説明

節類抽出物を含む調味料組成物の製造方法

【課題】節類抽出物において、レトルト処理(密封容器内での加圧加熱)や開放系での長時間加熱処理による、特有の蒸れ臭や異味を抑制する。
【解決手段】(A)節類;節類10重量部に対し、0.01〜1000重量部の、醤油、みりん、味噌、魚醤油、酵母エキス及びタンパク質加水分解物から選択される一又は複数;並びに節類10重量部に対し、10〜1000重量部の、食品として許容される溶媒を85℃〜150℃で抽出処理する工程、及び(B)工程(A)から得られる抽出処理物、工程(A)から得られる抽出残渣、及び節類から選択される一又は複数;並びに混合適量の水を加熱抽出処理する工程を含み、工程(A)により抽出された成分と工程(B)により抽出された成分とを含む調味料組成物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品素材、より詳細には、節類を原料とした調味料組成物の、製造方法に関する。本発明は、食品製造の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
鰹節に代表される種々の魚類を原料とする節類(節類)は、抽出物(エキス、だし)が様々な食品に利用されている。節類のだしは、一般には、節類を削ったものを熱水抽出することにより得られるが、節類だしの特徴の一つである特有の好ましい香気は経時的に失われやすくもあり、充分な香気を獲得するための方法が種々検討されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1は、安定で、魚節本来のとり立てのだしの好ましい香り・風味、特に魚節に特有な肉質的な香りを有し、嗜好性の高い魚節本来の風味を有した調味素材の製造方法として、魚節をアルコール抽出、液化二酸化炭素抽出、超臨界二酸化炭素抽出、及び水蒸気蒸留から選ばれる1種以上の手法で抽出し、当該抽出後の残渣を除去した抽出物に、システイン、シスチン、メチオニン、γ − グルタミルシステイン、システニルグリシン、グルタチオン及びそれらの塩から選ばれる1種以上の硫黄化合物を添加し、そして前記硫黄化合物が添加された抽出物を加熱する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-325513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、節類からの熱水抽出工程においては、加熱により、不快な生臭みや苦みが生じることがある。また、本発明者らの検討によると、従来の節類抽出物は、料理に適した濃度にまで希釈され、レトルト処理(密封容器内での加圧加熱)や開放系での長時間加熱処理されると、特有の蒸れ臭や異味を生じ、これらに妨げられて本来の節類風味が充分には感じられない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、節類抽出物の製造について検討する中で、特定の調味素材を含む水系溶媒による節類抽出物には充分な香気が感じられることを見出した。また、一方で、その抽出物と、抽出残渣の酵素分解物とを混合することにより、相乗的に、加熱処理による蒸れ臭や異味が抑えられ、風味が良好な食品が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、以下を提供する:
1)(A)下記の混合物
・節類、
・節類10重量部に対し、0.01〜1000重量部の、醤油、みりん、味噌、魚醤油、酵母エキス及びタンパク質加水分解物から選択される一又は複数
・節類10重量部に対し、10〜1000重量部の、食品として許容される溶媒
を85℃〜150℃で(好ましくは、1分〜48時間)抽出処理する工程、及び
(B)下記の混合物
・工程(A)から得られる抽出処理物、工程(A)から得られる抽出残渣、及び節類から選択される一又は複数
・混合適量の水
を加熱抽出処理する工程
を含み、
工程(A)により抽出された成分と工程(B)により抽出された成分とを含む調味料組成物の製造方法。
2)工程(B)が、工程(A)から得られる抽出残渣、及び/又は節類に、混合適量の水及びタンパク質分解酵素を混合して酵素分解上有効な温度及び時間条件で(好ましくは、25℃〜60℃で、10分〜5時間)処理し、次いで加熱抽出処理する工程である、1)に記載の製造方法。
3)工程(A)が、得られる抽出処理物に、節類10重量部に対して1〜1000重量部のエタノールを混合してエタノール抽出処理し、そしてエタノール抽出処理物から残渣を除いて抽出物を得る工程を含む、1)又は2)に記載の製造方法。
4)工程(A)が、得られる抽出処理物を気−液向流接触装置に供し、水蒸気蒸留物として抽出物得る工程を含む、1)又は2)に記載の製造方法。
5)工程(A)において、少なくとも酵母エキスが選択される、1)〜4)のいずれか一に記載の製造方法。
6)酵母エキスが、イノシン酸及びグアニル酸を合計で乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを乾燥重量あたり1%以上含有するものである、5)に記載の製造方法。
7)酵母エキスが、パン酵母から得られたものである、5)又は6)に記載の製造方法。
8)工程(A)及び工程(B)を含み、得られた調味料組成物を添加する工程を含む、加工食品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法により得られた調味料組成物は、レトルト処理や開放系での長時間加熱処理においても、蒸れ臭、異味の発生が少ない。そのため、節類の風味を充分に発揮しうるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
工程(A):
本発明の調味料組成物の製造方法は、工程(A)を含む。
工程(A)は、節類;醤油、みりん、味噌、魚醤油、酵母エキス及びタンパク質加水分解物から選択される一又は複数;及び溶媒を加熱抽出処理し、そして残渣を除いて抽出物を得る工程である。
【0010】
本発明で「節類」というときは、特に記載した場合を除き、鰹及び鰹以外の魚(例えば、宗田、サバ、ムロアジ、ウルメ)の節をいい、原料魚の種類は問わない。また、サイズや加工の程度等も問わない。節類には、荒節(荒亀節、荒本節を含む)、カビ付け節(鰹枯れ節)が含まれる。本発明には種々の節類を用いることができる。
【0011】
節類は、必要に応じて切断、粗砕、薄削、細断等の前処理を行うことができる。
工程(A)においては、節類10重量部に対し、0.01〜1000重量部、好ましくは0.03〜100重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部の、醤油、みりん、味噌、魚醤油のような発酵調味料、酵母エキス及びタンパク質加水分解物から選択される一又は複数が添加される。
【0012】
酵母エキスを用いる場合、イノシン酸及びグアニル酸を合計で乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを乾燥重量あたり1%以上含有するものが好ましい。また、酵母エキスとしては、上記の条件を満たすものであれば、特に限定されるものではなく、サッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母、キャンヂダ(Candida)属に属するものでも良い。例としては、トルラ酵母、パン酵母、ビール酵母、清酒酵母由来のものを用いることができるが、上記の成分が豊富であれ、呈味性が優れるという点で、パン酵母由来のものが特に好ましい。また、パン酵母の中でも、酵母特有の異味、異臭が弱いものを用いることにより、他の成分の持ち味を殺さずに生かすことができる。好ましい酵母エキスの具体例として、イーストエキス21TF(富士食品工業株式会社)、イーストエキス21A(富士食品工業株式会社)、バーテックスIG20(富士食品工業株式会社)、スーパー酵母エキス(味の素)、アロマイルド(興人)を上げることができる。バーテックスIG20は、遊離アミノ酸含有量とIG核酸含有量が共に高いという観点から、特に好ましい酵母エキスの一つである。
【0013】
工程(A)においては、醤油、みりん、味噌、魚醤油、酵母エキス及びタンパク質加水分解物から選択される一又は複数は、節類とともに、加熱抽出処理に供される。これらを添加せずに、節類のみ加熱抽出処理し、得られた抽出物へこれらを添加した場合には、目的の効果は得られないと考えられる。本発明においては、節とともに醤油等を加熱することで生成する香気成分を充分に回収することが重要である。
【0014】
タンパク質加水分解物を用いる場合、原料タンパク質が動物性のもの(HAP)であっても、植物性のもの(HVP)であってもよい。加水分解の手段も特に限定されず、酵素分解を用いたものであっても、酸を用いたものであってもよい。好ましいタンパク質加水分解物の例として、エキストラートYP-N(HAP、富士食品工業株式会社)を挙げることができる。
【0015】
工程(A)においては、節類10重量部に対し、10〜1000重量部、好ましくは20〜500重量部、さらに好ましくは20〜100重量部の溶媒が用いられる。
溶媒は、食品として許容されるものであれば、水系溶媒(水溶性溶媒)であっても、油系溶媒(油溶性溶媒)であってもよい。
【0016】
本発明で「水系溶媒」というときは、水又は水を含む混合溶媒をいう。溶媒は、蒸気の状態(例えば、水蒸気)であり得る。なお、本発明において混合溶媒の濃度について表すとき(例えば、95%エタノールというとき)は、特に記載した場合を除き、重量に基づいている。
【0017】
本発明で「油系溶媒」というときは、上記の水系溶媒以外のものをいう。油系溶媒の好適な例は、食用油脂であり、食用油脂であれば、用途、規格、原料等に特に制限はなく、本発明に用いることができる。本発明に用いることのできる油系溶媒の例は、サラダ油、天ぷら油、オリーブ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油、調合油等が挙げられる。
【0018】
溶媒は、食品として許容可能な各種の添加物を含んでいてもよい。
工程(A)の抽出処理温度は、85℃〜150℃、好ましくは90℃〜140℃、より好ましくは101℃〜130℃において行われる。温度は、85℃以上であれば、処理時間を適切に設定することにより、目的の効果が得られると考えられる。温度の上限値は、作業上の容易性、安全性、経済性等の観点から定めてもよい。
【0019】
必要に応じ、加圧してもよい。加圧温度帯であることは本発明にとって必須ではないが、本発明の好ましい実施態様の一つである。加圧温度帯において行うことにより香気成分の生成・回収を効果的に行うことができる。
【0020】
抽出処理時間は、いずれの温度においても、1分〜48時間とすることができる。高い温度帯での処理により、より短い時間での処理が可能である。例えば、加圧温度帯において、1分〜50分、好ましくは5分〜25分とすることができる。好ましい温度及び時間条件の例として、110℃〜140℃で3分〜120分(例えば、115℃で30分、120℃で10分、135℃で5分)を挙げることができる。
【0021】
低い温度、例えば85℃での抽出処理は、目的の香気成分が充分に生成されるために、比較的長い時間の処理が必要になると考えられる。
後述するSCC抽出装置が組み合わされる場合、実用的な条件の一例として、85℃〜100℃での60分〜150分を挙げることができる。
【0022】
本発明者らの検討によると、節類の抽出において、加熱に伴う変質を回避するためには70℃前後を下回った領域で処理すべきであり、 一方、70℃を超える温度で処理すると、品質は劣ったものとなる。しかしながら、本発明のように醤油等とともに70℃を超える高い温度で処理すると、独特の複合的というべき香気を生成することが分かった。複合的香気は、節類の成分と添加される醤油等の成分との間の加熱反応により生成するものと考えられる。特に処理後の節に強い香気が残り、これを効果的に抽出することで、製品に該香気を付与することができる。
【0023】
抽出のための手段としては、食品分野で原料からの熱水抽出のために用いられてきた従来の方法、例えば、原料籠浸漬抽出法、原料混合攪拌ろ過抽出法、多機能抽出器を用いた浸漬法、ドリップ法等を用いることができる。
【0024】
工程(A)の主たる目的は、香気成分を抽出することである。香気成分を充分に抽出するためには、工程(A)において、エタノール抽出法、水蒸気蒸留法、オイル抽出法を適用することができる。これらの方法は、上述の溶媒を用いた抽出処理として、又は加熱抽出処理に続いて、実施することができる。
【0025】
エタノール抽出法を付加する場合、工程(A)において上述の加熱抽出処理を行った後、適切な温度にまで放冷又は冷却した処理物に、食品として又は食品製造用として許容可能な70〜99.99%のエタノール(典型的には、95%エタノール)を、節類10重量部に対して1〜1000重量部混合することができる。混合物は、エタノール抽出上有効な温度及び時間条件で、好ましくは、25℃〜70℃で1時間〜24時間(典型的には、環境温度で4〜8時間)処理し、そして残渣を除いて抽出物を得ることができる。
【0026】
エタノール抽出工程を含む工程(A)は、例えば、次のように構成される: 水60重量部、醤油1重量部、酵母エキス0.5重量部及び鰹荒亀節粉砕物30重量部を混合し、閉鎖系で、攪拌しながら115℃、10分、抽出処理する。エタノール沸点以下に冷却後、系を開放し、100重量部のエタノールを添加し、環境温度で攪拌混合しながら6時間エタノール抽出処理する。固液分離し、エタノール抽出物(A)及び残渣を得る。残渣は、工程(B)に供することができる。あるいは、抽出処理物から得られる残渣のみを、エタノール抽出処理に供してもよい。この場合、工程(A)は、例えば、次のように構成される: 水60重量部、醤油1重量部、鰹荒亀節粉砕物30重量部を混合し、115℃、10分の加熱処理を施し、冷却後、固液分離し、抽出物(C)及び残渣を得る。残渣に100重量部のエタノールを添加し、環境温度で攪拌混合しながら6時間エタノール抽出処理する。これを固液分離し、高濃度のエタノールを含む、抽出物(A)及び残渣を得る。残渣は、工程(B)に供することができる。
この態様は、工程(A)の加熱抽出処理物において、液体部に溶解した香気成分を回収しつつ、固体残渣に残存する香気成分を高濃度のエタノールにより回収できるという利点がある。そのため、抽出物(A)及び抽出物(C)を含む調味料組成物は、醤油等と加熱により生じた香気が他の態様と比較して強く、豊かな風味を有するものとなり得る。
【0027】
水蒸気蒸留法は、具体的には、スピニング・コーン・カラム(SCC)抽出装置を利用した気液向流接触装置の一種を用いた方法(SCC)により実施してもよい。SCC 装置を用いる場合、工程(A)から得られるスラリー状の節類、発酵調味料等及び溶媒の混合物からなる抽出処理物を、そのまま気液向流接触装置に供することができる。SCC抽出装置から得られた節類抽出物においては、節類の香りに大きく寄与する成分(例えば、1-penten-3-ol、1-octen-3-ol、eugenol、trans-isoeugenol、2,6-dimethoxy-4-propylphenol)が含まれうる。そのためSCC抽出装置から得られた節類抽出物には、節類全体の香りを充分に再現するものとなり得る。
【0028】
水蒸気蒸留工程を含む工程(A)は、例えば、次のように構成される: 水140重量部、蛋白加水分解物1重量部、濃い口醤油10重量部、鰹節微粉砕物15重量部を混合し、90℃、120分の抽出処理を行い、得られた混濁物をスピニング・コーン・カラム(SCC、気液交流接触装置)に供し、揮発性の香気成分を多く含有する蒸留物、抽出物(A)を回収する。残ったスラリーは、固液分離し、抽出物(A’)及び残渣を得る。残渣は、工程(B)に供することができる。抽出物(A')は、通常、固形分が低いので、必要に応じ工程(B)から得られる抽出物と一緒に、濃縮処理してもよい。
【0029】
オイル抽出工程を含む工程(A)は、例えば、次のように構成される: サラダオイル60重量部、粉末醤油1重量部、酵母エキス0.5重量部、鰹荒亀節微粉砕物20重量部を混合し、115℃、10分の抽出処理する。冷却後、固液分離し、オイル層である抽出物(A)と残渣を得る。残渣は、工程(B)に供することができる。
【0030】
工程(A)においては、最終的には固形の残渣を除いた、液状の節類抽出物が得られる。残渣の除去には、この分野で利用されている従来技術の固液分離のための装置、例えば種々の素材を用いたろ過装置を用いることができる。
【0031】
工程(A)においては、先述のとおり、複合的な香気成分の生成がある。工程(A)の働きは主として、そのような香気成分を抽出することである。そのような香気成分は、回収されて最終製品に包含され、製品をレトルト処理や開放系での長時間加熱処理にも耐えるものとしうる。より具体的には、工程(A)により得られた節類抽出物は、メラノイジンによる抗酸化作用、香気成分の増強による不快臭のマスキング等の様々な作用により、最終製品を、レトルト処理や開放系での長時間加熱処理においても、蒸れ臭、異味の発生が少ないものとしうる。
【0032】
工程(B):
本発明の製造方法は、工程(B)を含む。
工程(B)は、工程(A)から得られる抽出処理物(通常、液状の抽出物、及び抽出残渣からなる)、工程(A)から得られる抽出残渣、及び新たに追加される節類から選択される一又は複数、並びに混合適量の水を加熱抽出処理する工程である。
【0033】
工程(B)は、工程(A)の残渣、及び/又は節類に、混合適量の水及びタンパク質分解酵素を混合して酵素分解上有効な温度及び時間条件で処理し、そして残渣を除いて酵素分解抽出物を得る工程とすることもできる。酵素分解上有効な温度及び時間条件は、用いる酵素にも拠るが、通常酵素の至適温度で行うものであり、典型的な例は、25℃〜60℃において、10分〜5時間である。
【0034】
本発明で「タンパク質分解酵素」というときは、特に記載した場合を除き、ペプチド結合を加水分解する酵素をいう。食品製造のために許容される種々のタンパク質分解酵素を本発明に用いることができる。エキソ型であっても、エンド型であってもよい。タンパク質分解酵素は、食品製造のために許容されるものであれば、粗精製物からなる酵素剤を用いてもよく、複数の酵素又は酵素剤を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
食品由来のものを好適に使用することができる。この例には、パパイン、ブロメライン、ショウガプロテアーゼ、フィシン、アクチニジンがある。
タンパク質分解酵素の使用量は、当業者であれば適宜設計しうる。酵素は、一般的に、基質に対して、0.1〜0.5重量%で使用されるが、本発明においても、そのような範囲で用いることができる。工程(A)の残渣及び又は節類並びに混合適量の水の全量に対して、0.1〜0.5重量%で使用してもよい。
【0036】
工程(B)においては、酵素処理物は、加熱処理に供される。この加熱処理において、加圧してもよい。加熱処理による生成物が、香気・味の制御に貢献する可能性があり、このような観点からは、115℃程度での処理が、特に好ましいということができる。当業者であれば、この加熱処理のための条件を、味質から、適宜設定することができる。例を挙げると、温度は、85℃〜150℃、好ましくは90℃〜140℃、より好ましくは101℃〜130℃とすることができ、時間は、いずれの温度においても、適宜設定でき、実施上の観点からは、好ましくは1分〜180分とすることができる。高い温度帯での処理により、より短い時間での処理が可能である。
【0037】
工程(B)は、典型的には、例えば、次のように構成される: 節類10重量部を用いた工程(A)からの残渣に100重量部の水を加え、90℃、10分の加熱抽出処理を行う。固液分離し、抽出物(B)を得る。あるいは、酵素処理を含む場合、次のように構成してもよい: 節類10重量部を用いた工程(A)からの残渣、100重量部の水、全量に対し0.3重量部のパパインを混合し、50℃、2時間の酵素分解処理を行う。そのまま攪拌しながら加熱抽出処理(120℃、20分)を行う。降温後、固液分離し、抽出物(B)を得る。
【0038】
工程(B)においては、酵素処理の前又は後に、市販の鰹エキスを加えてもよい。この場合、工程(B)は、例えば、次のように構成される: 節類10重量部を用いた工程(A)からの残渣に100重量部の水を加え、鰹エキス5重量部、全量に対して0.3重量部のパパインを混合し、50℃、2時間の酵素分解処理を行う。そのまま攪拌しながら加圧加熱処理(120℃、20分)を行い、降温後、固液分離し、抽出物(B)を得る。あるいは、同様の残渣に100重量部の水、全量に対して0.3重量部のパパインを混合し、50℃、2時間の酵素分解処理を行った後、鰹エキス5重量部を加える。そのまま攪拌しながら加圧加熱処理(120℃、20分)を行い、降温後、固液分離して、抽出物(B)を得る。
【0039】
工程(B)は、様々な態様の工程(A)と組み合わせることができる。例えば、エタノール抽出処理を含む工程(A)と組み合わせた場合、本発明の製造方法は、典型的には、例えば次のように構成される: 水60重量部、酵母エキスパウダー1重量部、鰹荒亀節粉砕物30重量部を混合し、閉鎖系で、115℃、10分の加熱処理を施す。冷却後、系を開放して100重量部のエタノールを添加し、攪拌混合しながら6時間エタノール抽出処理する。固液分離し、アルコール抽出物(A)を得る。並行して、水60重量部、粉末醤油1重量部、鰹荒亀節粉砕物30重量部を混合し、攪拌しながら90℃、60分の加熱処理を施す。冷却後、100重量部のエタノールを添加して攪拌混合しながら6時間エタノール抽出処理する。固液分離を行い、アルコール抽出物(A’)を得る。別に水60重量部、食塩1重量部、さば節を5mm以下粒状に粉砕したもの30重量部、100重量部のエタノールを混合し、攪拌しながら6時間エタノール抽出処理する。その後、固液分離し、アルコール抽出物(C)を得る。分離回収されたすべての残渣、水300重量部、全量に対して1重量部のパパインを混合し、50℃、2時間の酵素分解処理を行う。次いで、鰹エキス20重量部を加え、そのまま攪拌しながら加圧加熱処理(120℃、20分)を行う。冷却後、得られたものを固液分離し、抽出物(B)を得る。抽出物(B)約370重量部に対し、酵母エキス7重量部、蛋白自己消化物7重量部、及びウルメ鰯節粗砕物15重量部を混合し、90℃、20分の加熱抽出を行い、残渣を除去して、抽出物(C)を得た。
【0040】
(A)、(A’)、 (B)及び(C)を混合し、目的とする調味料組成物を得る。
工程(B)の主たる目的は、呈味成分を抽出することである。そのため、工程(B)の抽出処理条件(温度、時間、及び/又は溶媒)は、香味成分抽出を主たる目的とする工程(A)とは異なるものである。
【0041】
工程(B)により、最終的に得られる調味料組成物の味質の改善が期待されうる。ここでの加熱や、タンパク質分解酵素による分解は、酸味や雑味を形成しうる。本発明者らの検討によると、鰹だしらしさを、食品において数パーセント使用したときにでも付与するためには、調味料組成物においてはこうした味質も強化されているとよいことが分かっている。酵素分解により生成するペプチドやアミノ酸が、それ自身で酸味や雑味を呈する可能性があり、また、加熱により、他の成分と反応した結果、酸味や雑味を形成している可能性もある。
【0042】
本発明者らの検討によると、工程(B)は、味質の改善に働くのみならず、先の工程(A)からの結果物と相乗的に、調味料組成物をレトルト処理や開放系での長時間加熱処理にも耐えるものとしうる。
【0043】
工程(B)からは、最終的には固形の残渣が除かれた、液状の節類抽出物が得られる。残渣の除去には、この分野で利用されている従来技術の固液分離のための装置、例えば種々の素材を用いたろ過装置を用いることができる。
【0044】
工程(B)により得られた酵素処理物は、ペプチド、及び/又はその加熱変性物による抗酸化作用、本工程により得られた味成分による不快味のマスキング等の様々な要因により、レトルト処理や開放系での長時間加熱処理において、蒸れ臭、異味を抑制しうる。また、工程(A)で得られた抽出物と組み合わされることにより、相乗的な効果を発揮しうる。
【0045】
調味料組成物及びその用途:
工程(A)からの成分及び工程(B)からの成分を含む調味料組成物は、典型的には液状であるが、濃縮、乾燥、造粒等の処理を行い、ペースト、粉末、顆粒等の形態とすることができる。
【0046】
調味料組成物は、連続真空乾燥装置(Continuous Vacuum Dryer、CVD)を用いる加熱処理工程を経ることがある。このような工程は、典型的には、例えば、次のように構成される: 工程(A)からの抽出物(液状)、及び工程(B)からの抽出物(液状)を混合した後、附形剤(例えば、デキストリン)、溶解補助剤(例えば、乳化剤)の適量を添加して混練後、130℃の雰囲気温下で、乾燥減量2%以下となるまで真空乾燥する。得られた乾燥物を粉砕し、フレーク状乾燥物である調味料組成物を得る。
【0047】
種々の形態の調味料組成物はそのまま、又は食品として許容される種々の呈味性添加物、例えば、食塩、砂糖、各種うまみ調味料(例えば、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸及びそれらの水溶性の塩)を添加して、調味料として用いられる製品としてもよい。このような調味料用製品における本発明の調味料組成物の含量は、0.1%以上であり、好ましくは1%以上であり、典型的には3.0〜100%である。最終的製品における本発明の調味料組成物の含量は、その製品の用途(例えば、調味料用、食品製造用プレミクス、食品)によって様々であり、本発明の効果を発揮しうる限り様々とすることができ、特に限定されない。
【0048】
本発明の製造方法により得られた調味料組成物は、種々の食品に対して用いることができる。食品への添加量は、効果を発揮しうる限り様々とすることができるが、典型的な例は、本発明の調味料組成物(液状)相当として、0.01〜5.0%であり、好ましくは0.05〜4.0%であり、より好ましくは0.1〜3.0%である。
【0049】
本発明による調味料組成物は特に、レトルト処理や開放系での長時間加熱処理においても良好な風味を有するので、レトルト処理を経る加工食品や開放形での加熱時間の長い加工食品において、特に好適に用いることができる。
【0050】
本発明の調味料組成物を用いることのできる食品の例としては、うどんつゆ、そばつゆ、うどんつゆ、そばつゆ、味噌汁の素、炊き込みご飯の素、炊き込みご飯、しお炒め、しょうゆ炒め、青椒肉絲、回鍋肉、干焼蝦仁、あんかけ、ギョーザ、スープ(各種ポタージュ、オニオンスープ、マッシュルームスープ、トマトスープ、クラムチャウダー、ミネストローネ)等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
[実施例1:組み合わせ工程]
攪拌機付加圧加熱釜に、水60重量部、醤油1重量部(濃い口醤油、キッコーマン製))と酵母エキス0.5重量部(バーテックスIG20、富士食品製)を入れ、混合し、鰹荒亀節を5mm以下の粒状に粉砕したもの30重量部を混合した。当該混濁液を攪拌しながら115℃、10分の加熱処理を施し、60℃まで冷却した後、ふたを開けて100重量部のエタノール(食品グレード 95%)を添加し、攪拌混合しながら6時間抽出した。その後、バスケット型分離機で布による分離を行い、アルコール抽出液(A)を得た。
【0052】
分離工程で回収された節残渣は、撹拌機付き加圧加熱釜に100重量部の水を加え、パパインを全量に対し0.3重量部加え、50℃、2時間の酵素分解処理を行った後、そのまま攪拌しながら加圧加熱処理(120℃20分)を行い、その後100℃以下へ冷却した。得られたものをバスケット型遠心分離機で布による分離を行い、エキス部(B)を得た。
【0053】
(A)(B)両者を混合することで目的とする調味料組成物を得た。
[実施例2:Bなし(Aのみ)]
攪拌機付加圧加熱釜に、水60重量部、醤油1重量部(濃い口醤油、キッコーマン製))と酵母エキス0.5重量部(バーテックスIG20、富士食品製)を入れ、混合し、鰹荒亀節を5mm以下の粒状に粉砕したもの30重量部を混合した。当該混濁液を攪拌しながら115℃10分の加熱処理を施し、60℃まで冷却した後、ふたを開けて、100重量部のエタノール(食品グレード 95%)を添加し、攪拌混合しながら6時間抽出した。その後、バスケット型分離機で布による分離を行い、アルコール抽出液(A)を得た。
【0054】
分離工程で回収された節残渣に100重量部の水を加え、90℃10分の加熱抽出を行い、得られたものをバスケット型遠心分離機で布による分離を行い、エキス部(B)を得た。(A)(B)両者を混合することで目的とする調味料組成物を得た。
【0055】
[比較例1:Aなし(Bのみ)]
攪拌機付加熱釜に、水60重量部と鰹荒亀節を5mm以下粒状に粉砕したもの30重量部を混合した。該混濁物を115℃10分の加熱処理をし、60℃まで冷却した後、ふたを開けて100重量部のエタノール(食品グレード 95%)を添加し、攪拌混合しながら6時間抽出した。その後、醤油1重量部(濃い口醤油、キッコーマン製))と酵母エキス0.5重量部(バーテックスIG20、富士食品製)を投入し、混合後直ちにバスケット型分離機で布による分離を行い、アルコール抽出液部(A)を得た。
【0056】
分離工程で回収された節残渣は撹拌機付き加圧加熱釜に100重量部の水を加え、パパインを全量に対し0.3重量部加え、50℃、2時間の酵素分解処理を行った後、そのまま攪拌しながら加圧加熱処理(120℃20分)を行い、その後100℃以下へ冷却した。得られたものをバスケット型遠心分離機で布による分離を行い、エキス部(B)を得た。(A)(B)両者を混合することで調味料組成物(比較例1)を得た。
【0057】
[比較例2:A、Bなし]
攪拌機付加熱釜に水60重量部と鰹荒亀節を5mm以下粒状に粉砕したもの30重量部を混合した。該混濁物を115℃10分の加熱処理をし、60℃まで冷却した後、ふたを開けて 100重量部のエタノール(食品グレード 95%)を添加、攪拌混合しながら6時間抽出した。その後、醤油1重量部(濃い口醤油、キッコーマン製))と酵母エキス0.5重量部(バーテックスIG20、富士食品製)を投入し、混合後、直ちにバスケット型分離機で布による分離を行い、アルコール抽出液部(A)を得た。
【0058】
分離工程で回収された節残渣に100重量部の水を加え、90℃10分の加熱抽出を行い、得られたものをバスケット型遠心分離機で布による分離を行い、エキス部(B)を得た。(A)(B)両者を混合することでとする調味料組成物(比較例2)を得た。
【0059】
[評価]
実施例1及び2、比較例1及び2で得られた調味料組成物について、2.5%の水溶液を作成し、それぞれを115℃20分加熱処理を施した。得られた各々を、処理加熱前後で官能比較を行い、その結果を下表に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
上記のように、実施例1及び実施例2が、115℃、20分というレトルト加熱処理に対して特有の蒸れ臭の生成を抑えることが可能であること確認した。さらに実施例1においては、蒸れ臭の生成を有意に抑制している上に、異味の生成も抑えていることがわかる。
【0062】
[実施例3:種々の発酵産生食品素材の利用]
醤油、みりん、酵母エキス、みそ、蛋白加水分解物の各々の添加効果を確認した。
攪拌機付加圧加熱釜に水60重量部に対し、それぞれ1品のみ1重量部、及び鰹荒亀節を5mm以下粒状に粉砕したもの30重量部を混合した。当該混濁液を攪拌しながら120℃、10分の加熱処理を施し、60℃まで冷却した後、ふたを開けて100重量部のエタノール(食品グレード 95%)を添加し、攪拌混合しながら6時間抽出した。その後、バスケット型分離機で布による分離を行い、アルコール抽出液(A)を得た。
【0063】
分離工程で回収された節残渣を撹拌機付き加圧加熱釜に入れ、100重量部の水を加え、パパインを全量に対し0.3重量部加え、50℃、2時間の酵素分解処理を行った後、そのまま攪拌しながら加圧加熱処理(120℃20分)を行い、その後100℃以下へ冷却した。得られたものをバスケット型遠心分離機で布ろ過を行い、エキス部(B)を得た。(A)(B)両者を混合することで目的とする調味料組成物を得た。
【0064】
各々について、2.5%の水溶液を作成し、それぞれに対して115℃30分の加熱処理を施した。得られた各々を、官能検査に供し、その結果を以下に示した。なお、蒸れ臭は、いずれも、レトルト処理(115℃30分)をしていないものと比較して評価し、また、対照として当該調味料組成物を含まないものを含め、添加の効果についても評価した。
【0065】
【表2】

【0066】
[実施例4:残渣のみのアルコール抽出]
攪拌機付加圧加熱釜に、水60重量部、醤油1重量部(濃い口醤油、キッコーマン製)を入れ、混合し、さらに鰹荒亀節を60メッシュ以下粉状に粉砕したもの30重量部を混合した。当該混濁液を攪拌しながら115℃、10分の加熱処理を施し、60℃まで冷却した後、ふたを開け、バスケット型分離機で布による分離を行い、醤油との加熱抽出液(C)を得た。
【0067】
得られた残渣に100重量部のエタノール(食品グレード 95%)添加し、攪拌混合しながら6時間抽出した。これを分離し、高濃度アルコール抽出液(A)を得た。
さらにこの分離工程で回収された節残渣を撹拌機付き加圧加熱釜に入れ、100重量部の水を加え、パパインを全量に対し0.3重量部加え、50℃、2時間の酵素分解処理を行った後、そのまま攪拌しながら加圧加熱処理(120℃、20分)を行い、その後100℃以下へ冷却し、得られたものをバスケット型遠心分離機で布ろ過を行い、エキス部(B)を得た。
【0068】
(A)(B)(C)のすべてを混合することで目的とする調味料組成物を得た。
当該エキスは、被フレーバー回収混合物から水層部に回収された香気成分を抽出液として回収し、それ以外の残渣残存香気を高濃度のアルコールにより回収できる利点がある。結果として、独特の醤油との炊き込まれたにおいが、実施例3にて同様の醤油を用いたケースと比べても非常に強く豊かな風味を有する。
【0069】
実施例4により得られた液の2.5%水溶液を作成し、115℃30分加熱処理を施した場合において、蒸れ臭の生成は 実施例3のケースと同等に抑制されていたことを確認した。
[実施例5:SCC使用例]
蛋白加水分解物エキストラートYP−N(富士食品工業)1重量部に、濃い口醤油10重量部、鰹節(荒亀節)の0.2mm以下微粉砕物15重量部、水140重量部を加え、よく攪拌混合した。その後、混合しながら90℃、120分の加熱処理を行い、得られた混濁物をSCC(オーストラリア フレーバーテック社製 スピニング・コーン・カラム(SCC)気液交流接触装置)に供することで、揮発性香気を高度に含有する水層7.5重量部(S-R比約5%)を回収した(A)。
【0070】
脱臭されたスラリーを分離した後、ろ液を回収した(B)。その後、得られた残渣に4倍量の水を加え、パパインを混濁液総量に対し0.2%添加後、60度2時間の酵素分解処理を行った。当該酵素処理液は、90℃、12分の加熱処理を施し、分離を行い、酵素処理抽出物(C)を得た。
【0071】
(B)と(C)をあわせてBRIX40まで濃縮し、40℃以下へ冷却し、そこへ(A)を添加混合し、目的とする調味料組成物を得た。得られた液の2.5%水溶液を作成し、115℃、30分加熱処理を施したところ、蒸れ臭の生成が実施例1のケースと同等に抑制されていた。
[実施例6:(B)工程に鰹エキスを投入して酵素分解した後、加圧]
攪拌機付加圧加熱釜に水60重量部、味噌1重量部(マルコメ製無添加あわせ味噌)と酵母エキス0.5重量部(バーテックスIG20、富士食品製)を入れ、混合し、さらに鰹荒亀節を5mm以下粒状に粉砕したもの30重量部を混合した。当該混濁液を攪拌しながら115℃、10分の加熱処理を施した。60℃まで冷却した後、ふたを開けて100重量部のエタノール(食品グレード95%)を添加し、攪拌混合しながら6時間抽出した。その後、バスケット型分離機で布による分離を行い、アルコール抽出液(A)を得た。
【0072】
分離工程で回収された節残渣は、撹拌機付き加圧加熱釜に100重量部の水を加え、鰹エキス(ボニトエキス:泉食品)5重量部、全量に対して0.3重量部のパパインを加え、50℃、2時間の酵素分解処理を行った。そのまま攪拌しながら加圧加熱処理(120℃、20分)を行い、その後100℃以下へ冷却し、得られたものをバスケット型遠心分離機で布ろ過を行い、エキス部(B)を得た。
【0073】
(A)(B)両者を混合することで目的とする調味料組成物を得た。本調味料組成物は、非常に良好な節臭を有していた。
得られた液の2.5%水溶液を作成し、115℃、30分の加熱処理を施したところ、蒸れ臭の生成が実施例1のケースと同等に抑制されていた。
【0074】
[実施例7:(B)工程で酵素分解してから鰹エキスを投入後加圧]
攪拌機付加圧加熱釜に水60重量部、醤油1重量部(濃い口醤油、キッコーマン製)と酵母エキス0.5重量部(バーテックスIG20、富士食品製)を入れ、混合し、鰹荒亀節を5mm以下粒状に粉砕したもの30重量部をさらに混合した。当該混濁液を攪拌しながら115℃、10分の加熱処理を施した。60℃まで冷却した後、ふたを開けて100重量部のエタノール(食品グレード 95%)を添加し、攪拌混合しながら6時間抽出した。その後、バスケット型分離機で布による分離を行い、アルコール抽出液(A)を得た。
【0075】
分離工程で回収された節残渣は、撹拌機付き加圧加熱釜に100重量部の水を加え、全量に対してパパインを0.3重量部加え、50℃、2時間の酵素分解処理を行った後、鰹エキス(ボニトエキス:泉食品)5重量部を加えた。そのまま攪拌しながら加圧加熱処理(120℃20分)を行い、その後100℃以下へ冷却し、得られたものをバスケット型遠心分離機で布ろ過を行い、エキス部(B)を得た。
【0076】
(A)(B)両者を混合することで目的とする調味料組成物を得た。本調味料組成物は、非常に良好な節臭を有していた。
得られた液の2.5%水溶液を作成し、115℃、30分加熱処理を施したところ、実施例6のケースに比べ若干の蒸れ臭が感じられるものの、充分な蒸れ臭いの抑制効果を確認した。
【0077】
[実施例8:オイル抽出、連続真空乾燥装置(Continuous Vacuum Dryer、CVD)による加熱有り]
攪拌機付加圧加熱釜にサラダオイル60重量部、粉末醤油1重量部(粉末醤油N:日研フード)と酵母エキス0.5重量部(バーテックスIG20、富士食品製)、鰹荒亀節を0.2mm以下に微粉砕したもの20重量部を入れ、混合した。当該混濁液を攪拌しながら115℃、10分の加熱処理を施し、100℃まで冷却の後、バスケット型分離機で布による分離を行い、オイル層(A)を得た。
【0078】
分離により得られた残渣に、水を90重量部、鰹エキス(ボニトエキス:泉食品)5重量部、パパイン0.3重量部加え、50℃、2時間の酵素分解処理を行った。その後、酵母エキス(イーストエキス21TF:富士食品製)を1重量部添加し、加圧加熱処理(120℃、20分)を行い、次いで100℃以下へ冷却して節酵素分解スラリー部(B)を得た。
【0079】
(A)と(B)とを混合した後、デキストリン(マックス1000:松谷化学工業)140重量部、乳化剤(シュガーエステルP−1570:三菱化学フーズ)0.2重量部を添加し、ニーダーにて充分混練後、130℃の雰囲気温下で、乾燥減量2%以下となるように真空乾燥を行った。得られた乾燥物を粉砕し、3mm以下のフレーク状乾燥物とした。
【0080】
比較対象として、サラダオイル60重量部、粉末醤油1重量部(粉末醤油N:日研フード)と酵母エキス0.5重量部(バーテックスIG20、富士食品)、鰹荒亀節を0.2mm以下に微粉砕したもの20重量部、水を90重量部、鰹エキス(ボニトエキス:泉食品)5重量部、酵母エキス(イーストエキス21TF:富士食品)1重量部、デキストリン(マックス1000:松谷化学工業)140重量部、乳化剤(シュガーエステルP−1570:三菱化学フーズ)0.2重量部を混合したものも用意した。これを130℃の雰囲気温下で乾燥減量2%以下となるように真空乾燥を行った。得られた乾燥物を粉砕し、3mm以下のフレーク状乾燥物とした。
【0081】
本実施零品及び比較対象品それぞれは、市販の味噌(無添加味噌:マルコメ製)に5%添加混合し、この120gに対し、沸騰水1500gを添加して混合均質化した。2つに分けてそれぞれを密封容器に入れ、一方を室温にて保存し、他方を80℃湯浴中で8時間保管した。それぞれを開封し、蒸れ臭の生成度合いを比較した。
【0082】
その結果、比較対象品が80℃による保管後は、非加熱区と比べて、強い蒸れ臭を生成したのに対し、本実施例品によるものは、ほとんど蒸れ臭の生成を確認できなかった。
[実施例9:工程が組み合わされた例]
攪拌機付加圧加熱釜に水60重量部、酵母エキスパウダー1重量部(バーテックスIG20、富士食品製)、鰹荒亀節を5mm以下粒状に粉砕したもの30重量部を入れ、混合した。当該混濁液を攪拌しながら115℃10分の加熱処理を施し、60℃まで冷却した後、ふたを開けて100重量部のエタノール(食品グレード 95%)を添加し、攪拌混合しながら6時間抽出した。その後、バスケット型分離機で布による分離を行い、アルコール抽出液(A)約140重量部を得た。
【0083】
並行して、水60重量部、粉末醤油1重量部(粉末醤油N:日研フード)、鰹荒亀節を5mm以下粒状に粉砕したもの30重量部を混合した。当該混濁液を攪拌しながら90℃、60分の加熱処理を施し、60℃まで冷却した後、100重量部のエタノール(食品グレード 95%)を添加して攪拌混合しながら6時間抽出した。その後、バスケット型分離機で布による分離を行い、アルコール抽出液(B)約140重量部を得た。
【0084】
別に水60重量部、食塩1重量部、さば節を5mm以下粒状に粉砕したもの30重量部、100重量部のエタノール(食品グレード 95%)添加、攪拌混合しながら6時間抽出した。その後、バスケット型分離機で布による分離を行い、アルコール抽出液(C)約140重量部を得た。
【0085】
分離工程で回収されたすべての節等残渣を撹拌機付き加圧加熱釜に入れ、300重量部の水を加え、パパインを全量に対して1重量部加え、50℃、2時間の酵素分解処理を行った。次いで、鰹エキス20重量部を加え、そのまま攪拌しながら加圧加熱処理(120℃、20分)を行い、その後100℃以下へ冷却し、得られたものをバスケット型遠心分離機で布ろ過を行い、エキス部(D)約370重量部を得た。
【0086】
(D)に対し、酵母エキス(イーストエキス21TF 富士食品製)7重量部、蛋白自己消化物(FPペースト 富士食品製)7重量部を加えた後、ウルメ鰯節5mm以下粗砕物15重量部を加え、90℃、20分の加熱抽出を行い、再びバスケット型遠心分離機で布ろ過を行い、エキス部(E)約370重量部を得た。
【0087】
(A)、(B)、(C)及び(E)を混合し、さらに食塩75重量部、グルタミン酸ナトリウム60重量部、砂糖60重量部を添加し、混合溶解することで、目的とする最終製品を得た。
当該製品の2.5%水溶液を作成し、115℃30分加熱処理を施したが、蒸れ臭の生成はほとんど確認できなかった。
【0088】
[実施例10:めんつゆ製造例]
濃い口醤油5重量部、食塩0.3重量部、上白糖0.5重量部、本みりん0.5重量部、厚味昆布だし(富士食品)0.5重量部、酵母エキス(イーストエキス21TF)0.2重量部、水出し鰹だし(富士食品)1重量部、実施例9で得た製品0.5重量部、水91.5重量部を混合した。なお、比較サンプルとして、実施例9で得た製品0.5重量部を水0.5重量部に置き換えたサンプルも作成した。
【0089】
得られたつゆを密封容器に入れ、115℃、15分の加熱処理をした。比較サンプルは非常に強い蒸れ臭を発現したが、それに比較し、実施例9の製品を添加したものは、蒸れ臭がほとんど感じられない程度に低いレベルに維持されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記の混合物
・節類、
・節類10重量部に対し、0.01〜1000重量部の、醤油、みりん、味噌、魚醤油、酵母エキス及びタンパク質加水分解物から選択される一又は複数
・節類10重量部に対し、10〜1000重量部の、食品として許容される溶媒
を85℃〜150℃で抽出処理する工程、及び
(B)下記の混合物
・工程(A)から得られる抽出処理物、工程(A)から得られる抽出残渣、及び節類から選択される一又は複数
・混合適量の水
を加熱抽出処理する工程
を含み、
工程(A)により抽出された成分と工程(B)により抽出された成分とを含む調味料組成物の製造方法。
【請求項2】
工程(B)が、工程(A)から得られる抽出残渣、及び/又は節類に、混合適量の水及びタンパク質分解酵素を混合して酵素分解上有効な温度及び時間条件で処理し、次いで加熱抽出処理する工程である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(A)が、得られる抽出処理物に、節類10重量部に対して1〜1000重量部のエタノールを混合してエタノール抽出処理し、そしてエタノール抽出処理物から残渣を除いて抽出物を得る工程を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(A)が、得られる抽出処理物を気−液向流接触装置に供し、水蒸気蒸留物として抽出物得る工程を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(A)において、少なくとも酵母エキスが選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
酵母エキスが、イノシン酸及びグアニル酸を合計で乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを乾燥重量あたり1%以上含有するものである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
酵母エキスが、パン酵母から得られたものである、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(A)及び工程(B)を含み、得られた調味料組成物を添加する工程を含む、加工食品の製造方法。