説明

米飯品質向上保持剤及びその製造方法、並びに、それを用いた米飯及び炊飯方法

【課題】 食品添加物として扱われない物質を使用し、米飯の味質を改善すると同時に、細菌繁殖抑制作用等による品質保持とを両立させて、炊飯から時間が経っても炊きたての美味を維持できる品質向上保持剤とその製造方法、並びに、その品質向上保持剤を用いた米飯とその米飯の炊飯方法を提供すること。
【解決手段】 米飯の食味改善と品質保持とを両立する品質向上保持剤であって、有機酸発酵液を少なくとも褐変するまで濃縮することにより得られ、米飯の炊飯時に添加して用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯の食味改善と品質保持とを両立する品質向上保持剤と、その製造方法、並びに、その品質向上保持剤を用いた米飯と、その米飯の炊飯方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで販売される弁当や寿司等を家庭に持ち帰って食する「中食」という生活スタイルが昔に比べて非常に普及している。
中食市場において米飯は主食であり、非常に多く消費されるものである。できたてがおいしいとされる米飯は、家庭にて炊飯調理を行い、米質の低下しにくい保温条件等で保管されたものを食することが従来ほとんどであった。
【0003】
しかし、「中食」における米飯は、製造工場にて炊飯を行った後、トレーやフィルムパックに包装され、消費者の口にはいるまでに12〜48時間程度経過しているものが多い。このような時間経過により、食味の低下や品質の劣化が生じ、それを改善することが課題として挙げられていた。
【0004】
また近年の消費者における食への意識は、おいしさと安全性の両面において非常に高まっている。具体的には原料産地へのこだわりや化学合成による食品添加物使用品を避ける傾向も強く、食品を提供する際には従来以上にこれらの点を重視しなくてはならないものとなっている。
【0005】
これらの課題を解決するために、従来より食味改善効果を有する糖類や酵素系食味改善剤等が米飯製造時に使用されてきた。これらは、米の質感向上においての効果はよいものであるが、品質保持効果においては十分ではない。品質保持効果が十分ではないために、単一の使用ではなく、その効果を補うpH調整剤や醸造酢等と組み合わせて使用することが多い。
【0006】
例えば、特許文献1では、品質保持効果はあるが、米飯のおいしさを向上させる食味改善効果において十分な効果があるものではなかった。
【0007】
【特許文献1】特願2003−270588「有機酸、有機酸塩及びアミノ酸を含有する米飯日持向上剤」
【0008】
このように従来技術では、従来米飯の改良に効果があるとされる成分は、品質保持効果は有するが、食味改善効果の面において十分なものではなかったり、逆に食味改善効果は有するが品質保持効果が十分ではなかったりと、両効果を満足させるものではなかった。
また、消費者の満足する効果を補強するために食品添加物となる物質の使用が必要となることが多く、食品添加物使用品を避ける傾向に背かざるを得なかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、食品添加物として扱われないものを米飯に添加し、食味が改善され、かつ品質の劣化を抑えた米飯を提供するために、その品質向上保持剤と、その製造方法、並びに、その品質向上保持剤を用いた米飯と、その米飯の炊飯方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、有機酸発酵物を濃縮し得られるものを炊飯前に添加使用することにより、上記課題とされる米の質感等の食味が改善され、かつ品質劣化の少ない米飯を提供することを達成することができた知見に基づくものである。
【0011】
すなわち、本発明の米飯品質向上保持剤は、米飯の食味改善と品質保持とを両立する品質向上保持剤であって、有機酸発酵液を少なくとも色調に変化が生じるまで濃縮することにより得られ、米飯の炊飯時に添加して用いることを特徴とする。
【0012】
具体的な解決手段として、本発明における有機酸発酵液の原料は、穀物・果汁・野菜汁からなる群から選ばれるものが有効である。穀物としては、米類、麦類、とうもろこし、アワ、ヒエ、豆類等から選択することが可能である。果汁は、リンゴ、ブドウ、プルーン、柿等から選択することが可能である。野菜汁は、トマト、人参、さつまいも等の種々の野菜から選択することが可能である。
【0013】
有機酸発酵液のタンパク含有量は、穀物を原料とするものでは100〜30000mg/Lであり、より好ましくは200〜10000mg/L、果汁又は野菜汁を原料とするものでは、100〜20000mg/Lであり、より好ましくは200〜10000mg/Lであることが望ましい。
なお、原料としては、穀物と果汁の併用、穀物と野菜汁の併用、穀物と果汁と野菜汁の併用も可能であり、その場合のタンパク含有量もほぼ同様に、100〜30000mg/L、より好ましくは200〜10000mg/Lであることが望ましい。
タンパク含有量は、原料種類の選択、原料の配合割合、製造工程中における温度や発酵時間等により調整を行う。
【0014】
また本発明における濃縮方法は、膜濃縮、真空濃縮、凍結濃縮、加熱濃縮等の従来より利用される水分を取り除き、体積を小さくする濃縮方法であれば、任意の手段を適宜利用することが可能である。
【0015】
有機酸発酵液としては、特に酢酸発酵液又は乳酸発酵液が有効である。
【0016】
本発明における米飯品質向上保持剤の使用方法としては、特に制限はないが、好ましくは分散性がよいことから炊飯前に炊き水に添加することが挙げられる。しかし、炊飯前に添加するのであれば、任意の方法が適宜利用可能である。
【0017】
本発明における米飯品質向上保持剤の添加量については、米の種類や調理方法により異なるが、好ましくは生米質量に対し0.1〜5.0%、好ましくは0.1〜3.0%、さらに好ましくは0.1〜1.0%であることが望ましい。
【0018】
本発明における米飯類としては、精白米を炊飯したものに限らず、玄米、もち米等の使用される米の種類を問わない。米飯に調味加工を行う炊き込みご飯、炒飯、すし飯等の米飯品質向上保持剤として提供してもよい。
【0019】
本発明における有機酸発酵物を濃縮した米飯品質向上保持剤とトレハロースや還元水飴等の糖類及び、レシチン等の乳化剤や動物性油脂等の油性物質、糖アルコール・デキストリン等の米飯改善の効果が既知である成分と併用してもかまわない。好ましくは、パラチノース、トレハロース、オリゴ糖、還元水飴、マルトース等の糖類より選ばれる。
これら糖類は生米質量に対し、0.1%〜10.0%、好ましくは0.5%〜5.0%添加されるのが望ましい。
また、既知の品質保持剤であるpH調整剤や有機酸等と併用してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、食品添加物として扱われない有機酸発酵液を濃縮したものを米飯に添加することで、米粒の弾力に優れ、風味がよく、かつ安全性の両効果を実現する米飯を提供することが可能となる。有機酸発酵液を主とすることで、より自然に近い原料由来で米飯の品質を向上させることができる。使用する米飯の種類によっても添加量の微調整により、好ましい効果を得ることが可能となる。
また本発明品は、米飯改良に効果のある既知の成分と組み合わせることも可能であり、単一成分での使用時よりも所望の効果を向上させることにより消費者のニーズや用途に応じて調整することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態を、表及び図面に示す実施例を基に説明する。なお、実施形態は下記の例示に限らず、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で、前記特許文献など従来公知の技術を用いて適宜設計変更可能である。
【0022】
<有機酸発酵液の製造方法>
本発明で好適に使用される有機酸発酵液は、次のように製造される。
原料は、穀物・果汁・野菜汁からなる群から選ぶ。穀物としては、米類、麦類、とうもろこし、アワ、ヒエ、豆類等、果汁としては、リンゴ、ブドウ、プルーン、柿等、野菜汁としては、トマト、人参、さつまいも等から選ぶ。
【0023】
有機酸発酵液のタンパク含有量は、穀物を原料とする場合は100mg〜30000mg/L、より好ましくは200〜10000mg/L、果汁又は野菜汁を原料とする場合は、100mg〜20000mg/L、より好ましくは200〜10000mg/Lとし、原料種類の選択、原料の配合割合、製造工程中における温度や発酵時間等により調整を行う。

【0024】
原料に液化酵素を作用させ、至適活性化温度条件下にて液化反応を行う。得られた液に酵母を加えて15℃〜30℃でアルコール発酵を行い、醸造アルコールを得る。これに醸造微生物(酢酸菌など)を接種し15℃〜30℃で発酵を起こさせ、得られた有機酸発酵液はろ過の後、熟成のためにタンクにて一定期間熟成を行う。
熟成の後、有機酸発酵液を濃縮・濾過・殺菌行い、当該発明品を得る。なお、製造工程の順序や回数等は、従来公知の技術を援用して適宜選択することが可能である。
【0025】
<本発明の米飯品質向上保持剤の製造方法>
本発明による米飯品質向上保持剤は、上述の酢酸発酵液などの有機酸発酵液を、少なくとも色調に変化が生じるまで濃縮することにより得られる。
濃縮方法は、膜濃縮、真空濃縮、凍結濃縮など、水分を取り除き容積を小さくする方法であれば、従来公知の任意の手法を適宜利用できる。
【0026】
濃縮度は、有機酸発酵液のタンパク含有量との兼ね合いによっても決められる。
例えば、穀物を原料とする場合のタンパク含有量は100mg〜30000mg/Lとするのは、タンパク含有量が100mg mg/L以下であると、米飯品質向上保持剤としての機能が芳しくなく、30000mg/L以上であると、褐色度が増して米飯の色調にも影響を及ぼすからである。
【0027】
以下に、実施例を設述する。
<実施例1:添加量>
細心の注意を払いタンパク含有量が6000mg/Lになるように調製した有機酸発酵液を、色調に変化が生じるまで濃縮し、米飯品質向上保持剤を得た。
下記の炊飯方法にて得られた米飯(白米)について食味官能試験にて評価を行った。評価は、炊飯直後(表1)・24時間冷蔵保存後(表2)・48時間冷蔵保存後(表3)で行った。無添加区を基準に評価しており、表中、◎は非常に良好、○は良好、△は普通、×は不良を示している。
【0028】
(炊飯方法)
生米300g (品種:あきたこまち) を洗米し、30℃の水に30分間浸漬し、吸水させた浸漬米を水切りし、本発明品である米飯品質向上保持剤を添加し、釜式炊飯器で炊飯を40分間行い室温にて冷却した。
本発明品である米飯品質向上保持剤は、添加区1には生米質量に対して0.05%、添加区2には0.10%、添加区3には0.25%、添加区4には0.50%、そして添加区5には1.00%添加した。
冷蔵保存米飯については、10℃にて保存する。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表1の結果から、炊飯直後の官能では、無添加区に対し、本発明品である米飯品質向上保持剤を添加した米飯の方が、弾力があり、ほぐれやすいことがわかる。また、米飯品質向上保持剤を0.1〜1.0%添加した場合、米飯の風味がよくなっており、0.25〜0.50%添加した場合においては、風味が無添加区よりも非常に良くなっていることがわかる。
【0033】
表2の結果から、24時間冷蔵保存後では、無添加区に対し、米飯品質向上保持剤を0.10〜1.0%添加した方が、弾力及びつやがあることがわかる。また、風味についても、本発明品である米飯品質向上保持剤を添加すると良くなっていることがわかる。
【0034】
表3の結果から48時間冷蔵保存後では、無添加区に対し、本発明品である米飯品質向上保持剤を0.10〜1.0%添加した方が、弾力及びつやがあることがわかる。また、風味についても0.05〜1.00%添加においては風味がより良くなっていることがわかる。
このことから、本発明の米飯品質向上保持剤を生米質量に対して0.10〜1.00%添加した米飯では品質保持効果を有していることがわかり、また、米飯の風味を損ねることがないことがわかり、本発明品である米飯品質向上保持剤は米飯の食味改善効果を有することがわかった。
【0035】
<実施例2:糖類を含有する場合>
細心の注意を払いタンパク含有量が6000mg/Lになるように調製した有機酸発酵液を色調に変化が生じるまで濃縮し、米飯品質向上保持剤を得た。
下記の炊飯方法にて得られる米飯について食味の官能試験にて評価を行った。米飯炊飯条件について表4に示す。評価は、炊飯直後(表5)・24時間冷蔵保存後(表6)・48時間冷蔵保存後(表7)で行った。
【0036】
(炊飯方法)
生米4kg (品種:あきたこまち) を洗米し、水に100分間浸漬し、吸水させた浸漬米を水切りし、本発明品である米飯品質向上保持剤、及び水飴、イソマルトオリゴ糖を下記表の通り添加し、業務用釜式炊飯器で炊飯を40分間行い25℃まで、冷却機にて冷却した。
冷蔵保存米飯については、10℃にて保存する。
【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
【表7】

【0041】
表5の結果から、炊飯直後、無添加区に対し、米飯品質向上保持剤を添加した方が、弾力があり、さらに糖類を添加することで、より弾力があることがわかる。また、糖類を添加した場合でも風味を損ねていないことがわかる。
【0042】
表6の結果から、24時間冷蔵保存後では無添加区に対し、米飯品質向上保持剤を添加した方が、弾力があり、さらに糖類を添加することで、より弾力があることがわかる。また、糖類を添加した場合でも風味を損ねていないことがわかる。
【0043】
表7の結果から、48時間冷蔵保存後では無添加区に対し、米飯品質向上保持剤を添加した方が、弾力があり、さらに糖類を添加することで、より弾力がありつやがあることがわかる。また、糖類を添加した場合でも風味を損ねていないことがわかる。
このことから、本発明品である米飯品質向上保持剤にさらに糖類を併用することで、米飯品質向上保持効果が高まることがわかった。
【0044】
<実施例3:静菌テスト>
細心の注意を払いタンパク含有量が6000mg/Lになるように調製した有機酸発酵液を色調に変化が生じるまで濃縮し、米飯品質向上保持剤を得た。得られた米飯品質向上保持剤を用い、下記の炊飯方法にて得られる米飯について下記の静菌性テストにて保存性について評価を行った(図1)。
【0045】
(炊飯方法)
生米300g(品種:あきたこまち)を洗米し、30℃の水に30分間浸漬し、吸水させた浸漬米を水切りし、添加区1には本発明品である米飯品質向上保持剤を生米質量に対して、1.00%添加し、釜式炊飯器で炊飯を40分間行い室温にて冷却した。
【0046】
(静菌性テスト)
炊き上がった米飯10gに予め×105に調整し準備しておいた大腸菌(E.coli IFO15034)を100μl接種し、30℃にて保存した。保存時間0時間、24時間及び48 時間において滅菌水40gを加え混釈し、菌数測定を行った。
【0047】
図1の結果から、無添加区に対し、添加区1の方が、大腸菌の増殖を抑えることができていることから、本発明品である米飯品質向上保持剤を生米質量に対して1%を添加した米飯は、大腸菌に対する静菌性を有することがわかる。
このことから、本発明品である米飯品質向上保持剤は品質保持効果である静菌性も有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によると、食品添加物として扱われない物質を使用するので、消費者に受け容れられやすく、米飯の味質の改善と、細菌繁殖抑制作用等による品質保持とが両立され、炊飯から時間が経っても炊きたての美味を維持できるので、中食産業をはじめ様々な食の場面で利用でき、産業上利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】静菌性テスト結果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米飯の食味改善と品質保持とを両立する品質向上保持剤であって、有機酸発酵液を少なくとも色調に変化が生じるまで濃縮することにより得られ、米飯の炊飯時に添加して用いることを特徴とする米飯品質向上保持剤。
【請求項2】
有機酸発酵液が、穀物、果汁、野菜汁からなる群より選ばれた1種又は2種以上を原料とすることを特徴とする請求項1記載の米飯品質向上保持剤。
【請求項3】
穀物より選択される1種又は2種以上を原料とし、タンパク含有量100〜30000mg/Lである有機酸発酵液である請求項1及び2記載の米飯品質向上保持剤。
【請求項4】
果汁または野菜汁より選択される1種又は2種以上を原料とし、タンパク含有量100〜20000mg/Lである有機酸発酵液である請求項1及び2に記載の米飯品質向上保持剤。
【請求項5】
有機酸発酵液が、酢酸発酵液又は乳酸発酵液である請求項1ないし4に記載の米飯品質向上保持剤。
【請求項6】
添加される糖が、トレハロース、還元水飴、マルトースより選択される1種又は2種以上の糖である請求項1ないし5に記載の米飯品質向上保持剤。
【請求項7】
米飯の食味改善と品質保持とを両立する品質向上保持剤の調整方法であって、請求項1ないしは6に記載の米飯品質向上保持剤を米飯の炊飯時に添加することを特徴とする品質向上保持の調整方法。
【請求項8】
請求項1ないし6に記載の米飯品質向上保持剤を、生米及び水に混合させて炊飯することを特徴とする米飯製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし6に記載の米飯品質向上保持剤を、生米及び水に混合させて炊飯して得たことを特徴とする米飯。

【図1】
image rotate