説明

筆記板用油性マーキングペンインキ組成物及びそれを内蔵したマーキングペン

【課題】 筆記板の材質に関わらず、筆跡形成後に長期間経過した場合であっても、前記筆跡を容易且つ確実に擦過消去できる筆記板用油性マーキングペンインキ組成物とそれを内蔵したマーキングペンを提供する。
【解決手段】 顔料と、樹脂と、有機溶剤と、一般式(1)で示されるジピバル酸エステル又はナフタレンジカルボン酸ジエステルを含有する筆記板用油性マーキングペンインキ組成物。前記筆記板用油性マーキングペンインキ組成物を内蔵してなるマーキングペン
【化1】


〔式中Rは、3−(CH)C、2,4−(C、C18のいずれかである。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記板用油性マーキングペンインキ組成物に関する。詳細には、筆記板の材質に関わらず、筆跡を確実に消去できる筆記板用油性マーキングペンインキ組成物とそれを内蔵したマーキングペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホーロー、ガラス、金属或いは熱可塑性又は熱硬化性プラスチック等の素材からなる筆記板(ホワイトボード)に筆記される筆記板用油性インキにおいては、筆記板に形成した筆跡を擦過消去可能とするために剥離剤が添加されており、該剥離剤として流動パラフィン等の高級脂肪族炭化水素やカルボキシル化ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いたものが開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平1−19709号公報
【特許文献2】特開平3−37279号公報
【0004】
しかしながら、前記化合物を添加した場合、筆記板の材質によっては消去性が悪く、強く擦過しないと消去できなかったり、筆跡形成後に長時間経過したものにおいては、強く擦過しても筆跡が完全に消去できずに残ってしまうことがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の筆記板用油性インキ組成物の不具合を解消しようとするものであって、即ち、筆記板の材質に関わらず、筆跡形成後に長期間経過した場合であっても、前記筆跡を容易且つ確実に擦過消去できる筆記板用油性マーキングペンインキ組成物とそれを内蔵したマーキングペンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、顔料と、樹脂と、有機溶剤と、一般式(1)で示されるジピバル酸エステル又はナフタレンジカルボン酸ジエステルを含有する筆記板用油性マーキングペンインキ組成物を要件とする。
【化1】

〔式中Rは、3−(CH)C、2,4−(C、C18のいずれかである。〕
更に、前記ジピバル酸エステル又はナフタレンジカルボン酸ジエステルが、インキ組成物全量中2〜20重量%の範囲で添加されること、前記有機溶剤がエチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールから選ばれる一種又は二種以上であることを要件とする。
更には、前記いずれかの筆記板用油性マーキングペンインキ組成物を内蔵してなるマーキングペンを要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、筆記板の材質に関わらず、筆跡を形成してから長期間経過した場合であっても、筆跡を容易且つ確実に擦過消去できる筆記板用油性マーキングペンインキ組成物とそれを内蔵するマーキングペンを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、剥離剤として一般式(1)で示されるジピバル酸エステル又はナフタレンジカルボン酸ジエステルをインキ中に添加することにより、優れた消去性が得られるものである。
前記ジピバル酸エステルとしては、ジピバル酸3−メチルペンタン−1,5−ジイル、ジピバル酸2,4−ジエチルペンタン−1,5−ジイル、ジピバル酸ノナメチレンが挙げられる。
【0009】
また、前記ナフタレンジカルボン酸ジエステルは、ナフタレン骨格の2位と6位にカルボキシル基を有するジカルボン酸をエステル化したものであり、2箇所のカルボキシル基(アシル基)が同じエステル基を有している。前記エステル基としては、ヘキシル、アリル、エチルヘキシル等が挙げられる。特に、エチルヘキシルを有するナフタレンジカルボン酸ジエチルヘキシルが非常に高い消去性能を発現するため、より有用である。
【0010】
前記ジピバル酸エステルやナフタレンジカルボン酸ジエステルは、インキ組成物全量中2〜20重量%、好ましくは5〜15重量%の範囲で添加することができる。
2重量%未満では所期の効果を得ることは困難であり、また、20重量%を越えて添加しても剥離剤としての機能の向上は認められないので、これ以上の添加を要しない。
【0011】
更に、その他汎用の剥離剤である、カルボン酸エステル類、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等を併用することもでき、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル又はこれらの塩、脂肪族二塩基酸エステル、脂肪族一塩基酸エステル、ポリアルキレングリコールエステル等の化合物が例示できる。
【0012】
前記顔料としては、従来から油性インキに適用される汎用の顔料が適宜用いられる。
具体的には、カーボンブラック、群青、二酸化チタン顔料等の無機顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、スレン顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、スレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料等の有機顔料、アルミニウム粉やアルミニウム粉表面を着色樹脂で処理した金属顔料、透明又は着色透明フィルムにアルミニウム等の金属蒸着膜を形成した金属光沢顔料、フィルム等の基材に形成したアルミニウム等の金属蒸着膜を剥離して得られる厚みが0.01〜0.1μmの金属顔料、金、銀、白金、銅から選ばれる平均粒子径が5〜30nmのコロイド粒子、蛍光顔料、蓄光性顔料、熱変色性顔料、芯物質として天然雲母、合成雲母、ガラス片、アルミナ、透明性フィルム片の表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したパール顔料等が挙げられる。
前記顔料は一種又は二種以上を併用してもよく、インキ組成物中3〜40重量%の範囲で用いられる。
また、前記顔料と共に汎用の染料、例えば、カラーインデックスにおいてソルベント染料として分類される有機溶剤可溶性染料等を併用することができる。
【0013】
前記樹脂は、筆記面への筆跡定着性やインキの粘性を付与するために用いられ、更に、前記剥離剤と共に作用して筆跡の擦過消去性を向上させるものである。
前記樹脂としては、例えば、エチルセルロースやアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合樹脂等のビニル系樹脂等が用いられ、特に消去性を低下させることなく充分な定着性を付与できることからポリビニルブチラールが好適である。
尚、前記樹脂は加工顔料の形態で添加されるものであってもよい。
【0014】
前記有機溶剤は、揮発性(低沸点)の有機溶剤が好適に用いられ、ホワイトボードに筆記しても筆跡の乾燥性に優れるため、筆記直後の筆跡を手触した際、未乾燥のインキが手に付着したり、筆記面上の筆跡を形成していない空白部分を汚染する等の不具合を生じることなく、良好な筆跡を形成できる。
前記有機溶剤としては低級脂肪族アルコール系溶剤又はグリコールエーテル系溶剤が挙げられ、主溶剤(全溶剤中の50重量%以上を占める)として用いることが好ましい。
前記低級脂肪族アルコール系溶剤としてはメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、グリコールエーテル系溶剤としてはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられ、より好ましくは、低級脂肪族アルコール系溶剤が炭素数2〜4の脂肪族アルコール、グリコールエーテル系溶剤が炭素数3〜5のグリコールエーテルが用いられる。
前記有機溶剤の中でも特に、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールが好適である。
【0015】
また、前記有機溶剤と共に他の溶剤を併用することもでき、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭化水素系有機溶剤、メチルイソブチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン等のケトン系有機溶剤、ギ酸n−ブチル、ギ酸イソブチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系有機溶剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルグリコール等のグリコール系溶剤、ベンジルアルコール、γ−ブチロラクトン等を例示できる。
【0016】
更に、本発明のインキ組成物には、必要に応じて上記成分以外に、筆跡白化防止剤、耐乾燥性付与剤、防錆剤、粘度調整剤、顔料分散剤、界面活性剤等の各種添加剤を使用できる。
前記添加剤はいわゆる慣用的添加剤と呼ばれるもので、公知の化合物から適宜必要に応じて使用することができる。
【0017】
前記インキ組成物は、ペン先を筆記先端部に装着したマーキングペンに充填して実用に供される。
マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ等のマーキングペン用ペン先を筆記先端部に装着し、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、筆記先端部にインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させて筆記先端部に所定量のインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容して、弁機構により筆記先端部に所定量のインキを供給する構造のマーキングペンが挙げられる。
尚、前記マーキングペンは、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式のマーキングペンの他、ノック式、回転式、スライド式等の出没機構を有し、軸筒内にペン先を収容可能な出没式のマーキングペンであってもよい。
【実施例】
【0018】
以下の表に実施例及び比較例の筆記板用油性マーキングペンインキ組成物の組成を示す。尚、表中の数値は重量部を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表中の注番号に沿って原料の内容を以下に示す。
(1)C.I.ピグメントブラック7 50%、ポリビニルブチラール 50%からなる加工顔料
(2)C.I.ピグメントブルー60 45%、ポリビニルブチラール 55%からなる加工顔料
(3)C.I.ピグメントレッド58 55%、ポリビニルブチラール 45%からなる加工顔料
(4)ジピバル酸3−メチルペンタン−1,5−ジイル
(5)ジピバル酸2,4−ジエチルペンタン−1,5−ジイル
(6)ジピバル酸ノナメチレン
(7)ナフタレンジカルボン酸ジエチルヘキシル
(8)ポリオキシエチレン(7)トリデシルエーテル酢酸
【0021】
インキの調製
攪拌用容器中に溶剤と加工顔料を入れ、高速羽根型ミキサーにて20℃で3時間攪拌した後、残りの添加剤(剥離剤等)を投入し、更に1時間攪拌することによりインキ組成物を得た。
【0022】
マーキングペンの作製
前記実施例及び比較例のインキ組成物を市販のマーキングペン(パイロットコーポレーション製;WBMAR−L)に各5g充填することで油性マーキングペンを得た。
前記マーキングペンを用いて以下の試験を行なった。
【0023】
消去性試験
各マーキングペンを用いて、各種筆記板(ホワイトボード)に5個連続して丸を書き、筆記直後の筆跡及び20℃、30日放置後の筆跡に対して、100gの分銅を載せたティッシュペーパーで筆跡上を移動させた際の消去性を目視により観察した。
尚、前記筆記板としては、表面光沢値70°グロスのホーロー板、基板表面にメラミン樹脂を塗装したもの、基板表面にアクリル樹脂を塗装したもの、基板表面にポリエステル樹脂を塗装したものを使用した。
試験結果を以下の表に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
尚、表中の記号の評価は以下の通りである。
消去性試験
○:3回の移動で筆跡が消去できる。
△:3回の移動で筆跡の一部が残る。
×:3回の移動で筆跡の半分以上が消去できず残る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、樹脂と、有機溶剤と、一般式(1)で示されるジピバル酸エステル又はナフタレンジカルボン酸ジエステルを含有してなる筆記板用油性マーキングペンインキ組成物。
【化1】

〔式中Rは、3−(CH)C、2,4−(C、C18のいずれかである。〕
【請求項2】
前記ジピバル酸エステル又はナフタレンジカルボン酸ジエステルが、インキ組成物全量中2〜20重量%の範囲で添加される請求項1記載の筆記板用油性マーキングペンインキ組成物。
【請求項3】
前記有機溶剤がエチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールから選ばれる一種又は二種以上である請求項1又は2に記載の筆記板用油性マーキングペンインキ組成物。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のいずれかに記載の筆記板用油性マーキングペンインキ組成物を内蔵してなるマーキングペン。

【公開番号】特開2012−111929(P2012−111929A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91682(P2011−91682)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】