説明

粉末状廃棄物からの白金族金属の回収

本発明は、都市廃材中の白金族金属の濃度を高める方法に関する。この方法は、都市廃材の粒子を得ること;都市廃材の粒子をサイズによってスクリーニングすること;所定のサイズ範囲内の都市廃材の粒子を選択すること;および選択した粒子を少なくとも1つの物理的または化学的技術を用いて処理して、白金族金属の濃度を少なくとも5ppmに高めることを含む。本発明は、粒子状都市廃材中の白金族金属の濃度を高める装置にも関する。この装置は、乾燥ユニット(4);粒子サイズスクリーニングユニット(5);ならびに、物理的および/または化学的技術によって、粒子状都市廃材の白金族金属濃度に影響を及ぼす1つ以上の処理ユニット、特に磁気分離ユニット(7)およびフロス浮選セル(9)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃材からの金属の回収に関し、より具体的には、路傍の粉塵などのバルク都市廃材からの白金族金属の回収に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒コンバータが、排気ガス中の有害汚染物質の放出を低減するために、内燃エンジンにおいて広範に使用されている。触媒コンバータは、一般に、ウォッシュコートで覆われたセラミックのハニカム支持体を含む。ウォッシュコートは、しばしば、コンバータの表面積を増大させるシリカとアルミナの混合物である。触媒自体は、通常、白金、パラジウムもしくはロジウムなどの貴金属、またはこれらの混合物であり、これらは、ウォッシュコートがセラミック支持体に塗布される前に、ウォッシュコートに包含されている。白金、パラジウムおよびロジウムは、総称として白金族金属(PGM)として知られている。
【0003】
PGMは、価値の高い希少な天然資源である。PGMの一次生産(つまり、採鉱)は3つの国に集中しているが、この一次生産は、かなり負の環境上の影響に関連している。たとえば、生産される純粋な白金1オンスごとに、10トンを超える鉱石が採鉱される。
【0004】
廃棄物から、特に触媒コンバータから、PGMを回収する方法が提案されている。米国特許第4428768号は、ウォッシュコートおよびPGMを担持した粒子状セラミック材料が、1以上のフラックスおよび粒子状鉄収集材と混合される、触媒コンバータからPGMを回収する処理を開示している。混合物は、高強度プラズマアーク炉において加熱されて、溶融金属相と溶融スラグ相を生成する。2つの相は分離され、PGMが溶融金属相から分離される。米国特許第4870655号は、消費された材料から貴金属を回収するための、電気アーク炉および炉システムを開示している。
【0005】
しかし、触媒コンバータのリサイクルは、使用中にPGMが消耗するため、初期のPGM含量の僅かな割合、一般的には20〜30%を回収するに過ぎないことが判明している。使用中、触媒コンバータは物理的にストレスを受ける。これが、PGMを排気ガス流中に放出して、粉塵として路傍に堆積させる。最終的には、触媒中のPGMの量は、触媒コンバータがもはや有効でなく取り替えなければならないというレベルにまで、低下する。
【0006】
路傍の粉塵におけるPGMの濃度は百万分の1(ppm)のオーダーであることが、測定によって示されており、この濃度は、米国特許第4428768号および米国特許第4870655号に開示されている方法などの、現行の方法による経済的回収には低すぎる。路傍の粉塵は、地方自治体によって掃き除かれ、ごみ埋立地に堆積される。英国においては、毎年約6400万ポンドのPGM(2008年5月の価格に基づく)が、ごみ埋立地に失われていると見積もられている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、路傍の粉塵などの都市廃材におけるPGMの濃度を、既知の方法によってPGMを経済的に回収することが可能な濃度にまで、高める方法および装置を提供することである。
【0008】
本発明の第1の側面によれば、都市廃材中の白金族金属の濃度を高める方法であって、
都市廃材の粒子を得ること;
都市廃材の粒子をサイズによってスクリーニングすること;
所定のサイズ範囲内の都市廃材の粒子を選択すること;および
選択した粒子を少なくとも1つの物理的または化学的技術を用いて処理して、白金族金属の濃度を少なくとも5ppmに高めること
を含む方法が提供される。
【0009】
ここで使用する「都市廃材」は、低濃度の白金族金属を含有している可能性のある、あらゆる形態のバルク廃棄物を含む。その例には、焼却炉灰、産業廃材および道路粉塵がある。好ましくは、本方法は道路粉塵に適用される。道路粉塵という用語は、道路のあらゆる部分および路傍からのごみに加えて、下水溝および下水システムのごみおよび捕捉廃棄物を含む。
【0010】
好ましくは、本方法は、白金族金属濃度が少なくとも10ppm、より好ましくは20ppm、最も好ましくは40ppm、という結果になる。
【0011】
好ましくは、都市廃材の粒子は、スクリーニングに先立って、たとえば加熱によって、乾燥される。
好ましくは、スクリーニングは、都市廃材の粒子を篩いにかけることを含む。
【0012】
理論に束縛されることを望むわけではないが、本発明の成功は、自動車の触媒から放出されるPGM粒子の大部分が、製造中に粒子が付着させられる触媒支持材料に由来するアルミナおよび/または他のセラミックウォッシュコート材と結合して放出されるという、発明者による認識に基づいている。
【0013】
好ましくは、所定のサイズ範囲は、50μm〜300μm、より好ましくは100μm〜275μm、最も好ましくは125μm〜250μmである。ウォッシュコート粒子との結合が、PGMと最も関連する粒子サイズ範囲を決定する。
【0014】
サイズで選択された粒子は、さらに、以下の物理的技術のいずれか1つまたは組み合せによって、処理されてよい:
(i)磁気分離、
(ii)静電分離(たとえば、ハイテンション分離)、および
(iii)重力濃縮(たとえば、ファルコン濃縮)。
【0015】
磁気分離が好ましい。磁気分離技術の例には、(高強度)誘導ロール磁気分離、湿式磁気分離、磁気ディスク分離、および希土類ロール分離があり、誘導ロール磁気分離が好ましい。好都合なことに、磁気分離は、100〜300μmのサイズ範囲の粒子に、最もよく作用する。PGM粒子は、ナノまたはマイクロ粒子であり、このサイズは磁気分離ではうまく作用せず、ウォッシュコート粒子と結合することで、PGMを効率よく分離することが可能なサイズ範囲に、PGMが入る。
【0016】
サイズで選択された粒子は、さらに、フロス浮選という化学的技術によって処理されてよい。PGMを疎水性にする研究は、充分なPGMを回収するのに失敗したが、PGMがウォッシュコートと結合していることを発明者に認識させたのはこの失敗であり、この驚くべき発見のために、処理の全ての部分がより最適化された。したがって、PGMを疎水性にするのではなく、ウォッシュコート材を疎水性にするように、フロス浮選の化学試薬が選択された。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、サイズで選択された粒子は、磁気分離に付され、次いで、重力濃縮およびフロス浮選の少なくとも1つに付される。
【0018】
本方法が、同一の物理的または化学的技術を複数回繰返すことを含み、これに少なくとも1つの別の物理的または化学的処理を随意的に混ぜてもよいことが理解されよう。
【0019】
本発明の第2の側面によれば、粒子状都市廃材中の白金族金属の濃度を向上させる装置であって、
粒子サイズスクリーニングユニット;および
物理的および/または化学的技術によって粒子状廃材の白金族金属濃度に影響を及ぼす1つ以上の処理ユニット
を含む装置が提供される。
【0020】
好ましくは、装置は、粒子状都市廃材がスクリーニングユニットへ送られる前に、粒子状都市廃材を乾燥させるように配置された乾燥ユニットを含む。
【0021】
乾燥ユニットを取り入れた実施形態においては、乾燥した粒子を粒子サイズスクリーニングユニットに移送するために、コンベヤベルトなどの手段が備えられる。
【0022】
原料の性質に応じて、装置は、粒子状廃材が粒子サイズスクリーニングユニットに渡される前に、粒子状廃材からバルク廃材を分離するように配置された、更なるスクリーンを含むのが好ましいかも知れない。いくつかの実施形態において、この機能は、粒子サイズスクリーニングユニットによって達成されてもよい。
【0023】
好ましくは、スクリーニングユニットは、上から下にメッシュサイズが低下する篩いの垂直な積み重ね、篩いを振動させる手段、および、篩いによって収集された粒子画分を収集する手段を含む。
【0024】
処理ユニットは、本発明の方法に関して既に述べた技術のいずれかを実行するのに適したものでよい。好ましい一連の実施形態において、処理ユニットは、高強度誘導ロール磁気分離器を含む磁気分離ユニットである。特に好ましい実施形態において、フロス浮選セルの形態の第2の処理ユニットが、磁気分離ユニットによって濃縮された材料を受けるために、備えられる。
【0025】
装置は、どのような規模で構築されてもよく、したがって、可動のまたは静止のユニットであり得る。装置は、バッチモードまたは連続モード(好ましい)で動作するように設計することが可能である。
以下、添付の図面を参照しながら、例示として本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の側面に従う処理を示すフローチャートである。
【図2】本発明の第2の側面に従う装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の方法の好ましい実施形態を概略的に示す。発明の第1段は、路傍の粉塵などの都市廃材の収集(A)である。次段は、粉塵から湿気を除くための乾燥(B)である。乾燥時間は、オーブンの種類、粉塵粒子の表面積対体積比、および粉塵の湿気含量などの、いくつかの因子に依存する。乾燥処理は、後続の処理工程をより有効にし、バルク粒子材の乾燥に適する既知のあらゆる加熱設備によって実行することが可能である。乾燥工程は、バッチ処理でよく、または、コンベヤシステム上で連続処理として実行してもよい。
【0028】
乾燥に続き、粉塵は粒子サイズによってスクリーニング(C)される。サイズの異なる粒子は、異なる画分に分離される。道路粉塵サンプルの分析は、PGMの濃度が粒子サイズ範囲間で異なることを示した。更なる処理のために選択した好ましい粒子サイズ範囲は、125〜250μmの間の範囲である。このサイズ範囲外の粒子は、PGMを経済的に回収するにはPGM濃度が現在のところ低すぎるので、廃棄する。しかし、更なる処理のために選択するサイズ範囲は、PGMの価値の変動に応じて変えてもよい。
【0029】
粒子サイズスクリーニングに続き、選択された粒子サイズ範囲が磁気分離段(D)に渡される。好ましい実施形態において、磁気分離処理は、乾式高強度誘導ロール磁気分離であるが、代替の磁気分離処理を使用してもよく、これには、湿式高強度磁気分離、ディスク分離、および希土類ロール分離が含まれるが、これらに限られない。
【0030】
磁気分離段の産物は、次いで、一次鉱石の処理に通常適用される操作などの既知の溶解操作での処理に適するレベルにまでPGM濃度を高めるために、フロス浮選(E)によって処理される。材料はフロス浮選の複数回の繰り返しに付されてもよいことが、理解されるであろう。フロス浮選が好ましい処理であるが、粉塵中のPGM濃度を高めるために他の物理的または化学的処理を採用してもよい。代替法の1つの例は、ファルコン濃縮である。溶解処理には乾燥した材料が好ましいので、PGMに富む材料は追加の乾燥段(不図示)に付されてもよい。
【0031】
図2は、PGM回収装置1の好ましい実施形態を示しており、この装置1は、乾燥ユニット4、スクリーニングユニット5、磁気分離ユニット7、およびフロス浮選セル9を含む。バルク都市廃材は貯蔵ホッパ2に入れられ、廃材は、ここから手動または自動の手段3で、乾燥ユニット4に送られる。乾燥ユニット4は連続的に運転されてよく、この場合、廃材はコンベヤベルト(不図示)に乗って乾燥ユニット4を通る。乾燥した材料を乾燥ユニット4からスクリーニングユニット5に送るのにも、コンベヤベルトを使用してよい。
【0032】
スクリーニングユニット5は、振動シェイカ(不図示)に搭載された、異なるメッシュの篩い(不図示)の積み重ねを含む。篩いは、サイズの小さい粒子ほど積み重ねをより下るように、配置されている。スクリーニングユニットは、必要なサイズ範囲内の粒子を、粗すぎるまたは細かすぎる材料から分離する。粗い材料(積み重ねの上部に堆積する)および細かい材料(下端付近に堆積し、または積み重ねを貫通する)は、除去のために適切な容器6に収集される。粗い廃材および細かい廃材は、まとめて収集してもよいし、別個に収集してもよい。
【0033】
125〜250μmの必要なサイズ範囲内の粒子は、スクリーニングユニット5から選択されて、磁気分離ユニット7に渡される。磁気分離ユニット7は、本実施形態では高強度誘導ロール磁気分離器であるが、他の磁気分離ユニットを使用してもよい。非磁性物質は、廃棄またはリサイクルのために、適切な容器に8に収集される。
【0034】
磁性物質は、収集されて、フロス浮選セル9に送られる。廃材は、廃棄またはリサイクルのために、適切な容器に10に収集される。PGMに富む浮游物は、PGMの回収のための溶解プラント(不図示)への移送のために、容器11に収集される。溶解には乾燥した材料が好ましいので、フロス浮選セル9から回収されたPGMに富む浮游物を乾燥させるために、追加の乾燥ユニット(不図示)を、PGM回収装置1に加えてもよい。材料は、装置1内の異なるユニット間で、手動または自動の手段で移送してよい。廃材収容容器6,8,10は、(図示したように)別個のユニットであってもよいし、全ての廃材が廃棄のために入れられる単一のユニットであってもよい。
【0035】
PGM回収装置1は、指定された場所または建物内の静的な収容されたユニットであってよいし、廃材収集地点に移動する可動ユニットであってもよい。静的なユニットは、PGM回収装置の産物が容易に溶解処理に直接移転され得るように、溶解プラントと関連付けられてよい。
【0036】
実施例1
20kgの道路粉塵のサンプルが、ファン支援による空気循環のない閉じたオーブン中で、80℃で4時間乾燥された。乾燥された粉塵は、篩いにかけられ、125〜250μmの粒子が、乾式高強度誘導ロール磁気分離による更なる処理のために、選択された。磁気分離の設定は次のとおりであった:
低磁気設定=0.05T、
中磁気設定=0.2T、
高磁気設定=1.4T。
【0037】
表1は、高磁気設定による分離後の選択された粒子サイズ画分におけるPGMの濃度を示し、表2は、比較のために、125〜250μm粒子の初期濃度を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
都市廃材中の白金族金属の濃度を高める方法であって、
都市廃材の粒子を得ること;
都市廃材の粒子をサイズによってスクリーニングすること;
所定のサイズ範囲内の都市廃材の粒子を選択すること;および
選択した粒子を少なくとも1つの物理的または化学的技術を用いて処理して、白金族金属の濃度を少なくとも5ppmに高めること、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
都市廃材が道路粉塵である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
都市廃材の粒子がスクリーニングに先立って乾燥される、ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
スクリーニングが都市廃材の粒子を篩いにかけることを含む、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記所定のサイズ範囲が50μm〜300μmである、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
サイズで選択された粒子が、磁気分離、静電分離、および重力濃縮の中から選択される1以上の物理的分離技術によって処理される、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
サイズで選択された粒子が磁気分離によって処理される、ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
磁気分離が高強度誘導ロール磁気分離である、ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
サイズで選択された粒子が、さらに、フロス浮選によって処理される、ことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
粒子状都市廃材中の白金族金属の濃度を高める装置であって、
粒子サイズスクリーニングユニット;および
物理的および/または化学的技術によって粒子状都市廃材の白金族金属濃度に影響を及ぼす1つ以上の処理ユニット
を含むことを特徴とする装置。
【請求項11】
粒子状都市廃材がスクリーニングユニットに渡される前に、粒子状都市廃材を乾燥させるように配置された乾燥ユニットを含む、ことを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
乾燥した粒子を乾燥ユニットから粒子サイズスクリーニングユニットに移送する手段を備える、ことを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
粒子状都市廃材が粒子サイズスクリーニングユニットに渡される前に、粒子状都市廃材からバルク都市廃材を分離する更なるスクリーニングユニットを含む、ことを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
粒子サイズスクリーニングユニットが、上から下にメッシュサイズが低下する篩いの垂直な積み重ね、篩いを振動させる手段、および、篩いによって収集された粒子画分を収集する手段を含む、ことを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
処理ユニットが磁気分離ユニットである、ことを特徴とする請求項10〜14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
処理ユニットが高強度誘導ロール磁気分離器を含む磁気分離ユニットである、ことを特徴とする請求項10〜14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
磁気分離ユニットによって濃縮された材料を受ける第2の処理ユニットを備える、ことを特徴とする請求項15または16に記載の装置。
【請求項18】
第2の処理ユニットがフロス浮選セルである、ことを特徴とする請求項17に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−522127(P2012−522127A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501375(P2012−501375)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000552
【国際公開番号】WO2010/109191
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(305031567)ザ ユニバーシティ オブ バーミンガム (12)
【Fターム(参考)】