説明

筋力センサ

【課題】雑音の影響を受けず、安定した出力電圧が得られ、且つ筋力の変化に線形に対応した信号が得られる筋力センサを提供すること。
【解決手段】筋力センサ10は、センサ部12と静電容量−電圧変換回路14と低域ろ波回路及び増幅回路16とを有する。センサ部12は、皮膚の表面に貼付される一対のセンサ電極12a、12bと、それらの中間に挿入される補助電極12cとから成る。これらの構成によって、筋力の変化による皮膚内のイオン組成の変化を、静電容量の変化として読み取り、この静電容量の変化を、静電容量−電圧変換回路14により電気信号に変換している。ここで、補助電極12cによって、検出される静電容量の変化の感度を向上している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋力センサ、特に人体の筋肉から発生する微弱な筋電信号を検出するための筋力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
筋力センサとは、人が体を動かすときに筋肉から発生する微弱な筋電信号を、筋肉の上の皮膚表面から目に見える形にするためのセンサである。その筋電信号は、筋肉の力の大きさに比例して変化する。
【0003】
上述の筋力センサは、例えばウェアラブルロボットに応用することができる。人間がウェアラブルロボットを装着することにより、一人では大変な作業を容易に行うことが可能になり、高齢化する看護者の負担軽減や介護の人数を削減することができることとなる。このウェアラブルロボットにより、高齢者や身体障害者の日常生活支援、社会参加支援等を行う上で、必要不可欠な基礎デバイスが筋力センサである。即ち、筋力センサにより人体の筋肉の状態を把握し、得られた筋電信号に基づいてウェアラブルロボットに必要な情報を生成するわけである。
【0004】
図7は、従来から多用されている筋力センサの針電極を示す。これらは、いわゆる筋電図記録用の電極である。図に示したように、一芯同心電極(a)、二芯同心電極(b)、単極針電極(c)がある。一芯同心電極82には1本の封入針84が、二芯同心針電極86には2本の封入針88、90が封入されている。単極針電極92は、ステンレス針94にテフロン(登録商標)をコーティングしたものである。これらの針電極82、86、92を皮膚に刺し、筋肉の微弱な筋電信号を得ていた。なお、筋電信号は微弱なため、必要な程度にまで増幅し、ノイズを除去することが普通に行われる。
【0005】
ここで、筋電信号を用いて制御対象を制御している例として、特許文献1を挙げることができる。この特許文献1によれば、筋電信号は、信号検出部と信号増幅部とから成る筋電信号検出装置により検出・増幅される。この増幅された筋電信号に基づいて、動作検出部は指の動作を検出する一方、力検出部は手を握る力を検出する。制御部は、検出された指の動作と手を握る力とに基づいて認識した命令に従って、制御対象を制御する。このようにして、筋電信号に基づいて体のある部位の動作と他の部位における筋肉の張力を検出することによって、指の動作と手を握る力との組合せに複雑な命令を割り当てて、キーボード操作を熟知していないユーザであってもキーボードに因らずに手のジェスチャのみによって制御対象を簡単に制御できることとなる。
【0006】
また、特許文献2には、人体に装着可能な情報伝送装置から情報処理装置へデータを伝送する情報伝送システムにおいて、情報伝送装置を装着したセンサにより、人体周辺の静電容量変化や筋肉の運動又は振動の変化が検出された場合に、情報伝送装置から情報処理装置に対して通信開始信号を出力する構成が開示されている。
【0007】
即ち、特許文献2のセンサは、情報伝送装置が装着された人体周辺の静電容量の変化を検出し、所定の間隔をおいて人体に電気的に接触する一対の電極と、この一対の電極によって得られる静電容量の変化に対応して検出信号を生じる検出回路とを含んでいる。
【0008】
【特許文献1】特開平7−248873号公報
【特許文献2】特開2005−192699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の針電極を用いた筋力センサにおいては、針電極を皮膚に刺さねばならないため、介護を支援する人に少なからず負担と不快感を与えることになり、使用するのに抵抗感が生じる。また、針電極により微弱な電圧を検出する方法では、原理的に雑音の影響を受け易く、安定した出力電圧を得ることは到底難しい。
【0010】
特許文献1の筋電信号検出装置の信号検出部は、皮膚表面電極によって微弱な筋電信号を検出するものである。従って、上述と同様に、雑音の影響を受け易く、安定した出力電圧を得ることは到底難しい。
【0011】
特許文献2の人体周辺の静電容量変化や筋肉の運動又は振動の変化を検出するセンサは、一対の金属電極が所定の間隔をおいて人体に接触する面に設けられており、人体を利用して静電容量のコンデンサが構成され、人体が別の物体に触れたときの静電容量の変化を検出している。即ち、特許文献2は、電極を用い静電容量の変化を検出しているが、この場合は筋力の変化に対応したものではなく、オン・オフのデジタル制御のみを可能とする回路を構成している。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、雑音の影響を受けず、安定した出力電圧が得られ、且つ筋力の変化に線形に対応した信号が得られる筋力センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目定を達成するため、発明者らは鋭意研究を重ね、筋力が変化することで、皮膚内のイオン組成が変化し、このイオン組成の変化に伴う誘電率の変化を検出することで、筋力との関係が明らかになると考えた。
【0014】
即ち、上記目的を達成するため請求項1に記載の筋力センサは、体表面に貼り付けられる一対の電極と、該一対の電極間の誘電率の変化を検出する検出回路と、を有し、前記体表面下の筋力の変化を、前記検出回路で検出される誘電率の変化として測定することを特徴とする。
【0015】
このように、筋力の変化が誘電率の変化として測定できるので、筋力の変化に対応した信号が、雑音の影響を受けず、且つ安定して得ることが可能になった。なお、検出回路は、誘電率の変化を測定できるものであれば、内部の回路構成は問わない。
【0016】
請求項2に記載のように、前記誘電率の変化は、静電容量の変化として検出されるので、検出するための回路を容易に構成することが可能であり、且つ雑音の影響を低く抑えることができる。
【0017】
請求項3に記載のように、前記検出回路は静電容量−電圧変換回路であり、前記静電容量の変化を電圧の変化に変換して筋力を測定するので、筋電信号がより扱い易い形で得られることとなる。
【0018】
請求項4に記載のように、前記静電容量−変換回路は、リング検波回路により構成されているので、簡単な差動増幅回路で、且つ高精度に筋電信号を得ることが可能である。
【0019】
請求項5に記載のように、前記一対の電極の間に補助電極を挿入したので、一対の電極間の静電容量の値を下げることが可能となった。この場合、筋力の変化による静電容量の変化量は極端に減じられることはないので、検出感度を向上することができる。即ち、一対の電極間の静電容量はC±ΔCで表されるが、静電容量の変化ΔCを犠牲にすることなく、静電容量Cが減じられるので、静電容量の変化量ΔCが相対的に大きくなり、検出感度が向上する。なお、補助電極の大きさや数は、センサ電極を貼り付ける部位、センサ電極の大きさ等によって、適宜決定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の筋力センサは、体表面に貼り付けられる一対の電極と、該一対の電極間の誘電率の変化を検出する検出回路と、を有し、前記体表面下の筋力の変化を、前記検出回路で検出される誘電率の変化として測定することを特徴とするので、筋力の変化を誘電率の変化として測定できることとなり、筋力の変化に対応した信号を、雑音の影響を受けず、且つ安定して得ることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の筋力センサの概略構成図である。筋力センサ10は、センサ部12、静電容量−電圧変換回路14、低域ろ波回路及び増幅回路16とから構成される。
【0022】
センサ部12は、一対の電極12a、12bの間に補助電極12cを挿入して構成されている。一対の電極12a、12bの大きさは直径10mmの円形であり、電極間間隔は略20mmとした。本実施の形態では、一対の電極12a、12bを上腕二頭筋の部位に貼り付けた。一対の電極12a、12bの略中央に、一つの補助電極12cが挿入されている。補助電極12cの形状は、ここでは長さ5mm、幅5mmの矩形状とした。しかし、補助電極12cの大きさは、一対の電極12a、12bを貼る部位によって、またその一対の電極12a、12bの大きさによって、適宜決めることができる。また、補助電極12cの数についても、以下に述べる検出感度との関係で、適宜選択することができる。
【0023】
この補助電極12cにより、一対の電極間12a、12bで決まる静電容量Cを小さくすることが可能である。なお、静電容量の変化ΔCは、同じ割合では減じないことを実験で確認しているので、結果として検出感度を向上することが可能となる。即ち、物理的には、この補助電極12cを挿入することで、コンデンサの直列接続と同じ効果を生み出している。なお、各電極の皮膚への貼付に際しては、伝導性を良くするために電極上にゲルを塗布している。
【0024】
一対の電極を人体の特定の部位に貼ると、電極間で筋肉の状態、即ち皮膚内のイオン組成の変化に応じて静電容量が決まる。ここで、筋肉を動かすと、上述の皮膚内のイオン組成が変化して誘電率が変化するので、検出される静電容量が変化することとなる。即ち、本発明の筋力センサは、皮膚内のイオン組成の変化を電極間の誘電率の変化、特に静電容量の変化として読み取ることに特徴がある。
【0025】
図2は、静電容量の変化を電圧に変換するための検出回路である。一種のリング検波回路を構成している。図2内の水晶発振器22からの信号は、可変抵抗23により出力電圧が調整され、検波回路に数MHzの正弦波電圧が供給される。コンデンサ24、26は、ブリッジ接続のコンデンサで、温度係数の小さい等しい値のフィルムコンデンサを用いている。
【0026】
ダイオード28、30、32、34は、容量及び順方向抵抗、温度係数が等しいシリコンダイオードである。コンデンサ36は、被測定コンデンサで、これがセンサ部12に対応する。コンデンサ38は、ブリッジ回路の平衡用コンデンサで、被測定コンデンサ36の容量が変化しても、回路が平衡するように可変できる範囲の容量を有している。
【0027】
変換回路に高周波電圧が供給されることにより、コンデンサのインピーダンスZは、Z=1/(ωC)の関係から、角周波数ω(=2πf、f:周波数)の変化及び容量Cの変化により変化する。ここで、周波数fは一定であるので、容量Cの変化によりインピーダンスZが変化することとなる。容量Cの変化は、前述のように筋力の変化に対応している。
【0028】
図3は、低域ろ波回路と増幅回路を示す。図2の静電容量−電圧変換回路14からの出力電圧は、発振周波数の高周波を含んでいるので、これをコンデンサと抵抗で構成した定K形低域ろ波回路で除去している。このとき、低域ろ波回路の特性により、センサ部12の応答周波数が決定される。
【0029】
低域ろ波回路からの出力電圧は、数mVと微弱である。静電容量の変化をメータ指示或いは記録するためには、電圧増幅しなければならない。増幅器としては、一般的なOPアンプ70を用いることができる。OPアンプ70は、2つの入力電圧の差を増幅するので、図2に示す静電容量−電圧変換回路からの出力E1、E2を、図3の入力端子72、76に入力すると、増幅回路からの出力電圧E0は、静電容量の変化ΔCに比例した電圧が得られることとなる。
【0030】
図4は、本発明の筋力センサの測定例であり、筋力と出力電圧の関係を示す。横軸は時間(ms)であり、縦軸は電圧(mV)である。手を握り、力を入れて腕を曲げたときの検出波形を示す。なお、この波形はオシロスコープ18で得られた波形である。力を入れずに手を伸ばしているときの出力電圧は約150mVで、安定した状態であった。力を入れて、腕を曲げていくと徐々に電圧が上がっていき、腕を90°曲げたときには出力電圧は約190mVになった。その後に、腕を真っ直ぐな状態に戻すと、再び初期のときと同じ電圧に戻った。
【0031】
図5は、本発明の筋力センサの測定例であり、腕の角度と出力電圧の関係を示す。実線は力を入れていないとき、破線は力を入れているときについて示す。力の有無に関わらず、腕を曲げると、どちらも曲げる角度に比例して出力電圧が上昇していく傾向を示した。但し、力を入れて曲げた時の方が変化は大きく、約15〜20mV高い結果となった。
【0032】
図6は、本発明の筋力センサの測定例であり、重り負荷と出力電圧の関係を示す。腕は曲げずに伸ばしたまま、手のひらに重りを乗せていったときの電圧の変化を示したものである。負荷である重りを少しずつ増やすことに比例して、電圧は高くなっている。8kgまで載せたとき、出力電圧は約35mVの変化を示した。この結果は、図5とは違い腕は曲げていないので、重りを持ったときの筋力により変化したものと考えられる。また、重りが2倍になると電圧も約2倍になり、線形に変化することが解った。
【0033】
本発明の筋力センサにより、筋力の変化を電圧に変換して測定することが可能になり、ウェアラブルロボットの基礎的なデータを得ることができた。また、電極を貼り付けるタイプなので、人への負担を減らすことが可能となった。
【0034】
なお、本発明の筋力センサは、実施の形態に限定されるものではなく、請求項に記載した範囲内で種々変形することが可能である。例えば、一対の電極形状を円形から略楕円形や多角形と変えること、その大きさを変えること等が可能である。また、低域ろ波回路や増幅回路は、必要に応じてその特性を変えても良い。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の筋力センサは、筋力の変化を静電容量の変化に変え、更に静電容量の変化を電圧の変化に変えている。本発明の筋力の変化を静電容量の変化に変えて測定しているものは、これまで見あたらず、今後この事象を利用した数多くの応用が考えられる。
【0036】
ウェアラブルロボットへの応用は、前述の通りであり、高齢化する看護者の負担軽減や介護の人数を削減できれは、社会福祉に対する貢献度は大である。その他にも、例えばスポーツ選手の筋肉トレーニング中における筋肉疲労の調査、病院患者の手術中の筋肉の状態の監視、各種パイロットの筋肉疲労状況の調査等、非常に多くの応用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の筋力センサの概略構成図である。
【図2】図1の筋力センサの静電容量−電圧変換回路である。
【図3】図1の低域ろ波回路及び増幅回路である。
【図4】本発明の筋力センサの測定例であり、力を加えたときの出力電圧の変化を示す。
【図5】本発明の筋力センサの測定例であり、腕の角度と出力電圧の関係を示す。
【図6】本発明の筋力センサの測定例であり、重り負荷と出力電圧の関係を示す。
【図7】従来の筋力センサに用いられる針電極を示す。
【符号の説明】
【0038】
10 筋力センサ
12 センサ部
12a センサ電極
12b センサ電極
12c 補助電極
14 静電容量−電圧変換回路
16 低域ろ波回路及び増幅回路
18 オシロスコープ
20 体表面
22 水晶発振器
23 可変抵抗
24、26 コンデンサ
28、30、32、34 ダイオード
36 被測定コンデンサ
38 ブリッジ回路平衡用コンデンサ
40 接地端子
42、44 出力端子
46、48、54、56 コンデンサ
50、52、58、60、62、64 抵抗
66、68 帰還抵抗
70 OPアンプ
72、76 入力端子
78 出力端子
74、80 接地端子
82 一芯同心針電極
84、88、90 封入針
86 二芯同心針電極
92 単極針電極
94 ステンレス針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体表面に貼り付けられる一対の電極と、
該一対の電極間の誘電率の変化を検出する検出回路と、を有し、
前記体表面下の筋力の変化を、前記検出回路で検出される誘電率の変化として測定することを特徴とする筋力センサ。
【請求項2】
前記誘電率の変化は、静電容量の変化として検出されることを特徴とする請求項1に記載の筋力センサ。
【請求項3】
前記検出回路は静電容量−電圧変換回路であり、前記静電容量の変化を電圧の変化に変換して筋力を測定することを特徴とする請求項2に記載の筋力センサ。
【請求項4】
前記静電容量−変換回路は、リング検波回路により構成されていることを特徴とする請求項3に記載の筋力センサ。
【請求項5】
前記一対の電極の間に補助電極を挿入したことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の筋力センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−148998(P2008−148998A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341271(P2006−341271)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年9月14日 社団法人 日本ロボット学会発行の「第24回日本ロボット学会学術講演会講演概要集」に発表
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(591085709)
【Fターム(参考)】