管継手及びパッキン輪
【課題】管継手の組み付け作業を簡素化できると共に接合管の引き込みを防止できる管継手と、これに用いるパッキン輪を提供すること。
【解決手段】接合管1に外嵌装着される押輪7と、押輪7に向かって拡径する受口部2cを有し、押輪7と対向するようにして接合管1に外嵌装着される管継手本体2と、押輪7を管継手本体2の方向に移動操作可能な緊締具4と、緊締具4の操作により移動する押輪7の押圧に伴って受口部2cに圧縮状態で嵌装されるパッキン輪8とを備え、パッキン輪8に管軸方向の曲がりを有する抜け止め具9が取り付けられており、その抜け止め具9が、パッキン輪8が受口部2c内で圧縮された状態における押輪7の押圧に伴って、曲がりの度合を小さくするように変形し、内周端を内周側に突き出して接合管1の外周面に食い込ませる。
【解決手段】接合管1に外嵌装着される押輪7と、押輪7に向かって拡径する受口部2cを有し、押輪7と対向するようにして接合管1に外嵌装着される管継手本体2と、押輪7を管継手本体2の方向に移動操作可能な緊締具4と、緊締具4の操作により移動する押輪7の押圧に伴って受口部2cに圧縮状態で嵌装されるパッキン輪8とを備え、パッキン輪8に管軸方向の曲がりを有する抜け止め具9が取り付けられており、その抜け止め具9が、パッキン輪8が受口部2c内で圧縮された状態における押輪7の押圧に伴って、曲がりの度合を小さくするように変形し、内周端を内周側に突き出して接合管1の外周面に食い込ませる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道管などの接合に用いられる管継手と、これに用いるパッキン輪に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図10は、下記特許文献1に記載された管継手の仮組み状態を示す部分断面図である。この管継手は、接合管11とこれに接合される接合管(不図示)とを水密に接合するものであり、両接合管に外嵌装着された継手本体12と、止着具(不図示)の締め付けにより縮径可能に構成された押輪13と、押輪13を継手本体12に向かって移動操作可能な緊締具14とを備える。抜け止めリング16は、内周側に食い込み刃を有するC字状リングであり、押輪13の内周側に形成された収容部に収容されている。
【0003】
継手本体12と押輪13との間には、ゴム製のパッキン輪15がセットされている。仮組み状態では、継手本体12の押輪側端面と押輪13の継手本体側端面とにパッキン輪15が当接し、径方向及び軸方向の位置決めがなされていて、このまま施工現場への運搬が可能である。施工時には、仮組みの状態から緊締具14を操作して押輪13を継手本体12に近接移動させ、その押輪13の押圧によって、パッキン輪15を弾性変形させながら継手本体12の受口部12cに圧縮状態で嵌装する。
【0004】
図11に示すように、押輪13が継手本体12に突き当たる段階では、接合管11の外周面と受口部12cとにパッキン輪15が楔状に密着結合し、接合管11が水密に接合された状態となる。この後、止着具を締め付けて押輪13を縮径することで、抜け止めリング16を接合管11の外周面に食い込ませることができる。その結果、水圧等により接合管11が継手本体12から抜け出す方向の力が作用したとしても、接合管11の離脱を阻止することができる。
【0005】
かかる管継手においては、パッキン輪15を受口部12cに嵌装する工程とは別に、押輪13を縮径して抜け止めリング16を接合管11に食い込ませる工程が必要であるため、管継手の組み付け作業が煩雑化するという問題があった。また、抜け止めリング16を収容するための収容部や、押輪13を縮径させるための止着具を具備する必要があるため、押輪13の構造が複雑化し、コストアップの要因となっていた。
【0006】
これを踏まえて、本出願人による下記特許文献2では、パッキン輪に抜け止めリングを収容することにより、同じく本出願人による下記特許文献3では、パッキン輪とは別の弾性部材に抜け止めリングを保持させることにより、パッキン輪を受口部に嵌装する動作に連動させて、抜け止めリングの食い込みを発現できるようにした管継手を提案している。これらの管継手では、緊締具の操作により押輪を移動してパッキン輪または弾性部材を変形させると、その変形に伴って抜け止めリングを縮径することができる。
【0007】
上記の管継手では、押輪の移動に伴って、先にパッキン輪が受口部に嵌装され、次いで抜け止めリングが縮径される。この順序が逆になると、パッキン輪を受口部に押し込むときに、抜け止めリングが食い込んだ接合管を継手本体側に引き込んでしまい、施工作業が不安定となる。このような接合管の引き込みは、パッキン輪または弾性部材の硬度や形状寸法を適切に設定することで容易く予防し得るものであるが、仮組みの精度や部材品質のバラツキなどを考慮すると、接合管の引き込みをより確実に防止するための手法が望まれる。
【0008】
下記特許文献4,5には、金属製の食い込み片を内蔵した弾性ガスケットが開示されている。しかし、これらのガスケットの構造を上記のパッキン輪に適用したとしても、パッキン輪が受口部に嵌装されるよりも先に、食い込み片による食い込みが発現されることは必至であり、接合管の引き込みを確実に防止できるものとはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−42359号公報
【特許文献2】特開2005−36932号公報
【特許文献3】特開2005−133928号公報
【特許文献4】特許第3000559号公報
【特許文献5】特許第3491167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、管継手の組み付け作業を簡素化できると共に接合管の引き込みを防止できる管継手と、これに用いるパッキン輪を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明の管継手は、接合管に外嵌装着される押輪と、前記押輪に向かって拡径する受口部を有し、前記押輪と対向するようにして前記接合管に外嵌装着される管または管継手本体と、前記押輪を前記管または前記管継手本体の方向に移動操作可能な緊締具と、前記緊締具の操作により移動する前記押輪の押圧に伴って前記受口部に圧縮状態で嵌装されるパッキン輪と、を備えた管継手において、前記パッキン輪に管軸方向の曲がりを有する抜け止め具が取り付けられており、その抜け止め具が、前記パッキン輪が前記受口部内で圧縮された状態における前記押輪の押圧に伴って、曲がりの度合を小さくするように変形し、内周端を内周側に突き出して前記接合管の外周面に食い込ませるものである。
【0012】
本発明に係る管継手では、パッキン輪に上記の如き抜け止め具を取り付けていることにより、パッキン輪を受口部に嵌装する動作に連動させて、抜け止め具による抜け止め作用を発現することができる。即ち、緊締具の操作により押輪を移動させることで、その押輪の押圧に伴ってパッキン輪を受口部に圧縮状態で嵌装することができ、続けて緊締具を操作して押輪で押圧することにより、抜け止め具の内周端を接合管の外周面に食い込ませることができる。
【0013】
抜け止め具は、少なくとも一部に管軸方向への曲がりを有しており、パッキン輪が受口部内で圧縮された状態にて押輪の押圧が作用すると、その曲がりの度合を小さくするように変形して内周端を内周側に突き出す。これにより、抜け止め具の内周端が接合管の外周面に食い込み、接合管が管または管継手本体から離脱することを阻止できる。このように、本発明では、緊締具の操作による押輪の移動に伴って、パッキン輪の受口部への嵌装と、抜け止め具による接合管の離脱阻止とが適切な順序で実行されるため、管継手の組み付け作業を簡素化できると共に接合管の引き込みを防止することができる。
【0014】
本発明の管継手では、前記パッキン輪が前記受口部に圧縮状態で嵌装されたときに、前記抜け止め具が前記受口部に内周側から当接するものが好ましい。かかる構成によれば、パッキン輪を受口部に嵌装した後、押輪の押圧により抜け止め具を変形させるに際して、抜け止め具の外周側への変位を規制し、抜け止め具の内周端をより確実に内周側へ突き出させることができる。
【0015】
本発明の管継手では、前記抜け止め具が、前記パッキン輪が前記受口部に嵌装されたときに、前記受口部の端面に管軸方向から当接して、それ以上の移動を阻止するストッパー部を有するものが好ましい。かかる構成によれば、パッキン輪及び抜け止め具が必要以上に受口部に進入することを防止できる。また、パッキン輪を受口部に嵌装した後に、押輪の押圧が抜け止め具に正確に伝達されるようになるため、抜け止め具の変形を円滑に生じることができる。
【0016】
本発明の管継手では、前記押輪のパッキン輪側端面または自然状態における前記パッキン輪の押輪側端面が、内周側に向かって前記受口部側に傾斜したテーパ面で形成されているものが好ましい。かかる構成によれば、内周側に向かって受口部側に傾斜したテーパ面に沿って抜け止め具を変形させ、接合管の離脱防止効果を高めることができる。ここで、自然状態におけるパッキン輪とは、圧縮などの外部応力を加えていない状態のパッキン輪を意味する。
【0017】
また、本発明のパッキン輪は、接合管に外嵌装着された管または管継手本体の受口部と前記接合管の外周面との間を密封可能に構成され、前記接合管に外嵌装着された押輪の押圧によって前記受口部に圧縮状態で嵌装されるパッキン輪において、管軸方向の曲がりを有する抜け止め具が取り付けられており、前記受口部内で圧縮された状態にて前記押輪の押圧が作用すると、前記抜け止め具が曲がりの度合を小さくするように変形して内周端を内周側に突き出すように構成されているものである。このパッキン輪を用いた管継手では、上述のように管継手を組み付ける作業を簡素化できると共に、接合管の引き込みを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る管継手を示す半断面図
【図2】本発明の第1実施形態に係る管継手の仮組み状態を示す部分断面図
【図3】図2に示す管継手の施工途中の状態を示す部分断面図
【図4】図2に示す管継手の施工完了の状態を示す部分断面図
【図5】パッキン輪の正面図
【図6】本発明の第2実施形態に係る管継手の仮組み状態を示す部分断面図
【図7】図6に示す管継手の施工途中の状態を示す部分断面図
【図8】図6に示す管継手の施工完了の状態を示す部分断面図
【図9】本発明の他の実施形態に係る管継手を示す半断面図
【図10】従来技術に係る管継手の仮組み状態を示す部分断面図
【図11】図10に示す管継手の施工完了の状態を示す部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る管継手を示す半断面図である。接合管1は、金属製または樹脂製の水道管であり、図1では二本の接合管1,1に管継手を組み付けて水密に継いだ施工後の状態を示している。この管継手は、接合管1に外嵌装着された一対の押輪3と、押輪3に対向するようにして接合管1,1に外嵌装着された管継手本体2(以下、継手本体2と呼ぶ。)と、T頭ボルト4aとナット4bからなる緊締具4と、接合管1の外周面と継手本体2との間を密封するパッキン輪5とを備える。
【0021】
継手本体2は、一対の押輪3の間に配置され、接合管1の外周に周隙間を残して装着されている。継手本体2は、両端にフランジ状の突出部2aを備え、これら突出部2a間に鼓状に膨らんだ筒胴部2bを一体に備えて構成されると共に、突出部2aの内周側に受口部2cを有する。突出部2aには、T頭ボルト4aを挿通するためのボルト孔が周方向の複数箇所(例えば4箇所)に設けられている。受口部2cは、対向する押輪3に向かって拡径し、その内部にパッキン輪5が圧縮状態で嵌装されている。
【0022】
押輪3は、継手本体2の突出部2aに対向するフランジ状の突出部3aを有し、この突出部3aにもT頭ボルト4aを挿通させるためのボルト孔が設けられている。突出部2aと突出部3aは、T頭ボルト4aの頭部とナット4bとで狭着されており、継手本体2と押輪3は緊締具4によって締め付け可能に構成されている。本発明の管継手が備える押輪は、止着具による縮径機構や止着具用ボスを具備する必要がないため、周方向において分離した箇所を有さない環状部品であってよい。
【0023】
図2は、この管継手の仮組み状態を示す部分断面図である。図2の状態から緊締具4を締め付けると、押輪3が継手本体2の方向に移動して図3の状態となり、更に緊締具4を締め付けることで図4の状態となる。この図4は、図1の要部拡大図でもある。図5は、パッキン輪5を管軸方向から見た正面図であり、このA−A矢視断面が図2のパッキン輪5に相当する。
【0024】
パッキン輪5は、受口部2cに圧縮状態で嵌装される弾性部材であり、受口部2c側の先部5aと押輪3側の基部5bとを有している。先部5aは、断面丸形状に形成されていて、受口部2cの奥に押し入り易くなっている。パッキン輪5は、好ましくはゴム製であり、具体的にはSBR(スチレンブタジエンゴム)が例示される。相対的に先部5aは軟質、基部5bは硬質であることが好ましく、ゴム硬度(JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)による硬さ。以下同じ。)が先部5aで60°±5°、基部5bで90°±5°であるものが例示される。
【0025】
パッキン輪5の押輪側部分には、抜け止め具6が一体的に取り付けられている。本実施形態の抜け止め具6は、基部5bと同等の厚み(図2の上下方向の長さ)を有してパッキン輪5の押輪側端面に固着された円弧部6aと、取付強度を高めるように基部5bに埋設されたピン形状の突起部6bとを備える。抜け止め具6は、図5に示すように周方向の複数箇所(本実施形態では4箇所)に等間隔で設けられているが、これに限られず、例えば抜け止め具を略環状に設けても構わない。
【0026】
円弧部6aは、押輪3に向かって凸となるように湾曲しており、この点で抜け止め具6は管軸方向への曲がりを有している。抜け止め具6は、パッキン輪5よりも高剛性の材料で構成され、好ましくは金属製であり、例えばステンレス板により形成される。抜け止め具6を含んだ基部5bの内径は、接合管1の外径と同等以上であり、図2の状態では、接合管1の外周に周隙間をもって配置されるか、或いは接合管1の外周面上で摺動可能な程度に軽く接触した状態で配置される。
【0027】
仮組みした管継手に接合管1を内挿した図2の状態から、緊締具4の締め付け操作により押輪3を移動させると、押輪3の押圧に伴ってパッキン輪5が継手本体2側に移動し、弾性変形しながら受口部2cに圧入され、図3に示すように受口部2c内に圧縮状態で嵌装される。これにより、パッキン輪5の先部5aが接合管1の外周面と受口部2cとに楔状に密着し、接合管1が水密に継がれる。上述したように先部5aが軟質であれば、先部5aの密着性と圧着性が向上して、パッキン輪5によるシール性能が高められる。
【0028】
続いて、緊締具4の更なる締め付け操作により押輪3を移動させると、図4に示すように、押輪3の押圧に伴って、抜け止め具6が曲がりの度合(円弧部6aの曲率)を小さくするように変形する。これにより、抜け止め具6の厚みが増して内周端60が内周側に突き出し、接合管1の外周面に食い込んで、継手本体2からの接合管1の離脱を阻止できる。図3の状態では、抜け止め具6が受口部2cに内周側から当接しているため、抜け止め具6を変形させるに際しては、抜け止め具6の外周側への変位を規制して、内周端60を確実に内周側へ突き出すことができる。
【0029】
緊締具4の操作による押輪3の移動に関して、抜け止め具6を変形させるのに必要な力は、パッキン輪5を受口部2cに圧入して嵌装するのに必要な力よりも大きい。それ故、パッキン輪5が受口部2c内に圧縮状態で嵌装されるまでは、抜け止め具6の形状が保持され、円弧部6aの曲率は変化しない。若しくは、パッキン輪5の弾性変形による縮径の影響を受けて僅かに変形するとしても、内周端60が接合管1に食い込むほどの曲率変化は起こらない。
【0030】
以上のように、この管継手では、緊締具4の操作による押輪3の押圧に伴って、抜け止め具6が変形するよりも先にパッキン輪5が受口部2c内に嵌装され、パッキン輪5による密封作業と抜け止め具6による接合管1の離脱防止作業とが適切な順序で行われる。その結果、管継手の組み付け作業を簡素化できると共に、接合管1の引き込みを防止することができる。
【0031】
[第2実施形態]
第2実施形態は、押輪、パッキン輪及び抜け止め具の構成が以下の通りである他は、第1実施形態と同様であるので、共通点を省略して主に相違点について説明する。なお、第1実施形態で説明した部材・部位と同一の部材・部位には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0032】
図6は、第2実施形態に係る管継手の仮組み状態を示す部分断面図である。この仮組み状態では、パッキン輪8などの部材が予め管径方向と管軸方向に位置決めされているため、施工時間の大幅な短縮が可能となる。即ち、この仮組みされた管継手に接合管1を内挿し、緊締具4を締め付けるだけで施工できるため、施工現場での押輪7や緊締具4の取り付け作業が不要となる。
【0033】
パッキン輪8は、断面丸形状に形成された受口部2c側の先部8aと、押輪7側の基部8bとを有する。図6に示すように、先部8aの外周は、仮止めが可能なように受口部2cの端面の内径と略同径とされ、これによってパッキン輪8の管径方向の位置決めがなされる。一方、基部8bには、先部8aと繋がる部分に外周が先部8aよりも大径の突部8cが形成されており、この突部8cが受口部2cの端面に管軸方向から当接することによって、パッキン輪8の管軸方向の位置決めがなされる。
【0034】
前述した第1実施形態と同様に、相対的に先部8aが軟質で、基部8bが硬質であることが好ましく、具体的にはゴム硬度が先部8aで60°±5°、基部8bで90°±5°であるものが例示される。また、仮組み状態を崩れ難くすると共に、パッキン輪8の受口部2cへの円滑な圧入を許容する観点から、基部8bの一部である突部8cのゴム硬度は90°±5°であることが好ましい。
【0035】
パッキン輪8の押輪側部分に取り付けられた抜け止め具9は、パッキン輪8の押輪側端面から少し離して配置された円弧部9aと、断面L字状をなして基部8bの外周面に固着された内嵌部9bと、受口部2cの端面の内径よりも大きい外径を有するストッパー部9cとを備える。円弧部6aは、押輪3に向かって凸となるように湾曲しており、この点で抜け止め具6は管軸方向への曲がりを有している。抜け止め具6は、例えばステンレス板により形成される。
【0036】
仮組み状態では、パッキン輪8が、抜け止め具9を介して押輪7と受口部2cとで挟持され、管軸方向での位置固定がなされている。自然状態におけるパッキン輪8と抜け止め具9の内周は、接合管1の外周面よりも大径になっており、継手本体2と押輪7とパッキン輪8とを仮組みしたものを施工現場などに搬送して施工する際、この仮組みした管継手に接合管1を挿入する作業が楽なうえ、パッキン輪8を過度の抵抗なくして受口部2cに圧入できる。
【0037】
仮組みした管継手に接合管1を内挿した図6の状態から、緊締具4を締め付けて押輪7を移動させると、前述した第1実施形態と同様に、押輪7の押圧に伴ってパッキン輪8が継手本体2側に移動し、突部8cを含めて弾性変形しながら受口部2cに圧入され、図7に示すように受口部2c内に圧縮状態で嵌装される。その結果、パッキン輪8が接合管1の外周面と受口部2cとに楔状に密着し、接合管1が水密に継がれる。既述のように先部8aが軟質であると、先部8aの密着性と圧着性が向上し、パッキン輪8によるシール性能が高められる。
【0038】
この抜け止め具9では、パッキン輪8が受口部2cに嵌装された段階となっても、ストッパー部9cの外径が受口部2cの端面の内径よりも大きい。したがって、仮組みした状態からパッキン輪8が所定距離を移動すると、ストッパー部9cが受口部2cの端面に管軸方向から当接して、それ以上の移動が阻止される。これにより、パッキン輪8及び抜け止め具9が必要以上に受口部2cに進入することを防止できる。
【0039】
続いて、緊締具4の更なる締め付け操作により押輪7を移動させると、図8に示すように、押輪7の押圧に伴って、抜け止め具9が曲がりの度合(円弧部9aの曲率)を小さくするように変形する。これにより、抜け止め具9の内周端90が内周側に突き出し、接合管1の外周面に食い込んで、継手本体2からの接合管1の離脱を阻止できる。このとき、抜け止め具9の内嵌部9bが受口部2cに内周側から当接していることにより、抜け止め具9の外周側への変位を規制して、内周端90を確実に内周側へ突き出すことができる。
【0040】
本実施形態では、ストッパー部9cが受口部2cの端面に当接することから、押輪7の押圧作用が抜け止め具9に効率良く伝達され、抜け止め具9の変形を円滑に発生させることができる。また、上述のようにパッキン輪8の基部8bが硬質であることで、押輪7の押圧がパッキン輪8に確実に伝達されると共に、円弧部9aの変形に伴う基部8bの変形を抑制することができる。
【0041】
本実施形態では、押輪7のパッキン輪側端面と自然状態におけるパッキン輪8の押輪側端面とが、内周側に向かって受口部2c側に傾斜したテーパ面で形成されている。その結果、円弧部9aが図8に示すように該テーパ面に沿って変形し、接合管1の抜け出しに抗する方向から食い込むため、接合管1の離脱防止効果を高めることができる。
【0042】
本実施形態においても、抜け止め具9の変形は、パッキン輪8が受口部2cに嵌装されるまでは発生しない。即ち、緊締具4の操作による押輪7の押圧に伴って、抜け止め具9が変形するよりも先にパッキン輪8が受口部2c内に嵌装され、パッキン輪8による密封作業と抜け止め具9による接合管1の離脱防止作業とが適切な順序で行われる。その結果、管継手の組み付け作業を簡素化できると共に、接合管1の引き込みを防止することができる。
【0043】
[他の実施形態]
(1)前述の実施形態では、二本の接合管の間に管継手本体を介在させて接合する管継手の例を示したが、本発明では、図9に示すように、管継手本体に代えて、接合管1に継ぐ管10を用いるようにしてもよい。管10は、押輪7に向かって拡径する受口部10cを有し、押輪7に対向するようにして接合管1に外嵌装着されている。
【0044】
(2)抜け止め具は、曲がりの度合を小さくするように変形するに際して、必ずしも前述の実施形態のように曲がりを直線的にする必要はなく、内周端が接合管の外周面に食い込むものであれば、変形後に多少の曲がりが残っていても構わない。
【0045】
(3)前述の実施形態では、抜け止め具の曲がりが押輪に向かって凸となるものであったが、これを逆向きにすることも可能である。また、抜け止め具の曲がりは、上述したような単一円弧状に限られず、波状やS字状などでも構わない。更に、抜け止め具の曲がりは湾曲形状に限られず、屈曲形状でもよい。
【0046】
(4)前述の実施形態では、抜け止め具が押輪に直面して配置され、押輪によって直接押圧される例を示したが、本発明はこれに限定されず、押輪と抜け止め具との間に他の部材を介在させ、押輪が抜け止め具を間接的に押圧して変形を引き起こすものでもよい。但し、押輪によって直接的に押圧することにより、抜け止め具に押圧作用を確実に且つ効率良く伝達して、抜け止め具の変形を円滑に生じることができる。
【0047】
(5)本発明の管継手は、必ずしも仮組みされる必要はなく、各部品が分解された状態で現場に運搬されて施工されるものでもよい。この場合であっても、管継手の組み付け作業を簡素化できることに変わりはない。
【0048】
(6)本発明で用いられる接合管は、水道管に限られず、水以外の各種の液体・気体などの流体に用いる流体管であってよい。
【符号の説明】
【0049】
1 接合管
2 管継手本体
2c 受口部
3 押輪
4 緊締具
5 パッキン輪
6 抜け止め具
6a 円弧部
6b 突起部
7 押輪
8 パッキン輪
8c 突部
9 抜け止め具
9a 円弧部
9b 内嵌部
9c ストッパー部
10 管
60 内周端
90 内周端
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道管などの接合に用いられる管継手と、これに用いるパッキン輪に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図10は、下記特許文献1に記載された管継手の仮組み状態を示す部分断面図である。この管継手は、接合管11とこれに接合される接合管(不図示)とを水密に接合するものであり、両接合管に外嵌装着された継手本体12と、止着具(不図示)の締め付けにより縮径可能に構成された押輪13と、押輪13を継手本体12に向かって移動操作可能な緊締具14とを備える。抜け止めリング16は、内周側に食い込み刃を有するC字状リングであり、押輪13の内周側に形成された収容部に収容されている。
【0003】
継手本体12と押輪13との間には、ゴム製のパッキン輪15がセットされている。仮組み状態では、継手本体12の押輪側端面と押輪13の継手本体側端面とにパッキン輪15が当接し、径方向及び軸方向の位置決めがなされていて、このまま施工現場への運搬が可能である。施工時には、仮組みの状態から緊締具14を操作して押輪13を継手本体12に近接移動させ、その押輪13の押圧によって、パッキン輪15を弾性変形させながら継手本体12の受口部12cに圧縮状態で嵌装する。
【0004】
図11に示すように、押輪13が継手本体12に突き当たる段階では、接合管11の外周面と受口部12cとにパッキン輪15が楔状に密着結合し、接合管11が水密に接合された状態となる。この後、止着具を締め付けて押輪13を縮径することで、抜け止めリング16を接合管11の外周面に食い込ませることができる。その結果、水圧等により接合管11が継手本体12から抜け出す方向の力が作用したとしても、接合管11の離脱を阻止することができる。
【0005】
かかる管継手においては、パッキン輪15を受口部12cに嵌装する工程とは別に、押輪13を縮径して抜け止めリング16を接合管11に食い込ませる工程が必要であるため、管継手の組み付け作業が煩雑化するという問題があった。また、抜け止めリング16を収容するための収容部や、押輪13を縮径させるための止着具を具備する必要があるため、押輪13の構造が複雑化し、コストアップの要因となっていた。
【0006】
これを踏まえて、本出願人による下記特許文献2では、パッキン輪に抜け止めリングを収容することにより、同じく本出願人による下記特許文献3では、パッキン輪とは別の弾性部材に抜け止めリングを保持させることにより、パッキン輪を受口部に嵌装する動作に連動させて、抜け止めリングの食い込みを発現できるようにした管継手を提案している。これらの管継手では、緊締具の操作により押輪を移動してパッキン輪または弾性部材を変形させると、その変形に伴って抜け止めリングを縮径することができる。
【0007】
上記の管継手では、押輪の移動に伴って、先にパッキン輪が受口部に嵌装され、次いで抜け止めリングが縮径される。この順序が逆になると、パッキン輪を受口部に押し込むときに、抜け止めリングが食い込んだ接合管を継手本体側に引き込んでしまい、施工作業が不安定となる。このような接合管の引き込みは、パッキン輪または弾性部材の硬度や形状寸法を適切に設定することで容易く予防し得るものであるが、仮組みの精度や部材品質のバラツキなどを考慮すると、接合管の引き込みをより確実に防止するための手法が望まれる。
【0008】
下記特許文献4,5には、金属製の食い込み片を内蔵した弾性ガスケットが開示されている。しかし、これらのガスケットの構造を上記のパッキン輪に適用したとしても、パッキン輪が受口部に嵌装されるよりも先に、食い込み片による食い込みが発現されることは必至であり、接合管の引き込みを確実に防止できるものとはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−42359号公報
【特許文献2】特開2005−36932号公報
【特許文献3】特開2005−133928号公報
【特許文献4】特許第3000559号公報
【特許文献5】特許第3491167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、管継手の組み付け作業を簡素化できると共に接合管の引き込みを防止できる管継手と、これに用いるパッキン輪を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明の管継手は、接合管に外嵌装着される押輪と、前記押輪に向かって拡径する受口部を有し、前記押輪と対向するようにして前記接合管に外嵌装着される管または管継手本体と、前記押輪を前記管または前記管継手本体の方向に移動操作可能な緊締具と、前記緊締具の操作により移動する前記押輪の押圧に伴って前記受口部に圧縮状態で嵌装されるパッキン輪と、を備えた管継手において、前記パッキン輪に管軸方向の曲がりを有する抜け止め具が取り付けられており、その抜け止め具が、前記パッキン輪が前記受口部内で圧縮された状態における前記押輪の押圧に伴って、曲がりの度合を小さくするように変形し、内周端を内周側に突き出して前記接合管の外周面に食い込ませるものである。
【0012】
本発明に係る管継手では、パッキン輪に上記の如き抜け止め具を取り付けていることにより、パッキン輪を受口部に嵌装する動作に連動させて、抜け止め具による抜け止め作用を発現することができる。即ち、緊締具の操作により押輪を移動させることで、その押輪の押圧に伴ってパッキン輪を受口部に圧縮状態で嵌装することができ、続けて緊締具を操作して押輪で押圧することにより、抜け止め具の内周端を接合管の外周面に食い込ませることができる。
【0013】
抜け止め具は、少なくとも一部に管軸方向への曲がりを有しており、パッキン輪が受口部内で圧縮された状態にて押輪の押圧が作用すると、その曲がりの度合を小さくするように変形して内周端を内周側に突き出す。これにより、抜け止め具の内周端が接合管の外周面に食い込み、接合管が管または管継手本体から離脱することを阻止できる。このように、本発明では、緊締具の操作による押輪の移動に伴って、パッキン輪の受口部への嵌装と、抜け止め具による接合管の離脱阻止とが適切な順序で実行されるため、管継手の組み付け作業を簡素化できると共に接合管の引き込みを防止することができる。
【0014】
本発明の管継手では、前記パッキン輪が前記受口部に圧縮状態で嵌装されたときに、前記抜け止め具が前記受口部に内周側から当接するものが好ましい。かかる構成によれば、パッキン輪を受口部に嵌装した後、押輪の押圧により抜け止め具を変形させるに際して、抜け止め具の外周側への変位を規制し、抜け止め具の内周端をより確実に内周側へ突き出させることができる。
【0015】
本発明の管継手では、前記抜け止め具が、前記パッキン輪が前記受口部に嵌装されたときに、前記受口部の端面に管軸方向から当接して、それ以上の移動を阻止するストッパー部を有するものが好ましい。かかる構成によれば、パッキン輪及び抜け止め具が必要以上に受口部に進入することを防止できる。また、パッキン輪を受口部に嵌装した後に、押輪の押圧が抜け止め具に正確に伝達されるようになるため、抜け止め具の変形を円滑に生じることができる。
【0016】
本発明の管継手では、前記押輪のパッキン輪側端面または自然状態における前記パッキン輪の押輪側端面が、内周側に向かって前記受口部側に傾斜したテーパ面で形成されているものが好ましい。かかる構成によれば、内周側に向かって受口部側に傾斜したテーパ面に沿って抜け止め具を変形させ、接合管の離脱防止効果を高めることができる。ここで、自然状態におけるパッキン輪とは、圧縮などの外部応力を加えていない状態のパッキン輪を意味する。
【0017】
また、本発明のパッキン輪は、接合管に外嵌装着された管または管継手本体の受口部と前記接合管の外周面との間を密封可能に構成され、前記接合管に外嵌装着された押輪の押圧によって前記受口部に圧縮状態で嵌装されるパッキン輪において、管軸方向の曲がりを有する抜け止め具が取り付けられており、前記受口部内で圧縮された状態にて前記押輪の押圧が作用すると、前記抜け止め具が曲がりの度合を小さくするように変形して内周端を内周側に突き出すように構成されているものである。このパッキン輪を用いた管継手では、上述のように管継手を組み付ける作業を簡素化できると共に、接合管の引き込みを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る管継手を示す半断面図
【図2】本発明の第1実施形態に係る管継手の仮組み状態を示す部分断面図
【図3】図2に示す管継手の施工途中の状態を示す部分断面図
【図4】図2に示す管継手の施工完了の状態を示す部分断面図
【図5】パッキン輪の正面図
【図6】本発明の第2実施形態に係る管継手の仮組み状態を示す部分断面図
【図7】図6に示す管継手の施工途中の状態を示す部分断面図
【図8】図6に示す管継手の施工完了の状態を示す部分断面図
【図9】本発明の他の実施形態に係る管継手を示す半断面図
【図10】従来技術に係る管継手の仮組み状態を示す部分断面図
【図11】図10に示す管継手の施工完了の状態を示す部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る管継手を示す半断面図である。接合管1は、金属製または樹脂製の水道管であり、図1では二本の接合管1,1に管継手を組み付けて水密に継いだ施工後の状態を示している。この管継手は、接合管1に外嵌装着された一対の押輪3と、押輪3に対向するようにして接合管1,1に外嵌装着された管継手本体2(以下、継手本体2と呼ぶ。)と、T頭ボルト4aとナット4bからなる緊締具4と、接合管1の外周面と継手本体2との間を密封するパッキン輪5とを備える。
【0021】
継手本体2は、一対の押輪3の間に配置され、接合管1の外周に周隙間を残して装着されている。継手本体2は、両端にフランジ状の突出部2aを備え、これら突出部2a間に鼓状に膨らんだ筒胴部2bを一体に備えて構成されると共に、突出部2aの内周側に受口部2cを有する。突出部2aには、T頭ボルト4aを挿通するためのボルト孔が周方向の複数箇所(例えば4箇所)に設けられている。受口部2cは、対向する押輪3に向かって拡径し、その内部にパッキン輪5が圧縮状態で嵌装されている。
【0022】
押輪3は、継手本体2の突出部2aに対向するフランジ状の突出部3aを有し、この突出部3aにもT頭ボルト4aを挿通させるためのボルト孔が設けられている。突出部2aと突出部3aは、T頭ボルト4aの頭部とナット4bとで狭着されており、継手本体2と押輪3は緊締具4によって締め付け可能に構成されている。本発明の管継手が備える押輪は、止着具による縮径機構や止着具用ボスを具備する必要がないため、周方向において分離した箇所を有さない環状部品であってよい。
【0023】
図2は、この管継手の仮組み状態を示す部分断面図である。図2の状態から緊締具4を締め付けると、押輪3が継手本体2の方向に移動して図3の状態となり、更に緊締具4を締め付けることで図4の状態となる。この図4は、図1の要部拡大図でもある。図5は、パッキン輪5を管軸方向から見た正面図であり、このA−A矢視断面が図2のパッキン輪5に相当する。
【0024】
パッキン輪5は、受口部2cに圧縮状態で嵌装される弾性部材であり、受口部2c側の先部5aと押輪3側の基部5bとを有している。先部5aは、断面丸形状に形成されていて、受口部2cの奥に押し入り易くなっている。パッキン輪5は、好ましくはゴム製であり、具体的にはSBR(スチレンブタジエンゴム)が例示される。相対的に先部5aは軟質、基部5bは硬質であることが好ましく、ゴム硬度(JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)による硬さ。以下同じ。)が先部5aで60°±5°、基部5bで90°±5°であるものが例示される。
【0025】
パッキン輪5の押輪側部分には、抜け止め具6が一体的に取り付けられている。本実施形態の抜け止め具6は、基部5bと同等の厚み(図2の上下方向の長さ)を有してパッキン輪5の押輪側端面に固着された円弧部6aと、取付強度を高めるように基部5bに埋設されたピン形状の突起部6bとを備える。抜け止め具6は、図5に示すように周方向の複数箇所(本実施形態では4箇所)に等間隔で設けられているが、これに限られず、例えば抜け止め具を略環状に設けても構わない。
【0026】
円弧部6aは、押輪3に向かって凸となるように湾曲しており、この点で抜け止め具6は管軸方向への曲がりを有している。抜け止め具6は、パッキン輪5よりも高剛性の材料で構成され、好ましくは金属製であり、例えばステンレス板により形成される。抜け止め具6を含んだ基部5bの内径は、接合管1の外径と同等以上であり、図2の状態では、接合管1の外周に周隙間をもって配置されるか、或いは接合管1の外周面上で摺動可能な程度に軽く接触した状態で配置される。
【0027】
仮組みした管継手に接合管1を内挿した図2の状態から、緊締具4の締め付け操作により押輪3を移動させると、押輪3の押圧に伴ってパッキン輪5が継手本体2側に移動し、弾性変形しながら受口部2cに圧入され、図3に示すように受口部2c内に圧縮状態で嵌装される。これにより、パッキン輪5の先部5aが接合管1の外周面と受口部2cとに楔状に密着し、接合管1が水密に継がれる。上述したように先部5aが軟質であれば、先部5aの密着性と圧着性が向上して、パッキン輪5によるシール性能が高められる。
【0028】
続いて、緊締具4の更なる締め付け操作により押輪3を移動させると、図4に示すように、押輪3の押圧に伴って、抜け止め具6が曲がりの度合(円弧部6aの曲率)を小さくするように変形する。これにより、抜け止め具6の厚みが増して内周端60が内周側に突き出し、接合管1の外周面に食い込んで、継手本体2からの接合管1の離脱を阻止できる。図3の状態では、抜け止め具6が受口部2cに内周側から当接しているため、抜け止め具6を変形させるに際しては、抜け止め具6の外周側への変位を規制して、内周端60を確実に内周側へ突き出すことができる。
【0029】
緊締具4の操作による押輪3の移動に関して、抜け止め具6を変形させるのに必要な力は、パッキン輪5を受口部2cに圧入して嵌装するのに必要な力よりも大きい。それ故、パッキン輪5が受口部2c内に圧縮状態で嵌装されるまでは、抜け止め具6の形状が保持され、円弧部6aの曲率は変化しない。若しくは、パッキン輪5の弾性変形による縮径の影響を受けて僅かに変形するとしても、内周端60が接合管1に食い込むほどの曲率変化は起こらない。
【0030】
以上のように、この管継手では、緊締具4の操作による押輪3の押圧に伴って、抜け止め具6が変形するよりも先にパッキン輪5が受口部2c内に嵌装され、パッキン輪5による密封作業と抜け止め具6による接合管1の離脱防止作業とが適切な順序で行われる。その結果、管継手の組み付け作業を簡素化できると共に、接合管1の引き込みを防止することができる。
【0031】
[第2実施形態]
第2実施形態は、押輪、パッキン輪及び抜け止め具の構成が以下の通りである他は、第1実施形態と同様であるので、共通点を省略して主に相違点について説明する。なお、第1実施形態で説明した部材・部位と同一の部材・部位には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0032】
図6は、第2実施形態に係る管継手の仮組み状態を示す部分断面図である。この仮組み状態では、パッキン輪8などの部材が予め管径方向と管軸方向に位置決めされているため、施工時間の大幅な短縮が可能となる。即ち、この仮組みされた管継手に接合管1を内挿し、緊締具4を締め付けるだけで施工できるため、施工現場での押輪7や緊締具4の取り付け作業が不要となる。
【0033】
パッキン輪8は、断面丸形状に形成された受口部2c側の先部8aと、押輪7側の基部8bとを有する。図6に示すように、先部8aの外周は、仮止めが可能なように受口部2cの端面の内径と略同径とされ、これによってパッキン輪8の管径方向の位置決めがなされる。一方、基部8bには、先部8aと繋がる部分に外周が先部8aよりも大径の突部8cが形成されており、この突部8cが受口部2cの端面に管軸方向から当接することによって、パッキン輪8の管軸方向の位置決めがなされる。
【0034】
前述した第1実施形態と同様に、相対的に先部8aが軟質で、基部8bが硬質であることが好ましく、具体的にはゴム硬度が先部8aで60°±5°、基部8bで90°±5°であるものが例示される。また、仮組み状態を崩れ難くすると共に、パッキン輪8の受口部2cへの円滑な圧入を許容する観点から、基部8bの一部である突部8cのゴム硬度は90°±5°であることが好ましい。
【0035】
パッキン輪8の押輪側部分に取り付けられた抜け止め具9は、パッキン輪8の押輪側端面から少し離して配置された円弧部9aと、断面L字状をなして基部8bの外周面に固着された内嵌部9bと、受口部2cの端面の内径よりも大きい外径を有するストッパー部9cとを備える。円弧部6aは、押輪3に向かって凸となるように湾曲しており、この点で抜け止め具6は管軸方向への曲がりを有している。抜け止め具6は、例えばステンレス板により形成される。
【0036】
仮組み状態では、パッキン輪8が、抜け止め具9を介して押輪7と受口部2cとで挟持され、管軸方向での位置固定がなされている。自然状態におけるパッキン輪8と抜け止め具9の内周は、接合管1の外周面よりも大径になっており、継手本体2と押輪7とパッキン輪8とを仮組みしたものを施工現場などに搬送して施工する際、この仮組みした管継手に接合管1を挿入する作業が楽なうえ、パッキン輪8を過度の抵抗なくして受口部2cに圧入できる。
【0037】
仮組みした管継手に接合管1を内挿した図6の状態から、緊締具4を締め付けて押輪7を移動させると、前述した第1実施形態と同様に、押輪7の押圧に伴ってパッキン輪8が継手本体2側に移動し、突部8cを含めて弾性変形しながら受口部2cに圧入され、図7に示すように受口部2c内に圧縮状態で嵌装される。その結果、パッキン輪8が接合管1の外周面と受口部2cとに楔状に密着し、接合管1が水密に継がれる。既述のように先部8aが軟質であると、先部8aの密着性と圧着性が向上し、パッキン輪8によるシール性能が高められる。
【0038】
この抜け止め具9では、パッキン輪8が受口部2cに嵌装された段階となっても、ストッパー部9cの外径が受口部2cの端面の内径よりも大きい。したがって、仮組みした状態からパッキン輪8が所定距離を移動すると、ストッパー部9cが受口部2cの端面に管軸方向から当接して、それ以上の移動が阻止される。これにより、パッキン輪8及び抜け止め具9が必要以上に受口部2cに進入することを防止できる。
【0039】
続いて、緊締具4の更なる締め付け操作により押輪7を移動させると、図8に示すように、押輪7の押圧に伴って、抜け止め具9が曲がりの度合(円弧部9aの曲率)を小さくするように変形する。これにより、抜け止め具9の内周端90が内周側に突き出し、接合管1の外周面に食い込んで、継手本体2からの接合管1の離脱を阻止できる。このとき、抜け止め具9の内嵌部9bが受口部2cに内周側から当接していることにより、抜け止め具9の外周側への変位を規制して、内周端90を確実に内周側へ突き出すことができる。
【0040】
本実施形態では、ストッパー部9cが受口部2cの端面に当接することから、押輪7の押圧作用が抜け止め具9に効率良く伝達され、抜け止め具9の変形を円滑に発生させることができる。また、上述のようにパッキン輪8の基部8bが硬質であることで、押輪7の押圧がパッキン輪8に確実に伝達されると共に、円弧部9aの変形に伴う基部8bの変形を抑制することができる。
【0041】
本実施形態では、押輪7のパッキン輪側端面と自然状態におけるパッキン輪8の押輪側端面とが、内周側に向かって受口部2c側に傾斜したテーパ面で形成されている。その結果、円弧部9aが図8に示すように該テーパ面に沿って変形し、接合管1の抜け出しに抗する方向から食い込むため、接合管1の離脱防止効果を高めることができる。
【0042】
本実施形態においても、抜け止め具9の変形は、パッキン輪8が受口部2cに嵌装されるまでは発生しない。即ち、緊締具4の操作による押輪7の押圧に伴って、抜け止め具9が変形するよりも先にパッキン輪8が受口部2c内に嵌装され、パッキン輪8による密封作業と抜け止め具9による接合管1の離脱防止作業とが適切な順序で行われる。その結果、管継手の組み付け作業を簡素化できると共に、接合管1の引き込みを防止することができる。
【0043】
[他の実施形態]
(1)前述の実施形態では、二本の接合管の間に管継手本体を介在させて接合する管継手の例を示したが、本発明では、図9に示すように、管継手本体に代えて、接合管1に継ぐ管10を用いるようにしてもよい。管10は、押輪7に向かって拡径する受口部10cを有し、押輪7に対向するようにして接合管1に外嵌装着されている。
【0044】
(2)抜け止め具は、曲がりの度合を小さくするように変形するに際して、必ずしも前述の実施形態のように曲がりを直線的にする必要はなく、内周端が接合管の外周面に食い込むものであれば、変形後に多少の曲がりが残っていても構わない。
【0045】
(3)前述の実施形態では、抜け止め具の曲がりが押輪に向かって凸となるものであったが、これを逆向きにすることも可能である。また、抜け止め具の曲がりは、上述したような単一円弧状に限られず、波状やS字状などでも構わない。更に、抜け止め具の曲がりは湾曲形状に限られず、屈曲形状でもよい。
【0046】
(4)前述の実施形態では、抜け止め具が押輪に直面して配置され、押輪によって直接押圧される例を示したが、本発明はこれに限定されず、押輪と抜け止め具との間に他の部材を介在させ、押輪が抜け止め具を間接的に押圧して変形を引き起こすものでもよい。但し、押輪によって直接的に押圧することにより、抜け止め具に押圧作用を確実に且つ効率良く伝達して、抜け止め具の変形を円滑に生じることができる。
【0047】
(5)本発明の管継手は、必ずしも仮組みされる必要はなく、各部品が分解された状態で現場に運搬されて施工されるものでもよい。この場合であっても、管継手の組み付け作業を簡素化できることに変わりはない。
【0048】
(6)本発明で用いられる接合管は、水道管に限られず、水以外の各種の液体・気体などの流体に用いる流体管であってよい。
【符号の説明】
【0049】
1 接合管
2 管継手本体
2c 受口部
3 押輪
4 緊締具
5 パッキン輪
6 抜け止め具
6a 円弧部
6b 突起部
7 押輪
8 パッキン輪
8c 突部
9 抜け止め具
9a 円弧部
9b 内嵌部
9c ストッパー部
10 管
60 内周端
90 内周端
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合管に外嵌装着される押輪と、
前記押輪に向かって拡径する受口部を有し、前記押輪と対向するようにして前記接合管に外嵌装着される管または管継手本体と、
前記押輪を前記管または前記管継手本体の方向に移動操作可能な緊締具と、
前記緊締具の操作により移動する前記押輪の押圧に伴って前記受口部に圧縮状態で嵌装されるパッキン輪と、を備えた管継手において、
前記パッキン輪に管軸方向の曲がりを有する抜け止め具が取り付けられており、その抜け止め具が、前記パッキン輪が前記受口部内で圧縮された状態における前記押輪の押圧に伴って、曲がりの度合を小さくするように変形し、内周端を内周側に突き出して前記接合管の外周面に食い込ませることを特徴とする管継手。
【請求項2】
前記パッキン輪が前記受口部に圧縮状態で嵌装されたときに、前記抜け止め具が前記受口部に内周側から当接する請求項1に記載の管継手。
【請求項3】
前記抜け止め具が、前記パッキン輪が前記受口部に嵌装されたときに、前記受口部の端面に管軸方向から当接して、それ以上の移動を阻止するストッパー部を有する請求項1又は2に記載の管継手。
【請求項4】
前記押輪のパッキン輪側端面または自然状態における前記パッキン輪の押輪側端面が、内周側に向かって前記受口部側に傾斜したテーパ面で形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の管継手。
【請求項5】
接合管に外嵌装着された管または管継手本体の受口部と前記接合管の外周面との間を密封可能に構成され、前記接合管に外嵌装着された押輪の押圧によって前記受口部に圧縮状態で嵌装されるパッキン輪において、
管軸方向の曲がりを有する抜け止め具が取り付けられており、前記受口部内で圧縮された状態にて前記押輪の押圧が作用すると、前記抜け止め具が曲がりの度合を小さくするように変形して内周端を内周側に突き出すように構成されていることを特徴とするパッキン輪。
【請求項1】
接合管に外嵌装着される押輪と、
前記押輪に向かって拡径する受口部を有し、前記押輪と対向するようにして前記接合管に外嵌装着される管または管継手本体と、
前記押輪を前記管または前記管継手本体の方向に移動操作可能な緊締具と、
前記緊締具の操作により移動する前記押輪の押圧に伴って前記受口部に圧縮状態で嵌装されるパッキン輪と、を備えた管継手において、
前記パッキン輪に管軸方向の曲がりを有する抜け止め具が取り付けられており、その抜け止め具が、前記パッキン輪が前記受口部内で圧縮された状態における前記押輪の押圧に伴って、曲がりの度合を小さくするように変形し、内周端を内周側に突き出して前記接合管の外周面に食い込ませることを特徴とする管継手。
【請求項2】
前記パッキン輪が前記受口部に圧縮状態で嵌装されたときに、前記抜け止め具が前記受口部に内周側から当接する請求項1に記載の管継手。
【請求項3】
前記抜け止め具が、前記パッキン輪が前記受口部に嵌装されたときに、前記受口部の端面に管軸方向から当接して、それ以上の移動を阻止するストッパー部を有する請求項1又は2に記載の管継手。
【請求項4】
前記押輪のパッキン輪側端面または自然状態における前記パッキン輪の押輪側端面が、内周側に向かって前記受口部側に傾斜したテーパ面で形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の管継手。
【請求項5】
接合管に外嵌装着された管または管継手本体の受口部と前記接合管の外周面との間を密封可能に構成され、前記接合管に外嵌装着された押輪の押圧によって前記受口部に圧縮状態で嵌装されるパッキン輪において、
管軸方向の曲がりを有する抜け止め具が取り付けられており、前記受口部内で圧縮された状態にて前記押輪の押圧が作用すると、前記抜け止め具が曲がりの度合を小さくするように変形して内周端を内周側に突き出すように構成されていることを特徴とするパッキン輪。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−175028(P2010−175028A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20289(P2009−20289)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(396020361)株式会社水道技術開発機構 (113)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(396020361)株式会社水道技術開発機構 (113)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]