説明

簡易車体傾斜制御装置

【課題】高さ調整弁を利用した簡易車体傾斜制御装置でも、メンテナンスが複雑とならず、車体傾斜制御の動作が遅くならない。
【解決手段】延長した高さ調整弁11の作動軸12に配置した車体傾斜用のてこ13で、車体傾斜用の給気用ピストン14a又は排気用ピストン14bを押すように構成する。レバー15が水平状態の時には、高さ調整用のてこ16は、高さ調整用の給気用ピストン17a及び排気用ピストン17bのいずれも押すことがない中立位置を維持し、車体傾斜用のてこ13は、車体傾斜用の給気用ピストン14aを押した状態にしておく。高さ調整用ポート18にNO電磁弁19を、車体傾斜用ポート20にNC電磁弁21を配置する。
【効果】高さ調整弁を利用して車体傾斜制御を行うので、電磁弁箱が必要でなく、装置コストを下げることができる。また、高さ調整弁に機械要素を別途備えさせることがないので、メンテナンスが複雑になることもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転走行中の特に曲線区間通過時に、高さ調整弁を利用して、気体式ばね例えば空気ばねに給排気を行うことで、車体の傾斜制御を簡易に行う装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、曲線区間の通過時、超過遠心力によって乗心地が悪くなる場合がある。特に曲線区間の通過速度が高速の場合、超過遠心力が増大してさらなる乗心地の悪化を招く。そこで、曲線区間の通過時、車体を内軌側に傾斜させることにより超過遠心力を抑制して乗心地の悪化を防ぐ車体の傾斜制御が実施されている。
【0003】
この車体の傾斜制御として、車体を支持する左右の空気ばねへの空気の給排気を制御してこれを伸縮させることにより傾斜させる方法がある。以下、この方式の車体傾斜制御を、空気ばね式の車体傾斜制御という。
【0004】
この空気ばね式の車体傾斜制御装置は、空気ばねの高さから給排気指令を決定する傾斜制御器(計算機)と、給排気指令に従って電磁弁を開閉して空気ばねへの給排気を実施する電磁弁箱と、空気ばね高さを計測する高さセンサから構成されている。
【0005】
これらの構成部品のうち、電磁弁箱は、流量の調整やフェールセーフを実現するための多数の電磁弁を組み合わせて収めたものであるため、装置が大きくなり、また組立の手間も掛かる。従って、電磁弁箱に納める電磁弁装置を簡略化できれば、車体傾斜装置のコストを下げることが可能になる。
【0006】
そこで、高さ調整弁を利用した簡易車体傾斜制御装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【0007】
しかしながら、特許文献1で提案された高さ調整弁を利用した簡易車体傾斜制御装置は、作動軸をモータで正逆回転させたり、連結棒の長さを変更するという機械要素を備えるため、メンテナンスが複雑となる。また、通常の高さ調整弁の給排気量では車体傾斜に必要な流量を供給できないため、車体傾斜の動作が遅くなる。なお、大流量の高さ調整弁とすると、通常走行時の給排気が過剰となって、ハンチングなどの問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−262438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、高さ調整弁を利用した従来の簡易車体傾斜制御装置は、機械要素を備えるためにメンテナンスが複雑になり、また、通常の高さ調整弁の給排気量では車体傾斜に必要な流量を供給できないため、車体傾斜の動作が遅くなるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の簡易車体傾斜制御装置は、
高さ調整弁を利用した簡易車体傾斜制御装置であっても、メンテナンスが複雑とならず、また、車体傾斜の動作が遅くなることもないようにするために、
台車に取付けた空気ばねにより車体を支持する鉄道車両であって、
この鉄道車両は、予め記憶しておくか又は車両走行時に入手する線路情報を保持する線路情報保持手段を備え、
台車又は車体に取付けられ、前記台車に対する前記車体の相対的な高さに応じて前記空気ばねの高さを調整する高さ調整弁の作動軸を延長し、この延長した作動軸に配置した車体傾斜用のてこで、車体傾斜用の給気用ピストン又は排気用ピストンを押すように構成し、かつ、高さ調整用の給気用ピストン及び排気用ピストンと連通する高さ調整用ポートに加えて前記車体傾斜用の給気用ピストン及び排気用ピストンと連通する車体傾斜用ポートを設けると共に、この2つのポートを切り替える手段を備えたことを最も主要な特徴としている。
【0011】
また、本発明の簡易車体傾斜制御装置は、
台車に取付けた空気ばねにより車体を支持する鉄道車両であって、
この鉄道車両は、予め記憶しておくか又は地上子を通過する時に入手する線路情報を保持する線路情報保持手段を備え、
台車又は車体に取付けられ、前記台車に対する前記車体の相対的な高さに応じて前記空気ばねの高さを調整する高さ調整弁の作動軸を延長し、この延長した作動軸に配置した車体傾斜用のてこで、車体傾斜用の給気用ピストン又は排気用ピストンを押すように構成すると共に、
前記作動軸を一方端部に取付け、他方端部には、前記車体又は前記台車に一方を回動可能に支持された連結棒の他方を回動可能に取付けたレバーが水平状態の時には、高さ調整用のてこは、高さ調整用の給気用ピストン及び排気用ピストンのいずれも押すことがない中立位置を維持する一方、車体傾斜用のてこは、車体傾斜用の給気用ピストンを押した状態となるようにしておき、
かつ、前記高さ調整用の給気用ピストン及び排気用ピストンと連通する高さ調整用ポートと、前記車体傾斜用の給気用ピストン及び排気用ピストンと連通する車体傾斜用ポートを切り替えるべく電磁弁を配置したことを主要な特徴としている。
【0012】
本発明の簡易車体傾斜制御装置の場合、曲線に差し掛かると、外軌側の空気ばねの車体傾斜用ポートを開き、高さ調整用ポートを閉じることで、高さ調整弁の、中立点をずらせたピストンによる給排気により、外軌側の空気ばね高さが上昇して車体が傾斜する。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、高さ調整弁を利用して車体傾斜を行うので、電磁弁箱が必要でなく、装置コストを下げることができる。また、高さ調整弁に機械要素を別途備えさせることがないので、メンテナンスが複雑になることもない。さらに、車体傾斜用の空気回路が高さ調整用の空気回路と独立しているので、車体傾斜用に大流量の給排気特性を設定することで、従来の問題点であった車体の傾斜動作が遅くなることもない。またさらに、高さセンサをリミットスイッチなどで代用すれば、高さセンサを省略することも考えられる。
【0014】
本発明の簡易車体傾斜制御装置は、傾斜角度や走行速度を細かく指定できないものの、実際の運用では車体傾斜が必要となるのは半径が非常に小さな曲線であり、そのような曲線はだいたい同じようなカント量、緩和曲線長となる。従って、傾斜角度や走行速度の微調整は不要である場合が多いので、簡易な車体傾斜制御装置としては傾斜機能のON/OFFのみ制御できれば良く、本発明の簡易車体傾斜制御装置で十分である。
【0015】
ちなみに、例えば在来線の急曲線の典型例である曲線半径が400m、カント量が105mmの場合、通常、走行速度は80〜85km/hr程度に設定されるが、2度の車体傾斜を実施すればこれを90〜100km/hrまで引き上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】高さ調整弁の基本構成を示した図である。
【図2】高さ調整弁を2台装備して車体傾斜を行う場合の説明図で、(a)は通常走行時、(b)は車体傾斜制御時を示した図である。
【図3】本発明の簡易車体傾斜制御装置の説明図で、(a)が平面方向からみた概略図、(b)は車体傾斜用の構成部分を説明する図、(c)は高さ調整用の構成部分を説明する図、(d)は空気回路図を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、高さ調整弁を利用した車体傾斜制御であっても、メンテナンスが複雑とならず、また、車体傾斜の制御動作が遅くなることもないようにすることを目的とするものである。
【0018】
そして、上記目的を、延長した作動軸に車体傾斜用のてこを配置して車体傾斜用の給気用ピストン又は排気用ピストンを押すように構成すると共に、レバーが水平状態の時には、高さ調整用のてこは、高さ調整用の給気用ピストン及び排気用ピストンのいずれも押すことがないようにする一方、車体傾斜用のてこは、車体傾斜用の給気用ピストンを押した状態にしておくことによって実現した。
【実施例】
【0019】
以下、新しい着想について説明した後、新しい着想から課題解決に至るまでの経過と共に、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を用いて説明する。
【0020】
高さ調整弁の基本構成を図1に示す。高さ調整弁1は、その一方端部に取付けた作動軸2を中心とするレバー3の回転により、作動軸2に取付けたてこ4によって給気用ピストン5aあるいは排気用ピストン5bが押され、レバー3を水平に保つように空気ばねへの給排気が行われるようになっている。なお、その一方端部に作動軸2を取付けたレバー3の他方端部には、例えば台車に一方を回動可能に支持された連結棒の他方が回動可能に取付けられている。
【0021】
ここで、発明者は、前記高さ調整弁1のほかに、図2(a)に示すように、レバー3が水平となる高さを上方にずらせた高さ調整弁6をもう1台装備させることを考えた。このような構成とすれば、車体7の傾斜時には、図2(b)に示すように、曲線外側の空気ばね8の回路をもう1台の高さ調整弁6に切り替えれば、切り替えた空気ばね8の高さが上昇するので、車体7を傾斜することができる。なお、図2中の9は台車、10は連結棒である。
【0022】
ただし、この構成の場合、高さ調整用と車体傾斜用の2台の高さ調整弁を装備しなければならないので、装置サイズが大きくなりすぎる。
【0023】
そこで、発明者は、高さ調整弁の装置サイズを小さくするために、2台の高さ調整弁を装備するのではなく、高さ調整弁の背面に給気用ピストンと排気用ピストンをもう一組配置し、作動軸を延長して接続することを考えた。
【0024】
すなわち、本発明の簡易車体傾斜制御装置は、図3(a)に示すように、高さ調整弁11の作動軸12を背面側に延長し、この延長した作動軸12に車体傾斜用のてこ13を配置するのである。
【0025】
そして、レバー15が水平状態の時には、図3(c)に示すように、高さ調整用の給気用ピストン17a及び排気用ピストン17bのいずれも押すことがない中立位置を維持する高さ調整用のてこ16に対して、車体傾斜用のてこ13は、図3(b)に示すように、車体傾斜用の給気用ピストン14aを押した状態となるようにしておくのである。
【0026】
上記構成とした場合、1台の高さ調整弁11に、高さ調整用と車体傾斜用の機能を組み込むことができるため、装置サイズを小型化することができる。
【0027】
上記構成に加えて、車体傾斜時の切り替えのため、図3(d)に示すように、前記高さ調整用の給気用ピストン17a及び排気用ピストン17bと連通する高さ調整用ポート18には、NO(ノーマルオープン)電磁弁19を配置する。一方、前記車体傾斜用の給気用ピストン14a及び排気用ピストン14bと連通する車体傾斜用ポート20には、NC(ノーマルクローズ)電磁弁21を配置する。
【0028】
上記構成の本発明の簡易車体傾斜制御装置では、曲線に差し掛かると、外軌側の空気ばねの車体傾斜用ポート20に配置されたNC電磁弁21を開き、高さ調整用ポート18に配置されたNO電磁弁19を閉じるだけで良い。
【0029】
そうすると、給気用ピストン14aがてこ13により押されているため、元だめから車体傾斜用ポート20を通って外軌側の空気ばねに給気され、外軌側の空気ばね高さが上昇して車体の傾斜がおこなわれる。
【0030】
その際、車体傾斜用の空気回路が高さ調整用の空気回路よりも大流量の給排気特性となるように設定しておけば、従来の問題点であった車体傾斜制御の遅さを解決することができる。
【0031】
また、本発明の場合、従来提案された高さ調整弁を利用した簡易車体傾斜制御のように、作動軸や連結棒を機械的に動作させることがないので、構造が簡単で、信頼性が高くなる。
【0032】
また、本発明では、電磁弁の配置を工夫することで、容易にフェールセーフ構成とすることができる。例えば、NO電磁弁を並列配置、NC電磁弁を直列配置とすればよい。
【0033】
なお、本発明の簡易車体傾斜制御装置を適用する鉄道車両は、予め記憶しておくか又は地上子を通過する時に入手する線路情報を保持する線路情報保持手段を備えていることは言うまでもない。
【0034】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0035】
例えば高さ調整弁11が車体7に取付けられている場合は、作動軸12を一方端部に取付けた前記レバー15の他方端部に回動可能に取付ける連結棒10は、図2に示すように台車9に取付けられるが、高さ調整弁11が台車9に取付けられる場合は、連結棒10は車体7に取付けられる。
【0036】
また、前記NO電磁弁19、NC電磁弁21に換えて3方向弁を用いても良い。
【符号の説明】
【0037】
7 車体
8 空気ばね
9 台車
10 連結棒
11 高さ調整弁
12 作動軸
13 てこ
14a 給気用ピストン
14b 排気用ピストン
15 レバー
16 てこ
17a 給気用ピストン
17b 排気用ピストン
18 高さ調整用ポート
19 NO電磁弁
20 車体傾斜用ポート
21 NC電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車に取付けた空気ばねにより車体を支持する鉄道車両であって、
この鉄道車両は、予め記憶しておくか又は車両走行時に入手する線路情報を保持する線路情報保持手段を備え、
台車又は車体に取付けられ、前記台車に対する前記車体の相対的な高さに応じて前記空気ばねの高さを調整する高さ調整弁の作動軸を延長し、この延長した作動軸に配置した車体傾斜用のてこで、車体傾斜用の給気用ピストン又は排気用ピストンを押すように構成し、かつ、高さ調整用の給気用ピストン及び排気用ピストンと連通する高さ調整用ポートに加えて前記車体傾斜用の給気用ピストン及び排気用ピストンと連通する車体傾斜用ポートを設けると共に、この2つのポートを切り替える手段を備えたことを特徴とする簡易車体傾斜制御装置。
【請求項2】
台車に取付けた空気ばねにより車体を支持する鉄道車両であって、
この鉄道車両は、予め記憶しておくか又は地上子を通過する時に入手する線路情報を保持する線路情報保持手段を備え、
台車又は車体に取付けられ、前記台車に対する前記車体の相対的な高さに応じて前記空気ばねの高さを調整する高さ調整弁の作動軸を延長し、この延長した作動軸に配置した車体傾斜用のてこで、車体傾斜用の給気用ピストン又は排気用ピストンを押すように構成すると共に、
前記作動軸を一方端部に取付け、他方端部には、前記車体又は前記台車に一方を回動可能に支持された連結棒の他方を回動可能に取付けたレバーが水平状態の時には、高さ調整用のてこは、高さ調整用の給気用ピストン及び排気用ピストンのいずれも押すことがない中立位置を維持する一方、車体傾斜用のてこは、車体傾斜用の給気用ピストンを押した状態となるようにしておき、
かつ、前記高さ調整用の給気用ピストン及び排気用ピストンと連通する高さ調整用ポートと、前記車体傾斜用の給気用ピストン及び排気用ピストンと連通する車体傾斜用ポートを切り替えるべく、電磁弁を配置したことを特徴とする簡易車体傾斜制御装置。
【請求項3】
前記高さ調整用ポートと前記車体傾斜用ポートを切り替える電磁弁の配置としては、
前記高さ調整用ポートにNO電磁弁を、前記車体傾斜用ポートにNC電磁弁を配置したものであることを特徴とする請求項2に記載の簡易車体傾斜制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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