説明

管の挿口突部の形成方法

【課題】管の挿口突部を、簡易に形成できるようにするとともに、確実に挿口と一体化できるようにする。
【解決手段】金属製の管の挿口31の外周に突部37を形成するに際し、挿口31の外面34に、突部37の幅に相当する間隔をおいて、突部37の側面形状に対応した形状を有する一対の型部材33A、33Bを配置し、これら型部材33A、33Bどうしの間に溶接金属36を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管の挿口突部の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道管などに用いられる管として、一端に受口が形成されるとともに他端に挿口が形成され、互いに接続される一方の管の受口の内部に他方の管の挿口を挿入するようにした受挿構造の管継手を構成するものがある。このような管は、ダクタイル鋳鉄によって形成された鋳鉄管であることが一般的である。このような管どうしの管継手として、地震発生時などにおいて受口からの挿口の抜け出しを防止した耐震構造を有するものが知られている。一般的な耐震構造は、挿口の先端の外周に突部を形成するとともに、受口の内部にロックリングを収容して、抜け出し力が作用したときに挿口の突部がロックリングに当たることで、その抜け出しを阻止するようになっている。
【0003】
ところで、鋳鉄管は遠心鋳造によって製造されるのが一般的である。しかし、遠心鋳造によって製造する際には、金型からの脱型が不可能にならないように、挿口の外周に突部を一体に鋳造することは行われていない。そこで、上記のような突部は、管を鋳造した後に溶接などによって後付けされることが一般的である。
【0004】
図7は、従来の挿口突部の形成方法の一例を示す。ここで、11はダクタイル鋳鉄管の挿口である。まず、同図(a)に示すように、挿口11の外周に浅溝12を加工する。次に、同図(b)に示すように、浅溝12に、周方向一つ割りの鉄製あるいは鋼製のリング13をはめ込む。次に、同図(c)に示すように、リング13と挿口11とを隅肉溶接によって一体化し固定する。14、15は、その隅肉溶接部である。最後に、同図(d)に示すように、余盛部手入れを行うことで、挿口突部16が形成される。ここでは、余盛部手入れとして、挿口11の先端側にテーパ面17を形成するとともに、これとは反対側に直角仕上を施している。18は、その直角仕上部である。
【0005】
図7において、浅溝12を形成するのは、挿口突部16に十分な強度を付与するためである。テーパ面17や直角仕上部18を形成するために、溶接余盛り部をグラインダーで研削するなどの作業が行われる。
【0006】
図8は、従来の挿口突部の形成方法の他の例であって、特許文献1に記載されたものを示す。ここでは、同図(a)に示すように、幅広のリング21の外周にあらかじめ深溝22を形成することでこの深溝22の底部23を薄肉に形成しておき、このリング21を挿口11にゆるい「締まりばめ」状態で外ばめする。同図(b)は、その外ばめが完了した状態を示す。
【0007】
次に、同図(c)に示すように深溝22に溶接金属24を供給する。すると、この溶接金属24は、深溝22の底部23と、この底部23の近傍の挿口11の管壁部分とを溶融させる。25は、それによって生じた溶け込み部である。溶接金属24は、深溝22の側部に対応したリング21の部分も溶かし込み、それによってリング21が挿口11に一体化される。その後、同様に余盛部手入れを行って、テーパ面26を形成するとともに、溶接金属24の外面をリング21の外面と面一になるように仕上ることで、挿口突部27が形成される。
【特許文献1】特開平9−250664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図7に示した方法では、挿口11に浅溝12を加工することが必要であるばかりか、グラインダーなどを用いて溶接余盛り部の仕上加工を行うことが必要であり、その工程が簡易であるとはいえない。また、管路の敷設現場で所定の長さの管を得るために切管を施した場合には、その敷設現場で溝加工やグラインダー加工を行うことが必要となるため、非常に時間を要することになってしまう。
【0009】
図8に示した方法でも、同様に溶接余盛り部の仕上加工が必要になってしまう。また、リング21として、溝加工が施されたものを準備することが必要である。しかも、図8の方法では、リング21と挿口11とは深溝22が形成されていた部分で溶接されているだけであるため、テーパ面26の部分では両者が一体化しておらず、したがって両者の間に隙間が生じることが皆無であるとはいい難い。
【0010】
そこで本発明は、このような課題を解決して、管の挿口突部を、簡易に形成できるようにするとともに確実に挿口と一体化できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するため本発明は、金属製の管の挿口の外周に突部を形成するに際し、前記挿口の外面に、前記突部の幅に相当する間隔をおいて、前記突部の側面形状に対応した形状を有する一対の型部材を配置し、これら型部材どうしの間に溶接金属を供給するものである。
【発明の効果】
【0012】
このようにすると、一対の型部材と、これら型部材によって挟まれた挿口の部分とによって、溶融金属を流し込んで挿口突部を形成するための型ができあがるため、溝加工を施さなくても、この型のとおりの形状の挿口突部を形成することができる。また溶接金属の凝固後のグラインダー加工なども不要である。しかも、溶接金属によって挿口の表面部分に溶け込みが生じるため、挿口突部を全幅において確実に挿口に一体化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1において、31はダクタイル鋳鉄製の管の挿口、32はその端面である。挿口突部を形成するときには、図1および図2に示すように、挿口31の端面32から管軸方向に所定の距離をおいた位置に、一対の型部材としての銅製のリング33A、33Bを外ばめして固定する。図示のようにリング33A、33Bは横断面が矩形状であり、挿口31の外面34からの高さが、形成しようとする挿口突部の高さと同等以上になるように形成されている。リング33A、33Bどうしの距離は、形成しようとする挿口突部の幅寸法に対応したものとする。リング33A、33Bを挿口31に固定するための手段としては、適当なクランプやその他の器具などを用いることができる。このクランプを、挿口31の端面に掛け合わせ可能なものとすれば、リング33A、33Bを挿口31に固定するときに、管軸方向に沿ったリング33A、33Bの位置決めを容易に行うことができる。
【0014】
次に、溶接トーチ35を用いて、管すなわち挿口31をその軸心まわりに回転させながら、一対のリング33A、33Bどうしの間に鉄系の溶接金属36を供給して肉盛溶接を行う。
【0015】
このとき、トーチ35の位置は、次のように設定する。すなわち、溶接アークが、トーチ35における溶接ワイヤの先端と挿口31の外面34との間で発生し、溶接ワイヤとリング33A、33Bとの間で発生しないように、トーチ35の位置を設定する。こうすると、溶接金属36によって銅製のリング33A、33Bに加えられた熱は、銅が熱の良導体であるために素早く拡散する。その結果、溶接金属36が迅速に凝固して、溶接アークや溶接金属36の熱によって銅製のリング33A、33Bが溶けて溶接金属36や挿口31に溶着するような事態の発生を、効果的に防止することができる。ちなみに、銅の融点は1083℃で鉄の融点である1540℃よりも低いが、その熱伝導率は390W/m/Kであって、鉄の熱伝導率である84W/m/Kに比べて4.6倍も高い値である。
【0016】
溶接部36が凝固したなら、図2(c)に示すように、型部材としてのリング33A、33Bを取り外すことで、挿口突部37を形成することができる。
【0017】
工場などの屋内で作業を行う場合には、自動溶接機を用いることが効率的である。管路の敷設現場などの屋外で作業を行う場合は、手溶接用の溶接棒を使用することで、小型の溶接電源があれば挿口突部37を形成することができる。
【0018】
このようにして挿口突部37を形成すると、挿口31の外面に直接に肉盛溶接を行うため、挿口突部37を形成するためのリングがはまり込む溝を挿口31に形成する必要がないという利点がある。図1および図2においては、図面を模式的に描いているが、実際の挿口突部37は、図3に示すようになる。ここで、38は挿口11への溶け込み部であり、この溶け込み部38が挿口突部37の全幅にわたって形成されることで、挿口突部37が確実に挿口31に一体化される。よって、上述のように溝を形成しなくてもの所要の強度を備えた挿口突部37を形成することができる。また、一対のリング33A、33Bを用いるものであるため挿口突部37を任意の幅で形成することができる。リング33A、33Bを横断面矩形状とすることで、図示のように挿口31の外面34に対して突部37を垂直に近い形で形成することができる。突部の高さは、溶接時の電流、電圧、速度、肉盛数などの種々の溶接条件を変更することで、調節することができる。
【0019】
図4に示すように、できあがった挿口突部37に対して隅肉溶接を行うことができる。39はその隅肉溶接部で、それによってテーパ面40を形成することもできる。このようにさらに隅肉溶接部39を形成することで、溶接部の脚長を大きくすることができて、さらなる強度向上を図ることができる。
【0020】
図5に示すように、リング33Bとして、内周テーパ面41を有するものを利用すれば、挿口突部37を形成するときに同時にテーパ面40を形成することが可能である。
【0021】
リング33A、33Bに代えて、図6に示すように、挿口31の周方向に沿った一部分にのみ配置される一対の銅製の短尺の型部材42A、42Bを用いることもできる。この場合は、溶接を行いながら型部材42A、42Bを挿口31の周方向に沿って移動させることにより、同様に肉盛溶接を行って挿口突部37を形成することができる。
【0022】
上記においては、リング33A、33Bや短尺の型部材42A、42Bとして銅製のものを用いたが、これらをセラミックなどの他の材料によって形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態の管の挿口突部の形成方法を示す図である。
【図2】同形成方法を示す他の図である。
【図3】同方法によって形成された挿口突部の構造を示す図である。
【図4】同方法によって形成された他の挿口突部を示す図である。
【図5】同方法によって形成されたさらに他の挿口突部を示す図である。
【図6】本発明の他の実施の形態の管の挿口突部の形成方法を示す図である。
【図7】従来の管の挿口突部の形成方法を示す図である。
【図8】従来の他の管の挿口突部の形成方法を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
31 挿口
33A、33B リング
34 外面
36 溶接金属
37 挿口突部
42A、42B 型部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の管の挿口の外周に突部を形成するための方法であって、前記挿口の外面に、前記突部の幅に相当する間隔をおいて、前記突部の側面形状に対応した形状を有する一対の型部材を配置し、これら型部材どうしの間に溶接金属を供給することを特徴とする管の挿口突部の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−185114(P2008−185114A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18608(P2007−18608)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】