説明

粉末冶金用混合粉末および圧粉成形体

【課題】 圧粉成形体の原料となる粉末冶金用混合粉末であって、流動性に優れることから圧分成形性の生産性が高く、更に、これを原料として得られる圧粉成形体は適度な密度と強度を有し切削加工性に優れるため、焼結工程前にも切削加工が可能であり、且つ切削工具の寿命を延ばすことができる粉末冶金用混合粉末を提供する。
【解決手段】 本発明の粉末冶金用混合粉末は、鉄粉および/または鉄合金粉,機械的特性改善成分,並びに特定種類の熱硬化性樹脂粉末を含有し、熱硬化性樹脂粉末の平均粒径が100μm以下であり、且つ鉄粉および/または鉄合金粉に対する熱硬化性樹脂粉末の配合量が、0.05〜1.0質量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結工程の前段階においても適度な密度と強度を有し、切削加工性に優れた圧粉成形体の原料となる粉末冶金用混合粉末、およびこれを原料とする圧粉成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金は金属粉から機械部品や含油軸受を製造する技術であり、制度の高い製品を効率よく大量生産できることから、特に自動車産業等にとって無くてはならないものである。この粉末冶金では、通常、金属粉を含む混合粉末を圧縮成形して脱ロウした後、例えば鉄系粉末冶金では1000〜1300℃程度の温度で焼結を行なう。この焼結工程では、混合した金属粉が合金となることから、圧縮成形体の強度を高くすることができる。そして、得られた焼結体に切削加工を施す。
【0003】
ところがこの焼結体は、切削加工を施すには強度が高過ぎるという面があり、また、この高強度故に切削工具の寿命が短くなるという問題もある。その一方で、焼結前の圧縮成形体は脆いため、そのままでは切削加工をすることができない。そこで、焼結工程前における圧縮成形体の強度を上げ、切削加工を施してから焼結を行なえる技術が切望されていた。
【0004】
斯かる技術の例として、非特許文献1で開示されているものを挙げることができる。当該技術では、原料となる混合粉末に高分子の潤滑剤を添加することによって、焼結温度よりも低温度の熱処理を行なうのみで圧縮成形体の強度を上げ、焼結工程前における切削加工を可能にできることが謳われている。しかし、潤滑剤として高分子のものを使用しているために、圧縮成形時の潤滑性が不足するおそれがある。また、切削加工前の熱処理では、温度こそ190℃であるものの1時間程度を要するので、生産性の低下が問題となる。
【0005】
また、粉末冶金法においては、混合粉末を貯蔵ホッパーから排出する際や金型に混合粉末を充填する際に、混合粉末の流動性は重要な特性の一つとなる。即ち、混合粉末の流動性が悪いと、ホッパーの排出口上部でバルッジングを起こして排出不良を引き起こし、或いはホッパーからシューボックスまでのホース内で閉塞するなどの問題が発生することになる。更に、流動性の悪い混合粉末では、ホース内から強制的に流出できたとしても、金型、特に薄肉部分の金型に充填されずに健全な成形体を作製できないことがある。こうしたことから、流動性の優れた粉末冶金用原料粉末への要求が強くなっている。
【0006】
本発明の目的とは異なるが、いわゆるボンド磁石の製造においては、磁性粉末等に熱硬化性樹脂を添加し熱処理を施すことによって、成形体の磁気特性を確保しながら焼結を行なうことなく圧粉成形体を固め、この圧粉成形体をそのまま使用する。従って、ボンド磁石の製造技術を粉末冶金に応用することも考えられなくはない。しかし、従来のボンド磁石の製造方法は、そのまま粉末冶金に適用できるものではない。
【0007】
例えば、特許文献1〜4には、合金粉末と熱硬化性樹脂(バインダー)との混合物を原料とするボンド磁石の製造方法が開示されている。しかし、これら技術はボンド磁石に関するものであり、本発明と目的を異にするので、熱硬化性樹脂の種類や粒径について詳細な検討はされていない。また、熱硬化性樹脂の添加量は、粉末冶金に適用するには比較的多い。例えば、特許文献1では、熱硬化性樹脂バインダーは合金に対して0.5〜4質量%添加され、特許文献2では、磁性粉末100重量部に対して0.5〜5重量部(特に、1〜3重量部)添加するとされている。ところが、これら特許文献の実施例において、合金粉末に対する熱硬化樹脂の添加量は何れも2質量%以上であり、本発明者らの知見によれば、粉末冶金用混合粉末において熱硬化性樹脂を過剰に添加すると、粉末の流動性と圧粉体密度が低下してしまう。
【0008】
一方、特許文献5には、樹脂バインダーとして平均粒径が50μm以下のエポキシ樹脂粉体と磁性粉末とを混合して成形するボンド磁石が開示されており、磁性粉体に対するエポキシ樹脂粉体の配合比は、0.1〜0.5質量%である。しかし、ここで使用される混合粉末には、成形時における金型との磨耗を低減するために無機添加物が添加されているものの、圧粉成形体の強度や切削加工性を高めるための成分については認識されていない。その上、この無機添加物の添加量は微量であるため(樹脂バインダーに対して20〜40質量%,磁性粉体に対するものに換算すると0.02〜0.2質量%)、たとえ無機添加物に成形体の強度増強作用等があったとしても、その作用を発揮できるに至らないと考えられる。
【非特許文献1】Tianjun Liu,他3名,粉体および粉末冶金,第50号第11号,第832〜836頁(2003年)
【特許文献1】特開平4−284602号公報(段落[0007],実施例)
【特許文献2】特開平6−112022号公報(段落[0015],[0016],実施例)
【特許文献3】特開平6−188137号公報(段落[0015],[0020],実施例)
【特許文献4】特開平8−31677号公報(段落[0031],[0033],実施例)
【特許文献5】特開平10−303009号公報(特許請求の範囲の各請求項)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、圧粉成形体の原料となる粉末冶金用混合粉末であって、流動性に優れることから生産性が高く、更に、これを原料として得られる圧粉成形体は適度な密度と強度を有し切削加工性に優れるため、焼結工程前にも切削加工が可能であり、且つ切削工具の寿命を延ばすことができる粉末冶金用混合粉末を提供することにある。また、本発明では、この粉末冶金用混合粉末を原料とするものであって、焼結前であっても強度等に優れる圧粉成形体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、特に粉末冶金用混合粉末の成分構成について鋭意研究を進めたところ、機械的特性改善成分と熱硬化性樹脂粉末を添加し且つ適切な熱硬化性樹脂粉末を使用すれば、適度な密度と強度を有する圧粉成形体が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明の粉末冶金用混合粉末は、圧粉成形体の原料となるものであって、鉄粉および/または鉄合金粉,機械的特性改善成分,並びに熱硬化性樹脂粉末を含有し、熱硬化性樹脂粉末が、エポキシ・ポリエステル系樹脂,エポキシ系樹脂,およびアクリル系樹脂よりなる群から選択される1または2以上からなり、熱硬化性樹脂粉末の平均粒径が100μm以下であり、且つ鉄粉および/または鉄合金粉に対する熱硬化性樹脂粉末の配合量が、0.05〜1.0質量%であることを特徴とする。
【0012】
上記熱硬化性樹脂粉末としては、エポキシ・ポリエステル系樹脂,アクリル系樹脂,またはこれらの混合物からなるものが好ましい。また、上記粉末冶金用混合粉末としては、更に潤滑剤を含むものが好適である。潤滑剤は圧粉成形体と金型との摩擦係数を低減することによって、型かじりや金型の損傷の発生を抑制できるからである。斯かる潤滑剤としては、エチレンビスステアリルアミド,ステアリン酸アミド,ステアリン酸亜鉛,ステアリン酸リチウムよりなる群から選択される1または2以上が好ましい。これらは粉末冶金用混合粉末の添加成分として、優れているからである。
【0013】
上記機械的特性改善成分としては、銅,ニッケル,クロム,モリブデン,黒鉛および硫化マンガンよりなる群から選択される1または2以上が好ましい。これらは、焼結工程で鉄粉等へ拡散することにより圧粉成形体の硬さや靭性を向上させたり、或いは被削性を高めたりできるからである。
【0014】
また、本発明の圧粉成形体は、上記粉末冶金用混合粉末を原料とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の粉末冶金用混合粉末は、流動性等に優れ生産性に優れる上に、これを原料として得られる圧粉成形体は、焼結前においても適度な密度と強度を有するために切削加工が可能であり、且つ過度な強度を示さないことから切削工具の寿命を延長することができる。従って、本発明の粉末冶金用混合粉末とこれを原料とする圧粉成形体は、粉末冶金の生産性を高めることができるものとして、産業上極めて優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の粉末冶金用混合粉末は、鉄粉および/または鉄合金粉,機械的特性改善成分,並びに熱硬化性樹脂粉末を含有し、熱硬化性樹脂粉末が、エポキシ・ポリエステル系樹脂,エポキシ系樹脂,およびアクリル系樹脂よりなる群から選択される1または2以上からなり、熱硬化性樹脂粉末の平均粒径が100μm以下であり、且つ鉄粉および/または鉄合金粉に対する熱硬化性樹脂粉末の配合量が、0.05〜1.0質量%であることに要旨を有する。
【0017】
本発明で使用する鉄粉や鉄合金粉は、冶金材料として一般的に市販されているもの等を使用することができる。
【0018】
機械的特性改善成分は、焼結工程においてベースである鉄粉等へ拡散することによって、圧粉成形体の硬さや靭性等の機械的特性を向上させたり、或いは被削性を高める目的で添加するものである。具体的には、銅,ニッケル,クロム,モリブデンなどの合金用金属粉末や、黒鉛,硫化マンガンなどの無機粉末を挙げることができ、これらから1種或いは2種以上を組合わせて使用できる。また、これら機械的特性改善成分は、鉄粉等と混合するものであってもよいが、黒鉛などでは、バインダーを介して鉄粉等へ均一に付着させたものを用いてもよい。
【0019】
機械的特性改善成分としての合金用金属粉末は、ベースとなる鉄粉等に対して0.1〜4質量%(以下、特に断らない限り、「質量%」を単に「%」と示す)添加する。0.1%未満であると、ベースへの拡散量が少ないために機械的特性の改善効果が十分表れない場合があり、一方4%を超えるとやはり機械的特性の改善効果が低下するばかりでなく、圧縮性が低下することにより十分な密度を有する圧粉成形体が得られないおそれがあるからである。また、特に黒鉛等の無機粉末の添加量は、ベース鉄粉等に対して0.1〜1%とする。0.1%未満では効果が十分でなく、また、1%を超えるとかえって機械的特性が低下する場合があるからである。
【0020】
本発明の熱硬化性樹脂粉末は、簡便な熱処理によって圧粉成形体の表面や内部で硬化することによりベース鉄粉等の結合力を高め、焼結工程前であっても切削加工を可能にする作用を有するものである。本発明の熱硬化性樹脂粉末の材料としては、主として(1)エポキシ・ポリエステル系樹脂,(2)エポキシ系樹脂,(3)アクリル系樹脂,および(4)これら2種以上の混合物、を挙げることができる。
【0021】
斯かる熱硬化性樹脂粉末は、圧粉成形体の製造工程において流動性を示す必要があるため粉末である必要があり、当然、液状ではない。従って、当該熱硬化性樹脂粉末としては、いわゆる粉末塗料であって顔料を含まない無色のもの(クリア粉体塗料)を使用することができる。
【0022】
「エポキシ・ポリエステル系樹脂」は、エポキシ基含有樹脂を、硬化剤であるカルボン酸基含有ポリエステル樹脂で架橋したものをいう。
【0023】
当該エポキシ基含有樹脂としては、1分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物を例示することができ、例えば、ノボラック型フェノール樹脂とエピクロルヒドリンとの反応生成物;ビスフェノール樹脂(A型,B型,F型等)とエピクロルヒドリンとの反応生成物;ノボラック型フェノール樹脂とビスフェノール樹脂(A型,B型,F型等)とエピクロルヒドリンとの反応生成物;ノボラック型フェノール樹脂とビスフェノール樹脂(A型,B型,F型等)との反応生成物;クレゾールノボラック等のクレゾール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物;エチレングリコール,プロピレングリコール,1,4-ブタンジオール,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ネオペンチルグリコール,グリセロール等のアルコール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル;コハク酸,アジピン酸,フタル酸,テレフタル酸,ヘキサヒドロフタル酸,トリメリット酸等のカルボン酸化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル;p-オキシ安息香酸,β-オキシナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとの反応生成物;トリグリシジルイソシアヌレートおよびその誘導体等を用いることができる。以上のエポキシ基含有樹脂は、2種以上を併用してもよい。
【0024】
「カルボン酸基含有ポリエステル樹脂」は、1分子内に2以上のカルボン酸基または無水カルボン酸基を有するものであり、例えば、多価カルボン酸を主成分とした酸成分と多価アルコールを主成分としたアルコール成分とを原料として、縮重合により得られるものを例示することができる。
【0025】
斯かる酸成分としては、テレフタル酸,イソフタル酸,フタル酸およびこれらの無水物;2,6-ナフタレンジカルボン酸,2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸およびこれらの無水物;コハク酸,アジピン酸,アゼライン酸,セバシン酸,ドデカンジカルボン酸,1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸およびこれらの無水物;γ-ブチロラクトン,ε-カプロラクトン等のラクトン類;p-オキシエトキシ安息香酸等の芳香族オキシモノカルボン酸類;これらに対応するヒドロキシカルボン酸を例示することができる。これらは、2種以上を併用してもよい。
【0026】
アルコール成分としては、エチレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,1,2-プロパンジオール,1,3-プロパンジオール,1,2-ブタンジオール,1,3-ブタンジオール,1,4-ブタンジオール,1,2-ペンタンジオール,2,3-ペンタンジオール,1,4-ペンタンジオール,1,5-ペンタンジオール,1,4-ヘキサンジオール,1,5-ヘキサンジオール,2,5-ヘキサンジオール,1,4-シクロヘキサンジオール,1,4-シクロヘキサンジメタノール,ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物,ビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物,ネオペンチルグリコール,3-メチル-1,5-ペンタンジオール,1,2-ドデカンジオール,1,2-オクタデカンジオール,トリメチロールプロパン,グリセリン,ペンタエリスリトール等を挙げることができる。これらは、2種以上を併用してもよい。
【0027】
上記エポキシ基含有樹脂が有するエポキシ基の総量と、上記カルボン酸基含有ポリエステル樹脂が有する酸基の総量とのモル比は、溶融最低粘度との関連で適宜設定できるが、通常、1/1〜1/0.5が好ましく、1/0.8〜1/0.6がより好ましい。
【0028】
「エポキシ系樹脂」は、エポキシ基含有樹脂を、アミン系硬化剤または酸系硬化剤で架橋したものをいう。ここでのエポキシ基含有樹脂は、エポキシ・ポリエステル系樹脂の成分として上述したものと同様のものを使用することができる。
【0029】
アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン,ジエチレントリアミン,トリエチレンテトラミン,テトラエチレンペンタミン,ジプロピレンジアミン,ジエチルアミノプロピルアミン,ヘキサメチレンジアミン等の鎖状脂肪族アミン;メンセンジアミン,イソフォロンジアミン,ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン,ジアミノシクロヘキシルメタン,ビス(アミノメチル)シクロヘキサン,N-アミノエチルピペラジン,3,9-ビス(3-アミノプロピル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等の環状脂肪族アミン;m-キシレンジアミン,メタフェニレンジアミン,ジアミノジフェニルメタン,ジアミノジフェニルスルホン,ジアミノジエチルジフェニルメタン等の芳香族アミンを使用することができる。
【0030】
酸系硬化剤としては、例えば、ドデセニル無水コハク酸,ポリアジピン酸無水物,ポリアゼライン酸無水物,ポリセバシン酸無水物,ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物,ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物等の脂肪族酸無水物;メチルテトラヒドロ無水フタル酸,メチルヘキサヒドロ無水フタル酸,無水メチルハイミック酸,ヘキサヒドロ無水フタル酸,テトラヒドロ無水フタル酸,トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸,メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物等の脂環式酸無水物;無水フタル酸,無水トリメリット酸,無水ピロメリット酸,ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物,エチレングリコールビストリメリテート,グリセロールトリストリメリテート等の芳香族酸無水物;無水ヘット酸,テトラブロモ無水フタル酸等のハロゲン系酸無水物を使用することができる。
【0031】
「アクリル系樹脂」は、側鎖にグリシジル基を有するアクリル樹脂を、硬化剤である二塩基酸で架橋したものをいう。
【0032】
斯かる「側鎖にグリシジル基を有するアクリル樹脂」を構成する単量体としては、例えば、グリシジルアクリレート,グリシジルメタクリレート,β-メチルグリシジルアクリレート,β-メチルグリシジルメタクリレート等を挙げることができ、これら2種以上を混合して用いることもできる。また、これら単量体と他の単量体とを共重合させることによって、当該アクリル樹脂を得ることもできる。ここで使用できる他の単量体としては、例えば、エチルビエニルエーテル,プロピルビニルエーテル,ブチルビニルエーテル,イソブチルビニルエーテル,シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;酢酸ビニル,プリピオン酸ビニル,酪酸ビニル,イソ酪酸ビニル,吉草酸ビニル,シクロヘキサンカルボン酸ビニル等のアルキルカルボン酸とビニルアルコールとのエステル;エチルアリルエーテル,プロピルアリルエーテル,ビチルアリルエーテル,イソビチルアリルエーテル,シクロヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテル;エチルアリルエステル,プロピルアリルエステル,ブチルアリルエステル,イソブチルアリルエステル,シクロヘキシルアリルエステル等のアルキルアリルエステル;エチレン,プロピレン,ブチレン,イソブチレン等のアルケン;アクリル;エチルアクリレート,プロピルアクリレート,ブチルアクリレート,イソブチルアクリレート,2-エチルヘキシルアクリレート,エチルメタクリレート,プロピルメタクリレート,ブチルメタクリレート,イソブチルメタクリレート,2-エチルヘキシルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のエステル;スチレン,α-メチルスチレン等のスチレンまたはその誘導体;アクリルアミド,メタクリルアミド等のアクリルアミド;アクリロニトリル,メタクリロニトリル等のアクリロニトリル;ハロゲン含有ビニル単量体;ケイ素含有ビニル単量体などを挙げることができ、これら2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明で用いるアクリル系樹脂は、上記単量体を重合させたものを二塩基酸で架橋する。ここで用いられる二塩基酸としては、上記エポキシ系樹脂で用いた酸系硬化剤と同様のものを使用すればよい。
【0034】
上記樹脂に加えて、他の樹脂を添加してもよい。その様な樹脂としては、例えば、水酸基含有ポリエステル樹脂をイソシアネート系硬化剤で硬化させたポリウレタン系樹脂,カルボキシル基含有ポリエステル樹脂をトリグリシジルイソシアネート等で硬化させたポリエステル系樹脂、側鎖にイソシアネート基を有するアクリル樹脂により水酸基含有ポリエステル樹脂を硬化させた樹脂、側鎖にグリシジル基を有するアクリル樹脂によりカルボキシル基含有ポリエステル樹脂を硬化させた樹脂を挙げることができる。
【0035】
熱硬化性樹脂粉末の平均粒径は、100μm以下とする。平均粒径が100μmを超えるものを使用すると、熱処理により溶融した樹脂でベース鉄粉等全体をコーティングすることが困難になり、成形体強度が十分に向上しないおそれがあるからである。より好ましくは80μm以下、特に60μm以下とする。下限には特に制限はないが、一般的には30μm程度が下限となる。なお、本発明における「平均粒径」とは、樹脂粉末として市販のものを用いるときにはカタログ値等を参照すればよいが、不明である場合には一般的な粒度分布計によって粒度分布を測定し、得られた結果により求められる小粒径側からの積算値50%の粒度(D50)をいうものとする。
【0036】
樹脂粉末の配合量は、鉄粉および/または鉄合金粉に対して0.05〜1.0%とする。0.05%未満では圧粉体の強度を十分に高めることができず、焼結前の切削ができなくなるからであり、また、1.0%を超えると混合粉末の流動性が低下して生産性も悪くなる上に、圧粉体密度も低下するからである。
【0037】
市販の樹脂粉末には、着色のために顔料が添加されている場合がある。本発明の樹脂粉末として市販のものを用いる場合には、顔料入りのものを使用してもよいが、顔料が成形体強度等に悪影響を及ぼす可能性を考慮して、顔料を含まないものを使用することが好ましい。
【0038】
本発明の粉末冶金用混合粉末には、潤滑剤を添加してもよい。潤滑剤は、圧粉成形体と金型との摩擦係数を低減することによって、型かじりや金型の損傷の発生を抑制する作用を有するものである。本発明で使用できる好適な潤滑剤としては、例えばエチレンビスステアリルアミド,ステアリン酸アミド,ステアリン酸亜鉛,ステアリン酸リチウム,およびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、目的に合わせて選択して使用すればよい。
【0039】
潤滑剤の添加量は、ベース鉄粉等に対して0.05〜1.0%とする。0.05%未満では硬化が十分でない一方で、1.0%を超えると粉末冶金用混合粉末の流動性が悪化するおそれがあるからである。
【0040】
上記で説明した本発明の粉末冶金用混合粉末は、一般的な方法により圧粉成形体とする。例えば、金型に充填した後に5〜7t/cm2(490〜686MPa)の圧力をかける。そしてその後、熱硬化性樹脂粉末を硬化させて圧粉成形体の強度を高めるために、熱処理を行なう。この熱処理条件は、主に添加した熱可塑性樹脂粉末の種類により異なるが、一般的には150〜200℃程度で10〜30分(より好適には15〜20分)という簡便なものでよい。
【0041】
一般的に、焼結前の圧粉成形体は脆く、切削加工を施すことはできない。しかし、本発明の粉末冶金用混合粉末を原料とすれば、例えば5t/cm2(490.3MPa)の圧力で成形した場合において、JPMA M09-1992に規定された条件で測定した強度が30MPa以上と、切削加工が可能な圧粉成形体を得ることができる。即ち、本発明の圧分成形体は、焼結工程を経なくても適度な密度と強度を有するため、切削加工を行なえる上に切削工具の寿命を延ばすことができる。
【0042】
以下に、実施例を示すことによって本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
実施例1
ベース金属粉末として、純鉄粉(神戸製鋼所製,商品名「アトメル 300M」)を用い、この純鉄粉に対して、市販の銅粉末,黒鉛粉末,エチレンビスステアリルアミドおよびエポキシ・ポリエステル系樹脂からなるクリア粉体塗料(日本油脂BASFコーティングス製,コナックNo.2700,二塩基酸ポリエステルとエポキシ樹脂を反応させたもの,平均粒径:40μm)を、各々2.0質量%(以下、「質量%」を単に「%」という),0.8%,0.75%,0.3%の割合で添加し、この混合物を羽根付ミキサーによって高速攪拌した。得られた混合粉末の見掛密度をJIS Z2504に、また、流動度をJIS Z2502に準拠して測定した。
【0044】
上記混合粉末を原料とし、JSPM標準1-64(金属粉の圧縮性試験法)に準じて、圧力5t/cm2(490.3MPa)で、直径:11.3mm,高さ:10mmの成形体を作成し、170℃で15分間の熱処理後、圧粉体密度を測定した。また、圧粉体強度を、JPMA M09-1992に準じて測定した。
【0045】
更に、同じく上記混合粉末を原料とし、面圧490MPaで直径25mm,高さ:15mmの成形体を作成した際の、潤滑性の指標となる抜き圧を測定した。具体的には、成形時における圧粉成形体の抜出し荷重を、金型接触面積で除して求めた。以上をNo.1とし、結果を表1に示す。
【0046】
実施例2
上記実施例1において用いたエポキシ・ポリエステル系クリア粉体塗料の代わりに、アクリル系樹脂からなるクリア粉体塗料(日本油脂BASFコーティングス製,コナックNo.4600,グリシジル基を側鎖に有するアクリル樹脂を二塩基酸で架橋したもの,平均粒径:40μm)を使用した以外は同様の手法によって、混合粉末を作成した。更に、圧粉成形体の熱処理を180℃で15分間行なった以外は同様の手法で成形体を作成した。以上をNo.2とし、上記実施例1と同様に混合粉末の見掛密度や成形体の圧粉体密度等を測定した。
【0047】
また、熱硬化性樹脂粉末としてエポキシ系樹脂からなるクリア粉体塗料(日本油脂BASFコーティングス製,コナックNo.3700,未硬化エポキシ樹脂をアミン系硬化剤で硬化したもの,平均粒径:40μm)を用い、圧粉成形体の熱処理を160℃で15分間行なった以外は上記実施例1と同様の手法によって、混合粉末と圧粉成形体を作成した。以上をNo.3とし、同様に混合粉末の見掛密度等を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0048】
実施例3
上記実施例1において、エポキシ・ポリエステル系樹脂からなるクリア粉体塗料(日本油脂BASFコーティングス製,コナックNo.2700,平均粒径:40μm)の配合量を1.0%(No.4)または0.1%(No.5)とした以外は同様の手法によって、混合粉末と成形体を作成した。これらについても、上記実施例1と同様に混合粉末の見掛密度等を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
比較実施例1
上記実施例1において、エポキシ・ポリエステル系樹脂からなるクリア粉体塗料(日本油脂BASFコーティングス製,コナックNo.2700,平均粒径:40μm)を配合しない(No.6),その配合量を0.03%(No.7),または1.2%(No.8)とした以外は同様の手法によって、混合粉末と成形体を作成した。
【0050】
また、平均粒径が40μmのエポキシ・ポリエステル系クリア粉体塗料の代わりに、平均粒径:150μm(No.9),または250μm(No.10)とした以外は同様の手法によって、混合粉末と成形体を作成した。
【0051】
これらについても、上記実施例1と同様に混合粉末の見掛密度等を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
当該結果によれば、樹脂粉末を含まなかったり本発明の規定未満の量しか含まない粉末冶金用混合粉末を原料とする圧粉成形体は、強度が十分でなく切削加工を施せるものではない(No.6と7)。斯かる状況は、樹脂粉末の平均粒径が本発明範囲を超えているものでも同様である(No.9と10)。また、樹脂粉末量が本発明の規定範囲を超えている場合には、圧粉成形体強度は十分であるものの密度が低く、やはり切削加工に適するものではない上に、混合粉末自体の流動性が悪いという結果が出た(No.8)。
【0054】
一方、本発明の規定範囲内の粉末冶金用混合粉末は、流動性に優れる上に、これらを原料として得られる圧粉成形体の密度と強度は適度であり、切削加工に適することが分かる。従って、本発明によれば、焼結工程前であっても適度な密度と強度を有することから切削加工を行なうことができ、且つ切削工具の寿命を延長できることが実証された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧粉成形体の原料となる粉末冶金用混合粉末であって、
鉄粉および/または鉄合金粉,機械的特性改善成分,並びに熱硬化性樹脂粉末を含有し、
熱硬化性樹脂粉末が、エポキシ・ポリエステル系樹脂,エポキシ系樹脂,およびアクリル系樹脂よりなる群から選択される1または2以上からなり、
熱硬化性樹脂粉末の平均粒径が100μm以下であり、且つ
鉄粉および/または鉄合金粉に対する熱硬化性樹脂粉末の配合量が、0.05〜1.0質量%であることを特徴とする粉末冶金用混合粉末。
【請求項2】
上記熱硬化性樹脂粉末が、エポキシ・ポリエステル系樹脂,アクリル系樹脂,またはこれらの混合物からなる請求項1に記載の粉末冶金用混合粉末。
【請求項3】
更に潤滑剤を含むものである請求項1または2に記載の粉末冶金用混合粉末。
【請求項4】
上記潤滑剤が、エチレンビスステアリルアミド,ステアリン酸アミド,ステアリン酸亜鉛,ステアリン酸リチウムよりなる群から選択される1または2以上である請求項3に記載の粉末冶金用混合粉末。
【請求項5】
上記機械的特性改善成分が、銅,ニッケル,クロム,モリブデン,黒鉛および硫化マンガンよりなる群から選択される1または2以上である請求項1〜4のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉末。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉末を原料とすることを特徴とする圧粉成形体。


【公開番号】特開2006−124777(P2006−124777A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314381(P2004−314381)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】