説明

第X因子,活性化第X因子,不活性第X因子および不活性化第Xa因子の調製方法、ならびに該因子を含む医薬組成物

第X因子,活性化第X因子,不活性化第X因子および不活性化第Xa因子の調製方法、第X因子および第Xa因子,不活性化第X因子および不活性化第Xa因子を含む組成物ならびに第X因子,第Xa因子,活性化第X因子および不活性化第Xa因子を使用する治療法が開示されている。該調製方法は、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー担体を用いたクロマトグラフィー段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第X因子,活性化第X因子(第Xa因子),不活性化第X因子および不活性化第Xa因子の調製方法、医薬用途に好適な第X因子,第Xa因子,不活性化第X因子または不活性化第Xa因子を含む組成物、ならびに第X因子,第Xa因子,第X因子または不活性化第Xa因子の、様々な病状の治療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
第X因子は、通常ヒトの血中に存在する凝固因子である。第X因子欠乏症は、人口50万人に1人から100万人に1人が侵される稀な出血性疾患である。第X因子欠乏症は、過度に出血する傾向にあるという特徴があり、血友病AおよびBそれぞれにおいて第VIII因子および第IX因子の欠乏に起因する疾患と似ている。現在、世界のどこでも、第X因子欠乏症専用の治療は認可されていない。特に、第X因子欠乏症の治療用として現在利用可能な、臨床的な第X因子濃縮物はない。その代わりに、医師は血漿または濃縮プロトロンビン複合体(PCC)の点滴に頼らざるを得ない。また一方で、第X因子欠乏症の治療において、血漿またはPCCの使用に伴って起こる不都合な点が数多く存在する。
【0003】
血漿は第X因子をほんの小さい濃度(約1ユニット/mL)でしか含まず、患者の第X因子の血中濃度を微増させることですら極めて大量の点滴が必要とされる。浸透圧の不釣合いおよび輸血関連急性肺障害を引き起こす過剰量の点滴を回避するために、治療量がすべて供給される前に点滴を止める必要があり、そのため治療が制約されている。また、血漿は、該患者への安定供給を制限することがある冷蔵保存または冷凍保存を要する。
【0004】
濃縮プロトロンビン複合体(PCC)はいくらかの第X因子を含むが、この因子は存在する総タンパク質のうち極めて微量な成分でしかない。この指摘から、PCCは標識もされずアッセイにも用いられず、大きなバラツキのある投薬に繋がると考えられる。ウイルスを不活性化する複数の段階という安全マージンを製造工程に追加せずに、これら古い製品の多くはプール血漿から製造される。ほとんどが、血漿のように、該患者への安定供給を制限することがある冷凍保存を要する。PCCの主要成分がプロトロンビンであり、製造工程でPCCの一部が活性化されているという危険を伴うことから、PCCの使用によって治療中に血栓症という副作用がもたらされる危険性があり、それは命にかかわることである。PCCはその使用できる量の中に血漿より多くの第X因子を含むが、特に治療される患者の多くが幼児であることから、できるだけ少量の中に治療用を含むことが望ましい。
【0005】
国際公開第89/05650号パンフレットには、少なくとも1つのビタミンK依存性血液凝固因子(第X因子が包含される)を含む、例えば、濃縮プロトロンビン複合体などの混合物から、該因子の少なくとも一部を分離する方法が開示されている。該方法は、該混合物を金属キレートクロマトグラフィーカラムに吸着させることを含む。しかしながら、国際公開第89/05650号パンフレットに記載の該方法に従って生成された第X因子は、それでも相当量(最大で40〜50重量%まで)のプロトロンビンを含んでいる。プロトロンビンは第X因子より血中半減期が長いため、第X因子の濃縮物中にプロトロンビンが存在することは望ましいことではない。治療の際に患者が両方のタンパク質を含む点滴をされる場合、これによって血漿のプロトロンビンの不均衡かつ蓄積的な増加が引き起こされ、その結果トロンビン生成および血栓形成(止血/血栓症)を支持する止血の平衡を失うことがある。第X因子の濃縮物からプロトロンビンを除去または低減することは、該生成物の製造中または保存中におけるトロンビンの自然形成の危険性を最小にするため望ましく、トロンビンの自然形成は、臨床的に使用される際に血栓反応も引き起こすことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第89/05650号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、効率的であり、工業規模で実施でき、ウイルスを減少させる段階を多数取り込むことができ、薬学的に有用な生成物を提供する、第X因子を調製する工程が未だに必要とされている。第X因子欠乏症などのような疾患の治療において使用される第X因子の製剤処方も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、本発明の1つの側面は、第X因子およびプロトロンビンを含む出発物質から第X因子を分離する方法を提供し、該方法は固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC,金属キレートクロマトグラフィーとしても言及する)の使用を含む。該方法は下記段階a)〜c)を含む:
a)固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー担体に該出発物質を吸着させること;
b)特定の吸着タンパク質を該担体から溶出すること;ならびに
c)プロトロンビンおよび第X因子の溶出が開始される溶出液を観察し、該溶出液の最初の一部を廃棄し、それに続く第X因子が濃縮された該溶出液の次の一部を回収すること。
【0009】
好ましくは、上記第X因子はヒト第X因子である。また、好ましくは、上記段階c)で得られる第X因子は、陰イオン交換クロマトグラフィーによってさらに精製される。陰イオン交換クロマトグラフィーは、プロトロンビンから第X因子のさらなる分離を提供することができる。さらに、陰イオン交換クロマトグラフィーは、処方の際、第X因子を薬学的に有用な効能を有する濃度にまで濃縮する穏やかな方法を提供する。代わりに、限外濾過などのような工程を用いて段階c)の後、第X因子を濃縮することもできる。しかしながら、限外濾過などを用いて第X因子を濃縮することによって、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いるより大きな機械損失および物理的損傷が引き起こされることがある。
【0010】
国際公開第89/05650号パンフレットに開示されている方法では、上記プロトロンビンおよび上記第X因子は上記担体から共溶出され、プロトロンビンを大量に含む第X因子画分がもたらされる。驚くべきことに、プロトロンビンは該タンパク質の溶出ピークの前に優先的に溶出されるのに対して、該第X因子は、該タンパク質の溶出の間中、実質的に一定の濃度で溶出されることを見出した。
【発明の効果】
【0011】
よって、国際公開第89/05650号パンフレットに開示されている方法と比較して、収率の重大な喪失がなく、かつ純度の大幅な増加を伴いながら、タンパク質溶出の主要なピークを排除して、ピークの後の部分[tail]のみにある第X因子を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】タンパク質溶出ピークにわたって画分を回収し、第X因子,第II因子および第IX因子のアッセイを実施した。結果を各タンパク質の最大活性(iu/mLでの)のパーセンテージとして表した(図1)。
【図2】図2は、本発明の方法のもっとも好ましい態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法に用いられる出発物質は、少なくともプロトロンビンおよび第X因子を含む任意の溶液であってもよい。好ましくは、該出発物質は、寒冷沈降物欠損血漿および/またはフラクションI[Fraction I]欠損血漿などのような血漿もしくは血漿由来画分であり、より好ましくは、血漿画分の抽出物である。もっとも好ましくは、該出発物質は、例えば、プロトロンビン複合体などの、プロトロンビン(第II因子),第IX因子および第X因子の混合物である。他のタンパク質として、第VII因子,プロテインC,プロテインS,プロテインZ[protein Z]およびインターαトリプシンインヒビター[inter-alpha-trypsin inhibitor]が挙げられ、これらも存在していてもよい。また、第X因子は、好ましくはヒト第X因子である。代わりに、該出発物質は、プロトロンビンなどのような夾雑タンパク質,共分画されたタンパク質も収集することのできる、トランスジェニックされた組織から回収される溶液であっても、または組換え培地から回収される溶液であってもよい。
【0014】
上記出発物質は、当該分野において公知である任意の好適な方法によって調製してもよい。例えば、血漿および血漿画分からプロトロンビン複合体を分離する方法は、血漿分画を必要とする業界では周知である。プロトロンビン複合体は、血漿および血漿画分(例えば、寒冷沈降物欠損血漿,フラクションI沈降物欠損血漿または寒冷沈降物欠損血漿とフラクションI沈降物欠損血漿との混合物)から陰イオン交換クロマトグラフィーによってもっとも広く分離されているものである。プロトロンビン複合体が濃縮されている出発物質の代わりとなる供給源は、血漿のエタノール分画によって生成する沈降物である。この工程において、種々の血漿タンパク質は、エタノール濃度,温度およびpHを調整することによって、種々の沈降物画分に分画される。とりわけ好ましい出発物質は、DEAE−セファロース[Sepharose]などのような陰イオン交換媒体を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーによって寒冷沈降物欠損ヒト血漿から得られたプロトロンビン複合体(フェルドマンPA,ブラッドベリーPI,ウィリアムスJD,シムズGE,マクフィーJW,ピネルMA,ハリスL,クロンビーGI,エバンスDR,金属キレートアフィニティークロマトグラフィーによって調製された新しい高精製第IX因子濃縮物の大規模調製および生化学的特性,Blood Coagulation and Fibrinolysis 5巻:939〜948頁(1994年))である。この陰イオン交換クロマトグラフィー段階は、陰イオン交換体が不活性なフィルター支持体またはメンブレン支持体に付着している、カラムモード,バルクバッチモードまたは表面モードで、クロマトグラフ的に実施できる。
【0015】
本発明の方法の段階a)において、上記出発物質は、IMAC担体上にロード[load]される。該担体は、工程を簡略化するためにカラム中に存在することが好ましい。任意の好適な金属イオンを使用することができ、銅,亜鉛またはニッケルなどの二価金属イオンが挙げられ、これらのうち銅が好ましい。本発明に係る工程に用いられる好適な固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー担体として、国際公開第89/05650号パンフレットに記載されたもの,側鎖のスペーサーに多置換リガンドを有するメタクリレートゲル(例えば、メルク社製のFractogel EMD Chelate),スペーサーの腕に単一のキレート基を有するメタクリレートゲル(例えば、トーソー・バイオサイエンス社製のToyopearl Chelate),官能基をキレートするイミノ二酢酸を有する圧安定性[pressure-stable]ポリマー(例えば、バイオ・ラッド ラボラトリーズ社製のProfinity IMAC)および架橋アガロースゲル(例えば、GEヘルスケア社製のキレート化[chelating]セファロースFF)が挙げられる。好ましい担体は、銅イオンで荷電[charge]されたキレート化セファロースFFである。
【0016】
本発明の方法に係る段階a)およびb)は、クロマトグラフ的に、カラムモードまたはバルクバッチモードで実施できる。代わりに、これらの段階は、不活性なフィルター支持体またはメンブレン支持体にキレート化[chelation]複合体が付着している表面モードでも実施できる。しかしながら、工業規模での作業を簡略化するためカラムクロマトグラフィーが好ましい。
【0017】
用いる緩衝液を含め、ロードする条件は、上記出発物質中の第X因子(およびともに結合するプロトロンビン)が上記担体に結合するよう選択すべきである。該出発物質の塩濃度は、非特異的なタンパク質の吸着を最小限にするよう調整できる。該担体に結合しないかまたは弱い結合しかしない不要な混入物質は、その後、洗浄によって除去することができる。例えば、該出発物質を予めウイルス不活性化溶剤洗剤処理段階に供する場合、残存する溶剤または洗剤のほとんどは該担体に結合せず、洗浄によって容易に除去される。該担体に弱い結合しかしない任意のタンパク質も洗浄段階の間に除去することができる。代わりに、不要な混入物質が該担体に結合している場合、第X因子が溶出される前に、選択的溶出によって不要な混入物質を除去することもできるが、該第X因子が選択的に溶出される間ずっと該担体に結合したまま残存することもできる。
【0018】
タンパク質の上記IMAC媒体への非特異的な結合を最小にするため、そして上記出発物質中に存在することがある多くの不要な混入物質を効率的に除去するため、ロードおよび洗浄は、比較的高いイオン強度(例えば、500mMの塩化ナトリウムおよび100mMの緩衝塩)で実施することができる。緩衝液中にクエン酸塩を含むことによって、弱く結合する金属イオンのいくらかを除去することができる。さもなければ、続いて溶出されるタンパク質の純度を落とすことになるかもしれない。
【0019】
例えば、280nmでの吸光度を観測することによって、上記溶出液のタンパク質含有量を観測すべきである。280nmでの吸光度は、非特異的タンパク質溶出の目安となる。代わりに、該溶出液は、当該分野で公知の方法を用いてプロトロンビンおよび第X因子を試料採取しそしてアッセイすることができる。弱く結合するタンパク質がこれ以上溶出されることがないところまで、最初の洗浄を続けるべきである。そして、プロトロンビンおよび第X因子は、任意の好適な溶出用緩衝液を用いて溶出することができる。該緩衝液中のイオン強度を低下させること、および/または該緩衝液のpHを変化させる(例えば、6.5から7.0へ)ことによって、第X因子の溶出を達成することができる。該緩衝液のイオン強度の低下(例えば、500mMのNaClから100mMのNaClへ)およびpHの上昇(例えば、6.5から7.0へ)は、第X因子および結合する他のタンパク質とを区別するために好ましい。
【0020】
タンパク質の溶出が検出された時点で、回収した上記溶出液の最初の部分を廃棄すべきであり、なぜならそれはプロトロンビンを高いレベルで含有しているからである。該プロトロンビンの大部分が溶出された時点で、(上記出発物質と比較して)第X因子が濃縮された溶出液の次の部分を回収すべきである。特定のIMAC担体/出発物質/溶出緩衝液に係る該溶出の挙動がいったんわかると、単に溶出液量に基いて、該溶出液の最初の部分および次の部分を同定することができるようになる。例えば、該IMAC担体がカラム中に装填されると、該溶出液の最初の部分および次の部分は、ゲル総容積[gel bed volume]によって規定することができる。非限定的な一態様において、該溶出液の最初の部分は、総溶出液量の最初の約25%を含み、該第X因子が濃縮された次の部分は、総溶出液量のそれに続く約75%を含むことができる。代わりに、異なった溶出液画分のプロトロンビンおよび第X因子含有量を、当該分野において公知の方法を用いて観測することができる。例えば、プロトロンビン活性:第X因子活性の比が約0.01ユニット/ユニット未満になるまで、最初の部分を回収することができ、プロトロンビン活性:第X因子活性の比が約0.01ユニット/ユニットを下回った後に第X因子が濃縮された次の部分を回収することができる。
【0021】
好ましい態様において、第X因子が濃縮された溶出液の次の部分は、陰イオン交換クロマトグラフィーによってさらに精製される。陰イオン交換クロマトグラフィーが第X因子からの残余プロトロンビンの除去において効率的であり、その結果第X因子の純度を上げられることを見出したことは驚きに値する。プロトロンビンが第X因子よりわずかに強く陰イオン交換クロマトグラフィー媒体に結合し、その結果プロトロンビンが第X因子よりわずかに遅く溶出されることを発見した。
【0022】
溶出の際、選択されたイオン強度では、プロトロンビン溶出ピークも第X因子溶出ピークより広くなる傾向にある。全般的効果として、プロトロンビン溶出が第X因子と比べて遅れ、よって溶出液を選択的に回収することによりプロトロンビンおよび第X因子を分離することができる。陰イオン交換クロマトグラフィー段階は、溶出液に存在しうる任意の残余の金属を金属キレート担体から除去するため、および/または溶出液に存在しうる任意の残余の溶剤洗剤を除去するためにも好都合である。陰イオン交換段階の間、緩衝液の化学的性質を注意深く選択することによって、夾雑プロトロンビンまたは第IX因子(存在していたら)から第X因子を分離することができる。陰イオン交換クロマトグラフィー段階でのロード用緩衝液,洗浄用緩衝液および溶出用緩衝液は、上記媒体への第X因子の結合を最大限にし、夾雑プロトロンビンから第X因子の分離も最大限にするよう選択すべきである。
【0023】
任意の好適な陰イオン交換クロマトグラフィー媒体を用いることができる。特に好適な媒体の一つは、DEAEセファロース陰イオン交換ゲルであり、例えば、DEAEセファロース ファスト・フロー[Fast Flow]が挙げられる。
【0024】
好ましくは、陰イオン交換体は、ロードする前に、第X因子の結合を最大限にするため、pH約6.0でクエン酸塩のみを含む緩衝液で平衡化する。用いる緩衝液を含め、ロードする条件は、第X因子が該媒体に結合するように選択されるべきである。必要ならば、上記段階c)で回収した溶出液の次の部分を、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体にロードする前に、イオン強度を低下させるために希釈する。好適な伝導率は10〜18mS/cmである。それを越えると第X因子が陰イオン交換クロマトグラフィー媒体に結合しなくなる、塩濃度/イオン強度の最大値というものがある。好ましくは、カラムへの過度のロード/過度の吸着時間(タンパク質の品質または微生物学的安全性を危険に晒すことになる)を避けるため、最小限の量で最大限の結合を提供すべく該塩濃度を調整する。
【0025】
ロード後、好適な緩衝液を用いて洗浄することによって、任意の非結合不純物、例えば、より前の処理段階から持ち越されることのある任意の余剰溶剤,洗剤または金属などを除去する。好ましい洗浄用緩衝液は、精製の前段階で用いた任意の余剰化学試薬を除去するため、クエン酸塩およびリン酸塩と高い濃度の塩化ナトリウムとの両方を含む。このような洗浄用緩衝液を用いることでも、低いイオン強度における平衡化と検体のロードとの間に陰イオン交換媒体に弱く結合するクエン酸塩およびリン酸塩の陰イオンを除去するが、第X因子は溶出しない。この段階でゲルに結合するクエン酸塩およびリン酸塩のイオンを除去したことで、それに続いて結合タンパク質を溶出するイオン強度段階の間に、陰イオン交換体からクエン酸塩およびリン酸塩のイオンが溶出しないことを見出した。該洗浄用緩衝液で対処しない場合、次の溶出用緩衝液段階により生み出される濃い塩との境界で、結合したクエン酸塩およびリン酸塩のイオンが除去され、その結果、該塩(増加したイオン強度)の境界が崩壊し、鋭いタンパク質溶出〔ピーク〕が歪んだことを見出した。これは、第X因子の力価[potency]および他のタンパク質との分離のいずれも危険に晒す可能性がある。
【0026】
次に、精製された第X因子は、好適な溶出用緩衝液を用いて溶出される。好ましくは、該溶出用緩衝液の成分は、別途濃縮段階またはダイアフィルトレーション段階を必要とすることなくその次の処理を可能とする濃度で、第X因子を溶出するように選択される。好ましい溶出用緩衝液は、pH7.0で、約10mMのクエン酸塩,約10mMのリン酸塩および約310mMの塩化ナトリウムを含む。塩のこの組み合わせおよびpH調整は、鋭いピークで第X因子を溶出するように見出されたものであり、医薬品へ製剤する前にさらなる濃縮を必要としない濃縮された生成物を提供する。
【0027】
上記IMAC担体からの溶出後、または用いられた場合上記陰イオン交換担体からの溶出後、精製された第X因子は医薬用途に製剤することもできる。この製剤化は、好ましくは、任意で好適な安定剤の存在下で、凍結乾燥した第X因子(任意に、好適な安定剤を存在させる)を凍結乾燥することを含み、医薬用途への再構成[constitution](水を加えて戻すこと)に好適な第X因子濃縮物を提供する。凍結乾燥した第X因子濃縮物は、溶液状よりもより高い温度で、より長い期間の保存に安定であることから、凍結乾燥した第X因子濃縮物は、第X因子溶液より好ましい。また、凍結乾燥した第X因子濃縮物は、ウイルス不活性化加熱処理の最終段階に安全に晒すことができる安定な製品を提供する。
【0028】
本発明に係る工程の一つの利点は、該工程が1以上のウイルス不活性化段階またはウイルス減少段階を容易に取り込むことができることである。好適なウイルス不活性化方法またはウイルス減少方法は、当該分野において公知であり、低温殺菌,溶剤洗剤処理,乾熱処理およびウイルス濾過が挙げられる。該方法において、好ましくは、少なくとも2つのウイルス不活性化段階またはウイルス減少段階を含み、好ましくは少なくとも3つを含む。
【0029】
例えば、上記出発物質を上記固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー担体上にロードする前に、該出発物質をウイルス不活性化段階に供することができる。溶剤洗剤ウイルス不活性化は、当該分野において公知の試薬および方法(例えば、米国特許第4,481,189号、米国特許第4,613,501号および米国特許第4,540,573号を参照。この参照により、これらすべてが本明細書中に援用される。)を用いて実行することができる。好適な溶剤として、トリ−n−ブチルホスフェート(TnBP)およびエーテルが挙げられ、好ましくはTnBPである。好適な洗剤として、ポリソルベート(ツイーン)80,ポリソルベート(ツイーン)20,コール酸ナトリウムおよびトリトンX100が挙げられる。好ましい洗剤はポリソルベート80であり、特に好ましい溶剤洗剤の組み合わせは、ポリソルベート80およびTnBPである。
【0030】
ウイルス減少段階は、上記金属キレートクロマトグラフィー段階か、またはその次の陰イオン交換クロマトグラフィー段階かで得られた溶出液に対して実施できる。ウイルスを除去できるフィルターを通して濾過することは、第2のウイルス減少段階にとって好ましい。このようなフィルターとして、例えば、プラノバ[Planova](登録商標)15Nウイルス保持フィルター(旭化成メディカル(株)から入手可能),アルチポア[Ultipor](登録商標)DV20フィルター(ポール社[Pall Corporation]から入手可能),ビロサート[Virosart](登録商標)CPVフィルター(ザルトリウス社[Sartorius]から入手可能)およびバイアソルブ[Viresolve](登録商標)フィルター(ミリポア社から入手可能)のような市販のウイルス保持フィルターが挙げられる。好ましいフィルターは、プラノバ15Nフィルターであり、タンパク質を絶え間なく流しつつウイルスを良好に除去できる。また、これらフィルターは、プリオンや他の感染性海綿状脳症の原因病原体を低減または除去できる。
【0031】
ウイルス不活性化段階は、製剤された後の第X因子に対しても実施できる。例えば、凍結乾燥された製剤は、ウイルス不活性化乾熱処理の最終段階に供することができる。このような段階として、凍結乾燥された製剤に対する、約80℃で約72時間の加熱を挙げられる。これら条件によって、エンベロープを有する・有さないウイルスのいずれも不活性化することが知られている。
【0032】
好ましい態様において、本発明の方法は、3つのウイルス低減または不活性化段階を含む:上記出発物質の溶剤洗剤処理;上記金属キレートクロマトグラフィー段階、またはそれに続く陰イオン交換クロマトグラフィー段階で得られた溶出液のウイルス濾過;および製剤された最終製品に対する乾熱処理。
【0033】
もっとも好ましい態様において、本発明の方法は下記i)〜viii)を含む:
i)第X因子およびプロトロンビンを含む出発物質を溶剤洗剤処理すること;
ii)溶剤洗剤処理された出発物質を固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー担体に吸着させること;
iii)該担体から吸着タンパク質を溶出すること;
iv)プロトロンビン/第X因子の溶出が開始される溶出液を観察し、該溶出液の最初の部分を廃棄し、第X因子が濃縮された該溶出液の次の部分を回収すること;
v)該溶出液の次の部分をさらに精製するために、陰イオン交換クロマトグラフィーを実施すること;
vi)ウイルス保持フィルターを通して、段階v)の生成物を濾過すること;
vii)任意で1以上の安定剤の存在下に、段階vi)の濾過物を凍結乾燥すること;および
viii)凍結乾燥された生成物を、ウイルスを減少/不活性化する熱処理段階に供すること。
【0034】
図2は、本発明の方法のもっとも好ましい態様を示す。
本発明の方法の一態様は、偶発的に活性化されたものではない機能性の第X因子(すなわち、「未変性の」第X因子)を提供する。活性化第X因子が血栓形成という不要な副作用の原因になり得ることから、活性化は、第X因子欠乏症の治療にとって望ましくない。しかしながら、他のもう一つの態様において、本発明の方法に活性化段階を取り入れることによって、活性化第X因子(第Xa因子)を調製するためにも、本発明の方法を用いることができる。第X因子は、最終製品に製剤する前の任意の段階で活性化することができる。第X因子の第Xa因子への活性化は、本発明の方法に係る任意の段階で、以下のものに対して実施することができる:
例えば、供給源である血漿,血漿画分またはプロトロンビン複合体などの上記出発物質;
上記固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー段階で得られた第X因子が濃縮された溶出液;
さらに精製するために、陰イオン交換体にロードする前の希釈された第X因子;
陰イオン交換体から溶出された第X因子;および
ウイルス濾過された第X因子。
【0035】
好ましくは、該活性化は、上記固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー段階後のある段階で実施する。なぜなら、凝固カスケードにおいて第X因子より先に働く何かの因子[anything earlier]が、上記出発物質中に存在する他の任意の凝固因子を活性化し、他の治療薬への第X因子に係る製造において、その適合性が危険に晒されるからである。理想的には、該活性化段階は、製造プロセスにおいて可能な限り後の段階で実施する。一旦活性化すると、該第X因子はより不安定になる(すなわち、より安定にならない)ことがあるからである。また、理想的には、該活性化段階は、最終的な製剤,充填および凍結乾燥の前の解析結果が出るまで活性化第X因子を保存することができる該方法において、ある段階で実施する。もっとも好ましくは、活性化は、陰イオン交換段階とウイルスを濾過した第X因子の製剤との間で起こる。
【0036】
第X因子から第Xa因子への活性化は、任意の好適な方法を用いて実施できる。例えば、第X因子は、カルシウム単独で、またはラッセルクサリヘビ蛇毒などの毒液との併用で活性化することができる。他の金属イオン(特にマグネシウムなどの二価金属イオン)も第X因子の活性化を促進することができる。最終製品に残存する化学物質を活性化してしまういかなる危険性をも最小限にするために、これら活性剤を固体マトリックスに固定化し、そして第X因子を該マトリックスに通過させることもできる。この通過中に活性化が起こり、該第X因子は希釈されることなく流れ出る。例えば、金属イオンはキレート化マトリックスに固定化されていてもよい。代わりに、金属イオンによる活性化は溶液中で起こってもよく、その後で該溶液をキレート化マトリックスを通過させて該金属イオンを除去する。ラッセルクサリヘビ蛇毒などの毒液は、CNBr活性化セファロースまたはエポキシ活性化セファロースなどのリガンド活性化マトリックス上に固定化することができる。
【0037】
第X因子精製プロセスにおける早い段階で、少量の活性化第X因子によって残余のプロトロンビンがトロンビンに変換され、該トロンビンがより多くの第X因子の活性化を促進することになる、フィードバック・メカニズムを用いることもできる。また、第X因子は第VII因子存在下で温度降下によっても活性化することができる。このように第VII因子による「低温活性化」を利用して第X因子を活性化する。
【0038】
本発明は、第X因子もしくは第Xa因子、ならびに1以上の薬学的に許容し得る希釈剤,賦形剤および/または安定剤を含む医薬組成物も提供する。好ましくは、第X因子または第Xa因子は、本発明の方法によって調製された第X因子または第Xa因子であるが、好適な純度を有する任意の第X因子または第Xa因子を用いることもできる。第X因子または第Xa因子は、好ましくは、任意の医薬組成物中に存在する総タンパク質のうち、少なくとも30重量%、より好ましくは、少なくとも70重量%であり、もっとも好ましくは、該タンパク質のみである。該組成物は、凍結溶液であっても、液状であっても、凍結乾燥されていてもよいが、保存期間を最大限にするため、凍結乾燥されることが好ましい。ウイルスの不活性化のため乾熱処理段階に供することができることからも、凍結乾燥された組成物は好ましい。
【0039】
好適な安定剤は、凍結乾燥段階および/または加熱処理段階の間に第X因子または第Xa因子の安定化を促進する(すなわち、これらの段階にわたって第X因子活性または第Xa因子活性の維持を助ける)化合物である。上記組成物を使用する際の臨床的適応にもよるが、このような安定剤として、ショ糖,トレハロースおよびデキストランなどの糖質;グリシンなどのアミノ酸;ポリビニルピロリドン;ならびにポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい安定剤はショ糖である。
【0040】
点滴用の第X因子または第Xa因子において、約6.0〜約8.0のpHおよび約150mM〜約400mMの塩化ナトリウムの塩濃度が許容し得る。好適な緩衝液は、合わせて5mM〜50mMの濃度のクエン酸塩およびリン酸塩、および50mM〜400mMの濃度の塩化ナトリウムを含む。好ましい凍結乾燥組成物は、再構成において、6.5〜7.3のpHで、ショ糖を1〜2%(w/w)で、塩化ナトリウムを150〜300mMで含む。より好ましい製剤は、pH7.3で、ショ糖を1%(w/w),クエン酸塩を10mM,リン酸塩を10mM,および塩化ナトリウムを200〜300mMで含む。
【0041】
最終製品における第X因子の量は、再構成において、第X因子の国際単位[international units; iu]で約20〜約200/mL(または特定の臨床応用に必要な場合、同等の量の第X因子)含む溶液で提供できるようにすべきである。望ましい濃度は、主に臨床的,薬学的および商業的検討によって左右される。
【0042】
本発明の凍結乾燥組成物は、第X因子または第Xa因子の溶液に、安定剤および任意の追加処方成分を添加することによって調製することができる。該溶液は、好適な容器(例えば、ガラス製の薬瓶)に入れる前に、任意で濾過滅菌、例えば、細孔径0.2μmのフィルターを用いて滅菌してもよい。その後、該容器は凍結乾燥される。好適な凍結乾燥条件は、約−50℃で凍結させ;約−20〜−34℃(好ましくは約−25℃)の棚温度および約17〜200μバール(好ましくは約100μバール)のチャンバー圧[chamber pressure]で約72〜98時間一次乾燥させ;約+28〜+32℃(好ましくは+30℃)の棚温度および約0〜60μバール(好ましくは約30μバール)のチャンバー圧で約18時間二次乾燥させることである。二次凍結乾燥の終わりに、該容器は、真空下で閉じ、密封する[overseal]。
【0043】
上記組成物の成分は、該組成物が長期に渡る保管時間(好ましくは2〜3年)安定であり、室温で保管でき、臨床用途に安定な第X因子溶液または第Xa因子溶液を与えるよう容易に再構成できるように選択されることが好ましい。凍結乾燥した組成物の再構成は、無菌の方法により上記薬瓶に注射用の滅菌水を導入することによって実施してもよい。実際には、滅菌水の導入として、注射針および注射器、または医用溶剤を移すための商用デバイスを用いて該薬瓶に滅菌水を移すことが挙げられる。この凍結乾燥工程によって上記製品は不完全真空のまま薬瓶の中に残され、その真空によって水が引き込まれることから、不完全真空は再構成工程に役立つ。重篤な出血に直面している患者が該製品を必要とする場合があるかもしれないので、再構成は早ければ早いほど良い。約1〜10分間の再構成時間が許容範囲であるが、該再構成時間は約60秒間未満が好ましく、約30秒間未満がより好ましい。
【0044】
上記の凍結乾燥された第X因子または第Xa因子の濃縮物はウイルス低減乾熱処理段階に供される。好適な条件として、1〜144時間での60℃〜100℃の加熱が挙げられる。一般的に、より低い温度および/またはより短い処理時間によって、より高い収率で機能タンパク質が得られるが、ウイルスの不活性化には効率が悪い。好ましい条件は、約72時間の約80℃での加熱処理であり、これによって、良好なウイルス不活性化および第X因子の容認できる収率のいずれをも提供することがわかった。
【0045】
本発明の方法に従って調製した第X因子または第Xa因子および本発明の第X因子または第Xa因子の組成物は、第X因子欠乏症の治療に、そして第X因子による治療が提案される他の任意の疾患に用いることができる。特に、本発明の方法によって、複数のウイルス不活性化段階に供された高精製第X因子または第Xa因子を調製することができ、このような第X因子または第Xa因子を少用量の濃縮された処方で上記患者に提示できる。本発明に係る処方は、室温でまたは上昇した温度で長時間保管することができる安定な凍結乾燥製品も提供する。
【0046】
本発明の方法に従って調製された第X因子および本発明の第X因子組成物を含め、第X因子は、血液凝固タンパクに対する阻害物質を発現している患者の治療に使用することもできる。第VIII因子欠乏症または第IX因子欠乏症(血友病AまたはB)を患うある患者(約5〜10%)は、第VIII因子または第IX因子の濃縮物による補充療法に反応して阻害物質または自己抗体を発現する。これらの患者は、命を脅かすような酷い出血の間、治療することが極めて困難である。第X因子の濃縮物および/または活性化第X因子(第Xa因子)の濃縮物は、酷い出血を止めることによってこれら患者を治療するために使用できる。
【0047】
第X因子は、血液凝固反応工程の最後から2番目の段階で直接作用する。第X因子は活性化された後、プロトロンビンのトロンビンへの活性化を触媒し、該トロンビンは次々にフィブリノーゲンおよび第XIII因子を開裂し、架橋されたフィブリン血栓を形成させる。よって、第VIII因子または第IX因子のいずれかの欠乏症は、第X因子または活性化第X因子(すなわち、第Xa因子)による補充療法によって回避することができる。第X因子濃縮物の薬効の原理は、第X因子の血漿濃度の上昇によって、反応平衡が第Xa因子の内因性の生成の方に動き、それによって凝固カスケード反応が血栓形成の方に促進することにある。第Xa因子濃縮物の薬効の原理は、凝固経路活性化のより早い段階に依存するよりむしろ点滴によってではあるが、プロトロンビンからトロンビンの生成が天然の触媒(第Xa因子)によって促進されることにある。
【0048】
第VIII因子欠乏症または第IX因子欠乏症の患者を治療するための第X因子または第Xa因子の使用は本発明のさらなる特徴を形成する。よって、本発明は、患者に見られる第VIII因子欠乏症または第IX因子欠乏症を治療する方法も提供するものであって、該方法は、第X因子または第Xa因子の治療効果を有する量によって該患者を治療することを包含する。本発明は、患者に見られる第VIII因子欠乏症または第IX因子欠乏症の治療における使用のための第X因子または第Xa因子も提供する。
【0049】
本発明の方法に従って調製した第X因子または第Xa因子および本発明の第X因子組成物または第Xa因子組成物を含め、第X因子または第Xa因子は、第X因子欠乏症ではないが出血または出血の危険性に悩まされる患者にとって止血の補助としても使用することができる。第X因子または活性化第X因子(第Xa因子)による治療は、止血の不均衡を正し、よって凝固を促進するよう役立つことができる。
【0050】
出血または出血の危険性に悩まされる患者を治療するための第X因子または第Xa因子の使用は本発明のさらなる特徴を形成する。したがって、本発明は、患者に見られる出血を治療または防止する方法も提供するものであって、該方法は、第X因子または第Xa因子の治療効果を有する量によって該患者を治療することを包含する。本発明は、出血を治療または防止することにおける使用のための第X因子または第Xa因子も提供する。
【0051】
本発明の方法に従って調製した第X因子および本発明の第X因子組成物を含め、第X因子は、抗凝固の逆戻りのためにも使用できる。ある抗凝固剤は、血漿から機能性凝固因子を奪うことによって働く。時には、例えば、緊急外科手術を可能にするため、この効果を早急に逆転させる必要がある。これは、現在のところ、凝固因子の混合物である濃縮プロトロンビン複合体(PCC)の注射によって達成している。しかしながら、PCCに含まれる凝固因子のバランスは、抗凝固療法を受けている患者のバランスに合致しないため、PCCを注入した場合、止血の抑制を失うことに関連する危険に晒されることになることがある。可能なら他の精製した凝固因子とともに第X因子濃縮物を使用することによって、患者におけるより良い凝固抑制を提供することができる。
【0052】
抗凝固の逆戻りにおける第X因子または第Xa因子の使用は、本発明のさらなる特徴を形成する。したがって、本発明は、患者における抗凝固剤の効果を逆進する方法も提供するものであって、該方法は、第X因子または第Xa因子の治療効果を有する量により該患者を治療することを包含する。本発明は、抗凝固の逆戻りにおける使用のための第X因子または第Xa因子も提供する。
【0053】
不活性化第X因子は、血栓傾向にある患者の治療に使用できる。ある患者は、抗凝固剤により治療できる血栓傾向または凝固能高進状態にある。歴史上、治療の選択はワルファリンおよびその類似化合物(凝塊形成ビタミンK依存性凝固因子のカルボキシル化を阻害する)またはヘパリンおよびその類似化合物(タンパク質分解酵素抑制剤による活性化凝固因子の阻害を触媒する)に限定されていた。毒性の心配か、またはこれらの治療によって高速計測および酷い出血を抑制する問題が複雑化するため、ある状態(例えば、妊娠または外科手術処置)において、これらの治療を用いることは好まれない。不活性化第X因子濃縮物による治療によって、抗凝固作用による血栓傾向を軽減できる。不活性化第X因子の精製された濃縮物を用いる治療の利点は、不要な副作用をもたらすおそれのある他のタンパク質がほとんど存在しないことである。
【0054】
この治療の原理は、好適に不活性化された第X因子が、プロトロンビンをトロンビンに変換する触媒能を有さない(第X因子の活性部位の変性による)が、血中の天然基質への結合能を保持していることである。この不活性化第X因子は、天然基質の結合部位を巡って、内在性の活性化第X因子と競合する。適切な用量で投与された場合、不活性化第X因子はこの基質の結合部位を満たし、凝固系を下方制御[down-regulating]する。
【0055】
抗凝固剤としての不活性化第X因子または不活性化第Xa因子の使用は、本発明のさらなる特徴を形成する。よって、本発明は、患者(例えば、血栓状態または凝固能高進状態)における凝固を治療または阻止する方法も提供するものであり、該方法は、不活性化第X因子または不活性化第Xa因子の治療効果を有する量を用いて該患者を治療することを含む。本発明は、抗凝固剤として使用するための不活性化第X因子または不活性化第Xa因子、ならびに、不活性化第X因子または不活性化第Xa因子ならびに1以上の薬学的に許容し得る希釈剤,賦形剤および/または安定剤を含む医薬組成物も提供する。
【0056】
不活性化第X因子または不活性化第Xa因子は、任意の医薬組成物中に存在する総タンパク量のうち、少なくとも30重量%が好ましく、少なくとも70重量%がより好ましく、もっとも好ましくはそのタンパク質のみが存在することである。該組成物は、凍結された溶液であっても、液状であっても、凍結乾燥されていてもよいが、保存期間を最大限に伸ばすために凍結乾燥されていることが好ましい。凍結乾燥された組成物も、ウイルスを不活性化するための乾熱処理段階に供することができるから好ましい。
【0057】
第X因子による血中の天然基質への結合能を破壊することなく第X因子の活性部位の変性をもたらす不活性化の任意の方法は、第X因子または第Xa因子を不活性化するために用いることができる。例えば、加熱(例えば、溶液状で60℃,20時間より長い、または第X因子がより不活性化されやすい処方(例えば、低いイオン強度および/または高い糖含量の、ポリビニルピロリドンまたはポリエチレングリコールを含む処方)において凍結乾燥後80℃で72時間)によって、γ線照射の供給源への曝露によって、または化学変性剤もしくは化学架橋剤との反応によって、第X因子(または第Xa因子)を不活性化できる。不活性化は、治療前後に第X因子活性をアッセイすることによって確認することができる。抗凝固剤として使用する場合、任意の第X因子または第Xa因子を不活性化することができる。このような第X因子または第Xa因子は、本発明の方法に従って調製することが好ましく、または本発明に従って得られた第X因子組成物または第Xa因子組成物である。よって、他の一側面において、本発明の方法は、第X因子または第Xa因子を不活性化するための不活性化段階をさらに含む。
【0058】
第X因子,第Xa因子,不活性化第X因子または不活性化第Xa因子の患者への投与は、通常、好適な溶液の静脈内投与である。他の投与法(例えば、皮下,経口)は好適な担体の存在下で用いることができるが、臨床反応が遅延および/または低減することがあるため、静脈内投与が好ましい。好適な用量の投薬計画は、治療されるべき患者およびその状態ならびに投与方法に依存する。第X因子欠乏症などの慢性疾患において、反復治療は必要となる。他の疾患においては、1回の治療で充分なこともある。
【0059】
本明細書中に開示されている好ましい特徴の任意のおよびすべての可能な組み合わせは、仮にそのような組み合わせが明確に本明細書中に開示されていなくとも、本発明の一部を形成する。
【0060】
以下のアッセイの方法は、本発明の方法および組成物において、タンパク質の活性を測定するために用いられる。
第X因子の凝固分析
第X因子が欠損した血漿を基質として用いる凝固分析において、第X因子を評価することができる。所定の希釈率で該血漿に試験材を添加し、カルシウム再沈着後の該血漿の凝固時間を測定する。そして、第X因子の標準製剤(例えば、第II因子,第IX因子および第X因子のWHOの国際規格)の希釈から得られた凝固時間と、測定した凝固時間とを比較し、第X因子の濃度を補間する。
【0061】
第X因子の発色[chromogenic]アッセイ
第X因子特異的活性剤であるラッセルクサリヘビ蛇毒を用いて、まず第X因子を活性化し、次いで市販の発色性ペプチド基質(例えば、クロモジェニクス[Chromogenix] S2765)からの発色団の放出による吸光度の増加を測定することによって、第X因子を評価することができる。そして、第X因子の標準製剤(例えば、第II因子,第IX因子および第X因子のWHOの国際規格)の希釈から得られた吸光度の変化と、測定した吸光度とを比較し、第X因子の濃度を補間する。
【0062】
第X因子の抗原分析(ELISA)
第X因子に特異的な抗体(その1つはペルオキシダーゼ酵素と接合している)を用いて、酵素免疫測定法によって第X因子抗原を評価することができる。ペルオキシダーゼ特異的基質を添加することによって、発色団が放出される。そして、第X因子の標準製剤(例えば、第II因子,第IX因子および第X因子のWHOの国際規格)の希釈から得られた吸光度の変化と、測定した吸光度とを比較し、第X因子の濃度を補間する。
【0063】
プロトロンビンの発色アッセイ
エカリン[Ecarin]を用いて、まずプロトロンビンを活性化し、次いで市販の発色性ペプチド基質(例えば、クロモジェニクス[Chromogenix] S2238)からの発色団の放出による吸光度の増加を測定することによって、プロトロンビンを評価することができる。そして、プロトロンビンの標準製剤(例えば、第II因子,第IX因子および第X因子のWHOの国際規格)の希釈から得られた吸光度の変化と、測定した吸光度とを比較し、プロトロンビンの濃度を補間する。
【0064】
タンパク質アッセイ
ピアス社のBCAアッセイは、アルカリ媒体におけるタンパク質によるCu2+からCu+への周知の還元(ビウレット反応)と、ビシンコニン酸を含む特有の試薬を用いるCu+の高感度かつ選択的な色度検出とを組み合わせる。
【実施例】
【0065】
本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[実施例1]金属キレートクロマトグラフィーを用いた第X因子からのプロトロンビンの分離
銅イオンが荷電されたキレート化セファロースのカラムにプロトロンビン複合体をアプライ[apply]した。50mMのクエン酸塩と50mMのリン酸塩と500mMの塩化ナトリウムとのpH6.5の緩衝液で洗浄後、50mMのクエン酸塩と50mMのリン酸塩と100mMの塩化ナトリウムとを含むpH7.0の緩衝液で溶出させることによって第X因子を回収した。溶出液において、280nmでの吸光度の最初に観測された立ち上がりからベースラインに戻るまで、連続して均等な画分を集めた。第X因子およびプロトロンビンを各画分において評価した。結果を表1−1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
各画分の第X因子含有量はある程度一定であるが、最初のいくつかの画分の後にプロトロンビン含有量が顕著に減少したことをこの実施例は示している。
[実施例2]陰イオン交換クロマトグラフィーによる第X因子のさらなる精製
イオン強度を低下させるために、金属キレートクロマトグラフィーから得られた第X因子が濃縮された溶出液を希釈し、クエン酸塩とリン酸塩との緩衝液中に充填し平衡化したDEAE−セファロースのカラムにアプライした。同じ平衡化緩衝液でロードされたカラムを洗浄し、塩化ナトリウムを含むクエン酸塩とリン酸塩との緩衝液で溶出した。溶出液を回収し、第X因子およびプロトロンビンのアッセイを実施した。種々の緩衝液の成分を表2−1に示し、結果を表2.2に示す。これらは、第X因子からプロトロンビンを除去するために緩衝液の成分をいかに変更することができるか示し、リン酸塩およびpHの両方を低下させることは、本発明の好ましい態様である。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
[実施例3]金属キレートクロマトグラフィーによる改良されたプロトロンビンの除去
銅イオンで荷電したキレート化セファロースのカラムに溶剤洗剤処理したプロトロンビン複合体をアプライした。50mMのクエン酸塩と50mMのリン酸塩と500mMの塩化ナトリウムとのpH6.5の緩衝液で洗浄後、50mMのクエン酸塩と50mMのリン酸塩と100mMの塩化ナトリウムとを含むpH7.0の緩衝液で溶出させることによって第X因子を回収した。溶出液の280nmの吸光度が上昇し始めてからそれがベースラインに戻るまで(国際公開第89/05650号パンフレットに記載されている方法A)か、または溶出液の吸光度において立ち上がりの後、ゲル総容積が1.2から始まって3.3という多量のゲル総容積を有するまで(本発明に従った方法B)、第X因子を回収した。結果を表3−1に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
[実施例4]活性生成物および不活性生成物を産出するための第X因子のさらなる精製および処方
本発明の金属キレートクロマトグラフィー方法を用いて溶剤洗剤処理したプロトロンビン複合体の精製によって第X因子を調製した。次に、得られた第X因子を、100mMの塩化ナトリウムを含むpH6.0のクエン酸塩緩衝液で平衡化したDEAEセファロースFFカラムにアプライした。310mMの塩化ナトリウムを含むpH7.0のクエン酸塩−リン酸塩緩衝液を用いて単一のピークとして第X因子を溶出した。
【0073】
種々の電位安定剤を含む緩衝液を用いて第X因子溶出液を処方し、ガラス製の薬瓶に分注し、凍結乾燥した。凍結乾燥が完了次第、該薬瓶を密封した後、80℃で72時間加熱するウイルス不活性化段階に供した。出発物質および生成物を再構成しアッセイした。再構成時間、溶液の外観および第X因子の収率を測定した。第X因子の収率は、残留タンパク質の活性化能の確証(高い収率)、または不活性化した/変性したタンパク質量(低い収率)である。表4−1は、良好な再構成特性および第X因子活性の収率に起因する処方を示す。表4−2は、第X因子の不活性化(低い収率)をもたらした処方を示し、不活性化第X因子生成物の調製に好適である。
【0074】
【表5】

【0075】
【表6】

【0076】
[実施例5]不活性化第X因子が凝固工程を阻害することの実証
本発明の方法によって調製された第X因子を、溶液状で60℃、20時間より長く加熱することによって不活性化させた。不活性化は、上記処理の前後で第X因子活性をアッセイすることで確かめた。
【0077】
2種類の標準的な臨床研究所凝固試験[clinical laboratory coagulation test]を、正常なプール血漿に不活性化第X因子を添加した効果を測定するために用いた。50μlの不活性化第X因子を、50μlの正常なヒトプール血漿と混合した。いくつかの試験において、それぞれ陽性および陰性の対照となるよう、50μlの完全に機能的な第X因子または第X因子処方緩衝液を不活性化第X因子と置換した。さらなる対照として、第X因子処方緩衝液において、クエン酸塩のイオンによって起こりうるカルシウムのキレート化を克服するため、一連の試験においてカルシウムを追加した。次に、上記検体を、プロトロンビン時間(PT)試験または活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)試験でアッセイした。外因性または内因性の凝固メカニズムにおける臨床的な問題を区別するためにこれら2つの試験を用いる血液学および凝固を対象とする研究室において、これら試験は確立されている。
【0078】
PT方法:50μlの試験検体および50μlの血漿を60秒間インキュベートした後、100μlのスタゴ・ネオプラスチン[Stago Neoplastine](ウサギ脳トロンボプラスチン+塩化カルシウム)を添加した。凝固時間を測定した。
【0079】
APTT方法:50μlの試験検体および50μlの血漿を、50μlのDAPTTIN(カオリン,サルファチド[sulphatide]+高精製リン脂質)と混合し、180秒間インキュベートした。100μlの25mM塩化カルシウムを添加し、凝固時間を測定した。
【0080】
結果を表5−1および5−2に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
【表8】

【0083】
これらの結果から、プロトロンビン時間および活性化部分トロンボプラスチン時間のいずれもが、不活性化第X因子の添加によって、用量依存的に長くなったことがわかる。この効果は、不活性化第X因子に起因すると考えられる。未変性の第X因子,活性化第X因子を用いたPTではこの効果は見られず、未変性の第X因子,活性化第X因子を用いたAPTTでもほんのわずかの効果しか見られなかった。緩衝液または塩はいずれの試験において効果を有さなかった。
【0084】
[実施例6]陰イオン交換クロマトグラフィーによるさらなる第X因子の精製
銅が荷電され、プロトロンビン複合体がロードされたIMACカラムから溶出された第X因子を、pH6.0、伝導度15mS/cmになるよう希釈した。DEAE−セファロース ファスト・フロー陰イオン交換体が充填済みのカラムに第X因子の希釈液をアプライした。ロードされたカラムは、その後ゲル平衡化緩衝液(約10.5mMのクエン酸塩,100mMの塩化ナトリウム,pH6.0)で洗浄した。緩衝液組成は、約10mMのクエン酸塩,10mMのリン酸塩,310mMの塩化ナトリウム,pH7.0で結合タンパク質を溶出する前に、約10mMのクエン酸塩,10mMのリン酸塩,150mMの塩化ナトリウム,pH6.0で洗浄することによって調整した。タンパク質溶出ピークにわたって画分を回収し、第X因子,第II因子および第IX因子のアッセイを実施した。結果を各タンパク質の最大活性(iu/mLでの)のパーセンテージとして表した(図1)。第II因子および第IX因子の溶出がこの陰イオン交換段階によって遅れることを結果が示した。この段階は選択的な画分回収によって第II因子および第IX因子から第X因子を分離するために用いてもよい。
【0085】
[実施例7]第X因子の活性化および第VIII因子の機能を回避するためのこれの使用
順次、寒冷沈降物欠損血漿の陰イオン交換クロマトグラフィー,銅が荷電されたキレート化ゲルでのクロマトグラフィー,さらに陰イオン交換体でのクロマトグラフィーによって生成した第X因子溶出液を活性化させた。活性化は、25mMの塩化カルシウムおよび0.01u/mLのラッセルクサリヘビ蛇毒とともに第X因子が濃縮された溶出液をpH7.4、37℃でインキュベーションすることによって達成された。活性化第X因子は、アッセイの活性剤を添加せずに第X因子の発色性基質アッセイを用いて評価した。活性は、第X因子および通常のアッセイの活性剤のための基準により作成した標準較正線から補間することによって測定した。
【0086】
活性化第X因子を、第VIII因子欠損血漿を基質として用いた、カオリン活性化部分トロンボプラスチン時間アッセイで試験した(100μlの試験検体を添加する前に、50μlの第VIII因子欠損血漿+50μlのアッセイで用いる緩衝液+50μlのdapttin TC試薬を37℃で180秒間インキュベートした)。凝固時間を測定し、第X因子活性剤または不活性化第X因子のみを含む対照検体による凝固時間と比較した。表7−1に示された結果は、(a)第X因子が、塩化カルシウムによってまたは塩化カルシウムとRVV−Xとの組み合わせによって活性化されること;(b)活性化第X因子が実質的に凝固時間を短縮させ、この短縮が、第X因子活性剤と等価なもののいずれか単独によって達成された短縮より大きいことを明らかにする。
【0087】
【表9】

【0088】
[実施例8]第X因子の調製
溶剤洗剤処理した濃縮プロトンビン複合体を、0.5Mの塩化ナトリウムを含む溶液の、銅が荷電されたキレート化セファロース ファスト・フローのカラムにアプライした。このカラムを、0.5Mの塩化ナトリウムを含むpH6.5のクエン酸塩・リン酸塩緩衝液で洗浄した。その後、第X因子タンパク質を0.1Mの塩化ナトリウムを含むpH7.0のクエン酸塩・リン酸塩緩衝液で溶出した。最初の1.2ゲル総容積で溶出した該タンパク質を捨てた。次の3.3ゲル総容積中で溶出した第X因子タンパク質を回収した。この第X因子溶液の伝導度が10〜18mS/cmに、pHが6.0に減少した後、該溶液をDEAEセファロース ファスト・フロー陰イオン交換ゲルのカラムにアプライした。その後、該カラムを0.1Mの塩化ナトリウムを含むクエン酸緩衝液で洗浄し、次に0.15Mの塩化ナトリウムを含むクエン酸塩・リン酸塩緩衝液で洗浄した。続いて、精製した第X因子を0.31Mの塩化ナトリウムを含むpH7のクエン酸塩・リン酸塩緩衝液で溶出した。得られた第X因子をプラノバ(登録商標)15nmウイルス保持フィルターを通過させ、1%(w/w)のショ糖で処方し、標的とする有効性である第X因子130iu/mLにまで希釈し、凍結乾燥した。凍結乾燥した第X因子の薬瓶を真空下で密封した後、熱風炉で80℃で72時間加熱した。結果を表8に示す。
【0089】
【表10】

【0090】
[実施例9]活性化第X因子の調製
第X因子を実施例8に記載されたように調製し、約10iu/mlに希釈した。その後、第X因子を活性化するタンパク質であるラッセルクサリヘビ蛇毒(RVV−X)が結合したセファロースゲルに該溶液を混合した。第X因子をRVV−Xセファロースと最大3時間インキュベートすることによって、活性化が起こり、次に活性化第X因子溶液をRVV−Xセファロースから分離した。活性化は、還元状態下のSDS−PAGEランでの第Xa因子のバンドの出現により明らかとなった。活性化は、通常の活性化剤を除いてアッセイ用緩衝液に置換した第X因子アッセイを用いて評価した。活性化第X因子(FXa)の1ユニットは、第X因子の1国際単位を完全活性化した後の活性として定義した。未変性第X因子,不活性化第X因子の存在は、活性化剤を含む所定の第X因子アッセイを実施して評価した。結果(表9に示す)から、90%を超えた最大活性化を達成したことを確認した。
【0091】
【表11】

【0092】
[実施例10]第VIII因子の凝固能を回避するための活性化第X因子の使用
活性化第X因子を実施例9に記載されたように調製した。種々の濃縮物を通常の血漿基質を第VIII因子欠損血漿で置換した改変APPTアッセイ系に添加した。結果を表10に示す。緩衝液または不活性化第X因子(実施例11に記載されたように調製した)の添加は、長くなった凝固時間を矯正できなかった。0.02〜0.05u/mLの濃度で添加した場合、活性化第X因子の添加によって通常の凝固パラメータを達成した。
【0093】
【表12】

【0094】
[実施例11]不活性化第X因子の調製
上記実施例に記載されたように、銅が荷電された金属キレートクロマトグラフィーに続き陰イオン交換クロマトグラフィーによって、溶剤洗剤処理した濃縮プロトロンビン複合体を精製することにより第X因子を調製した。次に、60℃で最大20時間インキュベーションすることによって100iu/mLおよび10iu/mLでの第X因子を不活性化した。第X因子の不活性化は凝固時間アッセイによって評価した(表11)。40秒の凝固時間は第X因子0.07iu/mLに近い。これらの結果は、0.07iu/mLよりかなり少ない活性が21時間後に保持されていたことを示す。よって、実質的に99.9%を超える不活性化が達成された。
【0095】
【表13】

【0096】
[実施例12]凝固を阻害するための不活性化第X因子の使用
第X因子生成物を60℃で20時間加熱することによって、不活性化第X因子(FX−IN)を調製した。トロンビン生成アッセイ[Thrombin Generation Assay](TGA)に基質を添加する前に、活性化第X因子(FXa)を、種々の濃度の不活性化第X因子で希釈し混合した。結果を表12に示す。これは、0.05u/mlのFXaの凝固作用が、5〜10ユニットの不活性化第X因子(活性化第X因子より約10〜20倍過剰の不活性第X因子と等価)の存在によって無効にすることができることを示す。
【0097】
【表14】

【0098】
[実施例13]第X因子調製における血栓形成の欠如
実施例8に記載されているように第X因子を調製した。生成物をインビボ ウサギうっ血性血栓形成モデルを用いて試験した。3つの投与量(100,200および400iu/体重1kg)での第X因子の効果を、陰性の対照である生理食塩水の効果と比較した。試験制度が血栓形成の抗原投与(接種)を検出できることを実証するために、トロンビンの陽性の対照(50iu/体重1kg)を含めた。生成物を耳周辺の静脈に点滴し、30秒間血行に入れた。頸静脈の一部を結紮糸によって分離し、15分後に血栓形成の量を評価した。結果は、第X因子を投与されたウサギと陰性の対照である生理食塩水を投与されたウサギとで統計的差異は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第X因子およびプロトロンビンを含む出発物質から第X因子を分離する方法であって、該方法は、
a)固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー担体に該出発物質を吸着させること;
b)特定の吸着タンパク質を該担体から溶出すること;ならびに
c)プロトロンビンおよび第X因子の溶出が開始される溶出液を観察し、該溶出液の最初の部分を廃棄し、それに続いて第X因子が濃縮された該溶出液の次の部分を回収すること
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記段階c)で得られた第X因子を、陰イオン交換クロマトグラフィーによって、さらに精製する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、ウイルスを減少または不活性化させる段階を少なくとも1つ含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
i)第X因子およびプロトロンビンを含む出発物質を溶剤洗剤処理すること;
ii)溶剤洗剤処理された出発物質を固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー担体に吸着させること;
iii)該担体から吸着タンパク質を溶出すること;
iv)プロトロンビン/第X因子の溶出が開始される溶出液を観察し、該溶出液の最初の部分を廃棄し、それに続いて第X因子が濃縮された該溶出液の次の部分を回収すること;
v)該溶出液の次の部分をさらに精製するために、陰イオン交換クロマトグラフィーを実施すること;
vi)ウイルス保持フィルターに通過させ、段階v)の生成物を濾過すること;
vii)1以上の安定剤とともに(任意)、段階vi)の濾過生成物を凍結乾燥すること;ならびに
viii)凍結乾燥した生成物を、ウイルスを減少/不活性化する熱処理段階に供すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記第X因子が、ヒト第X因子である上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
上記出発物質が、血漿画分である上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
上記出発物質が、プロトロンビン複合体である上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
上記第X因子を活性化するために、さらに、活性化段階を含む上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
上記第X因子が、二価金属イオン単独で、または毒液との併用で活性化される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記二価金属イオンが、カルシウムである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記毒液が、ラッセルクサリヘビ蛇毒である請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
第X因子または活性化第X因子を不活性化するために、さらに、不活性化段階を含む上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
第X因子あるいは第Xa因子ならびに1以上の薬学的に許容し得る希釈剤,賦形剤および/または安定剤を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項14】
上記安定剤が、ショ糖,トレハロース,デキストラン,グリシン,ポリビニルピロリドンまたはポリエチレングリコールである請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
凍結乾燥されたものである請求項13または14に記載の組成物。
【請求項16】
上記の第X因子または第Xa因子が、請求項1〜11のいずれかに記載の方法によって調製される請求項13〜15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
患者に見られる第VIII因子欠乏症または第IX因子欠乏症の治療において使用するためのものであることを特徴とする第X因子または第Xa因子。
【請求項18】
第X因子または第Xa因子の治療効果のある量で患者を治療する方法を含む、該患者に見られる第VIII因子欠乏症または第IX因子欠乏症を治療することを特徴とする方法。
【請求項19】
第X因子または第Xa因子の治療効果のある量で患者を治療することを含む、該患者に見られる出血を治療または予防することを特徴とする方法。
【請求項20】
出血の治療または予防において使用するためのものであることを特徴とする第X因子または第Xa因子。
【請求項21】
第X因子または第Xa因子の治療効果のある量で患者を治療することを含む、該患者に見られる抗凝固作用を改善させることを特徴とする方法。
【請求項22】
抗凝固の改善に使用するためのものであることを特徴とする第X因子または第Xa因子。
【請求項23】
上記第X因子または第Xa因子を、請求項1〜11のいずれかに記載の方法によって調製することを特徴とする請求項18,19および21のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
不活性化第X因子または不活性化第Xa因子ならびに1以上の薬学的に許容し得る希釈剤,賦形剤および/または安定剤を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項25】
上記の不活性化第X因子または不活性化第Xa因子が、請求項12に記載の方法によって調製される請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
不活性化第X因子または不活性化第Xa因子の治療効果のある量で患者を治療することを含む、該患者に見られる凝固を治療または予防することを特徴とする方法。
【請求項27】
抗凝固剤として使用するためのものであることを特徴とする不活性化第X因子または不活性化第Xa因子。
【請求項28】
上記の不活性化第X因子または不活性化第Xa因子を、請求項12に記載の方法によって調製することを特徴とする請求項25に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−528096(P2010−528096A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509888(P2010−509888)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001810
【国際公開番号】WO2008/145989
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(509329763)
【Fターム(参考)】