説明

米粉を含んだ菓子及びその製造方法

【課題】
米粉のみを用いても硬くなったり、ぼそぼそとした食感にならないクラッカー、乾パン、プレッツェル等の菓子を提供することを目的としている。
【解決手段】
米粉を主原料とする菓子生地を所定の形状に成形した後に100℃未満の高温蒸気雰囲気中に所定時間通して表面側のデンプンを優先的にα化した後に、焼成処理、フライ処理、蒸煮処理、マイクロ波処理、加圧処理のいずれかの処理を行うことを特徴とするクラッカー、乾パン、プレッツェル等の菓子の製造方法を提供することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉を原料として用いたクラッカー、乾パン、プレッツェル等の菓子に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来から小麦粉を使用し、イースト発酵させた菓子としてクラッカーや乾パン、プレッツェル等が知られる。クラッカーはイーストを用いて中種をつくり、発酵させ、更に小麦粉を加えて練り「本種」を作って発酵させることにより、2度の発酵工程を経た後に圧延されて焼成されて成るものである。乾パンはクラッカーと異なり、ホイロ(プルーフ)の発酵工程を経る点で異なる。つまり、オーブンで焼成される前に、高温多湿な環境下で再発酵させる点に特徴がある。プレッツェルはエクストルーダから押し出された生地を再発酵させてアルカリの湯の中を通すことを特徴とする菓子である。
【0003】
これらの菓子を、米粉を用いて製造する方法が提案されており、例えば特許文献1では米粉を用いてプレッツェルを提供する方法が開示されている。この文献によれば、一度焼成後、切断することで、アルカリ処理されていない面を発現させ、さらに再度焼成または乾燥させることで、水分飛散の時間を短縮する方法が開示されている。この方法によれば最終乾燥または焼成時での割れ欠けをさらに減少させ、また、独特の好ましい硬くて噛みごこちが良い食感でかつ口溶けの良い食感を得ることが可能になった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−109767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明においては、米粉のみを使用した菓子ではなく、小麦粉と米粉の重量比が30:70〜95:5となるような配合で使用されている。又、一般に米粉のみを使用して菓子を製造した場合は硬くなったり、あるいはぼそぼそになったりする等の問題があった。
【0006】
そこで本発明では米粉のみを用いても美味に食することのできるクラッカー、乾パン、プレッツェル等の菓子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)米粉を主原料とする菓子生地を100℃未満の高温蒸気雰囲気中に所定時間通して表面側のデンプンを優先的にα化した後に、焼成処理、フライ処理、蒸煮処理、マイクロ波処理、加圧処理のいずれかの処理を行うことを特徴とする菓子の製造方法を提供することにより、前記課題を解決する。
【0008】
(2)米粉を100℃未満の湯を用いて湯練りして生地を調製する生地調製工程と、生地を所定の形状に成形する工程と、前記成形した生地を100℃未満の高温蒸気雰囲気の中に所定時間通して表層側のデンプンを優先的にα化する表層側α化工程と、前記α化工程を経た菓子生地を焼成処理、フライ処理、蒸煮処理、マイクロ波処理、加圧処理のいずれかの処理を行うことを特徴とする(1)に記載の菓子の製造方法を提供することにより、前記課題を解決する。
【0009】
(3)米粉と水とを混合する生地混合工程と、前記米粉と水とを主原料とする生地を所定の時間経過させる寝かし工程と、前記生地を所定の形状に成形する工程と、前記成形した生地を100℃未満の高温蒸気雰囲気の中に所定時間通して表層側のデンプンを優先的にα化する表層側α化工程と、前記α化工程を経た菓子生地を焼成処理、フライ処理、蒸煮処理、マイクロ波処理、加圧処理のいずれかの処理を行うことを特徴とする(1)に記載の菓子の製造方法を提供することにより、前記課題を解決する。
【発明の効果】
【0010】
小麦粉を用いることなく、米粉のみを用いて菓子を製造した場合であっても、ぼそぼそとした食感にならず、又、硬くならない菓子を提供できる。
【0011】
本発明では、湯練りの際に一部をα化し、その後高温蒸気に暴露することにより、生地の表層側のみを積極的にα化でき、これにより表面に滑らかさと粘りが与えられる。同時に内部はβ成分が残されているので、菓子が出来上がった際にパリッとした食感を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態にかかる菓子とその製造方法について説明する。原料粉は米を粉状にした米粉である。米は日本で主に生産されているうるち米を使用するが、これ以外にももち米やタイ米等も使用することは可能である。
【0013】
米粉の粒度は40〜60μmが好ましく、約50μmがより好ましい。また、粒度はできるだけ均一であることが好ましい。
【0014】
本実施形態にかかる製造方法について図1のフローチャートを用いて説明する。
【0015】
(生地調製工程)
米粉100kgに対して湯を好ましくは40〜50kg加えて湯練りを行う。また、湯は好ましくは85〜95℃のものを用い、3〜7分間かけて行う。上記温度の湯を使用した場合には、湯練りは60〜70℃で開始され、最終的には50℃前後になる。
上記した湯の量及び温度、さらに湯練り時間であれば、混練後の団塊を押し出す時に、最小限必要な程度にまでα化を進ませ、且つその時点で停止させることができる。
注目すべきことは、上記湯練りを行うことによって団塊のα化度、すなわち糊化度が均一になっている点である。このように糊化度が均一になっていることにより必要最小限の糊化度により、圧延することができる。
尚、米粉の一部をα化した後に、それと残りの米粉を合わせて混練することが特許文献2には記載されているが、この場合にはいくら混練してもα化デンプンは均一になり難く、押出して製麺化するためにはかなりα化デンプンの割合を高くさせなくてはならず、結果として餅状化してしまう。
【0016】
(成形工程)
団塊をエクストルーダにより押出す。エクストルーダはホッパーと、押出しスクリューと、押出しスクリューを回転駆動する駆動モータと、押出しスクリューの先端に配設された成形ダイスとを備えたエクストルーダを使用して行う。ホッパーから投入された団塊は、押出しスクリューの回転により、団塊が先端側に移送され、成形ダイスから押出されて成形される。エクストルーダの温度は好ましくは35℃以下、より好ましくは約30℃に設定する。
成形ダイスは種々の大きさ、形状のものを着脱できるようになっており、目的とする形状のものを用いる。
【0017】
(表面α化工程)
成形した菓子の生地を100℃未満の高温蒸気に暴露する。好ましくは、88〜98℃の高温蒸気に1〜5分間暴露する。例えば、高温蒸気で満たされたトンネルを所定の速度で移動することによりこの工程を行うことができる。この工程により、菓子の生地の表層側のα化デンプンの分布度が優位的に高くなる。
デンプンの糊化度が、全体が25〜35%で、全体に対して表層側が10%増し以上になっているのが好ましく、全体が27〜33%で表層側が10%増しになっているのが好ましい。
なお、表層側とは、生地の厚さに対して片面側から1/6程度の厚さまでを想定している。表層側は両側に存在するので、幅方向に占める割合は合計として1/3となる。
また、糊化度(α化度)は、βアミラーゼ・ブルナーゼ法等により測定できる。
【0018】
(切り出し工程)
菓子の生地を送風機で冷却しながら、適当な形状に切り出す。
【0019】
(調理工程)
焼成処理、フライ処理、蒸煮処理、マイクロ波処理、加圧処理のいずれかの調理を行い、味付けを行う。このようにして製造した場合、図2及び図3に示すような菓子が得られる。図3は菓子の生地に胡麻を加えたものであるが、適宜従来から行われている添加物を加えることができる。
【実施例1】
【0020】
上記最適な実施例を応用して乾パンを製造する実施例について説明する。米粉100重量部に対して、砂糖1〜10重量部、より好ましくは5重量部、食塩0.1〜2重量部、より好ましくは0.7重量部、イースト0.001〜1重量部、好ましくは0.05重量部、水(25℃)30〜50重量部、より好ましくは40重量部の材料から、本実施例にかかる乾パンは構成される。本実施例にかかるプレッツェルは構成される。尚、米粉について、上新粉(うるち米)100又は80〜90重量部、もち米粉(もち米)10〜20重量部を混合して用いることにより、100重量部としても良い。好ましい配合割合は表1に示す通りである。
【0021】
【表1】

【0022】
製造工程について図4に示すブロック図を用いて説明する。まず、上記材料を混合し(生地混合工程)、30℃の環境下で30分練る。その後、30℃3時間の間、生地を寝かす(寝かし工程)。その後ホッパーにより押出しが行われ、該生地に高温蒸気を当てて、表面α化工程を施す。表面α化工程については上述の方法と同様であるため、省略する。その後、所定の形状に切り出され、ホイロ(発酵)させた後に200℃20分焼成される。尚、ホイロは内層が不均質(気泡が多く、もろいもの)の場合はこの工程は不要である。
【実施例2】
【0023】
上記最適な実施例を応用してビスケットを製造する実施例について説明する。米粉100重量部に対して砂糖20〜30重量部、より好ましくは25重量部、ショートニング(バター・マーガリン)5〜10重量部、より好ましくは7重量部、ブドウ糖1〜5重量部、より好ましくは2重量部、重曹0.1〜1.0重量部、より好ましくは0.6重量部、炭安(炭酸アンモニウム)0.5〜2重量部、より好ましくは1.5重量部、食塩0.3〜1.5重量部、より好ましくは0.6重量部、水(40〜45℃)20〜50重量部、より好ましくは30〜40重量部の材料から、本実施例にかかるビスケットは構成される。好ましい配合割合は上記表1に示す通りである。
【0024】
製造工程について図5に示すブロック図を用いて説明する。まず、上記材料を40℃の環境下で3〜5分混合し(生地混合工程)、その後40℃の環境下で30分寝かせる(寝かし工程)。その後ホッパーにより押出しが行われ、該生地に高温蒸気を当てて、表面α化工程を施す。表面α化工程については上述の方法と同様であるため、省略する。その後、所定の形状に切り出され、200℃15分焼成される。尚、ホイロは内層が不均質(気泡が多く、もろいもの)の場合はこの工程は不要である。
【実施例3】
【0025】
次に上記最適な実施例を応用してプレッツェルを製造する実施例について説明する。米粉100重量部に対してショートニング2〜5重量部、より好ましくは3.5重量部、食塩0.5〜2重量部、より好ましくは1重量部、イースト0.1〜0.5重量部、より好ましくは0.2重量部、水(25℃)30〜60重量部、より好ましくは45〜50重量部の材料から、本実施例にかかるプレッツェルは構成される。尚、米粉について、上新粉(うるち米)100又は80〜90重量部、もち米粉(もち米)20〜10重量部を混合して用いることにより、100重量部としても良い。好ましい配合割合は上記表1に示す通りである。
【0026】
製造工程について図6に示すブロック図を用いて説明する。まず、上記材料を27℃の環境下で10分程混合し(生地混合工程)、その後30℃の環境下で30分寝かせる(寝かし工程)。その後ホッパーにより押出しが行われ、該生地に高温蒸気を当てて、表面α化工程を施す。表面α化工程については上述の方法と同様であるため、省略する。その後、所定の形状に切り出され、アルカリ処理された後に200℃15分焼成される。尚、焼成時間については連続式オーブンの場合、前半180〜200℃、中間220〜250℃、後半120〜150℃に設定し、それぞれ3分〜10分程度、望ましくは夫々5分ずつ、加熱することもできる。
【実施例4】
【0027】
次に上記最適な実施例を応用してクラッカーを製造する実施例について説明する。米粉100重量部に対して、イースト0.1〜0.5重量部、より好ましくは0.25重量部、水(20℃)20〜50重量部、より好ましくは35〜40重量部の材料から、本実施例にかかるクラッカーは構成される。好ましい配合割合は上記表1に示す通りである。
【0028】
上記材料を混合して「中練」と呼ばれる工程を行う。本工程は生地混合工程と同様のものである。その後、25度の環境下で18時間発酵を行う。
【0029】
次に本練と呼ばれる工程を行う。ショートニング5〜15重量部、より好ましくは10重量部、ブドウ糖0.5〜5重量部、より好ましくは1.5重量部、重曹0.1〜1.5重量部、より好ましくは0.65重量部、食塩0.5〜3重量部、より好ましくは1.5重量部を混合する。
【0030】
製造工程について図7に示すブロック図を用いて説明する。まず、上記材料を30℃の環境下で5分程混合し、その後30℃の環境下で30分寝かせる(寝かし工程)。その後ホッパーにより押出しが行われ、該生地に高温蒸気を当てて、表面α化工程を施す。表面α化工程については上述の方法と同様であるため、省略する。その後、所定の形状に切り出され、アルカリ処理された後に200℃15分若しくは260〜300℃で3〜4分焼成される。
【0031】
尚、本明細書に記載された実施例は一例であり、材料の配合条件や焼成時間・混合時間・寝かし時間等の製造方法は適宜設定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る菓子の製造方法のブロック図である。
【図2】本発明に係る菓子の写真である。
【図3】本発明に係る菓子の写真である。
【図4】本発明を用いた乾パンの製造方法のブロック図である。
【図5】本発明を用いたビスケットの製造方法のブロック図である。
【図6】本発明を用いたプレッツェルの製造方法のブロック図である。
【図7】本発明を用いたクラッカーの製造方法のブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉を主原料とする菓子生地を100℃未満の高温蒸気雰囲気中に所定時間通して表面側のデンプンを優先的にα化した後に、焼成処理、フライ処理、蒸煮処理、マイクロ波処理、加圧処理のいずれかの処理を行うことを特徴とする菓子の製造方法。
【請求項2】
米粉を100℃未満の湯を用いて湯練りして生地を調製する生地調製工程と、
前記生地を所定の形状に成形する工程と、
前記成形した生地を100℃未満の高温蒸気雰囲気の中に所定時間通して表層側のデンプンを優先的にα化する表層側α化工程と、
前記α化工程を経た菓子生地を焼成処理、フライ処理、蒸煮処理、マイクロ波処理、加圧処理のいずれかの処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の菓子の製造方法。
【請求項3】
米粉と水とを混合する生地混合工程と、
前記米粉と水とを主原料とする生地を所定の時間経過させる寝かし工程と、
前記生地を所定の形状に成形する工程と、
前記成形した生地を100℃未満の高温蒸気雰囲気の中に所定時間通して表層側のデンプンを優先的にα化する表層側α化工程と、
前記α化工程を経た菓子生地を焼成処理、フライ処理、蒸煮処理、マイクロ波処理、加圧処理のいずれかの処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の菓子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−109(P2008−109A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175195(P2006−175195)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【特許番号】特許第3934667号(P3934667)
【特許公報発行日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(506100462)
【出願人】(505395630)杢屋食品株式会社 (4)
【出願人】(503417442)
【出願人】(501118406)株式会社アーシュ・ツジグチ (7)
【Fターム(参考)】