説明

箱抜き用型枠及びそれを用いた箱抜き工法

【課題】本発明は、鉄骨柱の固定度を十分に確保するとともにハツリ落とし作業のような面倒な作業を不要とした箱抜き用型枠及びそれを用いた箱抜き工法を提供しようとするものである。
【解決手段】本発明の箱抜き用型枠は、鉄骨柱を建てる箱形の穴を基礎に残した状態でコンクリートを打設し、型枠を抜き取り後その穴に鉄骨柱を建て、鉄骨柱の周りの隙間をコンクリートで埋める工事における箱形の穴を形成するための箱抜き用型枠において、断面が矩形で側面が抜き勾配を有する四角錐形状とし、該四角錐形状を形成する4つの側面にベニヤ合板を配置し、該ベニヤ合板の内面に沿って鉄骨骨組を設け、該鉄骨骨組とベニヤ合板を固定部材で固定し、鉄骨骨組に吊フックを設けたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビルなどの鋼構造建築物の建設において、鉄骨柱を建てる箱形の穴を基礎に残した状態でコンクリートを打設し、型枠を抜き取り後その穴に鉄骨柱を建て、鉄骨柱の周りの隙間をコンクリートで埋める工事における箱形の穴を形成するための箱抜き用型枠及びそれを用いた箱抜き工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の設計のように、鉄骨柱脚部のベースプレートの位置が地中梁の中間に埋め込まれる場合には、鉄骨柱脚部分に箱入れをして、基礎コンクリートを一度に地中梁の天端まで打設した後に鉄骨建て方をし、鉄骨建て方の完了後に柱脚部の根固めコンクリートを打設する箱抜き型埋込み工法が普及している。
【0003】
従来の箱抜き型埋込み工法の1つとして、特開昭63−165626号公報に記載のように、箱型の穴を形成するための箱抜き型枠にそれまで一般的に用いられていた紙などに代えて鋼管を用い、この鋼管型枠に基礎梁の主筋を溶接などによって連結した構造のもので、基礎梁を形成するための型枠内に主筋とあばら筋を配するとともに、鉄骨柱を埋め込む位置に鋼管型枠を配置し、この鋼管型枠に基礎梁の主筋を溶接によって接合するかあるいはこの鋼管型枠の外周を取り巻くようにU字型に配筋したのち、鋼管型枠の内側を残してコンクリートを打設し基礎梁を施工し、次に、鋼管型枠の内側に鉄骨柱を建て、後打ちコンクリートかグラウトモルタルを鉄骨柱と鋼管型枠の隙間に打設して完成するものがある(以下「従来技術1」という。)。
【0004】
また、従来の箱抜き型埋込み工法の他の1つとして、特開平11−222928号公報に記載のように、基礎部分にコンクリートを打ち残して形成させた埋め込み孔の中に鉄骨柱脚部を落とし込み、鉄骨建て方後にコンクリートの埋め込み孔への打設によって基礎部分と一体化させる鉄骨柱脚部落込み工法において、埋め込み孔の側壁にラスもしくはエキスパンドメタルを用い、鉄骨建て方の本締め後に根固めコンクリートの打設のみで落とし込んだ鉄骨柱脚部と基礎部分とを一体化させるものがある(以下「従来技術2」という。)。
【0005】
図8〜11は、従来技術2による鉄骨柱脚部落込み工法を順を追って説明するための施工図である。図8は、箱抜き用のアンカーフレーム5の斜視図を示している。アンカーフレーム5は、4本のアングル15を後述する鉄骨柱脚部3と十分な間隙を保てる間隔で4隅に配置し夫々の上端を同様のアングル16で接続して骨格を形成している。アングルの外側にはラスもしくはエキスパンドメタル等の金網6を貼り付けてあり、鉄骨柱脚部の底端と十分な間隔を保つようにしたアンカーフレームの底部も金網7で塞いで形成される。
図9及び10は、上述のアンカーフレーム5を用いて地中梁11の基礎に箱抜き2を形成する状態を示す基礎の断面図と平面図である。アンカーフレーム5は、基礎型枠を立て込む前の配筋時に鉄骨柱脚部の根入れ部に配置されてあり、型枠立て込みとコンクリート打設で図9のように箱抜き2が形成される。基礎の天端はアンカーフレームと面一に打設しておき、アングル16の上面を露出させると同時に基礎の上面には図10に示すようにスミ出し17をしておく。
図11は、ボルト本締め後の根固めコンクリートの打設状態を示している。根固めコンクリートの打設は、先ず、ボルト本締め後にコンクリート打設用の開口からコンクリート18を鉄骨柱脚部3の下端に充填して行い、次いで、コンクリート18の上に基礎の基礎用コンクリート19を打設する。打設されるコンクリートは、アンカーフレーム5が金網6であるために基礎11との付着が比較的良好に行われる。箱抜きのためのアンカーフレーム5は、そのまま基礎の一部として残される。
【特許文献1】特開昭63−165626号公報
【特許文献2】特開平11−222928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来技術1のように鋼管型枠を用いたのものは、鋼管型枠と内外のコンクリートとの接着性がよくないため、鉄骨柱の固定度が不足し、埋め込み長さを長くする必要があり、また、耐力が低く繰り返し荷重に弱いという問題があった。
また、上記した従来技術2のようなラスもしくはエキスパンドメタル等の金網6を貼り付けたアンカーフレーム5を用いたものでは、周囲のコンクリートの打設によってラスもしくはエキスパンドメタル等の金網6が内方への圧力を受け、アングル15、15の中間部分において内側に膨らむため、根固めコンクリートの打設前に、その膨らみ部分をハツリ落とす作業が必要があるという問題があった。
さらに、従来技術1及び2は、型枠を埋め込んでしまう埋込み工法であるため、鉄骨柱を建てる数だけ型枠が必要であり、型枠合計の費用も相当なものになっていた。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題の解消するために成されたもので、型枠抜き取り方式を採用することにより型枠の再利用を可能にし、型枠費用を大幅に軽減するとともに、鉄骨柱の固定度を十分に確保し、さらに、ハツリ落とし作業のような面倒な作業を不要とした箱抜き用型枠及びそれを用いた箱抜き工法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の箱抜き用型枠は、鉄骨柱を建てる箱形の穴を基礎に残した状態でコンクリートを打設し、型枠を抜き取り後その穴に鉄骨柱を建て、鉄骨柱の周りの隙間をコンクリートで埋める工事における箱形の穴を形成するための箱抜き用型枠において、断面が矩形で側面が抜き勾配を有する四角錐形状とし、該四角錐形状を形成する4つの側面にベニヤ合板を配置し、該ベニヤ合板の内面に沿って鉄骨骨組を設け、該鉄骨骨組とベニヤ合板を固定部材で固定し、鉄骨骨組に吊フックを設けたことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の箱抜き工法は、上記の箱抜き用型枠を鉄骨柱を建てる個所に配置して周囲にコンクリートを打設し、バイブレータで箱抜き用型枠に振動を与えてコンクリートから抜き取り、箱形の穴を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以下のような優れた効果を奏するものである。
(1)従来技術のような型枠埋め込み方式ではなく、型枠抜き取り方式を採用することにより型枠の再利用を可能にし、型枠合計の費用を大幅に軽減することができる。
また、本発明の箱抜き用型枠は、ベニヤ合板と鉄骨骨組で形成することができるため、型枠1個当たりの費用も軽減することができる。
【0011】
(2)本発明の箱抜き用型枠は、その側面にベニヤ合板を配置することにより、ベニヤ合板に接するコンクリート打設面にベニヤ合板表面の凹凸と同様の凹凸が形成されるため、その後施工される鉄骨柱の周りの隙間を埋めるコンクリート打設面との接合強度が増大し、鉄骨柱の固定度を十分に確保できる。
【0012】
(3)また、本発明の箱抜き用型枠の側面のベニヤ合板は内側から鉄骨骨組で支持されているため、コンクリート打設時に側圧が作用しても変形することがなく、所定の箱形の穴が形成され、箱抜き後の穴内面のハツリ落とし作業等の面倒な作業を不要とすることができる。
【0013】
(4)本発明の箱抜き用型枠は、側面が抜き勾配を有するため、吊フックを介して吊り上げることにより容易に抜き取ることができる。
【0014】
(5)本発明の箱抜き用型枠を用いた箱抜き工法は、作業が簡単で、しかも、所定の箱形の穴を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る箱抜き用型枠及びそれを用いた箱抜き工法を実施するための最良の形態を実施例に基づいて図面を参照して以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1ないし図3は、本発明に係る箱抜き用型枠の一実施例の概略を示すものであり、図1は、箱抜き用型枠の側面を形成するベニヤ合板を組立てた状態を示す斜視図、図2は、ベニヤ合板の内面に沿って設けられる鉄骨骨組及び鉄骨骨組に設けられた吊フックを示す斜視図、図3は、ベニヤ合板の内面に鉄骨骨組及び吊フックを取付けた状態を示す斜視図である。
【0017】
箱抜き用型枠は、図1に示すように、断面が矩形で側面が抜き勾配を有する四角錐形状をしており、該四角錐形状を形成する4つの側面にベニヤ合板20が配置される。
本明細書において、「ベニヤ合板」とは、2枚以上のベニヤ単板を張り合わせて製造した合板をいう。
図1に示した箱抜き用型枠は、上端の矩形の1辺が850mm、下端の矩形の1辺が820mm、高さが1400mmの四角錐形状をしている。したがって、1つの側面の抜き勾配は15/1400である。
側面に用いられるベニヤ合板20は、厚さt=28mmの構造用のものである。箱抜き用型枠の大きさ、ベニヤ合板の厚さ等は、適宜設計的に決められるもので上記の寸法はその一例にすぎない。ベニヤ合板20の表面は平坦ではなく、一定方向に筋状の凹凸が多数存在するため、ベニヤ合板に接するコンクリート打設面にも凹凸が形成される。、
ベニヤ合板20の4個所の接合面21は隙間なく合わされ、接着剤及び釘等の固着部材で堅固に固定される。
それぞれのベニヤ合板20には、後述する鉄骨骨組に固定されるためのボルト用穴22が上部、下部及び中段にそれぞれ2個所づつ穿設されている。
【0018】
ベニヤ合板20の内面に沿って設けられる鉄骨骨組23は、図2に示すように、上記したベニヤ合板20の内面に沿った四角錐形状に形成される。このため、ベニヤ合板20は鉄骨骨組23により一体的に支持され、コンクリート打設時の圧力にも十分に耐えられる強度を有している。なお、鉄骨骨組23の高さはベニヤ合板20の高さよりも若干低く形成されており、両者の底部を一致させて取付けるため、上部はベニヤ合板20の方が鉄骨骨組23より若干突出している。
【0019】
鉄骨骨組23は、4本の柱部材24、上部枠部材25,下部枠部材26及び中段枠部材27で骨格が形成されている。これらの部材は、角パイプ等の鋼材からなり、部材相互の接合部は溶接等で固着される。
上部枠部材25、下部枠部材26及び中段枠部材27のそれぞれには、ベニヤ合板20をボルト等で固定するためのねじ穴28がそれぞれ2個所、ベニヤ合板20のボルト用穴22の位置に合わせて形成されている。
また、鉄骨骨組23の下面には、面一に底板用鉄板29が溶接等で固着されている。
【0020】
鉄骨骨組23には、箱抜き用型枠を吊上げるため、鉄骨骨組23のやや上方かつ中心に位置して吊フック30が設けられる。
吊フック30を設けるため、鉄骨骨組23の中心に位置して縦方向に角パイプからなる吊フック取付部材31が設けられ、該吊フック取付部材31は上部枠部材25及び下部枠部材26のそれぞれに設けられたアングル鋼材からなる支持部材32によって鉄骨骨組23に溶接等の手段で固定されている。
【0021】
図3は、ベニヤ合板20の内面に鉄骨骨組23及び吊フック30を取付けた状態を示す斜視図である。ベニヤ合板20は鉄骨骨組23にボルト33によって強固に固定されている。ボルト33はベニヤ合板20の表面より突出しないようにベニヤ合板20に形成されたボルト穴22に埋設されており、ボルト穴はパテ等でコーキングされベニヤ合板20の表面と面一にされている。
【0022】
図4は、本発明に係る箱抜き用型枠を用いた箱抜き工法を説明するための平面図である。
鉄骨柱を建てる基礎部分には均しコンクリート38が打設されて平面になっている。
均しコンクリート38上には、鉄骨骨組23の下部枠部材26の内側面に当接して箱抜き用型枠がコンクリート打設時に動かないように、図5に示すL型鋼材からなる固定部材37が所定の位置に複数(図4では4個所)設けられている。固定部材37は、均しコンクリート38に鉄板用ビスで固定される。箱抜き用型枠の鉄骨骨組23の下部枠部材26を固定部材37に当接させて位置決めし、所定の位置に設置する。
箱抜き用型枠は、図6に示すように固定部材37により横方向からの力を受けても動かないように固定される。
【0023】
図7は、箱抜き用型枠を所定の位置に設置して箱形の穴を形成する状態を説明するための斜視図である。
基礎の均しコンクリート38上に箱抜き用型枠を設置するとともに、図示していない外枠を設置し、該外枠と箱抜き用型枠との間にコンクリートを流し込むと、図7に示すように、ベース34及び地中梁35、36が形成される。この際、箱抜き用型枠は、基礎の天端より上方に若干突出して設置されるため、コンクリートが箱抜き用型枠の内方に流れ込むことはない。
コンクリートの打設された翌日等に、図示していないバイブレータ等を使用して箱抜き用型枠に振動を与え、ベニヤ合板20外面とコンクリートとの接着面とを剥離させる。 その後、箱抜き用型枠の吊フック30にワイヤロープ等を引っかけてほぼ真上に引き上げ、箱抜き用型枠を引き抜く。その際、ベニヤ合板20には抜き勾配が設けられているのでスムースに引き抜くことができる。
【0024】
箱抜き用型枠が引き抜かれたベース34には、箱形の穴が形成される。
この箱形の穴に鉄骨柱をを建て、鉄骨柱の周りの隙間をコンクリートで埋めれば基礎に鉄骨柱を固定することができる。
箱形の穴の内面は、ベニヤ合板20に一定方向に筋状の凹凸が多数存在するため、多数の凹凸が形成される。そのため、箱抜き用型枠の外側に打設されたコンクリートと鉄骨柱の周りの隙間を埋めるコンクリートとの接合強度が大きくなり、鉄骨柱の固定度を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る箱抜き用型枠の側面を形成するベニヤ合板を組立てた状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るベニヤ合板の内面に沿って設けられる鉄骨骨組及び鉄骨骨組に設けられた吊フックを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るベニヤ合板の内面に鉄骨骨組及び吊フックを取付けた状態を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る箱抜き用型枠を用いた箱抜き工法を説明するための平面図である。
【図5】L型鋼材からなる固定部材を示す斜視図である。
【図6】箱抜き用型枠と固定部材との係合状態を示す正面図である。
【図7】箱抜き用型枠を所定の位置に設置して箱形の穴を形成する状況を説明するための斜視図である。
【図8】従来技術2におけるアンカーフレームの斜視図である。
【図9】従来技術2におけるアンカーフレームで箱抜きした基礎の断面図である。
【図10】同基礎の平面図である。
【図11】従来技術2における鉄骨建て方のコンクリート根固めの断面図である。
【符号の説明】
【0026】
20 ベニヤ合板
21 接合面
22 ボルト用穴
23 鉄骨骨組
24 柱部材
25 上部枠部材
26 下部枠部材
27 中段枠部材
28 ねじ穴
29 底板用鉄板
30 吊フック
31 吊フック取付部材
32 支持部材
33 ボルト
34 ベース
35 地中梁
36 地中梁
37 固定部材
38 均しコンクリート




























【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱を建てる箱形の穴を基礎に残した状態でコンクリートを打設し、型枠を抜き取り後その穴に鉄骨柱を建て、鉄骨柱の周りの隙間をコンクリートで埋める工事における箱形の穴を形成するための箱抜き用型枠において、断面が矩形で側面が抜き勾配を有する四角錐形状とし、該四角錐形状を形成する4つの側面にベニヤ合板を配置し、該ベニヤ合板の内面に沿って鉄骨骨組を設け、該鉄骨骨組とベニヤ合板を固定部材で固定し、鉄骨骨組に吊フックを設けたことを特徴とする箱抜き用型枠。
【請求項2】
請求項1記載の箱抜き用型枠を鉄骨柱を建てる個所に配置して周囲にコンクリートを打設し、バイブレータで箱抜き用型枠に振動を与えてコンクリートから抜き取り、箱形の穴を形成することを特徴とする箱抜き工法。


















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−127873(P2008−127873A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314911(P2006−314911)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【特許番号】特許第3899366号(P3899366)
【特許公報発行日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(591124019)株式会社高長建設 (11)
【Fターム(参考)】