14C12から得られるモノクローナル抗体、または抗原結合断片Fab、Fab’もしくはF(ab’)2、または相補性決定領域(CDR)を含む1個以上のペプチド、可溶性もしくは膜固定された一本鎖可変部断片(scFV)、一本鎖可変部ドメイン、またはこれらの要素を改変したものもしくは組み合わせたものである。選択的には、上記治療法は、FVIIIを患者に投与することと併用される。
【0080】
ここで、治療上有効な量とは、治療すべき動物の体重1キログラム当たり約1マイクログラムから約10ミリグラム、より好ましくは、体重1キログラム当たり約10マイクログラムから約1ミリグラム、さらに一層好ましくは、体重1キログラム当たり約1〜約10ミリグラムである。ほとんどのIgG抗体の半減期が長いことを考慮すると、当然ながら、このクラスのモノクローナル抗体である本発明に係るリガンドは、治療周期を好適なものとし、患者の安楽に役立つといえる。
【0081】
インヒビターを有する血友病A患者は、しばしば、FVIIIのC2ドメインに対する抗体を産生する。したがって、細胞株14C12によって産生される抗体などの本発明に係るリガンドは、例えば、外科的処置前などの緊急事態においても、また、Ab 14C12が、対応する抗C2抗体をもつB細胞のアポトーシスを誘導することができる、より長期的な治療においても、そのような患者の治療に有効である。
【0082】
細胞株14C12の抗イディオタイプ抗体であるAB 14C12などの本発明に係るリガンドは、機能的凝血アッセイ法において、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体のFVIII阻害特性を、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、また最も好ましくは90%以上中和する能力を有する。
【0083】
本明細書を読んだ当業者には、AB 14C12の配列に関する知識、およびC2ドメインと組み合わせたときのBO2C11 Fab断片の結晶構造に関する知識とから、Ab 14C12の変異体がいくつか考えられることが理解できよう。したがって、点突然変異をAb 14C12のVH領域の中に導入して、C2の内部イメージを補強することができ、それによって、BO2C11などのC2結合に対するAb 14C12の阻害能力を補強することができる。または、C2の内部イメージを維持の有無にかかわらず、BO2C11とAb 14C12の間で接触する残基の数を増やすように配列を改変することができる。この方法の特定の局面は、BO2C11の枠組み領域に含まれるアミノ酸を認識する接触残基を含む14C12変異抗体を得ることである。後者は、同じようなC2結合性を有する他の抗体同様、DP5重鎖サブファミリー遺伝子セグメントに属する(Jacquemin MGら、(1998)Blood 92: 496−506)。ヒトのレパートリーにおいてDP5ファミリーの仲間が出現する頻度は非常に低いため、Ab
14C12を使用して、DP5サブファミリー全部を中和することができ、それによって、VHドメインがVh1遺伝子ファミリーに由来するDP5 VH遺伝子セグメントによってコードされている阻害抗体のすべてを中和することができる(Jacquemin
ら、(1998)前掲;Van den Brinkら、(2000)Blood 99:2828−2834)。
【0084】
当業者の通常の知識によって、抗体14C12からさまざまな合成ペプチドを調製することができる。それらのうちの1個以上を、単独または組み合わせて、インビボでBO2C11様抗体を中和するために用いることができる。好適な実施形態において、これらのペプチドは、Ab 14C12の重鎖の相補性決定領域(CDR)に由来し、アミノ酸配列GYTFTSSVMHWL[SEQ ID NO:5]、GYINPYNDGTKYNEKFTA[SEQ ID NO:6]、およびSGGLLRGYWYFDV[SEQ ID NO:7]を有するペプチドで表される。別の好適な実施形態において、これらのペプチドは、Ab 14C12の軽鎖の相補性決定領域(CDR)に由来し、アミノ酸配列RASQDITNTLH[SEQ ID NO:8]、YVSQSIS[SEQ ID
NO:9]、およびQQSTSWPYT[SEQ ID NO:10]を有するペプチドで表される。したがって、1つの実施形態では、Ab 14C12の相補性決定領域(CDR)に由来する合成ペプチドを用いて、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体を有する患者に手術前に注入する。これらのペプチドを阻害抗体と併用して、その阻害能力を中和する。さらに別の実施形態においては、さまざまなCDRの配列に、適当な三次元立体構造を維持するのに適したリンカーポリペプチド配列を組み合わせることによって組換えポリペプチドを作製する。このポリペプチドは、手術などの緊急処置の前に患者に投与される。
【0085】
Ab 14C12など、本発明に係る抗イディオタイプ抗体の別の応用は、免疫系によるFVIIIインヒビターの産生を不活性化させるためにそれらを用いることである。例えば、本発明に係る抗イディオタイプ抗体を用いて、抗C2抗体を有するB細胞のアポトーシスを誘導することができる。記憶細胞またはある種の抗体産生細胞などのB細胞は、分泌型と同じ表面抗体を発現する。B細胞の表面でイディオタイプが架橋されると、細胞の増殖またはアポトーシスの阻害をもたらすシグナルが伝達される。
【0086】
本発明に係る抗イディオタイプ抗体のさらなる応用は、FVIIIインヒビターの検出および/または精製におけるそれらの使用である。本発明に関連して利用することができる免疫学的検出法および精製法は、当技術分野において広範に記載されている。
【0087】
以下の実施例は、本発明を特定の実施形態に制限するものではなく、参照として本明細書に組み入れられる添付の図面と併せて理解可能になるものである。
(実施例)
【実施例1】
【0088】
:FVIIIインヒビターBO2C11に対するモノクローナル抗体の作製
第VIII因子特異的ヒトIg4κ BO2C11抗体を、マウスにおいて抗イディオタイプ抗体を作製するために使用した。BO2C11の特性は、Jacquemin MGら、(1998)Blood 92:496−506に記載されている。BO2C11の可変部軽鎖および重鎖の塩基配列およびアミノ酸配列は、PCT特許出願:WO01/04269に開示されている。
【0089】
Balb/cマウスを、初回はフロイント完全アジュバントで、次はフロイント不完全アジュバントで乳化したBO2C11で足蹠に免疫した。このような注射を4回行った後、同じアイソタイプのその他の抗FVIII抗体や無関係な抗体ではなく、BO2C11を認識する抗体の存在を調べるために、ELISAシステムでマウスの血清をテストした。特異的抗BO2C11抗体を産生するマウスから得られた脾臓細胞をミエローマ細胞株と融合して、B細胞クローンを作製した(Kohler Gら、(1978)Eur J
Immunol 8:82−88)。これらを培養によって展開し、BO2C11特異性についてテストした。1個のクローン14C12が、BO2C11でコートしたポリスチレン製のプレートに効果的に結合した。
【0090】
細胞株14C12を、2002年7月30日に、LMBP(プラスミドコレクション、Laboratorium voor Moleculaire Biologie,Universiteit,K.L.Ledeganckstraat 35,9000 Gent,Belgium)のベルギー微生物協調収集機関(Belgian Coordinated Collections of Micro−organisms:BCCM)に、寄託番号LMBP 5878CBとして寄託した。
【実施例2】
【0091】
:細胞株14C12から得られる抗イディオタイプ抗体のインビトロにおける性質
細胞株14C12から得られる抗イディオタイプ抗体(Ab 14C12)のインビトロにおける性質を、インビトロアッセイ系で調べた。Ab 14C12は、BO2C11に結合して、BO2C11がその標的抗原であるFVIIIのC2ドメインに結合するのを用量依存的に阻害することが示された。さらに、BO2C11のFVIII阻害特性を中和するAb 14C12の能力を機能的凝血アッセイ法においても測定した。発色(第VIII因子発色試験(デイドベーリング社(Dade Behring)、ドイツ、マールブルク(Marburug))は、トロンビンによって特異的に切断される無色の基質を変換することに基づく。このテスト系は、FVIII以外のトロンビンを産生するのに必要なすべての試薬を含んでいる。したがって、長時間にわたる発色の強度は、この系に加えられたFVIIIの量に比例する。BO2C11(0.1μg/ml)を加えると、基質のFVIII依存型変換(0.3 IU/ml)が完全に阻害される。この検査系でFVIII(0.3 IU/ml)を100%阻害できる最低のBO2C11濃度であると決定されている0.1μg/mlに最終濃度がなるよう、BO2C11を発色アッセイに加えた。FVIIIを加える前に、さまざまな濃度のAb 14C12を、この固定した量のBO2C11とインキュベートした。そして、この混合液を発色アッセイに適用した。
【0092】
図1は、Ab 14C12を検査系に加えると、用量依存的にBO2C11の阻害能力を中和することを示している。さらに、50%の中和が、BO2C11と1/1のモル比で得られる。
【0093】
Ab 14C12がポリクローナル抗FVIII抗体を中和する能力を、上記したような発色アッセイ法によってテストした。この目的のために、BO2C11が由来する患者のポリクローナル抗体を、BOC2C11の代わりにこの系に加えた。このような条件下で、Ab 14C12を段階希釈して加えると、最大60%までの中和が得られた。このようなポリクローナル抗体製剤は、FVIIIの重鎖、すなわち、C2ドメインとは完全に別のエピトープに対する抗体をかなりの量含んでいることが知られている。したがって、ポリクローナル抗体によって60%の中和が見られたことは、Ab 14C12が抗C2インヒビターを中和する能力を過小評価していることであるとの結論に達した。
【0094】
また、Ab 14C12は、無関係な患者からのポリクローナル抗体の阻害特性も有意に中和した。このように、ウサギ網状赤血球を用いた転写/翻訳を併用することによって(プロメガ社(Promega)のキット、TNT結合網状赤血球ライセート(TNT couplet reticulocyte lysate)、米国マジソン(Madison))放射性標識したFVIIIドメインを作製する免疫沈殿アッセイに、ポリクローナル抗体をさまざまな希釈率で加えた。産生された微量の放射性標識ドメインを、抗体サンプルおよびプロテインAセファロースと混ぜる。実質的にすべての抗体が捕捉される
濃度でセファロースビーズを加える。遠心分離および洗浄を行った後、テストされるFVIII断片に対する特異性もつ抗体の存在量に比例するサンプルの放射活性を計測する。このようにして、血縁関係にない6人の血友病A患者のポリクローナル抗体と、C2ドメインに対するインヒビターを、C2ドメインが翻訳されるアッセイに一定の濃度で加えた。そして、すべてのサンプルに濃度を上げながらAb 14C12を加えた。6サンプルのうち3つで、ポリクローナル抗体の阻害特性が有意に(およそ50%)中和され、Ab
14C12が、ヒト抗C2抗体上で広く発現されるエピトープを認識することが示された。
【実施例3】
【0095】
:Ab 14C12のインビボでの特性
Ab 14C12が、BO2C11のFVIII阻害特性をインビボで中和することができるかを、ヒト組換えFVIIIによって再構築されたFVIII−/− C57Bl/6マウス(Singh Iら、(2002)Blood 99:3235−3240)で調べた。
【0096】
このようなマウスは、FVIII活性または抗原を検出できず、それ以外には正常な表現型をもつため、血友病Aの動物モデルとして適当であると考えられている(Reipert BMら、Thromb Heamost 2000、84:826−32)。FVIII−/−C57Bl/6マウスの尾静脈に1 IUのヒトFVIIIを投与したところ、10分後、110ng/mlの血漿濃度、すなわち、ヒト血漿の正常なFVIII濃度(1 IUまたは192 ng/ml)の±60%となった。このようなマウスに、最初0.5μgのBO2C11を注射すると、FVIII凝血促進作用が98%阻害される。そして、このモデルを用いて、Ab 14C12が、FVIIIのBO2C11依存的阻害を中和することができるか否かを測定した。そのため、さまざまな濃度のAb 14C12を、一定量のBO2C11(0.5μg)と、この複合体をFVIII−/−C57Bl/6マウスに注射する前に混合するか、直接マウスに注射してから0.5μgのBO2C11と1 IUのFVIIIを注射した。
【0097】
0.5μgのBO2C11を事前に投与したところ、FVIIIの凝血促進作用を98%阻害した(図2A)。一定量のBO2C11を、さまざまな濃度のAb 14C12(0.1〜10μg)をプレインキュベートし、その混合液をFVIII−/−マウスに注入した。BO2C11によるFVIII阻害の用量依存的中和が見られた(図2B)。Ab 14C12の後BO2C11とFVIIIを連続投与して、この実験を反復したところ、用量依存的な14C12による中和が得られた(図2C)。
【0098】
図2A、図2B、および図2Cから、Ab 14C12が、BO2C11の阻害特性を用量依存的に中和することが分かり、それによって、FVIIIのC2ドメインに対するインヒビターを有する血友病A患者の治療としてAb 14C12に可能性があることが確認された。
【実施例4】
【0099】
:BO2C11に対するAb 14C12の結合の特徴
Ab 14C12の徹底的な生化学的評価を行った。Ab 14C12は、表面プラズモン共鳴システムを用いて測定すると、Kon値およびKoff値がそれぞれ105m-1S-1、10-5S-1という高いアフィニティーでBO2C11に結合する。常法によってAb 14C12のVHおよびVLドメインの配列を決定した(図3)ところ、Ab 14C12は、κ軽鎖をもち、IJHV1重鎖抗体ファミリーに属する。Ab 14C12が、FVIII C2ドメインへのBO2C11による結合を阻害できることから、発明者らは、Ab 14C12のVHおよびVLドメインの配列を、CD2の配列と比較してみようと
思い立った。VHのCDR1およびCDR2は、それぞれ、C2ドメインと同一または相同なアミノ酸残基を6個および7個含んでいる。CDR2は、C2領域のV2223〜T2237にほぼ同一であるが、この領域は、重要なリン脂質結合部位と、BO2C11に対する接触残基をいくつか含んでいる。さらに、BO2C11の可変部の配列(Jacquemin MGら、(1998)Blood 92:496−506)、およびC2と結合したその結晶構造(Spiegel P.C.Jr.ら、(2001)B1ood 98:13−19)に基づいて、BO2C11とAb 14C12の間の推定接触残基を同定したところ、その中には、BO2C11の可変部の枠組みの中に位置しているものがある。まとめて考えると、これらのデータは、Ab 14C12の重鎖の可変部は、13個の同一または相同なアミノ酸残基からなるC2内部イメージと、BO2C11の可変部に対する接触残基をいくつか含むことを示している。
【0100】
したがって、Ab 14C12は、FVIIIのC2ドメインに対する抗イディオタイプ抗体の最初の実例に相当し、それを投与すると、血友病AのマウスモデルにおいてインビボでのFVIII活性を回復する。そのようなものとして、FVIIIインヒビターを有する血友病A患者を効果的に治療する方法を開示している。
【0101】
抗FVIII C1ドメインインヒビターに対するイディオタイプ抗体で、B6A2C1と名づけられた抗体(Gilles JGら、(1999)Blood 94、要旨2048、460a)が、FVIIIへのBO2C11の結合を阻害できるか否かを判定するために、この抗体の段階希釈液を作成して、FVIIIでコートしたポリスチレン製プレートへのBO2C11の結合を阻害できるかをテストした。図4は、阻害が起こらなかったことを示しており、B6A2C1は、BO2C11に対する特異性を全く発現しなかったことを示している。
【実施例5】
【0102】
:Ab 14C12とFVIIIのC2ドメインにおける相同性解析
それぞれ実施例2および3に記載されたインビトロおよびインビボにおける抗イディオタイプ抗体(Ab 14C12)の性質(上記参照)は、抗イディオタイプ抗体の可変部とFVIIIのC2ドメインとの間に広範な相同性が存在することを示唆していた。C2ドメインの結晶構造が得られている(Prattら(1999)、Nature 402:439−442)。そのため、Ab 14C12の重鎖および軽鎖の可変部の配列を、C2ドメインの配列と並べてみた。
【0103】
VH領域について顕著な相同性が見られた。表1は、31個のアミノ酸が同一または相同であることが分かったことを示している。これには、CDR領域に関連する13残基も含まれているが、CDR1(H1〜16残基)およびCDR3(H3〜6残基)にクラスター分けされた。興味深いことに、枠組み領域(18アミノ酸)に位置する残基からの顕著な寄与が見られる。さらに、VH領域の2残基のみ(星印で示す)が、Ab 14C12の生殖細胞系列の配列から変異している。C2ドメインの結晶構造によれば(Prattkら(1999)、Nature 402:439−442)、Ab 14C12のVH領域同様、31残基のすべてがC2の表面に露出している。このアラインメントの顕著な特徴は、Ab 14C12のVH CDR3におけるLeu102およびLeu103に対応するLeu2251およびLeu2252(全表面で180A)からなる2個のC2リン脂質結合部位の1つの関与を示しているが、一方で、第二の部位(Met2199およびPhe2002)は示されていないことである。まとめると、これらの観察結果は、Ab 14C12のVH領域が、その生殖系列の立体配置では、C2ドメインに広範な相同性を有することを示している。図5は、C2ドメインをAb 14C12のVH領域と重ね合わせたものを図示している。
【0104】
表1に示されている情報のもう1つの重要な側面は、C2ドメインの表面にある残基を模倣するAb 14C12のVHのアミノ酸残基が、連続した配列の一部ではなく、どちらかといえば、VH全体(S7〜S121残基まで)に分散しているという点である。この発見は、FVIIIのC2ドメインに対するインヒビターが、配列上のエピトープではなく立体構造上のエピトープに結合することが示されたことと符合する(例えば、BO2C11の結晶構造とC2ドメインについては、Spiegel P.C.Jr.ら、(2001)B1ood 98:13−19参照)。
【実施例6】
【0105】
:Ab 14C12とBO2C11の相互作用領域の決定
ある抗原に対する抗体の特異性は、通常、1つか2つの相補性決定領域(CDR)、大抵の場合はVH領域に位置する残基によって決まる。結合は、最も好適な熱力学条件に対応して生じる(Manivelら、(2000)Immunity 13:611−620)。その後、抗原に曝露すると、抗体の反応は成熟すると言われており、VH領域およびVL領域にランダムに変異を導入することを含むプロセスになる。この後、抗原に対する結合活性に基づいて選択が起こる。したがって、完全に成熟した抗体の結合活性(この場合はFVIIIに対する、患者のB細胞の天然のレパートリーから検出または単離できる結合活性)は、VH領域およびVL領域全域にわたって存在する残基によってもたらされる協調力(cooperative forces)によって決まる。
【0106】
Ab 14C12とBO2C11の間の相互作用が、VH領域の中にある少数の不連続領域に位置する残基によって決まるのか、それとも、VHおよびVLの領域全域にわたって分散している残基によって決まるのかを判定するために、BO2C11のVH領域およびVL領域と、Ab 14C12のVH領域およびVL領域配列との間でアラインメントを行った。表2に示された結果は、相互作用への顕著な寄与は、両抗体のVH領域およびVL領域に分散している残基によってもたらされることを示している。このデータによって、FVIIIインヒビターを有する患者に投与するための抗イディオタイプ抗体を得る好適な方法は、完全な抗FVIII抗体を使用することであることが確認された。
【実施例7】
【0107】
:Ab 14C12のFab断片によるBO2C11の阻害活性の中和
当業者に周知の方法に従い、パパインアガロースビーズ(ピアス社(Pierce)、イリノイ州ロックフォード(Rockford,IL)を用いた分解によってAb 14C12のFab断片を調製し、プロテインAセファロースカラムを通過させて精製した。
【0108】
インヒビターBO2C11の存在下で、Ab 14C12のFab断片がFVIIIの機能を回復できるかを評価するために、我々は、まず、実施例2(上記参照)に記載されているように、機能的発色アッセイ法(第VIII因子発色試験、デイドベーリング社(Dade Behring)、ドイツ、マールブルク(Marburug))において、1 IU/mlの組換えFVIIIを用いて、FVIII活性を80%阻害するのに必要なBO2C11の濃度を測定した。FVIII活性を80%阻害するのに必要なBO2C11の量を、等量でさまざまな濃度のAb 14C12のFab断片と混合した。組換えFVIIIを加える前に、混合液を37℃で1時間インキュベートした。さらに37℃で1時間インキュベートした後、この混合液のアリコット(等量液)を取り出してから、発色アッセイ試薬に加えた。対照実験には、単独、または無関係の特異性をもつAbとともにインキュベートした組換えFVIIIが含まれた。図6は、BO2C11/Ab 14C12 Fabのモル比が1/8で、Fab断片がBO2C11のインヒビター活性を50%中和することを示している。
【実施例8】
【0109】
:FIIIのVWFおよびPLへの結合に対するAb 14C12の影響
FVIIIのC2ドメインは、リン脂質(PL)の結合部位、およびフォン・ヴィルブラント因子(vWF)の主要結合部位を含む。PLへの結合は、FVIIIの生理活性にとって必須である。すなわち、FIXおよびFXと第X因子活性化複合体(tenase
complex)を形成する。vWFは、シャペロンタンパク質として働き、FVIIIを早期分解およびクリアランスから防御する。
【0110】
Ab 14C12が、vWFまたはPLいずれかに対するFVIIIの結合を阻害できるかを、以下のようにして調べた。マイクロタイタープレートを抗vWF抗体でコートした後、別記した(Jacquemin Mら、(1998)Blood 95:156−163)とおりにvWFを精製した。Ab 14C12の希釈液(100〜0.3μg/ml)を調製して、各希釈液の等量液を、vWFでコートしたプレートに加えた後、1 IU/mlの最終濃度でFVIIIを加えた。プレートを室温で2時間インキュベートした。ビオチン標識したmAb15(重鎖上に存在するFVIIIの遠位部位を認識する抗FVIII抗体)を2μg/ml加え、その後、アビジン−ペルオキシダーゼおよび特異的基質を加えることによって、vWFでコートしたプレートへのFVIIIの結合を検出した。PLへのFVIIIの結合を測定するためには、メタノールで10μg/mlに希釈したホスファチジルセリンでプレートをコートし、vWFでコートしたプレートにおけると同様にアッセイを行った。
【0111】
vWFおよびPLのいずれに対するFVIII(したがってC2ドメイン)の結合の阻害は観察されなかった(図7)。Ab 14C12の代わりにBO2C11を用いた対照実験では、vWFでコートしたプレートとPLでコートしたプレートの両方とも結合が完全に阻害されることが示された(データ不表示;Jacquemin Mら、(1998)Blood 95:156−163の図3参照)。したがって、C2ドメインとAb 14C12のVHの間の広範な相補性は、FVIIIが、PLおよび/またはVWFに結合するのを阻害するのに十分ではなと結論された。したがって、C2ドメインに対するインヒビターを有する患者を治療する方法として、Ab 14C12、またはその派生抗体を投与しても、FVIIIの機能的特性を阻害するという望ましくない結果を生じることはない。
【実施例9】
【0112】
:FVIIIのクリアランスに対するAb 14C12の影響
循環血からのFVIIIのクリアランスは、少なくとも部分的には、LRPレセプターにC2ドメインが結合することに起因する(Saenkoら、(1999)J Biol
Chem 274:37685−37692;Lentingら、(1999)J Biol Chem 274:23734−23739)ため、Ab 14C12によって抑制できることがある。このことを、尻尾に1 IUのヒト組換えFVIIIを注射して再構築したFVIII−/− C57Bl/6マウスで調べた。以前の計算では、このモデルにおけるヒトFVIIIの平均t1/2は165分であることが示された。Ab 14C12がFVIIIのクリアランスに変化を与えなかったことを確認するために、C57BL/6 FVIII−/−マウスに10μg/mlのAb 14C12、または無関係な特異性をもつIgG2aモノクローナル抗体を注射し、その15分後、1 IUのヒト組換えFVIIIを静脈注射した。3時間後と6時間後、静脈穿刺によって血液サンプルを回収した。機能的発色アッセイ法(第VIII因子発色試験、デイドベーリング社(Dade Behring)、ドイツ、マールブルク(Marburug))を用いて残留FVIII活性を評価した。図8に示すように、Ab 14C12が存在するとき、FVIII t1/2に有意な差は見られなかった。したがって、C2ドメインに対するインヒビターを有する患者を治療する方法として、Ab 14C12、またはその派生抗体を投与しても、FVIIIの生理学的クリアランスを変化させることはありえない。
【実施例10】
【0113】
:B02C11を産生するB細胞株へのAb 14C12の結合
Ab 14C12を用いて、記憶B細胞、および、FVIII機能を阻害する抗体を産生するいくつかのB細胞株を標的することができる。このようなBリンパ球は、その表面に抗体の分泌型の可変部領域と同じ可変部領域をもつ抗体分子を発現する。Ab 14C12のその標的細胞への結合を用いて、細胞死すなわちアポトーシスをもたらすシグナルを伝達することができ、それによって、抗FVIIIインヒビターを産生する細胞を免疫系から極めて特異的に排除することができる。
【0114】
BO2C11を産生するB細胞株(Jacquemin Mら、(1998)Blood 95:156−163)は、BO2C11可溶性抗体を産生し、その表面に抗体の可変部を発現する。Ab 14C12が細胞表面に結合できるかを判定するために、0.5%のウシ血清アルブミンと2 mM EDTAを含むバッファでBO2C11細胞株を洗浄し、400 gで5分間遠心分離し、100μlに5×105細胞の濃度になるよう再懸濁した。そして、1または10μg/mlという2種類の濃度を使用して、Ab 14C12またはIgG2a偽(Sham)抗体のいずれかの抗体を細胞懸濁液に加えた。混合液を氷上で20分間インキュベートし、上記したように、遠心分離によって洗浄し、バッファに再懸濁する。次に、FITC結合抗マウスIgG抗体を最終濃度1μg/mlで各細胞懸濁液に加え、氷上でさらに20分間インキュベートした。上記したように、細胞懸濁液を遠心分離によって最後に洗浄し、バッファに再懸濁した。蛍光細胞分析分離装置でカウントするために、最終懸濁液を、500μlで細胞濃度が1×105となるように作成した。
【0115】
図9は、Ab 14C12とともにインキュベートした後、BO2C11細胞株が、Ab 14C12で特異的に標識され、細胞の68%が抗体に対して陽性を示したが、一方、同じサブクラスの偽抗体は何の反応性も示さなかったことを示している。
【0116】
このように、Ab 14C12は、BO2C11に同一または類似する抗体を産生する標的細胞に特異的な試薬として使用することができ、それによって、高度に特異的な状況でアポトーシスを誘導する方法が提供される。
【0117】
【表1】
【0118】
表1:Ab 14C12のVHとFVIIIのC2ドメインの配列アラインメント:同一および相同な残基を、それぞれ「=」および「±」で表示した。mAb 14C12の変異したVH残基を星印で示す。mAb 14C12と異なる推定C2残基を(C)で示す。CDR:相補性決定領域、FW:枠組み
【0119】
【表2】
【0120】
表2:mAb 2C11とmAb 14C12の配列対応性。
【0121】
相互作用の強さを、それぞれ「>>」および「>」で表示してある。mAb 14C12の変異したVH残基を星印で示す。mAb 2C11と異なる推定C2残基を(C)で示す。CDR:相補性決定領域、FW:枠組み、CH1:重鎖第一定常ドメイン
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の実施形態に従ってAb 14C12によって中和された、BO2C11によるFVIII阻害の用量依存的中和を示す。
【図2a】本発明の実施形態による、FVIII−/− C57B1/6マウスにおける再構築実験の結果を示し、パネルAはAb BOC2C11の存在下または不存在下における第VIII因子による再構築を示す。Ab BOC2C11およびAb 14C12は予めインキュベートした。
【図2b】本発明の実施形態による、FVIII−/− C57B1/6マウスにおける再構築実験の結果を示し、パネルBはBOC2C11によるFVIII阻害のAb 14C12による用量依存的中和を示す。Ab BOC2C11およびAb 14C12は予めインキュベートした。Ab14C12投与はBO2C11およびFVIIIの後に行った。
【図2c】本発明の実施形態による、FVIII−/− C57B1/6マウスにおける再構築実験の結果を示す。Ab BOC2C11およびAb 14C12は予めインキュベートした。Ab14C12投与はBO2C11およびFVIIIの後に行った。
【図3a】抗イディオタイプ抗体14C12の重鎖の塩基配列およびアミノ酸配列を示す。CDR領域をアミノ酸配列の下に示した。
【図3b】抗イディオタイプ抗体14C12の軽鎖の塩基配列およびアミノ酸配列を示す。CDR領域をアミノ酸配列の下に示した。
【図4】C1ドメインに対するインヒビターに対するマウス抗イディオタイプモノクローナル抗体(B6A2C1)による、C1ドメインに対するヒト阻害抗体(2E9)およびC2ドメインに対するヒト阻害抗体(BO2C11)へのFVIIIの結合の中和を示す。
【図5】FVIIIのC2ドメイン(黒色)の、Ab 14C12のVH領域との重ね合わせを示す。ここで、濃い灰色の線は、FVIIIのC2ドメインを表し、明るい灰色の線は14C12のVHドメインを表す。
【図6】さまざまな濃度のAb 14C12を加えたときの、FVIIIに対するBO2C11の阻害活性の中和を示す。FVIII活性は、機能的発色アッセイ法で測定した。
【図7】Ab 14C12によるFIIIのリン脂質またはVWFへの結合阻害の欠如を示す。ホスファチジルセリン(パネルA)またはVWFに対する抗体および精製VWF(パネルB)でコートしたマイクロタイタープレートにFVIIIを加えた。濃度を増加させながらAb 14C12を加えて、PLまたはVWFへの結合を阻害するAb 14C12の能力を測定した。
【図8】循環血からのFVIIIのクリアランスに対するAb 14C12の影響。FVIII−/−C57Bl/6マウスにIVを、FVIIIのみ(FVIII)と注射するか、またはAb 14C12と注射した15分後にFVIIIと注射した(VIII+14C12)。3時間および6時間後にFVIIIの機能を測定して、FVIIIのクリアランス率を評価した。
【図9】B02C11を産生するB細胞へのAb 14C12の結合。表面抗体を有するBO2C11リンパ芽球腫細胞株をAb 14C12とともにインキュベートするか(上図)、同じサブクラスの偽(sham)抗体とインキュベートした(下図)。上図に示す曲線が右に移動しているのは、68%のリンパ芽球腫細胞株BO2C11がAb 14C12によって認識されることを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト第VIII因子阻害抗体に対するモノクローナル抗イディオタイプ抗体であって、前記阻害抗体が第VIII因子のC2ドメインに対するものである、モノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項2】
さらに、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体によってもたらされるFVIIIの凝血活性阻害を少なくとも50%中和することができることを特徴とする、請求項1に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項3】
リン脂質および/またはvWFへのFVIIIの結合を阻害しない、請求項1または2に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項4】
前記第VIII因子阻害抗体が、VH1遺伝子ファミリーに由来するDP5 VH遺伝子セグメントによってコードされている可変部重鎖VHドメインを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項5】
第VIII因子阻害抗体がBO2C11である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項6】
前記抗体の可変部重鎖および軽鎖の相補性決定領域が、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10に示されたアミノ酸配列の1つに70%以上の配列同一性を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項7】
前記抗イディオタイプ抗体の可変部重鎖が、配列番号:1に示された塩基配列もしくは配列番号:1に70%以上配列が同一である塩基配列にコードされ、および/または、抗イディオタイプ抗体の可変部軽鎖が、配列番号:3に示された塩基配列もしくは配列番号:3に70%以上配列が同一である塩基配列にコードされている、請求項1〜5のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項8】
F(Ab’)断片、Fab’断片、Fab断片、または前記断片を改変したものである、請求項1〜6のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項9】
ヒト化モノクローナル抗イディオタイプ抗体である、請求項1〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項10】
14C12、またはそれから派生した抗体である、請求項1〜9のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項11】
配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10より選択されたアミノ酸配列を有するペプチドに、アミノ酸配列において70%以上同一である、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10より選択されたアミノ酸配列を有する、単離精製ペプチド。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体を発現する、モノクローナル細胞株。
【請求項13】
BCCMに寄託番号LMBP5878CBとして寄託された細胞株14C12である、
請求項12に記載のモノクローナル細胞株。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体、または請求項12に記載の精製単離ペプチドを、少なくとも1種類の医薬的に許容される担体と混合して含む、医薬組成物。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体、または請求項12に記載の精製単離ペプチドの薬剤としての使用。
【請求項16】
FVIII阻害抗体の作用を患う患者を治療する方法であって、治療上有効な用量の請求項14に記載の医薬組成物を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項17】
FVIII阻害抗体を有する患者における抑制できない出血を治療または予防する方法であって、治療上有効な用量の請求項14に記載の医薬組成物を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項18】
FVIIIを前記患者に投与することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が血友病患者である、請求項16〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
FVIIIインヒビターに対する薬剤を製造するためのモノクロナール抗イディオタイプ抗体を開発するための方法であって、第8因子のC2ドメインに対する阻害抗体によって動物を免疫することと、a)FVIIIインヒビターの抗凝血活性を50%以上中和し、b)FVIIIがvWFおよびリン脂質に結合することと相互作用しない抗体を作製するために、前記動物の不死化脾臓細胞をスクリーニングすることとを含む、方法。
【請求項21】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗イディオタイプ抗体の、FVIII阻害抗体を検出または精製するための使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト第VIII因子阻害抗体に対するモノクローナル抗イディオタイプ抗体であって、前記阻害抗体が、第VIII因子のC2ドメインに対するものであり、前記抗体の可変部重鎖の相補性決定領域が、配列番号:5、配列番号:6、または配列番号:7に示されたアミノ酸配列の1つに70%以上の配列同一性を有し、前記抗体の可変部軽鎖の相補性決定領域が、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10に示されたアミノ酸配列の1つに70%以上の配列同一性を有することを特徴する、モノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項2】
ヒト第VIII因子阻害抗体に対するモノクローナル抗イディオタイプ抗体であって、前記阻害抗体が、第VIII因子のC2ドメインに対するものであり、前記抗体の可変部重鎖の相補性決定領域が、配列番号:5、配列番号:6、または配列番号:7に示されたアミノ酸配列の1つに95%以上の配列同一性を有し、前記抗体の可変部軽鎖の相補性決定領域が、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10に示されたアミノ酸配列の1つに95%以上の配列同一性を有することを特徴とする、モノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項3】
前記抗イディオタイプ抗体の可変部重鎖が、配列番号:1に示された塩基配列、もしくは配列番号:1に95%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ、または、抗イディオタイプ抗体の可変部軽鎖が、配列番号:3に示された塩基配列、もしくは配列番号:3に95%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされている、請求項1または2に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項4】
前記抗イディオタイプ抗体の可変部重鎖が、配列番号:1に示された塩基配列、もしくは配列番号:1に70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ、かつ、抗イディオタイプ抗体の可変部軽鎖が、配列番号:3に示された塩基配列、もしくは配列番号:3に70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされている、請求項1または2に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項5】
F(Ab’)2断片、Fab’断片、Fab断片、または前記断片を改変したものである、請求項1〜4のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項6】
ヒト化モノクローナル抗イディオタイプ抗体である、請求項1〜5のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項7】
14C12、またはそれから派生した抗体である、請求項1〜6のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項8】
第VIII因子のC2ドメインに対する抗体に結合可能な単離精製ペプチドであって、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10より選択されたアミノ酸配列、または、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10より選択されたアミノ酸配列に95%以上アミノ酸配列が同一性を有する配列を含む、ペプチド。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体を発現する、モノクローナル細胞株。
【請求項10】
BCCMに寄託番号LMBP5878CBとして寄託された細胞株14C12である、請求項9に記載のモノクローナル細胞株。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体、または請求項8に記載の単離精製ペプチドを、少なくとも1種類の医薬的に許容される担体と混合して含む、医薬組成物。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体、または請求項8に記載の単離精製ペプチドの、FVIII阻害抗体の作用を患う患者を治療するため、または、前記患者においてそのような作用を予防する薬剤を調製するための使用。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体、または請求項8に記載の単離精製ペプチドの、FVIII阻害抗体を有する患者における抑制不可能な出血を治療または予防する薬剤を調製するための使用。
【請求項14】
FVIIIをさらに含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
FVIIIインヒビターに対する薬剤を製造するためのモノクローナル抗イディオタイプ抗体を開発するための方法であって、第VIII因子のC2ドメインに対する阻害抗体によって動物を免疫することと、a)FVIIIインヒビターの抗凝血活性を50%以上中和し、b)FVIIIがvWFおよびリン脂質に結合することと相互作用しない抗体を作製するために、前記動物の不死化脾臓細胞をスクリーニングすることとを含む、方法。
【請求項16】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗イディオタイプ抗体、または請求項8に記載のペプチドの、FVIII阻害抗体を検出または精製するための使用。
【請求項1】
ヒト第VIII因子阻害抗体に対するモノクローナル抗イディオタイプ抗体であって、前記阻害抗体が第VIII因子のC2ドメインに対するものである、モノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項2】
さらに、FVIIIのC2ドメインに対する阻害抗体によってもたらされるFVIIIの凝血活性阻害を少なくとも50%中和することができることを特徴とする、請求項1に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項3】
リン脂質および/またはvWFへのFVIIIの結合を阻害しない、請求項1または2に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項4】
前記第VIII因子阻害抗体が、VH1遺伝子ファミリーに由来するDP5 VH遺伝子セグメントによってコードされている可変部重鎖VHドメインを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項5】
第VIII因子阻害抗体がBO2C11である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項6】
前記抗体の可変部重鎖および軽鎖の相補性決定領域が、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10に示されたアミノ酸配列の1つに70%以上の配列同一性を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項7】
前記抗イディオタイプ抗体の可変部重鎖が、配列番号:1に示された塩基配列もしくは配列番号:1に70%以上配列が同一である塩基配列にコードされ、および/または、抗イディオタイプ抗体の可変部軽鎖が、配列番号:3に示された塩基配列もしくは配列番号:3に70%以上配列が同一である塩基配列にコードされている、請求項1〜5のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項8】
F(Ab’)断片、Fab’断片、Fab断片、または前記断片を改変したものである、請求項1〜6のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項9】
ヒト化モノクローナル抗イディオタイプ抗体である、請求項1〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項10】
14C12、またはそれから派生した抗体である、請求項1〜9のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項11】
配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10より選択されたアミノ酸配列を有するペプチドに、アミノ酸配列において70%以上同一である、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10より選択されたアミノ酸配列を有する、単離精製ペプチド。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体を発現する、モノクローナル細胞株。
【請求項13】
BCCMに寄託番号LMBP5878CBとして寄託された細胞株14C12である、
請求項12に記載のモノクローナル細胞株。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体、または請求項12に記載の精製単離ペプチドを、少なくとも1種類の医薬的に許容される担体と混合して含む、医薬組成物。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体、または請求項12に記載の精製単離ペプチドの薬剤としての使用。
【請求項16】
FVIII阻害抗体の作用を患う患者を治療する方法であって、治療上有効な用量の請求項14に記載の医薬組成物を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項17】
FVIII阻害抗体を有する患者における抑制できない出血を治療または予防する方法であって、治療上有効な用量の請求項14に記載の医薬組成物を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項18】
FVIIIを前記患者に投与することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が血友病患者である、請求項16〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
FVIIIインヒビターに対する薬剤を製造するためのモノクロナール抗イディオタイプ抗体を開発するための方法であって、第8因子のC2ドメインに対する阻害抗体によって動物を免疫することと、a)FVIIIインヒビターの抗凝血活性を50%以上中和し、b)FVIIIがvWFおよびリン脂質に結合することと相互作用しない抗体を作製するために、前記動物の不死化脾臓細胞をスクリーニングすることとを含む、方法。
【請求項21】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗イディオタイプ抗体の、FVIII阻害抗体を検出または精製するための使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト第VIII因子阻害抗体に対するモノクローナル抗イディオタイプ抗体であって、前記阻害抗体が、第VIII因子のC2ドメインに対するものであり、前記抗体の可変部重鎖の相補性決定領域が、配列番号:5、配列番号:6、または配列番号:7に示されたアミノ酸配列の1つに70%以上の配列同一性を有し、前記抗体の可変部軽鎖の相補性決定領域が、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10に示されたアミノ酸配列の1つに70%以上の配列同一性を有することを特徴する、モノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項2】
ヒト第VIII因子阻害抗体に対するモノクローナル抗イディオタイプ抗体であって、前記阻害抗体が、第VIII因子のC2ドメインに対するものであり、前記抗体の可変部重鎖の相補性決定領域が、配列番号:5、配列番号:6、または配列番号:7に示されたアミノ酸配列の1つに95%以上の配列同一性を有し、前記抗体の可変部軽鎖の相補性決定領域が、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10に示されたアミノ酸配列の1つに95%以上の配列同一性を有することを特徴とする、モノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項3】
前記抗イディオタイプ抗体の可変部重鎖が、配列番号:1に示された塩基配列、もしくは配列番号:1に95%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ、または、抗イディオタイプ抗体の可変部軽鎖が、配列番号:3に示された塩基配列、もしくは配列番号:3に95%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされている、請求項1または2に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項4】
前記抗イディオタイプ抗体の可変部重鎖が、配列番号:1に示された塩基配列、もしくは配列番号:1に70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ、かつ、抗イディオタイプ抗体の可変部軽鎖が、配列番号:3に示された塩基配列、もしくは配列番号:3に70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされている、請求項1または2に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項5】
F(Ab’)2断片、Fab’断片、Fab断片、または前記断片を改変したものである、請求項1〜4のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項6】
ヒト化モノクローナル抗イディオタイプ抗体である、請求項1〜5のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項7】
14C12、またはそれから派生した抗体である、請求項1〜6のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体。
【請求項8】
第VIII因子のC2ドメインに対する抗体に結合可能な単離精製ペプチドであって、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10より選択されたアミノ酸配列、または、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10より選択されたアミノ酸配列に95%以上アミノ酸配列が同一性を有する配列を含む、ペプチド。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体を発現する、モノクローナル細胞株。
【請求項10】
BCCMに寄託番号LMBP5878CBとして寄託された細胞株14C12である、請求項9に記載のモノクローナル細胞株。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体、または請求項8に記載の単離精製ペプチドを、少なくとも1種類の医薬的に許容される担体と混合して含む、医薬組成物。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体、または請求項8に記載の単離精製ペプチドの、FVIII阻害抗体の作用を患う患者を治療するため、または、前記患者においてそのような作用を予防する薬剤を調製するための使用。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のモノクローナル抗イディオタイプ抗体、または請求項8に記載の単離精製ペプチドの、FVIII阻害抗体を有する患者における抑制不可能な出血を治療または予防する薬剤を調製するための使用。
【請求項14】
FVIIIをさらに含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
FVIIIインヒビターに対する薬剤を製造するためのモノクローナル抗イディオタイプ抗体を開発するための方法であって、第VIII因子のC2ドメインに対する阻害抗体によって動物を免疫することと、a)FVIIIインヒビターの抗凝血活性を50%以上中和し、b)FVIIIがvWFおよびリン脂質に結合することと相互作用しない抗体を作製するために、前記動物の不死化脾臓細胞をスクリーニングすることとを含む、方法。
【請求項16】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗イディオタイプ抗体、または請求項8に記載のペプチドの、FVIII阻害抗体を検出または精製するための使用。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2006−515565(P2006−515565A)
【公表日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−526816(P2004−526816)
【出願日】平成15年7月28日(2003.7.28)
【国際出願番号】PCT/EP2003/008365
【国際公開番号】WO2004/014955
【国際公開日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(502014363)ディ・コレン・リサーチ・ファウンデイション・フェレニゲング・ゾンデル・ウィンストーメルク (12)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年7月28日(2003.7.28)
【国際出願番号】PCT/EP2003/008365
【国際公開番号】WO2004/014955
【国際公開日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(502014363)ディ・コレン・リサーチ・ファウンデイション・フェレニゲング・ゾンデル・ウィンストーメルク (12)
【Fターム(参考)】
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