説明

筋交いダンパー構造

【課題】ゴムと金属製のプラグを併用することによって、残留変形の発生を抑制した上で、減衰性能を高める。
【解決手段】筋交い材3の下端部に、中板11の上端部が複数の固定具12にて固定されている。この中板11の下端部の表裏面にそれぞれシート状ゴム13,14の一面側(内面側)が接着剤を用いる接着または加硫接着されている。そして、各シート状ゴム13,14の他面側(外面側)それぞれに、筋交い端部の側板15,16の第1の部分15A,16Aが接着されている。側板15,16の第1の部分15A,16Aは、シート状ゴム13,14を介して中板11を挟みそれらを積層してなる積層構造を形成しており、この積層構造を金属製のプラグ18が貫通して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋交いダンパー構造に関する。より詳細には、木造建築物若しくは鉄骨構造物の筋交い材(若しくはブレース材)の端部と、木造建築物若しくは鉄骨構造物の軸組若しくはフレームとの接合部を連結部分に使用されるダンパー構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、大型建築物において、耐震性能を確保するために、鋼板などの硬質板とゴム状弾性板とを交互に積層した構造体を用いることは知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これに対し、一般の戸建て木造建築物若しくは鉄骨構造物は、金物を使用して基礎・土台・柱フレームについてできるだけ一体化を図ることで、耐震性能を確保している。そのような一体化のための、木造建築物若しくは鉄骨構造物における接合部は、従来より、金物継ぎ手が主流となっている。
【0004】
そこで、木造住宅においては、前述したように金物継手を使用して基礎・土台・柱フレームをできるだけ一体化させることで耐震性能を確保しているが、そのような金物継ぎ手を、高減衰ゴムなどの減衰材を用いて構成して、地震などによる振動が作用するときに生じるせん断変形によるズレである相対変位を吸収できる構造を付加し、地震時に接合部内部に生じる部品間相互の変形を利用して、制振効果を得る制振金物が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
また、内筒状剛性部材の外周側に同内筒状剛性部材を囲繞するように外筒状剛性部材を同心状に配置するとともに、内外の前記剛性部材間に粘弾性エネルギー吸収体を介在させて相対変位可能に一体的に結合してなるエネルギー吸収ユニット構造を備えたダンパー装置において、前記エネルギー吸収体よりも高剛性の延伸性プラグを、前記内筒状剛性部材と前記外筒状剛性部材との内外の筒状壁間に跨り、かつ前記エネルギー吸収体に対し軸方向に直交する方向に貫通させて設けたものも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−49834号公報(第3頁及び図1,2)
【特許文献2】特開2006−336260号公報
【特許文献3】特許第4288370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の構造では、筋交い材端部の片側に減衰材を挟んで制振金物が設けられ、接合形式は一面せん断形であるため、筋交い材に圧縮力が作用した場合に、筋交い材端部を固定する減衰材がめくれあがり、筋交い材が大きく面外方向に湾曲し、ダンパーとしてのエネルギー吸収効率が低下している。また、筋交い材の端部の制振金物にも,浮き上がりや木材へのめり込みが生じるため、この点からも、ダンパーとしてのエネルギー吸収効率が低下している。
【0008】
ところで、特許文献2に記載のように、ゴムを用いた制振構造では、残留変形は少ないが、減衰性能を高めると、ダンパーの温度依存性が大きくなるため、減衰性能を大きくすることができない。一方、高剛性の延伸性プラグを用いた制振構造は、特許文献3に記載のように、地震や風などによる振動中の減衰性能は高いが、振動が終了した後に、残留変形を残しやすい。
【0009】
本発明は、ゴムと金属製のプラグを併用することによって、残留変形の発生を抑制した上で減衰性能を確保した筋交いダンパー構造、若しくは残留変形の発生を許容した上で減衰性能をさらに高めることができる筋交いダンパー構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、鉛直方向に延びる柱と水平方向に延びる横架材とが突き合わされて接合され、その接合部に前記柱及び横架材に傾斜する方向に延びる筋交い材が配置されている筋交いダンパー構造であって、前記筋交い材の上下端部あるいは下端部に板状の第1の高剛性部材の上端部が固定具にて固定され、前記第1の高剛性部材の下端部の表裏面にそれぞれシート状ゴムの一面側が接着され、前記各シート状ゴムの他面側それぞれに第2の高剛性部材の第1の部分の一面側が接着され、前記第2の高剛性部材の第2の部分が前記柱または横架材の少なくとも一方に固定具にて固定され、前記第2の高剛性部材、前記シート状ゴム及び前記第1の高剛性部材を積層してなる積層構造を貫通する金属製のプラグが設けられていることを特徴とする。ここで、「筋交い材」とは、柱及び横架材に傾斜する方向に延びる斜材で、グレース材ともいう。「横架材」には土台が含まれる。「接着」は、加硫接着でもよいし、接着剤を用いる接着でもよい。エネルギー吸収は、金属製のプラグおよびシート状ゴムが変形することで両者が吸収するようにしているが、金属製のプラグが変形することで吸収するようにしてもよいし、金属製のプラグが折れシート状ゴムの変形によって吸収するようにしてもよい。「シート状ゴム」としては、エネルギー吸収を主としてゴムに期待する場合には高減衰ゴム(せん断弾性係数G=0.1N/mm以上、等価減衰定数Heq=10〜30%)が用いられ、エネルギー吸収は主としてプラグに期待しゴムにはプラグの形状を元に戻すことを期待する場合には天然ゴム(NBR)(せん断弾性係数G=0.1N/mm以上、等価減衰定数Heq=0〜5%)が用いられる。「プラグ」は、鋼材、ステンレス、アルミニウム、錫、鉛などの金属製とされる。「第1及び第2の高剛性部材」は、鋼材、ステンレスなどの金属材料が用いられる。
【0011】
このようにすれば、地震などの震動により、第1の高剛性部材と第2の高剛性部材との間に相対変位が生ずると、両部材に接着されているゴムおよび両部材の間に跨って設けられているプラグに変形が生じ、それらが変形することで振動エネルギーが吸収される。ゴム及びプラグという2つのエネルギー吸収材料を利用しているために、ゴムのせん断変形によるエネルギー吸収とプラグの変形によるエネルギー吸収との相乗効果により、効率的なエネルギー吸収が実現されるほかに、シート状ゴムが経年変化によって劣化した場合でも、金属製のプラグは単独でもエネルギー吸収できる、信頼性の高いフェイルセーフ構造となっている。
【0012】
とくに、前記柱または横架材の少なくとも一方に固定具にて固定される部分(第2の部分)を有する第2の高剛性部材を、第1の高剛性部材及びシート状ゴムの両側に配置し、それらを挟み込むようにしているので、第1の高剛性部材及びそれに固定される筋交い材に座屈現象が起こりにくくなる。
【0013】
請求項2に記載のように、前記第2の高剛性部材は、前記横架材から上方に突出するアンカーボルトに連結されていることが望ましい。
【0014】
このようにすれば、第2の高剛性部材がアンカーボルトに連結されることで、第2の高剛性部材などを含む制振構造物が横架材から浮き上がったり、沈み込んだりするのが抑制される。これによって、上記制振構造物のガタが低減され、エネルギー吸収性能が効率よく発揮される。
【0015】
つまり、2つの第2の高剛性部材の間に、第1の高剛性部材及び2つのシート状ゴムの厚さに相当するスペースが形成されるので、そのスペースを利用して、耐力壁の転倒を防止するアンカーボルトを通し、筋交い材端部の第2の高剛性部材をアンカーボルトに連結することにより、筋交い材端部の、第2の高剛性部材などを含む制振構造物が浮き上がったり、沈み込んだりするのを防止することができる。ホールドダウン金物の機能も果たすことになるので、ホールドダウン金物が必要なくなる。
【0016】
請求項3に記載のように、前記第2の高剛性部材は、前記アンカーボルトに適用される上側及び下側ナット部材によって挟持されることで、前記アンカーボルトに連結されていることが望ましい。
【0017】
このようにすれば、アンカーボルトに適用される上側及び下側ナット部材によって第2の高剛性部材を挟持するという簡単な構造で、アンカーボルトに強固に連結することができる。
【0018】
請求項4に記載のように、前記下側のナット部材は、それの上面が前記アンカーボルトが突出する前記横架材にそれらの表面と面一になるように、あるいは前記ナット部材と第2の高剛性部材との間に配置されるワッシャーが前記表面と面一になるように設置されている構成とすることができる。
【0019】
このようにすれば、第2の高剛性部材などを含む制振構造物が横架材に沈み込むのを防止する上で有利となる。
【0020】
請求項5に記載のように、前記上側のナット部材は、前記第2の高剛性部材の上端部に嵌合する溝部を有する上側ワッシャーを介して設けられている構成とすることができる。
【0021】
このようにすれば、第2の高剛性部材の間隔を維持して、第2の高剛性部材などを含む制振構造物が横架材から浮き上がるのを防止する上で有利となる。
【0022】
請求項6に記載のように、前記金属製のプラグは、交換可能に設けられていることが望ましい。
【0023】
このようにすれば、必要に応じて金属製のプラグを交換することで、第1及び第2の高剛性部材、金属製のプラグなどからなる制振構造物のエネルギー吸収性能を長期間にわたって安定して維持させることができる。
【0024】
請求項7に記載のように、前記金属製のプラグは、両端部に雄ねじ部を有し、この雄ねじ部が、前記第2の高剛性部材の外側面より外側方に突出し、その突出部分にナット部材が螺合されていることが望ましい。
【0025】
このようにすれば、プラグはナット部材との螺合により固定され、シート状ゴムがせん断変形する際に抜け出してしまうのが確実に防止される。ナット部材を螺合する雄ねじ部が,第2の高剛性部材の外側面より突出しているので、雄ねじ部に対するナット部材の取り付け、取り外しが簡単であり、プラグの交換作業が容易である。
【0026】
また、請求項8に記載のように、前記金属製のプラグは、両端部が、前記第2の高剛性部材の外側面より外側方に突出し,その突出部分にキャップ部材が嵌合されているようにすることも可能である。
【0027】
この場合も、プラグはキャップ部材との嵌合により固定され、シート状ゴムがせん断変形する際に抜け出してしまうのが防止される。キャップ部材を外すことにより容易に交換できる。
【0028】
請求項9に記載のように、前記金属製のプラグは、高剛性の延伸性プラグであり、前記シート状ゴムは、天然ゴムとすることも可能である。
【0029】
このようにすれば、制振のためのエネルギー吸収により延伸性プラグの形状が変形してエネルギー吸収すると同時に、天然ゴムの弾性がプラグに逆方向に作用して、プラグの形状が元の状態に復元される。
【0030】
請求項10に記載のように、前記金属製のプラグは、高剛性の延伸性プラグであり、前記シート状ゴムは、高減衰ゴムとすることも可能である。
【0031】
このようにすれば、制振のためのエネルギー吸収により延伸性プラグの形状が変形してエネルギー吸収すると同時に、高減衰ゴムの変形による減衰効果が加算される。
【0032】
請求項11に記載のように、前記金属製のプラグは、V型あるいはU型溝が形成され設定値を超える荷重の作用により破断するプラグであり、前記シート状ゴムは、高減衰ゴムとすることができる。
【0033】
このようにすれば、プラグに設定値を超える荷重が作用するような地震などの際に、プラグが破断した後、減衰能力が高い高減衰ゴムにより減衰効果が発揮される。つまり、プラグが高減衰ゴムによる減衰開始のトリガーとして機能する。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、エネルギーを吸収するシート状ゴムと金属製のプラグとをそなえるようにしているので、前記シート状ゴムによる減衰機能と前記プラグによる減衰機能とをうまく区組み合わせて、筋交い材を通じて入力される振動縁ネルギーについて、効率のよいエネルギー吸収を実現することができる。筋交い材の端部を、平行に配置される2つの高剛性部材を利用して、筋交い材の端部を両側から支えるようにしているので、で筋交い材の湾曲を防止する上で有利な構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る筋交いダンパー構造の一実施の形態を示す概略正面図である。
【図2】図1のA−A線概略断面図である。
【図3】図1のB−B線概略断面図である。
【図4】別の実施の形態をしめし、図2と同様の図である。
【図5】さらに別の実施の形態を示すもので、(a)(b)はそれぞれ図1及び図2と同様の図である。
【図6】(a)(b)はそれぞれ本発明に係る筋交いダンパー構造の取付位置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0037】
本発明に係る筋交いダンパー構造は、例えば図1〜図3に示すように、鉛直方向に延びる柱1と水平方向に延びる土台2(または横架材)とが突き合わされて接合され、その接合部に柱1及び土台2(横架材)に傾斜する方向に延びる筋交い材3が配置されている木造建築物若しくは鉄骨構造物の接合部に適用される。
【0038】
筋交い材3の下端部に、筋交い材3とほぼ同じ幅を有する高剛性の中板11(板状の第1の高剛性部材)の上端部が複数の固定具12にて固定されている。この中板11の下端部の表裏面にそれぞれシート状ゴム13,14の一面側(内面側)が接着剤を用いる接着あるいは加硫接着されている。そして、各シート状ゴム13,14の他面側(外面側)それぞれに、筋交い端部となる高剛性の側板15,16(第2の高剛性部材)が接着されている。
【0039】
この側板15,16は、シート状ゴム13,14の他面側に一面側が接着される矩形板形状の第1の部分15A,16Aと、柱1及び土台2(または横架材)に複数の固定具17にて固定される第2及び第3の部分15B,16B,15C,16Cとを有する。なお、第3の部分15C,16Cは、柱1側の部位(後述のアンカーボルト21が配置されている部位)を除く部分に形成されている(図3参照)。
【0040】
中板11の下端部に対応する側板15,16の第1の部分15A,16Aは、シート状ゴム13,14を介して中板11を挟みそれらを積層してなる、5層からなる積層構造物を形成しており、この積層構造物を金属製のプラグ18が貫通して設けられている。これにより、前記積層構造物は、シート状ゴム13,14と金属製のプラグ18とを併用した筋交いダンパー構造物M1として機能するようになっている。
【0041】
ここで、エネルギー吸収は、目的に応じて、(a)金属製のプラグ18の変形とゴム13,14の変形とによって行うもののほか、(b)金属製のプラグ18が変形することで主として吸収し、そのエネルギー吸収終了後、ゴム13,14がプラグ18の残留変形をなくして元の状態に復元させるようにしてもよい。なお、貫通して設けられるプラグ18の本数は、シート状ゴム13,14と中板11あるいは側板15,16との接着面積と、(単数若しくは複数の)プラグ18の総断面積との関係を考慮して決定され、(b)の場合には、プラグ18の残留変形をなくして元の状態に復元させうる弾性力がシート状ゴム12,13に求められる。つまり、プラグの本数が少なくなり総断面積が小さくなると、ゴム12,13の弾性により元の状態に戻りやすくなるが、その分各プラグによるエネルギー吸収能力が小さくなるので、それらのバランスで決定される。
【0042】
シート状ゴムとしては、エネルギー吸収をゴムに期待する場合には高減衰ゴムが用いられ、エネルギー吸収はプラグに期待しゴムにはプラグの形状を元に戻すことを期待する場合には天然ゴムが用いられる。プラグ18に用いられる金属材料としては、プラグ18にトリガーとしての機能を期待する場合には鋼材、ステンレス等の金属材料が、エネルギー吸収をプラグ18に期待する場合には、アルミニウム、錫、鉛などの金属材料が用いられる。中板11や側板15,16には、鋼材、ステンレスなどの金属材料が用いられる。
【0043】
また、中板11の下端部は、土台2に平行な下縁11aと、柱1に平行な側縁11bとを有するように切断することで、中板11と側板15,16の第1の部分15A,16Aとの重複部分の面積が大きくなるようにされ、それらの間に接着により固定されるシート状ゴム13,14との接着面積を大きくなるようにして、減衰性能を確保する上で有利な積層構造としている。また、中板11の下縁11aと側縁11bは、土台2及び柱1との間に隙間を有し、シート状ゴム12,13のせん断変形しても、中板11と土台2、柱1とが緩衝しないようになっている。
【0044】
さらに、側板15,16(第2の高剛性部材)の間には、柱1付近において、土台2(横架材)から上方に柱1と平行に突出するアンカーボルト21が配置されている。つまり、アンカーボルト21の両側に側板15,16(第2の高剛性部材)が緩衝することなく左右対称に配置されている。このアンカーボルト21に対し、側板15,16の上下部が連結され、これにより中板11,シート状ゴム13,14及び側板15,16などを含む積層構造物(制振構造物)が土台2から浮き上がったり、土台2内に沈み込んだりするのを抑制するのに有利な構造となっている。
【0045】
具体的には、側板15,16は、アンカーボルト21に適用(螺合)される上側及び下側ナット部材22,23によって、上側及び下側ワッシャー24,25を介して挟持されることで、アンカーボルト21に上下方向の動きを規制するように連結されている。
【0046】
上側ワッシャー24には、側板15,16の第1の部分15A,16Aの上端部に嵌脱可能に嵌合する溝部24a,24aが形成されている.一方、下側ワッシャー25は、それの上面がアンカーボルト21が突出する土台2(若しくは横架材)にそれの表面と面一になるように設定されるようになっている。側板15,16の間に嵌合する凸部25aを用いることも可能である。なお、下側ワッシャー25は、下側ナット部材23と一体に形成されている構造とすることも可能である。
【0047】
上記構造によれば、地震などの震動により、中板11と側板15,16との間に相対変位が生ずると、それらの間に接着されているシート状ゴム13,14およびそれらの間に跨って設けられている金属製のプラグ18に変形が生じ、それらが変形することで振動エネルギーが吸収される。このプラグ18の変形(せん断変形)の際に、プラグ18が抜け出さないようにゴム13,14によってしっかりと支持される。
【0048】
ゴム13,14及びプラグ18というエネルギー吸収態様が異なる2つの構造要素を利用して、ゴム13,14の変形によるエネルギー吸収性能とプラグ18の変形によるエネルギー吸収性能とを組み合わせて、効果的なエネルギー吸収が実現される。
【0049】
特に、側板15,16がアンカーボルト21に連結されることで、側板15,16などからな制振構造物が土台2から浮き上がったり、土台2に沈み込んだりするのが抑制される。これによって、上記制振構造物のガタが低減され、上記制振構造物のエネルギー吸収性能が効率よく発揮される。アンカーボルト21に適用される上側及び下側ナット部材22,23によって挟持されるという簡単な構造で、アンカーボルト21に両側板15,16を連結することができる。また、ホールドダウン金物の機能も果たすことになるので、ホールドダウン金物が必要なくなる。
【0050】
それに加えて、中板11の端部を、2つの側板15,16を平行に対称に配置して両側から挟み込んで支える構造とすることで、中板11及びそれに連結される筋交い材3の座屈現象(湾曲変形)を防止する有利な構造となっている。とくに、中板11や側板15,16の、筋交い方向の長さや幅を調整することで、筋交い材3の座屈を防止する最適構造とすることができる。
【0051】
前記実施の形態では、プラグ18を、積層構造物に対し嵌挿して、抜け出さないように固定しているだけであるが、確実に抜け出さないように固定すると共に交換可能となるように構成することも可能である。このようにすれば、変形の繰り返しによりエネルギー吸収性能が低下した金属製のプラグを必要に応じて交換することで、中板11、シート状ゴム13,14、側板15,16およびプラグ18などからなる制振構造物のエネルギー吸収性能を効率よく維持・発揮させることができる。この場合には、前述した(a)の場合のように、エネルギー吸収後に、ゴム13,14によってプラグ18の残留変形をなくして元の状態に戻す構成は、プラグの交換を容易にする。
【0052】
具体的には、図4に示すように、金属製のプラグ18Aは、両端部に雄ねじ部18Aaを有し、この雄ねじ部18Aaが、側板15,16(第1の部分15A,16A)の貫通孔を通じて外側面より外側方に突出し,その突出部分(雄ねじ部18Aa)にナット部材31が螺合されている構成とすればよい。これにより、プラグ18Aはナット部材31との螺合により固定され、シート状ゴム13,14がせん断変形する際に抜けるのが確実に防止される。ナット部材31を外すことにより容易に交換できる。
【0053】
また、具体的に図示していないが、金属製のプラグは、両端部が側板15,16の外側面より外側方に突出し、その突出部分にキャップ部材が嵌合されているようにすることも可能である。
【0054】
前述した実施の形態のほか、本発明は次のように変更して実施することができる。
【0055】
(i)前記実施の形態では、金属製のプラグ18によってエネルギーの吸収を行うようにしているが、金属製のプラグ18に予めV型あるいはU型溝を形成しておき、設定値を超える荷重が作用したときに金属製のプラグ18が前記溝の部位で折れ、ゴム13,14(高減衰ゴム)の変形で主としてエネルギー吸収するようにしてもよい。つまり、金属製のプラグの破断によって、高減衰ゴムによるエネルギー吸収を開始させるようにすることもできる。
【0056】
(ii)前記実施の形態では、側板15,16を、柱1および土台2(横架材)の両方に固定しているが、いずれかに一方にのみ固定具17にて固定するようにしてもよいのはもちろんである。
【0057】
(ii)前記実施の形態では、アンカーボルト21に側板15,16を連結するようにしているが、必ずしも連結する必要はない。図5(a)(b)に示すように、柱1の近傍にアンカーボルト21が配置されていない構造の場合にも同様に適用することができる。
【0058】
(iii)前記実施の形態では、具体的に記載していないが、筋交い材3の幅が細い場合には、筋交い材3の面外方向の変形(座屈)を抑制して、前述した筋交いダンパー構造によるダンパー効果を有効に発揮できるように、筋交い材3の面外方向の変形(座屈)を防止する構造を採用することができるのはもちろんである。
【0059】
(iv)前記実施の形態では、図6(a)に示すように、筋交い材の下端部に筋交いダンパー構造物M1を設けたものについて説明したが、図6(b)に示すように、筋交い材の上下端部の両方に筋交いダンパー構造物M1,M2を設けてもよいのはもちろんである。この場合は、上端部に設ける筋交い構造物M1は、下端部に設ける筋交い構造物M2とは配置が逆になる。
【符号の説明】
【0060】
1 柱
2 横架材
3 筋交い材
11 中板(第1の高剛性部材)
12 固定具
13,14 シート状ゴム
15,16 側板(第2の高剛性部材)
17 固定具
18,18A 金属製のプラグ
18Aa 雄ねじ部
21 アンカーボルト
22,23 ナット部材
24,25 ワッシャ
24a 溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延びる柱と水平方向に延びる横架材とが突き合わされて接合され、その接合部に前記柱及び横架材に傾斜する方向に延びる筋交い材が配置されている筋交いダンパー構造であって、
前記筋交い材の上下端部あるいは下端部に板状の第1の高剛性部材の上端部が固定具にて固定され、
前記第1の高剛性部材の下端部の表裏面にそれぞれシート状ゴムの一面側が接着され、
前記各シート状ゴムの他面側それぞれに第2の高剛性部材の第1の部分の一面側が接着され、前記第2の高剛性部材の第2の部分が前記柱または横架材の少なくとも一方に固定具にて固定され、
前記第2の高剛性部材、前記シート状ゴム及び前記第1の高剛性部材を積層してなる積層構造を貫通する金属製のプラグが設けられていることを特徴とする筋交いダンパー構造。
【請求項2】
前記第2の高剛性部材は、前記横架材から上方に突出するアンカーボルトに連結されていることを特徴とする請求項1に記載の筋交いダンパー構造。
【請求項3】
前記第2の高剛性部材は、前記アンカーボルトに適用される上側及び下側ナット部材によって挟持されることで、前記アンカーボルトに連結されていることを特徴とする請求項2に記載の筋交いダンパー構造。
【請求項4】
前記下側のナット部材は、それの上面が前記アンカーボルトが突出する前記横架材にそれらの表面と面一になるように、あるいは前記ナット部材と第2の高剛性部材との間に配置されるワッシャーが前記表面と面一になるように設置されていることを特徴とする請求項3に記載の筋交いダンパー構造。
【請求項5】
前記上側のナット部材は、前記第2の高剛性部材の上端部に嵌合する溝部を有する上側ワッシャーを介して設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載の筋交いダンパー構造。
【請求項6】
前記金属製のプラグは、交換可能に設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の筋交いダンパー構造。
【請求項7】
前記金属製のプラグは、両端部に雄ねじ部を有し、
この雄ねじ部が、前記第2の高剛性部材の外側面より外側方に突出し,その突出部分にナット部材が螺合されていることを特徴とする請求項6に記載の筋交いダンパー構造。
【請求項8】
前記金属製のプラグは、両端部が、前記第2の高剛性部材の外側面より外側方に突出し,その突出部分にキャップ部材が嵌合されていることを特徴とする請求項6に記載の筋交いダンパー構造。
【請求項9】
前記金属製のプラグは、高剛性の延伸性プラグであり、
前記シート状ゴムは、天然ゴムであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の筋交いダンパー構造。
【請求項10】
前記金属製のプラグは、高剛性の延伸性プラグであり、
前記シート状ゴムは、高減衰ゴムであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の筋交いダンパー構造。
【請求項11】
前記金属製のプラグは、V型あるいはU型溝が形成されたプラグであり、
前記シート状ゴムは、高減衰ゴムであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の筋交いダンパー構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−82611(P2012−82611A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229263(P2010−229263)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人 科学技術振興機構 研究成果最適展開支援事業(育成研究)「構造物の耐震性能を高機能化する次世代パッシブトリガーダンパーの開発」 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501267357)独立行政法人建築研究所 (28)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】