粉体取扱装置用鋼製部材及び粉体取扱装置
【課題】粉体取扱装置において、粉体が接触する鋼材表面に所定の凹凸を設けることにより、鋼材表面から粉体が剥離・滑落する性能を高めて粉体の付着を防止すること。
【解決手段】この発明では、粉体Pdが接触する鋼材表面Sfに所定の小さい凹凸が形成され、その凹凸ピッチは、粉体Pdを構成する粒子Pt,Pu又は粒子集合体Psの平均粒径φu又は平均外径φsよりも小さくなるように処理される。これにより、粉体粒子Pt,Puや粒子集合体Psが鋼材表面Sfと点接触の状態になり、粉体Pdと鋼材との間に働くファンデルワールス力が弱められ、鋼材表面への粉体の付着を防止することができる。このような凹凸形状は、研磨材を用いた研磨処理により簡単に得ることができ、所定の凹凸が表面に形成された鋼製部材は、種々の粉体取扱装置、例えば、ホッパーシュートの粉体通流路内壁や除鉄装置の棒磁石外装材に好適に適用することができる。
【解決手段】この発明では、粉体Pdが接触する鋼材表面Sfに所定の小さい凹凸が形成され、その凹凸ピッチは、粉体Pdを構成する粒子Pt,Pu又は粒子集合体Psの平均粒径φu又は平均外径φsよりも小さくなるように処理される。これにより、粉体粒子Pt,Puや粒子集合体Psが鋼材表面Sfと点接触の状態になり、粉体Pdと鋼材との間に働くファンデルワールス力が弱められ、鋼材表面への粉体の付着を防止することができる。このような凹凸形状は、研磨材を用いた研磨処理により簡単に得ることができ、所定の凹凸が表面に形成された鋼製部材は、種々の粉体取扱装置、例えば、ホッパーシュートの粉体通流路内壁や除鉄装置の棒磁石外装材に好適に適用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼製部材の表面における粉体の付着防止を図った粉体取扱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食用粉体(穀粉など)や合成樹脂粉体などの粉体(粉粒体ともいう)の性状は、粒子の大きさ・その分布・形状によって異なり、ナノ粒子を作り出す技術まで進んだ現在でも種々の問題を抱えている。その中で、未だ解決されていないのが、粉体の搬送や異物除去、貯蔵、排出などの粉体取扱工程において、粉体通流部を構成する鋼製部材(鋼材)の表面に粉体が付着・堆積し、最悪の場合には粉体通流部を閉塞してしまうという粉体付着トラブルがある。
【0003】
例えば、特許文献1では、粉体投入用ホッパーに振動を与えると共にホッパー内に空気を吐出してホッパー内面に付着した残留粉体取り除くようにしており、また、特許文献2では、永久磁石式異物選別機において、異物(磁性物)除去・吸着用棒磁石を傾斜させて原料粉体が棒磁石外装鋼材の表面に堆積しないようにしているが、何れも、粉体付着トラブルの根本的な解決にはならない。
【特許文献1】特開平9−95390号公報
【特許文献2】特開2006−61834号公報
【0004】
また、製造現場では、粉体送給用の配管やタンクの鋼板外表面が、粉体付着防止のための打撃によって凸凹になっている箇所がよく見受けられ、計量器上方の排出タンク内において壁面に付着した粉のかたまりが、計測終了間際に剥離・脱落し定量計測が出来ないというトラブルも発生している。図1は、ホッパーシュートを例にして粉体付着トラブルに関する従来技術を説明するための図であり、上述のような粉体の鋼板壁面への付着の形態は図1(1)の形状で代表される。
【0005】
例えば、鋼材表面との付着性が強い粉体はホッパー内壁面に付着してそのまま残留し、同図(1a)のように壁面付着という現象が生じる。また、粉体同士が壁面で強く結合すると、同図(1b)のようにラットホールという現象が生じ、粉体流動部は流出口上方の管状部分を残すのみとなり、新しく投入された材料粉体が先に出てしまい、古い粉体は管状部分の周囲に静止し“デッドストック”としていつまでも残留する。さらに、ホッパー下部で粉体の付着・圧縮が進むと、同図(1c)のようにブリッジという現象が生じて出口からの流出が防げられたり、或いは、ホッパー上部で粉体が堆積し圧縮されると、上部にアーチング現象が生じてアーチ状に詰まり(図示せず)、完全な閉塞状態となる。
【0006】
現在、このような付着・閉塞の対応策として、図1(2)に示されるような方法が採用されている:
(1)外的に力を加える方法…例えば、ホッパー外部からエアーハンマー等で打撃を加えたりバイブレーター等の加振装置で振動を加えて、ホッパー内壁面から粉体を離脱させたり、粉体がホッパー内壁面に付着しないようにする。
(2)内部から力を加える方法…例えば、ホッパー内壁部に攪拌装置やエアー噴出装置を設けてホッパー内を攪拌したりエアーをホッパー内に噴出して、ホッパー内壁面から粉体を離脱させせたり、粉体がホッパー内壁面に付着しないようにする。
【0007】
しかし、これらの対策方法でも、まだ満足できる状態ではなく、次のような問題点を抱えている:
(1)の方法では、打撃によって発生する騒音は現場の環境を著しく低下させる。また、振動エネルギーによっては、製造ラインで、隣接する機器や接続配管の継手を傷める恐れがある。
(2)の方法では、例えば、タンク内に設置する場合、攪拌装置では回転軸受け部の磨耗が生じ、エアー噴出装置では異種材料を使うので、異物発生の危険性を伴う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、このような事情に鑑み、粉体が接触する鋼材表面に所定の凹凸を設けることにより、鋼材表面から粉体が剥離・滑落する性能を高めて鋼材表面への粉体の付着を防止することができるようにした粉体取扱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の主たる特徴に従うと、粉体取扱装置(1,3)において粉体(Pd)が表面(Sf)に接触する鋼製部材(2,4)であって、粉体(Pd)が接触する表面(Sf)に、凹凸ピッチ(L)が、粉体(Pd)を構成する粒子(Pt,Pu)又は粒子集合体(Ps)の平均粒径(φu)又は平均外径(φs)よりも小さく、当該粒子(Pt,Pu)又は粒子集合体(Ps)が凸部に点接触状態となるように、所定の凹凸が形成されている粉体取扱装置用鋼製部材(2,4)〔請求項1〕、並びに、粉体(Pd)が表面(Sf)に接触する鋼製部材(2,4)を備え、粉体(Pd)が接触する鋼製部材(2,4)の表面(Sf)に、凹凸ピッチ(L)が、粉体(Pd)を構成する粒子(Pt,Pu)又は粒子集合体(Ps)の平均粒径(φu)又は平均外径(φs)よりも小さく、当該粒子(Pt,Pu)又は粒子集合体(Ps)が凸部に点接触状態となるように、所定の凹凸が形成されている粉体取扱装置(1,3)〔請求項2〕が提供される。なお、括弧書きは、理解の便の為に付した実施例の参照記号乃至用語である。
【0010】
この粉体取扱装置用鋼製部材(2,4)又は粉体取扱装置(1,3)において、凹凸は、研磨材を用いて形成される〔請求項3〕。また、この粉体取扱装置は、粉体通流路の内壁が鋼製部材(2)で構成されたホッパーシュート(1)である〔請求項4〕。或いは、この粉体取扱装置は、粉体通流路に突出した棒磁石(5)を備える除鉄装置(3)であり、棒磁石(5)は鋼製部材(4)で外装されている〔請求項5〕。
【発明の効果】
【0011】
この発明の主たる特徴によれば〔請求項1,2〕、粉体取扱装置(1,3)において、粉体(Pd)が接触する鋼製部材(2,4)の表面(Sf)に所定の凹凸が形成され、凹凸ピッチ(L)は、粉体(Pd)を構成する粒子(Pt,Pu)又は粒子集合体(Ps)の平均粒径(φu)又は平均外径(φs)よりも小さくなるように鋼材表面(Sf)に一定の凹凸を設ける処理がなされており、粉体粒子(Pt,Pu)や粒子集合体(Ps)が鋼材表面(Sf)と点接触の状態になっているので、粉体と鋼製部材(鋼材)との間に働くファンデルワールス力が弱められ、鋼材表面から粉体が剥離・滑落する性能を高めて鋼材表面への粉体の付着を防止することができる。
【0012】
また、この発明では、所定の凹凸を形成するのに研磨材を用いて鋼材表面(Sf)を処理するようにしているので、粉体取扱装置の鋼材表面に研磨処理により簡単かつ容易に所望の凹凸形状を得ることができる〔請求項3〕。さらに、この発明により所定の凹凸が表面に形成された鋼製部材は、種々の粉体取扱装置に適用することができ、特に、ホッパーシュートの粉体通流路内壁や、除鉄装置の異物吸着用棒磁石の外装材に好適に適用することができる〔請求項4,5〕。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔粉体付着の主因〕
粉体の搬送や異物除去、貯蔵、排出などを取り扱う各種装置の粉体通流部の鋼板表面に粉体が付着する主要な原因には、次の3項目を挙げることができる:
(a)静電気…帯電した粉体が静電気によって鋼板表面に付着する。
(b)水分…吸湿した粉体が鋼板表面の微小水分との結合(表面張力)によって鋼板表面に付着する。
(c)物理力…鋼板と微粒子粉体との間に発生する“ファンデルワールス力”によって鋼板表面に付着する。
【0014】
現在、これらの要因の影響度が検証された文献はなく、微細な粉体が帯電し易いことから、付着の原因は殆ど静電気の影響として片付けられている。そこで、項目(a),(b)について夫々どの程度の影響があるものかを検証すると、次のような結果が得られた:
(a)静電気の影響…帯電させた粉体をカーボン含有鋼板(カーボン含有率:3.10%)で検証したが、付着状態に変化はなく、また、鏡面に仕上げた鋼板に帯電した粉体を堆積させて静電気量を測定しつつ帯電の影響を調べた結果、数秒で静電気は消滅したが、鋼板への付着状態に変化はなかった。
(b)水分の影響…鏡面仕上げの鋼板表面をドライヤーで強制的に加熱して乾燥し、てんぷら粉の乾燥品を使用して何もしない状態との比較を行ったが、これも、付着状態に変化がなかった。
【0015】
以上の検証結果から、付着の要因は、鋼板表面と粉体間に作用する(c)のファンデルワールス力による影響が大きいと判断された。なお、(b)の水分の影響を検証する際に行った“てんぷら粉の含水率測定試験”において、水分の変動で粒子径およびその粒度分布が変化することが判った。
【0016】
〔ファンデルワールス力による粉体付着現象の確認〕
鋼板・粉体間に発生するファンデルワールス力は、分子間引力とも呼ばれている内部応力であり、直接、計測することはできないが、この力は、鋼材表面の微細な凹凸と粉体の粒子径に依存し、鋼材表面と粉体の接触面積で大きくなることは明らかである。そこで、鋼材表面の凹凸形状とファンデルワールス力による粉体付着との関係を調べるために、異なる研磨方法により表面を仕上げた平板鋼材に対して付着性確認試験を実施した。図2は、この平板鋼材を用いた付着性確認試験を説明するための図であり、この付着性確認試験には図2(1)の「傾斜滑落試験」と図2(2)の「反転付着試験」がある。
【0017】
図2(1)の傾斜滑落試験では、予め、同一品質の鋼板(ステンレス鋼板SUS304)に対し、種々の研磨材を使って表面を研磨し、表面の仕上げ状態を異ならせた鋼板を用意する。この仕上げ状態には、例えば、「ハブ800#」と呼ばれる研磨材を使って最も細かく研磨した鏡面仕上げと、本発明者が開発した「F研磨」と呼ばれる研磨法により鏡面仕上げよりは粗く研磨するF研磨仕上げとが含まれる。F研磨仕上げは、研磨作業を進めても鋭利さが失われないダイヤモンド等の硬質研磨粒子を紙又は布に貼り付けた研磨材を使って鋼材表面を研磨処理するものであり、研磨粒子の公称精粗度(320#〜2000#)に応じて7つのランクがあり、表面仕上げの状態が粗い順に、「F1」(320#)、「F2」(400#)、「F3」(500#)、「F4」(600#)、「F4」(800#)、「F6」(1000#)、「F7」(2000#)と名付けている。
【0018】
傾斜滑落試験では、まず、水平に設置した各仕上げ状態の鋼板の上に、粉体として、市販のてんぷら粉(A)を用いて作成した直径75mm、厚さ20mmの円盤状ケーキを載置する。この円盤状ケーキは、鋼板上に円筒状の型枠を置き、その上部から篩(ふるい)を通して同量のてんぷら粉を型枠内に堆積させた後、型枠を抜き上げることにより作成したものである。そして、鋼板の水平面との角度θを徐々に変化させ、鋼板へのケーキの付着し易さ(滑り易さ)の目安として、ケーキが滑り出す際の角度(滑落傾斜角度という)θmaxを測定する。この傾斜滑落試験の結果は表1に示すとおりである。
【表1】
【0019】
まず、表1左側の「傾斜滑落試験1」では、鏡面仕上げ、ハブ400#、F研磨(F2)仕上げ、ブラスト研磨、へアーライン仕上げにより表面を仕上げた各鋼板について、それぞれ、複数回(3〜6回)、滑落傾斜角度θmaxを測定した。ここで、表面の仕上げ状態は、鏡面仕上げ、ハブ400#、F研磨(F2)仕上げ、の順に粗くなって行き、F研磨(F1)については、傾斜方向(「方向1」)に沿って研磨した場合と傾斜方向に直角方向(「方向2」)に沿って研磨した場合に分けて試験した。なお、これら三者の仕上げとの比較のために行ったブラスト研磨及びへアーライン仕上げは、研磨材で表面全体を平均して擦って行く三者の仕上げ方法とは異なり、鋼板に研磨材を吹き付けたり鋼板に細かい線溝を生じさせる方法を用いており、表面仕上げの精粗を単純に比較することができないが、表面全体の平均的な精粗度はF研磨(F2)より粗いと考えられる。
【0020】
傾斜滑落試験1の結果は、複数回計測した滑落傾斜角度θmaxの平均値を採ると、表1左側に示すとおりであり、各鋼板表面へのケーキの付着し難さの目安を表わす滑落傾斜角度θmaxは、必ずしも、表面仕上げの細かさに比例しないことが分かった。また、ブラスト研磨及びへアーライン仕上げは、同じ研磨材を用いても表面仕上げを行う度に仕上げ状態が変化して行くので、同じ仕上げ状態を維持するための繰返し再現性がなく、傾斜滑落試験1で格別の滑り易さを示した訳でもない。そこで、試験対象の鋼板表面をF研磨仕上げたものに絞って表1右側の「傾斜滑落試験2」を行った。
【0021】
傾斜滑落試験2では、7つのランクのF研磨仕上げF1〜F7のうち、最適と思われるランク1〜5のF研磨仕上げF1〜F5で表面を両方向に研磨した鋼板について、傾斜滑落試験1と同様に、粉体としててんぷら粉(B)を用いた円盤状ケーキで滑落傾斜角度θmaxを複数回測定し、参考のために、鏡面仕上げについて滑落傾斜角度θmaxを測定した。なお、この試験で用いたてんぷら粉(B)は、傾斜滑落試験1で開封してから数日経過しているので、傾斜滑落試験1に用いたてんぷら粉(A)に比べて水分含有度が相当高くなっているものと思われる。
【0022】
傾斜滑落試験2により、F研磨仕上げF1〜F5について7回計測した滑落傾斜角度θmaxの平均値と、比較のために鏡面仕上げについて1回計測した滑落傾斜角度θmaxの結果は、表1右側に示すとおりである。これにより、F研磨仕上げによると粉体が付着し難くなるこが確認され、この試験では、特に好適な表面仕上げ状態はF研磨仕上げF2〜F4の範囲にあることが示された。
【0023】
次に、試験対象をF研磨仕上げの鋼板表面に対する試験対象粉体の粒径を変化させて、図2(2)の反転付着試験を行った。この反転付着試験は、図2(2)に示すように、鋼板表面に粉体を薄く堆積させた後、鋼板を反転させて鋼板表面に粉体が付着したままの面積を計測するものであり、鋼板表面の凹凸状態(F研磨:F2〜F7)と粉体の粒径(7種類)の組合せに対する付着性確認試験である。粉体としては7種類の公称粒径φn(0.2μm〜12μm)を持つシリカを用い、表面がF研磨仕上げF2〜F7で処理された鋼板を水平に置き、鋼板の上に載せた直径60mmの円形枠内に粉体を篩で凡そ一層に堆積させ、円形枠を取り除いた後で、180°静かに反転させて、表面に残存する粉体の付着した残存面積Bを視察により当初の付着面積A(9π平方cm)と比較して粉体残存率R=B/Aを求めた。
【0024】
反転付着試験の結果は表2に示すとおりである。この反転付着試験では、各組合せの測定を行ったのは1回だけであり、確率的にみて精度の高いものではないが、好適な表面仕上げ状態はF研磨仕上げのランクF6以下の範囲内にあることは追認することができたものと思われる。
【表2】
【0025】
〔粉体の粒子形状と付着・剥離の形態〕
上述した付着性確認試験の結果に従って更に粉体の付着及び剥離の形態を検討してみよう。まず、粉体の粒子形状について検討すると、粉体と鋼材との間に働くファンデルワールス力は、鋼材表面が平坦な場合、接触面積が増大することで大きくなり、その結果、粉体の付着が生じ易くなり滑り抵抗も大きくなる。また、粉体の粒子径よりも鋼材表面の凹凸が十分に大きい場合も、粒子径から見ると鋼材表面を平坦とみなすことができるので、同様に、粉体の付着が生じ易くなる。
【0026】
また、シリカ粉体の粒子形状を顕微鏡写真で観察してみると、例えば、公称粒径φnが6μm近傍以下の比較的小さい公称粒径φnを持つシリカ粉体では、図3(1)に示す顕微鏡写真のように、粒径φの大きい粒子に粒径φの小さい微小粒子が凝集した粒子集合体と独立した単独粒子(独立粒子ともいう)とが混在しており、見掛け上公称粒径φnよりも大きい粒子の性状を持っていると考えられる。一方、公称粒径φnが10μm近傍以上の比較的大きい公称粒径φnのシリカ粉体では、図3(2)に示す顕微鏡写真のように、殆どの粒子が単独で存在する。
【0027】
従って、粒子の観察結果を参照して鋼材表面に対する粉体が付着し易い形態を整理すると、図4で表わすことができる。図4(1)は、粉体を構成する大きい粒子集合体と小さい粒子が組み合わさり粉体の鋼材表面との接触面積が大きい形態である。例えば、鋼材表面が鏡面仕上げ或いは鏡面仕上げに近い状態にある場合は、粉体中の一部の小さい粒子が大きい粒子に結合して大きな集合体が形成されていると、集合体外側の小さい粒子及び大きい粒子と結合していない他の小さい粒子が組み合わさって、鋼材表面の平坦部と大きい接触面積をもつため、ファンデルワールス力が大きくなり粉体が付着し易くなる。
【0028】
次に、図4(2)は、小さい粒子と大きい粒子が組み合わさり鋼材表面との接触面積が大きい形態である。例えば、同様に鋼材表面が鏡面仕上げ或いは鏡面仕上げに近い状態にある場合、図4(1)のように大きな集合体を形成せず、大きい粒子と小さい粒子が独立して存在する粉体については、やはり、大きい粒子と小さい粒子が組み合わさって鋼材表面の平坦部と大きい接触面積をもつので、ファンデルワールス力が大きくなって粉体が付着し易くなる。
【0029】
また、図4(3)は、鋼材表面の凹凸形状が緩やかで粉体の粒子を面接触で支持する形態である。つまり、図4(1)〔或いは、図4(1)〕のように小さい粒子と大きい粒子〔或いは、大きい粒子集合体〕が独立して存在する粉体に対して、鋼材表面が大きい粒子径〔或いは、大きい粒子集合体の外径〕に比べて十分に大きい凹凸ピッチを有し緩やかな凹凸形状を呈する場合、粉体の粒子を面接触で支持することになるので、ファンデルワールス力で粉体が付着し易くなる。
【0030】
さらに、図4(4)は、鋼材表面の凹凸形状の谷間に粒子が咬み込む形態である。特殊なケースとして、鋼材表面が凹凸形状を呈し、粉体を構成する主粒子の粒径よりも若干大きい凹凸ピッチを有する場合には、図示のように、粉体の主粒子が鋼材表面の凹部(凹凸形状の谷間)に咬み込んで鋼材表面に付着する現象が考えられる。
【0031】
以上の付着形態の検討から、粉体が付着しにくい(剥離し易い)形態は、図5で表わすことができる。図5(1)は、粉体の殆どの微小粒子が結合し鋼材表面平坦部と点接触で支持された形態である。例えば、粉体を構成する殆どの微小粒子が結合(小さい粒子同士が結合或いは小さい粒子がより大きい粒子と結合)して、一定の大きさ(径)を持つ粒子集合体が形成されている場合には、鋼材表面が平坦であっても、粒子集合体が鋼材表面の平坦部と点接触で支持されるため、ファンデルワールス力が小さくなり粉体が剥離し易く(付着しにくく)なる。
【0032】
また、図5(2)は、粉体の粒径が一定で接触状態が鋼材表面平坦部と点接触に近い形態である。例えば、図5(1)と同様に平坦な鋼材表面に対して、粒径が一定の粒子で粉体が構成されている場合は、粉体粒子が鋼材表面の平坦部と点接触に近い接触状態になるので、ファンデルワールス力が小さくなり粉体が剥離し易くなる。なお、大径の粒子集合体又は粒子で構成された粉体については、図4(3)のように仕上げ状態が緩やかな凹凸形状を呈する鋼材表面についても、図5(1),(2)と同様の形態が生じる。
【0033】
次に、図5(3)は、鋼材表面の凹凸ピッチが粉体粒子径よりも小さく粒子が点接触で支持される形態である。つまり、鋼材表面の仕上げ状態が所定の凹凸形状を呈しており、粉体を構成する主粒子の粒径よりも小さい凹凸ピッチを有する場合は、粉体の主粒子が鋼材表面の凸部(凹凸形状の山部)頂端に点接触状態で支持されるので、ファンデルワールス力が小さくなり粉体が剥離・滑落し易く(付着しにくく)なる。なお、この場合、鋼材表面の凹部(凹凸形状の谷間)に微小粒子が入り込むことがあるが、底部には到らず凸部鋼材との間に働くファンデルワールス力が僅小であり、これらの微小粒子は剥離し易い。
【0034】
また、図5(4)は、小さな粒子が結合し鋼材表面の凹凸部と点接触で支持される形態である。つまり、同様に鋼材表面の仕上げ状態が所定の凹凸形状を呈して場合は、粉体を構成する多くの微小粒子が結合(小さい粒子同士が結合或いは小さい粒子がより大きい粒子と結合)し、一定の大きさ(径)を持つ粒子集合体が形成されている場合は、粉体の主粒子集合体が鋼材表面の凸部頂端に点接触状態で支持されるので、ファンデルワールス力が小さくなり粉体が剥離し易くなる。なお、この場合も、鋼材表面の凹部に存在する微小粒子は、凸部鋼材との間に働くファンデルワールス力が僅小であるため、剥離し易い。
【0035】
従って、図5(3),(4)のように、粉体の主構成要素となる粒子或いは粒子集合体の径よりも小さい一定の凹凸形状を鋼板表面に形成すると、粉体が剥離・滑落し易くなり粉体の付着防止を図ることができるということが分かる。
【0036】
〔鋼板表面の凹凸形状の分析〕
上述した付着性確認試験の結果及び粉体の粒子形状と付着・剥離形態の検討から、平坦な鏡面仕上げよりも所定の凹凸形状を鋼板表面に形成するF研磨の方法が粉体の付着防止に効果があることが分る。また、具体例を挙げて説明しなかった他の試験結果を併せて考慮すると、F研磨のランクF2〜F6が剥離・滑落効果が高いことが判かった。そこで、さらに、各ランクのF研磨による鋼材表面の凹凸形状について分析を行った。なお、F研磨のランクF1〜F7については、既に述べたように、ランクF1の表面状態が最も粗く、ランク記号の番号が大きくなるに従って細かくなって行き、ランクF7が最も細かい。また、各ランクF1〜F7のF研磨は、例えば、前述したように、320#(F1)、400#(F2)、500#(F3)、600#(F4)、800#(F5)、1000#(F6)、2000#(F7)の硬質研磨粒子を用いた研磨材を使って実施することができる。
【0037】
図6は、鋼材表面の凹凸形状を測定した結果を表わす鋼材表面の凹凸断面図を示し、横軸は面方向の高さ位置〔μm〕を表わし、縦軸は、面方向に直角な凹凸方向の表面位置の高さ[μm](平均高さを「0」とする)を表わす。F研磨のランクF1〜F7の内からピックアップしたランクF2,F5,F7による鋼材表面の凹凸形状は、図6〔A〕〜〔C〕に示されるように、この順に、表面の凹凸形状が細かくなるが、F研磨との比較のために測定した鏡面仕上による図6〔D〕の凹凸断面図と対比すると十分な粗さを持っている。なお、図示しないが、F研磨のランクF3,F4及びランクF6による凹凸形状は、ランクF2,F5に準じた形状特性をもち略同じ傾向を示している。
【0038】
フーリエ変換を用いた波数解析を行うことによって、表面の凹凸の特徴を定量化し、具体的に、どのような間隔の凹凸がどのくらい高低差があるのかを数値で表わすことができる。これにより、粉体の各粒子径と凹部の寸法との比較が可能になり、鋼板表面が各粒子径に対して相対的に平滑か否かの判断に用いることができる。そこで、各ランクF1〜F7のF研磨による鋼板表面の凹凸形状について、次式(1)に従い離散フーリエ変換を行い、凹凸の波長(凹凸ピッチ)成分Lと波高(振幅:凹凸高さ)成分Hの関係を解析し、併せて、鏡面仕上げについても比較・参考のためにフーリエ解析を行い、F研磨との比較を行った。
【数1】
ここで、x(n)は、鋼板表面を探針センサで所定の長さ(距離)方向に走査した場合に、所定のサンプリング間隔の点で探針センサにより計測される高さ方向の値(表面の凹凸を表わす)、すなわち、総サンプリング数N中のn番目のディジタルサンプリング値である。また、kは、単位長当りの波数(空間周波数)f[回/μm]に対応する値であり(k=0,1,2,…,N−1)、全計測距離をD[μm]とすると、k=fDで表わされる。
【0039】
つまり、X(k)は、単位長当り波数対応値kに対するフーリエ変換後の信号強度を表わすベクトルであり、このベクトルの絶対値(長さ)が波の凹凸(振幅)に比例する。従って、値kに対する変換後信号強度X(k)に対して、凹凸形状の波高(振幅)Hは2|X(k)|/Nで表わされ、波高(振幅)Hと波長Lの比〔「波高(振幅)対波長比」、「波高比」或いは「振幅比」という〕H/Lは次式(2)で表わされる。
【数2】
【0040】
図7は、フーリエ解析を行った各ランクF1〜F7のF研磨のうち、煩雑さを避けるために、図6と同様に、ランクF2,F5,F7をピックアップして、解析の結果得られた波長L〔μm〕(横軸)に対する振幅対波長比H/L(左側縦軸)の特性を図示したものである(各軸共に対数目盛)。なお、図7には、ランクF2,F5,F7のF研磨だけでなく、鏡面仕上げについても特性が示されており、併せて、公称粒径φnが異なる7種類の粉体(シリカ)試料A〜G(A:0.2μm,B:0.5μm,C:1.0μm,D:1.5μm,E:2.0μm,F:6.0μm,G:10.0μm)について粒径φ〔μm〕(横軸)の分布頻度〔%〕(左側縦軸)も示されている。また、図8は、F研磨の中間ランクF4〜F6及び鏡面仕上げについて波長L〔μm〕に対する振幅対波長比H/Lの特性を示しており、図7に示されないF研磨のランクF4,F6もランクF5と同様の傾向を呈することを表わしている。
【0041】
上述した解析結果によれば、F研磨の各ランクF1〜F7のうち、ランクF2〜F6の範囲では、振幅対波長比H/Lが大きくなって点接触度が高くなるので、高い剥離・滑落効果が得られる。例えば、波長Lが1μm以下の範囲をみると、鏡面仕上げやF研磨のランクF7の振幅対波長比特性(H/L)が小さい値 0.00001〜0.000015を示すのに対して、F研磨のランクF2〜F6の振幅対波長比特性(H/L)は、0.0005以上の大きな値が得られ、特に大きいH/L値: 0.004〜 0.006を示すランクF2,F3では、特に高い剥離・滑落効果が得られる。
【0042】
以上の点から、この発明の一実施例では、ホッパーシュート等の粉体取扱装置における粉体の付着防止対策として、粉体が通過する鋼材表面にF研磨のランクF2〜F6により所定の凹凸形状を形成する。この凹凸形状と粉体の典型的な接触形態は、図9に示される状態にあるものと想定される。
【0043】
まず、鋼材表面Sfの凹凸形状については、図9のように、全体としては大きな波の上で、微小な波長(凹凸ピッチ)と振幅(凹凸深さ)を持つ小さい凹凸を繰り返しており、大きな波が研磨材の精粗度に対応していると考えられる。つまり、ランクF2〜F6の処理では、研磨材の粗さに応じて、粉体Pdを構成する粒子Ptの径φよりも十分に大きい波の凹凸が形成され、この大きい波の上に細かい凹凸が乗ったものであり、しかも、細かい凹凸は、凹凸ピッチに対する凹凸深さ(振幅対波長比H/L)が大きい。従って、粉体Pdの粒子Ptや粒子集合体Psは、研磨材の粗さに拘わらず形成された細かく深い凹凸に対して点接触状態になるため、粉体の付着防止を図ることができる。
【0044】
例えば、図9(1)に示すように、図5(4)の場合と同様に、粉体Pdを構成する微粒子Ptが粒子集合体Psの状態で存在し独立粒子Prと混在する場合を検討すると、構成粒子Ptの粒径φが小さいほど多くの粒子集合体Psが形成される。また、各粒子集合体Psも1つの粒子と考えることができるので、粒子集合体Psの外径及び独立粒子Prの粒径をともに「外径」と呼ぶと、この粉体Pdの外径分布は、図7の粒径分布A〜Gと同様にピークを有する分布状態となる。そこで、粒子集合体Psが存在する粉体Pdの外径分布のピークに対応する外径を「平均外径φs」と呼ぶものとする。
【0045】
従って、図9(1)のように、粒子集合体Psが存在する場合、凹凸形状の波長(凹凸ピッチ)Lを平均外径φs(例えば、φs:5〜20μm)より小さくすることにより、図5(4)で説明したように、粒子集合体Psが鋼材表面Sfの凸部頂端と点接触で支持される。また、凹凸形状の振幅対波長比(凹部の深さの割合)H/Lが大きいので、他の独立した小径の独立微粒子Prが鋼材表面Sfの凹部に入り込んでも底部に達することなく凸部側面に点接触で支持される。従って、粒子集合体Psや独立粒子Prに働くファンデルワールス力は小さく鋼材表面Sfに付着しにくくなる。
【0046】
また、図7の粒径分布A〜Gのピークに対応する粒径φを平均粒径φuと呼ぶと、図9(2)のように、粉体Pdを構成する多くの粒子Ptが独立した大粒子Puであり、平均粒径φuが大きい(例えば、φ:5〜20μm)場合、凹凸形状の波長(凹凸ピッチ)Lが平均粒径φuより小さくすることにより、図5(3)で説明したように、粉体Pd中の大粒子Puが鋼材表面Sfの凸部頂端と点接触で支持される。また、凹凸形状の振幅対波長比(凹部の深さの割合)H/Lが大きいので、波長(凹凸ピッチ)Lより小さい粒径を持つ小粒子Pvが鋼材表面Sfの凹部に入り込んでも底部に達することなく凸部側面に点接触で支持される。従って、大粒子Puや小粒子Pvに働くファンデルワールス力は小さく鋼材表面Sfに付着しにくくなる。
【0047】
以上のように、この発明の一実施例によれば、粉体Pdが接触する鋼材表面Sfに所定の小さい凹凸が形成され、その凹凸ピッチは、粉体Pdを構成する粒子Pt,Pu又は粒子集合体Psの平均粒径φu又は平均外径φsよりも小さくなるように処理される。これにより、粉体粒子Pt,Puや粒子集合体Psが鋼材表面Sfと点接触の状態になり、粉体Pdと鋼材との間に働くファンデルワールス力が弱められ、鋼材表面への粉体の付着を防止することができる。このような凹凸形状は、「F研磨(F2〜F6)」と呼ばれる研磨材を用いた研磨処理により簡単に得ることができ、この研磨処理によって所定の凹凸が表面に形成された鋼製部材は、種々の粉体取扱装置、例えば、ホッパーシュートの粉体通流路内壁や除鉄装置の棒磁石外装材に好適に適用することができる。
【0048】
〔粉体取扱装置の例〕
この発明により表面に粉体付着防止対策が講じられた鋼材は、粉体の搬送や異物除去、貯蔵、排出などの工程における各種の粉体取扱装置において粉体が通過する部分に用いることができる。図10は、この発明が適用される粉体取扱装置としてホッパーシュートを用いた第1の適用例を示す。このホッパーシュート1は、逆円錐形状のSUS304ステンレス鋼板2で製作され、寸法例を挙げると、上部投入口の直径a=300mm、下部排出口の直径b=100mm、高さh=265mm、水平面に対する円錐形側部の傾斜角α=60°である。
【0049】
F研磨(F2〜F6)の付着防止効果をホッパーシュート1について確認するために、鋼板2の内壁面Sfを二分し各部分を従来のバフ320#仕上げとF研磨(F3)で処理した上、てんぷら粉を粉体Pdとして用い、投入口上方から篩を通して落下させ、鋼板内壁面Sfへの付着・堆積状況を視察した。
【0050】
その結果は図11の平面写真に示すとおりであり、所定の凹凸形状を形成することによる粉体付着防止効果を確認することができた。すなわち、図10に示した逆円錐鋼板2の内壁面を上側からみて、図示の上半分がバフ320#で仕上げられ、下半分がF研磨(F3)で仕上げられているが、図示のように、従来のバフ320#で仕上げた鋼板内壁面(上半部)Sfには粉体Pdが付着・残存しているのに対して、F研磨(F3)で仕上げた鋼板内壁面(下半部)Sfには粉体Pdの付着は認められない。さらに、従来のバフ400#仕上げや他のF研磨(F2,F4〜F6)で処理した場合についても同様の試験をしたが、やはり、同様にF研磨で仕上げると粉体が付着し難い結果を得ることができた。
【0051】
図12(1)は、この発明が適用される粉体取扱装置として除鉄装置を用いた第2の適用例を示す。この除鉄装置3は、特許文献2に示されるように、円筒状ステンレス鋼材4で外装された複数本(図では4本を示す)の棒磁石(マグネット構体)5を装置内に組み込み、装置上部の開口から分散器6を通じて分散させた粉体を上方から棒磁石5に向かって通過させ、粉体中に混入している磁性物を棒磁石5の外装面(鋼材表面)Sfに吸着させて除去するようになっている。除鉄装置3の寸法例を挙げると、上部開口の口径c=150mm、棒磁石5の外径d=25mm、水平面に対する棒磁石5の傾斜角β=35°である。
【0052】
F研磨(F2〜F6)による付着防止効果を除鉄装置について確認するために、図12(1)に示す除鉄装置3の棒磁石5を取り出し、一方の棒磁石外装面Sfを従来のバフ400#で仕上げ、他方の棒磁石外装面SfをF研磨(F2)で仕上げた上、それぞれ、図12(2)に示すように、除鉄装置3と同じ傾斜角β=35°で垂直支持体に取り付けて模擬試験設備を作り、てんぷら粉を粉体Pdとして用い、投入口上方から篩を通して落下させ、棒磁石外装面Sfへの付着・堆積状況を視察した。
【0053】
その結果は図13の側面写真に示すとおりであり、所定の凹凸形状を形成することによる粉体付着防止効果を確認することができた。すなわち、バフ400#で仕上げた場合は、図13〔1〕に示すように、棒磁石外装面Sfには多量の粉体Pdが付着・堆積しているのに対して、F研磨(F2)で仕上げた場合には、図13〔2〕に示すように、棒磁石外装面Sfには粉体Pdの付着・堆積は認められない。さらに、従来のバフ320#仕上げとF研磨(F3〜F6)で処理した場合についても同様の試験をしたが、やはり、同様に、F研磨仕上げにより粉体が付着し難い結果を得ることができた。
【0054】
〔種々の実施態様〕
以上、図面を参照しつつ、この発明の好適な実施例を詳述したが、これは単なる一例であって、この発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、実施例では、耐久性のあるダイヤモンド等の硬質研磨材を用いたが、所定の凹凸形状を形成することができる研磨材であれば、他の研磨材を用いてもよい。また、取り扱う粉体については、天ぷら粉に限らず、種々の食用粉体や合成樹脂粉体などに適用することができる。
【0055】
〔発明の利点〕
この発明による所定の凹凸形状を粉体取扱装置の鋼材面に施工することにより、次のように、種々の粉体を扱う装置やシステムにおけるトラブル防止や性能向上に大きく寄与することができる。
(a)ホッパー・貯蔵タンク内において内壁面に粉体が付着したり粉体通路が粉体で閉塞するのを防止することができる。
(b)タンク排出口の傾斜角度を緩和することができ、これによって、取り扱う粉体の容量をアップすることができ、タンク構造の高さを縮小することができる。
(c)輸送傾斜配管の詰まりを防止すると共に傾斜角度を緩和することができ、これによって、限定された建物内の機械の配置計画に余裕ができると共に建物全体の高さを抑えることができる。
(d)攪拌機や計量ホッパー内に付着・残存する粉体を無くすることができ、これによって、取り扱う粉体の品種を切り替えた場合でも粉体の品質を向上し粉体の計量精度を向上することができる。
(e)タンクローリーから粉体を圧送した後でタンク内に残存する粉を排出するために、従来は、主として人力により配管に打撃を与えていたが、この発明による所定の凹凸形状タンク内面に施すことにより、このような労力を軽減することができる。
(f)除鉄装置については、この発明による所定の凹凸形状を棒磁石表面に施して粉体の堆積や付着を無くすることができ、これによって除鉄性能が向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】粉体付着トラブルに関する従来技術を説明するための図である。
【図2】鋼材平板を用いた付着性確認試験を説明するための図である。
【図3】粉体(シリカ)の形状を表わす顕微鏡写真の例である。
【図4】粉体の付着形態を説明するための図である。
【図5】粉体が剥離し易い形態を説明するための図である。
【図6】鋼材表面の凹凸形状例を表わす図である。
【図7】代表的な凹凸形状の波高(振幅)対波長比特性と各種粉体における粒子径分布を表わす図である。
【図8】他の凹凸形状を含む波高(振幅)対波長比特性を表わす図である。
【図9】この発明による粉粒体付着防止の原理を説明するための図である。
【図10】この発明の一実施形態による粉体取扱装置(ホッパーシュート)を示す。
【図11】ホッパーシュートにおける粉体付着試験結果の側面写真を示す。
【図12】この発明の別の実施形態による粉体取扱装置(除鉄装置)及びその模擬試験設備を示す。
【図13】除鉄装置における粉体付着試験結果の側面写真を示す。
【符号の説明】
【0057】
θ,θmax 傾斜角度及び滑落傾斜角度、
φ 粉体Pdを構成する各粒子Ptの粒径、
φn,φu 粉体Pdの公称粒径及び平均粒径、
φs 粒子集合体Psの平均外径、
Pu,Pv 大粒子及び小粒子、
Sf 鋼材表面。
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼製部材の表面における粉体の付着防止を図った粉体取扱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食用粉体(穀粉など)や合成樹脂粉体などの粉体(粉粒体ともいう)の性状は、粒子の大きさ・その分布・形状によって異なり、ナノ粒子を作り出す技術まで進んだ現在でも種々の問題を抱えている。その中で、未だ解決されていないのが、粉体の搬送や異物除去、貯蔵、排出などの粉体取扱工程において、粉体通流部を構成する鋼製部材(鋼材)の表面に粉体が付着・堆積し、最悪の場合には粉体通流部を閉塞してしまうという粉体付着トラブルがある。
【0003】
例えば、特許文献1では、粉体投入用ホッパーに振動を与えると共にホッパー内に空気を吐出してホッパー内面に付着した残留粉体取り除くようにしており、また、特許文献2では、永久磁石式異物選別機において、異物(磁性物)除去・吸着用棒磁石を傾斜させて原料粉体が棒磁石外装鋼材の表面に堆積しないようにしているが、何れも、粉体付着トラブルの根本的な解決にはならない。
【特許文献1】特開平9−95390号公報
【特許文献2】特開2006−61834号公報
【0004】
また、製造現場では、粉体送給用の配管やタンクの鋼板外表面が、粉体付着防止のための打撃によって凸凹になっている箇所がよく見受けられ、計量器上方の排出タンク内において壁面に付着した粉のかたまりが、計測終了間際に剥離・脱落し定量計測が出来ないというトラブルも発生している。図1は、ホッパーシュートを例にして粉体付着トラブルに関する従来技術を説明するための図であり、上述のような粉体の鋼板壁面への付着の形態は図1(1)の形状で代表される。
【0005】
例えば、鋼材表面との付着性が強い粉体はホッパー内壁面に付着してそのまま残留し、同図(1a)のように壁面付着という現象が生じる。また、粉体同士が壁面で強く結合すると、同図(1b)のようにラットホールという現象が生じ、粉体流動部は流出口上方の管状部分を残すのみとなり、新しく投入された材料粉体が先に出てしまい、古い粉体は管状部分の周囲に静止し“デッドストック”としていつまでも残留する。さらに、ホッパー下部で粉体の付着・圧縮が進むと、同図(1c)のようにブリッジという現象が生じて出口からの流出が防げられたり、或いは、ホッパー上部で粉体が堆積し圧縮されると、上部にアーチング現象が生じてアーチ状に詰まり(図示せず)、完全な閉塞状態となる。
【0006】
現在、このような付着・閉塞の対応策として、図1(2)に示されるような方法が採用されている:
(1)外的に力を加える方法…例えば、ホッパー外部からエアーハンマー等で打撃を加えたりバイブレーター等の加振装置で振動を加えて、ホッパー内壁面から粉体を離脱させたり、粉体がホッパー内壁面に付着しないようにする。
(2)内部から力を加える方法…例えば、ホッパー内壁部に攪拌装置やエアー噴出装置を設けてホッパー内を攪拌したりエアーをホッパー内に噴出して、ホッパー内壁面から粉体を離脱させせたり、粉体がホッパー内壁面に付着しないようにする。
【0007】
しかし、これらの対策方法でも、まだ満足できる状態ではなく、次のような問題点を抱えている:
(1)の方法では、打撃によって発生する騒音は現場の環境を著しく低下させる。また、振動エネルギーによっては、製造ラインで、隣接する機器や接続配管の継手を傷める恐れがある。
(2)の方法では、例えば、タンク内に設置する場合、攪拌装置では回転軸受け部の磨耗が生じ、エアー噴出装置では異種材料を使うので、異物発生の危険性を伴う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、このような事情に鑑み、粉体が接触する鋼材表面に所定の凹凸を設けることにより、鋼材表面から粉体が剥離・滑落する性能を高めて鋼材表面への粉体の付着を防止することができるようにした粉体取扱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の主たる特徴に従うと、粉体取扱装置(1,3)において粉体(Pd)が表面(Sf)に接触する鋼製部材(2,4)であって、粉体(Pd)が接触する表面(Sf)に、凹凸ピッチ(L)が、粉体(Pd)を構成する粒子(Pt,Pu)又は粒子集合体(Ps)の平均粒径(φu)又は平均外径(φs)よりも小さく、当該粒子(Pt,Pu)又は粒子集合体(Ps)が凸部に点接触状態となるように、所定の凹凸が形成されている粉体取扱装置用鋼製部材(2,4)〔請求項1〕、並びに、粉体(Pd)が表面(Sf)に接触する鋼製部材(2,4)を備え、粉体(Pd)が接触する鋼製部材(2,4)の表面(Sf)に、凹凸ピッチ(L)が、粉体(Pd)を構成する粒子(Pt,Pu)又は粒子集合体(Ps)の平均粒径(φu)又は平均外径(φs)よりも小さく、当該粒子(Pt,Pu)又は粒子集合体(Ps)が凸部に点接触状態となるように、所定の凹凸が形成されている粉体取扱装置(1,3)〔請求項2〕が提供される。なお、括弧書きは、理解の便の為に付した実施例の参照記号乃至用語である。
【0010】
この粉体取扱装置用鋼製部材(2,4)又は粉体取扱装置(1,3)において、凹凸は、研磨材を用いて形成される〔請求項3〕。また、この粉体取扱装置は、粉体通流路の内壁が鋼製部材(2)で構成されたホッパーシュート(1)である〔請求項4〕。或いは、この粉体取扱装置は、粉体通流路に突出した棒磁石(5)を備える除鉄装置(3)であり、棒磁石(5)は鋼製部材(4)で外装されている〔請求項5〕。
【発明の効果】
【0011】
この発明の主たる特徴によれば〔請求項1,2〕、粉体取扱装置(1,3)において、粉体(Pd)が接触する鋼製部材(2,4)の表面(Sf)に所定の凹凸が形成され、凹凸ピッチ(L)は、粉体(Pd)を構成する粒子(Pt,Pu)又は粒子集合体(Ps)の平均粒径(φu)又は平均外径(φs)よりも小さくなるように鋼材表面(Sf)に一定の凹凸を設ける処理がなされており、粉体粒子(Pt,Pu)や粒子集合体(Ps)が鋼材表面(Sf)と点接触の状態になっているので、粉体と鋼製部材(鋼材)との間に働くファンデルワールス力が弱められ、鋼材表面から粉体が剥離・滑落する性能を高めて鋼材表面への粉体の付着を防止することができる。
【0012】
また、この発明では、所定の凹凸を形成するのに研磨材を用いて鋼材表面(Sf)を処理するようにしているので、粉体取扱装置の鋼材表面に研磨処理により簡単かつ容易に所望の凹凸形状を得ることができる〔請求項3〕。さらに、この発明により所定の凹凸が表面に形成された鋼製部材は、種々の粉体取扱装置に適用することができ、特に、ホッパーシュートの粉体通流路内壁や、除鉄装置の異物吸着用棒磁石の外装材に好適に適用することができる〔請求項4,5〕。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔粉体付着の主因〕
粉体の搬送や異物除去、貯蔵、排出などを取り扱う各種装置の粉体通流部の鋼板表面に粉体が付着する主要な原因には、次の3項目を挙げることができる:
(a)静電気…帯電した粉体が静電気によって鋼板表面に付着する。
(b)水分…吸湿した粉体が鋼板表面の微小水分との結合(表面張力)によって鋼板表面に付着する。
(c)物理力…鋼板と微粒子粉体との間に発生する“ファンデルワールス力”によって鋼板表面に付着する。
【0014】
現在、これらの要因の影響度が検証された文献はなく、微細な粉体が帯電し易いことから、付着の原因は殆ど静電気の影響として片付けられている。そこで、項目(a),(b)について夫々どの程度の影響があるものかを検証すると、次のような結果が得られた:
(a)静電気の影響…帯電させた粉体をカーボン含有鋼板(カーボン含有率:3.10%)で検証したが、付着状態に変化はなく、また、鏡面に仕上げた鋼板に帯電した粉体を堆積させて静電気量を測定しつつ帯電の影響を調べた結果、数秒で静電気は消滅したが、鋼板への付着状態に変化はなかった。
(b)水分の影響…鏡面仕上げの鋼板表面をドライヤーで強制的に加熱して乾燥し、てんぷら粉の乾燥品を使用して何もしない状態との比較を行ったが、これも、付着状態に変化がなかった。
【0015】
以上の検証結果から、付着の要因は、鋼板表面と粉体間に作用する(c)のファンデルワールス力による影響が大きいと判断された。なお、(b)の水分の影響を検証する際に行った“てんぷら粉の含水率測定試験”において、水分の変動で粒子径およびその粒度分布が変化することが判った。
【0016】
〔ファンデルワールス力による粉体付着現象の確認〕
鋼板・粉体間に発生するファンデルワールス力は、分子間引力とも呼ばれている内部応力であり、直接、計測することはできないが、この力は、鋼材表面の微細な凹凸と粉体の粒子径に依存し、鋼材表面と粉体の接触面積で大きくなることは明らかである。そこで、鋼材表面の凹凸形状とファンデルワールス力による粉体付着との関係を調べるために、異なる研磨方法により表面を仕上げた平板鋼材に対して付着性確認試験を実施した。図2は、この平板鋼材を用いた付着性確認試験を説明するための図であり、この付着性確認試験には図2(1)の「傾斜滑落試験」と図2(2)の「反転付着試験」がある。
【0017】
図2(1)の傾斜滑落試験では、予め、同一品質の鋼板(ステンレス鋼板SUS304)に対し、種々の研磨材を使って表面を研磨し、表面の仕上げ状態を異ならせた鋼板を用意する。この仕上げ状態には、例えば、「ハブ800#」と呼ばれる研磨材を使って最も細かく研磨した鏡面仕上げと、本発明者が開発した「F研磨」と呼ばれる研磨法により鏡面仕上げよりは粗く研磨するF研磨仕上げとが含まれる。F研磨仕上げは、研磨作業を進めても鋭利さが失われないダイヤモンド等の硬質研磨粒子を紙又は布に貼り付けた研磨材を使って鋼材表面を研磨処理するものであり、研磨粒子の公称精粗度(320#〜2000#)に応じて7つのランクがあり、表面仕上げの状態が粗い順に、「F1」(320#)、「F2」(400#)、「F3」(500#)、「F4」(600#)、「F4」(800#)、「F6」(1000#)、「F7」(2000#)と名付けている。
【0018】
傾斜滑落試験では、まず、水平に設置した各仕上げ状態の鋼板の上に、粉体として、市販のてんぷら粉(A)を用いて作成した直径75mm、厚さ20mmの円盤状ケーキを載置する。この円盤状ケーキは、鋼板上に円筒状の型枠を置き、その上部から篩(ふるい)を通して同量のてんぷら粉を型枠内に堆積させた後、型枠を抜き上げることにより作成したものである。そして、鋼板の水平面との角度θを徐々に変化させ、鋼板へのケーキの付着し易さ(滑り易さ)の目安として、ケーキが滑り出す際の角度(滑落傾斜角度という)θmaxを測定する。この傾斜滑落試験の結果は表1に示すとおりである。
【表1】
【0019】
まず、表1左側の「傾斜滑落試験1」では、鏡面仕上げ、ハブ400#、F研磨(F2)仕上げ、ブラスト研磨、へアーライン仕上げにより表面を仕上げた各鋼板について、それぞれ、複数回(3〜6回)、滑落傾斜角度θmaxを測定した。ここで、表面の仕上げ状態は、鏡面仕上げ、ハブ400#、F研磨(F2)仕上げ、の順に粗くなって行き、F研磨(F1)については、傾斜方向(「方向1」)に沿って研磨した場合と傾斜方向に直角方向(「方向2」)に沿って研磨した場合に分けて試験した。なお、これら三者の仕上げとの比較のために行ったブラスト研磨及びへアーライン仕上げは、研磨材で表面全体を平均して擦って行く三者の仕上げ方法とは異なり、鋼板に研磨材を吹き付けたり鋼板に細かい線溝を生じさせる方法を用いており、表面仕上げの精粗を単純に比較することができないが、表面全体の平均的な精粗度はF研磨(F2)より粗いと考えられる。
【0020】
傾斜滑落試験1の結果は、複数回計測した滑落傾斜角度θmaxの平均値を採ると、表1左側に示すとおりであり、各鋼板表面へのケーキの付着し難さの目安を表わす滑落傾斜角度θmaxは、必ずしも、表面仕上げの細かさに比例しないことが分かった。また、ブラスト研磨及びへアーライン仕上げは、同じ研磨材を用いても表面仕上げを行う度に仕上げ状態が変化して行くので、同じ仕上げ状態を維持するための繰返し再現性がなく、傾斜滑落試験1で格別の滑り易さを示した訳でもない。そこで、試験対象の鋼板表面をF研磨仕上げたものに絞って表1右側の「傾斜滑落試験2」を行った。
【0021】
傾斜滑落試験2では、7つのランクのF研磨仕上げF1〜F7のうち、最適と思われるランク1〜5のF研磨仕上げF1〜F5で表面を両方向に研磨した鋼板について、傾斜滑落試験1と同様に、粉体としててんぷら粉(B)を用いた円盤状ケーキで滑落傾斜角度θmaxを複数回測定し、参考のために、鏡面仕上げについて滑落傾斜角度θmaxを測定した。なお、この試験で用いたてんぷら粉(B)は、傾斜滑落試験1で開封してから数日経過しているので、傾斜滑落試験1に用いたてんぷら粉(A)に比べて水分含有度が相当高くなっているものと思われる。
【0022】
傾斜滑落試験2により、F研磨仕上げF1〜F5について7回計測した滑落傾斜角度θmaxの平均値と、比較のために鏡面仕上げについて1回計測した滑落傾斜角度θmaxの結果は、表1右側に示すとおりである。これにより、F研磨仕上げによると粉体が付着し難くなるこが確認され、この試験では、特に好適な表面仕上げ状態はF研磨仕上げF2〜F4の範囲にあることが示された。
【0023】
次に、試験対象をF研磨仕上げの鋼板表面に対する試験対象粉体の粒径を変化させて、図2(2)の反転付着試験を行った。この反転付着試験は、図2(2)に示すように、鋼板表面に粉体を薄く堆積させた後、鋼板を反転させて鋼板表面に粉体が付着したままの面積を計測するものであり、鋼板表面の凹凸状態(F研磨:F2〜F7)と粉体の粒径(7種類)の組合せに対する付着性確認試験である。粉体としては7種類の公称粒径φn(0.2μm〜12μm)を持つシリカを用い、表面がF研磨仕上げF2〜F7で処理された鋼板を水平に置き、鋼板の上に載せた直径60mmの円形枠内に粉体を篩で凡そ一層に堆積させ、円形枠を取り除いた後で、180°静かに反転させて、表面に残存する粉体の付着した残存面積Bを視察により当初の付着面積A(9π平方cm)と比較して粉体残存率R=B/Aを求めた。
【0024】
反転付着試験の結果は表2に示すとおりである。この反転付着試験では、各組合せの測定を行ったのは1回だけであり、確率的にみて精度の高いものではないが、好適な表面仕上げ状態はF研磨仕上げのランクF6以下の範囲内にあることは追認することができたものと思われる。
【表2】
【0025】
〔粉体の粒子形状と付着・剥離の形態〕
上述した付着性確認試験の結果に従って更に粉体の付着及び剥離の形態を検討してみよう。まず、粉体の粒子形状について検討すると、粉体と鋼材との間に働くファンデルワールス力は、鋼材表面が平坦な場合、接触面積が増大することで大きくなり、その結果、粉体の付着が生じ易くなり滑り抵抗も大きくなる。また、粉体の粒子径よりも鋼材表面の凹凸が十分に大きい場合も、粒子径から見ると鋼材表面を平坦とみなすことができるので、同様に、粉体の付着が生じ易くなる。
【0026】
また、シリカ粉体の粒子形状を顕微鏡写真で観察してみると、例えば、公称粒径φnが6μm近傍以下の比較的小さい公称粒径φnを持つシリカ粉体では、図3(1)に示す顕微鏡写真のように、粒径φの大きい粒子に粒径φの小さい微小粒子が凝集した粒子集合体と独立した単独粒子(独立粒子ともいう)とが混在しており、見掛け上公称粒径φnよりも大きい粒子の性状を持っていると考えられる。一方、公称粒径φnが10μm近傍以上の比較的大きい公称粒径φnのシリカ粉体では、図3(2)に示す顕微鏡写真のように、殆どの粒子が単独で存在する。
【0027】
従って、粒子の観察結果を参照して鋼材表面に対する粉体が付着し易い形態を整理すると、図4で表わすことができる。図4(1)は、粉体を構成する大きい粒子集合体と小さい粒子が組み合わさり粉体の鋼材表面との接触面積が大きい形態である。例えば、鋼材表面が鏡面仕上げ或いは鏡面仕上げに近い状態にある場合は、粉体中の一部の小さい粒子が大きい粒子に結合して大きな集合体が形成されていると、集合体外側の小さい粒子及び大きい粒子と結合していない他の小さい粒子が組み合わさって、鋼材表面の平坦部と大きい接触面積をもつため、ファンデルワールス力が大きくなり粉体が付着し易くなる。
【0028】
次に、図4(2)は、小さい粒子と大きい粒子が組み合わさり鋼材表面との接触面積が大きい形態である。例えば、同様に鋼材表面が鏡面仕上げ或いは鏡面仕上げに近い状態にある場合、図4(1)のように大きな集合体を形成せず、大きい粒子と小さい粒子が独立して存在する粉体については、やはり、大きい粒子と小さい粒子が組み合わさって鋼材表面の平坦部と大きい接触面積をもつので、ファンデルワールス力が大きくなって粉体が付着し易くなる。
【0029】
また、図4(3)は、鋼材表面の凹凸形状が緩やかで粉体の粒子を面接触で支持する形態である。つまり、図4(1)〔或いは、図4(1)〕のように小さい粒子と大きい粒子〔或いは、大きい粒子集合体〕が独立して存在する粉体に対して、鋼材表面が大きい粒子径〔或いは、大きい粒子集合体の外径〕に比べて十分に大きい凹凸ピッチを有し緩やかな凹凸形状を呈する場合、粉体の粒子を面接触で支持することになるので、ファンデルワールス力で粉体が付着し易くなる。
【0030】
さらに、図4(4)は、鋼材表面の凹凸形状の谷間に粒子が咬み込む形態である。特殊なケースとして、鋼材表面が凹凸形状を呈し、粉体を構成する主粒子の粒径よりも若干大きい凹凸ピッチを有する場合には、図示のように、粉体の主粒子が鋼材表面の凹部(凹凸形状の谷間)に咬み込んで鋼材表面に付着する現象が考えられる。
【0031】
以上の付着形態の検討から、粉体が付着しにくい(剥離し易い)形態は、図5で表わすことができる。図5(1)は、粉体の殆どの微小粒子が結合し鋼材表面平坦部と点接触で支持された形態である。例えば、粉体を構成する殆どの微小粒子が結合(小さい粒子同士が結合或いは小さい粒子がより大きい粒子と結合)して、一定の大きさ(径)を持つ粒子集合体が形成されている場合には、鋼材表面が平坦であっても、粒子集合体が鋼材表面の平坦部と点接触で支持されるため、ファンデルワールス力が小さくなり粉体が剥離し易く(付着しにくく)なる。
【0032】
また、図5(2)は、粉体の粒径が一定で接触状態が鋼材表面平坦部と点接触に近い形態である。例えば、図5(1)と同様に平坦な鋼材表面に対して、粒径が一定の粒子で粉体が構成されている場合は、粉体粒子が鋼材表面の平坦部と点接触に近い接触状態になるので、ファンデルワールス力が小さくなり粉体が剥離し易くなる。なお、大径の粒子集合体又は粒子で構成された粉体については、図4(3)のように仕上げ状態が緩やかな凹凸形状を呈する鋼材表面についても、図5(1),(2)と同様の形態が生じる。
【0033】
次に、図5(3)は、鋼材表面の凹凸ピッチが粉体粒子径よりも小さく粒子が点接触で支持される形態である。つまり、鋼材表面の仕上げ状態が所定の凹凸形状を呈しており、粉体を構成する主粒子の粒径よりも小さい凹凸ピッチを有する場合は、粉体の主粒子が鋼材表面の凸部(凹凸形状の山部)頂端に点接触状態で支持されるので、ファンデルワールス力が小さくなり粉体が剥離・滑落し易く(付着しにくく)なる。なお、この場合、鋼材表面の凹部(凹凸形状の谷間)に微小粒子が入り込むことがあるが、底部には到らず凸部鋼材との間に働くファンデルワールス力が僅小であり、これらの微小粒子は剥離し易い。
【0034】
また、図5(4)は、小さな粒子が結合し鋼材表面の凹凸部と点接触で支持される形態である。つまり、同様に鋼材表面の仕上げ状態が所定の凹凸形状を呈して場合は、粉体を構成する多くの微小粒子が結合(小さい粒子同士が結合或いは小さい粒子がより大きい粒子と結合)し、一定の大きさ(径)を持つ粒子集合体が形成されている場合は、粉体の主粒子集合体が鋼材表面の凸部頂端に点接触状態で支持されるので、ファンデルワールス力が小さくなり粉体が剥離し易くなる。なお、この場合も、鋼材表面の凹部に存在する微小粒子は、凸部鋼材との間に働くファンデルワールス力が僅小であるため、剥離し易い。
【0035】
従って、図5(3),(4)のように、粉体の主構成要素となる粒子或いは粒子集合体の径よりも小さい一定の凹凸形状を鋼板表面に形成すると、粉体が剥離・滑落し易くなり粉体の付着防止を図ることができるということが分かる。
【0036】
〔鋼板表面の凹凸形状の分析〕
上述した付着性確認試験の結果及び粉体の粒子形状と付着・剥離形態の検討から、平坦な鏡面仕上げよりも所定の凹凸形状を鋼板表面に形成するF研磨の方法が粉体の付着防止に効果があることが分る。また、具体例を挙げて説明しなかった他の試験結果を併せて考慮すると、F研磨のランクF2〜F6が剥離・滑落効果が高いことが判かった。そこで、さらに、各ランクのF研磨による鋼材表面の凹凸形状について分析を行った。なお、F研磨のランクF1〜F7については、既に述べたように、ランクF1の表面状態が最も粗く、ランク記号の番号が大きくなるに従って細かくなって行き、ランクF7が最も細かい。また、各ランクF1〜F7のF研磨は、例えば、前述したように、320#(F1)、400#(F2)、500#(F3)、600#(F4)、800#(F5)、1000#(F6)、2000#(F7)の硬質研磨粒子を用いた研磨材を使って実施することができる。
【0037】
図6は、鋼材表面の凹凸形状を測定した結果を表わす鋼材表面の凹凸断面図を示し、横軸は面方向の高さ位置〔μm〕を表わし、縦軸は、面方向に直角な凹凸方向の表面位置の高さ[μm](平均高さを「0」とする)を表わす。F研磨のランクF1〜F7の内からピックアップしたランクF2,F5,F7による鋼材表面の凹凸形状は、図6〔A〕〜〔C〕に示されるように、この順に、表面の凹凸形状が細かくなるが、F研磨との比較のために測定した鏡面仕上による図6〔D〕の凹凸断面図と対比すると十分な粗さを持っている。なお、図示しないが、F研磨のランクF3,F4及びランクF6による凹凸形状は、ランクF2,F5に準じた形状特性をもち略同じ傾向を示している。
【0038】
フーリエ変換を用いた波数解析を行うことによって、表面の凹凸の特徴を定量化し、具体的に、どのような間隔の凹凸がどのくらい高低差があるのかを数値で表わすことができる。これにより、粉体の各粒子径と凹部の寸法との比較が可能になり、鋼板表面が各粒子径に対して相対的に平滑か否かの判断に用いることができる。そこで、各ランクF1〜F7のF研磨による鋼板表面の凹凸形状について、次式(1)に従い離散フーリエ変換を行い、凹凸の波長(凹凸ピッチ)成分Lと波高(振幅:凹凸高さ)成分Hの関係を解析し、併せて、鏡面仕上げについても比較・参考のためにフーリエ解析を行い、F研磨との比較を行った。
【数1】
ここで、x(n)は、鋼板表面を探針センサで所定の長さ(距離)方向に走査した場合に、所定のサンプリング間隔の点で探針センサにより計測される高さ方向の値(表面の凹凸を表わす)、すなわち、総サンプリング数N中のn番目のディジタルサンプリング値である。また、kは、単位長当りの波数(空間周波数)f[回/μm]に対応する値であり(k=0,1,2,…,N−1)、全計測距離をD[μm]とすると、k=fDで表わされる。
【0039】
つまり、X(k)は、単位長当り波数対応値kに対するフーリエ変換後の信号強度を表わすベクトルであり、このベクトルの絶対値(長さ)が波の凹凸(振幅)に比例する。従って、値kに対する変換後信号強度X(k)に対して、凹凸形状の波高(振幅)Hは2|X(k)|/Nで表わされ、波高(振幅)Hと波長Lの比〔「波高(振幅)対波長比」、「波高比」或いは「振幅比」という〕H/Lは次式(2)で表わされる。
【数2】
【0040】
図7は、フーリエ解析を行った各ランクF1〜F7のF研磨のうち、煩雑さを避けるために、図6と同様に、ランクF2,F5,F7をピックアップして、解析の結果得られた波長L〔μm〕(横軸)に対する振幅対波長比H/L(左側縦軸)の特性を図示したものである(各軸共に対数目盛)。なお、図7には、ランクF2,F5,F7のF研磨だけでなく、鏡面仕上げについても特性が示されており、併せて、公称粒径φnが異なる7種類の粉体(シリカ)試料A〜G(A:0.2μm,B:0.5μm,C:1.0μm,D:1.5μm,E:2.0μm,F:6.0μm,G:10.0μm)について粒径φ〔μm〕(横軸)の分布頻度〔%〕(左側縦軸)も示されている。また、図8は、F研磨の中間ランクF4〜F6及び鏡面仕上げについて波長L〔μm〕に対する振幅対波長比H/Lの特性を示しており、図7に示されないF研磨のランクF4,F6もランクF5と同様の傾向を呈することを表わしている。
【0041】
上述した解析結果によれば、F研磨の各ランクF1〜F7のうち、ランクF2〜F6の範囲では、振幅対波長比H/Lが大きくなって点接触度が高くなるので、高い剥離・滑落効果が得られる。例えば、波長Lが1μm以下の範囲をみると、鏡面仕上げやF研磨のランクF7の振幅対波長比特性(H/L)が小さい値 0.00001〜0.000015を示すのに対して、F研磨のランクF2〜F6の振幅対波長比特性(H/L)は、0.0005以上の大きな値が得られ、特に大きいH/L値: 0.004〜 0.006を示すランクF2,F3では、特に高い剥離・滑落効果が得られる。
【0042】
以上の点から、この発明の一実施例では、ホッパーシュート等の粉体取扱装置における粉体の付着防止対策として、粉体が通過する鋼材表面にF研磨のランクF2〜F6により所定の凹凸形状を形成する。この凹凸形状と粉体の典型的な接触形態は、図9に示される状態にあるものと想定される。
【0043】
まず、鋼材表面Sfの凹凸形状については、図9のように、全体としては大きな波の上で、微小な波長(凹凸ピッチ)と振幅(凹凸深さ)を持つ小さい凹凸を繰り返しており、大きな波が研磨材の精粗度に対応していると考えられる。つまり、ランクF2〜F6の処理では、研磨材の粗さに応じて、粉体Pdを構成する粒子Ptの径φよりも十分に大きい波の凹凸が形成され、この大きい波の上に細かい凹凸が乗ったものであり、しかも、細かい凹凸は、凹凸ピッチに対する凹凸深さ(振幅対波長比H/L)が大きい。従って、粉体Pdの粒子Ptや粒子集合体Psは、研磨材の粗さに拘わらず形成された細かく深い凹凸に対して点接触状態になるため、粉体の付着防止を図ることができる。
【0044】
例えば、図9(1)に示すように、図5(4)の場合と同様に、粉体Pdを構成する微粒子Ptが粒子集合体Psの状態で存在し独立粒子Prと混在する場合を検討すると、構成粒子Ptの粒径φが小さいほど多くの粒子集合体Psが形成される。また、各粒子集合体Psも1つの粒子と考えることができるので、粒子集合体Psの外径及び独立粒子Prの粒径をともに「外径」と呼ぶと、この粉体Pdの外径分布は、図7の粒径分布A〜Gと同様にピークを有する分布状態となる。そこで、粒子集合体Psが存在する粉体Pdの外径分布のピークに対応する外径を「平均外径φs」と呼ぶものとする。
【0045】
従って、図9(1)のように、粒子集合体Psが存在する場合、凹凸形状の波長(凹凸ピッチ)Lを平均外径φs(例えば、φs:5〜20μm)より小さくすることにより、図5(4)で説明したように、粒子集合体Psが鋼材表面Sfの凸部頂端と点接触で支持される。また、凹凸形状の振幅対波長比(凹部の深さの割合)H/Lが大きいので、他の独立した小径の独立微粒子Prが鋼材表面Sfの凹部に入り込んでも底部に達することなく凸部側面に点接触で支持される。従って、粒子集合体Psや独立粒子Prに働くファンデルワールス力は小さく鋼材表面Sfに付着しにくくなる。
【0046】
また、図7の粒径分布A〜Gのピークに対応する粒径φを平均粒径φuと呼ぶと、図9(2)のように、粉体Pdを構成する多くの粒子Ptが独立した大粒子Puであり、平均粒径φuが大きい(例えば、φ:5〜20μm)場合、凹凸形状の波長(凹凸ピッチ)Lが平均粒径φuより小さくすることにより、図5(3)で説明したように、粉体Pd中の大粒子Puが鋼材表面Sfの凸部頂端と点接触で支持される。また、凹凸形状の振幅対波長比(凹部の深さの割合)H/Lが大きいので、波長(凹凸ピッチ)Lより小さい粒径を持つ小粒子Pvが鋼材表面Sfの凹部に入り込んでも底部に達することなく凸部側面に点接触で支持される。従って、大粒子Puや小粒子Pvに働くファンデルワールス力は小さく鋼材表面Sfに付着しにくくなる。
【0047】
以上のように、この発明の一実施例によれば、粉体Pdが接触する鋼材表面Sfに所定の小さい凹凸が形成され、その凹凸ピッチは、粉体Pdを構成する粒子Pt,Pu又は粒子集合体Psの平均粒径φu又は平均外径φsよりも小さくなるように処理される。これにより、粉体粒子Pt,Puや粒子集合体Psが鋼材表面Sfと点接触の状態になり、粉体Pdと鋼材との間に働くファンデルワールス力が弱められ、鋼材表面への粉体の付着を防止することができる。このような凹凸形状は、「F研磨(F2〜F6)」と呼ばれる研磨材を用いた研磨処理により簡単に得ることができ、この研磨処理によって所定の凹凸が表面に形成された鋼製部材は、種々の粉体取扱装置、例えば、ホッパーシュートの粉体通流路内壁や除鉄装置の棒磁石外装材に好適に適用することができる。
【0048】
〔粉体取扱装置の例〕
この発明により表面に粉体付着防止対策が講じられた鋼材は、粉体の搬送や異物除去、貯蔵、排出などの工程における各種の粉体取扱装置において粉体が通過する部分に用いることができる。図10は、この発明が適用される粉体取扱装置としてホッパーシュートを用いた第1の適用例を示す。このホッパーシュート1は、逆円錐形状のSUS304ステンレス鋼板2で製作され、寸法例を挙げると、上部投入口の直径a=300mm、下部排出口の直径b=100mm、高さh=265mm、水平面に対する円錐形側部の傾斜角α=60°である。
【0049】
F研磨(F2〜F6)の付着防止効果をホッパーシュート1について確認するために、鋼板2の内壁面Sfを二分し各部分を従来のバフ320#仕上げとF研磨(F3)で処理した上、てんぷら粉を粉体Pdとして用い、投入口上方から篩を通して落下させ、鋼板内壁面Sfへの付着・堆積状況を視察した。
【0050】
その結果は図11の平面写真に示すとおりであり、所定の凹凸形状を形成することによる粉体付着防止効果を確認することができた。すなわち、図10に示した逆円錐鋼板2の内壁面を上側からみて、図示の上半分がバフ320#で仕上げられ、下半分がF研磨(F3)で仕上げられているが、図示のように、従来のバフ320#で仕上げた鋼板内壁面(上半部)Sfには粉体Pdが付着・残存しているのに対して、F研磨(F3)で仕上げた鋼板内壁面(下半部)Sfには粉体Pdの付着は認められない。さらに、従来のバフ400#仕上げや他のF研磨(F2,F4〜F6)で処理した場合についても同様の試験をしたが、やはり、同様にF研磨で仕上げると粉体が付着し難い結果を得ることができた。
【0051】
図12(1)は、この発明が適用される粉体取扱装置として除鉄装置を用いた第2の適用例を示す。この除鉄装置3は、特許文献2に示されるように、円筒状ステンレス鋼材4で外装された複数本(図では4本を示す)の棒磁石(マグネット構体)5を装置内に組み込み、装置上部の開口から分散器6を通じて分散させた粉体を上方から棒磁石5に向かって通過させ、粉体中に混入している磁性物を棒磁石5の外装面(鋼材表面)Sfに吸着させて除去するようになっている。除鉄装置3の寸法例を挙げると、上部開口の口径c=150mm、棒磁石5の外径d=25mm、水平面に対する棒磁石5の傾斜角β=35°である。
【0052】
F研磨(F2〜F6)による付着防止効果を除鉄装置について確認するために、図12(1)に示す除鉄装置3の棒磁石5を取り出し、一方の棒磁石外装面Sfを従来のバフ400#で仕上げ、他方の棒磁石外装面SfをF研磨(F2)で仕上げた上、それぞれ、図12(2)に示すように、除鉄装置3と同じ傾斜角β=35°で垂直支持体に取り付けて模擬試験設備を作り、てんぷら粉を粉体Pdとして用い、投入口上方から篩を通して落下させ、棒磁石外装面Sfへの付着・堆積状況を視察した。
【0053】
その結果は図13の側面写真に示すとおりであり、所定の凹凸形状を形成することによる粉体付着防止効果を確認することができた。すなわち、バフ400#で仕上げた場合は、図13〔1〕に示すように、棒磁石外装面Sfには多量の粉体Pdが付着・堆積しているのに対して、F研磨(F2)で仕上げた場合には、図13〔2〕に示すように、棒磁石外装面Sfには粉体Pdの付着・堆積は認められない。さらに、従来のバフ320#仕上げとF研磨(F3〜F6)で処理した場合についても同様の試験をしたが、やはり、同様に、F研磨仕上げにより粉体が付着し難い結果を得ることができた。
【0054】
〔種々の実施態様〕
以上、図面を参照しつつ、この発明の好適な実施例を詳述したが、これは単なる一例であって、この発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、実施例では、耐久性のあるダイヤモンド等の硬質研磨材を用いたが、所定の凹凸形状を形成することができる研磨材であれば、他の研磨材を用いてもよい。また、取り扱う粉体については、天ぷら粉に限らず、種々の食用粉体や合成樹脂粉体などに適用することができる。
【0055】
〔発明の利点〕
この発明による所定の凹凸形状を粉体取扱装置の鋼材面に施工することにより、次のように、種々の粉体を扱う装置やシステムにおけるトラブル防止や性能向上に大きく寄与することができる。
(a)ホッパー・貯蔵タンク内において内壁面に粉体が付着したり粉体通路が粉体で閉塞するのを防止することができる。
(b)タンク排出口の傾斜角度を緩和することができ、これによって、取り扱う粉体の容量をアップすることができ、タンク構造の高さを縮小することができる。
(c)輸送傾斜配管の詰まりを防止すると共に傾斜角度を緩和することができ、これによって、限定された建物内の機械の配置計画に余裕ができると共に建物全体の高さを抑えることができる。
(d)攪拌機や計量ホッパー内に付着・残存する粉体を無くすることができ、これによって、取り扱う粉体の品種を切り替えた場合でも粉体の品質を向上し粉体の計量精度を向上することができる。
(e)タンクローリーから粉体を圧送した後でタンク内に残存する粉を排出するために、従来は、主として人力により配管に打撃を与えていたが、この発明による所定の凹凸形状タンク内面に施すことにより、このような労力を軽減することができる。
(f)除鉄装置については、この発明による所定の凹凸形状を棒磁石表面に施して粉体の堆積や付着を無くすることができ、これによって除鉄性能が向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】粉体付着トラブルに関する従来技術を説明するための図である。
【図2】鋼材平板を用いた付着性確認試験を説明するための図である。
【図3】粉体(シリカ)の形状を表わす顕微鏡写真の例である。
【図4】粉体の付着形態を説明するための図である。
【図5】粉体が剥離し易い形態を説明するための図である。
【図6】鋼材表面の凹凸形状例を表わす図である。
【図7】代表的な凹凸形状の波高(振幅)対波長比特性と各種粉体における粒子径分布を表わす図である。
【図8】他の凹凸形状を含む波高(振幅)対波長比特性を表わす図である。
【図9】この発明による粉粒体付着防止の原理を説明するための図である。
【図10】この発明の一実施形態による粉体取扱装置(ホッパーシュート)を示す。
【図11】ホッパーシュートにおける粉体付着試験結果の側面写真を示す。
【図12】この発明の別の実施形態による粉体取扱装置(除鉄装置)及びその模擬試験設備を示す。
【図13】除鉄装置における粉体付着試験結果の側面写真を示す。
【符号の説明】
【0057】
θ,θmax 傾斜角度及び滑落傾斜角度、
φ 粉体Pdを構成する各粒子Ptの粒径、
φn,φu 粉体Pdの公称粒径及び平均粒径、
φs 粒子集合体Psの平均外径、
Pu,Pv 大粒子及び小粒子、
Sf 鋼材表面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体取扱装置において粉体が表面に接触する鋼製部材であって、
粉体が接触する表面に、凹凸ピッチが、粉体を構成する粒子又は粒子集合体の平均粒径又は平均外径よりも小さく、当該粒子又は粒子集合体が凸部に点接触状態となるように、所定の凹凸が形成されている
ことを特徴とする粉体取扱装置用鋼製部材。
【請求項2】
粉体が表面に接触する鋼製部材を備え、
粉体が接触する鋼製部材の表面に、凹凸ピッチが、粉体を構成する粒子又は粒子集合体の平均粒径又は平均外径よりも小さく、当該粒子又は粒子集合体が凸部に点接触状態となるように、所定の凹凸が形成されている
ことを特徴とする粉体取扱装置。
【請求項3】
前記凹凸は、研磨材を用いて形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の粉体取扱装置用鋼製部材又は粉体取扱装置。
【請求項4】
前記粉体取扱装置は、粉体通流路の内壁が鋼製部材で構成されたホッパーシュートであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の粉体取扱装置用鋼製部材又は粉体取扱装置。
【請求項5】
前記粉体取扱装置は、粉体通流路に突出した棒磁石を備える除鉄装置であり、該棒磁石は鋼製部材で外装されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の粉体取扱装置用鋼製部材又は粉体取扱装置。
【請求項1】
粉体取扱装置において粉体が表面に接触する鋼製部材であって、
粉体が接触する表面に、凹凸ピッチが、粉体を構成する粒子又は粒子集合体の平均粒径又は平均外径よりも小さく、当該粒子又は粒子集合体が凸部に点接触状態となるように、所定の凹凸が形成されている
ことを特徴とする粉体取扱装置用鋼製部材。
【請求項2】
粉体が表面に接触する鋼製部材を備え、
粉体が接触する鋼製部材の表面に、凹凸ピッチが、粉体を構成する粒子又は粒子集合体の平均粒径又は平均外径よりも小さく、当該粒子又は粒子集合体が凸部に点接触状態となるように、所定の凹凸が形成されている
ことを特徴とする粉体取扱装置。
【請求項3】
前記凹凸は、研磨材を用いて形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の粉体取扱装置用鋼製部材又は粉体取扱装置。
【請求項4】
前記粉体取扱装置は、粉体通流路の内壁が鋼製部材で構成されたホッパーシュートであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の粉体取扱装置用鋼製部材又は粉体取扱装置。
【請求項5】
前記粉体取扱装置は、粉体通流路に突出した棒磁石を備える除鉄装置であり、該棒磁石は鋼製部材で外装されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の粉体取扱装置用鋼製部材又は粉体取扱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−230665(P2008−230665A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73841(P2007−73841)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【特許番号】特許第4064438号(P4064438)
【特許公報発行日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成18年11月7日〜平成18年11月10日に幕張メッセにおいて開催された国際粉体工業展2006 POWTEX TOKYO 2006で発表
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(307003168)有限会社ダイカテック (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【特許番号】特許第4064438号(P4064438)
【特許公報発行日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成18年11月7日〜平成18年11月10日に幕張メッセにおいて開催された国際粉体工業展2006 POWTEX TOKYO 2006で発表
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(307003168)有限会社ダイカテック (1)
【Fターム(参考)】
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