説明

筋力補助装置

【課題】筋負担を装着者の姿勢や姿勢変化の如何によらずに適切に軽減し、特に、農作業等における屈んだ姿勢や中腰での作業の軽労化を図ること。
【解決手段】長手方向の一端部側の部位を人の肩部に装着され、長手方向の他端部側の部位を前記人の下半身に装着されて前記人の背部に沿って延在する弾性体41と、前記人の上半身の曲げ状態を検出する曲げセンサ21と、弾性体41を当該弾性体41の長手方向に伸長させる電動式ワイヤ巻取器14と、曲げセンサ21の検出結果に応じて電動式ワイヤ巻取器14による弾性体41の伸長量を制御する制御ユニット30とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筋力補助装置に関し、特に、各種作業の姿勢維持の疲労を軽減する筋力補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前屈姿勢での作業において、腰部に作用する筋負担を軽減するための補助器具として、長手方向の一端部側の部位を人の肩部に装着され、長手方向の他端部側の部位を前記人の下半身(腰部)に装着されて前記人の背部に沿って延在する伸張性(弾性)を有するベルトによる腰部負担軽減具がある(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
この腰部負担軽減具は、背部に沿って配置されているベルトが、直立した姿勢(起立姿勢)より前屈動作することによって延び、この延びによりベルトに生じる張力を利用して腰背部の筋張力を補い、前屈姿勢維持の腰部の筋負担を軽減する。
【0004】
また、前屈を伴う動作の筋力補助を行う補助器具として、上部を利用者の肩部に固定され、下部を利用者の股間部に固定された伸縮可能な背中パットの上下距離をアクチュエータによって伸縮(増減)する筋力補助装置がある(例えば、特許文献3)。
【0005】
この筋力補助装置は、前屈角認識手段によって利用者の前屈角を認識し、認識した前屈角の変化より利用者の動作を推定し、たとえば、利用者が床上の重量物を持ち上げる作業においては、前屈動作時、地切り動作時に、アクチュエータの伸縮力をそれら動作(前屈動作、地切り動作)と同方向のアシスト力として利用者に与え、利用者の前屈動作、地切り動作に対して筋力補助を行う。
【特許文献1】特開2003−153928号公報
【特許文献2】特開2005−192764号公報
【特許文献3】特開2005−339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来の腰部負担軽減具は、利用者が起立姿勢より前屈することによって生じるパッシブな補助力(張力)によるものであるから、装着者に無理な力が加わることがなく、安全性に優れているが、しかし、ベルトで得られる補助力(張力)は、装着者(利用者)の姿勢により決まり、補助力を調整するができない。
【0007】
このため、従来の腰部負担軽減具では、装着者の姿勢や姿勢の変化の如何によっては、前屈姿勢維持の腰部の筋負担を適切に軽減できないことがある。
【0008】
また、前屈姿勢維持における腰部の筋負担を十分に軽減すべく、ベルトが大きい張力を生じる硬い弾性体製であると、前屈動作時にベルトを伸ばすために大きい力が必要になり、前屈動作の筋負担が大きくなり、前屈動作に支障を与えることになる。
【0009】
前述した従来の筋力補助装置は、前屈動作時や地切り動作時に、アクチュエータの伸縮力をそれら動作と同方向のアシスト力として利用者に与え、利用者の動作に対して筋力補助を行う糸操り人形的動作によるものであり、静止した前屈姿勢時に、前屈姿勢に応じた弾力的な補助力を、その姿勢に応じてパッシブに、利用者に継続的に与えるものでない。
【0010】
このため、前屈姿勢での作業、つまり、前屈姿勢維持の腰部の筋負担を、アクチュエータを駆動することなく、軽減することはできない。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、筋負担を装着者の姿勢や姿勢変化の如何によらずに適切に軽減し、特に、農作業等における屈んだ姿勢や中腰での作業の軽労化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明による筋力補助装置は、一端部側の部位が人の第1の部位に装着され、長手方向の他端部側の部位が前記人の第2の部位に装着される弾性体と、前記弾性体が装着される前記人の部位の状態を検出するセンサと、前記弾性体を当該弾性体の長手方向に伸長させるアクチュエータと、前記センサの検出結果に応じて前記アクチュエータによる前記弾性体の伸長量を制御する制御手段とを有する。
【0013】
この発明による筋力補助装置は、長手方向の一端部側の部位が人の肩部に装着され、長手方向の他端部側の部位が前記人の下半身に装着されて前記人の背部に沿って延在する弾性体と、前記人の上半身の状態を検出するセンサと、前記弾性体を当該弾性体の長手方向に伸長させるアクチュエータと、前記センサの検出結果に応じて前記アクチュエータによる前記弾性体の伸長量を制御する制御手段とを有する。
【0014】
この発明による筋力補助装置は、好ましくは、前記制御手段は、前記センサの検出結果より前記人の上半身の曲げ状態を示す曲げ度合いを演算する曲げ度合い演算部と、前記人の上半身の曲げ速度を演算する曲げ速度演算部とを有し、前記曲げ度合い演算部によって演算された曲げ度合いと、前記曲げ速度演算部によって演算された曲げ速度に応じて前記アクチュエータによる前記弾性体の伸長量を制御する。
【0015】
この発明による筋力補助装置は、好ましくは、前記制御手段は、前記センサの検出結果より前記人の上半身の曲げ状態を示す曲げ度合いを演算する曲げ度合い演算部と、前記人の上半身の曲げ加速度を演算する曲げ加速度演算部を有し、前記曲げ度合い演算部によって演算された曲げ度合いと、曲げ加速度演算部によって演算された曲げ加速度に応じて前記アクチュエータによる前記弾性体の伸長量を制御する。
【0016】
この発明による筋力補助装置は、伸縮可能な弾性体と、前記弾性体の一端部と連結されたワイヤと、前記ワイヤの巻き取り、繰り出しを行う電動式ワイヤ巻取手段と、前記弾性体の他端部を利用者の肩部に固定する上部固定手段と、前記電動式ワイヤ巻取手段を利用者の腰部乃至股間部に固定する下部固定手段と、利用者の上半身の曲げ状態を検出するセンサと、前記センサの検出結果に応じて前記電動式ワイヤ巻取手段による前記ワイヤの巻取量、繰出量を制御する制御手段とを有する。
【0017】
この発明による筋力補助装置は、好ましくは、前記制御手段は、前記センサの検出結果より前記利用者の上半身の曲げ状態を示す曲げ度合いを演算する曲げ度合い演算部と、前記利用者の上半身の曲げ速度を演算する曲げ速度演算部とを有し、前記曲げ度合い演算部によって演算された曲げ度合いと、前記曲げ速度演算部によって演算された曲げ速度に応じて前記電動式ワイヤ巻取手段による前記ワイヤの巻取量、繰出量を定量的に制御する。
【0018】
この発明による筋力補助装置は、好ましくは、前記制御手段は、前記センサの検出結果より前記利用者の上半身の曲げ状態を示す曲げ度合いを演算する曲げ度合い演算部と、前記利用者の上半身の曲げ加速度を演算する曲げ加速度演算部を有し、前記曲げ度合い演算部によって演算された曲げ度合いと、曲げ加速度演算部によって演算された曲げ加速度に応じて前記電動式ワイヤ巻取手段による前記ワイヤの巻取量、繰出量を定量的に制御する。
【0019】
前記制御手段は、前記利用者の上半身の曲げ加速度を演算する曲げ加速度演算部を有し、前記曲げ度合い演算部によって演算された曲げ度合いと、前記曲げ速度演算部によって演算された曲げ速度と、曲げ加速度演算部によって演算された曲げ加速度に応じて前記電動式ワイヤ巻取手段による前記ワイヤの巻取量、繰出量を定量的に制御する。
【発明の効果】
【0020】
この発明による筋力補助装置によれば、筋肉の役割をもつ弾性体が発生する補助力とその補助力を調整する機構(アクチュエータ)を持ち、利用者の弾性体の装着部位の状態に応じて弾性体が伸長してパッシブな補助力(張力)が生じると共に、センサの検出結果に応じて制御手段によってアクチュエータによる弾性体の伸長量を制御することにより、利用者の弾性体の装着部位の状態に応じてアクチュエータによって弾性体の伸長量(張力)が調整され、セミアクティブな作動のもとに、筋負担を、装着者の姿勢や姿勢変化の如何によらずに、適切に軽減し、前屈姿勢等での作業を軽労化する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明による筋力補助装置の一つの実施形態を、図1を参照して説明する。
【0022】
筋力補助装置は、全体を符号10により示されており、弾性体11と、連結具12によって弾性体11の一端部(下端部)11Aと連結されたワイヤ13と、ワイヤ13の巻き取り、繰り出し(送り出し)を行う電動式ワイヤ巻取器14を有する。
【0023】
弾性体11は、ゴムチューブを扁平した帯状のもので、適度の弾力性(引張弾性率)を有するゴム状弾性体により構成され、弾性変形により専ら長手方向(上下方向)に伸縮する。弾性体11は、伸長方向に弾性変形することにより、その反発力として長手方向(上下方向)に張力を発生する。
【0024】
ワイヤ13は、伸長しない金属製ワイヤであり、電動式ワイヤ巻取器14のプーリ15に巻き取られ、その繰り出し端を連結具12によって弾性体11の下端部11Aに連結されている。
【0025】
電動式ワイヤ巻取器14は、プーリ15と、プーリ15を回転駆動するステッピングモータ16とにより構成され、全体を機器ボックス20に内蔵されている。ステッピングモータ16は、正回転によりプーリ15をワイヤ巻取方向に回転駆動し、逆回転によりプーリ15をワイヤ繰出方向に回転駆動し、繰り出しを行う。ステッピングモータ16の正回転、逆回転の回転量(回転角)は、ステッピングモータ16に与えられるパルス信号のパルス数により定量的に制御される。
【0026】
電動式ワイヤ巻取器14は、ワイヤ13を介して弾性体11を伸長させ、ワイヤ巻取量に応じて弾性体11に張力を可変付与するものである。
【0027】
弾性体11の他端部(上端部)11Bには、弾性体11の上端部11Bを利用者(人)の肩部に固定する上部固定手段である布製のベルト式の肩装着具17が取り付けられている。
【0028】
機器ボックス20には、電動式ワイヤ巻取器14を含む機器ボックス20を利用者(人)の腰部乃至股間部に固定する下部固定手段である布製のベルト式の腰・股間装着具18が取り付けられている。
【0029】
機器ボックス20は、電動式ワイヤ巻取器14のステッピングモータ16を制御する制御ユニット30を内蔵している。制御ユニット31には、利用者の上半身の状態、この実施形態では、利用者の上半身(腰部)の曲げ状態を検出する曲げセンサ21が接続されている。曲げセンサ21は、電気抵抗式の歪ゲージ等により構成された可撓性シート状のものであり、例えば、利用者の腰部表面に貼り付けられ、腰部の曲げ度合いに応じて変化する電流信号を発生する。
【0030】
なお、腰・股間装着具18には、ステッピングモータ16、制御ユニット30、曲げセンサ21に対して電力供給を行うバッテリ電源ユニット22が取り付けられている。
【0031】
制御ユニット30は、マイクロコンピュータによるものであり、図2に示されているように、曲げセンサ22の電流信号を入力するA/D変換器31と、曲げ曲率演算部32と、曲げ曲率変化速度・加速度演算部33と、補助力増分演算部34と、巻取長さ演算部35と、ステッピングモータ16のモータドライバ36とを有する。
【0032】
曲げ曲率演算部32は、自動制御モードにおいて、A/D変換器25によってA/D変換された曲げセンサ22の電流信号より利用者の上半身の曲げ状態(前屈角度)を代表するパラメータとして腰部の曲げ曲率ρを演算する。
【0033】
曲げ曲率演算部32により演算される曲げ曲率ρは、図3(a)に示されている直立姿勢より、図3(b)に示されているように、膝を曲げ、腰を前屈みに曲げた前屈姿勢に移行する前屈動作時には、前屈動作に伴う腰部の曲げに応じて増大する傾向を示し、これとは反対に、図3(a)に示されている膝を曲げ、腰を前屈みに曲げた前屈姿勢より図3(a)に示されているように直立姿勢に戻る戻り動作時には、戻り動作に伴って腰部の曲げがなくなることに応じて減少する傾向を示す。
【0034】
曲げ曲率変化速度・加速度演算部33は、微分器であり、曲げ曲率変化速度演算部と曲げ加速度演算部を兼ねており、曲げ曲率演算部32によって演算された曲げ曲率ρを微分して曲げ曲率ρの微分値(dρ/dt)と、曲げ速度(dρ/dt)を微分して曲げ速度(dρ/dt)の微分値(dρ/dt)を演算する。
【0035】
曲げ曲率ρの微分値(dρ/dt)は、曲げ曲率変化速度(曲げ速度)を表す。曲げ速度(dρ/dt)の微分値(dρ/dt)は、曲げ曲率ρの2階微分値であり、曲げ加速度を表す。
【0036】
補助力増分演算部34は、曲げ曲率演算部32によって演算された曲げ曲率ρと曲げ曲率変化速度演算部33によって演算された曲げ曲率ρの微分値(dρ/dt)から、曲げ状態に応じた補助力増分ΔFを演算する。補助力演算部34による補助力増分ΔFの演算は、下式(1)に従って行われる。
【0037】
ΔF=Kp・ρ−Kd(dρ/dt)−Ks(dρ/dt) …(1)
但し、Kp、Kρ、Ksは、各々、ゲインである。
【0038】
巻取長さ演算部35は、補助力演算部34によって演算された補助力増分ΔFよりプーリ15によるワイヤ巻取・繰出長さLを演算し、演算したワイヤ巻取・繰出長さLに応じたパルス信号をモータドライバ36に出力する。巻取長さ演算部35によるワイヤ巻取・繰出長さLの演算は、下式(2)に従って行われる。
【0039】
L=ΔF/E …(2)
但し、Eは弾性体11の引張弾性率である。
【0040】
補助力増分ΔFが増加変化する場合には、ワイヤ巻取・繰出長さLは、ワイヤ13を巻き取る長さであり、この場合には、巻取長さ演算部35は、ワイヤ巻取・繰出長さLに応じた回転量だけステッピングモータ16を正回転させるパルス信号をモータドライバ36に出力する。
【0041】
これに対し、補助力増分ΔFが低減変化する場合には、ワイヤ巻取・繰出長さLは、ワイヤ13を繰り出す長さであり、この場合には、巻取長さ演算部35は、ワイヤ巻取・繰出長さLに応じた回転量だけステッピングモータ16を逆回転させるパルス信号をモータドライバ36に出力する。
【0042】
機器ボックス20には手動ボタン23が取り付けられている。手動ボタン23は、手動操作によって電動式ワイヤ巻取器14を動作させるものであり、手動操作に応じてモータドライバ36を動作させ、ステッピングモータ16を正回転あるいは逆回転させる。
【0043】
つぎに、上述の構成による筋力補助装置の作用について説明する。
【0044】
筋力補助装置10は、図1に示されているように、肩装着具17を利用者の肩部に装着し、腰・股間装着具18を利用者の腰・股間部に装着することにより、弾性体11の上端部11Bが利用者の肩部に固定され、電動式ワイヤ巻取器14を内蔵した機器ボックス20が利用者の腰部乃至股間部に固定される。曲げセンサ21は利用者の腰部表面に貼り付ける。
【0045】
上述の装着が完了すれば、図3(a)に示されているように、直立(起立)した姿勢において、電源オンで、手動ボタン23を手動操作して電動式ワイヤ巻取器14を手動動作させ、直立姿勢で、弾性体11が伸長変形していない自由状態あるいは利用者への装着状態において少し弛みが出る長さにワイヤ13のイヤ巻取・繰出長さを設定する。これは、初期設定操作であり、同じ人が繰り返し使用する場合には、省略することができる。
【0046】
つぎに、図示されていないスタートボタンをオンすることにより、電動式ワイヤ巻取器14が制御ユニット30による自動制御モードになる。
【0047】
図3(a)に示されている直立姿勢より、図3(b)に示されているように、膝を曲げ、腰を前屈みに曲げた前屈動作によって屈んだ姿勢や中腰の前屈姿勢になると、それに伴う腰部の曲げに応じて曲げセンサ13が曲げられる。
【0048】
曲げセンサ13が出力する電流信号は、スタートボタン・オンと同時に、制御ユニット30のA/D変換器31に入力され、曲げ曲率演算部32が、A/D変換器25によってA/D変換された曲げセンサ22の電流信号より利用者(筋力補助装置10を装着している人)の腰部の曲げ曲率ρを演算し、曲げ曲率変化速度・加速度演算部33が、曲げ曲率演算部32によって演算された曲げ曲率ρの微分値(dρ/dt)および(dρ/dt)を演算する。
【0049】
そして、補助力演算部34は、曲げ曲率演算部32によって演算された曲げ曲率ρと、曲げ曲率変化速度演算部33によって演算された曲げ曲率ρの微分値(dρ/dt)および(dρ/dt)から、数式(1)によって補助力増分ΔFを演算する。
【0050】
前屈動作時には、図4(a)に示されているように、腰部の曲げ曲率ρが増加することに応じて補助力増分ΔFが増加する。前屈動作時には、補助力増分ΔFは、曲げ曲率ρの微分値(dρ/dt)および(dρ/dt)が正値で、数式(1)によりマイナス成分として加味されるから、前屈動作開始より時間的に遅れて増加する傾向を示す。
【0051】
そして、補助力演算部34によって演算された補助力増分ΔFによって巻取長さ演算部35がワイヤ巻取・繰出長さLを演算し、ワイヤ巻取・繰出長さLに応じたパルス数をもってモータドライバ36がステッピングモータ16を正回転させる。これにより、プーリ15が正回転し、ワイヤ巻取・繰出長さLだけワイヤ13がプーリ15に巻き取られる。このワイヤ13の巻取量に応じて弾性体11が長手方向に伸長(弾性変形)し、その反発力として長手方向(上下方向)の張力が発生する。
【0052】
弾性体11が生じた張力は、背筋力の補助力として前屈姿勢に応じて利用者(装着者)に継続的に与えられ、継続した前屈姿勢での作業における腰部の筋負担を軽減、つまり、前屈姿勢維持の腰部の筋負担を軽減する。
【0053】
この弾性体11の長手方向の伸長による補助力は、上述の制御により、曲げセンサ13の検出結果として求められた前屈姿勢時の腰部の実際の曲げ曲率ρに基づいて定量的に調整設定されるから、姿勢が異なる如何なる前屈姿勢に対しても、過不足なく、適切に設定される。これにより、筋負担を装着者の姿勢の如何によらずに適切に軽減し、特に、農作業等における屈んだ姿勢や中腰での作業が軽労化される。
【0054】
前述したように、前屈動作時には、補助力増分ΔFは、曲げ曲率ρの微分値(dρ/dt)および(dρ/dt)がマイナス成分として加味され、前屈動作開始より時間的に遅れて増加する傾向を示すから、前屈動作時に、少し遅れてワイヤ13の巻き取りが行われ、弾性体11の長手方向の伸長による反発力が前屈動作に対して少し遅れて発生するようになる。この反発力特性は、図4(a)に示されている補助力増分ΔFと同等の特性を示す。
【0055】
これにより、装着者自身が前屈動作によって弾性体11を長手方向の伸長させる度合いが低減し、これに応じて前屈動作時に弾性体11を伸ばすための装着者の力が軽減される。このことにより、前屈動作時に弾性体11を伸ばすために、前屈動作の筋負担が大きくなることがなく、前屈動作が、抵抗なく、筋力補助装置10を装着していない時と同等の感覚で、違和感を感じることなく行われるようになる。
【0056】
図3(b)に示されている前屈姿勢より、図3(a)に示されているように、直立する直立姿勢に戻る戻り動作時には、それに伴う腰部の曲げ低減乃至消滅に応じて曲げセンサ13の曲げがなくなる。このように、戻り動作時には、曲げセンサ13の曲げがなくことにより、図4(b)に示されているように、腰部の曲げ曲率ρが低減することに応じて補助力増分ΔFが低減する。戻り動作時には、補助力増分ΔFは、曲げ曲率ρの微分値(dρ/dt)および(dρ/dt)が負値で、数式(1)により、プラス成分として加味されるから、戻り動作開始より時間的に遅れて低減する傾向を示す。
【0057】
そして、補助力演算部34によって演算された補助力増分ΔFによって巻取長さ演算部35がワイヤ巻取・繰出長さLを演算し、ワイヤ巻取・繰出長さLに応じたパルス数をもってモータドライバ36がステッピングモータ16を逆回転させる。これにより、プーリ15が逆回転し、ワイヤ巻取・繰出長さLだけワイヤ13がプーリ15より繰り出される。このワイヤ13の繰出量に応じて弾性体11が長手方向の伸長(弾性変形)が低減し、元の直立姿勢に戻ると、弾性体11の弾性変形がなくなった元の初期状態に戻る。
【0058】
戻り動作時には、補助力増分ΔFは、曲げ曲率ρの微分値(dρ/dt)および(dρ/dt)がプラス成分として加味され、戻り動作開始より時間的に遅れて低減する傾向を示すから、戻り動作時に、少し遅れてワイヤ13の繰り出しが行われ、弾性体11の長手方向の伸長による反発力が戻り動作に対して少し遅れて低下、消滅するようになる。この反発力特性は、図4(b)に示されている補助力増分ΔFと同等の特性を示す。
【0059】
これにより、戻り動作時に、弾性体11の復元力(反発力)が、戻り動作に必要な筋力をアシストするように装着者に作用し、戻り動作時の筋負担が軽減される。
【0060】
なお、上述の実施形態では、補助力増分ΔFの演算に、曲げ変化速度を示す微分値(dρ/dt)と曲げ加速度を示す(dρ/dt)の両方を加味しているが、本発明による筋力補助装置は、これに限られることはなく、補助力増分ΔFの演算は、曲げ変化速度を示す微分値(dρ/dt)だけを加味した演算、曲げ加速度を示す(dρ/dt)だけを加味した演算によって行われてよい。
【0061】
また、筋力補助装置10の弾性体11の形状は、図1に示されているI形に限られることなく、図5に符号41によって示されてように、V形であってもよく、更には、図6に符号51によって示されているように、背筋の形状に類似して形状になっていてもよい。この弾性体11の形状は、これ以外に、上下反転V形、X形であってもよい。
【0062】
なお、図5、図6において、図1に対応する部分は、図1に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0063】
また、図7に示されているように、符号61、62により示されているように、帯状の弾性体を二重にし、前屈方向側(背中側)に近い位置の弾性体61より背中より遠い位置の弾性体62の初期長さを長くした構造でもよい。
【0064】
この場合には、前屈動作に際して、まず、弾性体61が伸張し、その後、弾性体62の伸張が加わるから、前屈動作時に弾性体61、62の伸張による張力の発生を二段階に増加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】この発明による筋力補助装置の一つの実施形態を示す説明図である。
【図2】この発明による筋力補助装置の制御系の一つの実施形態を示すブロック図である。
【図3】(a)は一つの実施形態による筋力補助装置を装着した装着者の直立姿勢状態を模式的に示し、(b)は同じく装着者の前屈姿勢状態を模式的に示す図である。
【図4】(a)は前屈動作時の腰部の曲げ曲率と補助力の特性を示すグラフ、(b)は戻り動作時の腰部の曲げ曲率と補助力の特性を示すグラフである。
【図5】この発明による筋力補助装置の他の実施形態を示す説明図である。
【図6】この発明による筋力補助装置の他の実施形態を示す説明図である。
【図7】この発明による筋力補助装置に用いられる弾性体の他の実施形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0066】
11 弾性体
12 連結具
13 ワイヤ
14 電動式ワイヤ巻取器
15 プーリ
16 ステッピングモータ
17 肩装着具
18 腰・股間装着具
20 機器ボックス
21 曲げセンサ
22 バッテリ電源ユニット
23 手動ボタン
30 制御ユニット
31 A/D変換器
32 曲げ曲率演算部
33 曲げ曲率変化速度・加速度演算部
34 補助力演算部
35 巻取長さ演算部
36 モータドライバ
41 弾性体
51 弾性体
61、62 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部側の部位が人の第1の部位に装着され、長手方向の他端部側の部位が前記人の第2の部位に装着される弾性体と、
前記弾性体が装着される前記人の部位の状態を検出するセンサと、
前記弾性体を当該弾性体の長手方向に伸長させるアクチュエータと、
前記センサの検出結果に応じて前記アクチュエータによる前記弾性体の伸長量を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする筋力補助装置。
【請求項2】
長手方向の一端部側の部位が人の肩部に装着され、長手方向の他端部側の部位が前記人の下半身に装着されて前記人の背部に沿って延在する弾性体と、
前記人の上半身の状態を検出するセンサと、
前記弾性体を当該弾性体の長手方向に伸長させるアクチュエータと、
前記センサの検出結果に応じて前記アクチュエータによる前記弾性体の伸長量を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする筋力補助装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記センサの検出結果より前記人の上半身の曲げ状態を示す曲げ度合いを演算する曲げ度合い演算部と、前記人の上半身の曲げ速度を演算する曲げ速度演算部とを有し、
前記曲げ度合い演算部によって演算された曲げ度合いと、前記曲げ速度演算部によって演算された曲げ速度に応じて前記アクチュエータによる前記弾性体の伸長量を制御する請求項2に記載の筋力補助装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記センサの検出結果より前記人の上半身の曲げ状態を示す曲げ度合いを演算する曲げ度合い演算部と、前記人の上半身の曲げ加速度を演算する曲げ加速度演算部を有し、
前記曲げ度合い演算部によって演算された曲げ度合いと、曲げ加速度演算部によって演算された曲げ加速度に応じて前記アクチュエータによる前記弾性体の伸長量を制御する請求項2に記載の筋力補助装置。
【請求項5】
伸縮可能な弾性体と、
前記弾性体の一端部と連結されたワイヤと、
前記ワイヤの巻き取り、繰り出しを行う電動式ワイヤ巻取手段と、
前記弾性体の他端部を利用者の肩部に固定する上部固定手段と、
前記電動式ワイヤ巻取手段を利用者の腰部乃至股間部に固定する下部固定手段と、
利用者の上半身の曲げ状態を検出するセンサと、
前記センサの検出結果に応じて前記電動式ワイヤ巻取手段による前記ワイヤの巻取量、繰出量を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする筋力補助装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記センサの検出結果より前記利用者の上半身の曲げ状態を示す曲げ度合いを演算する曲げ度合い演算部と、前記利用者の上半身の曲げ速度を演算する曲げ速度演算部とを有し、
前記曲げ度合い演算部によって演算された曲げ度合いと、前記曲げ速度演算部によって演算された曲げ速度に応じて前記電動式ワイヤ巻取手段による前記ワイヤの巻取量、繰出量を定量的に制御する請求項5に記載の筋力補助装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記センサの検出結果より前記利用者の上半身の曲げ状態を示す曲げ度合いを演算する曲げ度合い演算部と、前記利用者の上半身の曲げ加速度を演算する曲げ加速度演算部を有し、
前記曲げ度合い演算部によって演算された曲げ度合いと、曲げ加速度演算部によって演算された曲げ加速度に応じて前記電動式ワイヤ巻取手段による前記ワイヤの巻取量、繰出量を定量的に制御する請求項5に記載の筋力補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−67762(P2008−67762A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246786(P2006−246786)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(504407930)株式会社リープス (4)
【出願人】(000192073)株式会社モリタ (80)
【Fターム(参考)】