説明

筐体、筐体の製造方法、電子機器、および電子機器の製造方法

【課題】比較的厚く、繊維層を有する皮革調などの装飾シートを電子機器などに用いる筐体の生地である金属製などの被覆成形体の面上に、真空成形ないし真空圧空成形によって貼付して筐体表面を装飾することで筐体を製造するとき、しばしば装飾シートの収縮、剥がれなどによる下地表出、立上がり部などでの皺発生、全体の反りなどが発生する。
【解決手段】繊維層の一方の面側に、発泡樹脂層、非発泡樹脂層が順に積層されていて、その繊維層の他方の面側の表面領域に、ガラス系微小粒子を含んだ合成ゴムをベースとした熱可塑性粘着剤を塗布かつ含浸させた収縮抑制接着層を形成した装飾シートを用い、これを被覆成形体である筐体の生地表面に真空成形ないし真空圧空成形で貼付することで、上記課題を解決することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体およびその製造方法、その筐体を用いた電子機器、および筐体を用いた電子機器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やPDA、ノートPCなど、特に小型の各種電子機器などを収納する筐体に対し、表面強度の向上などに加え、商品の差別化を行うため、筐体表面を二次的に装飾加工することがなされている。
【0003】
金属製、あるいは樹脂材料製などからなる、被覆対象の成形体である筐体生地の表面を、更に、二次的な加工を加えて装飾する方法には、大別して塗装法と装飾用シート等貼付法とがある。
【0004】
その一つの、いわゆる塗装法、つまり液状塗料や粉末状塗料を被塗装対象である成形体の表面に付着させる方法は、三次元形状をもつ被塗装対象の成形体の表面に種々の着色を施すことが可能である。塗料に含まれる樹脂成分や添加物の含有量を調節することにより、塗膜硬度の調整や一定程度の塗膜肌触り感の付与が可能である。
【0005】
しかし、こういった塗装法では、皮革、布、木材などの表面が有する、柔らかい、弾力性を有する、あるいは暖かいなどといった特有の風合いの表面感触を得ることは困難である。皮革や布などの風合いを電子機器用筐体の表面に与えるために、そういった材料そのもののシート、あるいは、それらに風合いを似せた、皮革調あるいは木材調のシート(装飾シート)を、接着剤などを介して貼り付ける、他の一つの装飾方法である、いわゆるシート貼付法が行われる。
【0006】
シート貼付法による装飾方法においては、被覆対象の成形体が三次元形状を持つ場合、木や皮などの材料そのもののシートは勿論のこと、それに似せた装飾シートの場合でも、コーナー部分や立上がり(立下がり)部にシートの付着を正確に追従させることが、特に美的観点から非常に重要になる。
【0007】
こうした、筐体などの被覆対象の成形体の表面に、皮革などの材料シート、あるいは皮革調などの装飾シートを貼付する方法として、以下のような方法が考えられる。
(1)手作業;皮革や布のような柔らかい素材シート(あるいは、それに似せた装飾シート)の風合いを殺すことなく被覆対象の成形体である筐体生地の表面に貼り付けることが可能である。しかし、製造品質が作業者の熟練度に影響されるとともに、生産性が低いといった問題がある。
(2)プレス加工;型を用いて機械的な圧力と接着剤で貼付させるため、作業者による品質のばらつきは解消できる。しかし、素材が押しつぶされるため、外観的にも、感触的にも柔らかい素材の風合いを失い易く、また、金型自体も高価である。
(3)真空成形(真空圧空成形);この方法は、例えば、以下の様な工程で実施する。非通気性の、例えば合成樹脂製の装飾シートで仕切られた2つの密閉された空間が形成された装置において、一方の密閉空間側に、この場合は、被覆対象の成形体である筐体を配し、両方の密閉空間を減圧真空化してから、前記装飾シートをヒーターなどで輻射加熱する。
【0008】
ここで、一方の密閉空間側から他方の密閉空間側に向かって装飾シート接着面に成形体面を押し当て、この押し当てた状態のままで、成形体を配置していない側の他方の密閉空間のみを常圧に戻す。これによって、装飾シートに均一に外圧がかかり、装飾シートを成形体生地表面に貼付させることができる。
【0009】
上記工程で、一方の密閉空間側から他方の密閉空間側に向かって装飾シート接着面に成形体を押し当てた状態といった工程を用いず、単に、一方の密閉空間側を真空にして置き、成形体を配置していない側の他方の密閉空間のみを常圧に戻すことで、装飾シートを成形体生地表面に貼付させる方法も、貼付条件によっては可能である。以上の方法を真空成形法と称する。上記において、一方の密閉空間側を真空化しておいて、他方の密閉空間のみを常圧に戻して成形体に装飾シートを貼付後、常圧から更に圧縮空気を導入などして圧空を加えて、貼付を確実なものにする方法も可能である。これを真空圧空成形法と称する。
【0010】
上記の3つの方法のうちでは、三次元形状をもつ成形体への樹脂材料のシートを用いた装飾シートの貼付法としては、生産性の点も含め、柔らかなシートを貼付したときの風合いの良好さを維持可能である点から、(3)真空成形(真空圧空成形)が、最も好適な方法と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2008/053527号公報
【特許文献2】特開2009−18548号公報
【特許文献3】特開2002−79573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の、真空圧空成形による、装飾シートの貼付工程を、図2によって説明する。図2(1)および(2)に図示した真空圧空成形装置101は、クランプ107によって本装置の壁面などに固定された装飾シート108で実質仕切られた、第1の密閉空間102(下側)と第2の密閉空間103(上側)を持つ。下側の第1の密閉空間102には、ステージ104に固定された被覆成形体106があり、この被覆成形体106表面に装飾シート108が貼付されることとなる。第1の密閉空間102(下側)と第2の密閉空間103(上側)は、それぞれにおいて、図示しない、真空排気装置に直結する排気弁、真空圧を大気圧に開放する大気圧開放弁、および圧縮空気ポンプに直結する圧縮空気導入弁を有している。また第2の密閉空間103の、装飾シート108上方には、これを輻射熱で加熱するヒーター111を有する。なお、装飾シート108は通常、装飾用のパターンなどが印刷された樹脂シートなどからなる装飾層109と、これを接着させるための粘着剤を用いた接着層110からなる。
【0013】
図2(1)において、先ず第1および第2の密閉空間102、103ともに大気中で、ステージ104上への被覆成形体106のセット、装飾シート108のクランプ107への取り付けを行い、次いで、第1および第2の密閉空間102、103ともに真空排気を実施する(真空工程)。そして、真空状態で、ヒーター111に通電して装飾シート108を加熱し、装飾シート108の接着層110を含め、装飾層109の軟化を行う。ヒーター111の通電を停止後、図示するように、第2の密閉空間103中の図示しない大気開放弁を開放して空気を導入することで、装飾シート108に、下方、第1に密閉空間102方向に圧力Pがかかり、やや下方(第1の密閉空間102方向)に膨らむ。
【0014】
次いで、図2(2)に示すように、第1の密閉空間102の図示しない駆動装置によって、ステージ104を上方(第2の密閉空間103方向)に移動Mさせ、被覆成形体106を装飾シート108の接着層110側から第2の密閉空間103方向に向けて押付ける。装飾シート108には、常圧状態の第2の密閉空間103側から圧力Pかかかっており、ここで更に、図示しない圧縮空気ポンプに直結する圧縮空気導入弁から圧縮空気を導入して、より圧力Pを上昇させる(圧空工程)。
【0015】
このとき、通気路105においても、これを通した排気が行われているため、装飾シート108と被覆成形体106表面との間に空気が閉じ込められる現象を排除することができる。
【0016】
こうすることで、被覆成形体106の表面上に装飾シート108全体が硬く貼付され、両密閉空間ともに常圧状態に戻した後、真空圧空装置から、装飾シートで装飾された被覆成形体106を取出し、所期の目的を達成する。
【0017】
このような方法での装飾シートの貼付は、三次元体である被覆成形体106のコーナー部、立上がり部などが鋭角状ではなく、また装飾シートの厚さが薄い物であったときほど、被覆成形体106の面形状に忠実な貼付が実現できる。
【0018】
しかし、シート状の樹脂織布あるいは樹脂不織布の上に、樹脂の発泡シートが形成され、更にその上に印刷パターンなどが形成された樹脂の装飾シートが積層された構造の、皮革や布などの柔らかい風合いを表現した装飾シート(これらを、皮革調装飾シートと称する)の場合、全体的に比較的厚い構造を有しており、これを被覆成形体の三次元構造に忠実に貼付することは容易ではない。
【0019】
図3に、従来の皮革調装飾シートを用いて、真空成形ないし真空圧空成形したときの形成断面図の例を模式的に示す。
【0020】
図3(1)は、典型的な従来の皮革調装飾シートの断面模式図を示す。従来の皮革調装飾シート112は、表面側から、例えば皮革調のパターンが印刷加工された、厚さ数μmのウレタン樹脂などからなる、非発泡樹脂層113、その下に、例えば皮革調の風合いや感触を持たせるための適度の厚さ・凹凸を有する、厚さ数十〜数百μmのウレタン発泡樹脂などからなる、発泡樹脂層114、その下に、例えば、更に、皮革調の感触を強調することが可能となる、適度の強さとクッション性を有する、厚さ数十〜数百μmのポリエステル樹脂繊維などからなる織布または不織布の繊維層115が積層されたシートであり、これを上記の成形法によって被覆成形体(例えば、電子機器筐体の金属や樹脂などからなる生地)の面に貼付するため、例えば、厚さ数十μmのアクリル樹脂系などの粘着剤からなる、接着層116が塗布形成される。
【0021】
図3(2)は、この従来の皮革調装飾シート112を用いて、真空成形ないし真空圧空成形したときの結果を模式的に示す、要部断面図である。この図において、ステージ104上の貼付対象である被覆成形体106の表面に、従来の皮革調装飾シート112を真空成形ないし真空圧空成形したとき、接着層116は被覆成形体106の表面に付着するが、成形時の残留応力によって、装飾シートの樹脂材料層(非発泡樹脂層113、発泡樹脂層114および繊維層115)が収縮するため、端面から被覆成形体106の表面の露出や、装飾シートの剥がれが生じ、更に被覆成形体106が特に薄い場合は、それ自体の反りなどの変形が生じる場合もある。また、特に、立上り及び立下り部・屈折部などで、装飾シートの皺の発生が見られることがしばしばある。
【0022】
そこで、本発明の解決しようとする課題は、特に、比較的厚く、また繊維層などを有する皮革調などの装飾シートを、例えば、電子機器用筐体の生地である金属や樹脂製などの被覆成形体の面上に、真空成形ないし真空圧空成形によって貼付して電子機器筐体を装飾するとき、装飾シートの収縮、剥がれ、皺、反りなどの発生が抑制された状態の筐体およびその製造方法、筐体を用いた電子機器、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の筐体は、
繊維層の一方の面側に、発泡樹脂層、非発泡樹脂層が順に積層され、かつ前記繊維層の他方の面側に含浸した収縮抑制接着層が形成された、装飾シートによって被覆された被覆成形体面を有することを特徴とする。
【0024】
また、本発明の筐体の製造方法は、
筐体の製造方法であって、
繊維層の一方の面側に、発泡樹脂層、非発泡樹脂層を順に積層し、かつ前記繊維層の他方の面側に収縮抑制接着層を形成して装飾シートを形成する工程と、
前記筐体の被覆成形体面に前記装飾シートを真空成形ないし真空圧空成形する工程と
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法により、特に、皮革調装飾シートなどを用い、これを真空圧空成形してシート貼付したとき、従来の課題であった、貼付皺や、端面の収縮・剥がれが無く、また反りの発生も無い、筐体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の装飾シートの構成とそれを用いた成形結果を説明する図
【図2】真空圧空成形法を説明の図
【図3】従来の装飾シートの構成とそれを用いた成形結果を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
(実施例および比較例の作製)
本発明による製造方法(実施例)および従来の方法による製造方法(比較例)と、それぞれの方法における使用材料、処理法を示す。
(1)共通の被覆成形体;ノートPCカバー
(マグネシウム合金製、サイズ:260×180mm)
(2)皮革調装飾シート合成樹脂材料;市販合成皮革シート
(合成樹脂製、幅サイズ:500mm、厚さ:約0.8mm)
・樹脂材の層構成
ウレタン製非発泡樹脂層:30μm厚、ウレタン製発泡樹脂層:50μm厚、
ポリエステル樹脂製織布繊維層:400μm厚、
(3)真空圧空成形装置;布施真空(株)製 NGF−0709
(4)粘着剤;
・本発明使用の熱可塑性粘着剤:合成ゴム系粘着剤(セメダイン(株)製、HM650−2、ニトリルゴム)、 溶融温度 100℃)
・比較例使用の一般的な粘着剤:アクリル系粘着剤(東亜合成(株)製、アロンタックS3452,希釈溶剤:酢酸エチル)、硬化剤用イソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)、デュラネート24A−100)
(5)使用無機微小粒子およびその混入;
・シリカ(十条ケミカル(株)製、JA−244)を各粘着剤に15wt%添加。
【0028】
熱可塑性粘着剤に混入する場合は、粘着剤を溶融させてシートに塗布するとき、シリカを混合分散させる。
(6)粘着剤の塗布による接着層の形成方法;
・本発明使用の熱可塑性粘着剤は、(微小粒子使用の場合はそれを混入後、)皮革調装飾シート合成樹脂材を約80℃に加熱しながら、ホットメルトアプリケータを用いて、これを塗布し自然乾燥。
【0029】
・織布繊維層内へ含浸処理は、炉体温度約110℃(3分間)で熱処理。
【0030】
・比較例使用のアクリル系粘着剤では、ロールコータ使用。織布繊維層内へ含浸処理時は、希釈剤の酢酸エチルを1.5倍にしてコーティング。
【0031】
・各粘着剤の塗布厚さを、浸含後の織布繊維層表面上、約30μmの残存膜厚のコーティングを目標にして実施。実質的な塗布液の量は、織布繊維層内への含浸のため、表面塗装膜厚量の3倍程度となる。
(本発明の実施例と比較例との特性結果)
「比較例」
A;アクリル系粘着剤+含浸処理無し
接着層厚さ;35μm
形状追随性;皺有り
密着性 ;端面の収縮有り、剥がれやや有り
寸法性 ;反り無し

B;アクリル系粘着剤+含浸処理有り
接着層厚さ;15μm
形状追随性;皺有り
密着性 ;端面の収縮やや有り、剥がれ有り
寸法性 ;反り無し

C;アクリル系粘着剤+シリカ15wt%混入+含浸処理有り
接着層厚さ;30μm
形状追随性;皺有り
密着性 ;端面の収縮無し、剥がれやや有り
寸法性 ;反り有り

「実施例」
D;合成ゴム系粘着剤+含浸処理有り
接着層厚さ;30μm
形状追随性;皺無し
密着性 ;端面の収縮やや有り、剥がれ無し
寸法性 ;反り有り

E;合成ゴム系粘着剤シリカ15wt%混入含浸処理有り
接着層厚さ;35μm
形状追随性;皺無し
密着性 ;端面の収縮無し剥がれ無し
寸法性 ;反り無し

以上の、「A」〜「E」の結果から、本発明の方法である「E」の方法における様に、粘着剤として熱可塑性の合成ゴム系粘着剤を用い、これに微小粒子材料のシリカを混入したものを繊維層に塗布後更に繊維層中に浸含させて接着層を形成し、この接着層によって、真空圧空成形して装飾シート貼付したとき、従来の課題であった、貼付皺や、端面の収縮・剥がれが無く、また反りの発生も無い、電子機器筐体を製造することが示される。
【0032】
図1は、上記の本発明に用いた皮革調装飾シートを用いて、真空成形ないし真空圧空成形したときの形成断面図の例を模式的に示す。
【0033】
図1(1)は、本発明の皮革調装飾シートの断面模式図を示す。本発明の皮革調装飾シート1は、表面側から、従来例と同様に、例えば皮革調のパターンが印刷加工された、厚さ数μmのウレタン樹脂などからなる、非発泡樹脂層2、その下に、例えば皮革調の風合いや感触を持たせるための適度の厚さ・凹凸を有する、厚さ数十〜数百μmのウレタン発泡樹脂などからなる、発泡樹脂層3、その下に、例えば、更に、皮革調の感触を強調することが可能となる、適度の強さとクッション性を有する、厚さ数十〜数百μmのポリエステル樹脂繊維などからなる織布または不織布の繊維層4が積層されたシートからなる、この3層の樹脂材料層が積層形成されているが、本発明においては、接着するため層としては、図示するように、繊維層4中の表面近傍領域に、シリカなど無機微小粒子が混入した合成ゴム系粘粘着剤が含浸された、収縮抑制接着層5が形成される。
【0034】
収縮抑制接着層5は、上述の様に、繊維層中に粘着剤(合成ゴム系)とともに無機微小粒子を入り込ませた状態にして形成おり、これが被覆成形体との接着層としての役割を果たすとともに成形後の残留応力による装飾シートの樹脂材料層の収縮を抑制ないし緩和する。その結果、図1(2)の示すように、ステージ6上の被覆成形体7の表面に真空圧空成形法によって貼付された本発明の皮革調装飾シート1では、図3の従来例で示したような接着層116と繊維層115とで生じている収縮差現象は見られず、接着層(この場合は、収縮抑制接着層5)と繊維層との分離による剥がれは無く、被覆成形体7の表面である下地の表面露出を防ぐことができる。またこの効果から、皺の発生、反りの発生を抑制する。
【0035】
アクリル系粘着剤の場合、これに無機微小粒子を加え、また繊維層に含浸させた接着層を形成しても、十分な圧縮抑制効果が得られない。剥がれが残り、また反りが発生する。これは、熱可塑性樹脂のゴム系粘着剤に比べ、シート貼付後に粘着剤自体が柔らかい状態のまま殆ど硬化せず、収縮・変形を抑制できないためと考えられる。
【0036】
皮革調装飾シート合成樹脂材料の繊維層に熱可塑性粘着剤を塗布・含浸するのは、特に真空圧空成形時に熱を加え、これを溶融・軟化するのに都合が良く、被覆成形体のシート追従性を阻害することなく三次元形状に貼付できるためである。熱可塑性粘着剤としては合成ゴム系(例えば、ニトリルゴム、スチレンゴム、クロロプレンゴムなど)をべースとした樹脂が好ましい。それは、軟化温度が100℃前後であり、皮革調装飾シート合成樹脂材料が軟化する温度と近いためであり、成形加工が容易となる。例えば、オレフィン樹脂をベースとした粘着剤は、約130℃と、比較的軟化温度が高いため、この接着力を発揮させるためには皮革調装飾シート合成樹脂材料の軟化温度以上の加熱は必要で好ましくない。
【0037】
収縮抑制接着層の厚さは、表面から30〜50μmが好ましい。これより厚すぎても薄すぎても、真空圧空成形のときの、被覆成形体表面との十分な密着力が得られなかった。
【0038】
無機微小粒子としては、シリカ、ガラスビーズ、ガラスフレークなどのガラス系が望ましい。金属や鉱物系粒子に比較して粘着剤へ均一に分散され易いため、任意に添加率を変えることができる。添加率は10〜30wt%が望ましい。
【0039】
微小粒子のサイズは、繊維層内での接着層厚(収縮抑制接着層の厚さ)が30〜50μmでの均一な分散混合のためには、その代表寸法が数μ〜10μm程度が望ましい。サイズが大きすぎると含浸し難く、小さすぎると凝集し易い。
【0040】
以上の実施例においては、主として皮革調装飾シートを用い、被覆成形体が金属製(マグネシウム合金)筐体下地の表面に対し、真空圧空成形法によって貼付して装飾形成された電子機器筐体ならびにその製造方法を記し、その結果、大きな効果を得ることができたことを示した。本発明の趣旨の範囲において、上記実施例に用いた材料・具体的製造装置に限らないことは言うまでもない。
【0041】
使用対象の貼付用シートについて、「皮革調装飾シート」である必要は無く、貼付用シートの構造において、織布、非織布に限らず繊維層が接着用の層に接する構成のシートであれば、本発明の方法の適用と本発明の装置を得ることができよう。被覆成形体(の表面)が、金属で無く、例えばプラスチックなどでも適用可能である。さらに、貼付方法は、真空圧空成形法を主体に述べたが、真空成形法であってもよい。
【0042】
以上の実施例を含む実施の形態に関し、以下の付記を開示する。
(付記1)
繊維層の一方の面側に、発泡樹脂層、非発泡樹脂層が順に積層され、かつ前記繊維層の他方の面側に含浸した収縮抑制接着層が形成された、装飾シートによって被覆された被覆成形体面を有することを特徴とする筐体。
(付記2)
前記収縮抑制接着層は、熱可塑性粘着剤と無機微小粒子を含むことを特徴とする付記1記載の筐体。
(付記3)
前記無機微小粒子は、ガラス系微小粒子であることを特徴とする付記2記載の筐体。
(付記4)
前記熱可塑性粘着剤は、合成ゴムをベース樹脂とする粘着剤であることを特徴とする付記2または3記載の筐体。
(付記5)
筐体の製造方法であって、
繊維層の一方の面側に、発泡樹脂層、非発泡樹脂層を順に積層し、かつ前記繊維層の他方の面側に収縮抑制接着層を形成して装飾シートを形成する工程と、
前記筐体の被覆成形体面に前記装飾シートを真空成形ないし真空圧空成形する工程と
を有することを特徴とする筐体の製造方法。
(付記6)
前記収縮抑制接着層の形成は、熱可塑性粘着剤中へ無機微小粒子を混合分散した混合粘着剤を、前記繊維層の他方の面側に塗布し、かつ含浸する工程であることを特徴とする付記5記載の筐体の製造方法。
(付記7)
前記熱可塑性粘着剤は合成ゴムをベース樹脂とする粘着剤であることを特徴とする付記6記載の筐体の製造方法。
(付記8)
前記無機微小粒子はガラス系微小粒子であることを特徴とする付記6または7記載の筐体の製造方法。
(付記9)
繊維層の一方の面側に、発泡樹脂層、非発泡樹脂層が順に積層され、かつ前記繊維層の他方の面側に含浸した収縮抑制接着層が形成された、装飾シートによって被覆された被覆成形体面を有する筐体を用いたことを特徴とする電子機器。
(付記10)
電子機器の製造方法であって、
前記電子機器は筐体を有し、前記筐体の製造方法は、
繊維層の一方の面側に、発泡樹脂層、非発泡樹脂層を順に積層し、かつ前記繊維層の他方の面側に収縮抑制接着層を形成して装飾シートを形成する工程と、
前記筐体の被覆成形体面に前記装飾シートを真空成形ないし真空圧空成形する工程と
を有することを特徴とする、電子機器の製造方法。
【符号の説明】
【0043】
1 本発明の皮革調装飾シート
2、113 非発泡樹脂層
3、114 発泡樹脂層
4、115 繊維層
5 収縮抑制接着層
6、104 ステージ
7、106 被覆成形体
101 真空圧空成形装置
102 第1の密閉空間
103 第2の密閉空間
105 通気路
107 クランプ
108 装飾シート
109 装飾層
110 接着層
111 ヒーター
112 従来の皮革調装飾シート
116 接着層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維層の一方の面側に、発泡樹脂層、非発泡樹脂層が順に積層され、かつ前記繊維層の他方の面側に含浸した収縮抑制接着層が形成された、装飾シートによって被覆された被覆成形体面を有することを特徴とする筐体。
【請求項2】
前記収縮抑制接着層は、熱可塑性粘着剤と無機微小粒子を含むことを特徴とする請求項1記載の筐体。
【請求項3】
前記無機微小粒子は、ガラス系微小粒子であることを特徴とする請求項2記載の筐体。
【請求項4】
前記熱可塑性粘着剤は、合成ゴムをベース樹脂とする粘着剤であることを特徴とする請求項2または3記載の筐体。
【請求項5】
筐体の製造方法であって、
繊維層の一方の面側に、発泡樹脂層、非発泡樹脂層を順に積層し、かつ前記繊維層の他方の面側に収縮抑制接着層を形成して装飾シートを形成する工程と、
前記電子機器用筐体の被覆成形体面に前記装飾シートを真空成形ないし真空圧空成形する工程と
を有することを特徴とする筐体の製造方法。
【請求項6】
前記収縮抑制接着層の形成は、熱可塑性粘着剤中へ無機微小粒子を混合分散した混合粘着剤を、前記繊維層の他方の面側に塗布し、かつ含浸する工程であることを特徴とする請求項5記載の筐体の製造方法。
【請求項7】
繊維層の一方の面側に、発泡樹脂層、非発泡樹脂層が順に積層され、かつ前記繊維層の他方の面側に含浸した収縮抑制接着層が形成された、装飾シートによって被覆された被覆成形体面を有する筐体を用いたことを特徴とする電子機器。
【請求項8】
電子機器の製造方法であって、
前記電子機器は筐体を有し、前記筐体の製造方法は、
繊維層の一方の面側に、発泡樹脂層、非発泡樹脂層を順に積層し、かつ前記繊維層の他方の面側に収縮抑制接着層を形成して装飾シートを形成する工程と、
前記筐体の被覆成形体面に前記装飾シートを真空成形ないし真空圧空成形する工程と
を有することを特徴とする、電子機器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−245689(P2011−245689A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119629(P2010−119629)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】