説明

筆記具用W/O型エマルションインキ組成物及び筆記具

【課題】蛍光着色剤を用いても、油性成分中における水性成分の分散性が良好であり、エマルションの乳化安定性及び書き味に優れた筆記具用W/O型エマルションインキ組成物を提供する。
【解決手段】油性成分中に水性成分が分散された筆記具用W/O型エマルションインキ組成物であって、油性成分が蛍光着色剤を含有し、水性成分が蛍光増白剤及び水を含有する筆記具用W/O型エマルションインキ組成物および該筆記具用W/O型エマルションインキ組成物を有する筆記具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用W/O型エマルションインキ組成物及び筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペン等の筆記具用のインキとしては、水性インキ及び油性インキが一般的であるが、近年、油性成分中に水性成分を分散させたW/O型エマルションインキが提案されている。一般に、油性インキは書き味が重くなる傾向がある。一方、水性インキは筆記線の乾燥が遅く紙面を汚しやすい傾向がある。これに対し、W/O型エマルションインキは、良好な書き味と筆記線の乾燥性との両方を満足するインキとして注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、極性溶剤と曳糸性付与剤とを含む油性成分中に、水と多価アルコールとチキソ性付与剤と顔料とを含む水性成分を分散させたW/O型エマルションインキ組成物が提案されている。しかしながら、蛍光色の筆記具用インキとしては、従来から水性インク組成物が用いられており、エマルションインキ組成物はあまり用いられていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2007−327003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光色の染料自体は発色性が悪く溶解性も低いため、蛍光色の筆記具用のW/O型エマルションインキ組成物を調製する場合には、蛍光色染料の発色性と溶解性を向上することを目的として、例えば、樹脂と当該樹脂を着色する染料とを有する蛍光着色剤を用いることが有効であると考えられる。しかしながら、蛍光着色剤を用いると、良好な乳化安定性を有するW/O型エマルションインキを調整することは困難である。この要因としては、蛍光着色剤に含まれる樹脂が乳化安定性に悪影響を与えていることが考えられる。
【0006】
エマルションの安定性を向上するためには、通常、乳化剤が用いられる。しかしながら、本発明者らの検討によれば、蛍光着色剤を用いたW/O型エマルションインキに乳化剤を添加しても、乳化安定性を改善することは困難であることが分かった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、蛍光着色剤を用いても、油性成分中における水性成分の分散性が良好であり、エマルションの乳化安定性及び書き味に優れた筆記具用W/O型エマルションインキ組成物を提供することを目的とする。また、良好な書き味を有する筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため、種々の成分を用いることを検討した。そして、蛍光着色剤を用いる場合、特定の成分がエマルションの乳化安定性の向上に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、油性成分中に水性成分が分散された筆記具用W/O型エマルションインキ組成物であって、油性成分が蛍光着色剤を含有し、水性成分が蛍光増白剤及び水を含有する筆記具用W/O型エマルションインキ組成物を提供する。
【0009】
上記本発明の筆記具用W/O型エマルションインキ組成物は、油性成分中における水性成分の分散性が良好であり、エマルションの乳化安定性及び書き味に優れる。このような効果が得られる理由を、本発明者らは以下の通り推察する。本発明では、油性成分中における蛍光染料の溶解性を改善するために蛍光着色剤を用いている。これによって、蛍光着色剤による乳化安定性の低下を抑制し、エマルションの安定性を向上することが可能になると考えられる。また、これとは別の要因として、油性成分に含まれる蛍光着色剤と水性成分に含まれる蛍光増白剤との相互作用によって、水性成分からなる水滴のサイズが小さくなり、乳化状態の安定性が向上すると考えられる。このような要因によって、水性成分の分散性が良好となり、エマルションの乳化安定性及び書き味に優れるW/O型エマルションインキ組成物にすることができると推察する。
【0010】
本発明の筆記具用W/O型エマルションインキ組成物における蛍光増白剤はスチルベン構造を有することが好ましい。このような蛍光増白剤を用いることによって、エマルションの乳化安定性を一層向上させることができる。
【0011】
本発明の筆記具用W/O型エマルションインキ組成物における水性成分のpHは8.9以上であることが好ましい。このようなpHを有する水性成分を含有することによって、エマルションの乳化安定性と筆記したときの書き味とを一層高水準で両立させることができる。
【0012】
本発明の筆記具用W/O型エマルションインキ組成物において、水性成分に対する油性成分の質量比が1.5〜4であることが好ましい。このような質量比で油性成分と水性成分とを含むことによって、エマルションの乳化安定性と筆記したときの書き味とをより一層高水準で両立させることができる。
【0013】
本発明ではまた、上述の筆記具用W/O型エマルションインキ組成物を有する筆記具を提供する。本発明の筆記具は、上述の特徴を有する筆記具用W/O型エマルションインキ組成物を有するため、蛍光色の筆記線を良好な書き味で描くことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蛍光着色剤を用いても、油性成分中における水性成分の分散性が良好であり、エマルションの乳化安定性及び書き味に優れた筆記具用W/O型エマルションインキ組成物を提供することができる。また、良好な書き味を有する筆記具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の筆記具の一実施形態であるボールペンを示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態の筆記具用W/O型エマルションインキ組成物は、油性成分中に水性成分が分散された筆記具用W/O型エマルションインキ組成物であって、水性成分が蛍光増白剤と水を含有し、油性成分が蛍光着色剤を含有する。以下、本実施形態のW/O型エマルションインキ組成物(以下、単に「インキ組成物」ということもある。)に含まれる各成分について説明する。
【0018】
油性成分は、蛍光着色剤を含有する。蛍光着色剤としては、樹脂と該樹脂を蛍光染料で染着させたもの等が挙げられる。蛍光染料の具体例としては、カラーインデックスナンバー(以下、「C.I.」で示す。)Basic Yellow 1、同40、C.I. Basic Red 1、同13、C.I. Basic Violet 7、同10、C.I. Basic Orange 22、C.I. Basic Blue 7、C.I. Basic Green 1、C.I. Acid Yellow 3、同7、C.I. Acid Red 52、同77、同87、同92、C.I. Acid Blue 9、C.I. Disperse Yellow 121、同82、同83、C.I. Disperse Orange 11、C.I. Disperse Red 58、C.I. Disperse Blue 7、C.I. Direct Yellow 85、C.I. Direct Orange 8、C.I. Direct Red 9、C.I. Direct Blue 22、C.I. Direct Green 6、C.I. Fluorescent Brightening Agent 55、C.I. Fluorescent Brightening Whitex WS 52、C.I. Fluorescent 162、同112、C.I. Solvent Yellow 44、C.I. Solvent Red 49、C.I. Solvent Blue 5、C.I. Solvent Pink、及びC.I. Solvent Green 7等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
蛍光染料で染着された樹脂は、スチレン−ジビニルベンゼン共重合物のソディウムスルホン化物、ポリアミド樹脂、ホルムアルデヒド−ベンゾグアナミン樹脂、及びホルムアルデヒド−p−トルエンスルホンアミド樹脂から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。このような樹脂を有する蛍光着色剤を用いることによって、油性成分中への溶解性を向上させ、発色性も向上させることができる。蛍光着色剤は、公知の方法で作製してもよく、市販品を購入してもよい。
【0020】
蛍光着色剤の含有量は、インキ組成物全量を基準として、好ましくは10.0〜35.0質量%であり、より好ましくは15.0〜30.0質量%である。蛍光着色剤の含有量が10.0質量%未満であると、十分な着色性が得られ難くなる傾向にある。一方、蛍光着色剤の含有量が30.0質量%を超えると、十分に優れたインキ組成物の経時安定性が損なわれる傾向にある。
【0021】
油性成分は、従来のインキ組成物の油性成分として用いられる成分を含有していてもよい。例えば、油性成分は、極性溶剤を含有していてもよい。極性溶剤としては、インキ組成物に使用される極性溶剤を特に制限なく使用することができる。かかる極性溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル(フェニルグリコール)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、並びに、ベンジルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、及びポリエチレングリコールなどのアルコール類等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
極性溶剤の含有量は、インキ組成物全量を基準として、好ましくは25.0〜60.0質量%であり、より好ましくは35.0〜55.0質量%である。極性溶剤の含有量が25.0質量%未満であると、粘度が高くなり書き味が損なわれる傾向がある。一方、極性溶剤の含有量が60.0質量%を超えると、十分な着色性が得られ難くなる傾向にある。
【0023】
油性成分は曵糸性付与剤を含有してもよい。曵糸性付与剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。曵糸性付与剤を用いることにより、筆記時のボタや静置時のダレを防止することができる。また、インキに適度な粘弾性を持たせられることから、書き味を滑らかにする効果を得ることができる。
【0024】
曵糸性付与剤の含有量は、インキ組成物全量を基準として0.5〜3.0質量%であることが好ましく、0.6〜2.5質量%であることがより好ましい。曵糸性付与剤の含有量が0.5質量%未満であると、筆記時のボタや静置時のダレが生じやすくなる傾向にある。一方、曵糸性付与剤の含有量が3.0質量%を超えると、インキ組成物の粘度が高くなり、筆跡にかすれを生じる傾向にある。
【0025】
油性成分は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、粘度調整剤(樹脂等)、潤滑剤、顔料、酸化防止剤及び植物油等が挙げられる。粘度調整剤としては、例えば、ケトン樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン樹脂、キシレン樹脂、アミド樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、テルペン樹脂、ブチラール樹脂等を使用することができる。潤滑剤としては、例えば、オレイン酸などの高級脂肪酸やリン酸エステル系の潤滑剤等を使用することができる。
【0026】
顔料としては、例えば、カーボンブラック、不溶性アゾ系、アゾレーキ系、縮合アゾ系、ジケトピロロピロール系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、スレン系、イソインドリノン系などの一般的な有機顔料等を使用することができる。
【0027】
油性成分は、着色剤として、上述の蛍光染料とは異なる油溶性染料を含有してもよい。油溶性染料としては公知のものを特に制限なく使用することができる。このような油溶性染料としては、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料等が挙げられる。より具体的には、例えば、スピリットブラック61F、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストイエロー1109、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1623、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1360、バリファーストレッド2320(以上、オリヱント化学工業株式会社製)、アイゼンスピロンブラックGMHスペシャル、アイゼンスピロンバイオレットC−RH、アイゼンスピロンイエローC−GH new、アイゼンスピロンブルーC−RH、アイゼンスピロンS.P.T. ブルー−111、アイゼンスピロンS.P.T.ブルー−121(以上、保土谷化学工業株式会社製)等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
本実施形態のインキ組成物において、水性成分は、蛍光増白剤及び水を含有する。水の含有量は、インキ組成物全量を基準として、好ましくは5.0〜30.0質量%であり、より好ましくは10.0〜25.0質量%である。水の含有量が5.0質量%未満であると、優れた経時安定性が若干損なわれる傾向にある。一方、水の含有量が30.0質量%を超えると、他の成分の種類によっては十分優れた書き味が損なわれる場合がある。
【0029】
本明細書における蛍光増白剤は、近紫外部の紫外線を吸収して、紫青〜青色の蛍光を発する化学物質である。蛍光増白剤は、エマルションの乳化安定性を一層向上させる観点から、好ましくはスチルベン誘導体、イミダゾール誘導体、及びクマリン誘導体等から選ばれる少なくとも一種を含有し、より好ましくはスチルベン誘導体を含有する。スチルベン誘導体は、スチルベン構造(1,2−ジフェニルエチレン構造)を有するものであり、その具体例としては、フルオレスセント−24、4,4’−ビストリアジニルアミノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸誘導体などのビストリアジニルアミノスチルベン系の化合物が挙げられる。なお、スチルベン構造は、trans−スチルベン構造でもcis−スチルベン構造であってもよいが、好ましくはtrans−スチルベン構造である。
【0030】
スチルベン誘導体は、エマルションの乳化安定性を向上させる観点から、スルホン酸塩であることが好ましく、下記式(1)で表される構造を有するものであることがより好ましい。
【0031】
【化1】

【0032】
好適な蛍光増白剤の具体例としては、カヤホール SN conc.、カヤホール CR200、カヤホール AS150、カヤホール FB conc.、カヤホール PBS、カヤホール ES Liquid、カヤホール FB Liquid、カヤホール STC Liquid、カヤホール FKY Liquid、カヤホール PASQ Liquid、カヤホール EXN Liquid、カヤホール HBC Liquid、カヤホール PBS Liquid、カヤホール JB Liquid、及びカヤホール AS Liquid(以上、商品名、日本化薬株式会社製)、並びにハッコール OW−11、ハッコール OW−119、ハッコール BE conc、ハッコール SG conc 150、及びハッコール S−100(以上、商品名、昭和化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0033】
蛍光増白剤の含有量は、インキ組成物全量を基準として好ましくは0.01〜3.0質量%であり、より好ましくは0.02〜2.0質量%である。蛍光増白剤の含有量が0.01質量%未満又は3.0質量%を超えると、インキ組成物の十分に優れた経時安定性が損なわれる傾向にある。
【0034】
蛍光着色剤に対する蛍光増白剤の質量比率は、好ましくは0.001〜0.08であり、より好ましくは、0.002〜0.02である。該質量比率が0.001〜0.08であると、水性成分の水滴の粒径を十分に小さくして、エマルションの分散性を一層良好にすることができる。また、該質量比率が0.002〜0.02であると、エマルションの分散性をより一層良好にするとともに、経時安定性をさらに向上させることができる。
【0035】
水性成分は、着色剤を含有してもよい。着色剤としては、公知のものを特に制限なく使用することが可能であり、顔料及び染料のいずれも使用可能である。顔料としては、例えば、カーボンブラック、不溶性アゾ系、アゾレーキ系、縮合アゾ系、ジケトピロロピロール系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、スレン系、イソインドリノン系などの一般的な有機顔料等を使用することができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。顔料を用いることにより、筆跡を濃く明瞭なものとすることができるとともに、筆跡の耐光性を十分なものとすることができる。
【0036】
染料としては、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料などの水溶性染料を使用することができる。このうち、直接染料としては、カラーインデックスナンバーで示すと、カラーインデックス(以下、「C.I.」で示す)Direct Black 17、同19、同38、同154、C.I. Direct Yellow 1、同4、同12、同29、C.I. Direct Orange 6、同8、同26、同29、C.I. Direct Red 1、同2、同4、同13、C.I. Direct Blue 2、同6、同15、同78、同87などが挙げられる。また、酸性染料としては、C.I. Acid Black 2、同31、C.I. Acid Yellow 3、同17、同23、同73、C.I. Acid Orange 10、C.I. Acid Red 13、同14、同18、同27、同52、同73、同87、同92、C.I. Acid Blue 1、同9、同74、同90などが挙げられる。また、塩基性染料としては、C.I. Basic Yellow 2、同3、C.I. Basic Red 1、同2、同8、同12、C.I. Basic Violet 1、同3、同10、C.I. Basic Blue 5、同9、同26などが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、水性成分は、上述の蛍光着色剤に含まれる蛍光染料と同一の染料を含有してもよい。
【0037】
水性成分における着色剤の含有量は、インキ組成物全量を基準として、好ましくは0.5〜10.0質量%であり、より好ましくは1.0〜5.0質量%である。着色剤の含有量が0.5質量%未満であると、筆記線の明瞭さが損なわれる傾向にある。一方、着色剤の含有量が10.0質量%を超えると、インキ組成物の経時安定性が損なわれる傾向にある。
【0038】
水性成分中に着色剤として顔料を含有させる場合、水性成分は、顔料分散剤を更に含むことが好ましい。このような顔料分散剤としては、上記顔料を分散可能なものであれば特に制限されず、例えば、アクリル酸又はそのエステル、メタクリル酸又はそのエステル、マレイン酸又はそのエステルなどの1種を、単独で重合させるか、或いは、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニルなどと共重合させた樹脂を、アルカリ金属やアミンで中和して水溶性にした水溶性樹脂、及び、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも水溶性樹脂が好ましく、具体的にはスチレン−マレイン酸共重合体が特に好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。顔料分散剤を用いることにより、経時的に顔料の沈降や凝集が生じることを抑制することができ、良好な経時安定性を得ることができる。
【0039】
顔料分散剤の含有量は、インキ組成物全量を基準として、好ましくは0.1〜5.0質量%であり、より好ましくは0.5〜3.0質量%である。顔料分散剤の含有量が0.1質量%未満であると、経時的に顔料の沈降や凝集が生じやすくなる傾向にある。一方、顔料分散剤の含有量が5.0質量%を超えると、インキ組成物の粘度が高くなり書き味が低下する傾向がある。なお、顔料及び顔料分散剤は、予めこれらと溶媒とが所定の割合で配合された市販の顔料水分散体を用いてもよい。
【0040】
水性成分は、潤滑剤を更に含んでもよい。潤滑剤としては、例えば、ポリアルキレングリコール誘導体、脂肪酸塩、ノニオン系界面活性剤、リン酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも脂肪酸塩を含むことが好ましく、オレイン酸カリウムを含むことがより好ましい。上述の潤滑油は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。潤滑剤を用いることにより、顔料等によるボール受け座の摩耗を一層抑制することができる。
【0041】
潤滑剤の含有量は、インキ組成物全量を基準として、好ましくは0.1〜5.0質量%である。潤滑剤の含有量が0.1質量%未満であると、ボール受け座の摩耗抑制効果が低下する傾向がある。一方、潤滑剤の含有量が5.0質量%を超えると、インキ組成物の経時安定性が低下する傾向がある。
【0042】
水性成分は、上述の成分以外に更に他の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、例えば、防錆剤、防菌剤、保湿剤、pH調整剤等が挙げられる。防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、リン酸オクチル、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、エチレンジアミン四酢酸塩などを使用することができる。防菌剤としては、例えば、ペンタクロロフェノールナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2,4−チアゾリルベズイミダゾール、パラオキシ安息香酸エステルなどを使用することができる。
【0043】
保湿剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、尿素、チオ尿素、エチレン尿素などを使用することができる。pH調整剤としては、例えば、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどを使用することができる。
【0044】
水性成分のpHは、好ましくは8.9以上であり、より好ましくは8.9〜11であり、さらに好ましくは8.9〜10である。水性成分のpHを8.9未満であると、エマルションの乳化安定性と書き味とを高水準で両立させることが困難になる傾向にある。一方、水性成分のpHが11を超えると、製造が困難になる傾向にある。水性成分のpHは、油性成分と混合する前に、市販のpHメーターを用いて測定することができる。
【0045】
本実施形態のインキ組成物における水性成分に対する油性成分の質量比(油性成分/水性成分)は、好ましくは1.5〜4であり、より好ましくは1.8〜3であり、さらに好ましくは2〜2.5である。油性成分の質量比が大きくなり過ぎると、インキ組成物の経時安定性が損なわれる傾向にある。一方、油性成分の質量比が小さくなり過ぎると、筆跡のかすれが生じやすくなる傾向にある。
【0046】
水性成分からなる水滴の平均粒径は、好ましくは0.1〜1μmであり、より好ましくは0.5〜1μmである。このような平均粒径を有する水滴を含有するインキ組成物は、経時安定性に一層優れる。インキ組成物中における水滴の平均粒径は、市販の光学顕微鏡でインキ組成物を拡大(250倍)して観察し、任意に選択した10個の粒子の粒径の算術平均値として求めることができる。
【0047】
本実施形態のインキ組成物は、上述した油性成分と水性成分とを別々に調製したのち、油性成分と水性成分とを混合することにより、油性成分中に水性成分からなる水滴が分散されたW/O型エマルションインキとして得ることができる。
【0048】
油性成分と水性成分との混合は、例えば、ディゾルバー、ヘンシェルミキサー、ホモミキサーなどの攪拌機を用いて行うことができる。攪拌条件は特に制限されないが、例えばディゾルバー攪拌機を用いて、回転数100〜1000rpmで30〜180分間攪拌することにより、水性成分からなる水滴が油性成分中に均一に分散されたW/O型エマルションインキ組成物を形成することができる。
【0049】
本実施形態のインキ組成物では、水性成分の分散性に優れており、粒径がほぼ均一な水性成分からなる水滴を、油性成分においてほぼ均一に分散させることができる。このようなインキ組成物を用いることによって、蛍光色のW/O型エマルションインキ組成物とした場合であっても、優れた書き味を有する筆記具とすることができる。また、本実施形態のインキ組成物は、エマルションの経時安定性にも優れており、優れた書き味を長期間に亘って維持することができる。
【0050】
次に、上述の筆記具用W/O型エマルションインキ組成物を有する筆記具の好適な実施形態について説明する。
【0051】
図1は、本発明の筆記具の一実施形態であるボールペンを示す模式断面図である。図1に示すボールペン100において、筆記具用W/O型エマルションインキ組成物12はインキ収容管14内に充填されている。インキ収容管14の一端側にはボールペンチップ20が取り付けられている。このボールペンチップ20は、ボールホルダー24及びボール26で構成され、ジョイント22によりインキ収容管14の一端に固定されている。また、インキ収容管14内には、インキ組成物12のボールペンチップ20側と反対側に、インキ組成物12と隣接した状態で逆流防止体16が収容される。ここで、逆流防止体16は、インキ組成物12との間に隙間が生じないように配置される。
【0052】
また、ボールペン100においては、インキ収容管14、ボールペンチップ20、インキ組成物12及び逆流防止体16により中芯10が構成されている。中芯10は本体軸18の内部に装着されている。本体軸18の後端(ボールペンチップ20と反対側の一端)には、通気孔を有する尾栓28が取り付けられている。
【0053】
以下、ボールペン100の構成要素について説明するが、インキ組成物12以外の構成には、ボールペンに用いられる一般的な構成を適用することができる。
【0054】
インキ収容管14としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネートなどの樹脂、又は、金属からなるものを使用することができる。また、インキ収容管14の形状は特に制限されず、例えば、円筒状等の形状とすることができる。
【0055】
逆流防止体16は、インキ組成物を流出させない機能(流出防止性)や、インキ組成物をドライアップさせない機能(密栓性)等を有するものであり、こうした機能を有する公知の逆流防止体を特に制限なく使用することができる。かかる逆流防止体16は、例えば、基油と増稠剤とを含んで構成されている。基油としては、鉱油、ポリブテン、シリコン油、グリセリン、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。また、増稠剤としては、金属石鹸系増稠剤、有機系増稠剤、無機系増稠剤等が挙げられる。
【0056】
本体軸18及び尾栓28としては、例えば、ポリプロピレン等のプラスチック材料からなるものを使用することができる。
【0057】
ジョイント22としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート等からなるものを使用することができる。
【0058】
ボールペンチップ20におけるジョイント22、ボールホルダー24及びボール26としては、通常のボールペンに用いられているものを使用することができる。また、ボール26の直径は0.3〜1.2mmであることが好ましい。
【0059】
本実施形態のボールペンは、上述の特徴を有するインキ組成物12を用いているため、蛍光色の筆記線を書き味よく描くことができる。また、インキ組成物12はエマルションの安定に優れていることから、長期間保管後も、初筆かすれやボテの発生を十分に抑制することができる。また、ボール26やボールホルダー24のボール受け座部分の磨耗を十分に抑制することができる。
【0060】
上述した構成を有する本実施形態のボールペン100は、通常のボールペン等の製造方法により製造することができる。
【0061】
以上、ボールペンの好適な実施形態について説明したが、ボールペンは上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の筆記具は、本体軸18を備えずにインキ収容管14がそのまま本体軸となっているボールペンであってもよい。また、本発明の筆記具は、インキ収容管14中のインキ組成物12及び逆流防止体16が後端(ボールペンチップ20と反対側の一端)側から加圧された状態となるような加圧機構を有するボールペンであってもよい。また、本発明の筆記具は、逆流防止体16を有しないボールペンであってもよい。
【0062】
また、本発明の筆記具は、ボールペンに限定されるものではなく、例えば筆ペンを含むマーキングペン類、又はインキ排出部に弁機構を用いた筆記具であってもよい。本発明のW/O型エマルションインキ組成物は、上述のような種々の筆記具に用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1〜9、比較例1〜6)
下記表1、表2、及び表3(以下、纏めて「表1〜3」という。)に示す原材料を準備した。油性成分と水性成分の原材料を、それぞれ別々に配合し、往復回転式攪拌機で混合して、油性成分と水性成分をそれぞれ別々に調製した。
【0065】
次に、ディゾルバー攪拌機を用いて、油性成分を攪拌しながら水性成分を加え、室温(25℃)、回転数300rpmの条件で1時間攪拌することにより、油性成分中に水性成分からなる水滴が分散された実施例1〜9及び比較例1〜6のW/O型エマルションインキ組成物を得た。表1〜3に得られたW/O型エマルションインキ組成物の組成を示す。なお、表1〜3に示す組成は、W/O型エマルションインキ組成物全体を基準とした各原材料(各成分)の含有量(質量%)を示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
表1〜3中の各原材料の詳細は以下の通りである。
・FNP−35 Lemon Yellow:商品名、シンロイヒ株式会社製、スチレン・ジビニルベンゼン共重合物のソディウムスルホン化物に蛍光染料[C.I. Disperse Yellow 82]を染着させたもの。
・FNP−34 Orange:商品名、シンロイヒ株式会社製、スチレン・ジビニルベンゼン共重合物のソディウムスルホン化物に蛍光染料[C.I. Disperse Yellow 83、C.I. Basic Red1:1、及びC.I. Solovent Red 49]を染着させたもの。
・NKS−1005 Yellow:商品名、日本蛍光化学株式会社製、蛍光着色剤、ポリアミド樹脂に蛍光染料[C.I. Basic Yellow 40]を染着させたもの。
・FM−109 White:商品名、シンロイヒ株式会社製、ホルムアルデヒド−ベンゾグアナミン樹脂、及びホルムアルデヒド−p−トルエンスルホンアミド樹脂の混合物に蛍光染料[C.I. FBA 184]を染着させたもの。
・PVP K−90:商品名、日本触媒社製。
・複素環状化合物溶解液:複素環状化合物、ベンジルアルコール溶解液。
・エマルゲン150:商品名、花王株式会社製、POE(47)ラウリルエーテル(乳化剤)。
・エマルゲンLS−110:商品名、花王株式会社製、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル。
・ C.I. Pigment Yellow:大日精化工業株式会社製。
・ 高分子共重合物(顔料分散剤):スチレン−マレイン酸共重合体。
・キレスライト:商品名、キレスト株式会社製。
・スラウト:商品名、日本エンバイロケミカルス株式会社製。
・カヤホール SN conc:商品名、日本化薬株式会社製、スチルベン誘導体。
・カヤホール AS150:商品名、日本化薬株式会社製、スチルベン誘導体。
・ハッコール OW−11:商品名、昭和化学工業株式会社製、スチルベン誘導体。
【0070】
[水滴の平均粒径の測定]
調製した各実施例及び各比較例のインキ組成物を光学式顕微鏡(倍率:250倍)で観察して、油性成分中に分散された水性成分からなる水滴の粒径を測定した。光学式顕微鏡の観察画面を撮影した写真において、任意に10個の水滴を選択して直径を測定し、算術平均値を求めた。この算術平均値を平均粒径とした。計算結果を表4に示す。
【0071】
[分散性及び乳化安定性の評価]
調製した各実施例及び各比較例のインキ組成物を光学式顕微鏡(倍率:250倍)で観察して、下記の評価基準で分散性及び乳化安定性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0072】
A:水滴(水性成分)の粒径が均一であり、顕微鏡観察中に水滴同士の合体や割れが発生しなかった。
B:水滴(水性成分)の粒径が不均一であり、且つ顕微鏡観察中に水滴同士が徐々に合体した。
C:水滴(水性成分)が粗大であり、形状がいびつであった。そして、顕微鏡観察中に、水滴同士が「B」よりも早い速度で合体した。
D:水滴(水性成分)が観察されず、W/O型エマルションが形成されていなかった。
【0073】
[書き味の評価]
先端にボールペンチップ(ボール径:0.7mm)を備えた図1に示すものと同様のボールペンのポリプロピレン製の円筒状インキ収容管(内径4.0mm)に、各実施例及び比較例で得られたインキ組成物を収容した。次に、そのインキ収容管内のボールペンチップとは反対側(インキ組成物の後端面側)に、上記インキ組成物と隣接するように、精製鉱油95質量%と増稠剤(金属石鹸、エラストマー)5質量%とからなる逆流防止体を充填した。そして、ボールペンの本体軸の後端に尾栓を取り付け、ボールペンを作製した。
【0074】
作製したボールペンを用いてフリーハンドで紙面上に筆記し、書き味を以下の評価基準に基づいて評価した。その結果を表4に示す。
【0075】
A:非常に滑らかであった。
B:滑らかであった。
C:滑らかさがなく、重かった。
【0076】
[経時安定性の評価]
「書き味の評価」と同様にして作製したボールペンを、ペン先を下にして、所定の雰囲気下(60℃、25〜95%RH)で保管し、インキ組成物が水性成分と油性成分とに分離するまでの期間を調べた。評価基準は以下の通りである。その結果を表4に示す。
【0077】
A:60日間以上、インキ組成物は分離しなかった。
B:8〜59日間で、インキ組成物が分離した。
C:1〜7日間で、インキ組成物が分離した。
【0078】
【表4】

【0079】
表4に示すように、実施例1〜9のインキ組成物は、水滴の平均粒径が小さく、分散性に優れたW/O型エマルションが形成されていることが確認された。また、実施例1〜9のインキ組成物は書き味及びインク組成物の経時安定性に優れていることが確認された。一方、蛍光増白剤を配合しなかった比較例1〜6のインキ組成物は、実施例1〜9よりも水滴の粒径が不均一であり、水滴の分散性があまり良くなかった。また、乳化剤を配合しても、エマルションの分散性も経時安定性も改善されないことが確認された(比較例4,5)。また、pH調整剤を増量してpHを高くした比較例6のインキ組成物も、実施例1〜9よりもエマルションの分散性及び乳化安定性が劣っていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、蛍光色にしても、油性成分中における水性成分の分散性が良好であり、エマルションの乳化安定性及び書き味に優れた筆記具用W/O型エマルションインキ組成物を提供することができる。また、良好な書き味を有する筆記具を提供することができる。
【符号の説明】
【0081】
10…中芯、12…インキ組成物、14…インキ収容管、16…逆流防止体、18…本体軸、20…ボールペンチップ、22…ジョイント、24…ボールホルダー、26…ボール、28…尾栓、100…ボールペン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性成分中に水性成分が分散された筆記具用W/O型エマルションインキ組成物であって、
前記油性成分が蛍光着色剤を含有し、
前記水性成分が蛍光増白剤及び水を含有する筆記具用W/O型エマルションインキ組成物。
【請求項2】
前記蛍光増白剤はスチルベン構造を有する、請求項1に記載の筆記具用W/O型エマルションインキ組成物。
【請求項3】
前記水性成分のpHが8.9以上である、請求項1又は2に記載の筆記具用W/O型エマルションインキ組成物。
【請求項4】
前記水性成分に対する前記油性成分の質量比が1.5〜4である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の筆記具用W/O型エマルションインキ組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の筆記具用W/O型エマルションインキ組成物を有する筆記具。

【図1】
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【公開番号】特開2011−178838(P2011−178838A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42314(P2010−42314)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000108328)ゼブラ株式会社 (172)
【Fターム(参考)】