説明

管状体、管状体ユニット、中間転写体、及び画像形成装置

【課題】クリーニング性の低下が抑制された管状体を提供すること。
【解決手段】アルキル基数9個以上13個以下の脂肪族ジアミンと、芳香環を有するジカルボン酸と、から誘導される繰り返し単位構造を少なくとも有する半芳香族ポリアミド樹脂と、カーボンブラックと、を含むポリアミド樹脂層の単層体で構成、又は当該ポリアミド層を少なくとも有する2層以上の積層体で構成された管状体10(無端ベルト10)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状体、管状体ユニット、中間転写体、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、「結晶性ポリアミド樹脂と非晶性ポリアミド樹脂のブレンドによる中間転写ベルト」が提案されている。
また、特許文献2には、「ポリアミド樹脂に導電剤を配合する際に銅化合物を添加し導電剤の分散性を安定化させた中間転写ベルト」が提案されている。
また、特許文献3には、「脂肪族ポリアミド樹脂に電解質化合物を添加して抵抗の安定性を狙った中間転写ベルト」が提案されている。
【0003】
また、特許文献4には、「脂肪族系ポリアミド系樹脂に対し充填剤としてスメクタイト系の充填剤を添加することで、環境変化による膜の割れ発生を抑制すると共に、膜表面の硬度を調整した中間転写ベルト」が提案されている。
また、特許文献5には、「結晶性熱可塑性樹脂を用いた中間転写ベルトであって、ナノインデンテーション法よる表面硬度を0.25GPa〜0.6GPaとして、膜を硬くすることで、外添剤等による表面の傷付きの抑制と屈曲性を両立した中間転写ベルト」が提案されている。
【0004】
また、特許文献6には、「成形加工性に対し溶融粘度の温度依存性を調整し、靭性の高い脂肪族ポリアミド樹脂を用いた中間転写ベルト」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−202760号公報
【特許文献2】特開2005−015731号公報
【特許文献3】特開2006−119608号公報
【特許文献4】特開2008−255303号公報
【特許文献5】特開2008−015491号公報
【特許文献6】特許第4401939号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、クリーニング性の低下が抑制された管状体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
芳香族ジカルボン酸化合物とアルキル基数が9個以上13個以下の脂肪族ジアミン化合物とから誘導される繰り返し単位構造を少なくとも有する半芳香族ポリアミド樹脂と、カーボンブラックと、を含むポリアミド樹脂層の単層体で構成、又は当該ポリアミド層を少なくとも有する2層以上の積層体で構成された管状体。
【0008】
請求項2に係る発明は、
前記脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が、9個以上12個以下である請求項1に記載の管状体。
【0009】
請求項3に係る発明は、
前記ポリアミド樹脂層が、前記半芳香族ポリアミド樹脂100質量部に対して、前記カーボンブラック15質量部以上30質量部以下を含む請求項1又は2に記載の管状体。
【0010】
請求項4に係る発明は、
前記カーボンブラックの平均一次粒子径が、25nm以下である請求項1〜3のいずれかに1項に記載の管状体。
【0011】
請求項5に係る発明は、
前記ポリアミド樹脂層における、温度(T[℃])とせん断速度608(1/s)である溶融粘度(η[Pa・s])の常用対数(Log10η)との関係を示す曲線(T−Log10η曲線)が、Log10200以上Log101000以下のLog10η範囲に、傾き(ΔLog10η/ΔT)−0.010以上0以下である緩傾斜領域を有し、
かつ、前記緩傾斜領域の温度範囲が15℃以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の管状体。
【0012】
請求項6に係る発明は、
前記半芳香族ポリアミド樹脂の結晶化度が、30%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の管状体。
【0013】
請求項7に係る発明は、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の管状体と、該管状体を張力がかかった状態で掛け渡す複数のロールと、を備え、画像形成装置に対して脱着される管状体ユニット。
【0014】
請求項8に係る発明は、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の管状体からなる中間転写体。
【0015】
請求項9に係る発明は、
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電手段と、
前記像保持体の表面に潜像を形成する潜像形成手段と、
前記像保持体の表面の潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記像保持体の表面に形成された前記トナー像が転写される中間転写体であって、請求項8に記載の中間転写体と、
前記像保持体の表面に形成された前記トナー像を前記中間転写体の表面に一次転写する一次転写手段と、
前記中間転写体の表面に転写された前記トナー像を記録媒体に二次転写する二次転写手段と、
前記記録媒体に転写された前記トナー像を定着する定着手段と、
を備えた画像形成装置。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、半芳香族ポリアミドにおける脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が9個以上13個以下の範囲外の場合に比べ、クリーニング性の低下が抑制された管状体が提供できる。
請求項2に係る発明によれば、半芳香族ポリアミドにおける脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が9個以上12個以下の範囲外の場合に比べ、電気抵抗の維持性に優れた管状体が提供できる。
請求項3に係る発明によれば、ポリアミド樹脂層が、カーボンブラックの含有量が上記範囲外の場合に比べ、クリーニング性の低下が抑制された管状体が提供できる。
請求項4に係る発明によれば、カーボンブラックの平均一次粒子径が上記範囲外の場合に比べ場合に比べ、クリーニング性の低下が抑制された管状体が提供できる。
請求項5に係る発明によれば、ポリアミド樹脂層の粘度特性が上記特性を満たさない場合に比べ、厚み及び抵抗率のバラツキが抑制されたポリアミド樹脂層を有する管状体が提供できる。
請求項6に係る発明によれば、半芳香族ポリアミド樹脂の結晶化度が上記範囲外の場合に比べ、クリーニング性の低下が抑制された管状体が提供できる。
【0017】
請求項7に係る発明によれば、ポリアミド樹脂層が上記半芳香族ポリアミド樹脂を含まない管状体を適用した場合に比べ、クリーニング性の低下が抑制された管状体を持つ管状体ユニットが提供できる。
請求項8、9に係る発明によれば、ポリアミド樹脂層が上記半芳香族ポリアミド樹脂を含まない管状体を適用した場合に比べ、クリーニング性の低下が抑制された中間転写体、及びそれを備える画像形成装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る管状体を示す概略斜視図である。
【図2】本実施形態に係る管状体ユニットを示す概略斜視図である。
【図3】本実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
(管状体)
図1は、実施形態に係る管状体を示す概略斜視図である。
【0021】
本実施形態に係る管状体10(以下、無端ベルトと称する)は、図1に示すように、例えば、無端状に形成され、例えば、厚み50μm以上200μm以下のポリアミド樹脂層の単層体で構成されている。
そして、ポリアミド樹脂層は、芳香族ジカルボン酸化合物とアルキル基数が9個以上13個以下の脂肪族ジアミン化合物とから誘導される繰り返し単位構造を少なくとも有する半芳香族ポリアミド樹脂(以下、単に、「半芳香族ポリアミド樹脂」と称することがある)と、カーボンブラックと、を含んで構成されている。
【0022】
ここで、従来、ポリアミド樹脂を用いた無端ベルトが知られている。
しかしながら、ポリアミド樹脂は吸湿による機械的変化の影響が大きく、ポリアミド樹脂を用いた無端ベルトは吸湿による圧縮弾性率が低下し易い。
吸湿により圧縮弾性率が低下すると、無端ベルトの表面に付着した付着物(特に小径の粒状物)が埋まり込み易くなり、それが除去でき難く、クリーニング性に劣ってしまうのが現状である。
また、吸湿による圧縮弾性率の低下を抑制するために、充填材(例えばカーボンブラック)を配合することも考えられるが、十分抑制され難く、しかも、配合量を多くすると、、ベルト表面が粗れやすく、逆にクリーニング性が低下してしまうことや、耐屈曲性の低下を引き起こしてしまうのが現状である。
【0023】
これに対して、本実施形態に係る無端ベルト10では、これを構成するポリアミド樹脂層として、上記半芳香族ポリアミド樹脂と、カーボンブラックと、を含んで構成されたポリアミド層を適用することで、クリーニング性の低下が抑制されたものとなる。
この理由は定かではないが、以下の理由によるものと考えられる。
【0024】
半芳香族ポリアミド樹脂は、全脂肪族ポリアミド樹脂に比べ圧縮弾性率が高く、全芳香族ポリアミド樹脂に比べ管状体に求められる屈曲性を有する等、管状体としての機械的特性を満たす材料である。
【0025】
半芳香族ポリアミド樹脂の吸湿性は、その分子内のアミノ基濃度に依存すると考えられる。つまり、半芳香族ポリアミド樹脂のアミノ濃度が高すぎると、吸湿により圧縮弾性率の低下が生じ易くなるものと考えられる。
一方、半芳香族ポリアミド樹脂の圧縮弾性率は、その分子内に芳香環濃度に依存すると考えられる。つまり、半芳香族ポリアミド樹脂の芳香環濃度が低すぎると、機械的強度が低下し、圧縮弾性率の低下が生じ易くなるものと考えられる。また、表面硬度自体も低下し易くなると考えられる。
【0026】
これに対して、半芳香族ポリアミド樹脂の繰り返し単位構造を誘導する脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数を9個以上とすると、半芳香族ポリアミド樹脂の分子内のアミド基濃度が抑えられ、アミド基濃度に起因する吸湿による圧縮弾性率の低下が抑制されると考えられる。
一方、半芳香族ポリアミド樹脂の繰り返し単位構造を誘導する脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数を13個以下とすると、半芳香族ポリアミド樹脂の分子内の芳香環濃度の低下が抑えられ、芳香環濃度に起因する圧縮弾性率の低下が抑制されると考えられる。
【0027】
以上から、本実施形態に係る無端ベルト10では、圧縮弾性率の低下が抑制され、クリーニング性の低下が抑制されると考えられる。
特に、本実施形態に係る無端ベルト10では、例えば、環境変動(低湿環境下と高湿環境下での変動)による、圧縮弾性率の低下が抑制され、クリーニング性の低下が抑制されると考えられる。また、適切な剛性を持ち、繰返し変形による端部の亀裂や破断が抑制されるといった機械的特性を持った上で、クリーニング性の低下が抑制されると考えられる。
そして、本実施形態に係る無端ベルト10を画像形成装置用の無端ベルトとして適用すると、例えば、画像形成装置用の無端ベルトがトナーの外添剤等の付着物の埋まり込みが抑制され、クリーニング性の低下が抑制されることから、繰り返し使用して無端ベルトのクリーニング不良に起因する画像欠陥が抑制された画像形成装置が実現される。
【0028】
また、本実施形態に係る管状体10において、ポリアミド樹脂層は、芳香族ジカルボン酸化合物とアルキル基数が9個以上12個以下の脂肪族ジアミン化合物とから誘導される繰り返し単位構造を少なくとも有する半芳香族ポリアミド樹脂と、カーボンブラックと、を含んで構成されていることがよい。
つまり、半芳香族ポリアミド樹脂における脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数は、9個以上12個以下であることがよい。
【0029】
ここで、従来、ポリアミド樹脂とカーボンブラックとを含むポリアミド樹脂層を有する無端ベルトおいて、電気抵抗の維持性(具体的には、例えば、ベルトの繰り返し使用による電気抵抗の維持性、印加電圧の変動や環境変動による電気抵抗の維持性(つまり電気抵抗の安定性))を得るために、結晶性ポリアミド樹脂と非晶性ポリアミド樹脂の混合により結晶性制御する技術(以下、技術1)、耐熱剤配合による溶融混練時の樹脂熱分解抑制を行ってカーボンブラックの分散性を安定化する技術(以下、技術2)、及び、電解質化合物とカーボンブラックとの併用により電気抵抗を安定化する技術(以下、技術3)が知られている。
【0030】
しかしながら、技術1では、結晶性ポリアミド樹脂と非結晶性ポリアミド樹脂と層分離が生じ電気抵抗が変動し、技術2では、成形後の無端ベルト中での残存耐熱剤により電気抵抗が変動し、技術3では、電解質化合物の放電劣化による環境変動に伴い電気抵抗が変動してしまうのが現状である。
【0031】
これに対して、本実施形態に係る無端ベルト10では、これを構成するポリアミド樹脂層として、芳香族ジカルボン酸化合物とアルキル基数が9個以上12個以下の脂肪族ジアミン化合物とから誘導される繰り返し単位構造を少なくとも有する半芳香族ポリアミド樹脂と、カーボンブラックと、を含んで構成されたポリアミド層を適用すると、電気抵抗の維持性に優れたものとなる。
この理由は定かではないが、以下の理由によるものと考えられる。
【0032】
ポリアミド樹脂層(無端ベルト10)は、半芳香族ポリアミド樹脂及びカーボンブラックを混練し、得られた樹脂組成物を成形して得られるが、この混練時、成形時には、ポリアミド樹脂が溶融し、その後、冷却する。冷却の際には、ポリアミド樹脂の結晶化が生じる。
このポリアミド樹脂の結晶化が生じると、当該樹脂中からカーボンブラックが排除され易くなり、カーボンブラックが凝集体を形成すると考えられる。その結果、カーボンブラックが凝集体を形成すると、導電経路を形成すると考えられる。
これに対して、半芳香族ポリアミド樹脂として、アルキル基数が9個以上12個以下の脂肪族ジアミン化合物を用いた半芳香族ポリアミド樹脂を適用すると、上記冷却に伴う結晶化が抑えられ、当該樹脂中からのカーボンブラックの排除が抑制され、カーボンブラックの凝集体の生成が抑制されると考えられる。このため、得られるポリアミド層(無端ベルト10)中で、導電経路を形成することなく、カーボンブラックの形成する導電点が均一に点在した状態になると考えられる。
一方で、上記半芳香族ポリアミド樹脂は、その分子間凝集力が適度なものとなり、カーボンブラック自体の分散性が向上するものと考えられる。このため、これによっても、得られるポリアミド層(無端ベルト10)中で、導電経路を形成することなく、カーボンブラックの形成する導電点が均一に点在した状態になると考えられる。
【0033】
以上から、本実施形態に係る無端ベルト10では、半芳香族ポリアミド樹脂における脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数は9個以上12個以下とすると、導電点が均一に点在した状態となり易く、電気抵抗の維持性に優れたものとなると考えられる。
具体的には、本実施形態に係る無端ベルト10では、例えば、ベルトの繰り返し使用による電気抵抗の維持性、及び、印加電圧の変動や環境変動による電気抵抗の維持性(つまり電気抵抗の安定性)が実現される。
そして、本実施形態に係る無端ベルト10を、画像形成装置用の無端ベルトとして適用すると、例えば、繰り返し使用、印加電圧の変動や環境変動に伴う無端ベルトの電気抵抗の変動に起因する画像欠陥が抑制された画像形成装置が実現される。
【0034】
また、本実施形態に係る無端ベルト10において、ポリアミド樹脂層における、温度(T[℃])とせん断速度608(1/s)である溶融粘度(η[Pa・s])の常用対数(Log10η)との関係を示す曲線(T−Log10η曲線)が、Log10200以上Log101000以下のLog10η範囲に、傾き(ΔLog10η/ΔT)−0.010以上0以下である緩傾斜領域を有し、かつ、前記緩傾斜領域の温度範囲が15℃以上あることがよい(以下、本粘度特性を特定の粘度特性と称することがある)。
【0035】
ここで、樹脂組成物を層状(ベルト状)に成形するには、押出成形法が適している。押出成形法にて樹脂組成物を押出すには、スクリューで可塑化された樹脂組成物が押出ヘッドのダイス部から周方向・軸方向共に均一量押出されることがよい。
ところが、押出スクリューは、螺旋状構造を持つ為、何らかの脈動を溶融した樹脂組成物に与えると考えられる。特に、クロスヘッド方式では、押出ヘッドは押出スクリューに対し直角に樹脂組成物流動方向を変えるため、周方向の流路が均一にならず、樹脂組成物に与えられる熱的・動的履歴が周方向で異なると考えられる。ヘッドの周方向温度を一定にする手段を講じても、時間経過を含めて完全に温度を一定にでき難いため、周方向で樹脂組成物に温度差が生じ、結果として粘度差を生じることがある。これらが、ダイス出口での周方向粘度差、軸方向(時間経過)粘度差となり、周方向及び軸方向の膜厚が不均一になると考えられる。そして、膜厚が不均一となると抵抗率も不均一になると考えられる。
【0036】
そこで、本実施形態に係る無端ベルト10では、この膜厚不均一を抑制するためには、樹脂組成物の粘度の温度依存性が成形加工で使用可能な一定温度範囲で小さければよいことに着目した。
即ち、本実施形態に係る無端ベルト10では、樹脂組成物、つまり、これにより形成されるポリアミド樹脂層の粘度特性を上記特定の粘度特性とすると、ポリアミド樹脂層(樹脂組成物)の温度に対する溶融粘度変化が抑制された領域が押出成形条件の振れに対応するような範囲に存在するようになることから、ポリアミド樹脂層の厚み及び抵抗率のバラツキが抑制される。
【0037】
以下、本実施形態に係る無端ベルト10の構成材料や特性について説明する。
【0038】
ポリアミド樹脂層について説明する。
ポリアミド樹脂層は、半芳香族ポリアミド樹脂と、カーボンブラックと、必要応じて、その他添加剤と、を含んで構成される。
【0039】
半芳香族ポリアミド樹脂について説明する。
半芳香族ポリアミド樹脂は、芳香族ジカルボン酸化合物とアルキル基数が9個以上12個以下の脂肪族ジアミン化合物とから誘導される繰り返し単位構造を少なくとも有する半芳香族ポリアミド樹脂である。
具体的には、半芳香族ポリアミド樹脂は、例えば、芳香族ジカルボン酸化合物と脂肪族ジアミン化合物との重縮合体等が挙げられる。
【0040】
芳香族ジカルボン酸化合物は、芳香環を(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環等)を持つジカルボン酸化合物である。
芳香族ジカルボン酸化合物として具体的には、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4―フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4‘−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4−ジカルボン酸、ジフェニルスルホンー4,4―ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルカルボン酸等が挙げられる。
これらの中も、例えば、経済性、ポリアミドの性能の観点からテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が望ましく、テレフタル酸がより望ましい。
【0041】
脂肪族ジアミン化合物は、アルキル基数(つまり炭素数)が9個以上13個以下(望ましくは9個以上12個以下、望ましくは10個以上11個以下)の脂肪族ジアミン化合物である。
ここで、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数とは、脂肪族ジアミン化合物において、2つのアミノ基が連結する脂肪族基(アルキル基)の炭素数を意味している。
【0042】
無端ベルト10のクリーニング性の観点からは、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が9個未満では、半芳香族ポリアミド樹脂のアミノ基濃度が高く、吸湿による圧縮弾性率が低下すると考えられ、クリーニング性が低下してしまう。
一方、本アルキル基数が13個を超えると、半芳香族ポリアミド樹脂の芳香環濃度が低くなり、やはり、圧縮弾性率が低下し、剛性と共に表面硬度も低下すると考えられ、クリーニング性が低下してしまう。
その結果、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数を9個以上13個以下の範囲とすると、無端ベルト10のクリーニング性の低下が抑制される。
【0043】
また、無端ベルト10の電気抵抗の観点からは、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が9個未満では、半芳香族ポリアミド樹脂の溶融後の冷却化に伴う結晶化により、半芳香族ポリアミド樹脂中からカーボンブラックが排除されて、カーボンブラックが凝集体を形成し、その結果、導電経路を形成すると考えられ、電気抵抗が低下してしまう。
一方、本アルキル基数が12個を超えると、半芳香族ポリアミド樹脂中の芳香環濃度が低くなり、半芳香族ポリアミド樹脂の分子間凝集力が低下し、カーボンブラックの分散状態が損なわれてしまう。
その結果、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数を上記範囲とすると、無端ベルト10の電気抵抗の維持姓が向上する。
【0044】
脂肪族ジアミン化合物として具体的は、例えば、直鎖状脂肪族アルキレンジアミン(例えば、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン等)、分岐鎖状脂肪族アルキレンジアミン(例えば、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4−ジエチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,3−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,4−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,5−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、3−メチル−1,8−オクタンジアミン、4−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、1,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,5−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,2−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等)、環状脂肪族アルキレンジアミン(例えば、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−2,5,6−トリメチルシクロヘキサン等)が挙げられる。
これらの中も、例えば、ポリアミド性能や環境保護等の観点から、1,10−デカンジアミン(デカメチレンジアミン)、1,11−ウンデカンジアミンが望ましく、1,10−デカンジアミン(デカメチレンジアミン)がより望ましい。
【0045】
半芳香族ポリアミド樹脂は、芳香族ジカルボン酸化合物と脂肪族ジアミン化合物との重縮合体が挙げられるが、機能を損ねない範囲で、当該重縮合体に他の単量体を重合させたもの(例えばポリアミド−ポリエーテルブロック共重合体等)であってもよい。
ここで、ポリアミド−ポリエーテルブロック共重合体において、ポリエーテル鎖を構成するポリエーテルとしては、例えば、アルキレンの炭素数が2個以上6個以下(望ましくは2個以上4個以下)のポリアルキレングリコールが挙げられ、具体的には例えば、ポリテトラメチレングリコール(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、これらの共重合体(例えば、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体等)等が挙げられる。
【0046】
半芳香族ポリアミド樹脂の結晶化度は、例えば、30%以下であることがよく、望ましくは25%以下であり、より望ましくは20%以下である。
本結晶化度が高すぎると、半芳香族ポリアミド樹脂の溶融後の冷却化に伴う結晶化により、半芳香族ポリアミド樹脂中からカーボンブラックが排除されて、カーボンブラックが凝集体を形成し易くなることがある。
このため、結晶化度は、低いほど、カーボンブラックの凝集体形成が抑制され、また、カーボンブラックが緻密かつ均一に分散されると考えられる。
一方で、半芳香族ポリアミド樹脂では、結晶部に由来する高強度部と、非晶部に由来する柔軟部がバランスを取ることにより、強度と靭性を確保すると考えられることから、半芳香族ポリアミド樹脂の結晶化度(その下限値)は、2%以上(望ましくは4%以上)であることがよい。
【0047】
この結晶化度とは、X線回折測定によって求めたものである。具体的には、リガク社製X線回折装置を用いて測定を行い、得られたデータにおけるピーク分離解析をBrukerAXS社製解析ソフトウエアを用いて行い、ピーク分離後の結晶性のピーク面積と非結晶のピーク面積から、結晶化度を求めた。
【0048】
カーボンブラックについて説明する。
カーボンブラックとしては、例えば、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。
【0049】
カーボンブラックの平均一次粒子径は、例えば、25nm以下であることがよく、望ましくは20nm以下である。
本平均一次粒子径を上記の範囲とすることにより、カーボンブラックによる導電点を微細かつ均一となり、ポリアミド樹脂層(無端ベルト10)表面での放電劣化による抵抗低下が抑制され易くなる。
なお、上記観点からは、カーボンブラックの平均一次粒子径は小さい程よいが、一次粒子径が小さすぐると嵩密度が小さくなり取り扱いが困難になることや表面積が大きくなるために分散物がチキソ性を示すようになることから、10nm以上(望ましくは12nm以上)であることがよい。
【0050】
カーボンブラックの平均一次粒子径は、次の方法により測定される。
まず、得られたポリアミド樹脂層(無端ベルト10)から、ミクロトームにより切断して、100nmの厚さの測定サンプルを採取し、本測定サンプルをTEM(透過型電子顕微鏡)により観察する。そして、カーボンブラックの粒子50個の径を測定して、その平均値を平均一次粒子径とする。
【0051】
カーボンブラックの揮発分は、例えば、10%以下であることがよく、望ましくは5%以下、より望ましくは3%以下である。
カーボンブラックの揮発分を上記範囲とすることにより、ポリアミド樹脂への分散時において、カーボンブラックから発生する揮発ガスの対流の影響によって、カーボンブラック粒子の分散不良(分散密度低下、凝集等)や、ポリアミド樹脂層(無端ベルト10)の押出成形時の空隙(ボイド)の発生が抑制され易くなる。
【0052】
カーボンブラックの揮発分とは、カーボンブラック表面の酸素含有官能基の量を表す物性値である。具体的には、カーボンブラックの揮発分の揮発分とは、カーボンブラックを950±25℃の雰囲気に7分間保持したときの減量割合をパーセントとして表したものである。
【0053】
カーボンブラックのpHは、例えば、9.5以下であることがよく、望ましくは2.0以上9.0以下、より望ましくは2.5以上8.5以下である。
カーボンブラックのpHを上記範囲とすることにより、結合力の大きいアミド基との親和性が高くなり、カーボンブラックのポリアミド樹脂中における分散性が向上するとともに、カーボンブラックとポリアミド樹脂の界面での結合力が増し、ポリアミド樹脂層(無端ベルト10)が繰返し変形しても、当該界面からの割れの発生(クラック発生)が抑制され易くなる。その結果、ポリアミド樹脂層(無端ベルト10)の電気特性の一層の安定化に加えて、強度特性の向上(高信頼化)が得られる易くなる。
【0054】
カーボンブラックのpHとは、JIS K 6221−1982に準して、カーボンブラックを水で煮沸し、冷却後上澄みを除去して得た泥状物に対して測定したpH(水素イオン濃度の対数値)をいう。これは、カーボンブラック表面の酸素含有官能基(カルボン酸、水酸、ラクトン、キノイドなどの各官能基)の量と関連があり、pHが低いほど酸性表面官能基が多いと考えられている(カーボンブラック協会編集・発行、「カーボンブラック便覧」、1995年、参照)。
【0055】
カーボンブラックの含有量は、例えば、半芳香族ポリアミド樹脂100質量部に対して、15質量部以上30質量部であることがよく、望ましくは20質量部以上25質量部以下である。
カーボンブラックの含有量を上記範囲とすると、ポリアミド樹脂層(無端ベルト10)中のカーボンブラックによる導電点が高密度になり、ポリアミド樹脂層(無端ベルト10)表面の受ける放電エネルギーを分散させ易くなることから、劣化が抑制される。
カーボンブラックの含有量は、少なすぎると、ポリアミド樹脂層(無端ベルト10)中で上記高密度な導電点の形成ができ難くなり、多すぎると、電気抵抗が低くなり過ぎると共に、ポリアミド樹脂層(無端ベルト10)が脆くなる傾向となる。
【0056】
その他添加剤について説明する。
その他添加剤としては、例えば、ポリアミド樹脂層の熱劣化を防止するための酸化防止剤や、流動性を向上させるための界面活性剤等、特に、画像形成装置の無端ベルトに配合される周知の添加剤が挙げられる。
【0057】
次に、本実施形態に係る無端ベルト10の特性について説明する。
本実施形態に係る無端ベルト10(ポリアミド樹脂層)は、常温常湿(温度22℃、湿度55RH%)環境下で、電圧100Vを印加して測定したときの表面抵抗率が、7logΩ/□以上13logΩ/□以下であることがよく、特に、無端ベルト10を中間転写ベルトとして適用する場合、8logΩ/□以上12logΩ/□以下であることがよく、無端ベルトを記録媒体搬送転写ベルトとして適用する場合、9logΩ/□以上13logΩ/□以下であることがよい。
なお、本表面抵抗率は、常温常湿(温度22℃、湿度55RH%)環境下で、電圧100Vを印加して測定したときの測定値である。
【0058】
本実施形態に係る無端ベルト10(ポリアミド樹脂層)は、常温常湿(温度22℃、湿度55RH%)環境下で、電圧100Vを印加して測定したときの表面抵抗率と、常温常湿(温度22℃、湿度55RH%)環境下で、電圧1000Vを印加して測定したときの表面抵抗率と、の差が、1.0logΩ/□以下であることがよい。
本実施形態に係る無端ベルト10(ポリアミド樹脂層)は、低温低湿(温度10℃、湿度10RH%)環境下で、電圧100Vを印加して測定したときの表面抵抗率と、高温高湿(温度30℃、湿度85RH%)環境下で、電圧100Vを印加して測定したときの表面抵抗率と、の差が、1.0logΩ/□以下であることがよい。
【0059】
ここで、表面抵抗率は、JIS−K−6911(1995年)に準じて、円形電極(三菱油化(株)製ハイレスターIPのURプローブ:円柱状電極の外径Φ16mm、リング状電極部の内径Φ30mm、外径Φ40mm)を用い、測定対象物を絶縁板の上に置き、目的とする環境下で、目的とする電圧を印加し、印加後5sec後の外径から内径に流れる電流値をアドバンテスト製、微小電流計 R8340Aを用いることにより測定し、その電流値より得た表面抵抗値から表面抵抗率を求める。
【0060】
本実施形態に係る無端ベルト10(ポリアミド樹脂層)は、飽和吸湿時の圧縮弾性率が3500MPa以上(望ましくは3700MPa以上9000MPa以下、より望ましくは4000MPa以上7500MPa以下)であることがよい。
無端ベルト10(ポリアミド樹脂層)における飽和吸湿時の圧縮弾性率が上記範囲であることは、吸湿による圧縮弾性率の低下が抑えられていることを意味し、これにより、クリーニング性(特に、環境変動による吸湿時のクリーニング性)の低下が抑制される。
【0061】
本実施形態に係る無端ベルト10(ポリアミド樹脂層)は、常湿時の圧縮弾性率E1と飽和吸湿時の圧縮弾性率E2との差が、E1−E2≦1500(望ましくはE1−E2≦1300、より望ましくはE1−E2≦1100)を満たすことがよい。
無端ベルト10(ポリアミド樹脂層)におけるE1−E2の差が上記範囲であることは、環境変動(低湿環境下と高湿環境下での変動)による、圧縮弾性率の変化が少ないことを意味しており、これにより、環境変動(低湿環境下と高湿環境下での変動)によるクリーニング性の変動が少なくなる。
【0062】
無端ベルト10(ポリアミド樹脂層)における飽和吸湿時の圧縮弾性率や、常湿時の圧縮弾性率E1と飽和吸湿時の圧縮弾性率E2との差は、例えば、芳香族ジカルボン酸化合物とアルキル基数が9個以上13個以下の脂肪族ジアミン化合物とから誘導される繰り返し単位構造を少なくとも有する半芳香族ポリアミド樹脂と、カーボンブラックと、を含むポリアミド樹脂層とすることにより、上記範囲を満たすようになる。
【0063】
ここで、飽和吸湿時の圧縮弾性率は、無端ベルト10(ポリアミド層)から採取した測定試料を、水中にて3日間保管した後、水中から取り出し、常温常湿(温度22度、湿度55RH%)の環境下で、島津製作所(株)製「ダイナミック微小硬度計」を用いて、圧縮深さ1μmまで圧縮荷重を掛けた後、除々に荷重を開放させ、そのときの荷重と伸びの変化量とから圧縮弾性率を求めた。
また、常湿時の圧縮弾性率は、無端ベルト10(ポリアミド層)から採取した測定試料を、そのまま、常温常湿(温度22度、湿度55RH%)の環境下で、島津製作所(株)製「ダイナミック微小硬度計」を用いて、圧縮深さ1μmまで圧縮荷重を掛けた後、除々に荷重を開放させ、そのときの荷重と伸びの変化量とから圧縮弾性率を求めた。
【0064】
本実施形態に係る無端ベルト10(ポリアミド樹脂層)は、ポリアミド樹脂層における、温度(T[℃])とせん断速度608(1/s)である溶融粘度(η[Pa・s])の常用対数(Log10η)との関係を示す曲線(T−Log10η曲線)が、Log10200以上Log101000以下のLog10η範囲に、傾き(ΔLog10η/ΔT)−0.010以上0以下である緩傾斜領域を有し、かつ、前記緩傾斜領域の温度範囲が15℃以上あることがよい。
この特定の粘度特性を満たすことにより、無端ベルト10(ポリアミド樹脂層)の厚み及び抵抗率のバラツキが抑制される。
【0065】
緩傾斜領域の傾きは、−0.010以上0以下の範囲であることがよいが、望ましくは−0.008以上0以下の範囲である。
緩傾斜領域の温度範囲は、15℃以上であることがよいが、望ましくは20℃以上である。
【0066】
この特定の粘度特性は、ポリアミド樹脂の種類及び分子量や、カーボンブラックの種類及び配合量等により調整される。
具体的には、特定の粘度特性を満たすには、例えば、以下の条件とすることがよい。
・ポリアミド樹脂の種類:芳香族ジカルボン酸化合物とアルキル基数が9個以上13個以下の脂肪族ジアミン化合物とから誘導される繰り返し単位構造を少なくとも有する半芳香族ポリアミド樹脂
・ポリアミド樹脂の分子量:重量平均分子量30,000以上60,000以下(望ましくは40,000以上50,000以下)
・カーボンブラックの種類:ファーネスブラック又はチャンネルブラック
・カーボンブラックの配合量:半芳香族ポリアミド樹脂100質量部に対して15質量部以上30質量部以下(望ましくは20質量部以上25質量部以下)
【0067】
ここで、曲線(T−Log10η曲線)は、下記測定装置及び条件により得られる。
・測定装置:「キャピログラフ1D」株式会社東洋精機製作所
・バレル寸法:径9.55mm、有効長さ250mm
・せん断速度:608(1/s)
・温度:275℃、300℃、315℃、330℃
【0068】
本実施形態に係る無端ベルト10(ポリアミド樹脂層)は、膜厚最大値と膜厚最小値の差が膜厚平均値の0.1倍以下であり、かつ表面抵抗率最大値(対数値)と表面抵抗率最小値(対数値)との差が0.7LogΩ/□以下であり、かつMIT型試験機による折り曲げ回数が5,000回以上であることがよい。
本特性は、例えば、芳香族ジカルボン酸化合物とアルキル基数が9個以上13個以下の脂肪族ジアミン化合物とから誘導される繰り返し単位構造を少なくとも有する半芳香族ポリアミド樹脂と、カーボンブラックと、を含むポリアミド樹脂層であって、上記特定の粘度特性を満たすことにより実現される。
【0069】
以下、本実施形態に係る無端ベルト10の製造方法について説明する。
まず、例えば、半芳香族ポリアミド樹脂とカーボンブラックと必要に応じて他の添加剤とを、それぞれ目的とする配合量で混練、混合し、樹脂組成物のペレットを得る。
【0070】
次に、得られた樹脂組成物のペレットを用い、押出機を用いて円筒状に押し出し、冷却固化(結晶化を制御)させ、円筒状の成形体を得る。
具体的には、例えば、樹脂組成物のペレットを、円筒状に溶融押出して、かつ延伸させながら引き取り、その円筒状に押出された樹脂組成物の内周面及び外周面を冷却することにより、円筒状の成形体を得る。このとき、押出機内の樹脂組成物流路を不活性ガスで置換することがよい。
押出成形を利用することにより、キャスト工法に比較して、工程が単純で安価で成形が実現される。
特に、押出成形において、円筒状に押出された樹脂組成物の内周面と外周面を同時に冷却させながら延伸すると、結晶化の均一性が確保され、かつ延伸により樹脂分子が配列して分子鎖が伸びることによる、樹脂層の緊張状態が得られると考えられ、表面の平滑性が得られると共に、表面強度が適度に向上する。
【0071】
そして、得られた円筒状の成形体を、目的とする幅に切断して、無端ベルト10を得る。
【0072】
以上説明した本実施形態に係る無端ベルト10は、ポリアミド樹脂層の単層体で構成された形態を説明したが、当該ポリアミド樹脂層を有していれば、2層以上の積層体で構成されていてもよい。
具体的には、例えば、本実施形態に係る無端ベルト10は、基材層とその外周面に表面層(表面離型層)との積層体で構成され、当該基材層及び表面層の少なくとも一方としてポリアミド樹脂層を適用した構成であってもよい。但し、ポリアミド樹脂層を表面層として適用する場合、離型材料(例えば、フッ素化合物(フッ素樹脂、又はその粒子等)等)を配合することがよい。
無論、基材層及び表面層の間に中間層を設けてもよいし、基材層自体が2層以上の積層体で構成させたものであってもよい。
【0073】
本実施形態に係る無端ベルト10は、例えば、画像形成装置用のベルト(例えば、中間転写ベルト、記録媒体搬送転写ベルト)に適用され得る。
【0074】
(管状体ユニット)
図2は、本実施形態に係る管状体ユニットを示す概略斜視図である。
本実施形態に係る管状体ユニット130(以下、無端ベルトユニットと称する)は、図2に示すように、上記本実施形態に係る無端ベルト10を備えており、例えば、無端ベルト10は対向して配置された駆動ロール131及び従動ロール132により張力がかかった状態で掛け渡されている(以下、「張架」という場合がある。)。
ここで、本実施形態に係る無端ベルトユニット130は、無端ベルト10を中間転写体として適用させる場合、無端ベルト10を張架するロールとして、感光体(像保持体)表面のトナー像を無端ベルト10上に1次転写させるためのロールと、無端ベルト10上に転写されたトナー像をさらに記録媒体に2次転写させるためのロールが配置される。
なお、無端ベルト10を張架するロールの数は限定されず、使用態様に応じて配置すればよい。このような構成の無端ベルトユニット130は、装置に組み込まれて使用され、駆動ロール131,従動ロール132の回転に伴って無端ベルト10も張架した状態で回転する。
【0075】
(画像形成装置)
本実施形態に係る画像形成装置は、像保持体と、像保持体表面を帯電する帯電手段と、像保持体表面に潜像を形成する潜像形成手段と、潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像手段と、トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、トナー像を前記記録媒体に定着する定着手段と、を有し、転写手段が、上記本実施形態に係る無端ベルトを備えるものである。
【0076】
具体的には、本実施形態に係る画像形成装置は、例えば、転写手段が中間転写体と像保持体に形成されたトナー像を中間転写体に一次転写する一次転写手段と中間転写体に転写されたトナー像を記録媒体に二次転写する二次転写手段とを備え、当該中間転写体として上記本実施形態に係る無端ベルトを備える構成が挙げられる。
【0077】
また、本実施形態に係る画像形成装置は、例えば、転写手段が記録媒体を搬送するための搬送転写体(搬送転写ベルト)と像保持体に形成されたトナー像を用紙転写体により搬送された記録媒体に転写するための転写手段とを備え、当該記録媒体転写体として上記本実施形態に係る無端ベルトを備える構成が挙げられる。
【0078】
本実施形態に係る画像形成装置は、例えば、現像装置内に単色のトナーのみを収容する通常のモノカラー画像形成装置、像保持体上に保持されたトナー像を中間転写体に順次一次転写を繰り返すカラー画像形成装置、各色毎の現像器を備えた複数の像保持体を中間転写体上に直列に配置したタンデム型カラー画像形成装置が挙げられる。
【0079】
以下、本実施形態に係る画像形成装置を、図面を参照しつつ説明する。
図3は、実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【0080】
本実施形態に係る画像形成装置100は、図3に示すように、例えば、いわゆるタンデム方式であり、電子写真感光体からなる4つの像保持体101a乃至101dの周囲に、その回転方向に沿って順次、帯電装置102a乃至102d、露光装置114a乃至114d、現像装置103a乃至103d、一次転写装置(一次転写ロール)105a乃至105d、像保持体クリーニング装置104a乃至104dが配置されている。尚、転写後の像保持体101a乃至101dの表面に残留している残留電位を除去するために除電器を備えていてもよい。
【0081】
中間転写ベルト107が、支持ロール106a乃至106d、駆動ロール111および対向ロール108により張力を付与しつつ支持され、管状体ユニット107bを形成している。これらの支持ロール106a乃至106d、駆動ロール111および対向ロール108により、中間転写ベルト107は、各像保持体101a乃至101dの表面に接触しながら各像保持体101a乃至101dと一次転写ロール105a乃至105dとを矢印Aの方向に移動し得る。一次転写ロール105a乃至105dが中間転写ベルト107を介して像保持体101a乃至101dに接触する部位が一次転写部となり、像保持体101a乃至101dと一次転写ロール105a乃至105dとの接触部には一次転写電圧が印加される。
【0082】
二次転写装置として、中間転写ベルト107および二次転写ベルト116を介して対向ロール108と二次転写ロール109が対向配置されている。紙等の記録媒体115が中間転写ベルト107の表面に接触しながら中間転写ベルト107と二次転写ロール109とで挟まれる領域を矢印Bの方向に移動し、その後、定着装置110を通過する。二次転写ロール109が中間転写ベルト107および二次転写ベルト116を介して対向ロール108に接触する部位が二次転写部となり、二次転写ロール109と対向ロール108との接触部には二次転写電圧が印加される。更に、転写後の中間転写ベルト107と接触するように、中間転写ベルトクリーニング装置112および113が配置されている。
【0083】
この構成の多色画像形成装置100では、像保持体101aが矢印Cの方向に回転するとともに、その表面が帯電装置102aによって帯電された後、レーザー光等の露光装置114aにより第1色目の静電潜像が形成される。形成された静電潜像はその色に対応するトナーを収容した現像装置103aにより、トナーで現像(顕像化)されてトナー像が形成される。なお、現像装置103a乃至103dには、各色の静電潜像に対応するトナー(例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)がそれぞれ収容されている。
【0084】
像保持体101a上に形成されたトナー像は、一次転写部を通過する際に、一次転写ロール105aによって中間転写ベルト107上に静電的に転写(一次転写)される。以降、第1色目のトナー像を保持した中間転写ベルト107上に、一次転写ロール105b乃至105dによって、第2色目、第3色目、第4色目のトナー像が順次重ね合わせられるよう一次転写され、最終的に多色の多重トナー像が得られる。
【0085】
中間転写ベルト107上に形成された多重トナー像は、二次転写部を通過する際に、記録媒体115に静電的に一括転写される。トナー像が転写された記録媒体115は、定着装置110に搬送され、加熱および/または加圧により定着処理された後、機外に排出される。
【0086】
一次転写後の像保持体101a乃至101dは、像保持体クリーニング装置104a乃至104dにより残留トナーが除去される。一方、二次転写後の中間転写ベルト107は、中間転写ベルトクリーニング装置112および113により残留トナーが除去され、次の画像形成プロセスに備える。
【0087】
−像保持体−
像保持体101a乃至101dとしては、公知の電子写真感光体が広く適用される。電子写真感光体としては、感光層が無機材料で構成される無機感光体や、感光層が有機材料で構成される有機感光体などが用いられる。有機感光体においては、露光により電荷を発生する電荷発生層と、電荷を輸送する電荷輸送層を積層する機能分離型有機感光体や、電荷を発生する機能と電荷を輸送する機能を果たす単層型有機感光体が好適に用いられる。また、無機感光体においては、感光層がアモルファスシリコンにより構成されているものが、好適に用いられる。
【0088】
また、像保持体の形状には特に限定はなく、例えば、円筒ドラム状、シート状またはプレート状等、公知の形状が採用される。
【0089】
−帯電装置−
帯電装置102a乃至102dとしては、特に制限はなく、例えば、導電性(ここで、帯電装置における「導電性」とは例えば体積抵抗率が10Ω・cm未満を意味する。)または半導電性(ここで、帯電装置における「半導電性」とは例えば体積抵抗率が10乃至1013Ωcmを意味する。)のローラ、ブラシ、フィルム、またはゴムブレード等を用いた接触型帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン帯電器やコロトロン帯電器など、公知の帯電器が広く適用される。これらの中でも接触型帯電器が望ましい。
【0090】
帯電装置102a乃至102dは、像保持体101a乃至101dに対し、通常、直流電流を印加するが、交流電流を更に重畳させて印加してもよい。
【0091】
−露光装置−
露光装置114a乃至114dとしては、特に制限はなく、例えば、像保持体101a乃至101dの表面に、半導体レーザー光、LED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)光、または液晶シャッタ光等の光源、或いはこれらの光源からポリゴンミラーを介して定められた像様に露光し得る光学系機器など、公知の露光装置が広く適用される。
【0092】
−現像装置−
現像装置103a乃至103dとしては、目的に応じて選択され。例えば、一成分系現像剤または二成分系現像剤をブラシ、またはローラ等を用い接触或いは非接触させて現像する公知の現像器などが挙げられる。
【0093】
−一次転写ロール−
一次転写ロール105a乃至105dは単層或いは多層のいずれでもよい。例えば、単層構造の場合は、発泡または無発泡のシリコーンゴム、ウレタンゴム、またはEPDM等にカーボンブラック等の導電性粒子が適量配合されたロールで構成される。
【0094】
−像保持体クリーニング装置−
像保持体クリーニング装置104a乃至104dは、一次転写工程後の像保持体101a乃至101dの表面に付着する残存トナーを除去するためのものであり、クリーニングブレードの他、ブラシクリーニング、またはロールクリーニング等が用いられる。これらの中でもクリーニングブレードを用いることが望ましい。また、クリーニングブレードの材質としてはウレタンゴム、ネオプレンゴム、またはシリコーンゴム等が挙げられる。
【0095】
−二次転写ロール−
二次転写ロール109の層構造は、特に限定されるものではないが、例えば、三層構造の場合、コア層と中間層とその表面を被覆するコーティング層により構成される。コア層は導電性粒子を分散したシリコーンゴム、ウレタンゴム、またはEPDM等の発泡体で、中間層はこれらの無発泡体で構成される。コーティング層の材料としては、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、またはパーフルオロアルコキシ樹脂などが挙げられる。二次転写ロール109の体積抵抗率は10Ωcm以下であることが望ましい。また、中間層を除いた2層構造としてもよい。
【0096】
−対向ロール−
対向ロール108は、二次転写ロール109の対向電極を形成する。対向ロール108の層構造は、単層或いは多層のいずれでもよい。例えば単層構造の場合は、シリコーンゴム、ウレタンゴム、またはEPDM等にカーボンブラック等の導電性粒子が適量配合されたロールで構成される。二層構造の場合は、上記のゴム材料で構成される弾性層の外周面を高抵抗層で被覆したロールから構成される。
【0097】
対向ロール108と二次転写ロール109のシャフトとには、通常1kV以上6kV以下の電圧が印加される。対向ロール108のシャフトへの電圧印加に代えて、対向ロール108に接触させた電気良導性の電極部材と二次転写ロール109とに電圧を印加してもよい。上記電極部材としては、金属ロール、導電性ゴムロール、導電性ブラシ、金属プレート、または導電性樹脂プレート等が挙げられる。
【0098】
−定着装置−
定着装置110としては、例えば、熱ローラ定着器、加圧ローラ定着器、またはフラッシュ定着器など公知の定着器が広く適用される。
【0099】
−中間転写ベルトクリーニング装置−
中間転写ベルトクリーニング装置112および113としては、クリーニングブレードの他、ブラシクリーニング、またはロールクリーニング等が用いられる、これらの中でもクリーニングブレードを用いることが望ましい。また、クリーニングブレードの材質としてはウレタンゴム、ネオプレンゴム、またはシリコーンゴム等が挙げられる。
【実施例】
【0100】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
なお、「phr」は、樹脂100質量部に対する質量部を示す。
【0101】
[[実施例A]]
[実施例A1]
半芳香族ポリアミド樹脂(F2001〔ダイセルエボニック社製〕:芳香族ジカルボン酸化合物であるテレフタル酸と脂肪族ジアミン化合物である1,10−デカンジアミンとの縮合体:芳香族ジカルボン酸化合物が持つ芳香環がベンゼン環で、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が10個)に、カーボンブラック(Monark_M880、キャボットスペシャリティケミカルズ社製、一次粒子径15nm、揮発分1.5%、pH8.5)を22phrで配合し、二軸溶融混練機(パーカーコーポレーション社製)を用いて、バレル加熱温度を最下流位置(材料供給側)のバレルが270℃、そこから徐々に最大加熱温度が300℃となるようにバレル加熱温度を段階的に設定し、スクリューの回転トルク121Nmにて溶融混練を行い、混練機の排出口より排出された溶融状態のストランド(直径2mm程度のロープ状)を水槽内に通して冷却、冷却固化されたストランドをペレタイザーに挿入しカット後、長さ約5mm程度のカットサイズの混合樹脂ペレットを得た。
なお、「phr」とは樹脂の質量を100としたときの材料の質量を表す
【0102】
次に、得られた混合樹脂ペレットを一軸押出成形機内の材料供給ホッパーに投入し、バレル温度を280℃に設定し、樹脂を排出する管状ダイス温度を300℃に設定し、引き取り機によって引き取りながら溶融押出しさせ、直後に円筒状の溶融樹脂の内周面をφ278mmの円筒状サイジングダイの表面に接触させ、かつ、外周面に冷却空気を吹きつけながら冷却したフィルムを円筒状に引き取り、カット機により切断することで、φ277.9mm、幅350mmの押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0103】
[実施例A2]
半芳香族ポリアミド樹脂として、半芳香族ポリアミド樹脂(N1000D」(クラレ社製):芳香族ジカルボン化合物であるテレフタル酸と脂肪族ジアミン化合物である1−9ノナンジアミン/2メチル−1,8−オクタンジアミンとの縮合体:芳香族ジカルボン酸化合物が持つ芳香環がベンゼン環で、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が9個)を用いた以外は、実施例A1と同様にして押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0104】
[実施例A3]
半芳香族ポリアミド樹脂として、半芳香族ポリアミド樹脂(芳香族ジカルボン化合物であるテレフタル酸と脂肪族ジアミン化合物である1,12−ドデカンジアミンとの縮合体;芳香族ジカルボン酸化合物が持つ芳香環がベンゼン環で、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が12個)を用いた以外は、実施例A1と同様にして押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0105】
[実施例A4]
半芳香族ポリアミド樹脂として、半芳香族ポリアミド樹脂(芳香族ジカルボン化合物であるテレフタル酸と脂肪族ジアミン化合物である1,13−ジアミノトリデカンとの縮合体:芳香族ジカルボン酸化合物が持つ芳香環がベンゼン環で、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が13個)を用いた以外は、実施例A1と同様にして押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0106】
[実施例A5]
カーボンブラック(Monark M880、キャボットスペシャリティケミカルズ社製、一次粒子径15nm、揮発分1.5%、pH8.5)の配合量を15phrとした以外は、実施例A1と同様にして押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0107】
[実施例A6]
カーボンブラック(Monark_M880、キャボットスペシャリティケミカルズ社製、一次粒子径15nm、揮発分1.5%、pH8.5)の配合量を30phrとした以外は、実施例A1と同様にして押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0108】
[実施例A7]
カーボンブラックとして、カーボンブラック(ELFTEX415、キャボットスペシャリティケミカルズ社製、一次粒子径25nm、揮発分1.0%、pH9.0)を用い、その配合量を23phrとした以外は、実施例A1と同様にして押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0109】
[実施例A8]
カーボンブラック(Monark_M880、キャボットスペシャリティケミカルズ社製、一次粒子径15nm、揮発分1.5%、pH8.5)の配合量を13phrとした以外は、実施例A1と同様にして押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0110】
[実施例A9]
カーボンブラック(Monark_M880、キャボットスペシャリティケミカルズ社製、一次粒子径15nm、揮発分1.5%、pH8.5)の配合量を33phrとした以外は、実施例A1と同様にして押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0111】
[比較例A1]
半芳香族ポリアミド樹脂として、半芳香族ポリアミド樹脂(F1001:ダイセルエボニック社製:芳香族ジカルボン化合物であるテレフタル酸と脂肪族ジアミン化合物であるヘキサメチレンジアミンとの縮合体:芳香族ジカルボン酸化合物が持つ芳香環がベンゼン環で、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が6個)を用いた以外は、実施例A1と同様にして押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0112】
[比較例A2]
半芳香族ポリアミド樹脂として、半芳香族ポリアミド樹脂(芳香族ジカルボン化合物であるテレフタル酸と脂肪族ジアミン化合物である1,14−ジアミノテトラデカンとの縮合体:芳香族ジカルボン酸化合物が持つ芳香環がベンゼン環で、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が14個)を用いた以外は、実施例A1と同様にして押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0113】
[比較例A3]
半芳香族ポリアミド樹脂に代えて、脂肪族ポリアミド樹脂(ナイロン12(3030XA:宇部興産(株)製、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が12個)を用いた以外は、実施例A1と同様にして押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0114】
[評価]
(繰り返し使用特性)
各例Aで得られた無端ベルトを中間転写ベルトとして、画像形成装置「富士ゼロックス社製C2250」に搭載し、10℃/10%RHの低温低湿環境下(転写時における中間転写ベルト表面での用紙剥離にともなう放電が起きやすい環境下)で、連続、50,000枚の画像出力した後、ハーフトーン(マゼンダ30%)画像について画質評価を行った。
また、この連続、50,000枚の画像出力前後の無端ベルト(中間転写ベルト)の表面抵抗率(常温常湿(22℃55RH%)、印加電圧100V)を測定した。
ここで、画質評価は以下の基準で評価した。
A:画像濃度低下なし
B:わずかに画像濃度が低下
C:画像濃度低下あり(許容できないレベル)
【0115】
(環境依存性)
各例で得られた無端ベルトについて、低温低湿(温度10℃、湿度10RH%)環境下で、電圧100Vを印加して測定したときの表面抵抗率と、高温高湿(温度30℃、湿度85RH%)環境下で、電圧100Vを印加して測定したときの表面抵抗率と、をそれぞれ測定し、その差を環境依存性として評価した。
【0116】
各例で得られた無端ベルトについて、常温常湿(温度22℃、湿度55RH%)環境下で、電圧100Vを印加して測定したときの表面抵抗率と、常温常湿(温度22℃、湿度55RH%)環境下で、電圧1000Vを印加して測定したときの表面抵抗率と、をそれぞれ測定し、その差を電圧依存性として評価した。
【0117】
(結晶化度)
各例で得られた無端ベルト(ポリアミド樹脂層)における、ポリアミド樹脂の結晶化度を以下の機器/測定条件にて調べた。
機器名:(株)島津製作所製 回折X線分析機 XRD6100
測定法:θ−2θ集中法
X線源:CuKα 40kV−40mA
走査範囲:2θ角度走査 10°〜35°
【0118】
(圧縮弾性率評価)
各例で得られた無端ベルトについて、常湿時の圧縮弾性率E1、飽和吸湿時の圧縮弾性率E2、その差分(E1−E2)について調べた。
【0119】
(クリーニング特性)
各例で得られた無端ベルトを中間転写ベルトとして、画像形成装置「富士ゼロックス社製C2250」に搭載し、28℃/85%RHの高温高湿環境下で、連続、50,000枚の画像出力した後、ハーフトーン(マゼンダ30%)画像について、クリーニング不良の確認を行った。
ここで、クリーニング不良の発生は以下の基準で評価した。
A:クリーニング不良による白抜けの発生無し
B:クリーニング不良より僅かな白抜けの発生あり
C:クリーニング不良により顕著な白抜けが発生
【0120】
(外添剤埋まり込み評価)
各例で得られた無端ベルトを中間転写ベルトとして、画像形成装置「富士ゼロックス社製C2250」に搭載し、28℃/85%RHの高温高湿環境下で、連続、50,000枚の画像出力した後、中間転写ベルトから2mm×2mmの大きさの試料を切り出し、走査型電子顕微鏡(日立製作所(株)製「FE−SEM S−5500」)にて、試料の表面の観察を行い、外添剤の埋まり込みについて調べた。
った。
ここで、外添剤の埋まり込みは以下の基準で評価した。
A:外添剤の埋まり込み無し
B:僅かな外添剤の埋まり込みあり
C:外添剤の埋まり込みあり
D:酷い外添剤の埋まり込みあり
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】

【0123】
上記結果から、本実施例Aでは、比較例Aに比べ、圧縮弾性率が高く、また環境変動も少なく、且つクリーニング不良、外添剤埋まり込みの評価も良好であることがわかる。
アルキル基数が6個以上12個以下の脂肪族ジアミン化合物を用いた半芳香族ポリアミド樹脂を適用した実施例A1〜A3、A5〜A9は、実施例A4、及び比較例Aに比べ、繰り返し使用特性、環境依存性、電圧依存性に優れていることがわかる。
【0124】
[[実施例B]]
[実施例B1]
半芳香族ポリアミド樹脂PA9T(クラレ社製「N1000D―H」:半芳香族ポリアミド樹脂=芳香族ジカルボン化合物であるテレフタル酸と脂肪族ジアミン化合物である1,9−ノナンジアミンと2−メチル-1,8-オクタンジアミンの共重合体との縮合体:脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が9個)100phrに、カーボンブラック(MonarkM880、キャボットスペシャリティケミカルズ社製、一次粒子径15nm、揮発分1.5%、pH8.5)を20phrとなるように、二軸溶融混練機(パーカーコーポレーション社製)を用いて、バレル加熱温度を最上流位置(材料供給側)のバレルが220℃、そこから徐々に最大加熱温度が300℃となるように段階的に設定し、スクリューの回転数250rpm、回転トルク140Nmにて溶融混練を行い、混練機の排出口より排出された溶融状態のストランド(直径2mm程度の紐状)を水槽内に通して冷却、冷却固化されたストランドをペレタイザーに挿入しカット後、長さ約5mm程度のカットサイズの混合樹脂ペレットを得た。
なお、「phr」とは樹脂の質量を100としたときの材料の質量を表す。
【0125】
次に、溶融混練後の混合樹脂ペレットを、一軸押出成形機((株)三葉製作所社製)にて300℃に加熱し、引き取り機によって引き取り(延伸)ながら溶融押出しさせ、直後に内周面と外周面に空気(25℃)を吹きつけながら冷却した円筒状の溶融樹脂の内周面をφ160mmの円筒状サイジングダイの表面(表面温度80℃)に接触させフィルムを円筒状に引き取り、カット機により切断することで、φ160mm、平均膜厚100μm、幅250mmの無端ベルトを得た。
【0126】
[実施例B2]
カーボンブラックの配合量を25phrとした以外は、実施例B1と同様の条件で、φ160mm、平均膜厚95μm、幅250mmの無端ベルトを得た。
【0127】
[実施例B3]
カーボンブラックの配合量を22phrとした以外は、実施例B1と同様の条件で、φ160mm、平均膜厚100μm、幅250mmのベルトを得た。
【0128】
[実施例B4、B5、B6]
半芳香族ポリアミド樹脂PA9Tに代えて、半芳香族ポリアミド樹脂PA10T(ダイセルエボニック社製:F2001:芳香族ジカルボン酸化合物であるテレフタル酸と脂肪族ジアミン化合物である1,10−デカンジアミンとの縮合体:芳香族ジカルボン酸化合物が持つ芳香環がベンゼン環で、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が10個)100phrとし、カーボンブラックの配合量、成形温度、押出し時冷却温度を表3に示した条件とした以外は、実施例B1と同様の条件で、φ160mm、表3に示す平均膜厚、幅250mmの無端ベルトをそれぞれ得た。
【0129】
[実施例B7]
表3に示す押出時冷却温度以外は、実施例1と同様の条件で、φ160mm、表3に示す平均膜厚、幅250mmの無端ベルトを得た。
【0130】
[比較例B1]
半芳香族ポリアミド樹脂PA9Tに代えて、脂肪族ポリアミド樹脂(ナイロン12(3030XA:宇部興産(株)製、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が12個)100phrとし、カーボンブラックの配合量、成形温度、押出し時冷却温度を表3に示す条件とした以外は、実施例B1と同様の条件で、φ160mm、表3に示す平均膜厚、幅250mmの無端ベルトを得た。
【0131】
[比較例B2]
半芳香族ポリアミド樹脂PA9Tに代えて、ポリブチレンナフタレート樹脂(帝人化成TQB−OT)100phrとし、カーボンブラックの配合量、成形温度、押出し時冷却温度を表3に示した条件とした以外は、実施例B1と同様の条件で、φ160mm、表3に示す平均膜厚、幅250mmの無端ベルトを得た。
【0132】
[評価]
(粘度特性)
各例で得られた無端ベルトから試料(樹脂層)を採取し、温度(T[℃])とせん断速度608(1/s)である溶融粘度(η[Pa・s])の常用対数(Log10η)との関係を示す曲線(T−Log10η曲線)を調べた。
そして、得られた曲線(T−Log10η曲線)から、Log10200以上Log101000以下のLog10η範囲においての緩傾斜領域の有無、その傾き(ΔLog10η/ΔT)、及び緩傾斜領域の温度範囲(℃)を調べた。
【0133】
なお、曲線(T−Log10η曲線)は、下記測定装置及び条件により得た。
測定装置:「キャピログラフ1D」株式会社東洋精機製作所
バレル寸法:径9.55mm、有効長さ250mm
せん断速度:608(1/s)
温度:270℃、285℃、300℃、315℃、330℃
【0134】
(結晶化度)
各例で得られた無端ベルト(ポリアミド樹脂層)における、ポリアミド樹脂の結晶化度を以下の機器/測定条件にて調べた。
機器名:(株)島津製作所製 回折X線分析機 XRD6100
測定法:θ−2θ集中法
X線源:CuKα 40kV−40mA
走査範囲:2θ角度走査 10°〜35°
【0135】
(ベルト評価)
−表面抵抗率−
各例で得られた無端ベルト(ポリアミド樹脂層)の表面抵抗率を調べた。
表面抵抗率は、ベルト1本当たり軸方向3点、周方向8点測定し、その平均値、表面抵抗率最大値(対数値)と表面抵抗率最小値(対数値)との差を調べた。
【0136】
−膜厚−
各例で得られた無端ベルト(ポリアミド樹脂層)の膜厚を調べた。
膜厚は、マイクロメーターを用いて、ベルト1本当たり軸方向3点、周方向8点測定し、平均値(平均膜厚)、膜厚最大値と膜厚最小値の差を調べた。
【0137】
−MIT型試験機による折り曲げ回数−
各例で得られた無端ベルト(ポリアミド樹脂層)について、MIT折り曲げ回数を調べた。
MIT折り曲げ回数は、JIS K−8115に則り、MIT試験機(東洋精機製 耐折疲労試験機 530−MIT)、試験片寸法15.0mm×110mm、荷重9.8Nにて試験片の破断回数を求める。なお、1条件当りの試料数:N=5とした。
【0138】
以上の評価結果を表4及び表5に一覧にして示す。
【0139】
【表3】

【0140】
【表4】

【0141】
【表5】

【0142】
上記結果から、実施例B1〜B6では、実施例B7及び比較例B1、B2に比べ、各ベルト特性に優れていることがわかる。
【0143】
[[実施例C]]
[実施例C1]
半芳香族ポリアミド樹脂(F2001〔ダイセルエボニック社製〕:芳香族ジカルボン酸化合物であるテレフタル酸と脂肪族ジアミン化合物である1,10−デカンジアミンとの縮合体:芳香族ジカルボン酸化合物が持つ芳香環がベンゼン環で、脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が10個)に、カーボンブラック(Monarch1100〔キャボットスペシャリティケミカルズ社製〕、一次粒子径14nm、揮発分2.0、pH7.0)を20phr配合し、二軸溶融混練機(パーカーコーポレーション社製)を用いて、バレル加熱温度を最下流位置(材料供給側)のバレルが270℃、そこから徐々に最大加熱温度が300℃となるようにバレル加熱温度を段階的に設定し、スクリューの回転トルク121Nmにて溶融混練を行い、混練機の排出口より排出された溶融状態のストランド(直径2mm程度のロープ状)を水槽内に通して冷却、冷却固化されたストランドをペレタイザーに挿入しカット後、長さ約5mm程度のカットサイズの混合樹脂ペレットを得た。
なお、「phr」とは樹脂の質量を100としたときの材料の質量を表す
【0144】
次に、得られた混合樹脂ペレットを一軸押出成形機内の材料供給ホッパーに投入し、バレル温度を280℃に設定し、樹脂を排出する管状ダイス温度を300℃に設定し、引き取り機によって引き取りながら溶融押出しさせ、直後に円筒状の溶融樹脂の内周面をφ278mmの円筒状サイジングダイの表面に接触させ、かつ、外周面に冷却空気を吹きつけながら冷却したフィルムを円筒状に引き取り、カット機により切断することで、φ277.9mm、幅350mmの押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0145】
[実施例C2]
半芳香族ポリアミド樹脂(F2001〔ダイセルエボニック社製〕)に、カーボンブラック(Monarch1000〔キャボットスペシャリティケミカルズ社製〕、一次粒子径15nm、揮発分9.0%、pH2.5)を20phr配合した以外は、実施例C1と同様にして、押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0146】
[実施例C3]
半芳香族ポリアミド樹脂(F2001〔ダイセルエボニック社製〕)に、カーボンブラック(Printex−P〔エボニックデグサ社製〕、一次粒子径22nm、揮発分1.0%、pH10)を20phr配合した以外は、実施例C1と同様にして、押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0147】
[実施例C4]
半芳香族ポリアミド樹脂(F2001〔ダイセルエボニック社製〕)に、カーボンブラック(SpecialBlack6〔エボニックデグサ社製〕、一次粒子径20nm、揮発分18.1%、pH2.5)が20phr配合した以外は、実施例C1と同様にして、押出ベルト(無端ベルト)を得た。
【0148】
[評価]
各例Cで得られた無端ベルトについて、繰り返し使用特性、環境依存性について、実施例Aと同様にして、評価した。
また、各例Cで得られた無端ベルトについて、MIT型試験機による折り曲げ回数について、実施例Bと同様にして調べた。但し、折り曲げ回数は、10,000回を上限として調べた。
また、各例Cで得られた無端ベルトについて、目視にて、表面性(外環)を調べた。
これらの結果を表6に示す。
【0149】
【表6】

【0150】
上記結果から、カーボンブラックの揮発分及びpHが低い実施例C1、C2では、pHが比較的高い実施例C3、揮発分が高い実施例C4に比べ、繰り返し使用特性、環境依存性、MIT型試験機による折り曲げ回数、表面性について共に、良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0151】
10 管状体(無端ベルト)
101a乃至101d 像保持体
102a乃至102d 帯電装置
103a乃至103d 現像装置
104a乃至104d 像保持体クリーニング装置
105a乃至105d 一次転写ロール
106a乃至106d 支持ロール
107 中間転写ベルト
107b 管状体ユニット(ベルトユニット)
108 対向ロール
109 二次転写ロール
110 定着装置
111 駆動ロール
112 中間転写ベルトクリーニングブレード
113 中間転写ベルトクリーニングブラシ
114a乃至114d 像露光装置
115 記録媒体
116 二次転写ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸化合物とアルキル基数が9個以上13個以下の脂肪族ジアミン化合物とから誘導される繰り返し単位構造を少なくとも有する半芳香族ポリアミド樹脂と、カーボンブラックと、を含むポリアミド樹脂層の単層体で構成、又は当該ポリアミド層を少なくとも有する2層以上の積層体で構成された管状体。
【請求項2】
前記脂肪族ジアミン化合物のアルキル基数が、9個以上12個以下である請求項1に記載の管状体。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂層が、前記半芳香族ポリアミド樹脂100質量部に対して、前記カーボンブラック15質量部以上30質量部以下を含む請求項1又は2に記載の管状体。
【請求項4】
前記カーボンブラックの平均一次粒子径が、25nm以下である請求項1〜3のいずれかに1項に記載の管状体。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂層における、温度(T[℃])とせん断速度608(1/s)である溶融粘度(η[Pa・s])の常用対数(Log10η)との関係を示す曲線(T−Log10η曲線)が、Log10200以上Log101000以下のLog10η範囲に、傾き(ΔLog10η/ΔT)−0.010以上0以下である緩傾斜領域を有し、
かつ、前記緩傾斜領域の温度範囲が15℃以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の管状体。
【請求項6】
前記半芳香族ポリアミド樹脂の結晶化度が、30%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の管状体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の管状体と、該管状体を張力がかかった状態で掛け渡す複数のロールと、を備え、画像形成装置に対して脱着される管状体ユニット。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の管状体からなる中間転写体。
【請求項9】
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電手段と、
帯電した前記像保持体の表面に潜像を形成する潜像形成手段と、
前記像保持体の表面の潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記像保持体の表面に形成された前記トナー像が転写される中間転写体であって、請求項8に記載の中間転写体と、
前記像保持体の表面に形成された前記トナー像を前記中間転写体の表面に一次転写する一次転写手段と、
前記中間転写体の表面に転写された前記トナー像を記録媒体に二次転写する二次転写手段と、
前記記録媒体に転写された前記トナー像を定着する定着手段と、
を備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−29801(P2013−29801A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−66208(P2012−66208)
【出願日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】