説明

粉体化粧料

【課題】粉体化粧料においては、未使用の状態では微生物の汚染を考慮する必要性は少ないが、使用開始後には水が混入したり、手や化粧パフ及び大気中等からの汚染を考慮する必要がある。このため、これらの粉体化粧料においても抗菌性を考慮して防腐剤が配合されている。しかしながら、これらの粉体化粧料では十分な抗菌活性が得られなかった。
【解決手段】塩化ナトリウムを必須成分として含有することを特徴としている。本発明においては塩化ナトリウムの配合量は特に限定されないが通常0.001〜1重量%配合するのがよい。好ましくは0.01〜0.5重量%である。0.001重量%以下では効果が十分ではない場合があり、また1重量%以上では効果の増強がなく非経済的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体化粧料に関する。具体的には、塩化ナトリウムを用いた抗菌性に優れた粉体化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、化粧品として石けんや化粧水、乳液、クリームなどの基礎化粧品、おしろい、ファンデーション、口紅、頬紅、アイライナーなどのメイクアップ化粧品、香水類、シャンプー、リンス、ヘアカラーなどの頭髪用化粧品などが上市されている。
【0003】
これらの化粧品は、かびや細菌などが生育しやすい栄養分を多く含んでおり、使用を重ねている間に化粧料中にこれらの微生物が混入し、繁殖する可能性が高い。特に化粧水や乳液、クリームなどの化粧品は水や油分を大量に含み、微生物が非常に繁殖しやすい条件下にある。従ってこれらの化粧品では、使用中に外部からかびや細菌が混入しても繁殖しないよう防腐剤を配合して品質の劣化を防止している。
【0004】
これらの化粧品に用いられる公知の防腐剤としては、サリチル酸塩やパラオキシ安息香酸エステル類のフェノール類、ソルビン酸、デヒドロ酢酸、ビサボロール等の抗菌性精油が挙げられる。
【0005】
しかし、適切な抗菌効果を保持させんとして、防腐剤を多量に配合したり、防腐効果の異なる数種の防腐剤を選択して配合する方法が用いられている。
【0006】
一方、上記した化粧品中には、おしろいやベビーパウダー、パウダーファンデーション、アイシャドウなど粉体を主体とした粉体化粧料も存在する。これらの粉体化粧料の基材には、一般的にタルクやマイカ、セリサイト、酸化亜鉛などの各種無機、有機粉体が使用される。そして、これらの基材に酸化チタンや黄酸化鉄やベンガラなどの顔料、あるいはアラントインクロルヒドロキシアルミニウムやフェノールスルホン酸亜鉛等の収れん剤その他、必要に応じて油脂などの油分等が配合される。
【0007】
通常これらの粉体化粧料においては、処方上水やアルコールを含むものではなく、未使用の状態では微生物の汚染を考慮する必要性は少ないが、使用開始後には水が混入したり、手や化粧パフ及び大気中等からの汚染を考慮する必要がある。このため、これらの粉体化粧料においても抗菌性を考慮して防腐剤が配合されている。
【0008】
しかしながら、これらの粉体化粧料では十分な抗菌活性が得られなかった。これは次の理由によるものと推測される。すなわち、粉体化粧料は化粧水や乳液、クリーム、シャンプー、リンスなどと異なり、油分が配合されるものの、その特性上、水やアルコールが殆ど配合されることがない。このため、粉体化粧料中に防腐剤を配合したとしても、粉体化粧料中で防腐剤が凝集すると共に不均一に分散して存在する。また、上記粉体化粧料中には水分が少なくその効果を十分に発揮できないとも考えられる。
【0009】
ところで塩化ナトリウムは従来W/O乳化組成物の使用性改善の目的に配合されたり(特許文献1)、収斂剤として配合されたり(特許文献2)、粉末状マッサージ料において物理的洗浄効果やマッサージ効果を期待して配合されたり(特許文献3)、枠練り石鹸で透明性向上の目的で配合されていた(特許文献4)。しかし抗菌を目的に塩化ナトリウムを配合するという思想は全くなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−106310号公報
【特許文献2】特開平10−330240号公報
【特許文献3】特開平10−330241号公報
【特許文献4】特開2004−256805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、安全性に優れた塩化ナトリウムからなる粉末を用いて、かび、酵母、大腸菌や緑膿菌等の微生物に対して、十分に発育抑制効果を有する抗菌性を持った粉体化粧料を提供することにある。
【0012】
そこで、上記問題点を解決すべく本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、塩化ナトリウムを必須成分として配合することによって、著しい抗菌効果、防腐効果を向上させることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る粉体化粧料は、塩化ナトリウムを必須成分として含有することを特徴としている。本発明においては塩化ナトリウムの配合量は特に限定されないが通常0.001〜1重量%配合するのがよい。好ましくは0.01〜0.5重量%である。0.001重量%以下では効果が十分ではない場合があり、また1重量%以上では効果の増強がなく非経済的である。
【0014】
本発明に用いる塩化ナトリウム粉体化粧料の粒子径は特に限定されず、そのものを配合してもいいが、好ましくは10μm以下である。10μm以上では使用感に影響がある場合があるからである。
【0015】
塩化ナトリウムの微細化の方法は特に限定されないが、ボールミル、アトマイザー、ミキサー、ライカイ機等で微粉化してもいい。
【0016】
本発明においては他の防腐剤が無くても塩化ナトリウムのみで十分な効果を奏するが、他の防腐剤と併用しても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば高い抗菌効果を奏する粉体化粧料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における粉体化粧料は、上記したように、タルクやマイカ、セリサイト、酸化亜鉛などの粉体を主成分とするものであって、粉末状若しくはプレスなどによって成形された固形状の化粧品をいい、水やアルコールなどに溶解した液状物や粘性を有する剤型を除くものである。例えば、白粉類やファンデーション類、頬紅類、アイシャドウ類に代表される。より具体的には、白粉類として粉白粉、固形白粉、紙白粉、さらには、ベビーパウダー、タルカムパウダーが挙げられる。また、ファンデーション類としていわゆるパウダリータイプ、両用タイプ、ケーキタイプが挙げられる。頬紅類としては固形頬紅、アイシャドウ類としては固形粉末状のアイシャドウが挙げられる。さらに、これらの分類には含まれないが、例えばビタミンCやその誘導体を主成分とし、用時水やアルコールに溶解して用いられるような粉末状、固形状の化粧品についても適用されるものである。
【0019】
本発明に用いられる塩化ナトリウムは、粉体化粧料の構成成分として使用されるが、その他の構成成分は従来の構成成分と何ら変わりなく用いることができる。例えば、各種の無機粉末、例えばタルク、カオリン、シリカ、雲母、セリサイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウムなどが、また、各種の有機粉末、例えばナイロン粉末、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、ポリメタクリル酸メチル粉末、ポリフッ化エチレン粉末、セルロース粉末などが、その他無機顔料、有機顔料などの粉末成分が用いられる。これら以外にも必要に応じて、各種の油性成分や界面活性剤などを用いることができる。さらに、従来から汎用されているパラオキシ安息香酸エステルなどのような各種合成抗菌剤あるいは天然抗菌剤と併用しても差し支えないものであるが、本発明においてはこれらの抗菌剤を用いることなく抗菌作用を得ることができる。
【0020】
以上説明したように本発明は、塩化ナトリウムからなる粉末を配合することによって、従来では不十分であった粉体化粧料における抗菌効果を向上させるものである。
【0021】
このように本発明においては、塩化ナトリウムを配合して粉体化粧料の抗菌性、保存性を向上させるものであって、通常の混合処理を行えば足りるものである。
【0022】
次に、本発明について以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限られないのはいうまでもない。また、以下の説明において「%」は、「重量%」を意味する。
【0023】
実施例1(抗菌性試験)
試料30gに菌液を接種後、混釈法により菌数の変化を調べた。尚接種菌はカビ、酵母、バクテリアを用いて、4週間経過時までの菌数変化により防腐力を評価し、得られた結果を以下の4段階の基準に分類した。尚以下の分類のうち◎ないし○のものを合格と判定した。
【0024】
◎:早急に効果が認められる。
○:徐々に効果が認められる。
△:ほとんど効果が認められない。
×:全く効果が認められない。
【0025】
下記表1、表2において示した処方の本発明の粉体化粧料の一態様としてのおしろい、固形おしろい及びその比較例について上記防腐力判定試験を行い、その結果を記載した。なお、これらのおしろい、固形おしろいの製造方法は、一般的に用いられている方法に従った。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
実施例2(粉おしろい)
成分名 配合量(%)
タルク 75.9
マイカ 10.0
セリサイト 10.0
二酸化チタン 3.0
塩化ナトリウム (平均粒子径3μm) 0.1
計 100.0
【0029】
実施例3(固形おしろい)
成分名 配合量(%)
タルク 68.6
マイカ 10.0
セリサイト 10.0
二酸化チタン 3.0
スクワラン 5.0
パラオキシ安息香酸ブチル 0.1
塩化ナトリウム (平均粒子径5μm) 0.1
計 100.0
【0030】
実施例4(ベビーパウダー)
成分名 配合量(%)
タルク 96.7
酸化亜鉛 3.0
塩化ナトリウム (平均粒子径1μm) 0.3
計 100.0
【0031】
実施例5(パウダーファンデーション)
成分名 配合量(%)
タルク 15.0
マイカ 30.0
セリサイト 18.2
ナイロンパウダー 10.0
二酸化チタン 16.0
ベンガラ 0.5
黄酸化鉄 1.0
黒酸化鉄 0.2
スクワラン 5.0
ラノリン 1.0
ミリスチン酸オクチルドデシル 2.0
モノオレイン酸ソルビタン 1.0
塩化ナトリウム (平均粒子径3μm) 0.01
パラオキシ安息香酸メチル 0.09
計 100.0
【0032】
実施例6(両用ファンデーション)
成分名 配合量(%)
シリコーン処理タルク 22.0
シリコーン処理マイカ 44.9
ナイロンパウダー 5.0
シリコーン処理微粒子二酸化チタン 5.0
シリコーン処理二酸化チタン 10.0
シリコーン処理ベンガラ 0.5
シリコーン処理黄酸化鉄 1.0
シリコーン処理黒酸化鉄 0.2
スクワラン 4.0
固形パラフィン 0.5
ジメチルポリシロキサン 4.0
パラメトキシケイ皮酸オクチル 2.0
塩化ナトリウム (平均粒子径10μm) 0.9
計 100.0
【0033】
実施例7(ケーキファンデーション)
成分名 配合量(%)
タルク 27.8
マイカ 24.43
セリサイト 10.0
二酸化チタン 10.0
酸化亜鉛 5.0
ベンガラ 0.5
黄酸化鉄 1.0
黒酸化鉄 0.2
スクワラン 10.0
イソステアリン酸 3.0
ミリスチン酸オクチルドデシル 4.0
モノオレイン酸ソルビタン 3.0
パラメトキシケイ皮酸オクチル 1.0
パラオキシ安息香酸メチル 0.02
塩化ナトリウム (平均粒子径3μm) 0.05
計 100.0
【0034】
実施例8(頬紅)
成分名 配合量(%)
マイカ 23.0
セリサイト 71.6
ベンガラ 0.05
黒酸化鉄 0.05
赤色223号 0.1
流動パラフィン 5.0
塩化ナトリウム (平均粒子径5μm) 0.2
計100.0
【0035】
実施例9(アイシャドウ)
成分名 配合量(%)
マイカ 34.55
セリサイト 45.9
群青 2.0
二酸化チタン 0.05
黒酸化鉄 0.5
雲母チタン 10.0
流動パラフィン 5.0
セスキオレイン酸ソルビタン 1.0
塩化ナトリウム (平均粒子径10μm) 1.0
計 100.0
【0036】
本発明によれば、塩化ナトリウムを有効成分として配合することにより、抗菌性を十分に発揮させることができる。この結果、開封後の腐敗、かびの生育を抑えることができ、粉末化粧品の保存性を向上できる。なお実施例2から実施例9においても良好な抗菌効果を得た。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウムからなる粉末を必須成分として含有することを特徴とする抗菌性粉体化粧料。
【請求項2】
前記塩化ナトリウムからなる粉末を0.001〜1重量%含有することを特徴とする請求項1記載の抗菌性粉体化粧料。
【請求項3】
前記塩化ナトリウムからなる粉末を0.01〜0.5重量%含有することを特徴とする請求項1記載の抗菌性粉体化粧料。
【請求項4】
前記塩化ナトリウムの平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項3記載の抗菌性粉体化粧料。


【公開番号】特開2011−79780(P2011−79780A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233953(P2009−233953)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】