説明

簡易ロープ異常検知装置

【課題】 ワイヤロープの疲労や摩耗により生じたワイヤロープ素線の断線などの異常を簡易に検知することができる簡易ロープ異常検知装置を提供する。
【解決手段】 ケース31と、このケース内に収納され、被検体ロープの円周に沿って配設された複数の磁気パルスセンサ33と、この磁気パルスセンサに隣接して配置され、かつ被検体ロープの長手に沿ってケースを両側から挟み込むように設けられ、被検体ロープに所定の磁束を印加する一対の磁極部34a,34bと、磁極部と被検体ロープとの間に所定の磁束密度の磁束が形成されるように、磁極を間に挟んで前記ケースおよび被検体ロープと対向するところに配置された鉄片36と、磁気パルスセンサの各々で検出されるパルス信号を受けてカウントし、それを表示する異常表示器5,5Aとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープの疲労や摩耗により生じたワイヤロープ素線の断線などの異常を簡易に検知する簡易ロープ異常検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤロープは、建築物や橋梁などの構造物に静索として用いられるほかにエレベータ、ゴンドラリフト、スキーリフト、建設機械、クレーンなどの動索としても広く用いられている。動索として用いられるワイヤロープが曲げ及び引張り疲労荷重や摩擦などを受けると、素線の断線や局部摩耗などの損傷を生じるため、安全衛生上の観点から定期的にロープに異常が有るか無いかを検査する必要がある。このような使用中ワイヤロープの異常の有無の検査は、人間の肉眼による目視検査が旧来行われていたが、素線の断線を確実に検出できないこと、および多大な時間と労力を要するから、特許文献1に記載されているような漏洩磁束を検出する電磁探傷法を利用したロープテスタが用いられている。
【特許文献1】実用新案登録第2556957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のロープテスタは次に列挙する種々の問題点を有している。
【0004】
1)ロープテスタの機材一式(本体及び付属部品)はケースを含めて総重量が約20kgにも達するので、これを現場に搬入してワイヤロープに取り付け、ロープを一定速度で移動させて検査し、検査後にロープから取り外して現場から搬出する作業に多くの労力と時間を要する。
【0005】
2)検査用のプローブは重いので、これを固定する作業も力仕事となる。
【0006】
3)ロープテスタの設定ミスなどにより測定の失敗を生じることがある。
【0007】
4)ロープテスタは高価な検査装置であるため、現場に常設することができず、必要が生じたときのみ現場へ持ち込み、その都度、測定する。
【0008】
このように従来のロープテスタを用いてワイヤロープを検査する場合に、作業者は重量物であるロープテスタを現場まで運搬し、プローブの設置や較正などの測定準備を行い、検査し、検査後はこれらの器具を取り外して現場から搬出する必要があり、その作業に多くのマンパワーとコストを要している。
【0009】
さらに、従来のロープテスタは、ロープ速度によってその検出感度が変わる速度依存性を有するため、検査中においてロープ速度が一定になるようにコントロールする必要がある。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、ワイヤロープの疲労や摩耗により生じたワイヤロープ素線の断線などの異常を簡易に検知することができる簡易ロープ異常検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る簡易ロープ異常検知装置は、ケースと、前記ケース内に収納され、被検体ロープの円周に沿って配設された複数の磁気パルスセンサと、前記磁気パルスセンサに隣接して配置され、かつ被検体ロープの長手に沿って前記ケースを両側から挟み込むように設けられ、被検体ロープに所定の磁束を印加する一対の磁極部と、前記磁極部と被検体ロープとの間に所定の磁束密度の磁束が形成されるように、前記磁極を間に挟んで前記ケースおよび被検体ロープと対向するところに配置された鉄片と、前記磁気パルスセンサの各々で検出されるパルス信号を受けてカウントし、それを表示する異常表示器と、を有することを特徴とする。
【0012】
異常表示器を磁気パルスセンサを収納するケースから離れたところに設置し、磁気パルスセンサと異常表示器とを信号配線によって接続することができる(図1、図4)。小サイズのセンサ部分のみを被検体ロープに近接して取り付け、異常表示器を検査員が見やすい場所に設置するので、定期点検作業が容易になる。
【0013】
また、異常表示器は磁気パルスセンサを収納するケースと一体化することができる(図5)。センサと異常表示器を一体化することで、可搬性が良好になり、取り扱いが容易になるので、現場での取り付けに要する時間が短縮される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、次の効果が得られる。
【0015】
1)ロープ異常の有無を検知する機能のみに絞り込むことで、必要最小限の部品構成として無電源化し、異常検知装置を常時設置することが可能になる。このため、準備時間が省略されるとともに、現場の省人化を実現することができる。
【0016】
2)装置が軽量化されるため、可搬性が改善され、設置が容易になる。
【0017】
3)機能が簡易であるため検査の失敗が無く、ノイズの多い環境であってもヒステリシス効果により安定して使用でき、故障が少なく、かつ、ロープ速度依存性が無くなり、手動でも容易にロープ異常部を検知することができる。
【0018】
4)ロープ異常を粗検知するため、精密なロープ検査の実施が必要な時期を知ることができる。
【0019】
5)検出されたパルスの積算値を見るだけでロープ異常の有無を瞬時に判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の簡易ロープ異常検知装置1は、被検体ロープ2の異常を検出するための検出部3と、この検出部3により検出されたロープ異常を表示するための異常表示器5とを備えている。検出部3は、図1〜図4に示すように、被検体ロープ2の円周に沿って配設された複数の磁気パルスセンサ33を備えている。磁気パルスセンサ33は、検出端33aとしてひねり加工したFe-Co-V系合金線からなる複合磁気ワイヤを有し、大バルクハウゼン効果を利用して無電源で動作する磁気センサである。
【0022】
これらの磁気パルスセンサ33は、図3に示す半割円筒状のケース31内においてセンサ保持部32により等ピッチ間隔に保持されている。磁気パルスセンサ33は、ケース31内においてできるだけ稠密に配置されることが望ましく、その数はケース31のスペースが許す限りにおいて多いほうがよい。検出精度が向上するからである。図4に示す例では6個の磁気パルスセンサ33をケース31内に設けている。
【0023】
また、図2の(a)に示す1列のセンサアレイを有する装置と比べて、図2の(b)に示す2列のセンサアレイ33A,33Bを有する装置のほうが検出精度は向上する。1列目のセンサアレイ33Aと2列目のセンサアレイ33Bとで検出端33aの位置をロープ円周方向にずらせてセンサ33を互い違いに千鳥配置することにより、1列目のセンサアレイ33Aによる検出漏れが2列目のセンサアレイ33Bにより補完される。このように1列目のセンサアレイ33Aの検出端33aが存在しない検査領域を2列目のセンサアレイ33Bの検出端33aでカバーすることにより、検出漏れのない高精度の異常検知が達成されるようになる。
【0024】
また、磁気パルスセンサ33の検出端33aは、図2の(a),(b)に示すように、ロープ長手軸に直交する向きに配置され、かつ図4に示すように、可能な限り被検体ロープ2の外周に対して大きい角度にならないような配置とすることが望ましい。センサ検出端33aがロープ長手軸に直交する向きになればなるほど、また、ロープ外周の接線方向に近い向きになればなるほど、さらに検出精度が向上するからである。
【0025】
磁気パルスセンサ33は、大バルクハウゼン効果を利用して無電源で動作する磁気センサである。ここで「大バルクハウゼン効果」とは、複合磁気ワイヤなどの磁性体において外部からの磁場がある一定の値を超えたときに極めて短時間に磁化方向が反転する現象をいう。この現象は、通常の磁性体では磁壁の移動が不連続であるため磁化が徐々に進行し、ある一定の磁化の大きさに達したときに磁壁が一挙に移動することに起因して発生する。
【0026】
磁気パルスセンサ33は、電源を必要とすることなくそれ自体が独立して動作するものであり、ロープに異常が存在すると、電圧が数ボルトから数十ボルトでパルス幅が数十マイクロ秒の出力パルスを生じる。磁気パルスセンサ33の複合磁気ワイヤ内ではほぼ一定値で正負磁界の反転が交互に起こるので、チャタリングのような現象が生じないというメリットがある。このため、1日に1回といった繰り返し間隔の長い外部磁界変化であっても確実に出力が得られる。また、複合磁気ワイヤは熱的に安定しており、コイル耐熱温度の範囲内であれば安定した出力が得られ、耐環境性に優れている。
【0027】
左右一対の磁極部34a,34bが被検体ロープ2の長手に沿ってケース31を両側から挟み込むように設けられている。磁極部34a,34bは、被検体ロープ2に所定の磁束を印加するためのものである。一対の磁極部34a,34bは、ケース31内の磁気パルスセンサ33にできるだけ隣接するように配置されることが好ましい。なお、磁極部34a,34bおよびセンサケース31には共通の部材としてのガイドシュー35が着脱可能に取り付けられ、ガイドシュー35を介して磁極部34a,34bおよびセンサ33がそれぞれ被検体ロープ2に対面している。
【0028】
鉄片36が、磁極部34a,34bと被検体ロープ2との間に所定の磁束密度の磁束が形成されるように、磁極部34a,34bを間に挟んでケース31および被検体ロープ2と対向するところに配置されている。鉄片36は、例えば変圧器の鉄心に用いられるような高透磁率の合金鋼からなる。鉄片36、磁極部34a,34bおよび被検体ロープ2の間にループ状に閉じた磁界が形成される。被検体ロープ2が正常な場合は磁界に変化がないが、ロープ2に異常が存在する場合は磁界のN極とS極が反転する。この磁界(磁化方向)の反転を磁気パルスセンサ33が瞬時に検出し、その出力パルスが後述する異常表示器5に送られる。
【0029】
次に異常表示器5について説明する。
【0030】
異常表示器(警告灯)5は、積算回路部51、電源52および表示部53を共通の保護ケースにパッケージ化したものである。積算回路部51は、演算回路やメモリ回路を有するプリント配線基板からなり、信号配線4および内部配線33bにより直列に接続された磁気パルスセンサ33のアレイに接続され、磁気パルスセンサ33の各々で検出されるパルス信号S1を受けてカウントし、カウントした数を積算し、その積算信号S2を表示部53に送るものである。なお、積算回路部51の耐環境性を向上させるために、積算回路部51の表面はポリイミド樹脂などの保護被膜で覆われている。
【0031】
表示部53は、積算回路部51から信号S2を受けて積算カウント数を表示するための液晶パネルを備えている。液晶パネルからなる表示部53の電源52として乾電池が一般に用いられる。
【0032】
なお、表示部53は液晶パネルのみに限られることなく、発光ダイオード(LED)パネルなどの他の表示装置を用いるようにしてもよい。さらに、積算カウント数が所定の閾値を超えたときに点灯する警告灯(例えば赤ランプ)を表示部53に取り付けるようにしてもよい。
【0033】
本実施形態の装置によれば、部品点数をロープ異常の有無を検知する機能のみに絞り込むことで、必要最小限の部品構成として無電源化し、現場に常時設置することが可能になる。また、装置が軽量化されるため、可搬性が改善され、設置作業が容易になる。
【0034】
また、本実施形態の装置によれば、機能が簡易であるため検査の失敗が無く、ノイズの多い環境であってもヒステリシス効果により安定して使用でき、故障が少なく、かつ、ロープ速度依存性が無くなり、手動でも容易にロープ異常部を検知することができるようになる。
【0035】
さらに、本実施形態の装置によれば、検査員は、被検体ロープから少し離れたところで異常表示器の表示を見ることができ、検出されたパルスの積算値を見るだけでロープ異常の有無を瞬時に判断することができる。また、検査員は、この装置を用いてロープ異常を粗検知できるので、精密なロープ検査の実施時期をほぼ正確に知ることができるようになる。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について図5を参照して説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0037】
第2の実施形態の簡易ロープ異常検知装置1Aでは、異常表示器5Aを検出部3と一体化している。すなわち装置1Aでは、図5に示すように、ホルダケース54を異常表示器5Aの下部に取り付けるとともに、さらに検出部3の全体がホルダケース54のなかに収容されている。このようなホルダケース54として、異常表示器5Aの下部に適合する形状を有する軽量のプラスチック製のケースを用いることが好ましい。
【0038】
本実施形態によれば、検出部3と異常表示器5Aを一体化することで、可搬性が良好になり、取り扱いが容易になるので、現場での取り付けに要する時間が短縮される。
【0039】
次に、図5を参照して本発明の異常検知装置をエレベータシステムに設置した例について説明する。
【0040】
エレベータシステム10は、昇降箱6とバランサ7とをワイヤロープ2により繋いだ状態で、シーブ8を回転駆動させることにより昇降箱6を上昇または下降させるようになっている。なお、図中の符号9は昇降箱6と干渉しないようにバランサ7を案内するガイドローラである。
【0041】
簡易ロープ異常検知装置1(又は1A)は、シーブ8の近傍で、かつ昇降箱6を支持する側のロープ2に近接して設置される。ロープ2は、シーブ8を通過する部分が繰り返し曲げられるため、疲労および摩耗による損傷を最も受けやすいからである。
【0042】
このように簡易ロープ異常検知装置1を常設することにより、エレベータシステム10の定期点検時において検査員は表示器5(又は5A)に表示された数値を見るだけで、ワイヤロープ2の異常の有無を容易かつ迅速に検知(粗検知)することができるようになり、精密なロープ検査の実施が必要になる時期をほぼ正確に知ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、エレベータ、ゴンドラリフト、スキーリフト、建設機械、クレーンなどの動索を検査するときに特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の簡易ロープ異常検知装置を模式的に示す概略平面図。
【図2】(a)は1列のセンサアレイをもつ簡易ロープ異常検知装置を示す平面図、(b)は2列のセンサアレイをもつ簡易ロープ異常検知装置を示す平面図。
【図3】本発明の簡易ロープ異常検知装置の検出部を示す斜視図。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る簡易ロープ異常検知装置を示す構成ブロック図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る簡易ロープ異常検知装置を示す構成ブロック図。
【図6】本発明の簡易ロープ異常検知装置が設置されたエレベータシステムを示す概略構成図。
【符号の説明】
【0045】
1,1A…簡易ロープ異常検知装置、
2…ワイヤロープ、
3…検出部、
31…ケース、32…センサ保持部、
33…磁気パルスセンサ、33a…検出端、33b…内部配線、
34a,34b…磁極部、
35…ガイドシュー、36…鉄片、
4…信号配線、
5,5A…異常表示器(警告灯)、
51…積算回路部、52…電源(電池)、
53…表示部(液晶パネル)、54…ホルダケース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケース内に収納され、被検体ロープの円周に沿って配設された複数の磁気パルスセンサと、
前記磁気パルスセンサに隣接して配置され、かつ被検体ロープの長手に沿って前記ケースを両側から挟み込むように設けられ、被検体ロープに所定の磁束を印加する一対の磁極部と、
前記磁極部と被検体ロープとの間に所定の磁束密度の磁束が形成されるように、前記磁極を間に挟んで前記ケースおよび被検体ロープと対向するところに配置された鉄片と、
前記磁気パルスセンサの各々で検出されるパルス信号を受けてカウントし、それを表示する異常表示器と、
を有することを特徴とする簡易ロープ異常検知装置。
【請求項2】
前記異常表示器は前記磁気パルスセンサを収納する前記ケースから離れたところに設置され、前記磁気パルスセンサと前記異常表示器とが信号配線によって接続されていることを特徴とする請求項1記載の簡易ロープ異常検知装置。
【請求項3】
前記異常表示器は前記磁気パルスセンサを収納する前記ケースと一体化されていることを特徴とする請求項1記載の簡易ロープ異常検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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