管状体の製造方法
【課題】製造される管状体の軸方向における表面抵抗のむらを低減できる製造方法を提供する。
【解決手段】芯体をその軸方向を水平にして回転させながら、その回転する芯体の表面に樹脂溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜の乾燥速度が飽和する飽和風量で前記芯体へ送風して塗膜を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥された塗膜を芯体から脱型する脱型工程と、を備える。
【解決手段】芯体をその軸方向を水平にして回転させながら、その回転する芯体の表面に樹脂溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜の乾燥速度が飽和する飽和風量で前記芯体へ送風して塗膜を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥された塗膜を芯体から脱型する脱型工程と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、皮膜形成樹脂溶液を塗布することにより塗膜がその表面に形成された芯体を、乾燥炉100内に配置して加熱し前記塗膜を乾燥させて樹脂皮膜を形成する乾燥工程と、前記樹脂皮膜が形成された芯体を、加熱炉200内に配置して加熱し前記樹脂皮膜を焼成する加熱工程とを含み、前記加熱工程において、前記加熱炉から排気された排気ガス210を前記乾燥炉に供給することを特徴とする無端ベルト製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、金属製の軸芯体と、該軸芯体の外周に配した少なくとも1層の弾性層と、該弾性層の外周面上に少なくとも1層の塗工液を塗布して乾燥または硬化して形成した被覆層を有する導電性部材において、該被覆層が、該塗工液を該弾性層の外周面上に塗布して塗工層を形成した後、0.1〜1m/sの範囲の風速と、該軸芯体の中心線と0〜25°の範囲内の角度をなす風向を有する風を送り加熱乾燥または加熱硬化して形成した被覆層であることを特徴とする導電性部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−216510号公報
【特許文献2】特開2006−71781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製造される管状体の軸方向における表面抵抗のむらを低減できる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、芯体をその軸方向を水平にして回転させながら、その回転する芯体の表面に樹脂溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜の乾燥速度が飽和する飽和風量で前記芯体へ送風して塗膜を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥された塗膜を芯体から脱型する脱型工程と、を備える管状体の製造方法である。
【0007】
請求項2の発明は、前記乾燥工程は、加熱された空気が内部へ供給される乾燥炉の中に前記芯体を収容する共に、その芯体に対して前記乾燥炉の中に設置した送風装置の送風口から前記飽和風量で送風して塗膜を乾燥させる請求項1記載の管状体の製造方法である。
【0008】
請求項3の発明は、前記乾燥工程は、前記芯体の軸方向に延びるスリット状に形成された前記送風口から前記芯体へ送風して塗膜を乾燥させる請求項2に記載の管状体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1の方法によれば、塗膜の乾燥速度が飽和しない風量で芯体へ送風する場合に比べ、製造される管状体の軸方向における表面抵抗のむらを低減できる。
【0010】
本発明の請求項2の方法によれば、本構成を備えない構成に比べ、塗膜全体の乾燥が促進される。
【0011】
本発明の請求項3の方法によれば、本構成を備えない構成に比べ、芯体へ送風される風量が、芯体の軸方向で均一化される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る塗布工程(らせん塗布方法)に用いられる塗布装置の構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係る乾燥工程に用いられる送風装置の構成を示す概略図である。
【図3】図2に示す送風装置のノズルの斜視図である。
【図4】乾燥速度曲線を示した説明図である。
【図5】ノズル風量と乾燥速度の関係を示した図である。
【図6】本実施形態に係る乾燥工程に用いられる乾燥装置の構成を示す概略図である。
【図7】本実施形態に係る乾燥工程に用いられる乾燥装置においてノズルを複数有する構成を示す概略図である。
【図8】本実施形態に係る加熱工程に用いられる加熱装置の構成を示す概略図である。
【図9】比較例に係る乾燥装置の構成を示す概略図である。
【図10】乾燥工程における芯体の温度を示すグラフである。
【図11】製造された中間転写ベルトの表面抵抗率を示すグラフである。
【図12】比較例に係る乾燥装置の構成における熱風の流れを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。なお、図面では理解の容易のために、説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。また、同様の機能を有する部材には、全図面を通じて同じ符合を付与し、その説明を省略することがある。本実施形態では、管状体の一例としての中間転写ベルトの製造方法を例に説明するが、本実施形態に係る製造方法を用紙搬送ベルト等のその他の管状体の製造に適用してもよい。
【0014】
−塗布工程−
本実施形態の中間転写ベルトの製造方法は、芯体をその軸方向を水平にして回転させながら、その回転する芯体の表面に、樹脂溶液の一例としての皮膜形成樹脂溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程を備えている。
【0015】
中間転写ベルトを構成する皮膜形成樹脂は、強度や寸法安定性、耐熱性等の面でポリイミド樹脂(PI)やポリアミドイミド樹脂(PAI)が使用されているが、これらに限定されるものではない。PIまたはPAIとしては、種々の公知のものを用いることができ、PIの場合はその前駆体を塗布することもある。
【0016】
皮膜形成樹脂溶液であるPI前駆体溶液は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分を、溶剤中で反応させることによって得ることができる。各成分の種類は特に制限されないが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン成分とを反応させて得られるものが、皮膜強度の点から好ましい。
【0017】
上記芳香族テトラカルボン酸の代表例としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、あるいはこれらのテトラカルボン酸エステル、又は上記各テトラカルボン酸類の混合物等が挙げられる。
【0018】
一方、上記芳香族ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等が挙げられる。
【0019】
一方、PAIは、酸無水物、例えばトリメリット酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物等と、上記ジアミンを組み合わせて、当モル量で重縮合反応することで得られる。PAIはアミド基を有するため、イミド化反応が進んでも溶剤に溶解し易いので、100%イミド化したものが好ましい。
【0020】
皮膜形成樹脂溶液に含まれる溶剤としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド等の非プロトン系極性溶剤が用いられる。溶液の濃度・粘度等に限定はないが、本実施形態において望ましい溶液の固形分濃度は10質量%以上40質量%以下、粘度は1Pa・s以上100Pa・s以下である。
【0021】
皮膜形成樹脂溶液には必要に応じて導電性粒子を添加してもよい。樹脂溶液に分散する導電性粒子としては、例えば、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素系物質、銅、銀、アルミニウム等の金属又は合金、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン等の導電性金属酸化物、チタン酸カリウム等のウィスカー、等が挙げられる。中でも、液中の分散安定性、半導電性の発現性、価格等の観点で、カーボンブラックは特に好ましい。
【0022】
導電性粒子の分散方法としては、ボールミル、サンドミル(ビーズミル)、ジェットミル(対抗衝突型分散機)等、公知の方法をとることができる。分散助剤として、界面活性剤やレベリング剤等を添加してもよい。導電性粒子の分散濃度は、樹脂成分100部(質量部、以下同様)に対して、10部以上40部以下、特には15部以上35部以下が好ましい。
【0023】
本実施形態で用いられる円筒状の芯体の材質は、加工性や耐久性の面でステンレスが特に好ましい。芯体の幅(軸方向の長さ)は、目的とする管状体以上の幅が必要であるが、端部に生じる無効領域に対する余裕領域を確保するため、目的とする中間転写ベルトの幅より、10%乃至40%程度長いことが望ましい。芯体の長さ(周長)は、目的とする中間転写ベルトの長さと同等か、わずかに大きくする。
【0024】
芯体の厚さは、0.1mm乃至2mm程度が好適である。これよりも薄い場合は溶接が困難であり、厚い場合は円筒形に丸めるのが難しくなる。芯体を作製するには、四角形の金属製板材を予め定められた幅と長さに切断した後、丸めて両端部同士を溶接接合する。これにより、金属製の環状体が得られる。
【0025】
皮膜形成樹脂がPI樹脂の場合、PI前駆体の加熱反応時に気体発生が多くあり、発生する気体のために、PI樹脂皮膜には部分的に提灯状の膨れを生じやすく、特に皮膜の膜厚が50μmを越えるような厚い場合に顕著である。加熱反応時に発生する気体には、残留溶剤の揮発気体と、反応時に発生する水の蒸気がある。
【0026】
膨れを防止するために、例えば、特開2002−160239号公報記載の技術のように、芯体の表面を算術平均粗さRaが0.2μm乃至2μm程度に粗面化することが好ましい。算術平均粗さRaが0.2μmより小さいと、揮発気体や水蒸気等の気体が抜けにくいことがあり、Raが2μmより大きくなると、作製された中間転写ベルトの表面に凹凸が形成されることがある。粗面化の方法には、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法があるが、粗面化を行う場合でも、芯体は板材部分と溶接部分で同じ硬さであるので、粗さも同じにできる利点がある。粗面化により、PI樹脂から生じる気体は、芯体表面とPI樹脂皮膜の間に形成されるわずかな隙間を通って外部に出ることができ、膨れを生じない。
【0027】
芯体表面に皮膜形成樹脂溶液を塗布する前に、芯体の両端部に、剥離補助部材の一例としてマスキング部材を巻いて貼り付けてもよい。マスキング部材としては、ポリエステルやポリプロピレン等の樹脂フィルム、もしくはクレープ紙や平坦紙等の紙材を基材とした粘着テープが使用可能である。粘着テープの幅は、10mm乃至25mm程度が好ましい。粘着テープの粘着材はアクリル系粘着材が好ましく、特に、剥がした時に粘着材が芯体表面に残らないものが好適である。
【0028】
本実施形態において、皮膜形成樹脂溶液の塗布方法は特に限定されるものではないが、例えば、らせん塗布方法を用いてもよい。
【0029】
図1は、らせん塗布方法の説明図である。らせん塗布方法では、図1に示すように、円筒状の芯体38をその軸方向を水平にして軸周りに回転させながら、皮膜形成樹脂溶液50を流下装置52から吐出して芯体38表面に付着させる。皮膜形成樹脂溶液50は、皮膜形成樹脂溶液50を貯留するタンク54からポンプ56により供給管58を通じて流下装置52に供給される。芯体38の表面に付着した皮膜形成樹脂溶液50は、へら60によって平滑化される。芯体38は、回転装置40により軸方向を水平にした状態で軸周りに矢印B方向に回転する。
【0030】
流下装置52とへら60とは、芯体38の軸方向に移動可能に支持されており、芯体38を予め設定された回転速度で回転させた状態で、流下装置52とへら60とが芯体38の軸方向(矢印C方向)に移動しつつ皮膜形成樹脂溶液50を吐出することで、芯体38の表面に螺旋状に皮膜形成樹脂溶液50が塗布され、へら60で平滑化させて螺旋状の筋を消滅させ、継ぎ目のない塗膜62が形成される。膜厚は、できあがり後の状態で、50μm乃至150μmの範囲で、必要に応じて設定される。
【0031】
−乾燥工程−
本実施形態の中間転写ベルトの製造方法は、塗膜の乾燥速度が飽和する飽和風量で芯体へ送風して塗膜を乾燥させる乾燥工程を備えている。
【0032】
乾燥工程に用いられる乾燥装置10は、図2に示すように、芯体38へ熱風(加熱された空気)を送る送風装置12を備えている。送風装置12は、芯体38の軸方向に長さを有するスリット状の送風口14を有するノズル16と、空気を加熱する加熱部を有し該加熱部で加熱された空気(熱風)をノズル16へ送る送風部18と、を備えている。
【0033】
送風部18とノズル16とは、送風管20で接続されており、送風部18からの熱風は、図3に示すように、送風管20を通じてノズル16の流入口22からノズル16の内部に流入する構成とされている。
【0034】
ノズル16の内部には、空洞(マニホールド)24が形成されている。空洞(マニホールド)24により、ノズル16内部の空気圧力が均一化され、送風口14から出る熱風の風速を送風口14の長手方向で均一化する。空洞24と送風口14との間には、空洞24内の空気圧力の均一性をさらに向上させるために、例えば多孔板などの空気抵抗を有する部材を介在させてもよい。
【0035】
送風口14における芯体38の軸方向へ沿った長さL(図3参照)は、芯体38の軸方向長さより長くされている。送風口14の幅W(図3参照)は、例えば、0.5〜2mmの範囲とされる。この幅Lが0.5mm未満の場合は、風量が減少し、2mmを超える場合は風速の軸方向均一性を保ちにくくなる。このように、送風口14をスリット状にし、予め定められた範囲に幅Lを設定することで、芯体38へ送風される風量(風速)が、芯体38の軸方向で均一化される。
【0036】
ノズル16の送風口14からの熱風は、芯体38の周面に当てられる構成とされている。これにより、送風口14から送風される熱風が芯体38の周方向に沿って流れ、芯体38の表面において熱風が芯体38の軸方向へ分割されない。こうすることにより、熱風は、芯体38の軸方向に流れず、風速は芯体38の軸方向において均一化される。
【0037】
熱風が当たる芯体38の表面位置を通る接線Sと熱風との角度θ(図2参照)は、0°以上90°以下の範囲とされる。
【0038】
送風口14と芯体38との送風方向に沿った距離d(図2参照)は、例えば、50〜300mmの範囲に設定される。送風口14と芯体38との距離が近すぎると、送風口14から吹き出る風の風速が、芯体38表面を流れる途中で減衰しやすく、送風口14と芯体38との距離が遠すぎると送風部18からノズル16へ送風する風量を非常に多くしないと、必要な風量を確保できなくなる。
【0039】
芯体38上の塗膜に当たる熱風の風速は、例えば、5〜50m/sであることが好ましい。熱風の風速が5m/s未満の場合、塗膜の乾燥が遅くなってしまい、熱風の風速が50m/sを超える場合、風が強すぎて、塗膜に風紋や凹みを生じるようになる。
【0040】
次に、塗膜の乾燥速度について説明する。図4は、乾燥時間が経過するにつれて、塗膜の溶媒残留量(塗膜中に残っている溶媒量の百分率)が減少する乾燥速度曲線を示した図である。一般的に溶媒残留量は曲線70に示されるように、ある時点までは直線的に減少し、それ以降は徐々に減少することが知られており、前者は定率乾燥領域、後者は減率乾燥領域と言われている。ここで、定率乾燥領域の直線部分72の傾きを乾燥速度と称する。
【0041】
本実施形態において、ノズル16に送風する風量(流入口22での風量)と乾燥速度の関係を調べた結果を図5に示す。乾燥速度曲線74は、ある部分までは風量に比例して直線的に変化し、それ以降は飽和する傾向にあった。乾燥速度が飽和するのは、塗膜内部における溶媒の拡散移動速度に上限があるためと考えられる。
【0042】
そこで、乾燥速度が飽和する風量で塗膜を乾燥させれば、多少の風量むらがあっても乾燥速度は一定になる。本実施形態ではこの領域で乾燥させて乾燥速度を一定にさせる。
【0043】
ノズル16の送風口14から吹き出される熱風の温度は、溶媒が蒸発可能な温度とされ、送風口14において、例えば、100以上200℃以下の範囲とされる。熱風の温度が低いと乾燥時間が延びるばかりでなく、乾燥後の塗膜が所定の特性を有しないことがある。熱風の温度が高すぎると、塗膜に凹みや泡を生じるようになる。
【0044】
芯体38は、乾燥工程において回転装置43によって回転される。この回転方向は、熱風の流れる方向と同じ方向が好ましい。逆方向の回転でもよいが、その場合は同方向より塗膜に風紋が生じやすくなるので、風速を落とすのがよい。
【0045】
送風装置12は、ノズル16を芯体38の周方向に沿って複数有する構成であっても良い(図7参照)。
【0046】
また、乾燥装置10は、図6に示すように、芯体38及び送風装置12が収容される乾燥炉26を備える構成であっても良い。乾燥炉26には、炉内の温度を高温に保つために、ノズル16に熱風を送る熱源以外に、他の熱源が設けられていてもよい。すなわち、図6に示すように、乾燥炉26には、乾燥炉26内へ熱風を送る送風装置28が設けられている。この送風装置28では、乾燥炉26の上部から乾燥炉26内へ熱風を送り、下部から排出して循環する構成とされている。この熱風の風速は、ノズル16における風速よりも遅く、例えば、0.5〜2m/sの範囲に設定される。すなわち、熱風の風速は、芯体38表面において乾燥炉26の上部からの熱風がほぼ無視できる風速とされる。
【0047】
乾燥炉26の設定温度は、ノズル16から吹き出される熱風の温度と同じであっても、違っていてもよい。このように、乾燥炉26に芯体38及び送風装置12を収容して、芯体38の塗膜を乾燥する構成では、芯体38及び芯体38の周囲の空気の温度を高く維持され、塗膜全体の乾燥が促進される。
【0048】
なお、ノズル16の送風方向は、図6に示すように下向きであってもよく、任意の方向に設定される。
【0049】
なお、マスキング部材を設けた場合は、乾燥後、マスキング部材を剥がす。マスキング部材を剥がすことにより、乾燥した塗膜の端部の少なくとも一部と芯体との間に間隙(隙間)が設けられる。そして、この間隙に気体を吹き込み、芯体から後述の加熱工程を経て得られた樹脂皮膜を抜き取ることで、容易かつ効率的に中間転写ベルトが作製される。また、抜き取る際に過剰な力がかからないため、不良品の発生が防がれる。
【0050】
−加熱工程−
本実施形態の中間転写ベルトの製造方法は、乾燥した塗膜を加熱固化することで樹脂皮膜を形成する加熱工程を含んでもよい。
【0051】
加熱工程は、皮膜形成樹脂にPI前駆体等の加熱により硬化反応を生ずる材料を用いた際に必要となる。加熱工程では、図8に示すように、加熱炉80に芯体を入れて加熱する。加熱温度は、好ましくは250℃以上450℃以下、より好ましくは300℃以上350℃以下程度であり、20分乃至60分間、PI前駆体の皮膜を加熱させることでイミド化反応が起こり、PI樹脂皮膜が形成される。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することが好ましい。皮膜形成樹脂がPAIの場合には、溶剤を乾燥させるだけで皮膜が形成される。
【0052】
なお、このような高い温度では、回転装置に備えられるロールは耐熱性がないため、上記加熱工程では、芯体を回転装置からおろして加熱炉80に入れるのがよい。通常は、芯体の軸方向を重力方向に沿った状態、すなわち、垂直に立てて加熱炉80に入れる。加熱炉80としては、内部の温度ムラをなるべくなくすために、垂直に立てられた芯体の上方から熱風を吹き出す構成を有するものが好ましい。また、芯体上部に熱風が直に吹き当たるのを防止するため、図8に示すように、芯体上部に風を遮断する遮蔽部材82を設置してもよい。遮蔽部材82としては、芯体の一端を覆うことのできるものであればその形状に特に限定はない。
【0053】
−脱型工程−
本実施形態の中間転写ベルトの製造方法は、乾燥工程で乾燥された塗膜を芯体から脱型する脱型工程を備えている。
【0054】
脱型工程では、加熱工程終了後、芯体38を加熱炉80から取り出し、形成された皮膜を芯体から抜き取る。これにより、中間転写ベルトが得られる。その際、マスキング部材を剥がすことにより設けられた皮膜の端部の隙間に加圧空気を吹き込んで、皮膜と芯体との密着を解除すると抜き取りやすくなる。得られた皮膜の端部には、しわや、膜厚の不均一等の欠陥があるため、不要部分が切断され、中間転写ベルトとなる。中間転写ベルトには、必要に応じて、穴あけ加工やリブ付け加工、等が施されることがある。
【0055】
本実施形態により得られる中間転写ベルトは、感光体などから画像が転写され、その画像を記録媒体に転写する転写体であり、電子写真複写機やレーザープリンタ等の画像形成装置に使用される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本実施形態をさらに詳細に説明するが、本実施形態は以下の実施例により限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
PI前駆体溶液(商品名:Uワニス、宇部興産製、固形分濃度18%、溶剤はN−メチルピロリドン)100質量部に、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製)を固形分質量比で27%混合し、次いで対向衝突型分散機(株式会社ジーナス製、GeanusPY)により分散し、25℃での粘度が約42Pa・sの皮膜形成樹脂溶液を得た。
【0058】
外径600mm、肉厚8mm、長さ0.6mのSUS304製円筒を用意し、保持板として、厚さ10mm、外径が上記円筒に嵌まる径で、150mm径の通風孔を4つ設けた円板を同じSUS材で作製し、上記円筒の両端に嵌めて溶接し、芯体38とした。芯体表面は、球形アルミナ粒子によるブラスト処理によりRa0.4μmに粗面化した。
【0059】
次いで、芯体38の表面には、シリコーン系離型剤(商品名:セパコート、信越化学製)を塗布して、300℃で1時間、焼き付け処理を施した。
【0060】
上記芯体38の両端に、マスキング部材(商品名:スコッチテープ#232、住友スリーエム社製で、クレープ紙基材とアクリル系粘着材からなる幅24mmのもの)を全周に貼り付けた。
【0061】
次いで、図1に示すらせん塗布機にて、下層のPI前駆体塗膜を形成する。塗布は、10Lの皮膜形成樹脂溶液50が入ったタンク54にポンプ56としてのモーノポンプを連結し、流下装置52から毎分60mlの吐出を行い、芯体38を矢印B方向に20rpmで回転させ、流下装置52からの皮膜形成樹脂溶液50が芯体38に付着後、その表面にへら60を押し当て、芯体38の軸方向(矢印C方向)に50mm/分の速度で移動させて行う。平滑化手段であるへら60は、厚さ0.2mmのステンレス板を幅20mm、長さ50mmに加工したものである。塗布幅は芯体38の端部10mmの位置から、他端部10mmの位置までとした。
【0062】
塗布後、そのまま5分間回転を続けることで、塗膜表面のらせん筋は消失した。これにより、膜厚が約500μmの層が形成された。この厚さは、でき上がり膜厚80μmに相当する。
【0063】
その後、図7に示すように、芯体を10rpmで回転させ、150℃に設定された乾燥炉26に入れた。芯体38の回転方向は熱風が流れる方向と同じ方向(図6における時計周り方向)である。乾燥炉26の上部に設けられた送風装置28の送風口には、HEPAフィルター29が設けられ、HEPAフィルター29を介して乾燥炉26の下部へ向けて1.2m/sの熱風が吹き下りるようになっている。
【0064】
乾燥炉26内に設けられた送風装置12は、図7に示すように、ノズル16を2つ備えている。2つのノズル16は、同じ仕様条件であり、幅1.5mm、長さ1.2mの送風口14を有し、内部には空洞24を備えた構造である。流入口22には150℃に加熱された空気を0.1m3/sの流量で送風すると、送風口14からは150℃の熱風が50m/sの風速で吹き出る。ノズル16が芯体38に対して、熱風が芯体38に当たる位置における接線Sとの角度θが30°、芯体38と送風口14との距離dを50mmとなるように、ノズル16を設置した。芯体38に当たる位置での熱風の風速は20m/s、温度は乾燥炉26の設定温度と同じ150℃であった。2本のノズルは、芯体38の中心軸に対して90°離れた位置とした。この条件で塗膜を15分間乾燥させたところ、塗膜の残留溶媒量が40%に乾燥することができた。芯体38を取り出した後、マスキング部材を剥がした。
【0065】
その後、図8に示すように、芯体38を回転台からおろして垂直にして、芯体38の上に遮蔽部材82を載せた。その形状は、外径600mm、高さ120mmで、中央に150φの穴を設けてあり、1mm厚のSUS304の板を加工したものである。
【0066】
芯体38を加熱炉80に入れ、200℃で30分、300℃で30分加熱反応させ、残留溶剤の乾燥と樹脂のイミド化反応を同時に行った。
【0067】
室温に冷えた後、芯体38と皮膜の隙間に加圧空気を吹き込んで樹脂皮膜を抜き取り、中間転写ベルト(無端ベルト)を得た。膜厚をダイヤルゲージで測定すると、平均80μmであった。
【0068】
得られた中間転写ベルトの電気特性を後述の方法で測定したところ、表面抵抗率は、平均10.78LogΩ/□、ばらつき0.5であった。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、乾燥炉26内のノズル16を、熱風が芯体38の接線Sに対して65°の角度になるようにして、芯体38と送風口14との距離50mmで設置した。芯体38に当たる位置での熱風の風速は20m/s、温度は乾燥炉26の設定温度と同じ150℃であり、2本のノズルは、芯体38の中心軸に対して90°離れた位置とした。他の条件は、実施例1と同じである。
【0070】
この条件で塗膜を15分間乾燥させたところ、塗膜の残留溶媒量が40%になるまで乾燥することができ、乾燥速度は実施例1と同様に速くできた。
【0071】
得られた中間転写ベルトの電気特性を後述の方法で測定したところ、表面抵抗率は、平均10.34、ばらつき0.8であった。
【0072】
(実施例3)
芯体38として、外周長2512mm、肉厚0.2mm、幅0.5mのSUS304製ベルト(金属ベルト)を用意した。表面はRa0.2μmの梨地状である。芯体38の表面には、両端から20mmずつ除いて、シリコーン系離型剤(商品名:セパコート、信越化学製)を塗布し、300℃で1時間、焼き付け処理を施した。
【0073】
この金属ベルトを直径200mmの2本の回転軸に張架した。次いで、回転軸を60rpmで回転させ、実施例1と同じ塗布液を用い、らせん塗布機により、両側15mmずつ除いて芯体38上に塗布した。塗布後、そのまま5分間回転を続けることで、塗膜表面のらせん筋は消失した。これにより、膜厚が約500μmの層が形成された。この厚さは、でき上がり膜厚80μmに相当する。
【0074】
その後、金属ベルトを回転軸に張架したまま、回転軸を30rpmで回転させ、加熱源を持たない乾燥炉に入れた。すなわち、図6に示す乾燥炉26において、送風装置28を有さない構成である。乾燥炉26内には、ノズル16を1本備える送風装置12を設置した。ノズル16は実施例1と同じ仕様条件であり、芯体38に対して、熱風が芯体38に当たる位置における接線Sとの角度θが10°、芯体38と送風口14との距離dを50mmとした。芯体38に当たる位置での熱風の風速は20m/s、温度は140℃であった。この条件で塗膜を16分間乾燥させ、塗膜の残留溶媒量が40%に乾燥することができた。この芯体38は肉厚が薄いので、1本のノズル16でも短時間で乾燥させることができた。なお、芯体38の回転方向は熱風が流れるのと同じ方向(図では右回転)である。
【0075】
その後、芯体38を回転軸から外して、円筒形状を保たせながら垂直にして加熱炉に入れ、200℃で15分、300℃で30分加熱反応させ、残留溶剤の乾燥と樹脂のイミド化反応を同時に行った。
【0076】
室温に冷えた後、芯体38と皮膜の隙間に加圧空気を吹き込んで樹脂皮膜を抜き取り、中間転写ベルトを得た。膜厚をダイヤルゲージで測定すると、平均80μmであった。
【0077】
得られた中間転写ベルトの電気特性を後述の方法で測定したところ、表面抵抗率は、平均10.8LogΩ/□、ばらつき0.5であった。
【0078】
(比較例1)
比較例1では、実施例1における乾燥工程において、図9に示す乾燥炉26(実施例1の図6に示す乾燥炉26において送風装置12を有さない構成)に入れて乾燥させた。比較例では、塗膜の残留溶媒量が40%になるまでに要した時間は26分であり、実施例1の場合より9分長く要した。実施例1ではノズルから強い熱風を当てているので、温度と風の両面で乾燥が促進できたのである。他は同様にして中間転写ベルトを作製した。
【0079】
ここで、中間転写ベルトの表面抵抗は、乾燥時の芯体温度と相関があり、温度が高いと抵抗は下がる傾向がある。乾燥時に芯体の温度を調べた結果を図10に示す。すなわち、芯体の軸方向で所定の位置ごとに、周方向で90°ずつ4点の温度測定を行い、グラフにまとめた。図10によれば、比較例1では芯体両側の温度が高く、中央部では温度が低くなっていた。これは、乾燥炉上方からの熱風が芯体に当たった後、図12に示すように、軸方向で両側方向に流れるため、両側の温度が高くなったと考えられる。実施例1・2・3では芯体の軸方向に一様に風が当たり、周方向に沿って流れるため、比較例1に比べて、軸方向で温度が一定である。
【0080】
次に、芯体の温度測定位置に対応する位置において、製造された中間転写ベルトの表面抵抗を測定し、結果を図11に示す。実施例1は、平均10.78LogΩ/□、ばらつき0.5で、実施例2は、平均10.34、ばらつき0.8、実施例3は、平均10.8LogΩ/□、ばらつき0.5であった。これに対して、比較例1のものは、平均10.20LogΩ/□、ばらつき1.4であった。このように実施例1・2・3では抵抗ばらつきが改善されているのが分かる。なお、実施例1・2・3の結果で、ばらつきが残っているのは、加熱反応炉の温度むらが原因と考えられる。
【0081】
なお、電気特性の測定は次のようにして行った。
【0082】
−表面抵抗率−
表面抵抗率は、試験片の表面に沿って流れる電流と平行方向の電位傾度を、表面の単位幅当たりの電流で除した数値であり、各辺1cmの正方形の相対する辺を電極とする二つの電極間の表面抵抗に等しい。表面抵抗率の単位は、正式にはΩだが、単なる抵抗と区別するためΩ/□と記載される。
【0083】
測定には、デジタル超高抵抗/微小電流計(アドバンテスト社製、R8340A)と、二重リング電極のURプローブ:MCP−HTP12、及びレジテーブル:UFL MCP−ST03(何れも、ダイアインスツルメンツ社製)を用い、JIS K6911(1995)に準拠して、リング電極に電圧を印加して行った。
【0084】
測定時は、上記レジテーブル上に試験片を置き、測定面に接するように上記URプローブを当て、URプローブの上部には質量2.0±0.1kg(19.6±1.0N)の錘を取り付け、試験片に一定の荷重がかかるようにした。測定する時の電圧印加時間は10秒とした。
【0085】
R8340Aデジタル超高抵抗/微小電流計の読み値をR、URプローブMCP−HTP12の表面抵抗率補正係数をRCF(S)とすると、ダイアインスツルメンツ社「抵抗率計シリーズ」カタログによればRCF(S)=10.0なので、表面抵抗率ρsは下記式(1)のようになる。
【0086】
式(1):ρs(Ω/□)=R×RCF(S)=R×10.0
【0087】
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、種々の変形、変更、改良が可能である。例えば、上記に示した変形例は、適宜、複数を組み合わせて構成しても良い。
【符号の説明】
【0088】
12 送風装置
14 送風口
26 乾燥炉
38 芯体
50 皮膜形成樹脂溶液(樹脂溶液の一例)
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、皮膜形成樹脂溶液を塗布することにより塗膜がその表面に形成された芯体を、乾燥炉100内に配置して加熱し前記塗膜を乾燥させて樹脂皮膜を形成する乾燥工程と、前記樹脂皮膜が形成された芯体を、加熱炉200内に配置して加熱し前記樹脂皮膜を焼成する加熱工程とを含み、前記加熱工程において、前記加熱炉から排気された排気ガス210を前記乾燥炉に供給することを特徴とする無端ベルト製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、金属製の軸芯体と、該軸芯体の外周に配した少なくとも1層の弾性層と、該弾性層の外周面上に少なくとも1層の塗工液を塗布して乾燥または硬化して形成した被覆層を有する導電性部材において、該被覆層が、該塗工液を該弾性層の外周面上に塗布して塗工層を形成した後、0.1〜1m/sの範囲の風速と、該軸芯体の中心線と0〜25°の範囲内の角度をなす風向を有する風を送り加熱乾燥または加熱硬化して形成した被覆層であることを特徴とする導電性部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−216510号公報
【特許文献2】特開2006−71781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製造される管状体の軸方向における表面抵抗のむらを低減できる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、芯体をその軸方向を水平にして回転させながら、その回転する芯体の表面に樹脂溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜の乾燥速度が飽和する飽和風量で前記芯体へ送風して塗膜を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥された塗膜を芯体から脱型する脱型工程と、を備える管状体の製造方法である。
【0007】
請求項2の発明は、前記乾燥工程は、加熱された空気が内部へ供給される乾燥炉の中に前記芯体を収容する共に、その芯体に対して前記乾燥炉の中に設置した送風装置の送風口から前記飽和風量で送風して塗膜を乾燥させる請求項1記載の管状体の製造方法である。
【0008】
請求項3の発明は、前記乾燥工程は、前記芯体の軸方向に延びるスリット状に形成された前記送風口から前記芯体へ送風して塗膜を乾燥させる請求項2に記載の管状体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1の方法によれば、塗膜の乾燥速度が飽和しない風量で芯体へ送風する場合に比べ、製造される管状体の軸方向における表面抵抗のむらを低減できる。
【0010】
本発明の請求項2の方法によれば、本構成を備えない構成に比べ、塗膜全体の乾燥が促進される。
【0011】
本発明の請求項3の方法によれば、本構成を備えない構成に比べ、芯体へ送風される風量が、芯体の軸方向で均一化される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る塗布工程(らせん塗布方法)に用いられる塗布装置の構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係る乾燥工程に用いられる送風装置の構成を示す概略図である。
【図3】図2に示す送風装置のノズルの斜視図である。
【図4】乾燥速度曲線を示した説明図である。
【図5】ノズル風量と乾燥速度の関係を示した図である。
【図6】本実施形態に係る乾燥工程に用いられる乾燥装置の構成を示す概略図である。
【図7】本実施形態に係る乾燥工程に用いられる乾燥装置においてノズルを複数有する構成を示す概略図である。
【図8】本実施形態に係る加熱工程に用いられる加熱装置の構成を示す概略図である。
【図9】比較例に係る乾燥装置の構成を示す概略図である。
【図10】乾燥工程における芯体の温度を示すグラフである。
【図11】製造された中間転写ベルトの表面抵抗率を示すグラフである。
【図12】比較例に係る乾燥装置の構成における熱風の流れを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。なお、図面では理解の容易のために、説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。また、同様の機能を有する部材には、全図面を通じて同じ符合を付与し、その説明を省略することがある。本実施形態では、管状体の一例としての中間転写ベルトの製造方法を例に説明するが、本実施形態に係る製造方法を用紙搬送ベルト等のその他の管状体の製造に適用してもよい。
【0014】
−塗布工程−
本実施形態の中間転写ベルトの製造方法は、芯体をその軸方向を水平にして回転させながら、その回転する芯体の表面に、樹脂溶液の一例としての皮膜形成樹脂溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程を備えている。
【0015】
中間転写ベルトを構成する皮膜形成樹脂は、強度や寸法安定性、耐熱性等の面でポリイミド樹脂(PI)やポリアミドイミド樹脂(PAI)が使用されているが、これらに限定されるものではない。PIまたはPAIとしては、種々の公知のものを用いることができ、PIの場合はその前駆体を塗布することもある。
【0016】
皮膜形成樹脂溶液であるPI前駆体溶液は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分を、溶剤中で反応させることによって得ることができる。各成分の種類は特に制限されないが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン成分とを反応させて得られるものが、皮膜強度の点から好ましい。
【0017】
上記芳香族テトラカルボン酸の代表例としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、あるいはこれらのテトラカルボン酸エステル、又は上記各テトラカルボン酸類の混合物等が挙げられる。
【0018】
一方、上記芳香族ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等が挙げられる。
【0019】
一方、PAIは、酸無水物、例えばトリメリット酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物等と、上記ジアミンを組み合わせて、当モル量で重縮合反応することで得られる。PAIはアミド基を有するため、イミド化反応が進んでも溶剤に溶解し易いので、100%イミド化したものが好ましい。
【0020】
皮膜形成樹脂溶液に含まれる溶剤としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド等の非プロトン系極性溶剤が用いられる。溶液の濃度・粘度等に限定はないが、本実施形態において望ましい溶液の固形分濃度は10質量%以上40質量%以下、粘度は1Pa・s以上100Pa・s以下である。
【0021】
皮膜形成樹脂溶液には必要に応じて導電性粒子を添加してもよい。樹脂溶液に分散する導電性粒子としては、例えば、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素系物質、銅、銀、アルミニウム等の金属又は合金、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン等の導電性金属酸化物、チタン酸カリウム等のウィスカー、等が挙げられる。中でも、液中の分散安定性、半導電性の発現性、価格等の観点で、カーボンブラックは特に好ましい。
【0022】
導電性粒子の分散方法としては、ボールミル、サンドミル(ビーズミル)、ジェットミル(対抗衝突型分散機)等、公知の方法をとることができる。分散助剤として、界面活性剤やレベリング剤等を添加してもよい。導電性粒子の分散濃度は、樹脂成分100部(質量部、以下同様)に対して、10部以上40部以下、特には15部以上35部以下が好ましい。
【0023】
本実施形態で用いられる円筒状の芯体の材質は、加工性や耐久性の面でステンレスが特に好ましい。芯体の幅(軸方向の長さ)は、目的とする管状体以上の幅が必要であるが、端部に生じる無効領域に対する余裕領域を確保するため、目的とする中間転写ベルトの幅より、10%乃至40%程度長いことが望ましい。芯体の長さ(周長)は、目的とする中間転写ベルトの長さと同等か、わずかに大きくする。
【0024】
芯体の厚さは、0.1mm乃至2mm程度が好適である。これよりも薄い場合は溶接が困難であり、厚い場合は円筒形に丸めるのが難しくなる。芯体を作製するには、四角形の金属製板材を予め定められた幅と長さに切断した後、丸めて両端部同士を溶接接合する。これにより、金属製の環状体が得られる。
【0025】
皮膜形成樹脂がPI樹脂の場合、PI前駆体の加熱反応時に気体発生が多くあり、発生する気体のために、PI樹脂皮膜には部分的に提灯状の膨れを生じやすく、特に皮膜の膜厚が50μmを越えるような厚い場合に顕著である。加熱反応時に発生する気体には、残留溶剤の揮発気体と、反応時に発生する水の蒸気がある。
【0026】
膨れを防止するために、例えば、特開2002−160239号公報記載の技術のように、芯体の表面を算術平均粗さRaが0.2μm乃至2μm程度に粗面化することが好ましい。算術平均粗さRaが0.2μmより小さいと、揮発気体や水蒸気等の気体が抜けにくいことがあり、Raが2μmより大きくなると、作製された中間転写ベルトの表面に凹凸が形成されることがある。粗面化の方法には、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法があるが、粗面化を行う場合でも、芯体は板材部分と溶接部分で同じ硬さであるので、粗さも同じにできる利点がある。粗面化により、PI樹脂から生じる気体は、芯体表面とPI樹脂皮膜の間に形成されるわずかな隙間を通って外部に出ることができ、膨れを生じない。
【0027】
芯体表面に皮膜形成樹脂溶液を塗布する前に、芯体の両端部に、剥離補助部材の一例としてマスキング部材を巻いて貼り付けてもよい。マスキング部材としては、ポリエステルやポリプロピレン等の樹脂フィルム、もしくはクレープ紙や平坦紙等の紙材を基材とした粘着テープが使用可能である。粘着テープの幅は、10mm乃至25mm程度が好ましい。粘着テープの粘着材はアクリル系粘着材が好ましく、特に、剥がした時に粘着材が芯体表面に残らないものが好適である。
【0028】
本実施形態において、皮膜形成樹脂溶液の塗布方法は特に限定されるものではないが、例えば、らせん塗布方法を用いてもよい。
【0029】
図1は、らせん塗布方法の説明図である。らせん塗布方法では、図1に示すように、円筒状の芯体38をその軸方向を水平にして軸周りに回転させながら、皮膜形成樹脂溶液50を流下装置52から吐出して芯体38表面に付着させる。皮膜形成樹脂溶液50は、皮膜形成樹脂溶液50を貯留するタンク54からポンプ56により供給管58を通じて流下装置52に供給される。芯体38の表面に付着した皮膜形成樹脂溶液50は、へら60によって平滑化される。芯体38は、回転装置40により軸方向を水平にした状態で軸周りに矢印B方向に回転する。
【0030】
流下装置52とへら60とは、芯体38の軸方向に移動可能に支持されており、芯体38を予め設定された回転速度で回転させた状態で、流下装置52とへら60とが芯体38の軸方向(矢印C方向)に移動しつつ皮膜形成樹脂溶液50を吐出することで、芯体38の表面に螺旋状に皮膜形成樹脂溶液50が塗布され、へら60で平滑化させて螺旋状の筋を消滅させ、継ぎ目のない塗膜62が形成される。膜厚は、できあがり後の状態で、50μm乃至150μmの範囲で、必要に応じて設定される。
【0031】
−乾燥工程−
本実施形態の中間転写ベルトの製造方法は、塗膜の乾燥速度が飽和する飽和風量で芯体へ送風して塗膜を乾燥させる乾燥工程を備えている。
【0032】
乾燥工程に用いられる乾燥装置10は、図2に示すように、芯体38へ熱風(加熱された空気)を送る送風装置12を備えている。送風装置12は、芯体38の軸方向に長さを有するスリット状の送風口14を有するノズル16と、空気を加熱する加熱部を有し該加熱部で加熱された空気(熱風)をノズル16へ送る送風部18と、を備えている。
【0033】
送風部18とノズル16とは、送風管20で接続されており、送風部18からの熱風は、図3に示すように、送風管20を通じてノズル16の流入口22からノズル16の内部に流入する構成とされている。
【0034】
ノズル16の内部には、空洞(マニホールド)24が形成されている。空洞(マニホールド)24により、ノズル16内部の空気圧力が均一化され、送風口14から出る熱風の風速を送風口14の長手方向で均一化する。空洞24と送風口14との間には、空洞24内の空気圧力の均一性をさらに向上させるために、例えば多孔板などの空気抵抗を有する部材を介在させてもよい。
【0035】
送風口14における芯体38の軸方向へ沿った長さL(図3参照)は、芯体38の軸方向長さより長くされている。送風口14の幅W(図3参照)は、例えば、0.5〜2mmの範囲とされる。この幅Lが0.5mm未満の場合は、風量が減少し、2mmを超える場合は風速の軸方向均一性を保ちにくくなる。このように、送風口14をスリット状にし、予め定められた範囲に幅Lを設定することで、芯体38へ送風される風量(風速)が、芯体38の軸方向で均一化される。
【0036】
ノズル16の送風口14からの熱風は、芯体38の周面に当てられる構成とされている。これにより、送風口14から送風される熱風が芯体38の周方向に沿って流れ、芯体38の表面において熱風が芯体38の軸方向へ分割されない。こうすることにより、熱風は、芯体38の軸方向に流れず、風速は芯体38の軸方向において均一化される。
【0037】
熱風が当たる芯体38の表面位置を通る接線Sと熱風との角度θ(図2参照)は、0°以上90°以下の範囲とされる。
【0038】
送風口14と芯体38との送風方向に沿った距離d(図2参照)は、例えば、50〜300mmの範囲に設定される。送風口14と芯体38との距離が近すぎると、送風口14から吹き出る風の風速が、芯体38表面を流れる途中で減衰しやすく、送風口14と芯体38との距離が遠すぎると送風部18からノズル16へ送風する風量を非常に多くしないと、必要な風量を確保できなくなる。
【0039】
芯体38上の塗膜に当たる熱風の風速は、例えば、5〜50m/sであることが好ましい。熱風の風速が5m/s未満の場合、塗膜の乾燥が遅くなってしまい、熱風の風速が50m/sを超える場合、風が強すぎて、塗膜に風紋や凹みを生じるようになる。
【0040】
次に、塗膜の乾燥速度について説明する。図4は、乾燥時間が経過するにつれて、塗膜の溶媒残留量(塗膜中に残っている溶媒量の百分率)が減少する乾燥速度曲線を示した図である。一般的に溶媒残留量は曲線70に示されるように、ある時点までは直線的に減少し、それ以降は徐々に減少することが知られており、前者は定率乾燥領域、後者は減率乾燥領域と言われている。ここで、定率乾燥領域の直線部分72の傾きを乾燥速度と称する。
【0041】
本実施形態において、ノズル16に送風する風量(流入口22での風量)と乾燥速度の関係を調べた結果を図5に示す。乾燥速度曲線74は、ある部分までは風量に比例して直線的に変化し、それ以降は飽和する傾向にあった。乾燥速度が飽和するのは、塗膜内部における溶媒の拡散移動速度に上限があるためと考えられる。
【0042】
そこで、乾燥速度が飽和する風量で塗膜を乾燥させれば、多少の風量むらがあっても乾燥速度は一定になる。本実施形態ではこの領域で乾燥させて乾燥速度を一定にさせる。
【0043】
ノズル16の送風口14から吹き出される熱風の温度は、溶媒が蒸発可能な温度とされ、送風口14において、例えば、100以上200℃以下の範囲とされる。熱風の温度が低いと乾燥時間が延びるばかりでなく、乾燥後の塗膜が所定の特性を有しないことがある。熱風の温度が高すぎると、塗膜に凹みや泡を生じるようになる。
【0044】
芯体38は、乾燥工程において回転装置43によって回転される。この回転方向は、熱風の流れる方向と同じ方向が好ましい。逆方向の回転でもよいが、その場合は同方向より塗膜に風紋が生じやすくなるので、風速を落とすのがよい。
【0045】
送風装置12は、ノズル16を芯体38の周方向に沿って複数有する構成であっても良い(図7参照)。
【0046】
また、乾燥装置10は、図6に示すように、芯体38及び送風装置12が収容される乾燥炉26を備える構成であっても良い。乾燥炉26には、炉内の温度を高温に保つために、ノズル16に熱風を送る熱源以外に、他の熱源が設けられていてもよい。すなわち、図6に示すように、乾燥炉26には、乾燥炉26内へ熱風を送る送風装置28が設けられている。この送風装置28では、乾燥炉26の上部から乾燥炉26内へ熱風を送り、下部から排出して循環する構成とされている。この熱風の風速は、ノズル16における風速よりも遅く、例えば、0.5〜2m/sの範囲に設定される。すなわち、熱風の風速は、芯体38表面において乾燥炉26の上部からの熱風がほぼ無視できる風速とされる。
【0047】
乾燥炉26の設定温度は、ノズル16から吹き出される熱風の温度と同じであっても、違っていてもよい。このように、乾燥炉26に芯体38及び送風装置12を収容して、芯体38の塗膜を乾燥する構成では、芯体38及び芯体38の周囲の空気の温度を高く維持され、塗膜全体の乾燥が促進される。
【0048】
なお、ノズル16の送風方向は、図6に示すように下向きであってもよく、任意の方向に設定される。
【0049】
なお、マスキング部材を設けた場合は、乾燥後、マスキング部材を剥がす。マスキング部材を剥がすことにより、乾燥した塗膜の端部の少なくとも一部と芯体との間に間隙(隙間)が設けられる。そして、この間隙に気体を吹き込み、芯体から後述の加熱工程を経て得られた樹脂皮膜を抜き取ることで、容易かつ効率的に中間転写ベルトが作製される。また、抜き取る際に過剰な力がかからないため、不良品の発生が防がれる。
【0050】
−加熱工程−
本実施形態の中間転写ベルトの製造方法は、乾燥した塗膜を加熱固化することで樹脂皮膜を形成する加熱工程を含んでもよい。
【0051】
加熱工程は、皮膜形成樹脂にPI前駆体等の加熱により硬化反応を生ずる材料を用いた際に必要となる。加熱工程では、図8に示すように、加熱炉80に芯体を入れて加熱する。加熱温度は、好ましくは250℃以上450℃以下、より好ましくは300℃以上350℃以下程度であり、20分乃至60分間、PI前駆体の皮膜を加熱させることでイミド化反応が起こり、PI樹脂皮膜が形成される。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することが好ましい。皮膜形成樹脂がPAIの場合には、溶剤を乾燥させるだけで皮膜が形成される。
【0052】
なお、このような高い温度では、回転装置に備えられるロールは耐熱性がないため、上記加熱工程では、芯体を回転装置からおろして加熱炉80に入れるのがよい。通常は、芯体の軸方向を重力方向に沿った状態、すなわち、垂直に立てて加熱炉80に入れる。加熱炉80としては、内部の温度ムラをなるべくなくすために、垂直に立てられた芯体の上方から熱風を吹き出す構成を有するものが好ましい。また、芯体上部に熱風が直に吹き当たるのを防止するため、図8に示すように、芯体上部に風を遮断する遮蔽部材82を設置してもよい。遮蔽部材82としては、芯体の一端を覆うことのできるものであればその形状に特に限定はない。
【0053】
−脱型工程−
本実施形態の中間転写ベルトの製造方法は、乾燥工程で乾燥された塗膜を芯体から脱型する脱型工程を備えている。
【0054】
脱型工程では、加熱工程終了後、芯体38を加熱炉80から取り出し、形成された皮膜を芯体から抜き取る。これにより、中間転写ベルトが得られる。その際、マスキング部材を剥がすことにより設けられた皮膜の端部の隙間に加圧空気を吹き込んで、皮膜と芯体との密着を解除すると抜き取りやすくなる。得られた皮膜の端部には、しわや、膜厚の不均一等の欠陥があるため、不要部分が切断され、中間転写ベルトとなる。中間転写ベルトには、必要に応じて、穴あけ加工やリブ付け加工、等が施されることがある。
【0055】
本実施形態により得られる中間転写ベルトは、感光体などから画像が転写され、その画像を記録媒体に転写する転写体であり、電子写真複写機やレーザープリンタ等の画像形成装置に使用される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本実施形態をさらに詳細に説明するが、本実施形態は以下の実施例により限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
PI前駆体溶液(商品名:Uワニス、宇部興産製、固形分濃度18%、溶剤はN−メチルピロリドン)100質量部に、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製)を固形分質量比で27%混合し、次いで対向衝突型分散機(株式会社ジーナス製、GeanusPY)により分散し、25℃での粘度が約42Pa・sの皮膜形成樹脂溶液を得た。
【0058】
外径600mm、肉厚8mm、長さ0.6mのSUS304製円筒を用意し、保持板として、厚さ10mm、外径が上記円筒に嵌まる径で、150mm径の通風孔を4つ設けた円板を同じSUS材で作製し、上記円筒の両端に嵌めて溶接し、芯体38とした。芯体表面は、球形アルミナ粒子によるブラスト処理によりRa0.4μmに粗面化した。
【0059】
次いで、芯体38の表面には、シリコーン系離型剤(商品名:セパコート、信越化学製)を塗布して、300℃で1時間、焼き付け処理を施した。
【0060】
上記芯体38の両端に、マスキング部材(商品名:スコッチテープ#232、住友スリーエム社製で、クレープ紙基材とアクリル系粘着材からなる幅24mmのもの)を全周に貼り付けた。
【0061】
次いで、図1に示すらせん塗布機にて、下層のPI前駆体塗膜を形成する。塗布は、10Lの皮膜形成樹脂溶液50が入ったタンク54にポンプ56としてのモーノポンプを連結し、流下装置52から毎分60mlの吐出を行い、芯体38を矢印B方向に20rpmで回転させ、流下装置52からの皮膜形成樹脂溶液50が芯体38に付着後、その表面にへら60を押し当て、芯体38の軸方向(矢印C方向)に50mm/分の速度で移動させて行う。平滑化手段であるへら60は、厚さ0.2mmのステンレス板を幅20mm、長さ50mmに加工したものである。塗布幅は芯体38の端部10mmの位置から、他端部10mmの位置までとした。
【0062】
塗布後、そのまま5分間回転を続けることで、塗膜表面のらせん筋は消失した。これにより、膜厚が約500μmの層が形成された。この厚さは、でき上がり膜厚80μmに相当する。
【0063】
その後、図7に示すように、芯体を10rpmで回転させ、150℃に設定された乾燥炉26に入れた。芯体38の回転方向は熱風が流れる方向と同じ方向(図6における時計周り方向)である。乾燥炉26の上部に設けられた送風装置28の送風口には、HEPAフィルター29が設けられ、HEPAフィルター29を介して乾燥炉26の下部へ向けて1.2m/sの熱風が吹き下りるようになっている。
【0064】
乾燥炉26内に設けられた送風装置12は、図7に示すように、ノズル16を2つ備えている。2つのノズル16は、同じ仕様条件であり、幅1.5mm、長さ1.2mの送風口14を有し、内部には空洞24を備えた構造である。流入口22には150℃に加熱された空気を0.1m3/sの流量で送風すると、送風口14からは150℃の熱風が50m/sの風速で吹き出る。ノズル16が芯体38に対して、熱風が芯体38に当たる位置における接線Sとの角度θが30°、芯体38と送風口14との距離dを50mmとなるように、ノズル16を設置した。芯体38に当たる位置での熱風の風速は20m/s、温度は乾燥炉26の設定温度と同じ150℃であった。2本のノズルは、芯体38の中心軸に対して90°離れた位置とした。この条件で塗膜を15分間乾燥させたところ、塗膜の残留溶媒量が40%に乾燥することができた。芯体38を取り出した後、マスキング部材を剥がした。
【0065】
その後、図8に示すように、芯体38を回転台からおろして垂直にして、芯体38の上に遮蔽部材82を載せた。その形状は、外径600mm、高さ120mmで、中央に150φの穴を設けてあり、1mm厚のSUS304の板を加工したものである。
【0066】
芯体38を加熱炉80に入れ、200℃で30分、300℃で30分加熱反応させ、残留溶剤の乾燥と樹脂のイミド化反応を同時に行った。
【0067】
室温に冷えた後、芯体38と皮膜の隙間に加圧空気を吹き込んで樹脂皮膜を抜き取り、中間転写ベルト(無端ベルト)を得た。膜厚をダイヤルゲージで測定すると、平均80μmであった。
【0068】
得られた中間転写ベルトの電気特性を後述の方法で測定したところ、表面抵抗率は、平均10.78LogΩ/□、ばらつき0.5であった。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、乾燥炉26内のノズル16を、熱風が芯体38の接線Sに対して65°の角度になるようにして、芯体38と送風口14との距離50mmで設置した。芯体38に当たる位置での熱風の風速は20m/s、温度は乾燥炉26の設定温度と同じ150℃であり、2本のノズルは、芯体38の中心軸に対して90°離れた位置とした。他の条件は、実施例1と同じである。
【0070】
この条件で塗膜を15分間乾燥させたところ、塗膜の残留溶媒量が40%になるまで乾燥することができ、乾燥速度は実施例1と同様に速くできた。
【0071】
得られた中間転写ベルトの電気特性を後述の方法で測定したところ、表面抵抗率は、平均10.34、ばらつき0.8であった。
【0072】
(実施例3)
芯体38として、外周長2512mm、肉厚0.2mm、幅0.5mのSUS304製ベルト(金属ベルト)を用意した。表面はRa0.2μmの梨地状である。芯体38の表面には、両端から20mmずつ除いて、シリコーン系離型剤(商品名:セパコート、信越化学製)を塗布し、300℃で1時間、焼き付け処理を施した。
【0073】
この金属ベルトを直径200mmの2本の回転軸に張架した。次いで、回転軸を60rpmで回転させ、実施例1と同じ塗布液を用い、らせん塗布機により、両側15mmずつ除いて芯体38上に塗布した。塗布後、そのまま5分間回転を続けることで、塗膜表面のらせん筋は消失した。これにより、膜厚が約500μmの層が形成された。この厚さは、でき上がり膜厚80μmに相当する。
【0074】
その後、金属ベルトを回転軸に張架したまま、回転軸を30rpmで回転させ、加熱源を持たない乾燥炉に入れた。すなわち、図6に示す乾燥炉26において、送風装置28を有さない構成である。乾燥炉26内には、ノズル16を1本備える送風装置12を設置した。ノズル16は実施例1と同じ仕様条件であり、芯体38に対して、熱風が芯体38に当たる位置における接線Sとの角度θが10°、芯体38と送風口14との距離dを50mmとした。芯体38に当たる位置での熱風の風速は20m/s、温度は140℃であった。この条件で塗膜を16分間乾燥させ、塗膜の残留溶媒量が40%に乾燥することができた。この芯体38は肉厚が薄いので、1本のノズル16でも短時間で乾燥させることができた。なお、芯体38の回転方向は熱風が流れるのと同じ方向(図では右回転)である。
【0075】
その後、芯体38を回転軸から外して、円筒形状を保たせながら垂直にして加熱炉に入れ、200℃で15分、300℃で30分加熱反応させ、残留溶剤の乾燥と樹脂のイミド化反応を同時に行った。
【0076】
室温に冷えた後、芯体38と皮膜の隙間に加圧空気を吹き込んで樹脂皮膜を抜き取り、中間転写ベルトを得た。膜厚をダイヤルゲージで測定すると、平均80μmであった。
【0077】
得られた中間転写ベルトの電気特性を後述の方法で測定したところ、表面抵抗率は、平均10.8LogΩ/□、ばらつき0.5であった。
【0078】
(比較例1)
比較例1では、実施例1における乾燥工程において、図9に示す乾燥炉26(実施例1の図6に示す乾燥炉26において送風装置12を有さない構成)に入れて乾燥させた。比較例では、塗膜の残留溶媒量が40%になるまでに要した時間は26分であり、実施例1の場合より9分長く要した。実施例1ではノズルから強い熱風を当てているので、温度と風の両面で乾燥が促進できたのである。他は同様にして中間転写ベルトを作製した。
【0079】
ここで、中間転写ベルトの表面抵抗は、乾燥時の芯体温度と相関があり、温度が高いと抵抗は下がる傾向がある。乾燥時に芯体の温度を調べた結果を図10に示す。すなわち、芯体の軸方向で所定の位置ごとに、周方向で90°ずつ4点の温度測定を行い、グラフにまとめた。図10によれば、比較例1では芯体両側の温度が高く、中央部では温度が低くなっていた。これは、乾燥炉上方からの熱風が芯体に当たった後、図12に示すように、軸方向で両側方向に流れるため、両側の温度が高くなったと考えられる。実施例1・2・3では芯体の軸方向に一様に風が当たり、周方向に沿って流れるため、比較例1に比べて、軸方向で温度が一定である。
【0080】
次に、芯体の温度測定位置に対応する位置において、製造された中間転写ベルトの表面抵抗を測定し、結果を図11に示す。実施例1は、平均10.78LogΩ/□、ばらつき0.5で、実施例2は、平均10.34、ばらつき0.8、実施例3は、平均10.8LogΩ/□、ばらつき0.5であった。これに対して、比較例1のものは、平均10.20LogΩ/□、ばらつき1.4であった。このように実施例1・2・3では抵抗ばらつきが改善されているのが分かる。なお、実施例1・2・3の結果で、ばらつきが残っているのは、加熱反応炉の温度むらが原因と考えられる。
【0081】
なお、電気特性の測定は次のようにして行った。
【0082】
−表面抵抗率−
表面抵抗率は、試験片の表面に沿って流れる電流と平行方向の電位傾度を、表面の単位幅当たりの電流で除した数値であり、各辺1cmの正方形の相対する辺を電極とする二つの電極間の表面抵抗に等しい。表面抵抗率の単位は、正式にはΩだが、単なる抵抗と区別するためΩ/□と記載される。
【0083】
測定には、デジタル超高抵抗/微小電流計(アドバンテスト社製、R8340A)と、二重リング電極のURプローブ:MCP−HTP12、及びレジテーブル:UFL MCP−ST03(何れも、ダイアインスツルメンツ社製)を用い、JIS K6911(1995)に準拠して、リング電極に電圧を印加して行った。
【0084】
測定時は、上記レジテーブル上に試験片を置き、測定面に接するように上記URプローブを当て、URプローブの上部には質量2.0±0.1kg(19.6±1.0N)の錘を取り付け、試験片に一定の荷重がかかるようにした。測定する時の電圧印加時間は10秒とした。
【0085】
R8340Aデジタル超高抵抗/微小電流計の読み値をR、URプローブMCP−HTP12の表面抵抗率補正係数をRCF(S)とすると、ダイアインスツルメンツ社「抵抗率計シリーズ」カタログによればRCF(S)=10.0なので、表面抵抗率ρsは下記式(1)のようになる。
【0086】
式(1):ρs(Ω/□)=R×RCF(S)=R×10.0
【0087】
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、種々の変形、変更、改良が可能である。例えば、上記に示した変形例は、適宜、複数を組み合わせて構成しても良い。
【符号の説明】
【0088】
12 送風装置
14 送風口
26 乾燥炉
38 芯体
50 皮膜形成樹脂溶液(樹脂溶液の一例)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯体をその軸方向を水平にして回転させながら、その回転する芯体の表面に樹脂溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜の乾燥速度が飽和する飽和風量で前記芯体へ送風して塗膜を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で乾燥された塗膜を芯体から脱型する脱型工程と、
を備える管状体の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程は、加熱された空気が内部へ供給される乾燥炉の中に前記芯体を収容する共に、その芯体に対して前記乾燥炉の中に設置した送風装置の送風口から前記飽和風量で送風して塗膜を乾燥させる請求項1記載の管状体の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程は、前記芯体の軸方向に延びるスリット状に形成された前記送風口から前記芯体へ送風して塗膜を乾燥させる請求項2に記載の管状体の製造方法。
【請求項1】
芯体をその軸方向を水平にして回転させながら、その回転する芯体の表面に樹脂溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜の乾燥速度が飽和する飽和風量で前記芯体へ送風して塗膜を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で乾燥された塗膜を芯体から脱型する脱型工程と、
を備える管状体の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程は、加熱された空気が内部へ供給される乾燥炉の中に前記芯体を収容する共に、その芯体に対して前記乾燥炉の中に設置した送風装置の送風口から前記飽和風量で送風して塗膜を乾燥させる請求項1記載の管状体の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程は、前記芯体の軸方向に延びるスリット状に形成された前記送風口から前記芯体へ送風して塗膜を乾燥させる請求項2に記載の管状体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−201028(P2012−201028A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68745(P2011−68745)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【特許番号】特許第4858653号(P4858653)
【特許公報発行日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【特許番号】特許第4858653号(P4858653)
【特許公報発行日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
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