等速自在継手用シャフト
【課題】捩り振動(回転方向の振動)を吸収しつつ剛性感を損なうことのない等速自在継手用シャフトを提供する。
【解決手段】出力側端部1aおよび入力側端部1bにそれぞれ等速自在継手が接続される等速自在継手用シャフトである。出力側端部1aと入力側端部1bとの間の等速自在継手用シャフト中央部3に、入力側端部1bからのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構4を設ける。減衰機構4は、軸状の第1部材31と、第1部材31に外嵌される筒状の第2部材32とを備える。第2部材32は、トルク入力側又はトルク出力側において第1部材31に結合され、第1部材31に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側において、第1部材31と第2部材32とのいずれか一方に摺接する第3部材33を配設した。
【解決手段】出力側端部1aおよび入力側端部1bにそれぞれ等速自在継手が接続される等速自在継手用シャフトである。出力側端部1aと入力側端部1bとの間の等速自在継手用シャフト中央部3に、入力側端部1bからのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構4を設ける。減衰機構4は、軸状の第1部材31と、第1部材31に外嵌される筒状の第2部材32とを備える。第2部材32は、トルク入力側又はトルク出力側において第1部材31に結合され、第1部材31に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側において、第1部材31と第2部材32とのいずれか一方に摺接する第3部材33を配設した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動系に発生する捩り振動を抑制することが出来る等速自在継手用シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用における駆動輪への動力伝達手段は、ハーフシャフトにより連結された固定型等速自在継手と摺動型等速自在継手により、トルク変動することなく滑らかに伝達されている。このように、等速自在継手を含む駆動系では、エンジンからの振動を主に摺動型等速自在継手が吸収し、車体に不快な振動として伝えないようにしている。
【0003】
しかし、摺動型等速自在継手における振動の吸収方向は、スライド方向(軸方向)が全てであり、捩り方向(回転方向)の変位を吸収することができない。つまり、エンジン側からの回転変動を伴ったトルクの変動、いわゆる捩り振動を吸収することができない。
【0004】
このため、従来には、外側継手部材(外輪)を、外筒部と内筒部の2層構造とし、この外筒部と内筒部との間に、軸方向の相対移動及び軸心廻りの相対回転とを許容する案内装置を介在した等速自在継手がある(特許文献1)。また、この等速自在継手は、外筒部と内筒部との軸方向の相対移動及び軸心廻りの相対回転を抑制する抑制装置(ゴム素材からなる)を備えている。
【0005】
この特許文献1に記載の案内装置102は、図18と図19に示すように、外筒部76と内筒部82との間に配設される摺動体106を備え、外筒部76と摺動体106との間に軸方向溝108が形成されるとともに、内筒部82と摺動体106との間に周方向溝110が形成され、各溝108、110に転動体112,114が嵌合されるものである。
【0006】
また、図19に示すように、案内装置102における摺動体106の近傍には、摺動板100、100間に介在される第1ばね96と第2ばね98を有する相対抑制装置が配設されている。この相対抑制装置は、外筒部76と内筒部82との軸心廻りの相対回転を抑制する。
【0007】
特許文献1に記載の等速自在継手では、前記のように構成することによって、「駆動系の一部である車両用等速自在継手のねじり剛性が低下して駆動系の共振周波数が低下し、ドライブシャフトのねじり共振が抑制されることになって、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる」というものである。さらには、「外筒部と内筒部との軸心まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えることになり、その減衰要素において駆動系に発生するねじり振動が吸収されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる」というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-144763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1では、外輪の回転方向に対する相対変位量は転動体114の稼動範囲により規制され、この間の捩り剛性は相対抑制装置のバネ力により決まり、このバネ特性により狙いの捩り剛性が得られるように、チューニングすることになる。
【0010】
また、ゴム素子(相対回転抑制装置)が、外筒部76と内筒部82との周方向の間隙に設けられていることから、駆動系に発生するねじり振動は必ずそのゴム素子を介して外筒部76と内筒部82との間を伝播するようになっている。このため、駆動系にて発生するねじり振動を抑制することができる。
【0011】
ところが、前記特許文献1に記載のねじり振動吸収構造では、低トルク領域で回転方向に大きく捩れる構造であるため、トルク入力が正負で変わる状況においては回転方向の変位が大きくなる。このため、加減速を繰り返す(負荷トルクが正負で入れ替わる)ような走行状態では、剛性感(=ダイレクト感)が損なわれてしまう。
【0012】
本発明の課題は、捩り振動(回転方向の振動)を吸収しつつ剛性感を損なうことのない等速自在継手用シャフトを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の等速自在継手用シャフトは、出力側端部および入力側端部にそれぞれ等速自在継手が接続されて、出力側端部と入力側端部との間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部からのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構を設けた等速自在継手用シャフトであって、前記減衰機構は、軸状の第1部材と、この第1部材に外嵌される筒状の第2部材とを備え、前記第2部材は、トルク入力側又はトルク出力側において第1部材に結合され、第1部材に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側において、少なくとも第1部材と第2部材とのいずれか一方に摺接する第3部材を配設したものである。
【0014】
本発明の等速自在継手用シャフトは、減衰機構を設けたことによって、入力トルクの変動に伴う回転変動を抑制することができる、つまり捩り方向の振動を吸収することができる。すなわち、第1部材と第2部材とは第3部材を介して回転方向に相対的に変位可能である。この変位の際に、部材の接触面同士が滑り、摩擦による摩擦熱が発生する。これにより、瞬間的に変動する捩り方向のトルク変動に伴う振動エネルギーが摩擦熱に変換されて吸収され、捩り振動を抑制(=減衰)することができる。
【0015】
前記第3部材は、第1部材と第2部材との間の嵌入部に嵌合される肉厚が軸心方向に沿って同一の短円筒形状体にて構成したり、第1部材と第2部材との間の嵌入部に対して軸方向内部に向かってその肉厚が小となる短円筒形状体であって、軸方向内方への予圧が負荷されているものであったりする。
【0016】
前記第3部材は、複数枚の部材が重ね合わされてなるものであってもよく、材質の異なる複数の部材が重ね合わされてなるものであってもよい。
【0017】
前記第3部材と、相手側の第1部材及び/又は第2部材との間に潤滑剤を介在させるのが好ましく、さらには、第3部材と、相手側の第1部材及び/又は第2部材との間に潤滑剤を溜める潤滑剤溜り部を設けるのが好ましい。
【0018】
前記第3部材の圧入開始側の端部に面取り部を形成するようにしても、相手側の第1部材又は第2部材との第3部材の摺接面は、その対応面全面でないものであってもよい。
【0019】
第1部材と第2部材との結合はセレーション結合であっても、溶接による結合であってもよい。
【0020】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定式等速自在継手を取り付けたものとでき、入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたものとできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の等速自在継手用シャフトでは、トルク変動を減衰させる機構を設けたことによって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。この等速自在継手用シャフトを、自動車における駆動輪への動力伝達手段に用いれば、加減速を繰り返すような走行状態においても剛性感(=ダイレクト感)を損なうことなく優れた運転性が発揮され、しかも捩り振動を抑制することができる。特に、第3部材を第1部材と第2部材に対して締め代嵌合させることによって、相対変位可能となり、より大きな面積の摩擦面を利用することができて、大きな振動エネルギーの吸収に対応できる。
【0022】
第1部材が出力側端部と入力側端部とに一体成形されたトルク伝達シャフトからなるため、構成の簡略化を図ることができる。第2部材はトルク伝達シャフトとして機能する第1部材に対して外嵌されるので、コンパクト化を図ることができる。
【0023】
第3部材を肉厚が軸心方向に沿って同一の短円筒形状体にて構成することができ、摺動部材としては、単純形状のものでよく、低コスト化を図ることができる。なお、摺動部材としては、ボールやころ等を用いることも可能であるが、ボールやころ等を用いれば、周方向に沿って複数個配設する必要があり、部品点数が多くなって、組立て工数の増加を招くことになる。
【0024】
予圧を負荷するものでは、この予圧量を調整することによって、最適な抵抗値を確保できる。第3部材が複数枚の部材が重ね合わされてなるものでは、摩擦面の増加が可能となって、捩り振動の吸収性の向上を図ることができる。また、材質が相違するものを重ね合わせることによって、最適な抵抗値の確保が安定する。
【0025】
潤滑剤を介在させることによって、抑制部位における相対変位が滑らかに行うことができ、捩り振動を安定して抑制することができる。この場合の潤滑剤としては、グリース等を用いることができる。
【0026】
潤滑剤溜り部を設けることによって、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、抑制部位における摩擦抵抗を小さくでき、相対変位を滑らかに行うことができる。
【0027】
前記第3部材の圧入開始側の端部に面取り部を形成するものでは、圧入作業性の向上を図ることができる。各部材の摺接面は、その対応面全面でないもとすることができ、このシャフトの設計自由度が大となって、生産性に優れる。
【0028】
また、第1部材と第2部材との結合はセレーション結合であっても、溶接による結合であってもよく、この結合手段に公知・公用のものを用いることができ、低コスト化を図ることができる。
【0029】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定型等速自在継手を取り付けたものとすることができ、また、入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたものとできるので、種々のタイプの動力伝達手段を構成でき、汎用性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す等速自在継手用シャフトの縦断面図である。
【図2】前記図1のX−X線拡大断面図である。
【図3】前記等速自在継手用シャフトの固定側の要部拡大断面図である。
【図4】減衰機構の第3部材の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図5】前記等速自在継手用シャフトの簡略断面図である。
【図6】図5のY−Y線拡大断面図である。
【図7】図5のZ−Z線拡大断面図である。
【図8】本発明の等速自在継手用シャフトの第2の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図9】本発明の等速自在継手用シャフトの第3の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図10】本発明の等速自在継手用シャフトの第4の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図11】本発明の等速自在継手用シャフトの第5の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図12】本発明の等速自在継手用シャフトの第6の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図13】本発明の等速自在継手用シャフトの第7の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図14】本発明の等速自在継手用シャフトの第8の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図15】本発明の等速自在継手用シャフトの第9の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図16】本発明の等速自在継手用シャフトの第10の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図17】第3部材の変形例を示す断面図である。
【図18】従来の車両用等速自在継手の要部断面図である。
【図19】前記図18に示す車両用等速自在継手の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0032】
図1は本発明に係る等速自在継手用シャフトの縦断面図を示し、この等速自在継手用シャフトは、シャフト本体1と、このシャフト本体1に外嵌される外方部材2とを備え、シャフト中央部3には減衰機構4が設けられている。
【0033】
シャフト本体1は、出力側端部1aと、入力側端部1bと、本体部1cと、出力側端部1aと本体部1cとの間に配設される小径部1d及び大径部1eと、入力側端部1bと本体部1cとの間に配設される小径部1f及び大径部1gとを有するものである。
【0034】
この場合、出力側端部1aに図示省略の固定式等速自在継手が連結され、入力側端部1bに図示省略の摺動式等速自在継手が連結される。なお、固定式等速自在継手としては、トラック溝底が円弧部のみであるバーフィールド型やトラック溝底の一部に直線部分を有するアンダーカットフリー型等の種々のタイプものを用いることができる。また、摺動式等速自在継手としては、ダブルオフセット型、トリポード型、又はクロスグルーブ型等の種々のタイプのものを用いることができる。
【0035】
このため、出力側端部1aはその外径面に雄スプライン5が形成されるとともに、止め輪(図示省略)が嵌合される周方向溝6が形成されている。また、入力側端部1bも同様に、その外径面に雄スプライン7が形成されるとともに、止め輪(図示省略)が嵌合される周方向溝8が形成されている。
【0036】
出力側端部1a側の大径部1eは図示省略の固定式等速自在継手の開口部を塞ぐためのブーツ(図示省略)の装着部を構成する。このため、大径部1eには周方向溝9が形成されている。また、入力側端部1b側の大径部1gは図示省略の摺動式等速自在継手の開口部を塞ぐためのブーツ(図示省略)の装着部を構成する。このため、大径部1gには周方向溝10が形成されている。
【0037】
また、本体部1cは、中央本体12と、入力側端部1b側の大径部1gに連設される大径部13とを有する。そして、外方部材2は、本体筒状部2aと、この本体筒状部2aの入力側の支持用小径部2bとからなる。この支持用小径部2bが、本体部1cの大径部13に結合される。この場合の結合はいわゆるセレーション結合15である。すなわち、大径部13の外周面に雄セレーションを形成して雄形結合部を構成するとともに、支持用小径部2bの内周面に雌セレーションを形成して雌形結合部を構成し、雄形結合部と雌形結合部とを嵌合(係合)させることによって、結合するものである。なお、大径部13と支持用小径部2bとの結合手段は、セレーション結合15に限るものではなく、溶接等の他の手段であってもよい。また、このセレーション結合15における雄形結合部における雄セレーションには雄スプラインを含み、セレーション結合15における雌形結合部における雌セレーションには雌スプラインを含むものとする。このため、セレーション結合15にはスプライン結合を含む。
【0038】
また、外方部材2の本体筒状部2aの反支持用小径部側の開口部には、摺動部材としての短円筒形状体20が配設されている。すなわち、シャフト本体1には、大径部1hが設けられ、この大径部1hにこの短円筒形状体20が外嵌される。外方部材2の本体筒状部2aの反支持用小径部側の開口端には出力側に向かって拡径するテーパ部27が形成されている。
【0039】
シャフト本体1は、例えば、ドライブシャフト用のシャフトと同様の材質のものが使用され、中炭素鋼や肌焼鋼等が適切である。また、外方部材2は、シャフト本体1と同じ材質もしくはシャフト本体1の材質よりも捩れ剛性が同等かそれ以上の材料とされ、例えば、捩れ剛性の高いCFRP(炭素繊維強化プラスチック)材が適している。また、短円筒形状体20は、シャフト本体1と同等の材料もしくは、耐摩耗性に優れたセラミック材やカーボンコンポジット材等を適用することで安定した摩擦力を得ることが可能である。
【0040】
ところで、前記減衰機構4は、シャフト本体1の中央本体12である第1部材31と、外方部材2である第2部材32と、短円筒形状体20である第3部材33等にて構成される。
【0041】
次にこのシャフトの組立方法について説明する。この場合、シャフト本体1の大径部1hに短円筒形状体20を外嵌する。次に、短円筒形状体20を組み付けたシャフト本体1に、入力側から第2部材32である外方部材2を挿入する。この際、短円筒形状体20である摺動部材に対して外方部材2の開口部側を圧入するとともに、シャフト本体1の大径部13の雄形結合部に対して外方部材2の支持用小径部2bの雌形結合部を圧入することになる。これによって、図1に示す等速自在継手用シャフトが完成する。なお、外方部材2の開口端縁には前記したようにテーパ部27が形成されているので、外方部材2の挿入時にこのテーパ部27がガイドとなって滑らかに組み立てることができる。
【0042】
このため、第3部材33に対して、第1部材31と第2部材32とが締め代嵌合となって、第1部材31と第2部材32とが相対変位可能となっている。すなわち、第3部材33の内径面と、これに対応する第1部材31の外径面とが摺接し、第3部材33の外径面と、これに対応する第2部材32の内径面とが摺接することになる。このため、スティックスリップ対策として、各摺接面間に潤滑剤を介在させるのが好ましい。なお、スティックスリップとは滑り面で発生する振動現象である。
【0043】
また、図4に示すように、潤滑剤を溜める潤滑剤溜り部35を設けるのが好ましい。この場合、第3部材33を構成する短円筒形状体20に設けられる凹溝36にて構成することができる。この凹溝36は周方向に沿って所定間隔(図例では、60度ピッチ)で配設される。また、各凹溝36は軸方向に沿って延びる軸方向溝である。
【0044】
次に図5から図7を用いて、減衰機構4の機能を説明する。なお、入力側のセレーション結合15と出力側の相対変位部との間は、任意の所定寸Aに設定される。入力側において、第1部材31と第2部材32とがセレーション結合15にて結合されているので、入力側において、図5に示すように、トルク負荷が負荷された場合、図6に示すように、第2部材32は第1部材31の捩れ変位(θt)と同期する。図6において、P1は、トルク負荷時の第1部材31と第2部材32の位相を示す。これに対して、出力側において、結合されていないので、図7に示すように、第1部材31と第2部材32とには位相差(θt)が生じる。しかしながら、出力側において第1部材31と第2部材32との間に、締め代をもって短円筒形状体20が嵌合されているので、発生する摩擦力(抵抗力)によって、瞬間的に変動する捩り方向の変動エネルギーが相殺(吸収)されることになる。このため、捩り振動を抑制(減衰)することができる。図7において、P2はトルク負荷時の第1部材31の位相を示し、P3はトルク負荷時の第2部材32の位相を示す。
【0045】
このように、本発明では、トルク変動を抑制するための減衰機構4を設けたことによって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。このため、この等速自在継手用シャフトを、自動車における駆動輪への動力伝達手段に用いれば、加減速を繰り返すような走行状態においての剛性感(=ダイレクト感)を損なうことなく優れた運転性が発揮され、しかも、捩り振動を抑制することができる。
【0046】
減衰機構4が第1部材31と第2部材32を備え、第1部材31が出力側端部1aと入力側端部1bとに一体成形されたトルク伝達用シャフトから成るため、構成の簡略化を図ることができる。第2部材32はトルク伝達シャフトとして機能する第1部材31に対して外嵌するため、コンパクト化を図ることができる。
【0047】
第2部材32は、一端側を第1部材31に結合し、他端側を第1部材31と相対変位するように設定できるので、捩り方向の振動を吸収する機能を有効に発揮できる。また、短円筒形状体20が締め代をもって嵌合されているので、この締め代に摩擦力を発生させることができ、捩り方向の振動を吸収する機能の信頼性の向上を図ることができる。このため、この締め代としては、第1部材31と第2部材32との間に、この相対変位部において位相差が生じる摩擦抵抗を発生させるものであればよい。
【0048】
このように、第1部材31と第2部材32と短円筒形状体20等を備えたものでは、捩り方向の振動を吸収する機能を有効に発揮でき、信頼性の高い機能を発揮できる。
【0049】
第3部材33を肉厚が軸心方向に沿って同一の短円筒形状体にて構成することができ、摺動部材としては、単純形状のものでよく、低コスト化を図ることができる。なお、摺動部材としては、ボールやころ等を用いることも可能であるが、ボールやころ等を用いれば、周方向に沿って複数個配設する必要があり、部品点数が多くなって、組立て工数の増加を招くことになる。
【0050】
潤滑剤を介在させることによって、抑制部位における相対変位が滑らかに行うことができ、捩り振動を安定して抑制することができる。この場合の潤滑剤としては、グリース等を用いることができる。
【0051】
潤滑剤溜り部35を設けることによって、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、抑制部位における摩擦抵抗を小さくでき、相対変位が滑らかに行うことができる。また、このような凹溝36を設ける場合、凹溝36の周方向端部をアール部とするのが好ましい。このようにアール部を設けることによって、凹溝36の周方向端縁部の引っかかりを防止でき、相対変位がより滑らかに行うことができる。
【0052】
また、この等速自在継手用シャフトは、前記実施形態では、入力側端部1bに摺動式等速自在継手を取付け、出力側端部1aに固定式等速自在継手を取付けるものであったが、他の実施形態として、出力側端部1aおよび入力側端部1bに摺動式等速自在継手を取付けるものとすることができる。また、この場合の摺動式等速自在継手としても、ダブルオフセット型、トリポード型、又はクロスグルーブ型等の種々のタイプのものを用いることができる。このように、本発明の等速自在継手用シャフトは、種々のタイプの動力伝達手段を構成でき、汎用性に優れる。
【0053】
前記実施形態では、第2部材32を第1部材31の入力側に結合していたが、別の実施形態として、第2部材32を第1部材31の出力側に結合し、第2部材32の入力側に短円筒形状体20を配置するようにしてもよい。このような場合であっても、入力側端部からのトルク負荷による回転変動を抑制することができ、捩り方向の振動を吸収することができる。
【0054】
ところで、前記実施形態では、短円筒形状体20を1個の部材にて構成していたが、図8に示すように、複数の部材にて構成してもよい。この図8では、内径側の第1短円筒形状体20Aと、外径側の第2短円筒形状体20Bとで構成している。このように、第3部材が複数枚の部材が重ね合わされてなるものでは、摩擦面の増加が可能となって、捩り振動に吸収性の向上を図ることができる。また、短円筒形状体20を複数枚の短円筒形状体20A、20Bで構成する場合、各円筒形状体20A、20Bが同一の材質であっても、相違する材質であってもよい。相違する材質で構成することによって、最適な抵抗値の確保が安定する。
【0055】
図9では、シャフト本体1の大径部1hの本体部側の端部に突起部40が設けられ、この突起部40に短円筒形状体20が係合している。このため、短円筒形状体20の外方部材2内方側への位置ずれを規制することができる。この突起部40は、断面矩形状の周方向凸条にて構成している。
【0056】
図10では、シャフト本体1の大径部1hの本体部側に、本体部側に向かって拡径するテーパ部41を設けている。また、短円筒形状体20の内径面の反開口部側に、反開口部側に向かって拡径するテーパ部42を設けている。このため、短円筒形状体20が圧入された際には、シャフト本体1側のテーパ部41に短円筒形状体20のテーパ部42が圧接して、短円筒形状体20の外方部材2内方側への位置ずれを規制することができる。
【0057】
このように、突起部40を設けたり、テーパ部41、42を設けたりすることによって、第3部材33の軸方向ずれを規制することができ、捩り方向の振動を安定して吸収することができる。また、短円筒形状体20のテーパ部42は、この短円筒形状体20の圧入開始端部に設けられた面取り部を構成することになる。このように面取り部を設けることによって、圧入作業性の向上を図ることができる。
【0058】
図11と図12では、第3部材33に予圧を負荷するようにしている。すなわち、図11では、短円筒形状体20は、その外径面が外方部材2の内部側に向かって縮径するテーパ面45とされ、その内径面が外方部材2の軸方向内部側に向かって拡径するテーパ面46とされて、その断面形状がくさび状とされる。また、外方部材2の本体部2aの内径面開口部は、開口側に向かって拡径するテーパ部47とされ、シャフト本体1の大径部1hが、外方部材2の内部側に向かって拡径するテーパ部48とされる。これによって、開口側から軸方向内部側に向かってその隙間寸法が小となるリング状の隙間50が形成される。
【0059】
そして、この隙間50に、断面形状がくさび状の短円筒形状体20が圧入される。また、シャフト本体1のテーパ部48の近傍には、雄ねじ部51が設けられ、この雄ねじ部51に押圧部材52が螺着される。押圧部材52は、雌ねじ部53を有する短円筒状の本体部54と、この本体部54の外径面に形成される外鍔部55とを有するものである。すなわち、本体部54の内径面は、大径部54aと、小径部54bとを有し、小径部54bに前記雌ねじ部53が形成される。
【0060】
したがって、シャフト本体1の雄ねじ部51に、押圧部材52の雌ねじ部53を螺着することによって、短円筒形状体20の外端面57を押圧部材52の先端面54cにて押圧して、矢印方向の予圧を負荷する。この場合、外鍔部55が外方部材2の端縁60に当接(接触)するまで、螺着される。
【0061】
また、図12では、短円筒形状体20の外径面をテーパ面とせずに円筒面とするとともに、外方部材2の開口部にテーパ面を形成しないものである。この場合も、シャフト1の雄ねじ部51に、押圧部材52の雌ねじ部53を螺着することによって、短円筒形状体20の外端面57を押圧部材52の先端面54cにて押圧して、矢印方向の予圧を負荷することができる。
【0062】
このように、予圧を負荷するものでは、この予圧量を調整することによって、最適な抵抗値を確保できる。
【0063】
次に図13では、第3部材33を中心孔を有する円盤体70にて構成している。この場合、円盤体70が外嵌される大径部1hの外面をテーパ面とすることなく、図1に示すシャフト本体1と同様円筒面とするとともに、第2部材32を構成する外方部材2の開口部に内径側へ膨出する内鍔部71を設けている。この内鍔部71は、厚肉部71aと、この厚肉部71aから軸方向内部に向かって肉厚寸法が小となる連設部71bとからなる。
【0064】
また、シャフト本体1に設けられた雄ねじ部51に螺着される押圧部材75にて、円盤体70を、第2部材32を構成する外方部材2の開口端面74を押圧することができる。この場合の押圧部材75は、図11と図12に示す押圧部材52において、外鍔部55よりも反雌ねじ部側の突出部を省略(カット)した形状である。このため、押圧部材75の雌ねじ部53をシャフト本体1の雄ねじ部51に螺着することによって、この押圧部材75の端面75aが、円盤体70の外端面70aを押圧することができる。すなわち、円盤体70にて構成された第3部材33に矢印方向の予圧を負荷することができる。
【0065】
この図13においては、円盤体70の外端面70aと、押圧部材75の端面75aとが相対的に摺接し、円盤体70の内端面70bと、外方部材2の開口端面74とが相対的に摺接することになる。また、円盤体70の内径面70cと、シャフト本体1の大径部1hの外径面とが相対的に摺接する。
【0066】
したがって、このような円盤体70からなる第3部材33を用いても、トルク変動を抑制するための減衰機構4を設けたことになって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。すなわち、前記図1に示すシャフトと同様の作用効果を奏する。
【0067】
ところで、図13では、円盤体70を一枚の部材にて構成していたが、図14に示すように、複数枚(図例では2枚)の部材にて構成してもよい。すなわち、第2部材側の第2円盤体70Bと、押圧部材75側の第1円盤体70Aとを備える。これにより、第1円盤体70Aの外端面70Aaと、押圧部材75の端面75aとが相互に摺接し、第1円盤体70Aの内端面70Abと、第2円盤体70Bの外端面70Baとが相互に摺接し、第2円盤体70Bの内端面70Bbと、外方部材2の開口端面74とが相互に摺接し、第1円盤体70Aおよび第2円盤体70Bの各内径面70Ac、70Bcと、シャフト本体1の大径部1hの外径面とが相互に摺接する。
【0068】
この場合も、トルク変動による捩り振動を吸収することができ、さらには、矢印方向の予圧を負荷することができ、この予圧量を調整することによって、最適な抵抗値を確保できる。
【0069】
図15では、円盤体70の外径側にダストカバー80を配置したものである。すなわち、このダストカバー80は薄肉の短円筒体からなり、押圧部材75の外径面から円盤体70の外径面を介して第2部材32の開口部側の外径面までを覆うものである。なお、この場合、ダストカバー80を第2部材32側又は第3部材側に固定される。
【0070】
前記図15では、ダストカバー80を第1・第2・第3部材とは別部材にて構成したが、図16ではダストカバー81を第2部材32である外方部材2の開口端部に設けている。すなわち、外方部材2の開口端部に軸方向に延びる短円筒部85を設け、この短円筒部85の周壁85aをもって、ダストカバー81を構成している。この場合、円盤体70をこの短円筒部85内に内嵌されることになり、押圧部材75の押圧端部がこの短円筒部85内に内嵌されることになる。すなわち、押圧部材75の外径面及び円盤体70の外径面をこのダストカバー81にて覆うことになる。
【0071】
図15や図16に示すように、ダストカバー80,81を設けることによって、第3部材33と、これに摺接する相手部材との摺接面間等への異物の侵入を防止でき、トルク変動による捩り振動の吸収機能を安定して発揮することができる。特に、図16に示すように、ダストカバー81が第2部材32に一体的に形成されるものでは、生産性及びコスト性に優れることになる。
【0072】
ところで、図14から図16等に示すような円盤体にて第3部材33を構成する場合、図17に示すように、潤滑剤を溜めるための潤滑剤溜り部87を設けてもよい。この場合の潤滑剤溜り部87は、径方向孔部86にて構成できる。なお、図13と図15に示すように、1つの部材にて円盤体70を構成する場合、相手側との摺接面、つまり外端面70a及び/又は内端面70bに、径方向凹溝を設けることによって潤滑剤溜り部87を形成するようにしてもよい。また、図14に示すように、2つの部材にて円盤体70を構成する場合、各円盤体70A,70Bの外端面70Aa、70Ba及び/又は内端面70Ab,70Bbに径方向凹溝を設けることによって潤滑剤溜り部87を形成するようにしてもよい。
【0073】
このように、潤滑剤溜り部87を設けることによって、図3に示すものと同様、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、抑制部位における摩擦抵抗を小さくでき、相対変位が滑らかに行うことができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、図8や図14に示すように、短円筒形状体や円盤体を複数枚重ね合わせる場合、2枚に限るものではない。また、図3や図17に示すように、潤滑剤溜りを設ける場合、その数は任意に設定できる。潤滑剤溜りを構成する場合、前記実施形態では、第3部材側に設けた溝にて形成していたが、第3部材33の相手側である第1部材31や第2部材32に設けた溝、さらには、第3部材33及び第1部材31や第2部材32に設けた溝等にて構成してもよい。
【0075】
ところで、前記実施形態では、第3部材33と第1部材31とが摺接するともに、第3部材33と第2部材32とが摺接するものであった。これに対して、第3部材33は第1部材31又は第2部材32に対して相対的に変位しないようにしてもよい。すなわち、本発明では、第3部材33に対して、第1部材31及び第2部材32の少なくとも一方、もしくは両者を相対変位可能であればよい。なお、相対的に変位しないようにする手段としては、溶接等の接合手段であっても、スプライン嵌合等の結合手段であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1a 出力側端部
1b 入力側端部
3 等速自在継手用シャフト中央部
4 減衰機構
15 セレーション結合
20、20A、20B 円筒形状体
31 第1部材
32 第2部材
33 第3部材
35 潤滑剤溜り部
70、70A、70B 円盤体
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動系に発生する捩り振動を抑制することが出来る等速自在継手用シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用における駆動輪への動力伝達手段は、ハーフシャフトにより連結された固定型等速自在継手と摺動型等速自在継手により、トルク変動することなく滑らかに伝達されている。このように、等速自在継手を含む駆動系では、エンジンからの振動を主に摺動型等速自在継手が吸収し、車体に不快な振動として伝えないようにしている。
【0003】
しかし、摺動型等速自在継手における振動の吸収方向は、スライド方向(軸方向)が全てであり、捩り方向(回転方向)の変位を吸収することができない。つまり、エンジン側からの回転変動を伴ったトルクの変動、いわゆる捩り振動を吸収することができない。
【0004】
このため、従来には、外側継手部材(外輪)を、外筒部と内筒部の2層構造とし、この外筒部と内筒部との間に、軸方向の相対移動及び軸心廻りの相対回転とを許容する案内装置を介在した等速自在継手がある(特許文献1)。また、この等速自在継手は、外筒部と内筒部との軸方向の相対移動及び軸心廻りの相対回転を抑制する抑制装置(ゴム素材からなる)を備えている。
【0005】
この特許文献1に記載の案内装置102は、図18と図19に示すように、外筒部76と内筒部82との間に配設される摺動体106を備え、外筒部76と摺動体106との間に軸方向溝108が形成されるとともに、内筒部82と摺動体106との間に周方向溝110が形成され、各溝108、110に転動体112,114が嵌合されるものである。
【0006】
また、図19に示すように、案内装置102における摺動体106の近傍には、摺動板100、100間に介在される第1ばね96と第2ばね98を有する相対抑制装置が配設されている。この相対抑制装置は、外筒部76と内筒部82との軸心廻りの相対回転を抑制する。
【0007】
特許文献1に記載の等速自在継手では、前記のように構成することによって、「駆動系の一部である車両用等速自在継手のねじり剛性が低下して駆動系の共振周波数が低下し、ドライブシャフトのねじり共振が抑制されることになって、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる」というものである。さらには、「外筒部と内筒部との軸心まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えることになり、その減衰要素において駆動系に発生するねじり振動が吸収されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる」というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-144763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1では、外輪の回転方向に対する相対変位量は転動体114の稼動範囲により規制され、この間の捩り剛性は相対抑制装置のバネ力により決まり、このバネ特性により狙いの捩り剛性が得られるように、チューニングすることになる。
【0010】
また、ゴム素子(相対回転抑制装置)が、外筒部76と内筒部82との周方向の間隙に設けられていることから、駆動系に発生するねじり振動は必ずそのゴム素子を介して外筒部76と内筒部82との間を伝播するようになっている。このため、駆動系にて発生するねじり振動を抑制することができる。
【0011】
ところが、前記特許文献1に記載のねじり振動吸収構造では、低トルク領域で回転方向に大きく捩れる構造であるため、トルク入力が正負で変わる状況においては回転方向の変位が大きくなる。このため、加減速を繰り返す(負荷トルクが正負で入れ替わる)ような走行状態では、剛性感(=ダイレクト感)が損なわれてしまう。
【0012】
本発明の課題は、捩り振動(回転方向の振動)を吸収しつつ剛性感を損なうことのない等速自在継手用シャフトを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の等速自在継手用シャフトは、出力側端部および入力側端部にそれぞれ等速自在継手が接続されて、出力側端部と入力側端部との間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部からのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構を設けた等速自在継手用シャフトであって、前記減衰機構は、軸状の第1部材と、この第1部材に外嵌される筒状の第2部材とを備え、前記第2部材は、トルク入力側又はトルク出力側において第1部材に結合され、第1部材に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側において、少なくとも第1部材と第2部材とのいずれか一方に摺接する第3部材を配設したものである。
【0014】
本発明の等速自在継手用シャフトは、減衰機構を設けたことによって、入力トルクの変動に伴う回転変動を抑制することができる、つまり捩り方向の振動を吸収することができる。すなわち、第1部材と第2部材とは第3部材を介して回転方向に相対的に変位可能である。この変位の際に、部材の接触面同士が滑り、摩擦による摩擦熱が発生する。これにより、瞬間的に変動する捩り方向のトルク変動に伴う振動エネルギーが摩擦熱に変換されて吸収され、捩り振動を抑制(=減衰)することができる。
【0015】
前記第3部材は、第1部材と第2部材との間の嵌入部に嵌合される肉厚が軸心方向に沿って同一の短円筒形状体にて構成したり、第1部材と第2部材との間の嵌入部に対して軸方向内部に向かってその肉厚が小となる短円筒形状体であって、軸方向内方への予圧が負荷されているものであったりする。
【0016】
前記第3部材は、複数枚の部材が重ね合わされてなるものであってもよく、材質の異なる複数の部材が重ね合わされてなるものであってもよい。
【0017】
前記第3部材と、相手側の第1部材及び/又は第2部材との間に潤滑剤を介在させるのが好ましく、さらには、第3部材と、相手側の第1部材及び/又は第2部材との間に潤滑剤を溜める潤滑剤溜り部を設けるのが好ましい。
【0018】
前記第3部材の圧入開始側の端部に面取り部を形成するようにしても、相手側の第1部材又は第2部材との第3部材の摺接面は、その対応面全面でないものであってもよい。
【0019】
第1部材と第2部材との結合はセレーション結合であっても、溶接による結合であってもよい。
【0020】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定式等速自在継手を取り付けたものとでき、入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたものとできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の等速自在継手用シャフトでは、トルク変動を減衰させる機構を設けたことによって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。この等速自在継手用シャフトを、自動車における駆動輪への動力伝達手段に用いれば、加減速を繰り返すような走行状態においても剛性感(=ダイレクト感)を損なうことなく優れた運転性が発揮され、しかも捩り振動を抑制することができる。特に、第3部材を第1部材と第2部材に対して締め代嵌合させることによって、相対変位可能となり、より大きな面積の摩擦面を利用することができて、大きな振動エネルギーの吸収に対応できる。
【0022】
第1部材が出力側端部と入力側端部とに一体成形されたトルク伝達シャフトからなるため、構成の簡略化を図ることができる。第2部材はトルク伝達シャフトとして機能する第1部材に対して外嵌されるので、コンパクト化を図ることができる。
【0023】
第3部材を肉厚が軸心方向に沿って同一の短円筒形状体にて構成することができ、摺動部材としては、単純形状のものでよく、低コスト化を図ることができる。なお、摺動部材としては、ボールやころ等を用いることも可能であるが、ボールやころ等を用いれば、周方向に沿って複数個配設する必要があり、部品点数が多くなって、組立て工数の増加を招くことになる。
【0024】
予圧を負荷するものでは、この予圧量を調整することによって、最適な抵抗値を確保できる。第3部材が複数枚の部材が重ね合わされてなるものでは、摩擦面の増加が可能となって、捩り振動の吸収性の向上を図ることができる。また、材質が相違するものを重ね合わせることによって、最適な抵抗値の確保が安定する。
【0025】
潤滑剤を介在させることによって、抑制部位における相対変位が滑らかに行うことができ、捩り振動を安定して抑制することができる。この場合の潤滑剤としては、グリース等を用いることができる。
【0026】
潤滑剤溜り部を設けることによって、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、抑制部位における摩擦抵抗を小さくでき、相対変位を滑らかに行うことができる。
【0027】
前記第3部材の圧入開始側の端部に面取り部を形成するものでは、圧入作業性の向上を図ることができる。各部材の摺接面は、その対応面全面でないもとすることができ、このシャフトの設計自由度が大となって、生産性に優れる。
【0028】
また、第1部材と第2部材との結合はセレーション結合であっても、溶接による結合であってもよく、この結合手段に公知・公用のものを用いることができ、低コスト化を図ることができる。
【0029】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定型等速自在継手を取り付けたものとすることができ、また、入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたものとできるので、種々のタイプの動力伝達手段を構成でき、汎用性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す等速自在継手用シャフトの縦断面図である。
【図2】前記図1のX−X線拡大断面図である。
【図3】前記等速自在継手用シャフトの固定側の要部拡大断面図である。
【図4】減衰機構の第3部材の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図5】前記等速自在継手用シャフトの簡略断面図である。
【図6】図5のY−Y線拡大断面図である。
【図7】図5のZ−Z線拡大断面図である。
【図8】本発明の等速自在継手用シャフトの第2の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図9】本発明の等速自在継手用シャフトの第3の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図10】本発明の等速自在継手用シャフトの第4の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図11】本発明の等速自在継手用シャフトの第5の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図12】本発明の等速自在継手用シャフトの第6の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図13】本発明の等速自在継手用シャフトの第7の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図14】本発明の等速自在継手用シャフトの第8の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図15】本発明の等速自在継手用シャフトの第9の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図16】本発明の等速自在継手用シャフトの第10の実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図17】第3部材の変形例を示す断面図である。
【図18】従来の車両用等速自在継手の要部断面図である。
【図19】前記図18に示す車両用等速自在継手の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0032】
図1は本発明に係る等速自在継手用シャフトの縦断面図を示し、この等速自在継手用シャフトは、シャフト本体1と、このシャフト本体1に外嵌される外方部材2とを備え、シャフト中央部3には減衰機構4が設けられている。
【0033】
シャフト本体1は、出力側端部1aと、入力側端部1bと、本体部1cと、出力側端部1aと本体部1cとの間に配設される小径部1d及び大径部1eと、入力側端部1bと本体部1cとの間に配設される小径部1f及び大径部1gとを有するものである。
【0034】
この場合、出力側端部1aに図示省略の固定式等速自在継手が連結され、入力側端部1bに図示省略の摺動式等速自在継手が連結される。なお、固定式等速自在継手としては、トラック溝底が円弧部のみであるバーフィールド型やトラック溝底の一部に直線部分を有するアンダーカットフリー型等の種々のタイプものを用いることができる。また、摺動式等速自在継手としては、ダブルオフセット型、トリポード型、又はクロスグルーブ型等の種々のタイプのものを用いることができる。
【0035】
このため、出力側端部1aはその外径面に雄スプライン5が形成されるとともに、止め輪(図示省略)が嵌合される周方向溝6が形成されている。また、入力側端部1bも同様に、その外径面に雄スプライン7が形成されるとともに、止め輪(図示省略)が嵌合される周方向溝8が形成されている。
【0036】
出力側端部1a側の大径部1eは図示省略の固定式等速自在継手の開口部を塞ぐためのブーツ(図示省略)の装着部を構成する。このため、大径部1eには周方向溝9が形成されている。また、入力側端部1b側の大径部1gは図示省略の摺動式等速自在継手の開口部を塞ぐためのブーツ(図示省略)の装着部を構成する。このため、大径部1gには周方向溝10が形成されている。
【0037】
また、本体部1cは、中央本体12と、入力側端部1b側の大径部1gに連設される大径部13とを有する。そして、外方部材2は、本体筒状部2aと、この本体筒状部2aの入力側の支持用小径部2bとからなる。この支持用小径部2bが、本体部1cの大径部13に結合される。この場合の結合はいわゆるセレーション結合15である。すなわち、大径部13の外周面に雄セレーションを形成して雄形結合部を構成するとともに、支持用小径部2bの内周面に雌セレーションを形成して雌形結合部を構成し、雄形結合部と雌形結合部とを嵌合(係合)させることによって、結合するものである。なお、大径部13と支持用小径部2bとの結合手段は、セレーション結合15に限るものではなく、溶接等の他の手段であってもよい。また、このセレーション結合15における雄形結合部における雄セレーションには雄スプラインを含み、セレーション結合15における雌形結合部における雌セレーションには雌スプラインを含むものとする。このため、セレーション結合15にはスプライン結合を含む。
【0038】
また、外方部材2の本体筒状部2aの反支持用小径部側の開口部には、摺動部材としての短円筒形状体20が配設されている。すなわち、シャフト本体1には、大径部1hが設けられ、この大径部1hにこの短円筒形状体20が外嵌される。外方部材2の本体筒状部2aの反支持用小径部側の開口端には出力側に向かって拡径するテーパ部27が形成されている。
【0039】
シャフト本体1は、例えば、ドライブシャフト用のシャフトと同様の材質のものが使用され、中炭素鋼や肌焼鋼等が適切である。また、外方部材2は、シャフト本体1と同じ材質もしくはシャフト本体1の材質よりも捩れ剛性が同等かそれ以上の材料とされ、例えば、捩れ剛性の高いCFRP(炭素繊維強化プラスチック)材が適している。また、短円筒形状体20は、シャフト本体1と同等の材料もしくは、耐摩耗性に優れたセラミック材やカーボンコンポジット材等を適用することで安定した摩擦力を得ることが可能である。
【0040】
ところで、前記減衰機構4は、シャフト本体1の中央本体12である第1部材31と、外方部材2である第2部材32と、短円筒形状体20である第3部材33等にて構成される。
【0041】
次にこのシャフトの組立方法について説明する。この場合、シャフト本体1の大径部1hに短円筒形状体20を外嵌する。次に、短円筒形状体20を組み付けたシャフト本体1に、入力側から第2部材32である外方部材2を挿入する。この際、短円筒形状体20である摺動部材に対して外方部材2の開口部側を圧入するとともに、シャフト本体1の大径部13の雄形結合部に対して外方部材2の支持用小径部2bの雌形結合部を圧入することになる。これによって、図1に示す等速自在継手用シャフトが完成する。なお、外方部材2の開口端縁には前記したようにテーパ部27が形成されているので、外方部材2の挿入時にこのテーパ部27がガイドとなって滑らかに組み立てることができる。
【0042】
このため、第3部材33に対して、第1部材31と第2部材32とが締め代嵌合となって、第1部材31と第2部材32とが相対変位可能となっている。すなわち、第3部材33の内径面と、これに対応する第1部材31の外径面とが摺接し、第3部材33の外径面と、これに対応する第2部材32の内径面とが摺接することになる。このため、スティックスリップ対策として、各摺接面間に潤滑剤を介在させるのが好ましい。なお、スティックスリップとは滑り面で発生する振動現象である。
【0043】
また、図4に示すように、潤滑剤を溜める潤滑剤溜り部35を設けるのが好ましい。この場合、第3部材33を構成する短円筒形状体20に設けられる凹溝36にて構成することができる。この凹溝36は周方向に沿って所定間隔(図例では、60度ピッチ)で配設される。また、各凹溝36は軸方向に沿って延びる軸方向溝である。
【0044】
次に図5から図7を用いて、減衰機構4の機能を説明する。なお、入力側のセレーション結合15と出力側の相対変位部との間は、任意の所定寸Aに設定される。入力側において、第1部材31と第2部材32とがセレーション結合15にて結合されているので、入力側において、図5に示すように、トルク負荷が負荷された場合、図6に示すように、第2部材32は第1部材31の捩れ変位(θt)と同期する。図6において、P1は、トルク負荷時の第1部材31と第2部材32の位相を示す。これに対して、出力側において、結合されていないので、図7に示すように、第1部材31と第2部材32とには位相差(θt)が生じる。しかしながら、出力側において第1部材31と第2部材32との間に、締め代をもって短円筒形状体20が嵌合されているので、発生する摩擦力(抵抗力)によって、瞬間的に変動する捩り方向の変動エネルギーが相殺(吸収)されることになる。このため、捩り振動を抑制(減衰)することができる。図7において、P2はトルク負荷時の第1部材31の位相を示し、P3はトルク負荷時の第2部材32の位相を示す。
【0045】
このように、本発明では、トルク変動を抑制するための減衰機構4を設けたことによって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。このため、この等速自在継手用シャフトを、自動車における駆動輪への動力伝達手段に用いれば、加減速を繰り返すような走行状態においての剛性感(=ダイレクト感)を損なうことなく優れた運転性が発揮され、しかも、捩り振動を抑制することができる。
【0046】
減衰機構4が第1部材31と第2部材32を備え、第1部材31が出力側端部1aと入力側端部1bとに一体成形されたトルク伝達用シャフトから成るため、構成の簡略化を図ることができる。第2部材32はトルク伝達シャフトとして機能する第1部材31に対して外嵌するため、コンパクト化を図ることができる。
【0047】
第2部材32は、一端側を第1部材31に結合し、他端側を第1部材31と相対変位するように設定できるので、捩り方向の振動を吸収する機能を有効に発揮できる。また、短円筒形状体20が締め代をもって嵌合されているので、この締め代に摩擦力を発生させることができ、捩り方向の振動を吸収する機能の信頼性の向上を図ることができる。このため、この締め代としては、第1部材31と第2部材32との間に、この相対変位部において位相差が生じる摩擦抵抗を発生させるものであればよい。
【0048】
このように、第1部材31と第2部材32と短円筒形状体20等を備えたものでは、捩り方向の振動を吸収する機能を有効に発揮でき、信頼性の高い機能を発揮できる。
【0049】
第3部材33を肉厚が軸心方向に沿って同一の短円筒形状体にて構成することができ、摺動部材としては、単純形状のものでよく、低コスト化を図ることができる。なお、摺動部材としては、ボールやころ等を用いることも可能であるが、ボールやころ等を用いれば、周方向に沿って複数個配設する必要があり、部品点数が多くなって、組立て工数の増加を招くことになる。
【0050】
潤滑剤を介在させることによって、抑制部位における相対変位が滑らかに行うことができ、捩り振動を安定して抑制することができる。この場合の潤滑剤としては、グリース等を用いることができる。
【0051】
潤滑剤溜り部35を設けることによって、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、抑制部位における摩擦抵抗を小さくでき、相対変位が滑らかに行うことができる。また、このような凹溝36を設ける場合、凹溝36の周方向端部をアール部とするのが好ましい。このようにアール部を設けることによって、凹溝36の周方向端縁部の引っかかりを防止でき、相対変位がより滑らかに行うことができる。
【0052】
また、この等速自在継手用シャフトは、前記実施形態では、入力側端部1bに摺動式等速自在継手を取付け、出力側端部1aに固定式等速自在継手を取付けるものであったが、他の実施形態として、出力側端部1aおよび入力側端部1bに摺動式等速自在継手を取付けるものとすることができる。また、この場合の摺動式等速自在継手としても、ダブルオフセット型、トリポード型、又はクロスグルーブ型等の種々のタイプのものを用いることができる。このように、本発明の等速自在継手用シャフトは、種々のタイプの動力伝達手段を構成でき、汎用性に優れる。
【0053】
前記実施形態では、第2部材32を第1部材31の入力側に結合していたが、別の実施形態として、第2部材32を第1部材31の出力側に結合し、第2部材32の入力側に短円筒形状体20を配置するようにしてもよい。このような場合であっても、入力側端部からのトルク負荷による回転変動を抑制することができ、捩り方向の振動を吸収することができる。
【0054】
ところで、前記実施形態では、短円筒形状体20を1個の部材にて構成していたが、図8に示すように、複数の部材にて構成してもよい。この図8では、内径側の第1短円筒形状体20Aと、外径側の第2短円筒形状体20Bとで構成している。このように、第3部材が複数枚の部材が重ね合わされてなるものでは、摩擦面の増加が可能となって、捩り振動に吸収性の向上を図ることができる。また、短円筒形状体20を複数枚の短円筒形状体20A、20Bで構成する場合、各円筒形状体20A、20Bが同一の材質であっても、相違する材質であってもよい。相違する材質で構成することによって、最適な抵抗値の確保が安定する。
【0055】
図9では、シャフト本体1の大径部1hの本体部側の端部に突起部40が設けられ、この突起部40に短円筒形状体20が係合している。このため、短円筒形状体20の外方部材2内方側への位置ずれを規制することができる。この突起部40は、断面矩形状の周方向凸条にて構成している。
【0056】
図10では、シャフト本体1の大径部1hの本体部側に、本体部側に向かって拡径するテーパ部41を設けている。また、短円筒形状体20の内径面の反開口部側に、反開口部側に向かって拡径するテーパ部42を設けている。このため、短円筒形状体20が圧入された際には、シャフト本体1側のテーパ部41に短円筒形状体20のテーパ部42が圧接して、短円筒形状体20の外方部材2内方側への位置ずれを規制することができる。
【0057】
このように、突起部40を設けたり、テーパ部41、42を設けたりすることによって、第3部材33の軸方向ずれを規制することができ、捩り方向の振動を安定して吸収することができる。また、短円筒形状体20のテーパ部42は、この短円筒形状体20の圧入開始端部に設けられた面取り部を構成することになる。このように面取り部を設けることによって、圧入作業性の向上を図ることができる。
【0058】
図11と図12では、第3部材33に予圧を負荷するようにしている。すなわち、図11では、短円筒形状体20は、その外径面が外方部材2の内部側に向かって縮径するテーパ面45とされ、その内径面が外方部材2の軸方向内部側に向かって拡径するテーパ面46とされて、その断面形状がくさび状とされる。また、外方部材2の本体部2aの内径面開口部は、開口側に向かって拡径するテーパ部47とされ、シャフト本体1の大径部1hが、外方部材2の内部側に向かって拡径するテーパ部48とされる。これによって、開口側から軸方向内部側に向かってその隙間寸法が小となるリング状の隙間50が形成される。
【0059】
そして、この隙間50に、断面形状がくさび状の短円筒形状体20が圧入される。また、シャフト本体1のテーパ部48の近傍には、雄ねじ部51が設けられ、この雄ねじ部51に押圧部材52が螺着される。押圧部材52は、雌ねじ部53を有する短円筒状の本体部54と、この本体部54の外径面に形成される外鍔部55とを有するものである。すなわち、本体部54の内径面は、大径部54aと、小径部54bとを有し、小径部54bに前記雌ねじ部53が形成される。
【0060】
したがって、シャフト本体1の雄ねじ部51に、押圧部材52の雌ねじ部53を螺着することによって、短円筒形状体20の外端面57を押圧部材52の先端面54cにて押圧して、矢印方向の予圧を負荷する。この場合、外鍔部55が外方部材2の端縁60に当接(接触)するまで、螺着される。
【0061】
また、図12では、短円筒形状体20の外径面をテーパ面とせずに円筒面とするとともに、外方部材2の開口部にテーパ面を形成しないものである。この場合も、シャフト1の雄ねじ部51に、押圧部材52の雌ねじ部53を螺着することによって、短円筒形状体20の外端面57を押圧部材52の先端面54cにて押圧して、矢印方向の予圧を負荷することができる。
【0062】
このように、予圧を負荷するものでは、この予圧量を調整することによって、最適な抵抗値を確保できる。
【0063】
次に図13では、第3部材33を中心孔を有する円盤体70にて構成している。この場合、円盤体70が外嵌される大径部1hの外面をテーパ面とすることなく、図1に示すシャフト本体1と同様円筒面とするとともに、第2部材32を構成する外方部材2の開口部に内径側へ膨出する内鍔部71を設けている。この内鍔部71は、厚肉部71aと、この厚肉部71aから軸方向内部に向かって肉厚寸法が小となる連設部71bとからなる。
【0064】
また、シャフト本体1に設けられた雄ねじ部51に螺着される押圧部材75にて、円盤体70を、第2部材32を構成する外方部材2の開口端面74を押圧することができる。この場合の押圧部材75は、図11と図12に示す押圧部材52において、外鍔部55よりも反雌ねじ部側の突出部を省略(カット)した形状である。このため、押圧部材75の雌ねじ部53をシャフト本体1の雄ねじ部51に螺着することによって、この押圧部材75の端面75aが、円盤体70の外端面70aを押圧することができる。すなわち、円盤体70にて構成された第3部材33に矢印方向の予圧を負荷することができる。
【0065】
この図13においては、円盤体70の外端面70aと、押圧部材75の端面75aとが相対的に摺接し、円盤体70の内端面70bと、外方部材2の開口端面74とが相対的に摺接することになる。また、円盤体70の内径面70cと、シャフト本体1の大径部1hの外径面とが相対的に摺接する。
【0066】
したがって、このような円盤体70からなる第3部材33を用いても、トルク変動を抑制するための減衰機構4を設けたことになって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。すなわち、前記図1に示すシャフトと同様の作用効果を奏する。
【0067】
ところで、図13では、円盤体70を一枚の部材にて構成していたが、図14に示すように、複数枚(図例では2枚)の部材にて構成してもよい。すなわち、第2部材側の第2円盤体70Bと、押圧部材75側の第1円盤体70Aとを備える。これにより、第1円盤体70Aの外端面70Aaと、押圧部材75の端面75aとが相互に摺接し、第1円盤体70Aの内端面70Abと、第2円盤体70Bの外端面70Baとが相互に摺接し、第2円盤体70Bの内端面70Bbと、外方部材2の開口端面74とが相互に摺接し、第1円盤体70Aおよび第2円盤体70Bの各内径面70Ac、70Bcと、シャフト本体1の大径部1hの外径面とが相互に摺接する。
【0068】
この場合も、トルク変動による捩り振動を吸収することができ、さらには、矢印方向の予圧を負荷することができ、この予圧量を調整することによって、最適な抵抗値を確保できる。
【0069】
図15では、円盤体70の外径側にダストカバー80を配置したものである。すなわち、このダストカバー80は薄肉の短円筒体からなり、押圧部材75の外径面から円盤体70の外径面を介して第2部材32の開口部側の外径面までを覆うものである。なお、この場合、ダストカバー80を第2部材32側又は第3部材側に固定される。
【0070】
前記図15では、ダストカバー80を第1・第2・第3部材とは別部材にて構成したが、図16ではダストカバー81を第2部材32である外方部材2の開口端部に設けている。すなわち、外方部材2の開口端部に軸方向に延びる短円筒部85を設け、この短円筒部85の周壁85aをもって、ダストカバー81を構成している。この場合、円盤体70をこの短円筒部85内に内嵌されることになり、押圧部材75の押圧端部がこの短円筒部85内に内嵌されることになる。すなわち、押圧部材75の外径面及び円盤体70の外径面をこのダストカバー81にて覆うことになる。
【0071】
図15や図16に示すように、ダストカバー80,81を設けることによって、第3部材33と、これに摺接する相手部材との摺接面間等への異物の侵入を防止でき、トルク変動による捩り振動の吸収機能を安定して発揮することができる。特に、図16に示すように、ダストカバー81が第2部材32に一体的に形成されるものでは、生産性及びコスト性に優れることになる。
【0072】
ところで、図14から図16等に示すような円盤体にて第3部材33を構成する場合、図17に示すように、潤滑剤を溜めるための潤滑剤溜り部87を設けてもよい。この場合の潤滑剤溜り部87は、径方向孔部86にて構成できる。なお、図13と図15に示すように、1つの部材にて円盤体70を構成する場合、相手側との摺接面、つまり外端面70a及び/又は内端面70bに、径方向凹溝を設けることによって潤滑剤溜り部87を形成するようにしてもよい。また、図14に示すように、2つの部材にて円盤体70を構成する場合、各円盤体70A,70Bの外端面70Aa、70Ba及び/又は内端面70Ab,70Bbに径方向凹溝を設けることによって潤滑剤溜り部87を形成するようにしてもよい。
【0073】
このように、潤滑剤溜り部87を設けることによって、図3に示すものと同様、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、抑制部位における摩擦抵抗を小さくでき、相対変位が滑らかに行うことができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、図8や図14に示すように、短円筒形状体や円盤体を複数枚重ね合わせる場合、2枚に限るものではない。また、図3や図17に示すように、潤滑剤溜りを設ける場合、その数は任意に設定できる。潤滑剤溜りを構成する場合、前記実施形態では、第3部材側に設けた溝にて形成していたが、第3部材33の相手側である第1部材31や第2部材32に設けた溝、さらには、第3部材33及び第1部材31や第2部材32に設けた溝等にて構成してもよい。
【0075】
ところで、前記実施形態では、第3部材33と第1部材31とが摺接するともに、第3部材33と第2部材32とが摺接するものであった。これに対して、第3部材33は第1部材31又は第2部材32に対して相対的に変位しないようにしてもよい。すなわち、本発明では、第3部材33に対して、第1部材31及び第2部材32の少なくとも一方、もしくは両者を相対変位可能であればよい。なお、相対的に変位しないようにする手段としては、溶接等の接合手段であっても、スプライン嵌合等の結合手段であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1a 出力側端部
1b 入力側端部
3 等速自在継手用シャフト中央部
4 減衰機構
15 セレーション結合
20、20A、20B 円筒形状体
31 第1部材
32 第2部材
33 第3部材
35 潤滑剤溜り部
70、70A、70B 円盤体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力側端部および入力側端部にそれぞれ等速自在継手が接続されて、出力側端部と入力側端部との間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部からのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構を設けた等速自在継手用シャフトであって、
前記減衰機構は、軸状の第1部材と、この第1部材に外嵌される筒状の第2部材とを備え、前記第2部材は、トルク入力側又はトルク出力側において第1部材に結合され、第1部材に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側において、少なくとも第1部材と第2部材とのいずれか一方に摺接する第3部材を配設したことを特徴とする等速自在継手用シャフト。
【請求項2】
前記第3部材は、第1部材と第2部材との間の嵌入部に嵌合される肉厚が軸心方向に沿って同一の短円筒形状体にて構成したことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項3】
前記第3部材は、第1部材と第2部材との間の嵌入部に対して軸方向内部に向かってその肉厚が小となる短円筒形状体であって、軸方向内方への予圧が負荷されていることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項4】
前記第3部材は、第2部材の端面に当接する円盤体からなり、軸方向内方への予圧が負荷されていることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項5】
前記第3部材は、複数枚の部材が重ね合わされてなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項6】
前記第3部材は、材質の異なる複数の部材が重ね合わされてなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項7】
前記第3部材と、相手側の第1部材及び/又は第2部材との間に潤滑剤を介在させたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項8】
前記第3部材と、相手側の第1部材及び/又は第2部材との間に潤滑剤を溜める潤滑剤溜り部を設けたことを特徴とする請求項7項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項9】
前記第3部材の圧入開始側の端部に面取り部を形成したことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項10】
相手側の第1部材又は第2部材との第3部材の摺接面は、その対応面全面でないことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項11】
前記第1部材は出力側端部と入力側端部とに一体成形されていることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項12】
第1部材と第2部材との結合はセレーション結合であることを特徴とする請求項2〜請求項11に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項13】
第1部材と第2部材との結合は溶接による結合であることを特徴とする請求項2〜請求項11に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項14】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定式等速自在継手を取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項15】
入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項1】
出力側端部および入力側端部にそれぞれ等速自在継手が接続されて、出力側端部と入力側端部との間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部からのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構を設けた等速自在継手用シャフトであって、
前記減衰機構は、軸状の第1部材と、この第1部材に外嵌される筒状の第2部材とを備え、前記第2部材は、トルク入力側又はトルク出力側において第1部材に結合され、第1部材に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側において、少なくとも第1部材と第2部材とのいずれか一方に摺接する第3部材を配設したことを特徴とする等速自在継手用シャフト。
【請求項2】
前記第3部材は、第1部材と第2部材との間の嵌入部に嵌合される肉厚が軸心方向に沿って同一の短円筒形状体にて構成したことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項3】
前記第3部材は、第1部材と第2部材との間の嵌入部に対して軸方向内部に向かってその肉厚が小となる短円筒形状体であって、軸方向内方への予圧が負荷されていることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項4】
前記第3部材は、第2部材の端面に当接する円盤体からなり、軸方向内方への予圧が負荷されていることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項5】
前記第3部材は、複数枚の部材が重ね合わされてなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項6】
前記第3部材は、材質の異なる複数の部材が重ね合わされてなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項7】
前記第3部材と、相手側の第1部材及び/又は第2部材との間に潤滑剤を介在させたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項8】
前記第3部材と、相手側の第1部材及び/又は第2部材との間に潤滑剤を溜める潤滑剤溜り部を設けたことを特徴とする請求項7項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項9】
前記第3部材の圧入開始側の端部に面取り部を形成したことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項10】
相手側の第1部材又は第2部材との第3部材の摺接面は、その対応面全面でないことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項11】
前記第1部材は出力側端部と入力側端部とに一体成形されていることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項12】
第1部材と第2部材との結合はセレーション結合であることを特徴とする請求項2〜請求項11に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項13】
第1部材と第2部材との結合は溶接による結合であることを特徴とする請求項2〜請求項11に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項14】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定式等速自在継手を取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項15】
入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−149685(P2012−149685A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7800(P2011−7800)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]