説明

等速自在継手組立方法および等速自在継手

【課題】安定したブーツバンドの縮径が可能であって、高精度にグリース漏れを防止できる等速自在継手組立方法および等速自在継手を提供する。
【解決手段】ブーツバンド18を縮径させてブーツ10を装着する等速自在継手組立方法である。ブーツバンド18の外径側に、内径面が周方向に沿って連続して配設される複数の平坦面40から構成されたセグメント31を周方向に沿って複数個リング状に配設する。各セグメント31を径方向内方側へ移動させる。これによって、ブーツバンド18を縮径させることによって加締る。加締状態で、各セグメント31の内径面にて、縮径したブーツバンド18の外径全周面を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手組立方法および等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械における動力の伝達に用いられる等速自在継手には、継手内部への塵埃等の異物侵入防止や継手内部に封入されたグリースの漏れ防止を目的とし、蛇腹状のブーツが装着される。
【0003】
この種のブーツは、等速自在継手の外側継手部材としての外輪に固定される大径部と、内側継手部材としての内輪から延びるシャフトに固定される小径部と、大径部と小径部との間に設けられ、谷部と山部とが交互に形成された蛇腹部とを有する。そして、大径部と小径部とはそれぞれブーツバンドが装着されることによって固定される。
【0004】
等速自在継手には、作動角を取りながら回転したり、軸線方向に摺動したりしながら回転する機能が備わっており、そのため、これに装着されるブーツは、等速自在継手の挙動に追従できる柔軟性を確保するために蛇腹形状をしている。すなわち、蛇腹形状のブーツは、等速自在継手が作動角をとったり摺動したりする動きに追従するために変形する。
【0005】
等速自在継手用ブーツには、クロロプレンゴム等を使用したゴム製ブーツや熱可塑性エラストマー材を使用した樹脂製ブーツがあるが、樹脂製ブーツはゴム製ブーツに比べて耐久性に優れるため、適用が拡大している。
【0006】
また、等速自在継手用ブーツを締め付けるブーツバンドには、近年、外径面(外周面)に突起部がない金属バンド(突起無しバンド)が用いられる場合がある。このような金属バンドでは、まず、被装着部(ブーツの大径部やブーツの小径部)に遊嵌状に外嵌し、この状態で縮径加締を行って、被装着部を締め付けるものである。
【0007】
そこで、縮径加締には、特許文献1や特許文献2に記載の装置が用いられる。特許文献1に記載の装置は、図5と図6に示すように、内径面52が円弧面とされた複数のセグメント51を備えたものである。この場合、まず、図5に示すように、複数のセグメント51を周方向に沿って、ブーツバンド53の外径にリング状に配設した状態とした後、図6に示すように、各セグメント51を径方向に移動させるものである。
【0008】
また、特許文献2に記載の装置は、周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の爪部を備え、この爪部を案内溝にガイドさせつつ径方向にスライドさせるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4018188号公報
【特許文献2】特開2007−232128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図5と図6に示すように、内径面52が円弧面とされた複数のセグメント(コマ)51を備えたものでは、各セグメント51の内径面52の曲率中心O1とバンド53の外径面53aの中心Oとが一致している。このため、突起無しバンド53を加締める場合、各セグメント51を内径方向へ移動させれば、各セグメント51の内径面52の曲率中心O1が、図6に示すように、バンド53の中心Oからずれることになる。
【0011】
すなわち、各セグメント51(51a、51b、51c、51d、51e、51f、51g、51h)はブーツバンド53の外径面53aの中心Oを通る中心線La、Lb、Lc、Ld、Le、Lf、Lg、Lhに沿ってスライドする。
【0012】
そして、最終スライド状態では、第1のセグメント51aの内径面52の曲率中心Aがブーツバンド53の外径面53aの中心Oよりもこのセグメント51aと反対側に位置する。第2のセグメント51bの内径面52の曲率中心Bがブーツバンド53の外径面53aの中心Oよりもこのセグメント51bと反対側に位置する。第3のセグメント51cの内径面52の曲率中心Cがブーツバンド53の外径面53aの中心Oよりもこのセグメント51cと反対側に位置する。第4のセグメント51dの内径面52の曲率中心Dがブーツバンド53の外径面53aの中心Oよりもこのセグメント51dと反対側に位置する。第5のセグメント51eの内径面52の曲率中心Eがブーツバンド53の外径面53aの中心Oよりもこのセグメント51eと反対側に位置する。第6のセグメント51fの内径面52の曲率中心Fがブーツバンド53の外径面53aの中心Oよりもこのセグメント51fと反対側に位置する。第7のセグメント51gの内径面52の曲率中心Gがブーツバンド53の外径面53aの中心Oよりもこのセグメント51gと反対側に位置する。第8のセグメント51hの内径面52の曲率中心Hがブーツバンド53の外径面53aの中心Oよりもこのセグメント51hと反対側に位置する。
【0013】
このような場合、図7に示すように、内径面52の円弧面の径r1が加締前のバンド53の外径rよりも大きすぎると、セグメント51の周方向端部とバンド53との間に隙間55が形成される。すなわち、セグメント51の周方向端部とバンド53とが接触しない部分が生じるおそれがある。このように接触しない部分が生じると、バンド53におけるセグメント51と接触しない部分が、セグメント51から力を受けないことになる。このため、セグメント51から力を受けなかった部分からグリース漏れが生じやすくなる。
【0014】
逆に、内径面52の円弧面の径が加締前のバンド53の外径rよりも小さすぎると、セグメント51の内径面52の中央部とバンド53とが接触しない部分が生じるおそれがある。このような場合には、バンド53におけるセグメント51と接触しない部分が、セグメント51から力を受けないことになる。このため、セグメント51から力を受けなかった部分からグリース漏れが生じやすくなる。
【0015】
また、特許文献2に記載のものでは、加締時に、周方向に隣合う爪部間に隙間が生じるものである。このため、バンドにおいて加締られていない部位があり、この部位においてグリース漏れが生じやすくなる。
【0016】
本発明は、前記課題に鑑みて、安定したブーツバンドの縮径が可能であって、高精度にグリース漏れを防止できる等速自在継手組立方法および等速自在継手を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の等速自在継手組立方法は、ブーツバンドを縮径させてブーツを装着する等速自在継手組立方法であって、ブーツバンドの外径側に、内径面が周方向に沿って連続して配設される複数の平坦面から構成されたセグメントを周方向に沿って複数個リング状に配設した後、各セグメントを径方向内方側へ移動させて、ブーツバンドを縮径させることによって加締、この加締状態で、各セグメントの内径面にて、縮径したブーツバンドの外径全周面を形成するものである。
【0018】
本発明の等速自在継手組立方法によれば、周方向に沿って連続して配設される複数の平坦面から構成された各セグメントの内径面を、縮径したブーツバンドの外径面の円弧面に近づけることができる。このため、セグメントの内径面とブーツバンドの外径面との間に接触しない部分が生じにくくなっている。
【0019】
各セグメントの平坦面が3面以上であるのが好ましい。1個のセグメントに3面以上の平坦面が設けたことによって、セグメントの内径面とブーツバンドの外径面との間に形成される隙間(空間)を少なくできる。すなわち、セグメントに3面未満の平坦面が設けられているものでは、セグメントの内径面を、縮径したブーツバンドの外径面の円弧面にあまり近づけることができず、ブーツバンドの外径面との間に比較的大きな隙間が形成されることになる。これに対して、平坦面の数が多いほどブーツバンドの外径面の円弧面に近づき、より隙間を小さくすることができる。
【0020】
セグメントの内径面のブーツバンド接触面の硬度をHRC45〜HRC65とするのが好ましい。これによって、セグメントのブーツバンド接触面が耐摩耗性に優れることになる。
【0021】
このため、ブーツバンド接触面に耐摩耗性表面処理を施すのが好ましい。耐摩耗性表面処理としては、乾式めっき、湿式めっき、溶融処理、溶射、イオン注入、硫化処理、化成処理、表面熱処理およびショットピーニングのうちのいずれか一つもしくは複数の表面処理が施されて、摩擦係数の小さい面が形成されることである。
【0022】
ブーツが樹脂製であっても、ゴム製であってもよい。また、ブーツバンドがアルミニウム製であっても、鉄製であってもよい。
【0023】
本発明の等速自在継手は、前記等速自在継手組立方法にて組立てられてなるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の等速自在継手組立方法では、セグメントの内径面とブーツバンドとの間に接触しない部分が生じにくくなっている。このため、組立られた等速自在継手は、グリース漏れ及び外部からの水等の浸入を防ぐことができ、長期にわたって安定した機能を発揮することができる。
【0025】
ブーツバンド接触面の表面硬度をHRC45〜HRC65としたり、耐摩耗性表面処理を施すことによって、セグメントの内径面が摩耗しにくくなって、耐用性に優れ、セグメントは長期にわたって安定した加締力を発揮することができる。
【0026】
ブーツが樹脂製であっても、ゴム製であってもよく、ブーツバンドがアルミニウム製であっても、鉄製であってもよい。すなわち、本発明にかかる等速自在継手組立方法では、種々の材質のブーツやブーツバンドに対して安定した締め付け力を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の等速自在継手組立方法に使用するブーツバンド縮径用装置の簡略図である。
【図2】前記ブーツバンド縮径用装置によるブーツバンド縮径状態を示す簡略図である。
【図3】前記図2の要部拡大簡略図である。
【図4】等速自在継手の断面図である。
【図5】従来のブーツバンド縮径用装置の簡略図である。
【図6】従来のブーツバンド縮径用装置によるブーツバンド縮径状態を示す簡略図である。
【図7】前記図6の要部拡大簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下本発明の実施の形態を図1〜図4に基づいて説明する。
【0029】
図4に等速自在継手を示し、この等速自在継手は、内周面に複数の案内溝(トラック溝)4を軸方向に形成した外側継手部材としての外輪1と、外周面に複数の案内溝(トラック溝)5を形成した内側継手部材としての内輪2と、外輪1の案内溝4と内輪2の案内溝5とで協働して形成されるボールトラックに配される複数のボール3と、ボール3を収容するためのポケット8aを有するケージ8等から構成される。また、内輪2の内周にセレーションやスプライン等のトルク伝達手段を介してシャフト9を結合している。この実施形態の等速自在継手は、案内溝4,5が円弧部と直線部とを有するアンダーカットフリー型(UJ)の固定式等速自在継手を示している。なお、等速自在継手として、案内溝4,5が円弧部のみからなるバーフィールド型(BJ)の固定式等速自在継手であってもよい。
【0030】
等速自在継手用ブーツ10は、例えば、エステル系、オレフィン系、ウレタン系、アミド系、スチレン系等の熱可塑性エラストマーにて形成される。熱可塑性エラストマーは樹脂とゴムの中間の性質を持っている。熱可塑性エラストマーは、熱可塑性樹脂の通常の成形機にて加工することができる。
【0031】
また、等速自在継手用ブーツ10は、例えば、硬さが、JIS K6253に規定されるタイプDデュロメーターによる硬さが35以上50以下である熱可塑性ポリエステル系エラストマーとすることができる。熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、加硫ゴムのような柔軟な材料と、熱可塑性樹脂のような高剛性な材料との中間の弾性率を持つ材料である。この熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、加硫ゴムと熱可塑性樹脂の両者の特徴を有し、変形を受けても元の形状に復元する弾性、加硫ゴムより高い機械的強度、一般的な熱可塑性樹脂に適用できる全ての成形加工法が適用できる熱可塑性などの特徴を示す材料である。
【0032】
等速自在継手用ブーツ10は、等速自在継手の外側継手部材(外輪1)の開口端部に装着される大径部13と、等速自在継手の内側継手部材(内輪2)に連結されたシャフト9に装着される小径部14と、大径部13と小径部14との間に設けられ、軸方向に沿って交互に配設される山部7と谷部6とを有する蛇腹部15とを備える。山部7と谷部6とは傾斜部(連結部)12にて連結されている。
【0033】
外輪1の開口部側の外周面には、周方向に沿った溝からなるブーツ取付部16(周方向凹溝であって、このブーツ取付部16に大径部13が外嵌される。そして、ブーツ10の大径部13の外周面にブーツバンド18を嵌着することによって、大径部13を外輪1に固定している。
【0034】
シャフト9には、外輪1から所定量突出した位置に、周方向に沿ったブーツ取付用溝20を有するブーツ取付部22が設けられ、小径部14がブーツ取付部22に外嵌される。
そして、ブーツ10の小径部14の外周面にブーツバンド18を嵌着することによって、小径部14をシャフト9に固定している。
【0035】
ところで、この等速自在継手のブーツバンド18としては、外周面に突起部が無いリング体(突起無しの金属バンド)が用いられる。そして、縮径されることによってブーツが装着される。そこで、この縮径には、図1から図3に示されるブーツバンド縮径用装置が用いられる。
【0036】
ブーツバンド縮径用装置は、周方向に沿って複数個(この場合8個)のセグメント31と、このセグメント31を径方向に往復動させる図示省略の駆動機構とを備える。セグメント31は、周方向に沿って隣合うブロック体の相対面する側面33、34と、前記内径面32と、内径面32に対向する外径面35とを備えた断面台形状のブロック片である。
【0037】
内径面32は、周方向に沿って連続した複数の平坦面40からなる。すなわち、この実施形態では図3に示すように、5つの平坦面40a、40b、40c、40d、40eが設けられている。この場合、各平坦面40a、40b、40c、40d、40eの周方向長さは同一に設定されている。
【0038】
次に、このブーツバンド縮径用装置を使用したブーツバンド18の装着方法を説明する。まず、ブーツバンド18を、ブーツ10の大径部13又は小径部14に遊嵌状に外嵌した状態とする。この状態で、図1に示すように、複数のセグメント31を、周方向に隣合うセグメント31に側面33、34が相対面して、所定の隙間が形成されている。なお、この隙間は、後述するように各セグメント31を径方向内方へスライドさせた際に、周方向に隣合うセグメント31同士が接触等してこのスライドを妨げないように設定している。
【0039】
図1に示す状態では、各セグメント31の内径面32がほぼブーツバンド18の外径面18aに接触している。この状態から各セグメント31は径方向内方へスライドする。この場合、各セグメント31(31a、31b、31c、31d、31e、31f、31g、31h)はブーツバンド18の外径面18aの中心Oを通る中心線La、Lb、Lc、Ld、Le、Lf、Lg、Lhに沿ってスライドする。
【0040】
そして、最終スライド状態では、図2に示すように、周方向に隣り合うセグメント31の対向面、つまり側面33と側面34とが相互に接触した状態となって、ブーツバンド18を縮径させることができる。これによって、このブーツバンド18にて、ブーツ10の大径部13を等速自在継手の外輪に固定することができ、ブーツ10の小径部14をシャフト9のブーツ取付部22に固定することができる。
【0041】
この場合、加締後のブーツバンド18の外径面18aは、図2で示すような形状となる。図2に示すように、Ha範囲はセグメント31の第1の平坦面40aにて加締られた範囲であり、Hb範囲はセグメント31の第2の平坦面40bにて加締られた範囲であり、Hc範囲はセグメント31の第3の平坦面40cにて加締られた範囲であり、Hd範囲はセグメント31の第4の平坦面40dにて加締られた範囲であり、He範囲はセグメント31の第5の平坦面40eにて加締られた範囲である。
【0042】
ところで、各セグメント31の内径面32は正確には円弧面ではないので、図3に示すように、ブーツバンド18の外径面18aとの間に隙間Sが形成される。具体的には、第1の平坦面40aと第2の平坦面40bとの接合部と、ブーツバンド18の外径面18aとの間の隙間S1、第3の平坦面40cとブーツバンド18の外径面18aとの間の隙間S2、第4の平坦面40dと第5の平坦面40eとの接合部と、ブーツバンド18の外径面18aとの間の隙間S3の3箇所である。しかしながら、セグメント31の内径面32における平坦面40は5つであるので、セグメント31の内径面32は、縮径状態のブーツバンド10の外径面18aの円弧面(中心Oで半径R(図3参照)の円弧面)に近づき、隙間Sの最大隙間寸法Xは小さいものとなる。
【0043】
本発明では、図3に示すように、周方向に沿って連続して配設される複数の平坦面40から構成された各セグメント31の内径面32は、縮径したブーツバンド18の外径面18aの円弧面に近づけることができる。このため、セグメント31の内径面32とブーツバンド18の外径面18aとの間に接触しない部分が生じにくくなっている。このため、組立られた等速自在継手は、グリース漏れ及び外部からの水等の浸入を防ぐことができ、長期にわたって安定した機能を発揮することができる。
【0044】
ところで、前記実施形態では、各セグメント31の平坦面40が5つ設けられていたが、この数としては任意に設定できる。しかしながら、セグメント31の内径面32とブーツバンド18の外径面18aとの間に形成される隙間(空間)Sを少なくする必要がある。この場合、セグメント31の数、セグメント31の内径面の周方向長さ、セグメント31の径方向の移動量等によって平坦面40の数を変更することができるが、各セグメント31に3面以上の平坦面を設けるのが好ましい。すなわち、セグメント31に3面未満の平坦面40が設けられているものでは、セグメント31の内径面32を、縮径したブーツバンド18の外径面18aの円弧面にあまり近づけることができず、ブーツバンド18の外径面18aとの間に比較的大きな隙間が形成されることになる。これに対して、平坦面40の数が多いほどブーツバンド18の外径面18aの円弧面に近づき、より隙間を小さくすることができる。
【0045】
各セグメント31の内径面32は、加締回数が多くなるにつれて摩耗するおそれがある。そこで、内径面32の耐摩耗性を向上させるために、その表面硬度を例えばHRC45〜HRC65程度とするのが好ましい。なお、表面硬度をHRC45〜HRC65程度とするには、表面硬化処理を行えばよい。表面硬化処理としては、物理的処理、化学的処理等、いかなる処理であってもよい。例えば、ショットピーニング処理、バレル処理、熱硬化処理を採用することができ、これらを単独又は複数組み合わせて用いることができる。
【0046】
また、耐摩耗性表面処理を施すようにしてもよい。耐摩耗性表面処理としては、乾式めっき、湿式めっき、溶融処理、溶射、イオン注入、硫化処理、化成処理、表面熱処理およびショットピーニングのうちのいずれか一つもしくは複数の表面処理が施されて、摩擦係数の小さい面が形成されることである。この耐摩耗性表面処理には表面硬化処理が含まれる。
【0047】
ここで、上記の各表面処理のうち、乾式めっきにはPVD処理(物理的蒸着)とCVD処理(化学的蒸着)があり、PVD処理では、TiN、ZrN、CrN、TiC、TiCN、TiAlN、Al23、DLC(Diamond Like Carbon)等の皮膜を、CVD処理では、TiC、TiN、TiCN、TiCNO等の皮膜、あるいはTiC-TiN、TiC-Al23、TiC-TiCNO、TiC-TiCN-TiN、TiC-TiCNO-TiN、TiC-TiCN-Al23、TiC-Al23-TiN等の複合皮膜を形成するとよい。湿式めっきには、電気めっきと無電解めっきがあり、めっきの種類としては、工業用クロム、無電解クロム、複合めっき等がある。
【0048】
TiC/TiCN/Al23溶融処理には、クラッディング、アロイング、グレージング等がある。溶射には、ガス式溶射と電気式溶射があり、皮膜の種類としては、酸化クロム系、酸化チタン系、ジルコニア系等がある。イオン注入には、高エネルギー注入と中エネルギー注入がある。硫化処理では、固体潤滑剤である二硫化モリブデンを含む層を皮膜とする複合処理が効果的である。化成処理には、リン酸塩処理、リン酸鉄処理、リン酸マンガン処理、クロメート処理等がある。表面熱処理には、表面焼入れ、浸炭焼入れ、窒化処理、浸硫処理等がある。
【0049】
これらの各処理のうち、特に、乾式めっき、硫化処理および化成処理は、接触面の摩擦係数を小さくする効果が大きい。一方、窒化等の熱処理では、摩擦係数の低減とともに耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0050】
このように、ブーツバンド接触面の表面硬度をHRC45〜HRC65としたり、耐摩耗性表面処理を施したりすることによって、セグメントの内径面が摩耗しにくくなって、耐用性に優れ、セグメントは長期にわたって安定した加締力を発揮することができる。
【0051】
また、ブーツ10として、前記実施形態では、熱可塑性エラストマー材を使用した樹脂製ブーツであったが、クロロプレンゴム等を使用したゴム製ブーツであってもよい。さらに、ブーツバンド18としても、アルミニウム製であっても、鉄製であってもよい。本発明にかかる等速自在継手組立方法では、種々の材質のブーツやブーツバンドに対して安定した締め付け力を発揮することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、使用するセグメント31の数の増減は任意であり、各セグメントの軸方向長さ(肉厚)としても、ブーツバンド18を加締ることができる範囲で種々変更できる。また、前記実施形態では、セグメント31の平坦面40の周方向長さを同一に設定していたが、各平坦面の周方向長さを相違させても、任意の1個乃至複数個のみ相違させるようにしてもよい。セグメント31の内径面32の表面の硬化処理範囲としては、少なくともブーツバンド18の外径面18aと接触する部位であればよいので、図3に示すように、隙間Sが生じる範囲にこのような硬化処理を施さないものであってもよい。逆にセグメント31の全表面に硬化処理を施してもよい。
【0053】
なお、セグメント31を径方向に往復動させる機構としては、シリンダ機構、ボールねじ機構、モーターリニア機構等の種々の機構にて構成することができる。また、等速自在継手として、前記した固定式等速自在継手以外に、外側継手部材(外輪)の軸線方向にスライドする機構を備えたタイプ(例えば、ダブルオフセット型、トリポード型、クロスグルーブ型等の摺動式等速自在継手)など、あらゆる等速自在継手に適用できる。
【符号の説明】
【0054】
10 等速自在継手用ブーツ
18 ブーツバンド
31 セグメント
32 内径面
40 平坦面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブーツバンドを縮径させてブーツを装着する等速自在継手組立方法であって、
ブーツバンドの外径側に、内径面が周方向に沿って連続して配設される複数の平坦面から構成されたセグメントを周方向に沿って複数個リング状に配設した後、各セグメントを径方向内方側へ移動させて、ブーツバンドを縮径させることによって加締、この加締状態で、各セグメントの内径面にて、縮径したブーツバンドの外径全周面を形成するようにしたことを特徴とする等速自在継手組立方法。
【請求項2】
各セグメントの平坦面が3面以上であることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手組立方法。
【請求項3】
セグメントの内径面のブーツバンド接触面の硬度をHRC45〜HRC65とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手組立方法。
【請求項4】
前記ブーツバンド接触面に耐摩耗性表面処理を施したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手組立方法。
【請求項5】
前記ブーツが樹脂製であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手組立方法。
【請求項6】
前記ブーツがゴム製であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手組立方法。
【請求項7】
前記ブーツバンドがアルミニウム製であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手組立方法。
【請求項8】
前記ブーツバンドが鉄製であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手組立方法。
【請求項9】
前記請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手組立方法にて組立られたことを特徴とする等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−261531(P2010−261531A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113652(P2009−113652)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】