説明

簡易疾患診断およびテーラーメイド治療

本発明は、被検体または病因の薬剤耐性レベルを診断する方法であって、(a)該被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する工程;および(b)分析された該糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける工程、を包含する、方法、ならびに被検体または病因の薬剤耐性レベルを診断するシステムであって、(a)該被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する手段;および(b)分析された該糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける手段、を包含する、システムが提供される。本発明により、被検体または病因の薬剤耐性を簡便に診断し、それに応じたテーラーメイド治療が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖分析を用いたテーラーメイド治療に関する。より詳細には、糖鎖分析を用いた薬剤耐性レベルに基づくテーラーメイド治療に関する。以下に発明の詳細な説明を記載する。
【背景技術】
【0002】
テーラーメイド治療(またはオーダーメイド治療)という言葉が近年よく聞かれるようになった。テーラーメイド治療とは、患者(または病因)の特性に合わせて治療法を選択する方法をいう。
【0003】
ゲノム解析が完了した現在、このゲノム解析に基づいて個人ごとの配列の多様性が分析されている。そのような中、SNPsと呼ばれる個人ごとに異なる配列の相違が注目されている。SNPsは、少なくとも1塩基異なる塩基配列のことをいう。
【0004】
SNPsを用いた診断およびテーラーメイド治療は、有用であるとの報告がある反面、必ずしもすべての症例に有効ではないということも報告されている。従って、SNPsを利用したテーラーメイド治療にはおのずから限界があることが指摘されており、この限界を克服するための解決手段が待ち望まれている。
【0005】
また、疾患治療において薬剤耐性は、深刻な問題である。薬剤耐性は、薬剤の標的の状態が何らかの変化を起こすことによって生じる現象であるが、その詳細なメカニズムは不明なままである。そのような薬剤耐性を細胞から得られる別の情報として取り出して診断およびテーラーメイド治療するための方法もまた待ち望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記状況にかんがみ、本発明は、被検体または病因の薬剤耐性を簡便に診断し、それに応じたテーラーメイド治療を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、被検体または病因に由来する糖タンパク質中の糖鎖分析と薬剤耐性とが本発明者らによって予想外に相関付けられたことによって解決された。
【0008】
従って、本発明は、以下を提供する。
(1)以下の工程:
(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖の存在比を分析する工程;および
(b)分析された該糖鎖存在比と、薬剤感受性由来の試料に含まれる糖鎖存在比および/または薬剤耐性由来の試料に含まれる糖鎖存在比とを比較する工程
を包含する、被検体または病因の薬剤耐性レベルを判定する方法。
(2)上記薬剤耐性レベルは、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤に対する耐性レベルを包含する、項1に記載の方法。
(3)M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される少なくとも1つの糖鎖の存在比を分析する工程を含み、シスプラチンに対する薬剤耐性レベルを判定する、項1に記載の方法。
(4)以下の工程:
(a)薬剤感受性株と被験物質を接触させる工程;
(b)上記工程(a)で得られた試料に含まれる糖鎖の存在比を分析する工程;および
(c)分析された該糖鎖存在比と、薬剤感受性由来の試料に含まれる糖鎖存在比および/または薬剤耐性由来の試料に含まれる糖鎖存在比とを比較する工程
を包含する、薬剤耐性治療剤のアッセイ方法。
(5)M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される少なくとも1つの糖鎖の存在比を分析する工程を含み、シスプラチンに対する薬剤耐性レベルを判定する、項4に記載の方法。
(6)以下の手段:
(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖の存在比を分析する手段;および
(b)分析された該糖鎖存在比と、薬剤感受性由来の試料に含まれる糖鎖存在比および/または薬剤耐性由来の試料に含まれる糖鎖存在比とを比較する手段
を包含する、被検体または病因の薬剤耐性レベルを判定するシステム。
(7)上記薬剤耐性レベルは、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤に対する耐性レベルを包含する、項6に記載のシステム。
(8)M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される少なくとも1つの糖鎖の存在比を分析する手段を含み、シスプラチンに対する薬剤耐性レベルを判定する、項1に記載のシステム。
(9)以下の手段:
(a)薬剤感受性株と被験物質を接触させる手段;
(b)上記工程(a)で得られた試料に含まれる糖鎖の存在比を分析する手段;および
(c)分析された該糖鎖存在比と、薬剤感受性由来の試料に含まれる糖鎖存在比および/または薬剤耐性由来の試料に含まれる糖鎖存在比とを比較する手段
を包含する、薬剤耐性治療剤のアッセイシステム。
(10)M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される少なくとも1つの糖鎖の存在比を分析する手段を含み、シスプラチンに対する薬剤耐性レベルを判定する、項9に記載のシステム。
【0009】
(11)被検体または病因の薬剤耐性レベルを診断する方法であって、
(a)上記被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する工程;および
(b)分析された上記糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける工程、
を包含する、方法。
【0010】
(12)上記糖鎖構造は、複数の糖鎖構造のセットを含む、項目11に記載の方法。
【0011】
(13)上記薬剤は、抗がん剤を含む、項目11に記載の方法。
【0012】
(14)上記薬剤耐性レベルは、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤に対する耐性レベルを包含する、項目11に記載の方法。
【0013】
(15)上記糖鎖構造は、M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される糖鎖を少なくとも含み、上記薬剤耐性は、シスプラチンに対する耐性を含む、項目11に記載の方法。
【0014】
(16)上記被検体は、ヒトである、項目11に記載の方法。
【0015】
(17)上記糖鎖構造の分析は、複数の糖鎖構造の量的変化の情報の分析を含み、上記相関付けは、薬剤に対する感受性および薬剤に対する耐性と上記複数の糖鎖構造の量的変化の情報との相関付けを含む、項目11に記載の方法。
【0016】
(18)上記糖鎖分析の対象は、上記試料中の糖タンパク質アスパラギン結合型糖鎖を含む、項目11に記載の方法。
【0017】
(19)上記糖鎖構造の分析は、クロマトグラフィーによる分析を含む、項目11に記載の方法。
【0018】
(20)上記糖鎖構造の分析は、質量分析を含む、項目11に記載の方法。
【0019】
(21)被検体または病因の薬剤耐性レベルに応じて上記被検体を処置または予防する方法であって、
(a)上記被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する工程;
(b)分析された上記糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける工程;および
(c)上記薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を上記被検体に施す工程、
を包含する、方法。
【0020】
(22)上記糖鎖構造は、複数の糖鎖構造のセットを含む、項目21に記載の方法。
【0021】
(23)上記薬剤は、抗がん剤を含む、項目21に記載の方法。
【0022】
(24)上記糖鎖構造がシスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤に対して感受性の状態を示す場合、上記処置または予防は、上記薬剤を上記被検体に投与する工程を包含する、項目21に記載の方法。
【0023】
(25)上記糖鎖構造は、M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される糖鎖を少なくとも含み、上記薬剤耐性レベルは、シスプラチンに対する耐性レベルを含む、項目21に記載の方法。
【0024】
(26)上記被検体は、ヒトである、項目21に記載の方法。
【0025】
(27)上記糖鎖構造の分析は、複数の糖鎖構造の量的変化の情報の分析を含み、上記相関付けは、薬剤に対する感受性および薬剤に対する耐性と上記複数の糖鎖構造の量的変化の情報との相関付けを含む、項目21に記載の方法。
【0026】
(28)上記糖鎖分析の対象は、上記試料中の糖タンパク質アスパラギン結合型糖鎖を含む、項目21に記載の方法。
【0027】
(29)上記糖鎖構造の分析は、クロマトグラフィーによる分析を含む、項目21に記載の方法。
【0028】
(30)上記糖鎖構造の分析は、質量分析を含む、項目21に記載の方法。
【0029】
(31)被検体または病因の薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を提示する方法であって、
(a)上記被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する工程;
(b)分析された上記糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける工程;および
(c)上記薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を選択する工程、
を包含する、方法。
【0030】
(32)上記糖鎖構造は、複数の糖鎖構造のセットを含む、項目31に記載の方法。
【0031】
(33)上記薬剤は、抗がん剤を含む、項目31に記載の方法。
【0032】
(34)上記糖鎖構造がシスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤に対して感受性である状態を示す場合、上記薬剤耐性レベルに応じた処置または予防は、上記薬剤を上記被検体に投与する工程を包含する、項目31に記載の方法。
【0033】
(35)上記糖鎖構造は、M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される糖鎖を少なくとも含み、上記薬剤耐性レベルは、シスプラチンに対する耐性レベルを含む、項目31に記載の方法。
【0034】
(36)上記被検体は、ヒトである、項目31に記載の方法。
【0035】
(37)上記糖鎖構造の分析は、複数の糖鎖構造の量的変化の情報の分析を含み、上記相関付けは、薬剤に対する感受性および薬剤に対する耐性と上記複数の糖鎖構造の量的変化の情報との相関付けを含む、項目31に記載の方法。
【0036】
(38)上記糖鎖分析の対象は、上記試料中の糖タンパク質アスパラギン結合型糖鎖を含む、項目31に記載の方法。
【0037】
(39)上記糖鎖構造の分析は、クロマトグラフィーによる分析を含む、項目31に記載の方法。
【0038】
(40)上記糖鎖構造の分析は、質量分析を含む、項目31に記載の方法。
【0039】
(41)被検体または病因の薬剤耐性レベルを診断するシステムであって、
(a)上記被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する手段;および
(b)分析された上記糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける手段、
を包含する、システム。
【0040】
(42)上記糖鎖構造は、複数の糖鎖構造のセットを含む、項目41に記載のシステム。
【0041】
(43)上記薬剤は、抗がん剤を含む、項目41に記載のシステム。
【0042】
(44)上記薬剤耐性レベルは、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤に対する耐性レベルを包含する、項目41に記載のシステム。
【0043】
(45)上記糖鎖構造は、M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される糖鎖を少なくとも含み、上記薬剤耐性レベルは、シスプラチンに対する耐性レベルを含む、項目41に記載のシステム。
【0044】
(46)上記被検体は、ヒトである、項目41に記載のシステム。
【0045】
(47)上記糖鎖構造の分析は、複数の糖鎖構造の量的変化の情報の分析を含み、上記相関付けは、薬剤に対する感受性および薬剤に対する耐性と上記複数の糖鎖構造の量的変化の情報との相関付けを含む、項目41に記載のシステム。
【0046】
(48)上記糖鎖分析の対象は、上記試料中の糖タンパク質アスパラギン結合型糖鎖を含む、項目41に記載のシステム。
【0047】
(49)上記糖鎖構造の分析は、クロマトグラフィーによる分析を含む、項目41に記載のシステム。
【0048】
(50)上記糖鎖構造の分析は、質量分析を含む、項目41に記載のシステム。
【0049】
(51)被検体または病因の薬剤耐性レベルに応じて上記被検体を処置または予防するシステムであって、
(a)上記被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する手段;
(b)分析された上記糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける手段;および
(c)上記薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を上記被検体に施す手段、
を包含する、システム。
【0050】
(52)上記糖鎖構造は、複数の糖鎖構造のセットを含む、項目51に記載のシステム。
【0051】
(53)上記薬剤は、抗がん剤を含む、項目51に記載のシステム。
【0052】
(54)上記処置または予防は、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤の投与を包含する、項目51に記載のシステム。
【0053】
(55)上記糖鎖構造は、M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される糖鎖を少なくとも含み、上記薬剤耐性レベルは、シスプラチンに対する耐性レベルを含む、項目51に記載のシステム。
【0054】
(56)上記被検体は、ヒトである、項目51に記載のシステム。
【0055】
(57)上記糖鎖構造の分析は、複数の糖鎖構造の量的変化の情報の分析を含み、上記相関付けは、薬剤に対する感受性および薬剤に対する耐性と上記複数の糖鎖構造の量的変化の情報との相関付けを含む、項目51に記載のシステム。
【0056】
(58)上記糖鎖分析の対象は、上記試料中の糖タンパク質アスパラギン結合型糖鎖を含む、項目51に記載のシステム。
【0057】
(59)上記糖鎖構造の分析は、クロマトグラフィーによる分析を含む、項目51に記載のシステム。
【0058】
(60)上記糖鎖構造の分析は、質量分析を含む、項目51に記載のシステム。
【0059】
(61)被検体または病因の薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を提示するシステムであって、
(a)上記被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する手段;
(b)分析された上記糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける手段;および
(c)上記薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を選択する手段、
を包含する、システム。
【0060】
(62)上記糖鎖構造は、複数の糖鎖構造のセットを含む、項目61に記載のシステム。
【0061】
(63)上記薬剤は、抗がん剤を含む、項目61に記載のシステム。
【0062】
(64)上記薬剤耐性レベルに応じた処置または予防は、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤の投与を包含する、項目61に記載のシステム。
【0063】
(65)上記糖鎖構造は、M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される糖鎖を少なくとも含み、上記薬剤耐性レベルは、シスプラチンに対する耐性レベルを含む、項目61に記載のシステム。
【0064】
(66)上記被検体は、ヒトである、項目61に記載のシステム。
【0065】
(67)上記糖鎖構造の分析は、複数の糖鎖構造の量的変化の情報の分析を含み、上記相関付けは、薬剤に対する感受性および薬剤に対する耐性と上記複数の糖鎖構造の量的変化の情報との相関付けを含む、項目61に記載のシステム。
【0066】
(68)上記糖鎖分析の対象は、上記試料中の糖タンパク質アスパラギン結合型糖鎖を含む、項目61に記載のシステム。
【0067】
(69)上記糖鎖構造の分析は、クロマトグラフィーによる分析を含む、項目61に記載のシステム。
【0068】
(70)上記糖鎖構造の分析は、質量分析を含む、項目61に記載のシステム。
【発明の効果】
【0069】
本発明は、糖鎖構造を解析することによって、予想外に薬剤耐性を詳細に分析することが可能となり、診断およびテーラーメイド治療が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1における感受性細胞(KB3−1およびKCP−4R)の糖鎖構造をODSカラムで分析したときのパターン。
【図2】実施例1における耐性細胞(KCP−4およびCDDP)の糖鎖構造をODSカラムで分析したときのパターン。
【図3】実施例1における糖鎖ピークのデータ例。
【図4】実施例1における結果のまとめの例。
【図5】本発明をコンピュータで実施した場合の例示図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0071】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0072】
(用語)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0073】
本明細書において「糖鎖」とは、単位糖(単糖および/またはその誘導体)が1つ以上連なってできた化合物をいう。単位糖が2つ以上連なる場合は、各々の単位糖同士の間は、通常、グリコシド結合による脱水縮合によって結合する。このような糖鎖としては、例えば、生体中に含有される多糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸ならびにそれらの複合体および誘導体)の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。したがって、本明細書では、糖鎖は、「多糖(ポリサッカリド)」、「糖質」、「炭水化物」と互換可能に使用され得る。
【0074】
本明細書において「単糖」とは、これより簡単な分子に加水分解されず、少なくとも1つの水酸基および少なくとも1つのアルデヒド基またはケトン基を含む、ポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンならびにその誘導体をいう。通常単糖は、一般式C2nで表されるがそれらに限定されず、フコース(デオキシヘキソース)、N−アセチルグルコサミンなども含まれる。ここで、上の式において、n=2、3、4、5、6、7、8、9および10であるものを、それぞれジオース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、オクトース、ノノースおよびデコースという。一般に鎖式多価アルコールのアルデヒドまたはケトンに相当するもので、前者をアルドース,後者をケトースという。本明細書において特に言及するときは、単糖の誘導体は、置換されていない単糖上の一つ以上の水酸基が別の置換基に置換され、結果生じる物質をいう。そのような単糖の誘導体としては、カルボキシル基を有する糖(例えば、C−1位が酸化されてカルボン酸となったアルドン酸(例えば、D−グルコースが酸化されたD−グルコン酸)、末端のC原子がカルボン酸となったウロン酸(D−グルコースが酸化されたD−グルクロン酸)、アミノ基またはアミノ基の誘導体(例えば、アセチル化されたアミノ基)を有する糖(例えば、N−アセチル−D−グルコサミン、N−アセチル−D−ガラクトサミンなど)、アミノ基およびカルボキシル基を両方とも有する糖(例えば、N−アセチルノイラミン酸(シアル酸)、N−アセチルムラミン酸など)、デオキシ化された糖(例えば、2−デオキシ−D−リボース)、硫酸基を含む硫酸化糖、リン酸基を含むリン酸化糖などがあるがそれらに限定されない。本明細書では、単糖という場合は、上記誘導体も包含する。あるいは、ヘミアセタール構造を形成した糖において、アルコールと反応してアセタール構造のグリコシドもまた、単糖の範囲内にある。
【0075】
本明細書において「糖鎖含有物質」とは、糖鎖および糖鎖以外の物質を含む物質をいう。このような糖鎖含有物質は、生体内に多く見出され、例えば、生体中に含有される多糖類の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子、およびそれら複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。
【0076】
本明細書において「糖タンパク質」とは、少なくとも1種の糖鎖を含む、好ましくはそのような糖鎖が結合したタンパク質をいう。通常、糖タンパク質は、高等生物において機能を発揮するために必要な糖鎖を有している。そのような糖タンパク質しては、例えば、N結合型糖鎖、O結合型糖鎖、C結合型糖鎖を単独で、あるいはそれらの複数種類を有する糖タンパク質が挙げられるがそれらに限定されない。そのような糖タンパク質は、酵素、ホルモン、サイトカイン、増殖因子、抗体、ワクチン、レセプター、血清タンパク質などを包含するが、それらに限定されない。
【0077】
本明細書において「糖鎖構造」とは、糖鎖の配列状態およびその情報をいう。特に言及しない限りは、本明細書において糖鎖と糖鎖構造とは、互換可能に用いられ得る。細胞、組織、臓器および生体などに重要な影響を与える糖鎖構造としては、例えば、アスパラギン結合型糖鎖、ムチンおよびムチン結合型糖鎖、糖脂質、糖ヌクレオチド、プロテオグリカン、GPIアンカーなどに含まれる糖鎖ならびにそれらの前駆体の構造が挙げられるがそれらに限定されない。本発明では、そのような糖鎖構造の変化を分析することも重要であり得る。
【0078】
本明細書においてアスパラギン結合型糖鎖構造の表示は、高橋らの命名法(http://www.gak.co.jp;高橋禮子編著、生化学実験法23、糖蛋白質糖鎖研究法、学会出版センター、1989年;Takahashi N,Tomiya N:Analysis of N−linked oligosaccharides:Application of glycoamidase A:in Handbook of endoglycosidases and glycoamidases(Takahashi N,Muramatsu T eds.).pp.209−241,CRC Press,Boca Raton,FL,1992に準ずる。これは、1)N−アセチルラクトサミン型(コンプレックス型)糖鎖の場合には、(1)分岐の数を3桁の数字の最初の数で示す。(2)還元末端のN−アセチルグルコサミンにα1,6結合にてフコースが結合しているときは1を、結合していないときには0を3桁の数字の真ん中に入れる。(3)コア構造5糖のβマンノースにN−アセチルグルコサミンがβ1,4で結合しているときは1を、結合していないときには0を3桁の数字の最後に入れる。3桁の数字の後に.を置きその右側には固有番号をつける。2)高マンノース型(ハイマンノース型)糖鎖は最初にMを、次にマンノース残基の数を入れる。その後に.を置きその右側には固有記号をつける。還元末端のN−アセチルグルコサミンにα1,6結合にてフコースが結合しているときはMの後にFを入れる。3)混成型(ハイブリッド型)糖鎖は最初にHを、次にマンノース残基数を入れる。その後に.を置きその右側には固有記号をつける。還元末端のN−アセチルグルコサミンにα1,6結合にてフコースが結合しているときはHの後にFを入れる。4)還元末端のN−アセチルグルコサミンにα1,3結合にてフコースが結合しているときはFを、コア構造5糖のβマンノースにキシロースがβ1,2で結合しているときはXを全体の後に入れる。その両方を有するときにはFXの順に入れる。5)N−アセチルガラクトサミンをガラクトースの代わりに有する場合は、ガラクトースとして記号をつけた後に、N−アセチルがラクトサミンの数が1ならa、2ならb、3ならc・・・と数に対応した小文字アルファベットを最後につける。6)コア構造5糖のようにN−アセチルラクトサミン型と高マンノース型若しくは混合型の何れにも分類できる場合はN−アセチルラクトサミン型の命名を優先する。7)シアル酸を有する場合には、シアル酸の残基数を書き、次にシアル酸の分子種がN−アセチルノイラミンサンの場合にはAを、さらに固有番号のセットを、上記糖鎖構造の前につけて−で結ぶ。そのような表示方法の例としては、ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,3−(マンノースα1,3−(マンノースα1,6−)マンノースα1,6−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−N−アセチルグルコサミンをH5.12、ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,3−(マンノースα1,6−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−N−アセチルグルコサミンを100.4、ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,3−(マンノースα1,3−(マンノースα1,6−)マンノースα1,6−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−(フコースα1,6−)N−アセチルグルコサミンをHF5.12、N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,3−(N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,6−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−(フコースα1,6−)N−アセチルグルコサミンを210.1およびガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−(ガラクトースβ1,3−N−アセチルグルコサミンβ1,4−)マンノースα1,3−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,6−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−N−アセチルグルコサミンを300.22が挙げられるがそれに限定されない。
【0079】
本明細書において「糖鎖構造のセット」とは、例えば、複数種の糖鎖を有する物質または組成物における、一組の糖鎖構造をいう。そのような糖鎖構造のセットは、例えば、同一種類の糖タンパク質上の同位置のアミノ酸に結合している糖鎖の多様性であってもよいし、複数の糖タンパク質における別々の糖鎖構造であってもよい。本発明では、そのような糖鎖構造のセットのレベルの変化を分析することも重要であり得る。
【0080】
本明細書において「糖鎖の存在比(糖鎖存在比)」とは、試料中に存在する糖鎖全体、好ましくはN型糖鎖全体、さらに好ましくは特定のN型糖鎖全体に対して、ある1つの糖鎖が存在する割合、好ましくはモル比をいう。ここで、特定のN型糖鎖全体とは、例えばシスプラチンに対する薬剤耐性レベルの判定等においては、M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群を含む。
【0081】
本明細書において、糖鎖の「存在比を比較する工程」とは、ある被検体における糖鎖全体において測定対象となる糖鎖が存在比と、別の被検体における糖鎖全体において測定対象となる糖鎖の存在比とを比較することをいう。ここで、存在比を比較する工程は、ある1つの糖鎖の存在比を比較する工程および複数の糖鎖の存在比を比較する工程を包含する。このような存在比の比較は、当該分野において周知の技術を用いて実施することができる。
【0082】
本明細書において糖鎖構造の「量的変化の情報」とは、複数の糖鎖(または糖鎖構造のセット)が有する存在量または発現量の変化に関する情報をいう。このような糖鎖構造の量的変化の情報は、その糖鎖自体の存否に関する情報として表示することもできるし、その糖鎖が含まれる分子(例えば、糖タンパク質)全体を情報として表示することもできる。量的変化の情報はまた、注目すべき糖鎖の割合の比として表現することができるがそれに限定されない。そのような量的変化の情報を構成するおのおのの糖鎖または糖鎖を含む分子の量(またはレベル)を示す単位としては、例えば、ng、μmol、質量分析における信号強度、分光分析における信号強度、またはmg/試料g、mmol/試料g、あるいは相対蛍光強度などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明では、そのような糖鎖構造の量的変化量の変化を分析(区間微分などによる)することも重要であり得る。
【0083】
本明細書において「相互作用」とは、2つの物体について言及するとき、その2つの物体が相互に力を及ぼしあうことをいう。そのような相互作用としては、例えば、共有結合、水素結合、ファンデルワールス力、イオン性相互作用、非イオン性相互作用、疎水性相互作用、静電的相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。ある実施形態では、相互作用は、共有結合であることが好ましいが、その他の相互作用もまた、糖鎖において重要であり得る。本明細書において「共有結合」とは、当該分野における通常の意味で用いられ、電子対が2つの原子に共有されて形成する化学結合をいう。
【0084】
本明細書において相互作用、発現、存在などの「レベル」とは、その相互作用、発現、存在などの量または強さを示す程度をいい、糖鎖に関する情報を判断するために使用され得る。そのようなレベルは、例えば、物理学的解析(例えば、質量分析、NMR、X線解析、分光学的解析(例えば、抗体、レクチンによる凝集反応および発色反応などを分析する)、化学的解析(例えば、オキシム結合などの特異的結合を化学的に定量する方法など)、生物学的解析(例えば、ある糖鎖に特異的な細胞の反応性を定量する方法など)が挙げられるがそれらに限定されない。
【0085】
(薬剤および薬剤耐性)
本明細書において「薬剤」とは、ある状態、障害または疾患(または病害)を処置、予防または予後のために使用するために用いられる物質をいう。本明細書では、薬剤は、医薬、農薬などと互換的に使用され得る。従って薬剤は、医薬であってもよく、農薬であっても、またそれらの候補物質であってもよい。薬剤が標的とする対象としては、例えば、被検体自体の細胞、組織または臓器(器官)、あるいは病因(例えば、がん細胞、細菌、真菌、ウイルス、真核生物など)が挙げられるがそれらに限定されない。ここで、がん細胞は被検体自体の細胞の範疇にも入り、病因の範疇にも入るが、本発明の解釈においてはそのような重複は影響を与えないことが当業者に理解されるべきである。そのような薬剤のうち動物(好ましくは、ヒトを含む霊長類のような哺乳動物)としては、例えば、以下のような薬剤が挙げられるがそれらに限定されない:
中枢神経系用薬(例えば、全身麻酔剤、催眠鎮静剤、抗不安剤、抗癲癇剤、解熱鎮痛消炎剤、興奮剤、覚醒剤、抗パーキンソン剤、精神神経用剤、総合感冒剤、その他の中枢神経系用薬など);
末梢神経用剤(例えば、局所麻酔剤、骨格筋弛緩剤、自律神経剤、鎮けい剤など);
感覚器官用薬(例えば、眼科用剤、耳鼻科用剤、鎮暈剤など);
循環器官用薬(例えば、強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、血管拡張剤、高脂血症用剤、その他の循環器官用薬など);
呼吸器官用薬(例えば、呼吸促進剤、鎮咳剤、去痰剤、鎮咳去痰剤、気管支拡張剤、含嗽剤など);
消化器官用薬(例えば、止瀉剤、整腸剤、消化性潰瘍用剤、健胃消化剤、制酸剤、下剤、浣腸剤、利胆剤、その他の消化器官用薬など);
ホルモン剤(例えば、脳下垂体ホルモン剤、唾液腺ホルモン剤、甲状腺、副甲状腺ホルモン剤、蛋白同化ステロイド剤、副腎ホルモン剤、男性ホルモン剤、卵胞、黄体ホルモン剤、混合ホルモン剤、その他のホルモン剤など);
泌尿生殖器官および肛門用薬(例えば、泌尿器官用剤、生殖器官用剤、子宮収縮剤、痔疾用剤、他の泌尿生殖器管、肛門用薬など);
外皮用薬(例えば、外皮用殺菌消毒剤、創傷保護剤、化膿性疾患用剤、鎮痛、鎮痒、収斂、消炎剤、寄生性皮膚疾患用剤、皮膚軟化剤、毛髪用剤、その他の外皮用剤など);
歯科口腔用剤;
その他の個々の器官系用薬;
ビタミン剤(例えば、ビタミンA剤、ビタミンD剤、ビタミンB剤、ビタミンC剤、ビタミンE剤、ビタミンK剤、混合ビタミン剤、その他のビタミン剤など);
滋養強壮薬(例えば、カルシウム剤、無機質製剤、糖類剤、蛋白アミノ酸製剤、臓器製剤、乳幼児用剤、その他の滋養強壮剤など);
血液および体液用薬(例えば、血液代用剤、止血剤、血液凝固阻止剤、その他の血液、体液用剤など);
人工透析用薬(例えば、人工腎臓透析用剤、腹膜透析用剤など);
その他の代謝性医薬品(例えば、臓疾患用剤、解毒剤、習慣性中毒用剤、痛風治療剤、酵素製剤、糖尿病用剤、他に分類されない代謝性薬など);
細胞賦活用剤(例えば、クロロフィル製剤、色素製剤、その他の細胞賦活用剤など);
腫瘍用薬(例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍性抗生物質製剤、抗腫瘍性植物成分製剤、その他の腫瘍用剤など);
放射性医薬品;
アレルギー用薬(例えば、抗ヒスタミン剤、刺激療法剤、非特異性免疫原製剤、その他のアレルギー用薬、生薬および漢方処方に基づく医薬品、生薬、漢方製剤、その他の生薬漢方処方に基づく製剤など);
抗生物質製剤(例えば、グラム陽性菌に作用する、グラム陰性菌に作用する、グラム陽、陰性菌に作用、グラム陽性菌マイコプラズマ作用、グラム陽性陰性、リケッチアに作用、抗酸菌に作用するもの、真菌(カビ)に作用するもの、その他の抗生物質製剤など);
化学療法剤(例えば、サルファ剤、抗結核剤、合成抗菌剤、抗ウィルス剤、その他の化学療法剤など);
生物学的製剤(例えば、ワクチン類、毒素、トキソイド類、抗毒素、抗レプトスピラ血清、血液製剤類、生物学的試験用製剤類、その他の生物学的製剤、抗原虫剤、駆虫剤など);
調剤用薬(例えば、賦形剤、軟膏基剤、溶解剤、矯味、矯臭、着色剤、その他の調剤用剤など);
診断用薬(例えば、X腺造影剤、機能検査用試薬、その他の診断用薬);
公衆衛生用薬(例えば、防腐剤);
体外診断用医薬品(例えば、細菌学的検査用薬など);
分類されない治療を主目的としない薬剤;ならびに
麻薬(例えば、あへんアルカロイド系麻薬、コカアルカロイド系製剤、合成麻薬など)。
【0086】
本明細書において「薬剤の感受性」または「薬剤に対する感受性」とは、上述のような薬剤が、その薬剤が標的とする対象に対してその薬剤の効果を発揮することができる状態またはそのような性質をいう。通常、ある対象が薬剤に対して感受性を有する場合、そのような対象は薬剤によって殺傷されるかあるいは特定の機能が抑制されるがそれらに限定されず、そのような効果は薬剤によって変動する。
【0087】
本明細書において「薬剤の耐性(あるいは抵抗性)」または「薬剤に対する耐性(あるいは抵抗性)」とは、上述のような薬剤が、その薬剤が標的とする対象に対してその薬剤の効果を発揮することができる状態にないか、またはそのような性質を有しないことをいう。好ましくは、「薬剤の耐性」または「薬剤に対する耐性」は、そのような薬剤の効果を発揮することができない状態またはそのような性質をいう。通常、ある対象が薬剤に対して耐性を有する場合、そのような対象は薬剤によって殺傷されず、あるいは抑制されない状態が持続することが効果として挙げられるがそれらに限定されず、そのような耐性が意味する効果は薬剤によって変動する。
【0088】
本明細書において薬剤の「有効量」とは、その薬剤が目的とする薬効が発揮することができる量をいう。本明細書において、そのような有効量のうち、最小の濃度を最小有効量ということがある。そのような最小有効量は、当該分野において周知であり、通常、薬剤の最小有効量は当業者によって決定されているか、または当業者は適宜決定することができる。そのような有効量の決定には、実際の投与のほか、動物モデルなどを用いることも可能である。
【0089】
本明細書において上述の薬剤に対する「耐性」と「感受性」とを分ける一般的な基準としては、例えば、その薬剤の最小有効量を基準として判断することができ、例えば、その薬剤において通常、約5〜20μMなど、または約8〜15μMなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0090】
本明細書において「薬剤耐性レベル」とは、ある薬剤の耐性または感受性の程度(またはレベル)をいう。そのような薬剤耐性レベルは、定性的に表現することもできるが、より詳細には定量的に表現することができる。ここで、薬剤耐性レベルは、定性的に表現する場合、薬剤感受性である、薬剤感受性から薬剤耐性への変化段階である、薬剤耐性である、薬剤耐性から薬剤感受性への変化段階である、などの薬剤耐性レベルを包含する。定量的な表現としては、例えば、耐性を示す最高レベルの薬剤濃度(例えば、重量%、モル濃度など)あるいは感受性を示す最低レベルの薬剤濃度(例えば、重量%、モル濃度など)が挙げられるがそれに限定されない。従って、薬剤耐性レベルというときは、その標的が薬剤に対して耐性を有するというのではなく、その程度をいうことが理解されるべきである。このように、薬剤耐性レベルは、極端な例において、無限大の数値(耐性を示さない)をとることもあり得る。そういう意味において、本明細書では、薬剤耐性レベルは、「薬剤感受性レベル」と全く同義で使用され得る。
【0091】
本明細書において「薬剤感受性株」とは、細菌などの微生物(特に病原体)について言及するとき、ある薬剤に対して感受性となっている株をいう。通常、そのような感受性は、薬効が期待される濃度において感受性であるかどうかをアッセイすることによって判定することができる。
【0092】
本明細書において「薬剤耐性株」とは、細菌などの微生物(特に病原体)について言及するとき、ある薬剤に対して耐性となっている株をいう。通常、そのような耐性は、薬効が期待される濃度において耐性であるかどうかをアッセイすることによって判定することができる。
【0093】
(試料調製および糖鎖分析)
本明細書において「被験物質」とは、薬効が期待される任意の候補化合物をいい、特に、薬剤耐性治療剤の候補化合物をいう。そのような候補化合物は、有機化合物、無機化合物、タンパク質、糖鎖、脂質、およびそれらの複合体などであり得るがそれらに限定されない。そのような化合物は、例えば、コンビナトリアルケミストリーにて体系的に合成することもできるし、すでに存在する化合物ライブラリーを使用してもよい。
【0094】
本明細書において使用される糖鎖分析は、当該分野において公知のものを利用することができる。そのような分析方法としては、例えば、物理学的方法(例えば、質量分析、NMRなど)、化学的方法(例えば、糖特異的官能基との化学的特異的反応の解析、糖鎖と特定の物質の相互作用を利用したクロマトグラフィーやそれらを組み合わせた2次元マップ法など)、生化学的方法(例えば、レクチン、抗体、酵素の特異性を利用したアッセイなど)、生物学的方法(例えば、微生物のある糖に対する親和性、優先性などを調べるアッセイなど)が挙げられるがそれらに限定されない。
【0095】
そのような糖鎖分析の一例としては、例えば、糖鎖を含む試料を調製した後、その試料を質量分析する方法が挙げられる。質量分析の方法は、当該分野において周知であり、例えば、MALDI−TOFなどが挙げられるがそれらに限定されない。当業者はそのような方法を適宜改変して本発明に用いることができる。
【0096】
そのような質量分析を用いると、通常、10pmolレベルの試料まで、より通常には100pmolまでの分析可能となっている。以下に例示的な方法を説明する。
【0097】
質量分析に用いる試料は、クロマトグラフィー、電気泳動技術などの技術によって分析することによって提供され得る。そのようなクロマトグラフィーなどの技術は、当該分野において周知である。本明細書において「クロマトグラフィー」とは、混合物の試料から,担体(固定相)中の移動度(分配平衡)の差を利用して試料中にある特定の標的物質または標的物質群を別の物質または物質群から分離する方法をいう。従って、試料の分離が達成される限りどのような技術もクロマトグラフィーの範囲内にある。クロマトグラフィーは、例えば、ある標的物質を混合物から分離する目的で使用され得るし、あるいは、ある標的物質について定性的または定量的な分析をするためにも使用され得る。例えば、通常クロマトグラフィーとは呼ばれない電気泳動技術もまた、通常試料中の少なくとも1つの成分を分離することができることから、本明細書においてクロマトグラフィーの範囲内にある。固定相は通常液体または固体であり得る。移動相は通常液体または気体であり得る。吸着剤などの固定相または移動相の一端に試料を吸着させ,これに適当な溶媒(移動相)を移動させると試料中の成分は固定相(固定相の表面または内部など固定相のある部分)を溶出と吸着を繰り返しながら移動する。その間に吸着されやすいものとされにくいものとの間に移動度の差を生じて,混合物の分離が可能になる。移動相が液体のものは、液体クロマトグラフィーとも呼ばれる。従来、移動相が液体か気体かによって液体クロマトグラフィー(LLC、LSCなど。HPLC、FPLC(登録商標)などもこれに入る)とガスクロマトグラフィー(例えば、GLC、GSCなど)とに分けられ、分離の機構によってキラルクロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー(ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)などのゲルクロマトグラフィー)、塩析クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー、高速向流分配クロマトグラフィー、パーフュージョンクロマトグラフィーなどが使用されている。また固定相の形状により、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー(例えば、ペーパークロマトグラフィーなど)などが使用されている。本発明の方法は、どのような形態のクロマトグラフィーにおいても使用され得る。本明細書において固定相および移動相は、そのクロマトグラフィーを使用する目的に応じて当業者が適宜選択することができる。そのような固定相および移動相の選定は、当該分野において周知であり、例えば、「ライフサイエンスのための高速液体クロマトグラフィー基礎と実験」中川照真、牧野圭祐編、廣川書店に記載されている。
【0098】
質量分析計は、どのような装置を用いてもよいが、1つの実施形態では、マトリックスアシステッドレーザー励起イオン化法(MALDI)によるイオン化可能な装置が使用され得る。MALDI法による質量分析計としては、例えば、飛行時間型質量分析計(TOF/MS)およびフーリエ変換型質量分析計(FT/MS)などがあり、これらの仕様のものは市販されている(例えば、KRATOS/島津製作所から市販されるMALDI IV;Applied Biosystemsから市販される四重極LC/MS/MS、四重極LC/MS、ハイブリッドLC/MS/MS、ESI−TOF/MS、MALDI−TOF/MS(例えば、Voyager−DTM PROなど)、MALDI−TOF−TOFなど)。通常、MALDI−TOF/MSおよびMADLI−FT/MSの両方が使用され得るが、質量精度は通常、MALDI−FT/MSが高いといわれており、より質量精度が高い測定が所望される場合はMALDI−FT/MSを用いることが有利であり得る。
【0099】
本明細書において「MALDI−TOF(MS)」とは、Matrix Assisted Laser Desorption Ionization−Time−of−Flight(Mass Spectrometer)の略語である。MALDIとは、田中らによって見いだされ、Hillenkampらによって開発された技法である(Karas M.,Hillenkamp,F.,Anal.Chem.1988,60,2299−2301)。この方法では、試料とマトリクス溶液をモル比で(10−2〜5×10−4):1に混合した後、混合溶液を標的上で乾固し、結晶状態にする。パルスレーザー照射により、大きなエネルギーがマトリクス上に与えられ、(M+H)+、(M+Na)+などの試料由来イオンとマトリクス由来イオンとが脱離する。微量のリン酸緩衝液、Tris緩衝液、グアニジンなどで汚染されていても分析可能である。MALDI−TOF(MS)は、MALDIを利用して飛行時間を元に質量を測定するものである。イオンが一定の加速電圧Vで加速される場合、イオンの質量をm、イオンの速度をv、イオンの電荷数をz、電気素量をe、イオンの飛行時間をtとしたとき、イオンのm/zは、
m/z=2eVt2/L2
で表すことができる。このようなMALDI−TOF測定には、島津/KratosのKOMPACT MALDI II/III/IVなどを使用することができる。その測定の際には、製造業者が作成したパンフレットを参照することができる。MALDI−TOFの測定時に使用されるレーザー照射の照射エネルギーを本明細書において「解離エネルギー」という。
【0100】
このような質量分析計は、製造業者が提供するマニュアルなどを参照して使用することができる。具体的には、試料をマトリクス(例えば、固体または液体)とともに質量分析計に付属のターゲットプローブ上に滴下し乾燥させ、分析器で質量を測定する。マトリクスは製造業者が提供するものを使用することができ、例えば、ジスラノール、HABA、DHBA、IAAなどが挙げられるがそれらに限定されない
【0101】
【化1】

質量分析法では、必要に応じて、プロトン付加体イオンを生じ易くするために、イオン化助剤(カチオン助剤)として、NaCl、KCl、NaTFA(トリフルオロアセテート)、AgTFAなどの塩類を加えてイオン化効率を上げることも可能である。当業者は、各糖鎖における構造解析に際し、マトリクスおよびイオン化助剤の選択などの諸条件の選択を行うことができる。
【0102】
糖鎖を含む試料の調製は、クロマトグラフィー技術を使用するもののほか、レクチン、抗体などを利用して糖鎖または糖鎖を含む物質を、分離して行ってもよい。目的に応じて所望のストリンジェンシー条件を用いることによって、種々の分離を行うことができる。
【0103】
本明細書において、試料中の糖鎖または糖鎖含有物質を「分離」するとは、その糖鎖または糖鎖含有物質が、分離前に試料中に存在する状態から実質的に引き離すまたは精製することをいう。従って、試料から分離された糖鎖または糖鎖含有物質は、分離される前に含んでいた糖鎖または糖鎖含有物質以外の物質の含量が少なくとも低減している。従って、本発明の糖鎖構造の分析には、このような分離された糖鎖または糖鎖含有物質を含む試料を用いることが好ましい。
【0104】
本明細書において「所望のストリンジェンシー(条件)」とは、糖鎖と特異的に相互作用する物質と、糖鎖または糖鎖含有物質との間の相互作用が解離しないような条件をいう。そのような条件は、当該分野において周知の技術を用い、用いる試薬、担体、糖鎖または糖鎖含有物質、糖鎖と特異的に相互作用する物質、形成される相互作用などの種々のパラメータを参酌しながら、当業者が適宜選定することができる。例えば、相互作用が共有結合である場合は、所望のストリンジェンシーは、水(例えば、超純水)または緩衝液(例えば、酢酸緩衝液)でリンスすることであってもよい。
【0105】
(生体分子アレイおよびチップ)
本発明の糖鎖分析は、糖鎖を分析するためのアレイを用いて実行することができる。
【0106】
本明細書において用いられる用語「アレイ」とは、基板または膜上の固定物体の固定されたパターンまたはパターン化された基板そのものをいう。アレイの中で、小さな基板(例えば、10×10mm上など)上にパターン化されているものはマイクロアレイというが、本明細書では、マイクロアレイとアレイとは互換可能に使用される。また、アレイは、基盤の大きさまたは載せる生体分子の密度によって、マクロアレイおよびマイクロアレイなどにも分けられる。従って、上述の基板より大きなものにパターン化されたものでもマイクロアレイと呼ぶことがある。例えば、アレイはそれ自身固相表面または膜に固定されている所望の生体分子(例えば、抗体、レクチン、糖鎖など)のセットで構成される。アレイは好ましくは異なる所望の生体分子(例えば、糖鎖捕捉担体、糖鎖)を少なくとも10個、より好ましくは少なくとも10個、およびさらに好ましくは少なくとも10個、さらにより好ましくは少なくとも10個を含む。これらの所望の生体分子(例えば、抗体、レクチン、糖鎖)は、好ましくは表面が125×80mm、より好ましくは10×10mm上に配置される。形式としては、96ウェルプレート、384ウェルプレートなどのプレートの大きさのものから、スライドグラス程度の大きさのものが企図される。
【0107】
従って、「アレイ」または「マイクロアレイ」とは、生体分子(例えば、糖鎖捕捉担体、糖鎖、タンパク質、核酸など)を基板上に整列(array)させて、固定させたデバイスであるとも説明することができる。本明細書では、特に断らない限り、アレイは、マイクロアレイと互換的に使用される。マクロとマイクロとの境界は厳密に決まっているわけではないが、一般に、「マクロアレイ」とは、メンブレン上に生体分子をスポットした高密度フィルター(high density filter)をいい、「マイクロアレイ」とは、ガラス、シリコンなどの基板表面に生体分子を載せたものをいう。
【0108】
本明細書において「チップ」とは、アレイのうち、半導体集積回路製造のための技術を応用し、基板上で一度に複数種の糖鎖などの生体分子を合成することで作製されたものをいい、生体分子である場合半導体チップになぞらえて、特に「生体分子(またはバイオ)チップ(chip)」という。生体分子チップにおいて使用される技術としては、Marshall Aら、(1998)Nat.Biotechnol.16:27−31およびRamsay Gら、(1998)Nat.Biotechnol.16 40−44を参照することができる。あるバイオチップの利用に関する技術は他のバイオチップなどにも応用され得る。本発明の分析には、例えば、特定の糖鎖構造を認識する抗体を並べたチップを用いることが好ましくあり得る。そのような特定の糖鎖構造は複数であることが好ましい。そのような特定の糖鎖構造と抗体との間の相互作用の分析は、アレイによって簡便に、同時並行的に実施することができる。
【0109】
アレイ上には、生体分子の「スポット」が配置され得る。本明細書において「スポット」とは、生体分子の一定の集合をいう。本明細書において「スポッティング」とは、ある生体分子のスポットをある支持体に作製することをいう。スポッティングはどのような方法でも行うことができ、そのような方法は当該分野において周知である。
【0110】
本明細書において使用される用語「アドレス」とは、基板上のユニークな位置をいい、他のユニークな位置から弁別可能であり得るものをいう。アドレスは、そのアドレスを伴うスポットとの関連づけに適切であり、そしてすべての各々のアドレスにおける存在物が他のアドレスにおける存在物から識別され得る(例えば、光学的)、任意の形状を採り得る。アドレスを定める形は、例えば、円状、楕円状、正方形、長方形であり得るか、または不規則な形であり得る。したがって、「アドレス」は、抽象的な概念を示し、「スポット」は具体的な概念を示すために使用され得るが、両者を区別する必要がない場合、本明細書においては、「アドレス」と「スポット」とは互換的に使用され得る。
【0111】
各々のアドレスを定めるサイズは、とりわけ、その基板の大きさ、特定の基板上のアドレスの数、分析物の量および/または利用可能な試薬、微粒子のサイズおよびそのアレイが使用される任意の方法のために必要な解像度の程度に依存する。大きさは、例えば、1−2nmから数cmの範囲であり得るが、そのアレイの適用に一致した任意の大きさが可能である。
【0112】
アドレスを定める空間配置および形状は、そのマイクロアレイが使用される特定の適用に適合するように設計される。アドレスは、密に配置され得、広汎に分散され得るか、または特定の型の分析物に適切な所望のパターンへとサブグループ化され得る。
【0113】
一例として、生体分子アレイを用いたアッセイにおいては、生体分子アレイ上でハイブリダイズした蛍光シグナルを蛍光検出器等で検出することが可能である。このような検出器は、現在までに種々の検出器が利用可能である。例えば、Stanford Universityのグループは、オリジナルスキャナを開発しており、このスキャナは、蛍光顕微鏡と可動ステージとを組み合わせたものであり、DNAアレイに利用されており、他の生体分子アレイにも利用可能である(http://cmgm.stanford.edu/pbrownを参照のこと)。従来型のゲル用蛍光イメージアナライザであるFMBIO(日立ソフトウェアエンジニアリング)、Storm(Molecular Dynamics)などでも、スポットがそれほど高密度でなければ、糖鎖アレイの読み取りを行い得る。その他に利用可能な検出器としては、ScanArray 4000、同5000(GeneralScanning;スキャン型(共焦点型))、GMS 418 Array Scanner(宝酒造;スキャン型(共焦点型))、Gene Tip Scanner(日本レーザ電子;スキャン型(非共焦点型))、Gene Tac 2000(Genomic Solutions;CCDカメラ型))などが挙げられる。
【0114】
アレイから得られるデータは膨大であることから、クローンとスポットとの対応の管理、データ解析などを行うためのデータ解析ソフトウェアが重要である。そのようなソフトウェアとしては、DNAアレイに関して開発された各種検出システムに付属のソフトウェア(Ermolaeva Oら(1998)Nat.Genet.20:19−23)を利用することができる。また、データベースのフォーマットとしては、例えば、DNAチップに対して開発された形式などを糖鎖分析向けに改変したものを利用することができる。このようにして分析された糖鎖構造の情報は、そのままあるいは加工されて、薬剤耐性との相関付けに用いることができる。
【0115】
本明細書において使用される「支持体」および「基板」は、本明細書において、特に言及しない場合互換的に用いられ、別の物質を支持するように用いられるとき、流体(特に液体などの溶媒)の存在下でその別の物質を支持することができる材料(好ましくは固体)をいう。支持体の材料としては、共有結合かまたは非共有結合のいずれかで、本発明に物質に結合する特性を有するかまたはそのような特性を有するように誘導体化され得る、任意の固体材料が挙げられるがそれに限定されない。
【0116】
支持体として使用するための材料としては、固体表面を形成し得る任意の材料が使用され得るが、例えば、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属(合金も含まれる)、天然および合成のポリマー(例えば、ポリスチレン、セルロース、キトサン、デキストラン、およびナイロン)、脂質などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、支持体は、疎水性表面を有する。支持体は、複数の異なる材料の層から形成されていてもよい。例えば、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化珪素、酸化珪素、窒化珪素などの無機絶縁材料を複数使用することできるがそれに限定されない。支持体として使用するための材料としてはまた、ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、シリコーン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン等の有機材料を用いることができる。本発明においてはまた、ナイロン膜、ニトロセルロース膜、PVDF膜など、ブロッティングに使用される膜を用いることもできる。ナイロン膜などを用いた場合は、簡便な解析システムを用いて結果を分析することができる。高密度のものを解析する場合は、ガラスなど硬度のあるものを材料として使用することが好ましい。ある実施形態では、支持体としては、例えば、架橋したリポソーム、架橋ポリマーまたは非架橋ポリマーを用いることができるがそれらに限定されない。
【0117】
本明細書において「試料」とは、その中の少なくとも1つの成分(好ましくは糖鎖または糖鎖含有物質)の分析を目的とするものであれば、どのような起源のものをも使用することができる。したがって、試料は、生物の全部または一部から取り出されたものであり得るが、それに限定されない。別の実施形態において、試料は、合成技術によって合成されたものであり得る。そのような合成技術によって合成されたものを試料として用いるのは、例えば、標準データをとる場合において有用である。
【0118】
本明細書において使用される用語「生体分子」とは、生体に関連する分子をいう。そのような生体分子を含む試料を、本明細書において特に生体試料ということがある。本明細書において「生体」とは、生物学的な有機体をいい、動物、植物、菌類、ウイルスなどを含むがそれらに限定されない。従って、生体分子は、生体から抽出される分子を包含するが、それに限定されず、生体に影響を与え得る分子であれば生体分子の定義に入る。そのような生体分子には、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子など)、これらの複合分子などが包含されるがそれらに限定されない。本明細書では、生体分子は、好ましくは、糖鎖または糖鎖を含む複合分子(例えば、糖タンパク質、糖脂質など)であるが、含有される糖鎖構造が反映される生体分子であれば、その生体分子自体が糖鎖を有しなくても本発明において使用することができる。
【0119】
そのような生体分子の供給源としては、生物由来の糖鎖が結合または付属する材料であれば特にその由来に限定はなく、動物、植物、細菌、ウイルスを問わない。より好ましくは動物由来生体試料が挙げられる。好ましくは、例えば、全血、血漿、血清、汗、唾液、尿、膵液、羊水、髄液などの液状試料の他、脳、肝臓、肺臓、腎臓、副腎、胸腺、すい臓、脾臓、口腔、食道、胃、小腸、大腸、筋肉、皮膚、前立腺、血管、骨髄、軟骨などの正常若しくは病変を起こした組織等が挙げられ、より好ましくは血漿、血清、唾液、骨髄液、尿が挙げられる。生体試料には個体から予め分離されていない生体試料も含まれる。例えば外部から試液が接触可能な粘膜組織、あるいは腺組織、好ましくは乳腺、前立腺、膵臓に付属する管組織の上皮が含まれる。また、生体試料には固体から分離された後、培養等の処理を受けた培養細胞・培養組織や、細菌・ウイルスなどの微生物も含まれる。
【0120】
本明細書において糖鎖構造と薬剤耐性レベルとの「相関付け」とは、ある糖鎖構造(好ましくは糖鎖構造の量的変化の情報など)またはその変化の特定の情報を、薬剤耐性レベルに対応付けることをいい、そのような関係を相関関係という。従来、糖鎖構造と薬剤耐性レベルとの間の相関関係は知られていなかったことから、本発明においては、そのような相関関係が発見されたことは格別の効果といえる。
【0121】
本明細書において、相関付けは、少なくとも1つの糖鎖構造の変化(増減)または変化の程度(変化量)と、細胞、組織、臓器、分泌物または生体の変化(例えば、薬剤耐性)とを関連付けること、例えば、ある糖鎖構造の増減または出現もしくは消長と、薬剤耐性の増減または出現もしくは消長とを対応付けることによって行うことができる。相関付けに使用される糖鎖構造の数は、相関付けが行うことができる限り少ない数であってよく、通常少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つであり得るがそれらに限定されない。複数の糖鎖構造の増減または出現もしくは消長と、薬剤耐性の増減または出現もしくは消長とを対応付ける場合は、行列式を利用して数学的処理を行ってもよい。1つの好ましい実施形態において、相関付けに使用する糖鎖構造の数は少なくとも8つであることが有利であり得る。8種類の増減を観察することで、理論的には256種類の変化を対応付けることができ、生体を構成するといわれる300種類程度の細胞の種類の数をほぼ網羅することができるからである。その意味において、そのような糖鎖構造の種類としては、少なくとも9種類、または少なくとも10種類観察対象に含めることがさらに有利であり得る。
【0122】
相関付けの具体的方法としては、例えば、特定の糖鎖と薬剤などの耐性レベルを統計学的に処理して回帰曲線を描く方法などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0123】
(診断)
本明細書において「診断」とは、被検体における疾患、障害、状態などに関連する種々のパラメータを同定し、そのような疾患、障害、状態の現状を判定することをいう。本発明の方法、装置、システムを用いることによって、糖鎖構造を分析し、薬剤耐性レベルと相関付けることができ、そのような情報を用いて、被検体における疾患、障害、状態、投与すべき処置または予防のための処方物または方法などの種々のパラメータを選定することができる。
【0124】
本発明の診断方法は、原則として、身体から出たものを利用することができることから、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることから、産業上有用である。
【0125】
(治療)
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消長させることをいう。
【0126】
本明細書において「被検体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被検体は好ましくは、ヒトであり得る。
【0127】
本明細書において「病因」とは、被検体の疾患、障害または状態(本明細書において、総称して「病変」ともいい、植物では病害ともいう)に関連する因子をいい、例えば、原因となる病原物質(病原因子)、病原体、病変細胞、病原ウイルスまたはその一部などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0128】
本発明が対象とする「疾患」は、病原遺伝子が関連する任意の疾患であり得る。そのような疾患としては、癌、ウイルスまたは細菌による感染症、アレルギー、高血圧、高脂血症、糖尿病、心臓病、脳梗塞、痴呆症、肥満、動脈硬化性疾患、不妊症、精神神経疾患、白内障、早老症、紫外線放射線過敏症などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0129】
本発明が対象とする「障害」は、病原遺伝子が関連する任意の障害であり得る。
【0130】
そのような疾患、障害または状態の具体例としては、例えば、循環器系疾患(貧血(例えば、再生不良性貧血(特に重症再生不良性貧血)、腎性貧血、がん性貧血、二次性貧血、不応性貧血など)、がんまたは腫瘍(例えば、白血病、多発性骨髄腫)など);神経系疾患(痴呆症、脳卒中およびその後遺症、脳腫瘍、脊髄損傷など);免疫系疾患(T細胞欠損症、白血病など);運動器・骨格系疾患(骨折、骨粗鬆症、関節の脱臼、亜脱臼、捻挫、靱帯損傷、変形性関節症、骨肉腫、ユーイング肉腫、骨形成不全症、骨軟骨異形成症など);皮膚系疾患(無毛症、黒色腫、皮膚悪性リンパ腫、血管肉腫、組織球症、水疱症、膿疱症、皮膚炎、湿疹など);内分泌系疾患(視床下部・下垂体疾患、甲状腺疾患、副甲状腺(上皮小体)疾患、副腎皮質・髄質疾患、糖代謝異常、脂質代謝異常、タンパク質代謝異常、核酸代謝異常、先天性代謝異常(フェニールケトン尿症、ガラクトース血症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症)、無アルブミン血症、アスコルビン酸合成能欠如、高ビリルビン血症、高ビリルビン尿症、カリクレイン欠損、肥満細胞欠損、尿崩症、バソプレッシン分泌異常、侏儒症、ウオルマン病(酸リパーゼ(Acid lipase)欠損症)、ムコ多糖症VI型など);呼吸器系疾患(肺疾患(例えば、肺炎、肺がんなど)、気管支疾患、肺がん、気管支がんなど);消化器系疾患(食道疾患(たとえば、食道がん)、胃・十二指腸疾患(たとえば、胃がん、十二指腸がん)、小腸疾患・大腸疾患(たとえば、大腸ポリープ、結腸がん、直腸がんなど)、胆道疾患、肝臓疾患(たとえば、肝硬変、肝炎(A型、B型、C型、D型、E型など)、劇症肝炎、慢性肝炎、原発性肝がん、アルコール性肝障害、薬物性肝障害)、膵臓疾患(急性膵炎、慢性膵炎、膵臓がん、嚢胞性膵疾患)、腹膜・腹壁・横隔膜疾患(ヘルニアなど)、ヒルシュスプラング病など);泌尿器系疾患(腎疾患(腎不全、原発性糸球体疾患、腎血管障害、尿細管機能異常、間質性腎疾患、全身性疾患による腎障害、腎がんなど)、膀胱疾患(膀胱炎、膀胱がんなど)など);生殖器系疾患(男性生殖器疾患(男性不妊、前立腺肥大症、前立腺がん、精巣がんなど)、女性生殖器疾患(女性不妊、卵巣機能障害、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮がん、子宮内膜症、卵巣がん、絨毛性疾患など)など);循環器系疾患(心不全、狭心症、心筋梗塞、不整脈、弁膜症、心筋・心膜疾患、先天性心疾患(たとえば、心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存、ファロー四徴)、動脈疾患(たとえば、動脈硬化、動脈瘤)、静脈疾患(たとえば、静脈瘤)、リンパ管疾患(たとえば、リンパ浮腫)など)などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0131】
本明細書において「がん」または「癌」は、互換可能に用いられ、異型性が強く、増殖が正常細胞より速く、周囲組織に破壊性に浸潤し得あるいは転移をおこし得る悪性腫瘍またはそのような悪性腫瘍が存在する状態をいう。本発明においては、がんは固形がんおよび造血器腫瘍を含むがそれらに限定されない。
【0132】
本明細書において「固形がん」は、固形の形状があるがんをいい、白血病などの造血器腫瘍とは対峙する概念である。そのような固形がんとしては、例えば、乳がん、肝がん、胃がん、肺がん、頭頸部がん、子宮頸部がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、悪性リンパ腫、食道がん、脳腫瘍、骨腫瘍が挙げられるがそれらに限定されない。
【0133】
本明細書において「がん治療」は、抗がん剤(例えば、化学療法剤、放射線治療など)を投与することによって行われるか、または外科的に除去などをする外科的治療を包含する。
【0134】
本明細書において用いられる化学療法剤は、当該分野において周知であり、抗がん剤マニュアル第2版 塚越茂他編 中外医学社;Pharmacology;Lippincott Williams & Wilkins,Inc.に記載されている。そのような化学療法剤は、例えば、以下が挙げられるがそれに限定されない:1)アルキル化剤(DNA,タンパク質などの細胞構成成分をアルキル化して細胞毒性を示す。例えば、シクロホスファミド,ブスルファン、チオテパ、ダカルバジンが挙げられるがそれらに限定されない);2)代謝拮抗剤(おもに核酸の合成を阻害する薬剤(例えば、葉酸代謝拮抗剤としてメトトレキサートなど、プリン代謝拮抗剤として6−メルカプトプリンなど、ピリミジン代謝拮抗剤としてフルオロウラシル(5−FU)など);3)DNAトポイソメラーゼ阻害剤(例えば、カンプトテシン、エトポシド(それぞれトポイソメラーゼI、IIを阻害する));4)チューブリン作用薬(微小管形成を阻害し、細胞分裂を抑制する。ビンブラスチン、ビンクリスチンなど);5)白金化合物(DNAおよびタンパク質との結合による細胞毒性を示す。シスプラチン、カルボプラチンなど);6)抗がん抗生物質(DNAと結合し、DNA合成、RNA合成を阻害する。アドリアマイシン、ダウノルビシン、マイトマイシンC、ブレオマイシンなど);7)ホルモン剤(乳がん、子宮がん、前立腺がんなどホルモン依存性のがんに適応。タモキシフェン、リュープロレリン(LH−RH)など);8)生物製剤(アスパラギン要求性血液悪性腫瘍に対して有効なアスパラギナーゼ、直接的な抗腫瘍作用と免疫増強による間接作用を示すインターフェロンなどがある);9)免疫賦活剤(免疫応答能を増強し、間接的に抗腫瘍活性を示す。シイタケ由来の多糖体であるレンチナン、微生物由来のペプチドであるベスタチンなど)。
【0135】
本明細書において「抗がん剤」とは、がん(腫瘍)細胞の増殖を選択的に抑制し、がんの薬剤および放射線治療の両方を包含する。そのような抗がん剤は当該分野において周知であり、例えば、抗がん剤マニュアル第2版 塚越茂他編 中外医学社;Pharmacology;Lippincott Williams & Wilkins,Inc.に記載されている。
【0136】
本明細書において「放射線療法」または「放射線治療」とは、互換可能に使用され、電離放射線または放射性物質を利用した疾患の治療をいう。代表的な放射線療法としては、X線、γ線、電子線、陽子線、重粒子線、中性子捕捉療法が挙げられるがそれに限定されない。好ましい放射線療法としては、重粒子線が挙げられる。重粒子線を用いた療法は装置が大きく一般的でないことがある。そのような放射線療法は当該分野において周知であり、例えば、放射線検査と治療の基礎;放射線治療と集学的治療:邵啓全(滋賀医大 放射線):総合消化器ケア 6巻 6号 Page 79−89,6−7(2002.02)に記載されている。本発明において同定される薬剤耐性は、通常化学療法が想定されるが、放射線療法による耐性もまた糖鎖構造と関連付けられることから、本明細書では、放射線療法は薬剤の概念の中に入る。
【0137】
本明細書において「薬学的に受容可能なキャリア」は、医薬または動物薬のような農薬を製造するときに使用される物質であり、有効成分に有害な影響を与えないものをいう。そのような薬学的に受容可能なキャリアとしては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または農学的もしくは薬学的アジュバント。
【0138】
本発明の処置方法において使用される薬剤の種類および量は、本発明の方法によって得られた情報(例えば、薬剤耐性レベルに関する情報)を元に、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、投与される被検体の部位の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。薬剤を投与する頻度あるいは薬剤耐性をモニタリングする頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0139】
本明細書において「指示書」は、本発明のテイラーメイド治療方法などを医師、患者など投与を行う人に対して記載したものである。この指示書は、本発明の医薬などを例えば、放射線治療直後または直前(例えば、24時間以内など)に投与することを指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0140】
必要に応じて、本発明の治療では、2種類以上の薬剤が使用され得る。2種類以上の薬剤を使用する場合、類似の性質または由来の物質を使用してもよく、異なる性質または由来の薬剤を使用してもよい。このような2種類以上の薬剤を投与する方法のための薬剤耐性レベルに関する情報も、本発明の方法によって入手することができる。
【0141】
本発明ではまた、得られた薬剤耐性に関する情報を元に、遺伝子治療を施すことも可能である。遺伝子治療とは、発現されたか、または発現可能な核酸の、被験体への投与により行われる治療をいう。本発明のこの実施形態において、核酸は、それらのコードされたタンパク質を産生し、そのタンパク質は治療効果を媒介する。
【0142】
遺伝子治療方法もまた、本発明において併用され得る。例示的な方法は、以下のとおりである。そのような遺伝子治療は、例えば、薬剤耐性レベルを改変するために用いることができる。
【0143】
遺伝子治療の方法の一般的な概説については、Goldspielら,Clinical Pharmacy 12:488−505(1993);WuおよびWu,Biotherapy 3:87−95(1991);Tolstoshev,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.32:573−596(1993);Mulligan,Science 260:926−932(1993);ならびにMorganおよびAnderson,Ann.Rev.Biochem.62:191−217(1993);May,TIBTECH 11(5):155−215(1993)を参照のこと。遺伝子治療において使用される一般的に公知の組換えDNA技術は、Ausubelら(編),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NY(1993);およびKriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990)に記載される。
【0144】
本発明では、いったん類似の種類(例えば、ヒトに対するマウスなど)の生物や培養細胞や組織に関し、ある特定の糖鎖構造の分析結果と、薬剤耐性レベルとが相関付けられた場合、対応する糖鎖構造の分析結果と、薬剤耐性レベルとが相関付けることができることは、当業者は容易に理解する。そのような事項は、例えば、動物培養細胞マニュアル、瀬野ら編著、共立出版、1993年などに記載され支持されており、本明細書においてこのすべての記載を援用する。
【0145】
(本明細書において用いられる一般的技術)
本明細書において使用される技術は、そうではないと具体的に指示しない限り、当該分野の技術範囲内にある、マイクロフルイディクス、微細加工、有機化学、生化学、遺伝子工学、分子生物学、微生物学、遺伝学および関連する分野における周知慣用技術を使用する。そのような技術は、例えば、以下に列挙した文献および本明細書において他の場所おいて引用した文献においても十分に説明されている。
【0146】
微細加工については、例えば、Campbell,S.A.(1996).The Science and Engineering of Microelectronic Fabrication,Oxford University Press;Zaut,P.V.(1996).Micromicroarray Fabrication:a Practical Guide to Semiconductor Processing,Semiconductor Services;Madou,M.J.(1997).Fundamentals of Microfabrication,CRC1 5 Press;Rai−Choudhury,P.(1997).Handbook of Microlithography,Micromachining,& Microfabrication:Microlithographyなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0147】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Maniatis,T.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.,et al.eds,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons Inc.,NY,10158(2000);Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press;Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman & Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(1996).Bioconjugate Techniques,Academic Press;Method in Enzymology 230、242、247、Academic Press、1994;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997;畑中、西村ら、糖質の科学と工学、講談社サイエンティフィク、1997;糖鎖分子の設計と生理機能 日本化学会編、学会出版センター、2001などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0148】
(スクリーニング)
本明細書において、「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ物質または生物などを、特定の操作および/または評価方法で多数の候補から選抜することをいう。本明細書では、本発明によって得られた薬剤耐性に関する情報を用いることによって、さらなる薬剤のスクリーニングを行うことができる。スクリーニングは、インビトロ、インビボなど実在物質を用いた系を使用してもよく、インシリコ(コンピュータを用いた系)の系を用いて生成されたライブラリーを用いてもよい。本発明では、所望の活性を有するスクリーニングによって得られた化合物もまた、本発明の範囲内に包含されることが理解される。従って、本発明では、本発明の開示をもとに、薬剤耐性を考慮したコンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
【0149】
(好ましい実施形態の説明)
1つの局面において、本発明は、(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖の存在比を分析する工程;および(b)分析された該糖鎖存在比と、薬剤感受性由来の試料に含まれる糖鎖存在比および/または薬剤耐性由来の試料に含まれる糖鎖存在比とを比較する工程を包含する、被検体または病因の薬剤耐性レベルを判定する方法を提供する。
【0150】
あるいは、本発明は、(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖の存在比を分析する手段;および(b)分析された該糖鎖存在比と、薬剤感受性由来の試料に含まれる糖鎖存在比および/または薬剤耐性由来の試料に含まれる糖鎖存在比とを比較する手段を包含する、被検体または病因の薬剤耐性レベルを判定するシステムを提供する。
【0151】
ここで、被検体または病因からの試料を提供する方法または手段は、当該分野において周知であり、調製または提供する方法はどのような技術であってもよい。本発明では、そのような試料が何らかの形で提供されることで十分であり、その調製方法または手段は問わないが、代表的には、血液採取、尿採取などによって提供することができる。病因の取得を目的とする場合は、このような血液などから病因となる細胞を分離してもよい。
【0152】
好ましくは、上記薬剤耐性レベルは、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤に対する耐性レベルを包含する。
【0153】
より好ましくは、本発明の方法またはシステムは、M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される少なくとも1つの糖鎖の存在比を分析する工程または手段を含み、ここでは、シスプラチンに対する薬剤耐性レベルが判定される。
【0154】
別の局面において、本発明は、以下の工程:(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖の存在比を分析する工程;および(b)分析された該糖鎖存在比と、薬剤感受性由来の試料に含まれる糖鎖存在比および/または薬剤耐性由来の試料に含まれる糖鎖存在比とを比較する工程を包含する、被検体または病因の薬剤耐性レベルを判定する方法を提供する。
【0155】
薬剤感受性株および薬剤耐性株は、既知の株を使用してもよく、新たに分離された株を使用してもよく、あるいは、提供された株の薬剤耐性をアッセイすることによって決定し、感受性株または耐性株を選択することによってそのような株を提供することができる。そのようなアッセイは、当該分野において公知の任意の薬剤耐性決定アッセイ(例えば、最小阻害濃度(MIC)を決定するためのシャーレ法など)を用いることによって実施することができる。
【0156】
糖鎖の存在比は、当該分野において公知の任意の方法を用いることができる。そのような糖鎖の存在比の決定は、例えば、クロマトグラフィーを用いた方法、2次元マップ法(例えば、Tomiya et al.,Anal.Biochem.171,73−90,1988を参照)を用いることができ、実施例1などにおいて例示されているがそれに限定されない。分析された糖鎖の存在比は、相対的または絶対値を比較対象同士で比較することによって、耐性レベルを判定することができる。原理的には、対象となる被験株について、耐性レベルが知られている(例えば、薬剤感受性または薬剤耐性の株)ものと糖鎖の存在比が同じか実質的に類似する場合、そのような被験株は、対象となるかぶと耐性レベルがほぼ同一であると判定することができる。
【0157】
好ましくは、上記糖鎖の存在比の分析は、M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される少なくとも1つの糖鎖の存在比を分析する工程を含み、ここで、シスプラチンに対する薬剤耐性レベルが判定される。
【0158】
別の局面において、本発明は、被検体または病因の薬剤耐性レベルを診断する方法を提供する。この方法は、(a)該被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する工程;および(b)分析された該糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける工程、を包含する。
【0159】
あるいは、本発明は、被検体または病因の薬剤耐性レベルを診断するシステムを提供する。このシステムは、(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する手段;および(b)分析された糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける手段を備える。
【0160】
ここで、被検体または病因からの試料を提供する方法または手段は、当該分野において周知であり、どのような技術を用いて調製または提供してもよい。本発明では、そのような試料が何らかの形で提供されることで十分であり、その調製方法または手段は問わない。
【0161】
好ましい実施形態において、本発明が分析対象とする糖鎖構造は、複数の糖鎖構造のセットを含むことが有利であり得る。複数の糖鎖構造のセットを分析することによって、薬剤耐性の情報との相関付けがより詳細に検討することができるからである。複数の糖鎖構造のセットの情報と、薬剤耐性の情報とが、相関付けることができることは従来知られておらず、本発明は、そのような予想外の発見に基づいて診断およびテーラーメイド治療を行うことを達成したという効果を奏する。
【0162】
好ましい実施形態において、本発明が分析対象とする情報は、抗がん剤に関する情報である。抗がん剤の薬剤耐性は、対象となる被検体中のがん細胞の変化に起因することから、従来は、その遺伝子発現情報に基づいて診断する試みがなされていた。本発明では、抗がん剤に対するがん細胞の薬剤耐性レベルが、予想外に糖鎖構造と相関付けることが見出されたことから、診断およびテーラーメイド治療において多大な利点を有する。
【0163】
好ましい実施形態において、本発明が対象とする抗がん剤としては、例えば、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16などが挙げられるがそれらに限定されない。より好ましくは、そのような抗がん剤はシスプラチンであり得るがそれに限定されない。
【0164】
好ましい実施形態において、本発明の方法が分析の対象とする糖鎖構造は、M8.1,M6.1,100.4,300.18,H5.12,H4.12,200.2,200.3,200.4,400.16,210.1,300.22,210.4,410.16,310.8からなる群より選択される糖鎖を少なくとも含む。このM8.1,M6.1,100.4,300.18,H5.12,H4.12,200.2,200.3,200.4,400.16,210.1,300.22,210.4,410.16,310.8からなる群より選択される糖鎖を分析する場合、少なくともシスプラチンに対する薬剤耐性レベルが分析され得る。
【0165】
好ましい実施形態において、本発明の方法が対象とする被検体は、哺乳動物であり、より好ましくは、モデル動物(例えば、霊長類(サルなど)、げっ歯類(マウス、ラットなど)など)であり得、もっとも好ましくは、ヒトであり得る。モデル動物を被検体とする場合は、他の動物(例えば、ヒト)における薬剤耐性情報の目安を提供することができる。ヒトを被検体とする場合は、より詳細な薬剤耐性情報を提供することができ、またヒトより得た試料を直接分析するのみではなく細胞・組織培養等の手順を経て用いることもできる。好ましくは、分析対象となる被検体は、処置または予防などを行うことが意図される被検体である。別の実施形態では、薬剤耐性レベルの情報を一般的に提供するために、処置、予防などを行うことが意図されない被検体もまた、分析対象とすることができる。
【0166】
別の好ましい実施形態において、本発明の方法またはシステムにおける糖鎖構造の分析は、複数の糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析を含む。このような複数の糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析としては、絶対量を分析することおよび複数の糖鎖構造の相対量を分析することおよびそれを行う手段が挙げられるがそれらに限定されない。本発明では、そのような量の変化を分析することが一つの特徴であり得る。あるいは、標準となる糖鎖または他の物質に対する相対量を分析してもよい。ここで、相関付けは、薬剤に対する感受性および薬剤に対する耐性と複数の糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析との相関付けを含むがそれに限定されない。そのような相関付けを行う方法および手段は、当該分野において公知の技術を用いて行うことができる。
【0167】
本発明では、薬剤に対して感受性である細胞、組織または臓器などがある特定の複数の糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析を示し、薬剤に対して耐性である細胞、組織または臓器などは、別の特定の糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析を示すことが予想外に発見され、また、耐性になった細胞、組織または臓器が感受性に復帰した場合に、その糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析もまた、もとの感受性の細胞、組織または臓器において見いだされた糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析に復帰することが予想外に発見されたことから、本発明は、従来技術からは予想できなかった格別の効果を示すといえる。
【0168】
分析される糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析としては、例えば、複数の糖鎖構造の絶対量、相対量(相対比)、ある標準物質(例えば、ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,3−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,6−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−N−アセチルグルコサミンなどの糖やIgG、トランスフェリンなど特定のタンパク質)に対する相対量などが挙げられ、その単位としては、重量、容積、モル、炭素原子量などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0169】
本発明の方法およびシステムにおいて糖鎖分析の対象とされる糖鎖構造は、アスパラギン結合型糖鎖を含む。アスパラギン結合型糖鎖とは、アスパラギン残基にN配糖体として結合している糖鎖である。この型の糖鎖は、複雑で冗長な生合成経路により多様な構造に仕上げられることが知られている。各段階の生合成中間体または種々の成熟型の糖鎖は、細胞の機能調節、細胞内輸送などの成熟型タンパク質の形成過程、細胞間認識などのタンパク質が機能する状況、老朽化したタンパク質の肝細胞への取り込みなどの種々の状況で役割を有することが知られている。しかし、アスパラギン結合型糖鎖の構造は、不均一であり、その不均一性の意味するところは充分解明されていなかった。特に、このような糖鎖を複数のセットとして量的変化の情報またはその関連情報の分析で分析し、その結果を意味づけることは全く従来行われていなかったことであり、そのような相関付けによる検査、診断およびテーラーメイド治療が実現されたことはまさしく本発明が達成した重要な効果であるといえる。
【0170】
あるいは、本発明が対象とする糖鎖構造は、O結合型糖鎖(O−グリカンともいう)であり得る。O結合型糖鎖としては、例えば、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルグルコサミン、ガラクトース若しくはそれらを含む糖鎖がセリンまたはスレオニンと結合するO−結合型糖鎖、マンノースまたはN−アセチルグルコサミンがセリンまたはスレオニンと結合する糖鎖、ガラクトースがヒドロキシリジンに結合する糖鎖などが挙げられるがそれに限定されない。O結合型糖鎖を有するムチン糖蛋白質は、分泌型と膜結合型とが存在し、それぞれ粘膜保護および情報伝達または細胞間接着を制御する機能があることから、これらムチン型糖鎖もまた、本発明が対象とする重要な糖鎖構造であり得る。
【0171】
好ましい実施形態において、本発明において使用される糖鎖構造の分析は、クロマトグラフィーによる分析を含む。クロマトグラフィーによる分析を用いることが好ましいのは、例えば、糖鎖の分離精製と分析とが同時に行うことができ、定量性がよいからである。しかも、アミノピリジンなどによる還元アミノ化反応による蛍光標識法など高感度分析系が確立しており、クロマトグラフィーの分析装置は取り扱いが比較的容易で広く普及している。二次元マップ法など、パターン分析に用いた試料をそのまま詳細な糖鎖構造解析法に利用することができる。
【0172】
好ましい実施形態において、本発明において使用される糖鎖構造の分析は、質量分析を含む。質量分析を用いることが好ましいのは、例えば、分析時間が短く、分解能が高いことから情報量が多いからである。また、得られたデータをデジタル変換しやすく、コンピュータによる処理に適しているからである。
【0173】
あるいは、本発明において、糖鎖構造を分析する方法は、例えば、糖鎖アレイ、糖鎖レプリカを利用する方法などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0174】
本発明の診断方法を実行するコンピュータ構成あるいはそれを実現するシステムの例を図8を参照して示す。図8は、本発明の診断方法を実行するコンピュータの500の構成例を示す。
【0175】
コンピュータ500は、入力部501と、CPU502と、出力部503と、メモリ504と、バス505とを備える。入力部501と、CPU502と、出力部503と、メモリ504とは、バス505によって相互に接続されている。入力部501と出力部503とは入出力装置506に接続されている。
【0176】
コンピュータ500によって実行される相関付けの処理の概略を説明する。
【0177】
相関付け方法および/または処置もしくは予防の選択を実行させるプログラム(以下、それぞれ相関付けプログラムおよび選択プログラムという)は、例えば、メモリ502に格納されている。あるいは、相関付けプログラムおよび選択プログラムは、それぞれ独立してあるいは一緒に、フロッピー(登録商標)ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、DVD−ROMのような任意のタイプの記録媒体に記録され得る。あるいは、アプリケーションサーバに格納されていてもよい。そのような記録媒体に記録された相関付けプログラムおよび/または選択プログラムは、出入力装置506(例えば、ディスクドライブ、ネットワーク(例えば、インターネット))を介してコンピュータ500のメモリ504にロードされる。CPU502が相関付けプログラムおよび/または選択プログラムを実行することによって、コンピュータ500は、本発明の相関付け方法および/または選択方法の処理を実行する装置として機能する。
【0178】
入力部501を介して、糖鎖構造の分析の結果(例えば、配列情報、レベル、量など)および薬剤耐性に関する情報などを入力する。必要に応じて、糖鎖と相関付けられる状態、障害または疾患などの副次的情報、処置および/または予防に関する情報も入力してもよい。
【0179】
CPU502は、入力部501で入力された情報をもとに、糖鎖構造に関する情報と薬剤耐性レベルとを相関付け、メモリ504に相関データを格納する。その後、CPU502は、これらの情報をメモリ504に格納し得る。その後、出力部503は、CPU502が選択した薬剤耐性レベルに関する情報などを診断情報として出力する。出力されたデータは、入出力装置506から出力され得る。
【0180】
別の局面において、本発明は、被検体または病因の薬剤耐性レベルに応じて被検体を処置または予防する方法を提供する。この方法は、(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する工程;(b)分析された糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける工程;および(c)薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を被検体に施す工程を包含する。
【0181】
あるいは、本発明は、被検体または病因の薬剤耐性レベルに応じて被検体を処置または予防するシステムを提供する。このシステムは、(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する手段;(b)分析された糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける手段;および(c)薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を被検体に施す手段を備える。
【0182】
本発明の被検体を処置または予防する方法およびシステムにおいて、糖鎖構造の分析は、本明細書において他の場所において詳述されるように、種々の分析方法および手段を用いることができ、当業者は本明細書の開示を参照して実施することができる。分析された糖鎖構造と薬剤耐性レベルとの相関付けおよびそのための手段もまた、本明細書において他の場所において詳述されるように、種々の方法および手段を用いることができ、当業者は本明細書の開示を参照して実施することができる。この場合、相関付けは、未知のデータを相関付けることもできるし、既知のデータと相関付けることも可能である。
【0183】
薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を被検体に施すことは、そのような処置または予防としては、例えば、その被検体に関して感受性であることが判明した薬剤を選択し、その被検体に応じて処方することによって薬剤を投与することが挙げられるがそれに限定されない。このような方法は、医師などの人間が行うことができ、あるいは、このような方法は、自動化された機械に行わせることも可能である。そのような機械は、糖鎖構造を分析する手段、糖鎖構造と薬剤耐性レベルとを相関付ける手段、薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を選択する手段およびそのような処置または予防に応じて処方された処方物を提供する手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段を含み得る。
【0184】
このような装置において、糖鎖構造を分析する手段は、糖鎖構造を分析するための方法を実現することができる手段であればどのようなものでも使用することができる。そのような手段は、物理学的方法(例えば、質量分析、NMR、X線構造解析、電子顕微鏡分析など)、化学的方法(例えば、糖特異的官能基との化学的特異的反応の解析、糖鎖と特定の物質の相互作用を利用したクロマトグラフィー及びそれらを組み合わせた二次元マップ法など)、生化学的方法(例えば、酵素の特異性を利用したアッセイなど、糖鎖アレイ、糖鎖レプリカなどを利用する方法)、生物学的方法(例えば、微生物のある糖に対する親和性、優先性などを調べるアッセイなど)、バイオインフォマティクスなどを実現するものであり得る。
【0185】
糖鎖構造と薬剤耐性レベルとを相関付ける手段としては、例えば、データ処理を行うことができるコンピュータなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような相関付け手段は、薬剤耐性に関する情報が格納された記録媒体を備えていることが好ましい。そのような情報を用いることによって、糖鎖構造と薬剤耐性レベルとの相関付けが容易になり得る。
【0186】
薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を選択する手段としてもまた、例えば、例えば、データ処理を行うことができるコンピュータなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような相関付け手段は、薬剤耐性に関する情報および/または治療もしくは予防法に関する情報が格納された記録媒体を備えていることが好ましい。そのような情報を用いることによって、処置または予防の選択が容易になり得る。
【0187】
このような相関付けおよび/または処置もしくは予防の選択を実行するコンピュータ構成の例を図8を参照して示す。図8は、本発明の相関付けの処理を実行するコンピュータの500の構成例を示す。
【0188】
コンピュータ500は、入力部501と、CPU502と、出力部503と、メモリ504と、バス505とを備える。入力部501と、CPU502と、出力部503と、メモリ504とは、バス505によって相互に接続されている。入力部501と出力部503とは入出力装置506に接続されている。
【0189】
コンピュータ500によって実行される相関付けの処理の概略を説明する。
【0190】
相関付け方法および/または処置もしくは予防の選択を実行させるプログラム(以下、それぞれ相関付けプログラムおよび選択プログラムという)は、例えば、メモリ502に格納されている。あるいは、相関付けプログラムおよび選択プログラムは、それぞれ独立してあるいは一緒に、フロッピー(登録商標)ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、DVD−ROMのような任意のタイプの記録媒体に記録され得る。あるいは、アプリケーションサーバに格納されていてもよい。そのような記録媒体に記録された相関付けプログラムおよび/または選択プログラムは、出入力装置506(例えば、ディスクドライブ、ネットワーク(例えば、インターネット))を介してコンピュータ500のメモリ504にロードされる。CPU502が相関付けプログラムおよび/または選択プログラムを実行することによって、コンピュータ500は、本発明の相関付け方法および/または選択方法の処理を実行する装置として機能する。
【0191】
入力部501を介して、糖鎖構造の分析の結果(例えば、配列情報、レベル、量など)および薬剤耐性に関する情報などを入力する。必要に応じて、糖鎖と相関付けられる状態、障害または疾患などの副次的情報、処置および/または予防に関する情報も入力してもよい。
【0192】
CPU502は、入力部501で入力された情報をもとに、糖鎖構造に関する情報と薬剤耐性レベルとを相関付け、メモリ504に相関データを格納する。その後、CPU502は、これらの情報をメモリ504に格納し得る。CPU502は、必要に応じて、これらの情報に基づき、適切な信号強度を選択する。生成された相関付けデータに基づいて、適切な処置または予防方法を選択または作成する。この情報をメモリ504に格納することもできる。
【0193】
その後、出力部503は、CPU502が選択した薬剤耐性レベルに関する情報、適切な処置または予防方法に関する情報などを出力する。出力されたデータは、入出力装置506から出力され得る。
【0194】
本発明の方法およびシステムにおいて実施される処置または予防に応じて処方された処方物を提供する方法および手段は、当該分野において周知の方法または手段を利用して提供することができる。従って、当業者は、そのような方法および手段がいったん選択されるべき処置または予防が選択されたならば、そのような選択された処置または予防を、必要に応じて被検体などのパラメータ(例えば、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、投与される被検体の部位の形態または種類)および投与頻度、ならびに他の種々の臨床検査値を考慮して、処方し、その処方に応じた製剤を行うことができることを理解し、そのような手段を容易に作製および使用することができることも理解する。このような手段は、自動化することもでき、あるいは他の手段と一体化することもできる。したがって、処方物を提供する手段もまた、上記コンピュータの一部として構成することも可能である。
【0195】
本発明の処置または予防方法およびシステムにおいて分析される糖鎖構造は、複数の糖鎖構造のセットを含むことが好ましい。複数の糖鎖構造のセットを分析することによって、薬剤耐性の情報との相関付けがより詳細に検討することができ、それにより、より適切な処置または予防方法を選択することができるからである。複数の糖鎖構造のセットの情報と、薬剤耐性の情報とが、相関付けることができることは従来知られておらず、本発明は、そのような予想外の発見に基づいて診断およびテーラーメイド治療を行うことを達成したという効果を奏する。
【0196】
別の実施形態において、本発明の処置または予防方法およびシステムは、抗がん剤を利用した方法およびシステムであることが好ましいがそれに限定されない。そのような処置または予防において使用され得る薬剤としては、例えば、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0197】
本発明の開示前は、抗がん剤のような薬剤の薬剤耐性は、対象となる被検体中の細胞(例えば、がん細胞)の変化に起因することから、従来は、その遺伝子発現情報に基づいて診断する試みがなされていた。本発明では、抗がん剤のような薬剤に対するがん細胞のような標的の薬剤耐性レベルが、予想外に糖鎖構造と相関付けることが見出されたことから、抗がん剤のような薬剤を用いた処置および予防においてテーラーメイドで処方を提供することができるという多大な利点を有する。
【0198】
好ましい実施形態において、本発明が対象とする抗がん剤としては、例えば、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16などが挙げられるがそれらに限定されない。より好ましくは、そのような抗がん剤はシスプラチンであり得るがそれに限定されない。あるいは、そのような抗がん剤は、組み合わせで処方することができる。そのような組み合わせとしては、例えば、シスプラチンとアドリアマイシンとの組み合わせ、他のシスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16から選択される薬剤の組み合わせが挙げられるがそれらに限定されない。
【0199】
好ましくは、分析した糖鎖構造がある薬剤(例えば、シスプラチン)に対して感受性を示す場合、本発明において選択されるべき処置または予防は、その薬剤(例えば、シスプラチン)を被検体に投与することが有利である。そのような場合、被検体において選択した薬剤が有効であることが予めわかっていることから、無駄な治療または予防を施すことを回避することができる。被検体に投与する薬剤は、その被検体に対してアレルギーなどの別の好ましくない有害反応を惹起しないことが好ましい。そのような有害反応を惹起すると、有効であることが判明した薬剤といえども、生体自身に有効に作用する効果を超える有害作用を生じる可能性があるからである。しかし、そのような有害反応が克服可能であるか、無視し得る場合、そのような有害反応を惹起する可能性のある薬剤でも使用することができる。そのような有害反応を惹起する可能性のある薬剤を投与する場合は、そのような有害反応を回避する処置(例えば、アレルギー回避のための薬剤の投与など)をさらに行うことが好ましくあり得る。そのような有害反応回避処置もまた、当業者は、当該分野において公知の技術を用いて選択し、行うことができる。
【0200】
本発明の特定の実施例において、分析される糖鎖構造はM8.1,M6.1,100.4,300.18,H5.12,H4.12,200.2,200.3,200.4,400.16,210.1,300.22,210.4,410.16,310.8からなる群より選択される糖鎖を少なくとも含み得る。このような場合、薬剤耐性レベルは、シスプラチンに対する耐性レベルを含み得る。
好ましい実施形態において、本発明の処置または予防方法およびシステムが対象とする被検体は、哺乳動物であり、より好ましくは、有益動物(例えば、家畜(ウシ、ブタ、ウマなど)など)であり得、もっとも好ましくは、ヒトであり得る。好ましくは、処置または予防の対象となる被検体は、処置または予防などを行うことが意図される被検体である。好ましくは、このような方法およびシステムでは、予め処置または予防の対象となる被検体の薬剤耐性、体質、疾患などに関する情報を得ていることが好ましい。そのような情報を多く集めるほど、より適切な個人対応型のテーラーメイド治療を行うことが可能となるからである。
【0201】
本発明の処置または予防方法およびシステムでは、糖鎖構造の分析は、複数の糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析を含むことが好ましい。このような複数の糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析は、絶対量を分析することおよび複数の糖鎖構造の相対量を分析することを包含する。また、相関付けは、薬剤に対する感受性および薬剤に対する耐性と該複数の糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報との相関付けを含むことが好ましい。
【0202】
本発明の処置または予防の方法およびシステムにおける糖鎖分析の対象は、アスパラギン結合型糖鎖、O−結合型糖鎖、糖脂質糖鎖、プロテオグリカンなどの糖鎖を含み得る。
【0203】
好ましい実施形態において、本発明において使用される糖鎖構造の分析は、質量分析、クロマトグラフィー、分光学分析による分析を用いた分析などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0204】
別の局面において、本発明は、被検体または病因の薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を提示する方法を提供する。この方法は、(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する工程;(b)分析された糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける工程;および(c)薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を選択する工程、を包含する。
【0205】
あるいは、被検体または病因の薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を提示するシステムを提供する。このシステムは、(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する手段;(b)分析された糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける手段;および(c)薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を選択する手段、を備える。
【0206】
被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する方法および手段は、本明細書において他の場所において詳述されるように、種々の分析技術を用いることができ、当業者は本明細書の開示を参照して実施することができる。分析された糖鎖構造と薬剤耐性レベルとの相関付けおよびそのための手段もまた、本明細書において他の場所において詳述されるように、種々の技術を用いることができ、当業者は本明細書の開示を参照して実施することができる。この場合、相関付けは、未知のデータを相関付けることもできるし、既知のデータと相関付けることも可能である。
【0207】
薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を選択および提示することは、いったんそのような薬剤耐性レベルに関する情報が与えられたならば、当業者は容易に実施することができる。選択および提示は、どのような形式で行ってもよい。好ましくは、選択および提示の方式としては、医師の処方箋の形式が採られ得るが、それに限定されない。提示の方式としては、紙媒体のようなものであってもよく、電子媒体(例えば、記録媒体または伝送媒体(例えばインターネット))を利用してもよい。
【0208】
薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を選択および提示をすることおよびそのための手段もまた、当業者は、いったんそのような薬剤耐性レベルに関する情報が与えられたならば、当業者は容易に実施することができる。従って、当業者は、本明細書の開示に従って薬剤耐性レベルに関する情報を得ることができ、そのような情報に基づいて、処置または予防の選択および提示をすることができる。そのような処置または予防としては、例えば、その被検体に関して感受性であることが判明した薬剤を選択し、その被検体に応じて処方することが挙げられるがそれに限定されない。このような方法およびシステムは、医師などの人間が実施することができ、あるいは、このような方法は、自動化された機械に行わせることも可能である。そのような機械は、糖鎖構造を分析する手段、糖鎖構造と薬剤耐性レベルとを相関付ける手段および薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を選択する手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段、および必要に応じてそのように選択された処置または予防を提示する手段を含み得る。
【0209】
選択された処置または予防を提示する手段としては、例えば、データ処理を行うことができ、かつ、そのように処理されたデータを提示するモニターが接続されたコンピュータなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような提示手段は、薬剤耐性に関する情報が格納された記録媒体を備えていることが好ましい。そのような情報を用いることによって、薬剤に関する情報を提示することが容易になり得る。
【0210】
本発明の処置または予防の提示方法において分析される糖鎖構造は、複数の糖鎖構造のセットを含むことが好ましい。複数の糖鎖構造のセットを分析することによって、薬剤耐性の情報との相関付けがより詳細に検討することができ、それにより、より適切な処置または予防方法を選択することができるからである。複数の糖鎖構造のセットの情報と、薬剤耐性の情報とが、相関付けることができることは従来知られておらず、本発明は、そのような予想外の発見に基づいて診断およびテーラーメイド治療を提示する方法およびシステムが提供されるという効果を奏する。
【0211】
別の実施形態において、本発明の処置または予防の提示方法は、抗がん剤に関す処置または予防であることが好ましいがそれに限定されない。そのような処置または予防の提示において使用され得る薬剤としては、例えば、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の開示前は、薬剤耐性は、対象となる被検体中の細胞中の遺伝子発現情報に基づく診断が試みられていた。本発明では、薬剤(例えば、抗がん剤)に対する標的(例えば、がん細胞)の薬剤耐性レベルが、予想外に糖鎖構造と相関付けることが見出されたことから、個人対応型の処置および予防を提示する方法およびシステムを提供することができるという多大な利点を有する。
【0212】
好ましい実施形態において、本発明が対象とする抗がん剤としては、例えば、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16などが挙げられるがそれらに限定されない。より好ましくは、そのような抗がん剤はシスプラチンであり得るがそれに限定されない。あるいは、そのような抗がん剤は、組み合わせで処方することができる。そのような組み合わせとしては、例えば、シスプラチンとアドリアマイシンとの組み合わせ、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される薬剤の組み合わせが挙げられるがそれらに限定されない。
【0213】
好ましくは、分析した糖鎖構造の構造、量、存在形式などに関する情報がある薬剤(例えば、シスプラチン)に対する感受性を示す場合、本発明の提示方法において提示される処置または予防は、その薬剤(例えば、シスプラチン)である。そのような場合、被検体において選択した薬剤が有効であることが予めわかっていることから、無駄な治療または予防を施すことを回避することができる。そのような薬剤は、別の実施形態において、複数の薬剤の組み合わせであってもよい。
【0214】
そのような薬剤は、その被検体に対してアレルギーなどの別の好ましくない有害反応を惹起しないことが好ましい。そのような有害反応を惹起すると、有効であることが判明した薬剤といえども、生体自身に有効に作用する効果を超える有害作用を生じる可能性があるからである。しかし、そのような有害反応が克服可能であるか、無視し得る場合、そのような有害反応を惹起する可能性のある薬剤が提示され得る。そのような場合、有害反応を起こし得る可能性を提示することが好ましい。好ましくは、そのような有害反応を惹起する可能性のある薬剤を投与する場合は、そのような有害反応を回避する処置(例えば、アレルギー回避のための薬剤の投与など)を提示することが有利である。そのような有害反応回避処置もまた、当業者は、当該分野において公知の技術を用いて選択し、行うことができる。
【0215】
本発明の提示方法の特定の実施例において、分析される糖鎖構造は、M8.1,M6.1,100.4,300.18,H5.12,H4.12,200.2,200.3,200.4,400.16,210.1,300.22,210.4,410.16,310.8からなる群より選択される糖鎖を少なくとも含み得る。このような場合、薬剤耐性レベルは、シスプラチンに対する耐性レベルを含み得る。
【0216】
好ましい実施形態において、本発明の処置または予防の提示方法が対象とする被検体は、哺乳動物であり、より好ましくは、有益動物(例えば、家畜(ウシ、ブタ、ウマなど)など)であり得、もっとも好ましくは、ヒトであり得る。好ましくは、処置または予防の提示方法の対象となる被検体は、処置または予防などを行うことが意図される被検体である。好ましくは、このような方法では、予め処置または予防の対象となる被検体の薬剤耐性、体質、疾患などに関する情報を得ていることが好ましい。あるいは、そのような情報は提示方法が実行されるたびに提供されてもよい。そのような情報の提示は、手動でもよく、あるいは記録媒体などから自動的に入力される形式をとってもよい。提示されるべき被検体に関する生物学的情報が予めわかっている場合は、そのような情報は記録媒体に格納されて提供され得る。このような提示方法によって、より適切な個人対応型のテーラーメイド治療を被検体は知ることができる。
【0217】
本発明の処置または予防の提示方法では、糖鎖構造の分析は、複数の糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析を含むことが好ましい。このような複数の糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報の分析は、絶対量を分析することおよび複数の糖鎖構造の相対量を分析することを包含する。また、相関付けは、薬剤に対する感受性および薬剤に対する耐性と該複数の糖鎖構造の量的変化の情報またはその関連情報との相関付けを含むことが好ましい。
【0218】
本発明の処置または予防の方法における糖鎖分析の対象は、アスパラギン結合型糖鎖、ムチン型糖鎖、糖脂質糖鎖、プロテオグリカンなどの糖鎖を含み得る。
【0219】
好ましい実施形態において、本発明の提示方法において使用される糖鎖構造の分析は、質量分析、クロマトグラフィー、分光学分析による分析を用いた分析などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0220】
本発明の処置または予防方法の提示を実行するコンピュータ構成の例を図8を参照して示す。図8は、本発明の処置または予防方法の提示の処理を実行するコンピュータの500の構成例を示す。
【0221】
コンピュータ500は、入力部501と、CPU502と、出力部503と、メモリ504と、バス505とを備える。入力部501と、CPU502と、出力部503と、メモリ504とは、バス505によって相互に接続されている。入力部501と出力部503とは入出力装置506に接続されている。
【0222】
コンピュータ500によって実行される相関付けの処理の概略を説明する。
【0223】
相関付け方法および/または処置もしくは予防の選択を実行させるプログラム(以下、それぞれ相関付けプログラムおよび選択プログラムという)は、例えば、メモリ502に格納されている。あるいは、相関付けプログラムおよび選択プログラムは、それぞれ独立してあるいは一緒に、フロッピー(登録商標)ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、DVD−ROMのような任意のタイプの記録媒体に記録され得る。あるいは、アプリケーションサーバに格納されていてもよい。そのような記録媒体に記録された相関付けプログラムおよび/または選択プログラムは、出入力装置506(例えば、ディスクドライブ、ネットワーク(例えば、インターネット))を介してコンピュータ500のメモリ504にロードされる。CPU502が相関付けプログラムおよび/または選択プログラムを実行することによって、コンピュータ500は、本発明の相関付け方法および/または選択方法の処理を実行する装置として機能する。
【0224】
入力部501を介して、糖鎖構造の分析の結果(例えば、配列情報、レベル、量など)および薬剤耐性に関する情報などを入力する。必要に応じて、糖鎖と相関付けられる状態、障害または疾患などの副次的情報、処置および/または予防に関する情報も入力してもよい。
【0225】
CPU502は、入力部501で入力された情報をもとに、糖鎖構造に関する情報と薬剤耐性レベルとを相関付け、メモリ504に相関データを格納する。その後、CPU502は、これらの情報をメモリ504に格納し得る。CPU502は、必要に応じて、これらの情報に基づき、適切な信号強度を選択する。生成された相関付けデータに基づいて、適切な処置または予防方法を選択または作成する。この情報をメモリ504に格納することもできる。
【0226】
その後、出力部503は、CPU502が選択した薬剤耐性レベルに関する情報、適切な処置または予防方法に関する情報などを出力する。出力されたデータは、入出力装置506から出力され得る。そのような出力されたデータは、紙媒体の形式として被検体またはその被検体を診察する医師などに提示されるか、あるいは、電子媒体(例えば、記録媒体または伝送媒体など)として提示され得る。そのような媒体での提示形式はどのようなものでも可能であるが、当局の基準に従うことが好ましい。したがって、処方箋または医療カルテの形式をとることが好ましくあり得る。
【0227】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0228】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定されることが理解されるべきである。
【実施例】
【0229】
以下において記載する実施例では、特に言及しない限り、Sigma(トリプシン)、Sigma(キモトリプシン)、Roche(N−グリコシダーゼF)、Calbiochem(プロナーゼ)から入手した試薬および装置を用いた。また、動物実験においては、千葉がんセンターにおいて規定される基準を遵守して行った。
【0230】
(実施例1:培養細胞を利用した薬剤耐性レベルのクロマトグラフィー分析による解析)
(細胞培養)
まず本実施例では、以下の培養細胞を例として用いて、抗がん剤に関する薬剤耐性レベルを解析した。
【0231】
A)KB3−1:抗がん剤シスプラチンに対して感受性を有する上皮性腫瘍培養細胞。
【0232】
B)KCP−4:KB3−1の変異薬剤耐性変異株であり、シスプラチンに対して耐性を有する株。
【0233】
C)KCP−4R:KCP−4が復帰変異を起こしてシスプラチン感受性に戻った株。
【0234】
上述の3つの株をRMP1640の培地のもとで培養した。これに加え、KCP−4株は、シスプラチン存在下(30μM)で培養した系(CDDPと称する)も用意した。これらをおのおの1試料ずつおよびKCP−4Rについては2試料を調製し、合計5試料を調製して以下の実験を行った。
【0235】
(糖鎖構造分析用試料の調製)
培養細胞を24〜72時間、37℃で、CO存在下という条件培養して各々の培養細胞を増殖させた。増殖した培養細胞を遠心分離により収集し、蒸留水中に懸濁した後、90℃および15分間の加熱処理を行い、凍結乾燥して保存した。
【0236】
凍結乾燥した培養細胞に、トリプシン(Sigma社製)、キモトリプシン(Sigma社製)を加え、37℃で16時間反応後、90℃10分間加熱して酵素を失活させた。室温まで放冷した後、N−グリコシダーゼF(組換え、Roche社製)を加えて37℃で24時間反応させて、糖タンパク質内のアスパラギン酸結合型糖鎖を遊離させた。さらにプロナーゼ(Calbiochem社製)を加え37℃で16時間反応させた後、バイオゲルP−4(Bio−Rad社製)で糖鎖を精製した。精製した糖鎖は、凍結乾燥後山本らの方法(J.Biochem.,105,547−555,1989)によって2−アミノピリジンにて蛍光標識を行った。蛍光標識した糖鎖(PA化糖鎖)は、Sephadex G−15(Amersham Bioscience社製)で精製した後シアル酸を外し、2次元マップ法およびクロマトグラフィーによって糖鎖構造およびその量比を分析した。その分析は、Tomiya et al.,Anal.Biochem.171,73−90,1988に従った。その分析方法は、簡略に述べると以下のとおりである。PA化糖鎖をHRC−ODSカラム(6mmx150mm、島津製作所製)を装着したHPLCで分離分析する。分析条件は0.1%1−ブタノールを含む10mM燐酸緩衝液pH3.8を1.0ml/分で流し,1−ブタノールの濃度を直線的に60分で0.25%まで上げる。カラム温度は55℃に保つ。検出は蛍光検出器で励起波長320nm、測定波長400nmで行う。この時、分析試料とは別に蛍光標識化α1,6グルコースオリゴマーの溶出時間を分析し、試料糖鎖の溶出時間を、蛍光標識化α1,6グルコースの重合度に換算する(グルコースユニット)。PA化糖鎖は糖鎖構造の違いによらず同じ蛍光強度を与えるため、クロマトグラムのピーク面積を糖鎖のモル量と見なす。また、ODSカラムで分離されたピークは夫々、Amide−80(4.6mmx250mm、東ソー製)を装着したHPLCで分離分析する。分析条件は移動相A(35%(v/v)0.5M酢酸トリエチルアミン緩衝液,65%アセトニトリル)とB(50%(v/v)0.5M酢酸トリエチルアミン緩衝液,50%アセトニトリル)で分析開始時はA100%から30分でB60%に直線的にBの濃度を高くする。流量は1.0ml/分、カラム温度は40℃に保つ。この時もODSと同じく分析試料とは別に蛍光標識化α1,6グルコースオリゴマーの溶出時間を分析し、試料糖鎖の溶出時間を、蛍光標識化α1,6グルコースの重合度に換算する(グルコースユニット)。HPLCでの溶出時間はカラムの劣化、移動相のロット差などにより変化しやすいが、グルコースユニットはそれらの変動を修正することができ、分析の再現性を上げる。ODSとAmideカラムでのグルコースユニットは既に420種類以上の糖鎖のデータがあり、そのデータを参照することにより糖鎖構造の候補が通常数個に絞られる。糖鎖にガラクトシダーゼ、フコシダーゼ、ヘキソサミニダーゼ、マンノシダーゼ、ノイラミニダーゼなど糖分解酵素を作用させるなど糖鎖構造の一部を変更する作業を行い、再度ODSとAmideのグルコースユニットを分析してデータと参照する。この糖鎖構造の一部変更作業は通常1回以上、3、4回行われることも珍しくない。また、これらの分析のときに、推定された構造と同じ糖鎖があれば同時に分析して精度を高める。元の候補と変更された試料の候補を比較検討し、構造変更作業に一致するものを選択することにより糖鎖構造を求める。ODS,Amideの2種類のカラムによる分離・分析を行う2次元マップ法にて糖鎖構造とその量比が正確に解析できるが、ある試料について一度2次元マップ法にて詳細に糖鎖構造を解析しておけば、一部分離不充分の糖鎖があるが、ODSの分析のみなど簡易化した分析にて糖鎖構造とその量比を知ることは可能である。
【0237】
(結果および相関付け)
以下に上記実験の結果を示す。その具体的なパターンは、図1(感受性細胞)および図2(耐性細胞)ならびに図3(ピーク比)に示されるように、ある特有のパターンが示された。抗癌剤感受性細胞に対する抗癌剤耐性細胞の糖鎖構造パターンの変化として特徴的なポイントとしては、例えば、210.4(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,6−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,3−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−(フコースα1,6−)N−アセチルグルコサミン)+410.16(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,6−)マンノースα1,6−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−)マンノースα1,3−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−(フコースα1,6−)N−アセチルグルコサミン)や310.8(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,6−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−)マンノースα1,3−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−(フコースα1,6−)GlcNAc)、300.18(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,6−)マンノースα1,6−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,3−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−N−アセチルグルコサミン)+H4.12(マンノースα1,3−マンノースα1,6−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,3−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−N−アセチルグルコサミン)+H5.12(マンノースα1,6−(マンノースα1,3−)マンノースα1,6−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,3−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−N−アセチルグルコサミン)の減少や、M8.1(マンノースα1,2−マンノースα1,6−(マンノースα1,3−)マンノースα1,6−(マンノースα1,2−マンノースα1,2−マンノースα1,3−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−N−アセチルグルコサミン)、M6.1(マンノースα1,6−(マンノースα1,3−)マンノースα1,6−(マンノースα1,2−マンノースα1,3−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−N−アセチルグルコサミン)、210.1(N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,6−(N−アセチルグルコサミン1,2−マンノースα1,3−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−(フコースα1,6−)N−アセチルグルコサミン)、300.22(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−マンノースα1,6−(ガラクトースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,2−(ガラクトースβ1,3−N−アセチルグルコサミンβ1,4−)マンノースα1,3−)マンノースβ1,4−N−アセチルグルコサミンβ1,4−N−アセチルグルコサミン)の増加が挙げられるがそれに限定されない。従って、これらを対比すると明らかなように、ある細胞または組織(ひいてはそれが由来する被検体)がこの抗がん剤に対して耐性を有するかまたは感受性を有するか、あるいはその薬剤耐性レベルをモニターすることができることが明らかになった。
【0238】
(実施例2:ヒト細胞を利用した薬剤耐性レベルの解析)
次に、ヒト細胞を用いて同様の薬剤耐性レベルの解析を行う。上述の条件と同様の条件にて実験を行うと、ヒト細胞においても、ある細胞または組織(ひいてはそれが由来する被検体)がこの抗がん剤に対して耐性を有するかまたは感受性を有するか、あるいはその薬剤耐性レベルをモニターすることができることが明らかになる。
【0239】
(実施例3:腫瘍組織を利用した薬剤耐性レベルの解析)
次に、マウス腫瘍組織から採取した組織を上述の実施例と同様の解析を行うと、ある組織(ひいてはそれが由来する被検体)がこの抗がん剤に対して耐性を有するかまたは感受性を有するか、あるいはその薬剤耐性レベルをモニターすることができることが明らかになる。
【0240】
(実施例4:別の薬剤を利用した解析)
次に、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16を用いて、上述の実施例と同様の実験を行うと、同様に、ある細胞または組織(ひいてはそれが由来する被検体)がこの抗がん剤に対して耐性を有するかまたは感受性を有するか、あるいはその薬剤耐性レベルをモニターすることができることが明らかになる。
【0241】
(実施例5:診断)
実際の臨床被検体から、がんを含むと思われる細胞または組織を取得し、シスプラチン耐性について上述のように調べることにより、シスプラチン耐性について診断することができる。また、同様に、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16に対する耐性についても診断することができる。
【0242】
(実施例6:テーラーメイド治療)
実施例5に記載した診断の結果に従って、シスプラチンに感受性を示した場合に、シスプラチンを投与すると、がんを処置することができる。これは、同様に、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16の場合でも同様である。従って、本発明により、実際にテーラーメイド治療を行うことができることが明らかになる。
【0243】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0244】
本発明は、糖鎖構造を解析することによって、予想外に薬剤耐性を詳細に分析することが可能となり、診断およびテーラーメイド治療が可能となった。このような技術は、医師以外の第三者が医療サービスとして利用および提供することができることから、産業上の利用可能性は充分にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖の存在比を分析する工程;および
(b)分析された該糖鎖存在比と、薬剤感受性由来の試料に含まれる糖鎖存在比および/または薬剤耐性由来の試料に含まれる糖鎖存在比とを比較する工程
を包含する、被検体または病因の薬剤耐性レベルを判定する方法。
【請求項2】
前記薬剤耐性レベルは、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤に対する耐性レベルを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される少なくとも1つの糖鎖の存在比を分析する工程を含み、シスプラチンに対する薬剤耐性レベルを判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
以下の工程:
(a)薬剤感受性株と被験物質を接触させる工程;
(b)上記工程(a)で得られた試料に含まれる糖鎖の存在比を分析する工程;および
(c)分析された該糖鎖存在比と、薬剤感受性由来の試料に含まれる糖鎖存在比および/または薬剤耐性由来の試料に含まれる糖鎖存在比とを比較する工程
を包含する、薬剤耐性治療剤のアッセイ方法。
【請求項5】
M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される少なくとも1つの糖鎖の存在比を分析する工程を含み、シスプラチンに対する薬剤耐性レベルを判定する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
以下の工程:
(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する工程;および
(b)分析された該糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける工程、
を包含する、被検体または病因の薬剤耐性レベルを診断する方法。
【請求項7】
前記薬剤耐性レベルは、シスプラチン、アドリアマイシン、カンプトテシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびV16からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤に対する耐性レベルを包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記糖鎖構造は、M8.1、M6.1、100.4、300.18、H5.12、H4.12、200.2、200.3、200.4、400.16、210.1、300.22、210.4、410.16および310.8からなる群より選択される糖鎖を少なくとも含み、前記薬剤耐性は、シスプラチンに対する耐性を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記糖鎖構造の分析は、複数の糖鎖構造の量的変化の情報の分析を含み、前記相関付けは、薬剤に対する感受性および薬剤に対する耐性と該複数の糖鎖構造の量的変化の情報との相関付けを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
以下の工程:
(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する工程;
(b)分析された該糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける工程;および
(c)該薬剤耐性レベルに応じた処置または予防を該被検体に施す工程、
を包含する、被検体または病因の薬剤耐性レベルに応じて該被検体を処置または予防する方法。
【請求項11】
以下の手段:
(a)被検体または病因からの試料に含まれる糖鎖構造を分析する手段;および
(b)分析された該糖鎖構造と、薬剤耐性レベルとを相関付ける手段、
を包含する、被検体または病因の薬剤耐性レベルを診断するシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/024419
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513704(P2005−513704)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012999
【国際出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【Fターム(参考)】