説明

筋肉刺激剤としてのナイアシン及び/又はトリゴネリン

本発明は、活動中に筋重量を増加させるか又は非活動状態中の筋肉喪失を抑制するための、ナイアシン及び/又はトリゴネリン化合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、活動中に筋重量を増加させるか又は非活動状態中の筋肉低下を抑制するための、ナイアシン及び/又はトリゴネリン化合物の使用に関する。
【0002】
[背景技術]
骨格筋の最大の特性の1つは、異なる刺激に対するその顕著な適応能力である。一生を通じて、骨格筋は、内因的(加齢/サルコペニアの結果、筋肉低下)又は外因的変化(身体活動の結果、筋肉肥大;一方で、損傷の結果、筋肉修復が起こり;床上安静の結果、筋萎縮が起こる)に恒久的に適応している。これらの影響により、様々な骨格筋繊維の、構造的、生化学的及び分子的な可変要素が変化する。筋繊維の適応に対しては、サテライト細胞、いわゆる骨格筋の幹細胞の活性化及び筋肉分化が必要である。運動訓練後、例えば、サテライト細胞が、筋繊維を拡大又は修復しながら融合する。
【0003】
ビタミンB又はニコチン酸としても知られるナイアシンは、欠乏性疾患であるペラグラを予防する水溶性ビタミンである。これは、式(I)により定義されるような分子式CNOを有する有機化合物である。
【化1】



【0004】
これは、3位にカルボキシル基(COOH)を有するピリジンの誘導体である。ビタミンBのその他の形態としては、対応するアミド、カルボキシル基がカルボキサミド基(CONH)により置換されているニコチンアミド(「ナイアシンアミド」)、ならびにより複雑なアミド及び様々なエステルが挙げられる。ナイアシン、ニコチンアミド及びビタミンBという用語は、これらが共通の生化学的活性を有するため、この分子ファミリーのいずれか1つを指すために交換可能に使用される。
【0005】
トリゴネリンは、式(II)により定義されるような化学式CNOを有するアルカロイドである。
【化2】



【0006】
トリゴネリンは、尿中に排泄されるナイアシン(ビタミンB)代謝産物である。これは、ナイアシンの窒素原子へのメチル基の付加によって形成される。トリゴネリンはまた、コーヒー中でも見られ、この場合、トリゴネリンは、細菌ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が歯に付着するのを防ぐことにより、虫歯を予防するために役立ち得る。
【0007】
米国特許出願公開第2005/0226948号明細書(Leeら)は、4−ヒドロキシイソロイシン、及びナイアシン及びトリゴネリンを含むいくつかのその他の化合物を含有するコロハ種子抽出物を開示する。これらの組み合わせは、筋肉細胞へのグルコース輸送を促進するために使用される。
【0008】
米国特許出願公開第2007/0105793号明細書(Hendrix)は、ナイアシン及び誘導体を含有する、高脂血症、高コレステロール血症及び高グリセリド血症の治療に有用な組成物を開示する。
【0009】
米国特許出願公開第2007/0259861号明細書(Krantz)は、(様々なナイアシン誘導体を含み得るプロスタグランジン模倣物と組み合わせた非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を含有する組成物を開示する。これらの組み合わせは、疼痛及び/又は炎症軽減のために使用される。
【0010】
[発明の説明]
本発明によると、ナイアシン、トリゴネリン又はナイアシン及びトリゴネリン両方の組み合わせが、訓練期間中に筋重量を増加させ得、活動低下又は不動状態中の筋肉低下を抑制し得ることが分かった。従って、本発明のある態様は、訓練中に筋重量を増加させるため又は非活動状態中の筋肉低下量を抑制するための、栄養補助製品又は食品の製造における、ナイアシン及び/又はトリゴネリン及び/又はそれらの塩もしくはエステルの使用である。本発明の別の態様は、訓練を行っている個体に有効量のナイアシン及び/又はトリゴネリン又はそれらの塩もしくはエステルを投与することと、筋量増加を観察することと、を含む、運動中に筋量を増加させる方法である。本発明のさらなる態様は、ナイアシン及び/又はトリゴネリン又はそれらの塩もしくはエステルを投与することにより、筋肉低下のリスクがある、活動性が低いか又は不動状態の人の筋肉低下の抑制及び筋肉維持の方法である。好ましい実施形態において、ナイアシン及び/又はトリゴネリン又はそれらの塩もしくはエステルは、タンパク質及びビタミン(特にビタミンD及び/又は25−ヒドロキシビタミンD3などのその代謝産物を含む。)の最適な栄養供給とともに使用される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、マウス筋肉細胞での筋管形成におけるトリゴネリンのインビトロでの影響の結果を示す。
【図2】図2は、対照及び処置マウス(肥大モデル)からの、体重(BW)に対する腓腹筋の湿重量を示す。
【図3】図3は、対照及び処置マウスに関する、BWに対する後肢懸垂モデル腓腹筋湿重量の結果を示す。
【図4】図4は、トレッドミル走後の腓腹筋の湿重量を示す。
【0012】
本明細書及び特許請求の範囲全てにわたり使用される場合、次の定義が適用される。
【0013】
「栄養補助」という用語は、本明細書中で使用される場合、栄養及び医薬の適用分野の両方における有用性を示す。従って、本発明に従う「栄養補助製品」は、食品、餌及び飲料に対するサプリメント、栄養補強食品、及びカプセルもしくは錠剤などの固体であり得るか又は溶液もしくは懸濁液などの液体であり得る医薬製剤となり得る。
【0014】
「ナイアシン」は、ナイアシン、ナイアシンアミド、それらの塩もしくはエステル又はそれらの水和物を含む、栄養補助製品に適切なナイアシンの任意の形態を指す。
【0015】
「ナイアシン塩又はエステル」は、ナイアシンを栄養補助の面で許容可能な形態に又は食品に処方するために使用することができる、ナイアシンの任意の塩又はエステル形態を指す。この塩又はエステルは、当該規制当局により経口摂取に対して認められるものでなければならない。適切なナイアシン塩の例としては、硫酸塩、硫酸水素塩、塩化物、リン酸塩及びクエン酸塩が挙げられる。適切なナイアシンエステルの例としては、メチルエステルクロリド及びエチルエステルクロリドが挙げられる。
【0016】
「トリゴネリン」は、トリゴネリン及びトリゴネリン塩又はエステルのトリゴネリン水和物を含む、栄養補助製品に適切なトリゴネリンの任意の形態を指す。
【0017】
「トリゴネリン塩又はエステル」は、トリゴネリンを栄養補助の面で許容可能な形態に又は食品に処方するために使用することができる、トリゴネリンの任意の塩又はエステル形態を指す。この塩又はエステルは、当該規制当局により経口摂取に対して認められるものでなければならない。適切なトリゴネリン塩の例としては、硫酸塩、硫酸水素塩、塩化物、リン酸塩及びクエン酸塩が挙げられる。適切なトリゴネリンエステルの例としては、メチルエステルクロリド及びエチルエステルクロリドが挙げられる。
【0018】
「予防する」は、症状及び又は状態の重症度の緩和、症状又は状態を発現するリスクの低下、症状又は状態が発現するまでの時間の延長、早期介入ならびに症状又は状態の排除を含む。
【0019】
「観察する」とは、トリゴネリン又はナイアシンを使用する個人又は第三者のいずれかにより行われ得る。この観察は、長期にわたり行われ得、投与の全期間にわたり追跡し得る。典型的な管理期間は、1週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月又はその他の所望の期間であり得る。
【0020】
ナイアシンは、酵母、肉、家禽、赤身魚(例えばマグロ、サケ)、穀類(特に栄養分強化穀類)、豆類及び種子中で見出され得る。ミルク、緑色葉野菜、コーヒー及び茶も幾分かのナイアシンを提供する。植物において、特に、トウモロコシ及び小麦などの成熟した穀物において、ナイアシンは、配糖体の形態で糖分子に結合され得る。従って、ナイアシンは植物抽出物に存在し得る。
【0021】
トリゴネリンは、いくつか例を挙げると、緑色及び焙煎コーヒー豆、トリゴネラ・フォエヌム・グラエクム(Trigonella foenum graecum(フェヌグリーク、マメ科)、シュマニオフィトン・マグニフィクム(Schumanniophyton magnificum)、(アカネ科(Rubiaceae))マピア・ホエチダ(Mappia foetida)及びストロファンツス類(Strophantus spp.)などの多岐にわたる植物中で見出され得る。従って、トリゴネリンは、植物抽出物中に存在し得る。好ましくは、ナイアシン及び/又はトリゴネリンの供給源として植物抽出物を用いる場合、この植物抽出物は、少なくとも約20重量%のナイアシン及び/又はトリゴネリンを含有する。
【0022】
あるいは、ナイアシンは、米国特許第5002641号明細書に記載のように3−メチルピリジンからの合成により生成させることができ、一方でトリゴネリンはニコチン酸から合成により生成させることができる。合成の例は、独国特許第344030号明細書(1921)「Betaines of the pyridine series」(Merck、E.)である。
【0023】
ナイアシン及び/又はトリゴネリンは、運動と組み合わせて使用される場合、筋肉重量を増加させ得、筋肉が使用されていないか又は激しく使用されていない場合に筋肉萎縮の開始を遅延させ得ることが分かった。
【0024】
ナイアシン及び/又はトリゴネリン又はその塩もしくはエステルは、栄養的に完全な食事の一部として、即ち、適正又は最適なタンパク質及び/又はビタミンの供給と組み合わせて使用することが好ましい。好ましくは、ビタミンは、ビタミンD及び/又は25−ヒドロキシビタミンD3などのビタミンD代謝産物を含む。タンパク質及び/又はビタミンとナイアシン及び/又はトリゴネリン及び/又はその塩もしくはエステルの組み合わせも本発明の一部である。
【0025】
ナイアシン及び/又はトリゴネリンは、獣医学ならびにヒトの医学において適用があるため、本発明の別の態様は、非ヒト動物、特に競走馬、イヌ、ラクダ又は競争用にもしくは荷物運搬用動物として使用されるその他の動物、又はその力のために使用されるその他の動物における、筋肉の健康を向上させるためのナイアシン及び/又はトリゴネリンの使用である。ナイアシン及び/又はトリゴネリンは、健康な動物に投与するか、又は負傷動物/病畜の回復期を加速させるために投与することができる。
【0026】
上記で定義されるようなナイアシン及び/又はトリゴネリンは、食事に対してカロリーを導入することなく、これらの具体的な利益を有する。
・筋肉低下の予防の促進
・運動とともに健康な筋肉機能の補強
・サルコペニアの予防の促進(リスク低下、重症度緩和、進行遅延)
・病中又は術後の筋肉低下予防の促進、従って迅速な回復及び入院期間短縮への寄与
・高齢者の衰弱予防の促進、従って運動性、クオリティーオブライフ向上への寄与、自立生活の喪失遅延の促進
・状況により運動を行えない場合の、筋肉発達の維持の促進
・有効な運動プログラムの補強
・ボディービル又はウエイトトレーニングなどのレジスタンス運動プログラムの有効性の補強
・筋肉損傷からの回復の補助
・運動成功/訓練効果のより長期にわたる保持の促進
・体型/状態のより長期にわたる維持の促進
・必要とする体力の回復の促進
・筋肉強度の維持の促進
・運動とともに身体組成の向上
・身体の調整及び体型調整(body shaping)の補助
・筋芽細胞分化の促進
・筋肉分化の促進
・筋成長の促進
・筋形成の促進
・筋肉回復及び修復の促進
・運動と組み合わせた場合の筋肉肥大の促進。
【0027】
発明者らは、驚くべきことに、刺激様の訓練−筋負荷(肥大)又は免荷(萎縮)状態に骨格筋が適応していく際にナイアシン及び/又はトリゴネリンが役立つことを見出した。さらに、ナイアシン及び/又はトリゴネリンは、訓練効果を向上させ、骨格筋肉低下を予防するために役立つ。従って、ナイアシン及び/又はトリゴネリンは、運動/筋肉負荷と組み合わせた場合に、有効な訓練プログラムを補強し、筋肉肥大を促進する。これらの効果を観察することができる。
【0028】
従って、ナイアシン及び/又はトリゴネリンは、サルコペニア、高齢者の衰弱ならびに、病気、手術及び長期入院による床上安静中の筋肉低下を予防するのに役立つ。さらに、ナイアシン及び/又はトリゴネリンは、筋肉回復及び修復を促進する。
【0029】
[投与量:]
投与量は変動し得るが、ナイアシン又はトリゴネリン投与量は、ヒトの場合、少なくとも5mg/日から;好ましくは、ヒトの場合、5〜5,000mg/日、より好ましくは、ヒトの場合、10〜3000mg/日及びさらにより好ましくは、ヒトの場合、50〜500mg/日の範囲となり得る。動物投与量は同様であり、動物の重量に従い調整され得る。
【0030】
ナイアシン及びトリゴネリンの混合物が使用される場合、投与量は、ナイアシン及びトリゴネリンの累積重量を指し、投与量は、ヒトの場合、少なくとも5mg/日から;好ましくは、ヒトの場合、5〜5,000mg/日、より好ましくは、ヒトの場合、10〜3000mg/日及びさらにより好ましくは、ヒトの場合、50〜500mg/日の範囲となり得る。動物投与量は同様であり、動物の重量に従い調整され得る。
【0031】
本発明に従い、ナイアシン及び/又はトリゴネリンが、食餌、栄養補助又は医薬組成物中に存在する。好ましい組成物は、ナイアシン及び/又はトリゴネリン及び適切な食餌用、栄養補助製品用又は医薬用の担体を含む。本発明の食製品又は栄養補助製品は、機能性食品及び飲料を含む、消費者にとって許容可能な任意の形態であり得る。
【0032】
適切な栄養形態の例としては、ショット、シリアル又はその他のバー、ドリンク、高タンパク質飲料、サプリメント、即席飲料、発泡性飲料などを含む、様々な食品及び飲料が挙げられる。特に好ましいのは、飲料、粉末状タンパク質、バー、サプリメント及び即席飲料を含む、スポーツ栄養に適切である形態である。
【0033】
次の非限定的な実施例は、本発明をより詳細に例示するために提供するものである。
【0034】
[実施例1]
[筋肉細胞モデル]
発明者らは、最初に、筋肉適応を研究するために一般に使用されるC2C12マウス筋芽細胞を用いて、インビトロでの筋芽細胞分化におけるトリゴネリンの影響を試験した。
【0035】
増殖培地(10%FBS、2mM L−グルタミン、1mMピルビン酸塩、50IU/mLペニシリン、50μg/mLストレプトアビジンを補給したダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco‘s modified Eagle’s medium)(DMEM))中で、96ウェルコラーゲン−IプレートにC2C12細胞を播種(細胞1600個/ウェル)したが、これはおよそ3日で100%培養密度に到達する。次に、DMSO(対照)又は10μg/mLトリゴネリン一水和物のいずれかとともに、分化培地(DMEM、2%FBS、2mM L−グルタミン、1mMピルビン酸塩、50IU/mLペニシリン、50μg/mLストレプトアビジン)を用いて、24時間にわたり細胞の分化を誘導した。最終DMSO濃度は、全ウェルで0.5%に標準化した。37℃、5%CO2で細胞を培養した。
【0036】
3.7%ホルムアルデヒド溶液(37%ホルムアルデヒドを増殖培地中で希釈、使用前にろ過滅菌)を用いて、室温にて10分間、細胞を固定し、1×DPBS(1×ダルベッコリン酸塩緩衝食塩水)で2回洗浄した。0.1%TritonX−100(1×DPBS中で希釈)で2分間透過処理した後、1×DPBS+2%BSAで1時間、試料をブロッキング処理した。筋細胞標識化のために、1:20抗αミオシン重鎖抗体(MF−20)で1時間、細胞を標識した。1×DPBSで試料を洗浄し、二次抗体(1×DPBS中の、1:250 Alexa488 IgG抗マウス二次抗体+1:2000 Hoechst)で1時間、蛍光標識した。最後に、細胞を1×DPBSで2回洗浄し、ArrayScan(登録商標)HCSリーダーにてイメージングを行うために、プレートを密封した。
【0037】
画像解析に関しては、Bio Application Morphology Explorer.V2を用いてArrayScan HCSリーダー上で、ミオシン標識された筋管の定量を行った。対象領域(Object Area)が500より大きく、対象総輝度(Object Total Intensity)が1000より大きい筋細胞を選択した。3重の試料からの筋細胞数を図1で示す。C2C12マウス筋芽細胞において、トリゴネリンは、分化を36%増加させることが分かった。
【0038】
[実施例2]
[インビボでの影響]
発明者らのインビトロでの結果を確認するために、最初に、肥大動物モデルにおいてトリゴネリンを試験して筋負荷中の影響を調べた。動物の一方の後肢の腓腹筋を切除して、複数のメカニズムによる足底筋及びヒラメ筋における代償性肥大を誘導した。このモデルでは、筋負荷/訓練下で筋重量が増加する。これは、運動中の骨格筋機能を補強する、身体機能が活発である平均的なヒト又は運動選手のヒトの状態を模倣する。
【0039】
雌C57Bl/6マウスは体重18〜20gで納入され、1週間にわたり施設に順応させた。実験開始時に動物を無作為に2群に分けた(各群10匹)。
【0040】
動物に麻酔をかけ、その動物の左後肢を固定した。腓腹筋の上にある皮膚を小さく切開した。腓腹筋全体及びその腱を露出させた。腓腹筋の両端を下部の無傷の筋肉から慎重に切り離し、神経及び血管を断裂させないように注意を払った。絹糸で皮膚を閉じ、動物を個別にそれらのケージに戻した。麻酔からの覚醒後、動物はすぐに問題なく動くことができた。全動物に鎮痛剤を投与した。300mg/kgBWの1日投与量でトリゴネリン−塩酸塩を強制経口投与することにより3週間にわたって動物を処置し、対照群にはビヒクルを投与した。
【0041】
この技術を用いて、発明者らは、術側肢の足底筋及びヒラメ筋(pQCT−測定)及び非術側肢の腓腹筋、足底筋及びヒラメ筋(重力測定)の骨格筋重量の増加を確認し、定量した。術側肢の肥大は、腓腹筋切除後の残存筋肉の代償性反応である。非術側肢がより多く使用されたので、この肢の肥大は、特別な訓練効果によるものである。
【0042】
(体重に対する)非術側の腓腹筋湿重量がトリゴネリン投与群で7%増加した(図2)。
【0043】
非術側肢の、分析を行った全筋肉の絶対及び(動物の体重に対する)相対湿重量が増加した。
【0044】
術側肢において、コンピュータ断層撮影測定法を用いて評価した場合の総肢重量及び筋肉断面積も増加した。データは表1で示す。
【0045】
【表1】



【0046】
これらの結果から、負荷(腓腹筋の手術後、筋肉肥大)/訓練状態下で、骨格筋湿重量が動物において増加したことが示される。
【0047】
[実施例3]
[筋萎縮]
発明者らのインビトロ及びインビボでの結果を拡大するために、発明者らは、骨格筋免荷(萎縮条件)時のトリゴネリンの影響を試験することにも関心があった。従って、発明者らは、動物の後肢を免荷状態にして骨格筋萎縮を誘導するという第二のインビボ実験を行った。
【0048】
後肢懸垂により、動物の免荷後肢における骨格筋萎縮が引き起こされる。この結果は、ヒトの状況:サルコペニア(老化時の骨格筋量及び強度の退行性喪失)又は骨格筋の固定化(例えば長期にわたる床上安静後)に当てはめることができる。
【0049】
雌C57Bl/6マウスは体重18〜20gで納入され、1週間にわたり施設に順応させた。実験開始時に、動物を無作為に2群に分けた(各群10匹)。
【0050】
その後、これらの群を特別なケージに収容し、その後肢を3週間、免荷状態にした(後肢懸垂)。全マウスを個別に収容し、自由摂餌摂水状態にした。300mg/kgBWの1日投与量でトリゴネリン−塩酸塩を強制経口投与することにより3週間にわたって動物を処置し、対照群にはビヒクルを投与した。
【0051】
発明者らは、(体重に対する)腓腹筋の湿重量が9%増加し(図3)、これが統計学的に有意な結果であることを見出した。
【0052】
発明者らはまた、術側後肢の他の2種類の筋肉(足底筋及びヒラメ筋)も比較した。下記表2で与えられる結果から、対照動物と比較して、トリゴネリン−塩酸塩で処置した動物の筋肉湿重量が増加することが示される(絶対筋重量)。さらに、筋重量を体重に対して正規化した場合、トリゴネリン−塩酸塩で処置した動物において、筋重量/体重比(相対的筋重量)が上昇し、即ち身体組成が向上したことが分かった。一方の肢の筋肉に対する総重量も、トリゴネリン−塩酸塩で処置した場合、有意に上昇した(体重に対する肢全体)。総肢面積及び筋肉肢面積のコンピュータ断層撮影測定から、トリゴネリン−塩酸塩処置によって骨格筋量が増加することが確認された。
【0053】
【表2】



【0054】
この結果から、動物の免荷/萎縮下で、総肢断面積、筋重量が増加し;即ち、対照に対して、トリゴネリン補給動物では非活動状態中に、より多くの筋量が維持されることが示される。
【0055】
[実施例4]
[持久力]
非訓練動物でのトリゴネリンの効果を試験するために、発明者らは、3週間にわたる処置後、最大持久力の試験を行った。
【0056】
雌C57Bl/6マウスは体重18〜20gで納入され、1週間にわたり施設に順応させた。実験開始時に動物を無作為に2群に分けた(各群10匹)。全マウスを個別に収容し、自由摂餌摂水状態にした。300mg/kgBWの1日投与量でトリゴネリン−塩酸塩を強制経口投与することにより3週間にわたって動物を処置し、対照群にはビヒクルを投与した。
【0057】
順応させるために、2週間後に動物をトレッドミルに5分間入れた。動物の解剖の2日前に最大持久力の試験を行った。
【0058】
発明者らは、評価した他の筋肉の湿重量と同じように(データは示さない。)、腓腹筋の湿重量が両群で同等であったことを見出した(図4)。また、3週間のトリゴネリン補給は、非訓練動物の持久力に影響を及ぼさなかった。
【0059】
【表3】



【0060】
これらの結果は、トリゴネリンが、非訓練マウスにおいて、持久力及び骨格筋量に対して効果がないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動と組み合わせて筋量を増大させ及び/又は筋活動低下中の筋肉喪失の量を減少させる栄養補助製品又は食品の製造のための、ナイアシン及び/又はトリゴネリン及び/又はそれらの塩もしくはエステルの使用。
【請求項2】
ヒト用である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
非ヒト動物用である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記運動が、ボディービル又はウエイトトレーニングなどのレジスタンス運動である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項5】
タンパク質及び/又はビタミン、特にビタミンD又はその代謝産物とさらに組み合わせられる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
ナイアシン及び/又はトリゴネリン及び/又はそれらの塩もしくはエステルを投与することと、筋肉増加を観察することと、を含む、運動と組み合わせて筋量を増加させるか又は筋活動低下中に喪失する筋肉量を減少させる方法。
【請求項7】
前記ナイアシン及び/又はトリゴネリン及び/又はそれらの塩もしくはエステルがヒトに投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ナイアシン及び/又はトリゴネリン及び/又はそれらの塩もしくはエステルが非ヒト動物に投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
投与が、レジスタンストレーニング、ボディービル又はウエイトトレーニング中である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記トリゴネリン及び/又はその塩もしくはエステルがタンパク質及び/又はビタミンと組み合わせて投与される、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−529469(P2012−529469A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514471(P2012−514471)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058124
【国際公開番号】WO2010/142750
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】