説明

筋肉損傷を監視し診断するための単離した翻訳後修飾タンパク質

損傷を受けた筋組織のリン酸化状態を診断および監視するのに有用な単離されたリン酸化されたトロポニンIタンパク質を提供する。またこれらのトロポニンIタンパク質のリン酸化状態を評価するための、および被検体におけるこれらのトロポニンIタンパク質のリン酸化状態を調節するための化合物、キットおよび方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨格筋および心筋の損傷を診断および監視するにあたり有用な単離された翻訳後修飾哺乳類タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
筋フィラメントのサブプロテオームは、構造タンパク質と収縮性タンパク質の両者を含んでいる。太い筋細糸と細い筋細糸はその収縮性の成分を構成する。太い筋細糸は、主にミオシン重鎖および関連する軽鎖から構成されるが、一方で細い筋細糸は主にアクチン、トロポミオシン(Tm)およびトロポニン複合体(Tn)から構成されている。Tn複合体は、トロポニンI(TnI)(そのアクチン−ミオシン相互作用を遮断する能力から阻害タンパク質と呼ばれる)、トロポニンT(TnT)(Tmへのその広範な結合について有名)およびトロポニンC(TnC)(これはCa2+を結合して収縮の引き金となる)からなる。TnC上の親和性の低いCa2+結合部位にCa2+が結合することによって多くの構造変化が引き起こされ、それによりミオシンとアクチンとの周期的な脱着が可能となり、引き続きATPの加水分解を費やして力の発生が可能となる(評論誌についてはGordonら、2000、Physiol Rev. 80: 853-924およびTobacman, L. S., 1996, Annu. Rev. Physiol. 58:447-481を参照のこと)。
【0003】
筋フィラメントタンパク質に対する変化は、デノボ発現(de novo expression)、選択されたタンパク質の上方制御、選択タンパク質の下方制御、突然変異、アイソフォーム変化および翻訳後修飾を含み、これらに限定されないが、種々の疾病、疾患および/または損傷状態に関係している。
【0004】
例えば、心筋に特異的および選択的な心筋トロポニンIの修飾は、例えば気絶および虚血/再潅流障害の他の軽い可逆性の状態において観察される収縮障害の基礎となる分子機構として提案されてきた(Bolliら、1999、Phys. Reviews 79: 609-634; McDonoughら、1999、Circ. Res. 84: 9-20; Van Eykら、1998、Circ. Res. 82:261-271; Fosterら、1999、Circ. Res. 85:470-472; Solaroら、1999、Circ. Res. 84:122-124)。プロテインキナーゼA、CおよびGは、5つの異なる部位で心筋トロポニンIを一括してリン酸化することが明らかになっている(評論誌については、Biochemistry (Mosc) 1999 64 (9):969-85を参照のこと)。更に急性冠状症候群に罹患する患者の血清における心筋トロポニンIの検出および定量は、心臓特異的なアイソフォームの発表により心筋障害に利用できる最も特異的で感度の高い生化学的な標識となった。安定狭心症および不安定狭心症並びに心不全においても低い濃度の前記タンパク質が観察されている。
【0005】
骨格筋トロポニンIのタンパク質分解は、重度の低酸素血症のイヌの横隔膜において生じることが報告されている(Simpsonら、2000、J. Appl. Physiol. 88:753-760)。更に速筋型および遅筋型の骨格筋トロポニンIのタンパク質分解断片は、横紋筋融解症を伴う患者の血清試料において検出された(Simpsonら、2002、Clin. Chem. 48:1112-1114)。これらの結果は、骨格筋フィラメントが翻訳後修飾を受けやすいことを示唆している。
【0006】
骨格筋フィラメントタンパク質をコードする遺伝子の突然変異は、ネマリン筋障害、つまり非進行性の筋衰弱を惹起する遺伝性疾患と関連づけられている。心筋フィラメントタンパク質をコードする遺伝子における突然変異は、家族性の肥大性心筋症、つまりしばしば突然死を招く形の心不全を引き起こす。最近では、ネマリン筋障害および家族性の肥大性心筋症を引き起こす全ての同定された突然変異は、膜細胞質ゾルタンパク質およびミトコンドリアタンパク質とは対称的に構造タンパク質および収縮性タンパク質内に生じる(Ilkovskiら、2001、Am. J. Hum. Genet. 68: 1333-1343; Micheleら、2000、J. Mol. Med. 78:543-553; Shawら、2000、Lancet 360 (9334):654-5; Bonneら、1998、Circ. Res. 83 (6):580-93; Marian, A. J., 2002, Curr. Opin. Cardiol. 17(3):242-52)。
【0007】
慢性閉塞性肺疾患および鬱血性心不全などの疾病において、骨格筋において線維型の切り替わりが生じる。切り替わりの特徴は、筋群、すなわち四肢筋か呼吸筋かに依存する。例えば慢性閉塞性肺疾患においては、連続使用状態にある横隔膜は高い割合の遅筋型の酸化的疲労耐性の線維を有する一方で(評論誌についてはGayan-RamirezとDecramer, 1996, Rev. Mal. Respir. 17:574-584; Levineら、2001、Exerc. Sport Sci. Rev. 29:71-75; Stassijnsら、1996、Eur. Respir. J. 9:2161-2187を参照のこと)、四肢筋は高い割合の速筋型の解糖系線維を有する(評論誌についてはAlivertiとMacklem, 2001, Respiration 68:229-239; 米国胸部学会議および欧州胸部学会議(American Thoracic Society and European Thoracic Society), 1991, Am. J. Respir. Crit. Care Med. 159:S1-S40; MadorとBozkanat, 2001、Respir. Res. 2:216-224; Maltaisら、2000、Clin. Chest Med. 21:5665-677を参照のこと)。線維型の切り替わりは、また例えば運動選手において訓練の間に引き起こされることもある。
【0008】
完全な筋フィラメントタンパク質、筋フィラメントタンパク質の分解産物および筋タンパク質のタンパク質-タンパク質複合体を種々の生物学的試料、例えば血液、組織および尿において検出することは、1998年7月15日に出願された同時係属の米国特許出願第09/115,589号に詳細に記載されている。
【0009】
筋フィラメントタンパク質の化学的付加物(例えば翻訳後修飾物)および該タンパク質の種々の修飾物、例えばそれらのタンパク質−タンパク質複合体およびタンパク質断片の検出方法は、1999年10月18日に出願された同時係属の米国特許出願第09/419,901号に詳細に記載されている。
【0010】
本発明は、翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質、特にリン酸化されたトロポニンIタンパク質の同定法に関する。トロポニンIタンパク質のリン酸化状態は収縮機能の変化に対応づけられる。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本発明は、単離された翻訳後修飾された哺乳動物の筋フィラメントタンパク質を提供する。特に2つの新規の保存されたリン酸化部位は速筋型の骨格筋トロポニンIで同定され、そして心筋トロポニンIにおいて1つの同等のリン酸化部位が同定されている。これらのリン酸化部位は、C末端、およびトロポニンIタンパク質のアイソフォームの中央領域に位置する最小阻害領域に隣接して存在する。トロポニンIのリン酸化部位の1つまたは2つにおけるリン酸化状態は、収縮機能の変化に対応づけられる。
【0012】
したがって、本発明の態様は、収縮機能の変化に関連づけられる単離されたリン酸化筋フィラメントのタンパク質を提供することである。好ましい実施態様では、単離されたリン酸化筋フィラメントタンパク質は、リン酸化トロポニンIのアイソフォームを構成する。より好ましいものは、そのC末端でおよび/または該タンパク質の中央に位置する最小阻害領域に隣接してリン酸化トロポニンIのアイソフォームである。本発明では、リン酸化されたヒトのトロポニンIのアイソフォームは、セリン198またはセリン149とセリン198とでリン酸化された心筋トロポニンIを含むが、セリン149単独でリン酸化された心筋トロポニンIを含まず、セリン117および/またはセリン168でリン酸化された速筋型の骨格筋トロポニンIを含み、かつセリン118および/またはセリン168でリン酸化された遅筋型の骨格筋トロポニンIを含む。
【0013】
本発明の別の態様は、天然トロポニンIとトロポニンIの一リン酸化および/または二リン酸化された形態とを識別することができる抗体および/またはアプタマーを提供することである。好ましいのは、天然トロポニンIと、C末端でおよび/または最小阻害領域に隣接してリン酸化されたトロポニンIとを識別することができる抗体および/またはアプタマーである。また好ましいのは、天然トロポニンIのアイソフォームと一リン酸化および/または二リン酸化されたそのアイソフォームとを識別することができる抗体および/またはアプタマーである。
【0014】
本発明のもう一つの態様は、トロポニンIのリン酸化状態を検出するためのキットおよび方法に関する。好ましい実施態様では、そのキットおよび方法は、C末端でおよび/または最小阻害領域に隣接してリン酸化されたトロポニンIを検出する。また好ましいのは、リン酸化されたトロポニンIのアイソフォームを識別できるキットおよび方法である。本発明のキットおよび方法は、骨格筋および心筋の損傷の監視および/または診断並びに心筋および骨格筋の収縮機能の変化の監視および/または診断において有用である。
【0015】
本発明によれば、生物学的試料におけるトロポニンIのリン酸化状態が測定される。生物学的試料は、筋組織に損傷をもたらしうる状況または複数の状況を示す被検体、その状況に曝される被検体、その状況を有すると思われる被検体またはその状況が治療された被検体の任意の被検体から得ることができる。
【0016】
したがって、トロポニンIのリン酸化状態の試験を用いて、損傷を受けた心筋(例えば心不全、虚血性疾患または狭心症から生じる)を有する被検体および/または損傷を受けた骨格筋(例えば虚血性筋疾患、呼吸器疾患、運動、外傷などから生じる)を有する被検体を監視することができる。更に被検体におけるリン酸化状態の監視を用いて、心筋梗塞のような急性の事態を予後的に予想することができる。
【0017】
更に本発明により、筋損傷の療法が、その療法の適用後でのトロポニンIのリン酸化状態における変化を監視することにより評価される。運動選手および動物、例えば競走馬における訓練の程度および/または投薬の強化の最適化を、これらの被検体のトロポニンIのリン酸化状態を監視することによって評価することもできる。
【0018】
本発明のもう一つの態様は、トロポニンIのリン酸化状態を変化させるホスファターゼおよび/またはキナーゼを標的とする薬剤を含有する組成物並びに前記組成物の投与によるトロポニンIのリン酸化状態の変更方法に関する。かかる組成物は、被検体において筋組織のカルシウム感受性および/または筋組織の収縮性を変化させ、該組成物は筋損傷の治療において有用であると期待される。
【0019】
本発明の他の特徴および利点を、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかにする。
【0020】
発明の詳細な説明
プロテオミクスと生理学的測定法を合わせて用いて、筋肉の収縮機能の変化に対応づけられる翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質を同定する。特に、C末端でおよび/またはトロポニンIの最小阻害領域に隣接してリン酸化されたトロポニンIの新規の一リン酸化および/または二リン酸化された形を、ここで骨格筋と心筋において同定する。更に本願に示されるように、トロポニンIのリン酸化状態は損傷を受けた筋組織では対照筋組織と比較して変化している。
【0021】
本願で使用される「収縮機能の変化」とは、被検体のトロポニンIのリン酸化状態の変化から生じる、筋線維または筋原線維の収縮力および/または収縮効果および/または収縮性および/またはカルシウム感受性の増大または低下のいずれかを意味する。
【0022】
本願では特に記載がない限り、トロポニンIという用語を使用した場合に、それはトロポニンIの全てのアイソフォーム(例えば心筋トロポニンI、速筋型の骨格筋トロポニンI、遅筋型の骨格筋トロポニンIおよび胎児および幼児の遅筋型の心筋トロポニンI)を含めることとする。
【0023】
更に、「リン酸化されたトロポニンI」という表現を使用した場合に、それは、トロポニンIのC末端で、および/またはトロポニンIの最小阻害領域に隣接した領域でリン酸化されたトロポニンIタンパク質を意味する。したがって一リン酸化されたトロポニンIとは、トロポニンIのC末端で、またはトロポニンIの最小阻害領域に隣接したいずれか1つの領域でリン酸化されたトロポニンIタンパク質を意味する。二リン酸化されたトロポニンIとは、トロポニンIのC末端とトロポニンIの最小阻害領域の付近の部位でリン酸化されたトロポニンIタンパク質を意味する。
【0024】
本発明によれば、トロポニンIの任意のまたは全てのアイソフォームのリン酸化状態を比率、濃度またはプロファイルとして比較してよく、その際、かかる比較には、本願に記載されるトロポニンIの1種以上のアイソフォームのリン酸化部位と組み合わせて、選択的に筋損傷の任意の他の標識が使用される。そのような他の筋損傷の標識は、例えば、翻訳後修飾、複合体形成または付加物形成がなされた筋フィラメントタンパク質である。
【0025】
本願で使用する場合に、「トロポニンIのリン酸化状態」という表現は、リン酸化されたトロポニンIタンパク質またはトロポニンIタンパク質のアイソフォームの濃度または量の傾向、またはリン酸化されたトロポニンIタンパク質またはそのアイソフォームと天然のものとの比率またはタンパク質プロフィール、リン酸化されたトロポニンIまたはそのアイソフォームと他のトロポニンの修飾体との比率またはタンパク質プロフィール、およびリン酸化されたトロポニンIまたはそのアイソフォームと修飾もしくは非修飾の筋フィラメントタンパク質との比率またはタンパク質プロフィールを含むこととする。例えば、リン酸化状態とは、制限されないが、一リン酸化されたトロポニンIタンパク質の濃度、二リン酸化されたトロポニンIタンパク質の濃度、全体の(一リン酸化と二リン酸化の両者を意味する)リン酸化されたトロポニンIタンパク質の濃度、一リン酸化されたトロポニンIのアイソフォームの濃度、二リン酸化されたトロポニンIのアイソフォームの濃度、全体の(一リン酸化と二リン酸化の両者を意味する)リン酸化されたトロポニンIのアイソフォームの濃度の傾向、天然トロポニンIタンパク質対一リン酸化されたトロポニンIタンパク質の比率、天然トロポニンIタンパク質対二リン酸化されたトロポニンIタンパク質の比率、天然トロポニンIタンパク質対全体の(一リン酸化と二リン酸化の両者を意味する)リン酸化されたトロポニンIタンパク質の比率、一リン酸化されたトロポニンIタンパク質対二リン酸化されたトロポニンIタンパク質の比率、トロポニンIタンパク質の天然アイソフォーム対一リン酸化されたトロポニンIタンパク質のアイソフォームの比率、トロポニンIタンパク質の天然アイソフォーム対二リン酸化されたトロポニンIタンパク質のアイソフォームの比率、トロポニンIタンパク質の天然アイソフォーム対全体の(一リン酸化と二リン酸化の両者を意味する)リン酸化されたトロポニンIタンパク質のアイソフォームの比率、一リン酸化されたトロポニンIタンパク質のアイソフォーム対二リン酸化されたトロポニンIタンパク質のアイソフォームの比率、全体のリン酸化されたトロポニンI(一リン酸化と二リン酸化の両者を意味する)対1種以上の異なる修飾トロポニンIタンパク質の比率、一リン酸化されたトロポニンI対1種以上の異なる修飾トロポニンIタンパク質の比率、二リン酸化されたトロポニンI対1種以上の異なる修飾トロポニンIタンパク質の比率、全体の(一リン酸化と二リン酸化の両者を意味する)リン酸化されたトロポニンIタンパク質のアイソフォーム対1種以上の異なるトロポニンIタンパク質のアイソフォームの修飾型の比率、一リン酸化されたトロポニンIタンパク質のアイソフォーム対1種以上の異なるトロポニンIタンパク質のアイソフォームの修飾型の比率、二リン酸化されたトロポニンIタンパク質のアイソフォーム対1種以上の異なるトロポニンIタンパク質のアイソフォームの修飾型の比率、全体のリン酸化されたトロポニンI(一リン酸化と二リン酸化の両者を意味する)対1種以上の異なる修飾もしくは非修飾の筋フィラメントタンパク質の比率、一リン酸化されたトロポニンI対1種以上の異なる修飾もしくは非修飾の筋フィラメントタンパク質の比率、二リン酸化されたトロポニンI対1種以上の異なる修飾もしくは非修飾の筋フィラメントタンパク質の比率、全体の(一リン酸化と二リン酸化の両者を意味する)リン酸化されたトロポニンIタンパク質のアイソフォーム対1種以上の異なる修飾もしくは非修飾の筋フィラメントタンパク質の比率、一リン酸化されたトロポニンIタンパク質のアイソフォーム対1種以上の異なる修飾もしくは非修飾の筋フィラメントタンパク質の比率および二リン酸化されたトロポニンIタンパク質のアイソフォーム対1種以上の異なる修飾もしくは非修飾の筋フィラメントタンパク質の比率を含むこととする。
【0026】
更に、「トロポニンIのリン酸化状態」とは、また種々のトロポニンIタンパク質のアイソフォームおよび/またはそれらのリン酸化型の比較比率、比較濃度および/または比較プロフィールを含むこととする。例えば、心筋トロポニンI濃度および/または一リン酸化および/または二リン酸化された心筋トロポニンIの濃度を、速筋型および/または遅筋型の骨格筋トロポニンIの濃度および/または一リン酸化および/または二リン酸化された速筋型および/または遅筋型の骨格筋トロポニンIの濃度と比較してよい。同様に、速筋型の骨格筋心筋トロポニンI濃度および/または一リン酸化または二リン酸化された速筋型の骨格筋トロポニンIの濃度の比率を、遅筋型の骨格筋トロポニンIの濃度および/または一リン酸化および/または二リン酸化された遅筋型の骨格筋トロポニンIの濃度と比較してよい。
【0027】
トロポニンIのリン酸化状態は、1被検体から得られた単一の試料において単一の時点で測定するか、または1被検体において、選択された期間にわたり幾つかの試料からの変化について監視してよい。
【0028】
リン酸化状態に関する「変化した」または「変化」とは、生物学的試料中の前記の1種以上のリン酸化されたトロポニンIタンパク質と対照との濃度または差異の増大または減少のような変化を意味する。
【0029】
「対照」とは、筋組織の損傷を有さないことが知られている被検体から得られた試料、同被検体から得られ、また本願で第一試料または第一生物学的試料と呼ばれる試料、または最近公認されたトロポニンIの正常なリン酸化状態または筋組織の公知の損傷程度に相関したリン酸化状態に相当するデータバンクから得られたデータ由来の基準型を意味する。対照と被検体から得られ、時として本願では第二試料と呼称する試料との比較を実施するが、これは直接的な比較、例えば比率であってよく、または、例えば考慮される特定の状況にとって重要なことに対する1つ以上の計量測定を必要とすることもある。また比較は、測定データに任意の適当な統計分析を行うこともある。
【0030】
本願で使用される「損傷を受けた筋組織」という表現は、心筋および/または骨格筋の細胞および/または組織の損傷および/または機能障害であって、制限されないが、例えばストレス、心不全、低酸素症、酸素過剰症、低酸素血症、感染、毒素、薬物(例えば筋損傷性副作用を伴う化学療法並びに薬物乱用、例えばコカインおよびアルコール)、高血圧症、虚血症(血流が完全に閉塞された状況並びに血流が通常の血流に対して低減された状況を含む)、虚血再潅流、過潅流、低潅流、運動損傷、外傷、心臓移植および/または拒絶反応、炎症、大気圧変化により引き起こされる圧力損傷および死により生ずる全てのものを含むこととする。損傷を受けた筋組織とは、また疾患、例えば横紋筋融解、筋ジストロフィー、化膿症、敗血症、呼吸器疾患、制限されないが、例えば慢性閉塞性肺疾患、気腫、喘息および気管支炎において生じる損傷および/または機能障害、ブラ切除術(肺容量減少手術)、呼吸器離脱で生じる損傷および/または機能障害、および外科手術または他の外傷により引き続いて起こる損傷を意味する。損傷を受けた筋組織とは、プロテアーゼおよび/または架橋酵素を活性化するか、またはそれらと関連し、結果として心筋フィラメントまたは骨格筋フィラメントのタンパク質の修飾(例えば架橋、分解)を引き起こす任意の損傷またはストレスからくる損傷および/または機能障害を含むこととする。筋組織への損傷は急性であるかも知れず、その際、その損傷は短時間の(急性)虚血/低酸素期間(例えば30秒〜2日間)、例えば気絶心筋、またはプレコンディショニング、例えば梗塞(例えば心筋梗塞(MI))、不安定狭心症などから生じうる。幾つかの場合には、例えば気絶心筋の場合には、急性の筋損傷は可逆性のことがある。また筋損傷は慢性であるかも知れず、その際、その損傷は、長期の(慢性)虚血/低酸素期間(例えば、数日〜数年の期間)、例えば心不全(HF)および糖尿病から生じうる。慢性の筋損傷は、筋損傷が(例えば壊死またはアポトーシス並びに細胞膜完全性の欠損のゆえに)筋細胞および/または筋機能の減少および/または欠損を補う必要性を筋肉にもたらすという状況を含む。このことは、筋肉の肥大または萎縮に導く。これらの状況下では、トロポニンIのリン酸化状態は時間に依存して変化することがある。更に、当業者には本願の開示を読むことで理解できるであろうが、トロポニンIのリン酸化状態は動的であり、並びに急性および慢性の両者の筋損傷において有用な予後情報を提供する。
【0031】
本発明によれば、生物学的試料におけるトロポニンIのリン酸化状態が測定される。生物学的試料は、損傷を受けた筋組織をもたらしうる状況または複数の状況を示す被検体、その状況に曝される被検体、その状況を有すると思われる被検体またはその状況が治療された被検体の任意の被検体から得ることができる。診断および監視の目的のために、トロポニンIのリン酸化状態を、1被検体から得られる単一の試料において評価してよい。しかしながら好ましい実施態様では、損傷を受けた筋組織を1被検体において、1被検体から種々の時間(すなわち同時でない)から少なくとも2種の生物学的試料を得て、そして該試料をトロポニンIのリン酸化状態における経時変化について評価することによって診断または監視する。
【0032】
本願で明らかにされたトロポニンタンパク質のリン酸化状態は、したがって筋組織が損傷を受けた心筋および/または骨格筋の任意の疾患、疾病または状況の診断および/または監視に適用できる。更に本発明によるリン酸化状態の測定は、急性並びに慢性の筋損傷に適用できる。更に本発明の方法は、被検体が筋損傷を受けているかだけでなく、その損傷が急性であるかまたは慢性であるかを診断するために使用することができる。これは、本発明では、トロポニンIのリン酸化状態の検出およびキャラクタリゼーションを提供し、そして特異的または特有のリン酸化状態と急性または慢性の筋損傷のいずれかとの関連づけを行うことによって達成される。例えば低い割合(例えば10%未満)だけがリン酸化されている心筋トロポニンIを含むタンパク質−タンパク質複合体を含有する生物学的試料は、例えばMIまたは不安定狭心症から生ずる急性の筋損傷を示すことがある。しかしながら生物学的試料の分析がより高い割合(例えば約50%)がリン酸化されたトロポニンI複合体を示すならば、HFから生ずる慢性の筋損傷を示すこともある。
【0033】
心臓への慢性の損傷は、壊死またはアポトーシスを介する細胞喪失を伴って再構築および肥大を引き起こすので、それは血清試料および、可能であれば組織試料(適宜、心臓手術の時点)による監視を可能にする。したがってトロポニンIのリン酸化状態は、生物学的試料、例えば血液中で測定でき、そしてリン酸化されたトロポニンIの存在または量または質が、疾患の段階の指標となる。
【0034】
また本発明は、筋損傷を有する、つまり横紋筋融解のような疾患、呼吸器疾患、制限されないが例えば、慢性閉塞性肺疾患、気腫、喘息および気管支炎を伴う患者、ブラ切除術(肺容量減少手術)および外科手術または他の外傷により引き続いて起こる損傷を有する患者のリハビリテーションの監視に適用することもできる。更に本発明は、運動選手および動物、例えば競走馬における投薬の強化の最適化および/または訓練の程度の評価を提供し、その際、トロポニンIのリン酸化状態は筋損傷の検出について監視することができる。更なる実施態様は、1種以上の肉試料(例えば、ヒトが消費するための)において筋損傷の程度を評価し、例えば、肉の柔らかさを測定することに関する。
【0035】
本願で使用される「被検体」という用語は、筋損傷、特に心筋または骨格筋損傷を受けやすい任意の哺乳動物(例えばウマ、イヌ、ヒト)を含むことを意図する。好ましい実施態様では、被検体は霊長類である。更により好ましい実施態様では、霊長類はヒトである。
【0036】
「得る」という用語は、生物学的試料を被検体から、翻訳後修飾タンパク質が翻訳後修飾タンパク質に特異的な抗体によって識別できる形で保持して回収することを含むことを意図している。生物学的試料は、自体公知の方法を用いて被検体から得ることができる。例えば血液を被検体から採取するか、または生検組織を手術を受けている被検体から標準技術を用いて得ることができる。生物学的試料の例は、例えば筋組織試料および生物学的液体、制限されないが例えば、血液、血清、血漿、リンパ、尿、髄液、羊水およびトロポニンIを含有する任意の他の体液である。
【0037】
生物学的試料におけるトロポニンIのリン酸化状態の評価は、生物学的試料を本発明のリン酸化されたトロポニンIタンパク質に特異的な化合物と一緒に、該化合物がリン酸化されたトロポニンIタンパク質と複合体を形成できる条件下にインキュベートし、そして次いで該複合体を、例えば、該化合物に結合された標識の存在についてアッセイすることによって実施できる。選択的に、トロポニンIのリン酸化状態は、天然トロポニンIに特異的な化合物の結合と天然並びにリン酸化されたトロポニンIに結合するタンパク質の結合との比較によって評価できる。かかる化合物の例は、制限されないが、例えば抗体、アプタマーおよび、ペプチド、ペプチド擬態またはトロポニンIに特異的なタンパク質である。当業者によく知られており、生物学的試料におけるトロポニンIのリン酸化状態の測定に慣例のように適合できるアッセイ形式は、制限されないが、例えばELISA、RIA分析(免疫学的検出)およびトロポニンIのリン酸化された形および/または天然の形に結合するペプチドまたはタンパク質の測定である。
【0038】
生物学的試料におけるトロポニンIのリン酸化状態の評価は、また試料中の非修飾および/または翻訳後修飾された1種以上のタンパク質を、例えばクロマトグラフィー技術、例えばHPLC[滞留時間の差に基づく検出]、電気泳動または表面増強レーザ脱離イオン化(すなわちSELDI)[質量差に基づく検出]を用いて直接的に検出するか、または化学的検出によって、または存在するのであれば修飾タンパク質を酵素により脱リン酸化して翻訳後修飾を直接的に操作することによって実施することもできる。
【0039】
これらの全ての分析を、単独でまたは組み合わせて使用して、生物学的試料におけるトロポニンIのリン酸化状態を測定することができる。更にリン酸化されたトロポニンIまたはリン酸化されたトロポニンIのアイソフォームの出現および/または消失を筋損傷の指標として使用することもできる。
【0040】
このように一実施態様では、アッセイは、リン酸化されたトロポニンIの減少を、本願に記載されるリン酸化状態でのみトロポニンIに結合する標識された抗体、アプタマーまたはペプチド擬態を用いて監視する工程を含んでよい。かかる実施態様では、対照において結合した任意の標識された抗体、アプタマーまたはペプチド擬態からのシグナルに対する結合した任意の標識された抗体、アプタマーまたはペプチド擬態からのシグナルの減少は、筋損傷の指標である。
【0041】
選択的に、より好ましい実施態様では、該アッセイは、脱リン酸化されたトロポニンIの増加を監視する工程を含む。このアッセイでは、本願に記載されるようにリン酸化されたトロポニンIに結合しないが、脱リン酸化された場合にトロポニンIに結合する標識された抗体、アプタマーまたはペプチド擬態を使用する。このように、これらのアッセイでは、対照において結合した任意の標識された抗体、アプタマーまたはペプチド擬態からのシグナル対する、結合した任意の標識された抗体、アプタマーまたはペプチド擬態からのシグナルの増大が、筋損傷の指標である。
【0042】
トロポニンIのリン酸化状態は、それぞれリン酸化部位でリン酸化および脱リン酸化を担うキナーゼおよびホスファターゼの活性間の釣り合いによって調節される。したがってトロポニンIのリン酸化状態は、これらの酵素の1つまたは両者の濃度および/または活性の変化を介して筋組織において変化させることができる。このように、本発明の別の態様は、トロポニンIのリン酸化状態を変化させることができるホスファターゼおよび/またはキナーゼを標的とする薬剤を含有する組成物並びにかかる組成物を用いてトロポニンIのリン酸化状態を調節させる方法に関する。本願に示されるように、ホスファターゼタンパク質、つまりホスファターゼ1(PP-I)はC末端でおよび最小阻害領域に隣接して同定されたリン酸化部位でトロポニンIの脱リン酸化が可能であり、一方でキナーゼ、つまりp21活性化キナーゼはこれらのリン酸化部位の少なくとも1つでトロポニンIのリン酸化が可能である。したがって、本発明のこの態様の好ましい実施態様では、該薬剤はPP-Iなどのホスファターゼまたはp21活性化キナーゼなどのキナーゼの濃度および/または活性を変化させる。かかる組成物および方法は、被検体における、筋損傷の治療、殊に筋組織のカルシウム感受性および/または収縮力、筋組織の収縮効果および/または収縮性を変化させるのに有用である。
【0043】
本発明のリン酸化されたトロポニンIタンパク質は、速筋型の骨格筋トロポニンIで単離された。これらの実験では、ラットのインサイチュー長指伸筋(EDL)の収縮機能障害を誘発するために虚血再潅流を用いた。図1は、低血流の前(対照)、低血流の終了直後(低流量虚血)および潅流の開始30分後(再潅流)に得られる反応性充血と一致した全身平均動脈圧における一過性の減少と関連づけられた収縮力−周波数曲線を示す。これらの曲線を使用して全体の筋収縮状態を評価した。ラット後肢は多くの中側副動脈を有するので、大体動脈結紮は潅流の完全な中断をもたらさない。その代わりに、この手法は約33%の血流の低減を引き起こすと見積もられている。しかしながら図1に示されるように、この90分間の低流量虚血は、再潅流の30分後でさえも収縮機能を顕著に低下させた。収縮機能の低下は、半相関時間と時間対ピーク張力とに影響せずに生じた(表1参照)。
【0044】
〔表1〕
虚血前(対照)、虚血90分後(I/R EDLのため)および90分間の虚血に引き続き30分の再潅流後(I/R EDLのため)の、擬似EDL(N=11)およびI/R EDL(n=9)の単収縮パラメータの比較

【0045】
全筋機能障害に関連する筋フィラメントプロテオームへの変化を評価するために、筋原線維を擬似EDLおよびI/R EDL筋肉から単離し、そしてATPアーゼ活性を測定した(図2参照)。I/R EDLは、全てのカルシウム濃度において擬似EDL(P<0.05)と比較してCa2+活性化筋原線維ATPアーゼ活性の低下を示し、したがってこのことは、1つ以上の筋フィラメントタンパク質への修飾の結果として収縮調節に変化があったことを指示している。
【0046】
次いで筋フィラメントサブプロテオームへの翻訳後修飾を試験した。アクチン、デスミン、トロポミオシン、トロポニンTおよびミオシン軽鎖1というタンパク質の新規の形態または量的変化は、4.5〜5.5のpH勾配を用いた2次元SDS-PAGEによっては同定されなかった(図3AおよびB参照)。
【0047】
速筋型の骨格筋トロポニンIへの翻訳後修飾を、pH勾配7〜10のIPGを用いて低タンパク質濃度で測定し、引き続きウェスタンブロットを行った。図4は、モノクローナル抗体FI-32でプロービングされた擬似EDL動物(図4A)およびI/R EDL動物(図4B)の筋原線維における速筋型の骨格筋トロポニンIについての2次元ウェスタンブロットを示す。擬似EDLの筋原線維では、3つのタンパク質スポット、つまり天然または非修飾の形と、翻訳後修飾形(本願では、タンパク質のαリン酸化もしくは一リン酸化された形およびβリン酸化もしくは二リン酸化された形と呼ぶ)を示すより酸性のpIで解像する2つのスポットとが現れる。露出を延長すると、同じモノクローナル抗体でプロービングされたI/R EDLの筋原線維も同じ3つのスポットを表すので、このことは、損傷を受けた筋組織ではリン酸化の程度が低いことを指示している。
【0048】
擬似EDLおよびI/R EDLの筋原線維間の更なる差異を確認するために、擬似EDLおよびI/R EDLの筋原線維から速筋型の骨格筋トロポニンIを走査し、ディジタル化して、コンピュータ生成ボリュームチャートを得た。これらの露出量密度の3次元表示は、フィルムの線形範囲内で同等に展開された露出量の選択を可能にし、それにより擬似EDLおよびI/R EDL筋原線維間の速筋型の骨格筋トロポニンIシグナルの比較が可能となった。フィルムの線形範囲の上限10%以内のシグナルは、確実に擬似EDLの筋原線維における速筋型の骨格筋トロポニンIの修飾形を明らかにした。
【0049】
翻訳後修飾は、エピトープ内またはその付近に位置する場合の抗原に対するモノクローナル抗体の結合親和性を変化させうる。したがって、擬似EDLの筋原線維における速筋型の骨格筋トロポニンIの種々の形を種々の抗体が検出する能力を使用して、翻訳後修飾を有する速筋型の骨格筋トロポニンIの領域が同定された。これらの試験で使用されるトロポニンIに対するモノクローナル抗体は、例えばmAb FI-32、mAb 8I-7およびmAb 3I-35であった。図5に示されるように、これらのモノクローナル抗体の全てが速筋型の骨格筋トロポニンIの種々のリン酸化された形を検出するわけではなかった。例えば全ての3つのmAbは速筋型の骨格筋トロポニンIの天然の形を検出したが、mAb 3I-35は二リン酸化されたβ形を検出せず(図5B参照)、そしてmAb 8I-7は一リン酸化されたα形もまたは二リン酸化されたβ形も検出しなかった(図5C参照)。mAb 3I-35または8I-7のいずれで露出を延長しても付加的な形は現れなかった。これらの結果は、速筋型のトロポニンIのαおよびβ形の形成をもたらした各翻訳後修飾は、mAb 3I-35および8I-7のエピトープ内またはその極めて近傍で生じるので、その親和性に影響することが指示している。図6を参照のこと。mAb 3I-35のエピトープは、ラットの速筋型の骨格筋トロポニンIのC末端のアミノ酸162〜168に相当し、そしてmAb 8I-7のエピトープはラットの速筋型の骨格筋トロポニンIの阻害領域のアミノ酸105〜116に相当する(ラットの速筋型の骨格筋タンパク質のアミノ酸の番号付けはスイスプロットP27768のアミノ酸配列(配列番号1)で示した番号に相当する)。したがって、これらの結果は、速筋型の骨格筋トロポニンIのαおよびβ形は配列番号1のアミノ酸配列105〜116と162〜168内またはその近傍で生ずる翻訳後修飾と関連していることを指示している。
【0050】
翻訳後修飾の性質の特徴付けを行うために、筋原線維を脱リン酸化させてから2次元SDS-PAGEを行い、αおよびβ形が速筋型の骨格筋トロポニンIのリン酸化から生ずるかどうかを調べた。どちらの形もPP-Iによる脱リン酸化後に試料中に現れなかったので、このことは翻訳後修飾がまさにリン酸化であることを指示している。mAb 8I-7と3I-35のエピトープのアミノ酸配列の測定により、ラットの骨格筋トロポニンIの最小阻害領域に隣接したアミノ酸位置117とC末端の位置168ではセリンであることが明らかとなった。
【0051】
これらの部位での速筋型の骨格筋トロポニンIのリン酸化の更なる証拠は、アルカリ性ホスファターゼによる試験で得られた。アルカリ性ホスファターゼによる脱リン酸化試験は不成功に終わった。しかしながら、アルカリ性ホスファターゼは塩基性アミノ酸に隣接するセリン残基およびトレオニン残基を脱リン酸化できない。ラットの速筋型の骨格筋トロポニンIのセリン117およびセリン168は、両者とも塩基性残基に隣接している。
【0052】
横隔膜疲労の生体内ラットモデル由来の横隔膜組織でもプロテオーム分析を行い、そして対照または擬似のラット由来の横隔膜組織と比較した。図7に示されるように、擬似ラットの横隔膜は、天然の形の速筋型の骨格筋トロポニンIを含有し、そして酸性により移動した2つのスポットは速筋型の骨格筋トロポニンIのαおよびβリン酸化された形であると考えられる。吸入負荷(IRL)をかけたラットでは、最も酸性側のスポットが存在しない。このように、I/R EDLラットと同様に、速筋型の骨格筋トロポニンIのリン酸化の程度は筋損傷において低下する。重度の慢性閉塞性肺疾患を伴い、肺容量減少手術を行っているヒトの患者由来の横隔膜組織のウェスタンブロットによるプロテオーム分析により、IRLラットのパターンと類似のパターンが示され、そこでは酸性により移動したスポットが1つだけ検出されただけであった。したがって、ヒトの速筋型の骨格筋トロポニンIのリン酸化の程度は、また筋損傷後に低下することが明らかである。
【0053】
また心筋トロポニンIのC末端と最小阻害領域に隣接したリン酸化部位が同定され、そして該タンパク質の最小阻害領域付近でリン酸化された一リン酸化された形の心筋トロポニンIが単離された。特にスイスプロットP23693(配列番号2)のセリン149でリン酸化されたラットの心筋トロポニンIを単離した。更に前記の部位でのリン酸化は心筋収縮のp21活性化キナーゼに誘発されるカルシウム感受性と関連している。したがって心筋トロポニンIのリン酸化の程度は、また筋組織の収縮機能の変化とも関連している。心筋において、リン酸化されたトロポニンIの増大はまた、カルシウム感受性の低下のゆえに収縮機能の低下と関連している。
【0054】
ラットのトロポニンIのアイソフォームの速筋型の骨格筋および心筋のトロポニンIのC末端と最小阻害領域付近とで同定されたリン酸化部位を、種々の哺乳動物種と比較した。図8に示されるように、これらの領域の各セリンは、全ての測定された哺乳動物のトロポニンIアイソフォームにおいて保存されている。
【0055】
したがって、本発明の一つの態様は哺乳動物の単離されたリン酸化されたトロポニンIタンパク質に関する。好ましい実施態様では、単離されたタンパク質は、C末端でおよび/または最小阻害領域に隣接してリン酸化されたトロポニンIを含む。「付近」とは、最小阻害領域の5アミノ酸または、より好ましくは2アミノ酸以内でのリン酸化を意味する。ヒトおよびラットの速筋型の骨格筋トロポニンIに関しては、リン酸化部位はセリン117およびセリン168に存在する。ヒトの心筋トロポニンIに関しては、リン酸化部位はセリン149およびセリン198に存在する。本発明においては、ヒトの心筋トロポニンIのリン酸化されたアイソフォームは、例えばセリン198でまたはセリン149とセリン198でリン酸化されているが、セリン149単独でリン酸化されていないヒトの心筋トロポニンIである。ラットの心筋トロポニンIに関しては、リン酸化部位はセリン150およびセリン199に存在する。ヒトおよびラットの遅筋型の骨格筋トロポニンIに関しては、リン酸化部位はセリン118およびセリン168に存在する。
【0056】
また本発明は、天然トロポニンIとトロポニンIのこれらのリン酸化された形とを識別可能な抗体またはアプタマーまたはペプチド擬態を含有する方法およびキットを提供する。本願に示されるように、天然トロポニンIに対する種々の市販抗体は、本願に開示された新規に見いだされたトロポニンIのリン酸化された形に対して特異性の変動を示す。例えばポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体mAb FI-32を使用して、天然トロポニンI並びに速筋型の骨格筋トロポニンIのαおよびβリン酸化された形を検出できる。例えばmAb 3I-35を使用して、天然トロポニンIおよび速筋型の骨格筋トロポニンIのセリン117でα一リン酸化された形を検出できる。例えばmAb 8I-7を使用して、天然トロポニンIおよび速筋型の骨格筋トロポニンIのセリン168でα一リン酸化された形を選択的に検出できる。
【0057】
したがって、本願の一つの実施態様では、天然トロポニンIおよびリン酸化されたトロポニンIの両者を試料中で検出するための方法およびキットが提供される。この実施態様では、試料を、天然トロポニンIおよびトロポニンIのリン酸化された形に結合するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、例えばmAb FI-32またはアプタマーのいずれかに接触させる。この実施態様のためのキットは、天然トロポニンIおよびトロポニンIのリン酸化された形の両者に結合するポリクローナルまたはモノクローナル抗体またはアプタマーまたはペプチド擬態を含む。
【0058】
本発明の別の実施態様では、試料中で天然トロポニンIとリン酸化されたトロポニンIとを識別できる方法およびキットが提供される。この実施態様では、試料を、天然トロポニンIと結合するが、リン酸化されたトロポニンIとは結合しないモノクローナル抗体、例えばmAb 8I-7またはアプタマーまたはペプチド擬態と接触させる。次いで試料を、リン酸化されたトロポニンIとまたは天然トロポニンIおよびリン酸化されたトロポニンIと選択的に結合する抗体またはアプタマーまたはペプチド擬態、例えばmAb FI-32と接触させてよい。したがって、試料と、これらの抗体、アプタマーまたはペプチド擬態の種々の組み合わせとを接触させることによって、天然トロポニンIおよび該タンパク質のαおよびβリン酸化された形を識別することができる。
【0059】
この開示を読めば当業者には理解されるであろうが、本願に例示したに加えて他の抗体も本発明の方法およびキットで使用してよい。
【0060】
更に、本願で使用される「抗体」という用語は、この分野で知られる全ての形の抗体であって、天然トロポニンIおよび/またはリン酸化されたトロポニンIおよび/またはトロポニンIの選択されたアイソフォームに特異的に結合する抗体、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、組み換え抗体、単鎖抗体およびヒト化抗体並びにその機能的フラグメント(例えばF(ab')2フラグメント)を包含し、これらは合成または天然であっても、標識または未標識であってもよい。
【0061】
本発明のリン酸化されたトロポニンIタンパク質を識別可能なモノクローナル抗体は、当技術分野で公知の方法を用いて製造できる。かかる方法は、例えば1990年7月17日にYamasakiらに交付された米国特許第4,942,131号および1996年12月10日にKimに交付された米国特許第5,583,053号に詳細に記載されている。本願で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、トロポニンIの特定のエピトープと免疫反応可能な1種のみの抗原結合部位を含有する抗体分子の集合を呼称する。前記のエピトープは天然の筋フィラメントタンパク質に存在してもよい。したがってモノクローナル抗体組成物は、一般にトロポニンIタンパク質について単一の結合親和性を示す。
【0062】
本発明の方法で有用なモノクローナル抗体は、トロポニンIの1つのエピトープに対するものなので、抗体とトロポニンIとの間で形成される複合体を検出アッセイ、例えばELISA、RIAなどで識別できる。トロポニンIのエピトープに対するモノクローナル抗体は、培養された連続継代細胞系により抗体分子を生産させる技術を用いることによって製造できる。これらは、制限されないが、例えばKohlerおよびMilsteinにより元来記載されたハイブリドーマ技術(1975, Nature 256:495-497)、およびより最近のヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら、1983、Immunol Today 4:72)、EBVハイブリドーマ技術(Coleら、1985、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp.77-96)およびトリオーマ技術である。本発明において有用なモノクローナル抗体を効果的に得ることができる他の方法は、例えばファージディスプレイ技術(Marksら、1992、J.Biol.Chem.:16007-16010)である。
【0063】
一つの実施態様では、対象となる方法で適用される抗体製造は、ハイブリドーマ細胞系によって産生されるモノクローナル抗体である。ハイブリドーマ融合技術は、KohlerおよびMilsteinによって初めて導入された(Kohlerら、1975、Nature 256:495-97; Brownら、1981、J. Immunol. 127:539-46; Brownら、1980、J. Biol. Chem. 255:4980-83; Yehら、1976、PNAS 76:2927-31: およびYehら、1982、Int. J. Cancer 29:269-75)。このように本発明のモノクローナル抗体組成物は、リン酸化された形のトロポニンIで動物を免疫することによって製造することができる。免疫化は一般に、該タンパク質を免疫適格哺乳動物に免疫学的有効量、すなわち免疫応答をもたらすのに十分な量で施すことによって達成される。好ましくは、哺乳動物はウサギまたは齧歯類、例えばラットまたはマウスである。次いで哺乳動物を、翻訳後修飾タンパク質と免疫反応する抗体分子を分泌する細胞を該哺乳動物が産生するのに十分な期間にわたり保持する。かかる免疫反応は、こうして産生された抗体分子を免疫原タンパク質の調製物との免疫反応についてスクリーニングすることによって検出される。選択的に、アッセイにおいて抗体分子により検出されるべき形のタンパク質調製物を用いて、抗体分子をスクリーニングすることが望まれることがある。これらのスクリーニング法は当業者によく知られており、例えばELISA、フローサイトメトリーおよび/またはSpectral Diagnostics Inc(トロント、カナダ)によるディップスティック(Dipstick)である。
【0064】
次いで所望の抗体を分泌するそれぞれの免疫化された哺乳動物から分離された抗体産生細胞の懸濁液を調製する。十分な時間後に、そのマウスを屠殺し、そして体内の抗体産生リンパ球を得る。抗体産生細胞を、初回抗原刺激を受けた動物のリンパ節、脾臓および末梢血から採取してよい。脾臓細胞が好ましく、そしてこの分野でよく知られた方法を用いて生理学的に認容性の媒体中で個々の細胞に機械的に分離してよい。マウスのリンパ球から、以下に記載するマウス骨髄腫との安定的な融合がより高い割合で得られる。所望の免疫グロブリンをコードする脾臓細胞染色体を、一般に融合剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)の存在下に脾臓細胞と骨髄腫細胞とを融合させることによって不死化させる。任意の数の骨髄腫細胞系、例えばP3-NS1/1-Ag4-1、P3-x63-Ag8.653またはSp2/O-Ag14骨髄腫細胞を標準的技術による融合相手として使用してよい。これらの骨髄腫細胞系は、米国微生物系統保存機関(The American Type Culture Collection)(ATCC)(マナッサス、ヴァージニア)から入手できる。
【0065】
次に得られた細胞、例えば所望のハイブリドーマを、融合されていない親世代の骨髄腫細胞またはリンパ球が最終的には死に至る選択培地、例えばHAT培地中で増殖させる。ハイブリドーマ細胞だけが生存し、そして限界希釈条件下に増殖でき、単離されたクローンを得ることができる。ハイブリドーマの上清を、所望の特異性の抗体の存在について、例えば免疫化のために使用された抗原を用いるイムノアッセイ技術によってスクリーニングする。次に陽性クローンを、限界希釈条件下にサブクローニングし、そして産生されたモノクローナル抗体を単離できる。モノクローナル抗体の単離および精製について、これらの抗体からタンパク質および他の不純物を除去するために種々の慣用の方法が存在する。モノクローナル抗体を精製するために通常使用される方法には、硫酸アンモニウム沈殿、イオン交換クロマトグラフィーおよび親和性クロマトグラフィーがある(例えばZolaら、1982、Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques And Applications, Hurell (編集)、CRC社出版、pp.51-52を参照のこと)。これらの方法にしたがって作成されたハイブリドーマは、インビトロまたはインビボで(腹水中で)この分野で公知の技術を用いて増殖させることができる。
【0066】
本発明で使用するのに適したモノクローナル抗体またはそのフラグメント(すなわちこれらは天然トロポニンIおよび/またはリン酸化された形のトロポニンIを識別し、そして特異的に結合する)は、また、組み換えDNA技術における当業者によく知られた他の方法によって製造することもできる。かかる代替法は、特定の抗原特異性を有する抗体および抗体フラグメントを同定しかつ単離する「コンビナトリアル抗体ディスプレー」であり、該方法を用いてモノクローナル抗翻訳後修飾タンパク質抗体を製造できる(コンビナトリアル抗体ディスプレーの説明については、例えばSastryら、1989、PNAS 86:5728; Huseら、1989、Science 246:1275; およびOrlandiら、1989、PNAS 86:3833を参照のこと)。前記の翻訳後修飾タンパク質についての抗原で動物を免疫化した後に、得られたB細胞プールの抗体レパートリーをクローニングする。オリゴマープライマーの混合物とPCRを用いることにより、免疫グロブリン分子の多様な集団の可変領域のDNA配列を直接得るための方法は一般的に知られている。例えば5'リーダー(シグナルペプチド)配列および/または枠組み1(FR1)配列に相当する混合オリゴヌクレオチドプライマー並びに保存された3'不変領域プライマーに相当するプライマーを多数のマウス抗体からの重鎖および軽鎖のPCR増幅のために使用できる(Larrickら、1991、Biotechniques 11:152-156)。同様のストラテジーを使用しても、ヒト抗体由来のヒト重鎖および軽鎖の可変領域を増幅させることができる(Larrickら、1991、Methods:Companion to Methods in Enzymology 2:106-110)。
【0067】
免疫化により誘導された抗体レパートリーからクローニングされたV遺伝子ライブラリーを、好ましくは繊維状ファージから得られるディスプレーパッケージの集団によって発現させて、抗体ディスプレーライブラリーを作成できる。理想的には、該ディスプレーライブラリーは、非常に大規模な変化に富む抗体ディスプレーライブラリーの試料採取、それぞれの親和性分離経路の後の迅速な選別並びに純化されたディスプレーパッケージからの抗体遺伝子の容易な単離を可能にする系を含む。ファージディスプレーライブラリーを作成するための市販のキット(例えばファルマシア組換えファージ抗体システム(Pharmacia Recombinant Phage Antibody System)、カタログ番号27-9400-01、およびストラタジーンSurfZAP(商標)ファージディスプレーキット、カタログ番号240612)の他に、変化に富んだ抗翻訳後修飾タンパク質産物抗体のディスプレーライブラリーを作成するのに使用するために変更可能な方法および試薬の例は、例えばLadnerら、米国特許第5,223,409号;Kangら、国際公開番号WO92/18619号;Dowerら、国際公開番号WO91/17271号;Winterら、国際公開番号WO92/20791号;Marklandら、国際公開番号WO92/15679号;Breitlingら、国際公開WO93/01288号;McCaffertyら、国際公開番号WO92/01047号;Garrardら、国際公開番号WO92/09690号; Ladnerら、国際公開番号WO90/02809号; Fuchsら、1991、Bio/Technology 9:1370-1372; Hayら、1992、Hum Antibod Hybridomas 3:81-85; Huseら、1989、Science 246:1275-1281; Griffithsら、1993、EMB0 J 12:725-734; Hawkinsら、1992、J Mol Biol 226:889-896; Clacksonら、1991、Nature 352:624-628; Gramら、1992、PNAS 89:3576-3580; Garradら、1991、Bio/Technology 9:1373-1377; Hoogenboomら、1991、Nuc Acid Res 19:4133-4137; およびBarbasら、1991、PNAS 88:7978-7982に見出すことができる。
【0068】
また本発明のキットは、標準物としてリン酸化されたトロポニンIタンパク質を含んでいてよい。好ましい実施態様では、該標準物はαまたはβリン酸化された形のトロポニンIを含む。最も好ましいものは、αまたはβリン酸化された形のトロポニンIを2つの別個の標準物として含有するキットである。
【0069】
好ましい実施態様では、1種または複数種の抗体および/または標準物は標識されており、そして該キットは更にその標識を検出するのに適した試薬を含む。
【0070】
本願で使用される場合に、「標識」という用語は、例えば抗体とタンパク質または標準物の間で形成される複合体に直接または間接的に結合しうるので、複合体を検出できる任意の可観測のまたは測定可能な成分であると意図している。
【0071】
例えば標識は、その本来の状態でも裸眼で容易に可視的であるか、または光学フィルタおよび/または刺激の適用、例えばUV光を適用することで蛍光を促して容易に可視的である直接的な標識であってよい。本発明により使用できる着色標識の例は、例えば金属ゾル粒子、例えばLeuvering(米国特許第4,313,734号)によって記載の金ゾル粒子;色素ゾル粒子、例えばGribnauら(米国特許第4,373,932号)およびMayら(WO88/08534号)により記載;着色ラテックス、例えば前記のMay, Snyder(EP-A)280559号および同第0281327号);またはCampbellら(米国特許第4,703,017号)に記載されるリポソーム中に封入された色素である。他の直接的な標識は、例えば放射性ヌクレオチド、蛍光成分または発光成分である。これらの直接的な標識機構の他に、酵素を含む間接的な標識も本発明によれば使用できる。種々の型の酵素結合イムノアッセイはこの分野でよく知られており、その酵素は例えばアルカリ性ホスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、リゾチーム、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼおよびウレアーゼである。これらのイムノアッセイおよび他のアッセイは、Engvallら、1980、Enzyme Immunoassay ELISA and EMIT, Methods in Enzymology, 70:419-439および米国特許第4,857,453号で議論されている。
【0072】
この開示を読めば当業者であれば理解するであろうが、前記のアッセイおよびキットは当業者により、抗体よりむしろアプタマーを利用して慣例どおり適合させることができる。アプタマーは、並はずれた親和性および特異性をもって、抗体と同様に標的分子に結合できる単鎖DNA分子である。アプタマーは、業者、例えばSomaLogic社(ボールダー、コロラド)をとおして商業的に入手可能である。
【0073】
かかるキットおよび方法は、筋損傷で生ずるトロポニンIのリン酸化状態における変化を監視するのに有用である。
【0074】
本発明を更に以下の実施例により詳説するが、これは更なる限定として解釈されるべきではない。本願全体にわたって引用された全ての参考文献、継続中の特許明細書および公開された特許の内容は、この開示により明確に参照に含まれる。
【0075】
実施例
実施例1:外科的調製
雄のスプラグ−ドーレイラット(200〜250グラム)を無作為に、擬似群(擬似EDL)または低流量虚血/再潅流群(I/R EDL)に割り当てた。これらのラットをペントバルビタールナトリウム(35 mg/kg)の腹腔内注入で麻酔し、該動物が指球の不快な刺激に活発な応答を示した場合には追加した(初期用量の10%)。EDLをNishioおよびJeejeebhoy(1991, J.Appl. Physiol. 88:753-760)によって記載されるように準備した。この手法では、1後肢において、座骨神経を刺激のために準備し、大腿動脈を露出させ、そしてEDLの腱をその肢の他の腱から引き離し切断した。上部大腿骨から周囲組織を除去し、それをクランプ中に固定し、そして前記腱を結紮糸を介して繋ぎ留め、それをマイクロマニピュレータ中に保持された力変換器に括り付けた。脚部のEDLを除く全ての露出された組織をワセリンおよびプラスチックフィルムで覆い、乾燥を防止し、そして保温した。露出されたEDLを、38℃に加温されたリンガー液を絶えず滴加することで湿潤状態に保った。単収縮の誘発のための電気的閾値(T)を測定した後に、次いでEDLの最適な長さを単独の最大上(10×T)衝撃を用いて測定した。
【0076】
実施例2:プロトコール
最適な筋肉長を測定した後に、その肢を15分間平衡化させた。大腿動脈だけを90分間クランプで留めることによって血流を低下させた。収縮力−周波数曲線(10、20、30、40、50、60および100Hzで330ミリ秒の操作)を低流量虚血の前、その終了直後、および再潅流(回復)の30分後に得た。EDLを回収し、そして骨格筋の筋原線維の調製のために直ちに使用した。
【0077】
実施例3:筋原線維の精製
骨格筋の筋原線維を、ラットEDL組織から4℃においてPaganiおよびSolaro(1984 Am. J. Physiol. 247:H909-H915)によって記載されるように単離した。筋原線維の精製およびATPアーゼアッセイで使用される全ての溶液は、プロテアーゼインヒビターカクテル(100μMのフェニルメチルスルホニルフルオリド、6μMのロイペプチド、5μMのペプスタチンAおよび1μMのアプロチニン)を含有しており、そしてHPLC純度の水で製造した。EDLをK60(1Mのイミダゾール(pH7.0)、1MのKClおよび2.5MのMgCl2)+0.1MのEGTA中で均質化させ、引き続き10分間遠心分離(12000 g)を行った。そのペレットをK60+1%(v/v)のトライトンX-100中に再懸濁させ、10分間平衡化させ、次いで遠心分離(15000 gで10分間)した。そのペレットをK60バッファー中に再懸濁させ、そして遠心分離(12000g)した。これを三回繰り返して、全ての微量のトライトンを除去した。新たに調製された筋原線維を、1)筋原線維ATPアーゼアッセイのため、2)ローリー法を用いるタンパク質濃度測定のため、および3)後続の2次元ゲル電気泳動のために-70℃で貯蔵するための、3つのアリコートに分けた。
【0078】
実施例4:筋原線維ATPアーゼアッセイ
全てのアッセイは組織回収の6時間以内に完了させた。単離された筋原線維のCa2+依存性Mg2+-ATPアーゼ活性を、70μlの筋原線維(1Mのイミダゾール中0.3〜0.5mg/mlの筋原線維タンパク質、pH7.0)、1MのKClおよび7.5 MのMgCl2および10μlのカルシウム溶液(pCa8から4.875までの様々な[Ca2+])を含有する100μlの反応混合物中で実施した。反応混合物を30℃で5分間プレインキュベーションし、そして反応を20μlの7 mMのNa2ATPを添加することにより開始させた。反応を10分後に終結させた。無機リン酸塩放出を、CarterおよびKarlの方法(1982 J. Biochem. Biophys. Methods 7:7-13)を用いて測定した。10%未満のATPが反応の過程で加水分解された。ブランク対照(ATP無し)のリン酸塩含量と各値との差をとり、標準リン酸塩曲線と比較した。
【0079】
実施例5:2次元ゲル電気泳動(2-DE)
筋原線維を2% SDS、8Mの尿素、50 mMのNaCl(強い分子間および分子内の相互作用の崩壊を促進するため)および実施例3に記載したプロテアーゼインヒビターカクテル中に均質化させた。等電点電気泳動(IEF)をProtean IEF cell(バイオラド)を用いて製造元のプロトコールにしたがって実施した。均質化された筋原線維(約2μg)を再水化バッファー(8Mの尿素、2.5Mのチオ尿素、2%(w/v)のCHAPS、0.5%(v/v)の両性電解質(pH4.5〜5.5またはpH7〜10のいずれか)、50 mMのジチオトレイトール(DTT)および0.01%(w/v)ブロモフェノールブルー)中で希釈した。固定化pH勾配(IPG)Ready Strip(大きい17vcmのストリップ、pH4.5〜5.5の線形勾配、ファルマシアまたは小さな7cmのストリップ、pH7〜10.0の線形勾配、バイオラド)を意欲的に50Vで10時間再水化させ、次いで高速電圧傾斜法(rapid-voltage ramp method)を用いて以下の条件にした:20℃において、100Vで5分間、500Vで5分間、1000Vで5分間および4000Vに25kVhで(小さいストリップ)または8000Vに65kVhで(大きいストリップ)。IPGストリップを、10 mg/mlのDTTが加えられた平衡化バッファー(50 mMのTris-HCl、pH8.8、6Mの尿素、30%(v/v)のグリセロール、2%(w/v)のSDS)中で15分間インキュベートし、引き続き25 mg/mlのヨードアセトアミドが加えられた平衡化バッファー中で更に15分間インキュベートした。調製されたIEFストリップを、5%のアクリルアミドスタッキングゲル中に埋封し、12%のSDS-PAGEにより、Protean II XLシステム(大きなストリップ)(バイオラド)またはProtean IIIシステム(小さなストリップ)(バイオラド)のいずれかを用いて解析した。電気泳動は、最前の色素がゲルの底部1cm以内になるまで50Vで実施した。
【0080】
実施例6:大きな(17cm)2-DEゲルの銀染色
ゲルを、引き続きの質量分光法によるタンパク質分析との適合性のためにShevchenkoら(1996, Anal. Chem. 68:850-858)のプロトコールにしたがって銀染色した。ゲルを50%v/vのメタノール、5%(v/v)の酢酸中で1時間固定し、引き続き50%(v/v)のメタノール中で10分間固定し、次いで脱イオン蒸留水(ddH2O)中で10分間2回固定した。ゲルを0.02%(w/v)のチオ硫酸ナトリウム中で1分間増感させ、引き続きddH2Oで1分間の洗浄を2回行った。次いでタンパク質を現像溶液(2%(w/v)の炭酸ナトリウム、0.04%(v/v)のホルマリン)で可視化させ、そして進行を5%(v/v)の酢酸で停止させた。
【0081】
実施例7:タンパク質転写とウェスタンブロット
小さい2-DEゲルを、10 mMのCAPSバッファー(pH11)中で10分間2回洗浄することで平衡化させ、次いで同じバッファー中で100Vにおいて45分間ニトロセルロースに転写させた。ニトロセルロース膜を、1%(v/v)ブロッキング溶液(ロッシュ・ディアグノスティクス)中で1時間インキュベートした。ニトロセルロース膜を引き続きリン酸緩衝生理食塩水/Tween20(PBS-T)(137 mMのNaCl、2.7 mMのKCl、10.1 mMのNa2HPO4、1.8 mMのKH2PO4および0.1%(v/v)のTween20)で5分間2回洗浄した。速筋型の骨格筋トロポニンIの検出を、抗トロポニンIモノクローナル抗体クローンFI-32、3I-35、8I-7(スペクトラル・ディアグノスティクス)およびポリクローナル抗体クローンsc-8120(サンタクルズ・バイオテクノロジー社)を用いて行った。ニトロセルロース膜を一次抗体(1μg/ml)と一緒に、1%(v/v)のブロッキング溶液を含有するPBS-T(137 mMのNaCl、2.7 mMのKCl、10.1のNa2HPO4、1.8 mMのKH2PO4および0.1%(v/v)のTween20)中で1時間インキュベートし、引き続きPBS-Tで5分間3回洗浄した。タンパク質をImmunoStar化学発光(バイオラド、膜はコダックX-Omat blue XB-1フィルム(パーキンエルマーライフサイエンス社)に曝す)を用いて検出した。デスミンおよびトロポニンTについてのウェスタンブロットは、前記のようにmAb DE-U-10(シグマ)およびJLT-12(シグマ)のそれぞれを用いて行った。
【0082】
実施例8:銀染色された2-DEゲルの画像解析
ゲルを、PowerLook IIスキャナ(ユーマックス・データ・システムズ社)を用いてSunウルトラコンピュータ(サンマイクロシステムズ社)で150 dpiの解像度でディジタル化した。タンパク質スポットを配置させ、そして該スポットをInvestigator HT プロテオームアナライザ1.0.1(Investigator HT Proteome Analyzer)ソフトウェア(Genomic Solutions社)を用いて他のゲル上のスポットに合致させた。ゲルを規準化させ、タンパク質負荷および銀染色の程度における差異を補った。コンピュータにより得られた合成画像を4つの実在のゲルから作成し、擬似EDLおよびI/R EDLからの筋原線維タンパク質を比較するために仮想的な2-DEを提供した。
【0083】
実施例9:2-DEウェスタンブロットのボリュームチャートの画像解析
速筋型の骨格筋トロポニンIの2-DEウェスタンブロットを比較するために、露出量を走査し(実施例6を参照)、そして3次元ボリューム(密度)チャートを作成した。線形範囲の上限10%以内のウェスタンブロット露出量を分析に使用した。
【0084】
実施例10:脱リン酸化
タンパク質ホスファターゼ−1(1μl;10U)(シグマ)を、10μlの反応バッファー(100 mMのNaCl、1 mMのDTT、10 mMのMgCl2および50 mMのTris-HCl、pH7.9)および2μgの均質化された筋原線維に37℃で1時間添加した。反応を、240μlのIPGバッファーを添加することで終結させた。次いで試料を実施例6に記載と同様に2-DEによって分析した。
【0085】
実施例11:横隔膜疲労のインビボモデル
体重300〜460gのラット(n=11、スプラグ・ドーレイ、チャールズリバー、モントリオール、ケベック)を、ナトリウムペントバルビタール(65 mg/kg腹腔内、必要であれば足の反射運動を抑えるために0.8〜1.6 mgを静脈内で追加する)で麻酔した。硫酸アトロピン(0.05 mg/kg、皮下)を投与し、気管分泌物を低減させた。外科手術水準の麻酔に至ったら、そのラットを温熱パッド(Fine Science Tolls、ノースバンクーバー、ブリティッシュコロンビア)上に仰向けに置き、そして熱量検出器を直腸に挿入し、尾に固定した:体温を約37.5℃に保持した。
【0086】
頸部正中線で切開を施し、そして皮膚を牽引した(Small Animal Retraction System, Fine Science Tolls、北バンクーバー、ブリティッシュコロンビア)。左右両方の胸骨舌骨筋を隔離し、そして切除した。右側頸動脈(血圧測定および動脈血ガスの採取のため、Radiometer ABL-3、コペンハーゲン、デンマーク)および頸静脈にカニューレ挿入を行い、そして気管カニューレを挿入した。気管内圧(Ptr;Gould Statham PM5E, ハトレイ、プエルトリコ)をこのカニューレの一方のポートから記録した。
【0087】
左側の横隔神経を長時間にわたる永続的な記録を保証するために以下のように調製した。該神経から周囲組織を分離した後に、3×25 mm片のパラフィルムをその神経の下に配置した。ガラスフックを用いて、その神経を銀製の小さなバイポーラフック電極(電極間距離 約1.5mm)上に引き上げた。硬化した低融点パラフィン蝋の小片を、付加的な絶縁のために神経とパラフィルムの間に配置した。神経/電極/配線の集成物の移動を最小限にするために、配線を皮膚に縫合した。最後に、液状の低融点蝋を神経/電極の集成物の全体にわたってピペットで分注した。接地線を次いで頸部の筋肉に取り付けた。横隔神経活動を増幅させ、濾波(100〜10,000Hz、Grass P-511、クインシー、マサチューセッツ)し、そして積分した(Paynter filter、時定数50ミリ秒)。
【0088】
横隔膜内外圧差(Pdi)を記録するために、温水(約3 ml)をまず経口カテーテルを介して胃に注入した。下部切歯上にゴム管を配置した後に、圧変換器(Millar SPR 524、ヒューストン、テキサス)の先端を胃の中に進め、吸気の間の実際的な振れにより示され、またはどの時点で上腹部に僅かな圧力がかかったかが示されるようにした。次に第二の圧変換器の先端を、心臓性の偽信号を含まない最大の振れが得られる食道中に配置した。腹圧(Pab)および食道内圧(Pes)の差はPdiである。
【0089】
全ての信号(血圧、積分された横隔膜活動(Phr)、および気管内圧Ptr、Pes、PabおよびPdiをコンピュータを用いて取得した(CED Spike 2、ケンブリッジ、UK)。収集頻度は、積分された横隔膜信号については200/秒であり、そして他のものについては100/秒であった。
【0090】
負荷プロトコールは以下のように実施した。二方弁(Hans Rudolfシリーズ2300、カンザスシティ、ミズーリ)を、気管カニューレの一方のポートに取り付け、約4 cm長のゴム管の断片を吸気側に取り付けた。回路内での呼吸15分後に、血液試料を採取した。開始前に、対照血液ガスはPaO2>65 mmHgであった。それというのも予備試験では、ラットはより低いPaO2sで吸入負荷(IRL)に対して効果的に呼吸しそうもないことが指示されているからである。この値に達した後に、呼吸導管を30秒間塞いだ。呼吸力を塞いでいる間に得られるピークPtrの50〜60%のPtrを、引き続きその閉塞の約15分後に施されるIRLのために使用した。
【0091】
IRLは、呼吸導管をクランプで締めることによって行った。初期実験によりIRLを課すのが急すぎるとしばしば呼吸停止がもたらされることが示されたので、閉塞は約15分にわたって施した。
【図面の簡単な説明】
【0092】
ここで本発明の実施態様を、付随する図面を用いて例として説明する:
【図1】低流量虚血前(対照、黒塗りの丸)、90分間の低流量虚血の直後(I/R EDL、黒塗りの四角)および再潅流の30分後(黒塗りの三角)に得られたラットの長指伸筋(EDL)の規準化された収縮力−周波数曲線の比較を提供する。10、20、30、40、50、60および100Hzの周波数を座骨神経に印加した。値(±SEM)を100Hzでのその値、つまり対照に規準化した。90分と90+30分での曲線は違わないが、両者とも対照とは大きく異なる(P<0.01、各周波数での繰り返し測定ANOVA)。擬似とI/R EDLについてのコントロールカーブは、全ての周波数で同一であった。
【図2】擬似(黒塗りの丸)およびI/R EDL(黒塗りの三角)からの単離された骨格筋原線維についてのATPアーゼ活性とpCaとの関連を示している。I/R EDLの筋原線維についての曲線は擬似のものとは大きく異なる(平均±SEM、n=4、p<0.05、スチューデントの両側t検定)。
【図3A】図3Aは、代表的なI/R EDLの筋原線維の4種の銀染色された2次元ゲル(pH4.5〜5.5)(左)とコンピュータ生成されたそれらの合成(右)を提供する。示されるデータは4つの実験の平均である。SDS-PAGEの分子量標準の位置は、合成の左方に示している。
【図3B】図3Bは、代表的な擬似EDLの筋原線維の4種の銀染色された2次元ゲル(pH4.5〜5.5)(左)とコンピュータ生成されたそれらの合成(右)を提供する。示されるデータは4つの実験の平均である。SDS-PAGEの分子量標準の位置は合成の左方に示している。
【図4】速筋型の骨格筋トロポニンIについての擬似EDL(図4A)およびI/R EDL(図4B)からの2次元ゲルのmAb FI-32を用いたウェスタンブロットを示す。
【図5】3種のモノクローナル抗体、FI-32(図5A)、3I-35(図5B)および8I-7(図5C)を用いて、速筋型の骨格筋トロポニンIについてプロービングされた擬似EDLおよびI/R EDL筋原線維の2次元ウェスタンブロットの拡大図を示す。
【図6】速筋型の骨格筋トロポニンIのαリン酸化または一リン酸化された形(上方)およびβリン酸化または二リン酸化された形(下方)の図を示す。2種のモノクローナル抗体、mAb 8I-7およびmAb 3I-35のエピトープは、塗りつぶし領域として、同定されたリン酸化可能なセリン残基(*)と一緒に示されている。セリン117およびセリン168のリン酸化は、それぞれmAb8I-7とmAb3I-35の親和性に影響を及ぼす。
【図7】重度の慢性閉塞性肺疾患を伴う患者から得られたヒト横隔膜組織、横隔膜疲労(中枢疲労と対称的なものとして)から機能障害が生じるまで吸入負荷(IRL)呼吸する麻酔された自発呼吸ラットからのラット横隔膜組織並びに擬似(対照)ラットからのラット横隔膜における翻訳後修飾速筋型の骨格筋トロポニンIを比較しているウェスタンブロットを示す。
【図8】種々の哺乳動物由来のトロポニンIのアイソフォームにおけるリン酸化についての保存されたセリン部位の比較を示す。ヒヨコ由来(スイスプロットP02644;全長は配列番号3に示す、断片は配列番号17に示す)、マウス由来(スイスプロットP13412、;全長は配列番号4に示す、断片は配列番号18に示す)、ヒト由来(スイスプロットP48788;全長は配列番号5に示す、断片は配列番号19に示す)、ラット由来(スイスプロットP27768;全長は配列番号1に示す、断片は配列番号15に示す)およびウサギ由来(スイスプロットP02643;全長は配列番号6に示す、断片は配列番号20に示す)の速筋型の骨格筋トロポニンI、ヒト由来(スイスプロットP19237;全長は配列番号7に示す、断片は配列番号21に示す)、ラット由来(スイスプロットP13413;全長は配列番号8に示す、断片は配列番号22に示す)およびウサギ由来(スイスプロットP02645;全長は配列番号9に示す、断片は配列番号23に示す)の遅筋型の骨格筋トロポニンI並びにヒト由来(スイスプロットP19429;全長は配列番号10に示す、断片は配列番号24に示す)、ウサギ由来(スイスプロットP02646;全長は配列番号11に示す、断片は配列番号25に示す)、ラット由来(スイスプロットP23693;全長は配列番号2に示す、断片は配列番号16に示す)、ヒヨコ由来(スイスプロットP27673;全長は配列番号12に示す、断片は配列番号26に示す)およびウシ由来(スイスプロットPP08057;全長は配列番号13に示す、断片は配列番号27に示す)の心筋トロポニンIについてのC末端領域のアミノ酸配列の比較を示す。またヒヨコ由来(スイスプロットP02644;全長は配列番号3に示す、断片は配列番号30に示す)、マウス由来(スイスプロットP13412;全長は配列番号4に示す、断片は配列番号31に示す)、ヒト由来(スイスプロットP48788;全長は配列番号5に示す、断片は配列番号32に示す)、ラット由来(スイスプロットP27768;全長は配列番号1に示す、断片は配列番号28に示す)およびウサギ由来(スイスプロットP02643;全長は配列番号6に示す、断片は配列番号33に示す)の速筋型の骨格筋トロポニンI、ヒト由来(スイスプロットP19237;全長は配列番号7に示す、断片は配列番号34に示す)、ウサギ由来(スイスプロットP02645;全長は配列番号9に示す、断片は配列番号36に示す)およびラット由来(スイスプロットP13413;全長は配列番号8に示す、断片は配列番号35に示す)の遅筋型の骨格筋トロポニンI並びにヒト由来(スイスプロットP19429;全長は配列番号10に示す、断片は配列番号37に示す)、マウス由来(スイスプロット48787;全長は配列番号14に示す、断片は配列番号40に示す)、ウサギ由来(スイスプロットP02646;全長は配列番号11に示す、断片は配列番号38に示す)、ラット由来(スイスプロットP23693;全長は配列番号2に示す、断片は配列番号29に示す)およびウシ由来(スイスプロットP08057;全長は配列番号13に示す、断片は配列番号39に示す)の心筋トロポニンIについての最小阻害領域とその付近のアミノ酸のアミノ酸配列の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C末端でまたは最小阻害領域に隣接してリン酸化されたトロポニンIタンパク質を含む、単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項2】
トロポニンIが、C末端で、および最小阻害領域に隣接してリン酸化されている、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項3】
トロポニンIが、セリン117またはセリン168でリン酸化された速筋型の骨格筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項4】
トロポニンIが、セリン117およびセリン168でリン酸化された速筋型の骨格筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項5】
トロポニンIが、セリン198でリン酸化されたヒトの心筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項6】
トロポニンIが、セリン149およびセリン198でリン酸化されたヒトの心筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項7】
トロポニンIがセリン150またはセリン199でリン酸化されたラットの心筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項8】
トロポニンIが、セリン150およびセリン199でリン酸化されたラットの心筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項9】
トロポニンIが、セリン118またはセリン168でリン酸化された遅筋型の骨格筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項10】
トロポニンIが、セリン118およびセリン168でリン酸化された遅筋型の骨格筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項11】
試料中で天然トロポニンIおよびリン酸化されたトロポニンIを検出する方法であって、試料を、天然トロポニンIおよび請求項1記載のリン酸化されたトロポニンIに結合する化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項12】
化合物が、抗体mAb FI-32である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
試料中で天然トロポニンIとリン酸化されたトロポニンIとを識別する方法であって、試料を、天然トロポニンIに結合するが、請求項1記載のリン酸化されたトロポニンIには結合しない化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項14】
化合物が、mAb 8I-7である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
天然トロポニンIとリン酸化されたトロポニンIとを識別するためのキットであって、
(a)天然トロポニンIおよび請求項1記載のリン酸化されたトロポニンIに結合する化合物;および
(b)天然トロポニンIに結合するが、請求項1記載のリン酸化されたトロポニンIには結合しない化合物
を含むキット。
【請求項16】
(a)の化合物が、抗体mAb FI-32である、請求項15記載のキット。
【請求項17】
(b)の化合物が、抗体mAb 8I-7である、請求項15記載のキット。
【請求項18】
請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質に選択的に結合する抗体。
【請求項19】
請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質に選択的に結合するアプタマー。
【請求項20】
被検体において骨格筋および心筋の損傷を診断または監視する方法であって、被検体から得られた生物学的試料において請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質のリン酸化状態を測定する工程を含む方法。
【請求項21】
被検体における筋損傷のための療法の効果を評価するための方法であって、
(a)被検体から得られた第一の生物学的試料において請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質のリン酸化状態を測定する工程;
(b)被検体にその療法を施す工程;および
(c)前記療法の施与後に被検体から得られた第二の生物学的試料において請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質のリン酸化状態を測定する工程;および
(d)工程(a)で測定されたリン酸化状態と工程(b)で測定されたリン酸化状態とを比較して、該療法の効果の指標となるリン酸化状態の変化を同定する工程
を含む方法。
【請求項22】
被検体における訓練の程度および/または投薬の強化の最適化を評価するための方法であって、訓練または投薬の強化を行っている間に、これらの被検体において請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質であるトロポニンIのリン酸化状態を監視する工程を含む方法。
【請求項23】
請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質のリン酸化状態を変化させるホスファターゼまたはキナーゼを標的とする薬剤を含有する組成物。
【請求項24】
ホスファターゼが、タンパク質ホスファターゼIである、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
キナーゼが、p21活性化キナーゼである、請求項23記載の組成物。
【請求項26】
被検体におけるトロポニンIのリン酸化状態を調節するための方法であって、請求項23記載の組成物を被検体に投与する工程を含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C末端でまたは最小阻害領域に隣接してインビボでリン酸化された骨格トロポニンIタンパク質を含む、単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項2】
トロポニンIが、C末端で、および最小阻害領域に隣接してリン酸化されている、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項3】
トロポニンIが、セリン117またはセリン168でリン酸化された速筋型の骨格筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項4】
トロポニンIが、セリン117およびセリン168でリン酸化された速筋型の骨格筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項5】
トロポニンIが、セリン198でリン酸化されたヒトの心筋トロポニンIを含む単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項6】
トロポニンIが、セリン149およびセリン198でリン酸化されたヒトの心筋トロポニンIを含む単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項7】
トロポニンIがセリン150またはセリン199でリン酸化されたラットの心筋トロポニンIを含む単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項8】
トロポニンIが、セリン150およびセリン199でリン酸化されたラットの心筋トロポニンIを含む単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項9】
トロポニンIが、セリン118またはセリン168でリン酸化された遅筋型の骨格筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項10】
トロポニンIが、セリン118およびセリン168でリン酸化された遅筋型の骨格筋トロポニンIである、請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質。
【請求項11】
試料中で天然トロポニンIおよびリン酸化されたトロポニンIを検出する方法であって、試料を、天然トロポニンIおよび請求項1記載のリン酸化されたトロポニンIに結合する化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項12】
化合物が、抗体mAb FI-32である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
試料中で天然トロポニンIとリン酸化されたトロポニンIとを識別する方法であって、試料を、天然トロポニンIに結合するが、請求項1記載のリン酸化されたトロポニンIには結合しない化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項14】
化合物が、抗体mAb 8I-7である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
天然トロポニンIとリン酸化されたトロポニンIとを識別するためのキットであって、
(a)天然トロポニンIおよび請求項1記載のリン酸化されたトロポニンIに結合する化合物;および
(b)天然トロポニンIに結合するが、請求項1記載のリン酸化されたトロポニンIには結合しない化合物
を含むキット。
【請求項16】
(a)の化合物が、抗体mAb FI-32である、請求項15記載のキット。
【請求項17】
(b)の化合物が、抗体mAb 8I-7である、請求項15記載のキット。
【請求項18】
請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質に選択的に結合する抗体。
【請求項19】
請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質に選択的に結合するアプタマー。
【請求項20】
被検体において骨格筋および心筋の損傷を診断または監視する方法であって、被検体から得られた生物学的試料において請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質のリン酸化状態を測定する工程を含む方法。
【請求項21】
被検体における筋損傷のための療法の効果を評価するための方法であって、
(a)被検体から得られた第一の生物学的試料において請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質のリン酸化状態を測定する工程;
(b)被検体にその療法を施す工程;
(c)前記療法の施与後に被検体から得られた第二の生物学的試料において請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質のリン酸化状態を測定する工程;および
(d)工程(a)で測定されたリン酸化状態と工程(b)で測定されたリン酸化状態とを比較して、該療法の効果の指標となるリン酸化状態の変化を同定する工程
を含む方法。
【請求項22】
被検体における訓練の程度および/または投薬の強化の最適化を評価するための方法であって、訓練または投薬の強化を行っている間に、被検体において請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質のリン酸化状態を監視する工程を含む方法。
【請求項23】
請求項1記載の単離された翻訳後修飾筋フィラメントタンパク質のリン酸化状態を変化させるホスファターゼまたはキナーゼを標的とする薬剤を含有する組成物。
【請求項24】
ホスファターゼが、タンパク質ホスファターゼIである、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
キナーゼが、p21活性化キナーゼである、請求項23記載の組成物。
【請求項26】
被検体におけるトロポニンIのリン酸化状態を調節するための方法であって、請求項23記載の組成物を被検体に投与する工程を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−502203(P2006−502203A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542122(P2004−542122)
【出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【国際出願番号】PCT/CA2003/001523
【国際公開番号】WO2004/034060
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(391018835)クイーンズ ユニバーシティ アット キングストン (9)
【氏名又は名称原語表記】QUEEN’S UNIVERSITY AT KINGSTON
【Fターム(参考)】