筋機能増強ペプチド
本発明は、S100カルシウム結合タンパク質ファミリーに由来する筋機能増強アミノ酸配列を含むペプチドに関する。さらに、本発明は、医学的使用のための、特に筋機能障害と関連する障害、例えば骨格筋障害又は心筋障害を治療又は予防するための上記ペプチドを提供する。本発明は、上記ペプチドを含む医薬組成物、及び上記ペプチド又は上記医薬組成物を使用する筋機能障害と関連する障害を治療又は予防する方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋症を治療又は予防するために、特に骨格筋障害又は心筋障害を治療又は予防するために使用することができるS100タンパク質由来の筋機能増強アミノ酸配列を含むペプチド、上記ペプチドを含む医薬組成物、及びかかる筋症を治療又は予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉組織は、骨格筋組織、心筋組織及び平滑筋組織に細分類され、脊椎動物の最大の器官と考えることができる。例えば、平均的な成人男性は、40%〜50%が骨格筋で構成される。骨格筋及び心筋は横紋筋組織に属し、多くの機能的側面を共有する。例えば、骨格筋細胞及び心筋細胞における興奮収縮連関のプロセスは非常に類似している。筋細胞の膜脱分極により、活性化電位依存性L型カルシウムチャネルを介した筋細胞の細胞質(筋形質)中へのカルシウムの流入が引き起こされる。細胞質のカルシウム濃度の上昇は、カルシウム誘導性カルシウム放出(CICR)メカニズムを通じたリアノジン受容体(RyR)の活性化により筋小胞体(SR)からのカルシウム放出を引き起こし、ひいては細胞質のカルシウム濃度のさらなる迅速な上昇を引き起こす。カルシウム分子は、細胞質を通って拡散し、収縮タンパク質、例えば筋細胞の収縮を引き起こすトロポニンCと結合する。収縮後、カルシウムは、主に筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ(SERCA)の作用により、カルシウムの筋小胞体中への再取込みにより細胞質から除去される。これらの事象は骨格筋細胞及び心筋細胞において本質的に同一であるが、関与するタンパク質のアイソフォームにわずかに相違点がある。例えば、RyR1は骨格筋細胞において優勢な筋小胞体カルシウム放出チャネルであるが、心筋細胞においてはRyR2が優勢である。同様に、骨格筋の筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼはSERCA1aであり、SERCA2aは心筋細胞特異的である。
【0003】
筋細胞中のカルシウム循環は、多数のタンパク質により調節される。例えば、S100タンパク質ファミリー(EFハンドを有する最大のカルシウム結合タンパク質サブファミリー)に属するS100A1は、RyRカルシウム放出チャネル及びSERCAの両方と相互作用することが報告されている。S100A1は、拡張期にRyRを安定化させてカルシウムスパークの頻度を低減させ、収縮期にカルシウム放出を増強する。さらに、S100A1は弛緩期にSERCA活性を増大させ、心筋細胞及び骨格筋細胞において収縮機能を増大させることが見出された。S100A1タンパク質由来のカルボキシ末端ペプチドが全長S100A1タンパク質の変力効果を模倣することが分かっている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
筋細胞におけるカルシウム循環不全、例えば、収縮時における筋小胞体からのカルシウム放出の低減、異常なカルシウム放出事象、筋小胞体からのカルシウム漏出、又は細胞質からのカルシウム除去の遅延化は、様々な筋症、すなわち筋機能障害と関連する疾患をもたらす。例えば、心不全(cardiac insufficiency)、心室収縮機能不全、不整脈、心不全(heartfailure)、心原性ショック、心筋梗塞、及び心臓弁の機能不全は、心筋細胞におけるカルシウム処理(calciumhandling:カルシウムハンドリング)の調節不全と関連している。同様に、骨格筋線維におけるカルシウム循環不全は、筋ジストロフィーと関連付けられている(非特許文献3)。さらに、筋肉細胞におけるカルシウムシグナル伝達の破壊を引き起こすRyRカルシウム放出チャネルにおける突然変異は、筋症と関連している。特に、80を超える突然変異が、骨格筋のRyR1カルシウム放出チャネルにおいて特定されており、悪性高熱症、セントラルコア病又はマルチミニコア病(multi-minicore disease)と関連付けられている。さらに、心室性不整脈及び心臓突然死を引き起こす心筋のRyR2カルシウム放出チャネルにおける40を超える突然変異が報告されている(非特許文献4)。
【0005】
現在のところ、骨格筋障害に利用可能な臨床的な変力療法は存在しない。心筋症の変力治療に現在利用可能な認可された治療薬、例えばグリコシド誘導体、カテコールアミン及びホスホジエステラーゼ阻害剤は、重度の副作用、例えば心拍数の増大、及び生命を脅かす催不整脈能という問題を有する。これらの認可された治療薬の他に、S100A1タンパク質が、心不全において心筋のS100A1レベルが減少すること、及び心筋細胞へのS100A1の送達により等尺性収縮の増大、その後筋小胞体中に汲み上げられるカルシウム量の増大がもたらされることが示されたため、心筋症における治療薬として提唱されている。しかしながら、筋症を治療する目的での患者へのS100A1の投与は、遺伝子療法の送達経路、例えばウイルス送達を使用する送達経路(全てのその既知の副作用及び欠点を伴う)を必要とする(非特許文献1、特許文献1及び非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/054713号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Most P. et al.,2007, Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol. 293:R568-577
【非特許文献2】Voelkers M. etal., 2007, Cell Calcium 41:135-143
【非特許文献3】Hopf F.W. et al.,2007, Subcell. Biochem. 45:429-64
【非特許文献4】Dulhunty A.F. etal., 2006, J. Muscle Res. Cell Motil. 27:351-365
【非特許文献5】Vinge L.E. etal., 2008, Circ. Res. 102:1458-1470
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、筋症、好ましくは筋肉細胞におけるカルシウム循環の調節不全と関連する筋症の変力治療のための新規の治療薬であって、認可された治療薬において見られる重度の副作用を示さず、遺伝子療法に係る高リスクの送達経路を必要としない治療薬に対する緊急の必要性が存在する。骨格筋疾患に関して、骨格筋細胞の収縮能力を増大させる能力を有し、及び/又は骨格筋細胞におけるカルシウム誘導性アポトーシス細胞死を低減させるいずれかの変力治療薬に対する緊急の必要性が存在する。
【0009】
本発明者らは驚くべきことに、カルシウム結合タンパク質S100由来の本発明によるペプチドが、非経口投与すると変力効果を示し、筋症、例えば心筋障害及び骨格筋障害の治療に有用であり、言及すべき副作用を示さず、遺伝子療法を必要としないことを見出した。例えば、本発明によるペプチドは、正常な心筋及び不全心筋における並びに正常な及び疾患の骨格筋における変力性を増強し及びこれを回復させ、筋小胞体のカルシウム処理を増強し及びこれを回復させ、筋細胞におけるカルシウム誘導性アポトーシス細胞死を防止し、催不整脈性の筋小胞体のカルシウム漏出及び頻脈性不整脈から保護し、心力不全及び頻脈性不整脈からの保護により心臓死を防止する。本発明のペプチドは主要な副作用を伴わずに心筋組織及び骨格筋組織の収縮能力を増強するのに特に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様では本発明は、アミノ酸モチーフ:
Φ4−X−Ψ−L−[T/A]−Ψ2
(式中、Φ及びΨはそれぞれ独立して選択される疎水性の非芳香族アミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸、好ましくは低分子アミノ酸である)を含む、又はこれからなる筋機能増強アミノ酸配列を含むペプチドであって、該筋機能増強アミノ酸配列がS100A1タンパク質、好ましくは任意のS100カルシウム結合タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下の連続するアミノ酸を含有し、該ペプチドが最大100アミノ酸の全長を有し、該ペプチドが正の変力作用を示す、ペプチドを提供する。好ましくは、前記ペプチドは細胞膜に浸透することが可能である。好ましくは、前記ペプチドは筋細胞において収縮能力及び/又はカルシウム循環を増強する能力を示す。好ましい実施の形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]を含み、これから本質的になり、又はこれからなり、好ましくはアミノ酸配列V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。上で示したように、筋機能増強アミノ酸配列が、S100A1タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下の連続するアミノ酸を含有することがこの関連では好ましい。好ましくは、上記ペプチドは、膜浸透増強モチーフ、1つ又は複数のエピトープタグ、親水性モチーフ、及びペプチド標的化モチーフからなる群から選択される要素のうちの1つ又は複数をさらに含み、好ましくは該親水性モチーフは、親水性アミノ酸モチーフΛ4−Θ2(式中、Λはアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンからそれぞれ独立して選択され、Θはα−ヘリックス遮断因子であり、好ましくはプロリン又はグリシンからそれぞれ独立して選択される)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。好ましくは親水性モチーフは、アミノ酸配列[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]を含み、これから本質的になり、又はこれからなり、より好ましくはアミノ酸配列D−K−D−D−P−P(配列番号354)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。特定の好ましい1つの実施の形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列D−K−D−D−P−P−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号370)、又は上記アミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。
【0011】
第2の態様では、本発明は、医学的使用のための第1の態様のペプチドを提供する。
【0012】
第3の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害の治療又は予防における治療上の使用のための第1又は第2の態様のペプチドを提供し、好ましくは該障害は心筋障害及び/又は骨格筋障害であり、好ましくは該筋機能障害は筋肉細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する。好ましくは、ペプチドは、筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである。心筋障害は虚血後収縮機能不全、うっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、及び心室障害からなる群から選択することができ、骨格筋障害は筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン桿状体筋症(nemaline rod myopathy)、中心核筋細管筋症(centronuclearmyotubular myopathy)、眼の眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症からなる群から選択することができる。
【0013】
第4の態様では、本発明は、本発明の第1の態様のペプチド、並びに薬学的に許容可能な添加物、担体及び/又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。好ましい1つの実施の形態では、医薬組成物は、筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するためのものである。
【0014】
第5の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するための医薬組成物の調製のための本発明の第1の態様によるペプチドの使用に関する。
【0015】
第6の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害を治療又は予防する方法であって、それを必要とする個体に対して、上記個体の疾患状態を改善するのに十分な量の本発明によるペプチド又は医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。
【0016】
第7の態様では、本発明は、本発明の第1の態様によるペプチド、並びにカテコールアミン、β−アドレナリン受容体作動薬及びβ−アドレナリン受容体遮断薬からなる群から選択される薬物を含む組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】生物活性リード構造としてのS100A1タンパク質のC末端の特性決定を示す図である。図1は、上段に天然ヒトS100A1タンパク質(S100A1、94アミノ酸、配列番号1)の、及び下段にC末端側のカルシウム結合EFハンドを欠くアミノ酸75〜94を包含する20merペプチド(S100A1−ctペプチド)としてのS100A1のC末端(配列番号2)の一次構造を示す。SEQ ID NO: 配列番号protein タンパク質peptide ペプチドEF-Hand EFハンド
【図2】ヒトS100A1の疎水性プロットを示す図である。アミノ酸75〜94を包含するS100A1のC末端ドメインは、このタンパク質の最も疎水性の高い領域である。本発明者らは、http://www.vivo.colostate.edu/molkit/hydropathy/index.htmlで利用可能な疎水性プロットを利用して、ヒトs100a1遺伝子(GenBankアクセッション番号:NM006271)の公開済のcDNA配列を用いてカイト・ドーリトルプロットを行った。0を超えるy軸スコアは、疎水性の増大を示す。アミノ酸75〜94を含むS100A1のC末端に、灰色のバーで印を付す。Kyte-Doolittle Scale (hydrophobicity) カイト・ドーリトル尺度(疎水性)Hydrophobicity 疎水性C-terminus C末端amino acid number アミノ酸番号window size ウインドウサイズ
【図3】ヒトS100A1タンパク質の三次構造/四次構造を示す図である。図3AはヒトS100A1の三次構造/四次構造を可視化しており、これにより疎水性のC末端がホモ二量体タンパク質のそれぞれカルシウム非結合形態及びアポ状態(apo-state)の内側に埋め込まれていることが示される。図3Bは、両方のEFハンドモチーフに対するカルシウムの結合が、S100A1のC末端の分子表面への露出を引き起こし、これにより疎水性ドメインがタンパク質−タンパク質相互作用に利用可能となることを示している。したがって、アミノ酸75〜94を含むS100A1のC末端により、カルシウムが結合し「活性化された」二量体S100A1タンパク質における標的タンパク質の結合、及び標的タンパク質の機能/活性の変調が説明されることが示唆された。S100A1に対するカルシウムの結合は立体構造変化をもたらし、これによりC末端ドメイン(アミノ酸75〜94)(点線を付した箱型領域)がタンパク質−タンパク質相互作用に利用可能となる。
【図4】化学的に透過処理した心筋細胞調製物及び骨格筋細胞調製物中におけるヒトS100A1タンパク質及び20merのC末端ペプチドを示す図である。細胞内への到達、並びにRyR2及びRyR1の機能の調節が可能となる化学的に透過処理した心筋細胞調製物及び骨格筋細胞調製物中において天然ヒトS100A1タンパク質、及び20merのC末端ペプチドの生物活性が同等であることが、本発明者らにより示された。図4は、ローダミン標識した組換えヒトS100A1タンパク質(Mw:10415)(図4A/図4B)、及びFITC標識した20merの合成S100A1 C末端ペプチド(Mw:2258)(図4C/図4D)に関する類似する細胞内結合パターンを示す。rhod−S100A1タンパク質もFITC−S100A1 C末端ペプチド(アミノ酸75〜94)も、成体・無傷の心筋細胞の細胞膜を透過することができない。transmission 透過C-terminus C末端
【図5】S100A1タンパク質が、透過処理した心筋細胞において拡張期のカルシウムスパーク頻度及びRyR2活性を減少させ(A)、透過処理した骨格筋線維において等尺性単収縮力を増強する(B)ことを示す図である。S100A1タンパク質は、成体・無傷の心筋細胞又は骨格筋線維におけるカルシウム恒常性を変化させない。control 対照protein タンパク質Events/μm/sec 事象/μm/秒sec 秒
【図6】20merのS100A1 C末端ペプチド(S100A1タンパク質のアミノ酸75〜94)が、透過処理した心筋細胞において拡張期のカルシウムスパーク頻度及びRyR2活性を減少させ(A)、透過処理した骨格筋線維において等尺性単収縮力を増強する(B)ことを示す図である。しかし、該C末端ペプチドは、成体・無傷の心筋細胞又は骨格筋線維におけるカルシウム恒常性を変化させない。control 対照Events/μm/sec 事象/μm/秒sec 秒
【図7】S100A1タンパク質(B1)、及び20merのS100A1 C末端ペプチド(B3)の両方が、透過処理したマウスEDL骨格筋線維において等尺性力を増強する同等の生物学的効力を有することを示す図である。B2及びB3により、S100A1のC末端が単独で変力効果を媒介することが確認される。S100A1ペプチド(N/H/C)は、N末端ペプチド(N)G−S−E−L−E−T−A−M−E−T−L−I−N−V−F(S100A1のアミノ酸2〜16、配列番号388)、ヒンジ領域ペプチド(H)L−S−G−F−L−D−A−Q−K−D−V−D−A(S100A1のアミノ酸42〜54、配列番号389)及びC末端20mer(C)(配列番号2)を表す。M. ext. dig. longum 長指伸筋rel. force 相対力arbitrary units 任意単位protein タンパク質control 対照time(s) 時間(秒)peptide ペプチド
【図8】正常な及び疾患の心筋細胞における細胞透過性S100A1ct6/11配列及び細胞内蓄積を示す図である。S100A1ct6/11はペプチドD−K−D−D−P−P−Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号372)を表し、配列D−K−D−D−P−P(配列番号354)は親水性モチーフであり、配列Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号390)はヒトS100A1タンパク質のアミノ酸75〜85である。S100A1ct6/11ペプチドは細胞透過性を有し、細胞不透過性の20merのC末端 S100A1ペプチドとは対照的に心筋細胞の細胞内空間に蓄積する。図8により、FITCと結合したS100A1ct6/11は無傷のラット心室心筋細胞の細胞内空間中で濃縮され、抗S100A1免疫蛍光染色により評価した内在性S100A1タンパク質(C)と同様の線状のパターン(B、15分間の細胞外曝露後に撮影した共焦点画像)をもたらすが、対照(A)は特定の標識パターンを示さなかったことが示される。transmission 透過Endogenous S100A1 内在性S100A1
【図9】電場刺激した単離ラット心室心筋細胞におけるS100A1ct6/11の時間及び用量依存性の正の変力効果を示す図である。S100A1ct6/11は、成体心室心筋細胞におけるウイルスに媒介され心臓を標的とする(cardiac-targeted)トランスジェニックS100A1過剰発現物の用量依存性及び時間依存性の変力効果の両方を模倣する。図9は、電場刺激(2Hz)した単離ラット心室心筋細胞におけるS100A1ct6/11の用量依存性(上パネル)及び時間依存性(下パネル)の正の変力効果の代表的な出力波形を示す。15分間の細胞外曝露後におけるS100A1ct6/11の細胞内蓄積(図8B)と一致する10分〜20分のS100A1ct6/11の変力作用の開始に留意されたい。算出されたEC50%は87±6nM S100A1ct6/11である。カルシウム過渡応答(transients)を、落射蛍光デジタル化顕微鏡法を利用してFURA2−AMを負荷し電場刺激した心筋細胞において評価した。calcium カルシウムsec 秒min 分time 時間
【図10】合成ペプチドDKDDPP−YVVLVA(親水性モチーフと融合したヒトS100A1のアミノ酸75〜80、配列番号382)も、合成ペプチドDKDDPP−AALTVA(親水性モチーフと融合したヒトS100A1のアミノ酸80〜85、配列番号383)も、S100A1ct6/11の変力効果を模倣又は再現するのに十分ではないことを示す図である。カルシウム過渡応答を、落射蛍光デジタル化顕微鏡法を利用してFURA2−AMを負荷し電場刺激した心筋細胞において評価した(各群n=60)。SEQ ID NO: 配列番号Calcium transient amplitude カルシウム過渡振幅FURA 340/380 ratio counts FURA 340/380のカウント比control 対照inotropic effect 変力効果
【図11】S100パラログA4及びB由来のアミノ酸75〜85を包含するペプチドがS100A1ct6/11に媒介される変力性を模倣するのに十分ではないことを示す図である。合成ペプチドDKDDPP−YCVFLSCIAMM(親水性モチーフと融合したS100A4のアミノ酸75〜85、配列番号386)及びDKDDPP−FMAFVAMVTTA(親水性モチーフと融合したS100Bのアミノ酸75〜85、配列番号387)の両方が、S100A1ct6/11の変力作用を再現することができない。(A)は、S100A4ctもS100Bctも基本条件(左パネル)及びβ−AR刺激条件(右パネル)下でS100A1ct6/11の変力効果を模倣しないことを示す。(B)は、DKDDPP(配列番号354)と結合したS100A1(上)、S100A4(中央)及びS100B(下)由来のアミノ酸75〜85からなるペプチドの一次配列アライメントを示す。S100A1ctとS100A4ctとS100Bctとの間における同一のアミノ酸に下線を付す。(各群の細胞数n=60、*P<0.05(対照、S100A4ct及びS100Bctに対して)、2方向(2-way)ANOVA)。10−9Isoは10−9Mのイソプロテレノールを意味する。Calcium transient amplitude カルシウム過渡振幅FURA 340/380 ratio count FURA 340/380のカウント比control 対照SEQ ID NO: 配列番号
【図12】S100A1ct6/11の変力効果が筋小胞体(SR)のカルシウム含有量の制御及び調節と関連することを示す図である。S100A1ct6/11の変力効果は、成体心室心筋細胞におけるウイルスに媒介され心臓を標的とするトランスジェニックS100A1過剰発現物を利用する天然ヒトS100A1タンパク質の効果と同様にSRのカルシウム負荷の増強により伝達される。図12は、SRのカルシウムの完全な放出がもたらされるようにin vitroで10mMのカフェインに曝した電場刺激(2Hz)した対照(黒色、左の出力波形)の及びS100A1ct6/11(1000nM、薄灰色、右の出力波形)で処理した心室心筋細胞の代表的な出力波形を示す。カフェインに誘起されるカルシウム過渡応答の振幅は、SRのカルシウム含有量の間接的な尺度の役割を果たし、S100A1ct6/11で処理した心筋細胞においてより大きい。これらのデータにより、S100A1ct6/11の変力効果がSRのカルシウムの貯蔵及び含有量の制御及び増強と関連することが示される。Calcium amplitude カルシウム振幅FURA 340/380 ratio, 0.15 arbitrary units FURA 340/380比、0.15任意単位control 対照caffeine カフェイン
【図13】心筋細胞におけるS100A1ct6/11の正の変力効果がそれぞれβ−アドレナリン刺激及びシグナル伝達に対して相加的及び無関係であることを示す図である。(A)はリン酸化部位特異的抗体を利用する代表的なウェスタンブロットを示し、これにより、S100A1ct6/11が、基本条件及びβ−アドレナリン受容体(βAR)刺激下で筋小胞体(ホスホランバン、PLB)及びサルコメア(トロポニンI、TnI)標的においてcAMP依存性キナーゼ(PKA)活性を含むβARシグナル伝達を増加させることも変化させることもないことが明らかとなる。これを支持して、図13Bは、S100A1ct6/11の変力効果が、落射蛍光デジタル化顕微鏡法を利用してFURA2−AMを負荷し電場刺激した心筋細胞において評価するとβAR刺激下で相加的であり保存されることを示す。βAR−PKA軸の主要な変力効果がPLB−ser16のリン酸化の増強により伝達されることに留意されたい。S100A1ct6/11はこのメカニズムを伴うことも変化させることもなく、これによりβAR刺激に対するその相加的な変力効果が説明される。(各群の細胞数n=60、*P<0.05(対照に対して)、2方向ANOVA)。10−9Isoは10−9Mのイソプロテレノールを意味する。control 対照Calcium transient amplitude カルシウム過渡振幅FURA 340/380 ratio counts FURA 340/380のカウント比
【図14】S100A1ct6/11が心室心筋細胞において拡張期のRyR2の機能を制御し、生理学的な拡張期のSRのカルシウムスパーク頻度を変調させることを示す図である。S100A1ct6/11は、無傷の心室心筋細胞において拡張期のSRのカルシウムスパーク頻度を変調させ、透過処理した心室心筋細胞において細胞不透過性の天然S100A1タンパク質及び20merのS100A1 C末端ドメインペプチドの効果を模倣する。図14Aは、Fluo−3AMを負荷した対照の及びS100A1ct6/11で処理した静止状態のラット心室心筋細胞におけるカルシウムスパークの代表的な共焦点出力波形を示す。図14B〜図14Dは、S100A1ct6/11が拡張期のSRのカルシウムスパーク頻度及び振幅を示差的に制御することを示す。100nMのS100A1ct6/11は基本条件下でカルシウムスパーク頻度を減少させるが、その10倍の濃度(1000nM)のS100A1ct6/11は、カルシウムスパーク頻度を増大させる(各群の細胞数n=60、2方向ANOVA)。control 対照Events/μm/sec 事象/μm/秒
【図15】S100A1ct6/11の変力効果を伝達する分子メカニズムが、それぞれ不整脈誘発性のストア過負荷誘導性カルシウム放出(SOICR)及びカルシウム波から心筋細胞を同時に保護することを示す図である。不整脈発生による心臓突然死に関する重大な病理機序であるSOICRを、Isner及びその共同研究者らにより以前に公開されたプロトコル(Venetucci etal., 2007, Circ Res 100:105-111)を利用してin vitroで誘起させた。図15Aは、Venetucci et al., 2007, Circ Res 100:105-111により記載されたようにSOICRを引き起こす(βAR刺激+0.5mMのカフェイン)条件下でその頻度及び空間的特徴が劇的に増大する(中央)、Fluo−3AMを負荷した対照心筋細胞(左)におけるカルシウムスパークの代表的な共焦点出力波形を示す。1000nMのS100A1ct6/11での処理により、SRのカルシウム漏出が効果的にアンタゴナイズされる(図15A、右)ことに留意されたい。図15Bは、イソプロテレノール/カフェインの存在下における異常なカルシウムスパークの頻度及び空間的特徴を正常化するS100A1ct6/11の治療効果の統計解析結果を明らかにするものである。図15Cは、100nM及び1000nMのS100A1ct6/11により完全に防止されるβAR刺激+0.5mMのカフェインの存在下におけるSOICRに誘発されるカルシウム波を示す対照心筋細胞の代表的な出力波形を用いて、S100A1ct6/11の強力な抗不整脈効果を示す。SOICR及びその後のカルシウム波が致死性の心室性不整脈及び心臓突然死に関する分子基板であることを考慮すると、これらの実験は、心筋細胞における変力性をカルシウム誘導性の不整脈からの保護と関連付けるS100A1ct6/11の特有の分子プロファイルを明らかにする(各群の細胞数n=60、2方向ANOVA)。S100A1ct6/11の保護効果が、SRのカルシウム負荷の増強により心筋細胞において変力作用を発揮する濃度(100nM及び1000nM)(図9)で効果的であることに留意することが重要である。したがって、SRのカルシウム再隔離(resequestration)に対するそれ自身の増強効果に関わらず、S100A1ct6/11はβARに誘発されるSOICRを効果的にアンタゴナイズし、変力作用を抗不整脈効力と関連付ける特有の分子プロファイルを強調する。S100A1ct6/11と同様に(Akin)、ウイルスに媒介されるS100A1過剰発現物も、漏れやすい(leaky)RyR2を有する成体心室心筋細胞においてβARに誘発される不整脈誘発性のSRのカルシウム漏出を防止し、これにより細胞透過性のS100A1ct6/11が過剰発現したS100A1タンパク質の抗不整脈効果を模倣することが示された。Isoproterenol イソプロテレノールcaffeine カフェインcontrol 対照normal diastolic Ca 正常な拡張期CaEvents/μm/sec 事象/μm/秒
【図16】S100A1ct6/11の変力効果を伝達する分子メカニズムが、SRのカルシウム漏出の防止によりアポトーシス細胞死から心筋細胞を同時に保護することを示す図である。S100A1ct6/11は、長期のカフェイン曝露により内腔のカルシウムに感作された漏れやすいRyR2を有する成体心室心筋細胞をアポトーシス細胞死から保護する。図16Aは、カフェインに曝露した対照の及びS100A1ct6/11で処理した心筋細胞の代表的な画像を示す。黒色の矢印は、漏れやすいRyR2により促進された、SRのカルシウム漏出により誘導されたアポトーシスによる死細胞を強調している。統計解析により、S100A1ct6/11処理群においてアポトーシス性心筋細胞が有意に低いことが明らかとなった。図16Bは、2つの独立した実験の代表的なDNAゲル電気泳動の結果を示し、対照の心筋細胞にはラダリングしたDNAが見られるが、S100A1ct6/11で処理した心筋細胞には見られずアポトーシスの防止を示している。caffeine カフェインcontrol 対照Dead cells/total cells ratio norm. to K0 K0に対して正規化した(norm.)死細胞/総細胞の比
【図17】S100A1ct6/11がヒト血清中における切断及び分解に抵抗性を有し、in vivoでの応用及び長期の生物学的有効性を可能とすることを示す図である。in vitroでS100A1ct6/11と混合した(spiked)ヒト血清(1μM)がS100A1ct6/11を3時間まで切断しないことが示され、これによりin vivo投与のための必要条件としての血清中での高い安定性、及び長期の生物学的有効性が示される。図17A〜図17Dは、in vitroで1μMのS100A1ct6/11と混合したヒト血清試料の種々の時点におけるMALDI−TOF分析の代表的な出力波形を示す。図17A〜図17DによりS100A1ct6/11の切断及び分解が起きないことが明らかとなり、プロテアーゼが豊富な環境における高い安定性が示されることに留意されたい。min 分
【図18】S100A1ct6/11が、基本条件及びβAR刺激条件下で収縮能力の増強をもたらす有意なin vivoでの血行動態効果を発揮することを示す図である。225ngのS100A1ct6/11の静脈内(i.v.)単回適用を受けた麻酔した成体C57/B6雄性マウス(BW30g)(四角)が、3時間持続する左心室の収縮能力の増強を示し(左パネル)、これはイソプロテレノールのi.v.適用(250pg)に対して(対照動物のベタ塗りのひし形と比較して)保存され相加的であった。in vivoでの効果は基本条件及びβAR刺激条件下でのS100A1ct6/11のin vitroでの作用を反映していることに留意されたい。in vivoでのS100A1ct6/11の変力効果は、心拍数及びβAR刺激に対するその応答性と無関係であった(右パネル)。S100A1ct6/11は、腹腔内使用及び皮下使用の後の開始の遅延化にも効果的である。図18は、S100A1ct6/11をi.v.注射した後の麻酔したマウスにおいて左心室のカテーテル処置(catherization)により評価される基本収縮能力の有意な増強を示す。機能獲得はβAR刺激下で保存され、心拍数と無関係であった(各群の動物数n=7、*P<0.05(対応する対照動物に対して)、2方向ANOVA)。LV contractile performance LVの収縮能力Control 対照min 分Heart rate 心拍数beats/min 拍動数/分
【図19】S100A1ct6/11がβ1AR遮断薬メトプロロールへの応答に効果的である顕著なin vivoでの血行動態効果を発揮することを示す図である。メトプロロール(62.5μg)の腹腔内(i.p.)投与の15分後に225ngのS100A1ct6/11の静脈内(i.v.)単回適用を受けた麻酔した成体C57/B6雄性マウス(BW30g)が、ECGの異常を伴わずに同様の心拍数の遅延化を示した(図19)が、S100A1ct6/11に媒介される機能獲得を保存していた(図20)。図19は、メトプロロールに応答した伝導異常を伴わずに同様の心拍数の遅延化を伴う、対照の(i.v.ビヒクル処理)及びS100A1ct6/11でi.v.処理したマウスにおける代表的な遠隔測定ECG記録(DSI systems、Einthoven lead II)を示す。control 対照awake 覚醒Metoprolol メトプロロールmin 分
【図20】麻酔したマウスにおいてβ1AR遮断薬メトプロロールの存在下でS100A1ct6/11の変力有効性が保存されることを示す図(左パネル)である。S100A1ct6/11がメトプロロールの負の変力効果をアンタゴナイズするが負の変時効果をアンタゴナイズせず(右パネル)、これにより心機能不全に対するS100A1ct6/11及びメトプロロールの併用療法の実現可能性が強調されることに留意されたい(各群の動物数n=7、*P<0.05(対応する対照動物に対して)、2方向ANOVA)。LV contractile performance LVの収縮能力min 分Metoprolol メトプロロールHeart rate 心拍数beats/min 拍動数/分Control 対照
【図21】S100A1ct6/11が実験的マウス心不全モデルにおいて血行動態機能を回復させるin vivoでの有意な治療効果を発揮することを示す図である。虚血後収縮機能不全を有する成体C57/B6雄性/雌性マウス(BW30g)の2週間、毎日の225ngのS100A1ct6/11でのi.p.処理により、心機能及び生存性の有意な改善がもたらされる。図21Aは、シリアル心エコー検査により評価した、収縮機能不全を有するマウスの左心室機能を回復させる心不全のS100A1ct6/11による2週間のi.p.処理の治療効果を示す。図21Bは、S100A1ct6/11で処理した心不全マウスにおける収縮能力の改善が生存性の有意な改善につながることを示す。(A、各群の動物数n=10;B、各群の動物数18、*P<0.05(MI前に対して)、+P<0.01(対照心不全動物に対して)、2方向ANOVA)。control (vehicle i.p.) 対照(ビヒクルi.p.投与)pre-MI MI前7d post-MI MIの7日後14d post-MI MIの14日後% death in HF mice 2 weeks after myocardialischemia 心筋虚血の2週間後のHFマウスの死亡率(%)control 対照
【図22】S100A1ct6/11が、実験的心不全動物モデルにおいて不全心筋におけるアポトーシス細胞死を防止するin vivoでの有意な治療効果を発揮することを示す図である。虚血後収縮機能不全を有する成体C57/B6雄性/雌性マウス(BW30g)の2週間、毎日の225ngのS100A1ct6/11でのi.p.処理により、不全心臓におけるアポトーシスの有意な減弱がもたらされた。in vivoでの効果が、in vitroでの心筋細胞におけるS100A1ct6/11の抗アポトーシス作用を反映していることに留意されたい。図22は、心不全(HF)対照の及びS100A1ct6/11で処理した(2週間のi.p.処理)不全心臓の代表的なTUNEL染色結果を示し、ここで緑色の核は、FITCと結合したプローブにより標識されたDNA鎖の切断を示す。S100A1ct6/11で処理した不全心臓が示すアポトーシス核はより少ない(中央のパネル)ことに留意されたい。統計解析により、生存性に対する全体的な治療効果に寄与するS100A1ct6/11で処理した不全心臓におけるアポトーシスの有意な低減が明らかとなった(各群の動物数n=6、*P<0.01(対照心臓に対して)、2方向ANOVA)。control 対照TUNEL positive nuclei/HPF TUNEL陽性核/HPF
【図23】S100A1ct6/11がβARに誘発される致死性の心室性頻脈性不整脈から心不全マウスを保護するin vivoでの顕著な治療効果を発揮することを示す図である。虚血後収縮機能不全を有する成体C57/B6雄性/雌性マウス(BW30g)の2週間、毎日の225ngのS100A1ct6/11でのi.p.処理が、カフェインによりカルシウムに感作された漏れやすいRyR2チャネルを有する心臓におけるβARに誘発される心室細動から保護する。心不全マウスにおける催不整脈プロトコルは、Wayne Chen及び共同研究者らにより以前に公開されたプロトコル(Xiao etal., 2007, JBC 282:34828-34838)を修正したものとした。図23は、致死性の心室細動の突発を引き起こすエピネフリン/カフェインのi.p.注射に曝露した心不全対照の及びS100A1ct6/11で処理したマウス(2週間のi.p.処理)における代表的なECG出力波形を示す(左パネル)。対照心不全マウスが80%の死亡率を示したのに対してS100A1ct6/11処理群では致死性の心室細動が10匹の動物のうち2匹のみでしか起こらなかったことに留意されたい(コンティンジェンシーをフィッシャーの正確確率検定により検定した)。control 対照Epinephrin エピネフリンCaffeine カフェイン% HF mice with VF after epinephrin/caffeineinjection エピネフリン/カフェイン注射後におけるVFを有するHFマウス(%)
【図24】S100A1ct6/11が正常な及び疾患の骨格筋において等尺性単収縮力を有意に増強することを示す図である。12週齢のC57/B6雄性マウスから単離した無傷の長指伸筋(extensor digitorum longum)(EDL)骨格筋をS100A1ct6/11(1μM)と共に45分間インキュベーションすることにより、本発明者らにより以前に公開されたような筋単離及び等尺性張力測定についての方法(Most et al., 2003, J. Biol. Chem. 278:26356-26364)を適用する図24Aに示すように、比等尺性単収縮力及び比強縮性単収縮力の有意な増強がもたらされた。強縮トレイン(Tetanictrain)を125Hzで175ミリ秒適用し、安定な力のプラトーに到達させた。さらに、以前に記載された(Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268)ように本発明者らにより作製された心筋梗塞後心不全マウスが、図24Bに示すように2週間のS100A1ct6/11のi.p.処理(225ng、毎日の注射)後に骨格筋機能の改善を示した。心不全患者における主要な臨床症状、例えば疲労及び運動能力の低下は骨格筋機能の低下により引き起こされ、心拍出量と直接関連しないため、このことは重要な知見である。図24Aは、S100A1ct6/11の細胞外適用(0.1μM〜1μM)により、EDLの等尺性単収縮力及び強縮性単収縮力が用量依存的に有意に増強されることを示す。図23Bは、心不全マウスにおけるS100A1ct6/11の全身(i.p.)投与により、骨格筋機能不全が減衰し、収縮能力が有意に改善することを示す(各群の筋肉/動物の数n=5、*P<0.05(対応する対照に対して)、+P<0.01(対照に対して)、2方向ANOVA)。EDL (normal mice)/extracellular S100A1ct 6/11application EDL(正常なマウス)/S100A1ct6/11の細胞外適用Specific isometric twitch force 比等尺性単収縮力control 対照Specific tetanic force 比強縮性単収縮力EDL (HF mice)/systemic i.p. S100A1ct 6/11application EDL(HFマウス)/S100A1ct6/11の全身(i.p.)適用
【図25】電場刺激(1Hz)した単離ラット心室心筋細胞におけるカルシウム過渡振幅に対するS100A1ペプチドN−75〜85−C(配列番号1に示されるヒトS100A1タンパク質のアミノ酸75〜85)、N−76〜85−C(配列番号1に示されるヒトS100A1タンパク質のアミノ酸76〜85)、N−77〜85−C(配列番号1に示されるヒトS100A1タンパク質のアミノ酸77〜85)、N−78〜85−C(配列番号1に示されるヒトS100A1タンパク質のアミノ酸78〜85)、N−79〜85−C(配列番号1に示されるヒトS100A1タンパク質のアミノ酸79〜85)の効果を示す図である。N−75〜85−C及びN−76〜85−Cがカルシウム過渡応答の増強において同様の効力を有することに留意されたい。N末端アミノ酸のいかなるさらなる欠失もペプチドの変力効果を消失させる。nは3つの異なる調製物由来の試験した細胞の数に等しい。*P<0.05(リンカー及びビヒクルに対して)、ANOVA。Calcium transient amplitude in FURA2 AMloaded cells FURA2 AMを負荷した細胞におけるカルシウム過渡振幅340/380 ratio counts 340/380のカウント比Control 対照linker リンカーvehicle ビヒクル
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を以下で詳細に説明する前に、本明細書中で説明する特定の方法論、プロトコル及び試薬は変動し得るので、本発明はこれらに限定されないと理解すべきである。本明細書中で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、添付した特許請求の範囲のみによって限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも理解すべきである。他に規定のない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0019】
以下では、本発明の要素を記載する。これらの要素を特定の実施形態と共に列挙するが、任意の様式及び任意の数でこれらを組み合わせて、さらなる実施形態を作り出すことができることを理解すべきである。様々に記載される実施例及び好ましい実施形態を、明示的に記載される実施形態にのみ本発明を限定するものと解釈すべきではない。この記載を、明示的に記載される実施形態を任意の数の開示される及び/又は好ましい要素と組み合わせた実施形態を支持及び包含するものと理解すべきである。さらに、本出願において記載される全ての要素の任意の置換及び組合せが、文脈上他に示されぬ限り、本出願の記載により開示されるものと考えるべきである。例えば、本発明によるペプチドの一実施形態において筋機能増強アミノ酸配列がアミノ酸モチーフ[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]を含み、これから本質的になり、又はこれからなり、別の実施形態において親水性モチーフが親水性アミノ酸モチーフΛ4−Θ2(ここで、Λ及びΘは以下で本明細書中で規定されるようなものであり、親水性モチーフは好ましくは筋機能増強アミノ酸配列に含まれるアミノ酸モチーフのアミノ末端と直接連結する)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる場合、アミノ酸配列Λ4−Θ2−[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]を含むペプチドは本発明によるペプチドの一実施形態である。
【0020】
好ましくは、本明細書中で使用される用語は、"Amultilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)",H.G.W. Leuenberger, B. Nagel and H. Koelbl, Eds., Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland,(1995)に記載されているように規定される。
【0021】
本発明を実施するために、特に明示のない限り、当該技術分野の文献(例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, J.Sambrook et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor1989を参照されたい)において説明される、従来の化学、生化学、細胞生物学の方法及び組換えDNA法を利用する。さらに、当該技術分野の文献(例えばPractical Methods in Cardiovascular Research, S. Dhein et al. eds.,Springer Verlag Berlin Heidelberg, 2005を参照されたい)でも説明される従来の臨床心臓病学の方法を利用する。
【0022】
以下の本明細書及び添付の特許請求の範囲を通じて、文脈上他に必要な場合以外は、「を含む(comprise)」という単語、並びに「を含む(comprises)」及び「を含む(comprising)」等の変化形は、記載された整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を包含することを示唆するが、任意の他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外することを示唆しないと理解される。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、その内容(content)が明らかに他の指示を与えるものでない限り、複数の指示対象を含む。
【0023】
複数の文書が、本明細書の文章を通じて引用される。本明細書中で引用される文書(全ての特許、特許出願、科学的刊行物、製造業者の仕様書、取扱説明書等を含む)の各々が、上記のものであるか又は下記のものであるかに関わらず、その全体が参照により本明細書に援用される。本明細書のどの記載も、本発明が従来の発明に基づくこのような開示に先行する権利を有しないことを認めるものと解釈すべきではない。
【0024】
本発明による「ペプチド」は、天然のものであっても又は天然のアミノ酸残基の誘導体であってもよく、好ましくはペプチド結合を介して連結されるアミノ酸残基の鎖を表し、ここで該ペプチドは100個以下のアミノ酸残基又はアミノ酸残基の誘導体からなる。「アミノ酸」という用語は、天然のアミノ酸、及びアミノ酸誘導体を包含する。本発明との関連では「低分子アミノ酸」は好ましくは、125ダルトン未満の分子量を有するアミノ酸である。好ましくは、本発明との関連では低分子アミノ酸は、アミノ酸グリシン、アラニン、セリン、システイン、トレオニン及びバリン、又はその誘導体からなる群から選択される。本発明との関連では疎水性の非芳香族アミノ酸は好ましくは、0.5より高い、より好ましくは1.0より高い、さらにより好ましくは1.5より高いカイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックスを有し、芳香族ではない任意のアミノ酸である。好ましくは、本発明との関連では疎水性の非芳香族アミノ酸は、アミノ酸アラニン(カイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックス1.8)、メチオニン(カイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックス1.9)、イソロイシン(カイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックス4.5)、ロイシン(カイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックス3.8)及びバリン(カイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックス4.2)、又は上で規定されるようなカイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックスを有するその誘導体からなる群から選択される。
【0025】
本発明との関連では「筋肉」は、好ましくは横紋筋組織、又は横紋筋組織由来の筋肉細胞、例えば骨格筋細胞/骨格筋組織並びに心筋細胞及び心筋組織を意味する。
【0026】
本発明によれば、「筋機能増強アミノ酸配列」という用語は、任意の筋肉固有の(specific)機能を増強する及び/又はこれを回復させること、例えば筋肉細胞及び筋肉組織の、好ましくは横紋筋組織の、最も好ましくは心筋細胞及び骨格筋細胞及び心筋組織及び骨格筋組織の収縮能力を増強することが可能であるアミノ酸配列を表す。適切な筋機能は筋肉細胞内における機能的なカルシウム処理に密接に依存すると考えられるため、「筋機能増強アミノ酸配列」という用語は、筋肉細胞、好ましくは骨格筋細胞及び/又は心筋細胞におけるカルシウム処理/循環、好ましくは筋小胞体のカルシウム処理/循環を増強する及び/又はこれを回復させることが可能であるアミノ酸配列も表す。筋細胞における収縮能力を、例えばビデオエッジ検出(video-edge-detection)(VED)技法を使用して電場刺激した単一の心筋細胞の収縮性を評価することにより、直接測定することができる(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114:1550-1563(1561頁))。カルシウム処理を、蛍光カルシウム指示薬を使用してカルシウム過渡応答を評価することにより決定することができる(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114:1550-1563(1561頁))。
【0027】
本発明との関連では「を増強すること(enhancing)」(例えば筋機能、収縮能力及び/又はカルシウム処理を増強すること)という用語は、特定の機能を、該機能が正常であるか又は不完全であるか、すなわち筋肉細胞が健常であるか又は疾患状態であるかどうかと無関係に増大させる/増強することを意味する。好ましくは、「を増強すること」は、特定の機能を、対照の設定と比較して少なくとも15%、好ましくは少なくとも25%、好ましくは少なくとも35%、より好ましくは少なくとも45%、最も好ましくは少なくとも50%増強することを意味する。好ましくは対照の設定は、健常患者、又は健常患者の群の平均の筋機能、収縮能力及び/又はカルシウム処理である。
【0028】
本発明との関連では「を回復させること(restoring)」(例えば筋機能、収縮能力及び/又はカルシウム処理を回復させること)という用語は好ましくは、不完全な機能を、その正常な機能の少なくとも50%まで、好ましくはその正常な機能の少なくとも60%まで、好ましくはその正常な機能の少なくとも70%まで、より好ましくはその正常な機能の少なくとも80%まで、より好ましくはその正常な機能の少なくとも85%まで、さらにより好ましくはその正常な機能の少なくとも90%まで、さらにより好ましくはその正常な機能の少なくとも95%まで、最も好ましくはその正常な機能の少なくとも100%まで戻すことを意味し、ここで「正常な機能」は、いずれの筋疾患にも罹患していない個体由来の筋肉細胞により示されるその機能の平均値を意味する。例えば、左心室のカテーテル処置において力の発生を左心室における血圧上昇の一次導関数+dp/dt[mmHg/秒]により評価し、心エコー検査において収縮能力をM−Modeでの短縮率(FS%)、又は駆出率の算出値(EF%)により評価し(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114: 1550-1563、Most et al., 2006, Circulation 114, 1258-1268、オンラインでの補遺における材料及び方法)、VEDにおいて収縮性を短縮率(FS%)及び収縮速度(μm/秒)により評価する。カルシウム循環は単一細胞でのみ評価することができ、較正される場合、nMの遊離カルシウム濃度単位で測定される。およそ、麻酔したマウスにおける「正常な」+dp/dtは5000mmHg/秒〜8000mmHg/秒の範囲であることがあり、エコー検査の「正常な」EF%は60%〜80%、FS%は40%〜70%であり、「正常な」細胞のFS%は5%〜12%の範囲であることがあり、較正したカルシウム過渡応答は200nM〜400nMの範囲であることがある。
【0029】
作用剤との関連での「変力作用」という用語は、上記作用剤が筋肉の種類に関係なく筋肉収縮力に影響を及ぼすことを意味する。「正の変力作用」は筋肉収縮力を増大させることを意味し、「負の変力作用」は筋肉収縮力を減少させることを意味する。本発明のペプチドは、好ましくはin vitro及びin vivoで、正の変力作用を示す。作用剤の、例えば本発明のペプチドの変力効果は、例えば試験対象の作用剤/ペプチドの存在下及び非存在下において刺激した筋細胞におけるカルシウム過渡応答を決定することにより、in vitroで容易に決定することができる。例えば、カルシウム過渡応答を、落射蛍光デジタル化顕微鏡法を利用してFURA2−AMを負荷し電場刺激した心筋細胞において評価することができる(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114: 1550-1563(1561頁))。Fluoカルシウム指示薬ファミリーの成員、又はRhod−2AMのような任意の蛍光カルシウム指示薬を、FURA−2AMの代わりに使用することができる。根本的な原理(principal)は同じである。代替的には、パッチクランプ処理した(patch-clamped)単離心筋細胞におけるカルシウム過渡応答測定(Kettlewell/Mostet al., 2005, J. Mol. Cell. Cardiol., 200: 900-910(901頁))を使用することもできる。ペプチドの正の変力効果を、例えばペプチドを投与して及び投与せずに麻酔したマウスにおける左心室のカテーテル処置により収縮能力を決定することにより、in vivoで試験することもできる。通常、この実験においては、収縮性を、最大の左心室の血圧上昇の一次導関数(+dp/dtmax)として記載する(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114: 1550-1563、Most et al., 2006, Circulation 114;1258-1268)。代替的には、心エコー検査(Most et al., 2006, Circulation 114; 1258-1268)を使用することができる。
【0030】
本発明との関連では「カルシウム循環を増強する及び/又はこれを回復させること」という用語は、筋細胞におけるカルシウム循環、好ましくは筋小胞体のカルシウム循環を、正常状態/非病的状態下において改善させる、又は病的状態下(すなわちカルシウム循環が不完全である場合)においてこれを上で記載したような正常な機能まで回復させることを意味する。カルシウム循環不全は、筋小胞体におけるカルシウム含有量の低減、興奮収縮連関時における筋小胞体からのカルシウムの放出の低減、静止状態の筋肉細胞における筋小胞体からのカルシウム漏出(例えば漏れやすいRyR筋小胞体カルシウム放出チャネルによる)、カルシウムスパーク頻度の増大、又は収縮後における筋小胞体及び/若しくはミトコンドリア中へのカルシウムの再取込みの低減/遅延化(例えば機能障害を有する若しくは機能しない筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ(SERCA)による)の結果として起こるものであり得る。したがって本発明によれば、カルシウム循環を、好ましくは、上記パラメータを改善させること、例えば、筋小胞体のカルシウム含有量を増大させること、興奮収縮連関時における筋小胞体からのカルシウムの放出を増大させること、静止状態の筋肉細胞において筋小胞体からのカルシウム漏出を低減させること、カルシウムスパーク頻度を低減させること、及び/又は筋小胞体若しくはミトコンドリア中へのカルシウムの再取込みを改善させることにより、増強する又はこれを回復させることができる。この理論に拘束されるものではないが、カルシウム循環不全は、筋肉細胞の収縮能力不全、例えば収縮機能不全に関する主要な理由の1つであると考えられる。したがって、カルシウム循環を増強する又はこれを回復させることは、収縮能力も増強する及び/又はこれを回復させると考えられる。
【0031】
本発明との関連では「収縮能力」という用語は、筋肉収縮、例えば筋肉収縮力又は筋肉収縮時機(timing)と関連する任意の機能を包含する。骨格筋の場合には、強縮性収縮も、「収縮能力」という用語の範囲内に入る。「収縮能力不全」は、正常な/健常な筋肉細胞又は筋肉組織に関する平均値と比較した場合の収縮機能不全を表す。例えば、筋肉細胞又は筋肉組織の収縮能力は、例えば、所与の筋肉細胞又は筋肉組織の収縮力が正常な/健常な筋肉細胞又は筋肉組織に関する平均値から少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%逸脱する場合、不完全であると考えられ、ここで「逸脱する」という用語は正常な平均値未満の値を、又は正常な平均値より高い値を表すことができ、好ましくは該用語は正常な平均値未満の値を表す。例えば、意識のあるヒトに関しては、心エコー検査による50%未満の心臓のEF%は、心不全の開始と考えられる。正常なヒト心臓の意識下(conscious)EF%はおよそ65%〜70%である。好ましくは、「収縮能力を増強する及び/又はこれを回復させること」という用語は、筋肉細胞又は筋肉組織、好ましくは骨格筋細胞若しくは骨格筋組織又は心筋細胞若しくは心筋組織の収縮力の増大、及び筋肉細胞収縮の不完全な時機の修正を意味する。この関連では、「不完全な時機」という用語は、適切に時機制御されない(inappropriately timed)筋肉収縮事象、例えば心筋における不整脈、又は骨格筋組織の振戦若しくは単収縮を表す。
【0032】
本発明によるペプチドとの関連では「抗不整脈能(Anti-arrhythmic potential)」は、ペプチドが、筋細胞における、好ましくは心筋細胞及び心臓組織における適切に時機制御されない筋肉収縮、すなわち不整脈事象を低減させることが可能であることを意味する。本発明のペプチドは好ましくは、例えば致死性の心室性不整脈により不整脈発生による心臓突然死の基礎となる重大な病理機序である、不整脈誘発性のストア過負荷誘導性カルシウム放出(SOICR)から心筋細胞を保護する。好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、心筋細胞における不整脈、好ましくはカルシウム誘導性不整脈からの保護と変力作用を関連付ける。当業者は、ペプチドが抗不整脈効力を示すかどうかを、例えば試験対象のペプチドが心筋細胞、好ましくは内腔のカルシウムに感作された漏れやすいRyR2を有する心室心筋細胞をβARに誘発される催不整脈性のSOICR及びカルシウム波から保護することが可能であるかどうかを評価することにより、容易に決定することができる。例えば、正常な心室心筋細胞を、潜在的に抗不整脈効力を示すペプチドの存在下及び非存在下において10−7Mのイソプロテレノール及び0.5mMのカフェインで処理し、拡張期のカルシウム濃度に関してモニタリングすることができる。不全心筋細胞において、10−7Mのイソプロテレノール、又は等効果のカテコールアミン(例えばドブタミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)単独での処理を使用して、カルシウム処理との関連での不整脈誘発性の分子変化を明らかにすることができる。加えて、適切な等効果用量の、β−アドレナリン受容体の下流にあるセカンドメッセンジャーである環状アデノシン一リン酸(cAMP)を増強する他の作用剤、例えばホスホジエステラーゼ阻害剤(ロリプラム、エノキシモン)を、カフェインの存在下又は非存在下において使用することができる。SOICRを、蛍光カルシウム指示薬を負荷した静止状態の心筋細胞における共焦点顕微鏡によるカルシウム波及びカルシウムスパーク測定により(Voelkers et al., 2007, Cell Calcium 41:135-143(136頁))、又は落射蛍光顕微鏡法により蛍光カルシウム指示薬を負荷し電場刺激した(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114:1550-1563)及びパッチクランプ処理した(Kettlewell et al., 2005, J. Mol. Cell. Cardiol. 39:900-910(901頁))心筋細胞における拡張期のカルシウム波/放出として特定することができる。代替的には、SOICR及びカルシウム波の同等物(equivalents)、例えば遅延又は早期後収縮を、VEDにより、電場刺激した心筋細胞における拡張期収縮により評価することができる(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114:1550-1563)。
【0033】
本発明との関連では、「S100タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸」という用語は好ましくは、S100タンパク質のカルボキシ末端の20アミノ酸を、例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸75〜94、すなわちアミノ酸配列Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F−W−E−N−S(配列番号2)を、より好ましくはS100タンパク質のカルボキシ末端の25アミノ酸を、最も好ましくはS100タンパク質のカルボキシ末端の30アミノ酸を表す。
【0034】
本発明によるペプチドとの関連では「細胞膜に浸透することが可能な」という用語は、ペプチドが無傷の細胞の細胞膜を横断することができることを意味し、ここで好ましくは該細胞は、脊椎動物の細胞、より好ましくは哺乳動物の細胞、例えばマウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ又はウマ等の細胞、最も好ましくはヒトの細胞である。好ましくは、本発明との関連では細胞は、筋肉細胞、好ましくは骨格筋細胞又は心筋細胞である。したがって、最も好ましくは本発明との関連では細胞は、哺乳動物の筋肉細胞である。当業者は、例えば、上記ペプチドを例えば放射性マーカー又は蛍光マーカーで標識すること、及び標識したペプチドを無傷の細胞、好ましくは哺乳動物の筋肉細胞、例えばラット心室心筋細胞と共にインキュベートすること、及び細胞内において、例えば無傷の細胞の細胞質中において標識したペプチドを、例えば蛍光顕微鏡法により検出することができるかどうかを評価することにより、ペプチドが細胞膜に浸透することが可能であるかどうかを容易に評価することができる(Most et al., 2005, J. Cell Sci. 118:421-431(422頁)、Voelkers et al., 2007, Cell Calcium 41:135-143(136頁))。
【0035】
本発明との関連ではS100カルシウム結合タンパク質は好ましくは、S100カルシウム結合タンパク質A1、S100カルシウム結合タンパク質Z、S100カルシウム結合タンパク質T、S100カルシウム結合タンパク質S及びS100タンパク質α鎖からなる群から選択される。最も好ましくは、本発明との関連ではS100カルシウム結合タンパク質は、S100A1である。本発明との関連ではS100カルシウム結合タンパク質は、任意の種のもの、例えばヒト又は他の霊長類、マウス若しくはラット等のS100タンパク質であってもよく、好ましくはヒト起源のものである。S100カルシウム結合タンパク質の好ましい例は、以下のGenBank又はRef Seqのアクセッション番号:XP_001494920.1、XP_001365057.1、XP_001140144、XP_513820.2、XP_001111052.1、CAI19674.1、XP_537265.1、NP_001092512.1、NP_006262.1、NP_001127319.1、AAB20539.2、NP_001007637.1、NP_035439.1、XP_002196029.1、XP_001332692.1、NP_001082820.1、XP_001504000.2、NP_570128.2、XP_526887.2、XP_226710.1、XP_607154.2、XP_853219.1、NP_001074628.1、NP_001013513.1、AAN63527.1、ACI68060.1及びXP_001344575.2により利用可能なものである。
【0036】
本発明との関連では疾患又は障害「を治療すること」という用語は、疾患の原因が除去されるかどうかとは無関係に疾患状態が改善される、すなわち疾患を有する個体が治癒する、又はその症状のみが減弱することを意味する。したがって、本発明によるペプチドは筋肉細胞においてカルシウム循環/処理を安定化させる及び/又はこれを回復させること、並びにそれにより上記細胞の収縮能力を改善させることによりその治療効果を発揮すると考えられるけれども、このペプチドを、カルシウム循環不全により引き起こされるものではない筋疾患の治療のために使用することもできる。例えば、骨格筋障害の症状、例えば筋力低下(筋肉細胞におけるカルシウム循環不全により引き起こされるものではない、又はこれと関連するものではない)も、本発明によるペプチドにより減弱する。
【0037】
本発明との関連では「個体」という用語は好ましくは、動物患者、好ましくは心筋障害若しくは骨格筋障害に罹患している、又はその両方に罹患している動物患者を表す。動物患者は、好ましくは脊椎動物患者、より好ましくは哺乳動物患者、例えば家畜、例えばマウス、ラット、ネコ、モルモット、ウサギ、イヌ、ブタ、ウシ又はウマである。最も好ましくは動物患者はヒト患者であり、「個体」という用語は、筋障害に、好ましくは心筋障害及び/又は骨格筋障害に罹患しているヒト患者を表す。本発明によるペプチドの機能的特質の評価との関連では、「個体」という用語は好ましくは、実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギ又は霊長類を表し、最も好ましくはこの関連では上記用語は、心不全動物モデル、例えば心筋梗塞後マウスモデル又は心筋梗塞後ラットモデルを表す(マウス:Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268(補遺);ラット:Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114:1550-1563)。
【0038】
第1の態様では、本発明は、アミノ酸モチーフ:
Φ4−X−Ψ−L−[T/A]−Ψ2
(式中、Φ及びΨはそれぞれ独立して選択される疎水性の非芳香族アミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸、好ましくは低分子アミノ酸である)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる筋機能増強アミノ酸配列を含むペプチドであって、該筋機能増強アミノ酸配列がS100カルシウム結合タンパク質A1のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下の連続するアミノ酸、例えば18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、該ペプチドが最大100アミノ酸、例えば最大100アミノ酸、95アミノ酸、90アミノ酸、85アミノ酸、80アミノ酸、75アミノ酸、70アミノ酸、65アミノ酸、60アミノ酸、55アミノ酸、50アミノ酸、45アミノ酸、40アミノ酸、35アミノ酸、30アミノ酸、25アミノ酸、20アミノ酸、19アミノ酸、18アミノ酸、17アミノ酸、16アミノ酸、15アミノ酸、14アミノ酸、13アミノ酸、12アミノ酸、11アミノ酸又は10アミノ酸の全長を有し、該ペプチドが正の変力作用を示す、ペプチドを提供する。Lはアミノ酸ロイシンを、Tはアミノ酸トレオニンを、Aはアミノ酸アラニンを表す。好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、10アミノ酸〜80アミノ酸の、より好ましくは10アミノ酸〜70アミノ酸の、より好ましくは10アミノ酸〜60アミノ酸の、より好ましくは10アミノ酸〜50アミノ酸の、さらにより好ましくは10アミノ酸〜40アミノ酸の、さらにより好ましくは10アミノ酸〜30アミノ酸の長さを有し、最も好ましくはペプチドは、10アミノ酸〜20アミノ酸の長さを有する。好ましい一実施形態では、ペプチドは、15アミノ酸長又は16アミノ酸長である。
【0039】
好ましくは、筋機能増強アミノ酸配列を除く本発明によるペプチドは、S100カルシウム結合タンパク質A1のカルボキシ末端アミノ酸と、好ましくはS100カルシウム結合タンパク質A1、S100カルシウム結合タンパク質Z、S100カルシウム結合タンパク質T、S100カルシウム結合タンパク質S及びS100タンパク質α鎖からなる群から選択されるS100カルシウム結合タンパク質と顕著に異なり、最も好ましくは任意のS100カルシウム結合タンパク質のカルボキシ末端と顕著に異なる。より好ましくは、筋機能増強アミノ酸配列を除く本発明によるペプチドは、S100カルシウム結合タンパク質A1のアミノ酸配列と、好ましくはS100カルシウム結合タンパク質A1、S100カルシウム結合タンパク質Z、S100カルシウム結合タンパク質T、S100カルシウム結合タンパク質S及びS100タンパク質α鎖からなる群から選択されるS100カルシウム結合タンパク質と顕著に異なり、最も好ましくは任意のS100カルシウム結合タンパク質のアミノ酸配列と顕著に異なる。「顕著に異なる」という用語は、アミノ酸配列が少なくとも80%異なり、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%異なることを意味する。配列における差異を、ポリペプチド配列を整列させることにより評価することができる。かかるアライメントツールは当業者に既知であり、例えばワールドワイドウェブで(例えば、標準的な設定(好ましくはAlignに関してはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5)を使用するClustalW(www.ebi.ac.uk/clustalw)又はAlign(http://www.ebi.ac.uk/emboss/align/ index.html)のように)取得することができる。2つ以上のポリペプチド配列における残基は、最良の配列アライメントにおいて整列される残基が互いに異なる場合、互いに異なるとされる。2つのポリペプチドの間の「最良の配列アライメント」は、整列される同一の残基の数が最大となるアライメントと定義される。
【0040】
本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸モチーフ:
[Y/F/W]−Φ4−X−Ψ−L−[T/A]−Ψ2
(式中、Φ及びΨはそれぞれ独立して選択される疎水性の非芳香族アミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸、好ましくは低分子アミノ酸である)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。疎水性の非芳香族アミノ酸、及び低分子アミノ酸は、上で規定されるようなものである。
【0041】
好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドの筋機能増強アミノ酸配列は、αヘリックス構造を形成する。
【0042】
特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、細胞膜、好ましくは脊椎動物の細胞膜、さらにより好ましくは哺乳動物の細胞膜、さらにより好ましくは哺乳動物の筋肉細胞膜、最も好ましくは哺乳動物の骨格筋細胞膜、及び哺乳動物の心筋細胞膜に浸透することが可能である。好ましくは、本発明のペプチドは、生理学的環境中で、例えば培養培地(例えば、哺乳動物の組織培養用の)中で、及び/又は体液中で、例えば血液中で、上で規定されるような細胞膜に浸透することが可能である。したがって、最も好ましくは、本発明のペプチドは、非経口の投与経路により、例えば静脈内注射により投与される場合、in vivoで細胞膜に浸透することが可能である。
【0043】
好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、S100カルシウム結合タンパク質A1、S100カルシウム結合タンパク質Z、S100カルシウム結合タンパク質T、S100カルシウム結合タンパク質S及びS100タンパク質α鎖からなる群から選択されるS100カルシウム結合タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、ここで該S100カルシウム結合タンパク質は好ましくはヒト起源のもの、最も好ましくは任意の種のものである。したがって、好ましくは本発明によるペプチドは、好ましくは、S100カルシウム結合タンパク質A1のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、S100カルシウム結合タンパク質Zのカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、S100カルシウム結合タンパク質Tのカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、S100カルシウム結合タンパク質Sのカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、S100タンパク質α鎖のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、該S100カルシウム結合タンパク質は好ましくはヒト起源のもの、最も好ましくは任意の種のものである。最も好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、好ましくはヒト起源の、より好ましくは任意の種の任意のS100カルシウム結合タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有する。特に、本発明によるペプチドは、配列Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F−W−E−N−S(配列番号2)、すなわち配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸75〜94を含まない、又はこれからならない。
【0044】
特定の好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、筋細胞において、好ましくは骨格筋細胞又は心筋細胞において収縮能力及び/又はカルシウム循環を増強する能力を示す。
【0045】
特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、筋細胞に対する、好ましくは心筋細胞に対する抗不整脈能を示し、したがって好ましくは、不整脈から、好ましくはカテコールアミンに誘発される不整脈から、好ましくは心臓突然死の原因であることが多い心室性不整脈から筋細胞及び心臓組織を保護することが可能である。好ましくは、本発明のペプチドは、in vitro及びin vivoで抗不整脈能を示す。好ましくは、本発明のペプチドは、致死性の心室性頻脈性不整脈から、好ましくはβ−アドレナリン受容体(βAR)に誘発される致死性の心室性頻脈性不整脈から、好ましくはカテコールアミンに誘発される致死性の心室性頻脈性不整脈から個体を保護する能力を示す。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、in vivoで抗不整脈能が観察される。ペプチドの抗不整脈能を、例えばペプチドが上で記載したようなSOICRから心筋細胞を保護するかどうかを検証することにより、in vitroで評価することができる。ペプチドの抗不整脈能を、例えば心不全動物モデルにおいて、例えば心筋梗塞後マウスモデルにおいてβARに誘発される頻脈性不整脈によりもたらされる死亡率に対するペプチドでの処理の効果を検証することにより、in vivoで評価することができる(Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268、補遺)。例えばペプチドを、好ましくは非経口的に、例えば腹腔内に、静脈内に、又は皮下に、数日間、例えば6日間、7日間、8日間若しくは9日間、最大数週間、例えば2週間、3週間又は4週間、好ましくは2週間毎日、又は隔日で、虚血後収縮機能不全を有するマウスに投与することができる。致死性の心室性頻脈性不整脈を、ペプチドでの或る特定の期間の処理後に、例えば7日後、8日後、9日後、10日後に、又は2週間後に、カフェイン(例えば100mg/kg〜140mg/kgの範囲の濃度の、好ましくは120mg/kgの濃度の)と組み合わせたエピネフリン(例えば1.5mg/kg〜2.5mg/kgの範囲の濃度の、好ましくは2mg/kgの濃度の)の投与により、動物において誘発することができる。致死性の心室細動を、遠隔測定ECGによりモニタリングすることができる(例えばXiao et al., 2007, J. Biol. Chem. 282:34828-34838を参照されたい)。
【0046】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、筋細胞、例えば骨格筋細胞及び心筋細胞において、好ましくは心筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させる能力を有する。好ましくは、本発明のペプチドは、in vitro及びin vivoでカルシウムスパーク頻度を低減させる能力を示す。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、in vivoでの効果が観察される。この関連では「を低減させること(Reducing)」は好ましくは、ペプチドで処理した筋細胞におけるカルシウムスパーク頻度が、ペプチドで処理していない対照筋細胞と比較して少なくとも15%、より好ましくは少なくとも25%、さらにより好ましくは少なくとも30%、最も好ましくは少なくとも40%低減することを意味する。好ましくは、この能力は、心筋細胞に適用されるペプチドの濃度に依存する。好ましくは、本発明のペプチドは、無傷の心筋細胞が存在する液体に添加される場合、該無傷の心筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させる能力を有する。例えば、本発明のペプチドは好ましくは、50nM〜500nMの範囲の濃度で心筋細胞の培地に添加される場合、好ましくは50nM〜250nMの範囲の濃度で適用される場合、より好ましくは75nM〜150nMの範囲の濃度で適用される場合、最も好ましくは100nMで適用される場合、静止状態の心筋細胞において、例えば培養した静止状態のラット心室心筋細胞において、カルシウムスパーク頻度を低減させるが、600nM以上の濃度で、好ましくは700nM以上の濃度で、より好ましくは800nM以上の濃度で、さらにより好ましくは900nM以上の濃度で、最も好ましくは1000nM以上の濃度で適用される場合、カルシウムスパーク頻度を増大させる(Voelkers M. et al., 2007, Cell Calcium 41:135-143)。したがって、当業者は、ペプチドがカルシウムスパーク頻度を低減させる能力を有するかどうかを容易に決定することができる。特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、上で記載したように抗不整脈能、及びカルシウムスパーク頻度を低減させる能力を示す。
【0047】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、アポトーシス細胞死から、好ましくはカルシウム誘導性アポトーシス細胞死から、好ましくは筋小胞体のカルシウム漏出に誘発されるアポトーシス細胞死から筋細胞、好ましくは骨格筋細胞及び/又は心筋細胞を保護する。したがって、好ましくは、本発明のペプチドは、抗アポトーシス能を示す。好ましくは、本発明のペプチドは、in vitro及びin vivoでこの抗アポトーシス効果を示す。好ましくは、本発明のペプチドは、in vivoで不全心筋におけるアポトーシス細胞死を防止する、すなわちin vivoでアポトーシス細胞死から不全心筋における心筋細胞を保護する。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、in vivoでの保護効果が観察される。この関連では「を保護すること(Protecting)」は、本発明によるペプチドで処理した細胞におけるアポトーシス細胞死の程度が、対照群と比較して少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、さらにより好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも60%低減することを意味する。当業者は、例えばペプチドの存在下及び非存在下において長期のカフェイン曝露により内腔のカルシウムに感作された漏れやすいRyRカルシウム放出チャネルを有する筋細胞における、好ましくは心室心筋細胞におけるアポトーシスの程度を観察することにより、この特質に関してin vitroで試験することができる。アポトーシスの指標は例えば、例えばDNAラダリングにより検証することができる断片化ゲノム(Liu et al., 2005, Circulation 111:90-96)、シトクロムc放出又はカスパーゼ3活性である(Most et al., 2003, J. Biol. Chem. 278:48404-48412)。ペプチドの抗アポトーシス効果を、実験的心不全動物モデルにおいてin vivoで評価することができる。例えば、虚血後収縮機能不全を有するマウスを、ペプチドで処理することができ、処理したマウス及び対照のマウスの心臓組織を、アポトーシス心筋細胞の程度に関して評価することができる。ペプチドを、好ましくは非経口的に、例えば腹腔内に、静脈内に、又は皮下に、数日間、例えば6日間、7日間、8日間若しくは9日間、最大数週間、例えば2週間、3週間又は4週間、好ましくは2週間毎日、又は隔日で、投与することができる。アポトーシス細胞の程度を、TnI及びCD31について対比染色した(TnI and CD31 counterstained)心臓組織切片のTUNEL染色により評価することができる(Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268)。特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、上で記載したように抗不整脈能を示し、アポトーシス細胞死から筋細胞を保護する。
【0048】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、好ましくは静止状態の筋細胞、例えば骨格筋細胞及び心筋細胞において筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力を有する。好ましくは、本発明のペプチドは、in vitro及びin vivoでこの効果を示す。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、このin vivoでの効果が観察される。この理論に拘束されるものではないが、本発明のペプチドは、その閉じた立体構造においてRyR筋小胞体カルシウム放出チャネルを安定化させ、それによりこれらのチャネルからのカルシウム漏出を低減させると考えられる(Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268、Voelkers M. et al., 2007, Cell Calcium 41:135-143)。特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、上で記載したように抗不整脈能を示し、カルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる。
【0049】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、in vivoで血行動態機能を回復させる能力を示す。好ましくは、本発明のペプチドは、心不全、例えば心筋梗塞時又は心筋梗塞後における心不全に罹患している個体において血行動態機能を回復させる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、この効果が観察される。当業者は、例えば実験的マウス心不全モデルを使用することにより、この機能に関してペプチドを容易に試験することができる。例えば、当業者は、ペプチドを投与して及び投与せずに虚血後収縮機能不全を有するマウスにおける心機能及び生存率を決定することができる。ペプチドを、好ましくは非経口的に、例えば腹腔内に、静脈内に、又は皮下に、数日間、例えば6日間、7日間、8日間若しくは9日間、最大数週間、例えば2週間、3週間又は4週間、好ましくは2週間毎日、又は隔日で、投与することができる。実験動物の左心室機能を、シリアル心エコー検査により評価することができる(Most et al., 2003, J. Bio. Chem. 278; 33809-33817、Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268)。好ましくは、本発明のペプチドは、抗不整脈効力、及びin vivoで血行動態機能を回復させる能力を示す。
【0050】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、骨格筋組織、例えば骨格筋線維において等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する。好ましくは、本発明のペプチドは、in vitro及びin vivoでこの効果を示す。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、このin vivoでの効果が観察される。当業者は、例えばペプチド処理した及び処理していない無傷の筋肉又は筋線維、例えば実験動物から単離した無傷の長指伸筋骨格筋における等尺性張力測定により、所与のペプチドに対してこの機能を容易に評価することができる。例えば、単離した筋肉を、或る特定の期間、例えば30分間〜60分間、好ましくは45分間、種々の濃度の、例えば500nM〜4μMの範囲の濃度の、好ましくは1μMの濃度のペプチドと共にインキュベートすることができる。単離した筋肉をその後、強縮トレイン(例えば125Hzで175ミリ秒間適用される)で刺激することができ、等尺性張力を測定することができる(Weisleder et al., 2006, J. Cell Biol. 174:639-654)。好ましくは、等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力に対する増強効果は、ペプチド(好ましくはこのペプチドは非経口投与されたものである)で全身的に処理された実験動物から単離した筋線維に対しても観察される。したがって、好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、全身的に、好ましくは非経口的に、例えば腹腔内に、静脈内に、又は皮下に投与される場合、骨格筋機能不全を減衰させ、in vivoで骨格筋細胞において収縮能力を増強する。特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、上で記載された、骨格筋細胞において等尺性単収縮力及び強縮性単収縮力を増強する能力、心筋細胞において収縮能力を増大させる能力、並びに抗不整脈能を示す。
【0051】
特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、上記の機能、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの2つ以上、例えば2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。
【0052】
本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、Φはアラニン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからなるアミノ酸の群からそれぞれ独立して選択され、好ましくはΦはメチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択される。
【0053】
本発明によるペプチドの別の好ましい実施形態では、Ψはアラニン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからなるアミノ酸の群からそれぞれ独立して選択され、好ましくはΨはアラニン、メチオニン、イソロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択される。本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、Φはメチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択され、Ψはアラニン、メチオニン、イソロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択される。
【0054】
本発明によるペプチドの別の好ましい実施形態では、Xは低分子アミノ酸であり、ここで該低分子アミノ酸は好ましくはプロリンではない。好ましくは、Xはグリシン、アラニン、セリン、システイン、トレオニン及びバリンからなるアミノ酸の群から選択され、より好ましくはXはグリシン、アラニン及びセリンからなる群から選択される。本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、Φはメチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択され、Ψはアラニン、メチオニン、イソロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択され、Xはグリシン、アラニン、セリン、システイン、トレオニン及びバリンから、好ましくはグリシン、アラニン及びセリンから選択される。
【0055】
本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。このことは、アミノ酸モチーフが好ましくは配列[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]であることを意味する。
【0056】
本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列V1−V2−L3−V4−A5−A6−L7−T8−V9−A10(配列番号3)(式中、V1及びV2は独立してイソロイシンにより置換されてもよく、好ましくはV1は置換されず、L3はメチオニンにより置換されてもよいが好ましくは置換されず、V4はイソロイシン又はメチオニンにより、好ましくはイソロイシンにより置換されてもよく、A5はグリシン又はセリンにより、好ましくはセリンにより置換されてもよく、A6はバリンにより置換されてもよく、T8はアラニンにより置換されてもよく、V9はアラニン又はイソロイシンにより、好ましくはアラニンにより置換されてもよく、A10はメチオニン又はバリンにより置換されてもよいが好ましくは置換されない)を含み、又はこれからなり、アミノ酸配列V1−V2−L3−V4−A5−A6−L7−T8−V9−A10のうちの好ましくは最大5個、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、さらにより好ましくは最大2個、最も好ましくは最大1個のアミノ酸が上で記載したように別のアミノ酸で置換される。本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、上で記載したような最も好ましいアミノ酸配列、すなわちV−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)において、最大3個、例えば1個、2個又は3個のアミノ酸が置換される。
【0057】
本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)、I−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号5)、V−I−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号6)、V−V−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号7)、V−V−L−I−A−A−L−T−V−A(配列番号8)、V−V−L−M−A−A−L−T−V−A(配列番号9)、V−V−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号10)、V−V−L−V−S−A−L−T−V−A(配列番号11)、V−V−L−V−A−V−L−T−V−A(配列番号12)、V−V−L−V−A−A−L−A−V−A(配列番号13)、V−V−L−V−A−A−L−T−A−A(配列番号14)、V−V−L−V−A−A−L−T−I−A(配列番号15)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−M(配列番号16)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−V(配列番号17)、I−I−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号18)、I−V−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号19)、I−V−L−I−A−A−L−T−V−A(配列番号20)、I−V−L−M−A−A−L−T−V−A(配列番号21)、I−V−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号22)、I−V−L−V−S−A−L−T−V−A(配列番号23)、I−V−L−V−A−V−L−T−V−A(配列番号24)、I−V−L−V−A−A−L−A−V−A(配列番号25)、I−V−L−V−A−A−L−T−A−A(配列番号26)、I−V−L−V−A−A−L−T−I−A(配列番号27)、I−V−L−V−A−A−L−T−V−M(配列番号28)、I−V−L−V−A−A−L−T−V−V(配列番号29)、V−I−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号30)、V−I−L−I−A−A−L−T−V−A(配列番号31)、V−I−L−M−A−A−L−T−V−A(配列番号32)、V−I−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号33)、V−I−L−V−S−A−L−T−V−A(配列番号34)、V−I−L−V−A−V−L−T−V−A(配列番号35)、V−I−L−V−A−A−L−A−V−A(配列番号36)、V−I−L−V−A−A−L−T−A−A(配列番号37)、V−I−L−V−A−A−L−T−I−A(配列番号38)、V−I−L−V−A−A−L−T−V−M(配列番号39)、V−I−L−V−A−A−L−T−V−V(配列番号40)、V−V−M−I−A−A−L−T−V−A(配列番号41)、V−V−M−M−A−A−L−T−V−A(配列番号42)、V−V−M−V−G−A−L−T−V−A(配列番号43)、V−V−M−V−S−A−L−T−V−A(配列番号44)、V−V−M−V−A−V−L−T−V−A(配列番号45)、V−V−M−V−A−A−L−A−V−A(配列番号46)、V−V−M−V−A−A−L−T−A−A(配列番号47)、V−V−M−V−A−A−L−T−I−A(配列番号48)、V−V−M−V−A−A−L−T−V−M(配列番号49)、V−V−M−V−A−A−L−T−V−V(配列番号50)、V−V−L−I−G−A−L−T−V−A(配列番号51)、V−V−L−I−S−A−L−T−V−A(配列番号52)、V−V−L−I−A−V−L−T−V−A(配列番号53)、V−V−L−I−A−A−L−A−V−A(配列番号54)、V−V−L−I−A−A−L−T−A−A(配列番号55)、V−V−L−I−A−A−L−T−I−A(配列番号56)、V−V−L−I−A−A−L−T−V−M(配列番号57)、V−V−L−I−A−A−L−T−V−V(配列番号58)、V−V−L−M−G−A−L−T−V−A(配列番号59)、V−V−L−M−S−A−L−T−V−A(配列番号60)、V−V−L−M−A−V−L−T−V−A(配列番号61)、V−V−L−M−A−A−L−A−V−A(配列番号62)、V−V−L−M−A−A−L−T−A−A(配列番号63)、V−V−L−M−A−A−L−T−I−A(配列番号64)、V−V−L−M−A−A−L−T−V−M(配列番号65)、V−V−L−M−A−A−L−T−V−V(配列番号66)、V−V−L−V−G−V−L−T−V−A(配列番号67)、V−V−L−V−G−A−L−A−V−A(配列番号68)、V−V−L−V−G−A−L−T−A−A(配列番号69)、V−V−L−V−G−A−L−T−I−A(配列番号70)、V−V−L−V−G−A−L−T−V−M(配列番号71)、V−V−L−V−G−A−L−T−V−V(配列番号72)、V−V−L−V−S−V−L−T−V−A(配列番号73)、V−V−L−V−S−A−L−A−V−A(配列番号74)、V−V−L−V−S−A−L−T−A−A(配列番号75)、V−V−L−V−S−A−L−T−I−A(配列番号76)、V−V−L−V−S−A−L−T−V−M(配列番号77)、V−V−L−V−S−A−L−T−V−V(配列番号78)、V−V−L−V−A−V−L−A−V−A(配列番号79)、V−V−L−V−A−V−L−T−A−A(配列番号80)、V−V−L−V−A−V−L−T−I−A(配列番号81)、V−V−L−V−A−V−L−T−V−M(配列番号82)、V−V−L−V−A−V−L−T−V−V(配列番号83)、V−V−L−V−A−A−L−A−A−A(配列番号84)、V−V−L−V−A−A−L−A−I−A(配列番号85)、V−V−L−V−A−A−L−A−V−M(配列番号86)、V−V−L−V−A−A−L−A−V−V(配列番号87)、V−V−L−V−A−A−L−T−A−M(配列番号88)、V−V−L−V−A−A−L−T−A−V(配列番号89)、V−V−L−V−A−A−L−T−I−M(配列番号90)、V−V−L−V−A−A−L−T−I−V(配列番号91)、I−I−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号92)、I−I−L−I−A−A−L−T−V−A(配列番号93)、I−I−L−M−A−A−L−T−V−A(配列番号94)、I−I−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号95)、I−I−L−V−S−A−L−T−V−A(配列番号96)、I−I−L−V−A−V−L−T−V−A(配列番号97)、I−I−L−V−A−A−L−A−V−A(配列番号98)、I−I−L−V−A−A−L−T−A−A(配列番号99)、I−I−L−V−A−A−L−T−I−A(配列番号100)、I−I−L−V−A−A−L−T−V−M(配列番号101)、I−I−L−V−A−A−L−T−V−V(配列番号102)、I−V−M−I−A−A−L−T−V−A(配列番号103)、I−V−M−M−A−A−L−T−V−A(配列番号104)、I−V−M−V−G−A−L−T−V−A(配列番号105)、I−V−M−V−S−A−L−T−V−A(配列番号106)、I−V−M−V−A−V−L−T−V−A(配列番号107)、I−V−M−V−A−A−L−A−V−A(配列番号108)、I−V−M−V−A−A−L−T−A−A(配列番号109)、I−V−M−V−A−A−L−T−I−A(配列番号110)、I−V−M−V−A−A−L−T−V−M(配列番号111)、I−V−M−V−A−A−L−T−V−V(配列番号112)、I−V−L−I−G−A−L−T−V−A(配列番号113)、I−V−L−I−S−A−L−T−V−A(配列番号114)、I−V−L−I−A−V−L−T−V−A(配列番号115)、I−V−L−I−A−A−L−A−V−A(配列番号116)、I−V−L−I−A−A−L−T−A−A(配列番号117)、I−V−L−I−A−A−L−T−I−A(配列番号118)、I−V−L−I−A−A−L−T−V−M(配列番号119)、I−V−L−I−A−A−L−T−V−V(配列番号120)、I−V−L−M−G−A−L−T−V−A(配列番号121)、I−V−L−M−S−A−L−T−V−A(配列番号122)、I−V−L−M−A−V−L−T−V−A(配列番号123)、I−V−L−M−A−A−L−A−V−A(配列番号124)、I−V−L−M−A−A−L−T−A−A(配列番号125)、I−V−L−M−A−A−L−T−I−A(配列番号126)、I−V−L−M−A−A−L−T−V−M(配列番号127)、I−V−L−M−A−A−L−T−V−V(配列番号128)、I−V−L−V−G−V−L−T−V−A(配列番号129)、I−V−L−V−G−A−L−A−V−A(配列番号130)、I−V−L−V−G−A−L−T−A−A(配列番号131)、I−V−L−V−G−A−L−T−I−A(配列番号132)、I−V−L−V−G−A−L−T−V−M(配列番号133)、I−V−L−V−G−A−L−T−V−V(配列番号134)、I−V−L−V−S−V−L−T−V−A(配列番号135)、I−V−L−V−S−A−L−A−V−A(配列番号136)、I−V−L−V−S−A−L−T−A−A(配列番号137)、I−V−L−V−S−A−L−T−I−A(配列番号138)、I−V−L−V−S−A−L−T−V−M(配列番号139)、I−V−L−V−S−A−L−T−V−V(配列番号140)、I−V−L−V−A−V−L−A−V−A(配列番号141)、I−V−L−V−A−V−L−T−A−A(配列番号142)、I−V−L−V−A−V−L−T−I−A(配列番号143)、I−V−L−V−A−V−L−T−V−M(配列番号144)、I−V−L−V−A−V−L−T−V−V(配列番号145)、I−V−L−V−A−A−L−A−A−A(配列番号146)、I−V−L−V−A−A−L−A−I−A(配列番号147)、I−V−L−V−A−A−L−A−V−M(配列番号148)、I−V−L−V−A−A−L−A−V−V(配列番号149)、I−V−L−V−A−A−L−T−A−M(配列番号150)、I−V−L−V−A−A−L−T−A−V(配列番号151)、I−V−L−V−A−A−L−T−I−M(配列番号152)、I−V−L−V−A−A−L−T−I−V(配列番号153)、V−I−M−I−A−A−L−T−V−A(配列番号154)、V−I−M−M−A−A−L−T−V−A(配列番号155)、V−I−M−V−G−A−L−T−V−A(配列番号156)、V−I−M−V−S−A−L−T−V−A(配列番号157)、V−I−M−V−A−V−L−T−V−A(配列番号158)、V−I−M−V−A−A−L−A−V−A(配列番号159)、V−I−M−V−A−A−L−T−A−A(配列番号160)、V−I−M−V−A−A−L−T−I−A(配列番号161)、V−I−M−V−A−A−L−T−V−M(配列番号162)、V−I−M−V−A−A−L−T−V−V(配列番号163)、V−I−L−I−G−A−L−T−V−A(配列番号164)、V−I−L−I−S−A−L−T−V−A(配列番号165)、V−I−L−I−A−V−L−T−V−A(配列番号166)、V−I−L−I−A−A−L−A−V−A(配列番号167)、V−I−L−I−A−A−L−T−A−A(配列番号168)、V−I−L−I−A−A−L−T−I−A(配列番号169)、V−I−L−I−A−A−L−T−V−M(配列番号170)、V−I−L−I−A−A−L−T−V−V(配列番号171)、V−I−L−M−G−A−L−T−V−A(配列番号172)、V−I−L−M−S−A−L−T−V−A(配列番号173)、V−I−L−M−A−V−L−T−V−A(配列番号174)、V−I−L−M−A−A−L−A−V−A(配列番号175)、V−I−L−M−A−A−L−T−A−A(配列番号176)、V−I−L−M−A−A−L−T−I−A(配列番号177)、V−I−L−M−A−A−L−T−V−M(配列番号178)、V−I−L−M−A−A−L−T−V−V(配列番号179)、V−I−L−V−G−V−L−T−V−A(配列番号180)、V−I−L−V−G−A−L−A−V−A(配列番号181)、V−I−L−V−G−A−L−T−A−A(配列
番号182)、V−I−L−V−G−A−L−T−I−A(配列番号183)、V−I−L−V−G−A−L−T−V−M(配列番号184)、V−I−L−V−G−A−L−T−V−V(配列番号185)、V−I−L−V−S−V−L−T−V−A(配列番号186)、V−I−L−V−S−A−L−A−V−A(配列番号187)、V−I−L−V−S−A−L−T−A−A(配列番号188)、V−I−L−V−S−A−L−T−I−A(配列番号189)、V−I−L−V−S−A−L−T−V−M(配列番号190)、V−I−L−V−S−A−L−T−V−V(配列番号191)、V−I−L−V−A−V−L−A−V−A(配列番号192)、V−I−L−V−A−V−L−T−A−A(配列番号193)、V−I−L−V−A−V−L−T−I−A(配列番号194)、V−I−L−V−A−V−L−T−V−M(配列番号195)、V−I−L−V−A−V−L−T−V−V(配列番号196)、V−I−L−V−A−A−L−A−A−A(配列番号197)、V−I−L−V−A−A−L−A−I−A(配列番号198)、V−I−L−V−A−A−L−A−V−M(配列番号199)、V−I−L−V−A−A−L−A−V−V(配列番号200)、V−I−L−V−A−A−L−T−A−M(配列番号201)、V−I−L−V−A−A−L−T−A−V(配列番号202)、V−I−L−V−A−A−L−T−I−M(配列番号203)、V−I−L−V−A−A−L−T−I−V(配列番号204)、V−V−M−I−G−A−L−T−V−A(配列番号205)、V−V−M−I−S−A−L−T−V−A(配列番号206)、V−V−M−I−A−V−L−T−V−A(配列番号207)、V−V−M−I−A−A−L−A−V−A(配列番号208)、V−V−M−I−A−A−L−T−A−A(配列番号209)、V−V−M−I−A−A−L−T−I−A(配列番号210)、V−V−M−I−A−A−L−T−V−M(配列番号211)、V−V−M−I−A−A−L−T−V−V(配列番号212)、V−V−M−M−G−A−L−T−V−A(配列番号213)、V−V−M−M−S−A−L−T−V−A(配列番号214)、V−V−M−M−A−V−L−T−V−A(配列番号215)、V−V−M−M−A−A−L−A−V−A(配列番号216)、V−V−M−M−A−A−L−T−A−A(配列番号217)、V−V−M−M−A−A−L−T−I−A(配列番号218)、V−V−M−M−A−A−L−T−V−M(配列番号219)、V−V−M−M−A−A−L−T−V−V(配列番号220)、V−V−M−V−G−V−L−T−V−A(配列番号221)、V−V−M−V−G−A−L−A−V−A(配列番号222)、V−V−M−V−G−A−L−T−A−A(配列番号223)、V−V−M−V−G−A−L−T−I−A(配列番号224)、V−V−M−V−G−A−L−T−V−M(配列番号225)、V−V−M−V−G−A−L−T−V−V(配列番号226)、V−V−M−V−S−V−L−T−V−A(配列番号227)、V−V−M−V−S−A−L−A−V−A(配列番号228)、V−V−M−V−S−A−L−T−A−A(配列番号229)、V−V−M−V−S−A−L−T−I−A(配列番号230)、V−V−M−V−S−A−L−T−V−M(配列番号231)、V−V−M−V−S−A−L−T−V−V(配列番号232)、V−V−M−V−A−V−L−A−V−A(配列番号233)、V−V−M−V−A−V−L−T−A−A(配列番号234)、V−V−M−V−A−V−L−T−I−A(配列番号235)、V−V−M−V−A−V−L−T−V−M(配列番号236)、V−V−M−V−A−V−L−T−V−V(配列番号237)、V−V−M−V−A−A−L−A−A−A(配列番号238)、V−V−M−V−A−A−L−A−I−A(配列番号239)、V−V−M−V−A−A−L−A−V−M(配列番号240)、V−V−M−V−A−A−L−A−V−V(配列番号241)、V−V−M−V−A−A−L−T−A−M(配列番号242)、V−V−M−V−A−A−L−T−A−V(配列番号243)、V−V−M−V−A−A−L−T−I−M(配列番号244)、V−V−M−V−A−A−L−T−I−V(配列番号245)、V−V−L−I−G−V−L−T−V−A(配列番号246)、V−V−L−I−G−A−L−A−V−A(配列番号247)、V−V−L−I−G−A−L−T−A−A(配列番号248)、V−V−L−I−G−A−L−T−I−A(配列番号249)、V−V−L−I−G−A−L−T−V−M(配列番号250)、V−V−L−I−G−A−L−T−V−V(配列番号251)、V−V−L−I−S−V−L−T−V−A(配列番号252)、V−V−L−I−S−A−L−A−V−A(配列番号253)、V−V−L−I−S−A−L−T−A−A(配列番号254)、V−V−L−I−S−A−L−T−I−A(配列番号255)、V−V−L−I−S−A−L−T−V−M(配列番号256)、V−V−L−I−S−A−L−T−V−V(配列番号257)、V−V−L−I−A−V−L−A−V−A(配列番号258)、V−V−L−I−A−V−L−T−A−A(配列番号259)、V−V−L−I−A−V−L−T−I−A(配列番号260)、V−V−L−I−A−V−L−T−V−M(配列番号261)、V−V−L−I−A−V−L−T−V−V(配列番号262)、V−V−L−I−A−A−L−A−A−A(配列番号263)、V−V−L−I−A−A−L−A−I−A(配列番号264)、V−V−L−I−A−A−L−A−V−M(配列番号265)、V−V−L−I−A−A−L−A−V−V(配列番号266)、V−V−L−I−A−A−L−T−A−M(配列番号267)、V−V−L−I−A−A−L−T−A−V(配列番号268)、V−V−L−I−A−A−L−T−I−M(配列番号269)、V−V−L−I−A−A−L−T−I−V(配列番号270)、V−V−L−M−G−V−L−T−V−A(配列番号271)、V−V−L−M−G−A−L−A−V−A(配列番号272)、V−V−L−M−G−A−L−T−A−A(配列番号273)、V−V−L−M−G−A−L−T−I−A(配列番号274)、V−V−L−M−G−A−L−T−V−M(配列番号275)、V−V−L−M−G−A−L−T−V−V(配列番号276)、V−V−L−M−S−V−L−T−V−A(配列番号277)、V−V−L−M−S−A−L−A−V−A(配列番号278)、V−V−L−M−S−A−L−T−A−A(配列番号279)、V−V−L−M−S−A−L−T−I−A(配列番号280)、V−V−L−M−S−A−L−T−V−M(配列番号281)、V−V−L−M−S−A−L−T−V−V(配列番号282)、V−V−L−M−A−V−L−A−V−A(配列番号283)、V−V−L−M−A−V−L−T−A−A(配列番号284)、V−V−L−M−A−V−L−T−I−A(配列番号285)、V−V−L−M−A−V−L−T−V−M(配列番号286)、V−V−L−M−A−V−L−T−V−V(配列番号287)、V−V−L−M−A−A−L−A−A−A(配列番号288)、V−V−L−M−A−A−L−A−I−A(配列番号289)、V−V−L−M−A−A−L−A−V−M(配列番号290)、V−V−L−M−A−A−L−A−V−V(配列番号291)、V−V−L−M−A−A−L−T−A−M(配列番号292)、V−V−L−M−A−A−L−T−A−V(配列番号293)、V−V−L−M−A−A−L−T−I−M(配列番号294)、V−V−L−M−A−A−L−T−I−V(配列番号295)、V−V−L−V−G−V−L−A−V−A(配列番号296)、V−V−L−V−G−V−L−T−A−A(配列番号297)、V−V−L−V−G−V−L−T−I−A(配列番号298)、V−V−L−V−G−V−L−T−V−M(配列番号299)、V−V−L−V−G−V−L−T−V−V(配列番号300)、V−V−L−V−G−A−L−A−A−A(配列番号301)、V−V−L−V−G−A−L−A−I−A(配列番号302)、V−V−L−V−G−A−L−A−V−M(配列番号303)、V−V−L−V−G−A−L−A−V−V(配列番号304)、V−V−L−V−G−A−L−T−A−M(配列番号305)、V−V−L−V−G−A−L−T−A−V(配列番号306)、V−V−L−V−G−A−L−T−I−M(配列番号307)、V−V−L−V−G−A−L−T−I−V(配列番号308)、V−V−L−V−S−V−L−A−V−A(配列番号309)、V−V−L−V−S−V−L−T−A−A(配列番号310)、V−V−L−V−S−V−L−T−I−A(配列番号311)、V−V−L−V−S−V−L−T−V−M(配列番号312)、V−V−L−V−S−V−L−T−V−V(配列番号313)、V−V−L−V−S−A−L−A−A−A(配列番号314)、V−V−L−V−S−A−L−A−I−A(配列番号315)、V−V−L−V−S−A−L−A−V−M(配列番号316)、V−V−L−V−S−A−L−A−V−A−V(配列番号317)、V−V−L−V−S−A−L−T−A−M(配列番号318)、V−V−L−V−S−A−L−T−A−V(配列番号319)、V−V−L−V−S−A−L−T−I−M(配列番号320)、V−V−L−V−S−A−L−T−I−V(配列番号321)、V−V−L−V−A−V−L−A−A−A(配列番号322)、V−V−L−V−A−V−L−A−I−A(配列番号323)、V−V−L−V−A−V−L−A−V−M(配列番号324)、V−V−L−V−A−V−L−A−V−V(配列番号325)、V−V−L−V−A−V−L−T−A−M(配列番号326)、V−V−L−V−A−V−L−T−A−V(配列番号327)、V−V−L−V−A−V−L−T−I−M(配列番号328)、V−V−L−V−A−V−L−T−I−V(配列番号329)、V−V−L−V−A−A−L−A−A−M(配列番号330)、V−V−L−V−A−A−L−A−A−V(配列番号331)、V−V−L−V−A−A−L−A−I−M(配列番号332)及びV−V−L−V−A−A−L−A−I−V(配列番号333)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる。これらのアミノ酸配列は、本発明によるペプチドに含まれるアミノ酸モチーフの好ましい特定の実施形態である。別の実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、上記のアミノ酸配列、すなわち配列番号4〜配列番号333からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、又はこれからなり、上記アミノ酸配列はさらに、そのN末端に直接結合したチロシン残基を有する、又はこれを含む。したがって、例えば好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号390)、すなわちそのアミノ末端と直接結合したチロシンを有する配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる。
【0058】
本発明によるペプチドの特に好ましい別の実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列V−[V/I]−L−[V/I]−[A/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A]−A(配列番号374)を含み、これから本質的になり、又はこれからなり、好ましい配列はV−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)であり、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、さらにより好ましくは最大2個、最も好ましくは最大1個のアミノ酸が上で記載したように置換される。したがって、本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、アミノ酸モチーフはアミノ酸配列V−[V/I]−L−[V/I]−[A/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A]−A(配列番号374)からなり、好ましい配列はV−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)であり、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、さらにより好ましくは最大2個、最も好ましくは最大1個のアミノ酸が上で記載したように別のアミノ酸で置換される。
【0059】
本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)、V−I−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号6)、V−V−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号7)、I−I−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号95)、V−V−L−I−A−A−L−A−A−A(配列番号263)、V−I−L−V−S−V−L−T−V−A(配列番号186)、I−I−L−M−G−A−L−T−V−A(配列番号334)及びV−V−M−V−A−A−L−T−V−V(配列番号50)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。これらのアミノ酸配列は、本発明によるペプチドに含まれるアミノ酸モチーフの特に好ましい特定の実施形態である。
【0060】
本発明によるペプチドの別の実施形態では、C、C−N、C−N−[N/D/E]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E(配列番号375)、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E−[N/T](配列番号376)からなる群から選択される、好ましくはC、C−N、C−N−N、C−N−N−F(配列番号335)、C−N−N−F−F(配列番号336)、C−N−N−F−F−W(配列番号337)、C−N−N−F−F−W−E(配列番号338)及びC−N−N−F−F−W−E−N(配列番号339)からなる群から選択されるアミノ酸又はアミノ酸配列が、アミノ酸モチーフのカルボキシ末端と直接連結する。本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]−[F/Y]、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F(配列番号377)、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q](配列番号378)、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E(配列番号379)及び[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E−[N/T](配列番号380)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。
【0061】
好ましくは、筋機能増強アミノ酸配列は、上で記載した群から選択されるアミノ酸又はアミノ酸配列がそのカルボキシ末端と直接連結する、上で具体的に開示されたアミノ酸配列、すなわち具体的に開示されたアミノ酸モチーフのアミノ酸配列のいずれかを含む、又はこれからなる。例えば、好ましくは筋機能増強アミノ酸配列は、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C(配列番号340)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N(配列番号341)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N(配列番号342)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F(配列番号343)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F(配列番号344)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F−W(配列番号345)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F−W−E(配列番号346)及びV−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F−W−E−N(配列番号347)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる。
【0062】
本発明によるペプチドの別の実施形態では、芳香族アミノ酸、好ましくはチロシン、フェニルアラニン又はトリプトファン、より好ましくはチロシン又はフェニルアラニン、最も好ましくはチロシンが、アミノ酸モチーフのアミノ末端と直接連結する。好ましくは、筋機能増強アミノ酸配列は、チロシンによりそのアミノ末端で伸長された上で具体的に開示されたアミノ酸配列のうちの1つを含む、又はこれからなる。
【0063】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、膜浸透増強モチーフ、1つ又は複数のエピトープタグ、親水性モチーフ、及びペプチド標的化モチーフからなる群から選択される要素のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ又は4つをさらに含む。
【0064】
膜浸透増強モチーフは、上で記載したように膜に浸透することが可能である任意のアミノ酸配列、例えば細胞浸透ペプチド(CCP)であり得る。上記膜浸透増強モチーフは、該膜浸透増強モチーフが上記高分子と結合した場合、通常は細胞膜を横断する能力を有しない他の高分子、例えばペプチド、タンパク質又は核酸が無傷の細胞膜に浸透することを可能とし得る。かかる膜浸透増強モチーフは、タンパク質形質導入ドメイン由来のものであってもよく、両親媒性ペプチドであってもよく、又は任意の他の浸透ペプチドであってもよい。例えば、膜浸透増強モチーフは、HIV Tatペプチド、例えばG−R−K−K−R−R−Q−R−R−R(配列番号348)、ペネトラチンペプチド、例えばR−Q−I−K−I−W−F−Q−N−R−R−M−K−W−K−K(配列番号349)若しくはK−K−W−K−M−R−R−N−Q−F−W−V−K−V−Q−R−G(配列番号350)、トランスポータンペプチド、例えばG−W−T−L−N−S−A−G−Y−L−L−G−K−I−N−L−K−A−L−A−A−L−A−K−K−I−L(配列番号351)、MPG/Pepファミリーの成員のペプチド、例えばG−A−L−F−L−G−F−L−G−A−A−G−S−T−M−G−A−W−S−Q−P−K−K−K−R−K−V(配列番号352)若しくはK−E−T−W−W−E−T−W−W−T−E−W−S−Q−P−K−K−K−R−K−V(配列番号353)、又はアルギニンリッチペプチド等由来のものであり得る(Deshayes et al., 2005, Cell. Mol. Life Sci. 62:1839-1849)。かかる膜浸透増強モチーフは、本発明によるペプチド内において、筋機能増強アミノ酸配列に対してアミノ末端に又はカルボキシ末端に位置し得る。さらに、本発明によるペプチドは2つ以上の膜浸透増強モチーフを含んでいてもよく、例えば本発明によるペプチドは2つ、3つ、4つ又は5つのかかるモチーフを含有していてもよい。
【0065】
エピトープは、抗体が結合する分子の一部分である。本発明との関連では、エピトープは好ましくは、ペプチドタグ、例えばヘマグルチニン(HA)タグ、FLAGタグ、mycタグ又はポリHisタグである。かかるエピトープタグを使用して、例えば本発明のペプチドが細胞膜に浸透する、すなわち細胞膜を横断するかどうかを決定するために、細胞内において本発明のペプチドを探索する(locate)ことができ、該タグを、上記ペプチドと共にインキュベートした無傷の細胞の内部で見出すことができる。
【0066】
特定の好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、親水性モチーフをさらに含む。好ましい一実施形態では、上記親水性モチーフは、酸性の、塩基性の、及び/又はそうでなくとも負に若しくは正に荷電したアミノ酸を含む。特定の本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、親水性モチーフは、アミノ酸モチーフΛ4−Θ2(式中、Λはアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンからそれぞれ独立して選択され、Θはα−ヘリックス遮断因子、好ましくはプロリン又はグリシンである)を含む、又はこれからなる。好ましくは、親水性モチーフは、[D/E]−[D/E]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[D/E]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[D/E]−[K/R]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[D/E]−[D/E]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[D/E]−[K/R]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[D/E]−[D/E]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[K/R]−[K/R]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[K/R]−[D/E]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[D/E]−[K/R]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[K/R]−[K/R]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[K/R]−[D/E]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[D/E]−[K/R]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[K/R]−[K/R]−[K/R]−[P/G]−[P/G]及び[K/R]−[K/R]−[K/R]−[K/R]−[P/G]−[P/G]からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる。好ましくは、親水性モチーフは、アミノ酸配列[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]を含む、又はこれからなる。より好ましくは、親水性モチーフは、D−K−D−D−P−P(配列番号354)、E−K−D−D−P−P(配列番号355)、D−R−D−D−P−P(配列番号356)、D−K−E−D−P−P(配列番号357)、D−K−D−E−P−P(配列番号358)、E−R−D−D−P−P(配列番号359)、E−K−E−D−P−P(配列番号360)、E−K−D−E−P−P(配列番号361)、D−R−E−D−P−P(配列番号362)、D−R−D−E−P−P(配列番号363)、D−K−E−E−P−P(配列番号364)、E−R−E−D−P−P(配列番号365)、E−R−D−E−P−P(配列番号366)、D−R−E−E−P−P(配列番号367)、E−K−E−E−P−P(配列番号368)及びE−R−E−E−P−P(配列番号369)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる(上記配列におけるP−Pは、G−Gに交換してもよい)。最も好ましくは、親水性モチーフは、アミノ酸配列D−K−D−D−P−P(配列番号354)を含む、又はこれからなる(上記配列におけるP−PもG−Gであってもよい)。好ましくは親水性モチーフは、本発明によるペプチド内において、筋機能増強アミノ酸配列に対してアミノ末端に位置するが、筋機能増強アミノ酸配列に対してカルボキシ末端に位置していてもよい。特に好ましい一実施形態では、親水性モチーフは、筋機能増強アミノ酸配列のアミノ末端と直接連結し、好ましくはアミノ酸モチーフのアミノ末端と直接連結する。
【0067】
したがって本発明の特定の好ましい一実施形態では、ペプチドは、アミノ酸配列Λ4−Θ2−Φ4−X−Ψ−L−[T/A]−Ψ2(式中、Λはアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンからそれぞれ独立して選択され、Θはα−ヘリックス遮断因子であり、好ましくはプロリン又はグリシンからそれぞれ独立して選択され、Φ及びΨはそれぞれ独立して選択される疎水性の非芳香族アミノ酸であり、好ましくはΦはメチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択され、Ψはそれぞれ好ましくはアラニン、メチオニン、イソロイシン及びバリンから選択され、Xは任意のアミノ酸、好ましくは低分子アミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、セリン、システイン、トレオニン及びバリンから選択され、より好ましくはグリシン、アラニン及びセリンから選択される)を含む、これから本質的になる、好ましくはこれからなる。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。
【0068】
さらにより好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列Λ4−Θ2−[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]、(式中、Λはアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンからそれぞれ独立して選択され、Θはα−ヘリックス遮断因子、好ましくはプロリン又はグリシンである)を含む、好ましくはこれからなる。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。
【0069】
さらにより好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]−[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]を含む、好ましくはこれからなる。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。
【0070】
さらにより好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−P−P−V−[V/I]−L−[V/I]−[A/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A]−A(配列番号381)を含む、好ましくはこれからなる。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。
【0071】
最も好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列D1−K2−D3−D4−P5−P6−V7−V8−L9−V10−A11−A12−L13−T14−V15−A16(配列番号370)、又は配列番号370に示されるアミノ酸配列、すなわちD1−K2−D3−D4−P5−P6−V7−V8−L9−V10−A11−A12−L13−T14−V15−A16と好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、これから本質的になる、好ましくはこれからなる。好ましくは、アミノ酸置換は上で記載したようなものであり、例えばD1はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、K2はアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸により、好ましくはアルギニンにより置換されてもよく、D3はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、D4はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、P5及びP6は独立してグリシンにより置換されてもよく、V7及びV8は独立してイソロイシンにより置換されてもよく、好ましくはV7は置換されず、L9はメチオニンにより置換されてもよいが好ましくは置換されず、V10はイソロイシン又はメチオニンにより、好ましくはイソロイシンにより置換されてもよく、A11はグリシン又はセリンにより、好ましくはセリンにより置換されてもよく、A12はバリンにより置換されてもよく、T14はアラニンにより置換されてもよく、V15はアラニン又はイソロイシンにより、好ましくはアラニンにより置換されてもよく、A16はメチオニン又はバリンにより置換されてもよいが好ましくは置換されない。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。したがって、好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、上で記載したようにアミノ酸残基が置換されてもよいアミノ酸配列D1−K2−D3−D4−P5−P6−V7−V8−L9−V10−A11−A12−L13−T14−V15−A16(配列番号371)を含み、これから本質的になり、好ましくはこれからなり、好ましくは該アミノ酸配列は配列番号370に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有し、上記の機能のうちの好ましくは1つ又は複数、好ましくは全てを観察することができ、最も好ましくは該ペプチドは細胞透過性を有する。
【0072】
別の好ましい実施形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列D1−K2−D3−D4−P5−P6−Y7−V8−V9−L10−V11−A12−A13−L14−T15−V16−A17(配列番号372)、又は配列番号372に示されるアミノ酸配列、すなわちD1−K2−D3−D4−P5−P6−Y7−V8−V9−L10−V11−A12−A13−L14−T15−V16−A17と好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、これから本質的になる、好ましくはこれからなる。好ましくは、アミノ酸置換は上で記載したようなものであり、例えばD1はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、K2はアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸により、好ましくはアルギニンにより置換されてもよく、D3はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、D4はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、P5及びP6は独立してグリシンにより置換されてもよく、Y7はフェニルアラニンまたはトリプトファンにより、好ましくはフェニルアラニンにより置換されてもよく、V8及びV9は独立してイソロイシンにより置換されてもよく、好ましくはV8は置換されず、L10はメチオニンにより置換されてもよいが好ましくは置換されず、V11はイソロイシン又はメチオニンにより、好ましくはイソロイシンにより置換されてもよく、A12はグリシン又はセリンにより、好ましくはセリンにより置換されてもよく、A13はバリンにより置換されてもよく、T15はアラニンにより置換されてもよく、V16はアラニン又はイソロイシンにより、好ましくはアラニンにより置換されてもよく、A17はメチオニン又はバリンにより置換されてもよいが好ましくは置換されない。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。したがって、好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、上で記載したようにアミノ酸残基が置換されてもよいアミノ酸配列D1−K2−D3−D4−P5−P6−Y7−V8−V9−L10−V11−A12−A13−L14−T15−V16−A17(配列番号373)を含み、これから本質的になり、好ましくはこれからなり、好ましくは該アミノ酸配列は配列番号372に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有し、上記の機能のうちの好ましくは1つ又は複数、好ましくは全てを観察することができ、最も好ましくは該ペプチドは細胞透過性を有する。
【0073】
本発明との関連ではペプチド標的化モチーフは、in vivoでペプチドを特定の器官又は特定の細胞に対して標的化するのに好適な任意の部分であり得る。例えば、ペプチド標的化モチーフは、或る特定の細胞又は或る特定の器官に特異的な特定の受容体と特異的に結合するペプチドであり得る。好ましくは、本発明によるペプチド内におけるペプチド標的化モチーフの存在により、該ペプチドが全身投与された患者における細胞又は器官の特異的な標的化が可能となる。
【0074】
別の実施形態では、本発明のペプチドは、マーカー部分をさらに含む。本発明との関連ではマーカー部分は、ペプチドを直接検出することを可能とする任意の部分、例えば蛍光標識、例えばフルオレセイン(例えばフルオレセインイソチオシアネートFITC)、ローダミン(例えば、テトラメチルローダミンTAMRA、又はそのイソチオシアネート誘導体TRITC、スルホローダミン101、及びそのスルホニルクロリド形態であるテキサスレッド(商標)、及びローダミンレッド)、又はアレクサフルオル(登録商標)色素、放射標識、例えば放射標識したアミノ酸又はビオチンであり得る。一実施形態では、本発明のペプチドは、親水性モチーフ、好ましくはD−K−D−D−P−P(配列番号354)、及びマーカー部分、好ましくはFITC又はローダミンを含み、好ましくは筋機能増強アミノ酸配列はV−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)であり、好ましくは親水性モチーフは筋機能増強アミノ酸配列のアミノ末端と直接連結する。
【0075】
当業者は、本発明によるペプチドを製造する方法を十分に認識する。例えば、ペプチドを、例えば液相ペプチド合成若しくは固相ペプチド合成により、化学的に合成することができ、又はペプチドを、組換えDNA技法、及び細胞発現系、例えば細菌(例えば大腸菌)細胞、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳動物の細胞等、若しくはin vitro発現系を使用して遺伝子工学的に製造することができる。
【0076】
第2の態様では、本発明は、医学的使用のための本発明の第1の態様によるペプチドを提供する。
【0077】
第3の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害、例えば筋症の治療及び/又は予防に関する治療上の使用のための本発明の第1及び第2の態様によるペプチドを提供する。好ましくは、上記障害は、心筋障害及び/又は骨格筋障害である。障害は、後天性又は先天性のものであり得る。この関連では、「後天性の(acquired)」という用語は、医学的状態、すなわち障害が、胎生期後に(post-fetally)発症したことを意味する。本発明との関連ではかかる後天性障害は心筋梗塞であり得る。後天性骨格筋障害の一例は筋炎である。先天性障害は、遺伝学的異常、形態形成の誤り、又は染色体異常の結果として起こり得る成長中の胎児に対する欠陥を含む。遺伝学的疾患又は障害は、人生の後半まで現れない又は認識されないことがあるが、全て先天性のものである。本発明との関連では先天性障害は例えば、ネマリン筋症、筋細管筋症又は中心核筋症である。さらに本発明との関連では、心筋障害又は骨格筋障害は、急性又は慢性のものであり得る。例えば、急性心筋障害は急性心不全であり、急性骨格筋障害は横紋筋融解症である。慢性骨格筋障害は例えば皮膚筋炎である。慢性心筋疾患は例えば慢性心不全である。
【0078】
本発明の第3の態様の好ましい一実施形態では、筋機能障害は、筋肉細胞における、好ましくは骨格筋細胞又は心筋細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する。好ましくは、ペプチドは、筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである。筋細胞におけるカルシウム循環不全は、筋小胞体におけるカルシウム含有量の低減、興奮収縮連関時における筋小胞体からのカルシウムの放出の低減、筋小胞体からのカルシウム漏出(例えば漏れやすいRyR筋小胞体カルシウム放出チャネルによる)、カルシウムスパーク頻度の増大、又は収縮後における筋小胞体及び/若しくはミトコンドリア中へのカルシウムの再取込みの低減若しくは遅延化(例えば機能障害を有する若しくは機能しない筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ(SERCA)による)の結果として起こるものであり得る。この理論に拘束されるものではないが、カルシウム循環不全は、筋肉細胞の収縮能力不全、例えば収縮機能不全に関する主要な理由の1つであると考えられる。したがって、カルシウム循環を増強する又はこれを回復させることは、収縮能力も増強する及び/又はこれを回復させると考えられる。ほとんど全ての心筋障害/疾患及び骨格筋障害/疾患は、それぞれの筋肉細胞の収縮機能不全の結果として起こるものである。例えば心不整脈においては、心筋収縮が正確に時機制御されない。このことは、致死的な結果をもたらし得る。骨格筋障害のほとんどでは、収縮能力が低減し、例えば様々な種類のジストロフィーにおけるもののような、筋力低下の結果をもたらす。本発明の第1の態様によるペプチドは、筋細胞におけるカルシウム循環を増強する及び/又はこれを回復させることが可能であり、それにより収縮能力を増強する及び/又はこれを回復させると考えられる。しかしながら、本発明のペプチドが、筋機能障害と関連する障害(該筋機能障害はカルシウム循環不全と関連する)を治療するのに好適なだけでなく、カルシウム処理の機能障害に基づくものでない筋疾患を治療するのにも好適であることが強調される。これらの疾患においては本発明のペプチドは、症状、例えば筋力低下を軽減することができる。
【0079】
本発明の第2及び第3の態様の好ましい一実施形態では、ペプチドは、不整脈から、好ましくはカテコールアミンに誘発される不整脈から筋細胞、好ましくは骨格筋細胞及び/又は心筋細胞、より好ましくは心臓組織を保護するための、好ましくは心室性不整脈から、好ましくは致死性の心室性頻脈性不整脈から、したがって好ましくは心臓突然死から個体を保護するためのものである。好ましくは上記機能は、好ましくはペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0080】
本発明の第2及び第3の態様のさらに好ましい一実施形態では、ペプチドは、筋細胞において、好ましくは骨格筋細胞及び/若しくは心筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させるための、並びに/又は筋細胞、好ましくは骨格筋細胞及び/若しくは心筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/若しくはこれを低減させるためのものである。好ましくは上記機能は、好ましくはペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0081】
本発明の第2及び第3の態様のさらに好ましい一実施形態では、ペプチドは、筋肉細胞の、好ましくは骨格筋細胞及び/又は心筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する又はこれを低減させるためのものである。好ましくは、ペプチドは、漏れやすいRyR筋小胞体カルシウム放出チャネルによる筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する又はこれを低減させるためのものである。好ましくは上記機能は、好ましくはペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0082】
本発明の第2及び第3の態様の別の好ましい実施形態では、ペプチドは、アポトーシス細胞死から、好ましくはカルシウム誘導性アポトーシス細胞死から、好ましくは筋小胞体のカルシウム漏出に誘発されるアポトーシス細胞死から筋細胞、好ましくは骨格筋細胞及び/又は心筋細胞を保護するためのものである。好ましくは、ペプチドは、不全心筋におけるアポトーシス細胞死を防止する、すなわち不全心筋におけるアポトーシス細胞死から心筋細胞を保護するためのものである。好ましくは上記機能は、好ましくはペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0083】
本発明の第2及び第3の態様の特に好ましい別の実施形態では、ペプチドは、血行動態機能、例えば心機能、例えば心筋細胞の収縮能力を回復させる及び/又はこれを増強するためのものであり、好ましくはペプチドは、心不全に、例えば心筋梗塞に罹患している又は罹患したことがある個体において血行動態機能を回復させる及び/又はこれを増強するためのものである。好ましくは上記機能は、ペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0084】
本発明の第2及び第3の態様の別の好ましい実施形態では、ペプチドは、骨格筋細胞において収縮能力を増強する及び/又はこれを回復させるための、好ましくは骨格筋細胞において、好ましくは骨格筋組織において等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する及び/又はこれを回復させるためのものである。等尺性単収縮力は筋肉の短縮を伴わない張力の発生であり、強縮性単収縮力は最大の等尺性力の発生であり、通常、単収縮は50Hz超の刺激でマージし(merge)始める。好ましくは上記機能は、好ましくはペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0085】
本発明の第1の態様における本発明によるペプチドの特定の実施形態の機能的特徴に関する開示が、本発明の第2及び第3の態様にも適用されることが強調される。
【0086】
本発明の第3の態様の好ましい一実施形態では、心筋障害は、虚血後収縮機能不全、好ましくは虚血後右心室収縮機能不全及び/又は虚血後左心室収縮機能不全、うっ血性心不全、好ましくは代償性及び/又は非代償性うっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、並びに心室障害、例えば急性又は慢性の右心室障害からなる群から選択される。
【0087】
本発明の第3の態様の好ましい一実施形態では、骨格筋障害は、筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン(桿状体)筋症、中心核筋症、筋細管筋症、中心核筋細管筋症、眼の眼筋麻痺、及びミトコンドリア筋症からなる群から選択される。筋ジストロフィーは、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋強直性筋ジストロフィー及び眼咽頭型筋ジストロフィーからなる群から選択することができる。筋炎は、骨化性筋炎、線維筋炎、特発性炎症性筋症(例えば皮膚筋炎、多発性筋炎及び封入体筋炎)及び化膿性筋炎からなる群から選択することができる。
【0088】
第4の態様では、本発明は、第1の態様のペプチド、又はその薬学的に許容可能な塩、並びに薬学的に許容可能な添加物、担体及び/又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
【0089】
「薬学的に許容可能な塩」という用語は、本発明のペプチドの塩を表す。好適な薬学的に許容可能な塩は、例えば、本発明のペプチドの溶液を、薬学的に許容可能な酸(例えば塩酸、硫酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、酒石酸、炭酸又はリン酸)の溶液と混合することにより形成することができる酸付加塩を含む。さらに、ペプチドが酸性分子部分を保有する場合には、その好適な薬学的に許容可能な塩は、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩又はカリウム塩);アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩又はマグネシウム塩);及び好適な有機リガンド(例えばハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、カルボン酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、アルキルスルホン酸イオン及びアリールスルホン酸イオン等の対陰イオンを使用して形成した、アンモニウム陽イオン、四級アンモニウム陽イオン及びアミン陽イオン)で形成される塩を含み得る。薬学的に許容可能な塩の例示的な例は、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物塩、酪酸塩、エデト酸カルシウム、カンファー酸塩(camphorate)、カンファースルホン酸塩(camphorsulfonate)、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物塩、クエン酸塩、クラブラン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、二塩酸塩、ドデシル硫酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストール酸塩(estolate)、エシル酸塩(esylate)、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩(glycolylarsanilate)、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩(hexylresorcinate)、ヒドラバミン(hydrabamine)、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシ−エタンスルホン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物塩、イソチオン酸塩(isothionate)、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メタンスルホン酸塩、メチル硫酸塩、ムチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、N−メチルグルカミンアンモニウム塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩(エンボン酸塩(embonate))、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、硫酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド(triethiodide)、ウンデカン酸塩、吉草酸塩等を含むがこれらに限定されない(例えば、S. M. Berge et al., "Pharmaceutical Salts", J. Pharm. Sci.,66, pp. 1-19(1977)を参照されたい)。
【0090】
本明細書中で使用される場合の「添加物」という用語は、例えば担体、結合剤、滑剤、増粘剤、界面活性剤、保存料、乳化剤、緩衝液、香料又は着色料等の、活性成分ではない、医薬製剤中の全ての物質を示すことが意図される。
【0091】
好ましい一実施形態では、本発明の医薬組成物は、本発明の第3の態様における本発明のペプチドに関して上で記載したような筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するためのものである。
【0092】
別の好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、本発明の第3の態様における本発明によるペプチドに関して上で記載したように、不整脈から筋細胞を保護する、心室性不整脈から、好ましくは致死性の心室性頻脈性不整脈から、したがって好ましくは心臓突然死から個体を保護するための、筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させるための、筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/若しくはこれを低減させるための、アポトーシス細胞死から筋細胞を保護する、好ましくは不全心筋におけるアポトーシス細胞死から心筋細胞を保護するための、血行動態機能を回復させる及び/若しくはこれを増強する、好ましくは心不全に罹患している個体において血行動態機能を増強するための、並びに/又は骨格筋細胞において収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、好ましくは骨格筋細胞において等尺性単収縮力及び/若しくは強縮性単収縮力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである。
【0093】
本発明の対象となる医薬組成物を、当業者に既知の様々な方法で製剤化することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、液体形態で、例えば溶液、乳濁液又は懸濁液の形態であり得る。好ましくは、本発明の医薬組成物を、非経口投与用に、好ましくは静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、肺内投与、腹腔内投与、心臓内投与用に、又は粘膜を介した投与用に、好ましくは静脈内投与、皮下投与若しくは腹腔内投与用に製剤化する。好ましくは、本発明の医薬組成物は、他の物質、例えば溶液を血液と等張にするのに十分な塩又はグルコースを含有し得る無菌水溶液の形態である。水溶液は好適には、必要に応じて、緩衝化(好ましくは3〜9のpHまで、より好ましくは5〜7のpHまで)するべきである。
【0094】
医薬組成物は、好ましくは単位投与形態である。かかる形態では、医薬組成物は、適切な量の活性成分を含有する単位用量に細分類される。単位投与形態は包装された調製物であってもよく、該包装は例えばバイアル又はアンプルのように分離した量の医薬組成物を含有する。
【0095】
第5の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するための医薬組成物の調製のための本発明の第1の態様によるペプチドの使用を提供し、ここで上記障害は好ましくは本発明の第3の態様において上で記載したようなものである。好ましい一実施形態では、ペプチドの使用は、本発明の第3の態様における本発明によるペプチドに関して上で記載したように、不整脈から筋細胞を保護する、心室性不整脈から、好ましくは致死性の心室性頻脈性不整脈から、したがって好ましくは心臓突然死から個体を保護するための、筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させるための、筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/若しくはこれを低減させるための、アポトーシス細胞死から筋細胞を保護する、好ましくは不全心筋におけるアポトーシス細胞死から心筋細胞を保護するための、心不全に罹患している個体において血行動態機能を回復させる及び/若しくはこれを増強するための、並びに/又は骨格筋細胞において収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、好ましくは骨格筋細胞において等尺性単収縮力及び/若しくは強縮性単収縮力を増強する及び/若しくはこれを回復させるための医薬組成物の調製のためのものである。本発明の第5の態様の好ましい一実施形態では、該使用は、筋障害、好ましくは骨格筋障害及び/又は心筋障害と関連する疾患状態を改善するための医薬組成物の調製のためのものであり、ここで「疾患状態を改善する」という用語は、本発明の第6の態様に関して定義されるようなものである。
【0096】
第6の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害を治療又は予防する方法であって、それを必要とする個体に対して、上記個体、好ましくは患者の疾患状態を改善するのに十分な量の本発明の第1の態様のペプチド、又は本発明の第4の態様の医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。この関連では「疾患状態を改善する」は、例えば、ペプチド若しくは医薬組成物が患者に投与された後、或る特定の期間の後に個体が改善の主観的感覚を有すること、又は本発明のペプチド若しくは医薬組成物での治療後に疾患の筋肉の機能が測定可能な程度まで改善されていることを意味する。例えば、収縮能力、例えば筋肉組織、例えば疾患の心筋又は疾患の骨格筋の収縮力が、正常な収縮機能の平均値から50%逸脱していた場合、治療後に、上記筋肉組織の収縮能力が、対応する健常な筋肉組織の正常な収縮機能の平均値から50%未満、例えば40%未満、30%未満、20%未満、10%未満逸脱していれば、又は全く逸脱していなければ、治療により疾患状態が改善される。収縮能力は、健常な心臓組織の平均的な心機能と比較して改善することもある。「それを必要とする個体」という用語は好ましくは、上で規定されるような動物患者を、より好ましくは哺乳動物患者を、最も好ましくはヒト患者を表す。
【0097】
筋機能障害と関連する障害は好ましくは、本発明の第3の態様に関して規定されるようなものである。
【0098】
好ましい一実施形態では、本発明の第6の態様による方法は、本発明の第3の態様における本発明によるペプチドに関して上で記載したように、不整脈から筋細胞を保護する、心室性不整脈から、好ましくは致死性の心室性頻脈性不整脈から、したがって好ましくは心臓突然死から個体を保護するための、筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させるための、筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/若しくはこれを低減させるための、アポトーシス細胞死から筋細胞を保護する、好ましくは不全心筋におけるアポトーシス細胞死から心筋細胞を保護するための、心不全に罹患している個体において血行動態機能を回復させる及び/若しくはこれを増強するための、並びに/又は骨格筋細胞において収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、好ましくは骨格筋細胞において等尺性単収縮力及び/若しくは強縮性単収縮力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである。
【0099】
本発明の第5及び第6の態様において記載されるように筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するために、本発明によるペプチド又は医薬組成物を、動物患者、好ましくは哺乳動物患者、好ましくはヒト患者に対して、好ましくは非経口の投与経路を介して、例えば静脈内に、筋肉内に、皮下に、経皮的に、肺内に、腹腔内に、心臓内に、又は粘膜を介して、好ましくは静脈内に、皮下に、若しくは腹腔内に投与することができる。投与は、点滴若しくは古典的な注射によるもの、例えばカニューレを使用するもの、又は無針注射技法によるものであり得る。
【0100】
第7の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する疾患、好ましくは骨格筋疾患、より好ましくは心筋疾患を治療又は予防するために通常投与される別の薬物と組み合わせて本発明の第1の態様によるペプチドを含む、これから本質的になる、又はこれからなる組成物を提供する。好ましくは、上記組成物は、1つ又は複数の薬学的に許容可能な希釈剤、担体及び/又は添加物も含み得る医薬組成物である。好ましい一実施形態では、上記薬物は、好ましくは心筋細胞に対して、催不整脈能を示す。本発明のこの態様の好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、上記薬物の催不整脈能を低減させる。好ましくは上記薬物は、カテコールアミン、例えば直接β−模倣剤(mimetics)、例えば内因性若しくは合成のカテコールアミン、又は間接β−模倣剤、例えばホスホジエステラーゼ阻害剤β−模倣剤、又はRyR2のカルシウム感受性を増強する別の作用剤、例えばカフェイン、又は類似の化学物質、例えばプリンアルカロイド若しくはジメチルキサンチンである。本発明の第7の態様の好ましい一実施形態では、上記薬物は、カテコールアミン、β−アドレナリン受容体作動薬及びβ−アドレナリン受容体遮断薬からなる群から(form)選択される。一実施形態では、上記薬物は、カテコールアミン、例えばドブタミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン又はイソプレナリン、好ましくはドブタミン、ノルアドレナリン又はアドレナリンである。別の実施形態では、上記薬物は、β−アドレナリン受容体作動薬、例えばイソプロテレノール、サルブタモール、フェノテロール、ホルモテロール、メタプロテレノール、サルメテロール、テルブタリン、クレンブテロール、アルブタミン、ベフノロール、ブロモアセチルアルプレノロールメンタン(bromoacetylalprenololmenthane)、ブロキサテロール、シマテロール、シラゾリン、デノパミン、エピネフリン、エチレフリン、ヘキソプレナリン、ヒゲナミン、イソエタリン、イソクスプリン、マブテロール、メトキシフェナミン、ニリドリン、オキシフェドリン、ピルブテロール、プレナルテロール、プロカテロール、ラクトパミン、レプロテロール、リミテロール、リトドリン、トレトキノール、トルブテロール(tolubuterol)、キサモテロール、ジルパテロール(zilpaterol)又はジンテロール、好ましくはイソプロテレノール、サルブタモール、フェノテロール、ホルモテロール、メタプロテレノール、サルメテロール、テルブタリン、クレンブテロール、より好ましくはイソプロテレノールである。別の実施形態では、上記薬物は、β−アドレナリン受容体遮断薬、例えばメトプロロール、アテノロール、ビソプロロール、ネビボロール、エスモロール、ベタキソロール、アセブトロール、セリプロロール、ブプラノロール、プロプラノロール、チモロール、カルベジロール、ソタロール、ピンドロール、オクスプレノロール又はアルプレノロール、好ましくはメトプロロール、アテノロール、ビソプロロール、ネビボロール、エスモロール又はベタキソロール、最も好ましくはメトプロロールである。本発明の第7の態様による組成物は、本発明の第1の態様によるペプチドと組み合わせて、同じ分類の又は異なる分類の1つ又は複数の、例えば1つ、2つ、3つ又は4つの異なる薬物を含み得る。
【0101】
本発明者らは驚くべきことに、本発明によるペプチドが本明細書全体を通じて記載したような筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するために有用であること、本発明によるペプチドが薬物、例えばカテコールアミン、β−アドレナリン受容体作動薬又はβ−アドレナリン受容体遮断薬の催不整脈能をそれらの有益な効果を打ち消すことなく低減させる能力を有すること、及び上記ペプチドのこれらの治療効果が、ペプチドが非経口的に、好ましくは静脈内、腹腔内又は皮下の投与経路を介して投与される場合であっても発揮され、遺伝子療法による遺伝子改変を必要とせず、主な副作用を引き起こすことがないことを見出した。
【実施例】
【0102】
実施例は、本発明をさらに説明するために設計され、より良い理解に役立つ。実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるものでは決してない。
【0103】
実施例1:透過処理した心筋細胞及び骨格筋線維に対するS100A1タンパク質、及びS100A1のC末端の20merペプチドの変力効果。
成体ウサギ心室心筋細胞を、以前に記載されたように4匹の異なる動物から単離し(Loughrey C.M. et al., 2004, J. Physiol. 556:919-934)、β−エスチン(0.1mg/ml)を使用して透過処理した。透過処理した細胞を、ローダミン標識したヒトS100A1タンパク質(0.1μM)、又は親水性リンカーと融合したFITC標識したS100A1のC末端の20merペプチド(0.1μM)(D−K−D−D−P−P(配列番号354)と融合したヒトS100A1のアミノ酸75〜94)と共に1分間インキュベートした。細胞を、Bio−Rad2000レーザー走査型共焦点顕微鏡(LSCM)を使用してモニタリングした。リアノジン染色パターンに類似する線状の染色パターンを観察することができる(図4)。
【0104】
さらに、S100A1タンパク質、又は親水性リンカーと融合したS100A1のC末端の20merペプチドで処理した透過処理した細胞においてCa2+スパーク頻度を評価し、全長タンパク質及びC末端断片の両方が、透過処理した心筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を減少させることが示された(図5及び図6)。単離した心筋細胞を、擬似(mock)細胞内溶液で灌流し、β−エスチン(0.1mg/ml)を使用して透過処理した。灌流溶液中に存在するFluo−3遊離酸(10μM)を488nm(Krレーザー)で励起させ、×60−1.2NAの水浸型対物レンズを備えた倒立顕微鏡の落射蛍光光学系(epifluorescence optics)を適用して515nm超で測定した。ラインスキャンモードにおいて2ミリ秒/ラインで蛍光を取得した。ピクセル寸法は0.3μmであった(512ピクセル/スキャン;ズーム=1.4)。スキャンするレーザーラインを、長軸と平行に配向させ、確実に核領域がスキャンラインに含まれないようにするために、細胞の外縁及び核(単数/複数)からおよそ等距離となるように配置した。この出力波形を遊離カルシウム濃度([Ca2+])に変換することができるように、各Ca2+スパーク測定期間の終了時に、10mMのEGTAを組み込んだ一連の較正溶液を使用した。Ca2+スパークに関する全ての実験において、試験溶液中の[Ca2+]は145nM〜160nMであった。Fluo−3を含有する溶液において記録されたCa2+スパークを、自動化検出及び測定アルゴリズムを使用して定量化した。全てのCa2+スパーク測定を、細胞の透過処理後7分〜8分以内に行った。この時間を標準化して、可溶性タンパク質の損失を最小限に抑えた。S100A1タンパク質又はS100A1−ctペプチドを、重力供給型灌流システムを使用して擬似溶液中に適用した。効果を、S100A1を添加していない擬似溶液で灌流した透過処理した対照心筋細胞と比較した。各動物由来の最大4個の異なる細胞をCa2+スパーク測定に対して使用した。
【0105】
筋線維調製及び実験溶液。全ての動物を、ハイデルベルク大学の動物実験委員会(animal care committee)の指針に従って取り扱った。雄性BALB/cマウス(3ヶ月齢〜6ヶ月齢)を二酸化炭素の過剰投与により屠殺し、以前に記載された(Fink R.H. and Stephenson D.G., 1987, Pflugers Arch. Eur. J. Physiol.409:374-380、Makabe M. etal., 1996, Pflugers Arch. Eur. J. Physiol. 432: 717-726)ように筋線維調製を実施した。EDL(長指伸筋)又はヒラメ筋を単離し、2つ〜4つの単線維(直径80μm〜150μm及び長さ3mm〜4mm)を含有する小線維束をパラフィン油中で切り出した。線維調製物を、力変換ピン(force transducer pin)(AE801、Senso-Noras、Horton, Norway)とマイクロメートル加減ネジ(micrometer-adjustablescrew)との間に接着した(glued)。全ての実験を室温(23℃〜25℃)で実施した。全ての溶液をpH7.0に調整した。遊離イオン濃度を、G. L. Smith(Glasgow, Scotland)からのコンピュータプログラムREACT(バージョン2.0)を用いて算出した。表Iは実験に使用した溶液の濃度を示す。
【0106】
表1
総濃度(角括弧内のものは遊離濃度)
LR、低弛緩溶液;HR、高弛緩溶液;HA、高活性化溶液;SK、スキニング(skinning)溶液;LS、ローディング(loading)溶液。
単位
サポニン
【表1】
【0107】
高弛緩溶液及び高活性化溶液は遊離のCa2+を緩衝するために50mMのEGTAを含有するものであったが、低弛緩溶液は、0.5mMのEGTA、及び49.5mMの1,6−ジアミノヘキサン−N,N,N,N−四酢酸(HDTA)(EGTAと対照的に、Ca2+に対する親和性が非常に低い)を含有するものであった。スキニング溶液は、低弛緩溶液に対する50μg/mlのサポニンの添加により得られる。放出溶液は、5mMのカフェインを添加した低弛緩溶液からなるものであった。ローディング溶液は、遊離のCa2+を0.4μM(pCa6.4)までクランプするために50mMのEGTAを含有するものであった。pCa−力の関係を測定するための溶液を、高弛緩溶液を適切量の高活性化溶液、及び添加された5mMのカフェインと混合することにより得た。全ての実験を、ストリップチャートレコーダーを使用して記録し、同時に、Axon InstrumentsのDigidata 1200インターフェースボード(boardand interface)(Axotapeソフトウェア、バージョン2.0を使用する)によりデジタル変換した。筋線維調製及び力測定に関しては、Weisleder N. et al., 2006, J. Cell Biol. 174:639-645も参照されたい。
【0108】
骨格筋線維におけるCa2+誘導性等尺性単収縮力及びCa2+過渡応答の評価。
全長S100A1タンパク質及びC末端断片の両方が、透過処理したマウス骨格筋線維において等尺性単収縮力を増強する効力を有することが示された(図7)。ヘリウム−ネオンレーザーの回折パターンを使用してサルコメア長を2.6μm±0.1μmに調整しつつ、筋線維をスキニング溶液中で5分間スキニングした。SRをローディング溶液(pCa6.4)により1分間ローディングする前に、線維を、放出溶液及び高弛緩溶液中に短時間浸漬し、その後低弛緩溶液中で2分間平衡化した。その後、調製物を高弛緩溶液中に1秒間、さらに低弛緩溶液中に2分間浸した。初期の力の過渡応答が静止時の(resting)力のレベルに戻るまで、線維を5mMのカフェインを含有する放出溶液に曝露した。最大の力は、pCa4.28の高活性化溶液及び5mMのカフェイン下で測定された。その後線維を、Ca2+を緩衝するための高弛緩溶液中で1分間弛緩させた。幾つかの対照過渡応答を記録した後、線維をS100A1タンパク質又はS100A1ペプチド混合物(N/H/C)又はC末端20merに単独で曝露し、実験を上で概説したように繰り返した。S100A1タンパク質又はペプチドを、放出前及び放出時に低弛緩溶液に、並びに高活性化溶液に添加した。S100A1処置(0.001μM〜10μM)への応答におけるpCa−力の関係を、6つの異なるCa2+濃度(EDL、pCa9.07、5.91、5.72、5.49、5.17及び4.28)(各々が5mMのカフェインを含有する)で測定した。EC50及びヒル係数を、ヒル型フィッティング(Hilltype fit)から得た。EC50値は、収縮装置のCa2+感受性の尺度としての、最大値の半分の等尺性力の活性化に必要とされるCa2+濃度を示す。ヒル係数は、シグモイド曲線の最大の峻度の指標を与える。相関係数を、フィッティングの精度を決定するために算出した。力の過渡応答を、以前に記載されたようにCa2+の指標としての個々のpCa2+−力の関係を使用すること、及び力の過渡応答の各点を対応する遊離Ca2+レベルへと変換すること(reversing)により、対応する遊離Ca2+過渡応答へと変換した。Ca2+調節タンパク質の感受性、及び対応する力の発生により直接、遊離の筋原線維Ca2+の尺度が得られるという事実に基づき、pCa−力の関係は、遊離Ca2+と力とを関連付ける。したがって、SRからのCa2+放出に由来するかなり緩やかな力の過渡応答を見掛けのCa2+過渡応答へと変換するpCa−力の関係を、バイオアッセイとして使用することができる。
【0109】
実施例2:S100A1ct6/11ペプチドの細胞透過性
ローダミン標識したS100A1タンパク質も、親水性モチーフ、例えばD−K−D−D−P−P(配列番号354)を有する又は有しないFITC標識したS100A1のC末端 20merペプチドも、成体・無傷の心筋細胞の細胞膜に浸透することができない。しかしながら、本発明者らは驚くべきことに、S100A1ct6/11と称する配列D−K−D−D−P−P−Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号372)を有するペプチドが細胞透過性を有することを見出した。FITC標識したS100A1ct6/11を無傷のラット心室心筋細胞と共に15分間インキュベートした後、細胞を共焦点レーザー走査型顕微鏡法を使用してモニタリングした。内在性S100A1タンパク質を、従来の免疫蛍光プロトコルを使用して染色した。FITC標識したS100A1ct6/11の細胞内染色パターンは、内在性S100A1の細胞内染色パターンに類似している(図8)。
【0110】
実施例3:心筋細胞におけるS100A1ct6/11ペプチドの機能的特性決定
S100A1ct6/11ペプチドの機能的特性決定のために行った全ての実験を、無傷の、すなわち透過処理していない心筋細胞(cardiomyocates)に対して行った。S100A1ct6/11ペプチドは刺激した単離心室心筋細胞に対して正の変力効果を発揮する(図9)が、その断片(図10)、又はS100A4若しくはS100Bのカルボキシ末端由来の対応するペプチド(図11)はこの能力を示さないことが示された。カルシウム過渡応答を、落射蛍光デジタル化顕微鏡法を利用してFURA2−AMを負荷し電場刺激した心筋細胞において評価し、筋小胞体のカルシウム負荷を決定した(図12)。
【0111】
心筋細胞におけるCa2+過渡応答、及びSRのCa2+負荷の較正及び測定。
マウス心室心筋細胞の細胞内Ca2+過渡応答を、以前に記載された(Remppis A. et al., 2002, Basic Res. Cardiol. 97: I/56-I/62)ように較正及び測定した。簡潔に述べると、単離した細胞を、HEPES改変培地199(M199)(Sigma)中で洗浄し、2μMのFura2−AMを含む1mlのM199(2mM[Ca2+]e)中で室温で20分間インキュベートした。較正及び蛍光測定を、モノクロメータ(Polychrome II、T.I.L.L. Photonics GmbH、Germany)と接続されたUVフィルタを備えたオリンパス株式会社の倒立(inverse)顕微鏡(I×70)を使用して実施した。細胞を、1Hzで電気刺激し、340nm/380nmで励起させた。蛍光放出を、510nmで検出し、デジタル化し、T.I.L.L.のVISIONソフトウェア(バージョン3.3)で解析した。5つの連続する定常状態の過渡応答由来のベースラインデータを、過渡振幅(Ca2+振幅(nM))、ピークとなる時間(ミリ秒)、及び50%低下する時間(ミリ秒)の解析のために平均化した。50個の細胞に対するFura2−AMを負荷したマウス心室筋細胞に関する較正により最小の比(Rmin)0.38±0.05、及び最大の比(Rmax)3.36±0.21が得られ、β及びKdはそれぞれ5.21±0.24nM及び236±29nMの量と評価された。遊離細胞内Ca2+濃度[Ca2+]iを、Grynkiewicz et al.の式(Grynkiewicz G. et al.,1985, J. Biol. Chem. 260:3440-3450)により算出した。Ca2+過渡応答を、1Hzの電気刺激及び2mM[Ca2+]e(M199中)下において、ベースラインで及び段階的に増大するイソプロテレノール濃度(10−9M〜10−5M)に対して調査した。SRのCa2+負荷を、標準カフェインパルスプロトコルを使用して評価した。2分の電気刺激(1Hz)の後、筋細胞を、カフェイン(10mM)を含む0Na+/0Ca2+溶液に急遽曝露した。カフェイン誘導性Ca2+過渡応答のピークを、SRのCa2+負荷の指標として使用した。
【0112】
筋細胞収縮パラメータ。
単離した心室筋細胞の収縮性研究を、ビデオエッジ検出システム(Crescent Electronics、Sandy, UT)を用いて、近年記載された(Most P. et al., 2001, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 98:13889-13894)ように行った。簡潔に述べると、筋細胞をM199中、室温で、1Hzで電気刺激して収縮させた。エッジ検出の測定値を、基本条件下及び漸増イソプロテレノール濃度(10−9M〜10−5M)下で取得した。5つの連続する定常状態の単収縮のデータを、細胞の短縮率(%CS(%))、短縮速度(−dL/dt(μm/s))及び再伸長速度(+dL/dt(μm/s))の解析のために平均化した。
【0113】
実施例4:S100A1ct6/11は、β−アドレナリン受容体シグナル伝達を変化させず、不整脈誘発性のストア過負荷誘導性カルシウム放出(SOICR)から心筋細胞を保護する
S100A1ct6/11の変力効果は、β−アドレナリン刺激に対して相加的でありかつこれと独立している(図13)。心室心筋細胞を上で記載したように単離し、カルシウム過渡振幅を、イソプロテレノールの存在下及び非存在下で、並びにS100A1ct6/11ペプチドの存在下又は非存在下で、それぞれ評価した。
【0114】
さらに、S100A1ct6/11ペプチドは、不整脈誘発性のストア過負荷誘導性カルシウム放出(SOICR)から心筋細胞を保護する(図15)。カルシウムスパークを、Ventucci et al., 2007, Circ. Res. 100:105-111に記載されたように、対照及びβAR(10−7Mのイソプロテレノール+0.5mMのカフェイン)条件下で、Fluo−3AMを負荷した心筋細胞において評価した。S100A1ct6/11の保護効果は、SRのカルシウム負荷の増強により心筋細胞において変力作用を発揮する濃度(100nM及び1000nM)で効果的であることに留意することが重要である。したがって、SRのCa再隔離に対するそれ自身の増強効果に関わらず、S100A1ct6/11はβARに誘発されるSOICRを効果的にアンタゴナイズし、変力作用を抗不整脈効力と関連付ける特有の分子プロファイルを強調する。
【0115】
実施例5:正常な心臓及び疾患心臓におけるS100A1ct6/11ペプチドの機能的特性決定。
S100A1ct6/11ペプチドは、基本条件及びβAR刺激条件下で収縮能力の増強をもたらす有意なin vivoでの血行動態効果を発揮する(図18)。これらの血行動態効果は、β1AR遮断薬メトプロロールへの応答に効果的である(図19及び図20)。さらに、S100A1ct6/11ペプチドは、実験的心不全マウスモデルにおいて血行動態機能を回復させ(図21)、上記マウスモデルにおいて不全心筋におけるアポトーシス細胞死を防止する(図22)in vivoでの有意な治療効果を発揮する。さらに、S100A1ct6/11ペプチドは、βARに誘発される致死性の心室性頻脈性不整脈から心不全マウスを保護する(図23)。
【0116】
経胸壁心エコー検査。
2次元誘導(guided)M−モード及びドップラー心エコー検査を、以前に記載された(Kohoutet al., 2001, Circulation 104:2485-2491)ように、覚醒マウスにおいてHDI5000心エコー検査装置(ATL、Bothell, WA)を使用して実施した。3回の独立した心エコー検査の測定値を、両方のモードで取得した。収縮終期の左室腔直径(LVESD)、及び拡張終期の左室腔直径(LVEDD)、心室中隔厚(IVSth)、拡張終期の左室後壁厚(LVPth)、並びにLV短縮率(FS%)を、乳頭筋のレベルで短軸M−モードビュー(M-modeview)において決定した。FS%=[(LVEDD−LVESD)/LVEDD]×100(%)。LV駆出時間(LVET)、及び大動脈弁ドップラー測定から取得した心拍数(bpm)を使用して、心拍数で補正した円周方向線維短縮の平均速度を評価した:平均Vcfc=FS%/ET×√60/bpm×10(周(circ)/秒)。
【0117】
心臓カテーテル処置及び血行動態評価。
自発呼吸する軽く麻酔した(anesthesized)マウス(トリブロモエタノール/アミレン水和物;アバチン;2.5%(wt/vol)、8μl/g(IP))における経胸壁2次元心エコー検査(TTE)を、偽マウス及び梗塞マウスの両方において12MHzプローブを用いて行った。MモードでのTTEを、外科処置の前後(7日及び28日)に傍胸骨の短軸において実施して、LV直径及び引き続き短縮率(FS%=[(LVEDD−LVESD)/LVEDD]×100))を評価した。同じ麻酔下で、1.4フレンチマイクロマノメータが先端に付いたカテーテル(SPC−320、Millar instruments, Inc.)を、右頚動脈中に挿入した後、LV中まで進めた。心拍数(回/分)、LV拡張終期圧(LVEDP)、並びにLV圧の最大一次導関数(LV +dp/dtmax)及び最小一次導関数(LV dp/dtmin)を含む血行動態解析を行った。
【0118】
心筋の組織病理学検査及びアポトーシス
LV組織を、凍結して切り出し(cryosectioned)(5μm)、ヘマトキシリン−エオシン(HE)で染色して、LVの遠隔の非梗塞性領域において筋細胞の幅を測定し、NIH画像ソフトウェア(ImageJ1.34、http:/rsb.info.nih.gov/ij)を使用して、長軸方向に切り出した筋細胞において核のレベルでの評価基準を取得した。末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介性dUTPニック末端標識(TUNEL)染色を、製造業者のプロトコル(Roche、11684795001)に従って実施した。遠隔領域におけるTUNEL陽性心筋細胞核の数を、オリンパス株式会社のI×70倒立顕微鏡(T.I.L.L. Visionソフトウェア、バージョン3.3)を用いて計測し、同じ切片においてHE染色により特定された105個の総核数当たりの数値に正規化した。心臓起源の細胞又は物体(bodies)を特定するために、切片を、心臓特異的抗トロポニンC抗体(SantaCruz、sc−8117、希釈率1:50)、及びロバ抗ヤギアレクサフルオル568(MolecularProbes、1:100)の対応する対で二重染色した(データは示していない)。心筋組織におけるカスパーゼ3活性を、カスパーゼ−Gloアッセイキット(Promega)を使用して測定した。簡潔に述べると、発光前(proluminescent)基質がカスパーゼ3により切断される。カスパーゼによる切断の後、ルシフェラーゼに対する基質(アミノルシフェリン)が放出され、ルシフェラーゼ反応、及び発光シグナルの産生をもたらす。心臓組織由来の細胞質抽出物を、プロテアーゼ阻害剤混合物(1錠/5ml)(Roche;MiniコンプリートEDTAフリープロテアーゼ阻害剤)を含有する低張抽出緩衝液(25mM HEPES(pH7.5)、5mM MgCl2、1mM EGTA)中における均質化により調製した後、遠心分離した(15分、13,000rpm、4℃)。上清のタンパク質濃度を、抽出緩衝液により1mg/mlに調整し、−80℃で保存した。等体積の試薬、及び10μg/mlの細胞質タンパク質を、白色の壁を有する96ウェルプレートに添加し、室温で1時間インキュベートした。各試料の発光を、プレートリーディングルミノメーターにおいて三連で測定した。
【0119】
不整脈誘発プロトコルは、Wayne Chen及び共同研究者らにより以前に公開されたプロトコル(Xiao etal., 2007, J. Biol. Chem. 282:34828-34838)から修正したものである。
【0120】
実施例6:正常な骨格筋におけるS100A1ct6/11ペプチドの機能的特性決定
S100A1ct6/11ペプチドは、正常な及び疾患の骨格筋において等尺性単収縮力を有意に増強する(図24)。骨格筋線維における等尺性単収縮力を評価するのに使用したプロトコルを、実施例1に記載している。S100A1ct6/11ペプチドの実験のために、無傷の(透過処理していない)長指伸筋(EDL)骨格筋線維を使用した。単離した筋線維の単収縮力は、ペプチドを単離した筋線維と共にインキュベートしたかどうか(図24A)、又は筋線維を単離する前にペプチドを全身投与したかどうか(図24B)に関係なく、S100A1ct6/11処理により増強された。
【0121】
実施例7:S100A1ct6/11ペプチドの変力効果は、より短いペプチドによっても発揮される。
親水性リンカー(D−K−D−D−P−P、配列番号354)と融合したヒトS100A1のアミノ酸76〜85からなるペプチドは、S100A1ct6/11ペプチドと同じ変力機能を発揮する(図25)。カルシウム過渡振幅を評価するためのプロトコルを、上に記載している。リンカー単独、ビヒクル単独、又はアミノ酸76以降の(more than)アミノ酸を欠くアミノ末端欠失ペプチドは、変力効果を示さない。この実験により、75位のチロシンがS100A1ct6/11ペプチドの変力機能及び細胞透過性のために必須ではないことが実証される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋症を治療又は予防するために、特に骨格筋障害又は心筋障害を治療又は予防するために使用することができるS100タンパク質由来の筋機能増強アミノ酸配列を含むペプチド、上記ペプチドを含む医薬組成物、及びかかる筋症を治療又は予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉組織は、骨格筋組織、心筋組織及び平滑筋組織に細分類され、脊椎動物の最大の器官と考えることができる。例えば、平均的な成人男性は、40%〜50%が骨格筋で構成される。骨格筋及び心筋は横紋筋組織に属し、多くの機能的側面を共有する。例えば、骨格筋細胞及び心筋細胞における興奮収縮連関のプロセスは非常に類似している。筋細胞の膜脱分極により、活性化電位依存性L型カルシウムチャネルを介した筋細胞の細胞質(筋形質)中へのカルシウムの流入が引き起こされる。細胞質のカルシウム濃度の上昇は、カルシウム誘導性カルシウム放出(CICR)メカニズムを通じたリアノジン受容体(RyR)の活性化により筋小胞体(SR)からのカルシウム放出を引き起こし、ひいては細胞質のカルシウム濃度のさらなる迅速な上昇を引き起こす。カルシウム分子は、細胞質を通って拡散し、収縮タンパク質、例えば筋細胞の収縮を引き起こすトロポニンCと結合する。収縮後、カルシウムは、主に筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ(SERCA)の作用により、カルシウムの筋小胞体中への再取込みにより細胞質から除去される。これらの事象は骨格筋細胞及び心筋細胞において本質的に同一であるが、関与するタンパク質のアイソフォームにわずかに相違点がある。例えば、RyR1は骨格筋細胞において優勢な筋小胞体カルシウム放出チャネルであるが、心筋細胞においてはRyR2が優勢である。同様に、骨格筋の筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼはSERCA1aであり、SERCA2aは心筋細胞特異的である。
【0003】
筋細胞中のカルシウム循環は、多数のタンパク質により調節される。例えば、S100タンパク質ファミリー(EFハンドを有する最大のカルシウム結合タンパク質サブファミリー)に属するS100A1は、RyRカルシウム放出チャネル及びSERCAの両方と相互作用することが報告されている。S100A1は、拡張期にRyRを安定化させてカルシウムスパークの頻度を低減させ、収縮期にカルシウム放出を増強する。さらに、S100A1は弛緩期にSERCA活性を増大させ、心筋細胞及び骨格筋細胞において収縮機能を増大させることが見出された。S100A1タンパク質由来のカルボキシ末端ペプチドが全長S100A1タンパク質の変力効果を模倣することが分かっている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
筋細胞におけるカルシウム循環不全、例えば、収縮時における筋小胞体からのカルシウム放出の低減、異常なカルシウム放出事象、筋小胞体からのカルシウム漏出、又は細胞質からのカルシウム除去の遅延化は、様々な筋症、すなわち筋機能障害と関連する疾患をもたらす。例えば、心不全(cardiac insufficiency)、心室収縮機能不全、不整脈、心不全(heartfailure)、心原性ショック、心筋梗塞、及び心臓弁の機能不全は、心筋細胞におけるカルシウム処理(calciumhandling:カルシウムハンドリング)の調節不全と関連している。同様に、骨格筋線維におけるカルシウム循環不全は、筋ジストロフィーと関連付けられている(非特許文献3)。さらに、筋肉細胞におけるカルシウムシグナル伝達の破壊を引き起こすRyRカルシウム放出チャネルにおける突然変異は、筋症と関連している。特に、80を超える突然変異が、骨格筋のRyR1カルシウム放出チャネルにおいて特定されており、悪性高熱症、セントラルコア病又はマルチミニコア病(multi-minicore disease)と関連付けられている。さらに、心室性不整脈及び心臓突然死を引き起こす心筋のRyR2カルシウム放出チャネルにおける40を超える突然変異が報告されている(非特許文献4)。
【0005】
現在のところ、骨格筋障害に利用可能な臨床的な変力療法は存在しない。心筋症の変力治療に現在利用可能な認可された治療薬、例えばグリコシド誘導体、カテコールアミン及びホスホジエステラーゼ阻害剤は、重度の副作用、例えば心拍数の増大、及び生命を脅かす催不整脈能という問題を有する。これらの認可された治療薬の他に、S100A1タンパク質が、心不全において心筋のS100A1レベルが減少すること、及び心筋細胞へのS100A1の送達により等尺性収縮の増大、その後筋小胞体中に汲み上げられるカルシウム量の増大がもたらされることが示されたため、心筋症における治療薬として提唱されている。しかしながら、筋症を治療する目的での患者へのS100A1の投与は、遺伝子療法の送達経路、例えばウイルス送達を使用する送達経路(全てのその既知の副作用及び欠点を伴う)を必要とする(非特許文献1、特許文献1及び非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/054713号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Most P. et al.,2007, Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol. 293:R568-577
【非特許文献2】Voelkers M. etal., 2007, Cell Calcium 41:135-143
【非特許文献3】Hopf F.W. et al.,2007, Subcell. Biochem. 45:429-64
【非特許文献4】Dulhunty A.F. etal., 2006, J. Muscle Res. Cell Motil. 27:351-365
【非特許文献5】Vinge L.E. etal., 2008, Circ. Res. 102:1458-1470
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、筋症、好ましくは筋肉細胞におけるカルシウム循環の調節不全と関連する筋症の変力治療のための新規の治療薬であって、認可された治療薬において見られる重度の副作用を示さず、遺伝子療法に係る高リスクの送達経路を必要としない治療薬に対する緊急の必要性が存在する。骨格筋疾患に関して、骨格筋細胞の収縮能力を増大させる能力を有し、及び/又は骨格筋細胞におけるカルシウム誘導性アポトーシス細胞死を低減させるいずれかの変力治療薬に対する緊急の必要性が存在する。
【0009】
本発明者らは驚くべきことに、カルシウム結合タンパク質S100由来の本発明によるペプチドが、非経口投与すると変力効果を示し、筋症、例えば心筋障害及び骨格筋障害の治療に有用であり、言及すべき副作用を示さず、遺伝子療法を必要としないことを見出した。例えば、本発明によるペプチドは、正常な心筋及び不全心筋における並びに正常な及び疾患の骨格筋における変力性を増強し及びこれを回復させ、筋小胞体のカルシウム処理を増強し及びこれを回復させ、筋細胞におけるカルシウム誘導性アポトーシス細胞死を防止し、催不整脈性の筋小胞体のカルシウム漏出及び頻脈性不整脈から保護し、心力不全及び頻脈性不整脈からの保護により心臓死を防止する。本発明のペプチドは主要な副作用を伴わずに心筋組織及び骨格筋組織の収縮能力を増強するのに特に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様では本発明は、アミノ酸モチーフ:
Φ4−X−Ψ−L−[T/A]−Ψ2
(式中、Φ及びΨはそれぞれ独立して選択される疎水性の非芳香族アミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸、好ましくは低分子アミノ酸である)を含む、又はこれからなる筋機能増強アミノ酸配列を含むペプチドであって、該筋機能増強アミノ酸配列がS100A1タンパク質、好ましくは任意のS100カルシウム結合タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下の連続するアミノ酸を含有し、該ペプチドが最大100アミノ酸の全長を有し、該ペプチドが正の変力作用を示す、ペプチドを提供する。好ましくは、前記ペプチドは細胞膜に浸透することが可能である。好ましくは、前記ペプチドは筋細胞において収縮能力及び/又はカルシウム循環を増強する能力を示す。好ましい実施の形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]を含み、これから本質的になり、又はこれからなり、好ましくはアミノ酸配列V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。上で示したように、筋機能増強アミノ酸配列が、S100A1タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下の連続するアミノ酸を含有することがこの関連では好ましい。好ましくは、上記ペプチドは、膜浸透増強モチーフ、1つ又は複数のエピトープタグ、親水性モチーフ、及びペプチド標的化モチーフからなる群から選択される要素のうちの1つ又は複数をさらに含み、好ましくは該親水性モチーフは、親水性アミノ酸モチーフΛ4−Θ2(式中、Λはアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンからそれぞれ独立して選択され、Θはα−ヘリックス遮断因子であり、好ましくはプロリン又はグリシンからそれぞれ独立して選択される)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。好ましくは親水性モチーフは、アミノ酸配列[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]を含み、これから本質的になり、又はこれからなり、より好ましくはアミノ酸配列D−K−D−D−P−P(配列番号354)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。特定の好ましい1つの実施の形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列D−K−D−D−P−P−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号370)、又は上記アミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。
【0011】
第2の態様では、本発明は、医学的使用のための第1の態様のペプチドを提供する。
【0012】
第3の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害の治療又は予防における治療上の使用のための第1又は第2の態様のペプチドを提供し、好ましくは該障害は心筋障害及び/又は骨格筋障害であり、好ましくは該筋機能障害は筋肉細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する。好ましくは、ペプチドは、筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである。心筋障害は虚血後収縮機能不全、うっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、及び心室障害からなる群から選択することができ、骨格筋障害は筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン桿状体筋症(nemaline rod myopathy)、中心核筋細管筋症(centronuclearmyotubular myopathy)、眼の眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症からなる群から選択することができる。
【0013】
第4の態様では、本発明は、本発明の第1の態様のペプチド、並びに薬学的に許容可能な添加物、担体及び/又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。好ましい1つの実施の形態では、医薬組成物は、筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するためのものである。
【0014】
第5の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するための医薬組成物の調製のための本発明の第1の態様によるペプチドの使用に関する。
【0015】
第6の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害を治療又は予防する方法であって、それを必要とする個体に対して、上記個体の疾患状態を改善するのに十分な量の本発明によるペプチド又は医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。
【0016】
第7の態様では、本発明は、本発明の第1の態様によるペプチド、並びにカテコールアミン、β−アドレナリン受容体作動薬及びβ−アドレナリン受容体遮断薬からなる群から選択される薬物を含む組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】生物活性リード構造としてのS100A1タンパク質のC末端の特性決定を示す図である。図1は、上段に天然ヒトS100A1タンパク質(S100A1、94アミノ酸、配列番号1)の、及び下段にC末端側のカルシウム結合EFハンドを欠くアミノ酸75〜94を包含する20merペプチド(S100A1−ctペプチド)としてのS100A1のC末端(配列番号2)の一次構造を示す。SEQ ID NO: 配列番号protein タンパク質peptide ペプチドEF-Hand EFハンド
【図2】ヒトS100A1の疎水性プロットを示す図である。アミノ酸75〜94を包含するS100A1のC末端ドメインは、このタンパク質の最も疎水性の高い領域である。本発明者らは、http://www.vivo.colostate.edu/molkit/hydropathy/index.htmlで利用可能な疎水性プロットを利用して、ヒトs100a1遺伝子(GenBankアクセッション番号:NM006271)の公開済のcDNA配列を用いてカイト・ドーリトルプロットを行った。0を超えるy軸スコアは、疎水性の増大を示す。アミノ酸75〜94を含むS100A1のC末端に、灰色のバーで印を付す。Kyte-Doolittle Scale (hydrophobicity) カイト・ドーリトル尺度(疎水性)Hydrophobicity 疎水性C-terminus C末端amino acid number アミノ酸番号window size ウインドウサイズ
【図3】ヒトS100A1タンパク質の三次構造/四次構造を示す図である。図3AはヒトS100A1の三次構造/四次構造を可視化しており、これにより疎水性のC末端がホモ二量体タンパク質のそれぞれカルシウム非結合形態及びアポ状態(apo-state)の内側に埋め込まれていることが示される。図3Bは、両方のEFハンドモチーフに対するカルシウムの結合が、S100A1のC末端の分子表面への露出を引き起こし、これにより疎水性ドメインがタンパク質−タンパク質相互作用に利用可能となることを示している。したがって、アミノ酸75〜94を含むS100A1のC末端により、カルシウムが結合し「活性化された」二量体S100A1タンパク質における標的タンパク質の結合、及び標的タンパク質の機能/活性の変調が説明されることが示唆された。S100A1に対するカルシウムの結合は立体構造変化をもたらし、これによりC末端ドメイン(アミノ酸75〜94)(点線を付した箱型領域)がタンパク質−タンパク質相互作用に利用可能となる。
【図4】化学的に透過処理した心筋細胞調製物及び骨格筋細胞調製物中におけるヒトS100A1タンパク質及び20merのC末端ペプチドを示す図である。細胞内への到達、並びにRyR2及びRyR1の機能の調節が可能となる化学的に透過処理した心筋細胞調製物及び骨格筋細胞調製物中において天然ヒトS100A1タンパク質、及び20merのC末端ペプチドの生物活性が同等であることが、本発明者らにより示された。図4は、ローダミン標識した組換えヒトS100A1タンパク質(Mw:10415)(図4A/図4B)、及びFITC標識した20merの合成S100A1 C末端ペプチド(Mw:2258)(図4C/図4D)に関する類似する細胞内結合パターンを示す。rhod−S100A1タンパク質もFITC−S100A1 C末端ペプチド(アミノ酸75〜94)も、成体・無傷の心筋細胞の細胞膜を透過することができない。transmission 透過C-terminus C末端
【図5】S100A1タンパク質が、透過処理した心筋細胞において拡張期のカルシウムスパーク頻度及びRyR2活性を減少させ(A)、透過処理した骨格筋線維において等尺性単収縮力を増強する(B)ことを示す図である。S100A1タンパク質は、成体・無傷の心筋細胞又は骨格筋線維におけるカルシウム恒常性を変化させない。control 対照protein タンパク質Events/μm/sec 事象/μm/秒sec 秒
【図6】20merのS100A1 C末端ペプチド(S100A1タンパク質のアミノ酸75〜94)が、透過処理した心筋細胞において拡張期のカルシウムスパーク頻度及びRyR2活性を減少させ(A)、透過処理した骨格筋線維において等尺性単収縮力を増強する(B)ことを示す図である。しかし、該C末端ペプチドは、成体・無傷の心筋細胞又は骨格筋線維におけるカルシウム恒常性を変化させない。control 対照Events/μm/sec 事象/μm/秒sec 秒
【図7】S100A1タンパク質(B1)、及び20merのS100A1 C末端ペプチド(B3)の両方が、透過処理したマウスEDL骨格筋線維において等尺性力を増強する同等の生物学的効力を有することを示す図である。B2及びB3により、S100A1のC末端が単独で変力効果を媒介することが確認される。S100A1ペプチド(N/H/C)は、N末端ペプチド(N)G−S−E−L−E−T−A−M−E−T−L−I−N−V−F(S100A1のアミノ酸2〜16、配列番号388)、ヒンジ領域ペプチド(H)L−S−G−F−L−D−A−Q−K−D−V−D−A(S100A1のアミノ酸42〜54、配列番号389)及びC末端20mer(C)(配列番号2)を表す。M. ext. dig. longum 長指伸筋rel. force 相対力arbitrary units 任意単位protein タンパク質control 対照time(s) 時間(秒)peptide ペプチド
【図8】正常な及び疾患の心筋細胞における細胞透過性S100A1ct6/11配列及び細胞内蓄積を示す図である。S100A1ct6/11はペプチドD−K−D−D−P−P−Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号372)を表し、配列D−K−D−D−P−P(配列番号354)は親水性モチーフであり、配列Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号390)はヒトS100A1タンパク質のアミノ酸75〜85である。S100A1ct6/11ペプチドは細胞透過性を有し、細胞不透過性の20merのC末端 S100A1ペプチドとは対照的に心筋細胞の細胞内空間に蓄積する。図8により、FITCと結合したS100A1ct6/11は無傷のラット心室心筋細胞の細胞内空間中で濃縮され、抗S100A1免疫蛍光染色により評価した内在性S100A1タンパク質(C)と同様の線状のパターン(B、15分間の細胞外曝露後に撮影した共焦点画像)をもたらすが、対照(A)は特定の標識パターンを示さなかったことが示される。transmission 透過Endogenous S100A1 内在性S100A1
【図9】電場刺激した単離ラット心室心筋細胞におけるS100A1ct6/11の時間及び用量依存性の正の変力効果を示す図である。S100A1ct6/11は、成体心室心筋細胞におけるウイルスに媒介され心臓を標的とする(cardiac-targeted)トランスジェニックS100A1過剰発現物の用量依存性及び時間依存性の変力効果の両方を模倣する。図9は、電場刺激(2Hz)した単離ラット心室心筋細胞におけるS100A1ct6/11の用量依存性(上パネル)及び時間依存性(下パネル)の正の変力効果の代表的な出力波形を示す。15分間の細胞外曝露後におけるS100A1ct6/11の細胞内蓄積(図8B)と一致する10分〜20分のS100A1ct6/11の変力作用の開始に留意されたい。算出されたEC50%は87±6nM S100A1ct6/11である。カルシウム過渡応答(transients)を、落射蛍光デジタル化顕微鏡法を利用してFURA2−AMを負荷し電場刺激した心筋細胞において評価した。calcium カルシウムsec 秒min 分time 時間
【図10】合成ペプチドDKDDPP−YVVLVA(親水性モチーフと融合したヒトS100A1のアミノ酸75〜80、配列番号382)も、合成ペプチドDKDDPP−AALTVA(親水性モチーフと融合したヒトS100A1のアミノ酸80〜85、配列番号383)も、S100A1ct6/11の変力効果を模倣又は再現するのに十分ではないことを示す図である。カルシウム過渡応答を、落射蛍光デジタル化顕微鏡法を利用してFURA2−AMを負荷し電場刺激した心筋細胞において評価した(各群n=60)。SEQ ID NO: 配列番号Calcium transient amplitude カルシウム過渡振幅FURA 340/380 ratio counts FURA 340/380のカウント比control 対照inotropic effect 変力効果
【図11】S100パラログA4及びB由来のアミノ酸75〜85を包含するペプチドがS100A1ct6/11に媒介される変力性を模倣するのに十分ではないことを示す図である。合成ペプチドDKDDPP−YCVFLSCIAMM(親水性モチーフと融合したS100A4のアミノ酸75〜85、配列番号386)及びDKDDPP−FMAFVAMVTTA(親水性モチーフと融合したS100Bのアミノ酸75〜85、配列番号387)の両方が、S100A1ct6/11の変力作用を再現することができない。(A)は、S100A4ctもS100Bctも基本条件(左パネル)及びβ−AR刺激条件(右パネル)下でS100A1ct6/11の変力効果を模倣しないことを示す。(B)は、DKDDPP(配列番号354)と結合したS100A1(上)、S100A4(中央)及びS100B(下)由来のアミノ酸75〜85からなるペプチドの一次配列アライメントを示す。S100A1ctとS100A4ctとS100Bctとの間における同一のアミノ酸に下線を付す。(各群の細胞数n=60、*P<0.05(対照、S100A4ct及びS100Bctに対して)、2方向(2-way)ANOVA)。10−9Isoは10−9Mのイソプロテレノールを意味する。Calcium transient amplitude カルシウム過渡振幅FURA 340/380 ratio count FURA 340/380のカウント比control 対照SEQ ID NO: 配列番号
【図12】S100A1ct6/11の変力効果が筋小胞体(SR)のカルシウム含有量の制御及び調節と関連することを示す図である。S100A1ct6/11の変力効果は、成体心室心筋細胞におけるウイルスに媒介され心臓を標的とするトランスジェニックS100A1過剰発現物を利用する天然ヒトS100A1タンパク質の効果と同様にSRのカルシウム負荷の増強により伝達される。図12は、SRのカルシウムの完全な放出がもたらされるようにin vitroで10mMのカフェインに曝した電場刺激(2Hz)した対照(黒色、左の出力波形)の及びS100A1ct6/11(1000nM、薄灰色、右の出力波形)で処理した心室心筋細胞の代表的な出力波形を示す。カフェインに誘起されるカルシウム過渡応答の振幅は、SRのカルシウム含有量の間接的な尺度の役割を果たし、S100A1ct6/11で処理した心筋細胞においてより大きい。これらのデータにより、S100A1ct6/11の変力効果がSRのカルシウムの貯蔵及び含有量の制御及び増強と関連することが示される。Calcium amplitude カルシウム振幅FURA 340/380 ratio, 0.15 arbitrary units FURA 340/380比、0.15任意単位control 対照caffeine カフェイン
【図13】心筋細胞におけるS100A1ct6/11の正の変力効果がそれぞれβ−アドレナリン刺激及びシグナル伝達に対して相加的及び無関係であることを示す図である。(A)はリン酸化部位特異的抗体を利用する代表的なウェスタンブロットを示し、これにより、S100A1ct6/11が、基本条件及びβ−アドレナリン受容体(βAR)刺激下で筋小胞体(ホスホランバン、PLB)及びサルコメア(トロポニンI、TnI)標的においてcAMP依存性キナーゼ(PKA)活性を含むβARシグナル伝達を増加させることも変化させることもないことが明らかとなる。これを支持して、図13Bは、S100A1ct6/11の変力効果が、落射蛍光デジタル化顕微鏡法を利用してFURA2−AMを負荷し電場刺激した心筋細胞において評価するとβAR刺激下で相加的であり保存されることを示す。βAR−PKA軸の主要な変力効果がPLB−ser16のリン酸化の増強により伝達されることに留意されたい。S100A1ct6/11はこのメカニズムを伴うことも変化させることもなく、これによりβAR刺激に対するその相加的な変力効果が説明される。(各群の細胞数n=60、*P<0.05(対照に対して)、2方向ANOVA)。10−9Isoは10−9Mのイソプロテレノールを意味する。control 対照Calcium transient amplitude カルシウム過渡振幅FURA 340/380 ratio counts FURA 340/380のカウント比
【図14】S100A1ct6/11が心室心筋細胞において拡張期のRyR2の機能を制御し、生理学的な拡張期のSRのカルシウムスパーク頻度を変調させることを示す図である。S100A1ct6/11は、無傷の心室心筋細胞において拡張期のSRのカルシウムスパーク頻度を変調させ、透過処理した心室心筋細胞において細胞不透過性の天然S100A1タンパク質及び20merのS100A1 C末端ドメインペプチドの効果を模倣する。図14Aは、Fluo−3AMを負荷した対照の及びS100A1ct6/11で処理した静止状態のラット心室心筋細胞におけるカルシウムスパークの代表的な共焦点出力波形を示す。図14B〜図14Dは、S100A1ct6/11が拡張期のSRのカルシウムスパーク頻度及び振幅を示差的に制御することを示す。100nMのS100A1ct6/11は基本条件下でカルシウムスパーク頻度を減少させるが、その10倍の濃度(1000nM)のS100A1ct6/11は、カルシウムスパーク頻度を増大させる(各群の細胞数n=60、2方向ANOVA)。control 対照Events/μm/sec 事象/μm/秒
【図15】S100A1ct6/11の変力効果を伝達する分子メカニズムが、それぞれ不整脈誘発性のストア過負荷誘導性カルシウム放出(SOICR)及びカルシウム波から心筋細胞を同時に保護することを示す図である。不整脈発生による心臓突然死に関する重大な病理機序であるSOICRを、Isner及びその共同研究者らにより以前に公開されたプロトコル(Venetucci etal., 2007, Circ Res 100:105-111)を利用してin vitroで誘起させた。図15Aは、Venetucci et al., 2007, Circ Res 100:105-111により記載されたようにSOICRを引き起こす(βAR刺激+0.5mMのカフェイン)条件下でその頻度及び空間的特徴が劇的に増大する(中央)、Fluo−3AMを負荷した対照心筋細胞(左)におけるカルシウムスパークの代表的な共焦点出力波形を示す。1000nMのS100A1ct6/11での処理により、SRのカルシウム漏出が効果的にアンタゴナイズされる(図15A、右)ことに留意されたい。図15Bは、イソプロテレノール/カフェインの存在下における異常なカルシウムスパークの頻度及び空間的特徴を正常化するS100A1ct6/11の治療効果の統計解析結果を明らかにするものである。図15Cは、100nM及び1000nMのS100A1ct6/11により完全に防止されるβAR刺激+0.5mMのカフェインの存在下におけるSOICRに誘発されるカルシウム波を示す対照心筋細胞の代表的な出力波形を用いて、S100A1ct6/11の強力な抗不整脈効果を示す。SOICR及びその後のカルシウム波が致死性の心室性不整脈及び心臓突然死に関する分子基板であることを考慮すると、これらの実験は、心筋細胞における変力性をカルシウム誘導性の不整脈からの保護と関連付けるS100A1ct6/11の特有の分子プロファイルを明らかにする(各群の細胞数n=60、2方向ANOVA)。S100A1ct6/11の保護効果が、SRのカルシウム負荷の増強により心筋細胞において変力作用を発揮する濃度(100nM及び1000nM)(図9)で効果的であることに留意することが重要である。したがって、SRのカルシウム再隔離(resequestration)に対するそれ自身の増強効果に関わらず、S100A1ct6/11はβARに誘発されるSOICRを効果的にアンタゴナイズし、変力作用を抗不整脈効力と関連付ける特有の分子プロファイルを強調する。S100A1ct6/11と同様に(Akin)、ウイルスに媒介されるS100A1過剰発現物も、漏れやすい(leaky)RyR2を有する成体心室心筋細胞においてβARに誘発される不整脈誘発性のSRのカルシウム漏出を防止し、これにより細胞透過性のS100A1ct6/11が過剰発現したS100A1タンパク質の抗不整脈効果を模倣することが示された。Isoproterenol イソプロテレノールcaffeine カフェインcontrol 対照normal diastolic Ca 正常な拡張期CaEvents/μm/sec 事象/μm/秒
【図16】S100A1ct6/11の変力効果を伝達する分子メカニズムが、SRのカルシウム漏出の防止によりアポトーシス細胞死から心筋細胞を同時に保護することを示す図である。S100A1ct6/11は、長期のカフェイン曝露により内腔のカルシウムに感作された漏れやすいRyR2を有する成体心室心筋細胞をアポトーシス細胞死から保護する。図16Aは、カフェインに曝露した対照の及びS100A1ct6/11で処理した心筋細胞の代表的な画像を示す。黒色の矢印は、漏れやすいRyR2により促進された、SRのカルシウム漏出により誘導されたアポトーシスによる死細胞を強調している。統計解析により、S100A1ct6/11処理群においてアポトーシス性心筋細胞が有意に低いことが明らかとなった。図16Bは、2つの独立した実験の代表的なDNAゲル電気泳動の結果を示し、対照の心筋細胞にはラダリングしたDNAが見られるが、S100A1ct6/11で処理した心筋細胞には見られずアポトーシスの防止を示している。caffeine カフェインcontrol 対照Dead cells/total cells ratio norm. to K0 K0に対して正規化した(norm.)死細胞/総細胞の比
【図17】S100A1ct6/11がヒト血清中における切断及び分解に抵抗性を有し、in vivoでの応用及び長期の生物学的有効性を可能とすることを示す図である。in vitroでS100A1ct6/11と混合した(spiked)ヒト血清(1μM)がS100A1ct6/11を3時間まで切断しないことが示され、これによりin vivo投与のための必要条件としての血清中での高い安定性、及び長期の生物学的有効性が示される。図17A〜図17Dは、in vitroで1μMのS100A1ct6/11と混合したヒト血清試料の種々の時点におけるMALDI−TOF分析の代表的な出力波形を示す。図17A〜図17DによりS100A1ct6/11の切断及び分解が起きないことが明らかとなり、プロテアーゼが豊富な環境における高い安定性が示されることに留意されたい。min 分
【図18】S100A1ct6/11が、基本条件及びβAR刺激条件下で収縮能力の増強をもたらす有意なin vivoでの血行動態効果を発揮することを示す図である。225ngのS100A1ct6/11の静脈内(i.v.)単回適用を受けた麻酔した成体C57/B6雄性マウス(BW30g)(四角)が、3時間持続する左心室の収縮能力の増強を示し(左パネル)、これはイソプロテレノールのi.v.適用(250pg)に対して(対照動物のベタ塗りのひし形と比較して)保存され相加的であった。in vivoでの効果は基本条件及びβAR刺激条件下でのS100A1ct6/11のin vitroでの作用を反映していることに留意されたい。in vivoでのS100A1ct6/11の変力効果は、心拍数及びβAR刺激に対するその応答性と無関係であった(右パネル)。S100A1ct6/11は、腹腔内使用及び皮下使用の後の開始の遅延化にも効果的である。図18は、S100A1ct6/11をi.v.注射した後の麻酔したマウスにおいて左心室のカテーテル処置(catherization)により評価される基本収縮能力の有意な増強を示す。機能獲得はβAR刺激下で保存され、心拍数と無関係であった(各群の動物数n=7、*P<0.05(対応する対照動物に対して)、2方向ANOVA)。LV contractile performance LVの収縮能力Control 対照min 分Heart rate 心拍数beats/min 拍動数/分
【図19】S100A1ct6/11がβ1AR遮断薬メトプロロールへの応答に効果的である顕著なin vivoでの血行動態効果を発揮することを示す図である。メトプロロール(62.5μg)の腹腔内(i.p.)投与の15分後に225ngのS100A1ct6/11の静脈内(i.v.)単回適用を受けた麻酔した成体C57/B6雄性マウス(BW30g)が、ECGの異常を伴わずに同様の心拍数の遅延化を示した(図19)が、S100A1ct6/11に媒介される機能獲得を保存していた(図20)。図19は、メトプロロールに応答した伝導異常を伴わずに同様の心拍数の遅延化を伴う、対照の(i.v.ビヒクル処理)及びS100A1ct6/11でi.v.処理したマウスにおける代表的な遠隔測定ECG記録(DSI systems、Einthoven lead II)を示す。control 対照awake 覚醒Metoprolol メトプロロールmin 分
【図20】麻酔したマウスにおいてβ1AR遮断薬メトプロロールの存在下でS100A1ct6/11の変力有効性が保存されることを示す図(左パネル)である。S100A1ct6/11がメトプロロールの負の変力効果をアンタゴナイズするが負の変時効果をアンタゴナイズせず(右パネル)、これにより心機能不全に対するS100A1ct6/11及びメトプロロールの併用療法の実現可能性が強調されることに留意されたい(各群の動物数n=7、*P<0.05(対応する対照動物に対して)、2方向ANOVA)。LV contractile performance LVの収縮能力min 分Metoprolol メトプロロールHeart rate 心拍数beats/min 拍動数/分Control 対照
【図21】S100A1ct6/11が実験的マウス心不全モデルにおいて血行動態機能を回復させるin vivoでの有意な治療効果を発揮することを示す図である。虚血後収縮機能不全を有する成体C57/B6雄性/雌性マウス(BW30g)の2週間、毎日の225ngのS100A1ct6/11でのi.p.処理により、心機能及び生存性の有意な改善がもたらされる。図21Aは、シリアル心エコー検査により評価した、収縮機能不全を有するマウスの左心室機能を回復させる心不全のS100A1ct6/11による2週間のi.p.処理の治療効果を示す。図21Bは、S100A1ct6/11で処理した心不全マウスにおける収縮能力の改善が生存性の有意な改善につながることを示す。(A、各群の動物数n=10;B、各群の動物数18、*P<0.05(MI前に対して)、+P<0.01(対照心不全動物に対して)、2方向ANOVA)。control (vehicle i.p.) 対照(ビヒクルi.p.投与)pre-MI MI前7d post-MI MIの7日後14d post-MI MIの14日後% death in HF mice 2 weeks after myocardialischemia 心筋虚血の2週間後のHFマウスの死亡率(%)control 対照
【図22】S100A1ct6/11が、実験的心不全動物モデルにおいて不全心筋におけるアポトーシス細胞死を防止するin vivoでの有意な治療効果を発揮することを示す図である。虚血後収縮機能不全を有する成体C57/B6雄性/雌性マウス(BW30g)の2週間、毎日の225ngのS100A1ct6/11でのi.p.処理により、不全心臓におけるアポトーシスの有意な減弱がもたらされた。in vivoでの効果が、in vitroでの心筋細胞におけるS100A1ct6/11の抗アポトーシス作用を反映していることに留意されたい。図22は、心不全(HF)対照の及びS100A1ct6/11で処理した(2週間のi.p.処理)不全心臓の代表的なTUNEL染色結果を示し、ここで緑色の核は、FITCと結合したプローブにより標識されたDNA鎖の切断を示す。S100A1ct6/11で処理した不全心臓が示すアポトーシス核はより少ない(中央のパネル)ことに留意されたい。統計解析により、生存性に対する全体的な治療効果に寄与するS100A1ct6/11で処理した不全心臓におけるアポトーシスの有意な低減が明らかとなった(各群の動物数n=6、*P<0.01(対照心臓に対して)、2方向ANOVA)。control 対照TUNEL positive nuclei/HPF TUNEL陽性核/HPF
【図23】S100A1ct6/11がβARに誘発される致死性の心室性頻脈性不整脈から心不全マウスを保護するin vivoでの顕著な治療効果を発揮することを示す図である。虚血後収縮機能不全を有する成体C57/B6雄性/雌性マウス(BW30g)の2週間、毎日の225ngのS100A1ct6/11でのi.p.処理が、カフェインによりカルシウムに感作された漏れやすいRyR2チャネルを有する心臓におけるβARに誘発される心室細動から保護する。心不全マウスにおける催不整脈プロトコルは、Wayne Chen及び共同研究者らにより以前に公開されたプロトコル(Xiao etal., 2007, JBC 282:34828-34838)を修正したものとした。図23は、致死性の心室細動の突発を引き起こすエピネフリン/カフェインのi.p.注射に曝露した心不全対照の及びS100A1ct6/11で処理したマウス(2週間のi.p.処理)における代表的なECG出力波形を示す(左パネル)。対照心不全マウスが80%の死亡率を示したのに対してS100A1ct6/11処理群では致死性の心室細動が10匹の動物のうち2匹のみでしか起こらなかったことに留意されたい(コンティンジェンシーをフィッシャーの正確確率検定により検定した)。control 対照Epinephrin エピネフリンCaffeine カフェイン% HF mice with VF after epinephrin/caffeineinjection エピネフリン/カフェイン注射後におけるVFを有するHFマウス(%)
【図24】S100A1ct6/11が正常な及び疾患の骨格筋において等尺性単収縮力を有意に増強することを示す図である。12週齢のC57/B6雄性マウスから単離した無傷の長指伸筋(extensor digitorum longum)(EDL)骨格筋をS100A1ct6/11(1μM)と共に45分間インキュベーションすることにより、本発明者らにより以前に公開されたような筋単離及び等尺性張力測定についての方法(Most et al., 2003, J. Biol. Chem. 278:26356-26364)を適用する図24Aに示すように、比等尺性単収縮力及び比強縮性単収縮力の有意な増強がもたらされた。強縮トレイン(Tetanictrain)を125Hzで175ミリ秒適用し、安定な力のプラトーに到達させた。さらに、以前に記載された(Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268)ように本発明者らにより作製された心筋梗塞後心不全マウスが、図24Bに示すように2週間のS100A1ct6/11のi.p.処理(225ng、毎日の注射)後に骨格筋機能の改善を示した。心不全患者における主要な臨床症状、例えば疲労及び運動能力の低下は骨格筋機能の低下により引き起こされ、心拍出量と直接関連しないため、このことは重要な知見である。図24Aは、S100A1ct6/11の細胞外適用(0.1μM〜1μM)により、EDLの等尺性単収縮力及び強縮性単収縮力が用量依存的に有意に増強されることを示す。図23Bは、心不全マウスにおけるS100A1ct6/11の全身(i.p.)投与により、骨格筋機能不全が減衰し、収縮能力が有意に改善することを示す(各群の筋肉/動物の数n=5、*P<0.05(対応する対照に対して)、+P<0.01(対照に対して)、2方向ANOVA)。EDL (normal mice)/extracellular S100A1ct 6/11application EDL(正常なマウス)/S100A1ct6/11の細胞外適用Specific isometric twitch force 比等尺性単収縮力control 対照Specific tetanic force 比強縮性単収縮力EDL (HF mice)/systemic i.p. S100A1ct 6/11application EDL(HFマウス)/S100A1ct6/11の全身(i.p.)適用
【図25】電場刺激(1Hz)した単離ラット心室心筋細胞におけるカルシウム過渡振幅に対するS100A1ペプチドN−75〜85−C(配列番号1に示されるヒトS100A1タンパク質のアミノ酸75〜85)、N−76〜85−C(配列番号1に示されるヒトS100A1タンパク質のアミノ酸76〜85)、N−77〜85−C(配列番号1に示されるヒトS100A1タンパク質のアミノ酸77〜85)、N−78〜85−C(配列番号1に示されるヒトS100A1タンパク質のアミノ酸78〜85)、N−79〜85−C(配列番号1に示されるヒトS100A1タンパク質のアミノ酸79〜85)の効果を示す図である。N−75〜85−C及びN−76〜85−Cがカルシウム過渡応答の増強において同様の効力を有することに留意されたい。N末端アミノ酸のいかなるさらなる欠失もペプチドの変力効果を消失させる。nは3つの異なる調製物由来の試験した細胞の数に等しい。*P<0.05(リンカー及びビヒクルに対して)、ANOVA。Calcium transient amplitude in FURA2 AMloaded cells FURA2 AMを負荷した細胞におけるカルシウム過渡振幅340/380 ratio counts 340/380のカウント比Control 対照linker リンカーvehicle ビヒクル
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を以下で詳細に説明する前に、本明細書中で説明する特定の方法論、プロトコル及び試薬は変動し得るので、本発明はこれらに限定されないと理解すべきである。本明細書中で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、添付した特許請求の範囲のみによって限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも理解すべきである。他に規定のない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0019】
以下では、本発明の要素を記載する。これらの要素を特定の実施形態と共に列挙するが、任意の様式及び任意の数でこれらを組み合わせて、さらなる実施形態を作り出すことができることを理解すべきである。様々に記載される実施例及び好ましい実施形態を、明示的に記載される実施形態にのみ本発明を限定するものと解釈すべきではない。この記載を、明示的に記載される実施形態を任意の数の開示される及び/又は好ましい要素と組み合わせた実施形態を支持及び包含するものと理解すべきである。さらに、本出願において記載される全ての要素の任意の置換及び組合せが、文脈上他に示されぬ限り、本出願の記載により開示されるものと考えるべきである。例えば、本発明によるペプチドの一実施形態において筋機能増強アミノ酸配列がアミノ酸モチーフ[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]を含み、これから本質的になり、又はこれからなり、別の実施形態において親水性モチーフが親水性アミノ酸モチーフΛ4−Θ2(ここで、Λ及びΘは以下で本明細書中で規定されるようなものであり、親水性モチーフは好ましくは筋機能増強アミノ酸配列に含まれるアミノ酸モチーフのアミノ末端と直接連結する)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる場合、アミノ酸配列Λ4−Θ2−[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]を含むペプチドは本発明によるペプチドの一実施形態である。
【0020】
好ましくは、本明細書中で使用される用語は、"Amultilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)",H.G.W. Leuenberger, B. Nagel and H. Koelbl, Eds., Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland,(1995)に記載されているように規定される。
【0021】
本発明を実施するために、特に明示のない限り、当該技術分野の文献(例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, J.Sambrook et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor1989を参照されたい)において説明される、従来の化学、生化学、細胞生物学の方法及び組換えDNA法を利用する。さらに、当該技術分野の文献(例えばPractical Methods in Cardiovascular Research, S. Dhein et al. eds.,Springer Verlag Berlin Heidelberg, 2005を参照されたい)でも説明される従来の臨床心臓病学の方法を利用する。
【0022】
以下の本明細書及び添付の特許請求の範囲を通じて、文脈上他に必要な場合以外は、「を含む(comprise)」という単語、並びに「を含む(comprises)」及び「を含む(comprising)」等の変化形は、記載された整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を包含することを示唆するが、任意の他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外することを示唆しないと理解される。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、その内容(content)が明らかに他の指示を与えるものでない限り、複数の指示対象を含む。
【0023】
複数の文書が、本明細書の文章を通じて引用される。本明細書中で引用される文書(全ての特許、特許出願、科学的刊行物、製造業者の仕様書、取扱説明書等を含む)の各々が、上記のものであるか又は下記のものであるかに関わらず、その全体が参照により本明細書に援用される。本明細書のどの記載も、本発明が従来の発明に基づくこのような開示に先行する権利を有しないことを認めるものと解釈すべきではない。
【0024】
本発明による「ペプチド」は、天然のものであっても又は天然のアミノ酸残基の誘導体であってもよく、好ましくはペプチド結合を介して連結されるアミノ酸残基の鎖を表し、ここで該ペプチドは100個以下のアミノ酸残基又はアミノ酸残基の誘導体からなる。「アミノ酸」という用語は、天然のアミノ酸、及びアミノ酸誘導体を包含する。本発明との関連では「低分子アミノ酸」は好ましくは、125ダルトン未満の分子量を有するアミノ酸である。好ましくは、本発明との関連では低分子アミノ酸は、アミノ酸グリシン、アラニン、セリン、システイン、トレオニン及びバリン、又はその誘導体からなる群から選択される。本発明との関連では疎水性の非芳香族アミノ酸は好ましくは、0.5より高い、より好ましくは1.0より高い、さらにより好ましくは1.5より高いカイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックスを有し、芳香族ではない任意のアミノ酸である。好ましくは、本発明との関連では疎水性の非芳香族アミノ酸は、アミノ酸アラニン(カイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックス1.8)、メチオニン(カイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックス1.9)、イソロイシン(カイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックス4.5)、ロイシン(カイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックス3.8)及びバリン(カイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックス4.2)、又は上で規定されるようなカイト・ドーリトルのヒドロパシーインデックスを有するその誘導体からなる群から選択される。
【0025】
本発明との関連では「筋肉」は、好ましくは横紋筋組織、又は横紋筋組織由来の筋肉細胞、例えば骨格筋細胞/骨格筋組織並びに心筋細胞及び心筋組織を意味する。
【0026】
本発明によれば、「筋機能増強アミノ酸配列」という用語は、任意の筋肉固有の(specific)機能を増強する及び/又はこれを回復させること、例えば筋肉細胞及び筋肉組織の、好ましくは横紋筋組織の、最も好ましくは心筋細胞及び骨格筋細胞及び心筋組織及び骨格筋組織の収縮能力を増強することが可能であるアミノ酸配列を表す。適切な筋機能は筋肉細胞内における機能的なカルシウム処理に密接に依存すると考えられるため、「筋機能増強アミノ酸配列」という用語は、筋肉細胞、好ましくは骨格筋細胞及び/又は心筋細胞におけるカルシウム処理/循環、好ましくは筋小胞体のカルシウム処理/循環を増強する及び/又はこれを回復させることが可能であるアミノ酸配列も表す。筋細胞における収縮能力を、例えばビデオエッジ検出(video-edge-detection)(VED)技法を使用して電場刺激した単一の心筋細胞の収縮性を評価することにより、直接測定することができる(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114:1550-1563(1561頁))。カルシウム処理を、蛍光カルシウム指示薬を使用してカルシウム過渡応答を評価することにより決定することができる(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114:1550-1563(1561頁))。
【0027】
本発明との関連では「を増強すること(enhancing)」(例えば筋機能、収縮能力及び/又はカルシウム処理を増強すること)という用語は、特定の機能を、該機能が正常であるか又は不完全であるか、すなわち筋肉細胞が健常であるか又は疾患状態であるかどうかと無関係に増大させる/増強することを意味する。好ましくは、「を増強すること」は、特定の機能を、対照の設定と比較して少なくとも15%、好ましくは少なくとも25%、好ましくは少なくとも35%、より好ましくは少なくとも45%、最も好ましくは少なくとも50%増強することを意味する。好ましくは対照の設定は、健常患者、又は健常患者の群の平均の筋機能、収縮能力及び/又はカルシウム処理である。
【0028】
本発明との関連では「を回復させること(restoring)」(例えば筋機能、収縮能力及び/又はカルシウム処理を回復させること)という用語は好ましくは、不完全な機能を、その正常な機能の少なくとも50%まで、好ましくはその正常な機能の少なくとも60%まで、好ましくはその正常な機能の少なくとも70%まで、より好ましくはその正常な機能の少なくとも80%まで、より好ましくはその正常な機能の少なくとも85%まで、さらにより好ましくはその正常な機能の少なくとも90%まで、さらにより好ましくはその正常な機能の少なくとも95%まで、最も好ましくはその正常な機能の少なくとも100%まで戻すことを意味し、ここで「正常な機能」は、いずれの筋疾患にも罹患していない個体由来の筋肉細胞により示されるその機能の平均値を意味する。例えば、左心室のカテーテル処置において力の発生を左心室における血圧上昇の一次導関数+dp/dt[mmHg/秒]により評価し、心エコー検査において収縮能力をM−Modeでの短縮率(FS%)、又は駆出率の算出値(EF%)により評価し(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114: 1550-1563、Most et al., 2006, Circulation 114, 1258-1268、オンラインでの補遺における材料及び方法)、VEDにおいて収縮性を短縮率(FS%)及び収縮速度(μm/秒)により評価する。カルシウム循環は単一細胞でのみ評価することができ、較正される場合、nMの遊離カルシウム濃度単位で測定される。およそ、麻酔したマウスにおける「正常な」+dp/dtは5000mmHg/秒〜8000mmHg/秒の範囲であることがあり、エコー検査の「正常な」EF%は60%〜80%、FS%は40%〜70%であり、「正常な」細胞のFS%は5%〜12%の範囲であることがあり、較正したカルシウム過渡応答は200nM〜400nMの範囲であることがある。
【0029】
作用剤との関連での「変力作用」という用語は、上記作用剤が筋肉の種類に関係なく筋肉収縮力に影響を及ぼすことを意味する。「正の変力作用」は筋肉収縮力を増大させることを意味し、「負の変力作用」は筋肉収縮力を減少させることを意味する。本発明のペプチドは、好ましくはin vitro及びin vivoで、正の変力作用を示す。作用剤の、例えば本発明のペプチドの変力効果は、例えば試験対象の作用剤/ペプチドの存在下及び非存在下において刺激した筋細胞におけるカルシウム過渡応答を決定することにより、in vitroで容易に決定することができる。例えば、カルシウム過渡応答を、落射蛍光デジタル化顕微鏡法を利用してFURA2−AMを負荷し電場刺激した心筋細胞において評価することができる(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114: 1550-1563(1561頁))。Fluoカルシウム指示薬ファミリーの成員、又はRhod−2AMのような任意の蛍光カルシウム指示薬を、FURA−2AMの代わりに使用することができる。根本的な原理(principal)は同じである。代替的には、パッチクランプ処理した(patch-clamped)単離心筋細胞におけるカルシウム過渡応答測定(Kettlewell/Mostet al., 2005, J. Mol. Cell. Cardiol., 200: 900-910(901頁))を使用することもできる。ペプチドの正の変力効果を、例えばペプチドを投与して及び投与せずに麻酔したマウスにおける左心室のカテーテル処置により収縮能力を決定することにより、in vivoで試験することもできる。通常、この実験においては、収縮性を、最大の左心室の血圧上昇の一次導関数(+dp/dtmax)として記載する(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114: 1550-1563、Most et al., 2006, Circulation 114;1258-1268)。代替的には、心エコー検査(Most et al., 2006, Circulation 114; 1258-1268)を使用することができる。
【0030】
本発明との関連では「カルシウム循環を増強する及び/又はこれを回復させること」という用語は、筋細胞におけるカルシウム循環、好ましくは筋小胞体のカルシウム循環を、正常状態/非病的状態下において改善させる、又は病的状態下(すなわちカルシウム循環が不完全である場合)においてこれを上で記載したような正常な機能まで回復させることを意味する。カルシウム循環不全は、筋小胞体におけるカルシウム含有量の低減、興奮収縮連関時における筋小胞体からのカルシウムの放出の低減、静止状態の筋肉細胞における筋小胞体からのカルシウム漏出(例えば漏れやすいRyR筋小胞体カルシウム放出チャネルによる)、カルシウムスパーク頻度の増大、又は収縮後における筋小胞体及び/若しくはミトコンドリア中へのカルシウムの再取込みの低減/遅延化(例えば機能障害を有する若しくは機能しない筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ(SERCA)による)の結果として起こるものであり得る。したがって本発明によれば、カルシウム循環を、好ましくは、上記パラメータを改善させること、例えば、筋小胞体のカルシウム含有量を増大させること、興奮収縮連関時における筋小胞体からのカルシウムの放出を増大させること、静止状態の筋肉細胞において筋小胞体からのカルシウム漏出を低減させること、カルシウムスパーク頻度を低減させること、及び/又は筋小胞体若しくはミトコンドリア中へのカルシウムの再取込みを改善させることにより、増強する又はこれを回復させることができる。この理論に拘束されるものではないが、カルシウム循環不全は、筋肉細胞の収縮能力不全、例えば収縮機能不全に関する主要な理由の1つであると考えられる。したがって、カルシウム循環を増強する又はこれを回復させることは、収縮能力も増強する及び/又はこれを回復させると考えられる。
【0031】
本発明との関連では「収縮能力」という用語は、筋肉収縮、例えば筋肉収縮力又は筋肉収縮時機(timing)と関連する任意の機能を包含する。骨格筋の場合には、強縮性収縮も、「収縮能力」という用語の範囲内に入る。「収縮能力不全」は、正常な/健常な筋肉細胞又は筋肉組織に関する平均値と比較した場合の収縮機能不全を表す。例えば、筋肉細胞又は筋肉組織の収縮能力は、例えば、所与の筋肉細胞又は筋肉組織の収縮力が正常な/健常な筋肉細胞又は筋肉組織に関する平均値から少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%逸脱する場合、不完全であると考えられ、ここで「逸脱する」という用語は正常な平均値未満の値を、又は正常な平均値より高い値を表すことができ、好ましくは該用語は正常な平均値未満の値を表す。例えば、意識のあるヒトに関しては、心エコー検査による50%未満の心臓のEF%は、心不全の開始と考えられる。正常なヒト心臓の意識下(conscious)EF%はおよそ65%〜70%である。好ましくは、「収縮能力を増強する及び/又はこれを回復させること」という用語は、筋肉細胞又は筋肉組織、好ましくは骨格筋細胞若しくは骨格筋組織又は心筋細胞若しくは心筋組織の収縮力の増大、及び筋肉細胞収縮の不完全な時機の修正を意味する。この関連では、「不完全な時機」という用語は、適切に時機制御されない(inappropriately timed)筋肉収縮事象、例えば心筋における不整脈、又は骨格筋組織の振戦若しくは単収縮を表す。
【0032】
本発明によるペプチドとの関連では「抗不整脈能(Anti-arrhythmic potential)」は、ペプチドが、筋細胞における、好ましくは心筋細胞及び心臓組織における適切に時機制御されない筋肉収縮、すなわち不整脈事象を低減させることが可能であることを意味する。本発明のペプチドは好ましくは、例えば致死性の心室性不整脈により不整脈発生による心臓突然死の基礎となる重大な病理機序である、不整脈誘発性のストア過負荷誘導性カルシウム放出(SOICR)から心筋細胞を保護する。好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、心筋細胞における不整脈、好ましくはカルシウム誘導性不整脈からの保護と変力作用を関連付ける。当業者は、ペプチドが抗不整脈効力を示すかどうかを、例えば試験対象のペプチドが心筋細胞、好ましくは内腔のカルシウムに感作された漏れやすいRyR2を有する心室心筋細胞をβARに誘発される催不整脈性のSOICR及びカルシウム波から保護することが可能であるかどうかを評価することにより、容易に決定することができる。例えば、正常な心室心筋細胞を、潜在的に抗不整脈効力を示すペプチドの存在下及び非存在下において10−7Mのイソプロテレノール及び0.5mMのカフェインで処理し、拡張期のカルシウム濃度に関してモニタリングすることができる。不全心筋細胞において、10−7Mのイソプロテレノール、又は等効果のカテコールアミン(例えばドブタミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)単独での処理を使用して、カルシウム処理との関連での不整脈誘発性の分子変化を明らかにすることができる。加えて、適切な等効果用量の、β−アドレナリン受容体の下流にあるセカンドメッセンジャーである環状アデノシン一リン酸(cAMP)を増強する他の作用剤、例えばホスホジエステラーゼ阻害剤(ロリプラム、エノキシモン)を、カフェインの存在下又は非存在下において使用することができる。SOICRを、蛍光カルシウム指示薬を負荷した静止状態の心筋細胞における共焦点顕微鏡によるカルシウム波及びカルシウムスパーク測定により(Voelkers et al., 2007, Cell Calcium 41:135-143(136頁))、又は落射蛍光顕微鏡法により蛍光カルシウム指示薬を負荷し電場刺激した(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114:1550-1563)及びパッチクランプ処理した(Kettlewell et al., 2005, J. Mol. Cell. Cardiol. 39:900-910(901頁))心筋細胞における拡張期のカルシウム波/放出として特定することができる。代替的には、SOICR及びカルシウム波の同等物(equivalents)、例えば遅延又は早期後収縮を、VEDにより、電場刺激した心筋細胞における拡張期収縮により評価することができる(Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114:1550-1563)。
【0033】
本発明との関連では、「S100タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸」という用語は好ましくは、S100タンパク質のカルボキシ末端の20アミノ酸を、例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸75〜94、すなわちアミノ酸配列Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F−W−E−N−S(配列番号2)を、より好ましくはS100タンパク質のカルボキシ末端の25アミノ酸を、最も好ましくはS100タンパク質のカルボキシ末端の30アミノ酸を表す。
【0034】
本発明によるペプチドとの関連では「細胞膜に浸透することが可能な」という用語は、ペプチドが無傷の細胞の細胞膜を横断することができることを意味し、ここで好ましくは該細胞は、脊椎動物の細胞、より好ましくは哺乳動物の細胞、例えばマウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ又はウマ等の細胞、最も好ましくはヒトの細胞である。好ましくは、本発明との関連では細胞は、筋肉細胞、好ましくは骨格筋細胞又は心筋細胞である。したがって、最も好ましくは本発明との関連では細胞は、哺乳動物の筋肉細胞である。当業者は、例えば、上記ペプチドを例えば放射性マーカー又は蛍光マーカーで標識すること、及び標識したペプチドを無傷の細胞、好ましくは哺乳動物の筋肉細胞、例えばラット心室心筋細胞と共にインキュベートすること、及び細胞内において、例えば無傷の細胞の細胞質中において標識したペプチドを、例えば蛍光顕微鏡法により検出することができるかどうかを評価することにより、ペプチドが細胞膜に浸透することが可能であるかどうかを容易に評価することができる(Most et al., 2005, J. Cell Sci. 118:421-431(422頁)、Voelkers et al., 2007, Cell Calcium 41:135-143(136頁))。
【0035】
本発明との関連ではS100カルシウム結合タンパク質は好ましくは、S100カルシウム結合タンパク質A1、S100カルシウム結合タンパク質Z、S100カルシウム結合タンパク質T、S100カルシウム結合タンパク質S及びS100タンパク質α鎖からなる群から選択される。最も好ましくは、本発明との関連ではS100カルシウム結合タンパク質は、S100A1である。本発明との関連ではS100カルシウム結合タンパク質は、任意の種のもの、例えばヒト又は他の霊長類、マウス若しくはラット等のS100タンパク質であってもよく、好ましくはヒト起源のものである。S100カルシウム結合タンパク質の好ましい例は、以下のGenBank又はRef Seqのアクセッション番号:XP_001494920.1、XP_001365057.1、XP_001140144、XP_513820.2、XP_001111052.1、CAI19674.1、XP_537265.1、NP_001092512.1、NP_006262.1、NP_001127319.1、AAB20539.2、NP_001007637.1、NP_035439.1、XP_002196029.1、XP_001332692.1、NP_001082820.1、XP_001504000.2、NP_570128.2、XP_526887.2、XP_226710.1、XP_607154.2、XP_853219.1、NP_001074628.1、NP_001013513.1、AAN63527.1、ACI68060.1及びXP_001344575.2により利用可能なものである。
【0036】
本発明との関連では疾患又は障害「を治療すること」という用語は、疾患の原因が除去されるかどうかとは無関係に疾患状態が改善される、すなわち疾患を有する個体が治癒する、又はその症状のみが減弱することを意味する。したがって、本発明によるペプチドは筋肉細胞においてカルシウム循環/処理を安定化させる及び/又はこれを回復させること、並びにそれにより上記細胞の収縮能力を改善させることによりその治療効果を発揮すると考えられるけれども、このペプチドを、カルシウム循環不全により引き起こされるものではない筋疾患の治療のために使用することもできる。例えば、骨格筋障害の症状、例えば筋力低下(筋肉細胞におけるカルシウム循環不全により引き起こされるものではない、又はこれと関連するものではない)も、本発明によるペプチドにより減弱する。
【0037】
本発明との関連では「個体」という用語は好ましくは、動物患者、好ましくは心筋障害若しくは骨格筋障害に罹患している、又はその両方に罹患している動物患者を表す。動物患者は、好ましくは脊椎動物患者、より好ましくは哺乳動物患者、例えば家畜、例えばマウス、ラット、ネコ、モルモット、ウサギ、イヌ、ブタ、ウシ又はウマである。最も好ましくは動物患者はヒト患者であり、「個体」という用語は、筋障害に、好ましくは心筋障害及び/又は骨格筋障害に罹患しているヒト患者を表す。本発明によるペプチドの機能的特質の評価との関連では、「個体」という用語は好ましくは、実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギ又は霊長類を表し、最も好ましくはこの関連では上記用語は、心不全動物モデル、例えば心筋梗塞後マウスモデル又は心筋梗塞後ラットモデルを表す(マウス:Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268(補遺);ラット:Most et al., 2004, J. Clin. Invest. 114:1550-1563)。
【0038】
第1の態様では、本発明は、アミノ酸モチーフ:
Φ4−X−Ψ−L−[T/A]−Ψ2
(式中、Φ及びΨはそれぞれ独立して選択される疎水性の非芳香族アミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸、好ましくは低分子アミノ酸である)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる筋機能増強アミノ酸配列を含むペプチドであって、該筋機能増強アミノ酸配列がS100カルシウム結合タンパク質A1のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下の連続するアミノ酸、例えば18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、該ペプチドが最大100アミノ酸、例えば最大100アミノ酸、95アミノ酸、90アミノ酸、85アミノ酸、80アミノ酸、75アミノ酸、70アミノ酸、65アミノ酸、60アミノ酸、55アミノ酸、50アミノ酸、45アミノ酸、40アミノ酸、35アミノ酸、30アミノ酸、25アミノ酸、20アミノ酸、19アミノ酸、18アミノ酸、17アミノ酸、16アミノ酸、15アミノ酸、14アミノ酸、13アミノ酸、12アミノ酸、11アミノ酸又は10アミノ酸の全長を有し、該ペプチドが正の変力作用を示す、ペプチドを提供する。Lはアミノ酸ロイシンを、Tはアミノ酸トレオニンを、Aはアミノ酸アラニンを表す。好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、10アミノ酸〜80アミノ酸の、より好ましくは10アミノ酸〜70アミノ酸の、より好ましくは10アミノ酸〜60アミノ酸の、より好ましくは10アミノ酸〜50アミノ酸の、さらにより好ましくは10アミノ酸〜40アミノ酸の、さらにより好ましくは10アミノ酸〜30アミノ酸の長さを有し、最も好ましくはペプチドは、10アミノ酸〜20アミノ酸の長さを有する。好ましい一実施形態では、ペプチドは、15アミノ酸長又は16アミノ酸長である。
【0039】
好ましくは、筋機能増強アミノ酸配列を除く本発明によるペプチドは、S100カルシウム結合タンパク質A1のカルボキシ末端アミノ酸と、好ましくはS100カルシウム結合タンパク質A1、S100カルシウム結合タンパク質Z、S100カルシウム結合タンパク質T、S100カルシウム結合タンパク質S及びS100タンパク質α鎖からなる群から選択されるS100カルシウム結合タンパク質と顕著に異なり、最も好ましくは任意のS100カルシウム結合タンパク質のカルボキシ末端と顕著に異なる。より好ましくは、筋機能増強アミノ酸配列を除く本発明によるペプチドは、S100カルシウム結合タンパク質A1のアミノ酸配列と、好ましくはS100カルシウム結合タンパク質A1、S100カルシウム結合タンパク質Z、S100カルシウム結合タンパク質T、S100カルシウム結合タンパク質S及びS100タンパク質α鎖からなる群から選択されるS100カルシウム結合タンパク質と顕著に異なり、最も好ましくは任意のS100カルシウム結合タンパク質のアミノ酸配列と顕著に異なる。「顕著に異なる」という用語は、アミノ酸配列が少なくとも80%異なり、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%異なることを意味する。配列における差異を、ポリペプチド配列を整列させることにより評価することができる。かかるアライメントツールは当業者に既知であり、例えばワールドワイドウェブで(例えば、標準的な設定(好ましくはAlignに関してはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5)を使用するClustalW(www.ebi.ac.uk/clustalw)又はAlign(http://www.ebi.ac.uk/emboss/align/ index.html)のように)取得することができる。2つ以上のポリペプチド配列における残基は、最良の配列アライメントにおいて整列される残基が互いに異なる場合、互いに異なるとされる。2つのポリペプチドの間の「最良の配列アライメント」は、整列される同一の残基の数が最大となるアライメントと定義される。
【0040】
本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸モチーフ:
[Y/F/W]−Φ4−X−Ψ−L−[T/A]−Ψ2
(式中、Φ及びΨはそれぞれ独立して選択される疎水性の非芳香族アミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸、好ましくは低分子アミノ酸である)を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。疎水性の非芳香族アミノ酸、及び低分子アミノ酸は、上で規定されるようなものである。
【0041】
好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドの筋機能増強アミノ酸配列は、αヘリックス構造を形成する。
【0042】
特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、細胞膜、好ましくは脊椎動物の細胞膜、さらにより好ましくは哺乳動物の細胞膜、さらにより好ましくは哺乳動物の筋肉細胞膜、最も好ましくは哺乳動物の骨格筋細胞膜、及び哺乳動物の心筋細胞膜に浸透することが可能である。好ましくは、本発明のペプチドは、生理学的環境中で、例えば培養培地(例えば、哺乳動物の組織培養用の)中で、及び/又は体液中で、例えば血液中で、上で規定されるような細胞膜に浸透することが可能である。したがって、最も好ましくは、本発明のペプチドは、非経口の投与経路により、例えば静脈内注射により投与される場合、in vivoで細胞膜に浸透することが可能である。
【0043】
好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、S100カルシウム結合タンパク質A1、S100カルシウム結合タンパク質Z、S100カルシウム結合タンパク質T、S100カルシウム結合タンパク質S及びS100タンパク質α鎖からなる群から選択されるS100カルシウム結合タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、ここで該S100カルシウム結合タンパク質は好ましくはヒト起源のもの、最も好ましくは任意の種のものである。したがって、好ましくは本発明によるペプチドは、好ましくは、S100カルシウム結合タンパク質A1のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、S100カルシウム結合タンパク質Zのカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、S100カルシウム結合タンパク質Tのカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、S100カルシウム結合タンパク質Sのカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、S100タンパク質α鎖のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有し、該S100カルシウム結合タンパク質は好ましくはヒト起源のもの、最も好ましくは任意の種のものである。最も好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、好ましくはヒト起源の、より好ましくは任意の種の任意のS100カルシウム結合タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下、17個以下、16個以下、15個以下、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下又は10個以下の連続するアミノ酸を含有する。特に、本発明によるペプチドは、配列Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F−W−E−N−S(配列番号2)、すなわち配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸75〜94を含まない、又はこれからならない。
【0044】
特定の好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、筋細胞において、好ましくは骨格筋細胞又は心筋細胞において収縮能力及び/又はカルシウム循環を増強する能力を示す。
【0045】
特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、筋細胞に対する、好ましくは心筋細胞に対する抗不整脈能を示し、したがって好ましくは、不整脈から、好ましくはカテコールアミンに誘発される不整脈から、好ましくは心臓突然死の原因であることが多い心室性不整脈から筋細胞及び心臓組織を保護することが可能である。好ましくは、本発明のペプチドは、in vitro及びin vivoで抗不整脈能を示す。好ましくは、本発明のペプチドは、致死性の心室性頻脈性不整脈から、好ましくはβ−アドレナリン受容体(βAR)に誘発される致死性の心室性頻脈性不整脈から、好ましくはカテコールアミンに誘発される致死性の心室性頻脈性不整脈から個体を保護する能力を示す。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、in vivoで抗不整脈能が観察される。ペプチドの抗不整脈能を、例えばペプチドが上で記載したようなSOICRから心筋細胞を保護するかどうかを検証することにより、in vitroで評価することができる。ペプチドの抗不整脈能を、例えば心不全動物モデルにおいて、例えば心筋梗塞後マウスモデルにおいてβARに誘発される頻脈性不整脈によりもたらされる死亡率に対するペプチドでの処理の効果を検証することにより、in vivoで評価することができる(Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268、補遺)。例えばペプチドを、好ましくは非経口的に、例えば腹腔内に、静脈内に、又は皮下に、数日間、例えば6日間、7日間、8日間若しくは9日間、最大数週間、例えば2週間、3週間又は4週間、好ましくは2週間毎日、又は隔日で、虚血後収縮機能不全を有するマウスに投与することができる。致死性の心室性頻脈性不整脈を、ペプチドでの或る特定の期間の処理後に、例えば7日後、8日後、9日後、10日後に、又は2週間後に、カフェイン(例えば100mg/kg〜140mg/kgの範囲の濃度の、好ましくは120mg/kgの濃度の)と組み合わせたエピネフリン(例えば1.5mg/kg〜2.5mg/kgの範囲の濃度の、好ましくは2mg/kgの濃度の)の投与により、動物において誘発することができる。致死性の心室細動を、遠隔測定ECGによりモニタリングすることができる(例えばXiao et al., 2007, J. Biol. Chem. 282:34828-34838を参照されたい)。
【0046】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、筋細胞、例えば骨格筋細胞及び心筋細胞において、好ましくは心筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させる能力を有する。好ましくは、本発明のペプチドは、in vitro及びin vivoでカルシウムスパーク頻度を低減させる能力を示す。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、in vivoでの効果が観察される。この関連では「を低減させること(Reducing)」は好ましくは、ペプチドで処理した筋細胞におけるカルシウムスパーク頻度が、ペプチドで処理していない対照筋細胞と比較して少なくとも15%、より好ましくは少なくとも25%、さらにより好ましくは少なくとも30%、最も好ましくは少なくとも40%低減することを意味する。好ましくは、この能力は、心筋細胞に適用されるペプチドの濃度に依存する。好ましくは、本発明のペプチドは、無傷の心筋細胞が存在する液体に添加される場合、該無傷の心筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させる能力を有する。例えば、本発明のペプチドは好ましくは、50nM〜500nMの範囲の濃度で心筋細胞の培地に添加される場合、好ましくは50nM〜250nMの範囲の濃度で適用される場合、より好ましくは75nM〜150nMの範囲の濃度で適用される場合、最も好ましくは100nMで適用される場合、静止状態の心筋細胞において、例えば培養した静止状態のラット心室心筋細胞において、カルシウムスパーク頻度を低減させるが、600nM以上の濃度で、好ましくは700nM以上の濃度で、より好ましくは800nM以上の濃度で、さらにより好ましくは900nM以上の濃度で、最も好ましくは1000nM以上の濃度で適用される場合、カルシウムスパーク頻度を増大させる(Voelkers M. et al., 2007, Cell Calcium 41:135-143)。したがって、当業者は、ペプチドがカルシウムスパーク頻度を低減させる能力を有するかどうかを容易に決定することができる。特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、上で記載したように抗不整脈能、及びカルシウムスパーク頻度を低減させる能力を示す。
【0047】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、アポトーシス細胞死から、好ましくはカルシウム誘導性アポトーシス細胞死から、好ましくは筋小胞体のカルシウム漏出に誘発されるアポトーシス細胞死から筋細胞、好ましくは骨格筋細胞及び/又は心筋細胞を保護する。したがって、好ましくは、本発明のペプチドは、抗アポトーシス能を示す。好ましくは、本発明のペプチドは、in vitro及びin vivoでこの抗アポトーシス効果を示す。好ましくは、本発明のペプチドは、in vivoで不全心筋におけるアポトーシス細胞死を防止する、すなわちin vivoでアポトーシス細胞死から不全心筋における心筋細胞を保護する。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、in vivoでの保護効果が観察される。この関連では「を保護すること(Protecting)」は、本発明によるペプチドで処理した細胞におけるアポトーシス細胞死の程度が、対照群と比較して少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、さらにより好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも60%低減することを意味する。当業者は、例えばペプチドの存在下及び非存在下において長期のカフェイン曝露により内腔のカルシウムに感作された漏れやすいRyRカルシウム放出チャネルを有する筋細胞における、好ましくは心室心筋細胞におけるアポトーシスの程度を観察することにより、この特質に関してin vitroで試験することができる。アポトーシスの指標は例えば、例えばDNAラダリングにより検証することができる断片化ゲノム(Liu et al., 2005, Circulation 111:90-96)、シトクロムc放出又はカスパーゼ3活性である(Most et al., 2003, J. Biol. Chem. 278:48404-48412)。ペプチドの抗アポトーシス効果を、実験的心不全動物モデルにおいてin vivoで評価することができる。例えば、虚血後収縮機能不全を有するマウスを、ペプチドで処理することができ、処理したマウス及び対照のマウスの心臓組織を、アポトーシス心筋細胞の程度に関して評価することができる。ペプチドを、好ましくは非経口的に、例えば腹腔内に、静脈内に、又は皮下に、数日間、例えば6日間、7日間、8日間若しくは9日間、最大数週間、例えば2週間、3週間又は4週間、好ましくは2週間毎日、又は隔日で、投与することができる。アポトーシス細胞の程度を、TnI及びCD31について対比染色した(TnI and CD31 counterstained)心臓組織切片のTUNEL染色により評価することができる(Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268)。特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、上で記載したように抗不整脈能を示し、アポトーシス細胞死から筋細胞を保護する。
【0048】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、好ましくは静止状態の筋細胞、例えば骨格筋細胞及び心筋細胞において筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力を有する。好ましくは、本発明のペプチドは、in vitro及びin vivoでこの効果を示す。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、このin vivoでの効果が観察される。この理論に拘束されるものではないが、本発明のペプチドは、その閉じた立体構造においてRyR筋小胞体カルシウム放出チャネルを安定化させ、それによりこれらのチャネルからのカルシウム漏出を低減させると考えられる(Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268、Voelkers M. et al., 2007, Cell Calcium 41:135-143)。特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、上で記載したように抗不整脈能を示し、カルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる。
【0049】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、in vivoで血行動態機能を回復させる能力を示す。好ましくは、本発明のペプチドは、心不全、例えば心筋梗塞時又は心筋梗塞後における心不全に罹患している個体において血行動態機能を回復させる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、この効果が観察される。当業者は、例えば実験的マウス心不全モデルを使用することにより、この機能に関してペプチドを容易に試験することができる。例えば、当業者は、ペプチドを投与して及び投与せずに虚血後収縮機能不全を有するマウスにおける心機能及び生存率を決定することができる。ペプチドを、好ましくは非経口的に、例えば腹腔内に、静脈内に、又は皮下に、数日間、例えば6日間、7日間、8日間若しくは9日間、最大数週間、例えば2週間、3週間又は4週間、好ましくは2週間毎日、又は隔日で、投与することができる。実験動物の左心室機能を、シリアル心エコー検査により評価することができる(Most et al., 2003, J. Bio. Chem. 278; 33809-33817、Most et al., 2006, Circulation 114:1258-1268)。好ましくは、本発明のペプチドは、抗不整脈効力、及びin vivoで血行動態機能を回復させる能力を示す。
【0050】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、骨格筋組織、例えば骨格筋線維において等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する。好ましくは、本発明のペプチドは、in vitro及びin vivoでこの効果を示す。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、このin vivoでの効果が観察される。当業者は、例えばペプチド処理した及び処理していない無傷の筋肉又は筋線維、例えば実験動物から単離した無傷の長指伸筋骨格筋における等尺性張力測定により、所与のペプチドに対してこの機能を容易に評価することができる。例えば、単離した筋肉を、或る特定の期間、例えば30分間〜60分間、好ましくは45分間、種々の濃度の、例えば500nM〜4μMの範囲の濃度の、好ましくは1μMの濃度のペプチドと共にインキュベートすることができる。単離した筋肉をその後、強縮トレイン(例えば125Hzで175ミリ秒間適用される)で刺激することができ、等尺性張力を測定することができる(Weisleder et al., 2006, J. Cell Biol. 174:639-654)。好ましくは、等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力に対する増強効果は、ペプチド(好ましくはこのペプチドは非経口投与されたものである)で全身的に処理された実験動物から単離した筋線維に対しても観察される。したがって、好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、全身的に、好ましくは非経口的に、例えば腹腔内に、静脈内に、又は皮下に投与される場合、骨格筋機能不全を減衰させ、in vivoで骨格筋細胞において収縮能力を増強する。特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、上で記載された、骨格筋細胞において等尺性単収縮力及び強縮性単収縮力を増強する能力、心筋細胞において収縮能力を増大させる能力、並びに抗不整脈能を示す。
【0051】
特に好ましい一実施形態では、本発明のペプチドは、上記の機能、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの2つ以上、例えば2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。
【0052】
本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、Φはアラニン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからなるアミノ酸の群からそれぞれ独立して選択され、好ましくはΦはメチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択される。
【0053】
本発明によるペプチドの別の好ましい実施形態では、Ψはアラニン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからなるアミノ酸の群からそれぞれ独立して選択され、好ましくはΨはアラニン、メチオニン、イソロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択される。本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、Φはメチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択され、Ψはアラニン、メチオニン、イソロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択される。
【0054】
本発明によるペプチドの別の好ましい実施形態では、Xは低分子アミノ酸であり、ここで該低分子アミノ酸は好ましくはプロリンではない。好ましくは、Xはグリシン、アラニン、セリン、システイン、トレオニン及びバリンからなるアミノ酸の群から選択され、より好ましくはXはグリシン、アラニン及びセリンからなる群から選択される。本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、Φはメチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択され、Ψはアラニン、メチオニン、イソロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択され、Xはグリシン、アラニン、セリン、システイン、トレオニン及びバリンから、好ましくはグリシン、アラニン及びセリンから選択される。
【0055】
本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。このことは、アミノ酸モチーフが好ましくは配列[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]であることを意味する。
【0056】
本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列V1−V2−L3−V4−A5−A6−L7−T8−V9−A10(配列番号3)(式中、V1及びV2は独立してイソロイシンにより置換されてもよく、好ましくはV1は置換されず、L3はメチオニンにより置換されてもよいが好ましくは置換されず、V4はイソロイシン又はメチオニンにより、好ましくはイソロイシンにより置換されてもよく、A5はグリシン又はセリンにより、好ましくはセリンにより置換されてもよく、A6はバリンにより置換されてもよく、T8はアラニンにより置換されてもよく、V9はアラニン又はイソロイシンにより、好ましくはアラニンにより置換されてもよく、A10はメチオニン又はバリンにより置換されてもよいが好ましくは置換されない)を含み、又はこれからなり、アミノ酸配列V1−V2−L3−V4−A5−A6−L7−T8−V9−A10のうちの好ましくは最大5個、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、さらにより好ましくは最大2個、最も好ましくは最大1個のアミノ酸が上で記載したように別のアミノ酸で置換される。本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、上で記載したような最も好ましいアミノ酸配列、すなわちV−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)において、最大3個、例えば1個、2個又は3個のアミノ酸が置換される。
【0057】
本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)、I−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号5)、V−I−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号6)、V−V−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号7)、V−V−L−I−A−A−L−T−V−A(配列番号8)、V−V−L−M−A−A−L−T−V−A(配列番号9)、V−V−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号10)、V−V−L−V−S−A−L−T−V−A(配列番号11)、V−V−L−V−A−V−L−T−V−A(配列番号12)、V−V−L−V−A−A−L−A−V−A(配列番号13)、V−V−L−V−A−A−L−T−A−A(配列番号14)、V−V−L−V−A−A−L−T−I−A(配列番号15)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−M(配列番号16)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−V(配列番号17)、I−I−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号18)、I−V−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号19)、I−V−L−I−A−A−L−T−V−A(配列番号20)、I−V−L−M−A−A−L−T−V−A(配列番号21)、I−V−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号22)、I−V−L−V−S−A−L−T−V−A(配列番号23)、I−V−L−V−A−V−L−T−V−A(配列番号24)、I−V−L−V−A−A−L−A−V−A(配列番号25)、I−V−L−V−A−A−L−T−A−A(配列番号26)、I−V−L−V−A−A−L−T−I−A(配列番号27)、I−V−L−V−A−A−L−T−V−M(配列番号28)、I−V−L−V−A−A−L−T−V−V(配列番号29)、V−I−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号30)、V−I−L−I−A−A−L−T−V−A(配列番号31)、V−I−L−M−A−A−L−T−V−A(配列番号32)、V−I−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号33)、V−I−L−V−S−A−L−T−V−A(配列番号34)、V−I−L−V−A−V−L−T−V−A(配列番号35)、V−I−L−V−A−A−L−A−V−A(配列番号36)、V−I−L−V−A−A−L−T−A−A(配列番号37)、V−I−L−V−A−A−L−T−I−A(配列番号38)、V−I−L−V−A−A−L−T−V−M(配列番号39)、V−I−L−V−A−A−L−T−V−V(配列番号40)、V−V−M−I−A−A−L−T−V−A(配列番号41)、V−V−M−M−A−A−L−T−V−A(配列番号42)、V−V−M−V−G−A−L−T−V−A(配列番号43)、V−V−M−V−S−A−L−T−V−A(配列番号44)、V−V−M−V−A−V−L−T−V−A(配列番号45)、V−V−M−V−A−A−L−A−V−A(配列番号46)、V−V−M−V−A−A−L−T−A−A(配列番号47)、V−V−M−V−A−A−L−T−I−A(配列番号48)、V−V−M−V−A−A−L−T−V−M(配列番号49)、V−V−M−V−A−A−L−T−V−V(配列番号50)、V−V−L−I−G−A−L−T−V−A(配列番号51)、V−V−L−I−S−A−L−T−V−A(配列番号52)、V−V−L−I−A−V−L−T−V−A(配列番号53)、V−V−L−I−A−A−L−A−V−A(配列番号54)、V−V−L−I−A−A−L−T−A−A(配列番号55)、V−V−L−I−A−A−L−T−I−A(配列番号56)、V−V−L−I−A−A−L−T−V−M(配列番号57)、V−V−L−I−A−A−L−T−V−V(配列番号58)、V−V−L−M−G−A−L−T−V−A(配列番号59)、V−V−L−M−S−A−L−T−V−A(配列番号60)、V−V−L−M−A−V−L−T−V−A(配列番号61)、V−V−L−M−A−A−L−A−V−A(配列番号62)、V−V−L−M−A−A−L−T−A−A(配列番号63)、V−V−L−M−A−A−L−T−I−A(配列番号64)、V−V−L−M−A−A−L−T−V−M(配列番号65)、V−V−L−M−A−A−L−T−V−V(配列番号66)、V−V−L−V−G−V−L−T−V−A(配列番号67)、V−V−L−V−G−A−L−A−V−A(配列番号68)、V−V−L−V−G−A−L−T−A−A(配列番号69)、V−V−L−V−G−A−L−T−I−A(配列番号70)、V−V−L−V−G−A−L−T−V−M(配列番号71)、V−V−L−V−G−A−L−T−V−V(配列番号72)、V−V−L−V−S−V−L−T−V−A(配列番号73)、V−V−L−V−S−A−L−A−V−A(配列番号74)、V−V−L−V−S−A−L−T−A−A(配列番号75)、V−V−L−V−S−A−L−T−I−A(配列番号76)、V−V−L−V−S−A−L−T−V−M(配列番号77)、V−V−L−V−S−A−L−T−V−V(配列番号78)、V−V−L−V−A−V−L−A−V−A(配列番号79)、V−V−L−V−A−V−L−T−A−A(配列番号80)、V−V−L−V−A−V−L−T−I−A(配列番号81)、V−V−L−V−A−V−L−T−V−M(配列番号82)、V−V−L−V−A−V−L−T−V−V(配列番号83)、V−V−L−V−A−A−L−A−A−A(配列番号84)、V−V−L−V−A−A−L−A−I−A(配列番号85)、V−V−L−V−A−A−L−A−V−M(配列番号86)、V−V−L−V−A−A−L−A−V−V(配列番号87)、V−V−L−V−A−A−L−T−A−M(配列番号88)、V−V−L−V−A−A−L−T−A−V(配列番号89)、V−V−L−V−A−A−L−T−I−M(配列番号90)、V−V−L−V−A−A−L−T−I−V(配列番号91)、I−I−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号92)、I−I−L−I−A−A−L−T−V−A(配列番号93)、I−I−L−M−A−A−L−T−V−A(配列番号94)、I−I−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号95)、I−I−L−V−S−A−L−T−V−A(配列番号96)、I−I−L−V−A−V−L−T−V−A(配列番号97)、I−I−L−V−A−A−L−A−V−A(配列番号98)、I−I−L−V−A−A−L−T−A−A(配列番号99)、I−I−L−V−A−A−L−T−I−A(配列番号100)、I−I−L−V−A−A−L−T−V−M(配列番号101)、I−I−L−V−A−A−L−T−V−V(配列番号102)、I−V−M−I−A−A−L−T−V−A(配列番号103)、I−V−M−M−A−A−L−T−V−A(配列番号104)、I−V−M−V−G−A−L−T−V−A(配列番号105)、I−V−M−V−S−A−L−T−V−A(配列番号106)、I−V−M−V−A−V−L−T−V−A(配列番号107)、I−V−M−V−A−A−L−A−V−A(配列番号108)、I−V−M−V−A−A−L−T−A−A(配列番号109)、I−V−M−V−A−A−L−T−I−A(配列番号110)、I−V−M−V−A−A−L−T−V−M(配列番号111)、I−V−M−V−A−A−L−T−V−V(配列番号112)、I−V−L−I−G−A−L−T−V−A(配列番号113)、I−V−L−I−S−A−L−T−V−A(配列番号114)、I−V−L−I−A−V−L−T−V−A(配列番号115)、I−V−L−I−A−A−L−A−V−A(配列番号116)、I−V−L−I−A−A−L−T−A−A(配列番号117)、I−V−L−I−A−A−L−T−I−A(配列番号118)、I−V−L−I−A−A−L−T−V−M(配列番号119)、I−V−L−I−A−A−L−T−V−V(配列番号120)、I−V−L−M−G−A−L−T−V−A(配列番号121)、I−V−L−M−S−A−L−T−V−A(配列番号122)、I−V−L−M−A−V−L−T−V−A(配列番号123)、I−V−L−M−A−A−L−A−V−A(配列番号124)、I−V−L−M−A−A−L−T−A−A(配列番号125)、I−V−L−M−A−A−L−T−I−A(配列番号126)、I−V−L−M−A−A−L−T−V−M(配列番号127)、I−V−L−M−A−A−L−T−V−V(配列番号128)、I−V−L−V−G−V−L−T−V−A(配列番号129)、I−V−L−V−G−A−L−A−V−A(配列番号130)、I−V−L−V−G−A−L−T−A−A(配列番号131)、I−V−L−V−G−A−L−T−I−A(配列番号132)、I−V−L−V−G−A−L−T−V−M(配列番号133)、I−V−L−V−G−A−L−T−V−V(配列番号134)、I−V−L−V−S−V−L−T−V−A(配列番号135)、I−V−L−V−S−A−L−A−V−A(配列番号136)、I−V−L−V−S−A−L−T−A−A(配列番号137)、I−V−L−V−S−A−L−T−I−A(配列番号138)、I−V−L−V−S−A−L−T−V−M(配列番号139)、I−V−L−V−S−A−L−T−V−V(配列番号140)、I−V−L−V−A−V−L−A−V−A(配列番号141)、I−V−L−V−A−V−L−T−A−A(配列番号142)、I−V−L−V−A−V−L−T−I−A(配列番号143)、I−V−L−V−A−V−L−T−V−M(配列番号144)、I−V−L−V−A−V−L−T−V−V(配列番号145)、I−V−L−V−A−A−L−A−A−A(配列番号146)、I−V−L−V−A−A−L−A−I−A(配列番号147)、I−V−L−V−A−A−L−A−V−M(配列番号148)、I−V−L−V−A−A−L−A−V−V(配列番号149)、I−V−L−V−A−A−L−T−A−M(配列番号150)、I−V−L−V−A−A−L−T−A−V(配列番号151)、I−V−L−V−A−A−L−T−I−M(配列番号152)、I−V−L−V−A−A−L−T−I−V(配列番号153)、V−I−M−I−A−A−L−T−V−A(配列番号154)、V−I−M−M−A−A−L−T−V−A(配列番号155)、V−I−M−V−G−A−L−T−V−A(配列番号156)、V−I−M−V−S−A−L−T−V−A(配列番号157)、V−I−M−V−A−V−L−T−V−A(配列番号158)、V−I−M−V−A−A−L−A−V−A(配列番号159)、V−I−M−V−A−A−L−T−A−A(配列番号160)、V−I−M−V−A−A−L−T−I−A(配列番号161)、V−I−M−V−A−A−L−T−V−M(配列番号162)、V−I−M−V−A−A−L−T−V−V(配列番号163)、V−I−L−I−G−A−L−T−V−A(配列番号164)、V−I−L−I−S−A−L−T−V−A(配列番号165)、V−I−L−I−A−V−L−T−V−A(配列番号166)、V−I−L−I−A−A−L−A−V−A(配列番号167)、V−I−L−I−A−A−L−T−A−A(配列番号168)、V−I−L−I−A−A−L−T−I−A(配列番号169)、V−I−L−I−A−A−L−T−V−M(配列番号170)、V−I−L−I−A−A−L−T−V−V(配列番号171)、V−I−L−M−G−A−L−T−V−A(配列番号172)、V−I−L−M−S−A−L−T−V−A(配列番号173)、V−I−L−M−A−V−L−T−V−A(配列番号174)、V−I−L−M−A−A−L−A−V−A(配列番号175)、V−I−L−M−A−A−L−T−A−A(配列番号176)、V−I−L−M−A−A−L−T−I−A(配列番号177)、V−I−L−M−A−A−L−T−V−M(配列番号178)、V−I−L−M−A−A−L−T−V−V(配列番号179)、V−I−L−V−G−V−L−T−V−A(配列番号180)、V−I−L−V−G−A−L−A−V−A(配列番号181)、V−I−L−V−G−A−L−T−A−A(配列
番号182)、V−I−L−V−G−A−L−T−I−A(配列番号183)、V−I−L−V−G−A−L−T−V−M(配列番号184)、V−I−L−V−G−A−L−T−V−V(配列番号185)、V−I−L−V−S−V−L−T−V−A(配列番号186)、V−I−L−V−S−A−L−A−V−A(配列番号187)、V−I−L−V−S−A−L−T−A−A(配列番号188)、V−I−L−V−S−A−L−T−I−A(配列番号189)、V−I−L−V−S−A−L−T−V−M(配列番号190)、V−I−L−V−S−A−L−T−V−V(配列番号191)、V−I−L−V−A−V−L−A−V−A(配列番号192)、V−I−L−V−A−V−L−T−A−A(配列番号193)、V−I−L−V−A−V−L−T−I−A(配列番号194)、V−I−L−V−A−V−L−T−V−M(配列番号195)、V−I−L−V−A−V−L−T−V−V(配列番号196)、V−I−L−V−A−A−L−A−A−A(配列番号197)、V−I−L−V−A−A−L−A−I−A(配列番号198)、V−I−L−V−A−A−L−A−V−M(配列番号199)、V−I−L−V−A−A−L−A−V−V(配列番号200)、V−I−L−V−A−A−L−T−A−M(配列番号201)、V−I−L−V−A−A−L−T−A−V(配列番号202)、V−I−L−V−A−A−L−T−I−M(配列番号203)、V−I−L−V−A−A−L−T−I−V(配列番号204)、V−V−M−I−G−A−L−T−V−A(配列番号205)、V−V−M−I−S−A−L−T−V−A(配列番号206)、V−V−M−I−A−V−L−T−V−A(配列番号207)、V−V−M−I−A−A−L−A−V−A(配列番号208)、V−V−M−I−A−A−L−T−A−A(配列番号209)、V−V−M−I−A−A−L−T−I−A(配列番号210)、V−V−M−I−A−A−L−T−V−M(配列番号211)、V−V−M−I−A−A−L−T−V−V(配列番号212)、V−V−M−M−G−A−L−T−V−A(配列番号213)、V−V−M−M−S−A−L−T−V−A(配列番号214)、V−V−M−M−A−V−L−T−V−A(配列番号215)、V−V−M−M−A−A−L−A−V−A(配列番号216)、V−V−M−M−A−A−L−T−A−A(配列番号217)、V−V−M−M−A−A−L−T−I−A(配列番号218)、V−V−M−M−A−A−L−T−V−M(配列番号219)、V−V−M−M−A−A−L−T−V−V(配列番号220)、V−V−M−V−G−V−L−T−V−A(配列番号221)、V−V−M−V−G−A−L−A−V−A(配列番号222)、V−V−M−V−G−A−L−T−A−A(配列番号223)、V−V−M−V−G−A−L−T−I−A(配列番号224)、V−V−M−V−G−A−L−T−V−M(配列番号225)、V−V−M−V−G−A−L−T−V−V(配列番号226)、V−V−M−V−S−V−L−T−V−A(配列番号227)、V−V−M−V−S−A−L−A−V−A(配列番号228)、V−V−M−V−S−A−L−T−A−A(配列番号229)、V−V−M−V−S−A−L−T−I−A(配列番号230)、V−V−M−V−S−A−L−T−V−M(配列番号231)、V−V−M−V−S−A−L−T−V−V(配列番号232)、V−V−M−V−A−V−L−A−V−A(配列番号233)、V−V−M−V−A−V−L−T−A−A(配列番号234)、V−V−M−V−A−V−L−T−I−A(配列番号235)、V−V−M−V−A−V−L−T−V−M(配列番号236)、V−V−M−V−A−V−L−T−V−V(配列番号237)、V−V−M−V−A−A−L−A−A−A(配列番号238)、V−V−M−V−A−A−L−A−I−A(配列番号239)、V−V−M−V−A−A−L−A−V−M(配列番号240)、V−V−M−V−A−A−L−A−V−V(配列番号241)、V−V−M−V−A−A−L−T−A−M(配列番号242)、V−V−M−V−A−A−L−T−A−V(配列番号243)、V−V−M−V−A−A−L−T−I−M(配列番号244)、V−V−M−V−A−A−L−T−I−V(配列番号245)、V−V−L−I−G−V−L−T−V−A(配列番号246)、V−V−L−I−G−A−L−A−V−A(配列番号247)、V−V−L−I−G−A−L−T−A−A(配列番号248)、V−V−L−I−G−A−L−T−I−A(配列番号249)、V−V−L−I−G−A−L−T−V−M(配列番号250)、V−V−L−I−G−A−L−T−V−V(配列番号251)、V−V−L−I−S−V−L−T−V−A(配列番号252)、V−V−L−I−S−A−L−A−V−A(配列番号253)、V−V−L−I−S−A−L−T−A−A(配列番号254)、V−V−L−I−S−A−L−T−I−A(配列番号255)、V−V−L−I−S−A−L−T−V−M(配列番号256)、V−V−L−I−S−A−L−T−V−V(配列番号257)、V−V−L−I−A−V−L−A−V−A(配列番号258)、V−V−L−I−A−V−L−T−A−A(配列番号259)、V−V−L−I−A−V−L−T−I−A(配列番号260)、V−V−L−I−A−V−L−T−V−M(配列番号261)、V−V−L−I−A−V−L−T−V−V(配列番号262)、V−V−L−I−A−A−L−A−A−A(配列番号263)、V−V−L−I−A−A−L−A−I−A(配列番号264)、V−V−L−I−A−A−L−A−V−M(配列番号265)、V−V−L−I−A−A−L−A−V−V(配列番号266)、V−V−L−I−A−A−L−T−A−M(配列番号267)、V−V−L−I−A−A−L−T−A−V(配列番号268)、V−V−L−I−A−A−L−T−I−M(配列番号269)、V−V−L−I−A−A−L−T−I−V(配列番号270)、V−V−L−M−G−V−L−T−V−A(配列番号271)、V−V−L−M−G−A−L−A−V−A(配列番号272)、V−V−L−M−G−A−L−T−A−A(配列番号273)、V−V−L−M−G−A−L−T−I−A(配列番号274)、V−V−L−M−G−A−L−T−V−M(配列番号275)、V−V−L−M−G−A−L−T−V−V(配列番号276)、V−V−L−M−S−V−L−T−V−A(配列番号277)、V−V−L−M−S−A−L−A−V−A(配列番号278)、V−V−L−M−S−A−L−T−A−A(配列番号279)、V−V−L−M−S−A−L−T−I−A(配列番号280)、V−V−L−M−S−A−L−T−V−M(配列番号281)、V−V−L−M−S−A−L−T−V−V(配列番号282)、V−V−L−M−A−V−L−A−V−A(配列番号283)、V−V−L−M−A−V−L−T−A−A(配列番号284)、V−V−L−M−A−V−L−T−I−A(配列番号285)、V−V−L−M−A−V−L−T−V−M(配列番号286)、V−V−L−M−A−V−L−T−V−V(配列番号287)、V−V−L−M−A−A−L−A−A−A(配列番号288)、V−V−L−M−A−A−L−A−I−A(配列番号289)、V−V−L−M−A−A−L−A−V−M(配列番号290)、V−V−L−M−A−A−L−A−V−V(配列番号291)、V−V−L−M−A−A−L−T−A−M(配列番号292)、V−V−L−M−A−A−L−T−A−V(配列番号293)、V−V−L−M−A−A−L−T−I−M(配列番号294)、V−V−L−M−A−A−L−T−I−V(配列番号295)、V−V−L−V−G−V−L−A−V−A(配列番号296)、V−V−L−V−G−V−L−T−A−A(配列番号297)、V−V−L−V−G−V−L−T−I−A(配列番号298)、V−V−L−V−G−V−L−T−V−M(配列番号299)、V−V−L−V−G−V−L−T−V−V(配列番号300)、V−V−L−V−G−A−L−A−A−A(配列番号301)、V−V−L−V−G−A−L−A−I−A(配列番号302)、V−V−L−V−G−A−L−A−V−M(配列番号303)、V−V−L−V−G−A−L−A−V−V(配列番号304)、V−V−L−V−G−A−L−T−A−M(配列番号305)、V−V−L−V−G−A−L−T−A−V(配列番号306)、V−V−L−V−G−A−L−T−I−M(配列番号307)、V−V−L−V−G−A−L−T−I−V(配列番号308)、V−V−L−V−S−V−L−A−V−A(配列番号309)、V−V−L−V−S−V−L−T−A−A(配列番号310)、V−V−L−V−S−V−L−T−I−A(配列番号311)、V−V−L−V−S−V−L−T−V−M(配列番号312)、V−V−L−V−S−V−L−T−V−V(配列番号313)、V−V−L−V−S−A−L−A−A−A(配列番号314)、V−V−L−V−S−A−L−A−I−A(配列番号315)、V−V−L−V−S−A−L−A−V−M(配列番号316)、V−V−L−V−S−A−L−A−V−A−V(配列番号317)、V−V−L−V−S−A−L−T−A−M(配列番号318)、V−V−L−V−S−A−L−T−A−V(配列番号319)、V−V−L−V−S−A−L−T−I−M(配列番号320)、V−V−L−V−S−A−L−T−I−V(配列番号321)、V−V−L−V−A−V−L−A−A−A(配列番号322)、V−V−L−V−A−V−L−A−I−A(配列番号323)、V−V−L−V−A−V−L−A−V−M(配列番号324)、V−V−L−V−A−V−L−A−V−V(配列番号325)、V−V−L−V−A−V−L−T−A−M(配列番号326)、V−V−L−V−A−V−L−T−A−V(配列番号327)、V−V−L−V−A−V−L−T−I−M(配列番号328)、V−V−L−V−A−V−L−T−I−V(配列番号329)、V−V−L−V−A−A−L−A−A−M(配列番号330)、V−V−L−V−A−A−L−A−A−V(配列番号331)、V−V−L−V−A−A−L−A−I−M(配列番号332)及びV−V−L−V−A−A−L−A−I−V(配列番号333)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる。これらのアミノ酸配列は、本発明によるペプチドに含まれるアミノ酸モチーフの好ましい特定の実施形態である。別の実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、上記のアミノ酸配列、すなわち配列番号4〜配列番号333からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、又はこれからなり、上記アミノ酸配列はさらに、そのN末端に直接結合したチロシン残基を有する、又はこれを含む。したがって、例えば好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号390)、すなわちそのアミノ末端と直接結合したチロシンを有する配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる。
【0058】
本発明によるペプチドの特に好ましい別の実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列V−[V/I]−L−[V/I]−[A/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A]−A(配列番号374)を含み、これから本質的になり、又はこれからなり、好ましい配列はV−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)であり、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、さらにより好ましくは最大2個、最も好ましくは最大1個のアミノ酸が上で記載したように置換される。したがって、本発明によるペプチドの特に好ましい一実施形態では、アミノ酸モチーフはアミノ酸配列V−[V/I]−L−[V/I]−[A/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A]−A(配列番号374)からなり、好ましい配列はV−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)であり、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、さらにより好ましくは最大2個、最も好ましくは最大1個のアミノ酸が上で記載したように別のアミノ酸で置換される。
【0059】
本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、アミノ酸配列V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)、V−I−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号6)、V−V−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号7)、I−I−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号95)、V−V−L−I−A−A−L−A−A−A(配列番号263)、V−I−L−V−S−V−L−T−V−A(配列番号186)、I−I−L−M−G−A−L−T−V−A(配列番号334)及びV−V−M−V−A−A−L−T−V−V(配列番号50)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。これらのアミノ酸配列は、本発明によるペプチドに含まれるアミノ酸モチーフの特に好ましい特定の実施形態である。
【0060】
本発明によるペプチドの別の実施形態では、C、C−N、C−N−[N/D/E]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E(配列番号375)、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E−[N/T](配列番号376)からなる群から選択される、好ましくはC、C−N、C−N−N、C−N−N−F(配列番号335)、C−N−N−F−F(配列番号336)、C−N−N−F−F−W(配列番号337)、C−N−N−F−F−W−E(配列番号338)及びC−N−N−F−F−W−E−N(配列番号339)からなる群から選択されるアミノ酸又はアミノ酸配列が、アミノ酸モチーフのカルボキシ末端と直接連結する。本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、筋機能増強アミノ酸配列は、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]−[F/Y]、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F(配列番号377)、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q](配列番号378)、[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E(配列番号379)及び[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]−C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E−[N/T](配列番号380)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、これから本質的になる、又はこれからなる。
【0061】
好ましくは、筋機能増強アミノ酸配列は、上で記載した群から選択されるアミノ酸又はアミノ酸配列がそのカルボキシ末端と直接連結する、上で具体的に開示されたアミノ酸配列、すなわち具体的に開示されたアミノ酸モチーフのアミノ酸配列のいずれかを含む、又はこれからなる。例えば、好ましくは筋機能増強アミノ酸配列は、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C(配列番号340)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N(配列番号341)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N(配列番号342)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F(配列番号343)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F(配列番号344)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F−W(配列番号345)、V−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F−W−E(配列番号346)及びV−V−L−V−A−A−L−T−V−A−C−N−N−F−F−W−E−N(配列番号347)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる。
【0062】
本発明によるペプチドの別の実施形態では、芳香族アミノ酸、好ましくはチロシン、フェニルアラニン又はトリプトファン、より好ましくはチロシン又はフェニルアラニン、最も好ましくはチロシンが、アミノ酸モチーフのアミノ末端と直接連結する。好ましくは、筋機能増強アミノ酸配列は、チロシンによりそのアミノ末端で伸長された上で具体的に開示されたアミノ酸配列のうちの1つを含む、又はこれからなる。
【0063】
別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、膜浸透増強モチーフ、1つ又は複数のエピトープタグ、親水性モチーフ、及びペプチド標的化モチーフからなる群から選択される要素のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ又は4つをさらに含む。
【0064】
膜浸透増強モチーフは、上で記載したように膜に浸透することが可能である任意のアミノ酸配列、例えば細胞浸透ペプチド(CCP)であり得る。上記膜浸透増強モチーフは、該膜浸透増強モチーフが上記高分子と結合した場合、通常は細胞膜を横断する能力を有しない他の高分子、例えばペプチド、タンパク質又は核酸が無傷の細胞膜に浸透することを可能とし得る。かかる膜浸透増強モチーフは、タンパク質形質導入ドメイン由来のものであってもよく、両親媒性ペプチドであってもよく、又は任意の他の浸透ペプチドであってもよい。例えば、膜浸透増強モチーフは、HIV Tatペプチド、例えばG−R−K−K−R−R−Q−R−R−R(配列番号348)、ペネトラチンペプチド、例えばR−Q−I−K−I−W−F−Q−N−R−R−M−K−W−K−K(配列番号349)若しくはK−K−W−K−M−R−R−N−Q−F−W−V−K−V−Q−R−G(配列番号350)、トランスポータンペプチド、例えばG−W−T−L−N−S−A−G−Y−L−L−G−K−I−N−L−K−A−L−A−A−L−A−K−K−I−L(配列番号351)、MPG/Pepファミリーの成員のペプチド、例えばG−A−L−F−L−G−F−L−G−A−A−G−S−T−M−G−A−W−S−Q−P−K−K−K−R−K−V(配列番号352)若しくはK−E−T−W−W−E−T−W−W−T−E−W−S−Q−P−K−K−K−R−K−V(配列番号353)、又はアルギニンリッチペプチド等由来のものであり得る(Deshayes et al., 2005, Cell. Mol. Life Sci. 62:1839-1849)。かかる膜浸透増強モチーフは、本発明によるペプチド内において、筋機能増強アミノ酸配列に対してアミノ末端に又はカルボキシ末端に位置し得る。さらに、本発明によるペプチドは2つ以上の膜浸透増強モチーフを含んでいてもよく、例えば本発明によるペプチドは2つ、3つ、4つ又は5つのかかるモチーフを含有していてもよい。
【0065】
エピトープは、抗体が結合する分子の一部分である。本発明との関連では、エピトープは好ましくは、ペプチドタグ、例えばヘマグルチニン(HA)タグ、FLAGタグ、mycタグ又はポリHisタグである。かかるエピトープタグを使用して、例えば本発明のペプチドが細胞膜に浸透する、すなわち細胞膜を横断するかどうかを決定するために、細胞内において本発明のペプチドを探索する(locate)ことができ、該タグを、上記ペプチドと共にインキュベートした無傷の細胞の内部で見出すことができる。
【0066】
特定の好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、親水性モチーフをさらに含む。好ましい一実施形態では、上記親水性モチーフは、酸性の、塩基性の、及び/又はそうでなくとも負に若しくは正に荷電したアミノ酸を含む。特定の本発明によるペプチドの好ましい一実施形態では、親水性モチーフは、アミノ酸モチーフΛ4−Θ2(式中、Λはアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンからそれぞれ独立して選択され、Θはα−ヘリックス遮断因子、好ましくはプロリン又はグリシンである)を含む、又はこれからなる。好ましくは、親水性モチーフは、[D/E]−[D/E]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[D/E]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[D/E]−[K/R]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[D/E]−[D/E]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[D/E]−[K/R]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[D/E]−[D/E]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[K/R]−[K/R]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[K/R]−[D/E]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[D/E]−[K/R]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[K/R]−[K/R]−[D/E]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[K/R]−[D/E]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[K/R]−[D/E]−[K/R]−[K/R]−[P/G]−[P/G]、[D/E]−[K/R]−[K/R]−[K/R]−[P/G]−[P/G]及び[K/R]−[K/R]−[K/R]−[K/R]−[P/G]−[P/G]からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる。好ましくは、親水性モチーフは、アミノ酸配列[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]を含む、又はこれからなる。より好ましくは、親水性モチーフは、D−K−D−D−P−P(配列番号354)、E−K−D−D−P−P(配列番号355)、D−R−D−D−P−P(配列番号356)、D−K−E−D−P−P(配列番号357)、D−K−D−E−P−P(配列番号358)、E−R−D−D−P−P(配列番号359)、E−K−E−D−P−P(配列番号360)、E−K−D−E−P−P(配列番号361)、D−R−E−D−P−P(配列番号362)、D−R−D−E−P−P(配列番号363)、D−K−E−E−P−P(配列番号364)、E−R−E−D−P−P(配列番号365)、E−R−D−E−P−P(配列番号366)、D−R−E−E−P−P(配列番号367)、E−K−E−E−P−P(配列番号368)及びE−R−E−E−P−P(配列番号369)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる(上記配列におけるP−Pは、G−Gに交換してもよい)。最も好ましくは、親水性モチーフは、アミノ酸配列D−K−D−D−P−P(配列番号354)を含む、又はこれからなる(上記配列におけるP−PもG−Gであってもよい)。好ましくは親水性モチーフは、本発明によるペプチド内において、筋機能増強アミノ酸配列に対してアミノ末端に位置するが、筋機能増強アミノ酸配列に対してカルボキシ末端に位置していてもよい。特に好ましい一実施形態では、親水性モチーフは、筋機能増強アミノ酸配列のアミノ末端と直接連結し、好ましくはアミノ酸モチーフのアミノ末端と直接連結する。
【0067】
したがって本発明の特定の好ましい一実施形態では、ペプチドは、アミノ酸配列Λ4−Θ2−Φ4−X−Ψ−L−[T/A]−Ψ2(式中、Λはアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンからそれぞれ独立して選択され、Θはα−ヘリックス遮断因子であり、好ましくはプロリン又はグリシンからそれぞれ独立して選択され、Φ及びΨはそれぞれ独立して選択される疎水性の非芳香族アミノ酸であり、好ましくはΦはメチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからそれぞれ独立して選択され、Ψはそれぞれ好ましくはアラニン、メチオニン、イソロイシン及びバリンから選択され、Xは任意のアミノ酸、好ましくは低分子アミノ酸であり、好ましくはグリシン、アラニン、セリン、システイン、トレオニン及びバリンから選択され、より好ましくはグリシン、アラニン及びセリンから選択される)を含む、これから本質的になる、好ましくはこれからなる。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。
【0068】
さらにより好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列Λ4−Θ2−[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]、(式中、Λはアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンからそれぞれ独立して選択され、Θはα−ヘリックス遮断因子、好ましくはプロリン又はグリシンである)を含む、好ましくはこれからなる。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。
【0069】
さらにより好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]−[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]を含む、好ましくはこれからなる。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。
【0070】
さらにより好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−P−P−V−[V/I]−L−[V/I]−[A/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A]−A(配列番号381)を含む、好ましくはこれからなる。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。
【0071】
最も好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列D1−K2−D3−D4−P5−P6−V7−V8−L9−V10−A11−A12−L13−T14−V15−A16(配列番号370)、又は配列番号370に示されるアミノ酸配列、すなわちD1−K2−D3−D4−P5−P6−V7−V8−L9−V10−A11−A12−L13−T14−V15−A16と好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、これから本質的になる、好ましくはこれからなる。好ましくは、アミノ酸置換は上で記載したようなものであり、例えばD1はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、K2はアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸により、好ましくはアルギニンにより置換されてもよく、D3はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、D4はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、P5及びP6は独立してグリシンにより置換されてもよく、V7及びV8は独立してイソロイシンにより置換されてもよく、好ましくはV7は置換されず、L9はメチオニンにより置換されてもよいが好ましくは置換されず、V10はイソロイシン又はメチオニンにより、好ましくはイソロイシンにより置換されてもよく、A11はグリシン又はセリンにより、好ましくはセリンにより置換されてもよく、A12はバリンにより置換されてもよく、T14はアラニンにより置換されてもよく、V15はアラニン又はイソロイシンにより、好ましくはアラニンにより置換されてもよく、A16はメチオニン又はバリンにより置換されてもよいが好ましくは置換されない。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。したがって、好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、上で記載したようにアミノ酸残基が置換されてもよいアミノ酸配列D1−K2−D3−D4−P5−P6−V7−V8−L9−V10−A11−A12−L13−T14−V15−A16(配列番号371)を含み、これから本質的になり、好ましくはこれからなり、好ましくは該アミノ酸配列は配列番号370に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有し、上記の機能のうちの好ましくは1つ又は複数、好ましくは全てを観察することができ、最も好ましくは該ペプチドは細胞透過性を有する。
【0072】
別の好ましい実施形態では、本発明によるペプチドは、アミノ酸配列D1−K2−D3−D4−P5−P6−Y7−V8−V9−L10−V11−A12−A13−L14−T15−V16−A17(配列番号372)、又は配列番号372に示されるアミノ酸配列、すなわちD1−K2−D3−D4−P5−P6−Y7−V8−V9−L10−V11−A12−A13−L14−T15−V16−A17と好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、これから本質的になる、好ましくはこれからなる。好ましくは、アミノ酸置換は上で記載したようなものであり、例えばD1はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、K2はアルギニン、グルタミン酸又はアスパラギン酸により、好ましくはアルギニンにより置換されてもよく、D3はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、D4はグルタミン酸、アルギニン又はリジンにより、好ましくはグルタミン酸により置換されてもよく、P5及びP6は独立してグリシンにより置換されてもよく、Y7はフェニルアラニンまたはトリプトファンにより、好ましくはフェニルアラニンにより置換されてもよく、V8及びV9は独立してイソロイシンにより置換されてもよく、好ましくはV8は置換されず、L10はメチオニンにより置換されてもよいが好ましくは置換されず、V11はイソロイシン又はメチオニンにより、好ましくはイソロイシンにより置換されてもよく、A12はグリシン又はセリンにより、好ましくはセリンにより置換されてもよく、A13はバリンにより置換されてもよく、T15はアラニンにより置換されてもよく、V16はアラニン又はイソロイシンにより、好ましくはアラニンにより置換されてもよく、A17はメチオニン又はバリンにより置換されてもよいが好ましくは置換されない。好ましくは上記ペプチドは、上で規定された機能的特徴、すなわち骨格筋細胞及び/又は骨格筋線維における、抗不整脈能、抗アポトーシス能、カルシウムスパーク頻度を低減させる能力、筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/又はこれを低減させる能力、好ましくは心不全に罹患している個体において、血行動態機能を回復させる能力、並びに等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する能力のうちの1つ又は複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ、好ましくは全てを示す。好ましくは、上記機能を、in vitro及びin vivoで観察することができる。好ましくは、非経口の投与経路を介してペプチドが投与される場合、上記in vivoでの効果を観察することができる。したがって、好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、上で記載したようにアミノ酸残基が置換されてもよいアミノ酸配列D1−K2−D3−D4−P5−P6−Y7−V8−V9−L10−V11−A12−A13−L14−T15−V16−A17(配列番号373)を含み、これから本質的になり、好ましくはこれからなり、好ましくは該アミノ酸配列は配列番号372に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有し、上記の機能のうちの好ましくは1つ又は複数、好ましくは全てを観察することができ、最も好ましくは該ペプチドは細胞透過性を有する。
【0073】
本発明との関連ではペプチド標的化モチーフは、in vivoでペプチドを特定の器官又は特定の細胞に対して標的化するのに好適な任意の部分であり得る。例えば、ペプチド標的化モチーフは、或る特定の細胞又は或る特定の器官に特異的な特定の受容体と特異的に結合するペプチドであり得る。好ましくは、本発明によるペプチド内におけるペプチド標的化モチーフの存在により、該ペプチドが全身投与された患者における細胞又は器官の特異的な標的化が可能となる。
【0074】
別の実施形態では、本発明のペプチドは、マーカー部分をさらに含む。本発明との関連ではマーカー部分は、ペプチドを直接検出することを可能とする任意の部分、例えば蛍光標識、例えばフルオレセイン(例えばフルオレセインイソチオシアネートFITC)、ローダミン(例えば、テトラメチルローダミンTAMRA、又はそのイソチオシアネート誘導体TRITC、スルホローダミン101、及びそのスルホニルクロリド形態であるテキサスレッド(商標)、及びローダミンレッド)、又はアレクサフルオル(登録商標)色素、放射標識、例えば放射標識したアミノ酸又はビオチンであり得る。一実施形態では、本発明のペプチドは、親水性モチーフ、好ましくはD−K−D−D−P−P(配列番号354)、及びマーカー部分、好ましくはFITC又はローダミンを含み、好ましくは筋機能増強アミノ酸配列はV−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)であり、好ましくは親水性モチーフは筋機能増強アミノ酸配列のアミノ末端と直接連結する。
【0075】
当業者は、本発明によるペプチドを製造する方法を十分に認識する。例えば、ペプチドを、例えば液相ペプチド合成若しくは固相ペプチド合成により、化学的に合成することができ、又はペプチドを、組換えDNA技法、及び細胞発現系、例えば細菌(例えば大腸菌)細胞、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳動物の細胞等、若しくはin vitro発現系を使用して遺伝子工学的に製造することができる。
【0076】
第2の態様では、本発明は、医学的使用のための本発明の第1の態様によるペプチドを提供する。
【0077】
第3の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害、例えば筋症の治療及び/又は予防に関する治療上の使用のための本発明の第1及び第2の態様によるペプチドを提供する。好ましくは、上記障害は、心筋障害及び/又は骨格筋障害である。障害は、後天性又は先天性のものであり得る。この関連では、「後天性の(acquired)」という用語は、医学的状態、すなわち障害が、胎生期後に(post-fetally)発症したことを意味する。本発明との関連ではかかる後天性障害は心筋梗塞であり得る。後天性骨格筋障害の一例は筋炎である。先天性障害は、遺伝学的異常、形態形成の誤り、又は染色体異常の結果として起こり得る成長中の胎児に対する欠陥を含む。遺伝学的疾患又は障害は、人生の後半まで現れない又は認識されないことがあるが、全て先天性のものである。本発明との関連では先天性障害は例えば、ネマリン筋症、筋細管筋症又は中心核筋症である。さらに本発明との関連では、心筋障害又は骨格筋障害は、急性又は慢性のものであり得る。例えば、急性心筋障害は急性心不全であり、急性骨格筋障害は横紋筋融解症である。慢性骨格筋障害は例えば皮膚筋炎である。慢性心筋疾患は例えば慢性心不全である。
【0078】
本発明の第3の態様の好ましい一実施形態では、筋機能障害は、筋肉細胞における、好ましくは骨格筋細胞又は心筋細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する。好ましくは、ペプチドは、筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである。筋細胞におけるカルシウム循環不全は、筋小胞体におけるカルシウム含有量の低減、興奮収縮連関時における筋小胞体からのカルシウムの放出の低減、筋小胞体からのカルシウム漏出(例えば漏れやすいRyR筋小胞体カルシウム放出チャネルによる)、カルシウムスパーク頻度の増大、又は収縮後における筋小胞体及び/若しくはミトコンドリア中へのカルシウムの再取込みの低減若しくは遅延化(例えば機能障害を有する若しくは機能しない筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ(SERCA)による)の結果として起こるものであり得る。この理論に拘束されるものではないが、カルシウム循環不全は、筋肉細胞の収縮能力不全、例えば収縮機能不全に関する主要な理由の1つであると考えられる。したがって、カルシウム循環を増強する又はこれを回復させることは、収縮能力も増強する及び/又はこれを回復させると考えられる。ほとんど全ての心筋障害/疾患及び骨格筋障害/疾患は、それぞれの筋肉細胞の収縮機能不全の結果として起こるものである。例えば心不整脈においては、心筋収縮が正確に時機制御されない。このことは、致死的な結果をもたらし得る。骨格筋障害のほとんどでは、収縮能力が低減し、例えば様々な種類のジストロフィーにおけるもののような、筋力低下の結果をもたらす。本発明の第1の態様によるペプチドは、筋細胞におけるカルシウム循環を増強する及び/又はこれを回復させることが可能であり、それにより収縮能力を増強する及び/又はこれを回復させると考えられる。しかしながら、本発明のペプチドが、筋機能障害と関連する障害(該筋機能障害はカルシウム循環不全と関連する)を治療するのに好適なだけでなく、カルシウム処理の機能障害に基づくものでない筋疾患を治療するのにも好適であることが強調される。これらの疾患においては本発明のペプチドは、症状、例えば筋力低下を軽減することができる。
【0079】
本発明の第2及び第3の態様の好ましい一実施形態では、ペプチドは、不整脈から、好ましくはカテコールアミンに誘発される不整脈から筋細胞、好ましくは骨格筋細胞及び/又は心筋細胞、より好ましくは心臓組織を保護するための、好ましくは心室性不整脈から、好ましくは致死性の心室性頻脈性不整脈から、したがって好ましくは心臓突然死から個体を保護するためのものである。好ましくは上記機能は、好ましくはペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0080】
本発明の第2及び第3の態様のさらに好ましい一実施形態では、ペプチドは、筋細胞において、好ましくは骨格筋細胞及び/若しくは心筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させるための、並びに/又は筋細胞、好ましくは骨格筋細胞及び/若しくは心筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/若しくはこれを低減させるためのものである。好ましくは上記機能は、好ましくはペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0081】
本発明の第2及び第3の態様のさらに好ましい一実施形態では、ペプチドは、筋肉細胞の、好ましくは骨格筋細胞及び/又は心筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する又はこれを低減させるためのものである。好ましくは、ペプチドは、漏れやすいRyR筋小胞体カルシウム放出チャネルによる筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する又はこれを低減させるためのものである。好ましくは上記機能は、好ましくはペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0082】
本発明の第2及び第3の態様の別の好ましい実施形態では、ペプチドは、アポトーシス細胞死から、好ましくはカルシウム誘導性アポトーシス細胞死から、好ましくは筋小胞体のカルシウム漏出に誘発されるアポトーシス細胞死から筋細胞、好ましくは骨格筋細胞及び/又は心筋細胞を保護するためのものである。好ましくは、ペプチドは、不全心筋におけるアポトーシス細胞死を防止する、すなわち不全心筋におけるアポトーシス細胞死から心筋細胞を保護するためのものである。好ましくは上記機能は、好ましくはペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0083】
本発明の第2及び第3の態様の特に好ましい別の実施形態では、ペプチドは、血行動態機能、例えば心機能、例えば心筋細胞の収縮能力を回復させる及び/又はこれを増強するためのものであり、好ましくはペプチドは、心不全に、例えば心筋梗塞に罹患している又は罹患したことがある個体において血行動態機能を回復させる及び/又はこれを増強するためのものである。好ましくは上記機能は、ペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0084】
本発明の第2及び第3の態様の別の好ましい実施形態では、ペプチドは、骨格筋細胞において収縮能力を増強する及び/又はこれを回復させるための、好ましくは骨格筋細胞において、好ましくは骨格筋組織において等尺性単収縮力及び/又は強縮性単収縮力を増強する及び/又はこれを回復させるためのものである。等尺性単収縮力は筋肉の短縮を伴わない張力の発生であり、強縮性単収縮力は最大の等尺性力の発生であり、通常、単収縮は50Hz超の刺激でマージし(merge)始める。好ましくは上記機能は、好ましくはペプチドを非経口的に適用する場合に、in vivoで示され、遺伝子療法を必要としない。
【0085】
本発明の第1の態様における本発明によるペプチドの特定の実施形態の機能的特徴に関する開示が、本発明の第2及び第3の態様にも適用されることが強調される。
【0086】
本発明の第3の態様の好ましい一実施形態では、心筋障害は、虚血後収縮機能不全、好ましくは虚血後右心室収縮機能不全及び/又は虚血後左心室収縮機能不全、うっ血性心不全、好ましくは代償性及び/又は非代償性うっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、並びに心室障害、例えば急性又は慢性の右心室障害からなる群から選択される。
【0087】
本発明の第3の態様の好ましい一実施形態では、骨格筋障害は、筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン(桿状体)筋症、中心核筋症、筋細管筋症、中心核筋細管筋症、眼の眼筋麻痺、及びミトコンドリア筋症からなる群から選択される。筋ジストロフィーは、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋強直性筋ジストロフィー及び眼咽頭型筋ジストロフィーからなる群から選択することができる。筋炎は、骨化性筋炎、線維筋炎、特発性炎症性筋症(例えば皮膚筋炎、多発性筋炎及び封入体筋炎)及び化膿性筋炎からなる群から選択することができる。
【0088】
第4の態様では、本発明は、第1の態様のペプチド、又はその薬学的に許容可能な塩、並びに薬学的に許容可能な添加物、担体及び/又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
【0089】
「薬学的に許容可能な塩」という用語は、本発明のペプチドの塩を表す。好適な薬学的に許容可能な塩は、例えば、本発明のペプチドの溶液を、薬学的に許容可能な酸(例えば塩酸、硫酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、酒石酸、炭酸又はリン酸)の溶液と混合することにより形成することができる酸付加塩を含む。さらに、ペプチドが酸性分子部分を保有する場合には、その好適な薬学的に許容可能な塩は、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩又はカリウム塩);アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩又はマグネシウム塩);及び好適な有機リガンド(例えばハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、カルボン酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、アルキルスルホン酸イオン及びアリールスルホン酸イオン等の対陰イオンを使用して形成した、アンモニウム陽イオン、四級アンモニウム陽イオン及びアミン陽イオン)で形成される塩を含み得る。薬学的に許容可能な塩の例示的な例は、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物塩、酪酸塩、エデト酸カルシウム、カンファー酸塩(camphorate)、カンファースルホン酸塩(camphorsulfonate)、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物塩、クエン酸塩、クラブラン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、二塩酸塩、ドデシル硫酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストール酸塩(estolate)、エシル酸塩(esylate)、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩(glycolylarsanilate)、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩(hexylresorcinate)、ヒドラバミン(hydrabamine)、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシ−エタンスルホン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物塩、イソチオン酸塩(isothionate)、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メタンスルホン酸塩、メチル硫酸塩、ムチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、N−メチルグルカミンアンモニウム塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩(エンボン酸塩(embonate))、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、硫酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド(triethiodide)、ウンデカン酸塩、吉草酸塩等を含むがこれらに限定されない(例えば、S. M. Berge et al., "Pharmaceutical Salts", J. Pharm. Sci.,66, pp. 1-19(1977)を参照されたい)。
【0090】
本明細書中で使用される場合の「添加物」という用語は、例えば担体、結合剤、滑剤、増粘剤、界面活性剤、保存料、乳化剤、緩衝液、香料又は着色料等の、活性成分ではない、医薬製剤中の全ての物質を示すことが意図される。
【0091】
好ましい一実施形態では、本発明の医薬組成物は、本発明の第3の態様における本発明のペプチドに関して上で記載したような筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するためのものである。
【0092】
別の好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、本発明の第3の態様における本発明によるペプチドに関して上で記載したように、不整脈から筋細胞を保護する、心室性不整脈から、好ましくは致死性の心室性頻脈性不整脈から、したがって好ましくは心臓突然死から個体を保護するための、筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させるための、筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/若しくはこれを低減させるための、アポトーシス細胞死から筋細胞を保護する、好ましくは不全心筋におけるアポトーシス細胞死から心筋細胞を保護するための、血行動態機能を回復させる及び/若しくはこれを増強する、好ましくは心不全に罹患している個体において血行動態機能を増強するための、並びに/又は骨格筋細胞において収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、好ましくは骨格筋細胞において等尺性単収縮力及び/若しくは強縮性単収縮力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである。
【0093】
本発明の対象となる医薬組成物を、当業者に既知の様々な方法で製剤化することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、液体形態で、例えば溶液、乳濁液又は懸濁液の形態であり得る。好ましくは、本発明の医薬組成物を、非経口投与用に、好ましくは静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、肺内投与、腹腔内投与、心臓内投与用に、又は粘膜を介した投与用に、好ましくは静脈内投与、皮下投与若しくは腹腔内投与用に製剤化する。好ましくは、本発明の医薬組成物は、他の物質、例えば溶液を血液と等張にするのに十分な塩又はグルコースを含有し得る無菌水溶液の形態である。水溶液は好適には、必要に応じて、緩衝化(好ましくは3〜9のpHまで、より好ましくは5〜7のpHまで)するべきである。
【0094】
医薬組成物は、好ましくは単位投与形態である。かかる形態では、医薬組成物は、適切な量の活性成分を含有する単位用量に細分類される。単位投与形態は包装された調製物であってもよく、該包装は例えばバイアル又はアンプルのように分離した量の医薬組成物を含有する。
【0095】
第5の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するための医薬組成物の調製のための本発明の第1の態様によるペプチドの使用を提供し、ここで上記障害は好ましくは本発明の第3の態様において上で記載したようなものである。好ましい一実施形態では、ペプチドの使用は、本発明の第3の態様における本発明によるペプチドに関して上で記載したように、不整脈から筋細胞を保護する、心室性不整脈から、好ましくは致死性の心室性頻脈性不整脈から、したがって好ましくは心臓突然死から個体を保護するための、筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させるための、筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/若しくはこれを低減させるための、アポトーシス細胞死から筋細胞を保護する、好ましくは不全心筋におけるアポトーシス細胞死から心筋細胞を保護するための、心不全に罹患している個体において血行動態機能を回復させる及び/若しくはこれを増強するための、並びに/又は骨格筋細胞において収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、好ましくは骨格筋細胞において等尺性単収縮力及び/若しくは強縮性単収縮力を増強する及び/若しくはこれを回復させるための医薬組成物の調製のためのものである。本発明の第5の態様の好ましい一実施形態では、該使用は、筋障害、好ましくは骨格筋障害及び/又は心筋障害と関連する疾患状態を改善するための医薬組成物の調製のためのものであり、ここで「疾患状態を改善する」という用語は、本発明の第6の態様に関して定義されるようなものである。
【0096】
第6の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する障害を治療又は予防する方法であって、それを必要とする個体に対して、上記個体、好ましくは患者の疾患状態を改善するのに十分な量の本発明の第1の態様のペプチド、又は本発明の第4の態様の医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。この関連では「疾患状態を改善する」は、例えば、ペプチド若しくは医薬組成物が患者に投与された後、或る特定の期間の後に個体が改善の主観的感覚を有すること、又は本発明のペプチド若しくは医薬組成物での治療後に疾患の筋肉の機能が測定可能な程度まで改善されていることを意味する。例えば、収縮能力、例えば筋肉組織、例えば疾患の心筋又は疾患の骨格筋の収縮力が、正常な収縮機能の平均値から50%逸脱していた場合、治療後に、上記筋肉組織の収縮能力が、対応する健常な筋肉組織の正常な収縮機能の平均値から50%未満、例えば40%未満、30%未満、20%未満、10%未満逸脱していれば、又は全く逸脱していなければ、治療により疾患状態が改善される。収縮能力は、健常な心臓組織の平均的な心機能と比較して改善することもある。「それを必要とする個体」という用語は好ましくは、上で規定されるような動物患者を、より好ましくは哺乳動物患者を、最も好ましくはヒト患者を表す。
【0097】
筋機能障害と関連する障害は好ましくは、本発明の第3の態様に関して規定されるようなものである。
【0098】
好ましい一実施形態では、本発明の第6の態様による方法は、本発明の第3の態様における本発明によるペプチドに関して上で記載したように、不整脈から筋細胞を保護する、心室性不整脈から、好ましくは致死性の心室性頻脈性不整脈から、したがって好ましくは心臓突然死から個体を保護するための、筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させるための、筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/若しくはこれを低減させるための、アポトーシス細胞死から筋細胞を保護する、好ましくは不全心筋におけるアポトーシス細胞死から心筋細胞を保護するための、心不全に罹患している個体において血行動態機能を回復させる及び/若しくはこれを増強するための、並びに/又は骨格筋細胞において収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、好ましくは骨格筋細胞において等尺性単収縮力及び/若しくは強縮性単収縮力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである。
【0099】
本発明の第5及び第6の態様において記載されるように筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するために、本発明によるペプチド又は医薬組成物を、動物患者、好ましくは哺乳動物患者、好ましくはヒト患者に対して、好ましくは非経口の投与経路を介して、例えば静脈内に、筋肉内に、皮下に、経皮的に、肺内に、腹腔内に、心臓内に、又は粘膜を介して、好ましくは静脈内に、皮下に、若しくは腹腔内に投与することができる。投与は、点滴若しくは古典的な注射によるもの、例えばカニューレを使用するもの、又は無針注射技法によるものであり得る。
【0100】
第7の態様では、本発明は、筋機能障害と関連する疾患、好ましくは骨格筋疾患、より好ましくは心筋疾患を治療又は予防するために通常投与される別の薬物と組み合わせて本発明の第1の態様によるペプチドを含む、これから本質的になる、又はこれからなる組成物を提供する。好ましくは、上記組成物は、1つ又は複数の薬学的に許容可能な希釈剤、担体及び/又は添加物も含み得る医薬組成物である。好ましい一実施形態では、上記薬物は、好ましくは心筋細胞に対して、催不整脈能を示す。本発明のこの態様の好ましい一実施形態では、本発明によるペプチドは、上記薬物の催不整脈能を低減させる。好ましくは上記薬物は、カテコールアミン、例えば直接β−模倣剤(mimetics)、例えば内因性若しくは合成のカテコールアミン、又は間接β−模倣剤、例えばホスホジエステラーゼ阻害剤β−模倣剤、又はRyR2のカルシウム感受性を増強する別の作用剤、例えばカフェイン、又は類似の化学物質、例えばプリンアルカロイド若しくはジメチルキサンチンである。本発明の第7の態様の好ましい一実施形態では、上記薬物は、カテコールアミン、β−アドレナリン受容体作動薬及びβ−アドレナリン受容体遮断薬からなる群から(form)選択される。一実施形態では、上記薬物は、カテコールアミン、例えばドブタミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン又はイソプレナリン、好ましくはドブタミン、ノルアドレナリン又はアドレナリンである。別の実施形態では、上記薬物は、β−アドレナリン受容体作動薬、例えばイソプロテレノール、サルブタモール、フェノテロール、ホルモテロール、メタプロテレノール、サルメテロール、テルブタリン、クレンブテロール、アルブタミン、ベフノロール、ブロモアセチルアルプレノロールメンタン(bromoacetylalprenololmenthane)、ブロキサテロール、シマテロール、シラゾリン、デノパミン、エピネフリン、エチレフリン、ヘキソプレナリン、ヒゲナミン、イソエタリン、イソクスプリン、マブテロール、メトキシフェナミン、ニリドリン、オキシフェドリン、ピルブテロール、プレナルテロール、プロカテロール、ラクトパミン、レプロテロール、リミテロール、リトドリン、トレトキノール、トルブテロール(tolubuterol)、キサモテロール、ジルパテロール(zilpaterol)又はジンテロール、好ましくはイソプロテレノール、サルブタモール、フェノテロール、ホルモテロール、メタプロテレノール、サルメテロール、テルブタリン、クレンブテロール、より好ましくはイソプロテレノールである。別の実施形態では、上記薬物は、β−アドレナリン受容体遮断薬、例えばメトプロロール、アテノロール、ビソプロロール、ネビボロール、エスモロール、ベタキソロール、アセブトロール、セリプロロール、ブプラノロール、プロプラノロール、チモロール、カルベジロール、ソタロール、ピンドロール、オクスプレノロール又はアルプレノロール、好ましくはメトプロロール、アテノロール、ビソプロロール、ネビボロール、エスモロール又はベタキソロール、最も好ましくはメトプロロールである。本発明の第7の態様による組成物は、本発明の第1の態様によるペプチドと組み合わせて、同じ分類の又は異なる分類の1つ又は複数の、例えば1つ、2つ、3つ又は4つの異なる薬物を含み得る。
【0101】
本発明者らは驚くべきことに、本発明によるペプチドが本明細書全体を通じて記載したような筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するために有用であること、本発明によるペプチドが薬物、例えばカテコールアミン、β−アドレナリン受容体作動薬又はβ−アドレナリン受容体遮断薬の催不整脈能をそれらの有益な効果を打ち消すことなく低減させる能力を有すること、及び上記ペプチドのこれらの治療効果が、ペプチドが非経口的に、好ましくは静脈内、腹腔内又は皮下の投与経路を介して投与される場合であっても発揮され、遺伝子療法による遺伝子改変を必要とせず、主な副作用を引き起こすことがないことを見出した。
【実施例】
【0102】
実施例は、本発明をさらに説明するために設計され、より良い理解に役立つ。実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるものでは決してない。
【0103】
実施例1:透過処理した心筋細胞及び骨格筋線維に対するS100A1タンパク質、及びS100A1のC末端の20merペプチドの変力効果。
成体ウサギ心室心筋細胞を、以前に記載されたように4匹の異なる動物から単離し(Loughrey C.M. et al., 2004, J. Physiol. 556:919-934)、β−エスチン(0.1mg/ml)を使用して透過処理した。透過処理した細胞を、ローダミン標識したヒトS100A1タンパク質(0.1μM)、又は親水性リンカーと融合したFITC標識したS100A1のC末端の20merペプチド(0.1μM)(D−K−D−D−P−P(配列番号354)と融合したヒトS100A1のアミノ酸75〜94)と共に1分間インキュベートした。細胞を、Bio−Rad2000レーザー走査型共焦点顕微鏡(LSCM)を使用してモニタリングした。リアノジン染色パターンに類似する線状の染色パターンを観察することができる(図4)。
【0104】
さらに、S100A1タンパク質、又は親水性リンカーと融合したS100A1のC末端の20merペプチドで処理した透過処理した細胞においてCa2+スパーク頻度を評価し、全長タンパク質及びC末端断片の両方が、透過処理した心筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を減少させることが示された(図5及び図6)。単離した心筋細胞を、擬似(mock)細胞内溶液で灌流し、β−エスチン(0.1mg/ml)を使用して透過処理した。灌流溶液中に存在するFluo−3遊離酸(10μM)を488nm(Krレーザー)で励起させ、×60−1.2NAの水浸型対物レンズを備えた倒立顕微鏡の落射蛍光光学系(epifluorescence optics)を適用して515nm超で測定した。ラインスキャンモードにおいて2ミリ秒/ラインで蛍光を取得した。ピクセル寸法は0.3μmであった(512ピクセル/スキャン;ズーム=1.4)。スキャンするレーザーラインを、長軸と平行に配向させ、確実に核領域がスキャンラインに含まれないようにするために、細胞の外縁及び核(単数/複数)からおよそ等距離となるように配置した。この出力波形を遊離カルシウム濃度([Ca2+])に変換することができるように、各Ca2+スパーク測定期間の終了時に、10mMのEGTAを組み込んだ一連の較正溶液を使用した。Ca2+スパークに関する全ての実験において、試験溶液中の[Ca2+]は145nM〜160nMであった。Fluo−3を含有する溶液において記録されたCa2+スパークを、自動化検出及び測定アルゴリズムを使用して定量化した。全てのCa2+スパーク測定を、細胞の透過処理後7分〜8分以内に行った。この時間を標準化して、可溶性タンパク質の損失を最小限に抑えた。S100A1タンパク質又はS100A1−ctペプチドを、重力供給型灌流システムを使用して擬似溶液中に適用した。効果を、S100A1を添加していない擬似溶液で灌流した透過処理した対照心筋細胞と比較した。各動物由来の最大4個の異なる細胞をCa2+スパーク測定に対して使用した。
【0105】
筋線維調製及び実験溶液。全ての動物を、ハイデルベルク大学の動物実験委員会(animal care committee)の指針に従って取り扱った。雄性BALB/cマウス(3ヶ月齢〜6ヶ月齢)を二酸化炭素の過剰投与により屠殺し、以前に記載された(Fink R.H. and Stephenson D.G., 1987, Pflugers Arch. Eur. J. Physiol.409:374-380、Makabe M. etal., 1996, Pflugers Arch. Eur. J. Physiol. 432: 717-726)ように筋線維調製を実施した。EDL(長指伸筋)又はヒラメ筋を単離し、2つ〜4つの単線維(直径80μm〜150μm及び長さ3mm〜4mm)を含有する小線維束をパラフィン油中で切り出した。線維調製物を、力変換ピン(force transducer pin)(AE801、Senso-Noras、Horton, Norway)とマイクロメートル加減ネジ(micrometer-adjustablescrew)との間に接着した(glued)。全ての実験を室温(23℃〜25℃)で実施した。全ての溶液をpH7.0に調整した。遊離イオン濃度を、G. L. Smith(Glasgow, Scotland)からのコンピュータプログラムREACT(バージョン2.0)を用いて算出した。表Iは実験に使用した溶液の濃度を示す。
【0106】
表1
総濃度(角括弧内のものは遊離濃度)
LR、低弛緩溶液;HR、高弛緩溶液;HA、高活性化溶液;SK、スキニング(skinning)溶液;LS、ローディング(loading)溶液。
単位
サポニン
【表1】
【0107】
高弛緩溶液及び高活性化溶液は遊離のCa2+を緩衝するために50mMのEGTAを含有するものであったが、低弛緩溶液は、0.5mMのEGTA、及び49.5mMの1,6−ジアミノヘキサン−N,N,N,N−四酢酸(HDTA)(EGTAと対照的に、Ca2+に対する親和性が非常に低い)を含有するものであった。スキニング溶液は、低弛緩溶液に対する50μg/mlのサポニンの添加により得られる。放出溶液は、5mMのカフェインを添加した低弛緩溶液からなるものであった。ローディング溶液は、遊離のCa2+を0.4μM(pCa6.4)までクランプするために50mMのEGTAを含有するものであった。pCa−力の関係を測定するための溶液を、高弛緩溶液を適切量の高活性化溶液、及び添加された5mMのカフェインと混合することにより得た。全ての実験を、ストリップチャートレコーダーを使用して記録し、同時に、Axon InstrumentsのDigidata 1200インターフェースボード(boardand interface)(Axotapeソフトウェア、バージョン2.0を使用する)によりデジタル変換した。筋線維調製及び力測定に関しては、Weisleder N. et al., 2006, J. Cell Biol. 174:639-645も参照されたい。
【0108】
骨格筋線維におけるCa2+誘導性等尺性単収縮力及びCa2+過渡応答の評価。
全長S100A1タンパク質及びC末端断片の両方が、透過処理したマウス骨格筋線維において等尺性単収縮力を増強する効力を有することが示された(図7)。ヘリウム−ネオンレーザーの回折パターンを使用してサルコメア長を2.6μm±0.1μmに調整しつつ、筋線維をスキニング溶液中で5分間スキニングした。SRをローディング溶液(pCa6.4)により1分間ローディングする前に、線維を、放出溶液及び高弛緩溶液中に短時間浸漬し、その後低弛緩溶液中で2分間平衡化した。その後、調製物を高弛緩溶液中に1秒間、さらに低弛緩溶液中に2分間浸した。初期の力の過渡応答が静止時の(resting)力のレベルに戻るまで、線維を5mMのカフェインを含有する放出溶液に曝露した。最大の力は、pCa4.28の高活性化溶液及び5mMのカフェイン下で測定された。その後線維を、Ca2+を緩衝するための高弛緩溶液中で1分間弛緩させた。幾つかの対照過渡応答を記録した後、線維をS100A1タンパク質又はS100A1ペプチド混合物(N/H/C)又はC末端20merに単独で曝露し、実験を上で概説したように繰り返した。S100A1タンパク質又はペプチドを、放出前及び放出時に低弛緩溶液に、並びに高活性化溶液に添加した。S100A1処置(0.001μM〜10μM)への応答におけるpCa−力の関係を、6つの異なるCa2+濃度(EDL、pCa9.07、5.91、5.72、5.49、5.17及び4.28)(各々が5mMのカフェインを含有する)で測定した。EC50及びヒル係数を、ヒル型フィッティング(Hilltype fit)から得た。EC50値は、収縮装置のCa2+感受性の尺度としての、最大値の半分の等尺性力の活性化に必要とされるCa2+濃度を示す。ヒル係数は、シグモイド曲線の最大の峻度の指標を与える。相関係数を、フィッティングの精度を決定するために算出した。力の過渡応答を、以前に記載されたようにCa2+の指標としての個々のpCa2+−力の関係を使用すること、及び力の過渡応答の各点を対応する遊離Ca2+レベルへと変換すること(reversing)により、対応する遊離Ca2+過渡応答へと変換した。Ca2+調節タンパク質の感受性、及び対応する力の発生により直接、遊離の筋原線維Ca2+の尺度が得られるという事実に基づき、pCa−力の関係は、遊離Ca2+と力とを関連付ける。したがって、SRからのCa2+放出に由来するかなり緩やかな力の過渡応答を見掛けのCa2+過渡応答へと変換するpCa−力の関係を、バイオアッセイとして使用することができる。
【0109】
実施例2:S100A1ct6/11ペプチドの細胞透過性
ローダミン標識したS100A1タンパク質も、親水性モチーフ、例えばD−K−D−D−P−P(配列番号354)を有する又は有しないFITC標識したS100A1のC末端 20merペプチドも、成体・無傷の心筋細胞の細胞膜に浸透することができない。しかしながら、本発明者らは驚くべきことに、S100A1ct6/11と称する配列D−K−D−D−P−P−Y−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号372)を有するペプチドが細胞透過性を有することを見出した。FITC標識したS100A1ct6/11を無傷のラット心室心筋細胞と共に15分間インキュベートした後、細胞を共焦点レーザー走査型顕微鏡法を使用してモニタリングした。内在性S100A1タンパク質を、従来の免疫蛍光プロトコルを使用して染色した。FITC標識したS100A1ct6/11の細胞内染色パターンは、内在性S100A1の細胞内染色パターンに類似している(図8)。
【0110】
実施例3:心筋細胞におけるS100A1ct6/11ペプチドの機能的特性決定
S100A1ct6/11ペプチドの機能的特性決定のために行った全ての実験を、無傷の、すなわち透過処理していない心筋細胞(cardiomyocates)に対して行った。S100A1ct6/11ペプチドは刺激した単離心室心筋細胞に対して正の変力効果を発揮する(図9)が、その断片(図10)、又はS100A4若しくはS100Bのカルボキシ末端由来の対応するペプチド(図11)はこの能力を示さないことが示された。カルシウム過渡応答を、落射蛍光デジタル化顕微鏡法を利用してFURA2−AMを負荷し電場刺激した心筋細胞において評価し、筋小胞体のカルシウム負荷を決定した(図12)。
【0111】
心筋細胞におけるCa2+過渡応答、及びSRのCa2+負荷の較正及び測定。
マウス心室心筋細胞の細胞内Ca2+過渡応答を、以前に記載された(Remppis A. et al., 2002, Basic Res. Cardiol. 97: I/56-I/62)ように較正及び測定した。簡潔に述べると、単離した細胞を、HEPES改変培地199(M199)(Sigma)中で洗浄し、2μMのFura2−AMを含む1mlのM199(2mM[Ca2+]e)中で室温で20分間インキュベートした。較正及び蛍光測定を、モノクロメータ(Polychrome II、T.I.L.L. Photonics GmbH、Germany)と接続されたUVフィルタを備えたオリンパス株式会社の倒立(inverse)顕微鏡(I×70)を使用して実施した。細胞を、1Hzで電気刺激し、340nm/380nmで励起させた。蛍光放出を、510nmで検出し、デジタル化し、T.I.L.L.のVISIONソフトウェア(バージョン3.3)で解析した。5つの連続する定常状態の過渡応答由来のベースラインデータを、過渡振幅(Ca2+振幅(nM))、ピークとなる時間(ミリ秒)、及び50%低下する時間(ミリ秒)の解析のために平均化した。50個の細胞に対するFura2−AMを負荷したマウス心室筋細胞に関する較正により最小の比(Rmin)0.38±0.05、及び最大の比(Rmax)3.36±0.21が得られ、β及びKdはそれぞれ5.21±0.24nM及び236±29nMの量と評価された。遊離細胞内Ca2+濃度[Ca2+]iを、Grynkiewicz et al.の式(Grynkiewicz G. et al.,1985, J. Biol. Chem. 260:3440-3450)により算出した。Ca2+過渡応答を、1Hzの電気刺激及び2mM[Ca2+]e(M199中)下において、ベースラインで及び段階的に増大するイソプロテレノール濃度(10−9M〜10−5M)に対して調査した。SRのCa2+負荷を、標準カフェインパルスプロトコルを使用して評価した。2分の電気刺激(1Hz)の後、筋細胞を、カフェイン(10mM)を含む0Na+/0Ca2+溶液に急遽曝露した。カフェイン誘導性Ca2+過渡応答のピークを、SRのCa2+負荷の指標として使用した。
【0112】
筋細胞収縮パラメータ。
単離した心室筋細胞の収縮性研究を、ビデオエッジ検出システム(Crescent Electronics、Sandy, UT)を用いて、近年記載された(Most P. et al., 2001, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 98:13889-13894)ように行った。簡潔に述べると、筋細胞をM199中、室温で、1Hzで電気刺激して収縮させた。エッジ検出の測定値を、基本条件下及び漸増イソプロテレノール濃度(10−9M〜10−5M)下で取得した。5つの連続する定常状態の単収縮のデータを、細胞の短縮率(%CS(%))、短縮速度(−dL/dt(μm/s))及び再伸長速度(+dL/dt(μm/s))の解析のために平均化した。
【0113】
実施例4:S100A1ct6/11は、β−アドレナリン受容体シグナル伝達を変化させず、不整脈誘発性のストア過負荷誘導性カルシウム放出(SOICR)から心筋細胞を保護する
S100A1ct6/11の変力効果は、β−アドレナリン刺激に対して相加的でありかつこれと独立している(図13)。心室心筋細胞を上で記載したように単離し、カルシウム過渡振幅を、イソプロテレノールの存在下及び非存在下で、並びにS100A1ct6/11ペプチドの存在下又は非存在下で、それぞれ評価した。
【0114】
さらに、S100A1ct6/11ペプチドは、不整脈誘発性のストア過負荷誘導性カルシウム放出(SOICR)から心筋細胞を保護する(図15)。カルシウムスパークを、Ventucci et al., 2007, Circ. Res. 100:105-111に記載されたように、対照及びβAR(10−7Mのイソプロテレノール+0.5mMのカフェイン)条件下で、Fluo−3AMを負荷した心筋細胞において評価した。S100A1ct6/11の保護効果は、SRのカルシウム負荷の増強により心筋細胞において変力作用を発揮する濃度(100nM及び1000nM)で効果的であることに留意することが重要である。したがって、SRのCa再隔離に対するそれ自身の増強効果に関わらず、S100A1ct6/11はβARに誘発されるSOICRを効果的にアンタゴナイズし、変力作用を抗不整脈効力と関連付ける特有の分子プロファイルを強調する。
【0115】
実施例5:正常な心臓及び疾患心臓におけるS100A1ct6/11ペプチドの機能的特性決定。
S100A1ct6/11ペプチドは、基本条件及びβAR刺激条件下で収縮能力の増強をもたらす有意なin vivoでの血行動態効果を発揮する(図18)。これらの血行動態効果は、β1AR遮断薬メトプロロールへの応答に効果的である(図19及び図20)。さらに、S100A1ct6/11ペプチドは、実験的心不全マウスモデルにおいて血行動態機能を回復させ(図21)、上記マウスモデルにおいて不全心筋におけるアポトーシス細胞死を防止する(図22)in vivoでの有意な治療効果を発揮する。さらに、S100A1ct6/11ペプチドは、βARに誘発される致死性の心室性頻脈性不整脈から心不全マウスを保護する(図23)。
【0116】
経胸壁心エコー検査。
2次元誘導(guided)M−モード及びドップラー心エコー検査を、以前に記載された(Kohoutet al., 2001, Circulation 104:2485-2491)ように、覚醒マウスにおいてHDI5000心エコー検査装置(ATL、Bothell, WA)を使用して実施した。3回の独立した心エコー検査の測定値を、両方のモードで取得した。収縮終期の左室腔直径(LVESD)、及び拡張終期の左室腔直径(LVEDD)、心室中隔厚(IVSth)、拡張終期の左室後壁厚(LVPth)、並びにLV短縮率(FS%)を、乳頭筋のレベルで短軸M−モードビュー(M-modeview)において決定した。FS%=[(LVEDD−LVESD)/LVEDD]×100(%)。LV駆出時間(LVET)、及び大動脈弁ドップラー測定から取得した心拍数(bpm)を使用して、心拍数で補正した円周方向線維短縮の平均速度を評価した:平均Vcfc=FS%/ET×√60/bpm×10(周(circ)/秒)。
【0117】
心臓カテーテル処置及び血行動態評価。
自発呼吸する軽く麻酔した(anesthesized)マウス(トリブロモエタノール/アミレン水和物;アバチン;2.5%(wt/vol)、8μl/g(IP))における経胸壁2次元心エコー検査(TTE)を、偽マウス及び梗塞マウスの両方において12MHzプローブを用いて行った。MモードでのTTEを、外科処置の前後(7日及び28日)に傍胸骨の短軸において実施して、LV直径及び引き続き短縮率(FS%=[(LVEDD−LVESD)/LVEDD]×100))を評価した。同じ麻酔下で、1.4フレンチマイクロマノメータが先端に付いたカテーテル(SPC−320、Millar instruments, Inc.)を、右頚動脈中に挿入した後、LV中まで進めた。心拍数(回/分)、LV拡張終期圧(LVEDP)、並びにLV圧の最大一次導関数(LV +dp/dtmax)及び最小一次導関数(LV dp/dtmin)を含む血行動態解析を行った。
【0118】
心筋の組織病理学検査及びアポトーシス
LV組織を、凍結して切り出し(cryosectioned)(5μm)、ヘマトキシリン−エオシン(HE)で染色して、LVの遠隔の非梗塞性領域において筋細胞の幅を測定し、NIH画像ソフトウェア(ImageJ1.34、http:/rsb.info.nih.gov/ij)を使用して、長軸方向に切り出した筋細胞において核のレベルでの評価基準を取得した。末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介性dUTPニック末端標識(TUNEL)染色を、製造業者のプロトコル(Roche、11684795001)に従って実施した。遠隔領域におけるTUNEL陽性心筋細胞核の数を、オリンパス株式会社のI×70倒立顕微鏡(T.I.L.L. Visionソフトウェア、バージョン3.3)を用いて計測し、同じ切片においてHE染色により特定された105個の総核数当たりの数値に正規化した。心臓起源の細胞又は物体(bodies)を特定するために、切片を、心臓特異的抗トロポニンC抗体(SantaCruz、sc−8117、希釈率1:50)、及びロバ抗ヤギアレクサフルオル568(MolecularProbes、1:100)の対応する対で二重染色した(データは示していない)。心筋組織におけるカスパーゼ3活性を、カスパーゼ−Gloアッセイキット(Promega)を使用して測定した。簡潔に述べると、発光前(proluminescent)基質がカスパーゼ3により切断される。カスパーゼによる切断の後、ルシフェラーゼに対する基質(アミノルシフェリン)が放出され、ルシフェラーゼ反応、及び発光シグナルの産生をもたらす。心臓組織由来の細胞質抽出物を、プロテアーゼ阻害剤混合物(1錠/5ml)(Roche;MiniコンプリートEDTAフリープロテアーゼ阻害剤)を含有する低張抽出緩衝液(25mM HEPES(pH7.5)、5mM MgCl2、1mM EGTA)中における均質化により調製した後、遠心分離した(15分、13,000rpm、4℃)。上清のタンパク質濃度を、抽出緩衝液により1mg/mlに調整し、−80℃で保存した。等体積の試薬、及び10μg/mlの細胞質タンパク質を、白色の壁を有する96ウェルプレートに添加し、室温で1時間インキュベートした。各試料の発光を、プレートリーディングルミノメーターにおいて三連で測定した。
【0119】
不整脈誘発プロトコルは、Wayne Chen及び共同研究者らにより以前に公開されたプロトコル(Xiao etal., 2007, J. Biol. Chem. 282:34828-34838)から修正したものである。
【0120】
実施例6:正常な骨格筋におけるS100A1ct6/11ペプチドの機能的特性決定
S100A1ct6/11ペプチドは、正常な及び疾患の骨格筋において等尺性単収縮力を有意に増強する(図24)。骨格筋線維における等尺性単収縮力を評価するのに使用したプロトコルを、実施例1に記載している。S100A1ct6/11ペプチドの実験のために、無傷の(透過処理していない)長指伸筋(EDL)骨格筋線維を使用した。単離した筋線維の単収縮力は、ペプチドを単離した筋線維と共にインキュベートしたかどうか(図24A)、又は筋線維を単離する前にペプチドを全身投与したかどうか(図24B)に関係なく、S100A1ct6/11処理により増強された。
【0121】
実施例7:S100A1ct6/11ペプチドの変力効果は、より短いペプチドによっても発揮される。
親水性リンカー(D−K−D−D−P−P、配列番号354)と融合したヒトS100A1のアミノ酸76〜85からなるペプチドは、S100A1ct6/11ペプチドと同じ変力機能を発揮する(図25)。カルシウム過渡振幅を評価するためのプロトコルを、上に記載している。リンカー単独、ビヒクル単独、又はアミノ酸76以降の(more than)アミノ酸を欠くアミノ末端欠失ペプチドは、変力効果を示さない。この実験により、75位のチロシンがS100A1ct6/11ペプチドの変力機能及び細胞透過性のために必須ではないことが実証される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸モチーフ:
Φ4−X−Ψ−L−[T/A]−Ψ2
(式中、Φ及びΨはそれぞれ独立して選択される疎水性の非芳香族アミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸である)
を含む、又はこれからなる筋機能増強アミノ酸配列を含むペプチドであって、
該筋機能増強アミノ酸配列がS100A1タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下の連続するアミノ酸を含有し、該ペプチドが最大100アミノ酸の全長を有し、該ペプチドが正の変力作用を示す、ペプチド。
【請求項2】
細胞膜に浸透することが可能である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
筋機能増強アミノ酸配列が、S100カルシウム結合タンパク質A1、S100カルシウム結合タンパク質Z、S100カルシウム結合タンパク質T、S100カルシウム結合タンパク質S及びS100タンパク質α鎖からなる群から選択されるS100タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下の連続するアミノ酸を含有する、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
筋細胞において収縮能力及び/又はカルシウム循環を増強する能力を示す、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項5】
不整脈から筋細胞を保護する、筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させる、筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/若しくはこれを低減させる、アポトーシス細胞死から筋細胞を保護する、血行動態機能を回復させる及び/若しくはこれを増強する、並びに/又は骨格筋細胞において等尺性単収縮力及び/若しくは強縮性単収縮力を増強する及び/若しくはこれを回復させる能力を示す、請求項1〜4のいずれか一項に記載の(on)ペプチド。
【請求項6】
Φが、アラニン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリン、又はメチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからなるアミノ酸の群からそれぞれ独立して選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項7】
Ψが、アラニン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリン、又はアラニン、メチオニン、イソロイシン及びバリンからなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項8】
前記筋機能増強アミノ酸配列が、アミノ酸配列:
[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]
を含む、又はこれからなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項9】
前記筋機能増強アミノ酸配列が、アミノ酸配列V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)、V−I−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号6)、V−V−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号7)、I−I−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号95)、V−V−L−I−A−A−L−A−A−A(配列番号263)、V−I−L−V−S−V−L−T−V−A(配列番号186)及びI−I−L−M−G−A−L−T−V−A(配列番号334)及びV−V−M−V−A−A−L−T−V−V(配列番号50)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項10】
C、C−N、C−N−[N/D/E]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E(配列番号)、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E−[N/T](配列番号)からなる群から選択されるアミノ酸又はアミノ酸配列が、該アミノ酸モチーフのカルボキシ末端と直接連結する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項11】
芳香族アミノ酸が該アミノ酸モチーフのアミノ末端と直接連結する、請求項1〜10のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項12】
膜浸透増強モチーフ、1つ又は複数のエピトープタグ、親水性モチーフ、及びペプチド標的化モチーフからなる群から選択される要素のうちの1つ又は複数をさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項13】
マーカー部分をさらに含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項14】
親水性モチーフが、酸性の、塩基性の、及び/又はそうでなくとも負に若しくは正に荷電したアミノ酸を含む、請求項12又は13に記載のペプチド。
【請求項15】
親水性モチーフが、親水性アミノ酸モチーフ:
Λ4−Θ2
(式中、Λはアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンからそれぞれ独立して選択され、Θはα−ヘリックス遮断因子であり、又はプロリン若しくはグリシンからそれぞれ独立して選択される)を含む、又はこれからなる、請求項12〜14のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項16】
親水性モチーフが、アミノ酸配列:
[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]
を含む、又はこれからなる、請求項12〜15のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項17】
アミノ酸配列D−K−D−D−P−P−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号370)、又は前記アミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、又はこれからなる、請求項1〜16のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項18】
医学的使用のための、請求項1〜17のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項19】
筋機能障害と関連する障害の治療又は予防における治療上の使用のための、請求項1〜18のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項20】
障害が心筋障害及び/又は骨格筋障害である、請求項19に記載のペプチド。
【請求項21】
筋機能障害が筋肉細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する、請求項19又は20に記載のペプチド。
【請求項22】
筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである、請求項19〜21のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項23】
心筋障害が、虚血後収縮機能不全、うっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、及び心室障害からなる群から選択される、請求項20〜22のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項24】
骨格筋障害が、筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン桿状体筋症、中心核筋細管筋症、眼の眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症からなる群から選択される、請求項20〜22のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項25】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のペプチド、並びに薬学的に許容可能な添加物、担体及び/又は希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項26】
筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するための、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
障害が心筋障害及び/又は骨格筋障害である、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
筋機能障害が筋肉細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する、請求項26又は27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである、請求項26〜28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
心筋障害が、虚血後収縮機能不全、うっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、及び心室障害からなる群から選択される、請求項27〜29のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
骨格筋障害が、筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン桿状体筋症、中心核筋細管筋症、眼の眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症からなる群から選択される、請求項27〜29のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するための医薬組成物の調製のための、請求項1〜17のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【請求項33】
障害が心筋障害及び/又は骨格筋障害である、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
筋機能障害が筋肉細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する、請求項32又は33に記載の使用。
【請求項35】
医薬組成物が、筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである、請求項32〜34のいずれか一項に記載の使用。
【請求項36】
心筋障害が、虚血後収縮機能不全、うっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、及び心室障害からなる群から選択される、請求項33〜35のいずれか一項に記載の使用。
【請求項37】
骨格筋障害が、筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン桿状体筋症、中心核筋細管筋症、眼の眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症からなる群から選択される、請求項33〜35のいずれか一項に記載の使用。
【請求項38】
筋機能障害と関連する障害を治療又は予防剤であって、それを必要とする個体に対して、前記個体の疾患状態を改善するのに十分な量の請求項1〜17のいずれか一項に記載のペプチド、又は請求項25〜31のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与することを含む、治療又は予防剤。
【請求項39】
筋機能障害と関連する障害が心筋障害又は骨格筋障害である、請求項38に記載の治療又は予防剤。
【請求項40】
筋機能障害が筋肉細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する、請求項38又は39に記載の治療又は予防剤。
【請求項41】
筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである、請求項38〜40のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項42】
心筋障害が、虚血後収縮機能不全、非代償性及び代償性のうっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、並びに右心室障害からなる群から選択される、請求項39〜41のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項43】
骨格筋障害が、筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン桿状体筋症、中心核筋細管筋症、眼の眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症からなる群から選択される、請求項39〜41のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項44】
ペプチド又は医薬組成物を非経口の投与経路を介して投与する、請求項38〜43のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項45】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のペプチド、並びにカテコールアミン、β−アドレナリン受容体作動薬及びβ−アドレナリン受容体遮断薬からなる群から選択される薬物を含む組成物。
【請求項1】
アミノ酸モチーフ:
Φ4−X−Ψ−L−[T/A]−Ψ2
(式中、Φ及びΨはそれぞれ独立して選択される疎水性の非芳香族アミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸である)
を含む、又はこれからなる筋機能増強アミノ酸配列を含むペプチドであって、
該筋機能増強アミノ酸配列がS100A1タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下の連続するアミノ酸を含有し、該ペプチドが最大100アミノ酸の全長を有し、該ペプチドが正の変力作用を示す、ペプチド。
【請求項2】
細胞膜に浸透することが可能である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
筋機能増強アミノ酸配列が、S100カルシウム結合タンパク質A1、S100カルシウム結合タンパク質Z、S100カルシウム結合タンパク質T、S100カルシウム結合タンパク質S及びS100タンパク質α鎖からなる群から選択されるS100タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸のうちの18個以下の連続するアミノ酸を含有する、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
筋細胞において収縮能力及び/又はカルシウム循環を増強する能力を示す、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項5】
不整脈から筋細胞を保護する、筋細胞においてカルシウムスパーク頻度を低減させる、筋細胞の筋小胞体からのカルシウム漏出を防止する及び/若しくはこれを低減させる、アポトーシス細胞死から筋細胞を保護する、血行動態機能を回復させる及び/若しくはこれを増強する、並びに/又は骨格筋細胞において等尺性単収縮力及び/若しくは強縮性単収縮力を増強する及び/若しくはこれを回復させる能力を示す、請求項1〜4のいずれか一項に記載の(on)ペプチド。
【請求項6】
Φが、アラニン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリン、又はメチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリンからなるアミノ酸の群からそれぞれ独立して選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項7】
Ψが、アラニン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン及びバリン、又はアラニン、メチオニン、イソロイシン及びバリンからなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項8】
前記筋機能増強アミノ酸配列が、アミノ酸配列:
[V/I]−[V/I]−[L/M]−[V/I/M]−[A/G/S]−[A/V]−L−[T/A]−[V/A/I]−[A/M/V]
を含む、又はこれからなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項9】
前記筋機能増強アミノ酸配列が、アミノ酸配列V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号4)、V−I−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号6)、V−V−M−V−A−A−L−T−V−A(配列番号7)、I−I−L−V−G−A−L−T−V−A(配列番号95)、V−V−L−I−A−A−L−A−A−A(配列番号263)、V−I−L−V−S−V−L−T−V−A(配列番号186)及びI−I−L−M−G−A−L−T−V−A(配列番号334)及びV−V−M−V−A−A−L−T−V−V(配列番号50)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はこれからなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項10】
C、C−N、C−N−[N/D/E]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E(配列番号)、C−N−[N/D/E]−[F/Y]−F−[W/L/Q]−E−[N/T](配列番号)からなる群から選択されるアミノ酸又はアミノ酸配列が、該アミノ酸モチーフのカルボキシ末端と直接連結する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項11】
芳香族アミノ酸が該アミノ酸モチーフのアミノ末端と直接連結する、請求項1〜10のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項12】
膜浸透増強モチーフ、1つ又は複数のエピトープタグ、親水性モチーフ、及びペプチド標的化モチーフからなる群から選択される要素のうちの1つ又は複数をさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項13】
マーカー部分をさらに含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項14】
親水性モチーフが、酸性の、塩基性の、及び/又はそうでなくとも負に若しくは正に荷電したアミノ酸を含む、請求項12又は13に記載のペプチド。
【請求項15】
親水性モチーフが、親水性アミノ酸モチーフ:
Λ4−Θ2
(式中、Λはアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン及びアルギニンからそれぞれ独立して選択され、Θはα−ヘリックス遮断因子であり、又はプロリン若しくはグリシンからそれぞれ独立して選択される)を含む、又はこれからなる、請求項12〜14のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項16】
親水性モチーフが、アミノ酸配列:
[D/E]−[K/R]−[D/E]−[D/E]−[P/G]−[P/G]
を含む、又はこれからなる、請求項12〜15のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項17】
アミノ酸配列D−K−D−D−P−P−V−V−L−V−A−A−L−T−V−A(配列番号370)、又は前記アミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、又はこれからなる、請求項1〜16のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項18】
医学的使用のための、請求項1〜17のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項19】
筋機能障害と関連する障害の治療又は予防における治療上の使用のための、請求項1〜18のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項20】
障害が心筋障害及び/又は骨格筋障害である、請求項19に記載のペプチド。
【請求項21】
筋機能障害が筋肉細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する、請求項19又は20に記載のペプチド。
【請求項22】
筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである、請求項19〜21のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項23】
心筋障害が、虚血後収縮機能不全、うっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、及び心室障害からなる群から選択される、請求項20〜22のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項24】
骨格筋障害が、筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン桿状体筋症、中心核筋細管筋症、眼の眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症からなる群から選択される、請求項20〜22のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項25】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のペプチド、並びに薬学的に許容可能な添加物、担体及び/又は希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項26】
筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するための、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
障害が心筋障害及び/又は骨格筋障害である、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
筋機能障害が筋肉細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する、請求項26又は27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである、請求項26〜28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
心筋障害が、虚血後収縮機能不全、うっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、及び心室障害からなる群から選択される、請求項27〜29のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
骨格筋障害が、筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン桿状体筋症、中心核筋細管筋症、眼の眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症からなる群から選択される、請求項27〜29のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
筋機能障害と関連する障害を治療又は予防するための医薬組成物の調製のための、請求項1〜17のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【請求項33】
障害が心筋障害及び/又は骨格筋障害である、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
筋機能障害が筋肉細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する、請求項32又は33に記載の使用。
【請求項35】
医薬組成物が、筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである、請求項32〜34のいずれか一項に記載の使用。
【請求項36】
心筋障害が、虚血後収縮機能不全、うっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、及び心室障害からなる群から選択される、請求項33〜35のいずれか一項に記載の使用。
【請求項37】
骨格筋障害が、筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン桿状体筋症、中心核筋細管筋症、眼の眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症からなる群から選択される、請求項33〜35のいずれか一項に記載の使用。
【請求項38】
筋機能障害と関連する障害を治療又は予防剤であって、それを必要とする個体に対して、前記個体の疾患状態を改善するのに十分な量の請求項1〜17のいずれか一項に記載のペプチド、又は請求項25〜31のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与することを含む、治療又は予防剤。
【請求項39】
筋機能障害と関連する障害が心筋障害又は骨格筋障害である、請求項38に記載の治療又は予防剤。
【請求項40】
筋機能障害が筋肉細胞におけるカルシウム循環不全及び/又は収縮能力不全と関連する、請求項38又は39に記載の治療又は予防剤。
【請求項41】
筋肉細胞においてカルシウム循環を増強する及び/若しくはこれを回復させるための、並びに/又は収縮能力を増強する及び/若しくはこれを回復させるためのものである、請求項38〜40のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項42】
心筋障害が、虚血後収縮機能不全、非代償性及び代償性のうっ血性心不全、心原性ショック、敗血症ショック、心筋梗塞、心筋症、心臓弁の機能不全、並びに右心室障害からなる群から選択される、請求項39〜41のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項43】
骨格筋障害が、筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン桿状体筋症、中心核筋細管筋症、眼の眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症からなる群から選択される、請求項39〜41のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項44】
ペプチド又は医薬組成物を非経口の投与経路を介して投与する、請求項38〜43のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項45】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のペプチド、並びにカテコールアミン、β−アドレナリン受容体作動薬及びβ−アドレナリン受容体遮断薬からなる群から選択される薬物を含む組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公表番号】特表2012−524034(P2012−524034A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505091(P2012−505091)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002343
【国際公開番号】WO2010/118878
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511248478)ウニベルシタットスクリニクム ハイデルベルク (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002343
【国際公開番号】WO2010/118878
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511248478)ウニベルシタットスクリニクム ハイデルベルク (1)
【Fターム(参考)】
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