説明

管路内流体の測定装置および測定システム

【課題】設置角度が変化するような場合でも、正確な測定を行うことのできる管路内流体の測定装置を提供する。また、装置設置後の校正工程を省くことのできる管路内流体の測定装置および測定システムを提供する。
【解決手段】ダイアフラム12,12の一面側に封入液15,15が充填され、この封入液が圧力センサ21に導かれるように構成された検出カプセル10を有し、ダイアフラム12,12の他面側に管路内流体を導いて封入液15の圧力を検出することで、管路内流体の圧力または管路内流体の二点間の差圧を測定する管路内流体の測定装置である。そして、検出カプセル10に設置角度を検出する角度検出センサ22を設け、この角度検出センサ22の出力に応じて圧力センサ21の出力を補正する補正手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、管路内流体の圧力や差圧、流量を測定する管路内流体の測定装置、ならびに、伝送路を介して測定装置と制御装置とを接続してなる管路内流体の測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラントなどにおいて管路内流体の圧力や流量を測定してその測定信号を上位のホストコントローラ等へ伝送する圧力伝送器や差圧伝送器、流量計が知られている。圧力伝送器や差圧伝送器には、図13に示すように、圧力センサ82を内蔵した検出カプセル80が設けられ、この検出カプセル80の両側に測定対象の流体圧力が作用されるダイアフラム84,84がそれぞれ形成されている。ダイアフラム84,84の内側にはシリコーンオイルなどの封入液85が充填され、この封入液85がパイプ86等を介して圧力センサ82まで導かれるように構成されている。このような構成により、一方のダイアフラム84に管路内流体を導き、他方のダイアフラム84に空気圧あるいは真空圧を加えておくことで、管路内流体の圧力と空気圧あるいは真空圧との差圧が圧力センサ82に作用して、管路内流体の圧力が測定されるようになっている。
【0003】
また、管路に設けられたオリフィス(絞り機構)の上流側と下流側から管路内流体を左右のダイアフラム84,84まで導いて各ダイアフラム84にその圧力を作用させることで、管路内流体の2点間の差圧が圧力センサ82に加わって、オリフィス前後の差圧や管路内流体の流量等が測定されるようになっている。
【0004】
このような圧力伝送器や差圧伝送器においては、図13(a)と(b)に示すように、検出カプセル10が鉛直になるように設置された場合と、水平の向きに設置された場合とで、封入液85に作用する重力の向きが変化して、圧力センサ82の出力基準点がずれるという特性を有している(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平05−018839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の圧力伝送器や差圧伝送器においては、上記のように設置角度によって圧力センサの基準点がずれてしまうことから、圧力伝送器や差圧伝送器を設置した後に、センサ出力のゼロ点調整を行わなければならないという課題があった。すなわち、プラントの管路に圧力伝送器や差圧伝送器を設置固定した後に、接続バルブを開けて測定器に管路内流体を導く前に、信号入力あるいは調整ネジ等を操作して圧力センサの出力がゼロ点になるように、校正処理を行う必要があった。
【0006】
また、例えば、船舶中など揺れのある設備で管路内流体の測定を行う場合や、回転式の管路網を有するプラントにおいて管路とともに回転しながら管路内流体の測定を行うような場合には、揺れや回転角に応じて圧力センサのゼロ点が変動するため、正確な測定が行えないという課題があった。
【0007】
また、金属の熱膨張や熱収縮、プラント施設内の地盤沈下などにより、長期的に測定器が傾いてきた場合に、その傾きにより圧力センサのゼロ点が変動して、測定値が徐々に変動する場合がある。
【0008】
この発明の目的は、測定装置の設置角度が変化するような場合でも、正確な測定を行うことのできる管路内流体の測定装置を提供することにある。
【0009】
この発明の他の目的は、測定装置を設置した後の校正処理を省くことのできる管路内流体の測定装置および測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、ダイアフラムの一面側に封入液が充填され、この封入液が圧力センサに導かれるように構成された検出カプセルを有し、前記ダイアフラムの他面側に管路内流体を導いて前記封入液の圧力を検出することで、前記管路内流体の圧力または管路内流体の二点間の差圧を測定する管路内流体の測定装置において、前記検出カプセルの設置角度を検出する角度検出センサと、前記角度検出センサの出力に応じて前記圧力センサの出力を補正する補正手段とを備えていることを特徴としている。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の管路内流体の測定装置において、前記角度検出センサは、互いに直交する3軸成分の傾きを検出する3軸の加速度センサから構成され、前記補正手段は、前記3軸の加速度センサの出力から、前記検出カプセルに固定的に設定された第1平面内における重力方向の向きと、前記検出カプセルに固定的に設定された前記第1平面と交差する第2平面における重力方向の向きとを演算する演算手段と、前記第1平面内における重力方向の向きおよび前記第2平面内における重力方向の向きと前記圧力センサの出力補正値とが対応づけられたデータテーブルを格納したデータ格納手段と、前記演算手段により演算された前記第1平面内および第2平面内における重力方向の向きに対応した前記出力補正値を前記データテーブルから求めて前記圧力センサの出力に付加する出力オフセット手段とを有することを特徴としている。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の管路内流体の測定装置において、前記検出カプセルは、1本又は直交する2本の軸線を中心とした回転に対して前記圧力センサの出力が変化しない対称性を有する構成であり、前記角度検出センサは、前記軸線を中心とした回転方向を除く2軸又は1軸の回転方向における傾きを検出する2軸又は1軸の加速度センサであることを特徴としている。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の管路内流体の測定装置において、前記角度検出センサの出力が所定量以上変化する異常発生時に、当該異常発生時前後の前記角度検出センサの出力を記録する記録手段を備えたことを特徴としている。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載の管路内流体の測定装置において、前記角度検出センサの出力を間歇的に記録する記録手段を備えたことを特徴としている。
【0015】
請求項6記載の発明は、ダイアフラムの一面側に封入液が充填され、この封入液が圧力センサに導かれるように構成された検出カプセルを有し、前記ダイアフラムの他面側に管路内流体を導いて前記封入液の圧力を検出することで、前記管路内流体の圧力または管路内流体の二点間の差圧を測定する管路内流体の測定装置において、前記検出カプセルの設置角度を検出する角度検出センサと、前記角度検出センサの出力を間歇的に記録する記録手段と、前記角度検出センサの出力が所定量変化した場合に警告信号を出力する警告出力手段とを備えていることを特徴としている。
【0016】
請求項7記載の発明は、管路内流体の圧力または管路内流体の2点間の差圧を測定する測定装置と、この測定装置から測定信号を受信する制御装置と、前記測定装置と前記制御装置とが接続されて信号の伝送が行われる伝送路とを有する管路内流体の測定システムにおいて、前記測定装置は、ダイアフラムの一面側に封入液が充填されるとともに、この封入液が圧力センサに導かれるように構成された検出カプセルと、該検出カプセルの設置角度を検出する角度検出センサと、前記圧力センサの出力に基づく測定信号と前記角度検出センサの出力とを前記制御装置へ伝送する伝送手段とを備え、前記制御装置は、受信した前記角度検出センサの出力に対応させて前記測定信号の値を補正する補正手段を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に従うと、角度検出センサによって検出カプセルの設置角度を検出し、この設置角度に基づく圧力センサの出力基準点のずれを自動補正させることで、測定装置設置後の校正処理工程を省くことができる。さらに、揺れのある施設や管路網が回転する施設の管路に設置した場合でも揺れや回転角度に依存せずに常に正確な測定を行うことができるという効果がある。
【0018】
また、角度検出センサの出力ログを記録することで、例えば、管路の破断など異常発生時に測定装置にかかった力の解析が可能となり、また、管路のねじれやプラントの地盤沈下など長期的な管路の変動の解析を行うことが可能となる。
【0019】
また、圧力センサ出力の補正処理を行わなくても、角度検出センサによって検出カプセルの設置角度を検出し、その設置角度が一定量変化した場合に警告信号を出力させることで、設置角度の変化に起因する測定誤差が大きくなる前にその修正処理を行って、常に正確な測定を行わせることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態の差圧伝送器をシステムに接続した状態を示す構成図である。
【0022】
図1の差圧伝送器1は、本発明に係る管路内流体の測定装置の実施形態を示すもので、例えばプラントの管路に2本の導圧管31,32を介して接続されて、管路2点間における管路内流体の差圧等を測定し、測定値を表わす信号を伝送路55を介してホストコントローラ50等へ伝送するものである。例えば、管路に設けられたオリフィスの前後の差圧を測定することで管路内流体の流量等の測定が可能となる。
【0023】
この差圧伝送器1は、差圧を検出するための検出カプセル10と、各種信号の入出力処理や演算処理を行うマイクロコンピュータ25と、測定値や警告情報などの表示出力を行う表示部(例えば液晶表示器)26と、設定データやログ情報などが記憶されるデータ格納手段としての不揮発性メモリ27と、伝送信号の入出力処理を行う伝送回路28などを備えている。マイクロコンピュータ25は、検出カプセル10の設置角度に応じて測定値の補正を行う補正手段、演算手段、および、出力オフセット手段としても機能するものである。
【0024】
検出カプセル10は、筐体11に形成された2箇所の穴を密閉してふさぐように固定されるシールダイアフラム12,12と、シールダイアフラム12,12の内側に設けられるプロテクションダイアフラム13,13と、圧力を2方から受けてその差圧に応じて僅かに変形することでセンサ出力を行う圧力センサ21と、シールダイアフラム12とプロテクションダイアフラム13の間に充填されて圧力を伝達する封入液15と、封入液15を圧力センサ21まで導くパイプ14と、検出カプセル10の設置角度を検出するための例えば3軸の加速度センサ22等を備えている。
【0025】
シールダイアフラム12,12は、導圧管31,32により導かれた管路内流体を受けて、その圧力に応じて僅かに変形することで、管路内流体の圧力を封入液15に伝えるものである。導圧管31,32は一端側が管路に接続され、他端側が差圧伝送器1のシールダイアフラム12,12と図示略の筐体金属壁とに囲まれた密閉空間に接続されて、管路内流体を充填させた状態でその圧力をシールダイアフラム12,12に作用させるようになっている。
【0026】
プロテクションダイアフラム13は、シールダイアフラム12,12に過大圧力が作用したときに変形して圧力を逃がすものであり、通常圧力が作用しているときには無視できる変形量に収まるようになっている。
【0027】
このような構成により、2本の導圧管31,32により導かれた流体圧力が2個のシールダイアフラム12,12にそれぞれ作用し、シールダイアフラム12,12の僅かな変形により封入液15に圧力が伝達される。そして、一方のシールダイアフラム12から圧力が伝達された封入液15と他方のシールダイアフラム12から圧力が伝達された封入液15とが圧力センサ21に作用して、圧力センサ21から差圧を表わすセンサ信号がマイクロコンピュータ25に出力されるようになっている。
【0028】
加速度センサ22は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術によってマイクロチップ上に形成されたもので、互いに直交する3軸成分を含む3方向の加速度をそれぞれ検出し、各々の検出信号を出力するものである。検出カプセル10がほぼ停止した状態では、加速度センサ22からは重力加速度を表わす検出信号が出力されるので、それにより検出カプセル10の設置角度を求めることが可能となる。
【0029】
不揮発性メモリ27には、例えば、検出カプセル10の設置角度と圧力センサ21の出力オフセット値との対応関係を表わした後述のオフセット換算データテーブル(図7参照)が格納されている。また、この不揮発性メモリ27には、加速度センサ22の出力がログとして記録されるようにもなっている。
【0030】
次に、上記構成の差圧伝送器1においてマイクロコンピュータ25により実行されるオフセット量設定処理と出力オフセットによる測定値の調整処理について説明する。
【0031】
図2は、このオフセット量設定処理のフローチャートである。図3と図4には角度演算処理により求める角度α,βを表わした三次元座標図を、図5と図6には角度α,βの求め方を説明するX−Y平面とX−Z平面の二次元座標図を示す。
【0032】
図2のオフセット量設定処理は、差圧伝送器1の設置角度に起因する圧力センサ21のゼロ点のずれを補正するオフセット量を、演算により求めて設定する処理である。このオフセット量設定処理では、先ず、加速度センサ22から3軸のセンサ出力(a,a,a)を入力し(ステップS1)、これらから検出カプセル10に固定的に設定されたX−Y平面における重力方向の角度α(図3参照)と、X−Z平面における重力方向の角度β(図4参照)の演算を行う(ステップS2,S3)。
【0033】
ここで、X軸、Y軸、Z軸は加速度センサ22の3軸を表わしている。さらに、加速度センサ22は検出カプセル10に対して所定の向きに組み付けられることから、これらX軸、Y軸、Z軸は検出カプセル10に対して固定的に設定された3軸とみなすことができる。そして、加速度センサ22のセンサ出力(a,a,a)は、差圧伝送器1が加速変位してない場合に、重力加速度の3軸成分を表わすこととなり、それゆえ、上記の角度α,βを求めることで検出カプセル10が鉛直方向を基準にどのような角度で設置されているかを求めることができる。
【0034】
また、角度α,βは次のようにして求めることができる。すなわち、図5に示すように、ベクトルA(x,y)を、X−Y平面上で角度αだけ回転させてベクトルB(X,Y)とした場合、一般に、次式(1)の関係が成り立つ。また、図6に示すように、ベクトルP(x,z)を、X−Z平面上で角度βだけ回転させてベクトルQ(X,Z)とした場合、一般に、次式(2)の関係が成り立つ。
【数1】

【0035】
よって、ベクトルA,BのXY成分、ベクトルP,QのXZ成分が既知であれば、上記の式(1),(2)から回転角度α,βはそれぞれ次式(3),(4)により求められる。
【数2】

【0036】
ここで、回転角のみ得られればよく、ベクトルA,Bの大きさの違いは無視できる。加速度センサ22のX軸、Y軸の出力(a,a)を回転後のベクトルBとし、回転前のベクトルAをベクトルBの大きさと仮定してX軸上に設定すると、ベクトルAのXY成分は次式(5)となり、角度αは次式(6)のように求めることができる。
【数3】

【0037】
また、加速度センサ22のX軸、Z軸の出力(a,a)を回転後のベクトルQとし、回転前のベクトルPをベクトルQの大きさと仮定してX軸上に設定すると、ベクトルPのXZ成分は次式(7)となり、角度βは次式(8)のように求めることができる。
【数4】

【0038】
マイクロコンピュータ25は、図2のステップS2,S3の処理において、上記の関数(6),(8)に加速度センサ22の出力値を代入して角度α,βを求める。
【0039】
図7には、不揮発性メモリに格納されるオフセット換算データテーブルの一例を示す。
【0040】
関数(6),(8)の演算により角度α,βを求めたら、次に、マイクロコンピュータ25は、不揮発性メモリ27に格納されたオフセット換算データテーブルから、例えば折れ線近似により角度α,βに対応するオフセット量γを求める(図2:ステップS4)。
【0041】
オフセット換算データテーブルは、図7に示すように、鉛直方向を基準とした検出カプセル10の設置角度α,βに対応する圧力センサ21のゼロ点のずれ量(=オフセット量)をデータテーブル化したものである。オフセット量は、例えば、検出カプセル10を傾斜させて圧力センサ21の出力値を得るといった実験により求めたり、あるいは、封入液15の比重や封入液15が蓄積される空間の容積、パイプ14の容積や位置経路等から論理的に算出して求めることができる。図7中、オフセット量の値を「*」の表記により示している。このオフセット換算データテーブルは、例えば、角度α,βを所定角度(例えば5度)間隔に刻んでこのときの角度に対応するオフセット量を表わしたものである。例えば、角度α=340度、角度β=15度であれば、図7に示すように、それに対応するオフセット量はγ=TVのように求めることができるし、また、角度α,βがオフセット換算データテーブルの角度の刻みの中間にあれば、折れ線近似により前後のデータ値から対応するオフセット量γを求めることができる。
【0042】
そして、上記のように求められたオフセット量γを圧力センサ21の出力オフセットとしてマイクロコンピュータ25の所定の記憶領域に設定し(図2:ステップS5)、このオフセット量設定処理を終了する。なお、オフセット量設定処理は、例えば、差圧伝送器1の起動時に実行されるようにしたり、検出カプセル10が動かされた場合に加速度センサ22の検出出力に基づき実行されるようにしたり、或いは、所定周期で実行されるように構成することができる。
【0043】
図8には、検出カプセルの設置角度に起因する圧力センサの出力差異とオフセット量との関係を表わしたグラフを示す。
【0044】
マイクロコンピュータ25は、短いサンプリング間隔ごとに圧力センサ21の出力をデジタル化して入力し、このセンサ出力の値を上記設定されたオフセット量γにより調整して測定値として処理する。例えば、図8に示すように、検出カプセル10が正確に鉛直姿勢に設置されている場合と、検出カプセル10が傾斜姿勢で設置されている場合とでは、検出カプセル10内の封入液15に作用する重力の向きが変わって、その分の圧力値が誤差としてセンサ出力に付加される。マイクロコンピュータ25は、このセンサ出力から上記のオフセット量設定処理で設定されたオフセット量γを減算して測定値とし、この測定値を表わす信号を伝送回路28を介してホストコントローラ50に伝送させる。これにより、検出カプセル10の設置角度に起因する出力誤差がキャンセルされて、検出カプセル10が鉛直向きに設置されたときと同一の常に正確な測定値をホストコントローラ50に伝送することができる。
【0045】
次に、差圧伝送器1のマイクロコンピュータ25により実行される加速度記録処理について説明する。
【0046】
図9には、この加速度記録処理のフローチャートを示す。
【0047】
この実施の形態の差圧伝送器1は、付加機能として加速度センサ22の出力を一定周期ごとにログとして記録したり、異常変動が生じた際にその前後一定期間の加速度センサ22の出力を詳細に記録して残す機能を、図9の加速度記録処理により実現している。
【0048】
この加速度記録処理は、マイクロコンピュータ25により短い周期で繰り返し実行されるものである。この処理が開始されると、先ず、マイクロコンピュータ25は加速度センサ22の出力を読み込み(ステップS11)、このセンサ出力である方向ベクトルの値を一定時間分(例えば数秒分〜数十秒分)保持されるようにバッファメモリへ書き込む(ステップS12)。次いで、このバッファメモリに保持されている過去複数回分の方向ベクトルの値を比較して、異常変動が生じていないか判別する(ステップS13)。その結果、異常変動がなければ、長期のログとして記録するためにログ用の記録インターバルを経過したか確認し(ステップS14)、記録インターバルに達していなければ、そのまま、この加速度記録処理を終了するが、記録インターバルに達していれば、ステップS12でバッファメモリへ書き込んだ方向ベクトルを例えば不揮発性メモリ27へログとして記録して、この加速度記録処理を終了する。
【0049】
このような加速度記録処理が、短い周期で繰り返し実行されることで、長期にわたる差圧伝送器1の設置角度の変化が記録され、これをユーザが読み出して解析することで、差圧伝送器1が接続される配管のねじれやプラントの地盤沈下等の長期にわたる変動の分析を行うことが可能となる。
【0050】
また、上記のステップS13の判別処理の結果、異常変動の発生ありと判別されたら、バッファメモリに保持された過去一定時間分の方向ベクトルの記録を不揮発性メモリ27へ移動させ(ステップS16)、その後、所定時間(例えば数秒〜数十秒)、加速度センサ22の出力を取り込んでその方向ベクトルを記録する処理を繰り返す(ステップS17〜S19)。そして、所定時間が経過したら、この加速度記録処理を終了する。
【0051】
このように、異常変動があった場合には、その前後一定期間の加速度センサ22の出力が記録されることで、その後、この記録を読み出して解析することで、異常発生時に差圧伝送器1にかかった力や差圧伝送器1の運動の解析等を行うことが可能となる。
【0052】
図10には、差圧伝送器の製造工程のフローチャートを示す。
【0053】
差圧伝送器1に格納されるオフセット換算データテーブル(図7)は、個々の差圧伝送器ごとに生成されてその不揮発性メモリ27等に格納されるものではなく、同一タイプの多数の差圧伝送器1において共通にされ、製造工程における部品組付の工程(ステップS21)が済んだ後などに、各差圧伝送器1にそれぞれ書き込まれるものである(ステップS22)。
【0054】
ところで、オフセット換算データテーブルは、検出カプセル10の設置角度とオフセット量との関係が示されるものであるが、検出カプセル10の設置角度は加速度センサ22の出力により求められるものである。したがって、共通のオフセット換算データテーブルが格納される複数の差圧伝送器1においては、各検出カプセル10に対して加速度センサ22は同一の向き角度で組み付けられる必要がある。加速度センサ22がそれぞればらばらの向きに組み付けられているのに、共通のオフセット換算データテーブルを用いたのでは、上記のオフセット量設定処理により正確なオフセット量を得ることはできない。
【0055】
したがって、差圧伝送器1の部品組付工程(ステップS21)においては、加速度センサ22は各検出カプセル10に対して同一の向き角度に組み付けられる必要がある。但し、加速度センサ22の組み付けには、特別に高い精度が求められるというものではなく、僅かな組付け誤差はその後のキャリブレーション工程(ステップS23)によって、測定値への影響がなくなるように補正することが可能である。
【0056】
すなわち、上記のキャリブレーション工程(ステップS23)においては、先ず、差圧伝送器1を基準となる鉛直方向の向きに配置固定し、シールダイアフラム12,12へ何も導入していない状態で、電源を投入して測定値を出力させる。このとき、差圧伝送器1からは、圧力センサ21のセンサ出力に、加速度センサ22の出力とオフセット換算データテーブルにより求められた出力オフセットが付加された出力がなされる。この出力には、圧力センサ21の個体ばらつきによる出力誤差や、加速度センサ22の組み付け角度の誤差に基づく出力オフセットの誤差が付加されたものとなる。ここで、作業者は信号の入力又は調整ネジの操作により、測定値がゼロとなるようにキャリブレーション処理を行う。このようなキャリブレーション工程により、加速度センサ22の組付け角度の誤差に起因した出力誤差の校正も行われることとなる。
【0057】
なお、このキャリブレーション処理は、製品出荷前の製造工程において行われるものであり、差圧伝送器1をプラントに設置固定した後は、加速度センサ22の出力に基づくオフセット設定処理によりキャリブレーション処理は不要なものとなる。
【0058】
以上のように、この実施形態の差圧伝送器1によれば、加速度センサ22により検出カプセル10の設置角度を検出し、圧力センサ21の出力にオフセットを付加することで、設置角度に依存する圧力センサ21のゼロ点のずれをキャンセルさせて補正するので、差圧伝送器1をどのような向きに設置した場合でも、設置角度に依存しない正確な測定値を得ることができる。これにより、差圧伝送器1のプラント設置後の校正処理工程を省くことができたり、揺れのある施設や回転する施設の配管に設置した場合でも正確な測定を行うことができる。
【0059】
また、上記の加速度記録処理により、異常発生時における詳細な方向ベクトルの記録が行われたり、長期にわたる方向ベクトルの記録が行われることで、異常発生時や長期にわたるプラント施設の状態の遷移等をその後に解析することも可能となる。
【0060】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものでなく、様々に変更可能である。例えば、上記実施形態では、加速度センサ22の出力とオフセット換算データテーブルを用いた折れ線近似により、圧力センサ21の出力オフセットの量を求める構成としたが、このようなデータテーブルを利用せずに、関数演算により圧力センサ21のオフセット量を求めるようにしても良い。例えば、検出カプセルの構造すなわち封入液が溜まる空間の容積や配置等から検出カプセル10が傾いたときに圧力センサ21に付加される圧力差を示す関数を求め、この関数に加速度センサ22の出力に基づく設置角度の値を代入することで、出力オフセットの量を求めるようにできる。
【0061】
図11には、差圧伝送器の検出カプセル10の回転対称性を説明する図を示す。
【0062】
また、差圧伝送器1の検出カプセル10の構造に回転対称性があれば、その分、加速度センサの検出軸数を減らすこともできる。例えば、図11の差圧伝送器1の検出カプセル10では、Y軸を中心とした回転方向R1の角度変化に対して圧力センサ21のゼロ点は大きく変動するが、Z軸を中心とした回転方向R2の角度変化に対しては圧力センサ21のゼロ点は全く変動しない。なぜなら、回転方向R1に回転することで、2個のシールダイアフラム12,12が左右並列の状態から上下の状態に配置転換するため、下側に配置転換されたシールダイアフラム12近傍の封入液15より、上側に配置転換されたシールダイアフラム12近傍の封入液15の方に、重力分の圧力が増して圧力センサ21に差圧を発生させるからである。また、回転方向R2の回転に対しては、このような作用が全く生じないからである。
【0063】
また、図11のX軸を中心とした回転方向R3の角度変化に対しては、圧力センサ21のゼロ点の変動はごく僅かである。すなわち、シールダイアフラム12の傍らから圧力センサ21まで封入液15を導くパイプ14中の封入液15の配置関係が上下方向に変化して、圧力センサ21のゼロ点を変動させる。しかしながら、パイプ14の容積は僅かなものであるため、この変動量はごく僅かなものとなる。また、無視できるレベルになる場合もある。
【0064】
したがって、上記のように所定軸を中心とした回転に対して圧力センサ21の出力を変動させない回転対称性が、検出カプセル10に存在している場合には、当該回転方向の角度変化は圧力センサ21の出力オフセットに影響を及ぼさず、それゆえ、当該回転方向の角度の検出は行わずにオフセット量の設定を行うことが可能となる。それゆえ、1つの回転方向に対称性があれば、残り2つの回転方向の角度を検出する2軸の加速度センサを用いて、オフセット量の設定処理を行うことができるし、2つの回転方向に対称性があれば、残り1つの回転方向の角度を検出する1軸の加速度センサを用いて、オフセット量の設定処理を行うことができる。なお、このように加速度センサの検出軸を削減する場合、加速度センサの残りの検出軸は、検出すべき回転方向が含まれる平面に対して平行な向きに固定する必要がある。
【0065】
図12には、差圧伝送器の測定値の補正処理をホスト側で行うようにしたシステム構成図を示す。
【0066】
また、上記の実施形態では、測定値の補正処理を差圧伝送器1のマイクロコンピュータ25により演算実行させる構成例を示したが、例えば、図12に示すように、差圧伝送器1Bでは圧力センサ21による差圧の測定と、加速度センサ22による傾斜角度の検出のみを行わせ、ホストコントローラ50Bの補正演算部52が、差圧伝送器1の設置角度を演算したりオフセット量を求めたりして、差圧伝送器1Bから送られた差圧の測定値を補正処理するように構成してもよい。すなわち、差圧伝送器1Bから伝送路55を介して、検出カプセル10の圧力センサ21の出力を示す差圧測定情報や、加速度センサ22の出力を示す加速度情報をホストコントローラ50Bへ伝送させる。そして、ホストコントローラ50Bの補正演算部52によって、上記実施形態で示した同様の処理により、伝送されてきた加速度情報とオフセット換算データテーブル51とを用いて差圧伝送器1Bの設置角度とそれに対応するオフセット量を求めさせ、このオフセット値により測定値を補正処理させればよい。
【0067】
また、上記の実施形態では、加速度センサ22の出力により測定値の補正処理を行う構成を示したが、例えば、差圧伝送器1では加速度センサ22の出力を長期にわたって記録する処理と、この記録の比較処理を行い、この記録の比較によって差圧伝送器1の設置角度が測定値に影響を与える程度に変化したと判断された場合に、差圧伝送器1からホストコントローラ50へ警報情報を送信させて、設置角度の修正を求めるようにする構成としても良い。このような構成により、例えば配管のねじれやプラント施設の地盤沈下など、長期にわたる緩やかな傾斜変化に起因する差圧伝送器1の測定誤差の増大を回避することができる。
【0068】
また、上記の実施形態では、管路内流体の測定装置として差圧伝送器を例示したが、管路内流体の圧力を測定して測定信号を伝送する圧力伝送器にも本発明を同様に適用することができる。また、測定信号の伝送を行わずに測定のみを行う差圧測定器や圧力測定器に対しても本発明を同様に適用することができる。また、加速度センサの出力に温度ドリフトなどが生じる場合には、温度補償回路を付加して温度特性を改善させるようにしても良い。その他、実施の形態で示した細部等は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態の差圧伝送器をシステムに接続した状態を示す構成図である。
【図2】差圧伝送器のマイクロコンピュータにより実行されるオフセット量設定処理のフローチャートである。
【図3】図2のステップS2の角度演算処理により求める角度αを示した三次元座標図である。
【図4】図2のステップS3の角度演算処理により求める角度βを示した三次元座標図である。
【図5】角度αの求め方を説明するX−Y座標図である。
【図6】角度βの求め方を説明するX−Z座標図である。
【図7】不揮発性メモリに格納されるオフセット換算データテーブルの一例を示す図である。
【図8】検出カプセルの設置角度に起因する圧力センサの出力差異とオフセット量との関係を表わしたグラフである。
【図9】差圧伝送器のマイクロコンピュータにより実行される加速度記録処理のフローチャートである。
【図10】差圧伝送器の製造工程を示すフローチャートである。
【図11】差圧伝送器の検出カプセルの回転対称性を説明する図である。
【図12】差圧伝送器の測定値の補正をホスト側で実行するシステムの一例を示す構成図である。
【図13】従来の差圧伝送器における水平配管接続の姿勢(a)と垂直配管接続の姿勢(b)の検出カプセルの各状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0070】
1,1B 差圧伝送器
10 検出カプセル
12 シールダイアフラム
13 プロテクションダイアフラム
14 パイプ
15 封入液
21 圧力センサ
22 加速度センサ
25 マイクロコンピュータ
26 表示部
27 不揮発性メモリ
28 伝送回路
31,32 導圧管
50 ホストコントローラ
50B ホストコントローラ
51 オフセット換算データテーブル
52 補正演算部
55 伝送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアフラムの一面側に封入液が充填され、この封入液が圧力センサに導かれるように構成された検出カプセルを有し、前記ダイアフラムの他面側に管路内流体を導いて前記封入液の圧力を検出することで、前記管路内流体の圧力または管路内流体の二点間の差圧を測定する管路内流体の測定装置において、
前記検出カプセルの設置角度を検出する角度検出センサと、
前記角度検出センサの出力に応じて前記圧力センサの出力を補正する補正手段と、
を備えていることを特徴とする管路内流体の測定装置。
【請求項2】
前記角度検出センサは、互いに直交する3軸成分の傾きを検出する3軸の加速度センサから構成され、
前記補正手段は、
前記3軸の加速度センサの出力から、前記検出カプセルに固定的に設定された第1平面内における重力方向の向きと、前記検出カプセルに固定的に設定された前記第1平面と交差する第2平面における重力方向の向きとを演算する演算手段と、
前記第1平面内における重力方向の向きおよび前記第2平面内における重力方向の向きと前記圧力センサの出力補正値とが対応づけられたデータテーブルを格納したデータ格納手段と、
前記演算手段により演算された前記第1平面内および第2平面内における重力方向の向きに対応した前記出力補正値を前記データテーブルから求めて前記圧力センサの出力に付加する出力オフセット手段と、
を有することを特徴とする請求項1記載の管路内流体の測定装置。
【請求項3】
前記検出カプセルは、1本又は直交する2本の軸線を中心とした回転に対して前記圧力センサの出力が変化しない対称性を有する構成であり、
前記角度検出センサは、前記軸線を中心とした回転方向を除く2軸又は1軸の回転方向における傾きを検出する2軸又は1軸の加速度センサであることを特徴とする請求項1記載の管路内流体の測定装置。
【請求項4】
前記角度検出センサの出力が所定量以上変化する異常発生時に、当該異常発生時前後の前記角度検出センサの出力を記録する記録手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の管路内流体の測定装置。
【請求項5】
前記角度検出センサの出力を間歇的に記録する記録手段を備えたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の管路内流体の測定装置。
【請求項6】
ダイアフラムの一面側に封入液が充填され、この封入液が圧力センサに導かれるように構成された検出カプセルを有し、前記ダイアフラムの他面側に管路内流体を導いて前記封入液の圧力を検出することで、前記管路内流体の圧力または管路内流体の二点間の差圧を測定する管路内流体の測定装置において、
前記検出カプセルの設置角度を検出する角度検出センサと、
前記角度検出センサの出力を間歇的に記録する記録手段と、
前記角度検出センサの出力が所定量変化した場合に警告信号を出力する警告出力手段と、
を備えていることを特徴とする管路内流体の測定装置。
【請求項7】
管路内流体の圧力または管路内流体の2点間の差圧を測定する測定装置と、この測定装置から測定信号を受信する制御装置と、前記測定装置と前記制御装置とが接続されて信号の伝送が行われる伝送路とを有する管路内流体の測定システムにおいて、
前記測定装置は、
ダイアフラムの一面側に封入液が充填されるとともに、この封入液が圧力センサに導かれるように構成された検出カプセルと、
該検出カプセルの設置角度を検出する角度検出センサと、
前記圧力センサの出力に基づく測定信号と前記角度検出センサの出力とを前記制御装置へ伝送する伝送手段とを備え、
前記制御装置は、
受信した前記角度検出センサの出力に対応させて前記測定信号の値を補正する補正手段を備えていることを特徴とする管路内流体の測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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