説明

筆記具用インキ組成物

【課題】筆記することによってインキが紙に浸透、乾燥し、着色あるいは無色の透明な透かしの描けるインキ組成物を提供する。
【解決手段】水に不溶で低級アルコールに溶解するアクリル系共重合樹脂、低級アルコール系溶剤、ポリエチレングリコール、色材を含有する筆記具用インキ組成物であって、共重合樹脂の分子量が7000〜15000、ガラス転移点が−10〜60℃、ポリエチレングリコールの平均分子量が1000〜4000、インキ粘度が50〜120mPa・sである筆記具用インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透かしの描ける筆記具用インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より透かしは主として、重要書類や紙幣証券、チケットなどの改ざん防止を目的に紙に施されてきた。しかしながら最近では、印刷物やイラストなどで、透かし装飾を楽しむ用途も増えている。
透かし入り用紙の製造は、抄紙の段階で紙厚の差をつけたり繊維量を粗密にしたりして行なわれていたが、最近では、紙に透かし模様を印刷する方法が提案されており、例えば特許文献1には、紫外線硬化型ビニル化合物を含むインキをインキジェット印刷法により印字し、印字部分を紫外線硬化させることによって紙に透かしを入れる方法が、また、特許文献2には透明樹脂を用いたエマルジョンインキにより透かしを孔版印刷で作成する方法が、それぞれ開示されている。しかしこれらは何れも印刷手段によって透かし模様を付与するものであり、透かし用印刷インキを筆記用として使用した場合、透かし模様を描くための紙面へのインキのしみこみ度合いの調節が難しく、筆記後に紫外線照射などの筆跡への処理が必要になる等の問題点があり、いまだ透かしを描ける筆記具用インキは提案されていない。
【特許文献1】特開2003−301130号公報
【特許文献2】特開平6−212108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明者は、透かし模様を描けるような筆記具用インキについて鋭意検討した結果、本発明を完成したもので、本発明は外観が着色あるいは無色の透明のインキであり、筆記することによってインキが紙に浸透、乾燥し、着色或いは無色の透明な透かしの描ける筆記具用インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の要旨は、水に不溶で低級アルコールには溶解するアクリル系共重合樹脂、低級アルコール系溶剤、ポリエチレングリコール、色材を含有し、インキ粘度が50〜120mPa・sである筆記具用インキ組成物である。そして、前記のアクリル系共重合樹脂の分子量が7000〜15000、ガラス転移点が-10〜60℃であり、インキ全量に対して20〜50重量%含有していることが好ましく、また、前記ポリエチレングリコールは分子量が1000〜4000でインキ全量に対して2〜10重量%含有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明の筆記具用インキ組成物は、外観は着色あるいは無色の透明なインキであり、筆記することによってインキが紙に浸透、乾燥し、着色或いは無色の透明な透かしが描け、水に長時間浸っても白化しない耐水性に優れた透かし文字や模様を描くことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる水に不溶でアルコールには溶解するアクリル系共重合樹脂とは、アクリル酸エステル、スチレン、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸などを適宜共重合させたものである。本発明では、分子量7000〜15000、ガラス転移点−10〜60℃であるアクリル系共重合樹脂をインキ全量に対して20〜50重量%添加して用いることが好ましい。例として挙げれば、アクリル酸メタクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸エステル共重合体、アクリル酸スチレン共重合体、マレイン酸スチレン共重合体などであり、これらを1種または2種以上混合して用いる。分子量が7000未満であると、粘度が低すぎて紙への滲みが目立ち、所望の模様が描けない。15000を超えると少量にてインキ粘度が増大してしまう。更に、ガラス転移点は、−10〜60℃のものを用いる。−10℃以下の場合、べたつきが生じ、60℃以上の場合は筆跡乾燥後に割れが生じ、透かしが白濁する。そして、インキ全量に対して20〜50重量%の添加が好適であった。
【0007】
本発明に用いる溶媒は低級アルコール系溶剤であり、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられ、これらを1種または2種以上混合して用いる。
本発明には筆跡の耐水化剤として平均分子量1000〜4000のポリエチレングリコールを1種または2種以上混合して使用する。平均分子量1000以下のものを用いると透かし部分にべたつきが生じ、耐水性に劣る。4000以上のものを用いると、増粘が著しい。添加量は2〜10重量%が好適であった。
ポリエチレングリコールによる筆跡の耐水化作用については定かではないが、室温で固体である平均分子量が1000以上のポリエチレングリコールは、それのみが水中に溶解せずに、透かし筆跡と水の界面に保護層を形成し、水に不溶なアクリル系共重合樹脂の白化を防ぐようである。
【0008】
本発明に用いる色材としては、通常のアルコール系インキに用いる染料又は顔料をインキ外観の透明性が失われない程度の色付けに用いることができ、具体的には、アルコール可溶性染料、C.I.ソルベントブラック5、C.I.ソルベントブラック7、C.I.ソルベントブルー5、C.I.ソルベントブルー12、C.I.ソルベントブルー25、C.I.ソルベントブルー38、C.I.ソルベントブルー70、C.I.ソルベントレッド1、C.I.ソルベントレッド8、C.I.ソルベントレッド23、C.I.ソルベントレッド82、C.I.ソルベントイエロー6、C.I.ソルベントイエロー21、C.I.ソルベントイエロー56、C.I.ソルベントイエロー61、C.I.ソルベントオレンジ45、C.I.ソルベントバイオレット21、C.I.ソルベントグリーン3、C.I.ソルベントブラウン20、蛍光染料などの染料から1種又は2種以上混合して用いることができる。また、カーボンブラックや白色顔料である二酸化チタン等の無機顔料、フタロシアニンブルー(C.I.74160)、フタロシアニングリーン(C.I.74260)、ジスアゾエローGR(C.I.21100)、パーマネントレッド4R(C.I.12335)、ブリリアントカーミン6B(C.I.15850)等の有機顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等を1種または2種以上混合して用いることができる。
更に、本発明のインキ組成物には、上記成分の他、必要に応じて、筆記具用インキ組成物に用いられる公知の添加剤などを用いることができる。例えば、分散剤、防腐剤、防錆剤などである。
【実施例】
【0009】
次に実施例、比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
実施例1
アクリル酸スチレン共重合体(分子量10000、Tg50℃)35.00重量%
エタノール 25.00重量%
イソプロピルアルコール 31.95重量%
ポリエチレングリコール(分子量1000) 8.00重量%
C.I.ソルベントイエロー56 0.05重量%
【0010】
実施例2
アクリル酸メタクリル酸エステル共重合体 40.00重量%
(分子量10900、Tg20℃)
エタノール 53.49重量%
イソプロピルアルコール 1.90重量%
ノルマルプロピルアルコール 2.60重量%
ポリエチレングリコール(分子量2000) 2.00重量%
C.I.ソルベントブルー38 0.01重量%
【0011】
比較例1
実施例1のポリエチレングリコール(分子量1000)を分子量600のものに置き換えた。
比較例2
実施例1のポリエチレングリコール(分子量1000)を分子量6000のものに置き換えた。
比較例3
実施例1のポリエチレングリコール(分子量1000)を除き、アクリル酸スチレン共重合体を43.00重量%とした。
比較例4
実施例2のアクリル酸メタクリル酸エステル共重合体(分子量10900、Tg20℃)をアクリル酸スチレン共重合体(分子量4600、Tg70℃)に置き換えた。
比較例5
実施例2のアクリル酸メタクリル酸エステル共重合体(分子量10900、Tg20℃)をアクリル酸メタクリル酸エステル共重合体(分子量52200、Tg1.7℃)に置き換えた。
【0012】
実施例1及び2、比較例1〜5とも、各組成成分を計量したのち、公知の撹拌機を用いて、50〜60℃にて約2時間撹拌し溶解した。
得られたインキの性能については次のような方法によって測定し、その結果を表1に示した。
(1)インキの外観透明性・・・各インキを透明ガラス瓶に入れ、目視により透明性を確認し、○と×にて判断した。
(2)インキ粘度・・・(株)トキメック社製ELD型粘度計にて25℃で測定した。
(3)透かし描画性・・・各インキを当社極細修正ペン容器に搭載し、筆記具を得た。これを用いて、コピー紙(白色度70%)、上質紙、ケント紙、画用紙に手書きによる螺旋筆記を行ない、透かしが描けるかどうかを確認し、○と×にて判断した。
(4)筆跡(透かし)耐水性・・・(3)で上質紙に描いた透かし筆跡を室温にて24時間放置後、イオン交換水に浸漬し、24時間放置後に、浸漬前の筆跡と比較し、透かし筆跡の変化有無を○と×にて判断した。
【0013】
【表1】

上記の結果から明らかなように、水に不溶で低級アルコールには溶解するアクリル系共重合樹脂、低級アルコール系溶剤、ポリエチレングリコール、色材を含有し、インキ粘度が50〜120mPa・sである筆記具用インキ組成物であって、そのアクリル系共重合樹脂の分子量が7000〜15000、ガラス転移点が−10〜60℃であり、インキ全量に対して20〜50重量%含有し、ポリエチレングリコールの分子量が1000〜4000であり、インキ全量に対して2〜10重量%含有した筆記具用インキ組成物であるとき、外観は着色あるいは無色の透明であり、筆記することによってインキが紙に浸透、乾燥することによって、着色或いは透明な透かしの描ける筆記具用インキ組成物を提供できることを見出した。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明に係る筆記具用インキ組成物は、外観は着色あるいは無色の透明のインキであり、筆記することによってインキが紙に浸透、乾燥し、着色或いは無色の透明な透かしが描け、水に長時間浸っても白化しない耐水性に優れており、これを使用することによって容易に透かし文字や模様を描くことが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に不溶で低級アルコールには溶解するアクリル系共重合樹脂、低級アルコール系溶剤、ポリエチレングリコール、色材を含有し、インキ粘度が50〜120mPa・sである筆記具用インキ組成物。
【請求項2】
前記アクリル系共重合樹脂の分子量が7000〜15000、ガラス転移点が−10〜60℃であり、インキ全量に対して20〜50重量%含有した請求項1記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールの分子量が1000〜4000であり、インキ全量に対して2〜10重量%含有した請求項1記載の筆記具用インキ組成物。


【公開番号】特開2006−193611(P2006−193611A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6309(P2005−6309)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000134589)株式会社トンボ鉛筆 (158)
【Fターム(参考)】