説明

管内面粉体塗装装置

【課題】より平滑性の高い管内面粉体塗装を施すことができるようにする。
【解決手段】ノズル10を備えたランス4を管体内に挿入し、その管体を管軸周りに回転させながら管内面に粉体塗料を噴射する管内面粉体塗装装置において、ノズル10は、ランス4内に連通するように接続されて管軸方向に伸びる中空の根元部11と、根元部11の前端から横方向に突出する中空の緩衝部12と、緩衝部12の先端から前方下向きへ突出する中空のノズル部13とを備え、ノズル部13の前端に上下方向に伸びるスリット21を設けた。粉体塗料が、根元部11から緩衝部12へ、また、緩衝部12からノズル部13へと2箇所のクランク(屈曲部)を通るので、粉体塗料はその勢いを弱められるとともに撹拌される。このため、スリット21の全長に亘って均等な吐出圧が得られ、エアブローの発生を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋳鉄管などの管内面に粉体塗装を行う際に使用する管内面粉体塗装装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水道水、ガスなど各種流体用の管路は、その管内外面に防食のための塗装等を施すことが一般的に行われている。
【0003】
水道用のダクタイル鋳鉄管の場合、従来からセメントライニングで管内面を被覆するのが一般的であった。しかし、近年は、化学的安定性や、耐久性、施工性などの観点から粉体塗装を採用するケースが増えている。
【0004】
管内面に粉体塗装を施すための管内面粉体塗装装置として、例えば、図5及び図6に示すものがある。この管内面粉体塗装装置は、管体1を載置できるローラ3を備えた走行台車2と、塗料を噴射するノズル5を備えたランス4等で構成されている。
【0005】
加熱した管体1を前記ローラ3上に載置し、駆動力によってローラ3が回転すると、管体1が管軸周りに回転する。管体1を回転させながら、走行台車2を管軸方向に沿って移動させる。走行台車の移動により、管体1の端部開口から管内へランス4が挿入される。
【0006】
ランス4の先端に接続したノズル5から塗料を吐出しながら、走行台車2を走行させることにより、そのノズル5と管体1とを管軸方向に相対移動させ、管内面全体に粉体塗装を施していく(例えば、特許文献1参照)。
また、固定の基台上に前記ローラ3を設けて、そのローラ3上に載置された管体1に対して、ノズル5を備えたランス4を管軸方向に移動させる場合もある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、そのノズル5から吐出される粉体塗料を、より均等に分散させて均一な塗膜が形成できるように、スリットや案内板を備えたノズル構造の技術も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2000−279867号公報
【特許文献2】特開平5−31415号公報
【特許文献3】特開平11−319679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特に、小口径と呼ばれる呼び径φ75mm〜250mm程度の管体に粉体塗装を施す場合において、従来の管内面粉体塗装装置を用いると、ノズル5から管内面までの距離が非常に近くなるという問題がある。
例示した呼び径φ75mm〜250mm程度の管体では、その距離が、40mm〜130mm程度となり、充分な距離が確保できない。
【0010】
このように、ノズル5から管内面までの距離が近いと、エアーによる巻き込み等により、例えば、図7(a)に示すような、ブローホールa、ピンホールbなどのエアブローの発生が認められることがある。
【0011】
また、粉体塗料はノズル5から吐出された後、放射状に広がりながら噴射されるため、ノズル5から管内面までの距離が近いと、塗装パターンが広い範囲に及ばない。
このため、図7(b)に実線で示す塗膜cのように、塗装パターンが広い範囲に及んでいないと、相対的に広い塗装パターンである鎖線で示す塗膜dと比較して、塗膜の厚さが全体を通じて不均一になるという傾向がある。その結果、塗装面の平滑性に劣るという問題もある。
【0012】
そこで、この発明は、ノズルから管内面までの距離が近くても、より平滑性の高い管内面粉体塗装を施すことができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明は、粉体塗料を吐出可能なノズルを備えたランスを管体内に挿入し、その管体を管軸周りに回転させながら、前記管体と前記ノズルとを管軸方向に相対移動させて、前記管体の管内面に粉体塗料を噴射する管内面粉体塗装装置において、前記ノズルは、前記ランス内に連通するように接続されて管軸方向に伸びる中空の根元部と、その根元部内に連通し前記根元部の前端から横方向に突出する中空の緩衝部と、その緩衝部内に連通し前記緩衝部の先端から前方へ突出する中空のノズル部とを備え、前記ノズル部の前端に上下方向に伸びるスリットを設け、そのスリットから前記管内面に粉体塗料が吐出される構成を採用した。
【0014】
すなわち、ランスから前方へ真っ直ぐに伸びるノズルを用いるのではなく、ランスから管軸方向に伸びる根元部、横方向に突出する緩衝部、前方へ突出するノズル部の順に粉体塗料の通路を設けたノズルを使用する。ノズルの途中2箇所にクランク(屈曲部)を設けたことにより、そのクランクで乱流を生じさせ、粉体塗料はその勢いを弱められるとともに撹拌される。
このため、上下方向に伸びるスリットの全長に亘って均等な吐出圧が得られ、管内面に対しては所定の吐出量を維持しつつ、エアブローの発生を抑えることができる。
【0015】
また、前記ノズル部の突出方向を、前記緩衝部の先端から前方下向きとすれば、塗膜の厚さが全体を通じてより均一になり、塗装面の平滑性が向上する。
【0016】
これらの各構成において、前記ノズル部の前端は、外向きに突出する球面状の内面を有するキャップで閉じられており、前記スリットは、そのキャップの球面状の内面から外側に貫通して形成されている構成を採用することができる。
スリットを球面状のキャップに貫通して形成すれば、そのスリットの上下方向全長に亘って、さらに均等な吐出圧による粉体塗料の噴射が可能となり、塗膜の厚さの均一性がさらに向上する。
これは、内面が球面であれば、前記クランクを通過した粉体塗料の乱流が、ノズル部前端の球面状の内面に当たって整流され、その粉体塗料の吐出圧が、スリットの全長に沿って均等に作用しやすいからではないかと考えられる。
【0017】
また、前記根元部の伸びる方向と前記緩衝部の突出方向とは直交することが、前記乱流の発生による粉体塗料の流れの勢いの緩和、及び撹拌を行う上で望ましい。
【0018】
また、前記緩衝部の中空部分の断面積を、前記根元部の中空部分の断面積よりも大きくすることが同じく望ましい。
【0019】
さらに、前記緩衝部の途中に縮径部を設け、その縮径部の断面積を、その縮径部を挟む前後の前記緩衝部の断面積よりも小さくすることが同じく望ましい。また、その縮径部の断面積は、前記根元部の断面積以上とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
この発明は、ノズルから管内面までの距離が近くても、より平滑性の高い管内面粉体塗装を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。従来の技術との差異点は、ランス4の先端に取り付けられるノズル10の構成であるので、このノズル10の構成を中心に説明する。
【0022】
ノズル10は、中空のパイプからなるランス4内の空間に連通するように、そのランス4の前端に接続されている。
そのノズル10の構成は、図1に示すように、根元部11、緩衝部12,ノズル部13を備えている。
【0023】
根元部11は、図1及び図2に示すように、管軸方向に伸びて、その内部に断面円形の空間を有している。その中空の空間は、ランス4側の後端から前端まで一定の内径r1で続いている。
また、その根元部11内の空間の軸心11cは、ランス4の軸心4cと一致した状態になるように、根元部11とランス4とが固定されている。
【0024】
前記根元部11内の空間に連通するように、その根元部11の前端に緩衝部12が接続されている。緩衝部12は、前記根元部11の前端から横方向に突出している。すなわち、緩衝部12は、前記根元部11の前端からその根元部11内の空間の軸心11cに直交する方向に水平に伸びている。
【0025】
また、緩衝部12は、その内部に断面円形の空間を有している。その緩衝部12内の空間は、根元部11側の端部から突出方向先端まで一定の内径r2で続いており、その途中に1箇所の縮径部14が設けられている。
【0026】
その縮径部14の断面は円形であり、その縮径部14の内径r4は、前後の前記緩衝部12の内径r2よりも小さく設定されている。このため、縮径部14の断面積は、その縮径部14を挟む前後の前記緩衝部12の断面積よりも小さくなっている。
【0027】
また、前記縮径部14を除く前記緩衝部12の内径r2は、前記根元部11の内径r1よりも大きく設定されている。このため、その緩衝部12内の空間の断面積は、前記根元部11内の空間の断面積よりも大きくなっている。
なお、この縮径部14の内径r4は、根元部11の内径r1と同一としてもよいし、その根元部11の内径r1よりも大きくしてもよい。
【0028】
前記緩衝部12内の空間に連通するように、その緩衝部12の先端にノズル部13が接続されている。そのノズル部13は、前記緩衝部12の先端から前方下向きに突出している。そのノズル部13の突出方向は、水平方向前方に対して下向きα°となっている。
【0029】
ノズル部13は、内部に断面円形の空間を有しており、その前端にスリット21付きのキャップ20を備えている。
【0030】
前記キャップ20は、外向きに凸状である球面状の内面20a及び外面を有し、前記スリット21は、そのキャップ20の球面状の内面20aから外側に貫通して上下方向に形成されている。
【0031】
そのノズル部13内の空間は、緩衝部12側の端部から前端まで一定の内径r3で続き、キャップ20の球面状の内面20aに至って前端側に向かって縮径している。ノズル部13の前記一定の内径r3は、緩衝部12内の空間の内径r2と同一としてもよいし、その緩衝部12内の空間の内径r2と異なる内径としてもよい。
【0032】
前記ノズル部13内の空間の軸心13cと、前記根元部11内の空間の軸心11cとは、距離L1だけ隔てられており、前記緩衝部12内の空間の軸心12cと、前記ノズル部13の前端との距離は、距離L2となっている。
【0033】
前記スリット21は、前記ノズル部13内の空間の軸心13cを通り、且つその軸心13cを挟んで上下対称に設けられている。すなわち、図4に示すように、スリット21の上下端の前記軸心13c上の任意の1点からの仰角α1、α2は等しく設定され、キャップ20の球面の形状も軸心13cを挟んで対称である。スリット21の全長はLであり、その幅は全長に亘ってWである。
【0034】
この構成からなるノズル10によれば、ランス4から供給された粉体塗料が、根元部11から緩衝部12へ、また、緩衝部12からノズル部13へと2箇所のクランク(屈曲部)を通るので、その各クランクで乱流を生じさせ、粉体塗料はその勢いを弱められるとともに撹拌される。
このため、スリット21の全長Lに亘って均等な吐出圧が得られ、エアブロー等の発生を抑えることができる。
【0035】
なお、この実施形態では、ノズル部13と緩衝部12との接続部分に、弧状部15が設けられている。弧状部15は、その外径側の内周面15aが凹状円弧面となって、また、内径側の内周面15bは、その外径側の凹状円弧面よりも相対的に小径の凸状円弧面となっている。
このため、粉体塗料がスムーズにスリット21へ誘導されるようになっている。
【0036】
また、この実施形態では、前記ノズル部13の突出方向、すなわち、前記軸心13cの向きが、前記緩衝部12の先端から前方下向きであるので、塗膜の厚さを、全体を通じてより均一にすることができる。
【0037】
さらに、スリット21が、そのノズル部13前端の球面状の内面20aの部分に貫通して形成されているので、前記各クランクを通過した粉体塗料の乱流が、その球面状の内面20aに当たって整流される。このため、スリット21の全長Lに亘って、さらに均等な吐出圧が得られ、塗膜の厚さの均一性がさらに向上する。
【0038】
また、スリット21の長手方向(前記全長L方向)が、管体1の管軸方向に沿っているため、そのスリット21から吐出された粉体塗料は、管体1の内面1aに対して管軸方向に長く管周方向に短い塗装パターンを形成する。
このため、前記内面1aの管軸方向に長い範囲を一度に塗装することができ、その塗装効率を高めることができるとともに、塗膜の厚さをさらに均一に近づけ、塗装面の平滑性をさらに高めることができる。
【0039】
なお、他の実施形態として、緩衝部12の突出方向を水平ではなく、根元部11側からノズル部13側に向かって下り勾配、又は上り勾配とした構成も考えられる。また、その緩衝部12は、根元部11の前端から横方向(根元部11内の空間の軸心11cに交差する方向)に突出していればよく、その突出方向は、根元部11内の空間の軸心11cに直交する方向に限定されない。
また、上下方向に伸びるスリット21の幅W、長さL、角度α1,α2の比率、及び位置は、粉体塗装を行う管体1や塗料の種別などに応じて適宜決定される。そのスリット21を設ける部分におけるノズル部13の内面形状についても、この実施形態のように球面状とするほか、フラット面とした構成なども考えられ、管体1や塗料の種別などに応じて適宜決定される点は同様である。
【実施例】
【0040】
実施例を以下に示す。
管内面1aに粉体塗装を施す管体1は、φ150mm×5mのダクタイル鋳鉄管。塗料として、エポキシ樹脂粉体塗料を用いる。
【0041】
管体1の回転速度は、250mm/min。走行台車2の移動速度は、9.0m/minである。粉体塗料の吐出量は、1000g/30秒。乾燥エアー圧送式にて行った。
塗装回数は2回塗り。塗装膜厚は150μm/回以上、管温度は180〜220℃とした。
【0042】
ノズル10は、図1乃至4のものを用いた。
根元部11,緩衝部12、縮径部14、ノズル部13内の空間は、いずれも断面円形となっている。
【0043】
根元部11内の空間の内径r1を15〜16mm、緩衝部12内の空間の内径r2を22mm、ノズル部13内の空間の後端側の内径r3を22mmとした。
また、前記緩衝部12の途中に1箇所の縮径部14を設け、その縮径部14の内径r4を15〜16mmとした。スリット21の全長Lは22mm 、幅Wは2mm。軸心13cと水平方向とのなす角度αは60°とした。軸心11c,13c間距離L1は32〜33mm、軸心12cとノズル部13前端との距離L2は40mmとした。
【0044】
この条件において、管内面1aに粉体塗装を施したところ、エアブローの発生は皆無であり、平滑で光沢のある仕上がり状態が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】一実施形態のノズルを示す斜視図
【図2】ノズルの平面図(断面図)
【図3】塗装時の状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図
【図4】ノズルの要部拡大正面図
【図5】粉体塗装の説明図
【図6】粉体塗装の説明図
【図7】(a)(b)は、ノズルから吐出される粉体塗料によって形成される塗膜の説明図
【符号の説明】
【0046】
1 管体
1a 管内面
2 走行台車
3 ローラ
4 ランス
5,10 ノズル
11 根元部
11c,12c,13c 軸心
12 緩衝部
13 ノズル部
14 縮径部
15 弧状部
20 キャップ
21 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体塗料を吐出可能なノズル10を備えたランス4を管体1内に挿入し、その管体1を管軸周りに回転させながら、前記管体1と前記ノズル10とを管軸方向に相対移動させて、前記管体1の管内面1aに粉体塗料を噴射する管内面粉体塗装装置において、
前記ノズル10は、前記ランス4内に連通するように接続されて管軸方向に伸びる中空の根元部11と、その根元部11内に連通し前記根元部11の前端から横方向に突出する中空の緩衝部12と、その緩衝部12内に連通し前記緩衝部12の先端から前方へ突出する中空のノズル部13とを備え、前記ノズル部13の前端に上下方向に伸びるスリット21を設け、そのスリット21から前記管内面1aに粉体塗料が吐出されることを特徴とする管内面粉体塗装装置。
【請求項2】
前記ノズル部13の突出方向は、前記緩衝部12の先端から前方下向きであることを特徴とする請求項1に記載の管内面粉体塗装装置。
【請求項3】
前記ノズル部13の前端は、外向きに突出する球面状の内面を有するキャップ20で閉じられており、前記スリット21は、そのキャップ20の球面状の内面から外側に貫通して形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の管内面粉体塗装装置。
【請求項4】
前記根元部11の伸びる方向と前記緩衝部12の突出方向とは直交することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の管内面粉体塗装装置。
【請求項5】
前記緩衝部12の中空部分の断面積を、前記根元部11の中空部分の断面積よりも大きくしたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の管内面粉体塗装装置。
【請求項6】
前記緩衝部12の途中に縮径部14を設け、その縮径部14の断面積を、その縮径部14を挟む前後の前記緩衝部12の断面積よりも小さくしたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の管内面粉体塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−254957(P2009−254957A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105719(P2008−105719)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】