説明

管内計測装置

【課題】GPS信号が届かない配管内においても、自己位置の推定結果の補正を可能とする管内計測装置を提供する。
【解決手段】下水配管の管内の所要データを計測する管内計測装置U1であって、自己の初期位置と移動量に基づいて自己位置を推定するジャイロ22と、自己位置に対応した計測値を記憶するメモリ5と、を備え、管内の水流と共に移動し得る耐水性カプセル1内に前記ジャイロ22と前記メモリ5とを収容してなり、マンホール位置で得た位置情報に基づいて自己位置の推定値を補正する、ことを特徴とする管内計測装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水管の管内の所要データを計測する管内計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水管の内部の検査や埋設位置等の測量を行うものとして、埋設された配管内を走行する管内自走ロボットを用いるものが知られている(例えば特許文献1参照)。この先行技術では、配管内を移動するロボットの移動量から当該ロボットの自己位置を推定し、この自己位置情報に基づいて埋設配管の管軸が推定される。
【0003】
しかしながら、前記特許文献1に開示された構成では、送信器70を保持してマンホール内でロボット1を操作する作業者M1に加えて、管軸測定器81を保持して地上にて管軸の測定を行う作業者M2の少なくとも2人の作業者が必要であり、管軸の測定が非常に煩わしく人手が掛かるという難点がある。
【特許文献1】特開平7−239230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来技術に係る問題に対して、センサを封入したカプセルやブイを下水流に放流し、移動中に位置情報を検知しながらデータ収集を行う方式が考えられる。このような方式を下水管内に適用することができれば、作業者が長時間マンホール内での作業に従事する必要無しに、配管内全域(通常は作業員がアクセスできないマンホール間の配管なども含む)にわたる連続的なデータを容易に収集することができる。
【0005】
このような方式を下水管内に適用することを考えた場合、下水管のマンホール位置は、所謂GPS(グローバル・ポジショニング・システム:全地球測位システム)により精密に測位することができるものの、GPS信号が届かない配管内では、計測した位置情報の推定値にズレが生じた場合、これを補正する方法はない。従って、計測範囲が長距離にわたる場合には、自己位置の推定結果に大きな誤差が生じることが考えられるので、この方式は、狭い範囲にしか適用できないという難点があった。
【0006】
この発明は、かかる技術的課題に鑑みてなされたもので、GPS信号が届かない配管内においても、自己位置の推定結果の補正を可能とする管内計測装置を提供することを基本的な目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本願発明に係る管内計測装置は、下水配管の管内の所要データを計測する管内計測装置であって、自己の初期位置と移動量に基づいて自己位置を推定する自己位置推定手段と、自己位置に対応した計測値を記憶する記憶手段と、を備え、管内の水流と共に移動し得る耐水性カプセル内に前記自己位置推定手段と前記記憶手段とを収容してなり、マンホール位置で得た位置情報に基づいて自己位置の推定値を補正する、ことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0008】
本願発明によれば、マンホールの位置情報に基づいて自己位置の推定値を補正することにより、GPS信号が届かない下水管内において管内計測装置の自己位置の推定値を補正することができる。この場合、作業者がマンホールに入って計測を行う必要は無く、管内計測の省力化に大いに貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る管内計測装置の概略構成を模式的に示す説明図、図2は、この管内計測装置が用いられる下水管の一部の区域を模式的に示す説明図である。
【0010】
前記管内計測装置U1(以下、適宜、単に「装置」と略称する)は、下水配管Lの管内の所要データを計測するためのもので、図1に示すように、自己の初期位置と移動量に基づいて自己位置を推定する自己位置推定手段としてのジャイロ2(加速度センサ、磁気センサ)と、管内の下水Wの水質を計測する水質計測手段としての水質センサ3を含む各種のセンサと、これらセンサを作動制御するためのセンサ回路4と、これらセンサによる計測データを記憶する記憶手段としてのメモリ5とを備えている。また、メモリ5内に蓄えられたデータを外部に転送するために、装置U1の外部に対する通信のための構成要素としてのアンテナ6,ワイヤレスモジュール7及びバッテリ8などが備えられている。以上の構成要素を作動制御するためのマイクロプロセッサユニット9(MPU)も搭載されている。
【0011】
そして、これら全ての構成要素は、例えば合成樹脂等の耐水性材料で形成され、管内の水流Wと共に移動し得るカプセル1内に封入されている。
前記管内計測装置U1は、好ましくは、以上の構成要素を全て耐水性カプセル1内に収納した状態で、管内の下水Wの比重(通常、約1.0)よりも小さい比重を有するように構成されている。このため、管内の下水Wに浮かぶことができ、その水流と同じ速度で移動するようになっている。従って、管内計測装置U1の移動距離と移動に要した時間とに基づいて当該装置U1の移動速度を求めることにより、流速計などを別途に設ける必要なしに、管内の下水Wの流速を正確に知ることができる。
【0012】
また、より好ましくは、管内計測装置U1の外部に対する通信手段であるアンテナ6が、管内の下水Wの水位よりも上方に位置する(水面よりも上にある)ようにするために、装置U1の重心はアンテナ6よりも下方に位置するように設定されている。これにより、メモリ5内に蓄えられたデータを外部に転送する際の外乱を抑制することができる。
【0013】
以上のように構成された管内計測装置U1を用いて行われる下水管の管内の所要データの計測システムについて説明する。
図2に示すように、下水配管Lには、複数(図2の図示範囲では2つ)のマンホールH1,H2が設けられている。これらマンホールH1,H2の位置は、好ましくは所謂GPS(グローバル・ポジショニング・システム:全地球測位システム)により予め精密に測位されている。
【0014】
前記管内計測装置U1は、上流側のマンホールH1から下水管L内に投入される。そして、下水W中に浮かんで水流と共に移動(図2における矢印参照)を開始すると、投入されたマンホールH1の位置を起点(初期位置)としてジャイロ2による自己位置の推定を開始する。尚、上流側のマンホールH1の入口近傍には、初期位置設定のためのGPS受信機11が設置されている。また、ジャイロ2による自己位置の推定は、従来公知のものと同様の方法による。
【0015】
本実施形態では、下流側のマンホールH2に、管内計測装置U1と通信可能なデータ中継局12が予め設置されている。尚、かかるデータ中継局12の設置箇所としては、位置が既知であり、作業者がアクセス可能な場所であれば、マンホールに限られるものではない。
マンホールH1から投入された管内計測装置U1は、下水流Wによって流されて前記データ中継局12を設置した下流側マンホールH2を通過する際に、それまでに収集したデータをデータ中継局12に送信する。データ中継局12は、管内計測装置U1から受信したデータを、例えば所謂PHSやLANなどの手段により下水の管理センタ(不図示)へ送信する。
【0016】
前記管内計測装置U1では、ジャイロデータが時系列データとして(換言すれば、自己位置に対応した計測データとして)メモリ5内に蓄えられており、このジャイロデータの始点および終点などの特定のポイントに既知の位置情報をマーキングすることができる。従って、管理センタでのデータ解析により、ジャイロデータのズレがある場合には、これが修正される。
すなわち、マンホールH1,H2の位置情報に基づいて自己位置の推定値を補正することで、GPS信号が届かない下水管L内において管内計測装置U1の自己位置の推定値を補正することができる。この場合、作業者がマンホールに入って計測を行う必要は無く、管内計測の省力化に大いに貢献することができる。
【0017】
そして、この後、データ中継局12の位置を新たな起点(初期位置)として計測を再開できるので、それ以前のデータは消去しても良く、管内計測装置U1の内部メモリ5を節約できる。つまり、メモリ5内に蓄積したデータは、データ中継局12を経由して管理センタに送信できるので、長時間にわたる計測データを保持し続ける必要は無く、内部メモリ5の肥大化を抑制することができる。
【0018】
管内計測装置U1が、計測対象となる下水管の最下流位置に到着すると、当該装置U1を引き上げ、内部データの回収が行われる。引き上げ地点にもデータ中継局が設置されている場合には、このデータ中継局が計測データを受信して装置U1が到着した旨を報知し、その後に装置U1の引き上げを行うようにしてもよい。
【0019】
前記管内計測装置U1の自己位置に対応した計測データは、当該装置U1の移動軌跡を表わしているので、この計測データにもとづいて各地点での配管内の下水流Wの流速を算出することができる。従って、下水配管Lを予め地域ごとに区分しておき、この区分された地域ごとの管内の流速を算出することができる。前記計測データはデータ中継局を介して、直ぐに管理センタの解析者のもとに送信されるので、管理センタでは、ほぼリアルタイムで広域にわたる下水管Lへの下水流入量の分布を知ることができ、この分布情報に基づいて下水プラントの処理容量などの切り替えを行うことができる。
【0020】
従来では、下水配管L内の流量計測は人手に依存していたので、管理者がリアルタイムで流量を知ることは不可能で、広域にわたる下水管Lへの下水流入量の分布データを下水プラントの運転に反映するまでには、かなりの時間を要していた。
本実施形態では、前記管内計測装置U1を活用することで、集中豪雨などの場合でも下水プラントの運転を迅速に切り替えることが可能である。
また、同様の計測結果を気象データなどとともに蓄積することで、さまざまな状況における下水プラントへの下水流入量の予測が可能になる。管理者は、これまでに蓄積したデータから、下水処理プラントへの流入量を予測し、この予測に基づいて運転(汚泥処理ライン数など)の切り替えを行うようにしても良い。
【0021】
また、前記管内計測装置U1の自己位置に対応した計測データは、当該装置U1の長距離にわたる移動軌跡を表わしているので、この計測データを地図上にプロットすることで、下水管埋設地図を作成することができる。
【0022】
更に、水質センサ3により採取した水質データから、地域ごとの水質データを得ることができる。これを地図上にプロットすることで、水質監視を地域ごとに行うことができる。尚、下水管L内の水質データや下水流Wの流速データは管内計測装置U1が管内を通過することにより連続した分布データとして得ることが可能である。下水配管Lを地域ごとに監視する場合、これらの分布データに基づいて下水配管Lの地域の区分を行うようにしてもよい。
【0023】
このように、本実施形態によれば、長時間にわたるマンホール内作業を伴うことなく、連続的な管内計測が可能になる。これにより、流速分布データを蓄積して集中豪雨などにも対応可能な細やかで適切な下水プラントの運転指針を得ることができ、また、精密な下水管埋設地図を作成して配管の補修工事などを行う際の有用な情報を得ることができる。更に、地域ごとの水質データから有害物質の発生場所を特定するも可能となる。
【0024】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
尚、以下の説明において、実施の形態1における場合と実質的に同様の構成を備え実質的に同様の作用をなすものについては、同一の符号を付し、それ以上の説明は省略する。
【0025】
図3は、実施の形態2における下水管の一部の区域を模式的に示す説明図である。
この実施の形態2は、前記実施の形態1におけるデータ中継局12に代えて所謂RFIDタグ22(つまり、ID情報を埋め込んだICタグ)を用いるようにしたものである。従って、この実施の形態2の管内計測装置U2は、その具体構成は図示しなかったが、RFIDリーダ用のアンテナが備えられている。このRFIDリーダ用アンテナについても、実施形態1におけるアンテナ6と同様の理由で、アンテナが常に水面よりも上にあるように、管内計測装置U2の重心が設定されている。尚、この場合、実施の形態1で用いられていたワイヤレスモジュール7は除外してもかまわない。
【0026】
この実施の形態2の管内計測装置U2は、上述のように、RFIDリーダ用アンテナが組み込まれている点およびワイヤレスモジュール7を除外してもかまわない点を除いては、実施の形態1で用いた管内計測装置U1と実質的に同様に構成され、実質的に同様の作用をなすものである。また、マンホールH1,H2の位置は、好ましくはGPSにより予め精密に測位されている。
【0027】
本実施形態では、下流側のマンホールH2に、管内計測装置U2と通信可能なRFIDタグ22が予め配設されている。尚、かかるRFIDタグ22の配置箇所としては、位置が既知であり、作業者がアクセス可能な場所であれば、マンホールに限られるものではない。
マンホールH1から投入された管内計測装置U2は、下水流Wによって流されて前記RFIDタグ22を配設した下流側マンホールH2を通過する際に、RFIDリーダ用アンテナによってマンホールH2の位置を検知することができる。
【0028】
管内計測装置U2では、実施形態1における場合と同様に、ジャイロデータが時系列データとして(換言すれば、自己位置に対応した計測データとして)メモリ5内に蓄えられており、このジャイロデータ上にマンホールH1,H2の正確な位置情報をマーキングすることができる。これにより、ジャイロデータのズレがある場合には修正される。
すなわち、初期位置としてのマンホールH1の位置情報、及びマンホールH2内に予め配設されたRFIDタグ22から読み込んだ位置情報に基づいて、自己位置の推定値を補正することにより、GPS信号が届かない下水管L内において管内計測装置U1の自己位置の推定値を補正することができ、作業者がマンホールに入って計測を行う必要は無く、管内計測の省力化に大いに貢献することができるのである。
【0029】
管内計測装置U2が、計測対象となる下水管の最下流位置に到着すると、当該装置U2を引き上げ、内部データの回収が行われる。
この回収したデータを解析することで、管内計測,下水プラントの運転制御,下水管路の精密地図の作成および下水管内の水質分布図の作成等について、実施形態2についても、実施形態1における場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0030】
すなわち、長時間にわたるマンホール内作業を伴うことなく、連続的な管内計測が可能になる。これにより、流速分布データを蓄積して集中豪雨などにも対応可能な細やかで適切な下水プラントの運転指針を得ることができ、また、精密な下水管埋設地図を作成して配管の補修工事などを行う際の有用な情報を得ることができる。更に、地域ごとの水質データから有害物質の発生場所を特定するも可能となる。
しかも、この場合、実施形態1のようにデータ中継局12を利用する場合に比して、安価なRFIDタグ22を用いて管内計測装置U2の自己位置の推定値を補正することができるので、計測システムの低コスト化に寄与することができる。
【0031】
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3について説明する。
図4は、実施の形態3における下水管の一部の区域を模式的に示す説明図である。
この実施の形態3は、データ中継局12(実施の形態1)やRFIDタグ22(実施の形態2)のような特別な機器類を下流側のマンホールH2に設置する必要無しに、管内計測を行うようにしたものである。
【0032】
この実施の形態3の管内計測装置U3は、その具体構成は図示しなかったが、周囲の音響特性変化を検出する音響特性検出手段として音響発振機と収音マイクとを備えている。これら音響特性検出用の構成要素についても、実施形態1におけるアンテナ6と同様の理由で、常に水面よりも上にあるように、管内計測装置U3の重心が設定されている。尚、この場合についても、実施の形態1で用いられていたワイヤレスモジュール7は除外してもかまわない。
【0033】
この実施の形態3の管内計測装置U3は、上述のように、音響発振器とマイクが組み込まれている点およびワイヤレスモジュール7を除外してもかまわない点を除いては、実施の形態1で用いた管内計測装置U1と実質的に同様に構成され、実質的に同様の作用をなすものである。また、マンホールH1,H2の位置は、好ましくはGPSにより予め精密に測位されている。
【0034】
上流側のマンホールH1から投入された管内計測装置U3は、下水流Wによって流されて下流側マンホールH2を通過する際に、マイクにより収集した音響データに基づいて音響変化を検出し、マンホールH2の位置であることを推定する。
ここで、音響変化を検出する方法としては、本装置U3から発信された音響信号(例えば、超音波やインパルス音など)に対する応答を得るアクティブな方法と、本装置U3からは何も発信せずに、水音または水音の管壁面による反響音などの周囲の音から音響変化を検出するパッシブな方法とが考えられる。パッシブな方法を採用する場合には本装置U3の構成から音響発振機は除外しても良い。
【0035】
本装置は、幾つめのマンホールを通過したかにより、時系列データとして収集されたジャイロデータ上に正確な位置情報をマーキングすることが可能になる。これによりジャイロデータのズレを修正できる。
計測対象となる下水管の下流まで本装置が到着した時点で、本装置を引き上げ、内部データの回収を行う。
【0036】
管内計測装置U3では、実施の形態1における場合と同様に、ジャイロデータが時系列データとして(換言すれば、自己位置に対応した計測データとして)メモリ5内に蓄えられており、このジャイロデータ上にマンホールH1,H2の正確な位置情報をマーキングすることができる。これにより、ジャイロデータのズレがある場合には修正される。
すなわち、初期位置としてのマンホールH1の位置情報、及びマンホールH2を通過する際の位置情報に基づいて、自己位置の推定値を補正することにより、GPS信号が届かない下水管L内において管内計測装置U3の自己位置の推定値を補正することができ、作業者がマンホールに入って計測を行う必要は無く、管内計測の省力化に大いに貢献することができるのである。
【0037】
管内計測装置U2が、計測対象となる下水管の最下流位置に到着すると、当該装置U2を引き上げ、内部データの回収が行われる。
この回収したデータを解析することで、管内計測,下水プラントの運転制御,下水管路の精密地図の作成および下水管内の水質分布図の作成等について、実施形態3についても、実施形態1における場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0038】
すなわち、長時間にわたるマンホール内作業を伴うことなく、連続的な管内計測が可能になる。これにより、流速分布データを蓄積して集中豪雨などにも対応可能な細やかで適切な下水プラントの運転指針を得ることができ、また、精密な下水管埋設地図を作成して配管の補修工事などを行う際の有用な情報を得ることができる。更に、地域ごとの水質データから有害物質の発生場所を特定するも可能となる。
しかも、この場合、データ中継局12(実施形態1)やRFIDタグ22(実施形態2)のような特別な機器類を下流側のマンホールH2に設置する必要無しに、管内計測を行い、より安価な構成で管内計測装置U3の自己位置の推定値を補正することができるので、より低コストの計測システムの実現に寄与することができる。
【0039】
実施の形態4.
次に、本発明の実施の形態4について説明する。
図5は、実施の形態4における下水管の一部の区域を模式的に示す説明図である。
この実施の形態4は、前述の実施の形態1,2及び3で述べた方法を組み合わせたものである。
この実施の形態4の管内計測装置U4は、その具体構成は図示しなかったが、実施の形態1の管内計測装置U1の構成要素に加えて、RFIDリーダ用アンテナ、並びに周囲の音響特性変化を検出する音響特性検出手段としての音響発振機および収音マイクを備えている。RFIDリーダ用アンテナ並びに音響発振機および収音マイクについても、実施形態1におけるアンテナ6と同様の理由で、常に水面よりも上にあるように、管内計測装置U3の重心が設定されている。尚、この場合についても、マンホールH1,H2,H3及びH4の位置は、好ましくはGPSにより予め精密に測位されている。
【0040】
本実施形態では、初期位置に対応するマンホールH1(第1マンホール)の下流側における次のマンホールH2(第2マンホール)には何らの機器も設置されておらず、この第2マンホールH2の下流側における次のマンホールH3(第3マンホール)に、管内計測装置U4と通信可能なRFIDタグ22が予め配設されている。更に、第3マンホールH3の下流側における次のマンホールH4(第4マンホール)に、管内計測装置U4と通信可能なデータ中継局12が予め設置されている。尚、かかるデータ中継局12やRFIDタグ22の配置箇所としては、位置が既知であり、作業者がアクセス可能な場所であれば、マンホールに限られるものではない。
【0041】
第1マンホールH1から投入された管内計測装置U4は、下水流Wによって流されながら自己位置の推定を開始し、第2マンホールH2を通過する際に、実施の形態3で説明した方法でジャイロデータ上に正確な位置をマーキングし、ジャイロデータのズレがある場合には修正される。更にその後、RFIDタグ22を配設した第3マンホールH3を通過する際には、実施の形態2で説明した方法により、ジャイロデータ上に正確な位置をマーキングし、ジャイロデータのズレがある場合には修正される。そして、更にその後、データ中継局12が設置された第4マンホールH4を通過する際には、実施の形態1で説明したように、ジャイロデータ上に正確な位置をマーキングし、ジャイロデータのズレがある場合には修正され、更に、これまでに蓄積したデータをデータ中継局12経由で管理センタ(不図示)送信し、このデータ中継局12の位置を新たな起点(初期位置)として計測を再開する。
【0042】
この場合、実施の形態1,2及び3において可能な全ての作用を行うことができ、しかも、下流側の各マンホールH2,H3,H4のそれぞれについて、その位置に応じた適正な機器構成とすることにより、データ中継局12やRFIDタグ22などの機器の設置コストを抑制して、長距離の下水管Lについて比較的低コストで管内計測を行うことが可能になる。
【0043】
実施の形態5.
次に、本発明の実施の形態5について説明する。
以上の実施の形態1から4では、管内計測装置U1からU4は何れも、例えば作業者の手によって、初期位置に対応するマンホールH1から下水管L内に投入されるように構成されていた。この代わりに、下水管L内の水位が上昇し所定の閾値を越えた場合に、自動的に管内計測が開始されるようにすることができる。かかる方式は、管内計測の目的が、実施の形態1で述べたような大雨時などの下水プラントの流入予測である場合に、とりわけ有効である。
【0044】
図6は、本発明の実施の形態5に係る下水管内における管内計測装置の配置を模式的に示す説明図である。
この図に示すように、本実施形態では、下水管Lの管内計測の初期位置に対応した部位に、下水管L内の通常水位K1よりも一定距離以上高い所定の高さ位置に設定された保持具Jが取り付けられている。この保持具Jは、管内計測装置Uの下面を載置し得るように、縦断面形状が略皿形に形成されている。
【0045】
前記管内計測装置Uは、前述の実施の形態1から4の何れのタイプであっても良く、予め前記保持具J上に載置して保持されている。下水管L内の水位がある前記保持具Jにまで至らない状態では、管内計測装置Uの放流が開始されることはない。このとき装置Uの電源はOFF状態に維持されるように構成されている。
【0046】
そして、大雨などで下水管L内の水位が上昇し、前記保持具Jの設置高さに対応する閾値(つまり、計測開始水位K2)を越えた場合には、装置Uが下水に浮いて放流が開始される。このとき、水に触れたことや水に浮いたことをトリガにして、装置Uの電源がON状態に切り替わるように構成されている。この後、管内計測装置Uは、下水流と共に移動しながら、実施の形態1からで述べた方法の何れかにより、自己位置の推定、及び自己位置の推定値の補正を行いながらデータ収集を行うようになっている。
【0047】
図7は、実施の形態5の変形例に係る下水管内における管内計測装置の配置を模式的に示す説明図であるが、この図に示すように、下水管L内の通常水位K1よりも上方の複数(本変形例では3つ)の高さ位置に保持具Ka,Kb,Kcを設置し、これら保持具Ka,Kb,Kc上に第1,第2,第3の管内計測装置Ua,Ub,Ucをそれぞれ載置して保持させておくことにより、下水管L内の水位が上昇して第1保持具Jaの設置高さに対応する閾値(つまり、計測開始水位Ka)を越えた場合には、第1管内計測装置Uaが放流されて計測を開始し、水位が更に上昇して第2保持具Jbの設置高さに対応する閾値(つまり、計測開始水位Kb)を越えた場合には、第2管内計測装置Ubが放流されて計測を開始し、更にまた水位が上昇して第3保持具Jcの設置高さに対応する閾値(つまり、計測開始水位Kc)を越えた場合には、第3管内計測装置Ucが放流されて計測を開始するように、構成することもできる。
【0048】
以上、説明したように、この実施の形態5によれば、管内の水位が一定以上になると自動的に、管内計測装置の放流が開始され管内計測が開始されるので、大雨時に作業者がマンホールへ当該装置を投入する作業を不要にすることができる。また、複数回計測を行う場合は均一なデータを得ることができ、より正確な流入予測を行うことができるようになる。
【0049】
尚、本発明は、以上の実施態様に限定されるものではなく、また、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良あるいは設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態1に係る管内計測装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【図2】前記管内計測装置が用いられる下水管の一部の区域を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る下水管の一部の区域を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係る下水管の一部の区域を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明の実施の形態4に係る下水管の一部の区域を模式的に示す説明図である。
【図6】本発明の実施の形態5に係る下水管内における管内計測装置の配置を模式的に示す説明図である。
【図7】前記実施の形態5の変形例係る下水管内における管内計測装置の配置を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1 カプセル、2 ジャイロ、3 水質センサ、5 メモリ、6 アンテナ、7 ワイヤレスモジュール、9 マイクロプロセッサユニット、11 GPS受信機、12 データ中継局、22 RFIDタグ、H1,H2,H3,H4 マンホール、J,Ja,Jb,Jc 保持具、K2,Ka,Kb,Kc 計測開始水位、L 下水管、U,U1〜U4,Ua〜Uc 管内計測装置、W 下水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水配管の管内の所要データを計測する管内計測装置であって、
自己の初期位置と移動量に基づいて自己位置を推定する自己位置推定手段と、
自己位置に対応した計測値を記憶する記憶手段と、を備え、
管内の水流と共に移動し得る耐水性カプセル内に前記自己位置推定手段と前記記憶手段とを収容してなり、
マンホール位置で得た位置情報に基づいて自己位置の推定値を補正する、
ことを特徴とする管内計測装置。
【請求項2】
前記マンホール内に予め設置されたデータ中継局と通信を行うことによって自己位置の推定値を補正する、ことを特徴とする請求項1に記載の管内計測装置。
【請求項3】
前記マンホール内に予め配設されたRFIDタグから読み込んだ位置情報に基づいて自己位置の推定値を補正する、ことを特徴とする請求項1に記載の管内計測装置。
【請求項4】
周囲の音響特性変化を検出する音響特性検出手段を更に備え、該音響特性検出手段が周囲の音響特性変化を検出することでマンホール位置の通過を検知して自己位置の推定値を補正する、ことを特徴とする請求項1に記載の管内計測装置。
【請求項5】
前記耐水性カプセルは、前記管内の下水の比重よりも小さい比重を有する、ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の管内計測装置。
【請求項6】
装置外部に対する通信およびデータ収集のための構成要素が管内の水位よりも上方に位置するように設定されている、ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の管内計測装置。
【請求項7】
通過した下水配管内の流速分布を計測する、ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の管内計測装置。
【請求項8】
前記耐水性カプセルが保持手段によって所定高さに保持され、管内の水位が前記所定高さに達した場合に、管内の水流と共に移動を開始し管内計測を開始する、ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の管内計測装置。
【請求項9】
前記自己位置の推定値に基づいて移動軌跡が算出される、ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の管内計測装置。
【請求項10】
管内の下水の水質を計測する水質計測手段を更に備え、通過した下水配管内の水質分布を計測する、ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の管内計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−286654(P2008−286654A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132336(P2007−132336)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】