説明

筒内噴射式内燃機関

【課題】燃料を噴射する噴射装置にデポジットが堆積することを抑制できる筒内噴射式内燃機関を提供すること。
【解決手段】本体2,3と、本体内部を本体の軸方向に往復動するピストン4と、本体とピストンとで囲まれる筒内空間8に燃料を直接噴射する噴射装置5とを有する筒内噴射式内燃機関1であって、ピストンが上昇した場合に、筒内空間において、噴射装置が設けられた第一空間部81と、噴射装置が設けられていない、かつ混合気が着火する第二空間部82とを形成する空間部形成手段9を備え、空間部形成手段は、本体およびピストンの一方に設けられ、本体の軸方向に沿い、かつ第一空間部を向く第一面91aと、本体およびピストンの内のもう一方に設けられ、本体の軸方向に沿い、かつ第二空間部を向く第二面92aとを有し、第一面および第二面は、ピストン上昇時に互いに対向し、かつ近接するよう形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒内噴射式内燃機関に関し、特に、燃料を噴射する噴射装置にデポジットが堆積することを抑制できる筒内噴射式内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
筒内空間に直接燃料を噴射する筒内噴射式内燃機関においては、噴射装置が燃焼時の高温の火炎(燃焼ガス)に触れるため、噴射装置の先端部等にデポジットが生成する虞がある。噴射装置の先端部等にデポジットが堆積すると、燃料の噴射制御等に影響を与える可能性があるため、好ましくない。
【0003】
特許文献1には、噴射弁ノズル先端部を噴射弁ノズル先端部周りの燃焼室内壁面に対し、奥まらない形状とすることにより、ポケット内に燃焼ガスが入り込まないようにし、噴射弁ノズル先端部へデポジットを付着しにくくする点が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−8970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のように噴射装置(噴射弁ノズル)先端部の周囲にポケットが形成されないようにしたとしても、なお、噴射装置に高温の火炎が到達し、噴射装置にデポジットが堆積してしまう虞がある。
【0006】
筒内噴射式内燃機関において、燃料を噴射する噴射装置にデポジットが堆積することを抑制できることが望まれている。
【0007】
本発明の目的は、筒内噴射式内燃機関において、燃料を噴射する噴射装置にデポジットが堆積することを抑制できる筒内噴射式内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の筒内噴射式内燃機関は、内燃機関の本体と、前記本体の内部を前記本体の軸方向に往復動可能に設けられたピストンと、前記本体と前記ピストンとにより囲まれる筒内空間に燃料を直接噴射する噴射装置とを有する筒内噴射式内燃機関であって、前記ピストンが上死点に向けて上昇した場合に、前記筒内空間において、前記噴射装置が設けられた第一空間部と、前記噴射装置が設けられていない、かつ混合気が着火する第二空間部とを形成する空間部形成手段を備え、前記空間部形成手段は、前記本体および前記ピストンのいずれか一方に設けられ、前記本体の軸方向に沿い、かつ前記第一空間部の方向に向く第一面と、前記本体および前記ピストンの内のもう一方に設けられ、前記本体の軸方向に沿い、かつ前記第二空間部の方向に向く第二面とを有し、前記第一面および前記第二面は、前記ピストンが上死点に向けて上昇した場合に互いに対向し、かつ近接するようにそれぞれ形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の筒内噴射式内燃機関において、前記内燃機関は、前記筒内空間の混合気に点火する点火装置を有する火花点火式の内燃機関であって、前記点火装置は、前記第二空間部の混合気に点火することを特徴とする。
【0010】
本発明の筒内噴射式内燃機関において、前記ピストンには、前記第一空間部と前記第二空間部とを連通する連通路が設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の筒内噴射式内燃機関において、前記連通路における前記第二空間部側の開口部は、前記筒内空間に導入される吸気の流路に沿って設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、筒内噴射式内燃機関において、燃料を噴射する噴射装置にデポジットが堆積することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の筒内噴射式内燃機関の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1から図5を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、燃料を噴射する噴射装置にデポジットが堆積することを抑制できる筒内噴射式内燃機関に関する。
【0015】
本実施形態のエンジン(図1の符号1参照)は、筒内空間(図1の符号8参照)に燃料を直接噴射する噴射装置(図1の符号5参照)を備えた筒内噴射式内燃機関である。筒内噴射式のエンジン1では、噴射装置5が高温の火炎(燃焼ガス)に触れることにより、噴射装置5の先端部等にデポジットが堆積する虞がある。
【0016】
本実施形態のエンジン1には、ピストン(図1の符号4参照)が上死点に向けて上昇した場合に、筒内空間8において、噴射装置5が設けられた第一空間部(図1の符号81参照)と、噴射装置5が設けられておらず、かつ点火装置(図1の符号6参照)が設けられた第二空間部(図1の符号82参照)とを形成する空間部形成手段(図1の符号9参照)が設けられている。
【0017】
空間部形成手段9が設けられていることにより、ピストン4が上昇した場合、例えば、ピストン4が上死点の近傍にあるときに、噴射装置5の先端部がシリンダーヘッド(図1の符号3参照)とピストン4の頂面で形成される第一空間部81(スキッシュ領域)で覆われた状態となる。よって、点火装置6により第二空間部82の混合気が点火されて第二空間部82で燃焼が行われたとしても、その火炎が第一空間部81へ伝播することが抑制される。
【0018】
空間部形成手段9は、ピストン4の往復動方向と平行な二つの面(図2の符号91a、92a参照)を有する。ピストン4が上死点の近傍にあるときには、二つの面91a、92aが互いに対向し、かつ、近接した状態となる。よって、ピストン4が上死点から降下してもすぐには第一空間部81が第二空間部82に開口せず、ある程度ピストン4が降下するまでの間は第一空間部81と第二空間部82との間の通路面積が狭い状態が保たれる。これにより、以下に説明するように、第二空間部82から第一空間部81へ火炎が到達することが抑制される。その結果、噴射装置5の温度の上昇が抑制されることにより、噴射装置5にデポジットが堆積することが抑制される。
【0019】
図1は、本実施形態に係る内燃機関の断面図である。図2および図5は、図1の要部拡大図を示す。図3は、図1のC視図であり、ピストンの頂部の構成が示されている。図4は、図1のB視図であり、シリンダーヘッドの構成が示されている。なお、図1に示す断面図は、図4のA−A断面における断面図である。
【0020】
図1において、符号1は、エンジン(内燃機関)を示す。エンジン1は、筒内(後述する筒内空間8)に燃料を直接噴射する噴射装置5を備えた筒内噴射式内燃機関である。エンジン1には、シリンダーブロック(本体)2が設けられている。シリンダーブロック2の上部には、シリンダーヘッド(本体)3が設けられている。シリンダーブロック2の内部には、シリンダーブロック2の軸方向(図1の上下方向)に往復動可能なピストン4が設けられている。シリンダーヘッド3には、シリンダーブロック2、シリンダーヘッド3、およびピストン4に囲まれた筒内空間8に燃料を直接噴射する噴射装置5が設けられている。
【0021】
筒内空間8には、図示しない吸気通路を介して吸気が導入される。シリンダーヘッド3における、吸気通路と筒内空間8との接続部には、吸気弁7が設けられている。噴射装置5により筒内空間8に噴射される燃料は、吸気通路を介して導入された吸気と混合されて混合気となる。シリンダーヘッド3には、筒内空間8の混合気に点火する点火装置6が設けられている。
【0022】
本実施形態のエンジン1には、ピストン4が上死点に向けて上昇した場合に、筒内空間8において、噴射装置5が設けられた第一空間部81と、噴射装置5が設けられておらず、かつ混合気が着火する(点火装置6が設けられた)第二空間部82とを形成する空間部形成手段9が設けられている。図1には、ピストン4が上死点の近傍にある状態が示されている。
【0023】
図2は、図1における空間部形成手段9付近の要部拡大図であり、ピストン4が上昇して第一空間部81と第二空間部82とが形成されつつある状態が示されている。空間部形成手段9は、ピストン4に設けられ、シリンダーブロック2の軸方向に沿い、かつ第一空間部81の方向に向く第一面91aと、シリンダーヘッド3に設けられ、シリンダーブロック2の軸方向に沿い、かつ第二空間部82の方向に向く第二面92aとを有する。
【0024】
ピストン4の頂面40には、シリンダーヘッド3へ向けて突出する凸形状を有する第一凸部91が形成されている。第一面91aは、第一凸部91における第一空間部81の方向を向く面であり、シリンダーブロック2の軸方向(ピストン4が往復動する方向)と平行に形成されている。第一凸部91は、図3に示すように、所定の幅を有する帯状に形成されており、ピストン4の頂面40における周上の1点と他の1点とにそれぞれ接している。第一凸部91により、ピストン4の頂面40は、噴射装置5が設けられた第一空間部81側の部分41と噴射装置5が設けられておらず、かつ点火装置6が設けられた第二空間部82側の部分42とに分けられている。なお、図2に示すように、第一凸部91における第二空間部82側の面は、下方(シリンダーヘッド3から遠ざかる方向)へ向かうに連れて第二空間部82へ向かう(第一空間部81から遠ざかる)向きの傾斜を有している。
【0025】
図2に示すように、シリンダーヘッド3の下面30には、ピストン4へ向けて突出する凸形状を有する第二凸部92が設けられている。第二面92aは、第二凸部92における第二空間部82の方向を向く面であり、シリンダーブロック2の軸方向と平行に形成されている。第二凸部92は、図4に示すように、吸気バルブ7の弁部の周縁に沿った形状に形成されている。なお、第一凸部91は、第二凸部92に対応した形状に形成されている。すなわち、第一凸部91は、第二凸部92と同様に吸気バルブ7の弁部の周縁に沿った形状を有している。
【0026】
第一凸部91および第二凸部92は、ピストン4が上死点に向けて上昇した場合に第一面91aと第二面92aとが互いに対向し、かつ近接するようにそれぞれ形成されている。図5は、図1における空間部形成手段9付近の要部拡大図であり、空間部形成手段9により第一空間部81と第二空間部82とが形成されている状態が示されている。図5に示すように、ピストン4が上昇して上死点の近傍にあるときには、第一面91aと第二面92aとが互いに対向し、かつ近接した状態となる。このため、燃焼行程において点火装置6により第二空間部82の混合気が点火されたときに、高温の火炎が噴射装置5に到達することが抑制される。高温の火炎が第一面91aと第二面92aとの間の通路を通過しようとした場合に、第一面91aや第二面92aに熱が吸収されるため、その火炎が消炎される。よって、噴射装置5が高温となってデポジットが生成することや噴射装置5にデポジットが堆積することが抑制される。
【0027】
なお、ピストン4が上死点の近傍にあるとき(第一面91aと第二面92aとが近接しているとき)の第一面91aと第二面92aとの間隔は、例えば、実験の結果に基づいて設定される。この場合、例えば、第一面91aと第二面92aとの間の通路を火炎が通過しようとする際に第一面91aおよび第二面92aが火炎から吸収することのできる熱量に基づいて上記間隔が設定されることができる。
【0028】
第一面91aおよび第二面92aはそれぞれシリンダーブロック2の軸方向と平行であるため、ピストン4が上死点の近傍において上記軸方向に運動しても第一面91aと第二面92aとの間隔は変化しない。したがって、ピストン4が上死点から下降を開始してからも所定の期間は第一空間部81が第二空間部82に開口していない状態が保たれ、すぐには噴射装置5に火炎が到達しない。上死点の近傍における特に高温高圧下で伝播する高温の火炎が噴射装置5に到達することが抑制されるため、噴射装置5にデポジットが堆積することをより確実に抑制できる。
【0029】
ピストン4がある程度降下すると図2のように第一空間部81が第二空間部82に開口するため、最終的には噴射装置5にも火炎は到達するものの、このときには上死点の近傍に比べて筒内空間8の温度、および圧力は低下しているため、噴射装置5の温度上昇は十分に回避できる。
【0030】
なお、第一空間部81に混合気が存在する場合、その混合気の燃焼タイミングは、第二空間部82の混合気の燃焼タイミングよりも遅いタイミングとなる。このため、エンジン1の燃焼状態に影響を与えないように、第一空間部81に多くの混合気が存在しないようにすることが望ましい。このために、例えば、ピストン4が上昇する際に第一空間部81の混合気が第二空間部82に流動するように、第一空間部81をスキッシュ領域とすることができる。この場合、例えば、ピストン4の頂面40における第一空間部81側の部分41とシリンダーヘッド3との間隔をピストン4の頂面40における第二空間部82側の部分42とシリンダーヘッド3との間隔に比べて小さな値とする。また、第一空間部81をスキッシュ領域とすることに加えて、あるいはスキッシュ領域とすることに代えて、第一空間部81の容積を小さなものとすることにより、第一空間部81に存在する混合気の量を抑制してもよい。
【0031】
本実施形態の空間部形成手段9により、噴射装置5へのデポジットの堆積を回避しつつ、筒内空間8における混合気の均質性の向上とPM(粒子状物質)の発生量の低減を実現することが可能となる。従来、筒内噴射式内燃機関において、
(1)均質性の向上
(2)PMの低減
(3)噴射装置5の先端におけるデポジット堆積の回避
の3つを同時に実現することは困難であった。これは、以下の理由による。
【0032】
一般に、筒内空間8における混合気の均質性を向上させるためには、燃料の噴霧を上方に向けて気流に乗りやすくすることが有効である。例えば、燃料を水平よりも下方に向けて噴射する場合であっても、燃料の噴射方向と水平面とのなす角(俯角)をより小さな角度とする(燃料の噴射方向をより上方に向ける)ことが望ましい。ただし、燃料の噴霧を上方に向けた場合には、噴霧が吸気弁7と干渉しやすくなるため、PMの発生量が増加してしまうという背反がある。
【0033】
混合気の均質性の向上とPMの増加の回避とを両立させるためには、噴射装置5を突き出す、すなわち、噴射装置5の先端部を筒内空間8の中心部に近づけるように噴射装置5を配置することにより、吸気弁7と燃料の噴霧とが干渉しないようにすればよい。しかしながら、この場合、噴射装置5の先端温度が上昇して噴射装置5の先端部におけるデポジットの堆積が促進されてしまう。
【0034】
本実施形態によれば、上記のように、燃料の噴霧をより上方に向けるように、かつ噴射装置5の先端部を筒内空間8へ向けてより突き出すように噴射装置5が設置される場合においても、上死点の近傍において高温の火炎が噴射装置5に到達することを抑制できる。よって、噴射装置5へのデポジットの堆積を回避しつつ、筒内空間8における混合気の均質性の向上とPMの発生量の低減を実現することができる。
【0035】
(第1実施形態の第1変形例)
第1実施形態の第1変形例について説明する。
【0036】
上記第1実施形態(図1)では、エンジン1が点火装置6を備える火花点火式の内燃機関である場合について説明したが、これには限定されない。エンジン1が圧縮自着火式の内燃機関である場合など、点火装置6を備えない内燃機関である場合(図1のエンジン1において点火装置6が設けられない場合)であっても、上記第1実施形態の空間部形成手段9が適用されることができる。
【0037】
この場合、上記第1実施形態と同様に、空間部形成手段9により、ピストン4が上死点に向けて上昇した場合に、筒内空間8において、噴射装置5が設けられた第一空間部81と、噴射装置5が設けられていない、かつ混合気が着火する第二空間部82とが形成される。これにより、第二空間部82において混合気が自着火した場合に、第一空間部81と第二空間部82とが形成されている間(例えば、ピストン4が上死点の近傍にある間)は噴射装置5に火炎が到達することが抑制される。よって、上記第1実施形態と同様に、噴射装置5にデポジットが堆積することが抑制される。
【0038】
なお、第一空間部81の容積が大きいと、第一空間部81の温度が上昇し、上死点の近傍において第一空間部81で自着火による燃焼が発生してしまう可能性がある。このため、第一空間部81の容積を小さなものとすることが望ましい。
【0039】
(第1実施形態の第2変形例)
第1実施形態の第2変形例について説明する。
【0040】
上記第1実施形態(図2、図5)では、第一空間部81に面する第一面91aは、ピストン4に設けられ、第二空間部82に面する第二面92aは、シリンダーヘッド3に設けられていたが、これには限定されない。第一面91aがシリンダーヘッド3に設けられ、第二面92aがピストン4に設けられてもよい。
【0041】
また、上記第1実施形態では、第一面91aおよび第二面92aがそれぞれ凸部91,92の一部として設けられていたが、これには限定されない。第一面91aあるいは第二面92aがピストン4あるいはシリンダーヘッド3に設けられた凹部の一部として構成されてもよい。例えば、ピストン4の第一凸部91に対応する凹部がシリンダーヘッド3に設けられ、ピストン4が上昇した場合に、第一凸部91がシリンダーヘッド3の凹部に嵌合することにより、空間部形成手段9が実現されることができる。この場合、シリンダーヘッド3の凹部には、ピストン4が上昇した場合に第一凸部91の第一面91aと対向し、かつ近接する第二面92aが形成される。
【0042】
(第2実施形態)
図6および図7を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0043】
本実施形態のエンジン1は、ピストン4に第一空間部81と第二空間部82とを連通する連通路が設けられている点が上記第1実施形態(図1)と異なる。
【0044】
図6は、本実施形態に係る装置の概略構成図である。図7は、図6のD視図である。図6に示すように、ピストン4には、第一空間部81と第二空間部82とを連通する連通路10が設けられている。吸気行程において吸気弁7が開弁しているときに、吸気通路を介して筒内空間8に導入される吸気が、連通路10を介して第二空間部82から第一空間部81へ流れる。これにより、特にピストン4が上昇した状態となっているとき、すなわち、空間部形成手段9により第一空間部81と第二空間部82とが形成されているときに、連通路10を介して供給される吸気により、第一空間部81の温度を低下させることができる。その結果、噴射装置5の温度が低下することにより、噴射装置5へのデポジットの堆積が抑制される。
【0045】
連通路10における第二空間部82側の開口部10bは、吸気弁7の下方に設けられている。これにより、吸気行程が開始して吸気(新気)が筒内空間8に流入する際に、筒内空間8に流入したばかりの低温の吸気が連通路10に供給される。更に、第二空間部82側の開口部10bは、吸気弁7が開弁して吸気が筒内空間8に流入するときの吸気の流路に沿って設けられている。言い換えると、第二空間部82側の開口部10bは、吸気行程の吸気弁7の開弁直後に筒内空間8に入ってくる吸気(新気)が最も吸い込みやすい位置に設けられている。これにより、連通路10に供給される吸気の温度をより低温とすることができる。第二空間部82側の開口部10bは、例えば、図7に示すように、二つの吸気弁7の近傍で、かつ、二つの吸気弁7から等距離となる位置に設けられることができる。
【0046】
一方、図6および図7に示すように、連通路10における第一空間部81側の開口部10aは、噴射装置5の先端部の近傍に設けられている。これにより、連通路10を介して第一空間部81へ供給される吸気により、噴射装置5の近傍の温度を低下させることができる。更に、連通路10は、図6に示すように、連通路10を流れる吸気が噴射装置5の先端部へ向けて流出するように設けられている。連通路10を介して第一空間部81に流入する吸気が噴射装置5へ向けて流れることにより、噴射装置5の温度がより低温に保たれることができる。
【0047】
空間部形成手段9により筒内空間8に第一空間部81と第二空間部82とが形成されているとき(例えば、ピストン4が上死点の近傍にあるとき)に、吸気弁7が開弁すると、第一空間部81と第二空間部82との間に生じる圧力差により、第二空間部82から第一空間部81へ向かう吸気の流れが促進される。吸気行程の初期において、第一空間部81と第二空間部82とが形成されているときに、ピストン4が降下すると、第一空間部81と第二空間部82との間に圧力差が生じる。第一空間部81は、吸気通路と連通している第二空間部82に比べて低圧となる。よって、第二空間部82から第一空間部81へ向かう吸気の流れが促進される。
【0048】
なお、連通路10により第一空間部81と第二空間部82とが連通されているものの、火炎が第二空間部82から第一空間部81へ到達することは抑制されている。連通路10の径(断面積)は、連通路10を伝播しようとする火炎の熱を連通路10の壁部(ピストン4)で十分に吸収できる値に設定されている。高温の火炎が第二空間部82から第一空間部81へ伝播しようとしても、火炎の熱が連通路10の壁部に吸収されるため、火炎が消炎される。連通路10の径は、例えば、実験の結果に基づいて設定される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の筒内噴射式内燃機関の第1実施形態の概略構成図である。
【図2】本発明の筒内噴射式内燃機関の第1実施形態において、ピストンが上死点へ向けて上昇する状態を示す要部拡大図である。
【図3】本発明の筒内噴射式内燃機関の第1実施形態のピストンの構成を示す図である。
【図4】本発明の筒内噴射式内燃機関の第1実施形態のシリンダーヘッドの構成を示す図である。
【図5】本発明の筒内噴射式内燃機関の第1実施形態において、空間部形成手段により第一空間部と第二空間部とが形成されている状態を示す要部拡大図である。
【図6】本発明の筒内噴射式内燃機関の第2実施形態の概略構成図である。
【図7】本発明の筒内噴射式内燃機関の第2実施形態のピストンの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン
2 シリンダーブロック
3 シリンダーヘッド
4 ピストン
5 噴射装置
6 点火装置
7 吸気弁
8 筒内空間
9 空間部形成手段
40 ピストンの頂面
81 第一空間部
82 第二空間部
91 第一凸部
91a 第一面
92 第二凸部
92a 第二面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の本体と、
前記本体の内部を前記本体の軸方向に往復動可能に設けられたピストンと、
前記本体と前記ピストンとにより囲まれる筒内空間に燃料を直接噴射する噴射装置と
を有する筒内噴射式内燃機関であって、
前記ピストンが上死点に向けて上昇した場合に、前記筒内空間において、前記噴射装置が設けられた第一空間部と、前記噴射装置が設けられていない、かつ混合気が着火する第二空間部とを形成する空間部形成手段を備え、
前記空間部形成手段は、前記本体および前記ピストンのいずれか一方に設けられ、前記本体の軸方向に沿い、かつ前記第一空間部の方向に向く第一面と、前記本体および前記ピストンの内のもう一方に設けられ、前記本体の軸方向に沿い、かつ前記第二空間部の方向に向く第二面とを有し、
前記第一面および前記第二面は、前記ピストンが上死点に向けて上昇した場合に互いに対向し、かつ近接するようにそれぞれ形成されている
ことを特徴とする筒内噴射式内燃機関。
【請求項2】
請求項1記載の筒内噴射式内燃機関において、
前記内燃機関は、前記筒内空間の混合気に点火する点火装置を有する火花点火式の内燃機関であって、
前記点火装置は、前記第二空間部の混合気に点火する
ことを特徴とする筒内噴射式内燃機関。
【請求項3】
請求項1または2に記載の筒内噴射式内燃機関において、
前記ピストンには、前記第一空間部と前記第二空間部とを連通する連通路が設けられている
ことを特徴とする筒内噴射式内燃機関。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の筒内噴射式内燃機関において、
前記連通路における前記第二空間部側の開口部は、前記筒内空間に導入される吸気の流路に沿って設けられている
ことを特徴とする筒内噴射式内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−144527(P2009−144527A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319691(P2007−319691)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】