説明

管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管

【課題】 鋼管の周溶接部に溶接欠陥があった場合にも、溶接欠陥からの貫通き裂を生じることを防止可能な、管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管を提供する。
【解決手段】 鋼管管端から鋼管径Dの1倍以上の範囲の管端部に、肉盛り溶接が施された管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管であって、前記肉盛り溶接部は、鋼管の内面および/または外面の管周方向に肉盛り溶接されて円環状をなす複数の溶接線からなるか、または、前記肉盛り溶接部は、鋼管の内面および/または外面に施された1本または複数本のらせん状の肉盛り溶接線からなり、さらに、前記円環状肉盛り溶接線の管軸方向のピッチ、または、らせん状肉盛り溶接線の管軸方向のピッチは、2.5√(Dt)以下であることを特徴とする、管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管。ただし、tは鋼管肉厚である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスパイプライン、水道配管等に使用される、管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
UO鋼管に代表される鋼管は、ガスパイプラインや水道配管などのようなライフラインに広く使用されている。
しかしながら、大地震等によりこれらの鋼管に、大きな変形が生じることがあり、これにより局部座屈や屈服等を生じて変形の集中した部位で、鋼管に貫通き裂を生じる場合がある。
従来、耐震性に優れたパイプライン用鋼管として、例えば、特許文献1では、金属組織中の第二相分率を規定することにより変形特性を確保する鋼管に関する発明が開示されている。また、特許文献2および3では、鋼材の応力ひずみ関係を規定することにより変形特性を確保する鋼管に関する発明が開示されている。
また、耐震性能に優れた土木・建築用材料としての角型鋼管に関する発明としては、例えば、特許文献4、5に、製造条件を制御し、また、金属組織中の第二相分率を制御し、鋼管の機械的特性を改善して耐震性、変形性能を向上させた鋼管の製造方法に関する発明が開示されている。
また、高強度鋼管については、例えば、特許文献6に、母材の一様伸びを規定し、また、継手と母材の硬さの比を一定値以上にすることで耐震性能を確保する鋼管に関する発明が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平09−184015号公報
【特許文献2】特開平09−196243号公報
【特許文献3】特開平09−196244号公報
【特許文献4】特開平10−330884号公報
【特許文献5】特開平10−330885号公報
【特許文献6】特開2003−306749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、鋼管の局部変形は、溶接の残留応力、溶接ビード余盛りの拘束、溶接マッチング等の影響のため、周溶接部から若干離れた位置で発生する。従って、座屈部で生じる延性破壊は、溶接ビードから離れたところで生じることが多い。ところが、座屈部の近くにある溶接部に溶接欠陥が存在する場合には、特に曲げ変形の引張り側で、溶接欠陥からき裂が発生・成長して貫通にいたる可能性がある。
【0005】
上記先行技術は、何れも鋼管母材の変形性能に関するもので、継手の硬さに言及している文献もあるものの、周溶接部に溶接欠陥が存在した場合に、周溶接部で生ずる可能性のある溶接部での破壊を防止しうるものではない。
そこで、本発明は、鋼管の周溶接部に溶接欠陥があった場合にも、溶接欠陥からの貫通き裂を生じることが防止可能な、管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を有利に解決するために鋭意検討を重ねた結果、周溶接部から離れた位置で座屈が生じるよう、鋼管管端部に肉盛り溶接を付加し剛性を上げることにより、周溶接部に溶接欠陥があっても欠陥からの貫通き裂を生じない鋼管に関する発明を成した。本発明の要旨を以下に示す。
(1) 鋼管管端から鋼管径Dの1倍以上の範囲の管端部に、肉盛り溶接が施された管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管であって、前記肉盛り溶接部は、鋼管の内面および/または外面の管周方向に肉盛り溶接されて円環状をなす複数の溶接線からなり、かつ該円環状肉盛り溶接線の管軸方向のピッチは、2.5√(Dt)以下であることを特徴とする、管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管。
ただし、Dは鋼管径、tは鋼管肉厚である。
【0007】
(2) 鋼管管端から鋼管径Dの1倍以上の範囲の管端部に、肉盛り溶接が施された管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管であって、前記肉盛り溶接部は、鋼管の内面および/または外面に施された1本または複数本のらせん状の肉盛り溶接線からなり、かつ該らせん状肉盛り溶接線の管軸方向のピッチは、2.5√(Dt)以下であることを特徴とする、管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管。
ただし、Dは鋼管径、tは鋼管肉厚である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鋼管同士を溶接した鋼管周溶接部に溶接欠陥が存在する場合で、この鋼管周溶接部に大きな曲げ変形が加わった場合でも、周溶接部での局部座屈を生じることがなく、周溶接部での溶接欠陥からの貫通き裂を有利に防止することができるため、特に複数の鋼管を長手方向に鋼管周溶接により接合する用途に適した管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を実施するための最良の形態を図1ないし図5を用いて説明する。
図1は、周溶接部2を含む鋼管1の曲げ実験での曲げ変形状態を示す図である。また、図2は、薄肉側鋼管5と厚肉側鋼管6とが周溶接により接合されて鋼管差厚継手を成した場合の周溶接部2を含む鋼管5、6の曲げ実験での曲げ変形状態を示す図である。いずれの場合も、変形が進むと、圧縮側で周溶接部(継手部)2の脇に局部座屈部3を発生させることになるが、鋼管5、6の曲げ実験の場合は、その局部座屈部3は薄肉側鋼管5に発生することになる。また、いずれの場合も、周溶接部2に溶接欠陥が存在すると、貫通き裂4が発生することがある。
【0010】
本発明者等は、周溶接継手部を含む鋼管の内圧負荷下での曲げ試験を実施し、局部座屈の発生位置を調査した。試験の一覧を表1に示す。局部座屈の発生位置は何れの場合も図1に示すように、周溶接継手の近傍の曲げ内側であった。
【表1】

【0011】
本発明者等は、さらに周溶接継手外面側に切欠き加工を行い、水圧による内圧を負荷した上で、図1に示すように切欠きが曲げの外側に来るように曲げ試験を実施した。試験の一覧を表2に示す。表中には内圧による周方向応力を降伏強度との比で示した。
【表2】

【0012】
本発明者等は、この実験結果より、No.8、No.9、No.12試験体のように、局部座屈近傍の溶接部で、溶接欠陥からのき裂貫通が生じる場合があることを発見した。鋼管の変形特性を改善するためには、この貫通き裂の抑制が重要である。
【0013】
そこで、本発明者等は、局部座屈部3を周溶接部(継手部)2から遠ざけることによりこの貫通き裂4の発生を防止できると考え、鋼管管端部に種々の肉盛り溶接を付加した曲げ実験を行った。ここで、準備した鋼管管端部に種々の肉盛り溶接を付加した鋼管の典型例を図3、図4に示す。局部座屈部の発生位置は、座屈波長と溶接のピッチとの関係に影響されると考え、溶接ピッチは種々変えて実験を行った。
【0014】
なお、図3は、本発明の(1)に記載の鋼管を斜視図で概略的に示すものであり、鋼管管端の管軸方向長さLの範囲に管軸方向のピッチdで周方向に肉盛り溶接7が施されている。また、図4は、本発明の(2)に記載の鋼管を斜視図で概略的に示すものであり、鋼管管端の管軸方向長さLの範囲に管軸方向のピッチdで螺旋状に肉盛り溶接7が施されている。
【0015】
本発明の周方向または螺旋方向の肉盛り溶接加工を付加した鋼管同士を、周溶接により接合したうえで、1/2t×50mmと大きい切り欠きを周溶接部(継手部)に加工し、内圧による周方向応力が規格降伏強度の0.72倍となるよう水圧を付与して、図1の曲げ試験と同様な曲げ試験を行った。その実験条件および実験結果を表3に示す。
【表3】

本発明の鋼管を用いた試験体では、周方向肉盛り溶接でも螺旋方向肉盛り溶接でも切欠きからの貫通き裂を生じなかった。
【0016】
図5は、本発明の(1)に記載の鋼管の周溶接部2を含む曲げ変形の状況を模式的に示す図である。鋼管管端から鋼管径Dの1倍以上の範囲に付加された肉盛り溶接により、局部座屈部3は、周溶接部(継手部)2から1D以上離れた位置で生じる。これにより、変形の集中は周溶接部(継手部)2から離れた位置で生じ、溶接欠陥が存在しても貫通き裂を生じないため、優れた変形能を持つ。
なお、肉盛り溶接の溶接材料は、鋼管と強度整合が取れていればよく、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
溶接範囲Lとピッチdを種々変えた周方向または螺旋方向の肉盛り溶接加工を付加した鋼管同士を周溶接により接合したうえで、1/2t×50mmと大きい切り欠きを周溶接部(継手部)に加工し、内圧による周方向応力が規格降伏強度の0.72倍となるよう水圧を付与して、曲げ試験を行った。試験体はX60とX80と2種類の強度の試験体を用いた。その実験条件および実験結果を表4に示す。
【表4】

【0018】
さらに、座屈波長は概ね√(Dt)に比例すると言われていることから、試験体の肉盛り溶接ピッチdを横軸に、√(Dt)を縦軸にとり、表3の試験体の結果もまとめて図6に整理した。
図中、白抜きが母材破断し、切欠きから貫通き裂を生じなかった試験体である。図より、鋼管の管周方向または螺旋方向に2.5√(Dt)以下のピッチで周方向肉盛り溶接を行うことにより、管端周辺での座屈を防止し、切欠きからの貫通き裂を防止できることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】周溶接部(継手部)2を含む鋼管1の曲げ実験での曲げ変形状態を模式的に示す図である。
【図2】薄肉側鋼管5と厚肉側鋼管6とが周溶接により接合されて鋼管差厚継手を成した場合の周溶接部2を含む鋼管5、6の曲げ実験での曲げ変形状態を模式的に示す図である。
【図3】請求項1に記載の本発明の鋼管を斜視図で概略的に示すものであり、鋼管管端の管軸方向長さLの範囲に管軸方向のピッチdで周方向に肉盛り溶接7が施されている。
【図4】請求項2に記載の本発明の鋼管を斜視図で概略的に示すものであり、鋼管管端の管軸方向長さLの範囲に管軸方向のピッチdで螺旋状に肉盛り溶接7が施されている。
【図5】請求項1に記載の本発明の鋼管の周溶接部2を含む曲げ変形の状況を模式的に示す図である。
【図6】曲げ試験結果の図である。
【符号の説明】
【0020】
1 鋼管(変形前)
2 周溶接部(継手部)
3 局部座屈部
4 貫通き裂(切欠き加工部からの貫通き裂発生部)
5 薄肉側鋼管(変形前)
6 厚肉側鋼管(変形前)
7 肉盛り溶接部
10 鋼管(変形後)
50 薄肉側鋼管(変形後)
60 厚肉側鋼管(変形後)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管管端から鋼管径Dの1倍以上の範囲の管端部に、肉盛り溶接が施された管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管であって、前記肉盛り溶接部は、鋼管の内面および/または外面の管周方向に肉盛り溶接されて円環状をなす複数の溶接線からなり、かつ該円環状肉盛り溶接線の管軸方向のピッチは、2.5√(Dt)以下であることを特徴とする、管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管。
ただし、Dは鋼管径、tは鋼管肉厚である。
【請求項2】
鋼管管端から鋼管径Dの1倍以上の範囲の管端部に、肉盛り溶接が施された管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管であって、前記肉盛り溶接部は、鋼管の内面および/または外面に施された1本または複数本のらせん状の肉盛り溶接線からなり、かつ該らせん状肉盛り溶接線の管軸方向のピッチは、2.5√(Dt)以下であることを特徴とする、管端部耐座屈変形特性に優れた鋼管。
ただし、Dは鋼管径、tは鋼管肉厚である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−292088(P2006−292088A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114375(P2005−114375)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】