説明

管路構造物及びその複合体

【課題】底生生物の生息に適した環境を安定的に維持することができ、沿岸域に生息する生物種の多様性を高めることができる管路構造物及びその複合体を提供すること。
【解決手段】本発明の管路構造物10は、水位が上下に変動する水域を有する沿岸域に設置されて、当該水位変動を利用して底生生物の生息場を形成するためのものであって、当該沿岸域の最高水位と最低水位との間に位置する上側開口10aに一端が連通すると共に、この一端から下方に向かいその後上方に向かうような形状の管路を有する粒状物貯留部1と、粒状物貯留部1の他端と上側開口よりも低い位置に設けられている下側開口10bとを連通する連通管路8と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水位が上下に変動する水域を有する沿岸域に設置されて、当該水位変動を利用して底生生物の生息場を形成するための管路構造物及びその複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
海や川などの沿岸には波浪による浸食の防止や防災のために護岸が建設されている箇所がある。護岸は一般にコンクリートなどの人工構造物によって構築される。護岸を構成している人工構造物に生物を生息させる手段について、これまでに種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には魚巣のための穴が設けられたブロックで護岸を構築する方法が記載されている。また、特許文献2には石や土砂を収容可能で生物の生息場となる凹部が設けられたブロック壁構造を用いて護岸を構築する方法が記載されている。更に、特許文献3には小動物が出入り可能な孔を有する護岸パネル材を用いて護岸を構築する方法が記載されている。
【0004】
特許文献1〜3に記載の護岸は、水域に生息する生物のなかでも、主に魚類、甲殻類、両生類などを対象とするものである。すなわち、上記文献に記載の護岸は、これらの生物が生息できる空隙を人工的に形成して当該生物を定着せしめることを目的としたものである。
【0005】
ところで、干潟や砂浜などの沿岸域には上記生物以外にも多様な生物が生息している。例えば、潮汐に伴う海面の変動によって冠水と干出とを繰り返す干潟には底生生物と呼ばれる種々の生物が生息している。底生生物は、沿岸域の砂泥に生息する生物であって、砂泥の上を這い回ったり砂泥に穴を開けて巣穴を形成する生物である。底生生物の具体例としては、ゴカイ、アサリ、カニなどが挙げられる。特に、近年、ゴカイやアサリは干潟の砂泥や海水を浄化する性質を有することで注目されている。
【0006】
このような底生生物が生息する環境の条件の一つとして、潮位の変動による砂泥の飽和度の変化が重要であることが知られている。飽和度とは、土の固体以外の部分(間隙)に占める液体部分の体積百分率であり、生息場の含水比ということもできる。例えば、非特許文献1には、コメツキガニが巣穴を形成するためには潮位の変動によって砂泥に生じるサクションが必要不可欠あることが記載されている。コメツキガニは砂泥を団子状に形成してこれを外に排出して巣穴を形成する性質を有している。飽和度が100%の砂泥や乾燥した砂泥では砂泥の粒子同士が結合せず、砂団子を形成できないため、コメツキガニにとっては砂団子を形成するのに適した飽和度の砂泥が出現し得る環境が望ましいといえる。
【特許文献1】特開平10−25727号公報
【特許文献2】特開2004−324373号公報
【特許文献3】特開平11−293646号公報
【非特許文献1】佐々真志、渡部要一、「干潟底生生物の住活動における臨界現象と適合土砂環境場の解明」、海岸工学論文集、土木学会、2006年、第53巻、p.1061−1065
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際の干潟や砂浜では、潮汐によって砂泥の移動及び補給が繰り返される。そのため、砂泥は底生生物の生息場として良好な状態に維持される。これに対し、上述の特許文献1〜3に係る従来の護岸では、底生生物の生息場を持続的に良好な状態に維持することは困難であるといえる。これらの護岸には、魚類などの生物を定着せしめるための空隙が設けられているが、底生生物の生息場となる砂泥を保持すると共にこれを良好な状態に維持する機能を有していないためである。
【0008】
例えば、従来の護岸に凹部を設けてこれに砂泥を充填したとしても、凹部の深さが浅い場合には水の流れによって砂泥が流失しやすく、底生生物の生息場が失われてしまうおそれがある。他方、凹部の深さが深いと砂泥内部の通水性が不十分となりやすい。通水性が不十分であると溶存酸素を含む新鮮な水が内部にまで供給されず、砂泥が腐敗して底生生物が生息できない環境となってしまう。
【0009】
このように従来の護岸では、生息できる生物種が限定的であり、砂泥を生息場とする底生生物を安定的に生息させることができなかった。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、底生生物の生息に適した環境を安定的に維持することが可能であり、沿岸域に生息する生物種の多様性を高めることができる管路構造物及びその複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水位が上下に変動する水域を有する沿岸域に設置されて、当該水位変動を利用して底生生物の生息場を形成するためのものであって、当該沿岸域の最高水位と最低水位との間に位置する上側開口に一端が連通すると共に、この一端から下方に向かいその後上方に向かうような形状の管路を有する第1の粒状物貯留部と、第1の粒状物貯留部の他端と上側開口よりも低い位置に設けられている下側開口とを連通する連通管路と、を備えることを特徴とする管路構造物を提供する。
【0012】
沿岸域の水位が上昇する場合、本発明に係る管路構造物の連通管路内の空気が圧縮されてその圧力が上昇する。連通管路内の空気の圧力が上昇する機構は次の通りである。すなわち、沿岸域の水位が上昇すると、連通管路内においても下側開口を通じて導入される水の水位が上昇する。そうすると、連通管路内の空気は水面によって上側開口に向けて押されることになるが、粒状物貯留部に充填される粒状物によって空気の流れが妨げられる。その結果、連通管路内の空気の圧力が上昇する。ただし、粒状物が充填された粒状物貯留部の両端に生じる差圧が大きくなると空気が粒状物内を流通する。この場合、粒状物貯留部内の圧力分布は下側開口側が高く上側開口側が低くなっている。
【0013】
沿岸域の水位が更に上昇して上側開口の位置まで到達すると、上側開口から管路内へと水が流入し、粒状物貯留部に外部の新鮮な水が供給される。これにより、粒状物貯留部内の粒状物の腐敗が抑制される。
【0014】
一方、沿岸域の水位が下降する場合、上述の水位が上昇する場合とは逆に連通管路内には負圧が生じる。沿岸域の水位が下降すると、連通管路内においても下側開口を通じて導入される水の水位が下降する。しかし、粒状物貯留部に充填される粒状物によって、上側開口から管路内への空気の流入が妨げられる。その結果、管路内に負圧が生じる。ただし、粒状物が充填された粒状物貯留部の両端に生じる差圧が大きくなると空気が粒状物内を流通する。この場合、粒状物貯留部内の圧力分布は上側開口側が高く下側開口側が低くなっている。
【0015】
本発明の管路構造物では、沿岸域の水位変動に伴って上記のように粒状物貯留部の両端に空気の圧力差が生じる。この圧力差によって粒状物貯留部の間隙水の一部が空気に置換されるため、粒状物の飽和度(粒状物貯留部の含水比)を経時変化させることができる。すなわち、本発明の管路構造物によれば、飽和度が経時変化するという点において実際の干潟や砂浜の環境を再現できる。また、空気が粒状物貯留部内を流通することで、粒状物貯留部内の粒状物の腐敗を十分に抑制することができる。このように本発明によれば、底生生物の生息場として好適な環境を粒状物貯留部内に貯留された粒状物に形成することができると共に、この環境を十分安定的に維持することができる。
【0016】
本発明において連通管路は、第1の粒状物貯留部の他端から上方に向かいその後下方に向かうような形状の管路を有することが好ましい。連通管路がこのような形状であると、管路構造物全体をコンパクトなサイズとしながらも管路内の空間の容積を十分に確保することができる。
【0017】
また、本発明において下側開口は、当該沿岸域の最低水位よりも高い位置に設けられていることが好ましい。沿岸域の水位が下側開口よりも低い位置まで下降すると、下側開口を通じて連通管路内の空間が大気に開放されるため、その中の空気が外部の新鮮な空気と置換される。したがって、水位が再び上昇した時に粒状物貯留部内の粒状物に対して新鮮な空気が供給されるため、粒状物貯留部内の粒状物の腐敗がより一層効果的に抑制される。
【0018】
本発明においては、当該沿岸域の水位が最低水位から最高水位まで上昇する際、第1の粒状物貯留部の方向へと押し上げられる連通管路内の空気の容積は、第1の粒状物貯留部の容積よりも大きいことが好ましい。このような構成の管路構造物によれば、水域の水位変動によって十分な量の空気を粒状物貯留部内の粒状物に供給可能である。
【0019】
本発明においては、第1の粒状物貯留部に充填する粒状物は、平均粒径0.01〜20mmの砂泥であることが好ましい。なお、粒状物貯留部に充填された粒状物内に底生生物が生息している場合には、粒状物(砂泥)として上記範囲の下限側の平均粒径のもの(例えば、平均粒径が0.01〜0.05mmの砂泥)を使用したとしても粒状物貯留部内の通気性及び通水性が確保されやすい。粒状物内に底生生物が生息していると、底生生物の巣穴や移動によって形成される穴が空気又は水の流路となり得るためである。
【0020】
また、本発明は、上記構成の管路構造物を沿岸域に複数並列に設けてなる管路構造物の複合体であって、隣接する管路構造物の第1の粒状物貯留部同士を連通する管路を有する第2の粒状物貯留部を備えることを特徴とする複合体を提供する。
【0021】
かかる構成の管路構造物の複合体によれば、水域の水位変動に伴って、第2の粒状物貯留部に充填される粒状物にも空気及び水が供給され、その内部に局所的なサクションが生じる。そのため、第1の粒状物貯留部内に好気性の領域が形成される一方、第2の粒状物貯留部内には微好気性の領域が形成される。すなわち、第1及び第2の粒状物貯留部内に多様な好気的条件をモザイク状に存在せしめることができる。その結果、生物種の多様化、生息量の向上及び生息範囲の拡大を一層促進することが可能であり、生物による浄化作用の更なる向上といった効果も期待できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、底生生物の生息に適した環境を安定的に維持することができ、沿岸域に生息する生物種の多様性を高めることができる管路構造物及びその複合体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る管路構造物の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る管路構造物を示す斜視図である。同図に示す管路構造物10は、第1のU字管1、第2のU字管2及びL字管3がこの順序で接続されてなるものである。本実施形態では第2のU字管2とL字管3とによってその内部に連通管路8が形成されている。また、第1のU字管1が第1の粒状物貯留部をなしており、第1のU字管1内には粒状物5が充填されている。
【0025】
第1のU字管1は、その一端1aに上側開口10aが形成されており、一端1aから下方に向かいその後上方に向かうような形状を有している。第1のU字管1の他端1bと第2のU字管2の一端2aとが接続されている。第2のU字管2はその一端2aから上方に向かいその後下方に向かうような形状を有している。なお、第1のU字管1と第2のU字管2とによってS字状の管路が形成されている。
【0026】
第2のU字管2の他端2bとL字管3の一端3aとが接続されている。L字管3は、その一端3aから下方に向かいその後水平方向に直角に折れ曲った形状を有している。L字管3の水平方向に延在する管路の端部はL字管3の他端3bをなすものであり、他端3bに下側開口10bが形成されている。L字管3の水平方向の管路は、第1のU字管1の下方を通過し、上側開口10aの下方位置にまで延在している。
【0027】
上記構成の管路構造物10にあっては、第1のU字管1の内部に充填される粒状物5が底生生物の生息場となる。底生生物の生息場のための粒状物としては、砂泥を主成分とするものが好ましい。砂泥を使用する場合、生息させる生物種にもよるが、平均粒径が0.01〜20mmのものを使用することができる。通気性及び通水性を確保する観点から、砂泥の平均粒径の下限は0.05mmであることがより好ましく、0.1mmであることが更に好ましい。また、砂泥の平均粒径の上限は、15mmであることがより好ましく、10mmであることが更に好ましい。
【0028】
ただし、第1のU字管1内に底生生物を予め生息させた状態で管路構造物10を沿岸域に設置した場合、平均粒径が上記範囲の下限側の砂泥(例えば、平均粒径が0.01〜0.05mmの砂泥)を使用したとしても粒状物5が充填されている部分の通気性及び通水性が確保されやすい。当該部分に底生生物が生息していると、底生生物の巣穴や移動によって形成される穴が空気又は水の流路となり得るためである。
【0029】
なお、第1のU字管1内に充填する粒状物5として、平均粒径が異なる砂泥を複数組み合わせて使用してもよい。また、砂泥に礫や栄養分を添加して底質を調製し、これを第1のU字管1内に充填してもよい。
【0030】
図2(a)〜図2(d)は、上記構成の管路構造物10を内部に備える護岸構造物の断面図である。同図に示す護岸構造物15は海岸に構築されたものであり、護岸構造物15の内部には複数の管路構造物10が海岸線に沿って並列に設置されている。図2(a)〜図2(d)は最低水位の状態から最高水位の状態を経て再び最低水位の状態となるまでの様子を連続的に示したものである。
【0031】
ここでいう「最高水位」は平均高潮位(MHW:Mean High Water)を意味し、「最低水位」は平均低潮位(MLW:Mean Low Water)を意味する。ただし、以下、最高水位及びその時間帯を、単に高潮位及び満潮時とそれぞれ称し、また、最低水位及びその時間帯を、単に低潮位及び干潮時とそれぞれ称する。図2(a)は干潮時の状態を、図2(b)は上げ潮時の状態を、図2(c)は満潮時の状態を、図2(d)は下げ潮時の状態をそれぞれ示す図である。
【0032】
まず、図2を参照しながら、管路構造物10の上側開口10a及び下側開口10bの位置と潮位との関係について説明する。図2(a)に示すように、下側開口10bは低潮位よりも高い位置に設けられている。下側開口10bをこのような位置に設けることで、干潮時には下側開口10bが海面上に露出し、下側開口10bを通じて第2のU字管2及びL字管3の内部に外部の空気が供給される。
【0033】
他方、図2(c)に示すように、上側開口10aは高潮位よりも低い位置に設けられている。上側開口10aをこのような位置に設けることで、満潮時には上側開口10aが海中に水没し、上側開口10aを通じて粒状物5に外部の海水が供給される。したがって、例えば、潮位が図2(a)に示される状態にあるときは、同図に示す通り、満潮時に供給された海水によって粒状物5は冠水した状態となっている。つまり、この状態では第1のU字管1内は粒状物5とその間隙水とによって充満されている。
【0034】
なお、粒状物5を冠水する海水の量を少なく設定したい場合には、第1のU字管1の上側開口10a側(一端1a側)の粒状物5が充填されていない空間を少なくすればよい。すなわち、粒状物5を上側開口10aの周縁部の近傍、更には一端1aの高さにまで充填すればよい。
【0035】
また、第1のU字管1の他端1b側の粒状物5の高さは、一端1a側と必ずしも同じ高さである必要はない。例えば、他端1b側に一端1a側よりも高い位置まで粒状物5を充填してもよい。そうすることによって、他端1b側の粒状物5が冠水しないようにすることができる。このように粒状物5を充填する高さを適宜設定することで、一端1a側と他端1b側に含水比や好気状態が互いに異なる環境を形成でき、生物種の多様化の更なる向上に寄与し得る。
【0036】
次に、図2及び図3を参照しながら、潮位の変動に伴って管路構造物10内の状態がどのように変化するかについて説明する。図3(A)は潮位の変動を、図3(B)は潮位の変動に伴う連通管路8内の空気の圧力変化を、それぞれ模式的に示すグラフである。
【0037】
図2(a)に示す干潮時の状態から徐々に潮位が上昇し、潮位が図2に示す潮位L1に到達すると、図3(B)に示すように連通管路8内の圧力が上昇し始める。潮位L1は下側開口10bが完全に水没し、連通管路8内と外部との空気の導通が遮断される潮位である。
【0038】
潮位が更に上昇し、連通管路8内の空気の圧力がある程度上昇すると、第1のU字管1内の粒状物5の間隙に第2のU字管2側から空気が入り、間隙水が空気に置換される。そのため、第2のU字管2側の粒状物5の飽和度が部分的に低下する一方、上側開口10a側は冠水した状態となる(図2(b)参照)。連通管路8内の圧力が更に上昇して空気が上側開口10a側に抜けるようになると、図3(B)に示すように圧力が小刻み変動する。
【0039】
その後、潮位が図2に示す潮位L2に到達すると、図3(B)に示すように連通管路8内の圧力は再び上昇する。潮位L2は上側開口10aが完全に水没し、U字管1内と外部との空気の導通が遮断される潮位である。
【0040】
満潮時を経て潮位が下降に転じると、それに伴って連通管路8内の空気の圧力も下がり始める。連通管路8内の圧力がある程度の負圧にまで下がると、第1のU字管1内の粒状物5の間隙に上側開口10a側から空気が入り、間隙水が空気に置換される。そのため、上側開口10a側の粒状物5の飽和度が部分的に低下する一方、第2のU字管2側は冠水した状態となる(図2(d)参照)。連通管路8内の空気の圧力が更に下降して上側開口10a側からの空気が第2のU字管2側に抜けるようになると、図3(B)に示すように圧力が小刻み変動する。その後、潮位L1よりも低くなると、下側開口10bを通じて連通管路8が大気開放されるため、連通管路8内の空気の圧力は大気圧となる。
【0041】
上記の一連の潮位変動を利用して粒状物5に十分な量の空気を通気させる観点から、管路構造物10の内部の空間は次のような構造になっていることが好ましい。すなわち、潮位が低潮位から高潮位へと上昇する間に、第1のU字管1の方向へと押し上げられる連通管路8の容積は、第1のU字管1の内容積よりも大きいことが好ましい。より具体的には、連通管路8のうち、潮位L1と潮位L2との間にある空間の容積は、第1のU字管1の内容積よりも大きいことが好ましい。
【0042】
本実施形態の管路構造物によれば、上記のように潮位の変動によって第1のU字管1内の粒状物5に対して上側開口10aから定期的に海水が供給されると共に、その両端に生じる差圧によって粒状物5に空気が供給される。これにより、粒状物5の腐敗を十分に抑制することができる。また、粒状物5の間隙水が定期的に空気に置換されてその都度サクションが生じる。このように底生生物にとって好適な環境を第1のU字管内の粒状物5が充填された部分に形成可能であり且つその環境を安定的に維持可能である。
【0043】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態を示す断面図である。同図に示す護岸構造物25は、第2のU字管2に接続されている管路の形状がL字管3と相違する点以外は、第1の実施形態に係る護岸構造物15と同一の構成である。護岸構造物25が備える管路構造物20では、第2のU字管2に以下のような形状の屈曲管23が接続されている。屈曲管23は、第2のU字管2との接続部分から下方に向かいその後斜め下の方向に折れ曲ったような形状を有している。屈曲管23の斜め下の方向に延在する管路の端部は屈曲管23の他端23bをなすものであり、下側開口10bが形成されている。屈曲管23の斜め下の方向の管路は、第1のU字管1の下方を通過し、上側開口10aの下方位置にまで延在している。本実施形態においては、第2のU字管2と屈曲管23とによってその内部に連通管路28が形成されている。
【0044】
上記構成の連通管路28によれば、潮位が低潮位から高潮位へと変化する間に粒状物5により十分な量の空気を通気させることができるという利点がある。すなわち、第1実施形態の管路構造物10では、L字管3の水平方向の管路内の空気は潮位が潮位L1に到達するまでに外部へと抜けてしまうところ、本実施形態の管路構造物20によれば、屈曲管23の斜め下の方向の管路内の空気も粒状物5側へと押し上げられる空気として有効に利用することができる。なお、図4は、潮位が潮位L1まで上昇して下側開口10bが水没した状態を示している。
【0045】
(第3実施形態)
図5は、本発明の第3実施形態を示す断面図である。同図に示す護岸構造物35は、L字管3の代わりに以下の形状を有するL字管33を有する点以外は、第1の実施形態に係る護岸構造物15と同一の構成である。このL字管33は鉛直方向に延在する管路の径が部分的に広くなった形状を有している。本実施形態においては、第2のU字管2とL字管33とによってその内部に連通管路38が構成されている。
【0046】
上記構成の連通管路38によれば、潮位が低潮位から高潮位へと変化する間に粒状物5により十分な量の空気を通気させることができるという利点がある。なお、図5は、潮位が潮位L1まで上昇し、L字管33の他端33bに形成された下側開口10bが水没した状態を示している。
【0047】
(第4実施形態)
上記の第1〜3実施形態では、U字管やL字管などといった管で管路が形成された管路構造物を例示したが、本実施形態に係る管路構造物は、所定の形状を有する複数のコンクリートブロックやプレートを組み合わせて設置して、これらの対向面によって管路が形成されるものである。
【0048】
図6及び図7は、本実施形態に係る管路構造物40を複数のコンクリートブロックとコンクリートパネルとで構築する過程を示す分解斜視図である。まず、図6に示すように略Y字状のブロック41と、略コ字状のブロック42とをそれぞれ作製する。ブロック41は上面に溝部41aが形成されている。また、ブロック42と対向するブロック41の立設面41b及び底面41cはそれぞれ平坦面となっている。
【0049】
ブロック42は略コ字状の形状を有しており、ブロック42の凹部43はブロック41をその内部に離間した状態で設置するためのものである。ブロック42の上部42dの先端側には下方に延在する凸部42aが設けられている。また、ブロック41と対向するブロック42の立設面42b及び凹部43の底面42cはそれぞれ直交する平坦面となっている。図7に示すように、ブロック42の凸部42aはブロック41の溝部41a内に入り込み、粒状物貯留部45を構成する。ブロック42の立設面42b及び底面42cと、ブロック41の立設面41b及び底面41cとの協働により連通管路48を構成する。
【0050】
ブロック41とブロック42とをパネル46,47で両側から挟み込むことで、管路構造体40が構築される。パネル46,47には、図7に示すように、ブロック41とブロック42との間に形成された隙間と同一の形状をなす凸部46a,47aがそれぞれ設けられている。これらの凸部46a,47aはブロック41とブロック42との間に形成される隙間と嵌合して、管路の側壁面をなし、パネル46,47はブロック41,42に対してコンクリートなどの固化材で固定される。本実施形態に係る管路構造物40を護岸構造物として使用した場合、現地での組み立てを可能にし、ブロック41,42としてサイズの大きいものを使用することで粒状物貯留部45に大量の粒状物5を充填することができ、そこに生息させる生物の生息量・種類を格段に向上させることができる。
【0051】
(第5実施形態)
上記の第1〜4実施形態では、上下方向に一つの管路構造物を設置しているが、上下方向に複数の管路構造物を設置してもよい。例えば、図8は、第1実施形態に係る管路構造物10を上下に複数備える護岸構造物の断面図である。このように管路構造物10を配置することによって生物の生息量・種類の向上と環境条件の多様化を図ることができる。
【0052】
(第6実施形態)
また、本発明の管路構造物は護岸構造物内に設置する場合に限られず、例えば、桟橋の支柱に設置してもよい。図9は、複数の管路構造物10が桟橋の支柱60に設置された状態を示す斜視図である。
【0053】
(第7実施形態)
複数の管路構造物を海岸線に沿って並列に設置する場合には、隣接する管路構造物の粒状物貯留部同士を管路で連結して管路構造物の複合体とすると共に、その粒状物貯留部同士を連通する管路に粒状物を充填してもよい。例えば、図10に示す管路構造物の複合体100は、桟橋の支柱60に設置された複数の管路構造物10の第1のU字管1同士が連結管50で連結されている。本実施形態では連結管50が第2の粒状物貯留部を構成し、連結管50内にも粒状物5が充填されている。なお、本実施形態では隣接する管路構造物10の第1のU字管1同士を連結しやすくするため、第1のU字管1が第2のU字管2との接続部分において90°回転して接続された管路構造物10を桟橋の支柱60に設置している。
【0054】
管路構造物の複合体100にあっては、潮位の変動に伴い連結管50内の粒状物5に対しても空気が供給されると共に海水も供給される。そのため、管路構造物10の第1のU字管1内の粒状物5内に好気性の領域が形成される一方、連結管50内の粒状物5内には局所的なサクションが生じて微好気性の領域が形成される。すなわち、管路構造物の複合体100に多様な好気的条件をモザイク状に存在せしめることができる。その結果、生物種の多様化、生息量の向上及び生息範囲の拡大を一層促進することが可能であり、生物による浄化作用の更なる向上といった効果も期待できる。なお、管路構造物の複合体100は、上記の第1〜5実施形態と同様、護岸構造物内に設置する態様としてもよい。
【0055】
以上、本発明に係る管路構造物及びその複合体の実施形態について詳しく説明したが、本発明は更に下記のような形態であってもよい。
【0056】
例えば、第1〜3の実施形態では管路の断面の形状が円形であるものを例示したが、その形状は楕円形や矩形であってもよい。また、下側開口10bは低潮位よりも高い位置に設けられている場合について例示したが、下側開口10bが低潮位よりも低い位置に設けられていても粒状物貯留部内の粒状物5に対して海水及び空気を供給することによる効果を得ることができる。
【0057】
更に、本発明に係る管路構造物10,20,30,40及びその複合体100は、水位が適度な頻度及び高低差で上下に変動する水域の沿岸域であれば、海岸に限られず、適用可能である。このような場所としては、河川や湖沼の沿岸などが挙げられる。
【0058】
<評価実験>
(実験例1)
本発明に係る管路構造物の性能を評価するため、図11に示す形状の管路構造物及びそれを収容する容器を準備し、容器内への注水と減水とを繰り返す水位変動実験を行った。本実験例の条件を表1にまとめた。
【表1】

【0059】
干潟から採取した砂泥100質量部に対して有機物(ペプトン)を0.5質量部添加して底質を調製し、この底質を管路内(図11に示す管路構造物の斜線部分)に充填した。表1に示す条件で容器内の水位を変動させて28日間にわたり実験を行った。実験開始前、実験開始から7日後、14日後及び28日後の底質の酸化還元電位及び硫化物量を測定した。酸化還元電位はORP計(東亜ディーケーケー(株)社製、商品名:RM−20P)を用いて測定した。硫化物量は硫化物用検知管((株)ガステック社製)を用いて測定した。
【0060】
(実験例2)
下方に延在する管路が短い管路構造物(表2参照)を用いたことの他は実験例1と同様にして水位変動実験を行った。また、酸化還元電位及び硫化物量の測定についても実験例1と同様に行った。
【表2】

【0061】
(比較例1)
管路構造物の頭頂部に貫通孔を有しており水位が変動してもその孔から管路内の空気が抜けて空気が管路内の底質に供給されない構成の管路構造物を準備した。この管路構造物を用いたことの他は実験例1と同様にして水位変動実験を行った。また、酸化還元電位及び硫化物量の測定についても実験例1と同様に行った。
【0062】
実験例1,2及び比較例1の結果を表3及び図12,13に示す。
【表3】

【0063】
(実験例3)
実験例1で使用したものと同一の管路構造物及び容器を準備し、その管路内に平均粒径0.05mmのシェルモールド硅砂(8号硅砂)を所定の部分に充填した後、上側開口から4匹のゴカイを投入した。このような管路構造物を容器内に設置して表1に示す条件で容器内の水位を変動させた。図14に満水時から次の満水時までの期間における管路内(頭頂部)の圧力の変動を示す。
【0064】
本実験例の注水開始前(図14の時間6:00ごろ)にあっては、硅砂が充填されている部分にゴカイの移動に伴う穴や巣穴が形成されていると考えられる。そのため、注水を開始してもしばらくの間は管路内の圧力は小刻みに変動するに留まり上昇しなかったと推察される。したがって、粒状物である硅砂内にゴカイなどの底生生物が生息していることで、ゴカイなどが生息していない場合と比較し、硅砂が充填されている管路(粒状物貯留部)内の通気性が確保されやすくなると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る管路構造物の形状を示す斜視図である。
【図2】(a)〜(d)は水位変動に伴う管路構造物内の状態をそれぞれ示す断面図である。
【図3】(A)及び(B)は、潮位の変動及びそれに伴う管路内の圧力の変化をそれぞれ模式的に示すグラフである。
【図4】本発明に係る管路構造物の第2実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明に係る管路構造物の第3実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る構造物を構築する過程を示す分解斜視図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る構造物を構築する過程を示す分解斜視図である。
【図8】本発明に係る管路構造物の第5実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明に係る管路構造物の第6実施形態を示す断面図である。
【図10】本発明に係る管路構造物の第7実施形態を示す断面図である。
【図11】水位変動実験に使用した管路構造物及び容器を示す断面図である。
【図12】粒状物貯留部の酸化還元電位を示すグラフである。
【図13】粒状物貯留部の硫黄物量を示すグラフである。
【図14】水位変動実験中の管路内の圧力変動を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
10,20,30,40…管路構造物、100…複合体、1…第1のU字管(第1の粒状物貯留部)、45…第1の粒状物貯留部、8,28,38,48…連通管路、5…粒状物、10a…上側開口、10b…下側開口、50…連結管(第2の粒状物貯留部)、MHW…高潮位(最高水位)、MLW…低潮位(最低水位)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水位が上下に変動する水域を有する沿岸域に設置されて、当該水位変動を利用して底生生物の生息場を形成するための管路構造物であって、
当該沿岸域の最高水位と最低水位との間に位置する上側開口に一端が連通すると共に、前記一端から下方に向かいその後上方に向かうような形状の管路を有する第1の粒状物貯留部と、
前記第1の粒状物貯留部の他端と、前記上側開口よりも低い位置に設けられている下側開口とを連通する連通管路と、
を備えることを特徴とする管路構造物。
【請求項2】
前記連通管路は、前記第1の粒状物貯留部の前記他端から上方に向かいその後下方に向かうような形状の管路を有することを特徴とする、請求項1に記載の管路構造物。
【請求項3】
前記下側開口は、当該沿岸域の最低水位よりも高い位置に設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の管路構造物。
【請求項4】
当該沿岸域の水位が最低水位から最高水位まで上昇する際に、前記第1の粒状物貯留部の方向へと押し上げられる前記連通管路内の空気の容積は、前記第1の粒状物貯留部の容積よりも大きいことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の管路構造物。
【請求項5】
前記第1の粒状物貯留部に充填する粒状物は、平均粒径0.01〜20mmの砂泥であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の管路構造物。
【請求項6】
前記第1の粒状物貯留部に充填された粒状物内に底生生物が生息していることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の管路構造物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の管路構造物を前記沿岸域に複数並列に設けてなる管路構造物の複合体であって、
隣接する前記管路構造物の前記第1の粒状物貯留部同士を連通する管路を有する第2の粒状物貯留部を備えることを特徴とする複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−253201(P2008−253201A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99692(P2007−99692)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】