説明

筒内圧推定装置

【課題】筒内圧センサでは検出が困難な筒内圧の値を推定することができる筒内圧推定装置を提供する。
【解決手段】ECU60は、エンジン10の膨張行程における筒内圧であるPθと、当該筒内圧の時の筒内容積であるVθと、ピストン上死点の筒内容積であるVTDCと、比熱比であるκと、κ=(logPθ−logP)/(logVθ−logVTDC)で定まる関係と、に基づいて基準筒内圧であるPを算出する。ECU60は、エンジン10のピーク筒内圧に応じたクランク角であるピーククランク角を取得する。ECU60は、算出したPと、取得したピーククランク角が上死点から離れるほど小さな値となるように定めた補正係数αと、に基づいて筒内圧の推定値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒内圧推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2010−133367号公報に開示されているように、筒内圧センサの出力に基づいて筒内圧を検出し、この検出した筒内圧の値を内燃機関の制御に反映させる技術が知られている。具体的には、当該公報にかかる内燃機関では、直噴エンジンにおいて、筒内圧センサの出力に基づいて燃料噴射時期を変更することにより、プレイグニッションの抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−133367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
理想的には、通常燃焼時の筒内圧検出を含めたあらゆる場面での筒内圧検出が可能な筒内圧センサシステムを備えることが望ましい。内燃機関では通常燃焼以外にも異常燃焼が発生する場合があり、この異常燃焼では過大な筒内圧が発生してしまう。このような異常燃焼時のストレスはエンジンに大きな負荷をかけるものであるため、異常時の筒内圧についてもその最大筒内圧Pmaxの大きさを精度よく把握したい。
【0005】
しかしながら、一般的には、筒内圧センサの設計上の都合等から、筒内圧センサの検出可能範囲(出力検出幅)は、通常燃焼に十分に対処できる程度のある一定の有限な範囲に設定される。異常燃焼における筒内圧に十分に対処可能な出力検出幅が確保されていない場合も想定され、この場合には筒内圧センサが異常燃焼時の過大な筒内圧を正確に検出することはできない。筒内圧が筒内圧センサの出力検出幅を超えた場合に筒内圧の値をどのように求めるかについての技術開発が未だ十分になされていないという実情があった。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、筒内圧センサでは検出が困難な筒内圧の値を推定することができる筒内圧推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、筒内圧推定装置であって、
内燃機関に取り付けられた筒内圧センサ素子と、
前記内燃機関の膨張行程における筒内圧であるPθと、当該Pθの時の筒内容積であるVθと、ピストン上死点の筒内容積であるVTDCと、比熱比であるκと、κ=(logPθ−logP)/(logVθ−logVTDC)で定まる関係と、に基づいて基準筒内圧であるPを算出する算出部と、
前記内燃機関のピーク筒内圧に応じたクランク角であるピーククランク角を取得する取得部と、
前記算出部で算出したPと前記取得部で取得したピーククランク角とに基づいて筒内圧の推定値を求める推定部と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、
前記推定部は、
前記取得部で取得したピーククランク角と前記算出部で算出したPとの積を含む演算により、ピーク筒内圧の推定値を求めることを特徴とする。
【0009】
第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記取得部は、
筒内圧の増大の途中において、前記筒内圧センサ素子の出力に基づく筒内圧が所定値となったときのクランク角を求める第1クランク角取得部と、
筒内圧の前記増大の後に前記筒内圧センサ素子の出力が平坦となった点のクランク角を求める第2クランク角取得部と、
前記筒内圧センサ素子の出力が平坦となった後に、前記筒内圧センサ素子の出力に基づく筒内圧が減少を開始したときのクランク角を求める第3クランク角取得部と、
前記筒内圧センサ素子の出力に基づく筒内圧が前記減少を開始した後に、前記筒内圧センサ素子の出力に基づく筒内圧が前記所定値となったときのクランク角を求める第4クランク角取得部と、
前記第1クランク角取得部で取得したクランク角と、前記第2クランク角取得部で取得したクランク角と、前記第3クランク角取得部で取得したクランク角と、前記第4クランク角取得部で取得したクランク角と、に基づいて、前記ピーククランク角を算出するピーククランク角算出部と、
を含むことを特徴とする。
【0010】
第4の発明は、第1または第2の発明において、
前記取得部は、
筒内圧の増大中に、所定筒内圧から前記筒内圧センサ素子の出力が平坦となる前の区間における、前記筒内圧センサ素子の出力を取得する第1出力取得部と、
前記筒内圧センサ素子の出力が平坦となった状態から前記筒内圧センサ素子の出力が減少を開始した後、前記所定筒内圧となるまでの区間の、前記筒内圧センサ素子の出力を取得する第2出力取得部と、
前記第1出力取得部で取得した出力と前記第2出力取得部で取得した出力とに基づいて前記ピーククランク角を算出する算出部と、
を含むことを特徴とする。
【0011】
第5の発明は、上記の目的を達成するため、筒内圧推定装置であって、
内燃機関の筒内圧を検出する筒内圧検出手段と、
前記内燃機関の膨張行程における筒内圧と当該筒内圧の時の筒内容積とに基づいて、PV線図上における理想最大筒内圧を算出する算出手段と、
前記内燃機関のピーク筒内圧に応じたクランク角であるピーククランク角を取得する取得手段と、
前記算出手段で算出した前記理想最大筒内圧に対して、前記取得手段で取得したピーククランク角が上死点から離れるほど筒内圧を相対的に低く推定するように、筒内圧の推定値を算出する推定手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、対数PV線図上における膨張行程での筒内圧と筒内容積の関係と、ピーククランク角と、を利用した演算により、筒内圧センサ素子が感知できない圧力域の筒内圧値を推定することができる。
【0013】
第2の発明によれば、基準筒内圧ピーククランク角との積を用いることによりピーク筒内圧の推定計算を簡素化することができる。
【0014】
第3の発明によれば、筒内圧センサ素子の出力が出力検出幅を超えて平坦となった場合に、平坦となる前後の出力とこれらの各出力に対応する各クランク角との間の関係から、幾何学的にピーククランク角を算出することができる。
【0015】
筒内圧センサ素子の出力が出力検出幅を超えて平坦となった場合には、筒内圧増大区間と筒内圧減少区間で挟まれるその平坦区間内にピーク筒内圧(筒内圧のピーク値)が存在するはずであり、その平坦区間のクランク角領域内にピーククランク角が存在するはずである。平坦区間内において、シリンダ内の実際の筒内圧は、増大から減少へと転ずる連続的な変化を示すはずである。
第4の発明によれば、このような前提に立って、筒内圧増大時と筒内圧減少時におけるそれぞれの筒内圧センサ素子の出力特性から、平坦区間内におけるピーククランク角の位置を計算することができる。
【0016】
第5の発明によれば、PV線図上における膨張行程での筒内圧と筒内容積の関係と、上死点に対するピーククランク角の関係と、を利用した演算により、筒内圧センサ素子が感知できない圧力域の筒内圧値を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態にかかる筒内圧推定装置の構成を、これを備えた内燃機関システム構成とともに示す図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる筒内圧推定装置の動作を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる筒内圧推定装置における補正係数αの算出方法を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかる筒内圧推定装置におけるピーククランク角θpmaxの算出方法を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態にかかる筒内圧推定装置における基準筒内圧Pの算出方法を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態に対する比較例の問題点を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態に対する比較例の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態にかかる筒内圧推定装置の構成を、これを備えた内燃機関システム構成とともに示す図である。本実施の形態のシステムは、火花点火式内燃機関としてのエンジン10を備えている。エンジン10の各気筒には、ピストン12により燃焼室14が画成されており、ピストン12はエンジンのクランク軸16に連結されている。また、エンジン10の吸気通路18には、アクセル開度等に基いて吸入空気量を調整する電子制御式のスロットルバルブ20が設けられており、排気通路22には排気浄化触媒24が設けられている。また、各気筒には、燃料噴射弁26,28、点火プラグ30、吸気バルブ32、排気バルブ34等が設けられている。なお、図1には1つの気筒のみを示しているが、エンジン10は実際には複数の気筒を備える複数気筒内燃機関であり、自動車用内燃機関の動力として好適に用いられる。その複数の気筒の少なくとも一つには、下記に述べる筒内圧センサ48が取り付けられている。
【0019】
本実施の形態のシステムは、エンジン10の運転状態の把握等のための各種センサを含むセンサ系統と、エンジン10を制御するECU(Electronic Control Unit)60とを備えている。まず、センサ系統について説明すると、クランク角センサ40は、クランク軸16の回転に同期した信号を出力するもので、エアフローセンサ42は吸入空気量を検出する。また、水温センサ44は、エンジンの温度状態が反映される機関温度の一例として、エンジン冷却水の温度(エンジン水温)を検出し、吸気温センサ46は吸気温度を検出する。
【0020】
筒内圧センサ48は、エンジン10のシリンダ内の圧力(筒内圧)を検出するセンサである。筒内圧センサ48は、公知の圧力センサ等により構成されたセンサ素子部を備えている。このセンサ素子部は、例えば筒内の空間に晒される円柱状の受圧部と、受圧部の基端側に固着された圧電素子(図示せず)とを備えている。そして、センサの作動時には、筒内圧が受圧部を介して圧電素子に作用し、圧電素子から筒内圧に応じた電圧信号が出力されるように構成されている。センサ系統には、この他にも、エンジン制御に必要な各種のセンサ(スロットルバルブ20の開度を検出するスロットルセンサ、排気空燃比を検出する空燃比センサ等)が含まれている。
【0021】
ECU60は、例えばROM、RAM、不揮発性メモリ等を含む記憶回路を備えた演算処理装置により構成されている。ECU60の入力側には、センサ系統の各センサが接続されており、ECU60の出力側には、スロットルバルブ20、燃料噴射弁26,28、点火プラグ30等を含む各種のアクチュエータが接続されている。また、ECU60は、クランク角に応じて変化する各種のデータを、当該クランク角と共に時系列データとして記憶する機能を備えている。この時系列データには、各センサの出力値、及び当該出力値に基いて算出される各種の指標、パラメータ等が含まれる。
【0022】
そして、ECU60は、エンジンの運転情報をセンサ系統により検出しつつ、各アクチュエータを駆動して運転状態を制御する。具体的には、クランク角センサ40の出力に基いてエンジン回転数(機関回転数)とクランク角とを検出し、エアフローセンサ42の出力に基いて吸入空気量を算出する。また、吸入空気量、エンジン回転数等に基いてエンジンの負荷(負荷率)を算出する。そして、クランク角に基いて燃料噴射時期や点火時期を決定し、これらの時期が到来したときには、燃料噴射弁26や点火プラグ30を駆動する。これにより、筒内で混合気を燃焼させ、エンジンを運転することができる。
【0023】
ECU60は、筒内圧センサ48の出力信号をクランク角度に同期させてAD変換(アナログ/デジタル変換)することができるプログラムを備えている。これにより、任意のタイミングにおける筒内圧センサ48出力値を取得し、これに基づいてクランク角θに応じた筒内圧の大きさPθを検出することができる。また、ECU60には、クランク角センサ40の出力に基づいて検出したクランク角から、筒内容積Vを計算するプログラムも備えている。クランク角が定まれば、これに応じてシリンダ内面およびピストン上面が形成する燃焼室の容積が決まるからである。このプログラムの実行により、ECU60は、任意のクランク角θにおける筒内容積の値Vθを算出することができる。
【0024】
図2は、本発明の実施の形態にかかる筒内圧推定装置の動作を説明するための図である。図2には、2つの筒内圧センサ出力波形が図示されており、一つは正常燃焼の場合の筒内圧センサ出力波形であり、他の1つは異常燃焼の場合の筒内圧センサ出力波形である。
【0025】
一般的に、筒内圧センサの検出可能範囲(出力検出幅)は、低圧での精度を保証するために通常燃焼時の筒内圧範囲に合わせて設定されている。このような状況下において異常燃焼により過大な筒内圧が発生すると、この過大な筒内圧を受けた筒内圧センサは、筒内圧に応じた出力信号を発することができない。自己の出力検出幅を超えているからである。この影響が、図2に現れている。すなわち、図2において、正常燃焼の場合の筒内圧センサ出力波形がそのピーク筒内圧を含めた連続的波形を描いているのに対し、異常燃焼の場合の筒内圧センサ出力波形はピーク付近に平坦な出力信号が認められる。この平坦な出力信号は、筒内圧センサの出力検出幅上限Puを超えるほどに大きな筒内圧(図2の破線の波形)が発生した結果として生じたものである。この平坦な出力信号は、筒内圧センサがもはや筒内圧に応じた出力信号(筒内圧に比例した出力信号)を発することができない状態にあることを示している。
【0026】
そこで、本実施形態にかかる筒内圧推定装置では、ECU60が、下記の式(1)に従って、出力検出幅上限Puを超える筒内圧の推定値を計算するように構築されている。
Pmax推定値 = 補正係数α × 基準筒内圧P ・・・(1)
式(1)は、基準筒内圧Pに対して補正係数αを乗じて、筒内圧最大値Pmaxの推定値を算出する式である。詳細は後述するが、本実施の形態において、基準筒内圧Pとは、両対数PV線図上における理想的な最大筒内圧のことである。補正係数αは、基準筒内圧Pに乗ずるべき係数であり、ピーク筒内圧時のクランク角に応じて定めたものである。ピーク筒内圧時のクランク角を、「ピーククランク角」とも称し、θpmaxとも表記する。以下、式(1)における、補正係数αと基準筒内圧Pの具体的な算出方法をそれぞれ説明する。
【0027】
(補正係数α、ピーククランク角θpmax
図3は、本発明の実施の形態にかかる筒内圧推定装置における補正係数αの算出方法を説明するための図である。図4は、本発明の実施の形態にかかる筒内圧推定装置におけるピーククランク角θpmaxの算出方法を説明するための図である。補正係数αは、エンジン10のピーク筒内圧Pmaxに応じたクランク角θpmaxを求め、このθpmaxに所定の係数βを乗算することにより求めることができる(下記の式(2)参照)。
α = β × θpmax ・・・(2)
【0028】
図3に示すように、本実施の形態では、補正係数αは、θpmax=0[ATDC]のときにピーク値を有している。そして、本実施の形態では、図3に示すように、補正係数αの値が、θpmaxが0よりも大きくなるか或いは小さくなるほどにピーク値から減少するように、つまりθpmaxが上死点から離れるほど小さくなるように、直線的に減少する特性に定められている。補正係数αは1.0未満の値であり、ATDC=0のときに最大の値をとるように設定される。このように設定される理由は、点火プラグの点火時期を進角するとTDCまではほぼ比例的にPmaxが増大するためである。一方、図3における比例係数β(図3のグラフの傾き)は、エンジン10の幾何学的な設計値で決まる値であり、極度の希薄燃焼や大量EGR導入を行わなければ、運転条件によらずほぼ定数とみなすことができる値である。βは、個々の内燃機関の具体的構造に応じて実験等を行うことによりあらかじめ定めておくことができる。図3に示す特性は、あらかじめマップ等の形でECU60に記憶されているものとする。
【0029】
本実施の形態では、ECU60が、ピーククランク角を、次の式(4)に従って計算する。式(3)は、図4に示すa、bとθ、θおよびθpmaxの関係をまとめた式であり、式(3)を変形してθpmaxについて整理したものが式(4)である。
(θpmax−θ)/(θ−θpmax) = a/b ・・・(3)
θpmax = (bθ−aθ)/(a+b) ・・・(4)
【0030】
図4および上記の各式(3)、(4)において、各符号の意義は次のとおりである。θは、筒内圧の増大の後に筒内圧センサ48の出力が平坦となった点のクランク角である。θは、筒内圧の増大の途中における、筒内圧センサ48の出力に基づく筒内圧が所定値(Pu−ΔP)となったときのクランク角である。aは、θからθまでの間の角度である。θは、筒内圧センサ48の出力が平坦となった後に、筒内圧センサ48の出力に基づく筒内圧が減少を開始したときのクランク角である。θは、筒内圧センサ48の出力に基づく筒内圧が減少を開始した後に、筒内圧センサ48の出力に基づく筒内圧が所定値(Pu−ΔP)となったときのクランク角である。bは、θとθとの間の角度である。
【0031】
式(4)は、θとθの差分であるaと、θとθの差分であるbと、の比較に基づいて、幾何学的にピーククランク角θpmaxを算出する式である。すなわち、筒内圧センサ48の出力値は、図4の破線70のように平坦な出力の前後の出力特性に応じた連続的な波形となると考えられる。そうすると、仮にaの大きさとbの大きさが一致するとすれば破線70はθpmaxを中心軸とした対称形を描くと考えられ、図4のようにa<bとなれば破線70のピーク位置つまりθpmaxが相対的に紙面左方に位置することが幾何学的に理解できる。式(4)は、この考え方に基づいてθpmaxを特定する数式の一例として本実施の形態において提供される数式である。
【0032】
このように、本実施の形態にかかる筒内圧推定装置によれば、筒内圧センサ48の出力が出力検出幅を超えて平坦となった場合に、平坦となる前後の出力とこれらの各出力に対応する各クランク角との間の関係から、幾何学的にピーククランク角を算出することができる。筒内圧センサ48の出力が出力検出幅を超えて平坦となった場合には、筒内圧増大区間と筒内圧減少区間で挟まれるその平坦区間内にピーク筒内圧が存在するはずであり、その平坦区間のクランク角領域内にピーククランク角が存在するはずである。平坦区間内においても、シリンダ内の実際の筒内圧は、筒内圧増大から筒内圧減少へと転ずる連続的な変化(破線70)を示すはずである。本実施の形態にかかる筒内圧推定装置によれば、このような前提に立って、筒内圧の増大時の特性と筒内圧の減少時の特性から、平坦区間内におけるピーククランク角の位置を計算することができる。
【0033】
(基準筒内圧P
図5は、本発明の実施の形態にかかる筒内圧推定装置における基準筒内圧Pの算出方法を説明するための図である。図5は、PV線図を対数(logP、logV)で表したもの(両対数PV線図)である。図5には、正常燃焼の場合のPV線と異常燃焼の場合のPV線とがそれぞれ示されている。この基準筒内圧Pが、両対数PV線図において理想線上の最大筒内圧を意味するということが、図5から明らかである。本実施の形態では、図5に示すように膨張行程でポリトロープ変化を示すことを利用して、所定のクランク角θにおける点Aの値(logVθ、logPθ)、すなわち図5のPV線図における座標からPを算出する。すなわち、ECU60が、下記の式(5)に従ってPを算出する。
κ=(logPθ−logP)/(logVθ−logVTDC) ・・・(5)
但し、Pθは、エンジン10の膨張行程における筒内圧である。Vθは、当該筒内圧Pθの時の筒内容積である。VTDCは、上死点での筒内容積である。κは、比熱比である。このように、式(5)は、エンジン10の膨張行程における筒内圧(logPθ)と当該筒内圧の時の筒内容積(logVθ)とに基づいて、PV線図上における理想最大筒内圧Pを算出するものである。式(5)によれば、断熱膨張工程の任意の1点から、基準筒内圧Pを算出することができる。式(1)によれば、断熱膨張工程の任意の1点からこの基準筒内圧Pを計算し、Pmaxを推定することが可能となる。
【0034】
最終的に、ECU60は、上記のようにして求めた補正係数αおよび基準筒内圧Pを用いて、式(1)に従ってPmaxの推定値を計算する。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態にかかる筒内圧推定装置によれば、対数PV線図上における膨張行程での筒内圧と筒内容積の関係と、上死点とピーククランク角との間の関係と、を利用した演算により、筒内圧センサ48が感知できない圧力域の筒内圧値を推定することができる。これにより、筒内圧センサ48で検出困難な過大な筒内圧が発生し、出力検出幅の制約等の事情により筒内圧センサ48で筒内圧検出ができないときであっても、筒内圧センサ48で検出可能な筒内圧値からその過大な筒内圧の推定値を求めることができる。
【0036】
なお、本実施の形態の利点を説明するため、以下、比較例を提示しつつ説明する。
図6および図7は、本発明の実施の形態に対する比較例の問題点を説明するための図である。燃焼割合(MFB)が所定値となるときのクランク角度と最大筒内圧Pmaxとの間にリニアな相関が存在することを利用して、Pmaxを推定するという技術が考えられる。例えば、燃焼割合が50%となるクランク角(以下、「CA50」とも称す)と最大筒内圧との間の相関関係をあらかじめ調べておき、その相関関係に従って、今回のCA50の値に応じたPmaxを推定するという技術である。しかしながら、この場合、下記に示す課題がある。
まず、空気量、A/F、EGR量などの各種運転条件によって上記相関関係が変化するため、運転条件に応じてマップ化しておく必要がある。図6に示すように、ばらつきに合わせて複数の相関特性72、74、76をあらかじめマップ化しておくということである。このような手法では、運転条件に依存しない簡素な方法でPmaxを検出したいという要求に対しては十分に応えることができない。この点、本実施の形態にかかる筒内圧推定装置によれば、運転条件(具体的には、機関回転数NE、負荷KL、A/F)に応じて補正を行わなくともPmaxの推定を精度よく行うことができる。
また、上記のように所定燃焼割合のクランク角とPmaxの相関を利用する手法では、筒内圧センサにその出力検出幅を超えた筒内圧が与えられると、CA50を正常に特定することが困難となる場合がある。これは、図7に模式的に示されている。すなわち、図7の実線のように燃焼時の筒内圧が筒内圧センサの出力検出幅に収まる燃焼(つまり通常燃焼)が実施された場合には、燃焼割合も正常に計算されて燃焼割合50%のクランク角を正確に特定することができる。しかしながら、筒内圧センサの出力検出幅を超える過大な筒内圧が発生すると、燃焼割合の計算にも支障を来たし、図7の破線のように燃焼割合が計算され「誤検出」と付した点のクランク角をCA50として検出してしまう。また、CA50の代わりに、CA10(燃焼割合10%のクランク角)やCA20(燃焼割合20%のクランク角)などの50%未満燃焼割合に基づいて同様の計算を行うことも考えられるが、ノイズやECUのA/D誤差による影響により、実際上、高精度での検出が困難である。また、燃焼の初期は混合気の状態によってばらつきが発生することも想定され、この点においてもCA10やCA20等に依拠することは不都合がある。本実施の形態にかかる筒内圧推定装置によれば、筒内圧センサの出力検出幅を超えた部分(図4の平坦な出力部分)のセンサ出力は使用せずにPmaxを推定するので、上記の問題点は本実施の形態では抑制可能である。
【0037】
本実施の形態にかかる筒内圧推定装置により、特に、過給ダウンサイズエンジンにおいて、異常燃焼を常時監視することでエンジンを確実に保護することができるという利点がある。また、本実施の形態にかかる筒内圧推定装置は、筒内圧センサの検出範囲を広げることなく(つまり性能を落とすことなく)、特殊な回路(例えば、低圧検出回路と高圧検出回路等)を追加しなくとも、一般的な出力検出幅を有する筒内圧センサを用いて実現することができる。
【0038】
なお、上記の実施の形態では、筒内圧センサ48の出力をECU60に入力して、ECU60上でPmaxの計算を行ったが、本発明はこれに限られるものではない。つまり、上記の実施の形態では、前記第1の発明における「算出部」「取得部」「推定部」にかかる演算処理がECU60に集約されており、筒内圧センサ48のセンサ素子部が前記第1の発明における「筒内圧センサ素子」に相当している。しかしながら、本発明は必ずしもECU60上での演算処理に限定されるものではなく、筒内圧センサおよびそのコントローラに上記の筒内圧推定機能を必要に応じて分担させてもよい。つまり、必ずしもECU60等の車両の主演算処理装置を必須構成とする形態に限らず、1つの筒内圧センサ(センサ本体およびコントローラ)として本発明にかかる筒内圧推定装置を提供してもよい。Pmaxを推定することで図2に示す破線70に示す特性が推定的に把握できるため、ピーク筒内圧Pmaxのみならずピーク筒内圧以外の筒内圧を推定しても良い。本実施形態では、2つの燃料噴射弁26、28(ポート噴射弁および筒内噴射弁)を備えるエンジン10に対して、本実施の形態にかかる筒内圧推定装置を搭載したが、本発明は必ずしもこのような燃料噴射系を有するエンジンに限られるものではない。ポート噴射弁と筒内噴射弁のいずれか一つのみを備えるエンジンであってもよい。また、気筒数や気筒の配列方式にも特に限定はない。
【符号の説明】
【0039】
10 エンジン
12 ピストン
14 燃焼室
16 クランク軸
18 吸気通路
20 スロットルバルブ
22 排気通路
24 排気浄化触媒
26、28 燃料噴射弁
30 点火プラグ
32 吸気バルブ
34 排気バルブ
40 クランク角センサ
42 エアフローセンサ
44 水温センサ
46 吸気温センサ
48 筒内圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に取り付けられた筒内圧センサ素子と、
前記内燃機関の膨張行程における筒内圧であるPθと、当該Pθの時の筒内容積であるVθと、ピストン上死点の筒内容積であるVTDCと、比熱比であるκと、κ=(logPθ−logP)/(logVθ−logVTDC)で定まる関係と、に基づいて基準筒内圧であるPを算出する算出部と、
前記内燃機関のピーク筒内圧に応じたクランク角であるピーククランク角を取得する取得部と、
前記算出部で算出したPと前記取得部で取得したピーククランク角とに基づいて筒内圧の推定値を求める推定部と、
を備えることを特徴とする筒内圧推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、
前記取得部で取得したピーククランク角と前記算出部で算出したPとの積を含む演算により、ピーク筒内圧の推定値を求めることを特徴とする請求項1に記載の筒内圧推定装置。
【請求項3】
前記取得部は、
筒内圧の増大の途中において、前記筒内圧センサ素子の出力に基づく筒内圧が所定値となったときのクランク角を求める第1クランク角取得部と、
筒内圧の前記増大の後に前記筒内圧センサ素子の出力が平坦となった点のクランク角を求める第2クランク角取得部と、
前記筒内圧センサ素子の出力が平坦となった後に、前記筒内圧センサ素子の出力に基づく筒内圧が減少を開始したときのクランク角を求める第3クランク角取得部と、
前記筒内圧センサ素子の出力に基づく筒内圧が前記減少を開始した後に、前記筒内圧センサ素子の出力に基づく筒内圧が前記所定値となったときのクランク角を求める第4クランク角取得部と、
前記第1クランク角取得部で取得したクランク角と、前記第2クランク角取得部で取得したクランク角と、前記第3クランク角取得部で取得したクランク角と、前記第4クランク角取得部で取得したクランク角と、に基づいて、前記ピーククランク角を算出するピーククランク角算出部と、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の筒内圧推定装置。
【請求項4】
前記取得部は、
筒内圧の増大中に、所定筒内圧から前記筒内圧センサ素子の出力が平坦となる前の区間における、前記筒内圧センサ素子の出力を取得する第1出力取得部と、
前記筒内圧センサ素子の出力が平坦となった状態から前記筒内圧センサ素子の出力が減少を開始した後、前記所定筒内圧となるまでの区間の、前記筒内圧センサ素子の出力を取得する第2出力取得部と、
前記第1出力取得部で取得した出力と前記第2出力取得部で取得した出力とに基づいて前記ピーククランク角を算出する算出部と、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の筒内圧推定装置。
【請求項5】
内燃機関の筒内圧を検出する筒内圧検出手段と、
前記内燃機関の膨張行程における筒内圧と当該筒内圧の時の筒内容積とに基づいて、PV線図上における理想最大筒内圧を算出する算出手段と、
前記内燃機関のピーク筒内圧に応じたクランク角であるピーククランク角を取得する取得手段と、
前記算出手段で算出した前記理想最大筒内圧に対して、前記取得手段で取得したピーククランク角が上死点から離れるほど筒内圧を相対的に低く推定するように、筒内圧の推定値を算出する推定手段と、
を備えることを特徴とする筒内圧推定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate