説明

等速自在継手用シャフト

【課題】捩り振動(回転方向の振動)を吸収しつつ剛性感を損なうことのない等速自在継手用シャフトを提供する。
【解決手段】出力側端部1aおよび入力側端部1bにそれぞれ等速自在継手が接続される等速自在継手用シャフトである。出力側端部1aと入力側端部1bとの間の等速自在継手用シャフト中央部3に、入力側端部1bからのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構4を設ける。減衰機構4は回転抵抗を発生させる部材としてローラ20を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動系に発生する捩り振動を抑制することが出来る等速自在継手用シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用における駆動輪への動力伝達手段は、ハーフシャフトにより連結された固定型等速自在継手と摺動型等速自在継手により、トルク変動することなく滑らかに伝達されている。このように、等速自在継手を含む駆動系では、エンジンからの振動を主に摺動型等速自在継手が吸収し、車体に不快な振動として伝えないようにしている。
【0003】
しかし、摺動型等速自在継手における振動の吸収方向は、スライド方向(軸方向)が全てであり、捩り方向(回転方向)の変位を吸収することができない。つまり、エンジン側からの回転変動を伴ったトルクの変動、いわゆる捩り振動を吸収することができない。
【0004】
このため、従来には、外側継手部材(外輪)を、外筒部と内筒部の2層構造とし、この外筒部と内筒部との間に、軸方向の相対移動及び軸心廻りの相対回転とを許容する案内装置を介在した等速自在継手がある(特許文献1)。また、この等速自在継手は、外筒部と内筒部との軸方向の相対移動及び軸心廻りの相対回転を抑制する抑制装置(ゴム素材からなる)を備えている。
【0005】
この特許文献1に記載の案内装置102は、図12と図13に示すように、外筒部76と内筒部82との間に配設される摺動体106を備え、外筒部76と摺動体106との間に軸方向溝108が形成されるとともに、内筒部82と摺動体106との間に周方向溝110が形成され、各溝108、110に転動体112,114が嵌合されるものである。
【0006】
また、図13に示すように、案内装置102における摺動体106の近傍には、摺動板100、100間に介在される第1ばね96と第2ばね98を有する相対抑制装置が配設されている。この相対抑制装置は、外筒部76と内筒部82との軸心廻りの相対回転を抑制する。
【0007】
特許文献1に記載の等速自在継手では、前記のように構成することによって、「駆動系の一部である車両用等速自在継手のねじり剛性が低下して駆動系の共振周波数が低下し、ドライブシャフトのねじり共振が抑制されることになって、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる」というものである。さらには、「外筒部と内筒部との軸心まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えることになり、その減衰要素において駆動系に発生するねじり振動が吸収されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる」というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-144763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1では、外輪の回転方向に対する相対変位量は転動体114の稼動範囲により規制され、この間の捩り剛性は相対抑制装置のバネ力により決まり、このバネ特性により狙いの捩り剛性が得られるように、チューニングすることになる。
【0010】
また、ゴム素子(相対回転抑制装置)が、外筒部76と内筒部82との周方向の間隙に設けられていることから、駆動系に発生するねじり振動は必ずそのゴム素子を介して外筒部76と内筒部82との間を伝播するようになっている。このため、駆動系にて発生するねじり振動を抑制することができる。
【0011】
ところが、前記特許文献1に記載のねじり振動吸収構造では、低トルク領域で回転方向に大きく捩れる構造であるため、トルク入力が正負で変わる状況においては回転方向の変位が大きくなる。このため、加減速を繰り返す(負荷トルクが正負で入れ替わる)ような走行状態では、剛性感(=ダイレクト感)が損なわれてしまう。
【0012】
本発明の課題は、捩り振動(回転方向の振動)を吸収しつつ剛性感を損なうことのない等速自在継手用シャフトを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の等速自在継手用シャフトは、出力側端部および入力側端部にそれぞれ等速自在継手が接続される等速自在継手用シャフトであって、出力側端部と入力側端部との間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部からのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構(つまり、シャフトの捩れ変位を利用した減衰機構)を設け、減衰機構は回転抵抗を発生させる部材としてローラを備えたものである。
【0014】
本発明の等速自在継手用シャフトは、減衰機構を設けたことによって、入力トルクの変動に伴う回転変動を抑制することができる、つまり捩り方向の振動を吸収することができる。しかも、回転抵抗を発生させる部材としてローラを備えたことによって、このローラと、相手側の部材との間は線接触となって、大きな抵抗力を比較的少ないスペースで確保できる。
【0015】
減衰機構は、第1部材と、第2部材と、この第1部材と第2部材との間に介在される前記ローラとを備え、前記第1部材は出力側端部と入力側端部とに一体成形されているのが好ましい。
【0016】
前記第2部材は前記第1部材に対して外嵌されていたり、前記第2部材は、トルク入力側又はトルク出力側において第1部材に結合され、第1部材に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側において、第1部材と相対変位するように設定される。
【0017】
第1部材と第2部材との相対変位部に、前記ローラが締め代が付与されて嵌合されるのが好ましい。また、ローラは周方向に沿って所定ピッチで3個以上配設されているものであってもよい。さらには、ローラを周方向に沿って所定ピッチで配設した状態を保持する保持器を備えたものであってもよい。
【0018】
また、前記減衰機構は、出力側端部と入力側端部とを連結する中実状シャフトからなる第1部材と、この第1部材に外嵌される円筒状の外方部材からなる第2部材と、第1部材と外方部材との相対変位部に締め代をもって嵌合する摺動部材としてのローラと、ローラを保持する保持器とを備え、前記第2部材である外方部材が前記第1部材のトルク入力側又はトルク出力側に結合されるとともに、第2部材と結合されない側のトルク出力側又はトルク入力側に前記ローラが配設される相対変位部としたものであってもよい。
【0019】
ローラを等速自在継手用シャフト軸心に沿って複数列配置するようにしてもよい。また、保持器はローラを収容するポケットを有し、ローラとポケットとの径方向隙間を負すきまとしてもよい。さらに、周方向に隣合うローラを相互に密接させて保持器を省略したものとしてもよい。
【0020】
前記ローラは、その外径面がテーパ面とされて、第1部材と第2部材との間に予圧が付与された状態で配設されるものであってもよい。
【0021】
前記第2部材はローラに対して圧入されるとともに、この第2部材の圧入開始端部外径面を圧入開始端縁に向かって拡径するテーパ部としたものであってもよい。
【0022】
第1部材と第2部材との結合はセレーション結合であっても、溶接による結合であってもよい。
【0023】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定式等速自在継手を取り付けたものとでき、入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたものとできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の等速自在継手用シャフトでは、トルク変動を減衰させる機構を設けたことによって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。この等速自在継手用シャフトを、自動車における駆動輪への動力伝達手段に用いれば、加減速を繰り返すような走行状態においても剛性感(=ダイレクト感)を損なうことなく優れた運転性が発揮され、しかも捩り振動を抑制することができる。特にローラを用いることによって、大きな抵抗力を比較的少ないスペースで確保でき、捩り振動をより安定して抑制できる。
【0025】
減衰機構が第1部材と第2部材を備え、第1部材が出力側端部と入力側端部とに一体成形されたトルク伝達シャフトからなるため、構成の簡略化を図ることができる。第2部材はトルク伝達シャフトとして機能する第1部材に対して外嵌されるので、コンパクト化を図ることができる。
【0026】
第2部材は、一端側を第1部材に結合し、他端側を第1部材と相対変位するように設定でき、捩り方向の振動を吸収する機能を有効に発揮できる。また、ローラを備えたことにより、捩り方向の振動を吸収する機能の信頼性の向上を図ることができる。特に、ローラを周方向に沿って所定ピッチで3個以上配設することによって、より信頼性の向上を図ることができる。さらに、保持器を備えたものでは、ローラの保持が安定する。
【0027】
このように、第1部材と第2部材とローラ等を備えたものでは、捩り方向の振動を吸収する機能を有効に発揮でき、信頼性の高い機能を発揮できる。
【0028】
ローラを等速自在継手用シャフト軸心に沿って複数列配置することで回転方向の抵抗力を調整できることから、大きなトルク変動も抑制することが可能となる。ローラとポケットとの径方向隙間を負すきまとすることによって、安定した抵抗力を発揮することができ、さらに、周方向に隣合うローラを相互に密接させるもの(総ローラとするもの)では、抵抗力をより多く確保できる。
【0029】
予圧を付与するものでは、この予圧量を調整することによって、最適な抵抗値を確保できる。第2部材の圧入開始端部外径面をテーパ部とすることによって、この圧入開始端部の剛性低下を防止できて、軸方向に均一な抵抗力を確保できる。
【0030】
また、第1部材と第2部材との結合はセレーション結合であっても、溶接による結合であってもよく、この結合手段に公知・公用のものを用いることができ、低コスト化を図ることができる。
【0031】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定型等速自在継手を取り付けたものとすることができ、また、入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたものとできるので、種々のタイプの動力伝達手段を構成でき、汎用性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す等速自在継手用シャフトの縦断面図である。
【図2】前記等速自在継手用シャフトの要部横断面図である。
【図3】前記等速自在継手用シャフトの固定側の要部拡大断面図である。
【図4】前記等速自在継手用シャフトの減衰機構側の要部拡大断面図である。
【図5】前記等速自在継手用シャフトの簡略断面図である。
【図6】図5のY−Y線拡大断面図である。
【図7】図5のZ−Z線拡大断面図である。
【図8】本発明の等速自在継手用シャフトの第2の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図9】本発明の等速自在継手用シャフトの第3の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図10】本発明の等速自在継手用シャフトの第4の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図11】本発明の等速自在継手用シャフトの第5の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図12】従来の車両用等速自在継手の要部断面図である。
【図13】前記図8に示す車両用等速自在継手の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0034】
図1は本発明に係る等速自在継手用シャフトの縦断面図を示し、この等速自在継手用シャフトは、シャフト本体1と、このシャフト本体1に外嵌される外方部材2とを備え、シャフト中央部3には減衰機構4が設けられている。
【0035】
シャフト本体1は、出力側端部1aと、入力側端部1bと、本体部1cと、出力側端部1aと本体部1cとの間に配設される小径部1d及び大径部1eと、入力側端部1bと本体部1cとの間に配設される小径部1f及び大径部1gとを有するものである。
【0036】
この場合、出力側端部1aに図示省略の固定式等速自在継手が連結され、入力側端部1bに図示省略の摺動式等速自在継手が連結される。なお、固定式等速自在継手としては、トラック溝底が円弧部のみであるバーフィールド型やトラック溝底の一部に直線部分を有するアンダーカットフリー型等の種々のタイプものを用いることができる。また、摺動式等速自在継手としては、ダブルオフセット型、トリポード型、又はクロスグルーブ型等の種々のタイプのものを用いることができる。
【0037】
このため、出力側端部1aはその外径面に雄スプライン5が形成されるとともに、止め輪(図示省略)が嵌合される周方向溝6が形成されている。また、入力側端部1bも同様に、その外径面に雄スプライン7が形成されるとともに、止め輪(図示省略)が嵌合される周方向溝8が形成されている。
【0038】
出力側端部1a側の大径部1eは図示省略の固定式等速自在継手の開口部を塞ぐためのブーツ(図示省略)の装着部を構成する。このため、大径部1eには周方向溝9が形成されている。また、入力側端部1b側の大径部1gは図示省略の摺動式等速自在継手の開口部を塞ぐためのブーツ(図示省略)の装着部を構成する。このため、大径部1gには周方向溝10が形成されている。
【0039】
また、本体部1cは、中央本体12と、入力側端部1b側の大径部1gに連設される大径部13とを有する。そして、外方部材2は、本体筒状部2aと、この本体筒状部2aの入力側の支持用小径部2bとからなる。この支持用小径部2bが、図3に示すように、本体部1cの大径部13に結合される。この場合の結合はいわゆるセレーション結合15である。すなわち、大径部13の外周面に雄セレーションを形成して雄形結合部を構成するとともに、支持用小径部2bの内周面に雌セレーションを形成して雌形結合部を構成し、雄形結合部と雌形結合部とを嵌合(係合)させることによって、結合するものである。なお、大径部13と支持用小径部2bとの結合手段は、セレーション結合15に限るものではなく、溶接等の他の手段であってもよい。また、このセレーション結合15における雄形結合部における雄セレーションには雄スプラインを含み、セレーション結合15における雌形結合部における雌セレーションには雌スプラインを含むものとする。このため、セレーション結合15にはスプライン結合を含む。
【0040】
また、外方部材2の本体筒状部2aの反支持用小径部側の開口部には、摺動部材としてのローラ20が、図2に示すように、周方向に沿って所定ピッチで複数個(図例では、60度ピッチで6個)配設されている。この場合、反支持用小径部側の開口部側において、本体部1cの中央本体12と外方部材2の本体筒状部2aとの間に保持器21が介装され、この保持器21に前記ローラ20が保持される。すなわち、保持器21は短円筒体であって、その周壁に周方向に沿って60度ピッチでポケット22が形成され、各ポケット22にローラ20が嵌合保持されている。このローラ20は本体部1cの中央本体12と外方部材2の本体筒状部2aとの間に締め代をもって嵌合される。また、ローラ20とポケット22との径方向隙間を負すきまとしている。
【0041】
図4に示すように、シャフト本体1側および外方部材2側にそれぞれ係止部25,26が設けられている。シャフト本体1側の係止部25は、出力側端部1a側の大径部1eと中央本体12との間に設けられる拡径部25aにて構成することができる。この拡径部25aは断面凹曲面状である。また、外方部材2側の係止部26は、外方部材2の開口部側の内径面を大径部27とし、この大径部27の奥側に設けられる凹曲部27aにて構成することができる。
【0042】
このように、係止部25,26を設けることによって、摺動部材としてのローラ20の軸方向の抜けを防止できる。すなわち、係止部25がローラ20の出力側への移動を規制し、係止部26がローラ20の入力側への移動を規制する。なお、大径部27の開口端には出力側に向かって拡径するテーパ部27bが形成されている。
【0043】
シャフト本体1は、例えば、ドライブシャフト用のシャフトと同様の材質のものが使用され、中炭素鋼や肌焼鋼等が適切である。また、外方部材2は、シャフト本体1と同じ材質もしくはシャフト本体1の材質よりも捩れ剛性が同等かそれ以上の材料とされ、例えば、捩れ剛性の高いCFRP(炭素繊維強化プラスチック)材が適している。
【0044】
ところで、前記減衰機構4は、シャフト本体1の中央本体12である第1部材31と、外方部材2である第2部材32と、保持器21にて保持されているローラ20等にて構成される。
【0045】
次にこのシャフトの組立方法について説明する。まず、シャフト本体1にローラ20と保持器21とを組み付ける。この場合、保持器21をシャフト本体1の本体部1cの中央本体12に外嵌した後、この保持器21の各ポケット22のローラ20を嵌合することになる。次に、ローラ20と保持器21とを組み付けたシャフト本体1に、入力側から第2部材32である外方部材2を挿入する。この際、ローラ20である摺動部材に対して外方部材2の開口部側を圧入するとともに、シャフト本体1の大径部13の雄形結合部に対して外方部材2の支持用小径部2bの雌形結合部を圧入することになる。これによって、図1に示す等速自在継手用シャフトが完成する。なお、外方部材2の開口端縁には前記したようにテーパ部27bが形成されているので、外方部材2の挿入時にこのテーパ部27bがガイドとなって滑らかに組み立てることができる。
【0046】
次に図5から図7を用いて、減衰機構4の機能を説明する。なお、入力側のセレーション結合15と出力側の相対変位部との間は、任意の所定寸Aに設定される。入力側において、第1部材31と第2部材32とがセレーション結合15にて結合されているので、入力側において、図5に示すように、トルク負荷が付与された場合、図6に示すように、第2部材32は第1部材31の捩れ変位(θt)と同期する。図6において、P1は、トルク負荷時の第1部材31と第2部材32の位相を示す。これに対して、出力側において、結合されていないので、図7に示すように、第1部材31と第2部材32とには位相差(θt)が生じる。しかしながら、出力側において第1部材31と第2部材32との間に、締め代をもってローラ20が嵌合されているので、発生する摩擦力(抵抗力)によって、瞬間的に変動する捩り方向の変動エネルギーが相殺(吸収)されることになる。このため、捩り振動を抑制(減衰)することができる。図7において、P2はトルク負荷時の第1部材31の位相を示し、P3はトルク負荷時の第2部材32の位相を示す。
【0047】
このように、本発明では、トルク変動を抑制するための減衰機構4を設けたことによって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。このため、この等速自在継手用シャフトを、自動車における駆動輪への動力伝達手段に用いれば、加減速を繰り返すような走行状態においての剛性感(=ダイレクト感)を損なうことなく優れた運転性が発揮され、しかも、捩り振動を抑制することができる。特にローラ20を用いることによって、大きな抵抗力を比較的少ないスペースで確保でき、捩り振動をより安定して抑制できる。
【0048】
減衰機構4が第1部材31と第2部材32を備え、第1部材31は出力側端部1aと入力側端部1bとに一体成形されたトルク伝達用シャフトから成るため、構成の簡略化を図ることができる。第2部材32はトルク伝達シャフトとして機能する第1部材31に対して外嵌するため、コンパクト化を図ることができる。
【0049】
第2部材32は、一端側を第1部材31に結合し、他端側を第1部材31と相対変位するように設定できるので、捩り方向の振動を吸収する機能を有効に発揮できる。また、ローラ20が締め代をもって嵌合されているので、この締め代に摩擦力を発生させることができ、捩り方向の振動を吸収する機能の信頼性の向上を図ることができる。このため、この締め代としては、第1部材31と第2部材32との間に、この相対変位部において位相差が生じる摩擦抵抗を発生させるものであればよい。
【0050】
さらに、保持器21を備えたものでは、ローラ20の保持が安定する。しかも、ローラ20とポケット22との径方向隙間を負すきまとすることによって、より安定した抵抗力を得ることができる。
【0051】
このように、第1部材31と第2部材32とローラ20等を備えたものでは、捩り方向の振動を吸収する機能を有効に発揮でき、信頼性の高い機能を発揮できる。
【0052】
ところで、前記実施形態では、複数個(図例では、6個)のローラ20を周方向に沿って60°ピッチで配設したもの、つまり、これに対して、このような複数のローラ20を等速自在継手用シャフト軸心に沿って複数列配置するようにしてもよい。この場合、複数列の数としては任意に設定できる。また、各列の間隔としても任意であり、3列以上である場合、配置ピッチとしては、等ピッチであっても、不等ピッチであってもよい。このように配設することによって、より大きなトルク変動を抑制することができる。
【0053】
また、この等速自在継手用シャフトは、前記実施形態では、入力側端部1bに摺動式等速自在継手を取付け、出力側端部1aに固定式等速自在継手を取付けるものであったが、他の実施形態として、出力側端部1aおよび入力側端部1bに摺動式等速自在継手を取付けるものとすることができる。また、この場合の摺動式等速自在継手としても、ダブルオフセット型、トリポード型、又はクロスグルーブ型等の種々のタイプものを用いることができる。このように、本発明の等速自在継手用シャフトは、種々のタイプの動力伝達手段を構成でき、汎用性に優れる。
【0054】
前記実施形態では、第2部材32を第1部材31の入力側に結合していたが、別の実施形態として、第2部材32を第1部材31の出力側に結合し、第2部材32の入力側にローラ20を配置するようにしてもよい。このような場合であっても、入力側端部からのトルク負荷による回転変動を抑制することができ、捩り方向の振動を吸収することができる。
【0055】
図8では、ローラ20を保持する保持器21を有さないものである。すなわち、周方向に隣り合うローラ20を接触乃至密接させている。すなわち、ローラ20の個数を周方向(円周方向)に配設できる最大数としている。このように設定することによって、摺動部の転動体であるローラの抵抗力をより多く確保でき、捩り方向の振動を吸収する機能の向上を図ることができる。
【0056】
ところで、前記実施形態では、ローラ20を円筒ころ20Aにて構成していたが、図9に示すように、その外径面がテーパ面であるテーパローラ(円錐ころ)20Bであってもよい。
【0057】
この場合、外方部材2の本体筒状部2aの圧入開始端部内径面に、開口側(開始端側)に向かって拡径するテーパ面40を設けるとともに、シャフト本体1に、前記テーパ面40に対応する部位に、開口側(開始端側)に向かって縮小するテーパ面41を設ける。そして、このテーパ面40,41間に形成されるくさび状の隙間42に、このテーパローラ20Bが圧入される。
【0058】
この図9に示すように、テーパローラ20Bを用いることによって、圧入力(抵抗力)を確保したり、圧入力の調整を可能としたりできる。すなわち、軸方向の予圧量を調整することができ、この調整によって、最適な抵抗値を確保できる。
【0059】
また、図10に示すように、予圧調整部材45をシャフト本体1に付設するようにしてもよい。予圧調整部材45は、内径面に雌ねじ部46が形成されたリング体にて構成される。この場合、予圧調整部材45は、円盤状の本体部45aと、本体部45aからテーパローラ20B側に向かって先細となる断面台形状のテーパ部45bとからなり、本体部45aの内径面に前記雌ねじ部46が形成されている。
【0060】
そして、シャフト本体1の外径面に雄ねじ部47が形成され、この雄ねじ47に予圧調整部材45の雌ねじ部46が螺着される。これによって、予圧調整部材45のテーパ部45bの端面48が、テーパローラ20Bの大径側端面50を矢印方向に押圧することができる。すなわち、予圧調整部材45によって、予圧を付与することができる。この際、螺進量を調整することによって、予圧量を調整することができ、しかも、予圧調整部材45とシャフト本体1とはねじ嵌合であるので、その調整が安定する。
【0061】
図11では、第2部材32の圧入開始端部外径面を圧入開始端縁に向かって拡径するテーパ部51としている。このため、圧入開始端縁に向かって肉厚が大となる剛性大部52が形成される。すなわち、剛性大部52の反圧入開始端の肉厚をt2とし、剛性大部52の圧入開始端縁の肉厚をt1とした場合に、t1>t2としている。
【0062】
このように、設定することによって、圧入開始端部の剛性低下を防止できて、軸方向に均一な抵抗力を確保できる。この場合、剛性大部52の軸方向長さやt1とt2との差については、外方部材の材質、剛性大部52以外の外径寸法や肉厚寸法等に応じて種々変更できる。
【0063】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、ローラ20の数の増減は任意で、少なくとも周方向に沿って120度ピッチで配設される3個あればよい。また、ローラ20を複数列配設する場合、各列のローラ20の数としては、同数であっても、異数であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1a 出力側端部
1b 入力側端部
2 外方部材
3 シャフト中央部
4 減衰機構
15 セレーション結合
20 ローラ
21 保持器
22 ポケット
31 第1部材
32 第2部材
51 テーパ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力側端部および入力側端部にそれぞれ等速自在継手が接続される等速自在継手用シャフトであって、
出力側端部と入力側端部との間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部からのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構を設け、減衰機構は回転抵抗を発生させる部材としてローラを備えたことを特徴とする等速自在継手用シャフト。
【請求項2】
減衰機構は、第1部材と、第2部材と、この第1部材と第2部材との間に介在される前記ローラとを備え、前記第1部材は出力側端部と入力側端部とに一体成形されていることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項3】
前記第2部材は前記第1部材に対して外嵌されていることを特徴とする請求項2に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項4】
前記第2部材は、トルク入力側又はトルク出力側において第1部材に結合され、第1部材に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側において、第1部材と相対変位することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項5】
第1部材と第2部材との相対変位部に、前記ローラが締め代が付与されて嵌合されることを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項6】
前記ローラは周方向に沿って所定ピッチで3個以上配設されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項7】
前記ローラを周方向に沿って所定ピッチで配設した状態を保持する保持器を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項6に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項8】
前記減衰機構は、出力側端部と入力側端部とを連結する中実状シャフトからなる第1部材と、この第1部材に外嵌される円筒状の外方部材からなる第2部材と、第1部材と外方部材との相対変位部に締め代をもって嵌合する摺動部材としてのローラと、ローラを保持する保持器とを備え、前記第2部材である外方部材が前記第1部材のトルク入力側又はトルク出力側に結合されるとともに、第2部材と結合されない側のトルク出力側又はトルク入力側に前記ローラが配設される相対変位部としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項9】
ローラを等速自在継手用シャフト軸心に沿って複数列配置したことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項10】
前記保持器はローラを収容するポケットを有し、ローラとポケットとの径方向隙間を負すきまとしたことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項11】
周方向に隣合うローラを相互に密接させて保持器を省略したことを特徴とする請求項1〜請求項6に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項12】
前記ローラは、その外径面がテーパ面とされて、第1部材と第2部材との間に予圧が付与された状態で配設されることを特徴とする請求項2〜請求項11に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項13】
前記第2部材はローラに対して圧入されるとともに、この第2部材の圧入開始端部外径面を圧入開始端縁に向かって拡径するテーパ部としたことを特徴とする請求項2〜請求項12に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項14】
第1部材と第2部材との結合はセレーション結合であることを特徴とする請求項2〜請求項13に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項15】
第1部材と第2部材との結合は溶接による結合であることを特徴とする請求項2〜請求項13に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項16】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定式等速自在継手を取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項17】
入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−149684(P2012−149684A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7792(P2011−7792)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】